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  • 特開-炭素繊維の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033198
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20230302BHJP
   C08F 8/06 20060101ALI20230302BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
D01F6/18 E
C08F8/06
D01F9/22
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132924
(22)【出願日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】110131548
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 龍田
(72)【発明者】
【氏名】洪 家祺
(72)【発明者】
【氏名】蔡 坤曄
(72)【発明者】
【氏名】陳 敬文
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲ピン▼汝
【テーマコード(参考)】
4J100
4L035
4L037
【Fターム(参考)】
4J100AM02P
4J100HB07
4J100HE01
4J100JA11
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB15
4L035BB66
4L035BB91
4L035FF01
4L035GG02
4L035HH01
4L035HH03
4L035LB01
4L037PC05
4L037PS02
(57)【要約】
【課題】炭素繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維の製造方法は、特定の含有量の不純物を有する高純度のアクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーからアクリロニトリル共重合体を製造して、且つこのアクリロニトリル共重合体は、紡糸操作、延伸操作、酸化処理及び炭素化処理を順次経た後、炭素繊維を得る。このアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有して、紡糸操作に有利であるため、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル共重合体を得るように、アクリロニトリルモノマー、共重合モノマー、開始剤、及び溶媒を混合し、重合反応を行い、前記アクリロニトリルモノマーは、アクリロニトリル、水、メタクリロニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール、パラヒドロキシアニソール、ブテノン、及びメタクリル酸エステルを含み、前記アクリロニトリルモノマーの重量が100重量%であることを基準として、前記アクリロニトリルの含有量は99.93重量%より大きく、前記アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、前記水の含有量は600ppm未満であり、前記メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、前記プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、前記オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、前記パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、前記ブテノンの含有量は2ppm未満であり、前記メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満であるステップと、
共重合体原糸を得るように、前記アクリロニトリル共重合体に対して紡糸操作を行い、前記アクリロニトリル共重合体の落球粘度が550秒~700秒であるステップと、
原糸繊維を得るように、前記共重合体原糸に対して延伸操作を行うステップと、
酸化繊維を得るように、前記原糸繊維に対して酸化処理を行うステップと、
炭素繊維を得るように、前記酸化繊維に対して炭素化処理を行うステップと、を含む炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記アクリロニトリルモノマー及び前記共重合モノマーの総重量が100重量%であることを基準として、前記アクリロニトリルモノマーの使用量は98.0重量%~99.8重量%であり、前記共重合モノマーの使用量は0.2重量%~2.0重量%である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記アクリロニトリルモノマーは、鉄及び/又は銅を更に含み、前記アクリロニトリルモノマーの前記重量が1×106ppmであることを基準として、前記鉄の含有量は0.001ppm未満であり、前記銅の含有量は0.002ppm未満である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記重合反応は、60~70℃で4~6時間続け、更に1~3時間かけて70~80℃まで昇温し、7~9時間続けることである請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記アクリロニトリル共重合体の重量平均分子量が380000g/mole~450000g/moleであり、前記アクリロニトリル共重合体の分子量分布が3.5未満である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
前記延伸操作の総延伸倍率は、11.2倍~12.8倍である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
前記延伸操作の後、更に、油剤塗布原糸を得るように、前記原糸繊維に油剤を塗布するステップを含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項8】
乾燥原糸を得るように、前記油剤塗布原糸に対して乾燥操作を行うステップを更に含む請求項7に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項9】
前記炭素化処理の後、更に、表面処理炭素繊維を得るように、表面酸化処理を行うステップを含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項10】
前記炭素繊維の内部孔径は10nm未満である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造方法に関し、特に、高純度のアクリロニトリルモノマーから炭素繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、繊維状炭素材料であり、その強度が鋼よりも強く、密度がアルミニウムよりも小さく、耐食性がステンレス鋼よりも優れ、耐高温性が耐熱鋼よりも優れ、且つ銅のように導電可能である。炭素繊維は優れた性能及び環境両立性を有するため、スポーツレジャー、風力発電及び宇宙の産業に広く用いられ、なかには、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(polyacrylonitrile-based carbon fiber;PAN系炭素繊維)が最も注目されている。
【0003】
従来、PAN系炭素繊維の製造方法として、まず、紡糸を行って、ポリマー原糸を取得し、その後、水洗し、伸ばして、油剤付与して及び乾燥させ、原糸繊維を取得する。原糸繊維が更に酸化、炭素化及び表面処理されてPAN系炭素繊維を製造する。
【0004】
近年、PAN系炭素繊維に対する需要が徐々に高まっており、それに対応してPAN系炭素繊維を大量生産する方法が研究開発されつつある。例えば、紡糸速度又は錘数を上げることや高速な製造条件(例えば、水洗時間の短縮)により、PAN系炭素繊維を速やかに製造する。この方法は、生産量を向上させることができるが、紡糸時に凝固が発生し、且つ金属不純物が存在するため、製造されるPAN系炭素繊維の品質が低下する。そこで、金属不純物を除去するように共重合体原糸をイオン交換樹脂で精製する製造方法が開発された。しかしながら、イオン交換樹脂で精製する時間が冗長であり、且つ多量の溶媒を使用する必要があるため、プロセス時間が増加し、コストが高くなる。
【0005】
これに鑑みて、従来の炭素繊維の製造方法の上記欠点を改善するために、炭素繊維の製造方法の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭素繊維の製造方法を提供することにある。この製造方法は、特定の含有量の不純物を有する高純度のアクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーからアクリロニトリル共重合体を製造することであり、且つこのアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有して、紡糸操作に有利であるため、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の炭素繊維の製造方法によれば、アクリロニトリル共重合体を得るように、アクリロニトリルモノマー、共重合モノマー、開始剤及び溶媒を混合し、重合反応を行い、アクリロニトリルモノマーは、アクリロニトリル、水、メタクリロニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール、パラヒドロキシアニソール、ブテノン、及びメタクリル酸エステルを含み、アクリロニトリルモノマーの重量が100重量%であることを基準として、アクリロニトリルの含有量は99.93重量%より大きく、アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、水の含有量は600ppm未満であり、メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、ブテノンの含有量は2ppm未満であり、メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満である。続いて、共重合体原糸を得るように、アクリロニトリル共重合体に対して紡糸操作を行って、アクリロニトリル共重合体の落球粘度が550秒~700秒である。更に、原糸繊維を得るように、共重合体原糸に対して延伸操作を行う。その後、酸化繊維を得るように、原糸繊維に対して酸化処理を行う。更に、炭素繊維を得るように、酸化繊維に対して炭素化処理を行う。
【0008】
本発明の一実施例によれば、アクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーの総重量100重量%であることを基準として、アクリロニトリルモノマーの使用量は98.0重量%~99.8重量%であり、共重合モノマーの使用量は0.2重量%~2.0重量%である。
【0009】
本発明の別の実施例によれば、アクリロニトリルモノマーは、鉄及び/又は銅を更に含み、アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、鉄の含有量は0.001ppm未満であり、銅の含有量は0.002ppm未満である。
【0010】
本発明の更なる実施例によれば、重合反応は、60~70℃で4~6時間続け、更に1~3時間かけて70~80℃まで昇温し、7~9時間続けることである。
【0011】
本発明の更なる実施例によれば、アクリロニトリル共重合体の重量平均分子量が380000g/mole~450000g/moleであり、アクリロニトリル共重合体の分子量分布が3.5未満である。
【0012】
本発明の更なる実施例によれば、延伸操作の総延伸倍率は、11.2倍~12.8倍である。
【0013】
本発明の更なる実施例によれば、延伸操作の後、更に、油剤塗布原糸を得るように、原糸繊維に油剤を塗布するステップを含む。
【0014】
本発明の更なる実施例によれば、乾燥原糸を得るように、油剤塗布原糸に対して乾燥操作を行うステップを更に含む。
【0015】
本発明の更なる実施例によれば、炭素化処理の後、更に、表面処理炭素繊維を得るように、表面酸化処理を行うステップを含む。
【0016】
本発明の更なる実施例によれば、炭素繊維の内部孔径は10nm未満である。
【0017】
本発明の炭素繊維の製造方法を適用すると、特定の含有量の不純物を有する高純度のアクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーからアクリロニトリル共重合体を製造して、且つこのアクリロニトリル共重合体は、紡糸操作、延伸操作、酸化処理及び炭素化処理を順次経た後、炭素繊維を得る。このアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有して、紡糸操作に有利であるため、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の実施例及びその利点をより完全に理解するために、対応する図面と併せて、以下の説明を参照する。強調しなければならないのは、種々の特徴が描かれておらず、図示の目的だけである。関連する図面について、以下に説明する。
図1】本発明の一実施例による炭素繊維の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の別の実施例による炭素繊維の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例の製造及び使用を詳細に論じる。しかしながら、実施例は、多種多様な特定のコンテンツにおいて実施され得る多くの適用可能な概念を提供することが理解されたい。論じられる特定の実施例は、単に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0020】
本発明の炭素繊維の製造方法は、特定の含有量の不純物を有する高純度のアクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーからアクリロニトリル共重合体を製造して、更に炭素繊維を得ることである。アクリロニトリルモノマーにおける不純物の含有量を制御することにより、製造されたアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有して、紡糸操作に有利であり、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【0021】
簡単に言えば、本発明の炭素繊維の製造方法は、原料における不純物(即ち、アクリロニトリルモノマーにおける不純物)を制御することにより、紡糸操作の効率及び製造される炭素繊維の強度を向上させることである。しかしながら、従来の炭素繊維の製造方法は、アクリロニトリル共重合体における不純物を除去することによりそれに良好な紡糸性を持たせて、後続の紡糸操作に有利で且つ製造される炭素繊維の強度を向上させるが、不純物を除去する処理はプロセスの複雑さを大幅に増加させ、プロセス時間を長くし、経済的ではない。
【0022】
図1を参照すると、操作110に示すとおり、アクリロニトリル共重合体を得るように、アクリロニトリルモノマー、共重合モノマー、開始剤及び溶媒を混合し、重合反応を行う。炭素繊維の製造方法100において、アクリロニトリル(acrylonitrile)モノマーは、アクリロニトリル及び不純物を含む。アクリロニトリルモノマーの重量が100重量%(wt.%)であることを基準として、アクリロニトリルの含有量は99.93重量%より大きい。アクリロニトリルの含有量が前記範囲外であると、製造されたアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有せず、紡糸操作に不利であるため、製造された炭素繊維の強度を低下させる。
【0023】
不純物は、アクリロニトリルを製造するプロセスで生じた副生成物、残留した溶媒又は触媒を含むことができる。この不純物は、アクリロニトリル、水、メタクリロニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール、パラヒドロキシアニソール、ブテノン及びメタクリル酸エステルを含む。
【0024】
簡単に言えば、アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、水の含有量は600ppm未満であり、好ましくは70ppm未満である。水の含有量が前記範囲外であると、重合時のアクリロニトリル共重合体の溶媒への溶解性が悪くなり、架橋重合体(cross-linked polymer)が発生し、それは適切な落球粘度及び重量平均分子量を有せず、紡糸操作に不利であるため、製造された炭素繊維の強度を低下させる。
【0025】
アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、ブテノンの含有量は2ppm未満であり、パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満である。メタクリロニトリル、オキサゾール、ブテノン、パラヒドロキシアニソール及びメタクリル酸エステルの含有量が前記範囲外であると、炭化処理の際に、環化反応により繊維内部の欠陥が大きくなり、且つ炭素繊維の内部孔径が増大して、炭素繊維の強度が低下する。好ましくは、メタクリロニトリルの含有量は1ppm未満であり、パラヒドロキシアニソールの含有量は1ppm未満である。
【0026】
幾つかの実施例において、アクリロニトリルモノマーは、選択的に、鉄及び銅を含んでもよい。アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、鉄の含有量は0.001ppm未満であり、銅の含有量は0.002ppm未満である。鉄の含有量、及び/又は銅の含有量が前記範囲であると、製造されたアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有して、紡糸操作に有利であるため、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【0027】
共重合モノマーは、特に制限されないが、目的としてアクリロニトリルモノマーとの重合反応を行うことができるものであればよく、幾つかの実施例において、共重合モノマーは不飽和二重結合含有モノマーであってもよい。不飽和二重結合の具体例としては、ビニル基を挙げてよい。例えば、共重合モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、これらの塩類又はアルキルエステル類、及びアクリルアミドとその誘導体を含んでよいが、これらに限定されない。好ましくは、共重合モノマーはイタコン酸であってもよい。共重合モノマーがイタコン酸である場合、アクリロニトリル共重合体の親水性を向上させ、共重合体原糸の緻密性を増加させ、炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させることができる。
【0028】
アクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーの総重量が100重量%であることを基準として、アクリロニトリルモノマーの使用量は98.0重量%~99.8重量%であり、共重合モノマーの使用量は0.2重量%~2.0重量%である。好ましくは、アクリロニトリルモノマーの使用量は99.0重量%~99.5重量%であり、共重合モノマーの使用量は0.5重量%~1.0重量%である。共重合モノマーの使用量が前記範囲であると、紡系操作に有利であるとともに共重合体原糸の緻密性を増加させ、炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させることができる。
【0029】
開始剤の種類及び使用量は特に制限されないが、目的としてアクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーの重合反応を開始させることができるものであればよい。開始剤は、アゾ化合物及び過酸化合物を含んでよいが、これらに限定されない。アゾ化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシアノ吉草酸(ACVA)及び2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチル)バレロニトリル(ABVN)を挙げてよい。過酸化物系化合物の具体例としては、ジラウロイルパーオキサイド(LPO)、ジ-t-ブチルパーオキシド(TBPO)及びジイソプロピルペルオキシカルボナート(IPP)を挙げることができる。開始剤は、1種単独で使用しても又は2種以上を混合して使用してもよい。幾つかの実施例において、アクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーの総重量が100wt.%であることを基準として、開始剤の重量は2wt.%以下であってもよく、好ましくは0.1wt.%以下である。開始剤の重量が前記範囲であると、アクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーの重合反応の収率を向上させることができる。
【0030】
また、溶媒の種類及び使用量は特に制限されないが、目的としてアクリロニトリルモノマー、共重合モノマー及び開始剤を溶解できるとともに、前記モノマー間の重合に適するものであればよい。例えば、溶媒は、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド又はこれらの任意の組み合わせを含んでよいが、これらに限定されない。幾つかの実施例において、溶媒の重量は、アクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーの使用量の合計の3~8倍であってもよい。溶媒の重量が前記範囲であると、この使用量の溶媒はアクリロニトリルモノマー、共重合モノマー及び開始剤を溶解することができ、且つ過剰量ではない。
【0031】
本発明の重合反応の反応温度及び反応時間は、共重合モノマー及び開始剤の種類及び/又は使用量に応じて決定することができる。幾つかの実施例において、重合反応は単一又は複数段階の昇温方式によって行われることができ、例えば、重合反応系がイタコン酸及びアゾ化合物を含む場合、重合反応は、60~70℃で4~6時間続け、更に1~3時間かけて70~80℃まで昇温し、7~9時間続けることである。好ましくは、重合反応は、65℃で5時間続け、更に2時間かけて75℃に昇温し、8時間続けることである。
【0032】
本発明の重合反応によって製造されたアクリロニトリル共重合体は550秒~700秒の落球粘度を有する。アクリロニトリル共重合体が前記範囲の落球粘度を有しない場合、紡糸操作時に、アクリロニトリル共重合体が破断しやすく、プロセス時間を長くし、且つ得られた共重合体原糸の内部構造に孔及び他の欠陥が存在するため、後続の延伸操作時に、高倍率の延伸を達成することができず、更に製造された炭素繊維の内部孔径を大きくし且つその強度を低下させる。「延伸倍率」とは、原糸繊維の元の長さを基準とした処理後の繊維の長さの倍率をいう。好ましくは、落球粘度は600秒~650秒であってもよい。
【0033】
幾つかの実施例において、重合反応によって製造されたアクリロニトリル共重合体は、380000g/mole~450000g/moleの重量平均分子量を有してよく、好ましくは390000g/mole~430000g/moleの範囲内にあってよい。アクリロニトリル共重合体の分子量が前記範囲であると、アクリロニトリル共重合体は延伸性に優れ、紡糸操作時に糸切れせず、更にプロセス時間を短縮することができ、且つ形成された共重合体原糸の構造が比較的緻密であり、更に製造された炭素繊維の内部孔径を小さくしてその強度を向上させる。更に、アクリロニトリル共重合体の分子量分布は、3.5未満であってもよく、好ましくは2.6以下であってもよく、より好ましくは2.2未満であってもよい。
【0034】
簡単に言えば、本発明でいう分子量分布は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比の値で表される。この比の値が小さいほど分子量分布が狭くなる。重量平均分子量及び数平均分子量は、当業者の慣用的な方法により測定することができる。幾つかの実施例において、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって重量平均分子量及び数平均分子量を測定することができる。
【0035】
図1を更に参照すると、操作120に示すとおり、操作110の後、共重合体原糸を得るように、アクリロニトリル共重合体に対して紡糸操作を行う。幾つかの実施例において、重合反応を終えたアクリロニトリル共重合体が溶媒中に存在しており、以下、ポリマー溶液と言われる。後続の紡糸操作を行うように、ポリマー溶液を特定の共重合体濃度の溶液に濃縮することができる。特定の共重合体濃度の具体的な濃度は、10~30wt.%であってもよく、好ましくは15~25wt.%であってもよく、共重合体濃度は、ガスクロマトグラフ分析によって、且つクロマトグラムにおけるピーク面積によって定量することで得られる。幾つかの具体例において、紡糸操作は、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法又は乾湿式紡糸法を採用することができる。好ましくは、紡糸操作は湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法を採用することができ、且つ乾湿式紡糸がより好ましい。乾湿式紡糸は共重合体原糸を緻密化することができるため、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を増加させる。
【0036】
操作130に示すとおり、操作120の後、原糸繊維を得るように、共重合体原系に対して延伸操作を行う。延伸操作は、温度が徐々に上昇する環境で、共重合体原糸を伸ばして共重合体原糸を細くすることにより、製造された炭素繊維をダンニー数(又は直径)の要求に適合させることである。幾つかの実施例において、延伸操作の総延伸倍率は11.2倍~12.8倍であってもよく、好ましくは11.6倍~12.0倍であってもよい。総延伸倍率がこの範囲であると、製造された炭素繊維は製品仕様(例えば、繊維密度、デニール数(又は直径)、及び物性強度)の要求に適合する。幾つかの実施例において、延伸操作は異なる温度を有する複数の延伸浴槽で行うことができ、低温から高温への順に延伸浴槽で行う。例えば、延伸操作は、50℃から99℃に昇温してもよく、好ましくは60℃から95℃に昇温してもよい。延伸操作の昇温が前記条件を満たすと、製造された原糸繊維同士に接着が発生せず、且つ良好な延伸性を保つことができる。
【0037】
操作140に示すとおり、前記操作130の後、酸化繊維を得るように、原糸繊維に対して酸化処理を行う。この酸化処理は、原糸繊維に対して環化酸化を行うことでその耐熱性及び難燃性を向上させるためのもので、これにより、後続の炭素化処理に有利である。前記環化酸化は、原糸繊維におけるポリアクリロニトリルセグメント上のニトリル基と共重合モノマーが重合したセグメント上のカルボン酸基とが行った環化反応を指す。幾つかの実施例において、酸化処理は200℃~300℃で行ってもよく、好ましくは220℃~280℃であってもよい。酸化処理の温度が前記範囲であると、原糸繊維に対して効果的に環化酸化を行ってその耐熱性を向上させることができるので、製造される炭素繊維の強度を向上させる。幾つかの具体例において、酸化処理の雰囲気は、原糸繊維の耐熱性を向上させ、更に原糸繊維が後続の炭素化過程で焼切れることを回避するように、空気(約21%の酸素を含む)を用いることができるが、これに限定されない。幾つかの具体例において、酸化時間は10分間~100分間であってもよい。
【0038】
酸化処理中に、原糸繊維の破断を防止するように、原糸繊維をローラで伸ばす延伸倍率を0.7倍~0.9倍としてもよい。例えば、220℃~280℃において、空気中で、原糸繊維を環化酸化させ、且つ原糸繊維をローラで伸ばす延伸倍率を0.7倍~0.9倍に制御する。「延伸比」とは、原糸繊維の元の長さを基準とした処理された原系繊維の長さをいう。酸化処理された後、要求に適合する繊維密度の酸化繊維を得ることができる。幾つかの実施例において、酸化繊維の繊維密度は、1.2g/cc~1.5g/ccであってもよく、好ましくは1.25g/cc~1.45g/ccであってもよく、更に好ましくは1.3g/cc~1.4g/ccであってもよい。
【0039】
操作150に示すとおり、操作140の後、炭素繊維を得るように、酸化繊維に対して炭素化処理を行う。炭素化処理は、酸化繊維を炭素化することでポリアクリロニトリル系炭素繊維を製造するためのものである。幾つかの実施例において、炭素化処理は、予備炭化処理及び後炭化処理を含んでもよく、両者はいずれも非酸化雰囲気且つ高温環境で行われ、且つ予備炭化処理及び後炭化処理を行う間に、加熱し続けて温度を上昇させる。通常、予備炭素化処理の温度範囲は1000℃未満であり、後炭素化処理の温度は1000℃より大きい。例えば、窒素雰囲気において、300℃から800℃に昇温し、1倍の延伸比で予備炭化処理を行い、更に1400℃に昇温し、0.95倍の延伸比で後炭化処理を行う。
【0040】
図2を参照すると、操作231に示すとおり、図2の炭素繊維の製造方法200は、延伸操作(すなわち操作230)の後に、油剤塗布原糸を得るように、油剤処理を含んでよい以外は、図1の炭素繊維の製造方法100とほぼ同じである。油剤処理は、油剤を原糸繊維に塗布して、原糸繊維の表面に1層の保護層を形成することであり、これにより、原糸繊維とローラとの摩擦を低減させ、更に細毛の発生を回避する。油剤は、アミノ変性シリコーン系化合物を含んでよいが、これに限定されない。
【0041】
操作231の後、炭素繊維の製造方法200は、操作232に示すとおり、乾燥原糸を得るように、乾燥操作を含んでよい。乾燥操作は、後続の酸化処理及び炭化処理に寄与するように、原糸繊維に含まれる溶媒を除去することである。例えば、加熱されたローラを原糸繊維に接触させて原糸繊維を加熱してよく、且つ、原糸繊維に含まれる溶媒を除去するために、ローラの温度を溶媒の沸点よりも高くしてもよい。
【0042】
操作250の後、炭素繊維の製造方法200は、操作251に示すとおり、表面処理された炭素繊維を得るように、表面酸化処理を含んでよい。表面酸化処理は、炭素繊維と基材との接着性を向上させるためのものである。幾つかの実施例において、表面酸化処理は、気相又は液相の形態を用いてよい。好ましくは、表面酸化処理は、量産に寄与するように、液相(例えば、電解処理)を用いてよい。例えば、電解処理に用いられる電解液は、硫酸、硝酸、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム及び/又は炭酸アンモニウムを含んでよいが、これらに限定されない。
【0043】
幾つかの具体例において、製造された炭素繊維は、内部孔径が10nm未満で、且つその強度が650KSIより大きい。好ましくは、内部孔径は9.5nm未満であってもよく、且つその強度は700KSIより大きくてもよい。より好ましくは、内部孔径は8.5nm未満であってもよく、且つその強度は750KSIより大きくてもよい。炭素繊維の内部孔径が9.5nm未満であると、対応して繊維の強度は700KSIより大きくなることができ、これにより、運動、宇宙及び輸送の分野への適用に適する。例えば、テニスラケット、バドミントンラケット、自転車のアセンブリ、飛行機の構造部材及び高圧ガスボンベの本体である。
【0044】
以下、実施例によって本発明の応用を説明するが、それは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更や修正を加えることができる。
【0045】
炭素繊維の調製
【0046】
実施例1
【0047】
実施例1の炭素繊維は、アクリロニトリルモノマー及びイタコン酸モノマーをジメチルスルホキシドに溶解させ、更にアゾビスイソブチロニトリルを加えて65℃で5時間反応させ、更に2時間かけて75℃まで昇温し、8時間反応させてアクリロニトリル共重合体のポリマー溶液を得た。ジメチルスルホキシドの重量が100wt.%であることを基準として、アクリロニトリルモノマーとイタコン酸モノマーの合計重量は21wt.%であり、アクリロニトリルモノマーとイタコン酸モノマーの合計重量が100wt.%であることを基準として、アクリロニトリルモノマーの重量は99.2wt.%、イタコン酸モノマーの重量は0.8wt.%、アゾビスイソブチロニトリルの重量は0.087wt.%である。
【0048】
このポリマー溶液を薄膜蒸発器で共重合体濃度19.2wt.%のポリマー溶液に濃縮した。濃縮後のポリマー溶液は30℃でスピニングノズルを通過した(スピニングノズルの孔径0.15mm、穴数3000)。長さが約4mmの共重合体糸を空気中に吐出した後、7℃まで降温し、26wt.%のジメチルスルホキシド水溶液の凝固浴に導入して、共重合体原糸を得た。
【0049】
その後、原糸繊維を得るように、延伸浴で共重合体原糸を延伸し、原糸繊維の総延伸倍率は11.92倍であり、延伸浴は3つの浴槽を用い、第1浴槽から第3浴槽まで、温度は60℃から95℃に昇温した。次いで、延伸後の原糸繊維を油剤浴(すなわち、3wt.%のアミン変性シリコーン系化合物の水性乳化溶液)を通過させて、油剤塗布原糸を得た。その後、155℃のローラ(roller)で油剤塗布原糸を乾燥・緻密化し、次いで、圧力が3.6kgf/cm2の水蒸気で前記原糸を4倍の長さに延伸し、単糸繊度が1dの乾燥原糸を得た。
【0050】
乾燥原糸を220℃~280℃の空気中で10分間~100分間酸化させ、0.87倍の延伸比で伸ばして、繊維密度が1.35g/ccの酸化繊維を得た。窒素雰囲気で、300℃~800℃で、酸化繊維を1倍の延伸比で予備炭素化して予備炭素化繊維を得て、昇温後、1000℃~1400℃で、予備炭素化繊維を0.95倍の延伸比で後炭素化して後炭素化繊維を得た。その後、炭酸水素アンモニウム水溶液中で電気量12C/gで後炭素化繊維に対して表面陽極酸化処理を行って、実施例1の炭素繊維を得た。この炭素繊維について下記の評価試験を行い、評価結果を下記表1に示す。
【0051】
実施例2~3及び比較例1
【0052】
実施例2~3及び比較例1は、アクリロニトリルモノマーの純度、すなわち不純物の含有量を変更した以外は、実施例1と同様にして調製される。実施例2~3及び比較例1についての具体的な条件及び評価結果は下記の表1に示すとおりである。
【0053】
表1
【0054】
評価方式
【0055】
1.落球粘度試験
【0056】
落球粘度試験は、アクリロニトリル共重合体を長さが30センチメートルで直径が2センチメートルの試験管に入れ、45℃で、15分間静置した後、直径が0.1センチメートルの鋼球をアクリロニトリル共重合体に投入し、鋼球が20センチメートル自然落下する時間を測定し、且つこの時間をポリアクリロニトリル共重合体の落球粘度とした。
【0057】
2.重量分子量(Mw)試験
【0058】
重量分子量試験は、アクリロニトリル共重合体に対してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を行い、屈折率(RI)検出器でアクリロニトリル共重合体の滞留時間を検出し、滞留時間を分子量校正曲線の方程式に代入し、内挿法によりアクリロニトリル共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(すなわち、MwとMnとの比)を求めることであり、試験条件は当業者の慣用的な条件であってよい。
【0059】
3.炭素繊維の強度試験
【0060】
炭素繊維の強度(tensiles trength)試験は、引張試験機(ZWICK社製)で炭素繊維の強度を測定し、その強度を3回の結果の平均値で評価した。パラメータの設定は、5Nの前荷重(pre-load)及び50mm/minの試験速度(test speed)を含み、500Kgの荷重セル(load cell)で炭素繊維の歪み具合を検出した。
【0061】
4.炭素繊維の内部孔径試験
【0062】
炭素繊維の内部孔径試験は、窒素吸着孔径分析装置により、液体窒素環境において、炭素繊維の窒素吸着-脱着等温線を測定し、更にブルナウアー‐エメット‐テラー(Brunauer-Emmett-Teller;BET)理論に基づいて炭素繊維の内部孔径を算出した。
【0063】
表1を参照すると、実施例1~3は、高純度のアクリロニトリルモノマーを使用し、その製造されたアクリロニトリル共重合体は高い落球粘度、高い重量平均分子量及び狭い分子量分布を有し、且つ、このアクリロニトリル共重合体から製造された炭素繊維は高い強度及び小さい内部孔径を有する。このことからわかるように、高純度のアクリロニトリルモノマーは、粘度及び重量平均分子量が高いアクリロニトリル共重合体を製造することができ、且つ、その分子量分布が狭い。このアクリロニトリル共重合体は紡糸操作時に糸切れしにくく、プロセス時間を短縮することができる。また、アクリロニトリル共重合体から形成した共重合体原糸は、緻密化構造を有しているため、炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【0064】
上記のように、本発明の炭素繊維の製造方法を適用する。この製造方法は、特定の含有量の不純物を有する高純度のアクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーからアクリロニトリル共重合体を製造し、且つこのアクリロニトリル共重合体は、紡糸操作、延伸操作、酸化処理及び炭素化処理を順次経た後、炭素繊維を得る。このアクリロニトリル共重合体は適切な落球粘度及び重量平均分子量を有して、紡糸操作に有利であるため、製造された炭素繊維の内部孔径を小さくし、その強度を向上させる。
【0065】
以上、本発明を実施形態で開示するが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修正を行うことができ、従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義されたものを基準とすべきである。
【符号の説明】
【0066】
100,200 方法
110,120,130,140,150,210,220,230,231,232,240,250,251 操作
図1
図2