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  • 特開-種子発芽促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033235
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】種子発芽促進剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/36 20060101AFI20230302BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 37/04 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 37/42 20060101ALI20230302BHJP
   A01N 63/20 20200101ALI20230302BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20230302BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
A01N37/36
A01P21/00
A01N25/00 102
A01N37/04
A01N37/44
A01N37/42
A01N63/20
A01N25/02
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134569
(22)【出願日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2021139427
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391009877
【氏名又は名称】雪印種苗株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】小鑓 亮介
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 太
(72)【発明者】
【氏名】副島 洋
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
4H011AB03
4H011BB06
4H011BB21
4H011DA13
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】新規な植物成長調整剤を提供すること。
【解決手段】
化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有する、種子の発芽促進剤及び/又は播種する種子処理用の発芽促進剤。
【化1】
(但し化学式1の(A)は、二重結合したOまたはOH、(R)はOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
【化2】
(但し化学式2の(R1)はOH又はOCH3、(R2)はOH又はOCH3、(R3)はH、OH、NH2のいずれかを表す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有する、最適発芽温度以下の低温条件で播種された種子の発芽促進剤及び/又は最適温度条件以下の低温環境で播種する種子処理用の発芽促進剤。
【化1】
(但し化学式1の(A)は、二重結合したOまたはOH、(R)はOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
【化2】
(但し化学式2の(R1)はOH又はOCH3、(R2)はOH又はOCH3、(R3)はH、OH、NH2のいずれかを表す)
【請求項2】
化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物の含有量が0.001~10質量%である、請求項1に記載の発芽促進剤。
【請求項3】
化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される化合物を含む乳酸菌の培養液又は乳酸菌の培養液の希釈物からなる請求項1または2に記載の発芽促進剤。
【請求項4】
乳酸、乳酸エチル、乳酸アミド、ピルビン酸、ピルビン酸メチル、こはく酸、こはく酸ジメチル、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分とする請求項1に記載の発芽促進剤。
【請求項5】
請求項1、2、4のいずれかに記載の発芽促進剤を含有する溶液に、種子を浸漬又は前記溶液を塗布した後播種することを特徴とする低温による種子の発芽抑制及び/又は発芽遅延を予防する方法。
【請求項6】
請求項1、2、4のいずれかに記載の発芽促進剤の溶液に浸漬又は発芽促進剤の塗布処理を行った低温発芽処理種子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温下における種子の発芽を促進する作用を有する剤及び種子の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一部の種を除いて、種子植物の種子は、登熟を経て十分に成熟すると水分含量が少なくなり、種子内の代謝活性が著しく抑制される休眠状態にある。この休眠状態にある種子は、休眠を解除(打破)する必要がある。また、多くの種子は、低温条件下に一定期間置かれると、休眠が解除される(春化)。休眠解除に低温処理を必要とする種子では、低温条件に置かれると発芽抑制物質であるアブシジン酸が減少し、発芽促進物質であるジベレリン様物質が増加することが知られている。また、種皮や果実が硬く、透水性のない硬実種子は、種皮が腐食するなどして吸水性を獲得しなければ、休眠が解除されない。このような休眠を硬実休眠といい、実験的には濃硫酸などによる化学処理、あるいはヤスリ等による機械的な種皮の除去によって打破することができる。
なお、休眠が解除された種子、あるいは休眠性のない種子が発芽に不適な環境に置かれた場合、二次休眠に入り、その後発芽に好適な環境に置かれても発芽できなくなることがある。
【0003】
休眠が解除された種子が発芽するには、発芽に適した水分や温度、光などといった条件を満たした環境に種子が置かれる必要がある。
中でも温度は重要な条件の一つと考えられている。発芽可能な温度は、植物種、光条件、種子の成熟度などによって著しく異なる。発芽の最適温度は、一般に温帯の植物で20~25℃、熱帯の植物で30~35℃である。
一方で、発芽に適さない温度条件に、播種後の種子が置かれた場合、代謝が阻害されるなどして発芽が抑制されることが知られている。特に低温環境下では、代謝活性が低下して発芽に必要なエネルギー供給サイクルが正常に機能しないため、発芽が遅延する。このため、播種後の温度が低下することは、その後の発芽に重要な影響を与える。しかしこのエネルギー供給サイクルの正常化方法や機能低下を制御する方法は、いまだに開発されていない。
【0004】
一方、近年の農家戸数の減少、農業従事者の高齢化、経営規模の拡大あるいは春先の農作業の競合等を背景に、これまで育苗後に移植栽培されてきた作物を、直播栽培する割合が増えてきている。例えば、田植えに代えて直播による水稲栽培など、直播栽培法が普及してきた。しかし直播栽培は、移植栽培に比べて圃場での生育期間が長期化し、収量が少なくなる。このため直播栽培は、春先のできるだけ早い時期に播種し、長い生育期間を確保することが重要である。これは北海道など高緯度地域の農業では特に重要視されている。
例えばテンサイは、北海道十勝の芽室町における早期播種期に相当する4月中下旬の地下5cmの日平均地温は6℃~10℃であり、恒温器内の10℃における発芽は、25℃一定の条件と比べて約4日間遅延するといわれている(非特許文献1)。
また、トウモロコシの場合は、子実の登熟に必要な積算気温に到達しないことがある北海道の一部の「限界地帯」とよばれる地帯においては、「なるべく早生の品種を早期播種して初期生育を促し、登熟期間をできるだけ長くとることが必要(非特許文献2)」と考えられている。
【0005】
しかし、北海道などの寒冷冷涼地域では、春先の突然の気温低下とそれに伴う地温の低下によって直播した種子の発芽が遅延し、作物生育期間が短縮され、その結果収量の低下に繋がる場合が多い。このため、播種後に発芽の最適温度以下の環境に置かれた種子の発芽を遅延させず、また発芽を促進することが、農業生産量を向上させるためには特に重要である。
【0006】
種子の発芽促進する技術は、多岐にわたっている。
植物ホルモンやそのアンタゴニストを発芽促進に用いる方法(特許文献1)、細菌性植物病害防除作用を有するミツアリア(Mitsuaria)属に属する菌株の生菌体又は培養物を用いる方法など微生物農薬を使用する方法(特許文献2)、腐植とフルボ酸を用いる方法(特許文献3)、麹類を含む処理剤に種子をあらかじめ接触させる方法(特許文献4)、バーミキュライト風化土壌を、無機酸水溶液に溶解させて得た多種の金属塩及び非金属塩を主成分とする酸性添加剤と肥料と種子を均質に配合して粘土団子とする方法(特許文献5)、にがり、又は水とにがりの混合液を、霧状の微細な粒子(水滴)にした状態で、種子と接触させる方法(特許文献6)、植物種子をエンテロバクター属に属する微生物の培養ろ液に浸漬する方法(特許文献7)、二酸化炭素を含有する水の電解水に浸漬する方法(特許文献8)など、様々な化合物や手法が提案されている。
しかし、播種後の最適発芽温度以下の低温環境によって生じる種子の発芽抑制を予防し、または、低温環境における発芽を促進するための製剤や種子の適切な処理方法は、見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2020-506952号公報
【特許文献2】国際公開第2018/186316号
【特許文献3】特許第6231173号公報
【特許文献4】特開2015-12812号公報
【特許文献5】特開2009-247340号公報
【特許文献6】特開2006-217904号公報
【特許文献7】特開2001-238506号公報
【特許文献8】特開平10-229709号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proceedings of the Sugar Beet Research Association,52,17-24(2011)
【非特許文献2】牧草と園芸、第59巻、第2号、7~13ページ(2011年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、播種後の最適発芽温度以下の低温による発芽抑制や発芽遅延を予防して、直播種子の発芽率を向上するための製剤及び、低温による発芽抑制や発芽遅延を予防する方法、及び最適発芽温度以下の低温による発芽抑制防止処理がなされた種子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有する、最適発芽温度以下の低温条件で播種された種子の発芽促進剤及び/又は最適温度条件以下の低温環境で播種する種子処理用の発芽促進剤。
【0011】
【化1】
(但し化学式1の(A)は、二重結合したOまたはOH、(R)はOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
【0012】
【化2】
(但し化学式2の(R1)はOH又はOCH3、(R2)はOH又はOCH3、(R3)はH、OH、NH2のいずれかを表す)
【0013】
2.化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物の含有量が0.001~10質量%である、1.に記載の発芽促進剤。
3.化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を含む乳酸菌の培養液又は乳酸菌の培養液の希釈物からなる1.または2.に記載の発芽促進剤。
4.乳酸、乳酸エチル、乳酸アミド、ピルビン酸、ピルビン酸メチル、こはく酸、こはく酸ジメチル、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分とする1.に記載の発芽促進剤。
5.1、2、4のいずれかに記載の発芽促進剤を含有する溶液に、種子を浸漬又は前記溶液を塗布した後播種することを特徴とする低温による種子の発芽抑制及び/又は発芽遅延を予防する方法。
6.1、2、4のいずれかに記載の発芽促進剤の溶液に浸漬又は発芽促進剤の塗布処理を行った低温発芽処理種子。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、播種後の最適発芽温度以下の低温による発芽遅延や発芽率の低下などの抑制が可能な、播種された種子の発芽促進剤が提供される。また、播種後の最適発芽温度以下の低温による発芽率の低下や発芽遅延が抑制された種子が提供される。
また本発明の、発芽率の低下又は発芽遅延を防止する方法は、極めて簡便な処理操作で達成可能であり、専用の装置や施設が不要であるため、低コストの実施が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】発芽促進剤による発芽試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは課題を解決するために鋭意研究したところ、特定の構造の低分子有機酸等を土壌散布することや種子をあらかじめ有機酸等の溶液に浸漬処理することが、播種後の発芽を抑制するような最適発芽温度以下の低温条件下でも、発芽率の低下や発芽を遅延させない作用を示すことを見出した。
本明細書でいう「最適発芽温度以下の低温条件」とは、種子により異なるが、概ね一日平均気温10℃以下の日が、連続3~5日続く場合をいう。
また、「最適発芽温度以下の低温条件で播種された種子の発芽促進剤及び/又は最適温度条件以下の低温環境で播種する種子処理用の発芽促進剤」を本明細書においては「発芽促進剤」という。
本発明の発芽促進剤は、有効成分として、次の化学式1又は化学式2で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される化合物の1以上を含有する。
【0017】
【化3】
(但し化学式1の(A)は、二重結合したOまたはOH、(R)はOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
【0018】
【化4】
(但し化学式2の(R1)はOH又はOCH3、(R2)はOH又はOCH3、(R3)はH、OH、NH2のいずれかを表す)
【0019】
本発明の発芽促進剤は、上記の化学構造で表される化合物を1以上含有し、発芽促進剤当たり0.001~10質量%、好ましくは0.01~5質量%含有する。
【0020】
化学式1の化合物として下記の表1、化学式2の化合物として下記の表2にそれぞれ記載する化合物を例示できる。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表1、表2に記載したこれらの化合物及びクエン酸は、極めて安全性の高い化合物であることが知られている。
これらの化合物は、精製された化合物であってもよい。あるいは乳酸菌の培養液をそのまま、本発明の発芽促進剤とすることができる。
これらの化合物の中でも、乳酸、乳酸エチル、乳酸アミド、ピルビン酸、ピルビン酸メチル、こはく酸、こはく酸ジメチル、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸からなる群から選択される1以上の化合物がより好ましい。
【0024】
乳酸菌の培養液を本発明の発芽促進剤として使用する場合は、あらかじめ、培養液中の化学式1,2の化合物の含量を測定して濃度を確認したうえで、種子の浸漬処理、粉衣処理、フィルムコート処理、あるいは種子の播種後又は播種前の土壌に散布するための製剤とする。
【0025】
本発明の発芽促進剤は、有効成分以外のその他の任意成分を常法に従い、混合、撹拌等することにより製剤として製造することができる。
本発明の発芽促進剤は、水和剤、乳剤、粒剤、粉剤等、通常の植物成長調整剤で用いられる担体を用いて製剤化することができる。
製剤の形状に制限はなく、粉剤、顆粒剤、粒剤、水和剤、フロアブル剤、乳剤及びペースト剤等のあらゆる製剤形態に成形することができる。
【0026】
例えば、固体担体としては鉱物質粉末(カオリン、ベントナイト、クレー、モンモリロナイト、タルク、ケイソウ土、雲母、バーミキュライト、セッコウ、炭酸カルシウム、リン石灰等)、植物質粉末(大豆粉、小麦粉、木粉、タバコ粉、デンプン、結晶セルロース等)、高分子化合物(石油樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル酢酸樹脂、ポリ塩化ビニル、ケトン樹脂等)、更に、アルミナ、ワックス類等を使用することができる。また、液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等)、芳香族炭化水素類(トルエン、ベンゼン、キシレン等)、塩素化炭化水素類(クロロホルム、四塩化炭素、モノクロルベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、酸アミド類(N、N-ジメチルアセトアミド等)、エーテルアルコール類(エチレングリコールエチルエーテル等)、又は水等を使用することができる。
【0027】
乳化、分散、拡散等の目的で使用される界面活性剤としては、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性及び両イオン性のいずれも使用することができる。本発明において使用することができる界面活性剤の例を挙げると、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンポリマー、オキシプロピレンポリマー、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、第四級アンモニウム塩、オキシアルキルアミン、レシチン、サポニン等である。また、必要に応じてゼラチン、カゼイン、アルギン酸ソーダ、デンプン、寒天、ポリビニルアルコール等を補助剤として用いることができる。
【0028】
本発明の発芽促進剤は、水溶液又は懸濁液とした場合のpH(25℃)は、2~8となるのが好ましく、当該pHを調整する緩衝剤としては、酢酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸等の有機酸塩、リン酸、塩酸、硫酸等の無機塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いてもよく、さらに他のpH調整剤と適宜組み合わせてもよい。
【0029】
本発明の発芽促進剤を土壌に散布する場合、直接そのまま散布してもよいし、水で適宜希釈又は懸濁した水溶液として散布してもよい。
【0030】
本発明の発芽促進剤を土壌散布剤とする場合は、化学式1及び/又は化学式2で表される化合物1以上の合計濃度は、0.001~1質量%、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましく0.1~0.3質量%含有する。
【0031】
土壌に散布する肥料と混合する場合を含め、土壌に直接施用する場合の使用量としては、化学式1及び/又は化学式2で表される化合物の1以上の合計濃度として、1ヘクタール当たり100~100000g、特に500~50000g用いるのが好ましい。
【0032】
播種前の種子処理用として用いる場合は、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル等)、エステル類(酢酸エチル等)等の液体担体に0.01~100000ppm、より好ましくは1~10000ppm、特に好ましくは5~1000ppmとなるように希釈又は懸濁し、乾燥種子に噴霧するか、乾燥種子を希釈液に浸漬して種子に吸収させることができる。浸漬時間としては特に制限されないが、好ましくは10分~120時間、より好ましくは10分~100時間、特に好ましくは10分~60時間種子を浸漬し、次いで浸漬した種子をそのまま土壌に播種するか、浸漬後水分又は溶剤を除去し、軽度風乾、あるいは完全に乾燥させる。乾燥方法は、風乾、減圧乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等が例示できる。また乾燥方法によって液体担体を適宜選択できる。
さらにまた、クレー等の鉱物質粉末の固体担体を用いて製剤化したものを種子表面に付着させ使用することもできる。付着剤として、原液を希釈せずに付着させることができる。また、通常用いられている種子コーティング剤、種子コーティングフィルムに混合して種子に被覆することもできる。
【0033】
本発明の発芽促進剤の適用対象となる植物種子としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。イネ科(トウモロコシ、イネ、コムギ、チモシー、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、メドウフェスク、イタリアンライグラス、ケンタッキーブルーグラス)、マメ科(ダイズ、エダマメ、インゲン、エンドウ、アズキ、アルファルファ、シロクローバ、アカクローバ)、アオイ科(ワタ)、ヒユ科(テンサイ)、アブラナ科(ダイコン、コマツナ、キャベツ、ブロッコリー、シロカラシ)、ウリ科(カボチャ)、セリ科(ニンジン)、キク科(レタス)、ユリ科(タマネギ)に適用すると好ましい効果を発揮し、低温条件での発芽を促進する。
【0034】
また、本発明の効果向上と発芽後の生育促進を目的として、他の植物成長調整剤と併用することもできる。また、場合によっては相乗効果を期待することもできる。
【0035】
さらにまた、本発明の発芽促進剤は、は、各種殺虫剤、殺菌剤、微生物農薬、肥料等と混用又は併用することも可能である。また、育苗期に使用する殺虫殺菌剤と混用は特に有効である。また、肥料と併用する場合、健苗育成を目的とした育苗用肥料との併用、活着促進を目的とした移植直前施用肥料との併用を行うことも可能である。
【0036】
本発明の発芽促進剤を得るための、乳酸菌としては、どのような物でも良いが、乳酸球菌、乳酸桿菌が好ましく、中でも乳酸桿菌が好ましい。乳酸桿菌のなかでもラクトバチルス属が好ましい。
ラクトバチルス(Lactobacillus以下「L.」と略記する場合がある)属の中でも代表的な種としては、ラクトバチルス・アセトトレランス(L.acetotolerans)、ラクトバチルス・アシディファリナエ(L.acidifarinae)、ラクトバチルス・アシドピスシス(L.acidipiscis)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・アジリス(L.agilis)、ラクトバチルス・アルジドゥス(L.algidus)、ラクトバチルス・アリメンタリウス(L.alimentarius)、ラクトバチルス・アミロリチクス(L.amylolyticus)、ラクトバチルス・アミロフィルス(L.amylophilus)、ラクトバチルス・アミロトロフィクス(L.amylotrophicus)、ラクトバチルス・アミロボルス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・アニマリス(L.animalis)、ラクトバチルス・アントリ(L.antri)、ラクトバチルス・アピス(L.apis)、ラクトバチルス・アポデミ(L.apodemi)、ラクトバチルス・アクアチレ(L.aquatile)、ラクトバチルス・アクアチクス(L.aquaticus)、ラクトバチルス・アビアリウス(L.aviarius)、ラクトバチルス・バキイ(L.backii)、ラクトバチルス・ビフェルメンタンス(L.bifermentans)、ラクトバチルス・ブランタエ(L.brantae)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ブクネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カカオヌム(L.cacaonum)、ラクトバチルス・カメリアエ(L.camelliae)、ラクトバチルス・カピラツス(L.capillatus)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・セチ(L.ceti)、ラクトバチルス・コレオホミニス(L.coleohominis)、ラクトバチルス・コリノイデス(L.collinoides)、ラクトバチルス・コンポスチ(L.composti)、ラクトバチルス・コンカブス(L.concavus)、ラクトバチルス・コリニフォルミス(L.coryniformis)、ラクトバチルス・クリスパンツス(L.crispatus)、ラクトバチルス・クルストラム(L.crustorum)、ラクトバチルス・クリエアエ(L.curieae)、ラクトバチルス・クルバツス(L.curvatus)、ラクトバチルス・デルブルエキイ(L.delbrueckii)、ラクトバチルス・デクストリニクス(L.dextrinicus)、ラクトバチルス・ディオリボランス(L.diolivorans)、ラクトバチルス・エクイ(L.equi)、ラクトバチルス・イクイクルソリス(L.equicursoris)、ラクトバチルス・エクイゲネロシ(L.equigenerosi)、ラクトバチルス・ファビファルメンタンス(L.fabifermentans)、ラクトバチルス・ファエシス(L.faecis)、ラクトバチルス・ファシミニス(L.farciminis)、ラクトバチルス・ファラジニス(L.farraginis)、ラクトバチルス・ファメンタム(L.fermentum)、ラクトバチルス・フロリコラ(L.floricola)、ラクトバチルス・フロルム(L.florum)、ラクトバチルス・フォルニカリス(L.fornicalis)、ラクトバチルス・フルクチボランス(L.fructivorans)、ラクトバチルス・フルメンチ(L.frumenti)、ラクトバチルス・フクエンシス(L.fuchuensis)、ラクトバチルス・フツァイ(L.futsaii)、ラクトバチルス・ガリナルム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・ガストリカス(L.gastricus)、ラクトバチルス・ガネンシス(L.ghanensis)、ラクトバチルス・ギゲリオルム(L.gigeriorum)、ラクトバチルス・グラミニス(L.graminis)、ラクトバチルス・ハメシ(L.hammesii)、ラクトバチルス・ハムステリ(L.hamsteri)、ラクトバチルス・ハルビネンシス(L.harbinensis)、ラクトバチルス・ヘイロングジアンゲンシス(L.heilongjiangensis)、ラクトバチルス・ハヤキテンシス(L.hayakitensis)、ラクトバチルス・ヘルベテ
ィカス(L.helveticus)、ラクトバチルス・ヒルガルディイ(L.hilgardii)、ラクトバチルス・ホッカイドネンシス(L.hokkaidonensis)、ラクトバチルス・ホミニス(L.hominis)、ラクトバチルス・ホモヒオキイ(L.homohiochii)、ラクトバチルス・ホルデイ(L.hordei)、ラクトバチルス・イネルス(L.iners)、ラクトバチルス・イングルビエイ(L.ingluviei)、ラクトバチルス・インテスチナリス(L.intestinalis)、ラクトバチルス・イワテンシス(L.iwatensis)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(L.jensenii)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(L.johnsonii)、ラクトバチルス・カリキセンシス(L.kalixensis)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス(L.kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ケフィリ(L.kefiri)、ラクトバチルス・キムチカス(L.kimchicus)、ラクトバチルス・キムチエンシス(L.kimchiensis)、ラクトバチルス・キソネンシス(L.kisonensis)、ラクトバチルス・キタサトニス(L.kitasatonis)、ラクトバチルス・コリエンシス(L.koreensis)、ラクトバチルス・クンケエイ(L.kunkeei)、ラクトバチルス・レイクマンイ(L.leichmannii)、ラクトバチルス・インドネリ(L.lindneri)、ラクトバチルス・マレフェレメンタンス(L.malefermentans)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・マニホチボランス(L.manihotivorans)、ラクトバチルス・ミンデンシス(L.mindensis)、ラクトバチルス・ムコサエ(L.mucosae)、ラクトバチルス・ムリヌス(L.murinus)、ラクトバチルス・ナゲリイ(L.nagelii)、ラクトバチルス・ナムレンシス(L.namurensis)、ラクトバチルス・ナンテンシス(L.nantensis)、ラクトバチルス・ナスエンシス(L.nasuensis)、ラクトバチルス・ネンジアンゲンシス(L.nenjiangensis)、ラクトバチルス・ノデンシス(L.nodensis)、ラクトバチルス・オドラチトフイ(L.odoratitofui)、ラクトバチルス・オエニ(L.oeni)、ラクトバチルス・オリゴファーメンタス(L.oligofermentans)、ラクトバチルス・オリス(L.oris)、ラクトバチルス・オリザエ(L.oryzae)、ラクトバチルス・オタキエンシス(L.otakiensis)、ラクトバチルス・オゼンシス(L.ozensis)、ラクトバチルス・パニス(L.panis)、ラクトバチルス・パンテリス(L.pantheris)、ラクトバチルス・パラブレビス(L.parabrevis)、ラクトバチルス・パラブクネリ(L.parabuchneri)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・パラコリノイデス(L.paracollinoides)、ラクトバチルス・パラケフィリ(L.parakefiri)、ラクトバチルス・パラリメンタリウス(L.paralimentarius)、ラクトバチルス・パラプランタラム(L.paraplantarum)、ラクトバチルス・パステウリイ(L.pasteurii)、ラクトバチルス・パウキボランス(L.paucivorans)、ラクトバチルス・ペントスス(L.pentosus)、ラクトバチルス・ペロレンス(L.perolens)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ポブジヒイ(L.pobuzihii)、ラクトバチルス・ポンチス(L.pontis)、ラクトバチルス・ポルシナエ(L.porcinae)、ラクトバチルス・プシタキ(L.psittaci)、ラクトバチルス・ラピ(L.rapi)、ラクトバチルス・レニニ(L.rennini)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ロデンチウム(L.rodentium)、ラクトバチルス・ロゴサエ(L.rogosae)、ラクトバチルス・ロシアエ(L.rossiae)、ラクトバチルス・ルミニス(L.ruminis)、ラクトバチルス・サエリムネリ(L.saerimneri)、ラクトバチルス・サケイ(L.sakei)、ラクトバチルス・サリバリウス(L.salivarius)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)、ラクトバチルス・サニビリ(L.saniviri)、ラクトバチルス・サツメンシス(L.satsumensis)、ラクトバチルス・セカリフィリス(L.secaliphilus)、ラクトバチルス・セロンゴレンシス(L.selangorensis)、ラクトバチルス・セニオロリス(L.senioris)、ラクトバチルス・センマイズケ(L.senmaizukei)、ラクトバチルス・シェレピエア(L.sharpeae)、ラクトバチルス・シェンゼーネンシス(L.shenzhenensis)、ラクトバチルス・シラゲイ(L.silagei)、ラクトバチルス・シリギンシス(L.siliginis)、ラクトバチルス・シミリス(L.similis)、ラクトバチルス・ソンガウジンジェネシス(L.songhuajiangensis)、ラクトバチルス・スピチェリ(L.spicheri)、ラクトバチルス・スシコーラ(L.sucicola)、ラクトバチルス・スエビカス(L.suebicus)、ラクトバチルス・スンキ(L.sunkii)、ラクトバチルス・タイワネンシス(L.taiwanensis)、ラクトバチルス・タイランデンシス(L.thailandensis)、ラクトバチルス・ツセチ(L.tucceti)、ラクトバチルス・ウルツネンシス(L.ultunensis)、ラクトバチルス・ウバラム(L.uvarum)、ラクトバチルス・バクシノストレカス(L.vaccinostercus)、ラクトバチルス・バギナリス(L.vaginalis)、ラクトバチルス・ベルソモルデネシス(L.versmoldensis)、ラクトバチルス・ヴィニ(L.vini)、ラクトバチルス・クサンガファンゲネシス(L.xiangfangensis)、ラクトバチルス・ヨンギネンシス(L.yonginensis)、ラクトバチルス・ゼアエ(L.zeae)、ラクトバチルス・ザイマエ(L.zymae)等を例示できる。
【0037】
乳酸菌として、これら例示した菌種の中でもラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ディオリボランス(L.diolivorans)が好ましく、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)から選択される乳酸菌がより好ましい。
この乳酸菌を培養することで得られる発芽促進剤には、乳酸、乳酸エチル、乳酸アミド、ピルビン酸、ピルビン酸メチル、こはく酸、こはく酸ジメチル、リンゴ酸、アスパラギン酸、クエン酸のいずれか1以上が含有されている。
【実施例0038】
次に実施例・試験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例・試験例に限定されるものではない。
<試験例1:アブラナ科植物の代表例としてシロイヌナズナ種子を用いた発芽試験例>
(1)試験試料
次の濃度の各種溶液を調製し、これを試験試料とした。
乳酸 0.0100%
こはく酸 0.0100%
こはく酸ジメチル 0.1000%
リンゴ酸 0.0134%
アスパラギン酸 0.1331%
アスパラギン酸 0.0133%
乳酸エチル 0.1000%
乳酸アミド 0.8909%
乳酸アミド 0.0891%
ピルビン酸 0.0100%
ピルビン酸メチル 0.1000%
【0039】
(2)発芽試験
1)試験試料の添加と播種
9cmプラスチックシャーレに濾紙(アドバンテック社製、No.2)を2枚重ねて置き、シャーレ1枚あたり試験溶液を5mlずつ添加した。
各試験溶液を添加したシャーレ1枚当たりシロイヌナズナ種子100粒を播種した後、4℃の恒温槽で6日間低温処理を行った。
その後34℃の恒温槽に移しインキュベートした。
目視により濾紙が乾燥してきたらその都度、蒸留水を加えた。
【0040】
2)発芽率
発芽率の調査は実態顕微鏡下で種子の形態観察を行い、次の通り評価した。
・種皮の裂開がみられないNon-raptureステージ
・種皮の裂開がみられるRaptureステージ
・幼根の突出がみられるRadicleステージ、又は子葉の展開がみられるGreen
Cotyledonステージ
【0041】
以上の3段階の変化を指標とした。シロイヌナズナ種子の場合は、幼根の突出が確認された時点(Raidicleステージ又はCotyledonステージ)を発芽したと判断した。
また、発芽率は、播種した100個当たりの発芽数をカウントし、これを発芽率(%)とした。
【0042】
(3)試験結果
下記表3及び図1に試験結果を示した。なお比較対照として蒸留水(DW)を用いた。
【0043】
【表3】
【0044】
乳酸0.01%、こはく酸0.01%、こはく酸ジメチル0.1%、リンゴ酸0.1334%、アスパラギン酸0.1331%、アスパラギン酸0.0133%、乳酸エチル0.1%、乳酸アミド0.8909%、乳酸アミド0.0891%、ピルビン酸0.01%、ピルビン酸メチル0.1%の処理が、低温による発芽抑制に対して有効であった。
中でもピルビン酸とピルビン酸メチルは播種0日目時点で11~24%発芽率を向上させた。つまり4℃6日間の予冷期間中に発芽率を向上させたことを意味しており、低温による発芽抑制の軽減に特に有効な化合物であると考えられる。
【0045】
<試験例2:ダイコン発芽試験>
1.試験方法
乳酸、ピルビン酸、こはく酸、クエン酸をそれぞれ0.01%、0.1%(w/w)の濃度で水に溶解し、これを試験溶液とした。
直径9cmのガラスシャーレにアドバンテック社製No.2濾紙を2枚敷き、蒸留水(DW)または試験溶液を5ml加えダイコン種子(品種:晩々G(雪印種苗))を30粒(/シャーレ)播種し、ダイコン種子の発芽が遅延することが知られている温度10℃、暗所でインキュベートし播種後10日目(通常条件のダイコン種子が発芽する日数)の発芽率を測定した。発芽の判定は、幼根が突出した時点とし、これを発芽個体としてカウントした。
【0046】
2.試験結果
下記表4に試験結果を示す。
【0047】
【表4】
【0048】
水のみの場合、発芽率は13%と極めて低率であった。
各試験試料が0.01%濃度の場合、ピルビン酸の47%が最大であった。
一方、試験試料の濃度を0.1%とした場合は、73~93%に発芽率が向上した。ピルビン酸の93%が最大であった。
【0049】
<試験例3:シロガラシ発芽試験>
1.試験方法
ダイコン発芽試験と同様の条件で実施した。なおシロガラシ種子が通常条件では100%発芽することが確認されている播種後1日目の発芽をカウントし、発芽率を得た。
【0050】
2.試験結果
表5に試験結果を示す。
【0051】
【表5】
【0052】
水のみの添加の場合、発芽率は1%と極めて低率であった。各試験試料が0.01%濃度の場合、クエン酸の発芽率7%が最大であった。一方、試験試料の濃度を0.1%とした場合は、9~17%に発芽率が向上した。中でもクエン酸の17%が最大であった。
【0053】
<試験例4:コマツナ発芽試験>
1.試験方法
ダイコン発芽試験と同様条件で実施した。なお通常条件ではコマツナ種子が100%発芽することが確認されている播種翌日に発芽を確認し発芽率を得た。
【0054】
2.試験結果
表6に試験結果を示す。
【0055】
【表6】
【0056】
水のみの場合、発芽率は9%と極めて低率であった。各試験試料の濃度が0.01%の場合、クエン酸の発芽率13%が最大であった。一方、試験試料の濃度を0.1%とした場合は、発芽率27~42%に増加した。クエン酸濃度0.1%の発芽率42%が最大であった。
【0057】
<試験例5:シロクローバ発芽試験>
1.試験方法
乳酸を0.001%、0.01%、0.1%(w/w)の3濃度で水に溶解し、試験溶液を調製した。
9cmガラスシャーレにアドバンテック社製No.2濾紙を2枚敷き、蒸留水または試験溶液を5ml加えシロクローバ種子(品種:アバパール(雪印種苗))を50粒(/シャーレ)播種し、シロクローバ種子の発芽が遅延することが知られている温度10℃、暗所でインキュベートした。通常条件ではシロクローバ種子が100%発芽する播種後4日目の発芽率を求めた。なお発芽の判定は、幼根が突出した時点を発芽とした。
【0058】
2.試験結果
表7に試験結果を示す。
【0059】
【表7】
【0060】
水のみの添加の場合の発芽率は42%であった。乳酸濃度が0.01%及び0.001%の場合は、水と同程度の発芽率であった。しかし乳酸濃度を0.1%にした場合、発芽率が74%に向上した。
【0061】
<試験例6:トウモロコシ発芽試験>
1.試験方法
乳酸を0.01%、0.1%(w/w)の2濃度で水に溶解して試験溶液を調製した。
15cmガラスシャーレにアドバンテック社製No.2濾紙を2枚敷き、蒸留水または試験溶液を#ml加え飼料用トウモロコシ種子(試作系統(雪印種苗))を15粒(/シャーレ)播種し、その上にアドバンテック社製No.2濾紙を1枚載せ蒸留水または試験溶液#mlを加えた。これをとうもろこしの発芽が遅延することが知られている、10℃暗所でインキュベートした。通常の温度条件でトウモロコシ種子が100%発芽する播種後5日目の発芽率を調査した。なお発芽の判定は、幼根が突出した時点を発芽したと判断した。
【0062】
2.試験結果
表8に試験結果を示す。
【0063】
【表8】
【0064】
水のみの添加の場合、5日目の発芽率は40%であった。乳酸0.01%では80%に達したが、乳酸0.1%の場合60%であった
【0065】
以上の試験1~6の結果から、低温条件による発芽遅延を抑制し、発芽を促進するためには、乳酸、ピルビン酸、こはく酸、クエン酸のいずれか1以上を0.01%~0.1%添加した溶液で種子を浸漬処理するとよいことが判明した。
また乳酸をとうもろこし種子に適用する場合の最適濃度は、0.01~0.1%の間にあるものと考えられた。
【0066】
また以上の試験1~6の結果を総合すると、発芽促進剤としてはCH3C(A)CO(R)の構造を有する化合物(但し(A)は、二重結合したOまたはOH、(R)はOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)、
あるいは(R1)COCHC(R3)COCH2(R2)の構造を有する化合物(但し
化学式2の(R1)はOH又はOCH3、(R2)はOH又はOCH3、(R3)はH、OH、NH2のいずれかを表す)、
そしてクエン酸
以上のいずれかを有効成分として含有するものであれば本発明の発芽促進剤として有効であるものと考えられた。
【0067】
<試験例7:乳酸菌培養液を用いた発芽試験>
種子を乳酸菌培養液で前処理することによる効果試験を実施した。
1.試験方法
(1)乳酸菌の培養
MRS寒天培地(BD社製)に-80℃で保管しておいたL.paracasei(JCM8130)を画線塗抹し、37℃で24時間培養した。シングルコロニーを10mlのMRS液体培地(BD社製)に接種し37℃で24時間静置培養した。その後1mlをエッペンチューブに分注し、10,000rpm、5分間室温で遠心分離し上清を得た。上清は0.2μmフィルターを通し、生菌を除去した。このように調製した溶液を乳酸菌培養液とした。
【0068】
(2)ダイコン種子の浸漬処理
乳酸菌培養液は蒸留水で100倍及び1,000倍に希釈し、試験液を調製した。また対照として蒸留水(DW)を用いた。
50mlファルコン製プラスチックチューブに市販のダイコン種子である「冬侍」(雪印種苗株式会社製)を、3gを測り取り、さらに試験液を20ml添加した。
次いで10℃暗所で18時間ダイコン種子の浸漬を継続した。
【0069】
(3)発芽試験:
浸漬処理後、種子を回収し、蒸留水で3回洗浄を行った。
その後9cmプラスチックシャーレに濾紙(No.2、アドバンテック社製)を2枚敷き、蒸留水を5ml添加した。
次いで、ダイコン種子を30粒/シャーレになるように播種した。
播種したシャーレは、その後暗所10℃でインキュベートし、播種50.5時間後の発芽率を調査した。
発芽率の調査は実態顕微鏡下で種子の形態観察を行い、次の通り発芽の進行を評価した。
【0070】
[発芽のステージ分類]
発芽のステージは次の3分類とした。
・種皮の裂開がみられないNon-raptureステージ
・種皮の裂開がみられるRaptureステージ
・幼根の突出がみられるRadicleステージ
【0071】
発芽率は、播種した各シャーレの発芽数をカウントし、これを播種した種子数に対する割合を求めて発芽率(%)とした。反復数は3とした。
【0072】
2.試験結果
下記表9に、試験結果を示した。TukeyのHSD検定による統計解析を行い、5%水準で蒸留水区-乳酸菌培養液100倍希釈液区間と、蒸留水区-乳酸菌培養液1,000倍希釈液区間に有意差が認められた。
【0073】
【表9】
【0074】
表9に示す通り、乳酸菌培養液であらかじめダイコン種子を浸漬処理すると、蒸留水による前処理と比較して平均発芽率が17-18%高まった。
以上の試験から乳酸菌培養液は、種子浸漬処理においても発芽促進剤として有用であることが明らかとなった。
【0075】
<試験例8:乳酸菌培養液を用いた発芽試験>
1.試験方法
(1)乳酸菌の培養
MRS寒天培地(BD社製)に-80℃で保管しておいたL.rhamnosus、L.paracasei、L.diolivorans、L.plantarumを画線塗抹し37℃で24時間培養した。シングルコロニーを10mlのMRS液体培地(BD社製)に接種し37℃で24時間静置培養した。その後1mlをエッペンチューブに分注し、10,000rpm、5分間室温で遠心分離し上清を得た。上清は0.2μmフィルターを通し、生菌を除去した。このように調製した溶液を乳酸菌培養液とした。
【0076】
(2)発芽試験
1)試験試料の添加と播種
乳酸菌培養液は蒸留水で100倍に希釈し、試験液を調製した。9cmプラスチックシャーレに濾紙(アドバンテック社製、No.2)を2枚重ねて置き、シャーレ1枚あたり試験溶液を5mlずつ添加した。対照区は乳酸菌を接種していないMRS液体培地の100倍希釈液とした。
各試験溶液を添加したシャーレ1枚当たりシロイヌナズナ種子100粒を播種した後、4℃の恒温槽で6日間低温処理を行った。
その後34℃の恒温槽に移しインキュベートした。
目視により濾紙が乾燥してきたらその都度、蒸留水を加えた。
【0077】
2)発芽率
発芽率の調査は実態顕微鏡下で種子の形態観察を行い、次の通り評価した。
・種皮の裂開がみられないNon-raptureステージ
・種皮の裂開がみられるRaptureステージ
・幼根の突出がみられるRadicleステージ、又は子葉の展開がみられるGreen
Cotyledonステージ
【0078】
以上の3段階の変化を指標とした。シロイヌナズナ種子の場合は、幼根の突出が確認された時点(Raidicleステージ又はCotyledonステージ)を発芽したと判断した。
また、発芽率は、播種した100個当たりの発芽数をカウントし、これを発芽率(%)とした。
【0079】
2.試験結果
下記表10に試験結果を示した。なお比較対照として蒸留水(DW)を用いた。
【表10】
【0080】
表10に示す通り、L.rhamnosus、L.paracasei、L.diolivorans、L.plantarumの培養液は、MRS液体培地と比べて発芽率が41-76%高まった。
以上の試験から乳酸菌培養液は、発芽促進剤として有用であることが明らかとなった。
【0081】
<試験例9 有機酸原液種子処理試験>
有機酸の原液を種子に直接散布して、発芽を確認する試験を行った。
試験薬は、乳酸、ピルビン酸を用いた。試験種子は、ダイコンを用いた。
<乳酸試験>
1.試験方法
試験区:無処理区、乳酸区
供試種子:ダイコン(冬侍)
供試濃度:0.5mg/30粒
反復数:3

2.種子処理
ダイコン種子90粒に対し、DL-乳酸(和光,純度85.0-92.0%)を、それぞれ1.5mgを種子に直接塗布することで処理を行った。

3.発芽試験
・直径9cmのプラスチックシャーレにアドバンテック社製No.2濾紙を2枚敷き、蒸留水を5ml(/シャーレ)加えダイコン種子を30粒播種した。
・11℃暗所で65時間インキュベートし発芽状況を確認しながら発芽率をカウントした。
・発芽の判定は、幼根が突出した時点とし、これを発芽個体としてカウントした。

4.試験結果
試験結果を表11に示す。
乳酸の原液を種子に塗布した場合、発芽率の向上が確認された。
【0082】
【表11】
【0083】
<ピルビン酸試験>
1.試験方法
試験区:無処理区、ピルビン酸区
供試種子:ダイコン(冬侍)
供試濃度:0.5mg/30粒
反復数:4

2.種子処理
ダイコン種子120粒に対し、ピルビン酸(和光,純度97.0%)2.0mgを種子に直接塗布することで処理を行った。

3.発芽試験
・直径9cmのプラスチックシャーレにアドバンテック社製No.2濾紙を2枚敷き、蒸留水を5ml(/シャーレ)加えダイコン種子を30粒播種した。
・10℃暗所で67時間インキュベートし発芽状況を確認しながら発芽率をカウントした。
・発芽の判定は、幼根が突出した時点とし、これを発芽個体としてカウントした。

4.試験結果
試験結果を表12に示す。
ピルビン酸の原液を種子に塗布した場合、発芽率の向上が確認された。
【0084】
【表12】
【0085】
この試験結果から、少量の有機酸を塗布方法が有効であることが確認され、塗布処理種子の製法として使用することができる。低濃度に希釈した剤を用いた場合、水分の乾燥処理などが発生するが、不要になる。
図1