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特開2023-3329車両用シート、および車両用シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003329
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】車両用シート、および車両用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20221228BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20221228BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
B60R21/207
B60N2/427
B60N2/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104435
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】富田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 規敏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友治
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輝
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087CD05
3B087DE10
3D054AA21
3D054BB23
3D054BB24
(57)【要約】
【課題】高い意匠性を有し、かつサイドエアバッグの展開スピードの制御が可能な車両用シートを提供する。
【解決手段】車両用シート1は、天板部30の側方に配置されたボルスター部4と、当該ボルスター部4の上側に配置された肩部5と、ボルスター部4と肩部5の表皮6と、ボルスター部4に設けられたエアバッグスリーブ15とを備える。エアバッグスリーブ15は、第1表皮ピース11と第2表皮ピース12との縫い目である第1ティアライン17に沿うように配置される第1部分15aと、第2表皮ピース12と第4表皮ピース14との縫い目である第2横方向ライン20を跨いで延在する第2部分15bとを有する。第1部分15aは、第1ティアライン17に沿うように、第2表皮ピース12に縫合されている。第2部分15bは、第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ装置をシートバックに内蔵した車両用シートにおいて、
前記シートバックは、着座者の背中が当接可能な天板部と、当該天板部の側方に配置されたボルスター部と、当該ボルスター部の上側に配置された肩部と、前記ボルスター部および前記肩部の表面を構成する表皮と、前記ボルスター部および前記肩部のうちの少なくとも一方に設けられ、エアバッグ展開時に前記表皮を内側からサポートするエアバッグスリーブと、を備え、
前記表皮は、前記ボルスター部における前記天板部に隣接する位置に配置された第1表皮ピースと、前記ボルスター部における前記第1表皮ピースよりも前記天板部から遠いカマチ側の位置に配置された第2表皮ピースと、前記肩部における前記第1表皮ピースの上側に配置された第3表皮ピースと、前記肩部における前記第2表皮ピースの上側に配置された第4表皮ピースとを備え、
前記第1表皮ピースと前記第2表皮ピースとは、前記シートバックの縦方向に延びる第1ティアラインに沿って縫合され、
前記第3表皮ピースと前記第4表皮ピースとは、前記第1ティアラインに連続するように前記縦方向に延びる第2ティアラインに沿って縫合され、
前記第1表皮ピースと前記第3表皮ピースとは、前記第1ティアラインに交差する交差方向に延びる第1横方向ラインに沿って縫合され、
前記第2表皮ピースと前記第4表皮ピースとは、前記第1横方向ラインに連続するように前記交差方向に延びる第2横方向ラインに沿って縫合され、
前記エアバッグスリーブは、前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように配置される第1部分と、前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインを跨いで延在する第2部分とを有し、
前記第1部分が前記第1ティアラインまたは第2ティアラインに沿うように前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合され、かつ
前記第2部分が前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの組、または前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合されている、
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートにおいて、
前記エアバッグ装置が前記ボルスター部に収容され、
前記第1部分は、前記第1ティアラインに沿うように、前記第2表皮ピースに縫合され、
前記第2部分は、前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組に縫合されている、
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用シートにおいて、
前記第2部分は、前記第1横方向ラインに沿う縫い代において前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの端部同士が重なり合った重合部分、または、前記第2横方向ラインに沿う縫い代において前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの端部同士が重なり合った重合部分を包んで挟持した状態で、当該重合部分に縫合されている、
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
エアバッグ装置をシートバックに内蔵した車両用シートであって、前記シートバックが、着座者の背中が当接する天板部と、当該天板部の側方に配置されたボルスター部と、当該ボルスター部の上側に配置された肩部と、前記ボルスター部および前記肩部の表面を構成する表皮と、前記ボルスター部および前記肩部のうちの少なくとも一方に設けられ、エアバッグ展開時に前記表皮を内側からサポートするエアバッグスリーブであって、前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合される第1部分と、前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの組、または前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合される第2部分とを備えたシートの製造方法において、
前記表皮の構成部品として、前記ボルスター部における前記天板部に隣接する位置に配置される第1表皮ピースと、前記ボルスター部における前記第1表皮ピースよりも前記天板部から遠いカマチ側の位置に配置される第2表皮ピースと、前記肩部における前記第1表皮ピースの上側に配置された第3表皮ピースと、前記肩部における前記第2表皮ピースの上側に配置された第4表皮ピースとを準備する表皮ピース準備工程と、
前記エアバッグスリーブの前記第1部分を前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合する第1部分縫合工程と、
前記第1表皮ピースと前記第2表皮ピースとを前記シートバックの縦方向に延びる第1ティアラインに沿って縫合し、かつ、前記第3表皮ピースと前記第4表皮ピースとを、前記縦方向に延びる第2ティアラインに沿って縫合するティアライン縫合工程と、
前記第1表皮ピースと前記第3表皮ピースとを前記第1ティアラインに交差する交差方向に延びる第1横方向ラインに沿って縫合し、かつ、前記第2表皮ピースと前記第4表皮ピースとを前記第1横方向ラインに連続するように前記交差方向に延びる第2横方向ラインに沿って縫合する横方向ライン縫合工程と、
前記エアバッグスリーブにおける前記第2部分を、前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの組、または前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合する第2部分縫合工程と
を有し、
前記第1部分縫合工程では、前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように、前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合する、
ことを特徴とする
車両用シートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用シートの製造方法において、
前記エアバッグスリーブの前記第1部分を前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに重ね合わせた状態で、前記第1部分縫合工程および前記ティアライン縫合工程を同時に行う、
ことを特徴とする車両用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート、および車両用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置をシートバックに内蔵した車両用シートでは、車両衝突時にエアバッグを展開させるために、シートバック側部の表皮に縦方向に延びる縫い目であるエアバッグ展開部(以下、ティアライン)があらかじめ形成されている。従来、ティアラインは、シートバックにおける着座者の背中が当接する天板部の幅方向両側に配置されたボルスター部(すなわち、着座者の体側部付近においてシートバック前方および側方に張り出している部分)のみに形成されていたが、近年、エアバッグ装置が大型化し、ティアラインがボルスター部の上側に配置された肩部(すなわち、着座者の肩部付近において前方および側方に張り出している部分)にも形成されたデザインが開発されている。
【0003】
そのようなデザインを有するシートは、例えば、以下の特許文献1~2に開示されている。特許文献1記載のシートバックのサイド部における表皮は、図9に示されるように、4枚の表皮ピースS1~S4(すなわち、肩部表面を構成する2枚の表皮ピースS1、S2、および肩部下側においてボルスター部表面を構成する2枚の表皮ピースS3、S4)によって構成されている。4枚の表皮ピースS1~S4は、横方向ラインY1、および縦方向に延びる上部ティアラインY2および下部ティアラインY3によって互いに縫合されている。このシートバックでは、サイドエアバッグ展開時に縦方向に延びる上部ティアラインY2および下部ティアラインY3が横方向ラインY1よりも先に展開するように、下部の表皮ピースS3、S4の下部ティアラインY3付近の部分には、力布41、42が縫合され、力布41、42は連結布43、44を介して上部の表皮ピースS1、S2の上部ティアラインY2付近の部分に連結している。
【0004】
また、特許文献2記載のシートバックは、図10~11に示されるように、2つの縫合部として、シートカバー55におけるシート表面被覆部55a(シート前面を被覆する部分)とカマチ被覆部55b(シート側面を被覆する部分)との間の縦方向のティアライン56と、このティアライン56と交差する横方向ライン57とを備える。この縦方向のティアライン56の横方向ライン57を挟む上下位置には、上下一対の力布58、59 の一端が共縫いされている。これにより、エアバッグ装置51のエアバッグ(図示せず)の展開圧力でまず力布58、59と共縫いした縦方向のティアライン56が破断され、その後に横方向ライン57が破断するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-184900号公報
【特許文献2】特許第3975427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載のシートバックでは、図9に示される連結布43、44が横方向ラインY1を横切って延びているため、上部および下部ティアラインY2、Y3をそれぞれ縫合した後に横方向ラインY1を縫合しようとした場合に、連結布43、44が、横方向ラインY1において吊り込みのような立体形状を形成するときの妨げになる。例えば、連結布43、44が横方向ラインY1に沿う縫い代を倒すおそれがある。このため、シートの高い意匠性が実現できないという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2記載のシートバックでは、図9~10に示される縦方向のティアライン56と同様の縫合方法で横方向ライン57が縫合されているので、サイドエアバッグ展開時には、ティアライン56よりも先に横方向ライン57が全体的に開裂するおそれがあり、サイドエアバッグの展開スピードの制御が難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、高い意匠性を有し、かつサイドエアバッグの展開スピードの制御が可能な車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用シートは、エアバッグ装置をシートバックに内蔵した車両用シートにおいて、前記シートバックは、着座者の背中が当接可能な天板部と、当該天板部の側方に配置されたボルスター部と、当該ボルスター部の上側に配置された肩部と、前記ボルスター部および前記肩部の表面を構成する表皮と、前記ボルスター部および前記肩部のうちの少なくとも一方に設けられ、エアバッグ展開時に前記表皮を内側からサポートするエアバッグスリーブと、を備え、前記表皮は、前記ボルスター部における前記天板部に隣接する位置に配置された第1表皮ピースと、前記ボルスター部における前記第1表皮ピースよりも前記天板部から遠いカマチ側の位置に配置された第2表皮ピースと、前記肩部における前記第1表皮ピースの上側に配置された第3表皮ピースと、前記肩部における前記第2表皮ピースの上側に配置された第4表皮ピースとを備え、前記第1表皮ピースと前記第2表皮ピースとは、前記シートバックの縦方向に延びる第1ティアラインに沿って縫合され、前記第3表皮ピースと前記第4表皮ピースとは、前記第1ティアラインに連続するように前記縦方向に延びる第2ティアラインに沿って縫合され、前記第1表皮ピースと前記第3表皮ピースとは、前記第1ティアラインに交差する交差方向に延びる第1横方向ラインに沿って縫合され、前記第2表皮ピースと前記第4表皮ピースとは、前記第1横方向ラインに連続するように前記交差方向に延びる第2横方向ラインに沿って縫合され、前記エアバッグスリーブは、前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように配置される第1部分と、前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインを跨いで延在する第2部分とを有し、前記第1部分が前記第1ティアラインまたは第2ティアラインに沿うように前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合され、かつ前記第2部分が前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの組、または前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合されている、ことを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、エアバッグスリーブの第2部分は、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、第1表皮ピースおよび第3表皮ピースの組、または第2表皮ピースおよび第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合されている。これにより、肩部とボルスター部との境界線である第1横方向ラインまたは第2横方向ラインを吊り込んだような立体形状とすることができ、高い意匠性を備えたシートを提供することが可能である。
【0011】
また、エアバッグスリーブの第2部分が第1横方向ラインまたは第2横方向ラインに沿う縫い代を跨ぐ(交差する)ように縫製されているため、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインの引裂き強度が上がり、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインが第1ティアラインおよび第2ティアラインよりも先に破断することを防ぐことが可能となり、狙い通りスムーズにエアバッグを展開させることができる。その結果、展開スピードの制御が可能になる。
【0012】
上記の車両用シートにおいて、前記エアバッグ装置が前記ボルスター部に収容され、前記第1部分は、前記第1ティアラインに沿うように前記第2表皮ピースに縫合され、前記第2部分は、前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組に縫合されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、展開スピードの制御をより正確に行うことが可能になる。すなわち、エアバッグ装置がボルスター部に収容された構成では、エアバッグが展開する際には、ボルスター部の表面の部分を構成する第1表皮ピースおよび第2表皮ピースのうち、天板部より遠いカマチ側の位置、すなわち、シートの側面を構成する側の位置である第2表皮ピースに最も圧力がかかり、第2表皮ピースの縫い代がある縦方向に延びる第1ティアラインおよび当該縦方向に交差する交差方向に延びる第2横方向ラインが引き裂けやすい。そこで、上記の構成では、エアバッグスリーブの第1部分が第1ティアラインに沿うように第2表皮ピースに縫合されることにより、エアバッグ展開時に第1ティアラインをより破断しやすくなり、その一方で、第2部分が第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように第2表皮ピースおよび第4表皮ピースの組に縫合されていることにより、エアバッグ展開時に第2横方向ラインが第1ティアラインよりも先に破断することを防ぐことが可能となる。
【0014】
上記の車両用シートにおいて、前記第2部分は、前記第1横方向ラインに沿う縫い代において前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの端部同士が重なり合った重合部分、または、前記第2横方向ラインに沿う縫い代において前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの端部同士が重なり合った重合部分を包んで挟持した状態で、当該重合部分に縫合されているのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインに沿う縫い代において表皮ピースの端部同士が重なり合った重合部分は、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインで縫合されているだけでなく、エアバッグスリーブの第2部分によっても縫合されている。つまり、当該重合部分は2つの異なる部位で二重に縫合されていることになる。このため、エアバッグ展開時において、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインの破断を確実に防止することが可能である。
【0016】
本発明の車両用シートの製造方法は、エアバッグ装置をシートバックに内蔵した車両用シートであって、前記シートバックが、着座者の背中が当接する天板部と、当該天板部の側方に配置されたボルスター部と、当該ボルスター部の上側に配置された肩部と、前記ボルスター部および前記肩部の表面を構成する表皮と、前記ボルスター部および前記肩部のうちの少なくとも一方に設けられ、エアバッグ展開時に前記表皮を内側からサポートするエアバッグスリーブであって、前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合される第1部分と、前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの組、または前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合される第2部分とを備えたシートの製造方法において、前記表皮の構成部品として、前記ボルスター部における前記天板部に隣接する位置に配置される第1表皮ピースと、前記ボルスター部における前記第1表皮ピースよりも前記天板部から遠いカマチ側の位置に配置される第2表皮ピースと、前記肩部における前記第1表皮ピースの上側に配置された第3表皮ピースと、前記肩部における前記第2表皮ピースの上側に配置された第4表皮ピースとを準備する表皮ピース準備工程と、前記エアバッグスリーブの前記第1部分を前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合する第1部分縫合工程と、前記第1表皮ピースと前記第2表皮ピースとを前記シートバックの縦方向に延びる第1ティアラインに沿って縫合し、かつ、前記第3表皮ピースと前記第4表皮ピースとを、前記縦方向に延びる第2ティアラインに沿って縫合するティアライン縫合工程と、前記第1表皮ピースと前記第3表皮ピースとを前記第1ティアラインに交差する交差方向に延びる第1横方向ラインに沿って縫合し、かつ、前記第2表皮ピースと前記第4表皮ピースとを前記第1横方向ラインに連続するように前記交差方向に延びる第2横方向ラインに沿って縫合する横方向ライン縫合工程と、前記エアバッグスリーブにおける前記第2部分を、前記第1横方向ラインまたは前記第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、前記第1表皮ピースおよび前記第3表皮ピースの組、または前記第2表皮ピースおよび前記第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合する第2部分縫合工程とを有し、前記第1部分縫合工程では、前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように、前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合する、ことを特徴とする。
【0017】
かかる特徴によれば、エアバッグスリーブの第1部分を第1ティアラインまたは第2ティアラインに沿うように、第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに縫合する第1部分縫合工程の後、第2部分縫合工程において、エアバッグスリーブの第2部分を、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインに沿う縫い代を包んで挟持するように、第1表皮ピースおよび第3表皮ピースの組、または第2表皮ピースおよび第4表皮ピースの組の少なくとも1つに縫合する。これにより、肩部とボルスター部との境界線である第1横方向ラインまたは第2横方向ラインを吊り込んだような立体形状とすることができ、高い意匠性を備えたシートを製造することが可能である。
【0018】
また、第2部分縫合工程において、エアバッグスリーブの第2部分が第1横方向ラインまたは第2横方向ラインに沿う縫い代を跨ぐ(交差する)ように縫製するため、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインの引裂き強度が上がり、第1横方向ラインまたは第2横方向ラインが第1ティアラインおよび第2ティアラインよりも先に破断することを防ぐことが可能となり、狙い通りスムーズにエアバッグを展開させることができる。その結果、展開スピードの制御が可能なシートを製造することが可能になる。
【0019】
上記の車両用シートの製造方法において、前記エアバッグスリーブの前記第1部分を前記第1ティアラインまたは前記第2ティアラインに沿うように前記第1~第4表皮ピースのうちの少なくとも1つに重ね合わせた状態で、前記第1部分縫合工程および前記ティアライン縫合工程を同時に行うことができる。
【0020】
これにより、エアバッグスリーブの第1部分の縫合および表皮ピース間のティアラインに沿った縫合を同時に行うことが可能になり、作業性が向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両用シートによれば、高い意匠性を有し、かつサイドエアバッグの展開スピードの制御が可能である。
【0022】
本発明の車両用シートの製造方法によれば、高い意匠性を有し、かつサイドエアバッグの展開スピードの制御が可能な車両用シートを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る車両用シートの全体構成を示す斜視図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3図1のシートバックの側面図である。
図4図1の第1~第4表皮ピースの縫合部分を示すシートの部分Aの拡大図である。
図5図1のシートバックの表皮の裏面側(内側)の部分、および第1~第2エアバッグスリーブの斜視図である。
図6図5の第1エアバッグスリーブおよびその周辺の拡大図である。
図7図6のVII-VII線断面図である。
図8図6のVIII-VIII線断面図である。
図9】従来のシートの一例である特許文献1記載のシートバックの表皮ピースの縫合部分の拡大図である。
図10】従来のシートの他の例である特許文献2記載のシートバックの側面図である。
図11図10のシートバックのエアバッグ展開時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。なお、図面では、車両前後方向X、車幅方向Y、上下方向Zが矢印を用いて適宜示されている。
【0025】
図1に示される車両用シート(以下、シート1という)は、エアバッグ装置9をシートバック3に内蔵した構成を有する。具体的には、シート1は、着座者の臀部が当接可能なシートクッション2と、着座者の背中が当接可能なシートバック3と、エアバッグ装置9とを備える。
【0026】
シートバック3は、図1~5に示されるように、車両前方X1を向くとともに着座者の背中が当接可能な天板部30と、当該天板部30の車幅方向Y両側に隣接する位置にそれぞれ配置された一対のボルスター部4と、当該一対のボルスター部4の上側にそれぞれ配置された一対の肩部5と、ボルスター部4および肩部5の表面を構成する表皮6と、ボルスター部4および肩部5のうちの少なくとも一方(本実施形態では、ボルスター部4)に設けられ、エアバッグ展開時に表皮6を内側からサポートする第1エアバッグスリーブ15および第2エアバッグスリーブ16とを備える。
【0027】
ボルスター部4は、着座者の体側部付近においてシートバック3の前方および側方に張り出している縦長のクッション状の部分である。本実施形態のボルスター部4は、図1~3に示されるように、後述の表皮6の第1表皮ピース11および第2表皮ピース12と、当該第1表皮ピース11および第2表皮ピース12によって覆われたクッションパッド7と、クッションパッド7を支持するフレーム8とによって構成されている。一対のボルスター部4のうちの車幅方向外側のボルスター部4には、エアバッグ装置9が収容され、フレーム8に固定されている。
【0028】
肩部5は、着座者の肩部付近において前方および側方に張り出した部分を有している。本実施形態では、一対の肩部5が幅方向Yに延びて一体になっているが、互いに分離していてもよい。
【0029】
エアバッグ装置9が収容されている側(図1における右側)のボルスター部4および肩部5の表面の部分は、図1~2、図5~6に示されるように、複数の表皮ピースを縫合してできる表皮6によって構成されている。
【0030】
表皮6は、図1~2、図4~6に示されるように、4枚の表皮ピース11~14を備えている。具体的には、表皮6は、ボルスター部4における天板部30に隣接する位置(すなわち天板部側)に配置された第1表皮ピース11と、ボルスター部4における第1表皮ピース11よりも天板部30から遠いカマチ側(すなわち、シートバック3の側面を構成する側)の位置に配置された第2表皮ピース12と、肩部5における第1表皮ピース11の上側(すなわち、天板部側)に配置された第3表皮ピース13と、肩部5における第2表皮ピース12の上側(すなわち、カマチ側)に配置された第4表皮ピース14とを備える。
【0031】
まず、ボルスター部4の縫製について説明する。図1~2および図4~7に示されるように、第1表皮ピース11と第2表皮ピース12とは、シートバック3の縦方向D1に延びる第1ティアライン17に沿って縫合されている。具体的には、図7に示されるように、第1表皮ピース11の側面側の端部11aおよびそれに対向する第2表皮ピース12の端部12aが、縫合糸22によって縫い合わされることにより、上記の縦方向D1に延びる第1ティアライン17が形成されている。また、第2表皮ピース12の折り返された端部12aの内側には、後述の第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aが上記縫合糸22によって上記端部12aに縫い合わされている。
【0032】
また、肩部5については、第3表皮ピース13と第4表皮ピース14が縫合されている。これら表皮ピースは、図1および図4~6に示されるように、第1ティアライン17に連続するように縦方向D1に延びる第2ティアライン18に沿って縫合されている。
【0033】
図4~6に示されるように、上下方向Zに並ぶ第1表皮ピース11と第3表皮ピース13とは、第1ティアライン17に交差する横方向D2(交差方向)に延びる第1横方向ライン19に沿って縫合されている。なお、第1横方向ライン19は、図6に示されるように、シートバック3の天板部30へ近づくにつれて下方へ延び、第1表皮ピース11と天板部30の表皮ピース31との縫合部分を形成している。
【0034】
なお、横方向D2は、縦方向D1に交差する方向であればよく、縦方向D1に直交する方向だけでなく、直交方向から若干傾斜していてもよい。
【0035】
さらに、上下方向Zに並ぶ第2表皮ピース12と第4表皮ピース14とは、第1横方向ライン19に連続するように横方向D2に延びる第2横方向ライン20に沿って縫合されている。具体的には、図8に示されるように、第2表皮ピース12の上端部12bおよびそれに対向する第4表皮ピース14の下端部14aが、縫合糸23によって縫い合わされることにより、上記の横方向D2に延びる第2横方向ライン20が形成されている。
【0036】
図4に示されるように、上記の縦方向D1に延びる2本のティアライン(第1ティアライン17および第2ティアライン18)、および横方向D2に延びる2本の横方向ライン(第1横方向ライン19および第2横方向ライン20)は、集合点21において集束するように配置されている。
【0037】
図2~3および図5~6に示されるように、本実施形態では、縦方向D1に延びる第1ティアライン17を挟むように、第1エアバッグスリーブ15の一端(具体的には後述の第1部分15a)が第2表皮ピース12に縫合糸22(図7参照)によって縫合されるとともに、第2エアバッグスリーブ16の一端(具体的には図5~6における左端)が第1表皮ピース11に上記の縫合糸22によって縫合されている。
【0038】
図2に示されるように、第1エアバッグスリーブ15は、第2表皮ピース12よりも内側であって、エアバッグ装置9よりも車幅方向Yの外側Y1を通るように延び、その一端(具体的には図5~7の第1部分15a)は第2表皮ピース12の第1ティアライン17近傍に固定され、他端はフレーム8側に固定されている。一方、第2エアバッグスリーブ16は、エアバッグ装置9よりも車幅方向Yの内側Y2を通るように延び、その一端は第1表皮ピース11の第1ティアライン17近傍に固定され、他端はフレーム8側に固定されている。エアバッグ装置9よりも車幅方向Yの外側Y1(シート1のカマチ側)には、クッションパッド7が無く、第2表皮ピース12および第1エアバッグスリーブ15のみでエアバッグ装置9をシート外部から遮蔽している。
【0039】
本実施形態の第1エアバッグスリーブ15は、具体的には、図5~8に示されるように、第1ティアライン17に沿う方向に延び、エアバッグ展開時に当該第1ティアライン17の破断を確実にする第1部分15aと、第2横方向ライン20を跨いで延在し(すなわち、第2横方向ライン20を交差する方向に延び)、エアバッグ展開時に当該第2横方向ライン20の破断を相対的に遅れさせる第2部分15bと、フレーム8側(図2参照)に固定される第3部分15cとを有する。第1エアバッグスリーブ15は、本発明のエアバッグスリーブの概念に含まれるものである。
【0040】
図7に示されるように、第1部分15aは、第1ティアライン17に沿うように、第2表皮ピース12の裏面側に縫合されている。
【0041】
また、第2部分15bは、図8に示されるように、第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されている。具体的には、第2部分15bは、第2横方向ライン20に沿う縫い代において第2表皮ピース12の端部12bおよび第4表皮ピース14の端部14a同士が重なり合った重合部分25を包んで挟持した状態で、縫合糸24によって当該重合部分25に縫合されている。これにより、第2部分15bが重合部分25を包み込んで挟持した強固な包込み部分26(図5~6および図8参照)が形成されている。
【0042】
上記のように構成されたシート1は、以下の手順(I)~(V)で製造される。
【0043】
(I)ボルスター部4および肩部5の表面の部分を構成する表皮6の構成部品として、ボルスター部4における天板部30に隣接する位置に配置される第1表皮ピース11と、ボルスター部4における第1表皮ピース11よりも天板部30から遠いカマチ側の位置に配置される第2表皮ピース12と、肩部5における第1表皮ピース11の上側に配置された第3表皮ピース13と、肩部5における第2表皮ピース12の上側に配置された第4表皮ピース14を準備する表皮ピース準備工程。
【0044】
(II)第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aを第1~第4表皮ピース11~14のうちの少なくとも1つ、本実施形態では、第2表皮ピース12に上記の第1ティアライン17に沿うように縫合する第1部分縫合工程。
【0045】
(III)ボルスター部4の第1表皮ピース11及び第2表皮ピース12をシートバック3の縦方向D1に延びる第1ティアライン17に沿って縫合し、かつ、肩部5の第3表皮ピース13及び第4表皮ピース14を、縦方向D1に延びる第2ティアライン18に沿って縫合するティアライン縫合工程。
【0046】
(IV)第1表皮ピース11と第3表皮ピース13とを第1ティアライン17に交差する横方向D2に延びる第1横方向ライン19に沿って縫合し、かつ、第2表皮ピース12と第4表皮ピース14とを第1横方向ライン19に連続するように横方向D2に延びる第2横方向ライン20に沿って縫合する横方向ライン縫合工程。
【0047】
(V)第1エアバッグスリーブ15における第2部分15bを、第2横方向ライン20に沿う縫い代(具体的には、図8の重合部分25)を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合する第2部分縫合工程。
【0048】
なお、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aを第1ティアライン17または第2ティアライン18に沿うように第1~第4表皮ピース11~14のうちの少なくとも1つに重ね合わせた状態で、上記の(II)第1部分縫合工程および(III)ティアライン縫合工程を同時に行ってもよい。
【0049】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のシート1では、図5~6および図8に示されるように、エアバッグスリーブの第2部分15bは、第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されている。これにより、肩部5とボルスター部4との境界線である第2横方向ライン20をあたかも吊り込んだような立体形状とすることができ、高い意匠性を備えたシートを提供することが可能である。
【0050】
また、第1エアバッグスリーブ15の第2部分15bが第2横方向ライン20に沿う縫い代を跨ぐ(交差する)ように縫製されているため、第2横方向ライン20の引裂き強度が上がり、第2横方向ライン20が第1ティアライン17および第2ティアライン18よりも先に破断することを防ぐことが可能となり、狙い通りスムーズにエアバッグ装置9に内蔵されたエアバッグを展開させることができる。その結果、エアバッグの展開スピードの制御が可能になる。
【0051】
また、本実施形態のシート1では、従来のシートのように横方向ラインを挟んで上下2か所にエアバッグスリーブ(力布)などを設けた構造(図10~11参照)と比較して、使用するエアバッグスリーブが少なくて済む。また、第1エアバッグスリーブ15を縫合する箇所も1つのティアライン(第1ティアライン17)と1つの横方向ライン(第2横方向ライン20)の2か所で済み、第1エアバッグスリーブ15を縫合するための糸を取り変える必要もないので、作業性がよい。
【0052】
(2)
本実施形態のシート1では、図1~2に示されるように、エアバッグ装置9がボルスター部4に収容されている。図5~7に示されるように、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aは、第1ティアライン17に沿うように、第2表皮ピース12に縫合されている。 第2部分15bは、第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されている。
【0053】
かかる構成によれば、展開スピードの制御をより正確に行うことが可能になる。すなわち、エアバッグ装置9がボルスター部4に収容された構成では、エアバッグ装置9が展開する際には、ボルスター部4の表面の部分を構成する第1表皮ピース11および第2表皮ピース12のうち、天板部30より遠いカマチ側の位置、すなわち、シートの側面を構成する側の位置である第2表皮ピース12に最も圧力がかかり、第2表皮ピース12の縫い代がある縦方向D1に延びる第1ティアライン17および当該縦方向D1に交差する横方向D2(交差方向)に延びる第2横方向ライン20が引き裂けやすい。そこで、上記の構成では、まず、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aが第1ティアライン17に沿うように第2表皮ピース12に縫合されることにより、エアバッグ展開時に第1ティアライン17をより破断しやすくしている。さらに、第2部分15bが第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されていることにより、エアバッグ展開時に第2横方向ライン20が第1ティアライン17よりも先に破断することを防ぐことが可能となる。
【0054】
(3)
本実施形態のシート1では、第1エアバッグスリーブ15の第2部分15bは、図5~6および図8に示されるように、第2横方向ライン20に沿う縫い代において第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の端部12b、14a同士が重なり合った重合部分25を包んで挟持した状態で、縫合糸24によって当該重合部分25に縫合されている。
【0055】
かかる構成によれば、第2横方向ライン20に沿う縫い代において第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の端部12b、14a同士が重なり合った重合部分25は、第2横方向ライン20における縫合糸23により縫合されているだけでなく、第1エアバッグスリーブ15の第2部分15bが当該重合部分25を包み込んで挟持するように縫合糸24でも縫合されている。つまり、当該重合部分25は2つの異なる部位で二重に縫合されていることになる。このため、エアバッグ展開時において、第2横方向ライン20の破断を確実に防止することが可能である。
【0056】
(4)
本実施形態のシートの製造方法では、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aを第1ティアライン17に沿うように、第2表皮ピース12に縫合する第1部分縫合工程の後、第2部分縫合工程において、エアバッグスリーブの第2部分15bを、第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合する。
【0057】
これにより、上記(1)と同様に、肩部5とボルスター部4との境界線である第1横方向ライン19または第2横方向ライン20を吊り込んだような立体形状とすることができ、高い意匠性を備えたシートを製造することが可能である。
【0058】
また、第2部分縫合工程において、第1エアバッグスリーブ15の第2部分15bが第2横方向ライン20に沿う縫い代を跨ぐ(交差する)ように縫製するため、上記(1)と同様に、第2横方向ライン20の引裂き強度が上がり、第2横方向ライン20が縦方向ラインである第1ティアライン17および第2ティアライン18よりも先に破断することを防ぐことが可能となり、狙い通りスムーズにエアバッグ装置9のエアバッグを展開させることができる。その結果、展開スピードの制御が可能なシートを製造することが可能になる。
【0059】
さらに、上記の製造方法では、上記(1)と同様に、使用するエアバッグスリーブが少なくて済み、第1エアバッグスリーブ15を縫合する箇所も1つのティアラインと1つの横方向ラインの2か所で済み、第1エアバッグスリーブ15を縫合するための糸を取り変える必要もなく、作業性がよい。
【0060】
上記の車両用シートの製造方法において、エアバッグスリーブ15の第1部分15aを第1ティアライン17または第2ティアライン18に沿うように第1~第4表皮ピース11~14のうちの少なくとも1つに重ね合わせた状態で、第1部分縫合工程およびティアライン縫合工程を同時に行うことができる。これにより、エアバッグスリーブ15の第1部分15aの縫合および表皮ピース11、12間のティアライン17に沿った縫合(または表皮ピース13、14間のティアライン18に沿った縫合)を同時に行うことが可能になり、作業性が向上する。
【0061】
(変形例)
(A)
上記実施形態では、図2~3に示されるように、第1エアバッグスリーブ15がボルスター部4に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、肩部5に設けられてもよい。さらに、第1エアバッグスリーブ15がボルスター部4および肩部5の両方に設けられていてもよい。その場合も、上記(1)~(4)と同様の作用効果を奏することが可能である。
【0062】
(B)
また、上記実施形態では、表皮6が4枚の表皮ピース11~14によって構成されているが、表皮ピースの枚数はこれに限定されず、シート1のデザインによっては5枚以上の表皮ピースから構成されていてもよい。
【0063】
(C)
また、上記実施形態では、図5~6に示されるように、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aが第1ティアライン17に沿ってカマチ側の第2表皮ピース12に縫合され、第2部分15bが第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
本発明では、第1部分15aは、第1ティアライン17または第2ティアライン18に沿うように、第1~第4表皮ピース11~14のうちの少なくとも1つに縫合され、第2部分15bは、第1横方向ライン19または第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように、第1表皮ピース11および第3表皮ピース13の組、または第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組の少なくとも1つに縫合されていればよい。
【0065】
したがって、本発明の変形例として、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aおよび第2部分15bを以下のように様々な配置に変更してもよい。
【0066】
例えば、第1部分15aは、第1ティアライン17に沿って天板部側の第1表皮ピース11に縫合されてもよい。または、第1ティアライン17を挟んで2つの第1エアバッグスリーブ15を設ける場合には、第1部分15aは、第1ティアライン17に沿って天板部側の第1表皮ピース11およびカマチ側の第2表皮ピース12にそれぞれ縫合されてもよい。さらに、第1エアバッグスリーブ15が肩部5に設けられる場合には、第1部分15aは、第2ティアライン18に沿って、第3表皮ピース13または第4表皮ピース14のいずれかに縫合されてもよい。また、2つの第1エアバッグスリーブ15を設ける場合には、第1部分15aは第3表皮ピース13および第4表皮ピース14のそれぞれに縫合されてもよい。
【0067】
また、第2部分15bは、第1横方向ライン19に沿う縫い代を包んで挟持するように、第1表皮ピース11および第3表皮ピース13の組に縫合されてもよい。または、2つの第1エアバッグスリーブ15を設ける場合には、2つの第2部分15bの一方は、第1横方向ライン19に沿う縫い代を包んで挟持するように第1表皮ピース11および第3表皮ピース13の組に縫合され、他方は、第2横方向ライン20に沿う縫い代を包んで挟持するように第2表皮ピース12および第4表皮ピース14の組に縫合されてもよい。
【0068】
上記のように、第1エアバッグスリーブ15の第1部分15aおよび第2部分15bを様々な配置に変更しても、第1部分15aが第1ティアライン17または第2ティアライン18に沿って表皮ピース11~14のいずれか1つに縫合され、第2部分15bが第1横方向ライン19または第2横方向ライン20に沿う縫い代を包み込んで2つの表皮ピースの組11、13または12、14に縫合されている構成であれば、上記(1)~(4)と同様の作用効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 シート
3 シートバック
4 ボルスター部
5 肩部
6 表皮
9 エアバッグ装置
11 第1表皮ピース
12 第2表皮ピース
13 第3表皮ピース
14 第4表皮ピース
15 第1エアバッグスリーブ(エアバッグスリーブ)
15a 第1部分
15b 第2部分
16 第2エアバッグスリーブ
17 第1ティアライン
18 第2ティアライン
19 第1横方向ライン
20 第2横方向ライン
22、23、24 縫合糸
25 重合部分
26 包込み部分
30 天板部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11