(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033735
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】蓄光体、蓄光素子および蓄光体としてのポリマーの使用
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20230306BHJP
G09F 13/20 20060101ALI20230306BHJP
G09F 9/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C09K11/06
C09K11/06 645
C09K11/06 635
G09F13/20 D
G09F9/00 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139601
(22)【出願日】2021-08-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】リン ゼセン
(72)【発明者】
【氏名】嘉部 量太
【テーマコード(参考)】
5C096
5G435
【Fターム(参考)】
5C096AA27
5C096BA04
5C096CA03
5C096CC37
5C096EA03
5G435BB12
5G435EE49
5G435LL07
5G435LL08
(57)【要約】
【課題】単一種の成分で蓄光を実現すること。
【解決手段】電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構成単位と30モル%未満の電子アクセプター構成単位を含むポリマーか、または、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構成単位と30モル%未満の電子ドナー構成単位を含むポリマーを含み、蓄光体への光照射を停止した後の発光減衰がべき乗減衰であるもの。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光体への光照射を停止した後に0.1秒以上発光する蓄光体であって、
前記蓄光体は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構成単位と30モル%未満の電子アクセプター構成単位を含むポリマーか、または、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構成単位と30モル%未満の電子ドナー構成単位を含むポリマーを含み、
前記蓄光体への光照射によって前記電子ドナー構成単位から前記電子アクセプター構成単位への電子移動が生じ、
前記蓄光体への光照射を停止した後の発光減衰がべき乗減衰である蓄光体。
【請求項2】
前記ポリマーがランダム共重合体である、請求項1に記載の蓄光体。
【請求項3】
前記ドナー構成単位が、ジアリールアミン構造を含む、請求項1または2に記載の蓄光体。
【請求項4】
前記ドナー構成単位が、置換もしくは無置換のカルバゾリル基を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄光体。
【請求項5】
前記アクセプター構成単位が、π電子不足系芳香族複素環を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄光体。
【請求項6】
前記アクセプター構成単位が、ピリリウム環を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄光体。
【請求項7】
前記ポリマーが、前記総モル量に対して70モル%以上の前記電子ドナー構成単位と30モル%未満の前記電子アクセプター構成単位を含み、さらにホールトラップ構成単位を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄光体。
【請求項8】
前記ポリマーが、前記総モル量に対して70モル%以上の前記電子アクセプター構成単位と30モル%未満の前記電子ドナー構成単位を含み、さらに電子トラップ構成単位を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄光体。
【請求項9】
蓄光体への光照射を停止した後に0.1秒以上発光する蓄光体としてのポリマーの使用であって、
前記ポリマーは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構成単位と30モル%未満の電子アクセプター構成単位を含むポリマーであるか、または、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構成単位と30モル%未満の電子ドナー構成単位を含むポリマーであり、
前記ポリマーへの光照射によって前記電子ドナー構成単位から前記電子アクセプター構成単位への電子移動が生じ、
前記ポリマーへの光照射を停止した後の発光減衰がべき乗減衰である、ポリマーの蓄光体としての使用。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の蓄光体を支持体上に有する蓄光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー型の蓄光体およびその蓄光体を用いた蓄光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光材料は、励起光が照射されている間にエネルギーを蓄え、励起光の照射が断たれた後にも、蓄えたエネルギーにより発光する発光材料である。蓄光材料は、暗所や夜間で光る時計の文字盤、標識や案内板等の文字、図形等のための夜光塗料に用いられており、最近では、電力供給がなくても照明できる蓄光照明への利用も進められている。
こうした蓄光材料の中でも、特に、発光時間が長い蓄光材料として、Eu、Ce、Tb等の希土類元素を含む無機塩が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-206618号公報
【特許文献2】国際公開第2018/105633号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの無機塩からなる蓄光材料(無機蓄光材料)は、希土類元素を含むことや、高温プロセスが必要であること、溶媒に不溶であるといった欠点がある。
そこで、電子ドナー性を示す有機分子と、電子アクセプター性を示す有機分子を混合した有機蓄光材料が提案されている(特許文献2参照)。この有機蓄光材料は、希土類元素のような希少金属を含まず、また、2種類の有機分子を混合するといった簡単な手法で調製することができるため、無機蓄光材料に比べて汎用性が高いという利点がある。
しかし、本発明者らがこの有機蓄光材料について更に検討を行ったところ、電子ドナー分子と電子アクセプター分子は一般に、融点や機械的特性などの物理的特性が異なることから、これらを混合すると分子が凝集して塊状になることや、相分離が起きるなどの不具合が生じる場合があり、均一な蓄光材料を得ることが難しいという問題があった。
このような状況下において、発明者らは、単一種の成分で蓄光を実現することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、電子ドナー分子と電子アクセプター分子を所定の割合で重合させたポリマーであって、光照射により所定の電子移動と発光減衰挙動を示すポリマーが単一種で蓄光発光を示すことを見いだした。本発明は、このような知見に基づいて提案されたものであり、以下の構成を有する。
【0006】
[1] 蓄光体への光照射を停止した後に0.1秒以上発光する蓄光体であって、前記蓄光体は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構成単位と30モル%未満の電子アクセプター構成単位を含むポリマーか、または、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構成単位と30モル%未満の電子ドナー構成単位を含むポリマーを含み、前記蓄光体への光照射によって前記電子ドナー構成単位から前記電子アクセプター構成単位への電子移動が生じ、前記蓄光体への光照射を停止した後の発光減衰がべき乗減衰である、蓄光体。
[2] 前記ポリマーがランダム共重合体である、[1]に記載の蓄光体。
[3] 前記ドナー構成単位が、ジアリールアミン構造を含む、[1]または[2]に記載の蓄光体。
[4] 前記ドナー構成単位が、置換もしくは無置換のカルバゾリル基を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の蓄光体。
[5] 前記アクセプター構成単位が、π電子不足系芳香族複素環を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の蓄光体。
[6] 前記アクセプター構成単位が、ピリリウム環を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の蓄光体。
[7] 前記ポリマーが、前記総モル量に対して70モル%以上の前記電子ドナー構成単位と30モル%未満の前記電子アクセプター構成単位を含み、さらに、ホールトラップ構成単位を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の蓄光体。
[8] 前記ポリマーが、前記総モル量に対して70モル%以上の前記電子アクセプター構成単位と30モル%未満の前記電子ドナー構成単位を含み、さらに、電子トラップ構成単位を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の蓄光体。
[9] 蓄光体への光照射を停止した後に0.1秒以上発光する蓄光体としてのポリマーの使用であって、前記ポリマーは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構成単位と30モル%未満の電子アクセプター構成単位を含むポリマーであるか、または、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構成単位と30モル%未満の電子ドナー構成単位を含むポリマーであり、前記ポリマーへの光照射によって前記電子ドナー構成単位から前記電子アクセプター構成単位への電子移動が生じ、前記ポリマーへの光照射を停止した後の発光減衰がべき乗減衰である、ポリマーの蓄光体としての使用。
[10] [1]~[8]のいずれか1項に記載の蓄光体を支持体上に有する蓄光素子。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蓄光体によれば、単一種のポリマーを用いて蓄光を実現することができる。この蓄光体によれば有機蓄光素子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ポリマー1の励起光を照射している間の発光スペクトル(PL)と励起光照射を停止した後の残光スペクトル(LPL)である。
【
図2】ポリマー1の発光減衰挙動を示す両対数グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
本明細書における「室温」とは20℃のことを意味する。
本明細書における「励起光」とは、測定対象物に励起を引き起こして発光を生じさせる光であり、その測定対象物の吸収波長に一致する波長の光を用いることができる。
本明細書における「電子求引基」とはハメットのσp値が正である置換基を意味し、「電子供与基」とはハメットのσp値が負である置換基を意味する。ハメットのσp値に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。
本明細書における「LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギー準位」は、サイクリックボルタンメトリーにより測定した還元電位(CV)から求められる値であり、「HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位」は、光電子分光法またはサイクリックボルタンメトリーにより測定される値である。また、電子ドナー構成単位のLUMOのエネルギー準位およびHOMOのエネルギー準位を測定する際の測定対象物は、電子ドナー構成単位に対応する化合物であることとし、電子アクセプター構成単位のLUMOのエネルギー準位およびHOMOのエネルギー準位を測定する際の測定対象物は、電子アクセプター構成単位に対応する化合物であることとする。ここで、「電子ドナー構成単位に対応する化合物」は、電子ドナー構成単位のユニット間連結基を水素原子に置き換えた化合物であり、「電子アクセプター構成単位に対応する化合物」は、電子アクセプター構成単位のユニット間連結基を水素原子に置き換えた化合物である。「ユニット間連結基」の説明については、(第1構成単位群)、(第2構成単位群)の欄の対応する記載を参照することができる。
【0010】
<蓄光体>
本発明の蓄光体は、その蓄光体への光照射を停止した後に0.1秒以上発光する蓄光体であって、電子ドナー構造単位と電子アクセプター構造単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構造単位と30モル%未満の電子アクセプター構造単位を含むポリマーか、または、電子ドナー構造単位と電子アクセプター構造単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構造単位と30モル%未満の電子ドナー構造単位を含むポリマーを含み、その蓄光体への光照射によって電子ドナー構造単位から電子アクセプター構造単位への電子移動が生じ、その蓄光体への光照射を停止した後の発光減衰がべき乗減衰である。
以下の説明では、本発明で蓄光体に用いるポリマーのうち、「70モル%以上の電子ドナー構造単位と30モル%未満の電子アクセプター構造単位を含むポリマー」を「第1ポリマー」と言い、「電子ドナー構造単位と電子アクセプター構造単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構造単位と30モル%未満の電子ドナー構造単位を含むポリマー」を「第2ポリマー」と言う。
本発明における「蓄光体への光照射」の「光照射」は、蓄光体に励起光を照射することを意味する。光照射を停止した後の蓄光体の発光は、例えば分光測定装置(浜松ホトニクス社製:PMA-50)を用いて検出することができる。測定された発光強度が0.01mcd/m
2未満である場合には、発光が検出できないとみなすことができる。本明細書中では、光照射を停止した後の蓄光体の発光を「残光」といい、光照射を停止した時点から発光が検出できなくなるまでの時間を「残光時間」と言うことがある。蓄光体の残光時間は、1秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがより好ましく、5分以上であることがさらに好ましく、20分以上であることがさらにより好ましい。
本発明における「ポリマー」は、少なくとも4個の構成単位を有する化合物を意味する。ここで、「構成単位」は、ポリマーの原料モノマーに由来する原子団である。
本発明における「電子ドナー構成単位」は、蓄光体への光に照射に伴って電子を放出することが可能な構成単位であることを意味し、本発明における「電子アクセプター構成単位」は、電子ドナー構成単位から放出された電子を受け取ることが可能な構成単位であることを意味する。
本発明における「発光減衰がべき乗減衰」であるとは、蓄光体への光照射を停止した後の発光強度I(t)と経過時間tの関係が下記式の関係を満たすことを意味する。下記式において、I
0は光照射を停止時した時点における発光強度であり、αとmは定数である。通常、べき乗減衰をする蓄光体は、発光強度I(t)の対数を縦軸とし経過時間tの対数を横軸としてプロットした両対数グラフに直線の領域が現われる。
【数1】
【0011】
上記のような第1ポリマーまたは第2ポリマーを含む蓄光体は、その単一種のポリマーで蓄光を実現することができる。これは以下の発光メカニズムによるものと推測される。ただし、本発明の蓄光体の発光メカニズムは、以下で説明する発光メカニズムによって限定的に解釈されるべきものではない。
すなわち、上記のような電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位を含むポリマーでは、蓄光体への光照射によって、電子ドナー構成単位から電子アクセプター構成単位への電子移動が生じる。この電子移動は、例えば電子アクセプター構成単位が光を吸収して、そのHOMOからLUMOへ電子が遷移し、そのHOMOの空孔へ電子ドナー構成単位のHOMOの電子が移動してLUMOに遷移するプロセスや、光の吸収により電子ドナー構成単位のHOMOから電子アクセプター構成単位のLUMOへ電子が直接移動するプロセスで行われる。この電子移動の結果、HOMOにホールが生じた電子ドナー構成単位とLUMOに電子が入った電子アクセプター構成単位からなる電荷移動状態が生成する。
このとき、第1ポリマーでは、電子ドナー構成単位の割合が電子アクセプター構成単位の割合よりも大きいため、電子ドナー構成単位で生じたホールが、近くの電子ドナー構成単位のHOMOに移動し易く、さらに、その移動したホールが近くの電子ドナー構成単位のHOMOに移動するといったHOMO間の移動を繰り返して多段階移動し、ホールがLUMOの電子と分離した電荷分離状態が生成する。その後、電荷分離状態にあるホールは、HOMOを介した多段階移動の過程でLUMOに電子が入った電子アクセプター構成単位と遭遇し、その電子とホールが再結合(キャリア再結合)することにより発光が生じる。第1ポリマーを用いた蓄光体では、こうしたホールの多段階移動とキャリア再結合が、蓄光体への光照射を停止した後にも継続して起こることにより残光放射を示す。
一方、第2ポリマーでは、電子アクセプター構成単位の割合が電子ドナー構成単位の割合よりも大きいため、電子アクセプター構成単位のLUMOに入った電子が、近くの電子アクセプター構成単位のLUMOに移動し易く、さらに、その移動した電子が近くの電子アクセプター構成単位のLUMOに移動するといったLUMO間の移動を繰り返して多段階移動し、LUMOの電子がホールと分離した電荷分離状態が生成する。その後、電荷分離状態にある電子は、LUMOを介した多段階移動の過程でHOMOにホールが生じた電子ドナー構成単位と遭遇し、そのホールと電子が再結合(キャリア再結合)することにより発光が生じる。第2ポリマーを用いた蓄光体では、こうした電子の多段階移動とキャリア再結合が、蓄光体への光照射を停止した後にも継続して起こることにより残光放射を示す。
以上の発光メカニズムにより、本発明の蓄光体は、第1ポリマーまたは第2ポリマーの単一種で蓄光を実現することができる。
【0012】
本発明の蓄光体で用いるポリマーでは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位が下記式(1)を満たすことが好ましい。
式(1) LUMO1 > LUMO2
式(1)において、LUMO1は電子ドナー構成単位のLUMOのエネルギー準位を表し、LUMO2は電子アクセプター構成単位のLUMOのエネルギー準位を表す。
電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位を、式(1)を満たすように組み合わせてポリマーを構成することにより、より優れた残光特性が得られる。これは、以下のメカニズムによるものと推測される。
すなわち、電子ドナー構成単位のLUMOのエネルギー準位が電子アクセプター構成単位のLUMOのエネルギー準位よりも高い場合、電子アクセプター構成単位のLUMOに収容された電子は、電子ドナー構成単位のLUMOへは移動し難いため、電子ドナー構成単位上でホールと電子が再結合して早期に発光を生じることが抑制されるとともに、そのLUMOの電子が近くの電子アクセプター構成単位のLUMOへ移動して電荷分離状態になり易い。そのため、式(1)を満たす電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位を組み合わせてポリマーを構成することにより、残光時間などの残光特性を向上させることができる。
以下において、本発明で用いるポリマーの構成について、さらに具体的に説明する。
【0013】
[ポリマー]
本発明で用いるポリマーは、電子ドナー構造単位と電子アクセプター構造単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構造単位と30モル%未満の電子アクセプター構造単位を含む第1ポリマーであるか、この総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構造単位と30モル%未満の電子ドナー構造単位を含む第2ポリマーである。第1ポリマーと第2ポリマーは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の割合が異なること以外は同様の構成である。したがって、以下のポリマーに関する説明のうち、(電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の割合)の欄に記載した説明以外は、第1ポリマーと第2ポリマーの両方に該当することとする。
【0014】
(電子ドナー構成単位)
電子ドナー構成単位は、蓄光体への光照射に伴って電子を放出することが可能な構成単位である。本発明の好ましい態様では、電子ドナー構成単位は、蓄光体への光照射に伴ってHOMOから電子を放出することが可能である。電子ドナー構成単位は、電子アクセプター構成単位よりもHOMOのエネルギー準位が高いことが好ましい。これにより、電子ドナー構成単位のHOMOから、電子アクセプター構成単位のHOMOまたはLUMOへの電子移動が生じ易くなり、電荷分離状態を効率よく生成することができる。また、電子ドナー構成単位のHOMOのエネルギー準位は、-3.5~-8.0eVであることが好ましく、-4.0~-7.0eVであることがより好ましく、-4.5~-6.0eVであることがさらに好ましい。
【0015】
また、上記のように、電子ドナー構成単位は、電子アクセプター構成単位よりもLUMOのエネルギー準位が高いことが好ましい。具体的には、電子ドナー構成単位のLUMOのエネルギー準位(LUMO1)と電子アクセプター構成単位のLUMOのエネルギー準位(LUMO2)の差(LUMO1-LUMO2)は、0eV超4eV以下であることが好ましく、0.01~3eVであることがより好ましく、0.1~2eVであることがさらに好ましい。これにより、蓄光体の残光特性をより確実に向上させることができる。
【0016】
(電子アクセプター構成単位)
電子アクセプター構成単位は、電子ドナー構成単位から放出された電子を受け取ることが可能な構成単位である。本発明の好ましい態様では、電子アクセプター構成単位は、電子ドナー構成単位から放出された電子を、そのHOMO-LUMO間の電子遷移で生じたHOMOの空孔で受け取った後、LUMOへ遷移させることが可能である。また、本発明の他の好ましい態様では、電子アクセプター構成単位は、電子ドナー構成単位から放出された電子を、LUMOで直接受け取ることが可能である。
電子アクセプター構成単位のHOMOとLUMOのギャップは1.0~3.5eVであることが好ましく、1.5~3.4eVであることがより好ましく、2.0~3.3eVであることがさらに好ましい。これにより、蓄光体への光照射に伴って、そのHOMOからLUMOへの電子遷移を効率よく生じさせることができる。また、電子アクセプター構成単位のLUMOのエネルギー準位(LUMO2)を適切に制御することにより、電荷分離過程において、電子アクセプター構成単位のLUMOからLUMOへ電子が移動し易くなり、より長い残光時間を実現することができる。
【0017】
電子ドナー構成単位、電子アクセプター構成単位として用いうる構成単位
電子ドナー構成単位は、電子ドナー性を示す原子団と、この原子団を、隣接する構成単位に連結するユニット間連結基とで構成することができ、電子アクセプター構成単位は、電子アクセプター性を示す原子団と、この原子団を、隣接する構成単位に連結するユニット間連結基とで構成することができる。ユニット間連結基は、各構成単位の原料モノマーの重合性基に由来する構造を有する連結構造である。電子ドナー構成単位および電子アクセプター構成単位は、希土類原子および金属原子を含まないことが好ましく、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、リンから選択される原子のみから構成されることがより好ましい。
以下において、ポリマーの構成単位として用いうる構成単位群として、第1構成単位群、第2構成単位群について説明する。「第1構成単位群」の中から電子ドナー構成単位を選択し、「第2構成単位群」の中から電子アクセプター構成単位を選択してもよいし、あるいは、「第1構成単位群」の中から電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位を選択してもよい。
電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の好ましい組み合わせとして、電子ドナー構成単位が電子供与基を有する構成単位であり、電子アクセプター構成単位が電子求引基を有する構成単位である組み合わせ、電子ドナー構成単位が電子供与基を有する構成単位であり、電子アクセプター構成単位も電子供与基を有する構成単位である組み合わせを挙げることができる。より好ましい組み合わせは、ドナー構成単位がジアリールアミン構造を有する構成単位であり、アクセプター構成単位がπ電子不足系芳香族複素環を有する構成単位である組み合わせであり、さらに好ましい組み合わせは、ドナー構成単位がカルバゾール環を有する構成単位であり、アクセプター構成単位がピリリウム環を有する構成単位である組み合わせである。
【0018】
(第1構成単位群)
第1構成単位群に含まれる構成単位として、電子供与基を含む原子団と、この原子団を、隣接する構成単位に連結するユニット間連結基を含む構成単位を挙げることができる。以下の説明では、第1構成単位群の構成単位が含む「電子供与基を含む原子団」を「第1原子団」と言うことがある。第1原子団は、電子供与基と共役系を有する原子団であることが好ましく、ジアルキルアミノ基と芳香環を有する原子団や、アリールアミン構造を有する原子団であることがより好ましい。
ジアルキルアミノ基と芳香環を有する原子団において、その芳香環は、芳香族炭化水素であってもよいし、芳香族複素環であってもよいが、芳香族炭化水素であることが好ましい。芳香族炭化水素の説明と好ましい範囲については、下記のAr15およびAr16が置換もしくは無置換のアリーレン基であるときのアリーレン基を構成する芳香環についての説明と好ましい範囲を参照することができる。また、芳香族複素環の説明と好ましい範囲については、下記のAr15およびAr16が置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基であるときのヘテロアリーレン基を構成する複素環についての説明と好ましい範囲を参照することができる。これらの中で、芳香環はベンゼン環、ビフェニル環であることが好ましく、ビフェニル環であることがより好ましい。芳香環は置換基で置換されていてもよい。芳香環に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲については、下記のAr15およびAr16におけるアリーレン基等に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。一方、ジアルキルアミノ基は芳香環に置換していることが好ましい。ジアルキルアミノ基と芳香環を有する構成単位が含むジアルキルアミノ基の数は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよいが、1~4つであることが好ましく、2つまたは4つであることがより好ましく、2つであることがさらに好ましい。ジアルキルアミノ基のアルキル基の説明と好ましい範囲、具体例については、下記のR21等におけるアルキル基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。ジアルキルアミノ基のアルキル基は置換基で置換されていてもよい。その置換基の説明と好ましい範囲については、R21等におけるアルキル基に置換しうる置換基についての説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0019】
ジアルキルアミノ基と芳香環を有する原子団の例として、下記一般式(1)で表される構造を有する原子団を挙げることができる。
【化1】
【0020】
一般式(1)において、Ar21は置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、R21~R24は各々独立に置換もしくは無置換のアルキル基を表す。ただし、Ar21が表す置換もしくは無置換のアリーレン基およびR21~R24が表す置換もしくは無置換のアルキル基のうちの少なくとも1つの水素原子は、ユニット間連結基で置換されている。
【0021】
Ar21のアリーレン基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、アリーレン基の具体例については、下記のAr15およびAr16が置換もしくは無置換のアリーレン基であるときのアリーレン基を構成する芳香環についての説明と好ましい範囲、アリーレン基の具体例を参照することができる。Ar21は置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のビフェニルジイル基であることが好ましく、置換もしくは無置換のビフェニルジイル基であることがより好ましい。アリーレン基に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲については、下記のAr15およびAr16におけるアリーレン基等に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。
【0022】
R21~R24は各々独立に置換もしくは無置換のアルキル基を表す。R21~R24は互いに同一であっても異なっていてもよい。R21~R24におけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。好ましい炭素数は1~20であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基などを例示することができる。アルキル基に置換しうる置換基として、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
【0023】
ジアリールアミン構造を有する原子団の「ジアリールアミン構造」は、下記一般式(2)で表されるジアリールアミンと、下記一般式(3)で表される複素環、すなわちジアリールアミンのアリール基同士が単結合で連結した複素環(言い換えれば、窒素原子を含有する複素環に2つの芳香環が縮合した構造を有する芳香族複素環)の両方を意味する。
【化2】
【0024】
一般式(2)および(3)において、R31は水素原子または結合位置を表す。一般式(2)において、Ar31およびAr32は各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表し、Ar31とAr32は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(3)において、Ar31’およびAr32’は、それぞれAr31、Ar32を構成するアリール基の水素原子が単結合の結合位置に置き代わった置換もしくは無置換の芳香環を表す。ただし、一般式(2)において、Ar31およびAr32における置換もしくは無置換のアリール基、並びに、R31における水素原子のうちの少なくとも1つの水素原子は、ユニット間連結基で置換されており、一般式(3)において、Ar31’およびAr32’における置換もしくは無置換の芳香環、並びに、R31における水素原子のうちの少なくとも1つの水素原子は、ユニット間連結基で置換されている。
Ar31およびAr32におけるアリール基の説明と好ましい範囲、具体例については、下記のAr11~Ar14が置換もしくは無置換のアリール基であるときのアリール基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。アリール基に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲については、下記のAr11~Ar14におけるアリール基等に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。ジアリールアミン構造の好ましい例として、置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基、置換もしくは無置換のカルバゾール環を挙げることができる。
【0025】
第1構成単位群の構成単位が含むユニット間連結基は、構成単位の原料モノマーの重合性基に由来する構造を含む多価の基であり、2価または3価の基であることが好ましい。2価の連結基は、第1原子団を隣接する構成単位の一方と連結し、3価の連結基は、第1原子団を隣接する構成単位の両方に連結する。重合性基の説明と具体例については、下記の[ポリマーの合成方法]の欄の対応する記載を参照することができる。ユニット間連結基の例として、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のメチン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、カルボニル基、オキシ基(エーテル基)、チオ基(チオエーテル基)およびこれらの中から選択される2つ以上の基を組み合わせて結合した連結基を挙げることができる。「置換もしくは無置換のアルキレン基」を構成するアルキレン基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6である。アルキレン基およびメチン基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR21等におけるアルキル基に置換しうる置換基についての説明と好ましい範囲を参照することができる。「置換もしくは無置換のアリーレン基」を構成するアリーレン基の説明と好ましい範囲、具体例については、下記のAr15およびAr16が置換もしくは無置換のアリーレン基であるときのアリーレン基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。アリーレン基に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲については、下記のAr15およびAr16におけるアリーレン基等に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。
【0026】
ユニット間連結基の好ましい例として、下記一般式(4)または(5)で表される連結基を挙げることができる。
【0027】
【0028】
一般式(4)において、R41は水素原子またはメチル基を表し、Xは酸素原子またはNHを表し、L41は単結合または連結基を表す。一般式(5)において、L51は単結合または連結基を表す。L41およびL51がとりうる連結基として、酸素原子、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、およびこれらの2種以上が連結した連結基を挙げることができる。置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基の説明については、上記のユニット間連結基の例における置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基についての説明を参照することができる。一般式(4)および(5)において、*は第1原子団を構成する原子への結合位置を表し、**および***は、隣接する構成単位への結合位置を表す。
【0029】
以下において、第1原子団の好ましい例を挙げる。ただし、下記構造の少なくとも1つの水素原子は、ユニット間連結基で置換されていることとし、他の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい範囲と具体例については、下記のAr11~Ar14におけるアリール基等に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。なお、第1構成単位群の構成単位に含まれる第1原子団は、これらの例によって限定的に解釈されるべきものではない。なお、本明細書ではメチル基のCH3は省略して表示している。このため、例えば最初の具体例はN,N-ジメチルアニリンを表す。
【0030】
【0031】
第1原子団を含む構成単位の具体例を以下に例示する。ただし、第1構成単位群の構成単位は、これらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0032】
【0033】
[第2構成単位群]
第2構成単位群に含まれる構成単位として、電気陰性度が高い原子や電子求引基を有する原子団と、この原子団を、隣接する構成単位に連結するユニット間連結基を有する構成単位を挙げることができる。以下の説明では、第2構成単位群の構成単位が含む「電気陰性度が高い原子や電子求引基を有する原子団」を「第2原子団」と言うことがある。ユニット間連結基の説明と好ましい範囲については、第1構成単位群の構成単位が有するユニット間連結基についての説明と好ましい範囲を、「第1原子団」を「第2原子団」に読み替えて参照することができる。
第2原子団は、電気陰性度が高い原子や電子求引基と共役系を有する原子団であることが好ましく、電気陰性度が高い原子や電子求引基と芳香環を有する原子団であることがより好ましい。また、第2原子団は、共役系を含む電子求引基であることも好ましい。電子求引基として、ジアリールホスフィノイル基、シアノ基、フルオロアルキル基(好ましくは、トリフルオロメチル基等のパーフルオロアルキル基)、ペンタフルオロスルファニル基、ジアリールボリル基、カルボニル基、スルホニル基、イミド基、π電子欠如型芳香族複素環を含む基を挙げることができる。ここで、π電子欠如型芳香族複素環を含む基としては、窒素を環員として含むヘテロアリール基や、ピリリウム環、チオピリリウム環、ピリジニウム環を含む基を挙げることができ、6員環のπ電子欠如型芳香族複素環を含む基であることが好ましい。窒素を環員として含むヘテロアリール基として、ピリジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピラジル基、トリアジニル基、および、これらのヘテロアリール基を構成する複素環に芳香環が縮合した構造を有するヘテロアリール基を挙げることができる。
【0034】
第2原子団として、ホスフィンオキシド構造R3P(=O)(Rは置換基を表し、3つのR同士は、互いに同一であっても異なっていてもよい)を1つ以上含む原子団も挙げることができ、その好ましい例として、ホスフィンオキシド構造R3P(=O)を1つ以上と、それ以外にヘテロ原子を1つ以上含む原子団を挙げることができる。ヘテロ原子としては、N、O、S、P等を挙げることができ、このうちの1種のみを含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。ホスフィンオキシド構造を1つ以上含む構成単位が含むホスフィンオキシド構造の数は2つ以上であることが好ましく、その場合、複数のホスフィンオキシド構造は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、複数のホスフィンオキシド構造は、その置換基Rの少なくとも1つが他のホスフィンオキシド構造の置換基Rにヘテロ原子を介して連結していることが好ましく、その置換基Rの少なくとも1つが他のホスフィンオキシド構造の置換基Rにヘテロ原子を介して連結するとともに、その連結している置換基Rのヘテロ原子に結合している原子とは別の原子同士が互いに単結合で連結していることがより好ましい。
ホスフィンオキシド構造の置換基Rは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。アリール基を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、アリール基の具体例については、下記のAr11等が置換もしくは無置換のアリール基であるときのアリール基を構成する芳香環についての説明と好ましい範囲、アリール基の具体例を参照することができる。ヘテロアリール基を構成する複素環の説明と好ましい範囲、ヘテロアリール基の具体例については、下記のAr11等が置換もしくは無置換のヘテロアリール基であるときのヘテロアリール基を構成する複素環についての説明と好ましい範囲、ヘテロアリール基の具体例を参照することができる。アリール基およびヘテロアリール基に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲については、Ar11等におけるアリール基およびヘテロアリール基に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。
【0035】
ホスフィンオキシド構造を1つ以上含む第2原子団の例として、下記一般式(6)で表される構造を有する原子団を挙げることができる。
【化6】
【0036】
一般式(6)において、Ar11~Ar14は各々独立に置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表し、置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。Ar11~Ar14は互いに同一であっても異なっていてもよい。Ar15およびAr16は各々独立に置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基を表し、Ar15とAr16は互いに単結合で連結して縮環構造を形成していてもよい。Ar15およびAr16は互いに同一であっても異なっていてもよい。Ar15およびAr16は置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、そのアリーレン基同士が、互いに単結合で連結して縮環構造を形成していることがより好ましい。ただし、Ar11~Ar14が表す置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基、並びに、Ar15およびAr16が表す置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基の少なくとも1つの水素原子は、隣接する構成単位に結合する連結基で置換されている。
【0037】
Ar11~Ar14が置換もしくは無置換のアリール基であるときのアリール基を構成する芳香環、並びに、Ar15およびAr16が置換もしくは無置換のアリーレン基であるときのアリーレン基を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。アリール基およびアリーレン基を構成する芳香環の炭素数は、6~40であることが好ましく、6~22であることがより好ましく、6~18であることがさらに好ましく、6~14であることがさらにより好ましく、6~10であることが特に好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフタレニル基、ビフェニル基を挙げることができる。アリーレン基の具体例として、フェニレン基、ナフタレンジイル基、ビフェニルジイル基を挙げることができる。これらの中で、Ar11~Ar14として特に好ましいのは、置換もしくは無置換のフェニル基である。また、Ar15およびAr16として特に好ましいのは、置換もしくは無置換のフェニレン基であり、そのフェニレン基同士が互いに単結合で連結して3環構造(ベンゼン環とX11を含む5員環とベンゼン環の3環構造)を形成していることが特により好ましい。
【0038】
Ar11~Ar14が置換もしくは無置換のヘテロアリール基であるときのヘテロアリール基を構成する複素環、並びに、Ar15およびAr16が置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基であるときのヘテロアリーレン基を構成する複素環は、単環であっても、1以上の複素環と芳香環または複素環が縮合した縮合環であっても、1以上の複素環と芳香環または複素環が連結した連結環であってもよい。ヘテロアリール基を構成する複素環の炭素数は3~40であることが好ましく、5~22であることがより好ましく、5~18であることがさらに好ましく、5~14であることがさらにより好ましく、5~10であることが特に好ましい。複素環を構成する複素原子は窒素原子であることが好ましい。複素環の具体例として、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。
【0039】
Ar11~Ar14におけるアリール基およびヘテロアリール基に置換しうる置換基、Ar15およびAr16におけるアリーレン基およびヘテロアリーレン基に置換しうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基である。
【0040】
X11はNR11、OまたはSを表し、R11は水素原子または置換基を表す。R11がとりうる置換基として、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基等を挙げることができる。これらの置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。R11は、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、置換もしくは無置換のアリール基であることがより好ましく、置換もしくは無置換のフェニル基であることがさらに好ましい。
【0041】
以下において、第2原子団の好ましい例を挙げる。ただし、下記構造の少なくとも1つの水素原子はユニット間連結基で置換されていることし、他の水素原子の少なくとも1つは置換基で置換されていてもよい。置換基の好ましい範囲と具体例については、下記のAr11~Ar14におけるアリール基等に置換しうる置換基の具体例と好ましい範囲を参照することができる。なお、第2構成単位群の構成単位に含まれる第2原子団は、これらの例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
【0043】
第2原子団を含む構成単位の具体例を以下に例示する。ただし、第2構成単位群の構成単位は、これらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0044】
【0045】
(電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の割合)
本発明で用いるポリマーのうち第1ポリマーは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子ドナー構成単位と30モル%未満の電子アクセプター構成単位を含み、第2ポリマーは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位の総モル量に対して、70モル%以上の電子アクセプター構成単位と30モル%未満の電子ドナー構成単位を含む。
第1ポリマーにおいて、電子アクセプター構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単の総モル量に対して20モル%未満であることが好ましく、10モル%未満であることがより好ましく、5モル%未満であることがさらに好ましい。第1ポリマーにおいて、電子アクセプター構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単の総モル量に対して0.000001モル%超であることが好ましく、0.01モル%超であることがより好ましく、0.05モル%超であることがさらに好ましい。
第2ポリマーにおいて、電子ドナー構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単の総モル量に対して20モル%未満であることが好ましく、10モル%未満であることがより好ましく、5モル%未満であることがさらに好ましい。第2ポリマーにおいて、電子ドナー構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単の総モル量に対して0.000001モル%超であることが好ましく、0.01モル%超であることがより好ましく、0.05モル%超であることがさらに好ましい。
【0046】
(その他の構成単位)
本発明で用いるポリマーが含む構成単位は、ドナー構成単位とアクセプター構成単位のみであってもよいし、その他の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位として、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレンなどを原料モノマーとして形成された中性の構成単位(ドナー構成単位でもアクセプター構成単位でもない構成単位)を挙げることができる。
ポリマーが、その他の構成単位を含む場合、ドナー構成単位とアクセプター構成単位の合計モル量は、ポリマーを構成する構成単位の総モル量に対して1モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、例えば30~60モル%以上の範囲から選択したり、60~90モル%以上の範囲から選択したり、90~99.99モル%以上の範囲から選択したり、100モル%としたりしてもよい。
また、第1ポリマーに導入しうるその他の構成単位として、下記のホールトラップ構成単位を挙げることができ、第2ポリマーに導入しうるその他の構成単位として、下記の電子トラップ構成単位を挙げることができる。
【0047】
(ホールトラップ構成単位)
本明細書における「ホールトラップ構成単位」は、電子ドナー構成単位から移動してきたホールを受け取って該構成単位内に蓄積することが可能であるとともに、エネルギーが加わることで、そのホールを放出して電子ドナー構成単位に引き渡すことが可能な構成単位を意味する。
ホールトラップ構成単位を第1ポリマーが含んでいると、電荷分離により生成された酸化状態の電子ドナー構成単位からホールトラップ構成単位にホールが移動して、このホールトラップ構成単位においてホールが安定に蓄積される。ホールトラップ構成単位に蓄積されたホールは、励起光の照射を停止した後にも、熱や光刺激などのエネルギーに起因して放出され、電子ドナー構成単位に戻る。そのホールが電子アクセプター構成単位の電子と再結合して発光に寄与するため、残光をより長く持続させることができる。
ホールトラップ構成単位は、電子ドナー構成単位のHOMO準位に近いHOMO準位を有することが好ましい。具体的には、ホールトラップ構成単位のHOMO準位は、電子ドナー構成単位のHOMO準位よりも0.01eV以上高いことが好ましく、0.1eV以上高いことがより好ましく、0.2eV以上高いことがさらに好ましく、0.3eV以上高いことがさらにより好ましい。そして、ホールトラップ構成単位のHOMO準位と電子ドナー構成単位のHOMO準位の差は0.9eV以下であることが好ましい。ホールトラップ構成単位のLUMO準位は、電子ドナー構成単位のLUMO準位よりも0.01eV以上高いことが好ましく、例えば0.1eV以上高くてもよい。ホールトラップ構成単位の態様として、LUMO準位が-0.5eV~-2.5eV、例えば-1.0eV~-1.7eVであり、HOMO準位が-3.5eV~-6.5eV、たとえば-4.0eV~-5.0eVである態様を挙げることができる。
ここで、ホールトラップ構成単位のHOMO準位、LUMO準位は、ホールトラップ構成単位に対応する化合物について測定した値である。「ホールトラップ構成単位に対応する化合物」は、ホールトラップ構成単位のユニット間連結基を水素原子に置き換えた化合物である。
第1ポリマーがホールトラップ構成単位を含む場合、そのホールトラップ構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位とホールトラップ構成単位の総モル量に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることがさらに好ましい。また、ホールトラップ構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位とホールトラップ構成単位の総モル量に対して0.01モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましい。
【0048】
(電子トラップ構成単位)
本明細書における「電子トラップ構成単位」は、電子アクセプター構成単位から移動してきた電子を受け取って該構成単位内に蓄積することが可能であるとともに、エネルギーが加わることで、その電子を電子アクセプター構成単位に引き渡すことが可能な構成単位を意味する。
電子トラップ構成単位を第2ポリマーが含んでいると、電荷分離により生成された還元状態の電子アクセプター構成単位から電子トラップ構成単位に電子が移動して、この電子トラップ構成単位において電子が安定に蓄積される。電子トラップ材料に蓄積された電子は、励起光の照射を停止した後にも、熱や光刺激などのエネルギーに起因して放出され、電子アクセプター構成単位に戻る。その電子が電子ドナー構成単位のホールと再結合して発光に寄与するため、残光をより長く持続させることができる。
電子トラップ構成単位は、電子アクセプター構成単位のLUMO準位に近いLUMO準位を有することが好ましい。具体的には、電子トラップ構成単位のLUMO準位は、電子アクセプター構成単位のLUMO準位よりも0.01eV以上低いことが好ましく、0.1eV以上低いことがより好ましく、0.2eV以上低いことがさらに好ましく、0.3eV以上低いことがさらにより好ましい。そして、電子トラップ構成単位のLUMO準位と電子アクセプター構成単位のLUMO準位の差は0.9eV以下であることが好ましい。電子トラップ構成単位のHOMO準位は、電子ドナー構成単位のHOMO準位よりも0.01eV以上低いことが好ましく、例えば0.1eV以上低くてもよい。電子トラップ構成単位の態様として、LUMO準位が-1.0eV~-3.0eV、例えば-1.5eV~-2.2eVであり、HOMO準位が-4.0eV~-7.0eV、たとえば-4.5eV~-5.5eVである態様を挙げることができる。
ここで、電子トラップ構成単位のHOMO準位、LUMO準位は、電子トラップ構成単位に対応する化合物について測定した値である。「電子トラップ構成単位に対応する化合物」は、電子トラップ構成単位のユニット間連結基を水素原子に置き換えた化合物である。
第2ポリマーが電子トラップ構成単位を含む場合、その電子トラップ構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位とホールトラップ構成単位の総モル量に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることがさらに好ましい。また、電子トラップ構成単位の割合は、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位とホールトラップ構成単位の総モル量に対して0.01モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましい。
【0049】
(ポリマー構成)
本発明で用いるポリマーの構成単位の配列形式は特に制限されない。本発明で用いるポリマーは、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位を主鎖に含む重合体であってもよいし、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位がペンダント基として主鎖に結合した重合体であってもよい。後者の態様において、主鎖を構成するポリマー鎖は、電子ドナー構成単位や電子アクセプター構成単位を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。また、本発明で用いるポリマーは、電子ドナー構成単位の原料モノマーと電子アクセプター構成単位の原料モノマーをランダムに重合させたランダム共重合体であってもよいし、電子ドナー構成単位の繰り返しからなるブロックとアクセプター構成単位の繰り返しからなるブロックを有するブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0050】
以下において、本発明で蓄光体に用いるポリマーの具体例を挙げる。ただし、本発明で蓄光体に用いるポリマーは、この具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、mで括られた構成単位はアクセプター構成単位に相当し、nで括られた構成単位はドナー構成単位に相当する。第1ポリマーでは、mは1以上の整数を表し、nは3以上の整数を表す。第2ポリマーでは、mは3以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。カチオン状態のアクセプター構成単位は一価のアニオンと塩を形成していてもよい。
【0051】
【0052】
(ポリマーの平均分子量および物性)
本発明で用いるポリマーの平均分子量は、蓄光特性の発現との関係では特に制限されない。例えば、平均分子量は3,000以上の範囲から選択したり、5,000以上の範囲から選択したり、また、500,000未満の範囲から選択したり、100,000未満の範囲から選択したり、10,000未満の範囲から選択したりしてもよい。
ポリマーのガラス転移温度Tgは、20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
ポリマーの熱分解温度は50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。
【0053】
[蓄光体の組成、その他の成分]
本発明の蓄光体は、第1ポリマーの1種類のみ、または、第2ポリマーの1種類のみで残光を実現することができるが、第1ポリマーを2種類以上含む蓄光体や、第2ポリマーを2種類以上含む蓄光体も本発明の範囲に含まれる。また、蓄光体は、ドナー構成単位とアクセプター構成単位を所定の割合で含むポリマーのみから構成されていてもよいし、その他の成分が添加されていてもよい。その他の成分として、ホールトラップ分子と電子トラップ分子を挙げることができる。ホールトラップ分子は、第1ポリマーと組み合わせて用いられる成分であり、上記のホールトラップ構成単位のユニット間連結基を水素原子に置き換えた化合物に相当する。ホールトラップ分子の説明については、上記の(ホールトラップ構成単位)の欄の記載を、「ホールトラップ構成単位」を「ホールトラップ分子」に読み替えて参照することができる。電子トラップ分子は、第2ポリマーと組み合わせて用いられる成分であり、上記の電子トラップ構成単位のユニット間連結基を水素原子に置き換えた化合物に相当する。電子トラップ分子の説明については、上記の(電子トラップ構成単位)の欄の記載を、「電子トラップ構成単位」を「電子トラップ分子」に読み替えて参照することができる。
また、蓄光体のその他の成分としては、発光材料も挙げることができる。発光材料を添加することにより、蓄光体の発光波長を制御することができる。
発光材料は、蛍光材料、燐光材料、遅延蛍光材料のいずれであってもよく、目的の発光色に応じて、公知のものから選択して用いることができる。ここで、「蛍光材料」とは、室温下で燐光の発光強度よりも蛍光の発光強度の方が高い発光材料であり、「燐光材料」とは、室温下で蛍光の発光強度よりも燐光の発光強度の方が高い発光材料であり、「遅延蛍光材料」とは、室温下で発光寿命が短い蛍光と、発光寿命が長い蛍光(遅延蛍光)の両方が観測される発光材料である。通常の蛍光(遅延蛍光ではない蛍光)は、発光寿命がnsオーダーであり、燐光は、通常、発光寿命がmsオーダーであるため、蛍光と燐光とは発光寿命により区別することができる。また、有機金属錯体以外の発光性の有機化合物は、通常蛍光材料または遅延蛍光材料である。
【0054】
[ポリマーの合成方法]
本発明で蓄光体に用いるポリマーは、電子ドナー構成単位の原料モノマーと電子アクセプター構成単位の原料モノマーを公知の重合反応を用いて重合させることにより合成することができる。本発明で用いるポリマーは、例えば(1)電子ドナー構成単位の原料モノマーと電子アクセプター構成単位の原料モノマーを含むモノマー組成物の重合反応により合成してもよいし、(2)電子ドナー構成単位の原料モノマーの重合反応により合成した第1ポリマー鎖と、電子アクセプター構成単位の原料モノマーの重合反応により合成した第2ポリマー鎖を化学的に結合させることで合成してもよいし、(3)第1ポリマー鎖を合成した後、その末端から電子アクセプター構成単位の原料モノマーを重合させることで合成してもよいし、(4)第2ポリマー鎖を合成した後、その末端から電子ドナー性構成単位の原料モノマーを成長させることで合成してもよい。重合反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。
電子ドナー構成単位および電子アクセプター構成単位の各原料モノマーには、その構成単位のユニット間連結基を重合性基に置き換えた化合物を用いることができる。例えば、上記の第1構成単位群の欄に記載した第1原子団、および、上記の第2構成単位群の欄に記載した第2原子団の連結基の結合位置に重合性基を導入した重合性化合物を原料モノマーとして用いることができる。原子団に導入する重合性基は、公知の重合性基から適宜選択することができ、例えばビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチレニル基等のエチレン性不飽和基を挙げることができる。
【0055】
[発光の態様]
本発明の蓄光体は、光が照射されることにより、光照射を停止した後にも、発光(残光)が長時間継続する。
蓄光体が発光する光は、蛍光および燐光のいずれか一方であってもよく、蛍光と燐光の両方であってもよいし、さらに、遅延蛍光を含んでいてもよい。また、蓄光体の発光は、励起された電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位が会合(凝集)してエキサイプレックスを形成し、そのエキサイプレックスからの輻射失活による発光(エキサイプレックス発光)を含んでいてもよい。蓄光体がエキサイプレックスを形成して発光する場合、蓄光体からの発光はエキサイプレックス発光のみであってもよいし、電子アクセプター構成単位と会合していない電子ドナー構成単位からの発光や、電子ドナー構成単位と会合していない電子アクセプター構成単位からの発光を含んでいてもよい。
蓄光体の発光波長は、特に制限されないが、200~2000nmであることが好ましい。例えば、400nm以上、600nm以上、800nm以上、1000nm以上、1200nm以上の波長領域から選択してもよいし、1500nm以下、1100nm以下、900nm以下、700nm以下、500nm以下の領域から選択してもよい。
蓄光体から残光を得るための励起光は、太陽光であってもよいし、特定の波長範囲の光を出射する人工光源からの光であってもよい。
蓄光体から残光を得るために行う光照射の時間は、1μ秒以上であることが好ましく、1m秒以上であることがより好ましく、1秒以上であることがさらに好ましく、10秒以上であることがさらにより好ましい。これにより、ラジカルアニオンとラジカルカチオンを十分に生成することができ、光照射を停止した後に、発光を長時間継続させることができる。
【0056】
[蓄光体の形態]
本発明の蓄光体の形態は特に限定されず、例えばフィルムや被膜などの膜として形成することができる。本発明の蓄光体の膜は、ウェットプロセス、ドライプロセス、フィルム成形法のいずれの方法で成膜されたものであってもよい。ウェットプロセスで成膜するときに用いる溶媒は、溶質となるポリマーに相溶性を有する有機溶媒であればよい。
薄膜の平面形状は用途に応じて適宜選択することができ、例えば、正方形状、長方形状等の多角形状、真円状、楕円状、長円状、半円状のような連続形状であってもよいし、幾何学模様や文字、図形等に対応する特定のパターンであってもよい。
【0057】
[最低励起一重項エネルギー準位および最低励起三重項エネルギー準位の測定方法]
本発明で用いる有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)および最低励起三重項エネルギー準位(ET1)は以下のようにして測定される。
(1)最低励起一重項エネルギー準位(ES1)
測定対象化合物とmCPとを、測定対象化合物が濃度6重量%となるように共蒸着することでSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定し、励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の蛍光スペクトルを得る。この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を、検出器にストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
(2)最低励起三重項エネルギー準位(ET1)
最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と同じ試料を5[K]に冷却し、励起光(337nm)を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定する。励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の燐光スペクトルを得る。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0058】
<蓄光素子>
本発明の蓄光素子は、本発明の蓄光体を支持体上に有するものである。蓄光体は通常は膜状にして支持体上に形成される。支持体上に形成される膜は、単一膜でもよいし、複数の膜からなるものであってもよい。膜に含まれるポリマーは1種類であっても2種類以上であってもよい。
支持体については、特に制限はなく、蓄光素子に慣用されているものであればよい。支持体の材料として、例えば紙、金属、プラスチック、ガラス、石英、シリコン等を挙げることができる。可撓性がある支持体に形成することもできるため、用途に応じて様々な形状にすることも可能である。
蓄光膜は、全体が封止材により覆われていることが好ましい。封止材には、ガラス、エポキシ樹脂等の水や酸素の透過率が低い透明材料を用いることができる。
本発明によれば、透明な組成物を提供することが可能である。このため、従来の無機材料と異なり、多様な用途に使用し、応用することが可能である。例えば、ガラス等の透明な材料でできた2枚の支持体で本発明の透明な蓄光体を挟み込むことにより、透明な蓄光板を形成すること等が可能である。支持体の透明性を調節すれば、半透明な蓄光板にすることもできる。
【0059】
<蓄光体の用途>
本発明の蓄光体は、上記のように、電荷分離状態が長寿命であり、残光時間が長いという特徴を有するとともに、例えば、電子ドナー構成単位と電子アクセプター構成単位を所定の割合で含むポリマーを溶媒中で混合し塗布するだけで、蓄光品を構成することができる。そのため、本発明の蓄光体は、希少元素を含む無機材料の高温焼成、微粒子化および分散工程を用いて蓄光品を構成する無機蓄光材料に比べて、材料調達が容易であるとともに、蓄光品の製造コストが低く抑えられ、また、蓄光品に透明性・フレキシブル性・柔軟性を持たせることができるというメリットがある。よって、本発明の蓄光体は、一般的な蓄光品に用いうることの他、上記の特徴を活かして、これまでにない新規な用途を実現することができる。
例えば、本発明の蓄光体は、その電荷分離状態が長寿命であることを活かして、光エネルギーにより電荷分離状態を形成して物質の生産に導く人工光合成の分野に応用することができる。また、本発明の蓄光体は、熱エネルギーや力学的エネルギーに応答する素子としても効果的に用いることができる。例えば、熱エネルギーに応答する素子として、励起光の照射により蓄光体を電荷分離状態とした後、蓄光体に熱を加えて瞬発的に発光させる熱スイッチングを挙げることができる。また、力学的エネルギーに応答する素子として、電荷分離状態とした蓄光体に、圧力などの力学的エネルギーを加えることによって発光する素子や、電荷分離状態とした蓄光体に、圧力などの力学的エネルギーを加えることによって発光状態が変化する素子を挙げることができる。また、それらの応用例として、熱など外的刺激に応答するインタラクティブ発光アートを挙げることができる。
また、本発明の蓄光体を溶媒に溶解することにより、塗布性に優れた蓄光塗料を構成することができる。こうした蓄光塗料を道路や建築物内装面に全面的に塗布することにより、電源が不要な大規模蓄光照明を実現することができる。また、この蓄光塗料で車道外側線を引いた場合には、暗闇でも車道外側線が認知できるようになり、車両通行の安全性を格段に向上させることができる。
さらに、この蓄光塗料で描いた安全誘導標識を用いれば、災害時に長時間にわたる安全な避難誘導が実現するほか、この蓄光塗料を省エネ照明、住宅建材、鉄道、モバイル機器などにコーティングして災害時避難システムの構築が可能となる。
また、本発明の蓄光体を含有する蓄光塗料は印刷用インキとしても用いることもできる。これにより、意匠性に優れ、暗闇や災害時の誘導にも用いうる印刷物を得ることができる。こうした蓄光印刷用インキは、例えば、表紙、パッケージ、ポスター、POP、ステッカー、案内看板、避難誘導サイン、安全用品、防犯用品のための印刷に好ましく用いることができる。
また、本発明の蓄光体に市販の半導体性ポリマーを添加した組成物を用いることにより、蓄光成形品を得ることができる。
こうした蓄光成形品として、例えば電飾看板、商品ディスプレイ、液晶バックライト、照明ディスプレイ、照明器具カバー、交通標識、安全標識、夜間視認性向上部材、サインボード、スクリーン、反射板やメーター部品等の自動車部品、娯楽施設の遊具や玩具、ノートパソコン、携帯電話などのモバイル機器をはじめ、自動車室内や建物内の標示ボタン、時計の文字盤、アクセサリー類、文具類、スポーツ用品、各種の電気・電子・OA機器等の分野における筐体やスイッチ、ボタン類等を挙げることができる。
また、本発明の蓄光体は透明性に優れるため、この蓄光体をガラスの表面にコーティングするか、蓄光体と樹脂の混合物を薄板状に成形することで、蓄光機能を有する調光窓を実現することができる。さらに、蓄光体からなる薄板と反射板を積層した場合には、高輝度の蓄光板を得ることができる。こうした蓄光板は、発光誘導タイルとして、各種災害に伴う避難経路道部材、階段段板、蹴込版、框材、溝蓋材、屋外駐車場部材、 港湾整備部材、道路施設安全部材、高所作業足場部材、海上浮遊施設足場部材、山岳遊歩道関連部材、耐塩害性耐候看板等に用いることができる。
また、本発明の蓄光体を繊維にコーティングすることにより、蓄光繊維やそれを用いた布類や蓄光衣類を得ることができる。こうした蓄光繊維品として、夜間用作業衣、帽子、非常通路用カーペット、ブライダル衣装、壁掛け、車両用内装材等を挙げることができる。
この他にも、本発明の蓄光体は、蓄光フィルム、蓄光テープ、蓄光シール、蓄光建材、蓄光スプレーなど、様々な素材を構成することができる。いずれにおいても、各成分を有機化合物で構成できることにより、色の選択の幅が広く、透明で柔軟な性状を各素材に付与することができ、意匠性や標識性、取り扱い性に優れたものとすることができる。例えば、蓄光フィルムは、避難誘導や防災グッズの包装材として幅広く利用することができる。
さらに、本発明の蓄光体は、バイオイメージングに用いる標識材料、パスポートなどの公文書偽造防止システムなどの様々な分野に応用することができる。
【実施例0060】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、励起光には、300nm、320nm、340nm、365nmのいずれかのLEDをバンドパスフィルターおよび800nm以上の赤外カットフィルターを通して使用した。また、発光スペクトル、残光スペクトルおよび発光寿命の測定は、分光測定装置(浜松ホトニクス社製:PMA-12)、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製:C13366-1350GA)、マルチメーター(キーサイト社製:34461A)を用いて行った。LUMO準位の測定は、N,N-ジメチルホルムアミドを溶媒に用いてサイクリックボルタンメトリーにより行った。
ポリマーのガラス転移温度の測定は示差走査熱量測定装置(Waters製 DSC-25)、熱分解温度は熱重量測定装置(Waters製 TGA-55)を用いて行った。
【0061】
[実施例で使用したポリマー]
実施例で使用したポリマーの構造を以下に示す。ポリマー1では、nで括られた構成単位が「電子ドナー構成単位」に対応し、mで括られた構成単位が「電子アクセプター性構成単位」に対応する。
【0062】
【0063】
(合成例1) ポリマー1の合成
まず、電子アクセプター性モノマーMAを下記の2つの反応で合成した。
【0064】
【0065】
化合物1(1.81g,20mmol)と化合物2(2.44g,20mmol)をジクロロメタン(50mL)に溶解させ、0℃でトリエチルアミン(3.03g,20mmol)を加えた。この混合物を室温に戻した後、終夜反応させた。この反応溶液を濾過し、炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した後、有機層を濃縮した。この濃縮物を、酢酸エチル:石油エーテル=1:5の混合溶媒を溶離液に用いてカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、化合物3を収量3.17g、収率90%で得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.99 (s, 1H), 7.92 (m, 2H), 7.31 (m, 2H), 6.61 (dd, 1H), 6.34 (dd, 1H), 6.05 (dd, 1H).
【0066】
【0067】
化合物3(1.76g,10mmol)と化合物4(3.94g,26.2mmol)を脱水ジクロロメタンに溶解させて得た溶液に、三フッ化ほう素ジエチルエーテル錯体(3.4mL,27mmol)を室温で徐々に加え、50℃で24時間攪拌した。この反応溶液を室温に戻し、ジエチルエーテルを加えて沈殿物を得た。この沈殿物を濾収し、氷酢酸で再結晶を行った後、ジクロロメタンとエーテルで再結晶を行うことにより、モノマーMAを収量500mg、収率11%で得た。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ 8.91 (s, 2H), 8.61 (d, 2H), 8.53 (d, 4H), 7.62 (d, 2H), 7.30 (d, 4H), 6.50-6.66 (m, 2H), 6.23-6.27 (m, 1H), 3.97 (s, 6H)
【0068】
【0069】
モノマーMD(25mg)、モノマーMA(500mg)およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.5mgを脱水ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させ、窒素下、65℃で10時間攪拌した。この反応溶液にエーテルを加え、析出した沈殿物を遠心分離で回収し、脱気乾燥することにより、目的のポリマー1を得た。ポリマーの平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィを利用し標準ポリスチレンから求めた結果、6.0kg/molであった。
【0070】
(実施例1) ポリマー1の評価
ポリマー1のガラス転移温度Tgは137℃、熱分解温度は270℃であった。
ポリマー1を250℃に加熱して軟化させ、熱プレス機で加圧することによりポリマー1の膜を得た。
この膜について、365nm励起光を用いて測定した定常状態の発光スペクトル(PL)と、光照射を停止してから10秒後に測定した残光スペクトル(LPL)を
図1に示し、光照射を停止した後の発光強度(縦軸)と時間(横軸)の関係を示す両対数グラフを
図2に示す。
図1に示すように、ポリマー1の膜は、光照射を停止してから100秒後にも発光(残光)が認められた。また、
図2に示すように、その発光強度の時間変化の両対数グラフは、きれいなべき乗減衰を示した。このことから、ポリマー1が蓄光体であることが確認された。
本発明の蓄光体によれば、単一種のポリマーを用いて蓄光を実現することができる。こうした蓄光体は、通常のフィルム成形法やウェットプロセスを用いて容易に膜状に形成することができるため、蓄光素子の製造効率を向上させることができ、安価で応用範囲が広い蓄光素子の実現に寄与する。よって、本発明の蓄光体は、産業上の利用可能性が高い。