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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033734
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】鉄鉱石焼成ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/14 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
C22B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139600
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(72)【発明者】
【氏名】藤坂 岳之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA18
4K001CA22
(57)【要約】
【課題】結晶水を多く含んだ高結晶水鉄鉱石粉を用いながら、バースティングの発生を抑制して、歩留まりを低下させずに、鉄鉱石焼成ペレットを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】鉄鉱石粉を原料粉に用いて造粒した生ペレットを、乾燥帯、予熱帯、焼成帯、及び冷却帯を含んだ一連の焼成処理により鉄鉱石焼成ペレットにするにあたり、焼成処理における室温から280℃までの昇温速度を70℃/min以下にすると共に、280℃超から1200℃までの昇温速度を200℃/min以下にする鉄鉱石焼成ペレットの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鉱石粉を原料粉に用いて造粒した生ペレットを、乾燥帯、予熱帯、焼成帯、及び冷却帯を含んだ一連の焼成処理により鉄鉱石焼成ペレットにする鉄鉱石焼成ペレットの製造方法であって、
前記鉄鉱石粉の結晶水含有率が3~7質量%であり、
前記焼成処理における室温から280℃までの昇温速度が70℃/min以下であると共に、280℃超から1200℃までの昇温速度が200℃/min以下であることを特徴とする、鉄鉱石焼成ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記前記焼成処理における焼成最高温度から700℃までの冷却速度が200℃/min以上である、請求項1に記載の鉄鉱石焼成ペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄鉱石焼成ペレットの製造方法に関し、詳しくは、結晶水を多く含んだ鉄鉱石粉を用いて鉄鉱石焼成ペレットを得る鉄鉱石焼成ペレットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石焼成ペレット(鉄鉱石ペレット、焼成ペレット、又は、単にペレットと称されることもある)は、100μm以下の微粉の鉄鉱石粉を造粒して生ペレットとし、その生ペレットを焼成して、十数mm程度の大きさに塊成化した焼成物であり、高炉プロセスや直接還元プロセスの原料として用いられる。
【0003】
ペレットの製造は、鉄鉱石粉を含んだ原料粉を造粒して生ペレットにする造粒工程と、得られた生ペレットを乾燥し、焼成して、室温まで冷却する一連の処理(焼成処理)からなる焼成工程とを有する。このうち、造粒工程では、粒度と水分が調整された原料粉を転動造粒機等で直径が十数mm程度の球状に造粒して、生ペレットが製造される。また、焼成工程では、生ペレットを最高温度1300℃程度まで加熱して焼き固めることで、ペレットが製造される。
【0004】
ペレットの原料として、これまでは主に結晶水をほとんど含まない良質なヘマタイト鉱石やマグネタイト鉱石が用いられてきたが、結晶水や脈石を多く含む比較的劣質な鉄鉱石を使用しなければならないことがある。特に、近年では、良質な鉄鉱石の枯渇等の原因から、その割合は増えている。
【0005】
しかしながら、鉄鉱石に含まれる結晶水は、焼成工程で熱分解する。それによりペレット内部で水蒸気が発生して圧力が高まり、ペレットがバースティング(爆裂)するおそれがある。このようなバースティングが発生すると、ペレットが粉化し、歩留が落ちるため生産性が低下してしまう。また、焼成の過程でペレットが粉化すると、発生した粉がペレット充填層の隙間を閉塞して通気性を阻害し、製造中での悪影響を及ぼしてしまう。そのため、結晶水を多く含む鉄鉱石を用いてペレットを得る上で、これまでにいくつかの方法(対策)が検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、結晶水を多く含んだ鉄鉱石粉を造粒し、乾燥、離水、予熱の各処理を行った後に焼成して、焼成ペレットを製造するにあたり、予熱の段階で結晶水が抜けることでペレット状態の原料粒子間に空隙が生じ、その予熱ペレットの強度が低下して粉化する問題に対応している。すなわち、予熱ペレットの強度低下を防ぐ目的から、所定の関係式に基づき算出される条件に従って、予熱温度と予熱時間を増やして予熱処理する方法が開示されている。これにより、原料粒子間の接合力や接合点数が増えて、予熱ペレットの強度を正常に保ち、焼成ペレットの品質とその操業を安定化することができるとする。
【0007】
また、特許文献2では、水分含有量が8~9質量%程度の生ペレットを250℃程度の雰囲気温度で乾燥し、次いで、450℃程度に昇温して主に鉄鉱石中の結晶水を分解除去(離水)し、更に、1100℃程度まで昇温して予熱し、その後にロータリーキルンで焼成して、鉄鉱石ペレットを製造するにあたり、予熱を行う予熱室のペレット出口にある風箱内の圧力の変動を検知して、予熱室でのバースティング発生を抑制する方法が開示されている。特に、この方法では、離水を行う離水室から予熱を行う予熱室に持ち込まれるペレットの昇温速度を一定値以下(6~7℃/s)に制御することで、予熱室でのバースティング発生が防止できるとしている。
【0008】
更に、特許文献3では、鉄鉱石粉を含んだ原料粉と有機バインダーとを造粒して生ペレット得る上で、その有機バインダーの水溶液での粘度に応じて、結晶水含有率が5質量%以上の高結晶水含有鉱石の配合割合を調整することで、バースティングを抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-87150号公報
【特許文献2】特開2010-24477号公報
【特許文献3】特開2020-180371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鉄鉱石焼成ペレットの製造において、結晶水を多く含んだ鉄鉱石粉によるバースティングや粉化はこれまでにも問題となっており、上述したような方法をはじめ、各種対策が検討されている。ところが、従来は、結晶水を多く含む鉄鉱石粉を使用するにあたり、その配合量はある程度限られており、残りは良質な鉄鉱石粉を用いるようにしている。例えば、上記特許文献1では、結晶水含有率が9質量%の高結晶水鉄鉱石粉の配合割合は、実施例において最大で20%であり、同じく特許文献3では、結晶水含有率が5.2質量%の高結晶水鉄鉱石粉の配合割合は、実施例において最大で47%である(特許文献2は不明)。
【0011】
良質な鉄鉱石の枯渇や価格の高騰を受けて、結晶水を多く含んだ劣質な鉄鉱石の使用は今後益々増えていくことが予想される。
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、結晶水を多く含んだ高結晶水鉄鉱石粉の熱分解挙動に着目して、一連の焼成処理における所定の温度域での昇温速度を制御することで、バースティングの発生が抑制でき、歩留まりを落とさずに、鉄鉱石焼成ペレットを製造することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)鉄鉱石粉を原料粉に用いて造粒した生ペレットを、乾燥帯、予熱帯、焼成帯、及び冷却帯を含んだ一連の焼成処理により鉄鉱石焼成ペレットにする鉄鉱石焼成ペレットの製造方法であって、
前記鉄鉱石粉の結晶水含有率が3~7質量%であり、
前記焼成処理における室温から280℃までの昇温速度が70℃/min以下であると共に、280℃超から1200℃までの昇温速度が200℃/min以下であることを特徴とする、鉄鉱石焼成ペレットの製造方法。
(2)前記前記焼成処理における焼成最高温度から700℃までの冷却速度が200℃/min以上である、(1)に記載の鉄鉱石焼成ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結晶水を多く含んだ高結晶水鉄鉱石粉を用いて鉄鉱石焼成ペレットを製造するにあたり、バースティングの発生を抑制して、歩留まりを落とさずに、鉄鉱石焼成ペレットを製造することができる。特に、本発明においては、鉄鉱石粉における高結晶水鉄鉱石粉の割合が支配的となるように高めてもバースティングを抑えることができ、しかも、生産性を低下させることなく鉄鉱石焼成ペレットを製造することが可能である。そのため、良質な鉄鉱石の枯渇やその価格の高騰がつづく昨今の状況において、極めて有用な発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、トラベリンググレート式の焼成炉を模式的に示した説明図である。
図2図2は、グレートキルン式の焼成炉を模式的に示した説明図である。
図3図3は、高結晶水鉄鉱石の熱分解挙動を示すグラフである。
図4図4は、実験例で用いた試験焼成炉を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明では、鉄鉱石粉を原料粉に用いて生ペレットに造粒して、乾燥帯、予熱体、焼成帯、及び、冷却帯を含んだ一連の焼成処理により鉄鉱石焼成ペレットを得るにあたり、鉄鉱石粉の結晶水含有率を3~7質量%にして、上記焼成処理における室温から280℃までの昇温速度を70℃/min以下にすると共に、280℃超から1200℃までの昇温速度を200℃/min以下となるようにする。
【0016】
ここで、図1には、鉄鉱石焼成ペレット(以下、単に「ペレット」と言う)を得る際に用いられる代表例のひとつであるトラベリンググレート式(ストレートグレート方式と称される場合もある)の焼成炉が模式的に示されている。この焼成炉では、グレート2(移動型格子)に生ペレット1を装入し、乾燥(離水)、予熱、焼成、及び冷却の各処理を順次通過させて焼成する。詳しくは、造粒して得られた生ペレット1は、パレットに側板がついたエンドレスのグレート2に300mm程度の均一な層厚となるように装入され、予め設定された温度に保持された乾燥室3、予熱室4、焼成室5、及び冷却室6を通過し、それぞれの過程で空気や燃焼ガスとの間で熱交換が行われて、製品としてペレット9が回収される(参考文献1:山口晋一ほか、グレートキルン ペレタイジングプロセス、神戸製鋼技報 Vol.60 No.1(Apr.2010)pp12-21.)。
【0017】
また、図2は、ペレットを得る際に用いられる代表例のもうひとつであるグレートキルン式の焼成炉を模式的に示したものである。この場合においても、グレート2(移動型格子)に所定の層厚に生ペレット1を層積みして、順次、乾燥室3(乾燥室と離水室とを分ける場合もある)、予熱室4に分割されたなかを通過しながら、比較的低温での熱交換により生ペレット1の乾燥と予熱までを行う。次いで、乾燥と予熱が行われた生ペレット1は、ロータリーキルン7で転動加熱により焼成され、その後は、環状クーラー8にて冷却されて、ペレット9が回収される(参考文献1)。なお、トラベリンググレート式やグレートキルン式の焼成炉以外にもシャフト炉方式によりペレットを製造することもあるが、乾燥帯、予熱帯、焼成帯、及び冷却帯を含んだ連続的な一連の焼成処理でペレットを製造する点では共通する。
【0018】
これらの焼成炉を用いた従来のペレット製造では、一般に、乾燥帯では生ペレットは200℃程度まで加熱され、次いで、予熱帯では1200℃程度まで加熱されて、焼成帯では1200~1350℃程度で焼成される。それに対して、本発明では、乾燥帯の上限温度を高くして、かつ、昇温速度を抑える(遅くする)ことで、バースティングの発生を防止する。詳しくは後述するとおりであるが、これは次のような知見に基づくものである。
【0019】
すなわち、図3には、結晶水含有率が4.70質量%の高結晶水鉄鉱石である豪州産高結晶水鉱石の熱分解挙動が示されている。この高結晶水鉱石は200℃付近から徐々に熱分解による重量減少がみられ、300℃前後で大きな熱分解が生じる。図3では、α-FeOOH試薬の熱分解挙動を併せて示しているが、この高結晶水鉱石の300℃前後の熱分解は、主に鉱石中に含まれるFeOOHの熱分解(2FeOOH→Fe+HO)によるものと考えられる。つまり、バースティングが発生する原因は、結晶水の急速な熱分解によりペレット内部で水蒸気が発生して、圧力が高まるためと推測される。そこで、本発明では、下記実施例での実験結果を踏まえて、結晶水の熱分解温度域における昇温速度を制御することで、バースティングを抑制する。
【0020】
先ず、本発明においては、一連の焼成処理における室温から280℃までの昇温速度を70℃/min以下、好ましくは50℃/min以下にする。この温度域の処理は、生ペレットの乾燥帯に相当するものである。従来の乾燥帯の熱処理は、生ペレットを造粒するにあたり用いられた水分を乾燥させること(離水)を主な目的とするが、図3に示したように、200℃から280℃程度までは高結晶水鉄鉱石の熱分解が生じる。本発明では、この点を考慮して、乾燥帯の温度を280℃までにすると共に、その昇温速度を70℃/min以下に制御する。昇温速度が70℃/minを超えるとバースティングが発生してしまうおそれがある。また、昇温速度を抑えればバースティングの発生をより確実に抑えることができるが、生産性を考慮すると、この乾燥帯における昇温速度は40℃/min以上であるのが望ましい。
【0021】
また、本発明においては、一連の焼成処理における280℃超から1200℃までの昇温速度を200℃/min以下、好ましくは150℃/min以下にする。高結晶水鉄鉱石のほとんどの結晶水は先の乾燥帯で分解(蒸発)されるはずであるが、一部残った結晶水については、予熱帯に相当するこの温度域の処理で取り除く。その際、昇温速度が200℃/minを超えると、乾燥帯で熱分解せず残留した結晶水が急速に熱分解して、予熱帯でバースティングを発生するおそれがある。また、乾燥帯の場合と同様、昇温速度を抑えればバースティングの発生をより確実に抑えることができるが、生産性を考慮すると、この予熱帯における昇温速度は100℃/min以上にするのが望ましい。
【0022】
また、本発明では、これら乾燥帯及び予熱帯において高結晶水鉄鉱石の結晶水を取り除くことから、焼成帯の温度や焼成時間等について特に制限はなく、従来と同様に、例えば、焼成帯の温度は1200~1350℃程度であり、焼成時間は5~30分程度にすることができる。
【0023】
一方、冷却帯については、乾燥帯や予熱帯での昇温速度を抑えた分、それを取り戻す観点から、冷却速度を高めるようにするのがよい。具体的に、好ましくは、焼成処理における焼成最高温度(乾燥帯での最高温度)から700℃までの冷却速度を200℃/min以上にするのがよく、より好ましくは250℃/min以上にするのがよく、これにより、乾燥帯や予熱帯での徐昇温化に伴う全体の処理時間の延長を防止して生産性を維持する。ここで、700℃までの冷却速度を規定するのは、環状クーラー等のように、一般に、冷却帯で採用される冷却装置(冷却手段)で設備能力の面から制御可能な範囲の冷却温度を考慮したものである。つまり、一般に、700℃より低い温度域になると冷却ガス(空気)とペレットとの温度差が小さくなり、速い冷却速度を維持することが困難になる。また、この冷却速度は速ければそれだけ生産性を上げることができるため好都合であるが、一般に用いられる冷却装置の能力から、冷却速度は300℃/min程度が上限になる。
【0024】
本発明のように昇温速度や冷却速度を規定した場合、厳密には、生ペレットの移動に追従するように設置された熱電対(生ペレットと熱電対の位置関係が一定)で温度測定して、このときの単位時間当たりの温度変化から求める必要があるが、上述したようなトラベリンググレート式やグレートキルン式の焼成炉でペレットを製造する上で、実際にこのような管理は難しい。そのため、例えば、グレートにおけるパレット(パレット台車)に層積みされたペレット層の直上やパレット直下に固定式の熱電対を設置し、その温度測定の結果をもとに算出するようにしてもよい。具体的には、次の式から求めることができる。
【数1】
ここで、Tはある位置1で測定された温度を表し、Tはある位置2で測定された温度を表す。また、Lは位置1と位置2の進行方向の距離を表し、Vはパレットの移動速度である。
【0025】
本発明においては、上記のような一連の焼成処理を採用することで、原料粉として配合する鉄鉱石粉における結晶水含有率を従来よりも高くすることができ、鉄鉱石粉の結晶水含有率は3~7質量%、好ましくは4.5~7質量%である。一般に、良質な鉄鉱石での結晶水含有率は、その鉱石種によっても異なるが、高々0.1~1質量%程度である。そのため、鉄鉱石粉の結晶水含有率が3質量%以上とは、結晶水を多く含む劣質な高結晶水鉄鉱石粉を鉄鉱石粉として支配的な量で配合することを意味する。一方、結晶水含有率が7質量%を超えるとバースティングの発生を抑えるのが難しくなり、それが回避できたとしても焼成後のペレットに亀裂が生じて強度が低下するおそれがある。なお、鉄鉱石中の結晶水含有率は、JIS M8211:1995「鉄鉱石-化合水定量方法」により測定できる。また、バースティングの有無については、後述の実施例のように、焼成後のペレットの目視観察で評価可能であるが、焼成後のペレットを所定の篩目サイズでふるい分けして、その発生粉量から評価するようにしてもよい。
【0026】
ここで、鉄鉱石粉の結晶水含有率が3~7質量%であるためには、鉄鉱石粉として単一の鉱石種からなる場合であってもよく、2以上の鉱石種を配合する場合であってもよい。すなわち、鉄鉱石粉全体での結晶水含有率がこの範囲となるようにすればよく、例えば、結晶水含有率が7質量%を超える高結晶水鉄鉱石粉を用いることもでき、その場合には、残りの鉄鉱石粉として結晶水含有率がこれよりも低いものを配合して、鉄鉱石粉全体での(加重平均での)結晶水含有率が上記の範囲となるようにすればよい。その際、鉄鉱石粉として、高結晶水鉄鉱石粉のほかに、例えば、良質な鉄鉱石であるヘマタイト鉱石やマグネタイト鉱石等を混合して用いることもできる。
【0027】
本発明において、原料粉には鉄鉱石粉のほか、石灰石やドロマイトのような副原料やベントナイトのようなバインダー等を含めることができる。これらを含めて原料粉は、それぞれ90%以上が100μm以下となるように、原料ごとに又は原料をまとめてボールミル等で粉砕したものを用いるようにするのがよい。また、粉砕された原料粉は造粒に適した水分に調湿され、パンペレタイザーやドラムペレタイザー等の造粒機で直径十数mm程度の球状(生ペレット)に成形することができ、上述した焼成処理や鉄鉱石粉の結晶水含有率に関する内容以外は公知の方法と同様にすることができる。
【実施例0028】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0029】
(実験例)
本実験例に用いた鉄鉱石粉の成分を表1に示す。鉱石Aはブラジル産高品位ヘマタイト鉱石であり、鉱石B及びCは豪州産高結晶水鉱石である。ここで、表1中のCWは結晶水含有率を示し、JIS M8211:1995「鉄鉱石-化合水定量方法」により測定したものである。
【0030】
【表1】
【0031】
また、表2には、本実験例における原料粉の配合条件(配合原料No.)を示す。いずれもバインダーとしてベントナイトを用い、全ての配合条件において0.5質量%添加した。また、これらの各配合原料はボールミルで100μm以下に粉砕されており、配合原料に対してそれぞれ水分を8質量%(外数)添加してパンペレタイザーで造粒し、12.5~15mmの粒径を有する生ペレットを製造した。なお、表2では、各配合原料における鉄鉱石粉全体での結晶水含有率(CW)の加重平均値を示している。
【0032】
【表2】
【0033】
上記で準備した生ペレットについて、昇温速度を制御可能な試験焼成炉を用いて焼成し、バースティングの有無を評価した。図4には本実験例で用いた試験焼成炉の模式図が示されている。この試験焼成炉は、内径42mmφのアルミナ管11内に試料かご13が設置されており、試料かご13に生ペレット14が入れられて、アルミナ管11はヒーター12により1360℃に加熱されている。また、試料かご13に入れられた生ペレット14はその直上に設置された熱電対15で温度を計測することができ、更に、試料かご13はアルミナ管11内で上下移動ができるようになっていることから、焼成中の生ペレットの温度制御が可能である。
【0034】
各配合原料で得られた生ペレット(No.1~5)と上記の試験焼成炉を用いて、表3に示した乾燥帯、予熱帯、焼成帯、及び冷却帯からなる焼成処理となるようにして、それぞれ鉄鉱石焼成ペレットを製造した。
例えば、比較例1では、配合原料No.1の生ペレットを試験焼成炉の試料かご13に入れ、試料かごを炉内のヒーター12に近づけるように下降させて昇温速度50℃/minで生ペレットを室温から200℃まで加熱し(乾燥帯)、次いで、試料かご13の下降速度を変えて温速度200℃/minで生ペレットを200℃から1300℃まで加熱した(予熱帯~焼成帯)。そして、試料かご13内の生ペレット14の温度が1300℃に到達したところで、そのまま5分間保持した(焼成帯)。
【0035】
次いで、今度は試料かごを炉内のヒーター12から遠ざけるように上昇させて、冷却速度150℃/minで焼成後のペレットを1300℃から700℃まで冷却させたところで、試料かご13からペレットを取り出し、大気中で室温まで自然冷却して、比較例1に係る鉄鉱石焼成ペレットを得た。なお、表3には、生ペレットを試料かごに入れて乾燥帯の加熱を開始したところから、冷却帯で700℃まで冷却されたところまでに要した時間を合計焼成時間として記している。
【0036】
【表3】
【0037】
上記のようにして得られた発明例1~5、比較例1~6に係る鉄鉱石焼成ペレットについて、バースティングの有無をその外観から目視で確認して、割れが発生しているか否かで評価した。結果は表3に示したとおりである。
【0038】
先ず、比較例1は、従来の典型的な焼成処理により、結晶水含有率の低い鉱石Aだけで鉄鉱石焼成ペレットを得た場合であり、バースティングは発生しなかった。
比較例2は、比較例1と同じ焼成処理であるが、結晶水含有率の高い鉱石Bを配合して鉄鉱石粉全体としての結晶水含有率が3.0質量%であり、バースティングが発生した。
比較例3は、比較例2に比べて乾燥帯の到達温度を240℃に高めたものであるが、バースティングは発生した。
発明例1は、比較例3よりも更に乾燥帯の到達温度を高くして280℃にしたものであり、この場合にはバースティングは発生しなかった。
発明例2は、発明例1より乾燥帯の昇温速度を速めて70℃/minにしたものであり、この場合にもバースティングは発生しなかった。
比較例4は、発明例2より更に乾燥帯の昇温速度を速めて100℃/minにしたものであるが、バースティングは発生した。
発明例3及び4は、鉱石Bと鉱石Cを用いて鉄鉱石粉全体としての結晶水含有率を4.7質量%、7.0質量%にして、発明例2より更に結晶水含有率にしているが、それでもバースティングは発生しなかった。
比較例5は、結晶水含有率の最も高い鉱石Cだけを用いて発明例4よりも更に高い結晶水含有率8.5質量%にしたところ、バースティングが発生した。
比較例6は、発明例2と同じ配合原料を用いているが、予熱帯の昇温速度を高めて250℃/minにしたところ、バースティングが発生した。
発明例5は、発明例2より冷却速度を速くして200℃/minにしたが、バースティングは発生しなかった。
【0039】
これら実験例の結果から、焼成処理における室温から280℃までの昇温速度を70℃/min以下にすると共に、280℃超から1200℃までの昇温速度を200℃/min以下にすることで、結晶水含有率が3~7質量%の鉄鉱石粉を用いて、バースティングの発生を抑制しながら、歩留まりを落とさずに、鉄鉱石焼成ペレットを製造することができる。しかも、従来にくらべて、特に生産性を低下させることもないため、今後増えていくことが予想される劣質な鉄鉱石を使用した鉄鉱石焼成ペレットの製造が実現可能になる。
【符号の説明】
【0040】
1:生ペレット、2:グレート、3:乾燥室、4:予熱室、5:焼成室、6:冷却室、7:ロータリーキルン、8:環状クーラー、9:鉄鉱石焼成ペレット、11:アルミナ管、12:ヒーター、13:試料かご、14:生ペレット、15:熱電対。
図1
図2
図3
図4