(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033324
(43)【公開日】2023-03-10
(54)【発明の名称】膀胱がんおよびその他のがんに対する免疫療法で使用するためのペプチド、ペプチド組み合わせ、および細胞ベースの薬剤
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230303BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230303BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230303BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230303BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20230303BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20230303BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20230303BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230303BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230303BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230303BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230303BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230303BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230303BHJP
C12N 5/0784 20100101ALN20230303BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C07K7/00
C07K16/30
C07K14/725
A61K39/00 H
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/04
A61P13/10
C12N5/0783
C12N5/0784
【審査請求】有
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206084
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2021086571の分割
【原出願日】2017-02-28
(31)【優先権主張番号】1603568.5
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】62/302,010
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506258073
【氏名又は名称】イマティクス バイオテクノロジーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100174252
【弁理士】
【氏名又は名称】赤津 豪
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】メア,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインシェンク,トニ
(72)【発明者】
【氏名】ソング,コレット
(72)【発明者】
【氏名】スホール,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】フリッチェ,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】シン,ハープリート
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C085AA02
4C085BB01
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4C087AA01
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB09
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4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】免疫療法において使用するためのペプチド、タンパク質、核酸、および細胞に関し、特に、本発明は、がんの免疫療法を提供する。
【解決手段】単独のまたはその他の腫瘍関連ペプチドと組み合わされた、腫瘍関連T細胞プチドエピトープにさらに関し、それは、例えば、抗腫瘍免疫応答を刺激し、または生体外でT細胞を刺激して患者に移入する、ワクチン組成物の活性医薬品成分の役割を果たし得る。主要組織適合性複合体(MHC)の分子と結合しているペプチド、またはペプチドそれ自体もまた、抗体、可溶性T細胞受容体、およびその他の結合分子の標的になり得る。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号117に示されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
MHCクラスI分子に結合する能力を有し、前記MHCに結合した際に、CD8T細胞によって認識されることができる、請求項1に記載のペプチド又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項3】
前記ペプチドが、修飾され、および/または非ペプチド結合を含む、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
HLA-DR抗原関連不変鎖(Ii)の80N末端アミノ酸を含んでなる融合タンパク質の一部である、請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチド又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド又はMHC分子と結合した請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチドを特異的に認識する、抗体、可溶性若しくは膜結合抗体、又はそれらの抗体フラグメント。
【請求項6】
モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、及び/若しくは二重特異性抗体である、又は、免疫刺激ドメイン若しくは毒素を保有する、請求項5に記載の抗体若しくは抗体フラグメント。
【請求項7】
HLAリガンドと反応し、前記リガンドが請求項1若しくは2に記載のペプチド、又はMHC分子と結合した請求項1若しくは2に記載のペプチドである、T細胞受容体又はTCR断片。
【請求項8】
可溶性である請求項7に記載のT細胞受容体、又は、可溶性であって、免疫刺激ドメインまたは毒素に代表されるさらなるエフェクター機能を保有する、または保有しない、請求項7に記載のT細胞受容体。
【請求項9】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、請求項5若しくは6に記載の抗体若しくは抗体フラグメント、又は、請求項7若しくは8に記載のT細胞受容体若しくはTCR断片をエンコードする核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸を含有する発現ベクター。
【請求項11】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、請求項5若しくは6に記載の抗体若しくは抗体フラグメント、請求項7若しくは8に記載のT細胞受容体若しくはTCR断片、請求項9に記載の核酸、若しくは、請求項10に記載の発現ベクターを含んでなる、組換え宿主細胞、又は、
請求項1若しくは2に記載のペプチド、請求項5若しくは6に記載の抗体若しくは抗体フラグメント、請求項7若しくは8に記載のT細胞受容体若しくはTCR断片、請求項9に記載の核酸、若しくは、請求項10に記載の発現ベクターを含んでなり、抗原提示細胞、樹状細胞、T細胞、及びNK細胞から選択される、組換え宿主細胞。
【請求項12】
T細胞を、適切な抗原提示細胞の表面に、又は抗原提示細胞を模倣する人工コンストラクトの表面に発現される抗原負荷ヒトクラスIMHC分子に、前記T細胞を抗原特異的様式で活性化するのに十分な時間にわたり、生体外で接触させるステップを含んでなり、前記抗原が、請求項1又は2に記載のペプチドである、活性化Tリンパ球を製造するインビトロ法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のペプチドを含んでなるポリペプチドを提示する細胞を選択的に認識する、活性化Tリンパ球。
【請求項14】
MHC分子により細胞表面に提示される請求項1又は2に記載のペプチドと結合するT細胞受容体を含む、活性化Tリンパ球又は細胞毒性T細胞。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド又はその薬学的に許容可能な塩、請求項5又は6に記載の抗体又は抗体フラグメント、請求項7又は8に記載のT細胞受容体又はTCR断片、請求項9に記載の核酸、請求項10に記載の発現ベクター、請求項11に記載の組換え宿主細胞、及び請求項13又は14に記載の活性化Tリンパ球からなる群から選択される少なくとも1の活性成分と、薬学的に許容できる担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項16】
さらにアジュバントを含む請求項15に記載の医薬組成物、ワクチンに包含される請求項15に記載の医薬組成物、又は細胞療法用の請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
さらにアジュバントを含み、前記アジュバントがインターロイキンである請求項16に記載の医薬組成物、又は、さらにアジュバントを含み、前記アジュバントがインターロイキンであり、前記インターロイキンがIL-2及び/又はIL-15である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1若しくは2に記載のペプチド、請求項5若しくは6に記載の抗体若しくは抗体フラグメント、又は、請求項7若しくは8に記載のT細胞受容体若しくはTCR断片を製造する方法であって、請求項11に記載の組換え宿主細胞を培養するステップと、前記組換え宿主細胞および/またはその培養液から、前記ペプチド、前記抗体若しくは抗体フラグメント、又は、前記T細胞受容体若しくはTCR断片を単離するステップとを含んでなる、方法。
【請求項19】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド、請求項5若しくは6に記載の抗体若しくは抗体フラグメント、請求項7若しくは8に記載のT細胞受容体若しくはTCR断片、請求項9に記載の核酸、請求項10に記載の発現ベクター、請求項11に記載の組換え宿主細胞、請求項13若しくは14に記載の活性化Tリンパ球、又は請求項15~17のいずれか一項に記載の医薬組成物を含み、がんの診断及び/又は治療に用いられる薬剤。
【請求項20】
前記がんが、配列番号117に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを過剰発現する、卵巣がん、肝細胞がん、結腸直腸がん、神経膠芽腫、胃がん、食道がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、前立腺がん、黒色腫、乳がん、慢性リンパ球性白血病、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、胆嚢がん、胆管がん、膀胱がん、子宮がん、頭頸部扁上皮がん、及び中皮腫からなる群から選択される、請求項19に記載の薬剤。
【請求項21】
請求項13又は14に記載の活性化Tリンパ球を含み、患者において請求項1又は2に記載のペプチドを提示するがん細胞を死滅させる薬剤。
【請求項22】
前記がんが、配列番号117に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを過剰発現する、卵巣がん、肝細胞がん、結腸直腸がん、神経膠芽腫、胃がん、食道がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、前立腺がん、黒色腫、乳がん、慢性リンパ球性白血病、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、胆嚢がん、胆管がん、膀胱がん、子宮がん、頭頸部扁上皮がん、及び中皮腫からなる群から選択される、請求項21に記載の薬剤。
【請求項23】
請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド、請求項5若しくは6に記載の抗体若しくは抗体フラグメント、請求項7若しくは8に記載のT細胞受容体若しくはTCR断片、請求項9に記載の核酸、請求項10に記載の発現ベクター、請求項11に記載の組換え宿主細胞、請求項13若しくは14に記載の活性化Tリンパ球、又は請求項15~17のいずれか一項に記載の医薬組成物の、がんの診断用及び/又は治療用の薬剤の製造における使用。
【請求項24】
前記がんが、配列番号117に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを過剰発現する、卵巣がん、肝細胞がん、結腸直腸がん、神経膠芽腫、胃がん、食道がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、前立腺がん、黒色腫、乳がん、慢性リンパ球性白血病、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、胆嚢がん、胆管がん、膀胱がん、子宮がん、頭頸部扁上皮がん、及び中皮腫からなる群から選択される、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
a)請求項15~17のいずれか一項に記載の医薬組成物を溶液又は凍結乾燥形態で含んでなる容器と、以下(b)~(d)から選択される1つ以上の要素を含んでなる、又は、以下(b)~(d)を含まないキットであって、
b)希釈剤、又は凍結乾燥製剤のための再構成溶液を含有する第2の容器;
c)配列番号1~配列番号116、及び配列番号118~205からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる少なくとももう1つのペプチド、
d)(i)溶液の使用、または(ii)凍結乾燥製剤の再構成および/若しくは使用のための取扱説明書、又は、(iii)緩衝液、(iv)希釈剤、(v)フィルター、(vi)針、若しくは(vii)シリンジの1つ若しくは複数をさらに含んでなる、キット。
【請求項26】
配列番号117に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む個々の患者のための個別化がんワクチン、又は、化合物の及び/若しくは細胞療法用の医薬組成物を製造する方法であって、
a)個々の患者からの腫瘍サンプルによって提示される腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を同定するステップと;
(b)(a)で同定されたペプチドを免疫原性および/または過剰提示について予備スクリーニングされたペプチド貯蔵庫と比較するステップと;
(c)患者において同定された腫瘍関連ペプチドに関連がある貯蔵庫から少なくとも1つのペプチドを個別化がんワクチン、個別化がんワクチン、又は、化合物の及び/若しくは細胞療法用の医薬組成物に包含するするペプチドとして選択するステップと;
(d)(c)で選択された貯蔵庫のペプチドに基づいて、個別化がんワクチン、個別化がんワクチン、又は、化合物の及び/若しくは細胞療法用の医薬組成物個別化がんワクチンを製造及び/又は調整するステップと、からなり、
前記貯蔵庫は、配列番号117に示すアミノ酸配列からなるペプチドを含む、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、以下の(1)~(3)から選ばれる1又は複数を含む、方法。
(1)前記TUMAPが、
(a1)前記腫瘍サンプルからの発現データを前記腫瘍サンプルの組織型に対応する正常組織サンプルからの発現データと比較して、前記腫瘍サンプルにおいて過剰発現されまたは異常に発現されるタンパク質を同定するステップと;
(a2)発現データを腫瘍サンプル中のMHCクラスIおよび/またはクラスII分子と結合しているMHCリガンドの配列と相関させて、腫瘍によって過剰発現されまたは異常に発現されるタンパク質に由来するMHCリガンドを同定するステップとによって同定される。
(2)MHCリガンドの配列は、腫瘍サンプルから単離されたMHC分子から結合ペプチドを溶出させて、溶出したリガンドを配列決定することで同定される。
(3)前記腫瘍サンプルおよび正常組織は、同一患者から入手される。
【請求項28】
請求項26又は27に記載の方法であって、さらに、個々の患者からの正常な対応組織と比較して、腫瘍サンプルに特有の少なくとも1の変異を同定することで、ワクチンへの包含のためのペプチドを選択するステップを含む方法、又は、
請求項26又は27に記載の方法であって、さらに、個々の患者からの正常な対応組織と比較して、腫瘍サンプルに特有の少なくとも1の変異を同定することで、ワクチンへの包含のためのペプチドを選択するステップを含み、前記少なくとも1の変異が全ゲノム配列決定によって同定される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫療法において使用するためのペプチド、タンパク質、核酸、および細胞に関する。特に、本発明は、がんの免疫療法に関する。本発明は、単独のまたはその他の腫瘍関連ペプチドと組み合わされた、腫瘍関連T細胞ペプチドエピトープにさらに関し、それは、例えば、抗腫瘍免疫応答を刺激し、または生体外でT細胞を刺激して患者に移入する、ワクチン組成物の活性医薬品成分の役割を果たし得る。主要組織適合性複合体(MHC)の分子と結合しているペプチド、またはペプチドそれ自体もまた、抗体、可溶性T細胞受容体、およびその他の結合分子の標的になり得る。
【0002】
本発明は、ヒト腫瘍細胞のHLAクラスI分子に由来する、いくつかの新規ペプチド配列およびそれらの変異型に関し、それらは抗腫瘍免疫応答を引き起こすためのワクチン組成物中で、または薬理的/免疫学的活性化合物および細胞の開発のための標的として、使用され得る。
【背景技術】
【0003】
最も頻度の高いタイプの膀胱がんは、膀胱の最内層である尿路上皮または移行上皮から始まって、尿路上皮がんまたは移行上皮がん(TCC)と称される。尿路上皮細胞は尿路の他の部分に位置し、それは膀胱がんによって浸潤され得る。進行中の膀胱がんは、膀胱壁の他の層内に、またはそれを通じてさらに増殖し、最初にリンパ節、骨、肺、または肝臓に広がる(American Cancer Society,2015)。
【0004】
膀胱がんは、その広がりと増殖タイプによって特徴付けられる。その増殖に応じて、膀胱がんは非侵襲性および侵襲性に分類される。非侵襲性または表在性の膀胱がんは、膀胱壁の最内層だけに局在する。対照的に、浸潤性膀胱がんは、膀胱壁のより深い層内に増殖する(American Cancer Society,2015)。
【0005】
成長のタイプに応じて、膀胱がんは、乳頭がんおよび扁平がんに分類される。乳頭がんは、膀胱がんの内側から中空の中心に向かって、細長い指様の拡張として増殖する。乳頭がんは、非侵襲性であることが多い。増殖が非常に遅い非侵襲性乳頭がんは、低悪性度乳頭状尿路上皮新生物(PUNLMP)として下位分類される。これらの腫瘍は、概して非常に良好な治療結果を示す。扁平がんは、膀胱がんの中心に向かって増殖しない。膀胱壁の内層のみに限定される扁平膀胱がんは、非侵襲性扁平がんまたは扁平上皮がん(CIS)と称される。膀胱壁のより深い層にさらに広がる乳頭および扁平がんは、浸潤性尿路上皮(または移行細胞)がんと称される(American Cancer Society,2015)。
【0006】
膀胱から始まる他のがん型は、扁平上皮細胞および小細胞がん、腺がん、および肉腫である。これらのがん型は、稀である(American Cancer Society,2015)。膀胱がんは、5つの病期に分類される。ステージ0では、がん細胞は膀胱壁の内層のみに限定される。ステージ0の膀胱がんは、乳頭がんによってステージ0aに、または扁平がんによってステージ0isに分類される。続くステージIおよびIIでは、膀胱がん細胞は、膀胱壁のさらなる層に浸潤し、結合組織および筋肉組織にそれぞれ広がる。ステージIIIでは、膀胱がん細胞は、膀胱から周囲の脂肪または生殖器官にもさらに広がる。ステージIVでは、膀胱がんは、腹壁または骨盤、リンパ節およびさらに遠位の肺、骨または肝臓の器官に浸潤する(National Cancer Institute,2015)。
【0007】
米国では、膀胱がんは、がん死亡の9番目の主要原因である。膀胱がんによる死亡率は年齢と共に増加し、75~84歳で最も高い。膀胱がんは、新たながん症例の4.5%を占める。65~84歳の人々が、最も頻繁に膀胱がんと診断されている。膀胱がんは、女性よりも男性で約4倍より頻繁に診断される。過去10年間にわたり、新たな膀胱がん症例数は毎年0.6%減少しており、死亡率および5年相対生存率は安定している(SEER Stat facts,2014)。
【0008】
平均して、膀胱がんの5年相対生存率は約77%である。一般に、5年相対生存率は、膀胱がんが診断された病期に大きく左右される。51%の新たな膀胱がん症例は、膀胱がんが膀胱壁の原発層のみに局在する、非常に初期の原位置ステージで認識される。この段階での5年相対生存率は、約96%に相当する。新たな膀胱がん症例の35%は、限局期に診断されている。これらの症例では、膀胱がんは原発部位に限定され、5年相対生存率は約70%である。局所的ステージ(リンパ節へ広がったがん、全新規膀胱がん症例の7%)および遠位ステージ(転移性がん、全新規膀胱がんの4%)で最初に診断された新たな膀胱がん症例の5年相対生存率は、それぞれ34%および5.4%に相当する。新たに診断された3%の膀胱がんの病期は不明である。これらのがんの5年相対生存率は、約47%である(SEER Stat facts,2014)。
【0009】
膀胱がんの標準的治療法としては、外科手術、放射線療法、化学療法、および免疫療法が挙げられる。
【0010】
膀胱がんの治療では、以下のタイプの手術を行い得る:経尿道切除術、根治的または部分的膀胱切除術、および尿路変向術。経尿道切除術によって、がんは、機械的に、または高エネルギーの電気で腫瘍を燃焼させることによって、膀胱内壁から除去される。膀胱切除術によって、膀胱は、リンパ節やその他のがんが侵入した近隣の臓器と共に、部分的にまたは完全に除去される。尿路変向術は、尿の貯蔵および通過の新たな様式が行われる手術のタイプである。手術は、がん再発のリスクを低下させる化学療法の適用で補完されることが多い(National Cancer Institute,2015)。
【0011】
0期およびI期では、膀胱がんは典型的に経尿道的切除と、場合によってはそれに続く、膀胱内化学療法によって治療され、必要に応じて、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)による膀胱内免疫療法が併用される。部分的または根治的な膀胱切除術が可能である。ステージIIおよびIIIの膀胱がんは、根治的または部分膀胱切除術、経尿道切除術、または化学療法を伴うまたは伴わない外的照射によって治療される。ステージIVでは、膀胱がんの治療は、がん細胞が体内にどの程度まで広がっているかに依存する。膀胱がん細胞が依然として膀胱のみに限定されている場合、がんは、化学療法単独、根治的膀胱切除術、または化学療法を伴うまたは伴わない外照射により治療され得る。膀胱がんが身体の他の部分に浸潤すると、手術または放射線療法を伴うまたは伴わない化学療法が、第一選択治療である。このステージでは、外照射、尿路変向術​​または膀胱切除術を緩和療法として適用し得る。膀胱がんのあらゆるステージにおいて、患者は臨床試験に登録する可能性がある(National Cancer Institute,2015)。
【0012】
効果的免疫療法アプローチが、高悪性度の筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)の治療において確立されている。その方法によって、弱毒化形態の細菌、マイコバクテリウム・ボービス(Mycobacterium bovis)(カルメット・ゲラン桿菌=BCG)が、膀胱内溶液として適用される。BCG処置の主要な効果は、がん再発からの有意な長期(最大10年間)保護と、進行速度の低下である。原則的に、BCGによる処置は局所炎症応答を誘導し、それが細胞性免疫応答を刺激する。BCGの免疫応答は、以下の主要ステップに基づく:BCGによる尿路上皮および膀胱がん細胞の感染と、それに続く抗原提示分子の発現増大、サイトカイン放出が媒介する免疫応答の誘導、様々な免疫細胞(その下に細胞傷害性Tリンパ球、好中球、ナチュラルキラー細胞、およびマクロファージがある)の関与を通じた抗腫瘍活性の誘導(Fuge et al.,2015;Gandhi et al.,2013)。
【0013】
BCG治療は、一般に患者に十分に耐容されるが、特に免疫不全患者では致死的であり得る。BCG難治性は、患者の約30〜40%で観察される(Fuge et al.,2015;Steinberg et al.,2016a)。BCG療法に失敗した患者の治療は、困難である。BCG治療に失敗した患者は、筋肉浸潤性疾患を発症するリスクが高い。根治的膀胱切除術は、非応答者にとって好ましい治療選択肢である(Steinberg et al.,2016b;vonRundstedt and Lerner,2015)。FDAは、膀胱保存を望む患者のためのBCGが失敗したNMIBCの第二選治療が、バルルビシンによる化学療法であると認定した。併用BCG-インターフェロンまたはBCG-チェックポイント阻害剤治療、プレBCG経皮ワクチン接種のような免疫療法アプローチ;マイコバクテリウム・フレイ(Mycobacterium phlei)細胞壁核酸(MCNA)複合体による治療;マイトマイシンC、ゲムシタビン、ドセタキセル、ナブ-パクリタキセル、エピルビシン、マイトマイシン/ゲムシタビン、ゲムシタビン/ドセタキセルのような様々な薬剤による単一または併用化学療法;および熱化学療法、放射化学療法、起電力療法または光線力学療法のような装置支援化学療法などのその他のいくつかの第二選択治療もまた利用可能でき、または現在調査中である。(Fuge et al.,2015;Steinberg et al.,2016b;vonRundstedt and Lerner,2015)。利用可能な治療法の臨床試験におけるさらなる評価が、依然として必要である。
【0014】
一般に、筋肉浸潤性膀胱がん(MIBC)または転移性膀胱がんとして知られている、筋肉浸潤を伴う進行性膀胱がんの治療は困難であり、過去数十年にわたって実質的に変わっていない。現今では、進行性膀胱がんの治療のための利用可能な選択肢は、有効性が不十分である。最近、尿路上皮がんの遺伝的背景の新たな理解によって、膀胱がんの臨床管理における新しい傾向が開拓されている。特に、予測ゲノムおよび分子バイオマーカーの最近の具現は、治療応答に恩恵をもたらすことを意図している(Jones et al.,2016;Rouanne et al.,2016;Grivas et al.,2015;Azevedo et al.,2015;Knollman et al.,2015a)。
【0015】
2003年以前には、MIBCの標準的治療法として膀胱切除術のみが確立されていた。手術後の遠位の身体部位でのがんの再発は、ネオアジュバント化学療法治療の必要性を示した。高用量強度メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシンおよびシスプラチン(加速されたMVACまたはAMVAC)またはゲムシタビンおよびシスプラチン(GC)による併用化学療法は、現在、米国におけるMIBCの標準的なネオアジュバント療法である。MIBCの治療による化学療法のアジュバント適用は、根治的膀胱切除術後の高い外科的合併症率によって制限される。それでもなお、AMVAC、GC、あるいはシスプラチンとメトトレキセートとビンブラスチン(CMV)との組み合わせの使用は、高リスクMIBC患者のためのアジュバント化学療法として現在、推奨されている。同様の系統的化学療法は、転移性膀胱がんの治療によって使用される。一般に、患者の30〜40%のみが、シスプラチンベースの化学療法に応答する。さらに、腎機能障害を有する患者は、シスプラチンによる治療に不適格である。二次治療は以前の治療法に依存し、スキャンダルになっていない(scandalized)(Knollman et al.,2015b;Rouanne et al.,2016)。
【0016】
進行性膀胱がんに対する代替治療選択肢は、進行中の臨床試験で調査されている。現在の臨床試験は、分子標的療法および免疫療法の開発に焦点を合わせている。標的療法は、膀胱がんの治療における発がん関連経路阻害剤(すなわち、mTOR、血管内皮、線維芽細胞、または上皮成長因子受容体、抗血管新生または細胞周期阻害剤)の効果を調べる。分子標的療法の開発は、膀胱がんの高度な遺伝的多様性のために依然として困難である。現在の免疫療法の主な焦点は、抗PD1モノクローナル抗体および養子T細胞移入のようなチェックポイント妨害剤の開発である(Knollman et al.,2015b;Grivas et al.,2015;Jones et al.,2016;Rouanne et al.,2016)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
がんの治療に伴う重度の副作用および費用を考慮すると、がん全般、そして特に膀胱がんの治療に使用し得る要素を同定する必要がある。がんのより良い診断、予後の評価、および治療成功の予測につながる、がん全般、特に膀胱がんのためのバイオマーカーに相当する要素を同定する必要性もまたある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
がんの免疫療法は、がん細胞を特異的に標的化しながら副作用を最小化する選択肢に相当する。がん免疫療法は、腫瘍関連抗原の存在を利用する。
【0019】
腫瘍関連抗原(TAA)の現行の分類は、次の主要群を含んでなる:
a)がん精巣抗原:T細胞によって認識され得る初めて同定されたTAAはこのクラスに属し、元々はがん精巣(CT)抗原と称されたが、それは、そのメンバーが組織学的に異なるヒト腫瘍において発現し、正常組織では精巣の精母細胞/精原細胞のみに存在し、時として胎盤に存在するためであった。精巣の細胞は、クラスIおよびII HLA分子を発現しないので、これらの抗原は正常組織のT細胞によって認識され得ず、したがって免疫学的に腫瘍特異的と見なされる。CT抗原の周知の例は、MAGEファミリーメンバーおよびNY-ESO-1である。
b)分化抗原:これらのTAAは、腫瘍と、それから腫瘍が生じる正常組織との間で共有される。既知の分化抗原のほとんどは、黒色腫および正常メラノサイトに見いだされる。これらのメラノサイト系関連タンパク質の多くは、メラニン生合成に関与し、したがって腫瘍特異的でないが、それでもなおがん免疫療法のために広く利用されている。例としては、黒色腫に対するチロシナーゼとMelan-A/MART-1、または前立腺がんに対するPSAが挙げられるが、これに限定されるものではない。
c)過剰発現TAA:広範に発現されるTAAをエンコードする遺伝子は、組織学的に異なる型の腫瘍において検出され、多数の正常組織においても概してより低い発現レベルで検出されている。正常組織によってプロセスされて潜在的に提示さるエピトープの多くは、T細胞認識の閾値レベル未満であり得る一方で、腫瘍細胞におけるそれらの過剰発現は、以前確立された免疫寛容を破壊することにより、抗がん応答を始動し得る。このクラスのTAAの顕著な例は、Her-2/neu、サバイビン、テロメラーゼまたはWT1である。
d)腫瘍特異的抗原:これらのユニークなTAAは、正常な遺伝子(β-カテニン、CDK4など)の変異から生じる。これらの分子変化のいくつかは、腫瘍性形質転換および/または進行に関連する。腫瘍特異的抗原は、通常、正常組織に対する自己免疫反応のリスクなしに、強力な免疫応答を誘導できる。他方、これらのTAAは、ほとんどの場合、その上でそれらが同定されたまさにその腫瘍のみと関係があり、通常は、多くの個々の腫瘍間で共有されない。腫瘍特異的(関連)イソ型を有するタンパク質では、ペプチドの腫瘍特異性(または関連性)はまた、ペプチドが腫瘍(関連)エクソンに由来する場合に生じてもよい。
e)異常な翻訳後修飾から生じるTAA:このようなTAAは、特異的でなく腫瘍において過剰発現もされないタンパク質から生じてもよいが、それでもなお、腫瘍において主に活性である翻訳後プロセスによって腫瘍関連になる。このクラスの例は、腫瘍にMUC1のような新規エピトープをもたらす改変グリコシル化パターン、または腫瘍特異的であってもなくてもよい分解中のタンパク質スプライシングのような事象から生じる。
f)オンコウイルスタンパク質:これらのTAAはウイルスタンパク質であり、それらは発がん過程において重要な役割を果たしてもよく、外来性である(ヒト由来でない)ため、それらはT細胞応答を誘起し得る。このようなタンパク質の例は、子宮頸がんにおいて発現されるヒト乳頭腫16型ウイルスタンパク質E6およびE7である。
【0020】
T細胞ベースの免疫療法は、主要組織適合性複合体(MHC)の分子によって提示される、腫瘍関連または腫瘍特異的タンパク質由来ペプチドエピトープを標的とする。腫瘍特異的Tリンパ球によって認識される抗原、すなわちそれらのエピトープは、酵素、受容体、転写因子などの全てのタンパク質クラスに由来する分子であり得て、それはそれぞれの腫瘍細胞において発現されて、同一起源の非改変細胞と比較して、通常、上方制御される。
【0021】
MHC分子には、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの2つのクラスがある。MHCクラスI分子はα重鎖およびβ2ミクログロブリンから構成され、MHCクラスII分子はαおよびβ鎖から構成される。それらの三次元立体構造は、ペプチドとの非共有結合相互作用のために使用される、結合溝をもたらす。
【0022】
MHCクラスI分子は、ほとんどの有核細胞上に見いだされる。それらは、主に内因性タンパク質、欠陥リボソーム産物(DRIP)、およびより大型のペプチドのタンパク質切断から得られる、ペプチドを提示する。しかし、エンドソームコンパートメントまたは外因性起源に由来するペプチドもまた、MHCクラスI分子上に頻繁に見いだされる。この非古典的様式のクラスI提示は、文献中で交差提示と称される(Brossart and Bevan,1997;Rock et al.,1990)。MHCクラスII分子は、大部分はプロフェショナル抗原提示細胞(APC)に見いだされ、例えば、エンドサイトーシス中にAPCに取り込まれて引き続きプロセシングされる、外因性または膜貫通タンパク質のペプチドを主に提示する。
【0023】
ペプチドとMHCクラスIの複合体が、適切なT細胞受容体(TCR)を有するCD8陽性T細胞によって認識される一方で、ペプチドとMHCクラスII分子の複合体は、適切なTCRを有するCD4陽性ヘルパーT細胞によって認識される。その結果、TCR、ペプチド、およびMHCは、化学量論的に1:1:1の量で存在することが良く知られている。
【0024】
CD4陽性ヘルパーT細胞は、CD8陽性細胞傷害性T細胞による、効果的な応答の誘導と維持する上で重要な役割を果たす。腫瘍関連抗原(TAA)に由来するCD4陽性T細胞エピトープの同定は、抗腫瘍免疫応答を始動させる医薬品の開発に非常に重要である(Gnjatic et al.,2003)。腫瘍部位では、Tヘルパー細胞が、細胞毒性T細胞(CTL)親和的サイトカイン環境を維持して(Mortara et al.,2006)例えば、CTL、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、および顆粒球などのエフェクター細胞を引きつける(Hwang et al.,2007)。
【0025】
炎症不在下では、MHCクラスII分子の発現は、免疫系細胞、特に、例えば、単球、単球由来細胞、マクロファージ、樹状細胞などのプロフェショナル抗原提示細胞(APC)に主に限定される。がん患者においては、腫瘍細胞がMHCクラスII分子を発現することが判明している(Dengjel et al.,2006)。
【0026】
伸長された(より長い)本発明のペプチドは、MHCクラスII活性エピトープとして作用し得る。
【0027】
MHCクラスIIエピトープによって活性化されたTヘルパー細胞は、抗腫瘍免疫におけるCTLのエフェクター機能を統合するのに重要な役割を果たす。TH1型のTヘルパー細胞応答を始動するTヘルパー細胞エピトープは、それらの細胞表面に腫瘍関連ペプチド/MHC複合体を提示する腫瘍細胞に向けられた細胞傷害機能をはじめとする、CD8陽性キラーT細胞のエフェクター機能を支持する。このようにして腫瘍関連Tヘルパー細胞ペプチドエピトープは、単独で、またはその他の腫瘍関連ペプチドとの組み合わせで、抗腫瘍免疫応答を刺激するワクチン組成物の活性医薬品成分の役割を果たし得る。
【0028】
例えば、マウスなどの哺乳類動物モデルにおいて、CD8陽性Tリンパ球の不在下であっても、インターフェロンγ(IFNγ)の分泌による血管新生阻害を通じて腫瘍発現を阻害するには、CD4陽性T細胞で十分であることが示された(Beatty and Paterson,2001;Mumberg et al.,1999)。CD4 T細胞が、直接抗腫瘍エフェクターであるという証拠がある(Braumuller et al.,2013;Tran et al.,2014)。
【0029】
HLAクラスII分子の構成的発現は、通常、免疫細胞に限定されるので、原発性腫瘍からクラスIIペプチドを直接単離する可能性があり得るとは、これまで考えられなかった。しかし、Dengjel et al.は、いくつかのMHCクラスIIエピトープを腫瘍から直接成功裏に同定した(国際公開第2007/028574号パンフレット、欧州特許第1760088B1号明細書)。
【0030】
CD8およびCD4依存性の双方のタイプの応答は、抗腫瘍効果に共同して相乗的に寄与するので、CD8+T細胞(リガンド:MHCクラスI分子+ペプチドエピトープ)、またはCD4陽性Tヘルパー細胞(リガンド:MHCクラスII分子+ペプチドエピトープ)のどちらかによって認識される、腫瘍関連抗原の同定および特性解析は、腫瘍ワクチンの開発にとって重要である。
【0031】
MHCクラスIペプチドが、細胞性免疫応答を始動(惹起)するためには、それはまた、MHC分子に結合しなくてはならない。この過程は、MHC分子の対立遺伝子と、ペプチドのアミノ酸配列の特定の多型性とに依存する。MHCクラスI結合ペプチドは、通常は8~12アミノ酸残基長であり、通常は、MHC分子の対応する結合溝と相互作用するそれらの配列中に、2つの保存残基(「アンカー」)を含有する。このようにして、各MHC対立遺伝子は、どのペプチドが結合溝と特異的に結合し得るかを決定する、「結合モチーフ」を有する。
【0032】
MHCクラスI依存免疫反応においては、ペプチドは腫瘍細胞によって発現される特定のMHCクラスI分子に結合できるだけでなく、それらはまた、引き続いて特異的T細胞受容体(TCR)を有するT細胞によって認識されなくてはならない。
【0033】
タンパク質が、Tリンパ球によって腫瘍特異的または腫瘍関連抗原として認識され、治療で利用されるためには、特定の必要条件が満たされなくてはならない。抗原は、主に腫瘍細胞によって発現され、健常組織によって発現されず、または比較的少量発現されるべきである。好ましい実施形態では、ペプチドは、健常組織と比較して、腫瘍細胞によって過剰提示されるべきである。それぞれの抗原は、ある種の腫瘍に存在するだけでなく、高い濃度(すなわち、それぞれのペプチド細胞当たりのコピー数)で存在することもさらに望ましい。腫瘍特異的および腫瘍関連抗原は、例えば、細胞周期調節またはアポトーシス抑制における機能のために、正常細胞から腫瘍細胞への形質転換に直接関与するタンパク質に由来することが多い。さらに、形質転換の直接原因となるタンパク質の下流標的が、上方制御されてもよく、したがって間接的に腫瘍関連であってもよい。このような間接的腫瘍関連抗原もまた、ワクチン接種アプローチの標的であってもよい(Singh-Jasuja et al.,2004)。このようなペプチド(「免疫原性ペプチド」)が、腫瘍関連抗原に由来して、生体外または生体内T細胞応答をもたらすことを確実にするためには、抗原のアミノ酸配列内にエピトープが存在することが必須である。
【0034】
基本的に、MHC分子に結合できるあらゆるペプチドが、T細胞エピトープとして機能してもよい。生体外または生体内T細胞応答誘導のための必要条件は、対応するTCRを有するT細胞の存在、およびこの特定のエピトープに対する免疫寛容の不在である。
【0035】
したがって、TAAは、腫瘍ワクチンをはじめとするが、これに限定されるものではない、T細胞ベースの治療法開発の出発点である。TAAを同定し特性決定する方法は、通常は、患者または健常人から単離され得るT細胞の使用に基づき、またはそれらは、腫瘍と正常組織との間の示差的転写プロファイル、またはペプチド発現パターンの生成に基づく。しかし、腫瘍組織またはヒト腫瘍細胞株において過剰発現され、またはこのような組織または細胞株において選択的に発現される遺伝子の同定は、免疫療法においてこれらの遺伝子から転写される抗原の使用に関する、正確な情報を提供しない。それは、これらの抗原のエピトープの個々の亜集団のみが、このような用途に適するためであり、その理由は、対応するTCRを有するT細胞が存在しなくてはならず、この特定のエピトープに対する免疫寛容が不在または最小でなくてはならないからである。したがって本発明の非常に好ましい実施形態では、それに対する機能性および/または増殖性T細胞が見いだされる、過剰にまたは選択的に提示されるペプチドのみを選択することが、重要である。このような機能性T細胞は、特異的抗原による刺激時にクローン増殖され得て、エフェクター機能を果たすことができるT細胞(「エフェクターT細胞」)と定義される。
【0036】
本発明による特異的TCR(例えば、可溶性TCR)および抗体またはその他の結合分子(スキャフォールド)によってペプチドMHCを標的化する場合、基礎となるペプチドの免疫原性は二次的である。これらの場合には、提示が決定要因である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の第1の態様では、本発明は、配列番号1~配列番号149、または配列番号1~配列番号149と少なくとも77%、好ましくは少なくとも88%相同的な(好ましくは、少なくとも77%または少なくとも88%同一の)その変異配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるペプチドに関し、その中で前記変異型は、MHCと結合し、および/またはT細胞と前記ペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩との交差反応を誘導し、その中で前記ペプチドは、基礎となる完全長ポリペプチドでない。
【0038】
本発明は、配列番号1~配列番号149、または配列番号1~配列番号149と少なくとも77%、好ましくは少なくとも88%相同的な(好ましくは少なくとも77%または少なくとも88%同一の)その変異体からなる群から選択される配列を含んでなる、本発明のペプチドにさらに関し、前記ペプチドまたはその変異型は、8~100、好ましくは8~30、最も好ましくは8~14アミノ酸の全長を有する。
【0039】
続く表は、本発明によるペプチド、それらの各配列番号、およびそれらのペプチドの予測される起源(基礎)遺伝子を示す。表1および表2の全てのペプチドは、HLA-A*02に結合する。表2のペプチドはこれまでに開示されているが、以前がんと関連付けられていなかった。表3のペプチドは、本発明のその他のペプチドとの組み合わせで有用であってもよい、追加的なペプチドである。表4のペプチドは、それぞれの基礎ポリペプチドの過剰発現または過剰提示を伴う、様々なその他の悪性腫瘍の診断および/または治療においてさらに有用である。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
本発明は、さらに、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、乳がん、胆管がん、脳がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、結腸直腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃がん、肝細胞がん(HCC)、メルケル細胞がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、腎細胞、小細胞肺がん(SCLC)、および子宮がんなどの増殖性疾患の治療において使用するための本発明によるペプチドに一般に関する。
【0044】
特に好ましいのは、配列番号1~配列番号149からなる群から選択される、本発明による単独のまたは組み合わされたペプチドである。より好ましいのは、配列番号1~配列番号48(表1を参照されたい)からなる群から選択される単独のまたは組み合わせのペプチドと、膀胱がん、急性骨髄性白血病(AML)、乳がん、胆管がん、脳がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、結腸直腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃がん、肝細胞がん(HCC)、メルケル細胞がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、腎細胞、小細胞肺がん(SCLC)、および子宮がん、好ましくは膀胱がんの免疫療法におけるそれらの使用である。
【0045】
以下の表4に示されるように、本発明によるペプチドの多くは、その他の腫瘍型上にもまた見いだされ、したがって、その他の適応症のための免疫療法においても使用され得る。
図1および実施例1もまた、参照されたい。
【0046】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0047】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、胆嚢がんおよび/または胆管がんの併用療法のための、配列番号1、7、21、34、53、60、61、66、70、74、79、83、84、87、92、109、111、116、121、122、129、138、139、140、142、143、148、および149のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0048】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、BRCAの併用療法のための、配列番号2、4、11、26、27、49、53、57、59、66、67、68、70、74、78、80、84、87、101、103、106、110、113、115、116、122、127、133、134、140、141、143、および149のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0049】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、黒色腫の併用療法のための、配列番号4、14、15、16、17、20、21、23、24、25、26、28、31、32、41、45、49、57、58、59、62、65、67、68、71、73、74、79、84、93、94、95、96、97、99、101、108、110、111、113、114、115、122、123、126、129、132、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、147、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0050】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、PCの併用療法のための、配列番号1、18、30、53、65、69、73、83、90、102、104、120、122、137、140、141、142、および149のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0051】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、食道がんの併用療法のための、配列番号1、2、28、29、34、53、66、67、70、74、79、83、85、86、101、121、122、123、125、127、128、132、134、138、139、140、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0052】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、子宮がんの併用療法のための、配列番号1、3、4、5、6、7、15、16、17、20、23、24、26、30、31,34、35、45、53、56、57、58、59、66、67、68、71、74、83、91、94、95、97、101、105、111、114、116、121、122、123、131、133、134、140、142、143、144、148、および149のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0053】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、NSCLCの併用療法のための、配列番号2、10、13、15、17、23、28、53、55、57、58、68、70、77、78、79、84、85、96、99、122、126、129、137、138、140、および142のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0054】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、脳がんの併用療法のための、配列番号10、24、29、30、34、57、62、67、68、77、97、98、100、108、111、112、122、124、126、134、140、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0055】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、NHLの併用療法のための、配列番号4、5、12、15、16、18、23、28、32、33、50、56、57、58、59、65、68、69、73、74、78、79、93、99、111、113、121、122、125、126、128、131、133、134、135、138、143、144、145、146、147、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0056】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、CRCの併用療法のための、配列番号4、10、15、46、57、59、60、68、91、99、100、116、121、および122のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0057】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、AMLの併用療法のための、配列番号4、10、14、15、16、26、31、33、49、57、65、67、68、73、74、79、80、94、96、99、102、103、106、118、122、124、126、128、129、131、133、134、135、140、141、144、145、146、147、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0058】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、PrCの併用療法のための、配列番号3、9、15、56、57、67、89、122、126、135、137、および140のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0059】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、HCCの併用療法のための、配列番号10、11、12、14、15、17、20、23、26、30、31、33、39、45、56、57、58、59、60、67、73、74、84、85、89、91、97、98、106、115、116、121、122、126、129、131、132、134、137、140、141、および144のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0060】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、OCの併用療法のための、配列番号10、17、23、51、55、56、58、59、65、74、79、87、93、95、116、118、122、126、133、137、138、140、143、146、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0061】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、RCCの併用療法のための、配列番号12、17、23、34、59、77、92、95、97、116、133、134、137、139、および140のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0062】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、SCLCの併用療法のための、配列番号7、10、15、17、51、53、57、59、61、63、68、77、78、85、93、121,126、129、132、133、137、138、140、142、143、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0063】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、HNSCCの併用療法のための、配列番号1、4、6、7、10、11、13、15、17、28、29、34、41、53、59、64、68、70、79、83、84、85、90、92、95、98、101、111、113、117、119、121、122、126、128、129、131、132、133、135、137、138、139、142、143、144、および148のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0064】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、GCの併用療法のための、配列番号12、23、32、73、78、104、120、122、126、134、140、141、および142のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0065】
したがって、本発明の別の態様は、好ましい一実施形態では、CLLの併用療法のための、配列番号12、16、25、26、32、59、65、73、74、79、80、93、99、125、126、131、133、134、135、137、138、140、143、144、145、147、148、および149のいずれか1つに記載の本発明によるペプチドの少なくとも1つの使用に関する。
【0066】
したがって、本発明の別の態様は、好ましくは、膀胱がん、急性骨髄性白血病(AML)、乳がん、胆管がん、脳がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、結腸直腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃がん、肝細胞がん(HCC)、メルケル細胞がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、腎細胞、小細胞肺がん(SCLC)、および子宮がんの群から選択される増殖性疾患の併用治療のための、本発明によるペプチドの使用に関する。
【0067】
本発明は、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIの分子に結合する能力を有し、または長さ変異型などの伸長(より長い)形態では、MHCクラスIIに結合する能力を有する、本発明によるペプチドにさらに関する。
【0068】
本発明は、本発明によるペプチドにさらに関し、前記ペプチドは(それぞれ)配列番号1~配列番号149に記載のアミノ酸配列からなり、またはそれから本質的になる。
【0069】
本発明は、本発明によるペプチドにさらに関し、前記ペプチドは、修飾され、および/または非ペプチド結合を含む。
【0070】
本発明は、本発明によるペプチドにさらに関し、前記ペプチドは、特にHLA-DR抗原関連不変鎖(Ii)のN末端アミノ酸に融合した、または例えば樹状細胞に対して特異的な抗体などの抗体(またはその配列中)に融合した、融合タンパク質の一部である。
【0071】
本発明は、本発明によるペプチドをエンコードする核酸にさらに関する。本発明は、DNA、cDNA、PNA、RNA、またはそれらの組み合わせである、本発明による核酸にさらに関する。
【0072】
本発明は、本発明による核酸を発現でき、および/または発現する、発現ベクターにさらに関する。
【0073】
本発明は、疾患の治療においてそして医療において、特にがんの治療において使用するための本発明によるペプチド、本発明による核酸または本発明による発現ベクターにさらに関する。
【0074】
本発明は、本発明によるペプチドに対して、または前記本発明によるペプチドとMHCの複合体に対して特異的な対抗と、それらを製造する方法とにさらに関する。
【0075】
本発明は、T細胞受容体(TCR)、特に、自己由来または同種異系T細胞に組み込まれた可溶性TCR(sTCR)およびクローン化TCR;これらを製造する方法;ならびに前記TCRを有するまたは前記TCRと交差反応する、NK細胞またはその他の細胞を製造する方法にさらに関する。
【0076】
抗体およびTCRは、本発明によるペプチドの免疫療法用途の追加的な実施形態である。
【0077】
本発明は、前述のような本発明による核酸または発現ベクターを含んでなる、宿主細胞にさらに関する。本発明は、抗原提示細胞であり、好ましくは樹状細胞である、本発明による宿主細胞にさらに関する。
【0078】
本発明は、本発明による宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞またはその培養液からペプチドを単離するステップとを含んでなる、本発明によるペプチドを製造する方法にさらに関する。
【0079】
本発明は、十分な量の抗原を抗原提示細胞に接触させることで、適切な抗原提示細胞または人工抗原提示細胞の表面に発現されるクラスIまたはII MHC分子上に抗原が負荷される、本発明による方法にさらに関する。
【0080】
本発明は、抗原提示細胞が、配列番号1~配列番号149を含有する、好ましくは配列番号1~配列番号48、または変異アミノ酸配列を含有する、前記ペプチドを発現できるまたは発現する発現ベクターを含んでなる、本発明による方法にさらに関する。
【0081】
本発明は、本発明による方法によって製造される活性化T細胞にさらに関し、前記T細胞は、本発明によるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを発現する細胞を選択的に認識する。
【0082】
本発明は、本発明によって製造されるT細胞の有効数を患者に投与するステップを含んでなる、患者において、本発明による任意のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを異常に発現する標的細胞を死滅させる方法にさらに関する。
【0083】
本発明は、薬剤としてのまたは薬剤の製造における、記載される任意のペプチド、本発明による核酸、本発明による発現ベクター、本発明による細胞、本発明による活性化Tリンパ球、T細胞受容体または抗体またはその他のペプチド-および/またはペプチド-MHC-結合分子の使用にさらに関する。好ましくは、前記薬剤は、がんに対して有効である。
【0084】
好ましくは、前記薬剤は、可溶性TCRまたは抗体に基づく、細胞療法、ワクチンまたはタンパク質である。
【0085】
本発明は、本発明による使用にさらに関し、前記がん細胞は、膀胱がん、急性骨髄性白血病(AML)、乳がん、胆管がん、脳がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、結腸直腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃がん、肝細胞がん(HCC)、メルケル細胞がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、腎細胞、小細胞肺がん(SCLC)、および子宮がん、好ましくは膀胱がん細胞である。
【0086】
本発明は、がん、好ましくは膀胱がんの診断において使用され得る、本明細書で「標的」と称される、本発明によるペプチドをベースとするバイオマーカーにさらに関する。マーカーは、ペプチドそれ自体の過剰提示、または対応遺伝子の過剰発現であり得る。マーカーはまた、好ましくは免疫療法、最も好ましくはバイオマーカーによって同定されるのと同じ標的を標的とする免疫療法である、治療の成功確率を予測するのに使用されてもよい。例えば、抗体または可溶性TCRを使用して腫瘍切片が染色され、MHCと複合体形成した目的ペプチドの存在が検出され得る。任意選択的に、抗体は、免疫刺激ドメインまたは毒素などのさらなるエフェクター機能を保有する。
【0087】
本発明はまた、がん治療の文脈におけるこれらの新規標的の使用に関する。
【0088】
ARF1は、高度に浸潤性の乳がん細胞株と最も侵襲性かつ進行した亜型の乳腺腫において過剰発現され、Rho/MLC経路の調節を通じて、乳がん細胞の浸潤において重要な役割を果たすことが示された。したがって、ARF1の発現低下は、原発性乳腺腫の増殖を損ない、マウス異種移植モデルにおける肺転移を阻害することが示された。MCF7(ER)乳がん細胞株におけるARF1の過剰発現は、上皮間葉転換をもたらすことが示され、したがってARF1が、細胞間接着、発がん性Ras活性化、およびEMT誘導物質の発現を制御することが示された(Schlienger et al.,2016;Schlienger et al.,2014)。ARF1は、前立腺がんにおいて上方制御されることが示された。前立腺がんにおける異常な発がん性MAPKシグナル伝達は、少なくとも部分的に、ARF1の制御下にあることが示され、ARF1が前立腺がんの進行における重大な調節因子であることが示唆され、したがって、前立腺がんの治療および診断のための重要な分子標的に相当し得る(Davis et al.,2016)。
【0089】
ARF3は、放射線変換された上皮乳がん細胞株B42-11およびB42-16の切断点領域内に位置する、脱調節発現を有する遺伝子であることが示された(Unger et al.,2010)。ARF3は、原発性胃がんにおいて下方制御されることが示された(Chang et al.,2009)。
【0090】
ARF4は、肺腺がんに関与していることが示された(Bidkhori et al.,2013)。ARF4は、EGF依存性シグナル経路の媒介物として記載された。これにより、ARF4の調節が乳がん細胞移動に関与していることが示され、ARF4が、乳がんの浸潤および転移を治療するための潜在的な治療標的の役割を果たしてもよいことが示唆された(Jang et al.,2012)。
【0091】
COL6A3変異は、腫瘍分化およびTNM進行度診断とは無関係に、結腸直腸がんのある患者のより良好な全生存期間を顕著に予測した(Yu et al.,2015)。COL6A3発現は、膵臓がん、結腸がん、胃がん、粘液性類表皮腫、および卵巣がんにおいて増大することが報告された。エクソン3、4、および6をはじめとするがん関連転写変異体が、結腸がん、膀胱がん、前立腺がん、および膵臓がんにおいて検出された(Arafat et al.,2011;Smith et al.,2009;Yang et al.,2007;Xie et al.,2014;Leivo et al.,2005;Sherman-Baust et al.,2003;Gardina et al.,2006;Thorsen et al.,2008)。卵巣がんにおいては、COL6A3レベルはより高い腫瘍悪性度と相関し、膵臓がんにおいては、COL6A3は適切な診断血清バイオマーカーに相当することが示された(Sherman-Baust et al.,2003;Kang et al.,2014)。
【0092】
IDH1変異は、神経膠腫における重要な予後マーカーとして記載され、等級II~IIIの神経膠腫と二次性神経膠芽腫で共通することが示された。したがって、変異体IDH1は、神経膠腫の細胞増殖および血管新生において重要な役割を果たすかもしれない(Zhang et al.,2015b;Shi et al.,2016)。IDH1およびいくつかのその他の変異は、1p/19qコード同時欠失と併行して起こり乏突起膠腫の同定を可能にする、反復分子遺伝子変異として記載されている(Cahill et al.,2015)。新規代謝関連IDH1変異は、転移性膵臓がんに関連することが示され、膵管腺がんの治療選択肢としての標的療法の稀な機会として記載されている(Brody et al.,2016)。
【0093】
研究により、LAMA5レベルは、基底細胞がん、子宮頸がん、および乳がんにおいて上昇することが示されている(Simonova et al.,2015;Scotto et al.,2008;Mostafa et al.,2010;Georgiou et al.,2013)。
【0094】
LRRC1は、隣接する非がん性の肝臓と比較して、肝細胞がん検体において異常に上方制御されることが示された(Li et al.,2013)。
【0095】
NUP107は、ヌクレオポリンファミリーのメンバーであるヌクレオポリン107をコードする。これは、核膜孔複合体の必須構成要素である(RefSeq,2002)。MDM1-NUP107融合は、対応する肝細胞がんサンプルと比較して、肝細胞がんの最も重篤な合併症である門脈静脈腫瘍血栓における、反復選択的スプライシング事象として同定された。NUP107は、浸潤-転移の可能性が低い別の膵臓細胞株と比較して、浸潤-転移の可能性が高い膵臓細胞株で上方制御されることが示された(Zhang et al.,2015a;Tan et al.,2010)。
【0096】
OSR1は、胃がんにおいてメチル化されて下方制御を引き起こし、それは低生存率に相関する。OSR1の過剰発現は、細胞増殖を阻害して細胞周期の停止もたらし、胃がん細胞株におけるアポトーシス細胞死を誘導する。さらに、OSR1はp53、p21、Fas、および細胞死受容体-5転写を誘導し、TCF-1、サイクリンD1、サイクリン依存性キナーゼ4、細胞質βカテニン、およびLEF1の発現を抑制する(Otani et al.,2014;Huang et al.,2004)。OSR1は、肺腺がんにおいて示差的にメチル化され、バイオマーカーとして使用されてもよい(Rauch et al.,2012;Daugaard et al.,2016)。OSR1は、中間中胚葉のマーカーである(Zhang et al.,2011;So and Danielian,1999;Oeda et al.,2013)。Arsenは、幹細胞と、発がん性形質転換のために部分的に分化した前駆細胞とを標的化し、OSR1の過剰発現をもたらす(Tokar et al.,2013)。
【0097】
PKP1は、前立腺がんおよび食道腺がんにおいて下方制御されることが示された(Kaz et al.,2012;Yang et al.,2015)。非新生物、前立腺BPH-1細胞株におけるPKP1のノックダウンは、アポトーシスの減少および前立腺がん関連SPOCK1遺伝子などの遺伝子の示差的発現の低下をもたらした(Yang et al.,2015)。集合的に、PKP1およびSPOCK1の変化した発現は、前立腺がんにおける頻繁かつ重大な事象であり、PKP1は、腫瘍抑制機能を有することが示唆される(Yang et al.,2015)。PKP1の発現低下は、口腔扁平上皮がんにおける遠隔転移の発生までのより短い時間に、有意に関連することが示された(Harris et al.,2015)。プロモーターメチル化を通じたPKP1の喪失は、バレット食道がんから食道腺がんへの進行に関連することが記載された(Kaz et al.,2012)。PKP1は、非小細胞肺がんにおいて上方制御されることが示され、扁平上皮がんサンプルを識別するための良好なマーカーであってもよい(Sanchez-Palencia et al.,2011)。PKP1は、高分化型の脂肪肉腫細胞株GOT3において上方制御されることが示された(Persson et al.,2008)。PKP1の発現低下は、頭頸部扁上皮がん細胞における運動性の増加を促進することが記載された(Sobolik-Delmaire et al.,2007)。PKP1喪失は、子宮頸部発がんに関連することが示された(Schmitt-Graeff et al.,2007)。PKP1は、口腔咽頭の扁平上皮がんを有する患者における局所再発または転移ならびに低生存率に関連することが示された(Papagerakis et al.,2003)。
【0098】
免疫応答の刺激は、宿主免疫系によって外来性として認識された抗原の存在に依存する。腫瘍関連抗原の存在の発見は、宿主の免疫系を用いて腫瘍増殖に介入する可能性を高めた。免疫系の体液性および細胞性アームの双方を活用する様々な機構が、がん免疫療法のために目下探求されている。
【0099】
細胞性免疫応答の特定の要素は、腫瘍細胞を特異的に認識して破壊できる。腫瘍浸潤性細胞集団からの、または末梢血からのT細胞の単離は、がんに対する自然免疫防御において、このような細胞が重要な役割を果たすことを示唆する。特に、細胞質ゾル内に位置するタンパク質または欠陥リボソーム産物(DRIPS)に由来する、通常は8~10アミノ酸残基の主要組織適合性複合体(MHC)保有ペプチドのクラスI分子を認識するCD8陽性T細胞が、この応答において重要な役割を果たす。ヒトのMHC分子はまた、ヒト白血球抗原(HLA)とも称される。
【0100】
「T細胞応答」という用語は、生体外または生体内でペプチドによって誘導される、エフェクター機能の特異的増殖および活性化を意味する。MHCクラスI拘束性細胞毒性T細胞では、エフェクター機能は、ペプチドパルスされた、ペプチド前駆体パルスされたまたは天然ペプチド提示標的細胞の溶解;好ましくはペプチドによって誘導されるインターフェロン-γ、TNF-α、またはIL-2であるサイトカインの分泌;好ましくはペプチドによって誘導されるグランザイムまたはパーフォリンであるエフェクター分子の分泌;または脱顆粒であってもよい。
【0101】
「ペプチド」という用語は、典型的に、隣接するアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基との間のペプチド結合によって互いに連結する、一連のアミノ酸残基を命名するために、本明細書で使用される。ペプチドは、好ましくは9アミノ酸長であるが、8アミノ酸長程度に短くあり得て、10、11、12、13、14または15以上に長くあり得て、MHCクラスIIペプチド(本発明のペプチドの伸長された変種)の場合、それらは16、17、18、19、20、21または22アミノ酸長以上に長くあり得る。
【0102】
さらに「ペプチド」という用語は、典型的に、隣接するアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基との間のペプチド結合によって互いに連結する、一連のアミノ酸残基の塩を含むものとする。好ましくは、塩は、例えば、塩化物塩または酢酸塩(トリフルオロ酢酸塩)などの、ペプチドの薬学的に許容可能な塩である。ペプチドは生体内で塩ではないので、本発明によるペプチドの塩は、それらの生体内の状態がペプチドと実質的に異なることに留意すべきである。
【0103】
「ペプチド」という用語は、「オリゴペプチド」もまた含むものとする。「オリゴペプチド」という用語は、典型的に、隣接するアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基との間のペプチド結合によって互いに連結する、一連のアミノ酸残基を命名するために、本明細書で使用される。オリゴペプチドの長さは、その中で正しいエピトープまたはエピトープが保持されれば、本発明には重要でない。オリゴペプチドは、典型的に、約30アミノ酸残基長未満であり、約15アミノ酸長を超える。
【0104】
「ポリペプチド」という用語は、典型的に、隣接するアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基との間のペプチド結合によって互いに連結する、一連のアミノ酸残基を指す。正しいエピトープが保持されれば、ポリペプチドの長さは本発明にとって重要でない。ペプチドまたはオリゴペプチドという用語とは対照的に、ポリペプチドという用語は、約30を超えるアミノ酸残基を含有する分子を指すことが意図される。
【0105】
ペプチド、オリゴペプチド、タンパク質またはこのような分子をコードするポリヌクレオチドは、免疫応答を誘導できれば「免疫原性」である(したがって本発明における「免疫原」である)。本発明では、免疫原性は、より具体的には、T細胞応答を誘導する能力と定義される。したがって「免疫原」は、免疫応答を誘導できる分子であり、本発明では、T細胞応答を誘導できる分子である。別の態様では、免疫原は、それに対する特異的抗体またはTCRを生じさせるのに使用される、ペプチド、ペプチドとMHCの複合体、オリゴペプチド、および/またはタンパク質であり得る。
【0106】
クラスI T細胞「エピトープ」は、クラスI MHC受容体に結合している短いペプチドを必要とし、三成分複合体(MHCクラスIα鎖、β-2-ミクログロブリン、およびペプチド)を形成し、それは、適切な親和性でMHC/ペプチド複合体に結合する適合T細胞受容体を保有するT細胞によって、認識され得る。MHCクラスI分子に結合するペプチドは、典型的に8~14アミノ酸長であり、最も典型的には9アミノ酸長である。
【0107】
ヒトにおいては、MHCクラスI分子(ヒト白血球抗原(HLA)ともまた称されるヒトのMHC分子)をコードする、3つの異なる遺伝子座、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cがある。HLA-A*01、HLA-A*02、およびHLA-B*07は、これらの遺伝子座から発現され得る、異なるMHCクラスI対立遺伝子の例である。
【0108】
【0109】
本発明のペプチドは、好ましくは、本明細書に記載される本発明のワクチンに包含される場合、A*02に結合する。ワクチンはまた、汎結合MHCクラスIIペプチドを含んでもよい。したがって、本発明のワクチンを使用して、A*02陽性の患者においてがんを治療し得る一方で、これらのペプチドの汎結合特性のために、MHCクラスIIアロタイプを選択する必要はない。
【0110】
本発明のA*02ペプチドが、例えばA*24などの別の対立遺伝子に結合するペプチドと組み合わされた場合、MHCクラスI対立遺伝子のいずれか単独による対処と比較して、任意の患者集団のより高い割合を治療し得る。大多数の集団では、対立遺伝子のいずれか単独によって、50%未満の患者が対処され得た一方で、HLA-A*24およびHLA-A*02エピトープを含んでなるワクチンは、任意の妥当な集団で、少なくとも60%の患者を治療し得る。具体的には、以下の様々な地域において、これらの対立遺伝子の少なくとも1つが、以下の百分率の患者で陽性である:米国61%、西欧62%、中国75%、韓国77%、日本86%(www.allelefrequencies.netから計算された)。
【0111】
好ましい実施形態では、「ヌクレオチド配列」という用語は、デオキシリボヌクレオチドのヘテロ重合体を指す。
【0112】
特定のペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、天然起源であってもよく、またはそれらは合成的に構築されてもよい。一般に、本発明のペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質をエンコードするDNA断片は、cDNAフラグメントと短いオリゴヌクレオチドリンカーから構築され、またはひと続きのオリゴヌクレオチドから構築されて、微生物またはウイルスオペロンに由来する調節因子を含んでなる、組換え転写単位で発現できる合成遺伝子が提供される。
【0113】
本明細書の用法では「ペプチドをコーディング(またはコード)するヌクレオチド」という用語は、配列が、例えば、TCRの製造に有用な樹状細胞または別の細胞株によって発現される生体系と適合性である、人工(人造)開始および停止コドンを含むペプチドをコードする、ヌクレオチド配列を指す。
【0114】
本明細書の用法では、核酸配列への言及は、一本鎖および二本鎖の核酸の双方を含む。したがって、例えば、特異的配列は、文脈上明らかに別の意味が示唆されない限り、このような配列の一本鎖DNA、このような配列とその補体との二本鎖(二本鎖DNA)、およびこのような配列の補体を指す。
【0115】
「コード領域」という用語は、その天然ゲノム環境内で、遺伝子の発現産物を天然にまたは正常にコードする遺伝子の部分、すなわち、遺伝子の天然発現産物を生体内でコードする領域を指す。
【0116】
コード領域は、非変異(「正常」)、変異または改変遺伝子に由来し得て、またはDNA合成技術の当業者に周知の方法を使用して実験室で完全に合成された、DNA配列または遺伝子にさえ由来し得る。
【0117】
「発現産物」という用語は、遺伝子の、そして遺伝コード縮重に起因する同等物をコードし、したがって同一アミノ酸をコードする任意の核酸配列の天然翻訳産物である、ポリペプチドまたはタンパク質を意味する。
【0118】
コード配列に言及する場合、「フラグメント」という用語は、その発現産物が、完全コード領域の発現産物と本質的に同一の生物学的機能または活性を保つ、完全未満のコード領域を含んでなるDNAの部分を意味する。
【0119】
「DNA断片」という用語は、別々のフラグメントの形態の、またはより大型のDNAコンストラクトの構成要素としての、DNAポリマーを指し、それは、実質的に純粋な、すなわち、混入内因性物質を含まない形態で、例えばクローニングベクターを使用した標準生化学的方法によって、断片およびその構成ヌクレオチド配列が同定、操作、および回収できる量または濃度で、少なくとも1回単離されたDNAに由来する。このような断片は、典型的に真核生物遺伝子内に存在する内部非翻訳配列またはイントロンによって中断されていない、読み取り枠の形態で提供される。非翻訳DNA配列は、それがコード領域の操作または発現を妨げない、読み取り枠下流に存在してもよい。
【0120】
「プライマー」という用語は、短い核酸配列を意味し、それはDNAの1本鎖と対合し得て、DNAポリメラーゼがそこでデオキシリボヌクレオチド鎖合成を開始する、遊離3’-OH末端を提供する。
【0121】
「プロモーター」という用語は、転写を開始するためのRNAポリメラーゼ結合に関与する、DNAの領域を意味する。
【0122】
「単離」という用語は、物質が、その元の環境(例えば、それが天然起源であれば天然環境)から取り出されていることを意味する。例えば、生きている動物に存在する天然ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、天然システムで共存する物質の一部または全部から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されている。このようなポリヌクレオチドはベクターの一部であり得て、および/またはこのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは組成物の一部であり得るが、このようなベクターまたは組成物がその天然環境の一部でないと言う意味では、なおも単離されている。
【0123】
本発明によって開示されるポリヌクレオチド、および組換えまたは免疫原性ポリペプチドは、「精製」形態であってもよい。「精製」という用語は、完全に純粋である必要はなく;むしろ、それは相対的定義であることが意図されて、これらの用語が当業者によって理解されるように、高度に精製された調製物、または部分的にのみ精製された調製物を含み得る。例えば、cDNAライブラリーから単離された個々のクローンは、電気泳動的に均一に、従来法で精製されている。少なくとも1桁、好ましくは2または3桁、より好ましくは4または5桁までの、出発原料または天然物質の精製が明示的に検討される。さらに、重量基準で、好ましくは99.999%、または少なくとも99.99%または99.9%;さらに望ましくは99%以上の純度を有する、特許請求されるポリペプチドが明示的に包含される。
【0124】
本発明によって開示される核酸およびポリペプチド発現産物、ならびにこのような核酸および/またはこのようなポリペプチドを含有する発現ベクターは、「富化形態」であってもよい。本明細書の用法では、「濃縮」という用語は、物質濃度が、(例えば)その天然濃度の少なくとも約2、5、10、100、または1000倍であることを意味し、有利には重量基準で0.01%、好ましくは重量基準で少なくとも約0.1%である。重量基準で約0.5%、1%、5%、10%、および20%の富化調製物もまた、検討される。本発明を構成する、配列、コンストラクト、ベクター、クローン、およびその他の物質は、有利には、富化または単離形態であり得る。「活性フラグメント」という用語は、通常は、単独で、または任意選択的に適切なアジュバントと共に、またはベクター中で、例えば、ウサギまたはマウスのようなそしてまたヒトをはじめとする哺乳類などの動物に投与すると免疫応答を生じる(すなわち、免疫原性を有する)ペプチド、ポリペプチドまたは核酸配列のフラグメントを意味し、このような免疫応答は、ヒトなどのレシピエント動物内でT細胞応答を刺激する形態を取る。代案としては、「活性フラグメント」はまた、生体外T細胞応答を誘導するのに使用されてもよい。
【0125】
本明細書の用法では、ポリペプチドとの関連で使用される場合、「部分」、「断片」、および「フラグメント」という用語は、アミノ酸残基などの連続する残基の配列を指し、その配列はより大型の配列のサブセットを形成する。例えば、ポリペプチドが、トリプシンまたはキモトリプシンなどの一般的エンドペプチダーゼのいずれかによって処理されれば、このような処理から得られるオリゴペプチドは、出発ポリペプチドの部分、断片またはフラグメントに相当するであろう。ポリヌクレオチドに関して使用される場合、これらの用語は、いずれかのエンドヌクレアーゼによる前記ポリヌクレオチドの処理によって生じる生成物を指す。
【0126】
本発明によると、配列に言及する場合、「同一性百分率」または「パーセント同一」という用語は、比較される配列(「比較配列」)と、記載されまたは特許請求される配列(「参照配列」)とのアライメント後に、配列が、特許請求されまたは記載される配列と比較されることを意味する。次に同一性百分率は、次式に従って判定される:
同一性百分率=100[1-(C/R)]
式中、Cは、参照配列と比較される配列との間のアライメント長にわたる、参照配列と比較配列の間の差異の数であり、
(i)比較配列中に対応する整列塩基またはアミノ酸を有しない、参照配列中の各塩基またはアミノ酸、および
(ii)参照配列中の各ギャップ、および
(iii)比較配列中の整列塩基またはアミノ酸と異なる、参照配列中の各整列塩基またはアミノ酸が差異を構成して、
(iiii)アライメントは、整合配列の1位から開始しなくてはならず;
Rは、比較配列とのアライメント長にわたる参照配列中の塩基またはアミノ酸の数であり、参照配列中に生じる任意のギャップもまた、塩基またはアミノ酸として数えられる。
【0127】
比較配列と、それに対して同一性百分率が上のように計算される参照配列との間に、特定の最小同一性百分率とほぼ同じまたはそれを上回るアライメントが存在すれば、その中に、上記のように計算された同一性百分率が特定の同一性百分率未満であるアライメントが存在したとしても、比較配列は、参照配列との特定の最小同一性百分率を有する。
【0128】
したがって上述したように、本発明は、配列番号1~配列番号149、または配列番号1~配列番号149と88%相同的であるその変異型、またはT細胞を前記ペプチドと交差反応させるその変異型からなる群から選択される配列を含んでなる、ペプチドを提供する。本発明のペプチドは、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子または前記ペプチドの伸長バージョンをクラスIIに結合する能力を有する。
【0129】
本発明では、「相同的」という用語は,2つのアミノ酸配列、すなわちペプチドまたはポリペプチド配列の配列間の同一性の程度を指す(上の同一性百分率を参照されたい)。前述の「相同性」は、比較される配列にわたり、最適条件下でアライメントされた2つの配列を比較することで判定される。このような配列相同性は、例えばClustalWアルゴリズムを使用してアライメントを作成することで、計算され得る。一般に利用できる配列解析ソフトウェア、より具体的には、Vector NTI、GENETYXまたはその他のツールが、公共データベースによって提供される。
【0130】
当業者は、特定のペプチドの変異型によって誘導されるT細胞が、ペプチドそれ自体と交差反応できるかどうかを評価できるであろう(Appay et al.,2006;Colombetti et al.,2006;Fong et al.,2001;Zaremba et al.,1997)。
【0131】
所与のアミノ酸配列の「変異型」によって、本発明者らは、ペプチドが、配列番号1~配列番号149からなる所与のアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同様に、HLA分子となおも結合できるように、(例えば、それらを別の天然アミノ酸残基の側鎖で、またはその他の側鎖で置換することにより)例えば、アミノ酸の1つまたは2つの残基の側鎖が変化することを意味する。例えば、ペプチドは、それがHLA-A*02または-DRなどの適切なMHC分子の結合溝と相互作用して結合する能力を改善せずとも、少なくとも維持するように修飾されてもよく、このようにしてそれは、活性化CTLのTCRに結合する能力を改善せずとも、少なくとも維持する。
【0132】
これらのT細胞は、引き続いて細胞と交差反応して、本発明の態様で定義される同族ペプチドの天然アミノ酸配列を含有するポリペプチドを発現する細胞を殺滅し得る。学術文献およびデータベース(Rammensee et al.,1999;Godkin et al.,1997)から演繹され得るように、HLA結合ペプチドの特定の位置は、典型的に、アンカー残基であり、結合溝を構成するポリペプチド鎖の極性、電気物理的、疎水性、および空間特性によって画定されるHLA受容体の結合モチーフと適合する、コア配列を形成する。したがって、当業者は、既知のアンカー残基を保つことで、配列番号1~配列番号149に記載されるアミノ酸配列を修飾でき、このような変異型がMHCクラスIまたはII分子に結合する能力を維持するかどうかを判定できるであろう。本発明の変異型は、活性化T細胞のTCRに結合する能力を維持し、それは引き続いて、本発明の態様で定義されるような同族ペプチドの天然アミノ酸配列を含有するポリペプチドを発現する細胞と交差反応して、それを殺滅し得る。
【0133】
本明細書で開示される元の(未修飾)ペプチドは、特に明記されない場合は、ペプチド鎖内の異なる、おそらくは選択的な部位における、1つまたは複数の残基の置換によって修飾され得る。好ましくはこれらの置換は、アミノ酸鎖の末端に位置する。このような置換は、保存的性質であってもよく、例えば、疎水性アミノ酸が別の疎水性アミノ酸によって置換されるなど、構造および特徴の類似したアミノ酸によってアミノ酸が置換される。さらにより保存的な置換は、ロイシンのイソロイシンによる置換などの、同一または類似サイズおよび化学的性質のアミノ酸の置換である。天然起源相同タンパク質ファミリーの配列多様性の研究では、特定のアミノ酸置換は、他よりも耐容されることが多く、これらは、元のアミノ酸とその置換物との間のサイズ、電荷、極性、および疎水性の類似性との相関を示すことが多く、これが「保存的置換」の定義の基礎である。
【0134】
保存的置換は、本明細書では、以下の5つのグループの1つの中の交換として定義される:グループ1-小型脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基(Ala、Ser、Thr、Pro、Gly);グループ2-極性、負に帯電した残基およびそれらのアミド(Asp、Asn、Glu、Gln);グループ3-極性、正に帯電した残基(His、Arg、Lys);グループ4-大型脂肪族、非極性残基(Met、Leu、Ile、Val、Cys);およびグループ5-大型芳香族残基(Phe、Tyr、Trp)。
【0135】
より保存的でない置換は、アラニンのイソロイシン残基による置換などの、類似した特徴を有するがサイズがいくらか異なる別のアミノ酸による置換を伴うかもしれない。高度に非保存的な置換は、極性アミノ酸の、または塩基性アミノ酸の酸性アミノ酸による置換を伴うかもしれない。しかし化学効果は完全に予測可能でなく、過激な置換は単純な化学的原理からは予測できない偶然の効果を生じさせる可能性があるので、このような「過激な」置換は、潜在的に無効であるとして却下され得ない。
【0136】
もちろんこのような置換には、通常のL-アミノ酸以外の構造体が関与してもよい。したがってD-アミノ酸が、本発明の抗原性ペプチドに通常見いだされるL-アミノ酸を置換するかもしれず、依然として本明細書の開示に包含される。さらに、非標準アミノ酸(すなわち、一般的な天然タンパク質新生アミノ酸以外)もまた置換目的で使用して、本発明による免疫原および免疫原性ポリペプチドが製造されてもよい
【0137】
2つ以上の位置における置換が、以下に定義されるように実質的に同等のまたはそれを超える抗原活性のあるペプチドをもたらすことが判明した場合、これらの置換の組み合わせを試験して、置換の組み合わせが、ペプチドの抗原性に相加または相乗効果をもたらすかどうかが判定される。最大でも、ペプチド内の4つ以上の位置を超えて同時に置換されることはない。
【0138】
本明細書で示されるようなアミノ酸配列から本質的になるペプチドは、非修飾ペプチドと比較すると、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはII分子に結合する能力が、実質的に変化したり悪影響を受けたりすることなく交換される、1つまたは2つの非アンカーアミノ酸を有し得る(アンカーモチーフについては下記を参照されたい)。別の実施形態では、本明細書で示されるようなアミノ酸配列から本質的になるペプチドにおいては、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはII分子に結合する能力が非修飾ペプチドと比較して実質的に変化したり悪影響を受けることなく、1つまたは2つのアミノ酸が、それらの保存的交換パートナー(以下を参照されたい)で交換され得る。
【0139】
T細胞受容体との相互作用に実質的に寄与しないアミノ酸残基は、その組み込みが、T細胞反応性に実質的に影響を及ぼさず、関連MHCとの結合を排除しない、その他のアミノ酸での置換によって修飾され得る。したがって与えられた但し書きを除いて、本発明のペプチドは、与えられたようなアミノ酸配列またはそれらの部分または変異型を含む、任意のペプチド(本発明者らは、その用語にオリゴペプチドまたはポリペプチドを含める)であってもよい。
【0140】
【0141】
より長い(伸長された)ペプチドもまた、適切であってもよい。MHCクラスIエピトープは、通常は8~11アミノ酸長であるが、実際のエピトープを含むより長いペプチドまたはタンパク質から、ペプチドプロセッシングによって作製することが可能である。実際のエピトープ側面に位置する残基は、プロセッシング中に実際のエピトープを曝露させるのに必要なタンパク質分解切断に、実質的に影響を及ぼさない残基であることが好ましい。
【0142】
本発明のペプチドは、最大4個のアミノ酸によって伸長させ得て、すなわち4:0~0:4の間のあらゆる組み合わせで、どちらかの末端に1、2、3または4個のアミノ酸が付加され得る。本発明による伸長の組み合わせは、表7にある。
【0143】
【0144】
伸長/延長のためのアミノ酸は、元のタンパク質配列のペプチドまたは任意のその他のアミノ酸であり得る。伸長を利用して、ペプチドの安定性または溶解度を高め得る。
【0145】
したがって本発明のエピトープは、天然起源腫瘍関連または腫瘍特異的エピトープと同一であってもよく、またはそれらが実質的に同一の抗原活性を有しさえすれば、4つ以下の残基が参照ペプチドと異なるエピトープを含んでもよい。
【0146】
代案の実施形態では、ペプチドは、4つを超えるアミノ酸で、好ましくは最大30アミノ酸の全長まで、片側または両側で伸長される。これは、MHCクラスII結合ペプチドをもたらしてもよい。MHCクラスIIへの結合は、当該技術分野で公知の方法によって試験される得る。
【0147】
したがって、本発明は、MHCクラスIエピトープのペプチドおよび変異型を提供し、ペプチドまたは変異型は、8~100、好ましくは8~30、最も好ましくは8~14、すなわち8、9、10、11、12、13、14アミノ酸の全長を有し、伸長されたクラスII結合ペプチドの場合、長さはまた、15、16、17、18、19、20、21または22アミノ酸であり得る。
【0148】
もちろん、本発明によるペプチドまたは変異型は、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはIIの分子に結合する能力を有する。ペプチドまたは変異型のMHC複合体への結合は、当該技術分野で既知の方法によって試験されてもよい。
【0149】
好ましくは、本発明によるペプチドに特異的なT細胞を置換ペプチドについて試験する場合、置換ペプチドが背景に対して最大溶解増加の半分を達成するペプチド濃度は、約1mM以下、好ましくは約1μM以下、より好ましくは約1nM以下、さらにより好ましくは約100pM以下、最も好ましくは約10pM以下である。置換ペプチドが、2人以上、少なくとも2人、より好ましくは3人の個人からのT細胞によって認識されることもまた好ましい。
【0150】
本発明の特に好ましい実施形態では、ペプチドは、配列番号に1~配列番号149に記載のアミノ酸配列からなり、またはそれから本質的になる。
【0151】
「から本質的になる」は、本発明によるペプチドが、配列番号1~配列番号149のいずれかに記載の配列またはその変異型に加えて、MHC分子エピトープのエピトープとして機能するペプチドの一部を必ずしも構成しない、追加的なNおよび/またはC末端に位置するアミノ酸の一連の配列を含有することを意味するものとする。
【0152】
それでもなお、これらの一連の配列は、本発明によるペプチドの細胞への効率的な導入を提供するのに重要であり得る。本発明の一実施形態では、ペプチドは、例えば、NCBI、GenBank受入番号X00497に由来する、HLA-DR抗原関連不変鎖(p33、以下の「Ii」)の80個のN末端アミノ酸を含んでなる、融合タンパク質の一部である。その他の融合物においては、本発明のペプチドは、本明細書に記載されるような抗体、またはその機能的部分に、特に抗体の配列に、前記抗体によって特異的に標的化されるように融合し得て、または例えば、本明細書に記載されるような樹状細胞に対して特異的な抗体に、またはその中に融合し得る。
【0153】
さらにペプチドまたは変異型は、より強力な免疫応答を引き起こすために、安定性および/またはMHC分子への結合を改善するようにさらに修飾されてもよい。ペプチド配列のこのような最適化方法は当該技術分野で周知であり、例えば、逆ペプチド結合または非ペプチド結合の導入が挙げられる。
【0154】
逆ペプチド結合においては、アミノ酸残基はペプチド(-CO-NH-)結合によって連結せず、ペプチド結合が逆転している。このようなレトロ-インベルソペプチド模倣剤は、例えば、参照により本明細書に援用される、Meziere et al(1997)(Meziere et al.,1997)に記載されるものなどの当該技術分野で既知の方法を使用して製造されてもよい。このアプローチは、側鎖の方向でなく主鎖に関与する変化を含有する、擬ペプチドの生成を伴う。Meziere et al.(Meziere et al.,1997)は、MHC結合およびTヘルパー細胞応答のために、これらの擬ペプチドが有用であることを示す。CO-NHペプチド結合の代わりにNH-CO結合を含有するレトロインバースペプチドは、タンパク質分解に対してはるかにより高い抵抗性がある。
【0155】
非ペプチド結合は、例えば、-CH2-NH、-CH2S-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-COCH2-、-CH(OH)CH2-、および-CH2SO-である。米国特許第4,897,445号明細書は、標準手順によって合成されるポリペプチド、およびNaCNBH3の存在下でアミノアルデヒドとアミノ酸を反応させることで合成される非ペプチド結合が関与する、ポリペプチド鎖中の非ペプチド結合(-CH2-NH)を固相合成する方法を提供する。
【0156】
上述の配列を含んでなるペプチドは、それらのアミノおよび/またはカルボキシ末端に存在する追加的な化学基と共に合成して、ペプチドの安定性、生物学的利用能、および/または親和性を高めてもよい。例えば、カルボベンゾキシル、ダンシル、またはt-ブチルオキシカルボニル基などの疎水性基が、ペプチドのアミノ末端に付加されてもよい。同様に、アセチル基または9-フルオレニルメトキシ-カルボニル基が、ペプチドのアミノ末端に配置されてもよい。さらに、疎水性基、t-ブチルオキシカルボニル、またはアミド基が、ペプチドのカルボキシ末端に付加されてもよい。
【0157】
さらに、本発明のペプチドは、それらの立体配置を改変するように合成されてもよい。例えば、通常のL異性体でなく、ペプチドの1つまたは複数のアミノ酸残基のD異性体が使用されてもよい。なおもさらに、本発明のペプチドのアミノ酸残基の少なくとも1つは、周知の非天然起源アミノ酸残基の1つで置換されてもよい。これらのような変化は、本発明のペプチドの安定性、生物学的利用能および/または結合作用の増加に役立ってもよい。
【0158】
同様に、本発明のペプチドまたは変異型は、ペプチド合成の前または後のどちらかに、特定のアミノ酸を反応させることで化学的に修飾されてもよい。このような修飾の例は、当該技術分野で周知であり、例えば、参照により本明細書に援用される、R.Lundblad,Chemical Reagents for Protein Modification,3rd ed.CRC Press,2004(Lundblad,2004)に要約される。アミノ酸の化学修飾としては、これに限定されるものではないが(although without limitation thereto)、アシル化、アミジン化、リジンのピリドキシル化、還元アルキル化、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化、システインのシステイン酸への過ギ酸酸化によるカルボキシル基のアミド修飾およびスルフヒドリル修飾、水銀誘導体形成、その他のチオール化合物との混合ジスルフィド形成、マレイミドとの反応、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化、およびアルカリ性pHでのシアネートによるカルバモイル化による修飾が挙げられるが、これに限定されるものではない(is not limited to)。この点において、当業者は、タンパク質の化学修飾に関するより詳細な手順について、Chapter 15 of Current Protocols In Protein Science,Eds.Coligan et al.(John Wiley and Sons NY 1995-2000)(Coligan et al.,1995)を参照されたい。
【0159】
簡単に述べると、例えば、タンパク質中のアルギニル残基の修飾は、付加体を形成するためのフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、および1,2-シクロヘキサンジオンなどの隣接するジカルボニル化合物の反応に基づくことが多い。別の例は、メチルグリオキサールとアルギニン残基の反応である。システインは、リジンおよびヒスチジンなどのその他の求核性部位の同時の修飾なしに修飾され得る。その結果、システイン修飾のために多数の試薬が利用可能である。Sigma-Aldrichなどの会社のウェブサイト(http://www.sigma-aldrich.com)が、特定の試薬に関する情報を提供する。
【0160】
タンパク質中のジスルフィド結合の選択的還元もまた、一般的である。ジスルフィド結合は、生物医薬品の加熱処理中に形成されて酸化され得る。ウッドワード試薬Kを使用して、特定のグルタミン酸残基が修飾されてもよい。N-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)-N’-エチルカルボジイミドを利用して、リジン残基とグルタミン酸残基との間に分子内架橋が形成され得る。例えば、ジエチルピロ炭酸は、タンパク質中のヒスチジル残基修飾のための試薬である。ヒスチジンはまた、4-ヒドロキシ-2-ノネナールを使用して修飾され得る。リジン残基およびその他のα-アミノ基の反応物は、例えば、ペプチドの表面への結合またはタンパク質/ペプチド架橋で有用である。リジンはポリ(エチレン)グリコールの付着部位であり、タンパク質のグリコシル化の主要な修飾部位である。タンパク質中のメチオニン残基は、例えば、ヨードアセトアミド、ブロモエチルアミン、およびクロラミンTによって修飾され得る。
【0161】
テトラニトロメタンおよびN-アセチルイミダゾールを使用して、チロシル残基が修飾され得る。ジチロシンの形成を通じた架橋は、過酸化水素/銅イオンによって達成され得る。
【0162】
トリプトファンの修飾に関する最近の研究では、N-ブロモサクシニミド、臭化2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルまたは3-ブロモ-3-メチル-2-(2-ニトロフェニルメルカプト)-3H-インドール(BPNS-スカトール)が使用されている。
【0163】
PEGによる治療用タンパク質およびペプチドの成功裏の修飾が、循環半減期の延長に関連することが多い一方で、タンパク質と、グルタルアルデヒド、ポリエチレングリコールジアクリレート、およびホルムアルデヒドとの架橋は、ハイドロゲル調製のために使用される。免疫療法のためのアレルゲンの化学修飾は、カリウムシアネートでのカルバミル化によって達成されることが多い。
【0164】
ペプチドが修飾されまたは非ペプチド結合を含む、ペプチドまたは変異型は、本発明の好ましい実施形態である。
【0165】
本発明の別の実施形態は、非天然ペプチドに関し、前記ペプチドは、配列番号1~配列番号149に記載のアミノ酸配列からなり、またはそれから本質的になり、薬学的に許容可能な塩として合成的に生産される(例えば、合成される)。ペプチドを合成的に生産する方法は、当該技術分野で周知である。生体内で生成されるペプチドは塩でないため、本発明によるペプチドの塩は、ペプチドの生体内での状態と実質的に異なる。ペプチドの非天然塩形態は、特に、ペプチドを含んでなる医薬組成物、例えば、本明細書で開示されるペプチドワクチンなどの文脈で、ペプチドの溶解性を媒介する。治療される対象にペプチドを効率的に提供するためには、ペプチドの十分で少なくとも実質的な溶解性が必要である。好ましくは、塩はペプチドの薬学的に許容可能な塩である。本発明によるこれらの塩としては、ア二オンとしてのPO4
3-、SO4
2-、CH3COO-、Cl-、Br-、NO3
-、ClO4
-、I-、SCN-、およびカチオンとしてのNH4
+、Rb+、K+、Na+、Cs+、Li+、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Cu2+およびBa2+を含んでなるホフマイスター系列の塩類などのアルカリ塩およびアルカリ土類塩類が挙げられる。特に塩類は、(NH4)3PO4、(NH4)2HPO4、(NH4)H2PO4、(NH4)2SO4、NH4CH3COO、NH4Cl、NH4Br、NH4NO3、NH4CIO4、NH4I、NH4SCN、Rb3PO4、Rb2HPO4、RbH2PO4、Rb2SO4、Rb4CH3COO、Rb4Cl、Rb4Br、Rb4NO3、Rb4CIO4、Rb4I、Rb4SCN、K3PO4、K2HPO4、KH2PO4、K2SO4、KCH3COO、KCl、KBr、KNO3、KClO4、KI、KSCN、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、Na2SO4、NaCH3COO、NaCl、NaBr、NaNO3、NaCIO4、NaI、NaSCN、ZnCI2Cs3PO4、Cs2HPO4、CsH2PO4、Cs2SO4、CsCH3COO、CsCl、CsBr、CsNO3、CsCIO4、CsI、CsSCN、Li3PO4、Li2HPO4、LiH2PO4、Li2SO4、LiCH3COO、LiCl、LiBr、LiNO3、LiClO4、LiI、LiSCN、Cu2SO4、Mg3(PO4)2、Mg2HPO4、Mg(H2PO4)2、Mg2SO4、Mg(CH3COO)2、MgCl2、MgBr2、Mg(NO3)2、Mg(ClO4)2、MgI2、Mg(SCN)2、MnCl2、Ca3(PO4)、Ca2HPO4、Ca(H2PO4)2、CaSO4、Ca(CH3COO)2、CaCl2、CaBr2、Ca(NO3)2、Ca(ClO4)2、CaI2、Ca(SCN)2、Ba3(PO4)2、Ba2HPO4、Ba(H2PO4)2、BaSO4、Ba(CH3COO)2、BaCl2、BaBr2、Ba(NO3)2、Ba(ClO4)2、BaI2、およびBa(SCN)2から選択される。特に好ましいのは、例えば、塩化物塩または酢酸塩(トリフルオロ酢酸塩)などのNH酢酸塩、MgCl2、KH2PO4、Na2SO4、KCl、NaCl、およびCaCl2である。
【0166】
一般に、ペプチドおよび変異型(少なくともアミノ酸残基間にペプチド結合を含有するもの)は、Lukas et al.(Lukas et al.,1981)によって、そしてその中で引用される参考文献によって開示される、Fmoc-ポリアミド様式の固相ペプチド合成によって合成されてもよい。一時的なN-アミノ基保護は、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基によってもたらされる。この高度に塩基不安定性の保護基の反復性切断は、N,N-ジメチルホルムアミド中の20%ピペリジンを使用して実施される。側鎖官能基は、それらのブチルエーテル(セリン、スレオニン、およびチロシンの場合)、ブチルエステル(グルタミン酸およびアスパラギン酸の場合)、ブチルオキシカルボニル誘導体(リジンおよびヒスチジンの場合)、トリチル誘導体(システインの場合)、および4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル誘導体(アルギニンの場合)として保護されてもよい。グルタミンまたはアスパラギンがC末端残基である場合、側鎖アミド官能基を保護するために、4,4’-ジメトキシベンズヒドリル基が活用される。固相担体は、ジメチルアクリルアミド(主鎖単量体)、ビスアクリロイルエチレンジアミン(架橋剤)、およびアクリロイルサルコシンメチルエステル(機能化因子)の3つの単量体から構成される、ポリジメチル-アクリルアミドポリマーをベースとする。使用されるペプチド-対-樹脂の切断可能な結合因子は、酸不安定性4-ヒドロキシメチル-フェノキシ酢酸誘導体である。逆転N,N-ジシクロヘキシル-カルボジイミド/1ヒドロキシベンゾトリアゾール媒介共役手順を使用して付加されるアスパラギンおよびグルタミンを除いて、全てのアミノ酸誘導体は、それらのあらかじめ形成された対称的な無水物誘導体として付加される。全ての共役および脱保護反応は、ニンヒドリン、トリニトロベンゼンスルホン酸またはイサチン(isotin)試験手順を使用してモニターされる。合成完了時に、ペプチドは樹脂担体から切断され、同時に、50%スカベンジャー混合物を含有する95%トリフルオロ酢酸での処理によって、側鎖保護基が除去される。一般に使用されるスカベンジャーとしては、エタンジチオール、フェノール、アニソール、および水が挙げられ、正確な選択は、合成されるペプチドの構成アミノ酸に左右される。ペプチドの合成のための固相法と溶液相法の組み合わせもまた、可能である(例えば、(Bruckdorfer et al.,2004)、およびその中で引用される参考文献を参照されたい)。
【0167】
トリフルオロ酢酸は、真空蒸発によって除去され、引き続くジエチルエーテルを用いた磨砕は、粗製ペプチドをもたらす。存在するあらゆるスカベンジャーは、単純な抽出手順によって除去され、それは水相の凍結乾燥に際して、スカベンジャーを含まない粗製ペプチドを与える。ペプチド合成のための試薬は、通常、例えば、Calbiochem-Novabiochem(英国ノッティンガム)から入手できる。
【0168】
精製は、再結晶化、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、および(通常は)例えば、アセトニトリル/水勾配分離を使用した逆相高速液体クロマトグラフィーなどの技術の任意の1つまたは組み合わせによって実施されてもよい。
【0169】
ペプチドの分析は、薄層クロマトグラフィー、電気泳動法、特にキャピラリー電気泳動法、固相抽出(CSPE)、逆相高速液体クロマトグラフィー、酸加水分解後のアミノ酸分析を使用して、高速原子衝撃(FAB)質量分光分析によって、ならびにMALDIおよびESI-Q-TOF質量分光分析によって、実施されてもよい。
【0170】
過剰提示ペプチドを選択するために、中央値サンプル提示ならびに反復試験変動を示す、提示プロファイルが計算される。プロファイルは、目的腫瘍実体のサンプルを正常なサンプルのベースラインに並置させる。次に、線形混合効果モデルのp値を計算し(Pinheiro et al.,2015)、偽発見率によって複数試験について補正することで(Benjamini and Hochberg,1995)、これらの各プロファイルが過剰提示スコアに統合され得る(実施例1、
図1参照)。
【0171】
質量分析によるHLAリガンドの同定と相対的定量化のために、衝撃凍結サンプルからのHLA分子が精製されて、HLA関連ペプチドが単離された。単離ペプチドを分離して、オンラインナノエレクトロスプレーイオン化(nanoESI)液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)実験によって配列を同定した。その結果生じたペプチド配列は、膀胱がんサンプル(N=15A*02陽性サンプル)から記録された天然腫瘍関連ペプチド(TUMAP)の断片化パターンと、同一配列の対応する合成標準ペプチドの断片化パターンとの比較によって、確認された。ペプチドは、原発性腫瘍のHLA分子のリガンドとして直接、同定されたので、これらの結果は、15人の膀胱がん患者から入手された原発性がん組織上における、同定されたペプチドの天然プロセッシングおよび提示の直接的証拠を提供する。
【0172】
発見パイプラインXPRESIDENT(登録商標)v2.1(例えば、その内容全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第2013-0096016号明細書を参照されたい)は、いくつかの異なる非がん性組織および臓器と比較した、がん組織上のHLA拘束性ペプチドレベルの直接相対定量化に基づく、妥当な過剰提示ペプチドワクチン候補の同定と選択ができるようにする。これは、独自仕様のデータ解析パイプラインで処理された獲得LC-MSデータを使用して、配列同定のためのアルゴリズム、スペクトルクラスタリング、イオン計数、滞留時間アライメント、電荷状態のデコンボリューション、および正規化を組み合わせる、無標識示差定量化の開発によって達成された。
【0173】
各ペプチドおよびサンプルの誤差推定値を含む、提示レベルが確立された。腫瘍組織上で排他的に提示されるペプチド、および腫瘍において過剰提示されるペプチドが、非がん性の組織および臓器との比較で同定されている。
【0174】
膀胱がん組織サンプルからのHLAペプチド複合体は精製されてHLA結合ペプチドが単離され、LC-MSによって分析された(実施例を参照されたい)。本出願に含まれる全てのTUMAPは、この原発性膀胱がんサンプルに対するアプローチを用いて同定され、それらの原発性膀胱がん上の提示が確認された。
【0175】
複数の膀胱がんおよび正常組織上で同定されたTUMAPは、無標識LC-MSデータのイオン計数を使用して定量化された。方法は、ペプチドのLC-MSシグナル面積が、サンプル中のその存在量と相関すると仮定する。様々なLC-MS実験におけるペプチドの全ての定量的シグナルは、中心傾向に基づいて正規化され、サンプル当たりで平均化されて、提示プロファイルと称される棒グラフにマージされた。提示プロファイルは、タンパク質データベース検索、スペクトルクラスタリング、電荷状態デコンボリューション(除電)、および滞留時間アライメントおよび正規化のような、異なる解析法を統合する。
【0176】
ペプチドの過剰提示に加えて、基礎となる遺伝子のmRNA発現が試験された。mRNAデータは、正常組織およびがん組織のRNASeq分析を通して得られた(実施例2、
図2参照)。正常組織データのさらなる出典は、約3000の正常組織サンプル(Lonsdale,2013)に由来する、公的に利用可能なRNA発現データのデータベースであった。それがコードするmRNAが、がん組織では高度に発現されるが、生命維持に必要な正常組織では非常に低いかまたは存在しない、タンパク質に由来するペプチドが、好ましくは本発明に包含される。
【0177】
本発明は、本発明のペプチドを過剰にまたは排他的に提示する、好ましくは膀胱がんである、がん/腫瘍を治療するのに有用なペプチドを提供するこれらのペプチドは、原発性ヒト膀胱がんサンプル上で、HLA分子によって天然に提示されることが、質量分析法によって示された。
【0178】
それにペプチドが由来する起源遺伝子/タンパク質(「完全長タンパク質」または「基礎タンパク質」とも称される)の多くは、正常組織と比較してがんにおいて高度に過剰発現されることが示されて、起源遺伝子の高度な腫瘍関連性が実証され、「正常組織」は、本発明との関連で、健常膀胱細胞またはその他の正常組織細胞のどちらかを意味するものとする(実施例2を参照されたい)。さらに、ペプチド自体は、腫瘍組織上では強く過剰提示されるが、正常組織上では過剰提示されず、「腫瘍組織」は、本発明との関連で、膀胱がんに罹患している患者に由来するサンプルを意味するものとする(実施例1を参照されたい)。
【0179】
HLA結合ペプチドは、免疫系、特にTリンパ球によって認識され得る。T細胞は、例えば誘導ペプチドを提示する膀胱がん細胞などの、認識されたHLA/ペプチド複合体を提示する細胞を破壊し得る。
【0180】
本発明のペプチドは、T細胞応答を刺激でき、および/または過剰提示されることが示されおり、したがって本発明に従って、抗体および/または可溶性TCRなどのTCRの製造のために使用され得る(実施例3、実施例4を参照されたい)。さらに、ペプチドは、それぞれのMHCと複合体化した場合に、本発明による抗体および/またはTCR、特にTCR製造のためにも使用され得る。それぞれの方法は当業者に良く知られており、それぞれの参考文献にもまた見られる。したがって本発明のペプチドは、それによって腫瘍細胞が破壊され得る、患者における免疫応答を生じさせるのに有用である。患者における免疫応答は、理想的には免疫原性を増強する薬剤(すなわちアジュバント)との組み合わせで、記載されるペプチド、または適切な前駆体(例えば伸長ペプチド、タンパク質、またはこれらのペプチドをコードする核酸)を患者に直接投与することで、誘導され得る。本発明の標的ペプチドは、正常組織上では同等のコピー数で提示されないので、このような治療的ワクチン接種から生じる免疫応答は、腫瘍細胞に対して高度に特異的であることが予測され得て、患者の正常細胞に対する望まれない自己免疫反応のリスクを防止する。
【0181】
本明細書は、鎖およびaβ鎖(「α/βTCR」)を含んでなるT細胞受容体(TCR)にさらに関する。また、MHC分子によって提示されるとTCRおよび抗体に結合できる、本発明によるペプチドもまた提供される。本明細書はまた、本明細書のTCRおよびペプチドを発現するための核酸、ベクター、および宿主細胞;そしてそれを使用する方法にも関する。
【0182】
The本明細書はまた、HLA分子によって提示され際に、本発明によるペプチド抗原と結合できる、本発明によるTCRの断片にも関する。本用語は、特に、例えば膜貫通部分および/または定常領域が欠損しているTCRなどの可溶性TCR断片、一本鎖TCR、および例えばIgなどのそれらの融合物に関する。
【0183】
「T細胞受容体」(TCRと略記される)という用語は、αポリペプチド鎖(α鎖)およびaβポリペプチド鎖(β鎖)を含んでなるヘテロ二量体分子を指し、ヘテロ二量体受容体は、HLA分子によって提示されるペプチド抗原と結合できる。本用語は、いわゆるγ/δTCRもまた含む。
【0184】
一実施形態では、本明細書は、本明細書に記載されるようなTCRを製造する方法を提供し、方法は、TCRの発現を促進するのに適した条件下でTCRを発現できる、宿主細胞を培養するステップを含んでなる。
【0185】
別の態様における説明は、十分な量の抗原を抗原提示細胞に接触させることで、適切な抗原提示細胞または人工抗原提示細胞の表面に発現されるクラスIまたはII MHC分子上に抗原が負荷され、または抗原/クラスIまたはII MHC複合体モノマーを四量体化することで、クラスIまたはII MHC四量体上に抗原が負荷される、本明細書に記載の方法に関する。
【0186】
α/βTCRのαおよびβ鎖、そしてγ/δTCRのγおよびδ鎖は、一般にそれぞれ2つの「ドメイン」、すなわち可変および定常ドメインを有すると見なされる。可変ドメインは、可変領域(V)と接合領域(J)の連結からなる。可変ドメインはまた、リーダー領域(L)を含んでもよい。βおよびδ鎖はまた、多様性領域(D)を含んでもよい。αおよびβ定常ドメインはまた、αおよびβ鎖を細胞膜に固着させるC末端膜貫通(TM)ドメインを含んでもよい。
【0187】
γ/δTCRに関して、「TCRγ可変ドメイン」という用語は、本明細書の用法ではリーダー領域(L)のないTCRγV(TRGV)領域とTCRγJ(TRGJ)領域との連結を指し、TCRγ定常ドメインという用語は、細胞外TRGC領域を指し、またはC末端切断型TRGC配列を指す同様に「TCRδ可変ドメイン」という用語は、リーダー領域(L)のないTCRδV(TRDV)領域とTCRδD/J(TRDD/TRDJ)領域との連結を指し、「TCRδ定常ドメイン」という用語は、細胞外TRDC領域を指し、またはC末端切断型TRDC配列を指す。
【0188】
本明細書のTCRは、好ましくは、約1μM以下、約001μM以下、約25μM以下、または約10μM以下の結合親和性(KD)で、ペプチド-HLA分子複合体に結合する。より好ましいのは、約1μM以下、約100nM以下、約50nM以下、約25nM以下の結合親和性を有する、高親和性TCRである。本発明のTCRの好ましい結合親和性範囲の非限定的例としては、約1nM~約10nM;約10nM~約20nM;約20nM~約30nM;約30nM~約40nM;約40nM~約50nM;約50nM~約60nM;約60nM~約70nM;約70nM~約80nM;約80nM~約90nM;および約90nM~約100nMが挙げられる。
【0189】
本明細書の用法では、本明細書のTCRとの関連で、「特異的結合」およびそれらの文法的変種は、ペプチド-HLA分子複合体に対して、100μM以下の結合親和性(KD)を有するTCRを意味するために使用される。
【0190】
本明細書のα/βヘテロ二量体TCRは、それらの定常ドメインの間に導入された、ジスルフィド結合を有してもよい。このタイプの好ましいTCRとしては、TRAC定常ドメイン配列とTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列とを有するものが挙げられるが、ただし、TRACのThr48およびTRBC1またはTRBC2のSer57は、システイン残基によって置換されており、前記システインは、TCRのTRAC定常ドメイン配列とTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列との間に、ジスルフィド結合を形成する。
【0191】
上述の導入された鎖間結合の存在下または不在下で、本明細書のα/βヘテロ二量体TCRは、TRAC定常ドメイン配列とTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列とを有してもよく、TCRのTRAC定常ドメイン配列と、TRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列とが、TRACのエクソン2のCys4と、TRBC1またはTRBC2のエクソン2のCys2との間の天然ジスルフィド結合によって連結されてもよい。
【0192】
本明細書のTCRは、放射性核種、フルオロフォア、およびビオチンからなる群から選択される、検出可能な標識を含んでなってもよい。本明細書のTCRは、放射性核種、化学療法剤、または毒素などの治療的活性薬剤にコンジュゲートされてもよい。
【0193】
一実施形態では、α鎖に少なくとも1つの変異を有し、および/またはβ鎖に少なくとも1つの変異を有する本明細書のTCRは、非変異TCRと比較して修飾されたグリコシル化を有する。
【0194】
一実施形態では、TCRα鎖および/またはTCRβ鎖に少なくとも1つの変異を含んでなるTCRは、ペプチド-HLA分子複合体に対して、非変異TCRα鎖および/または非変異TCRβ鎖を含んでなるTCRの少なくとも2倍の結合親和性および/または結合半減期を有する。腫瘍特異的TCRの親和性増強とその利用は、最適TCR親和性のウィンドウの存在に依存する。このようなウィンドウの存在は、HLA-A2拘束性病原体に対して特異的なTCRが、HLA-A2拘束性腫瘍関連自己抗原に対して特異的なTCRと比較して、一般に約10分の1のKD値を有するという観察に基づく。腫瘍抗原は免疫原性である可能性を有するが、腫瘍は個人自身の細胞から生じるので、改変された翻訳プロセッシングのある変異型タンパク質またはタンパク質のみが、免疫系によって異質と見なされることが今や知られている。上方制御されまたは過剰発現される抗原(いわゆる自己抗原)は、腫瘍に対する機能性免疫応答を必ずしも誘導しない。これらの抗原に対して高度に反応性のTCRを発現するT細胞は、中枢性免疫寛容として知られている過程、すなわち自己抗原に対する低親和性TCRを有するT細胞のみが残留する過程によって、胸腺において負選択される。したがって、ペプチド(pepides)に対する本明細書のTCRまたは変異型の親和性は、当技術分野で周知の方法によって高め得る。
【0195】
本明細書は、本明細書に従ってTCRを同定し単離する方法にさらに関し、前記方法は、HLA-A*02陰性健常ドナーからのPBMCをA2/ペプチドモノマーと共にインキュベートするステップと、PBMCを四量体フィコエリトリン(PE)と共にインキュベートするステップと、高結合活性T細胞を蛍光活性化細胞選別(FACS)Calibur分析によって単離するステップとを含んでなる。
【0196】
本明細書は、本明細書に従ってTCRを同定し単離する方法にさらに関し、前記方法は、そのT細胞がマウスTCR欠損を補償する多様なヒトTCRレパートリーを発現する、全ヒトTCRαβ遺伝子遺伝子座(1.1および0.7Mb)を有する遺伝子組換えマウスを得るステップと、マウスをペプチドで免疫化するステップと、四量体フィコエリトリン(PE)を有する遺伝子組換えマウスから得られたPBMCをインキュベートするステップと、高結合活性T細胞を蛍光活性化細胞選別(FACS)Calibur分析によって単離するステップとを含んでなる。
【0197】
一態様では、本明細書のTCRを発現するT細胞を得るために、本明細書のTCR-αおよび/またはTCR-β鎖をコードする核酸が、γレトロウイルスまたはレンチウイルスなどの発現ベクターにクローン化される。組換えウイルスが生成され、次に、抗原特異性および機能性結合活性などの機能について試験される。次に、最終生成物のアリコートを使用して、標的T細胞集団(一般に患者のPBMCから精製される)が形質導入され、それは患者への輸液前に増殖される。
【0198】
別の態様では、本明細書のTCRを発現するT細胞を得るために、例えば、生体外転写システムなどの当該技術分野で公知の技術によって、TCR RNAが合成される。次に生体外で合成されたTCR RNAは、健常ドナーから得られた原発性CD8+T細胞内に電気穿孔によって導入され、腫瘍特異的TCR-αおよび/またはTCR-β鎖が再発現される。
【0199】
発現を増加させるために、本明細書のTCRをコードする核酸は、レトロウイルス長末端反復(LTR)、サイトメガロウイルス(CMV)、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)U3、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、β-アクチン、ユビキチン、およびシミアンウイルス40(SV40)/CD43複合プロモーター、伸長因子(EF)-1a、および脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーターなどの強力なプロモーターと作動可能に連結されてもよい。好ましい実施形態では、プロモーターは、発現される核酸に対して異種である。
【0200】
強力なプロモーターに加えて、本明細書のTCR発現カセットは、レンチウイルスコンストラクトの核転座を促進する、中央ポリプリントラクト(cPPT)(Follenzi et al.,2000)、およびRNA安定性を増大させることで導入遺伝子発現のレベルを高める、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(wPRE)(Zufferey et al.,1999)をはじめとする導入遺伝子発現を高め得る追加的な要素を含有してもよい。
【0201】
本発明のTCRのαおよびβ鎖は、別々のベクターにある核酸によってコードされてもよく、または同一ベクターにあるポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0202】
高レベルのTCR表面発現の達成には、導入されたTCRのTCR-αおよびTCR-β鎖の双方が、高レベルで転写される必要がある。これを行うために、本明細書のTCR-αおよびTCR-β鎖は、この障害を克服できることが示されている、単一ベクター内のバイシストロニックコンストラクトにクローン化されてもよい。TCR-αおよびTCR-β鎖は、翻訳中に2つのタンパク質に分かれて等モル比のTCR-αおよびTCR-β鎖の生成を確実にする単一転写物から生成されるので、TCR-α鎖とTCR-β鎖との間のウイルス配列内リボソーム進入部位の使用は、双方の鎖の協調発現をもたらす(Schmitt et al.,2009)。
【0203】
本明細書のTCRをコードする核酸はコドン最適化されて、宿主細胞からの発現が増加されてもよい。遺伝コードの重複は、いくつかのアミノ酸が2つ以上のコドンによってコードされるようにするが、特定のコドンは、適合tRNAの相対可用性ならびにその他の要因のために、他のものよりも「最適」でない(Gustafsson et al.,2004)。各アミノ酸が、哺乳類遺伝子発現のための最適コドンによってコードされるように、TCR-αおよびTCR-β遺伝子配列を修飾すること、ならびにmRNA不安定モチーフまたは潜在的なスプライス部位を除去することは、TCR-αおよびTCR-β遺伝子発現を有意に高めることが示されている(Scholten et al.,2006)。
【0204】
さらに、導入TCR鎖と内因性TCR鎖との間の誤対合は、重大な自己免疫リスクをもたらす特異性の獲得を引き起こすこともある。例えば、混合TCR二量体の形成は、適切に対合するTCR複合体を形成するために利用できるCD3分子の数を減少させてもよく、ひいては導入TCRを発現する細胞の機能性結合活性を有意に低下させ得る(Kuball et al.,2007)。
【0205】
誤対合を減少させるために、本明細書の導入TCR鎖のC末端領域は、鎖間親和性を高める一方で、導入鎖が内因性TCRと対形成する能力を低下させるために、修飾されてもよい。これらのストラテジーは、ヒトTCR-αおよびTCR-βのC末端領域をそれらのマウス対応物(マウス化C末端領域)で置換する;導入TCRのTCR-αおよびTCR-β鎖の双方に第2のシステイン残基を導入することで、C末端領域に第2の鎖間ジスルフィド結合を生成する(システイン修飾);TCR-αおよびTCR-β鎖C末端領域内の相互作用残基を交換する(「ノブ・イン・ホール」);そしてTCR-αおよびTCR-β鎖の可変領域をCD3ζに直接融合させる(CD3ζ融合)ことを含んでもよい。(Schmitt et al.,2009)。
【0206】
一実施形態では、宿主細胞は、本細書のTCRを発現するように遺伝子操作される。好ましい実施形態では、宿主細胞は、ヒトT細胞またはT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態では、T細胞またはT細胞前駆細胞は、がん患者から得られる。その他の実施形態では、T細胞またはT細胞前駆細胞は、健常ドナーから得られる。本明細書の宿主細胞は、治療される患者に関して、同種異系または自己由来であり得る。一実施形態では、宿主は、α/βTCRを発現するように形質転換されたγ/δT細胞である。
【0207】
「医薬組成物」は、医学的状況においてヒトへの投与に適する組成物である。好ましくは、医薬組成物は無菌であり、GMPガイドラインに準拠して製造される。
【0208】
医薬組成物は、遊離形態または薬学的に許容可能な塩の形態のどちらかのペプチドを含んでなる(上記もまた参照されたい)。本明細書の用法では、「薬学的に許容可能な塩」は、開示されたペプチドの誘導体を指し、ペプチドは、薬剤の酸性または塩基性塩を生成することで修飾される。例えば、酸性塩は、適切な酸との反応を伴って、遊離塩基から調製される(典型的に、薬剤の中性形態が中性NH2基を有する)。酸性塩を調製するための適切な酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などの有機酸、ならびに例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸リン酸などの無機酸の双方が挙げられる。逆に、ペプチド上に存在してもよい酸部分の塩基性塩の調製物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミンなどの薬学的に許容可能な塩基を使用して調製される。
【0209】
特に好ましい一実施形態では、医薬組成物は、酢酸(酢酸塩)、トリフルオロ酢酸または塩酸(塩化物)の塩としてのペプチドを含んでなる。
【0210】
好ましくは、本発明の薬剤は、ワクチンなどの免疫療法剤である。それは、患者に直接、罹患臓器に、または全身的に、i.d.、i.m.、s.c.、i.p.、およびi.v.投与され、または生体外で患者またはヒト細胞株に由来する細胞に適用されて、それが引き続いて患者に投与され、または生体外で使用されて患者に由来する免疫細胞の亜集団が選択され、次にそれが患者に再投与されてもよい。核酸が、生体外で細胞に投与される場合、インターロイキン2などの免疫刺激サイトカインを同時発現させるように、細胞を形質移入することが有用であってもよい。ペプチドは、実質的に純粋であり、または免疫刺激アジュバント(下記参照)と組み合わされ、または免疫賦活性サイトカインと組み合わせて使用され、または例えば、リポソームなどの適切な送達系によって投与されてもよい。ペプチドはまた、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)またはマンナンなどの適切な担体に共役されてもよい(国際公開第95/18145号パンフレットおよび(Longenecker et al.,1993)を参照されたい)。ペプチドはまた、標識されてもよく、融合タンパク質であってもよく、またはハイブリッド分子であってもよい。その配列が本発明に記載されるペプチドは、CD4またはCD8 T細胞を刺激することが予測される。しかし、CD8 T細胞の刺激は、CD4 Tヘルパー細胞によって提供される援助の存在下で、より効率的である。したがって、CD8 T細胞を刺激するMHCクラスIエピトープでは、ハイブリッド分子の融合パートナーまたはセクションは、適切にはCD4陽性T細胞を刺激するエピトープを提供する。CD4およびCD8刺激エピトープは、当該技術分野で周知であり、本発明で同定されたものが挙げられる。
【0211】
一態様では、ワクチンは、配列番号1~配列番号149に記載されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、少なくとも1つの追加的なペプチド、好ましくは2~50、より好ましくは2~25、なおもより好ましくは2~20、最も好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18個のペプチドとを含んでなる。ペプチドは、1つまたは複数の特異的TAAから誘導されてもよく、MHCクラスI分子に結合してもよい。
【0212】
本発明のさらなる態様は、本発明のペプチドまたはペプチド変異型をエンコードする核酸(例えばポリヌクレオチド)を提供する。ポリヌクレオチドは、それがペプチドをコードしさえすれば、例えば、単鎖および/または二本鎖のいずれかのDNA、cDNA、PNA、RNAまたはそれらの組み合わせであってもよく、または例えばホスホロチオエート主鎖を有するポリヌクレオチドなどのポリヌクレオチドの未変性または安定化形態であってもよく、それはイントロンを含有してもまたはしなくてもよい。もちろん、天然起源ペプチド結合によって連結する天然アミノ酸残基を含有するペプチドのみが、ポリヌクレオチドによってエンコードされ得る。本発明のなおもさらなる態様は、本発明によるポリペプチドを発現できる発現ベクターを提供する。
【0213】
例えば相補的付着端を通じて、ポリヌクレオチド、特にDNAをベクターに連結する、多様な方法が開発されている。例えば、ベクターDNAに挿入されるDNA断片に、相補的ホモポリマー配列が付加され得る。次に、相補的ホモポリマー尾部間の水素結合によって、ベクターおよびDNA断片が連結されて組換えDNA分子が形成する。
【0214】
1つまたは複数の制限酵素認識部位を含有する合成リンカーは、DNA断片をベクターに連結する代替え方法を提供する。多様な制限エンドヌクレアーゼ部位を含有する合成リンカーは、米国コネチカット州ニューヘイブンのInternational Biotechnologies Inc.をはじめとするいくつかの供給元から商業的に入手できる。
【0215】
本発明のポリペプチドをコードするDNAを修飾する望ましい方法は、Saiki RK,et al.(Saiki et al.,1988)で開示されるようなポリメラーゼ連鎖反応を用いる。この方法は、例えば、適切な制限酵素認識部位を改変することで、DNAを適切なベクターに導入するために使用されてもよく、またはそれは、当該技術分野で既知のその他の有用な様式でDNAを修飾するために使用されてもよい。ウイルスベクターを使用するのであれば、ポックスウイルスまたはアデノウイルスベクターが好ましい。
【0216】
次にDNA(またはレトロウイルスベクターの場合はRNA)を適切な宿主において発現させ、本発明のペプチドまたは変異型を含んでなるポリペプチドが製造されてもよい。このようにして、本明細書に含まれる教示を考慮して適切に修正された既知の技術に従って、本発明のペプチドまたは変異型をコードするDNAを使用して、発現ベクターが構築されてもよく、次にそれを使用して、本発明のポリペプチドの発現および製造のために、適切な宿主細胞が形質転換される。このような技術としては、例えば、米国特許第4,440,859号明細書、米国特許第4,530,901号明細書、米国特許第4,582,800号明細書、米国特許第4,677,063号明細書、米国特許第4,678,751号明細書、米国特許第4,704,362号明細書、米国特許第4,710,463号明細書、米国特許第4,757,006号明細書、米国特許第4,766,075号明細書、および米国特許第4,810,648号明細書で開示されるものが挙げられる。
【0217】
本発明の化合物を構成するポリペプチドをエンコードするDNA(またはレトロウイルスベクターの場合はRNA)は、適切な宿主への導入のために、多種多様なその他のDNA配列に連結されてもよい。コンパニオンDNAは、宿主の性質、DNAの宿主への導入様式、およびエピソームの維持または組み込みが所望されるかどうかに左右される。
【0218】
一般に、DNAは、発現のための適切な方向および正しい読み枠で、プラスミドなどの発現ベクターに挿入される。必要ならば、DNAは、所望の宿主によって認識される適切な転写および翻訳調節制御ヌクレオチド配列に連結されてもよいが、このような制御は、一般に発現ベクター中で利用できる。次に、標準的な技術を通じて、ベクターが宿主に導入される。一般に、全ての宿主がベクターによって形質転換されるわけではない。したがって、形質転換された宿主細胞を選択することが必要になる。一選択技術は、抗生物質耐性などの形質転換細胞内で選択可能な形質をコードする、任意の必要な制御因子を有するDNA配列を発現ベクター内に組み込むことを伴う。
【0219】
代案としては、このような選択可能な形質の遺伝子は、所望の宿主細胞を同時形質転換するのに使用される、別のベクター上にあり得る。
【0220】
次に、本明細書で開示される教示を考慮して、当業者に知られている適切な条件下で十分な時間にわたり、本発明の組換えDNAによって形質転換された宿主細胞が培養されてポリペプチドが発現され、次にそれが回収され得る。
【0221】
細菌(例えば大腸菌(E.coli)およびバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌(例えばアスペルギルス属(Aspergillus))、植物細胞、動物細胞、および昆虫細胞をはじめとする多数の発現系が知られている。好ましくは、発現系は、ATCC Cell Biology Collectionから入手できるCHO細胞などの哺乳類細胞であり得る。
【0222】
構成的発現のための典型的な哺乳類細胞ベクタープラスミドは、適切なポリA尾部と、ネオマイシンなどの耐性マーカーとを有する、CMVまたはSV40プロモーターを含んでなる。一例は、米国ニュージャージー州ピスカタウェイのPharmaciaから入手できるpSVLである。誘導性哺乳類発現ベクターの一例であるpMSGもまた、Pharmaciaから入手できる。有用な酵母プラスミドベクターは、pRS403-406およびpRS413-416であり、通常、米国郵便番号92037カリフォルニア州ラホヤのStratagene Cloning Systemsから入手できる。プラスミドpRS403、pRS404、pRS405、およびpRS406は、酵母組み込みプラスミド(YIps)であり、酵母の選択可能なマーカーHIS3、TRP1、LEU2、およびURA3が組み込まれている。プラスミドpRS413-416は、酵母セントロメアプラスミド(Ycps)である。CMVプロモーターベースのベクター(例えばSigma-Aldrich製)は、一過性または安定性発現、細胞質内発現または分泌、およびFRAG、3xFLAG、c-mycまたはMATの様々な組み合わせでのN末端またはC末端標識付けを提供する。これらの融合タンパク質は、組換えタンパク質を検出、精製、および分析できるようにする。二重標識融合物は、検出に融通性を与える。
【0223】
強力なヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター調節領域は、COS細胞において、構成タンパク質発現レベルを1mg/L程度の高さに駆動する。効力がより低い細胞株では、タンパク質レベルは、典型的に約0.1mg/Lである。SV40複製起点の存在は、SV40複製許容COS細胞における高レベルのDNA複製をもたらす。CMVベクターは、例えば、細菌細胞におけるpMB1(pBR322の誘導体)複製起点、細菌におけるアンピシリン耐性選択のためのb-ラクタマーゼ遺伝子、hGHポリA、およびf1起点を含有し得る。プレプロトリプシンリーダー(PPT)配列を含有するベクターは、抗FRAG抗体、樹脂、およびプレートを使用した精製のために、培養液中へのFRAG融合タンパク質分泌を誘導し得る。多様な宿主細胞において使用するためのその他のベクターおよび発現系が、当該技術分野で周知である。
【0224】
別の実施形態では、本発明の2つ以上のペプチドまたはペプチド変異型がコードされ、したがって順次発現される(「数珠玉構造」コンストラクトに類似する)。その際に、ペプチドまたはペプチド変異型は、例えばLLLLLLなどの一続きのリンカーアミノ酸によって、共に連結または融合されてもよく、またはそれらの間のいかなる追加的なペプチドもなしに連結されてもよい。これらのコンストラクトはまた、がん療法のために使用され得て、MHC IとMHC IIの双方が関与する免疫応答を誘導してもよい。
【0225】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドベクターコンストラクトで形質転換された宿主細胞にも関する。宿主細胞は、原核または真核生物のどちらかであり得る。細菌細胞は、いくつかの状況では、好ましい原核宿主細胞であってもよく、典型的には、例えば、米国メリーランド州ベセスダのBethesda Research Laboratories Inc.,から入手できる大腸菌(E.coli)DH5株、および米国メリーランド州ロックビルの米国微生物系統保存機関(ATCC)から入手できるRR1(ATCC番号31343)などの大腸菌(E.coli)株である。好ましい真核宿主細胞としては、酵母、昆虫、および哺乳類細胞、好ましくはマウス、ラット、サルまたはヒト線維芽および結腸細胞株に由来するものなどの脊椎動物細胞が挙げられる。酵母宿主細胞としては、米国郵便番号92037カリフォルニア州ラホヤのStratagene Cloning Systemsから一般に入手できる、YPH499、YPH500、およびYPH501が挙げられる。好ましい哺乳類宿主細胞としては、ATCCからCCL61として入手できるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ATCCからCRL1658として入手できるNIH Swissマウス胚細胞NIH/3T3、ATCCからCRL1650として入手できるサル腎臓由来COS-1細胞、およびヒト胎児由来腎細胞である293細胞が挙げられる。好ましい昆虫細胞は、バキュロウイルス発現ベクターで形質移入され得るSf9細胞である。発現のための適切な宿主細胞の選択に関する概説は、例えば、Paulina BalbasおよびArgelia Lorenceの教科書、”Methods in Molecular Biology Recombinant Gene Expression,Reviews and Protocols,”Part One,Second Edition,ISBN 978-1-58829-262-9、および当業者に知られているその他の文献にある。
【0226】
本発明のDNAコンストラクトによる適切な細胞宿主の形質転換は、典型的に使用されるベクターのタイプに左右される周知の方法によって達成される。原核宿主細胞の形質転換に関しては、例えば、Cohen et al.(Cohen et al.,1972)および(Green and Sambrook,2012)を参照されたい。酵母細胞の形質転換は、Sherman et al.(Sherman et al.,1986)に記載される。Beggs(Beggs,1978)の方法もまた有用である。脊椎動物細胞に関しては、このような細胞を形質移入するのに有用な、例えば、リン酸カルシウムおよびDEAE-デキストランまたはリポソーム製剤などの試薬が、米国郵便番号20877メリーランド州ゲイザースバーグのLife Technologies Inc.,から入手できる。電気穿孔もまた、細胞を形質転換および/または形質移入するのに有用であり、酵母細胞、細菌細胞、昆虫細胞、および脊椎動物細胞を形質転換する技術分野で周知である。
【0227】
成功裏に形質転換された細胞、すなわち本発明のDNAコンストラクトを含有する細胞は、PCRなどの周知の技術によって同定され得る。代案としては、抗体を使用して、上清中のタンパク質の存在が検出され得る。
【0228】
例えば、細菌、酵母、および昆虫細胞などの本発明の特定の宿主細胞は、本発明のペプチドの調製において有用であることが理解されるであろう。しかしその他の宿主細胞が、特定の治療法において有用であってもよい。例えば、樹状細胞などの抗原提示細胞は、それらが適切なMHC分子中に負荷されてもよいように、本発明のペプチドを発現するために有用に使用されてもよい。したがって、本発明は、本発明による核酸または発現ベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。
【0229】
好ましい実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞または抗原提示細胞である。前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)を含有する組換え融合タンパク質が負荷されたAPCは、無症候性または微小症候性転移性HRPCを治療するために、米国食品医薬品局(FDA)によって2010年4月20日に認可された(シプロイセルT)(Rini et al.,2006;Small et al.,2006)。
【0230】
本発明のさらなる態様は、宿主細胞を培養するステップと、宿主細胞またはその培養液からペプチドを単離するステップとを含んでなる、ペプチドまたはその変異型を製造する方法を提供する。
【0231】
別の実施形態では、本発明のペプチド、核酸または発現ベクターは、医療において使用される。例えば、ペプチドまたはその変異型は、静脈内(i.v.)注射、皮下(s.c.)注射、皮内(i.d.)注射、腹腔内(i.p.)注射、筋肉内(i.m.)注射のために調合されてもよい。ペプチド注射の好ましい方法としては、s.c.、i.d.、i.p.、i.m.、およびi.v.が挙げられる。DNA注射の好ましい方法としては、i.d.、i.m.、s.c.、i.p.、およびi.v.が挙げられる。例えば、50μg~1.5mg、好ましくは125μg~500μgのペプチドまたはDNAの用量が投与されてもよく、それぞれのペプチドまたはDNAに左右される。この範囲の用量は、以前の治験で成功裏に使用された(Walter et al.,2012)。
【0232】
活性ワクチン接種のために使用されるポリヌクレオチドは、実質的に純粋であってもよく、または適切なベクターまたは送達系に含有されてもよい。核酸は、DNA、cDNA、PNA、RNAまたはそれらの組み合わせであってもよい。このような核酸をデザインして導入する方法は、当該技術分野で周知である。概説は、例えば、Teufel et al.(Teufel et al.,2005)によって提供される。ポリヌクレオチドワクチンは調製が容易であるが、免疫応答誘導におけるこれらのベクターの作用機序は、完全には分かっていない。適切なベクターおよび送達系としては、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス、または2つ以上のウイルスの構成要素を含有するハイブリッドベースのシステムなどのウイルスDNAおよび/またはRNAが挙げられる。非ウイルス送達系としては、カチオン性脂質およびカチオン性ポリマーが挙げられ、DNA送達技術分野において周知である。「遺伝子銃」などを介した、物理的送達もまた使用されてもよい。核酸によってコードされるペプチド(単数)またはペプチド(複数)は、例えば、上述のように、それぞれの逆CDRのT細胞を刺激する、エピトープとの融合タンパク質であってもよい。
【0233】
本発明の薬剤は、1つまたは複数のアジュバントもまた含んでもよい。アジュバントは、免疫応答(例えば、CD8陽性T細胞およびヘルパーT(TH)細胞によって媒介される抗原に対する免疫応答を非特異的に促進または増強する物質であり、したがって本発明の薬剤中で有用であると見なされる。適切なアジュバントとしては、1018 ISS、アルミニウム塩、AMPLIVAX(登録商標)、AS15、BCG、CP-870,893、CpG7909、CyaA、dSLIM、フラジェリンまたはフラジェリン由来TLR5リガンド、FLT3リガンド、GM-CSF、IC30、IC31、イミキモド(ALDARA(登録商標))、レシキモド、ImuFact IMP321、IL-2やL-13やIL-21などのインターロイキン、インターフェロン-αまたは-βまたはそれらのPEG化誘導体、ISパッチ、ISS、ISCOMATRIX、ISCOM、JuvImmune(登録商標)、LipoVac、MALP2、MF59、モノホスホリルリピドA、モンタニドIMS1312、モンタニドISA206、モンタニドISA50V、モンタニドISA-51、油中水型および水中油型エマルション、OK-432、OM-174、OM-197-MP-EC、ONTAK、OspA、PepTel(登録商標)ベクター系、ポリ(ラクチドコグリコリド)[PLG]ベースおよびデキストラン微粒子、タラクトフェリンSRL172、ビロソームおよびその他のウイルス様粒子、YF-17D、VEGFトラップ、R848、β-グルカン、Pam3Cys、サポニンに由来するAquila’s QS21 stimulon、マイコバクテリア抽出物および合成細菌細胞壁模倣体、およびRibi’s DetoxまたはQuilまたはSuperfosなどのその他の独自仕様の補助剤が挙げられるが、これに限定されるものではない。フロイントまたはGM-CSFなどのアジュバントが好ましい。樹状細胞およびそれらの調製物に対して特異的な、いくつかの免疫学的アジュバント(例えばMF59)が、以前記載されている(Allison and Krummel,1995)。また、サイトカインが使用されてもよい。数種のサイトカインは、樹状細胞のリンパ組織(例えばTNF-)への移動に影響を与えること、Tリンパ球(例えば、GM-CSF、IL-1、およびIL-4)のための効率的な抗原提示細胞への樹状細胞の成熟を加速すること(その内容全体が参照により本明細書に具体的に援用される、米国特許第5,849,589号明細書)、および免疫増強剤(例えば、IL-12、IL-15、IL-23、IL-7、IFN-α、IFN-β)として作用することと、直接関連付けられている(Gabrilovich et al.,1996)。
【0234】
CpG免疫賦活性オリゴヌクレオチドもまた、ワクチン環境において、アジュバント効果を増強することが報告されている。理論により拘束されることなく、CpGオリゴヌクレオチドは、Toll様受容体(TLR)、主にTLR9を通じた、内在的(非適応性)免疫系の活性化によって作用する。CpG誘導性TLR9活性化は、ペプチドまたはタンパク質抗原、生きたまたは死滅ウイルス、樹状細胞ワクチン、自己細胞ワクチン、そして予防的および治療的ワクチンの双方における多糖コンジュゲートをはじめとする多種多様な抗原に対する、抗原特異的体液性および細胞性応答を増強する。より重要なことには、それは樹状細胞の成熟と分化を増強し、CD4 T細胞援助の不在下であってさえも、TH1細胞の活性化の促進、および強力な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)生成をもたらす。TLR9刺激によって誘導されるTH1バイアスは、通常はTH2バイアスを促進するミョウバンまたは不完全フロイントアジュバント(IFA)などのワクチンアジュバント存在下であってさえも、維持される。CpGオリゴヌクレオチドは、その他のアジュバントと調合されまたは同時投与された際に、または微粒子、ナノ粒子、脂質エマルションなどの配合物、または類似配合物中で、なおもより高いアジュバント活性を示し、それは、抗原が比較的弱い場合、強力な応答を誘導するのに特に必要である。それらは免疫応答もまた加速し、いくつかの実験では、CpGなしのワクチン総量と同等の抗体応答で、抗原用量のほぼ2桁分の低減を可能にする(Krieg,2006)。米国特許第6,406,705B1号明細書は、抗原特異的免疫応答を誘導するためのCpGオリゴヌクレオチド、非核酸アジュバント、および抗原の併用を記載する。CpG TLR9拮抗薬は、本発明の医薬組成物の好ましい構成要素である、Mologen(独国ベルリン)製のdSLIM(二重ステムループ免疫調節剤)である。RNA結合TLR7、TLR8および/またはTLR9などのその他のTLR結合分子もまた、使用されてもよい。
【0235】
有用なアジュバントその他の例としては、化学修飾CpG(例えば、CpR、Idera);ポリ(I:C)などのdsRNAアナログおよびそれらの誘導体(例えばAmpliGen(登録商標)、Hiltonol(登録商標)、ポリ(ICLC)、ポリ(IC-R)、ポリ(I:C12U)、非CpG細菌DNAまたはRNA;ならびにシクロホスファミド、スニチニブ、ベバシズマブ(登録商標)、セレブレックス、NCX-4016、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ソラフェニブ、テモゾロマイド、テムシロリムス、XL-999、CP-547632、パゾパニブ、VEGF Trap、ZD2171、AZD2171、抗CTLA4などの免疫活性小型分子および抗体;免疫系の重要な構造体を標的にするその他の抗体(例えば、抗CD40、抗TGFβ、抗TNFα受容体);SC58175が挙げられるが、これに限定されるものではなく、これらは治療的におよび/またはアジュバントとして作用してもよい。本発明の文脈で有用なアジュバントおよび添加剤の量と濃度は、過度の実験を実施することなく、当業者によって容易に判定され得る。
【0236】
好ましいアジュバントは、抗CD40、イミキモド、レシキモド、GM-CSF、シクロホスファミド、スニチニブ、ベバシズマブ、インターフェロンα、CpGオリゴヌクレオチドおよび誘導体、ポリ(I:C)および誘導体、RNA、シルデナフィル、およびPLGまたはビロソーム微粒子調合物である。
【0237】
本発明による薬剤組成物の好ましい実施形態では、アジュバントは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、サルグラモスチム)、シクロホスファミド、イミキモド、レシキモド、およびインターフェロンαなどのコロニー刺激因子からなる群から選択される。
【0238】
本発明による医薬組成物の好ましい実施形態では、アジュバントは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、サルグラモスチム)、シクロホスファミド、イミキモド、およびレシキモドなどのコロニー刺激因子からなる群から選択される。本発明による薬剤組成物の好ましい実施形態では、アジュバントは、シクロホスファミド、イミキモドまたはレシキモドである。なおもより好ましいアジュバントは、Montanide IMS 1312、Montanide ISA 20、Montanide ISA 50V、Montanide ISA-51、poly-ICLC(Hiltonol(登録商標))、および抗CD40mABまたはそれらの組み合わせである。
【0239】
この組成物は、皮下、皮内、筋肉内などの非経口投与、または経口投与のために使用される。このためには、ペプチドおよび任意選択的にその他の分子が、薬学的に許容可能な、好ましくは水性担体に溶解され、または懸濁される。さらに組成物は、緩衝液、結合剤、ブラスチング剤、希釈剤、風味、潤滑剤などの賦形剤を含有し得る。ペプチドはまた、サイトカインなどの免疫刺激物質と共に投与され得る。このような組成物中で使用され得る賦形剤の詳細な一覧は、例えば、A.Kibbe,Handbook of Pharmaceutical Excipients(Kibbe,2000)から採用され得る。組成物は、腺腫様またはがん性疾患の阻止、予防法および/または治療法のために使用され得る。例示的調合物は、例えば、欧州特許第2112253号明細書にある。
【0240】
本発明によるワクチンによって引き起こされる免疫応答は、異なる細胞分裂期および異なる発生段階のがんを攻撃することを理解することが重要である。さらに、異なるがん関連シグナル伝達経路が攻撃される。これは、1つまたは少数の標的のみに対処して、攻撃に対する腫瘍の容易な適応(腫瘍エスケープ)を引き起こすこともある、ワクチンに優る利点である。さらに個々の腫瘍の全てが、同一パターンの抗原を発現するとは限らない。したがって、いくつかの腫瘍関連ペプチドの組み合わせによって、ありとあらゆる腫瘍が標的の少なくとも一部を有することが確実になる。組成物は、それぞれの腫瘍が抗原のいくつかを発現することを予期して設計され、腫瘍の増殖と維持に必要ないくつかの独立した経路をカバーする。したがって、ワクチンは、より大きな患者集団のために、容易に「出来合」で使用され得る。これは、ワクチンで治療される患者の予備選択が、HLAタイピングに限定され得て、抗原発現に関する任意の追加的なバイオマーカーアセスメントを必要としないことを意味するが、いくつかの標的が誘導免疫応答によって同時に攻撃されることはなおも確実であり、これは有効性にとって重要である(Banchereau et al.,2001;Walter et al.,2012)。
【0241】
本明細書の用法では、「スキャフォールド」という用語は、(例えば、抗原性)決定因子に特異的に結合する分子を指す。一実施形態では、スキャフォールドはまた、それが付着する実体(例えば、(第2の)抗原結合部分)を例えば、抗原決定基(例えば本出願書に記載のペプチドとMHCの複合体)を有する特異的腫瘍細胞または腫瘍間質などの型標的部位に誘導できる。別の実施形態では、キャフォールドは、例えば、T細胞受容体複合体抗原などのその標的抗原を通じて、シグナル伝達を活性化できる。スキャフォールドとしては、抗体およびそれらのフラグメント、抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域を含んでなる抗体の抗原結合ドメイン、少なくとも1つのアンキリンリピートモチーフと単一ドメイン抗原結合(SDAB)分子とを含んでなる結合タンパク質、アプタマー、(可溶性)TCR、および同種または自己由来T細胞などの(改変)細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。分子が標的に結合するスキャフォールドであるかどうかを評価するために、結合アッセイが実施され得る。
【0242】
「特異的」結合は、特異的標的を保有する細胞を殺滅できる活性分子を装備したスキャフォールドが、特異的標的がないがその他のペプチド-MHC複合体を提示する別の細胞を殺滅できない程度に、スキャフォールドがその他の天然ペプチド-MHC-複合体よりもさらに良好に、目的ペプチド-MHC-複合体に結合することを意味する。交差反応性ペプチド-MHCのペプチドが天然に存在せず、すなわち、ヒトHLA-ペプチドームに由来しない場合、その他のペプチド-MHC複合体への結合は無関係である。標的細胞死滅を評価する試験は、当該技術分野で周知である。それらは、非改変ペプチド-MHC提示を有する標的細胞(初代細胞または細胞株)、または天然に存在するペプチド-MHCレベルに達するようにペプチドを負荷された細胞を使用して、実施されるべきである。
【0243】
各スキャフォールドは標識を含んでなり得て、それは、標識によって提供されるシグナルの存在または不在を判定することで、結合スキャフォールドが検出され得ることを提供する。例えば、スキャフォールドは、蛍光染料または任意のその他の適用可能な細胞マーカー分子で標識され得る。このようなマーカー分子は、当該技術分野で周知である。例えば、蛍光染料によって提供される蛍光標識は、蛍光またはレーザー走査顕微鏡またはフローサイトメトリーによる、結合アプタマーの視覚化を提供し得る。
【0244】
各スキャフォールドは、例えば、IL-21、抗-CD3、および抗-CD28などの第2の活性分子にコンジュゲートされ得る。ポリペプチドスキャフォールドに関するさらなる情報については、例えば国際公開第2014/071978A1号パンフレットの背景セクション、およびその中で引用された参考文献を参照されたい。
【0245】
本発明は、アプタマーにさらに関する。アプタマー(例えば、国際公開第2014/191359号パンフレット、およびその中で引用される文献を参照されたい)は、短い一本鎖核酸分子であり、それは、所定の三次元構造に折り畳まれて、特異的標的構造体を認識し得る。それらは、標的療法を開発するための適切な代案のようであった。アプタマーは、高い親和性および特異性で、多様な複合体標的と選択的に結合することが示されている。
【0246】
細胞表面に位置する分子を認識するアプタマーは、過去10年内に同定されており、診断および治療的アプローチを開発する手段を提供する。アプタマーは、毒性および免疫原性がほぼ皆無であることが示されているので、それらは生物医学的用途のための有望な候補である。確かに、例えば、前立腺特異的膜抗原認識アプタマーなどのアプタマーは、標的療法のために成功裏に用いられており、異種移植片生体内モデルにおいて機能できることが示されている。さらに、特異的腫瘍細胞株を認識するアプタマーが同定されている。
【0247】
DNAアプタマーは、様々ながん細胞、特に固形腫瘍に由来するものに対して広域スペクトル認識特性を示す一方で、非腫瘍発生性および主要健常細胞を認識しないように選択され得る。同定されたアプタマーが、特異的腫瘍サブタイプを認識するだけでなく、むしろ一連の腫瘍と相互作用する場合、これは、アプタマーをいわゆる広域スペクトル診断薬および治療薬として応用可能にする。
【0248】
さらに、フローサイトメトリーによる細胞結合挙動の調査は、アプタマーがナノモル濃度範囲内の非常に良好な見かけの親和性を見せたことを示した。
【0249】
アプタマーは、診断および治療目的で有用である。さらに、アプタマーの一部は腫瘍細胞に取り込まれ、したがって腫瘍細胞内へのsiRNAなどの抗がん剤の標的化送達のための分子ビヒクルとして、機能し得ることが示され得た。
【0250】
アプタマーは、細胞SELEX(試験管内進化法)技術を使用して、細胞および組織などの複合体標的に対して、および本発明による配列番号1~配列番号149のいずれかに記載の配列とMHC分子とを含んでなり、好ましくはそれからなるペプチド複合体などに対して、選択され得る。
【0251】
本発明のペプチドを使用して、MHC/ペプチド複合体に対する特異的抗体が生成され、開発され得る。これらは、毒素または放射性物質を患部組織に標的化する治療法のために、使用され得る。これらの抗体の別の用途は、PETなどのイメージング目的の放射性核種の患部組織への標的化であり得る。この用途は、小規模な転移の検出、または病的組織の大きさと正確な位置確認の判定を助け得る。
【0252】
したがってHLA拘束性抗原と複合体化した、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはIIと特異的に結合する、組換え抗体を製造する方法を提供することが、本発明のさらなる態様であり、方法は、前記ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはIIを発現する細胞を含んでなる、遺伝子操作された非ヒト哺乳類を前記HLA拘束性抗原と複合体化した可溶性形態のMHCクラスIまたはII分子によって免疫化するステップと;mRNA分子を前記非ヒト哺乳類の抗体産生細胞から単離するステップと;前記mRNA分子によってコードされるタンパク質分子を提示する、ファージディスプレイライブラリーを作製するステップと;少なくとも1つのファージを前記ファージディスプレイライブラリーから単離するステップとを含んでなり、前記少なくとも1つのファージは、前記HLA拘束性抗原と複合体化した前記ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはIIと特異的に結合する、前記抗体を提示する。
【0253】
HLA拘束性抗原と複合体化したヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはIIと特異的に結合する抗体を提供することも、本発明のさらなる態様であり、その中で抗体は、好ましくは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体および/またはキメラ抗体である。
【0254】
このような抗体および一本鎖クラスI主要組織適合性複合体を製造するそれぞれの方法、ならびにこれらの抗体を製造するためのその他のツールは、本発明の目的で、その内容全体が参照により全て明示的に援用される、国際公開第03/068201号パンフレット、国際公開第2004/084798号パンフレット、国際公開第01/72768号パンフレット、国際公開第03/070752号パンフレット、および文献(Cohen et al.,2003a;Cohen et al.,2003b;Denkberg et al.,2003)で開示される。
【0255】
好ましくは、抗体は,20ナノモル濃度未満、好ましくは10ナノモル濃度未満の結合親和性で複合体に結合し、それは本発明の文脈で「特異的」とも見なされる。
【0256】
本発明は、配列番号1~配列番号149からなる群から選択される配列、または配列番号1~配列番号149と少なくとも88%相同的な(好ましくは同一の)その変異型を含んでなるペプチド、またはT細胞を前記ペプチドと交差反応させるその変異型に関し、前記ペプチドは、基礎となる完全長ポリペプチドでない。
【0257】
本発明は、配列番号1~配列番号149からなる群から選択される配列、または、配列番号1~配列番号149と少なくとも88%相同的な(好ましくは同一の)その変異型を含んでなるペプチドにさらに関し、前記ペプチドまたは変異型は、8~100、好ましくは8~30、最も好ましくは8~14アミノ酸の全長を有する。
【0258】
本発明は、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスIまたはIIの分子に結合する能力を有する、本発明によるペプチドにさらに関する。
【0259】
本発明は、ペプチドが、配列番号1~配列番号149に記載のアミノ酸配列からなり、またはそれから本質的になる、本発明によるペプチドにさらに関する。
【0260】
本発明は、ペプチドが(化学的に)修飾された、および/または非ペプチド結合を含む、本発明によるペプチドにさらに関する。
【0261】
本発明は、本発明によるペプチドにさらに関し、ペプチドは、融合タンパク質の一部であり、特にHLA-DR抗原関連不変鎖(Ii)のN末端アミノ酸を含んでなり、またはペプチドは、例えば樹状細胞特異的抗体などの抗体に(またその中に)融合する。
【0262】
本発明は、本発明によるペプチドをエンコードする核酸にさらに関するが、ただしペプチドは完全(完全長)ヒトタンパク質でない。
【0263】
本発明は、DNA、cDNA、PNA、RNAまたはそれらの組み合わせである、本発明による核酸にさらに関する。
【0264】
本発明は、本発明による核酸を発現できる、発現ベクターにさらに関する。
【0265】
本発明は、医療において、特に膀胱がんの治療において使用するための本発明によるペプチド、本発明による核酸または本発明による発現ベクターにさらに関する。
【0266】
本発明は、本発明による核酸または本発明による発現ベクターを含んでなる、宿主細胞にさらに関する。本発明は、抗原提示細胞、好ましくは樹状細胞である、本発明による宿主細胞にさらに関する。
【0267】
本発明は、本発明による宿主細胞を培養するステップと、宿主細胞および/またはその培養液からペプチドを単離するステップとを含んでなる、本発明によるペプチドを製造する方法にさらに関する。
【0268】
本発明は、十分な量の抗原を抗原提示細胞に接触させることで、適切な抗原提示細胞の表面に発現されるクラスIまたはII MHC分子上に、抗原が負荷される、本発明による方法にさらに関する。
【0269】
本発明は、抗原提示細胞が、配列番号1~配列番号149または前記異アミノ酸配列を含有する、前記ペプチドを発現できる、発現ベクターを含んでなる、本発明による方法にさらに関する。
【0270】
本発明は、本発明による方法によって製造される活性化T細胞にさらに関し、前記T細胞は、本発明によるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを異常に発現する細胞を選択的に認識する。
【0271】
本発明は、本発明によるT細胞の有効数を患者に投与するステップを含んでなる、患者において、本発明による任意のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを異常に発現する標的細胞を死滅させる方法にさらに関する。
【0272】
本発明は、記載される任意のペプチド、本発明による核酸、本発明による発現ベクター、本発明による細胞、または本発明による活性化細胞傷害性Tリンパ球の、薬剤としての、または薬剤の製造における、使用にさらに関する。本発明は、薬剤ががんに対して有効である、本発明による使用にさらに関する。
【0273】
本発明は、薬剤がワクチンである、本発明による使用にさらに関する。本発明は、薬剤ががんに対して有効である、本発明による使用にさらに関する。
【0274】
本発明は、発明による使用にさらに関し、前記がん細胞は、膀胱がん細胞であり、あるいは急性骨髄性白血病(AML)、乳がん、胆管がん、脳がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、結腸直腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃がん、肝細胞がん(HCC)、メルケル細胞がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、腎細胞、小細胞肺がん(SCLC)、および子宮がんなどのその他の固体または血液学的腫瘍細胞である。
【0275】
本発明は、膀胱がんの診断および/または予後診断において使用され得る、本明細書で「標的」と称される、本発明によるペプチドベースの特定の標識タンパク質およびバイオマーカーにさらに関する。本発明はまた、がん治療のためのこれらの新規標的の使用に関する。
【0276】
「抗体(単数)」または「抗体(複数)」という用語は、本明細書では広義に使用され、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の双方を含む。無処理または「完全」免疫グロブリン分子に加えて、「抗体」という用語には、本発明による所望の特性(例えば、膀胱がんマーカー(ポリ)ペプチドの特異的結合、がんマーカー遺伝子を増大レベルで発現する膀胱がん細胞への毒素の送達、および/または膀胱がんマーカーポリペプチドの活性阻害)のいずれかを示しさえすれば、フラグメント(例えば、CDR、Fv、Fab、およびFcフラグメント)、またはこれらの免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子ヒト化バージョンのポリマーもまた含まれる。
【0277】
可能な場合は常に、本発明の抗体は、商業的供給元から購入されてもよい。また本発明の抗体は、周知の方法を使用して生成されてもよい。当業者は、本発明の抗体を生成するために、完全長膀胱がんマーカーポリペプチドまたはそのフラグメントのどちらを使用してもよいことを理解するであろう。本発明の抗体を製造するために使用されるポリペプチドは、天然原料から部分的にまたは完全に精製されてもよく、または組換えDNA技術を使用して製造されてもよい。
【0278】
例えば、配列番号1~配列番号149ポリペプチドに記載のペプチドなどの本発明によるペプチドをコードするcDNA、またはその変異型またはフラグメントが、原核細胞(例えば、細菌)または真核細胞(例えば、酵母、昆虫、または哺乳類細胞)で発現され得て、その後、組換えタンパク質が精製されて、本発明による抗体を生成するために使用される、膀胱がんマーカーポリペプチドに特異的に結合する、モノクローナルまたはポリクローナル抗体製剤を生成するために使用され得る。
【0279】
当業者は、モノクローナルまたはポリクローナル抗体の2つ以上の異なるセットの生成が、その目的の用途(例えば、ELISA、免疫組織化学的検査、生体内イメージング、免疫毒素療法)に必要な特異性および親和性を有する抗体を得る可能性を最大化することを理解するであろう。抗体は、それに対して抗体が使用される目的に従って、既知の方法によりそれらの所望の活性について試験された(例えば、ELISA、免疫組織化学的検査、免疫療法など;抗体の生成および試験のさらなるガイダンスについては、例えば、Greenfield,2014(Greenfield,2014)を参照されたい。例えば、抗体は、ELISAアッセイ、ウエスタンブロット、ホルマリン固定がんまたは冷凍組織切片の免疫組織化学染色で試験されてもよい。それらの最初の生体外特性解析後、治療または生体内診断用途を意図した抗体が、既知の臨床試験法によって試験される。
【0280】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書の用法では、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体を指し;すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量で存在してもよい可能な自然発生変異以外は同一である。本明細書では、「モノクローナル抗体」は、それらが所望の拮抗活性を示しさえすれば、その中で重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来しまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一または相同的である一方、鎖の残部は、別の種に由来しまたは別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一または相同的である、「キメラ」抗体、ならびにこのような抗体のフラグメントを特に含む(その内容全体が本明細書に援用される、米国特許第4,816,567号明細書)。
【0281】
本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法を使用して調製されてもよい。ハイブリドーマ法においては、マウスまたはその他の適切な宿主動物が免疫剤によって典型的に免疫化されて、免疫剤と特異的に結合する抗体を産生するまたは産生できるリンパ球を生じさせる。代案としては、リンパ球は、生体外で免疫化されてもよい。
【0282】
モノクローナル抗体はまた、米国特許第4,816,567号明細書に記載されるものなどの組換えDNA法によって製造されるものであってもよい。本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して、容易に単離および配列決定され得る(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合できる、オリゴヌクレオチドプローブの使用によって)。
【0283】
インビトロ法もまた、一価の抗体を調製するのに適する。抗体フラグメント、特にFabフラグメントを作製するための抗体の消化は、当該技術分野で既知の通例の技術を使用して達成され得る。例えば、消化は、パパインを使用して実施され得る。パパイン消化の例は、国際公開第94/29348号パンフレットおよび米国特許第4,342,566号明細書に記載される。抗体のパパイン消化は、それぞれ単一抗原結合部位を有するFabフラグメントと称される2つの同一の抗原結合フラグメントと、残りのFcフラグメントとを典型的に生じる。ペプシン処理は、F(ab’)2フラグメントおよびpFc’フラグメントをもたらす。
【0284】
抗体フラグメントは、その他の配列に付着するかどうかに関わりなく、フラグメントの活性が非修飾抗体または抗体フラグメントと比較して顕著に変化せずまたは損なわれないという条件で、特定領域または特定アミノ酸残基の挿入、欠失、置換、またはその他の選択された修飾もまた含み得る。これらの修飾は、ジスルフィド結合できるアミノ酸の除去/付加、そのバイオ寿命増大、その分泌特性改変などのいくつかの追加的な特性を提供し得る。いずれにしても、抗体フラグメントは、結合活性、結合領域における結合調節などの生理活性特性を有しなくてはならない。抗体の機能性または活性領域は、タンパク質の特定領域の変異誘発と、それに続く発現と、発現したポリペプチドの試験によって同定されてもよい。このような方法は、当該技術分野の熟練した実務家には容易に分かり、抗体フラグメントをエンコードする核酸の部位特異的変異誘発を含み得る。
【0285】
本発明の抗体は、ヒト化抗体またはヒト抗体をさらに含んでなってもよい。非ヒト(例えばマウス)抗体などのヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント(抗体のFv、Fab、Fab’またはその他の抗原結合部分配列など)である。ヒト化抗体としては、その中でレシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト生物種(ドナー抗体)のCDRからの残基によって置換される、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が挙げられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体または移入CDRまたはフレームワーク配列のどちらにも見いだされない、残基を含んでなってもよい。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つおよび典型的に2つの可変領域の実質的に全てを含んでなり、その中では、CDR領域の全てまたは実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン共通配列のものである。ヒト化抗体は、至適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部もまた含んでなる。
【0286】
非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該技術分野で周知である。通常、ヒト化抗体は、非ヒト起源から導入された、1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「移入」残基と称され、それは典型的に「移入」可変ドメインから得られる。ヒト化は、齧歯類CDR(複数)またはCDR(単数)配列を対応するヒト抗体配列によって置換することで、基本的に実施され得る。したがって、このような「ヒト化」抗体は、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号明細書)であり、その中では、実質的に完全でないヒト可変ドメインが、非ヒト生物種からの対応する配列によって置換されている。実際には、ヒト化抗体は典型的にヒト抗体であり、その中ではいくつかのCDR残基と、おそらくはいくつかのFR残基とが、齧歯類抗体中の類似部位からの残基によって置換される。
【0287】
免疫化に際して、内因性免疫グロブリン生成不在下で、ヒト抗体の完全レパートリーを産生できる遺伝子組換え動物(例えばマウス)を用い得る。例えば、キメラおよび生殖細胞系変異マウスにおける、抗体重鎖連結領域遺伝子のホモ接合型欠失が、内因性抗体生成の完全阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖細胞系変異マウスにおけるヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイの転写は、抗原チャレンジに際してヒト抗体の産生をもたらす。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリー中でも産生され得る。
【0288】
本発明の抗体は、好ましくは薬学的に許容できる担体中で、対象に投与される。典型的に、製剤中で適当量の薬理的に許容可能な塩が使用されて、製剤を等張にする。薬理的に許容可能な担体の例としては、生理食塩水、リンゲル液、およびデキストロース溶液が挙げられる。溶液のpHは、好ましくは約5~約8、より好ましくは約7~約7.5である。さらなる担体としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックス徐放性製剤が挙げられ、そのマトリックスは、例えば、フィルム、リポソームまたは微粒子などの造形品の形態である。当業者には、例えば、投与される抗体の投与経路と濃度次第で、特定の担体がより好ましくあってもよいことが明らかであろう。
【0289】
抗体は、注射(例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内)によって、またはその有効形態での血流への送達を確実にする輸液などのその他の方法によって、対象、患者、または細胞に投与され得る。抗体はまた、腫瘍内または腫瘍周囲経路によって投与されて、局所性ならびに全身性の治療効果を発揮してもよい。局所注射または静脈注射が好ましい。
【0290】
抗体を投与するための有効投与量およびスケジュールは、経験的に判定されてもよく、このような測定の実施は、当該技術分野の技術範囲内である。当業者は、投与しなくてはならない抗体用量が、例えば、抗体を投与される対象、投与経路、使用される特定の抗体型、および投与されるその他の薬剤次第で変動することを理解するであろう。単独使用される抗体の典型的な1日量は、上述の要素次第で、1日当たり約1(μg/kg~最大100mg/kg体重またはそれ以上の範囲に及ぶかもしれない。好ましくは膀胱がんを治療するための抗体投与に続いて、治療用抗体の効力が、熟練した実務家に良く知られている様々な方法で評価され得る。例えば、標準腫瘍イメージング技術を使用して、治療を受ける対象におけるがんの大きさ、数、および/または分布がモニターされてもよい。抗体投与不在下で起こるであろう疾患経過と比較して、腫瘍成長を停止させ、腫瘍収縮をもたらし、および/または新規腫瘍の発生を予防する、治療的に投与された抗体は、がん治療のための有効な抗体である。
【0291】
特異的ペプチド-MHC複合体を(特異的に)認識する可溶性T細胞受容体(sTCR)を製造する方法を提供することもまた、本発明のさらなる態様である。このような可溶性T細胞受容体は、特異的T細胞クローンから生成され得て、それらの親和性は、相補性決定領域を標的とする変異誘発によって増加され得る。T細胞受容体の選択目的で、ファージディスプレイが利用され得る(米国特許第2010/0113300号明細書、(Liddy et al.,2012))。ファージディスプレイ中に、そして薬剤として実用する際に、T細胞受容体を安定化させる目的で、例えば、非天然ジスルフィド結合、その他の共有結合(一本鎖T細胞受容体)、または二量体化ドメインによって、αおよびβ鎖を連結させ得る(Boulter et al.,2003;Card et al.,2004;Willcox et al.,1999)。T細胞受容体は、標的細胞上で特定機能を発揮させるために、毒素、薬剤、サイトカイン(例えば、米国特許第2013/0115191号明細書を参照されたい)、および抗CD3ドメインのようなエフェクター細胞動員ドメインなどに、連結させ得る。さらにそれは、養子免疫伝達のために使用されるT細胞において発現され得た。さらなる情報は、国際公開第2004/033685A1号パンフレットおよび国際公開第2004/074322A1号パンフレットにある。TCRの組み合わせは、国際公開第2012/056407A1号パンフレットに記載される。さらなる製造法は、国際公開第2013/057586A1号パンフレットで開示される。
【0292】
さらに本発明のペプチドおよび/またはTCRまたは抗体またはその他の結合分子を使用して、病理学者の生検サンプルに基づくがん診断を確認し得る。
【0293】
抗体またはTCRはまた、生体内診断アッセイのために使用されてもよい。通常、抗体は、腫瘍が位置確認され得るように、免疫シンチグラフィー(immunoscintiography)を使用して、放射性ヌクレオチド(111In、99Tc、14C、131I、3H、32Pまたは35Sなど)で標識される。一実施形態では、抗体またはそれらのフラグメントは、上述のタンパク質からなる群から選択されるタンパク質の2つ以上の標的の細胞外ドメインに結合し、親和性(Kd)は1×10μM未満である。
【0294】
診断用の抗体は、様々なイメージング法による検出に適するプローブで標識されてもよい。プローブの検出方法としては、蛍光、光学、共焦点および電子顕微鏡検査;磁気共鳴画像法および分光法;蛍光透視法、コンピュータ断層撮影および陽電子放射型断層撮影法が挙げられるが、これに限定されるものではない。適切なプローブとしては、フルオレセイン、ローダミン、エオジンおよびその他のフルオロフォア、放射性同位体、金、ガドリニウムおよびその他のランタニド、常磁性鉄、フッ素18およびその他の陽電子放出放射性核種が挙げられるが、これに限定されるものではない。さらに、プローブは二官能価または多官能価であってもよく、列挙される方法の2つ以上によって検出可能であってもよい。これらの抗体は、前記プローブで直接または間接的に標識されてもよい。特に十分に技術分野で承認されている、プローブの抗体への付着としては、プローブの共有結合、プローブの抗体への組み込み、およびプローブ結合のためのキレート化合物の共有結合が挙げられる。免疫組織化学的検査では、疾患組織サンプルは、新鮮または冷凍であってもよく、またはパラフィン包埋されてホルマリンなどの保存料で固定されてもよい。サンプルを含有する固定または包埋切片は、標識一次抗体および二次抗体と接触されて、抗体を使用して原位置タンパク質発現が検出される。
【0295】
本発明の別の態様は、活性化T細胞を製造するインビトロ法を含み、方法は、生体外T細胞を、適切な抗原提示細胞の表面に発現される抗原負荷ヒトMHC分子に、T細胞を抗原特異的様式で活性化するのに十分な時間にわたり接触させるステップを含んでなり、抗原は本発明によるペプチドである。好ましくは、抗原提示細胞と共に、十分な量の抗原が使用される。
【0296】
好ましくは、哺乳類細胞は、TAPペプチド輸送体のレベルまたは機能が皆無でありまたは低下している。TAPペプチド輸送体が欠如している適切な細胞としては、T2、RMA-S、およびショウジョウバエ細胞が挙げられる。TAPは、抗原プロセシングに関連する輸送体である。
【0297】
ヒトペプチド負荷欠乏細胞系T2は、カタログ番号CRL1992の下に、米国郵便番号20852メリーランド州ロックビル市パークロウンドライブ12301番地の米国微生物系統保存機関から入手でき;ショウジョウバエ細胞株Schneider株2は、カタログ番号CRL19863の下にATCCから入手でき;マウスRMA-S細胞株は、Ljunggren et al.(Ljunggren and Karre,1985)に記載される。
【0298】
好ましくは、移入前に、宿主細胞は、MHCクラスI分子を実質的に発現しない。刺激因子細胞が、B7.1、B7.2、ICAM-1、およびLFA3のいずれかなどのT細胞のための共刺激シグナルを提供するのに重要な分子を発現することもまた好ましい。多数のMHCクラスI分子および共刺激因子分子の核酸配列は、GenBankおよびEMBLデータベースから公的に入手可能である。
【0299】
MHCクラスIエピトープが抗原として使用される場合、T細胞はCD8陽性T細胞である。
【0300】
抗原提示細胞が、このようなエピトープを発現するために形質移入される場合、好ましくは、細胞は、配列番号1~配列番号149、またはその変異アミノ酸配列を含有するペプチドを発現する能力がある発現ベクターを含んでなる。
【0301】
生体外でT細胞を製造するために、その他のいくつかの方法が使用されてもよい。例えば、自己由来腫瘍浸潤性リンパ球が、CTLを生成するために使用され得る。Plebanski et al.(Plebanski et al.,1995)は、T細胞の調製において、自己由来末梢血リンパ球(PLB)を利用した。さらに、樹状細胞をペプチドまたはポリペプチドでパルス処理する、または組換えウイルスで感染させることによる、自己由来T細胞の製造も可能である。B細胞もまた、自己由来T細胞の製造において使用され得る。さらに、ペプチドまたはポリペプチドでパルス処理された、または組換えウイルスで感染されたマクロファージが、自己CTLの調製において使用されてもよい。S.Walter et al.(Walter et al.,2003)は、人工抗原提示細胞(aAPC)を使用したT細胞の生体外プライミングを記載し、それはまた、選択されたペプチドに対するT細胞を製造するための適切な方法でもある。本発明では、ビオチン:ストレプトアビジン生化学によって、あらかじめ形成されたMHC:ペプチド複合体を表面ポリスチレン粒子(ミクロビーズ)に共役することで、aAPCが生成された。このシステムは、aAPC上のMHC密度の正確な調節を可能にし、それは、血液サンプルから高効率で、高または低結合活性の抗原特異的T細胞応答を選択的に引き起こすことを可能にする。MHC:ペプチド複合体の他に、aAPCは、それらの表面に共役する、抗CD28抗体のような共刺激活性を有するその他のタンパク質を保有すべきである。さらに、このようなaAPCベースのシステムは、例えばサイトカイン様インターロイキン12などの適切な可溶性因子の付加を要することが多い。
【0302】
同種異系細胞はまた、T細胞の調製において使用されてもよく、方法は、参照により本明細書に援用される、国際公開第97/26328号パンフレットで詳述される。例えば、ショウジョウバエ細胞およびT2細胞に加えて、その他の細胞を使用して、CHO細胞、バキュロウイルス感染昆虫細胞、細菌、酵母、およびワクシニア感染標的細胞などの抗原が提示されてもよい。さらに植物ウイルスが使用されてもよい(例えば、外来性ペプチド提示のための高収率システムとしてのササゲモザイクウイルス開発を記載するPorta et al.(Porta et al.,1994)を参照されたい)。
【0303】
本発明のペプチドに向けられた活性化T細胞は、治療法において有用である。したがって、本発明のさらなる態様は、前述の本発明の方法によって入手可能な活性化T細胞を提供する。
【0304】
上記方法によって製造される活性化T細胞は、配列番号1~配列番号149のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを異常に発現する細胞を選択的に認識する。
【0305】
好ましくは、T細胞は、そのTCRを通じた、HLA/ペプチド複合体(例えば結合)との相互作用によって、細胞を認識する。T細胞は、その標的細胞が、本発明のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを異常に発現する患者において、標的細胞を死滅させる方法で有用であり、患者には有効数の活性化T細胞が投与される。患者に投与されるT細胞は、患者に由来して、上述のように活性化されてもよい(すなわち、それらは自己T細胞である)。代案としては、T細胞は、患者でなく別の個人に由来する。もちろん、個人が健常人であれば、それが好ましい。「健常人」によって、本発明者らは、個人が概して健康良好であり、好ましくは有能な免疫系を有して、より好ましくは容易に検査され検出され得るいかなる疾患にも罹患していないことを意味する。
【0306】
生体内で、本発明によるCD8陽性T細胞の標的細胞は、(時にMHCクラスIIを発現する)腫瘍細胞であり得て、および/または(時にMHCクラスIIもまた発現する;(Dengjel et al.,2006))腫瘍(腫瘍細胞)周囲の間質細胞であり得る。
【0307】
本発明のT細胞は、治療用組成物の活性成分として使用されてもよい。したがって、本発明は、その標的細胞が、本発明のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを異常に発現する患者において、標的細胞を死滅させる方法もまた提供し、方法は、上で定義されるようなT細胞の有効数を患者に投与するステップを含んでなる。
【0308】
「異常に発現される」によって、本発明者らは、正常組織における発現レベルと比較して、ポリペプチドが過剰発現されること、または腫瘍がそれに由来する組織においては遺伝子がサイレントであるが、腫瘍においてはそれが発現されることもまた意味する。「過剰発現」によって、本発明者らは、ポリペプチドが、正常組織に存在するレベルの少なくとも1.2倍のレベルで;好ましくは正常組織に存在するレベルの少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍または10倍のレベルで存在することを意味する。
【0309】
T細胞は、例えば上で記載されるものなどの当該技術分野で公知の方法によって得られてもよい。
【0310】
T細胞のこのいわゆる養子免疫伝達のためのプロトコルは、当該技術分野で周知である。レビューは、Gattioni et al.およびMorgan et al.(Gattinoni et al.,2006;Morgan et al.,2006)にある。
【0311】
本発明の別の態様は、その核酸がクローン化されて、好ましくはT細胞である宿主細胞に導入されるT細胞受容体を生成するための、MHCと複合体形成するペプチドの使用を含む。次に、この遺伝子操作T細胞は、がん治療のために患者に移入され得る。
【0312】
本発明の任意の分子、すなわちペプチド、核酸、抗体、発現ベクター、細胞、活性化T細胞、T細胞受容体またはそれをエンコードする核酸は、免疫応答を逃れた細胞によって特徴付けられる障害の治療に有用である。したがって本発明の任意の分子は、薬剤として、または薬剤の製造において使用されてもよい。分子は、単独で、または本発明のその他の分子または既知の分子との組み合わせで、使用されてもよい。
【0313】
本発明は、
(a)溶液中のまたは凍結乾燥形態の上述の医薬組成物を含有する容器;
(b)任意選択的に、凍結乾燥製剤のための希釈剤または再構成溶液を含有する第2の容器;
(c)任意選択的に、(i)溶液の使用、または(ii)凍結乾燥製剤の再構成および/または使用のための取扱説明書を含んでなるキットをさらに目的とする。
【0314】
キットは、(iii)緩衝液、(iv)希釈剤、(v)濾過、(vi)針、または(v)シリンジの1つまたは複数をさらに含んでなってもよい。容器は、好ましくは、ボトル、バイアル、シリンジまたは試験管であり;それは、多回使用容器であってもよい。医薬組成物は、好ましくは凍結乾燥される。
【0315】
本発明のキットは、好ましくは、適切な容器内の本発明の凍結乾燥製剤と、その再構成および/または使用のための取扱説明書とを含んでなる。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル(例えば二重チャンバーバイアル)、シリンジ(二重チャンバーシリンジなど)、および試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの多様な材料から形成されてもよい。好ましくは、キットおよび/または容器は、容器上の、または容器に付随する、取扱説明を含み、それは再構成および/または使用上の指示を示す。例えば、ラベルは、凍結乾燥製剤が、上述されるようなペプチド濃度に再構成されることを表示してもよい。ラベルは、製剤が皮下投与に有用であり、または皮下投与用であることをさらに表示してもよい。
【0316】
製剤を収容する容器は、多回使用バイアルであってもよく、それは再構成製剤の反復投与(例えば2~6回の投与)を可能にする。キットは、適切な希釈剤(例えば、炭酸水素ナトリウム溶液)を含んでなる、第2の容器をさらに含んでなってもよい。
【0317】
希釈剤と凍結乾燥製剤の混合時に、再構成製剤中の最終ペプチド濃度は、好ましくは少なくとも0.15mg/mL/ペプチド(=75μg)であり、好ましくは3mg/mL/ペプチド(=1500μg)以下である。キットは、その他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および取扱説明が掲載されるパッケージインサートをはじめとする商業的および使用者観点から望ましい、その他の物品をさらに含んでもよい。
【0318】
本発明のキットは、その他の構成要素(例えば、その他の化合物またはこれらのその他の化合物の医薬組成物)が添加されたまたは添加されない、本発明による医薬組成物製剤を含有する単回容器を有してもよく、または各構成要素のための別個の容器を有してもよい。
【0319】
好ましくは、本発明のキットは、第2の化合物(アジュバント(例えばGM-CSF)、化学療法剤、天然物、ホルモンまたは拮抗薬、抗血管新生因子または阻害剤、アポトーシス誘導剤またはキレート剤など)またはその医薬組成物の同時投与と合わせて使用するためにパッケージされた、本発明の製剤を含む。キットの構成要素は、あらかじめ混合されてもよく、または各構成要素は、患者への投与前に別個の異なる容器内にあってもよい。キットの構成要素は、1つまたは複数の液体溶液、好ましくは水溶液、より好ましくは無菌水溶液中で、提供されてもよい。またキットの構成要素は、固体として提供されてもよく、それは、好ましくは別の異なる容器内に提供される、適切な溶媒の添加によって液体に変換されてもよい。
【0320】
治療用キットの容器は、バイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または固体または液体を封入するその他のあらゆる手段であってもよい。通常、2つ以上の構成要素がある場合、キットは、第2のバイアルまたはその他の容器を含有して、別々の投薬を可能にする。キットは、薬学的に許容可能な液体のための別の容器もまた、含有してもよい。好ましくは、治療用キットは、装置(例えば、1本または複数本の針、シリンジ、点眼器、ピペットなど)を含有して、本キットの構成要素である本発明の作用物質の投与を可能にする。
【0321】
本製剤は、経口(腸内)、経鼻、眼、皮下、皮内、筋肉内、静脈内または経皮などの任意の許容できる手段によるペプチド投与に適するものである。好ましくは、投与はs.c.であり、最も好ましくはi.d.投与であり、輸液ポンプによってもよい。
【0322】
本発明のペプチドは膀胱がんから単離されたので、本発明の薬剤は、好ましくは膀胱がんを治療するために使用される。
【0323】
本発明は、予備スクリーニングTUMAPの貯蔵庫から選択される少なくとも1つのペプチドを含んでなる、医薬組成物を製造するステップを含んでなる、個々の患者のための個別化医薬品を製造する方法にさらに関し、医薬組成物中で使用される少なくとも1つのペプチドは、個々の患者における適切さについて選択される。一実施形態では、医薬組成物はワクチンである。方法はまた、TCR単離などの下流用途、または可溶性抗体、およびその他の治療選択肢のためのT細胞クローンを製造するためにも適応され得る。
【0324】
「個別化医薬品」は、積極的個別化がんワクチンおよび自己由来患者組織を使用した養子細胞療法をはじめとするこのような個々の患者の治療のためにのみ使用される、一個人の患者のために特に調整された治療法を意味するものとする。
【0325】
本明細書の用法では、「貯蔵庫」という用語は、特定の腫瘍型における免疫原性および/または過剰提示について予備スクリーニングされている、一群のまたは一組のペプチドを指すものとする。「貯蔵庫」という用語は、ワクチンに含まれる特定のペプチドが、予備製造されて物理的設備内で貯蔵されることを暗示することは意図されないが、その可能性も検討される。ペプチドは、製造される各個別化ワクチンのために新規に製造されてもよく、または予備製造されて貯蔵されてもよいことが、明示的に検討される。貯蔵庫(例えば、データベースの形態)は、多様なHLA-AHLA-BおよびHLA-C対立遺伝子を有する膀胱がん患者の腫瘍組織において高度に過剰発現される、腫瘍関連ペプチドから構成される。それは、MHCクラスIおよびMHCクラスIIペプチドまたは伸長MHCクラスIペプチドを含有してもよい。いくつかの膀胱がん組織から採取された腫瘍関連ペプチドに加えて、貯蔵庫は、HLA-A*02およびHLA-A*24標識ペプチドを含有してもよい。これらのペプチドは、TUMAPによって誘導されるT細胞免疫の規模を定量的に比較できるようにし、したがって抗腫瘍応答を引き起こすワクチンの能力について、重要な結論が導かれるようにする。第2に、それらは、患者において、「自己」抗原に由来するTUMAPに対するいかなるワクチン誘導T細胞応答も観察されない症例において、「非自己」抗原に由来する重要な陽性対照ペプチドとして機能する。第3に、それは、患者の免疫能力状態に関する結論が導かれるようにしてもよい。
【0326】
貯蔵庫のためのTUMAPは、遺伝子発現解析、質量分析、およびT細胞免疫学(XPresident(登録商標))を組み合わせた、統合ゲノム機能解析アプローチを使用して同定される。アプローチは、高い割合の腫瘍上に真に存在するが、正常組織上では発現されず、または最小限にのみ発現されるTUMAPだけが、さらなる分析のために選択されることを保証する。最初のペプチド選択のために、患者に由来する膀胱がんサンプルおよび健常ドナーに由来する血液を段階的アプローチで分析した:
1.悪性物質からのHLAリガンドを質量分析法によって同定した
2.ゲノム規模メッセンジャーリボ核酸(mRNA)発現解析を使用して、一連の正常器官および組織と比較して悪性組織(膀胱がん)中の遺伝子過剰発現を同定した
3.同定されたHLAリガンドを遺伝子発現データと比較した。好ましくは、ステップ2で検出されたような選択的に発現されまたは過剰発現される遺伝子によってコードされる、腫瘍組織上で過剰提示されまたは選択的に提示されるペプチドが、多重ペプチドワクチンのための適切なTUMAP候補と見なされた。
4.同定されたペプチドのTUMAPとしての妥当性を支持する追加的な証拠を同定するために、文献調査を実施した
5.mRNAレベルでの過剰発現の関連性をステップ3からの選択されたTUMAPの腫瘍組織上における再検出と、健常組織における検出の欠如(またはまれな)検出によって確認した。
6.選択されたペプチドによる生体内T細胞応答の誘導が可能かどうかを評価するために、健常ドナーならびに膀胱がん患者からのヒトT細胞を使用して、生体外免疫原性アッセイを実施した。
【0327】
一態様では、貯蔵庫に含める前に、ペプチドが免疫原性について予備スクリーニングされる。制限を意図しない一例として、貯蔵庫に包含されるペプチドの免疫原性は、ペプチド/MHC複合体および抗CD28抗体が負荷された人工抗原提示細胞による、健常ドナーからのCD8+T細胞の反復刺激を通じた、生体外T細胞プライミングを含んでなる方法によって判定される。
【0328】
この方法は、稀ながんに、そして稀な発現プロファイルを有する患者にとって、好ましい。一定組成を有する多重ペプチド混合物とは対照的に、現在開発されている貯蔵庫は、腫瘍における抗原の実際の発現とワクチンとの顕著により高いマッチングを可能にする。多標的アプローチでは、各患者のために、選択された単一のまたは組み合わされた数種の「既製」ペプチドが利用される。理論上は、例えば50個の抗原性ペプチドのライブラリーからの5個の異なる抗原性ペプチドの選択に基づくアプローチは、それだけでおよそ1700万個の可能な医薬品(DP)組成物をもたらす。
【0329】
一態様では、ペプチドは、本明細書に記載される、または以下のような本発明による方法に基づく、個々の患者に対するそれらの適切さに基づいて、ワクチンへの包含のために選択される。
【0330】
HLA表現型、トランスクリプトミクスおよびペプチドミクスデータが、患者の腫瘍材料および血液サンプルから収集されて、「貯蔵庫」および患者に特有の(すなわち変異)TUMAPを含有する、各患者に対して最も適切なペプチドが同定される。患者の腫瘍において選択的にまたは過剰発現されて、可能であれば、患者の個々のPBMCと共に試験すると、強力な生体外免疫原性を示すペプチドが選択される。
【0331】
好ましくは、ワクチンに含まれるペプチドは、(a)個々の患者からの腫瘍サンプルによって提示される腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を同定するステップと;(b)(a)で同定されたペプチドを上述のペプチド貯蔵庫(データベース)と比較するステップと;(c)少なくとも1つのペプチドを患者において同定された腫瘍関連ペプチドに関連がある貯蔵庫(データベース)から選択するステップとを含んでなる方法によって同定される。例えば、腫瘍サンプルによって提示されるTUMAPは、(a1)前記腫瘍サンプルからの発現データを前記腫瘍サンプルの組織型に対応する正常組織サンプルからの発現データと比較して、前記腫瘍サンプルにおいて過剰発現されまたは異常に発現されるタンパク質を同定するステップと;(a2)発現データを腫瘍サンプル中のMHCクラスIおよび/またはクラスII分子と結合しているMHCリガンドの配列と相関させて、腫瘍によって過剰発現されまたは異常に発現されるタンパク質に由来するMHCリガンドを同定するステップとによって同定される。好ましくは、MHCリガンドの配列は、腫瘍サンプルから単離されたMHC分子から結合ペプチドを溶出させて、溶出したリガンドを配列決定することで同定される。好ましくは、腫瘍サンプルおよび正常組織は、同一患者から入手される。
【0332】
貯蔵庫(データベース)モデルを使用してペプチドを選択するのに加えて、またはその代案として、TUMAPを患者において新規に同定し、次に、ワクチンに含めてもよい。一例として、(a1)前記腫瘍サンプルからの発現データを前記腫瘍サンプルの組織型に対応する正常組織サンプルからの発現データと比較して、前記腫瘍サンプルにおいて過剰発現されまたは異常に発現されるタンパク質を同定するステップと;(a2)発現データを腫瘍サンプル中のMHCクラスIおよび/またはクラスII分子と結合しているMHCリガンドの配列と相関させて、腫瘍によって過剰発現されまたは異常に発現されるタンパク質に由来するMHCリガンドを同定するステップとによって、候補TUMAPが患者において同定されてもよい。別の実施例として、個々の患者からの正常な対応組織と比較して、腫瘍サンプルに特有の変異を含有するタンパク質が同定されてもよく、特異的に変異を標的とするTUMAPが同定され得る。例えば、腫瘍のゲノム、および対応する正常組織のゲノムは、全ゲノム配列決定によって配列決定され得る。遺伝子のタンパク質コード領域における非同義の変異を発見するために、ゲノムDNAおよびRNAが腫瘍組織から抽出され、正常な非変異ゲノム生殖細胞系DNAが末梢血単核細胞(PBMC)から抽出される。適用されたNGSアプローチは、タンパク質コード領域の再配列決定(エクソーム再配列決定)に限定される。この目的で、供給業者が提供する標的富化キットを使用して、ヒトサンプルからのエクソンDNAが捕捉され、例えばHiSeq2000(Illumina)による配列決定がそれに続く。それに加えて、遺伝子発現の直接定量化と、変異遺伝子が患者の腫瘍において発現されることの妥当性評価とのために、腫瘍mRNAが配列決定される。結果として得られる数百万の配列読み取りは、ソフトウェアアルゴリズムを通じて処理される。出力一覧は、変異および遺伝子発現を含有する。PBMC由来生殖細胞系の多様性と比較することで腫瘍特異的体細胞変異が判定され、優先順位がつけられる。次に、新規に同定されたペプチドは、貯蔵庫について上述した免疫原性について試験され得て、適切な免疫原性を保持する候補TUMAPが、ワクチンへの包含のために選択される。
【0333】
例示的一実施形態では、ワクチンに包含されるペプチドは、(a)個々の患者からの腫瘍サンプルによって提示される腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を上述の方法によって同定するステップと;(b)a)で同定されたペプチドを対応する正常組織との比較で腫瘍における免疫原性および過剰提示について予備選別されたペプチドの貯蔵庫と比較するステップと;(c)少なくとも1つのペプチドを患者において同定された腫瘍関連ペプチドに関連がある貯蔵庫から選択するステップと;(d)任意選択的に、(a)で新規に同定された少なくとも1つのペプチドを選択して、その免疫原性を確認するステップとによって同定される。
【0334】
例示的一実施形態では、ワクチンに包含されるペプチドは、(a)個々の患者からの腫瘍サンプルによって提示される腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を同定するステップと;(b)(a)で新規に同定された少なくとも1つのペプチドを選択して、その免疫原性を確認するステップとによって同定される。
【0335】
ひとたび個別化ペプチドベースのワクチンのためのペプチドを選択したら、ワクチンを製造する。ワクチンは、好ましくは、約33%DMSOなどの20~40%DMSO、好ましくは約30~35%DMSOに溶解された、個々のペプチドからなる液体製剤である。
【0336】
製品に包含される各ペプチドをDMSOに溶解する。単一ペプチド溶液の濃度は、製品に包含されるペプチド数に応じて選択しなくてはならない。単一ペプチドDMSO溶液を等量で混合し、ペプチド当たり約2.5mg/mlの濃度で、製品に包含される全てのペプチドを含有する溶液を得る。次に、混合溶液を注射用水で1:3に希釈して、33%DMSO中でペプチド当たり0.826mg/mlの濃度を得る。希釈溶液を0.22μmの無菌フィルターを通して濾過する。最終バルク溶液を得る。
【0337】
最終バルク溶液をバイアルに充填して、使用時まで-20℃で保存する。1本のバイアルは、0.578mgの各ペプチドを含有する700μLの溶液を含有する。このうち、500μL(ペプチド当たりおよそ400μg)を皮内注射のために適用する。
【0338】
がんを治療するために有用であるのに加えて、本発明のペプチドは、診断法としてもまた有用である。ペプチドは膀胱がん細胞から生成されたので、そしてこれらのペプチドは正常組織には存在せずまたはより低レベルで存在すると判定されたので、これらのペプチドを利用してがんの存在を診断し得る。
【0339】
特許請求されるペプチドの血液サンプル中の組織生検上の存在は、がん診断において病理学者を補佐し得る。抗体、質量分析法またはその他の当該技術分野で公知の方法の手段による特定のペプチドの検出は、組織サンプルが悪性、または炎症性または概して病的であり、または膀胱がんのためのバイオマーカーとして利用され得ることを病理学者に告げ得る。ペプチド基の存在は、病的組織の分類または下位分類を可能にし得る。
【0340】
患部組織検体上のペプチドの検出は、特にTリンパ球が作用機序に関与することが知られておりまたは予測される場合に、免疫系が関与する治療法の利点を判定できるようにする。MHC発現の喪失は、それによって感染悪性細胞が免疫監視を逃れる、十分に説明された機序である。したがってペプチドの存在は、この機序が、分析した細胞によって活用されていないことを示す。
【0341】
本発明のペプチドは、ペプチドまたはMHC分子と複合体化したペプチドに対するT細胞応答または抗体応答などの、これらのペプチドに対するリンパ球応答を分析するのに使用されるかもしれない。これらのリンパ球応答は、さらなる治療段階を決定するための予後マーカーとして使用され得る。これらの応答はまた、例えば、タンパク質、核酸、自己材料のワクチン接種や、リンパ球の養子免疫伝達などの異なる手段によるリンパ球応答の誘導を目指す、免疫療法アプローチにおける代理応答マーカーとして使用され得る。遺伝子治療の設定では、副作用の評価において、ペプチドに対するリンパ球応答が考慮され得る。リンパ球応答のモニタリングはまた、例えば移植片対宿主病および宿主対移植片病の検出など、移植治療の経過観察検査のための有益な手段かもしれない。
【0342】
本発明をここで、その好ましい実施形態を描写する以下の実施例において、添付図面を参照して説明するが、それでもなお、それらには限定されないものとする。本発明の目的で、本明細書で引用される全ての参考文献は、その内容全体が参照により援用される。
【図面の簡単な説明】
【0343】
図1A-1Rは、正常組織(白色バー)および膀胱がん(黒色バー)における、様々なペプチドの過剰提示を示す。
【0344】
【
図1A】遺伝子記号:GATA3、ペプチド:VLFNIDGQGNHV(配列番号110);組織左から右へ:3脂肪組織、3副腎、16血液細胞、15血管、9骨髄、10脳、7乳房、6食道、2眼、3胆嚢、6心臓、12腎臓、19大腸、19肝臓、45肺、7リンパ節、8神経、3卵巣、8膵臓、3副甲状腺、1腹膜、5脳下垂体、6胎盤、3胸膜、3前立腺、7唾液腺、5骨格筋、12皮膚、3小腸、11脾臓、5胃、4精巣、2胸腺、2甲状腺、9気管、6尿管、5子宮、8膀胱、15膀胱がん.ペプチドは、3/15の膀胱がん上でさらに検出された。
【
図1B】遺伝子記号:KRT7、ペプチド:GLLKAYSIRTA(配列番号2);組織左から右へ:3脂肪組織、3副腎、16血液細胞、15血管、9骨髄、10脳、7乳房、6食道、2眼、3胆嚢、6心臓、12腎臓、19大腸、19肝臓、45肺、7リンパ節、8神経、3卵巣、8膵臓、3副甲状腺、1腹膜、5脳下垂体、6胎盤、3胸膜、3前立腺、7唾液腺、5骨格筋、12皮膚、3小腸、11脾臓、5胃、4精巣、2胸腺、2甲状腺、9気管、6尿管、5子宮、8膀胱、15膀胱がん.ペプチドは、3/15の膀胱がん上でさらに検出された。
【
図1C】遺伝子記号:CXorf57、ペプチド:YLDPSLNSL(配列番号112);組織左から右へ:3脂肪組織、3副腎、16血液細胞、15血管、9骨髄、10脳、7乳房、6食道、2眼、3胆嚢、6心臓、12腎臓、19大腸、19肝臓、45肺、7リンパ節、8神経、3卵巣、8膵臓、3副甲状腺、1腹膜、5脳下垂体、6胎盤、3胸膜、3前立腺、7唾液腺、5骨格筋、12皮膚、3小腸、11脾臓、5胃、4精巣、2胸腺、2甲状腺、9気管、6尿管、5子宮、8膀胱、15膀胱がん.ペプチドは、3/15の膀胱がん上でさらに検出された。
【
図1D】遺伝子記号:DYNC1H、ペプチド:FVFEPPPGV(配列番号113);組織左から右へ:3脂肪組織、3副腎、16血液細胞、15血管、9骨髄、10脳、7乳房、6食道、2眼、3胆嚢、6心臓、12腎臓、19大腸、19肝臓、45肺、7リンパ節、8神経、3卵巣、8膵臓、3副甲状腺、1腹膜、5脳下垂体、6胎盤、3胸膜、3前立腺、7唾液腺、5骨格筋、12皮膚、3小腸、11脾臓、5胃、4精巣、2胸腺、2甲状腺、9気管、6尿管、5子宮、8膀胱、15膀胱がん.ペプチドは、2/15の膀胱がん上でさらに検出された。
【
図1E】遺伝子記号:SNRNP70、ペプチド:YLAPENGYLMEA(配列番号15);組織左から右へ:1細胞株(1腎臓)、25がん組織(2結腸がん、1白血病、3肝臓がん、6肺がん、3リンパ節がん、3前立腺がん、2皮膚がん、3膀胱がん、2子宮がん)。
【
図1F】ペプチド:GLWHGMFANV(配列番号10);組織左から右へ:8細胞株(1頭頸部、1卵巣、2リンパ球、3皮膚、1頭頸部)、1正常組織(1脾臓)、25がん組織(1脳がん、1白血病、1骨髄がん、1乳がん、3結腸がん、2肝臓がん、1頭頸部がん、1皮膚がん、2卵巣がん、2脳がん、7肺がん、3膀胱がん);
【
図1G】ペプチド:RLSQLEGVNV(配列番号17);組織左から右へ:7細胞株(1リンパ球、2皮膚、4膵臓)、1正常組織(1副腎)、15がん組織(1肝臓がん、2頭頸部がん、2卵巣がん、1肺がん、1腎臓がん、3肺がん、4膀胱がん、1子宮がん);
【
図1H】ペプチド:GLALLYSGV(配列番号26);組織左から右へ:7細胞株(1膀胱、3白血球、3膵臓)、1正常組織(1肺)、18がん組織(1骨髄がん、1乳がん、1白血病、7肝臓がん、2皮膚がん、1胃がん、1肺がん、3膀胱がん、1子宮がん);
【
図1I】ペプチド:GLIDSLMAYV(配列番号28);組織左から右へ:2正常組織(1頭頸部、1胸腺)、27がん組織(11頭頸部がん、1皮膚がん、1リンパ節がん、2食道がん、9肺がん、3膀胱がん);
【
図1J】ペプチド:SLIGGTNFV(配列番号49);組織左から右へ:3正常組織(2リンパ節、1脾臓)、38がん組織(1骨髄性細胞がん、2白血病、1骨髄がん、1前立腺がん、3乳がん、1白血病、2結腸がん、7肝臓がん、2皮膚がん、8リンパ節がん、1食道がん、4肺がん、3膀胱がん、2子宮がん);
【
図1K】ペプチド:ILLRDLPTL(配列番号56);組織左から右へ:14細胞株(9リンパ球、4良性、1膵臓)、11正常組織(1食道、2肝臓、3肺、1副甲状腺、1脾臓、1胃、1甲状腺、1子宮)、72がん組織(17前立腺がん、4乳がん、2結腸がん、1胆管がん、1胆嚢がん、1肝臓がん、2頭頸部がん、1皮膚がん、5リンパ節がん、3卵巣がん、2食道がん、1食道および胃がん、1胃がん、20肺がん、1膵臓がん、7膀胱がん、3子宮がん);
【
図1L】ペプチド:GLDSSVNVQGSVL(配列番号58);組織左から右へ:2細胞株(2白血球)、7正常組織(1副腎、1リンパ節、5脾臓)、40がん組織(1結腸がん、1胆管がん、1肝臓がん、2頭頸部がん、2皮膚がん、4リンパ節がん、6卵巣がん、1食道および胃がん、1胃がん、17肺がん、3膀胱がん、1子宮がん);
【
図1M】ペプチド:HLLDSKVPSV(配列番号85);組織左から右へ:2正常組織(2脾臓)、25がん組織(1結腸がん、2肝臓がん、2頭頸部がん、2卵巣がん、2食道がん、1脳がん、12肺がん、3膀胱がん);
【
図1N】ペプチド:ALIGDDVGL(配列番号99);組織左から右へ:6正常組織(2白血球サンプル、1リンパ球、1膵臓、1脾臓、1胸腺)、34がん組織(1骨髄性細胞がん、1骨髄がん、2白血病、2結腸がん、1結腸直腸がん、1胆嚢がん、4頭頸部がん、2皮膚がん、2リンパ節がん、2卵巣がん、1食道がん、1胃がん、9肺がん、4膀胱がん、1子宮がん);
【
図1O】ペプチド:FVFEPPPGV(配列番号113);組織左から右へ:5細胞株(1皮膚、1膀胱、1卵巣、2膵臓)、25がん組織(1前立腺がん、1乳がん、1肝臓がん、2頭頸部がん、6皮膚がん、1リンパ節がん、2膵臓がん、1脳がん、2胃がん、4肺がん、4膀胱がん);
【
図1P】ペプチド:QLQGYLRSV(配列番号121);組織左から右へ:10細胞株(1卵巣、2初代培養、1リンパ球、1白血球、1腎臓、2直腸、2膵臓)、7正常組織(1副腎、1白血球サンプル、3骨髄、1結腸、1気管)、36がん組織(1盲腸がん、1骨髄性細胞がん、1白血病、4結腸がん、1直腸がん、1胆管がん、5肝臓がん、6頭頸部がん、1リンパ節がん、1食道がん、1膵臓がん、1脳がん、9肺がん、1膀胱がん、2子宮がん);
【
図1Q】ペプチド:ILEPSLYTV(配列番号122);組織左から右へ:13細胞株(1腎臓、2白血球、1皮膚、9膵臓)、10正常組織(1副腎、5結腸、1肝臓、2肺、1リンパ節)、63がん組織(2骨髄性細胞がん、2白血病、1骨髄がん、2前立腺がん、4乳がん、2白血病、1結腸がん、1直腸がん、1胆管がん、7肝臓がん、3頭頸部がん、5皮膚がん、2リンパ節がん、2卵巣がん、1食道がん、1膵臓がん、5脳がん、4胃がん、5肺がん、3腎臓がん、1肺がん、4膀胱がん、4子宮がん);
【
図1R】ペプチド:YLEPKLTQV(配列番号129);組織左から右へ:25細胞株(1頭頸部、1卵巣、1PBMCs、2リンパ球、3皮膚、1腎臓、16膵臓)、8正常組織(3副腎、1骨髄、1頭頸部および唾液腺、1腎臓、1肝臓、1脾臓)、62がん組織(1骨髄性細胞がん、1骨髄がん、1白血病、3前立腺がん、1乳がん、1結腸がん、2胆管がん、6肝臓がん、3頭頸部がん、5皮膚がん、2リンパ節がん、3卵巣がん、2食道がん、2脳がん、1胃がん、11肺がん、1腎臓がん、4肺がん、6膀胱がん、6子宮がん).
【0345】
図2A-2Dは、正常組織(白色バー)および10膀胱がんサンプル(黒色バー)のパネル中で、膀胱がんにおいて高度に過剰発現され、または排他的に発現される、本発明の起源遺伝子の例示的発現プロファイルを示す。組織左から右へ:6動脈、2血液細胞、2脳、1心臓、2肝臓、3肺、2静脈、1脂肪組織、1副腎、5骨髄、1軟骨、1結腸、1食道、2眼、2胆嚢、1腎臓、6リンパ節、4膵臓、2末梢神経、2脳下垂体、1直腸、2唾液腺、2骨格筋、1皮膚、1小腸、1脾臓、1胃、1甲状腺、7気管、1膀胱、1乳房、5卵巣、5胎盤、1前立腺、1精巣、1胸腺、1子宮、10膀胱がんサンプル。
【0346】
【
図3】例示的免疫原性データを示す:ペプチド特異的多量体染色後の:フローサイトメトリー結果。
【
図4】健常HLA-A*02+ドナーのペプチド特異的生体外CD8+T細胞応答の例示的結果を示す。CD8+T細胞は、それぞれ、配列番号30ペプチド(A、左側パネル)、配列番号50ペプチド(B、左側パネル)、および配列番号111ペプチド(C、左側パネル)と複合体形成する、抗CD28mAbおよびHLA-A*02で被覆された、人工APCを用いてプライミングされた。3サイクルの刺激の後、ペプチド反応性細胞の検出が、A*02/配列番号30(A)、A*02/配列番号50(b)またはA*02/配列番号111(C)を用いた2D多量体染色によって実施された。右パネル(A、B、およびC)は、無関係のA*02/ペプチド複合体で刺激された細胞の対照染色を示す。生存一重細胞は、CD8+リンパ球についてゲートされた。ブーリアンゲートは、異なるペプチドに対して特異的な多量体によって検出された、擬陽性事象の排除を助けた。CD8+リンパ球の中の特異的多量体+細胞の頻度が示される。
【実施例0347】
実施例1
細胞表面に提示される腫瘍関連ペプチドの同定および定量化
組織サンプル
患者の腫瘍組織は、Asterand(米国ミシガン州デトロイト;英国ハートフォードシャー州ロイストン);Geneticist Inc.(米国カリフォルニア州グレンデール);ProteoGenex Inc.(米国カリフォルニア州カルバーシティ);Tissue Solutions Ltd(英国グラスゴー);およびUniversity Hospital Tubingen(独国チュービンゲン)から入手された。正常組織は、Asterand(米国ミシガン州デトロイト;英国ハートフォードシャー州ロイストン);Bio-Options Inc.(米国カリフォルニア州ブレア);BioServe(米国メリーランド州ベルツビル);Blutspendezentrale,Zentrum fur Klinische Transfusionsmedizin,Tubingen(独国テュービンゲン血液センター);Capital BioScience Inc.(米国メリーランド州ロックビル);Geneticist Inc.(米国カリフォルニア州グレンデール);京都府立医科大学(KPUM)(日本国京都);ProteoGenex Inc.(米国カリフォルニア州カルバーシティ);Tissue Solutions Ltd(英国グラスゴー);University Hospital Geneva(スイス国ジュネーブ);University Hospital Heidelberg(独国ハイデルベルク);University Hospital Munich(独国ミュンヘン);およびUniversity Hospital Tubingen(独国テュービンゲン)から入手された。
全ての患者の告知に基づく同意書は、外科手術または検死解剖前に得られた。組織は切除の直後に衝撃凍結されて、TUMAPの単離まで-70℃未満で保存された。
【0348】
組織サンプルからのHLAペプチドの単離
衝撃凍結組織サンプルからのHLAペプチド貯留は、わずかに修正されたプロトコル(Falk et al.,1991;Seeger et al.,1999)に従って、HLA-A*02-特異的抗体BB7.2、HLA-A、-B、-C特異的抗体W6/32、CNBr活性化セファロース、酸処理、および限外濾過を使用して、免疫沈殿によって固形組織から得られた。
【0349】
質量分析
得られたHLAペプチド貯留は、逆相クロマトグラフィー(nanoAcquity UPL C system,Waters)によってそれらの疎水性に従って分離し、ESI源を装着したLTQ-velosおよびfusion hybrid質量分光計(ThermoElectron)内で溶出ペプチドを分析した。ペプチド貯留は、毎分400nLの流速を適用して、1.7μm C18逆相材料(Waters)で充填された分析用融合シリカマイクロキャピラリーカラム(75μm内径×250mm)上に直接挿入した。引き続いて、毎分300nLの流速で10%から33%へのBの二段階180分間二成分勾配を用いて、ペプチドを分離した。勾配は、溶媒A(水中の0.1%ギ酸)および溶媒B(アセトニトリル中の0.1%ギ酸)から構成された。nanoESI源への導入には、金被覆ガラス毛管(PicoTip,New Objective)を使用した。LTQ-Orbitrap質量分光計は、TOP5ストラテジーを使用してデータ依存モードで操作した。手短に述べると、Orbitrap(R=30000)内の高質量精度の完全スキャンでスキャンサイクルを開始し、これもまたOrbitrap(R=7500)内の5種の最も豊富な前駆イオンのMS/MSスキャンがそれに続き、以前選択されたイオンは動的に排除された。タンデム質量スペクトルは、SEQUESTおよび追加的な手動調節によって解釈した。同定されたペプチド配列は、生成された天然ペプチド断片化パターンと、配列が同一の合成参照ペプチドの断片化パターンとの比較によって確認した。
【0350】
イオン計数によって、すなわちLC-MS特性の抽出と解析(Mueller et al.,2007)によって、無標識相対LC-MS定量化を実施した。この方法は、ペプチドのLC-MSシグナル面積がサンプル中のその存在量と相関すると仮定する。抽出された特性は、電荷状態デコンボリューションと滞留時間アライメント(Mueller et al.,2008;Sturm et al.,2008)によってさらに処理した。最終的に、全てのLC-MS特性を配列同定結果と相互参照して、異なるサンプルの定量的データと、組織からペプチドへの提示プロファイルとを組み合わせた。定量的データは、技術的および生物学的反復試験内の変動を考慮した中心傾向に従って、二段法で正規化された。このようにして、それぞれの同定されたペプチドが定量的データに関連付けられ得て、サンプルと組織との間の相対定量化ができるようになる。さらに、ペプチド候補について得られた全ての定量的データを手動で検査し、データ整合性を保証して自動解析の確度を確認した。各ペプチドについて提示プロファイルを計算し、平均サンプル提示ならびに反復試験変動を示した。プロファイルは、膀胱がんサンプルを正常組織サンプルのベースラインに並置する。例示的過剰提示ペプチドの提示プロファイルは、
図1に示される。代表的ペプチドの提示スコアは、表8に示される。
【0351】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【0352】
実施例2
本発明のペプチドをコードする遺伝子発現プロファイリング
正常細胞と比較した腫瘍細胞上のペプチドの過剰提示または特異的提示は、免疫療法におけるその有用性にとって十分であり、いくつかのペプチドは、それらの起源タンパク質が正常組織にもまた存在するにもかかわらず、腫瘍特異的である。それでもなお、mRNA発現プロファイリングは、免疫療法のためのペプチド標的の選択において、安全性のレベルを高めることができる。特に、アフィニティ成熟TCRなどの安全性リスクが高い治療選択肢では、理想的な標的ペプチドは、腫瘍に特有で正常組織上には見いだされないタンパク質に由来する。
【0353】
RNA起源および調製
外科的に除去された組織標本は、告知に基づく同意書が各患者から入手された後に、上述の通り提供された(実施例1を参照されたい)。腫瘍組織標本を手術直後にスナップ凍結し、その後、液体窒素下で乳鉢と乳棒を用いて均質化した。TRI試薬(独国ダルムシュタットのAmbion)を使用して、これらのサンプルから全RNAを調製し、RNeasy(独国ヒルデンのQIAGEN)による精製がそれに続き;どちらの方法も製造業者のプロトコルに従って実施した。
【0354】
RNASeq実験のための健常ヒト組織からの全RNAは、Asterand(米国ミシガン州デトロイト;英国ハートフォードシャー州ロイストン);BioCat GmbH(独国ハイデルベルク);BioServe(米国メリーランド州ベルツビル);Capital BioScience Inc.(米国メリーランド州ロックビル);Geneticist Inc.(米国カリフォルニア州グレンデール);Istituto Nazionale Tumori ”Pascale”(イタリア国ナポリ);ProteoGenex Inc.(米国カリフォルニア州カルバーシティ);およびUniversity Hospital Heidelberg(独国ハイデルベルク)から入手された。
【0355】
RNASeq実験のための腫瘍組織からの全RNAは、Asterand(米国ミシガン州デトロイト;英国ハートフォードシャー州ロイストン);BioServe(米国カリフォルニア州ブレア);およびTissue Solutions Ltd(英国グラスゴー)から入手された。
【0356】
全てのRNAサンプルの品質および量は、RNA 6000 Pico LabChipキット(Agilent)を使用して、Agilent 2100 Bioanalyzer(独国バルトブロンのAgilent)上で評価した。
【0357】
RNAseq実験
腫瘍および正常組織RNAサンプルの遺伝子発現解析は、CeGaT(独国チュービンゲン)によって、次世代配列決定(RNAseq)によって実施された。簡単に述べると、配列決定ライブラリーは、RNA断片化、cDNA転換、および配列決定アダプターの付加を含む、Illumina HiSeq v4試薬キットを使用して、販売業者(米国カリフォルニア州サンディエゴのIllumina Inc.)のプロトコルに従って作製される。複数のサンプルに由来するライブラリーは等モル混合され、Illumina HiSeq 2500配列決定装置上で、製造会社の使用説明書に従って配列決定され、50bpのシングルエンドリードが生成された。処理された読み取りは、STARソフトウェアを使用して、ヒトゲノム(GRCh38)にマッピングされる。発現データは、ensembl配列データベース(Ensembl77)の注釈に基づいて、RPKM(100万個のマッピングされた読み取り当たりキロベース当たり読み取り、ソフトウェアCufflinksによって生成される)として転写物レベルで、そしてエクソンレベルで(全読み取り、ソフトウェアBedtoolsによって生成される)提供される。エクソン読み取りは、エクソン長さおよびアライメントサイズについて正規化されて、RPKM値が得られる。膀胱がんにおいて高度に過剰発現されまたは排他的に発現される本発明の起源遺伝子の代表的発現プロファイルは、
図2に示される。さらなる例示的遺伝子の発現スコアは、表9に示される。
【0358】
【0359】
実施例3
MHCクラスI提示ペプチドの生体外免疫原性
本発明のTUMAPの免疫原性に関する情報を得るために、本発明者らは、ペプチド/MHC複合体および抗CD28抗体を負荷した人工抗原提示細胞(aAPC)によるCD8+T細胞の反復刺激に基づく、生体外T細胞プライミングアッセイを用いて研究を実施した。このようにして、本発明者らは、本発明のHLA-A*0201拘束性TUMAPの免疫原性を示し得て、これらのペプチドが、それに対するCD8+前駆T細胞がヒトに存在する、T細胞エピトープであることを実証した(表10)。
【0360】
CD8+T細胞の生体外プライミング
ペプチドMHC複合体(pMHC)および抗CD28抗体を負荷した、人工抗原提示細胞による生体外刺激を実施するために、本発明者らは、最初に、告知に基づく同意後に、独国のUniversity clinics Mannheimから得られた健常ドナーのCD8ミクロビーズ(独国ベルギッシュ・グラートバッハのMiltenyi Biotec)を使用した正の選択を通じて、新鮮HLA-A*02白血球除去生成物からCD8+T細胞を単離した。
【0361】
PBMCおよび単離CD8+リンパ球またはPBMCは、10%熱不活性化ヒトAB血清(独国アイデンバッハのPAN-Biotech)、100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(独国ケルンのCambrex)、1mMピルビン酸ナトリウム(独国オーバードルラのCC Pro)、20μg/mlゲンタマイシン(Cambrex)を添加した、RPMI-Glutamax(独国カールスルーエのInvitrogen)からなるT細胞培地(TCM)中で、使用時まで培養した。2.5ng/mlのIL-7(独国ハイデルベルクのPromoCell)および10U/mlのIL-2(独国ニュルンベルクのNovartis Pharma)もまた、この段階でTCMに添加した。
【0362】
pMHC/抗CD28被覆ビーズの生成、T細胞刺激、および読み取りは、高度に定義された生体外システム内で、刺激条件当たり4種の異なるpMHC分子と、読み取り条件当たり8種の異なるpMHC分子を使用して実施した。
【0363】
製造会社(独国ボンのPerbio)が推奨する通りにスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドビオチンを使用して、精製共刺激マウスIgG2a抗ヒトCD28 Ab9.3(Jung et al.,1987)を化学的にビオチン化した。使用されたビーズは、直径5.6μmのストレプトアビジン被覆ポリスチレン粒子(米国イリノイ州のBangs Laboratories)であった。
【0364】
陽性および陰性対照刺激のために使用されたpMHCは、それぞれ、A*0201/MLA-001(修飾Melan-A/MART-1に由来するペプチドELAGIGILTV(配列番号206))およびA*0201/DDX5-001(DDX5に由来するYLLPAIVHI、配列番号207)であった。
【0365】
4×12.5ngの異なるビオチンpMHCの存在下で、800,000個のビーズ/200μlを96ウェルプレート内で被覆し、洗浄して、引き続いて200μlの容量中で600ngのビオチン抗CD28を添加した。5ng/mlのIL-12(PromoCell)を添加した200μlのTCM中で、1×106のCD8+T細胞を2x105個の洗浄被覆ビーズと、37℃で3日間にわたり同時インキュベートすることで、96ウェルプレート内で刺激を開始した。次に80U/mlのIL-2を添加した新鮮TCMで培地の半分を交換し、37℃で4日間にわたり培養を継続した。この刺激サイクルを合計3回実施した。条件当たり8種の異なるpMHC分子を使用したpMHC多量体読み取りでは、5種の異なる蛍光色素への共役を包含するわずかな修正を加えて、以前記載されたような(Andersen et al.,2012)二次元コンビナトリアルコーディングアプローチを使用した。最後に、Live/dead近赤外染料(独国カールスルーエのInvitrogen)、CD8-FITC抗体クローンSK1(独国ハイデルベルクのBD)、および蛍光性pMHC多量体による細胞の染色によって多量体解析を実施した。解析では、適切なレーザーおよびフィルターを装着したBD LSRII SORP血球計数器を使用した。ペプチド特異的細胞を全CD8+細胞の百分率として計算した。FlowJoソフトウェア(米国オレゴン州のTree Star)を使用して、多量体解析の評価を実施した。陰性対照刺激と比較することで、特異的多量体+CD8+リンパ球の生体外初回刺激を検出した。1人の健常ドナーの少なくとも1つの評価可能生体外刺激ウェルが、生体外刺激後に、特異的CD8+T細胞株を含有することが判明したら、所与の抗原の免疫原性が検出された(すなわちこのウェルは、CD8+T細胞内に少なくとも1%の特異的多量体+を含有し、特異的多量体+細胞の百分率は、陰性対照刺激の中央値の少なくとも10倍であった)。
【0366】
膀胱がんペプチドの生体外免疫原性
HLAクラスIペプチドを試験するために、ペプチド特異的T細胞株の生成によって生体外免疫原性が実証され得た。本発明の2種のペプチドの、TUMAP特異的多量体染色後の例示的フローサイトメトリー結果は、対応する陰性対照と共に
図3に示される。本発明の3種のペプチドの、TUMAP特異的多量体染色後の例示的フローサイトメトリー結果は、対応する陰性対照と共に
図4に示される。本発明からの25種のペプチドの結果は、表10Aに要約される。本発明からの26種のペプチドのさらなる結果は、表10Bに要約される。
【0367】
【0368】
【0369】
実施例4
ペプチドの合成
Fmocストラテジーを使用した標準的な十分に確立された固相ペプチド合成を使用して、全てのペプチドを合成した。個々のペプチドのアイデンティティーおよび純度は、質量分析および分析用RP-HPLCによって判定された。ペプチドは、純度>50%の白色から灰白色の凍結乾燥物(トリフルオロ酢酸塩)として得られた。全てのTUMAPは、好ましくはトリフルオロ酢酸塩または酢酸塩として投与され、その他の塩形態もまた可能である。
【0370】
実施例5
MHC結合アッセイ
本発明によるT細胞ベースの治療法のための候補ペプチドを、それらのMHC結合能力(親和性)についてさらに試験した。個々のペプチド-MHC複合体は、UVリガンド交換によって生成され、UV感受性ペプチドはUV照射に際して切断されて、分析される目的ペプチドで交換された。ペプチド受容性MHC分子と効果的に結合して安定化し得るペプチド候補のみが、MHC複合体の分離を防止する。交換反応の収率を判定するために、安定化MHC複合体の軽鎖(β2m)の検出に基づくELISAを実施した。アッセイは、Rodenko et al.(Rodenko et al.,2006)に一般的に記載されるようにして実施した。
【0371】
96ウェルMAXISorpプレート(NUNC)をPBS中の2μg/mlストレプトアビジンにより室温で一晩被覆して4回洗浄し、ブロック緩衝液を含有する2%BSA中で37℃で1時間ブロックした。再折りたたみされたHLA-A*020102:01/MLA-001単量体が、15~500ng/mlの範囲をカバーする標準物質の役割を果たした。UV交換反応のペプチド-MHC単量体をブロック緩衝液で100倍に希釈した。サンプルを37℃で1時間インキュベートして4回洗浄し、2ug/mlのHRP共役結合抗β2mと共に37℃で1時間インキュベートして再度洗浄し、NH2SO4で停止させたTMB溶液で検出した。吸収は、450nmで測定された。抗体またはそれらのフラグメント、および/またはT細胞受容体またはそれらのフラグメントの生成および製造のためには、高い交換収率(好ましくは50%より高い、最も好ましくは75%より高い)を示す候補ペプチドが、MHC分子に対する十分な結合活性を示してMHC複合体の分離を防止することから、一般に好ましい。
【0372】
【表11-1】
【表11-2】
【表11-3】
【表11-4】
【表11-5】
【表11-6】
【0373】
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請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド又はMHC分子と結合した請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチドを特異的に認識する、抗体、可溶性若しくは膜結合抗体、又はそれらの抗体フラグメント。
T細胞を、適切な抗原提示細胞の表面に、又は抗原提示細胞を模倣する人工コンストラクトの表面に発現される抗原負荷ヒトクラスIMHC分子に、前記T細胞を抗原特異的様式で活性化するのに十分な時間にわたり、生体外で接触させるステップを含んでなり、前記抗原が、請求項1~3いずれか一項に記載のペプチドである、活性化Tリンパ球を製造するインビトロ法。