(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033649
(43)【公開日】2023-03-10
(54)【発明の名称】ズームレンズ及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 15/20 20060101AFI20230303BHJP
G03B 5/00 20210101ALI20230303BHJP
【FI】
G02B15/20
G03B5/00 J
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010758
(22)【出願日】2023-01-27
(62)【分割の表示】P 2018248524の分割
【原出願日】2018-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】山中 久幸
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭介
(57)【要約】
【課題】本件発明の課題は、小型軽量であり、且つ、光学性能の高いズームレンズ及び撮像装置を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するため、本件発明に係るズームレンズは、物体側から順に、正の第1レンズ群G1と、正のレンズ群Gp(G4,G5)を少なくとも一つ含む後群とから構成され、隣り合うレンズ群の空気間隔を変化させることで変倍を行い、第1レンズ群G1は正のレンズL1p1(L2)を有し、且つ、第1レンズ群G1に含まれる正レンズは2枚以下であり、レンズ群Gp(G4)は負の屈折力を有するレンズLpn(L12)を有し、所定の条件式を満足させる。また、本件発明に係る撮像装置は当該ズームレンズを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有するレンズ群Gpを少なくとも一つ含む後群とから構成され、隣り合うレンズ群の空気間隔を変化させることで変倍を行い、
前記第1レンズ群は正の屈折力を有するレンズL1p1を有し、且つ、当該第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズは2枚以下であり、
前記レンズ群Gpは負の屈折力を有するレンズLpnを有し、
前記後群は最も物体側に正の屈折力を有するレンズを有し、
以下の条件式を満足することを特徴とするズームレンズ。
3.50 < ft/fnot/Y < 9.00 ・・・(1)
63.0 < νdL1p1 < 76.0 ・・・(2)
32.0 < νdLpn < 65.0 ・・・(3)
1.80 < BFw/(fw×tanωw) < 4.50 ・・・・・(11)
但し、
ft:望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
fnot:望遠端における当該ズームレンズのF値
Y:当該ズームレンズの最大像高
νdL1p1:前記レンズL1p1のd線におけるアッベ数
νdLpn:前記レンズLpnのd線におけるアッベ数
BFw:当該ズームレンズの最も像側のレンズ面から像面までの広角端における空気換算長
fw:広角端における当該ズームレンズの焦点距離
ωw:広角端無限合焦時における当該ズームレンズの最軸外主光線の半画角
【請求項2】
物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有するレンズ群Gpを少なくとも一つ含む後群とから構成され、隣り合うレンズ群の空気間隔を変化させることで変倍を行い、
前記第1レンズ群は正の屈折力を有するレンズL1p1を有し、且つ、当該第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズは2枚以下であり、
前記レンズ群Gpは前記後群に含まれる正の屈折力を有するレンズ群の中で最も物体側に配置され、
前記レンズ群Gpは負の屈折力を有するレンズLpnを有し、
前記後群は最も物体側に正の屈折力を有するレンズを有し、
以下の条件式を満足することを特徴とするズームレンズ。
63.0 < νdL1p1 < 76.0 ・・・(2)
32.0 < νdLpn < 65.0 ・・・(3)
但し、
νdL1p1:前記レンズL1p1のd線におけるアッベ数
νdLpn:前記レンズLpnのd線におけるアッベ数
【請求項3】
以下の条件式を満足する請求項1又は請求項2に記載のズームレンズ。
0.25 < f1/ft < 0.65 ・・・(4)
但し、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
ft:望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
【請求項4】
前記後群はその最も像側にレンズ群Rを有し、当該レンズ群Rは負の屈折力を有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項5】
前記レンズ群Gpよりも像側に絞りを有する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のズームレンズ。
【請求項6】
前記第1レンズ群は負の屈折力を有するレンズL1nを有し、以下の条件式を満足する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のズームレンズ。
1.79 < NdL1n < 1.92 ・・・(7)
但し、
NdL1n:前記レンズL1nのd線における屈折率
【請求項7】
前記後群は、正の屈折力を有するレンズLrpを少なくとも1枚有し、以下の条件式を満足する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のズームレンズ。
0.010 < ΔPgFLrp < 0.070 ・・・(8)
但し、
ΔPgFLrp:前記後群に含まれる前記レンズLrpの中で、最も異常分散性が大きなレンズの異常分散性、ここで異常分散性とはC7(部分分散比:0.5393、νd:60.49)及びF2(部分分散比:0.5829、νd:36.30)の部分分散比とνdの座標を通る直線を基準線としたときの、部分分散比の基準線からの偏差のことである
【請求項8】
以下の条件式を満足する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のズームレンズ。
0.80 < f1/fw < 3.00 ・・・(9)
但し、
f1:前記第1レンズ群の焦点距離
fw:当該ズームレンズの広角端における焦点距離
【請求項9】
前記後群は、負の屈折力を有するレンズLnrを少なくとも1枚有し、以下の条件式を満足する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のズームレンズ。
1.83 < NdLnr < 2.20 ・・・(10)
但し、
NdLnr:前記レンズLnrのd線における屈折率
【請求項10】
以下の条件式を満足する請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のズームレンズ。
0.40 < Lt/ft < 0.75 ・・・(12)
但し、
Lt:望遠端における当該ズームレンズの最も物体側のレンズ面から像面までの距離
ft:望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のズームレンズと、当該ズームレンズの像側に当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ズームレンズ及び撮像装置に関し、特に、固体撮像素子等を用いた撮像装置の撮像光学系に好適なズームレンズ及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の固体撮像素子を用いた撮像装置が普及している。それに伴い、これらの撮像装置の光学系の高性能化、小型化が進み、小型の撮像装置システムが急速に普及してきている。さらに、焦点距離の長い望遠系のズームレンズでは光学系の高性能化と共に小型化に対する要求が特に強い。
【0003】
そこで、特許文献1には、ズーム比が4倍程度であり、35mm判換算したときの望遠端における焦点距離が600m程度であり、F値が6.3程度のズームレンズが提案されている。当該ズームレンズでは、従来よりも望遠化、すなわち従来よりも長い焦点距離を実現すると共に小型化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示のズームレンズでは、異常分散性を有する硝材からなる正レンズを用いて第1レンズ群を構成することで高い光学性能を実現している。しかしながら、特許文献1に開示のズームレンズは、ズームレンズユニット全体の小型化及び軽量化の点では十分ではなかった。望遠系のズームレンズでは、第1レンズ群を構成するレンズの径は大きく、正レンズの場合は厚い。また、異常分散性を有する硝材は高価であり、比重も大きい。そのため、第1レンズ群に異常分散性を有する正レンズを配置すると、コストが嵩むと共に重くなる。さらに、第1レンズ群が重くなると、変倍の際に第1レンズ群を光軸に沿って移動させるための駆動機構も大型化し、ズームレンズユニット全体も大型化し、重くなる。
【0006】
そこで、本件発明の課題は、小型軽量であり、且つ、光学性能の高いズームレンズ及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本件発明に係るズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有するレンズ群Gpを少なくとも一つ含む後群とから構成され、隣り合うレンズ群の空気間隔を変化させることで変倍を行い、前記第1レンズ群は正の屈折力を有するレンズL1p1を有し、且つ、当該第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズは2枚以下であり、前記レンズ群Gpは負の屈折力を有するレンズLpnを有し、前記後群は最も物体側に正の屈折力を有するレンズを有し、以下の条件式を満足することを特徴とする。
3.50 < ft/fnot/Y < 9.00 ・・・(1)
63.0 < νdL1p1 < 76.0 ・・・(2)
32.0 < νdLpn < 65.0 ・・・(3)
1.80 < BFw/(fw×tanωw) < 4.50 ・・・・・(11)
但し、
ft:望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
fnot:望遠端における当該ズームレンズのF値
Y:当該ズームレンズの最大像高
νdL1p1:前記レンズL1p1のd線におけるアッベ数
νdLpn:前記レンズLpnのd線におけるアッベ数
BFw:当該ズームレンズの最も像側のレンズ面から像面までの広角端における空気換算長
fw:広角端における当該ズームレンズの焦点距離
ωw:広角端無限合焦時における当該ズームレンズの最軸外主光線の半画角
【0008】
上記課題を解決するため、本件発明に係るズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有するレンズ群Gpを少なくとも一つ含む後群とから構成され、隣り合うレンズ群の空気間隔を変化させることで変倍を行い、前記第1レンズ群は正の屈折力を有するレンズL1p1を有し、且つ、当該第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズは2枚以下であり、前記レンズ群Gpは前記後群に含まれる正の屈折力を有するレンズ群の中で最も物体側に配置され、前記レンズ群Gpは負の屈折力を有するレンズLpnを有し、前記後群は最も物体側に正の屈折力を有するレンズを有し、以下の条件式を満足することを特徴とする。
63.0 < νdL1p1 < 76.0 ・・・(2)
32.0 < νdLpn < 65.0 ・・・(3)
但し、
νdL1p1:前記レンズL1p1のd線におけるアッベ数
νdLpn:前記レンズLpnのd線におけるアッベ数
【0009】
また、上記課題を解決するため、本件発明に係る撮像装置は、上記ズームレンズと、当該ズームレンズの像側に当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換にする撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本件発明によれば、小型軽量であり、且つ、光学性能の高いズームレンズ及び撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本件発明の実施例1のズームレンズの広角端における無限遠合焦時のレンズ断面図を示す。
【
図2】実施例1のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図3】実施例1のズームレンズの中間焦点距離状態における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図4】実施例1のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図5】本件発明の実施例2のズームレンズの広角端における無限遠合焦時のレンズ断面図を示す。
【
図6】実施例2のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図7】実施例2のズームレンズの中間焦点距離状態における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図8】実施例2のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図9】本件発明の実施例3のズームレンズの広角端における無限遠合焦時のレンズ断面図を示す。
【
図10】実施例3のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図11】実施例3のズームレンズの中間焦点距離状態における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図12】実施例3のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図13】本件発明の実施例4のズームレンズの広角端における無限遠合焦時のレンズ断面図を示す。
【
図14】実施例4のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図15】実施例4のズームレンズの中間焦点距離状態における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【
図16】実施例4のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の球面収差図、非点収差図及び歪曲収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置の実施の形態を説明する。但し、以下に説明する当該ズームレンズ及び撮像装置は本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置の一態様であって、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置は以下の態様に限定されるものではない。
【0013】
1.ズームレンズ
1-1.ズームレンズの光学構成
本実施の形態のズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、後群とから構成される。当該ズームレンズの最も物体側に、正の屈折力を配置するというパワー配置を採用することにより、軸上光線の最大高さを抑えることができるため、当該ズームレンズの径方向の小型化が容易になる。特に、第1レンズ群を構成するレンズの径方向の小型化が容易になるため、第1レンズ群を構成するレンズの体積を減らすことができる。焦点距離の長い望遠系のズームレンズでは、第1レンズ群を構成するレンズの径は、他のレンズ群を構成するレンズの径よりも大きい。第1レンズ群の径方向の小型化を図ることで、当該ズームレンズ全体の小型化及び軽量化を図る効果が大きくなる。特に、35mm判換算において100mmより長い焦点距離をズーム域に含みつつ、望遠端における当該ズームレンズの入射瞳径が80mmよりも大きくなるように構成したズームレンズにおいて、このパワー配置を採用したときに、当該効果が顕著になる。
【0014】
さらに、当該ズームレンズでは、後群に対する入射光束の径は、第1レンズ群に対する入射光束の径よりも小さい。そのため、フォーカス群や防振群を後群に配置する場合、第1レンズ群にフォーカス群や防振群を配置する場合と比較すると、フォーカス群や防振群の小型化及び軽量化を図ることができる。以下、各レンズ群の光学構成等について説明する。なお、当該ズームレンズは、第1レンズ群と後群とから実質的に構成されていればよい。すなわち、以下に説明するレンズ群の他に、屈折力を有さない、若しくは屈折力の極めて小さい光学素子が配置されていてもよい。そのような光学素子として、例えば、レンズを汚れやキズなどから保護するための保護フィルター、入射光量を低下させるために用いられるNDフィルター、色彩を調整するためのPLフィルター等の種々のフィルターが挙げられる。
【0015】
(1)第1レンズ群
当該ズームレンズにおいて、第1レンズ群は最も物体側に配置される。第1レンズ群は、全体で正の屈折力を有する限り、その具体的なレンズ構成は特に限定されるものではない。
【0016】
第1レンズ群は全体で正の屈折力を有するため、第1レンズ群は少なくとも1枚の正の屈折力を有するレンズを有する。すなわち、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズは、このレンズL1p1のみであってもよい。しかしながら、望遠端における色収差や球面収差を良好に補正する上では、第1レンズ群はレンズL1p1の他にも、正の屈折力を有するレンズL1p2を備えることが好ましい。第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズの枚数を増加させると、第1レンズ群に強い正の屈折力を配置しつつ、各面の形状を調整することで球面収差等の発生を抑制し、光学性能の高いズームレンズを得ることができる。しかしながら、第1レンズ群は、当該ズームレンズにおいて最も径の大きなレンズにより構成される。そのため、第1レンズ群を構成するレンズ枚数が増加すると、当該ズームレンズが重くなる。従って、当該ズームレンズの高性能化を図りつつ、当該ズームレンズの重量が増加するのを抑制するという観点から、当該ズームレンズにおいては、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズは2枚以下であるものとする。
【0017】
また、第1レンズ群は負の屈折力を有するレンズL1nを少なくとも1枚有することが、色収差の補正や像面性を良好にする上で好ましい。
【0018】
これらのことから、第1レンズ群は、負の屈折力を有するレンズL1nが1枚、正の屈折力を有するレンズが2枚(レンズL1p1及びレンズL1p2)の合計3枚のレンズで構成することが、コスト及び重量の増加を抑制しつつ、高性能なズームレンズを実現する上でより好ましい。
【0019】
さらに、第1レンズ群が負の屈折力を有するレンズL1nを含む場合、当該レンズL1nは、上記レンズL1p1又はレンズL1p2と接合されていることが好ましい。負の屈折力を有するレンズL1nと、正の屈折力を有するレンズ(レンズL1p1又はレンズL1p2)とを接合することにより、これらのレンズを空気間隔を介して配置した場合と比較すると、偏芯誤差や、単レンズ間の空気間隔の誤差等、種々の製造誤差を小さくすることができる。そのため、製造誤差に起因する光学性能の低下を小さくすることができ、製品毎の性能のバラツキを小さくすることができる。従って、負の屈折力を有するレンズL1nと、正の屈折力を有するレンズ(レンズL1p1又はレンズL1p2)とを接合することにより、光学性能の高いズームレンズを歩留まりよく製造することができる。
【0020】
ところで、互いに接合するレンズの硝材の線膨張係数に差があると、雰囲気温度の変化による硝材の膨張又は収縮による形状変化の態様が異なり、接合面には応力が負荷される。接合レンズを構成するレンズの径が大きくなればなるほど、硝材の線膨張係数の差がこの接合面に負荷された応力が大きいと、接合面において接合レンズにヒビが入ったり、割れるなどの不具合が生じる。接合レンズを構成する各レンズの線膨張係数の差が大きい場合、当該接合レンズの径が大きくなればなるほど、このような現象が生じやすくなる。すなわち、第1レンズ群を構成するレンズの径は他のレンズ群と比較すると大きいため、他のレンズ群と比較すると、第1レンズ群に配置された接合レンズではこのような現象が生じやすくなる。そこで、定圧下(1atm)で温度を変化させたときに試料長さが変化する割合を線膨張係数とし、-30℃~70℃の温度範囲における試料長さの平均の変化の割合を平均線膨張係数αとしたとき、第1レンズ群において接合レンズを構成する正の屈折力を有するレンズの平均線膨張係数α1pと、負の屈折力を有するレンズL1nの平均線膨張係数α1nとの差は小さいことが好ましい。より具体的には、0<α1p-α1n<50×10-7/℃であることが好ましい。当該条件を満たす場合、第1レンズ群に配置される負の屈折力を有するレンズL1nと、正の屈折力を有するレンズL1p1又はレンズL1p2を接合したときに、雰囲気温度の変化により当該接合レンズの割れを抑制することができて好ましい。
【0021】
さらに、第1レンズ群に含まれる負の屈折力を有するレンズL1nのd線におけるアッベ数は45より小さく、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズのうち、少なくともいずれか一方のレンズ(レンズL1p1又はレンズL1p2)のd線におけるアッベ数は65より大きいことが色収差補正の点で好ましい。当該条件を満たす場合、望遠端においても色収差が良好に補正されたズームレンズを実現することができる。
【0022】
また、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズのうち、少なくともいずれか一方のレンズ(レンズL1p1又はレンズL1p2)は異常分散性の高い硝材製であることが色収差補正の点で好ましい。特に、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズのうち、少なくともいずれか一方のレンズ(レンズL1p1又はレンズL1p2)の異常分散性(ΔPgF)が0.015より大きいことが好ましく、0.019より大きいことがより好ましく、0.025より大きいことがさらに好ましい。なお、異常分散性(ΔPgF)はC7(部分分散比:0.5393、νd:60.49)及びF2(部分分散比:0.5829、νd:36.30)の部分分散比とνdの座標を通る直線を基準線としたときの、部分分散比の基準線からの偏差をいう。
【0023】
異常分散性の高い硝材は比較的比重が大きいため、第1レンズ群に2枚の正の屈折力を有するレンズ(レンズL1p1、レンズL1p2)が含まれる場合、いずれか一方のレンズが異常分散性の高い硝材製であり、他方のレンズがアッベ数が大きく、比重の小さい硝材製であることが、当該ズームレンズの高性能化と軽量化とを図る上で好ましい。
【0024】
(2)後群
後群は、上記第1レンズ群よりも像側に配置される複数のレンズ群の総称である。後群は正の屈折力を有するレンズ群Gpを含む。後群は、正の屈折力を有するレンズ群Gpを含む限り、他のレンズ群構成は特に限定されない。例えば、正の屈折力を有するレンズ群を2つ以上有していてもよいし、負の屈折力を有するレンズ群を1つ以上有していてもよい。また、望遠端において、後群の屈折力が全体で負であれば、テレフォト傾向の強い屈折力配置となる。そのため、望遠端における当該ズームレンズの光学全長を焦点距離に比して短くする効果が大きくなり、当該ズームレンズの小型化を図る上で好ましい。しかしながら、望遠端における後群全体の屈折力は負であっても正であってもよく、後群全体の屈折力の符号は特に限定されるものではない。なお、テレフォト傾向が強いとは、テレフォト比(L/f、Lは光学全長、fは焦点距離を意味する)が小さいことを意味する。
【0025】
(a)物体側群Rfn及び像側群Rrp
後群は、広角端における最も大きな空気間隔よりも物体側に、少なくとも1つ以上のレンズ群を含み、且つ、全体で負の屈折力を有する物体側群Rfnを備え、広角端における最も大きな空気間隔よりも像側に、少なくとも1つ以上のレンズ群を含み、且つ、全体で正の屈折力を有する像側群Rrpとを備えることが好ましい。後群において、広角端における最も大きな空気間隔よりも物体側に全体で負の屈折力を有する物体側群Rfnを配置し、その像側に全体で正の屈折力を有する像側群Rrpとを配置するという屈折力配置を採用することにより、物体側群Rfnによる合成横倍率を大きく確保することができるため、望遠端における当該ズームレンズの焦点距離を長くする上で効果的である。
【0026】
この場合、後群における物体側群Rfnのレンズ群構成は特に限定されない。物体側群Rfnは、例えば、負の屈折力を有するレンズ群を2つ以上有していてもよいし、正の屈折力を有するレンズ群を1つ以上有していてもよい。また、後群における像側群Rrpのレンズ群構成も特に限定されないが、正の屈折力を有するレンズ群を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0027】
(b)レンズ群Gp
上記正の屈折力を有するレンズ群Gpは、後群内に配置される限り後群内における配置は特に限定されるものではない。後群が、例えば、上記負の屈折力を有する物体側群Rfnと正の屈折力を有する像側群Rrpとから構成される場合、正の屈折力を有するレンズ群Gpは像側群Rrpに配置されることが好ましい。
【0028】
また、当該正の屈折力を有するレンズ群Gpは、負の屈折力を有するレンズLpnを少なくとも1枚有することが好ましい。第1レンズ群を軽量化するために、第1レンズ群を構成するレンズを比重の小さい硝材製のものとすると、第1レンズ群内で十分に色収差を補正することができなくなる。そのため、第1レンズ群で発生した色収差を後群で補正する必要がある。そこで、後群に配置される正の屈折力を有するレンズ群Gpに負の屈折力を有するレンズLpnを配置することで、軸上色収差を良好に補正することができるため、当該ズームレンズの高性能化を図る上で好ましい。
【0029】
(c)負の屈折力を有するレンズ群
また、後群は負の屈折力を有するレンズ群を備えることが好ましい。変倍の際に、後群内に配置される負の屈折力を有するレンズ群を像側に移動させることが、望遠端における当該ズームレンズの焦点距離を長くすることができて好ましい。但し、後群内に配置される負の屈折力を有するレンズ群が複数存在する場合、少なくとも一つのレンズ群を像側に移動させればよい。また、像側に移動させる負の屈折力を有するレンズ群は、前記物体側群Rfnであることが好ましい。後群内に配置された負の屈折力を有するレンズ群を像側に移動させることで、負の屈折力を有するレンズ群の望遠端における横倍率を大きくすることができる。そのため、当該ズームレンズを小型に維持したまま、望遠端における当該ズームレンズの焦点距離を長くすることが可能になる。
【0030】
また、後群に配置された負の屈折力を有するレンズ群を像側に凸の軌跡で移動することが、中間焦点距離における像面性を良好にする上で好ましい。後群内に配置される負の屈折力を有するレンズ群が複数存在する場合、少なくとも一つのレンズ群を像側に移動させればよい。
【0031】
さらに、後群に含まれる負の屈折力を有するレンズ群のうち、最も像側に配置される負の屈折力を有するレンズ群を負レンズ群nとする。負レンズ群nは、次に説明するレンズ群Rとは異なるレンズ群であることが好ましく、従って、負レンズ群nはレンズ群Rよりも物体側に配置されることが好ましい。
【0032】
(d)レンズ群R
ここで、後群において、最も像側に配置されるレンズ群をレンズ群Rと称する。レンズ群Rは、上記正の屈折力を有するレンズ群Gpであってもよいし、レンズ群Gp以外の正の屈折力を有するレンズ群であってもよい。また、レンズ群Rは負の屈折力を有するレンズ群であってもよい。
【0033】
望遠端における当該ズームレンズの光学全長方向の小型化を図る上で、当該レンズ群Rは負の屈折力を有することが好ましい。物体側に正の屈折力を配置し、像側に負の屈折力を配置するテレフォト型の屈折力配置を採用することにより、望遠端における当該ズームレンズの光学全長を焦点距離に比して短くすることができる。レンズ群Rが負の屈折力を有すると、このテレフォト型の傾向の強い屈折力配置とすることができるため、望遠端における当該ズームレンズの小型化を図る上で好ましい。
【0034】
(e)その他
当該ズームレンズは、上記レンズ群Rの物体側に、負の屈折力を有するレンズ群を有することが好ましい。レンズ群Rが負の屈折力を有する場合、レンズ群Rの物体側に負の屈折力を有するレンズ群を配置することで、テレフォト型の傾向のより強い屈折力配置とすることができるため、望遠端において当該ズームレンズをより小型化する上で好ましい。
【0035】
また、当該ズームレンズの一層の高性能化を図る上で、後群は少なくとも1枚の負の屈折力を有するレンズLnrを有することが好ましい。後群に、負の屈折力を有するレンズLnrを配置することで、像面性を向上させることができ、色収差を低減させることができる。
【0036】
さらに、後群には少なくとも1枚の正の屈折力を有するレンズLrpを有することが好ましい。後述するとおり、当該レンズLrpは異常分散性の高い硝材であることがより好ましい。
【0037】
ここで、焦点距離の長い望遠系のズームレンズでは、瞳径が大きくなる。通常、NDフィルターやPLフィルターなどは、光学系の最も物体側に配置される。しかしながら、例えば、35mm判換算で望遠端における焦点距離が500mmを超えるような望遠系のズームレンズでは、第1レンズ群の径が大きくなるため、そのような径に対応する市販のフィルターが存在しない場合がある。当該ズームレンズユニットでは、後群内にこれらのフィルターが挿入可能に構成されていることが好ましい。この場合、当該フィルターは変倍の際に像面に対して固定されていることが好ましい。
【0038】
(3)フォーカス群
当該ズームレンズにおいて、フォーカス群の有無は特に限定されるものではない。合焦を行う場合、少なくとも当該ズームレンズ中の少なくとも1枚のレンズを光軸方向に移動させればよく、そのレンズの位置や屈折力は特に限定されるものではない。
【0039】
第1レンズ群又はその一部をフォーカス群としてもよいが、後群を構成するレンズ群のいずれか一のレンズ群又はその一部をフォーカス群とすることがより好ましい。第1レンズ群と比較すると後群を構成するレンズ群は径小であり、フォーカス群の小型化及び軽量化を図る上で好ましい。また、フォーカス群の小型化及び軽量化を図ることにより、フォーカス群を合焦時に光軸方向に移動させるための駆動機構(以下、フォーカス駆動機構と称する。)の小型化及び軽量化を図ることができる。そのため、当該ズームレンズの鏡筒部分を含むズームレンズユニット全体の小型化を図ることができて好ましい。なお、ズームレンズユニットには、フォーカス駆動機構の他、変倍時に各レンズ群を相対的に移動させるためのズーム駆動機構の他、これらを収容する鏡筒等が含まれるものとする。
【0040】
また、近接被写体への合焦時に発生する収差変動を抑制する上で、フォーカス群は複数枚のレンズから構成されることが好ましい。
【0041】
さらに、フォーカス群は1つの単レンズユニットから構成されることが好ましい。ここで、単レンズユニットとは、1枚の単レンズ、或いは、複数枚の単レンズを空気間隔を介することなく一体化した接合レンズなどのレンズユニットをいう。すなわち、単レンズユニットは、複数の光学面を有する場合であっても、その最物体側面及び最像側面のみ空気と接し、その他の面は空気とは接していないものとする。また、当該明細書において、単レンズは、球面レンズ及び非球面レンズのいずれであってもよい。また、非球面レンズには、表面に非球面フィルムが貼設されたいわゆる複合非球面レンズも含まれるものとする。
【0042】
フォーカス群を上記1つの単レンズユニットから構成した場合、フォーカス群には空気間隔が含まれない。そのため、フォーカス群を複数の単レンズが空気間隔を介して配置した構成と比較すると、フォーカス群を1つの単レンズユニットから構成すればフォーカス群の小型化及び軽量化を図ることができる。その結果、フォーカス駆動機構の一層の小型化及び軽量化を図ることができ、当該ズームレンズユニット全体の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0043】
また、フォーカス群を上記1つの単レンズユニットから構成することにより、フォーカス群を複数枚の単レンズを空気間隔を介して配置した構成と比較すると、偏芯誤差や、単レンズ間の空気間隔の誤差等、種々の製造誤差を小さくすることができる。そのため、製造誤差に起因する光学性能の低下を小さくすることができ、製品毎の性能のバラツキを小さくすることができる。従って、光学性能の高いズームレンズを歩留まりよく製造することができる。
【0044】
フォーカス群は正の屈折力を有していてもよく、負の屈折力を有していてもよい。フォーカス群が負の屈折力を有する場合、正の屈折力を有する場合と比較すると、フォーカス群の横倍率を大きくすることができるため、ピント敏感度が大きくなり、フォーカス移動量を削減することができ、当該ズームレンズの小型化を図る上で好ましい。合焦の際のフォーカス群の移動の方向は特に限定されるものではないが、フォーカス群が負の屈折力を有する場合、無限遠から近接被写体に合焦する際には、フォーカス群を像側に移動させることが好ましい。特に、フォーカス群は上述した負レンズ群nであることがより好ましい。
【0045】
フォーカス群に含まれるレンズ面は球面のみであってもよいし、非球面を含んでいてもよい。フォーカス群に含まれるレンズ面が球面のみであれば、コストを抑えることができるため好ましい。一方、フォーカス群に含まれるレンズ面のうち、少なくとも1面を非球面とすれば、少ないレンズ枚数で合焦時の収差変動の少ないフォーカス群を構成することが可能となり、フォーカス駆動機構含め当該ズームレンズユニット全体の小型化を図ることができる。このとき、当該非球面は近軸曲率半径で定義される近軸球面から求められる屈折力を弱める形状であることが好ましい。このような形状の非球面をフォーカス群に配置することで、合焦時の球面収差やコマ収差や像面湾曲を補正することができるため、合焦域全域においてより光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0046】
さらに、後群内にフォーカス群を設けた場合、フォーカス群は最も像側に配置される上記レンズ群Rより物体側に配置されることが好ましい。当該ズームレンズの最も像側には、当該ズームレンズと撮像装置本体との電気的接続を図るための制御回路等が搭載されたフレキシブル基板等が配置される。そのため、上記レンズ群R又はその一部をフォーカス群とした場合、フォーカス駆動機構を構成する各種メカ部材等を配置するためのスペースを鏡筒内に確保することが難しく、鏡筒径を大きくする必要が生じるなど、当該ズームレンズを小型に構成することが困難になる。フォーカス群をレンズ群Rよりも物体側に配置することで、フォーカス駆動機構を構成する各種メカ部材を配置するためのスペースを確保することが容易になり、当該ズームレンズの鏡筒の径小化を図ることができ、当該ズームレンズユニット全体の小型化を図ることができる。
【0047】
後群内にフォーカス群を設ける場合、当該フォーカス群は正の屈折力を有するレンズ群の像側に配置されることが好ましい。正の屈折力を有するレンズ群の像側にフォーカス群を配置することで、当該正の屈折力を有するレンズ群により収斂された光束をフォーカス群に入射させることができるため、フォーカス群の径小化を図ることができる。また、フォーカス群の径小化を図ることにより、フォーカスの軽量化を図ることができるため当該ズームレンズユニット全体の小型化を図ることができて好ましい。
【0048】
なお、当該ズームレンズでは、複数のレンズ群又は複数のレンズ群の一部分をフォーカス群としてもよい。すなわち、フローティング方式により合焦してもよい。フローティング方式を採用することにより、より近接合焦時の球面収差や像面性をよくすることができるため、高性能化の点で好ましい。
【0049】
(4)開口絞り
当該ズームレンズにおいて、開口絞りの配置は特に限定されるものではないが、後群内に開口絞りが配置されることが、絞りユニットの小型化を図る上で好ましい。但し、ここでいう開口絞りは、当該ズームレンズの軸上光束径を規定する絞り、すなわち当該ズームレンズのF値を規定する絞りをいう。
【0050】
絞りユニットとは、開口絞りと、当該開口絞りの動作を制御するためのメカ部材及び制御基板等をいう。当該ズームレンズでは、正の屈折力を有する第1レンズ群で収斂された光束が後群に入射する。そのため、後群に対する入射光束の径は、第1レンズ群に対する入射光束の径よりも小さい。従って、後群内に開口絞りを配置することで、絞り径を小型化することができる。さらに、後群において、正の屈折力を有するレンズ群Gpより像側に開口絞りを配置すれば、レンズ群Gpによりさらに入射光束を収斂することができるため、開口絞りの小径化を図り、絞りユニットの小型化を図る上でより好ましい。
【0051】
さらに、後群において最も像側に配置されるレンズ群Rが変倍の際に像面に対して固定されている場合、レンズ群Rの物体側又はレンズ群R内に開口絞りを設けることが好ましい。変倍の際に当該レンズ群Rが像面に対して固定される場合、レンズ群Rの倍率変化が起きないため、変倍時に開口絞りの絞り径を変化させる必要がない。そのため、変倍時に、当該ズームレンズのF値を一定とすることができる。
【0052】
(5)防振群
当該ズームレンズにおいて、防振群の有無は特に限定されるものではない。例えば、当該ズームレンズを構成する複数のレンズのうち、少なくともいずれか1枚のレンズを光軸に略直交する方向に移動することなどにより偏芯させて、手振れ等に起因する像ブレを補正するようにしてもよい。
【0053】
当該ズームレンズにこのような防振群を設ける場合、防振群の配置は特に限定されるものではないが、後群内に防振群を設けることが防振群の径小化を図る上で好ましい。後群に対する入射光束の径は、前群に対する入射光束の径よりも小さい。そのため、防振群を後群に配置することにより、前群に防振群を配置する場合と比較すると、防振群の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0054】
また、防振群は、開口絞りより像側に配置されることが好ましい。開口絞りより像側は、変倍中の光線高さの変動が小さい為、変倍中の収差変動も小さい。そのため防振時における収差変動も小さくすることができ、防振時も高い光学性能を維持することができる。また、開口絞りよりも像側に防振群を配置すれば、防振群により像ブレを補正する際の防振群の移動量を小さくすることができる。そのため、防振ユニットの小型化を図ることができ、当該ズームレンズユニット全体の小型化を図ることができる。
【0055】
防振群は正の屈折力を有してもよいし、負の屈折力を有してもよく、防振群に配置される屈折力の符号は特に限定されるものではない。防振群が負の屈折力を有する場合、像ブレ補正時の防振群の移動量を削減できるため、ズームレンズユニット全体の小型化を図る上で好ましい。
【0056】
防振群を構成するレンズの枚数は特に限定されるものではない。防振群を複数枚のレンズで構成すれば、防振時の収差変動を抑える点で好ましい。このとき、防振群は負の屈折力を有するレンズと正の屈折力を有するレンズとをそれぞれ少なくとも1枚有することが好ましい。防振群が負の屈折力を有するレンズと正の屈折力を有するレンズとをそれぞれ少なくとも1枚有することで防振時の色収差発生を抑えることができ、より光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0057】
防振群を、1枚の負の屈折力を有するレンズと1枚の正の屈折力を有するレンズとから構成することがより好ましい。防振群を2枚のレンズのみから構成することにより、防振群の小型化及び軽量化を図ることができ、防振ユニットの小型化を図ることができ、当該ズームレンズユニット全体の小型化を図ることができる。
【0058】
防振群を1枚の負の屈折力を有するレンズと1枚の正の屈折力を有するレンズとから構成する場合、これらの2枚のレンズは接合されていることが好ましい。すなわち、防振群は負の屈折力を有するレンズと正の屈折力を有するレンズとが接合された単レンズユニットから構成されていることが好ましい。防振群を1つの単レンズユニットから構成することにより、負の屈折力を有するレンズと正の屈折力を有するレンズとを空気間隔を介して配置した構成と比べて、小型化を図ることができる他、偏芯誤差や、単レンズ間の空気間隔の誤差等、種々の製造誤差を小さくすることができる。そのため、製造誤差に起因する光学性能の低下を小さくすることができ、製品毎の性能のバラツキを小さくすることができる。従って、光学性能の高いズームレンズを歩留まりよく製造することができる。
【0059】
また、当該ズームレンズに防振群を設ける場合、防振群に含まれるレンズ面は球面のみであってもよいし、非球面を含んでいてもよい。防振群に含まれるレンズ面が全て球面であれば、低コスト化を図る上で好ましい。
【0060】
一方、防振群に含まれるレンズ面のうち、少なくとも1面を非球面とすれば、少ないレンズ枚数で防振群を構成したときも、当該ズームレンズに要求される光学性能を満たすことが容易になる。そのため、防振群の少ないレンズ枚数で構成することが可能になるため、防振群の小型化及び軽量化を図ることができる。このとき、当該非球面は近軸曲率半径で定義される近軸球面から求められる屈折力を弱める形状であることが好ましい。このような形状の非球面を防振群に配置することで、偏芯時のコマ収差や片ボケを補正することができるため、より光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0061】
防振群は、変倍の際に像面に対して光軸方向に固定されるレンズ群若しくはその一部であることが好ましい。防振時に防振群を光軸に直交する方向に移動させるためには、防振群を駆動するためのメカ部材やこれを制御するための電子回路が搭載されたフレキシブル基板が設けられている。防振群が変倍時に光軸方向に移動する場合、このフレキシブル基板等を収容するためのスペースを確保することが困難であり、当該ズームレンズユニット全体の小型化を図ることが困難になる。また、鏡筒内にフレキシブル基板を撓めて配置すると、フレキシブル基板からの反力によって防振群が偏芯することがあり、当該ズームレンズの光学性能が劣化するおそれがあるため好ましくない。
【0062】
後群において、最も像側に配置されるレンズ群Rが負の屈折力を有する場合、当該レンズ群R又はその一部を防振群とすることが好ましい。上述のとおり、レンズ群Rが負の屈折力を有する場合、当該ズームレンズはテレフォト型の傾向の強い屈折力配置となり、レンズ群Rの小径化も図られる。そのため、防振群をレンズ群Rに配置すれば、防振群の小型化及び軽量化が図れ、防振ユニットの小型化がより容易になる。
【0063】
レンズ群Rの一部を防振群とする場合、防振レンズ群の像側に少なくとも1枚のレンズが配置されていることが好ましい。さらに、防振群の像側に配置される全てのレンズによる合成焦点距離は負であることが好ましい。防振群より像側に負の屈折力を配置することで、防振群のブレ補正係数、すなわち防振群の単位移動量当たりの像面移動量を大きくすることができるため、防振時における防振群の移動量を小さくすることができ、防振ユニットの小型化がより容易になる。
【0064】
(6)レンズ群構成
当該ズームレンズを構成するレンズ群の数は特に限定されるものではないが、例えば、正の屈折力を有する第1レンズ群、負の屈折力を有する第2レンズ群、負の屈折力を有する第3レンズ群、正の屈折力を有する第4レンズ群、正の屈折力を有する第5レンズ群、負の屈折力を有する第6レンズ群及び負の屈折力を有する第7レンズ群からなり、第2レンズ群以降が後群である7群構成のズームレンズ、正の屈折力を有する第1レンズ群、負の屈折力を有する第2レンズ群、正の屈折力を有する第3レンズ群、正の屈折力を有する第4レンズ群、負の屈折力を有する第5レンズ群、及び負の屈折力を有する第6レンズ群からなり、第2レンズ群以降が後群である6群構成のズームレンズなど種々のレンズ群構成を採用することができる。物体側から順に正の屈折力を有する第1レンズ群と、後群とを備える構成であれば、当該ズームレンズの具体的なレンズ群構成は特に限定されるものではない。
【0065】
1-2.変倍時の動作
当該ズームレンズにおいて、広角端から望遠端への変倍に際して、隣り合うレンズ群の空気間隔を変化させる。また、広角端から望遠端への変倍に際して、第1レンズ群と後群との間隔は増加するようにレンズ群間の空気間隔を変化させることが好ましい。
【0066】
後群は正の屈折力を有するレンズ群Gpを少なくとも1つ有し、その他のレンズ群を備えていてもよい。後群が複数のレンズ群を含む場合、後群内においても隣り合うレンズ群の空気間隔が変化するものとする。広角端から望遠端への変倍に際して、隣り合うレンズ群の空気間隔が変化していればよく、各レンズ群の空気間隔の増減は特に限定されるものではない。第1レンズ群と、後群において最も物体側に配置されるレンズ群との空気間隔が増加することが、高い変倍比を得る上で好ましいが、その他のレンズ群間の空気間隔の増減は特に限定されるものではない。また、変倍に際して当該ズームレンズを構成する全てのレンズ群を光軸方向に移動させてよいし、一部のレンズ群を光軸方向に固定し、残りのレンズ群を光軸方向に移動させてもよく、個々のレンズ群の移動の有無及び移動の方向は特に限定されるものではない。
【0067】
入射瞳径が80mmを超えるような、焦点距離の長い大きなズームレンズの場合、第1レンズ群の重量は数百グラムを超える。そのような重さのレンズ群を変倍時に精度よく所定の位置に移動させるためには、第1レンズ群を駆動するためのメカ部材に加わる負荷も大きく、当該ズームレンズの変倍時の動作を制御するためのメカ構造も大型化する。そのため、変倍の際に、当該ズームレンズにおいて最も物体側に配置される第1レンズ群を像面に対して光軸方向に固定とすることが、当該ズームレンズユニット全体の小型化及び軽量化を図る上で好ましい。また、第1レンズ群を像面に対して固定すれば、重心位置の移動も少なくなるため、撮像時の像ブレ等を抑制することも容易になる。
【0068】
また、変倍の際に第1レンズ群を像面に対して光軸方向に固定することで、鏡筒長の変化がなくなるため、鏡筒の少なくとも物体側を水密構造にすることが容易になり、鏡筒の物体側から鏡筒内にゴミや水分の侵入を防ぎやすくなるため好ましい。
【0069】
さらに、後群において最も像側に配置されるレンズ群Rについても、変倍の際に像面に対して光軸方向に固定することで、鏡筒の像側についても水密構造にすることが容易になり、鏡筒の像側から鏡筒内にゴミや水分の侵入を防ぎやすくなるため好ましい。その他、レンズ群Rを固定群とすることにより、鏡筒の小径化を図ることができる点については上述したとおりである。
【0070】
1-3.条件式
当該ズームレンズでは、上述した構成を採用するとともに、次に説明する条件式を1つ以上満足することが好ましい。
【0071】
1-3-1.条件式(1)
3.50 < ft/fnot/Y < 9.00 ・・・(1)
但し、
ft:望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
fnot:望遠端における当該ズームレンズのF値
Y:当該ズームレンズの最大像高
【0072】
上記条件式(1)は、入射瞳径の大きさを規定する式である。条件式(1)を満足させることにより、入射瞳径が適切な大きさになる。そのため、当該ズームレンズの望遠化を図りつつ、第1レンズ群の径が大きくなるのを抑制し、当該ズームレンズの軽量化を図ることができる。
【0073】
これに対して、条件式(1)の数値が上限値以上になると、入射瞳径が大きくなりすぎる。第1レンズ群を構成するレンズの径は入射瞳径よりは大きい。そのため、第1レンズ群を軽量化することが困難になるため好ましくない。一方、条件式(1)の数値が下限値以下になると、当該ズームレンズの望遠化を図ることが困難になるため好ましくない。
【0074】
上記効果を得る上で、条件式(1)の下限値は3.90であることがより好ましく、4.20であることがさらに好ましく、4.50であることが一層好ましく、4.70であることがより一層好ましい。また条件式(1)の上限値は8.00であることがより好ましく、7.50であることがさらに好ましく、7.00であることが一層好ましく、6.50であることがより一層好ましい。
【0075】
1-3-2.条件式(2)
63.0 < νdL1p1 < 76.0 ・・・(2)
但し、
νdL1p1:レンズL1p1のd線におけるアッベ数
【0076】
上記条件式(2)は、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズL1p1のd線におけるアッベ数を規定する式である。条件式(2)を満足することで、色収差を良好に補正することができ、光学性能の高いズームレンズを実現しつつ、当該ズームレンズの軽量化を図ることができる。
【0077】
これに対して、条件式(2)の数値が上限値以上になると、レンズL1p1のd線におけるアッベ数が大きくなる。アッベ数の大きい硝材は比重が大きい傾向にある。また、第1レンズ群は他のレンズ群よりも径の大きいレンズで構成される。径が同じである場合、正の屈折力を有するレンズは負の屈折力を有するレンズよりも厚みの分だけ重くなる。そのため、条件式(2)の数値が上限値以上になると、第1レンズ群を軽量化することが困難になるため好ましくない。一方、条件式(2)の数値が下限値以下になると、望遠端における色収差の補正が困難となり、光学性能の高いズームレンズを実現することが困難になるため点で好ましくない。
【0078】
上記効果を得る上で、条件式(2)の下限値は64.0であることがより好ましく、66.0であることがさらに好ましく、68.0であることが一層好ましい。条件式(2)の上限値は74.0であることがより好ましく、72.0であることがさらに好ましく、71.0であることが一層好ましい。
【0079】
1-3-3.条件式(3)
32.0 < νdLpn < 65.0 ・・・(3)
但し、
νdLpn:レンズLpnのd線におけるアッベ数
【0080】
上記条件式(3)は、レンズ群Gpに含まれる負の屈折力を有するレンズLpnのd線におけるアッベ数を規定する式である。第1レンズ群を軽量化するために第1レンズ群を構成するレンズを比重の軽い硝材製のものとすると、第1レンズ群で発生する色収差が補正不足となる。そのため、第1レンズ群内で十分に補正することができなかった色収差を後群で補正する必要がある。第1レンズ群の軽量化を図るには、第1レンズ群に含まれる正の屈折力を有するレンズを比重の軽い硝材製とすることが有効である。この場合、後群において、正の屈折力を有するレンズ群Gp内に配置される負の屈折力を有するレンズLpnを上記条件式(3)を満たす硝材製のものとすることで、軸上色収差を良好に補正することができ、光学性能が高く、軽量化が図られたズームレンズを実現することができる。
【0081】
これに対して、条件式(3)の数値が上限値以上になると、レンズLpnのd線におけるアッベ数が大きくなる。その場合、軸上色収差の補正が不足となる。一方、条件式(3)の数値が下限値以下になると、レンズLpnのd線におけるアッベ数が小さくなる。その場合、望遠端における色収差の補正が過剰となる。そのため、いずれの場合も、光学性能の高いズームレンズを実現することが困難になるため好ましくない。
【0082】
上記効果を得る上で、条件式(3)の下限値は33.0であることがより好ましく、35.0であることがさらに好ましく、37.0であることが一層好ましく、38.0であることがより一層好ましい。また条件式(3)の上限値は62.0であることがより好ましく、59.0であることがさらに好ましく、56.0であることが一層好ましく、55.0であることがより一層好ましく、54.0であることがさらに一層好ましい。
【0083】
1-3-4.条件式(4)
0.25 < f1/ft < 0.65 ・・・(4)
但し、
f1:第1レンズ群の焦点距離
【0084】
条件式(4)は、第1レンズ群の焦点距離と当該ズームレンズの望遠端における焦点距離との比を規定するための式である。条件式(4)を満足させることにより、第1レンズ群の屈折力が適切な範囲内となり、光学性能が高く、且つ、小型のズームレンズを実現することがより容易になる。
【0085】
これに対して、条件式(4)の数値が下限値以下になると、第1レンズ群の屈折力が大きくなりすぎるため、望遠端における球面収差や像面湾曲が大きくなり、これを補正するためには収差補正のためのレンズ枚数を増加させる必要があるため、光学性能が高く、且つ、小型軽量のズームレンズを実現することが困難になるため好ましくない。また条件式(4)の数値が上限値以上になると、第1レンズ群の屈折力が小さくなりすぎる。そのため、望遠端における当該ズームレンズの光学全長を短くすることが困難になり、当該ズームレンズの小型化を図ることが困難になるため好ましくない。
【0086】
上記効果を得る上で、条件式(4)の下限値は0.26であることがより好ましく、0.27であることがさらに好ましく、0.28であることが一層好ましく、0.29であることがより一層好ましく、0.30であることがさらに一層好ましい。また条件式(4)の上限値は0.60であることがより好ましく、0.56であることがさらに好ましく、0.52であることが一層好ましく、0.48であることがより一層好ましく、0.45であることがさらに一層好ましい。
【0087】
1-3-5.条件式(5)
1.20 < βRT < 2.50 ・・・(5)
但し、
βRT:望遠端におけるレンズ群Rの横倍率
【0088】
条件式(5)は、後群において最も像側に配置されるレンズ群Rの横倍率を規定するための式である。条件式(5)を満足させることにより、テレフォト傾向の強い屈折力配置とすることができ、望遠端における当該ズームレンズの光学全長を焦点距離に比して短くすることができ、当該ズームレンズの小型化を図ることが容易になる。
【0089】
これに対して、条件式(5)の数値が下限値以下になると、レンズ群Rの横倍率が小さくなり、テレフォト傾向が弱まるため、望遠端における光学全長を焦点距離に比して短くすることが困難になり、当該ズームレンズの小型化が困難になるため好ましくない。一方、条件式(5)の数値が上限値以上になると、レンズ群Rの横倍率が大きくなり、諸収差の拡大作用も大きくなる。そのため、望遠端における収差補正が困難になり、光学性能の高いズームレンズを実現するためには収差補正のためのレンズ枚数を増加させる必要がある。そのため、光学性能が高く、且つ、小型軽量のズームレンズを実現することが困難になるため好ましくない。
【0090】
上記効果を得る上で、条件式(5)の下限値は1.25であることがより好ましく、1.30であることがさらに好ましく、1.35であることが一層好ましく、1.40であることがより一層好ましく、1.45であることがさらに一層好ましい。また条件式(5)の上限値は2.45であることがより好ましく、2.40であることがさらに好ましく、2.35であることが一層好ましく、2.30であることがより一層好ましく、2.20であることがさらに一層好ましい。
【0091】
1-3-6.条件式(6)
2.50 < βnRT < 6.00 ・・・(6)
但し、
βnRT:負レンズ群nからレンズ群Rまでの望遠端における合成横倍率
【0092】
条件式(6)は、負レンズ群nから像側に位置するレンズの望遠端における合成横倍率を規定するための式である。負レンズ群nは、上述したとおり、後群に含まれる負の屈折力を有するレンズ群のうち、最も像側に配置される負の屈折力を有するレンズ群をいう。条件式(6)を満足させることにより、テレフォト傾向のより強い屈折力配置となり、望遠端における光学全長を焦点距離に比して短くすることができ、当該ズームレンズの小型化を図ることが容易になる。
【0093】
これに対して、条件式(6)の数値が下限値以下になると、負レンズ群n以降に配置されるレンズ群による望遠端における合成横倍率が小さくなり、テレフォト傾向が弱まるため、望遠端における光学全長を焦点距離に比して短くすることが困難になり、当該ズームレンズの小型化が困難になるため好ましくない。また条件式(6)の数値が上限値以上になると、負レンズ群n以降に配置されるレンズ群による望遠端における合成横倍率が大きくなり、諸収差の拡大作用も大きくなる。そのため、望遠端における収差補正が困難になり、光学性能の高いズームレンズを実現するためには収差補正のためのレンズ枚数を増加ささえる必要がある。そのため、光学性能が高く、且つ、小型軽量のズームレンズを実現することが困難になるため好ましくない。
【0094】
上記効果を得る上で、条件式(6)の下限値は2.55であることがより好ましく、2.60であることがさらに好ましく、2.65であることが一層好ましく、2.70であることがより一層好ましく、2.75であることがさらに一層好ましい。また条件式(5)の上限値は5.80であることがより好ましく、5.50であることがさらに好ましく、5.20であることが一層好ましく、5.00であることがより一層好ましく、4.70であることがさらに一層好ましい。
【0095】
1-3-7.条件式(7)
1.79 < NdL1n < 1.92 ・・・(7)
但し、
NdL1n:レンズL1nのd線における屈折率
【0096】
条件式(7)は、第1レンズ群に含まれる負の屈折力を有するレンズL1nのd線における屈折率を規定するための式である。正の屈折力を有するレンズ群では、負の屈折力を有するレンズを高屈折率硝材製のものとし、正の屈折力を有するレンズを低屈折率硝材製のものとすることで、ペッツバール和を補正することが一般的である。しかしながら高屈折率硝材は高価なため、レンズL1nの屈折率が高すぎると、当該ズームレンズを低コストで構成することが困難になる。また高屈折率硝材は比重が大きいため、当該ズームレンズの軽量化を図る上でも好ましくない。条件式(7)を満足させることにより、良好な像面性を確保しつつ、当該ズームレンズの低コスト化及び軽量化を図ることができる。
【0097】
これに対して、条件式(7)の数値が下限値以下になると、レンズL1nの屈折率が小さくなり、像面性の補正が困難になり好ましくない。また、条件式(7)の数値が上限値以上になるとレンズL1nの屈折率が大きくなる。屈折率の高い硝材は高価であり、比重も大きい傾向にある。そのため、条件式(7)の数値が上限値以上になると、当該ズームレンズの低コスト化及び軽量化を図る上で好ましくない。
【0098】
第1レンズ群に負の屈折力を有するレンズL1nが複数枚含まれる場合、そのうちの1枚が条件式(7)を満たせばよい。第1レンズ群に含まれる負の屈折力を有するレンズL1nであればどのレンズが条件式(7)を満たしていてもよいが、倍率色収差をより良好に補正する上で、第1レンズ群において最も物体側に配置されるレンズL1nが条件式(7)を満たすことが好ましい。
【0099】
上記効果を得る上で、条件式(7)の下限値は1.80であることがより好ましい。また条件式(7)の上限値は1.91であることがより好ましい。
【0100】
1-3-8.条件式(8)
0.010 < ΔPgFLrp < 0.070 ・・・(8)
但し、
ΔPgFLrp:後群に含まれる正の屈折力を有するレンズLrpの中で、最も異常分散性が大きなレンズの異常分散性、ここで異常分散性とはC7(部分分散比:0.5393、νd:60.49)及びF2(部分分散比:0.5829、νd:36.30)の部分分散比とνdの座標を通る直線を基準線としたときの、部分分散比の基準線からの偏差のことである
【0101】
条件式(8)は、後群が少なくとも1枚の正の屈折力を有するレンズLrpを含む場合、当該レンズLrpの異常分散性を規定するための式である。一般に、負の屈折力を有するレンズを高分散硝材製のものとし、正の屈折力を有するレンズを低分散硝材製のものとすることで色収差補正が行われている。しかしながら、高分散硝材では可視広域において短波長から長波長に向けて屈折率が正の2次曲線的に変化するのに対して、低分散硝材では屈折率が直線的に変化するため、この2つのレンズを組み合わせても全ての波長域で過不足なく色収差の補正を行うことが困難である。一方、正の異常分散性を有する硝材からなるレンズは高分散硝材と同様に短波長から長波長に向けて屈折率が正の2次曲線的に変化する。そのため、正の屈折力を有するレンズを正の異常分散性を有する硝材製とすると、長波長域においても色収差を過不足なく補正することが容易になる。そのため、条件式(8)を満足させることにより、当該ズームレンズの広角端から望遠端にかけての色収差をより良好に補正することができ、変倍域全域において高い光学性能を有するズームレンズを実現することが容易になる。
【0102】
これに対して、条件式(8)の数値が下限値以下になると、レンズLrpの異常分散性が小さくなり、可視広域全域において色収差を過不足なく補正することが困難になり好ましくない。また条件式(8)の数値が上限値以上になると、レンズLrpの異常分散性が大きくなり、色収差補正を行う上では好ましいが、異常分散性が高い硝材は一般に高価なため、当該ズームレンズの低コスト化を図る上で好ましくない。
【0103】
上記効果を得る上で、条件式(8)の下限値は0.015であることがより好ましく、0.019であることがさらに好ましく、0.022であることが一層好ましく、0.025であることがより一層好ましく、0.027であることがさらに一層好ましい。また条件式(8)の上限値は0.065であることがより好ましく、0.060であることがさらに好ましい。
【0104】
後群は正の屈折力を有するレンズLrpを少なくとも1枚有すればよい。後群に含まれるレンズLrpが1枚であるときは、そのレンズLrpが条件式(8)を満たすことが好ましい。後群にレンズLrpが複数枚含まれる場合、その中で異常分散性が最も大きなレンズが条件式(8)を満足すればよい。また、後群は、条件式(8)を満足するレンズを複数枚含んでいてもよい。条件式(8)を満足する正の屈折力を有するレンズが後群内に複数枚存在すれば、色収差補正をより良好に行うことができ、光学性能の高いズームレンズをより容易に実現することができる。
なお、後群に含まれる負の屈折力を有するレンズの中で異常分散性が最も大きなレンズの異常分散性を上記と同様に定義した場合に、上記条件式(8)と同様の条件を満足することも好ましい。
【0105】
1-3-9.条件式(9)
0.80 < f1/fw < 3.00 ・・・(9)
但し、
f1:第1レンズ群の焦点距離
fw:当該ズームレンズの広角端における焦点距離
【0106】
条件式(9)は、第1レンズ群の焦点距離と当該ズームレンズの広角端における焦点距離との比を規定するための式である。条件式(9)を満足させることにより、第1レンズ群の屈折力を適切な範囲内とすることができ、当該ズームレンズの広角端における小型化を図ることが容易になり、且つ、光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0107】
これに対して、条件式(9)の数値が下限値以下になると、第1レンズ群の屈折力が大きくなりすぎるため、広角端における像面湾曲の発生量が大きくなる。そのため、広角端における光学性能が低下し、好ましくない。また条件式(9)の数値が上限値以上になると、第1レンズ群の屈折力が小さくなりすぎる。そのため、広角端における光学全長が長くなるため、小型化の点で好ましくない。
【0108】
上記効果を得る上で、条件式(9)の下限値は0.84であることがより好ましく、0.88であることがさらに好ましく、0.92であることが一層好ましく、0.96であることがより一層好ましく、1.00であることがさらに一層好ましい。また条件式(9)の上限値は2.80であることがより好ましく、2.60であることがさらに好ましく、2.40であることが一層好ましく、2.10であることがより一層好ましく、1.80であることがさらに一層好ましい。
【0109】
1-3-10.条件式(10)
1.83 < NdLnr < 2.20 ・・・(10)
但し、
NdLnr:レンズLnrのd線における屈折率
【0110】
条件式(10)は、後群に含まれる負の屈折力を有するレンズLnrのd線における屈折率を規定するための式である。上述のとおり、負の屈折力を有するレンズを高屈折率硝材製のものとし、正の屈折力を有するレンズを低屈折率硝材製のものとすることで、ペッツバール和を補正することが一般的である。しかしながら高屈折率硝材は高価なため、レンズLnrの屈折率が高すぎると、当該ズームレンズを低コストで構成することが困難になる。また高屈折率硝材は比重が大きいため、当該ズームレンズの軽量化を図る上でも好ましくない。条件式(10)を満足させることにより、良好な像面性を確保することができ、当該ズームレンズの低コスト化及び軽量化を図ることができる。
【0111】
これに対して、条件式(10)の数値が下限値以下になると、レンズLnrの屈折率が小さくなり、像面性の補正が困難になり好ましくない。また、条件式(10)の数値が上限値以上になるとレンズLnrの屈折率が大きくなる。屈折率の高い硝材は高価であり、比重も大きい傾向にある。そのため、条件式(10)の数値が上限値以上になると、当該ズームレンズの低コスト化及び軽量化を図る上で好ましくない。
【0112】
後群に負の屈折力を有するレンズLnrが複数枚含まれる場合、そのうちの1枚が条件式(10)を満たせばよい後群に含まれる負の屈折力を有するレンズLnrであればどのレンズが条件式(10)を満たしていてもよい。
【0113】
上記効果を得る上で、条件式(10)の下限値は1.86であることがより好ましく、1.88であることがさらに好ましく、1.89であることが一層好ましい。また条件式(10)の上限値は2.10であることがより好ましく、2.06であることがさらに好ましく、2.01であることが一層好ましく、1.96であることがより一層好ましく、1.92であることがさらに一層好ましい。
【0114】
また、正の屈折力を有するレンズ群においてそのペッツバール和を小さくするためには、そのレンズ群に含まれる負レンズが高屈折率硝材製であることが求められる。従って、条件式(10)を満足するレンズLnrは、後群の中の正の屈折力を有するレンズ群に含まれることが当該ズームレンズの像面性を良好にする上でより好ましい。
【0115】
1-3-11.条件式(11)
0.80 < BFw/(fw×tanωw) < 4.50 ・・・(11)
但し、
BFw:当該ズームレンズの最も像側のレンズ面から像面までの広角端における空気換算長
fw:広角端における当該ズームレンズの焦点距離
ωw:広角端無限合焦時における当該ズームレンズの最軸外主光線の半画角
【0116】
条件式(11)は、当該ズームレンズの広角端におけるバックフォーカスと像面における最大像高との比を規定するための式である。条件式(11)を満足させることにより、広角端において交換レンズに適したバックフォーカスを確保しつつ、小型のズームレンズを実現することができる。
【0117】
これに対して、条件式(11)の数値が下限値以下になると、すなわち最大像高に対してバックフォーカスが短くなりすぎると、広角端において交換レンズに適したバックフォーカスを確保することが困難になり好ましくない。また条件式(11)の数値が上限値以上になると、すなわち最大像高に対してバックフォーカスが長くなり、広角端において当該ズームレンズの小型化を図ることが困難になり好ましくない。
【0118】
上記効果を得る上で、条件式(11)の下限値は0.90であることがより好ましく、1.50であることがさらに好ましく、1.80であることが一層好ましい。また条件式(11)の上限値は4.00であることがより好ましく、3.50であることがさらに好ましく、3.20であることが一層好ましく、2.90であることがより一層好ましく、2.80であることがさらに一層好ましい。
【0119】
1-3-12.条件式(12)
0.40 < Lt/ft < 0.75 ・・・(12)
但し、
Lt:望遠端における当該ズームレンズの最も物体側のレンズ面から像面までの距離
ft:望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
【0120】
条件式(12)は、当該ズームレンズの望遠端における光学全長と望遠端における当該ズームレンズの焦点距離との比を規定するための式である。条件式(12)を満足させることにより、望遠端における当該ズームレンズの光学全長と望遠端における当該ズームレンズの焦点距離との比が良好となり、焦点距離に比して光学全長が短く、小型軽量で光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0121】
これに対して、条件式(12)の数値が下限値以下になると、すなわち望遠端における光学全長が焦点距離に比して短くなりすぎると、望遠端において諸収差を良好に補正することが困難になり、光学性能が低下する。また、誤差感度が大きくなり、製造誤差に起因する光学性能の低下が大きくなり、製品毎の性能のバラツキが大きくなってしまう。一方条件式(12)の数値が上限値以上になると、すなわち望遠端における光学全長が焦点距離に比して長くなると、所定の変倍比を得るには変倍時における各レンズ群の移動量が増加し、各レンズ群を光軸に沿って移動するための変倍駆動機構の大型化を招き、ズームレンズユニットの軽量化を図ることが困難になる。
【0122】
上記効果を得る上で、条件式(12)の下限値は0.42であることがより好ましく、0.45であることがさらに好ましく、0.48であることが一層好ましく、0.51であることがより一層好ましい。また条件式(12)の上限値は0.72であることがより好ましく、0.70であることがさらに好ましく、0.68であることが一層好ましく、0.66であることがより一層好ましく、0.64であることがさらに一層好ましい。
【0123】
2.撮像装置
次に、本件発明に係る撮像装置について説明する。本件発明に係る撮像装置は、上記本件発明に係るズームレンズと、当該ズームレンズの像面側に設けられた、当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【0124】
ここで、撮像素子等に特に限定はなく、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの固体撮像素子等も用いることができる。本件発明に係る撮像装置は、デジタルカメラやビデオカメラ等のこれらの固体撮像素子を用いた撮像装置に好適である。また、当該撮像装置は、レンズが筐体に固定されたレンズ固定式の撮像装置であってもよいし、一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラ等のレンズ交換式の撮像装置であってもよいのは勿論である。特に、本件発明に係るズームレンズは交換レンズシステムに好適なバックフォーカスを確保することができる。そのため、光学式ファインダーや、位相差センサ、これらに光を分岐するためのリフレックスミラー等を備えた一眼レフカメラ等の撮像装置に好適である。
【0125】
当該撮像装置は、撮像素子により取得した撮像画像データを電気的に加工して、撮像画像の形状を変化させる画像処理部や、当該画像処理部において撮像画像データを加工するために用いる画像補正データ、画像補正プログラム等を保持する画像補正データ保持部等を有することがより好ましい。ズームレンズを小型化した場合、結像面において結像された撮像画像形状の歪み(歪曲)が生じやすくなる。その際、画像補正データ保持部に予め撮像画像形状の歪みを補正するための歪み補正データを保持させておき、上記画像処理部において、画像補正データ保持部に保持された歪み補正データを用いて、撮像画像形状の歪みを補正することが好ましい。このような撮像装置によれば、ズームレンズの小型化をより一層図ることができ、秀麗な撮像画像を得ると共に、撮像装置全体の小型化を図ることができる。
【0126】
さらに、本件発明に係る撮像装置において、上記画像補正データ保持部に予め倍率色収差補正データを保持させておき、上記画像処理部において、画像補正データ保持部に保持された倍率色収差補正データを用いて、当該撮像画像の倍率色収差補正を行わせることが好ましい。画像処理部により、倍率色収差、すなわち、色の歪曲収差を補正することで、光学系を構成するレンズ枚数を削減することが可能になる。そのため、このような撮像装置によれば、ズームレンズの小型化をより一層図ることができ、秀麗な撮像画像を得ると共に、撮像装置全体の小型化を図ることができる。
【0127】
次に、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0128】
(1)ズームレンズの光学構成
図1は、本件発明に係る実施例1のズームレンズの広角端における無限遠合焦時のレンズ構成を示すレンズ断面図である。当該ズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、負の屈折力を有する第3レンズ群G3と、正の屈折力を有する第4レンズ群G4と、正の屈折力を有する第5レンズ群G5と、負の屈折力を有する第6レンズ群G6と、負の屈折力を有する第7レンズ群G7とから構成されている。開口絞りSは第7レンズ群G7の物体側に配置されている。本実施例では、後群は第2レンズ群G2と、第3レンズ群G3と、第4レンズ群G4と、第5レンズ群G5と、第6レンズ群G6と、第7レンズ群G7とから構成されている。正の屈折力を有するレンズ群Gpは、第4レンズ群G4である。後群は、物体側群Rfnと像側群Rrpとから構成される。本実施例において、物体側群Rfnは、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3とから構成される。像側群Rrpは、第4レンズ群G4と、第5レンズ群G5と、第6レンズ群G6と、第7レンズ群G7とから構成される。
【0129】
以下、各レンズ群の構成を説明する。第1レンズ群G1は、物体側から順に、物体側凸形状の負メニスカスレンズL1及び両凸レンズL2が接合された接合レンズと、物体側凸形状の正メニスカスレンズL3とから構成される。両凸レンズL2が本件発明にいうレンズL1p1であり、物体側凸形状の正メニスカスレンズL3が本件発明にいうレンズL1p2である。物体側凸形状の負メニスカスレンズL1が本件発明にいうレンズL1nである。第1レンズ群G1に含まれる正の屈折力を有するレンズの中で、最も異常分散性が大きなレンズは、レンズL3である。レンズL3のΔPgFは、0.0375である。レンズL1の平均線膨張係数α1nは71×10-7/℃であり、レンズL2の平均線膨張係数α1pは93×10-7/℃である。
【0130】
第2レンズ群G2は、物体側から順に、両凸レンズL4及び両凹レンズL5が接合された接合レンズで構成されている。
【0131】
第3レンズ群G3は、物体側から順に、両凹レンズL6及び両凸レンズL7が接合された接合レンズと、両凹レンズL8とから構成されている。
【0132】
第4レンズ群G4は、物体側から順に、両凸レンズL9と、両凸レンズL10と、両凸レンズL11及び両凹レンズL12が接合された接合レンズから構成されている。両凹レンズL12が本件発明にいうレンズLpnであり、レンズLnrでもある。両凸レンズL9と、両凸レンズL10と両凸レンズL11が、本件発明にいうレンズLrpであり、ΔPgFLrpは、0.0375である。
【0133】
第5レンズ群G5は、物体側凸形状の負メニスカスレンズL13と両凸レンズL14とが接合された接合レンズから構成されている。物体側凸形状の負メニスカスレンズL13が本件発明にいうレンズLnrである。
【0134】
第6レンズ群G6は、凸レンズL15と両凹レンズL16とが接合された接合レンズから構成されている。
【0135】
第7レンズ群G7は、物体側から順に、開口絞りSと、物体側凸形状の負メニスカスレンズL17と両凸レンズL18とが接合された接合レンズと、凸レンズL19と両凹レンズL20とが接合された接合レンズと、両凸レンズL21と両凹レンズL22とが接合された接合レンズと、実質的な屈折力を有さない平行平板であるレンズL23と、両凸レンズL24と両凹レンズL25とが接合された接合レンズとから構成されている。また、レンズL23はNDフィルターやPLフィルターなどのフィルターである。当該フィルターは、当該ズームレンズユニットに対して当該フィルターは挿入自在に構成されおり、鏡筒の外側から当該フィルターが挿入される。当該フィルターは本件発明に係るズームレンズにおいて任意の構成である。また、以下、他の実施例において当該フィルターと同様のフィルターを差込フィルターと称する。
【0136】
実施例1のズームレンズでは、広角端から望遠端への変倍に際して、像面に対して、第1レンズ群G1は光軸方向に固定され、第2レンズ群G2は像側に移動し、第3レンズ群G3は像側に移動し、第4レンズ群G4は像側に凸の軌跡を描くように移動し、第5レンズ群G5は光軸方向に固定され、第6レンズ群G6は像側に凸の軌跡を描くように移動し、第7レンズ群G7は光軸方向に固定されている。
【0137】
ここで、後群に含まれるレンズ群のうち、負の屈折力を有するレンズ群をその物体側のレンズ群に対して、広角端から望遠端への変倍時に像側に凸の軌跡を描くように移動させると、中間焦点距離における像面性が向上する。本実施例では、第6レンズ群G6を第5レンズ群G5に対して、広角端から望遠端への変倍時に像側に凸の軌跡を描くように移動させることで、中間焦点距離において良好な像面性を確保している。また、本実施例において、当該第6レンズ群はフォーカス群であり、無限遠物体から近接物体への合焦の際、第6レンズ群G6が光軸に沿って像側に移動する。
【0138】
また、手振れ等発生時には、当該ズームレンズに含まれる少なくとも1枚のレンズを偏芯させることで像ブレを補正することが好ましい。本実施例では、例えば、第7レンズ群G7に含まれる凸レンズL19及び両凹レンズL20が接合された接合レンズを防振群とし、当該防振群を光軸と垂直方向に移動させることで手振れ等発生時に像をシフトさせて、像ブレを補正することが好ましい。
【0139】
また、
図1に示す「IMG」は結像面であり、具体的にはCCDセンサ、CMOSセンサ等の固体撮像素子の撮像面、或いは、銀塩フィルムのフィルム面等を表す。また、結像面IMGの物体側にはカバーガラスCG等の実質的な屈折力を有さない平行平板を備える。これらの点は、他の実施例で示す各レンズ断面図においても同様であるため、以下では説明を省略する。
【0140】
(2)数値実施例
次に、当該ズームレンズの具体的数値を適用した数値実施例について説明する。表1に当該ズームレンズの面データを示す。表1において、「面番号」は物体側から数えたレンズ面の順番、「r」はレンズ面の曲率半径、「d」はレンズ面の光軸上の間隔、「Nd」はd線(波長λ=587.6nm)に対する屈折率、「vd」はd線に対するアッベ数、「H」は有効半径を示している。また、面番号の次の欄に表示する「S」は開口絞りを表している。さらに、レンズ面の光軸上の間隔の欄に、「D6」、「D16」等と示すのは、当該レンズ面の光軸上の間隔が変倍時又は合焦時に変化する可変間隔であることを意味する。なお、各表中の長さの単位は全て「mm」であり、画角の単位は全て「°」である。また、曲率半径の「0.0000」は平面を意味する。なお、表1における第46面及び第47面は差込フィルターの面データであり、第52面及び第53面はカバーガラスCGの面データである。
【0141】
表2は、当該ズームレンズの緒元表である。当該緒元表には、無限遠合焦時における当該ズームレンズの焦点距離「f」、F値「Fno.」、半画角「ω」、像高「Y」、光学全長「TL」を示す。但し、表2には、左側から順に、広角端、中間焦点距離状態、望遠端におけるそれぞれの値を示している。
【0142】
表3に、変倍時における当該ズームレンズの光軸上の可変間隔を示す。表3において、左側から順に、広角端、中間焦点距離状態、望遠端における無限遠合焦時におけるそれぞれの値を示している。なお、表中「INF」は「∞(無限大)」であることを示す。
【0143】
表4に、合焦時における当該ズームレンズの光軸上の可変間隔を示す。表4には、広角端、中間焦点距離状態、望遠端において、撮影距離(撮像距離)が2900.00mmのときの値を示している。この値が各焦点距離における最短撮像距離である。
【0144】
表5は、当該ズームレンズを構成する各レンズ群の焦点距離を示している。
【0145】
また、表21に、各条件式(1)~条件式(12)の値と、条件式(1)~条件式(12)の計算に用いた各値とを示す。
【0146】
これらの表に関する事項は他の実施例で示す各表においても同様であるため、以下では説明を省略する。
【0147】
[表1]
面番号 r d Nd vd H
1 522.4744 3.600 1.80610 33.27 59.057
2 186.4038 0.020 1.56732 42.84 58.374
3 186.4038 13.850 1.48749 70.24 58.374
4 -566.6007 0.380 58.350
5 136.5404 13.294 1.49700 81.61 57.741
6 733.3234 D6 57.262
7 3020.7490 4.976 1.80518 25.46 26.400
8 -113.1128 0.010 1.56732 42.84 26.183
9 -113.1128 1.970 1.72916 54.67 26.181
10 100.1107 D10 25.045
11 -322.8543 2.000 1.61396 36.64 24.783
12 83.5699 0.010 1.56732 42.84 24.766
13 83.5699 5.300 1.84389 23.02 24.766
14 -694.2165 2.826 24.721
15 -118.7271 1.980 1.80162 31.00 24.649
16 260.1413 D16 24.860
17 186.8259 7.008 1.49700 81.61 25.312
18 -103.8300 0.400 25.280
19 125.3658 5.580 1.49700 81.61 25.204
20 -313.2811 0.300 25.050
21 69.9627 8.670 1.49700 81.61 24.175
22 -115.5431 0.010 1.56732 42.84 23.749
23 -115.5431 2.055 1.84701 40.81 23.747
24 173.7470 D24 22.920
25 75.7853 1.490 1.91082 35.25 20.412
26 42.2173 0.010 1.56732 42.84 19.601
27 42.2173 7.200 1.69680 55.46 19.599
28 -3787.7656 D28 19.157
29 -325.1337 3.200 1.85230 22.25 15.467
30 -103.4591 0.010 1.56732 42.84 15.054
31 -103.4591 1.000 1.72916 54.67 15.052
32 66.3660 D32 14.352
33 S 0.0000 2.000 10.000
34 354.2484 1.043 1.90366 31.31 9.735
35 42.9990 0.010 1.56732 42.84 9.580
36 42.9990 5.123 1.63177 43.20 9.580
37 -48.4994 5.795 9.500
38 -1493.8738 3.600 1.70341 29.67 10.071
39 -43.1806 0.010 1.56732 42.84 9.967
40 -43.1806 1.010 1.72916 54.67 9.967
41 38.5434 5.348 9.836
42 84.4813 5.000 1.60403 37.79 9.735
43 -26.6873 0.010 1.56732 42.84 9.820
44 -26.6873 1.000 1.83916 39.32 9.820
45 203.1004 13.814 10.065
46 0.0000 2.000 1.51680 64.20 12.635
47 0.0000 12.514 12.882
48 51.4153 6.760 1.55740 45.41 15.719
49 -57.7421 0.010 1.56732 42.84 15.721
50 -57.7421 1.200 1.74530 48.09 15.721
51 242.6126 53.863 15.843
52 0.0000 2.000 1.51680 64.20 21.423
53 0.0000 1.000 21.563
【0148】
[表2]
f 205.426 447.698 774.302
Fno. 6.583 6.586 6.583
ω 6.008 2.752 1.586
Y 21.633 21.633 21.633
TL 415.348 415.348 415.348
【0149】
[表3]
f 205.426 447.698 774.302
撮影距離 INF INF INF
D6 52.257 112.894 139.015
D10 7.479 9.827 9.196
D16 99.620 39.887 1.598
D24 10.634 7.382 20.181
D28 5.669 12.009 5.884
D32 29.429 23.088 29.214
【0150】
[表4]
f 205.426 447.698 774.302
撮影距離 2900.00 2900.00 2900.00
D28 6.790 17.652 22.535
D32 28.308 17.445 12.562
【0151】
[表5]
群 面番号 焦点距離
G1 1-6 271.689
G2 7-10 -157.925
G3 11-16 -129.552
G4 17-24 76.819
G5 25-28 139.408
G6 29-32 -80.182
G7 33-51 -115.240
【0152】
また、
図2~
図4に当該実施例1のズームレンズの広角端、中間焦点距離状態、望遠端における無限遠合焦時の縦収差図をそれぞれ示す。各図に示す縦収差図は、図面に向かって左側から順に、それぞれ球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)である。球面収差を表す図では、縦軸は開放F値との割合、横軸にデフォーカスをとり、実線がd線(波長λ=587.6nm)、一点鎖線がg線(波長λ=435.8nm)、点線がC線(波長λ=656.3nm)における球面収差を示す。非点収差を表す図では、縦軸は像高、横軸にデフォーカスをとり、実線がd線に対するサジタル像面(ds)、点線がd線に対するメリジオナル像面(dm)を示す。歪曲収差を表す図では、縦軸は像高、横軸に%をとり、歪曲収差を表す。これらの縦収差図に関する事項は、他の実施例で示す縦収差図においても同様であるため、以下では説明を省略する。
【0153】
また、当該ズームレンズの広角端における無限遠合焦時のバックフォーカス「BFw」は以下のとおりである。但し、以下の値は、カバーガラス(Nd=1.5168)を含まない値であり、他の実施例に示すバックフォーカスも同様である。
BFw= 56.1827(mm)
以下、各レンズ群の構成を説明する。第1レンズ群G1は、物体側から順に、物体側凸形状の負メニスカスレンズL1及び両凸レンズL2が接合された接合レンズと、物体側凸形状の正メニスカスレンズL3とから構成される。両凸レンズL2が本件発明にいうレンズL1p1であり、物体側凸形状の正メニスカスレンズL3が本件発明にいう上記レンズL1p2である。物体側凸形状の負メニスカスレンズL1が本件発明にいうレンズL1nである。第1レンズ群G1に含まれる正の屈折力を有するレンズの中で、最も異常分散性が大きなレンズは、レンズL3である。レンズL3のΔPgFは、0.0375である。レンズL1の平均線膨張係数α1nは71×10-7/℃であり、レンズL2の平均線膨張係数α1pは93×10-7/℃である。
第2レンズ群G2は、物体側から順に、両凸レンズL4及び両凹レンズL5が接合された接合レンズと、両凹レンズL6及び両凸レンズL7が接合された接合レンズと、両凹レンズL8とから構成されている。
第3レンズ群G3は、物体側から順に、両凸レンズL9と、両凸レンズL10と、両凸レンズL11及び両凹レンズL12が接合された接合レンズとから構成されている。両凹レンズL12が本件発明にいうレンズLpnであり、レンズLnrでもある。両凸レンズL9と、両凸レンズL10が、本件発明にいうレンズLrpであり、それぞれのΔPgFLrpは、0.0375である。
第4レンズ群G4は、物体側凸形状の負メニスカスレンズL13及び両凸レンズL14が接合された接合レンズから構成されている。物体側凸形状の負メニスカスレンズL13が本件発明にいうレンズLnrである。
第6レンズ群G6は、物体側から順に、開口絞りSと、物体側凸形状の負メニスカスレンズL17及び両凸レンズL18が接合された接合レンズと、凸レンズL19及び両凹レンズL20が接合された接合レンズと、両凸レンズL21及び両凹レンズL22が接合された接合レンズと、実質的な屈折力を有さない平行平板であるレンズL23と、両凸レンズL24及び両凹レンズL25が接合された接合レンズとから構成されている。また、レンズL23は差込フィルターである。
実施例2のズームレンズでは、広角端から望遠端への変倍に際して、像面に対して、第1レンズ群G1は光軸方向に固定され、第2レンズ群G2は像側に移動し、第3レンズ群G3は像側に凸の軌跡を描くように移動し、第4レンズ群G4は光軸方向に固定され、第5レンズ群G5は像側に凸の軌跡を描くように移動し、第6レンズ群G6は光軸方向に固定されている。
本実施例では、第5レンズ群G5を第4レンズ群G4に対して、広角端から望遠端への変倍時に像側に凸の軌跡を描くように移動させることで、中間焦点距離において良好な像面性を確保している。
また、本実施例では、第6レンズ群G6に含まれる凸レンズL19及び両凹レンズL20が接合された接合レンズを防振群とし、当該防振群を光軸と垂直方向に移動させることで手振れ等発生時に像をシフトさせて、像ブレを補正することが好ましい。
表8に、変倍時における当該ズームレンズの光軸上の可変間隔を示し、表9に、合焦時における当該ズームレンズの光軸上の可変間隔を示す。なお、表9には、広角端、中間焦点距離状態、望遠端において、撮影距離(撮像距離)が2500.00mmのときの値を示している。この値が各焦点距離における最短撮像距離である。
表10は、当該ズームレンズを構成する各レンズ群の焦点距離を示している。また、表21に、各条件式(1)~条件式(12)の値と、条件式(1)~条件式(12)の計算に用いた各値とを示す。