(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033457
(43)【公開日】2023-03-10
(54)【発明の名称】位置検出装置とペアリングするために位置指示器により実行される方法、位置指示器とペアリングするために位置検出装置により実行される方法、位置指示器、位置検出装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/03 20060101AFI20230303BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
G06F3/03 400Z
G06F3/041 560
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004918
(22)【出願日】2023-01-17
(62)【分割の表示】P 2021115623の分割
【原出願日】2017-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2016204444
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】今田 吉史
(57)【要約】
【課題】位置指示器と位置検出装置とのペアリングを、簡単な操作で、かつ、明示的に行えるようにする。
【解決手段】本発明による方法は、位置検出装置とペアリングするために位置指示器により実行される方法であって、前記位置指示器が、前記位置指示器及び前記位置検出装置が互いに接触し又は所定の距離以内に近接しているときに、前記位置指示器を一意に識別するIDを送信するステップと、前記位置指示器が、前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の無線通信手段を介して前記IDを含む情報を前記位置検出装置から受信することにより、前記位置検出装置との間でペアリングを確立するペアリングステップと、を含む方法である。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置検出装置とペアリングするために位置指示器により実行される方法であって、
前記位置指示器が、前記位置指示器及び前記位置検出装置が互いに接触し又は所定の距離以内に近接しているときに、前記位置指示器を一意に識別するIDを送信するステップと、
前記位置指示器が、前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の無線通信手段を介して前記IDを含む情報を前記位置検出装置から受信することにより、前記位置検出装置との間でペアリングを確立するペアリングステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ペアリングステップは、前記第1の無線通信手段を介して受信された情報が前記IDを含むか否かを判定し、含むと判定した場合に前記位置検出装置との間でペアリングを確立する一方、含まないと判定した場合に前記位置検出装置との間でペアリングを確立しない、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
位置指示器とペアリングするために位置検出装置により実行される方法であって、
前記位置検出装置が、前記位置指示器及び前記位置検出装置が互いに接触し又は所定の距離以内に近接しているときに、前記位置指示器から前記位置指示器を一意に識別するIDの供給を受けるステップと、
前記位置検出装置が、前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の無線通信手段を介して前記IDを含む情報を前記位置指示器に送信することにより、前記位置指示器との間でペアリングを確立するペアリングステップと、
を含む方法。
【請求項4】
前記ペアリングステップは、前記第1の無線通信手段を介して送信した前記IDを含む情報に対する応答を受信した場合に前記位置指示器との間でペアリングを確立する一方、前記第1の無線通信手段を介して前記IDを含む情報を送信してから所定時間内に前記応答を受信しない場合に、前記位置指示器との間でのペアリングの確立に失敗したことを通知する、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
位置検出装置とのペアリングを行う位置指示器であって、
前記位置指示器及び前記位置検出装置が互いに接触し又は所定の距離以内に近接しているときに、前記位置指示器を一意に識別するIDを送信し、
前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の無線通信手段を介して前記IDを含む情報を前記位置検出装置から受信することにより、前記位置検出装置との間でペアリングを確立する、
位置指示器。
【請求項6】
位置指示器とのペアリングを行う位置検出装置であって、
前記位置指示器及び前記位置検出装置が互いに接触し又は所定の距離以内に近接しているときに、前記位置指示器から前記位置指示器を一意に識別するIDの供給を受け、
前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の無線通信手段を介して前記IDを含む情報を前記位置指示器に送信することにより、前記位置指示器との間でペアリングを確立する、
位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペアリング方法、位置検出システム、位置指示器、及び位置検出装置に関し、特に、位置指示器と位置検出装置のペアリング動作を行うためのペアリング方法、位置検出システム、位置指示器、及び位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばデジタイザやタブレット等である位置検出装置と、例えばEMR(電磁誘導方式)又はAES(アクティブ静電結合方式)に準拠した電子ペン(スタイラス)である位置指示器とを含んで構成される位置検出システムが知られている。この種の位置検出システムにおいては、位置指示器を位置検出装置上で移動させることにより、ユーザによる字や図形の入力操作が可能とされている。
【0003】
位置検出システムの中には、位置指示器から位置検出装置に対し、位置指示器のシリアル番号や筆圧等の情報を送信可能に構成されたものも存在する。特許文献1には、そのような位置検出システムの例が開示されている。この例による位置指示器は、デジタル無線通信(具体的にはBluetooth(登録商標))により、筆圧データを位置検出装置に送信するよう構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ユーザが位置指示器を用いて字や図形の入力操作を行う際には、事前に、その位置指示器を位置検出装置とペアリングさせる必要がある。具体的なペアリングの方法としては、例えば位置指示器からペアリング要求を送信し、それを位置検出装置が受信する、という方法が考えられる。1つの位置検出装置の近傍に複数の位置指示器が存在する場合には、位置検出装置において各位置指示器からのペアリング要求の受信強度を判定し、最も強度の強いペアリング要求を送信した位置指示器をペアリングの対象とすればよいと考えられる。
【0006】
しかしながら、上記のペアリング方法によれば、例えば教室の中など非常に近い位置に多数の位置指示器が存在する場合に、本来ペアリングすべき組み合わせと異なる組み合わせでペアリングが成立してしまうおそれがある。また、教室の中で各生徒が位置検出装置を使用しており、先生が教室内を回って各生徒の位置検出装置に先生の位置指示器を用いて赤入れする場合など、一時的に他の位置指示器での書き込みを可能にしたい場合があるが、上記のペアリング方法では、このような書き込みの実現は困難である。ペアリングの対象となる位置指示器を位置検出装置上で明示的に指定することも考えられるが、操作が煩雑であるし、位置検出装置が表示部を有していなければ、そもそも指定すること自体困難となる。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、位置指示器と位置検出装置とのペアリングを、簡単な操作で、かつ、明示的に行えるペアリング方法、位置検出システム、位置指示器、及び位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるペアリング方法は、位置指示器及び位置検出装置が所定の距離以内に近接している場合に共有可能となる所定の共有情報を前記位置指示器及び前記位置検出装置の間で共有する共有ステップと、前記位置指示器及び前記位置検出装置の一方が、共有された前記共有情報を用いて、前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の通信手段により受信された情報が前記位置指示器及び前記位置検出装置の他方により送信されたものであるか否かの判定を行う判定ステップと、を含む。
【0009】
本発明による位置検出システムは、位置指示器及び位置検出装置を備える位置検出システムであって、前記位置指示器は、前記位置検出装置と所定の距離以内に近接している場合に共有可能となる所定の共有情報を前記位置検出装置と共有するための処理を行う第1の共有処理部と、前記所定の距離より長い距離で到達可能な第1の通信手段による通信を行う第1の通信部と、前記共有情報を前記第1の通信部に周期的に送信させる第1の計算処理部とを有し、前記位置検出装置は、前記位置指示器と前記共有情報を共有するための処理を行う第2の共有処理部と、前記第1の通信手段による通信を行う第2の通信部と、前記第2の共有処理部により共有された前記共有情報を用いて、前記第2の通信部により受信された情報が前記位置指示器により送信されたものであるか否かの判定を行う第2の計算処理部とを有する。
【0010】
また、本発明の他の一側面による位置検出システムは、位置検出装置及び複数の位置指示器を備える位置検出システムであって、前記複数の位置指示器はそれぞれ、物体との近接度を示す第1の近接度情報を検出する第1のセンサ部と、送信部と、前記第1の近接度情報を前記第1のセンサ部から周期的に取得し、逐次、取得した前記第1の近接度情報を前記送信部に送信させる第1の計算処理部とを有し、前記位置検出装置は、前記複数の位置指示器のいずれかとの近接度を示す第2の近接度情報を検出する第2のセンサ部と、前記第1の近接度情報を受信する通信部と、前記通信部により受信される前記第1の近接度情報及び前記第2のセンサ部により検出される前記第2の近接度情報のそれぞれを時系列で保持し、時系列で保持した前記第1及び第2の近接度情報が一致するか否かを判定し、一致すると判定した場合に、前記複数の位置指示器のうち、時系列で保持した前記第1の近接度情報の送信元である前記位置指示器との間でペアリングを確立する第2の計算処理部とを有する。
【0011】
本発明による位置指示器は、物体との近接度を示す近接度情報を検出するセンサ部と、送信部と、前記近接度情報を前記センサ部から周期的に取得し、逐次、取得した前記近接度情報を含むペアリング要求を前記送信部に周期的に送信させる計算処理部とを備える。
【0012】
本発明による位置検出装置は、複数の位置指示器のいずれかとの近接度を示す第2の近接度情報を検出するセンサ部と、前記複数の位置指示器のいずれかと物体との近接度を示す第1の近接度情報を受信する通信部と、前記通信部により受信される前記第1の近接度情報及び前記センサ部により検出される前記第2の近接度情報のそれぞれを時系列で保持し、時系列で保持した前記第1及び第2の近接度情報が一致するか否かを判定し、一致すると判定した場合に、前記複数の位置指示器のうち、時系列で保持した前記第1の近接度情報の送信元である前記位置指示器との間でペアリングを確立する計算処理部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位置指示器及び位置検出装置が所定の距離以内に近接している場合に共有可能となる所定の共有情報を位置指示器及び位置検出装置の間で共有させるだけで、それらの間にペアリングを確立させることができる。したがって、位置指示器と位置検出装置とのペアリングを、簡単な操作で、かつ、明示的に行うことが可能になる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、ユーザは、例えば位置指示器を位置検出装置に数回近づけたり離したりする(より具体的には、数回タップする)だけで、位置指示器及び位置検出装置に共有情報(近接度の変化情報)を共有させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態による位置検出システム1の全体構成を示す図である。
【
図2】複数の電子ペン2と複数の位置検出装置3との間で実施されるペアリング動作を説明する図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図4】
図3に示した計算処理部22が行う処理を示す処理フロー図である。
【
図5】
図3に示した計算処理部32が行う処理を示す処理フロー図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図7】電子ペン2により送信される第1の近接度情報の一例及び位置検出装置3により検出される第2の近接度情報の一例を示す図である。
【
図8】位置検出装置3の計算処理部32が行う判定処理を説明する図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図10】本発明の第4の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図11】
図10に示したダウンリンク信号DS及びアップリンク信号USそれぞれの到達距離を説明する図である。
【
図12】本発明の第5の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図13】本発明の第6の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図14】本発明の第7の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【
図15】本発明の第8の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態による位置検出システム1の全体構成を示す図である。同図に示すように、位置検出システム1は、位置指示器である電子ペン2と、デジタイザ4及びコンピュータ5を含んでなる位置検出装置3とを備えて構成される。
【0018】
電子ペン2は、ボールペンやサインペンなどの筆記具と同様の外観を有する電子機器(スタライス)であり、図示していないが、中央処理装置と、キャッシュメモリやハードディスクなどの記憶装置と、ペン先に配置された電極と、筐体表面に配置されたスイッチと、通信装置とを有して構成される。後述する
図3等に示す電子ペン2の機能ブロックは、記憶装置内に予め格納されたプログラムを中央処理装置が実行することによって実現される。図示した無線通信部R1は電子ペン2に設けられる通信装置の1つであり、後述するコンピュータ5の無線通信部R2との間で無線通信を実行可能に構成される。この無線通信は、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信であり、以下では「第1の通信手段」と称する場合がある。電子ペン2は、例えば上述したEMR又はAESなどの第1の通信手段よりも到達距離が短い通信手段(以下、「第2の通信手段」という)により、ペン先の電極を介して位置検出装置3と通信できるように構成されることも可能である。
【0019】
デジタイザ4は、平板状のパネル面と、このパネル面の内側に形成された電極群(図示せず)とを有して構成される。電極群の具体的な形状としては、線状、ループ状、矩形状など、各種のものが使用可能である。線状である場合の電極群(線状電極群)は、パネル面の一辺に平行なx軸と平行かつ等間隔に配置された複数の線状電極と、パネル面内においてx軸と直交するy軸に平行かつ等間隔に配置された複数の線状電極とを含んで構成される。デジタイザ4は、このような電極群を用いて、パネル面上における電子ペン2の位置を検出可能に構成される。
【0020】
コンピュータ5は、図示していないが、中央処理装置と、キャッシュメモリやハードディスクなどの記憶装置と、キーボードやマウスなどの入力装置と、ディスプレイやスピーカなどの出力装置と、通信装置とを有して構成される一般的なコンピュータである。後述する
図3等に示す位置検出装置3の機能ブロックは、このコンピュータ5において、記憶装置内に予め格納されたプログラムを中央処理装置が実行することによって実現される。デジタイザ4はコンピュータ5に設けられる入力装置の1つであり、例えばUSB(Universal Serial Bus)ケーブルなどの通信ケーブルによって、コンピュータ5と接続される。また、図示した無線通信部R2はコンピュータ5に設けられる通信装置の1つであり、電子ペン2の無線通信部R1との間で無線通信を実行可能に構成される。
【0021】
デジタイザ4によって検出された電子ペン2の位置は、上記した通信ケーブルを介して、逐次コンピュータ5に供給される。また、電子ペン2は、デジタイザ4からペン先に与えられる応力(筆圧)を検出可能に構成されており、この筆圧は、上述した無線通信部R1,R2を介して、逐次電子ペン2からコンピュータ5に供給される。電子ペン2からコンピュータ5へは、他にも、上述した無線通信部R1,R2を介して、電子ペン2のメーカー、対応方式、及び識別番号を示すペンID(IDentifier)や、電子ペン2の表面に設けられたスイッチ(図示せず)のオンオフ情報などが供給される。コンピュータ5は、電子ペン2から供給されるこれらの情報(筆圧、ペンID、スイッチのオンオフ情報など)に基づいて描画の際の効果(線幅、色、透明度など)を決定し、決定した効果を用いて、図示しないディスプレイ上に、デジタイザ4から順次供給される位置に従う字や絵を描画する機能を有する。コンピュータ5はまた、描画内容を示すインクデータを生成して記憶装置に格納するとともに、格納したインクデータを、通信装置を用いて図示しない他のコンピュータ等に送信可能に構成される。
【0022】
コンピュータ5は、デジタイザ4から供給される位置に基づく描画を開始する前に、電子ペン2とのペアリング動作を行う。このペアリング動作のため、いずれかの位置検出装置3とペアリングする前の電子ペン2は、無線通信部R1を用いて周期的に、所定の情報を含むペアリング要求を送信する。この所定の情報には、複数の電子ペン2の中において自身を特定する情報(以下、「識別情報」という)が含まれる。識別情報は上述したペンIDでもよいが、ペンIDはサイズの大きな情報であるので、ペンIDのハッシュ値又はその一部分や、その他の情報であるとしてもよい。そして、ペアリング要求を受信したコンピュータ5は、無線通信部R2を用いて所定の応答信号を送信する。コンピュータ5と位置検出装置3との間のペアリングは、こうしてコンピュータ5が応答信号を送信し、それを電子ペン2が受信することによって確立される。ペアリングを確立した後のコンピュータ5は、デジタイザ4から順次供給される位置をペアリングした電子ペン2の位置とみなして、上述した描画動作を実行する。
【0023】
図2は、複数の電子ペン2と複数の位置検出装置3との間で実施されるペアリング動作を説明する図である。同図には、一例として3つの電子ペン2a~2cと、3つの位置検出装置3a~3cとを図示しているが、これらの数は3つずつに限定されない。また、電子ペン2の数と位置検出装置3の数とが一致していなくてもよい。
【0024】
図2に示すように、実際の利用シーンでは、複数の電子ペン2と複数の位置検出装置3とが近い位置で使用されることがある。この場合、ある位置検出装置3のコンピュータ5が受信したペアリング要求の送信元である電子ペン2と、その位置検出装置3のデジタイザ4上でユーザが現に操作している電子ペン2とが一致しない可能性がある。そのような場合に、コンピュータ5とペアリング要求の送信元である電子ペン2との間でペアリングが確立されてしまうと、ユーザの意図しない描画動作が行われる結果となる。本実施の形態による位置検出システム1は、このような意図しない描画動作の発生を防止することを第1の目的とするもので、電子ペン2と位置検出装置3とのペアリングを、ユーザが、簡単な操作で、かつ、明示的に行うことを可能にする。以下、詳しく説明する。
【0025】
図3は、本発明の第1の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。同図に示すように、電子ペン2(2a)は、共有処理部20(第1の共有処理部)、通信部21(第1の通信部)、及び計算処理部22(第1の計算処理部)を備えて構成される。なお、同図には、電子ペン2a~2cのうちの電子ペン2aのみについてこれらの機能ブロックを図示しているが、電子ペン2b,2cも同様の機能ブロックを有している。また、位置検出装置3は、共有処理部30(第2の共有処理部)、通信部31(第2の通信部)、及び計算処理部32(第2の計算処理部)を備えて構成される。
【0026】
共有処理部20は、位置検出装置3(特に、デジタイザ4)と所定の距離以内に近接している場合に共有可能となる所定の共有情報を位置検出装置3と共有するための処理(共有ステップ)を行う機能部である。また、共有処理部30は、この共有情報を電子ペン2と共有するための処理(共有ステップ)を行う機能部である。具体的な例では、共有情報は、電子ペン2が取得する第1の近接度情報と位置検出装置3が取得する第2の近接度情報とに共通に含まれる情報(近接度の変化を表す情報)、又は、電子ペン2及び位置検出装置3の一方が他方に対して第2の通信手段により送信する情報(ペンID、ローカルIDなど)であるが、前者については第2~第5の実施の形態で説明し、後者については第6及び第7の実施の形態で説明する。
【0027】
通信部21は、上述した第1の通信手段により位置検出装置3との間で信号を送受信可能に構成された通信手段であり、具体的には、
図1に示した無線通信部R1によって構成される。通信部21が位置検出装置3に対して送信する信号には、上述したペアリング要求が含まれる。
【0028】
計算処理部22は、電子ペン2の各部を制御可能に構成された機能部であり、具体的には、共有処理部20が位置検出装置3と共有した共有情報を通信部21に周期的に送信させる処理を行う。より具体的に言えば、計算処理部22は、共有情報を含むペアリング要求を通信部21に周期的に送信させることにより、共有情報を通信部21に周期的に送信させる。
【0029】
通信部31は、上述した第1の通信手段により電子ペン2との間で信号を送受信可能に構成された通信手段であり、具体的には、
図1に示した無線通信部R2によって構成される。通信部31が電子ペン2から受信する信号には、共有情報を含むペアリング要求が含まれる。
【0030】
計算処理部32は、位置検出装置3の各部を制御可能に構成された機能部である。具体的には、計算処理部32は、共有処理部30により電子ペン2と共有された共有情報を用いて、通信部31により受信された情報がこの電子ペン2により送信されたものであるか否かの判定を行うよう構成される(判定ステップ)。計算処理部32は、通信部31により受信された情報が共有情報を含むか否かに基づいて、この判定を行う。計算処理部32はさらに、通信部31により受信された情報(ペアリング要求)が共有処理部30により共有情報を共有した電子ペン2により送信されたものであると判定した場合に、この電子ペン2との間でペアリングを確立する処理も行う。
【0031】
図4及び
図5はそれぞれ、計算処理部22,32が行う処理を示す処理フロー図である。以下、これらの図を参照しながら、電子ペン2と位置検出装置3の間でペアリングを確立するために計算処理部22,32が行う処理について、詳しく説明する。
【0032】
まず
図4を参照しながら、電子ペン2側の処理について説明する。この処理は、計算処理部22がペアリング指示の入力を受け付けたことを契機として開始される(ステップS1)。この入力は、例えば、電子ペン2の側面又は端部に設けられるスイッチ(図示せず)のユーザによる押下操作によって実現される。
【0033】
ペアリング指示の入力を受け付けた計算処理部22は次に、共有情報の共有処理を実施する(ステップS2)。ステップS2は、共有処理部20,30の協働により実行される処理であり、
図5に示すステップS12とともに本発明の共有ステップを構成する。共有処理の具体的な例を挙げると、例えば後述する第2~第5の実施の形態では、
図6に示したセンサ部20a,30aの処理により近接度の変化情報を共有する処理が共有処理に該当する。また、後述する第6の実施の形態では、
図13に示した信号供給検出部20ab及び線状電極群30aaの処理によりペンIDを共有する処理が共有処理に該当する。さらに、後述する第7の実施の形態では、
図14に示した信号供給検出部20ab及び線状電極群30aaの処理によりローカルIDを共有する処理が共有処理に該当する。詳細は、各実施の形態において説明する。
【0034】
計算処理部22はその後、ステップS2で共有した共有情報を含むペアリング要求を生成し(ステップS3)、生成したペアリング要求を通信部21に送信させる(ステップS4)。その結果、上述した第1の通信手段により、共有情報を含むペアリング要求が送信されることになる。
【0035】
ペアリング要求を送信した後、計算処理部22は、通信部21により位置検出装置3からの応答が受信されたか否かを判定する(ステップS5)。その結果、応答があったと判定した場合には、応答を送信してきた位置検出装置3との間でペアリングを確立する(ステップS6)。一方、応答がなかったと判定した場合には、最初にペアリング要求を送信してから所定時間が経過したか否か(すなわち、タイムアウトしたか否か)を判定し(ステップS7)、経過していなければ、ステップS6に戻って再度ペアリング要求を送信し、経過していれば、ユーザに対してペアリング要求の確立に失敗したことを通知する(ステップS8)。この通知は、例えば、電子ペン2の側面に設けたランプ(図示せず)を赤色点灯させることによって行えばよい。
【0036】
次に、
図5を参照しながら、位置検出装置3側の処理について説明する。位置検出装置3側の処理も、計算処理部32がペアリング指示の入力を受け付けたことを契機として開始される(ステップS11)。この入力は、例えば、コンピュータ5(
図1参照)におけるユーザの入力操作によって実現される。ペアリング指示の入力を受け付けた計算処理部32は次に、共有情報の共有処理を実施する(ステップS12)。その詳細については、
図4のステップ2を参照して説明したとおりである。
【0037】
次いで計算処理部32は、通信部31を介して電子ペン2からペアリング要求を受信し(ステップS13)、受信したペアリング要求が共有中の共有情報を含むか否かを判定する(ステップS14)。この判定処理は、共有された共有情報を用いて、第1の通信手段により受信された情報(ペアリング要求)が、ステップS2,S12の処理により共有情報を共有した電子ペン2により送信されたものであるか否かの判定を行う処理(判定ステップ)に他ならない。判定の結果、含まないと判定した場合には、ペアリング要求を無視する(ステップS15)。この場合、電子ペン2aとのペアリングは確立されないこととなる。
【0038】
一方、ステップS14でペアリング要求が共有中の共有情報を含むと判定した場合、計算処理部32は、ペアリング要求を送信してきた電子ペン2との間でペアリングを確立する(ステップS16)。ステップS16で行う処理には、
図4のステップS5で説明した応答を電子ペン2に対して送信する処理も含まれる。結果として、電子ペン2と位置検出装置3の双方でペアリングが確立され、電子ペン2と位置検出装置3の間で第1の通信手段による通信を実行することが可能になる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、位置検出装置3は、電子ペン2と位置検出装置3(特に、デジタイザ4)とが所定の距離以内に近接している場合に共有可能となる共有情報を予め電子ペン2との間で共有し、その共有情報を含むペアリング要求に応じて電子ペン2との間のペアリング要求を確立している。したがって、電子ペン2と位置検出装置3とのペアリングを、共有情報を共有させるという簡単な操作で、かつ、明示的に行うことが可能になる。
【0040】
図6は、本発明の第2の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。本実施の形態による位置検出システム1は、共有処理部20がセンサ部20a(第1のセンサ部)によって構成され、共有処理部30がセンサ部30a(第2のセンサ部)によって構成される点で、第1の実施の形態による位置検出システム1と異なっている。以下、第1の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0041】
センサ部20aは、何らかの物体との近接度を示す第1の近接度情報を検出するセンサである。本実施の形態においてはこの近接度の変化情報が上述した共有情報であり、センサ部20aは、この第1の近接度情報を取得することにより共有情報を取得する。ここでいう近接度には、接近の度合い及び接触の有無の一方又は両方が含まれる。物体は特に限定されないが、好ましくはデジタイザ4のパネル面である。具体的な例では、第1の近接度情報は、電子ペン2が検出する筆圧を示す情報、又は、位置検出装置3が送信するアップリンク信号の電子ペン2における受信強度を示す情報であるが、これらはそれぞれ第3及び第4の実施の形態で説明する。
【0042】
計算処理部22は、第1の近接度情報をセンサ部20aから周期的に取得し、逐次、取得した第1の近接度情報を通信部21に送信させる処理を行う。より具体的に言えば、計算処理部22は、第1の近接度情報を含むペアリング要求を通信部21に周期的に送信させることにより、第1の近接度情報を通信部21に周期的に送信させる。
【0043】
センサ部30aは、複数の電子ペン2のいずれかとの近接度を示す第2の近接度情報を検出するセンサである。センサ部30aは、この第2の近接度情報を取得することにより、近接度の変化情報である共有情報を取得する。ここでいう近接度にも、接近の度合い及び接触の有無の一方又は両方が含まれる。具体的な例では、第2の近接度情報は、電子ペン2が送信するダウンリンク信号のデジタイザ4における受信強度を示す情報、又は、センサ部30aと電子ペン2の電極との間に形成される静電容量の大きさを示す情報であるが、これらはそれぞれ第4及び第5の実施の形態で説明する。
【0044】
計算処理部32は、通信部31により受信される第1の近接度情報及びセンサ部30aにより検出される第2の近接度情報のそれぞれを時系列で保持する処理と、時系列で保持した第1及び第2の近接度情報が一致するか否かを判定する処理と、一致すると判定した場合に、時系列で保持した第1の近接度情報の送信元である電子ペン2との間でペアリングを確立する処理とを行う。
【0045】
図7は、電子ペン2により送信される第1の近接度情報の一例及び位置検出装置3により検出される第2の近接度情報の一例を示す図である。また、
図8は、位置検出装置3の計算処理部32が行う判定処理を説明する図である。以下、これらの図を参照しながら、第1及び第2の近接度情報と、計算処理部32の処理とについて、より具体的に説明する。
【0046】
図7に示すように、第1の近接度情報は、一例では大小いずれかの値を示す2値の情報であり、ペアリング要求の周期的な送信に伴って周期的に送信される。なお、
図7には、直感的に理解できるよう第1の近接度情報が2値信号により構成されているかのように描いているが、実際の第1の近接度情報は、ペアリング要求内に含まれる1ビットの情報である。
【0047】
一方、第2の近接度情報は、一例では、複数の電子ペン2のいずれかとの近接度をアナログ値で示すアナログ信号である。ただし、離散的な値により構成される多値又は2値のデジタル信号によって第2の近接度情報を構成してもよい。
【0048】
図6に示した例では、位置検出装置3の近傍に3つの電子ペン2a~2cが存在していることから、位置検出装置3には、これら3つの電子ペン2a~2cのそれぞれからペアリング要求が受信される。
図8には、こうして受信される3つのペアリング要求のそれぞれに含まれる第1の近接度情報を図示している。位置検出装置3は、電子ペン2a~2cのそれぞれから受信したペアリング要求内に含まれる上記識別情報を参照することにより、電子ペン2a~2cそれぞれの第1の近接度情報を識別する。
【0049】
ここで、ペアリング要求の送信は、例えば周波数分割で行われることが好適である。より具体的に言えば、電子ペン2は、ペアリング要求を送信する都度、予め決められている複数の周波数の中からランダムに1つの周波数を選択し、選択した周波数のキャリア信号に振幅変調を施すことによって、ペアリング要求を送信することが好適である。こうすることで、複数の電子ペン2のそれぞれから送信されるペアリング要求の衝突をある程度回避することが可能になるからである。
【0050】
図8に示す3つの第1の近接度情報のそれぞれにより示される近接度の変化と、これらと同じときに検出された第2の近接度情報により示される近接度の変化とを時系列で比較すると、電子ペン2aの第1の近接度情報のみが第2の近接度情報と一致している。計算処理部32は、このような近接度情報の一致を検出したこと(すなわち、
図5のステップS14における肯定判定)に応じて、電子ペン2aとの間でペアリングを確立するよう構成される(
図5のステップS16)。これに対し、
図8の例では電子ペン2b,2cの第1の近接度情報は第2の近接度情報と一致していない。したがって、
図5のステップS14における判定結果が否定となるので、計算処理部32は、電子ペン2b,2cとの間ではペアリングを行わないこととなる(
図5のステップS15)。
【0051】
図8に示した例のような近接度情報の一致は、比較対象とした期間内において、電子ペン2aが何らかの物体と接近(又は接触)したタイミング及び該物体から離れたタイミングと、位置検出装置3がいずれかの電子ペン2と接近(又は接触)したタイミング及び該電子ペン2から離れたタイミングとが一致していることを意味している。このような一致は、人為的に作り出すことができる。具体的には、まだいずれの位置検出装置3ともペアリングしていない電子ペン2により、ペアリングさせたい位置検出装置3のデジタイザ4のパネル面を、例えば何度かタップすればよい。逆に言えば、このようなタップにより、上記の一致状態を人為的に作り出すことができる。したがって、本実施の形態によれば、電子ペン2と位置検出装置3とのペアリングを、ユーザが、簡単な操作で、かつ、明示的に行うことが実現されていると言える。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、ユーザは、例えば電子ペン2を位置検出装置3に数回近づけたり離したりする(より具体的には、数回タップする)だけで、それらの間にペアリングを確立させることができる。したがって、電子ペン2と位置検出装置3とのペアリングを、簡単な操作で、かつ、明示的に行うことが可能になる。
【0053】
図9は、本発明の第3の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。本実施の形態による位置検出システム1は、センサ部20aが応力検出部20aaによって構成される点で、第2の実施の形態による位置検出システム1と異なっている。以下、第2の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0054】
応力検出部20aaは、電子ペン2の先端に与えられる応力(筆圧)を検出するセンサであり、具体的には、可変容量コンデンサ又はひずみゲージセンサなどによって構成される。上記応力は、通常は、デジタイザ4のパネル面からペン先に与えられる。
【0055】
応力検出部20aaによって検出される応力は、電子ペン2と何らかの物体との近接度(具体的には、位置検出装置3のパネル面との接触の有無)を示す情報であると言える。そこで本実施の形態による計算処理部22は、応力検出部20aaによって検出される応力を示す情報を、第1の近接度情報として取得するよう構成される。その後の処理は、第2の実施の形態と同様である。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、電子ペン2の先端に与えられる応力を示す情報を、第1の近接度情報として利用することが可能になる。
【0057】
図10は、本発明の第4の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。本実施の形態による位置検出システム1は、センサ部20aが信号供給検出部20abによって構成される点、及び、センサ部30aが線状電極群30aaによって構成される点で、第2の実施の形態による位置検出システム1と異なっている。以下、第2の実施の形態との相違点に着目して説明する。なお、ここでは線状電極群30aaによってセンサ部30aが構成される例を取り上げて説明するが、線状以外の形状である電極群によってセンサ部30aを構成してもよいのは勿論である。
【0058】
線状電極群30aaは、上述したように、x軸と平行かつ等間隔に配置された複数の線状電極と、y軸に平行かつ等間隔に配置された複数の線状電極とを含んで構成される。本実施の形態による計算処理部32は、この線状電極群30aaを送信電極として利用することにより、上述した第2の通信手段によって電子ペン2に対してアップリンク信号USを送信するとともに、線状電極群30aaを受信電極として利用することにより、第2の通信手段によって電子ペン2からダウンリンク信号DSを受信するように構成される。アップリンク信号USは、例えば電子ペン2に対するコマンドを示す情報を含む信号である。また、ダウンリンク信号DSは、位置検出用のバースト信号を含む信号である。計算処理部32は、各線状電極におけるこのバースト信号の受信強度を検出することにより、パネル面上における電子ペン2の位置を検出可能に構成される。
【0059】
信号供給検出部20abは、線状電極群30aaと静電結合するように構成された共振回路によって構成される。信号供給検出部20abは、この静電結合によりアップリンク信号USを受信して計算処理部22に供給するとともに、受信されたアップリンク信号USから電子ペン2の動作電力を生成するよう構成される。計算処理部22は、こうして生成される電力を利用して、上記静電結合によるダウンリンク信号DSの送信を行う。
【0060】
図11は、ダウンリンク信号DS及びアップリンク信号USそれぞれの到達距離を説明する図である。同図に破線で示したセンシング範囲SR及びアップリンク検出高さAHはそれぞれ、デジタイザ4のパネル面4aからの高さ方向の距離を示している。
【0061】
センシング範囲SRは、ダウンリンク信号DSを線状電極群30aaが受信できる範囲である。つまり、電子ペン2が送信したダウンリンク信号DSを位置検出装置3が受信するためには、ダウンリンク信号DSが線状電極群30aaに届く程度にまで、電子ペン2がデジタイザ4のパネル面4aに接近している必要がある。
【0062】
アップリンク検出高さAHは、信号供給検出部20abがアップリンク信号USを受信できる高さ(パネル面4aからの距離)の限界を示している。一般に、アップリンク検出高さAHはセンシング範囲SRの上限よりも高い場所(パネル面4aから離れた場所)に位置する。これは、アップリンク信号USとダウンリンク信号DSの送信強度の違いによる。一般に、電子ペン2がアップリンク検出高さAHより下にあるもののパネル面4aに接触していない状態は「ホバー状態」と呼ばれ、電子ペン2がパネル面4aに接触するに至った状態は「接触状態」と呼ばれる。
【0063】
図10に戻り、信号供給検出部20abにおけるアップリンク信号USの受信強度は、電子ペン2と何らかの物体との近接度(具体的には、線状電極群30aaとの接近の度合い)を示す情報であると言える。そこで本実施の形態による計算処理部22は、信号供給検出部20abにおけるアップリンク信号USの受信強度を、第1の近接度情報として取得するよう構成される。また、線状電極群30aaにおけるダウンリンク信号DSの受信強度は、位置検出装置3といずれかの電子ペン2との近接度(具体的には、信号供給検出部20abとの接近の度合い)を示す情報であると言える。そこで本実施の形態による計算処理部32は、線状電極群30aaにおけるダウンリンク信号DSの受信強度を、第2の近接度情報として取得するよう構成される。その後の処理は、第2の実施の形態と同様である。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、電子ペン2におけるアップリンク信号USの受信強度を示す情報を第1の近接度情報として利用するとともに、位置検出装置3におけるダウンリンク信号DSの受信強度を示す情報を第2の近接度情報として利用することが可能になる。
【0065】
図12は、本発明の第5の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。本実施の形態による位置検出システム1は、センサ部30aが線状電極群30aaによって構成される点、及び、電子ペン2の電極24と、線状電極群30aaとの間の静電容量の大きさを第2の近接度情報として利用する点で、第3の実施の形態による位置検出システム1と異なっている。以下、第3の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0066】
電極24は、電子ペン2のペン先に設けられる電極である。電子ペン2がユーザによって把持されている場合、電極24は、電子ペン2の筐体及び人体を通じて接地されている。
【0067】
線状電極群30aaの構成は、第4の実施の形態と同様、x軸と平行かつ等間隔に配置された複数の線状電極(以下、x電極と称する)と、y軸に平行かつ等間隔に配置された複数の線状電極(以下、y電極と称する)とを含んで構成されるというものである。ただし、本実施の形態による計算処理部32は、例えば複数のx電極を順次送信電極として用いて所定の信号を送信し、複数のy電極を順次受信電極として用いて該所定の信号を受信するよう構成される。この所定の信号は指タッチの検出にも使われる信号であるので、以下では、タッチ検出信号と称する。
【0068】
あるx電極からあるy電極に対してタッチ検出信号を送信しているときに、電子ペン2の電極24がそれらの交点付近に存在していると、それらの間を流れる電流の一部が電極24を介して接地端に流れ込む。その結果、計算処理部32によって検出されるタッチ検出信号の受信強度が低下する。
【0069】
計算処理部32によって検出されるタッチ検出信号の受信強度の大きさは、電極24と線状電極群30aaとの間に形成される静電容量の大きさに比例する。そして、この静電容量は、電極24とパネル面との距離が近いほど大きくなる。したがって、タッチ検出信号の受信強度の大きさは、位置検出装置3といずれかの電子ペン2との近接度(具体的には、電極24との接近の度合い)を示す情報であると言える。そこで本実施の形態による計算処理部32は、タッチ検出信号の受信強度の大きさ、すなわち電極24と線状電極群30aaとの間に形成される静電容量の大きさを示す情報を、第2の近接度情報として取得するよう構成される。その後の処理は、第2の実施の形態と同様である。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、タッチ検出信号の受信強度の大きさ、すなわち電極24と線状電極群30aaとの間に形成される静電容量の大きさを示す情報を、第2の近接度情報として利用することが可能になる。
【0071】
図13は、本発明の第6の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。同図は、計算処理部22内にメモリ22a(第1のメモリ)を明記している他は、
図10と同一である。なお、このメモリ22aは計算処理部22に常に設けられるものであるが、
図10を含む他の図面では記載を省略している。
【0072】
本実施の形態による位置検出システム1は、共有情報の内容及び共有方法の点で、
図10を参照して説明した第4の実施の形態と相違する。以下、第4の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0073】
本実施の形態においては、電子ペン2を一意に識別可能であって、かつ、各電子ペン2のメモリ22a内に予め格納されている情報が共有情報として使用される。このような情報の具体的な例としては、上述したペンIDが挙げられる。以下、ペンIDを共有情報として用いることを前提として説明するが、ペンID以外の情報を共有情報として用いる場合についても同様である。
【0074】
図4のステップS2及び
図5のステップS12で実行される共有情報の共有処理は、本実施の形態においてはダウンリンク信号DSを用いて実現される。具体的に説明すると、信号供給検出部20abは、メモリ22aに記憶されるペンIDをダウンリンク信号DSによって送信する処理を行うよう構成される。また、線状電極群30aaは、ダウンリンク信号DSによりペンIDを受信する処理を行うよう構成される。こうして共有情報が共有された後の処理は、第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、ペンIDのように、電子ペン2を一意に識別可能であって、かつ、各電子ペン2が予め保持している情報を共有情報として使用することが可能になる。
【0076】
図14は、本発明の第7の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。同図は、計算処理部32内にメモリ32a(第2のメモリ)を明記している他は、
図10と同一である。なお、このメモリ32aは計算処理部32に常に設けられるものであるが、
図10を含む他の図面では記載を省略している。
【0077】
本実施の形態による位置検出システム1も、共有情報の内容及び共有方法の点で、
図10を参照して説明した第4の実施の形態と相違する。以下、第4の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0078】
本実施の形態においては、計算処理部32によって予め生成されメモリ32a内に格納されるローカルIDが共有情報として使用される。ローカルIDは、例えば数ビットの数値情報である。計算処理部32は、メモリ32a内に格納した複数のローカルIDのうちの1つを、共有情報として選択するよう構成される。計算処理部32は、ある電子ペン2との間でペアリングを確立している場合には、その電子ペン2と共有中のローカルIDを選択対象から外し、他のローカルIDを選択するよう構成される。
【0079】
図4のステップS2及び
図5のステップS12で実行される共有情報の共有処理は、本実施の形態においてはアップリンク信号USを用いて実現される。具体的に説明すると、線状電極群30aaは、メモリ32aに格納される複数のローカルIDのうち計算処理部32が選択したものについて、アップリンク信号USにより送信する処理を行うよう構成される。また、信号供給検出部20abは、アップリンク信号USによりローカルIDを受信する処理を行うよう構成される。こうして共有情報が共有された後の処理は、第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、計算処理部32によって生成されるローカルIDを共有情報として使用することが可能になる。
【0081】
図15は、本発明の第8の実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3それぞれの機能ブロックを示す簡易ブロック図である。本実施の形態は、ペアリング要求の送信を電子ペン2ではなく位置検出装置3が行う点で、第1乃至第7の実施の形態と相違する。共有情報の内容及び共有方法は、第1乃至第7の実施の形態で説明したものと同様でよい。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0082】
本実施の形態による計算処理部32は、共有処理部30が電子ペン2と共有した共有情報を通信部31に周期的に送信させる処理を行う。より具体的に言えば、計算処理部32は、共有情報を含むペアリング要求を通信部31に周期的に送信させることにより、共有情報を通信部31に周期的に送信させる。
【0083】
本実施の形態による計算処理部22は、共有処理部20により位置検出装置3と共有された共有情報を用いて、通信部21により受信された情報がこの位置検出装置3により送信されたものであるか否かの判定を行うよう構成される。計算処理部22は、通信部21により受信された情報が共有情報を含むか否かに基づいて、この判定を行う。計算処理部22はさらに、通信部21により受信された情報(ペアリング要求)が共有処理部20により共有情報を共有した位置検出装置3により送信されたものであると判定した場合に、この位置検出装置3との間でペアリングを確立する処理も行う。
【0084】
要するに、本実施の形態においては、
図4に示した一連の処理を位置検出装置3の計算処理部32が実行し、
図5に示した一連の処理を電子ペン2の計算処理部22が実行する。したがって、本実施の形態によっても、第1乃至第7の実施の形態と同様に、電子ペン2と位置検出装置3の双方でペアリングが確立され、電子ペン2と位置検出装置3の間で第1の通信手段による通信を実行することが可能になる。
【0085】
ここで、本実施の形態による電子ペン2及び位置検出装置3が第6の実施の形態と同様の動作を行う場合には、ペンIDに代え、センサIDを共有情報として用いることが好適である。センサIDは位置検出装置3を一意に識別する情報であり、各位置検出装置3の計算処理部32内のメモリに予め格納される。この場合における共有情報の共有は、共有処理部30が計算処理部32内のメモリ32aに記憶されるセンサIDをアップリンク信号USによって送信し、共有処理部20がこうして送信されたセンサIDを受信することによって実行され得る。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態による位置検出システム1、電子ペン2、及び位置検出装置3によれば、電子ペン2は、電子ペン2と位置検出装置3(特に、デジタイザ4)とが所定の距離以内に近接している場合に共有可能となる共有情報を予め位置検出装置3との間で共有し、その共有情報を含むペアリング要求に応じて位置検出装置3との間のペアリング要求を確立している。したがって、本実施の形態によっても、電子ペン2と位置検出装置3とのペアリングを、共有情報を共有させるという簡単な操作で、かつ、明示的に行うことが可能になる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0088】
例えば、上記実施の形態では、デジタイザ4とコンピュータ5が別体の装置であるとして説明したが、本発明は、これらが一体として構成される所謂タブレット型コンピュータにも好適に適用可能である。
【0089】
また、例えば上記第4の実施の形態では、電子ペン2におけるアップリンク信号USの受信強度を示す情報を第1の近接度情報として利用するとともに、位置検出装置3におけるダウンリンク信号DSの受信強度を示す情報を第2の近接度情報として利用する例を説明したが、この例において、第1の近接度情報のみを、第3の実施の形態で説明した電子ペン2の先端に与えられる応力を示す情報により置き換えてもよいし、第2の近接度情報のみを、第5の実施の形態で説明した電極24と線状電極群30aaとの間に形成される静電容量の大きさを示す情報により置き換えてもよい。
【0090】
また、電子ペン2及び位置検出装置3の一方又は両方は、共有した共有情報を利用してペアリングを確立した後、第2の通信手段により送信する信号(具体的には、アップリンク信号US又はダウンリンク信号DS)に共有情報を含めることとしてもよい。ただし、共有情報のサイズが大きい場合などには、共有情報に代えて共有情報の関連情報、例えばハッシュ値を含めることとしてもよい。この場合、電子ペン2及び位置検出装置3は、それぞれの内部で関連情報を取得(算出)することが好ましい。
【0091】
そして、電子ペン2及び位置検出装置3の一方又は両方は、第2の通信手段により信号を受信した場合に、復号によって得られる情報(受信情報)が共有情報又はその関連情報を含むか否かに基づいて、受信情報の送信元が共有情報を共有した相手方装置であるか否かの判定を行うこととしてもよい。こうすることで、電子ペン2及び位置検出装置3は、共有情報を共有していない装置が送信した信号と混同することなく、共有情報を共有した相手方装置と第2の通信手段による通信を継続することが可能になる。
【0092】
その他、本発明は次に示す発明1~発明7のように構成することも可能である。
【0093】
[発明1]
位置検出装置及び複数の位置指示器を備える位置検出システムであって、
前記複数の位置指示器はそれぞれ、
物体との近接度を示す第1の近接度情報を検出する第1のセンサ部と、
送信部と、
前記第1の近接度情報を前記第1のセンサ部から周期的に取得し、逐次、取得した前記第1の近接度情報を前記送信部に送信させる第1の計算処理部とを有し、
前記位置検出装置は、
前記複数の位置指示器のいずれかとの近接度を示す第2の近接度情報を検出する第2のセンサ部と、
前記第1の近接度情報を受信する通信部と、
前記通信部により受信される前記第1の近接度情報及び前記第2のセンサ部により検出される前記第2の近接度情報のそれぞれを時系列で保持し、時系列で保持した前記第1及び第2の近接度情報が一致するか否かを判定し、一致すると判定した場合に、前記複数の位置指示器のうち、時系列で保持した前記第1の近接度情報の送信元である前記位置指示器との間でペアリングを確立する第2の計算処理部とを有する
位置検出システム。
【0094】
[発明2]
前記第1の近接度情報は、当該位置指示器の先端に与えられる応力を示す情報である
発明1にかかる位置検出システム。
【0095】
[発明3]
前記第2の計算処理部は、前記第2のセンサ部を介してアップリンク信号を送信可能に構成され、
前記複数の位置指示器はそれぞれ、前記第2のセンサ部との静電結合により前記アップリンク信号を受信可能に構成された信号供給検出部をさらに有し、
前記第1の近接度情報は、前記信号供給検出部における前記アップリンク信号の受信強度を示す情報である
発明1にかかる位置検出システム。
【0096】
[発明4]
前記信号供給検出部は、前記第2のセンサ部との静電結合によりダウンリンク信号を送信可能に構成され、
前記第2の近接度情報は、前記第2のセンサ部における前記ダウンリンク信号の受信強度を示す情報である
発明3にかかる位置検出システム。
【0097】
[発明5]
前記複数の位置指示器はそれぞれ、前記第2のセンサ部との静電結合によりダウンリンク信号を送信可能に構成された信号供給検出部をさらに有し、
前記第2の近接度情報は、前記第2のセンサ部における前記ダウンリンク信号の受信強度を示す情報である
発明1又は2にかかる位置検出システム。
【0098】
[発明6]
前記複数の位置指示器はそれぞれ、前記第2のセンサ部と容量結合可能に構成された電極をさらに有し、
前記第2の近接度情報は、前記第2のセンサ部と前記電極との間に形成される静電容量の大きさを示す情報である
発明1又は2にかかる位置検出システム。
【0099】
[発明7]
前記第1の計算処理部は、前記第1の近接度情報を含むペアリング要求を前記送信部に周期的に送信させることにより、前記第1の近接度情報を前記送信部に周期的に送信させる
発明1乃至6のいずれか一項にかかる位置検出システム。
【符号の説明】
【0100】
1 位置検出システム
2,2a~2c 電子ペン
3,3a~3c 位置検出装置
4 デジタイザ
4a パネル面
5 コンピュータ
20 共有処理部
20a センサ部
20aa 応力検出部
20ab 信号供給検出部
21 通信部
22 計算処理部
22a メモリ
24 電極
30 共有処理部
30a センサ部
30aa 線状電極群
31 通信部
32 計算処理部
32a メモリ
DS ダウンリンク信号
R1,R2 無線通信部
US アップリンク信号