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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033775
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】医療器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
A61M25/00 630
A61M25/00 620
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139660
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 偉師
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267BB03
4C267BB07
4C267BB08
4C267BB16
4C267BB31
4C267BB52
4C267CC04
4C267HH09
4C267HH17
(57)【要約】
【課題】良好な操作性を実現することが可能な医療器具を提供する。
【解決手段】医療器具100は、樹脂製の長尺な中空管である管状本体10を備える医療器具であり、管状本体10の長手方向における少なくとも一部分には、樹脂中に点在している複数の空隙25を有しており当該管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部30が配置されており、複数の空隙25は、周方向及び軸方向において分散して配置されており、複数の空隙25は、それぞれ周方向に延在しているか、又は、それぞれ軸方向に延在しており、管状本体10の内腔は、当該管状本体10の管壁によって、外部から液密に遮蔽されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の長尺な中空管である管状本体を備える医療器具であって、
前記管状本体の長手方向における少なくとも一部分には、樹脂中に点在している複数の空隙を有しており当該管状本体の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部が配置されており、
前記複数の空隙は、周方向及び軸方向において分散して配置されており、
前記複数の空隙は、それぞれ周方向に延在しているか、又は、それぞれ軸方向に延在しており、
前記管状本体の内腔は、当該管状本体の管壁によって、外部から液密に遮蔽されている医療器具。
【請求項2】
前記柔軟部は、前記空隙を間に挟んで互いに対向している一対の壁面を有し、
前記一対の壁面の対向方向に視たときの当該一対の壁面の形状が実質的に互いに等しい請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記柔軟部は、前記一対の壁面どうしを繋いでいる複数の紐状部を有する請求項2に記載の医療器具。
【請求項4】
前記管状本体において、前記柔軟部と、前記柔軟部よりも先端側又は基端側の部分と、の境界には、外形に段差が無い請求項1から3のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項5】
前記柔軟部は、前記管状本体において前記柔軟部よりも先端側の部分と比べて細径であり、前記管状本体において前記柔軟部よりも基端側の部分と比べて細径である請求項4に記載の医療器具。
【請求項6】
前記管状本体の軸方向における位置を第1軸とし、前記管状本体の軸方向における各部の曲げ剛性を第2軸とするプロファイルについて、
前記管状本体において、前記柔軟部と、前記柔軟部よりも先端側又は基端側の部分と、の境界では、連続的に曲げ剛性が変化しており、かつ前記柔軟部よりも先端側又は基端側の部分は前記柔軟部よりも曲げ剛性が高い請求項1から5のいずれか一項に記載の医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具としては、体腔内に挿入され、当該体腔内に薬液などの液体を注入するために用いられるタイプのものがある。このような医療器具としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1の医療器具(同文献には、カテーテルと記載)は、長尺な管状部材である管状本体(同文献には、カテーテル本体と記載)と、を備えており、管状本体の内腔を介して体腔内に薬液等の液体を供給可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020―162645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者の検討によれば、特許文献1の医療器具の構造では、医療器具の操作性について、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、良好な操作性を実現することが可能な医療器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、樹脂製の長尺な中空管である管状本体を備える医療器具であって、
前記管状本体の長手方向における少なくとも一部分には、樹脂中に点在している複数の空隙を有しており当該管状本体の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部が配置されており、
前記複数の空隙は、周方向及び軸方向において分散して配置されており、
前記複数の空隙は、それぞれ周方向に延在しているか、又は、それぞれ軸方向に延在しており、
前記管状本体の内腔は、当該管状本体の管壁によって、外部から液密に遮蔽されている医療器具が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、医療器具の良好な操作性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る医療器具の全体構成を示す模式図である。
図2】第1実施形態における管状本体の断面図である。
図3】第1実施形態における空隙の部分拡大図である。
図4】第2実施形態における管状本体の全体構成を示す模式図である。
図5】第2実施形態における管状本体の柔軟部及びその周辺構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図1から図5を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、図2及び図3は、管状本体10の軸方向に沿った断面図である。また、図3において、紙面の上下方向が管状本体10の径方向であり、紙面の左右方向が管状本体10の軸方向である。
【0010】
以下に説明する各実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更又は改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。
本発明の医療器具100の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
以下の説明において、医療器具100の遠位側を先端側、その近位側を基端側ともいう。また、先端部は、遠位端(最先端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味し、基端部とは、近位端(最基端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味するものとする。
また、以下において、管状本体10の軸方向(長手方向)を単に軸方向と称したり、管状本体10の径方向を単に径方向と称したり、管状本体10の周方向を単に周方向と称したりする場合がある。
【0011】
〔第1実施形態〕
先ず、図1から図3を用いて第1実施形態を説明する。なお、図2は、管状本体10の軸方向に沿った断面図であり、複数の空隙25の形状をそれぞれ模式的に示している。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る医療器具100は、樹脂製の長尺な中空管である管状本体10を備える医療器具である。
管状本体10の長手方向における少なくとも一部分には、樹脂中に点在している複数の空隙25を有しており当該管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部30が配置されている。
図2に示すように、複数の空隙25は、周方向及び軸方向において分散して配置されている。
本実施形態の場合、複数の空隙25は、例えば、それぞれ周方向に延在している。
また、管状本体10の内腔は、当該管状本体10の管壁によって、外部から液密に遮蔽されている。
【0012】
医療器具100は、一例として、カテーテルであり、管状本体10の内腔を介して造影剤や薬液等の液体を体腔内に供給するために用いられる。ただし、医療器具100は、例えば、後述する第2実施形態のように、体腔に挿通されるカテーテル以外の医療器具であってもよい。本実施形態の場合、医療器具100が挿入される体腔は、例えば、血管であることが挙げられるが、当該体腔は、例えば、気管、腸管などの消化管等であってもよい。
【0013】
本実施形態によれば、管状本体10の長手方向における少なくとも一部分には、当該管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部30が配置されている。これにより、血管等の体腔の分岐部の形状に応じて、管状本体10をより容易に屈曲させることが可能となるので、医療器具100の分岐選択性を向上させることができる。
より詳細には、柔軟部30は、複数の空隙25を有していることによって、管状本体10における柔軟部30以外の部分と比較してより曲げ剛性が低くなっている。このため、柔軟部30は、管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易となっている。
また、複数の空隙25が、周方向及び軸方向において分散して配置されているので、管状本体10において、複数の空隙25が分散している範囲の全体に対してバランスよく柔軟性を付与できる。
更には、管状本体10における柔軟部30以外の部分は、複数の空隙25が形成されていないか、又は柔軟部30の部分より少ないため、当該柔軟部30よりも曲げ剛性が高い構成となっているので、管状本体10の適度なコシを維持することができる。すなわち、管状本体10の分岐選択性と前進力とを両立することができる。
このように、本実施形態によれば、医療器具100の良好な操作性を実現することができる。
なお、ここでいう曲げ剛性とは、部材の断面形状と大きさで決まる断面二次モーメントと、その材料のヤング率との積で表される。
また、本実施形態の場合、管状本体10は、当該管状本体10における空隙25では無い部分(樹脂)によって液密となっている。よって、管状本体10の内腔は、当該内腔内を流動する液体が各空隙25を介して管状本体10から外部に漏洩しない構成となっている。
【0014】
上述のように、管状本体10は、長尺な中空の管状部材である。
図1及び図2に示すように、管状本体10は、例えば、内層13と、内層13の周囲に設けられた外層14と、を備える二層構造であり、管状本体10の軸心側から、内層13と外層14との順に積層されて構成されている。
内層13は、管状本体10の最内層であり、例えば、肉厚が軸方向における位置にかかわらず一定の円管状に形成されている。内層13は、管状本体10の先端と基端との両端において開口している。管状本体10の内腔は、例えば、内層13の内周面によって画定されている。
外層14は管状本体10の最外層である。例えば、管状本体10の肉厚の大部分(過半部)は、外層14の肉厚によって占められている。
内層13及び外層14の各々は、例えば、フッ素系の熱可塑性ポリマー樹脂により構成されているが、ポリウレタン、ポリエチレン、シリコーン、ポリアミド、ポリアミドイミド、塩化ビニル、ポリエーテルスルホンなどの樹脂材料であってもよい。フッ素系の熱可塑性ポリマー材料は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などとすることができる。なお、内層13と外層14とは、互いに同種の材料によって構成されていてもよいし、内層13と外層14とは、互いに異なる種類の材料によって構成されていてもよい。
【0015】
本実施形態の場合、一例として、柔軟部30は、管状本体10の長手方向における中間部35に配置されている。
なお、ここでいう中間部35とは、管状本体10の長手方向における先端部10a(図1参照)と基端部10b(図1参照)との間の部分である。
柔軟部30は、例えば、管状本体10の長手方向における中間部35の全域に亘って形成されていてもよいし、当該中間部35の一部分に形成されていてもよく、更には長手方向において互いに連続していない複数の部分に形成されていてもよい。
本実施形態の場合、一例として、柔軟部30は、管状本体10の長手方向における中間部35の全域に亘って形成されている。
ただし、本発明において、柔軟部30は、管状本体10における中間部35以外に配置されていてもよく、例えば、当該柔軟部30は、管状本体10の先端部10aに配置されていてもよいし、中間部35と先端部10aとの両方に配置されていてもよい。
【0016】
柔軟部は、例えば、管状本体10において柔軟部30よりも先端側の部分(本実施形態の場合、先端部10a)と比べて細径である。同様に、柔軟部は、例えば、管状本体10において柔軟部30よりも基端側の部分(本実施形態の場合、基端部10b)と比べて細径である。すなわち、柔軟部30の外径は、例えば、先端部10a及び基端部10bの各々の外径よりも小さい寸法に設定されている。
これにより、柔軟部30の曲げ剛性をより低くすることができるので、管状本体10の分岐選択性をより向上させることができる。
【0017】
図1及び図2に示すように、例えば、管状本体10において、柔軟部30と、柔軟部30よりも先端側又は基端側の部分と、の境界(本実施形態の場合、境界部37a、37b)には、外形に段差が無い。
これにより、管状本体10が先端側に向けて摺動する際の摺動抵抗を、より低減することができる。
【0018】
更に、管状本体10の軸方向における位置を第1軸とし、管状本体10の軸方向における各部の曲げ剛性を第2軸とするプロファイル(以下、単にプロファイルと称する場合がある)について、管状本体10において、柔軟部30と、柔軟部30よりも先端側又は基端側の部分と、の境界では、連続的に曲げ剛性が変化しており、かつ柔軟部30よりも先端側又は基端側の部分は柔軟部30よりも曲げ剛性が高い。
すなわち、管状本体10において、柔軟部30と、柔軟部30よりも先端側又は基端側の部分と、の境界では、段差が無く連続的に曲げ剛性が変化している。
これにより、柔軟部30から先端部10a又は基端部10bにむけて管状本体10の曲げ剛性が緩やかに変化する構成となる。このため、管状本体10は体腔の分岐部の形状に更に良好に追従して屈曲することができる。
【0019】
より詳細には、本実施形態の場合、柔軟部30は、管状本体10の長手方向における中間部35に配置されている。
したがって、図1及び図2に示すように、柔軟部30と先端部10aとの境界部37aは、例えば、先端側から基端側に向けて外径及び内径がテーパ状に縮径している。更には、管状本体10において、柔軟部30と先端部10aとの境界部37aでは、連続的に曲げ剛性が変化しており、かつ先端部10aは柔軟部30よりも曲げ剛性が高い。
同様に、柔軟部30と基端部10bとの境界部37bは、例えば、基端側から先端側に向けて外径及び内径がテーパ状に縮径している。更には、管状本体10において、柔軟部30と基端部10bとの境界部37bでは、連続的に曲げ剛性が変化しており、かつ基端部10bは柔軟部30よりも曲げ剛性が高い。
これにより、本実施形態の場合、柔軟部30から先端部10aにむけて管状本体10の曲げ剛性が緩やかに変化する構成となっているとともに、柔軟部30から基端部10bにむけて管状本体10の曲げ剛性が緩やかに変化する構成となっている。
なお、本発明において、例えば、柔軟部30が先端部10aの先端部(すなわち管状本体10の最先端部)に配置されている場合、柔軟部30よりも基端側の部分は、管状本体10における最先端部よりも基端側の部分であり、柔軟部30よりも先端側の部分は、存在しない構成となる。同様に、柔軟部30が基端部10bの基端部(すなわち管状本体10の最基端部)に配置されている場合、柔軟部30よりも先端側の部分は、管状本体10における最基端部よりも先端側の部分であり、柔軟部30よりも基端側の部分は、存在しない構成となる。
【0020】
柔軟部30の内径及び外径の各々は、例えば、軸方向における位置にかかわらず略一定となっている。同様に、先端部10aの内径及び外径の各々は、例えば、軸方向における位置にかかわらず略一定となっており、基端部10bの内径及び外径の各々は、例えば、軸方向における位置にかかわらず略一定となっている。ただし、先端部10aの先端部(管状本体10の最先端部)の内径及び外径の各々は、例えば、基端側から先端側に向けて外径及び内径が縮径しているテーパ状となっていてもよい。
【0021】
本実施形態の場合、管状本体10の外層14は、上述の樹脂材料によって当該外層14の全体が一体成形されており、管状本体10の内層13も、上述の樹脂材料によって当該内層13の全体が一体成形されている。したがって、柔軟部30と先端部10a及び基端部10bとが共通の樹脂材料によって一体形成されている構造となるので、境界部37a、37bにおいて、柔軟部30と先端部10a及び基端部10bとが互いに接合された状態を良好に維持することができる。
【0022】
管状本体10の全長は、特に限定されないが、500mm以上2000mm以下であることが好ましい。
柔軟部30の軸方向における寸法は、特に限定されないが、1.0mm以上500mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0mm以上200mm以下である。
柔軟部30の外径は、特に限定されないが、0.2mm以上20mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.4mm以上15mm以下である。柔軟部30の内径は、特に限定されないが、0.1mm以上18mm以下であることが好ましい。
境界部37a、37bの各々の軸方向における寸法は、特に限定されないが、0.1mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mm以上50mm以下である。
ただし、管状本体10の各部の長さや外径及び内径に関しては、医療器具100の用途などに応じて、上記した以外の寸法に設定されてもよい。
【0023】
本実施形態の場合、複数の空隙25は、中間部35の外層14に形成されている。ただし、複数の空隙25は、例えば、中間部35の内層13に形成されていてもよいし、外層14と内層13との両方に形成されていてもよい。
ここで、図3に示すように、柔軟部30は、例えば、空隙25を間に挟んで互いに対向している一対の壁面28を有する。
そして、一対の壁面28の対向方向に視たときの当該一対の壁面28の形状が実質的に互いに等しい。
より詳細には、管状本体10の樹脂中において、一対の壁面28どうしによって空隙25が形成されている。換言すると、空隙25は、一対の壁面28どうしによって画定されている。
ただし、本発明において、柔軟部30は、必ずしも一対の壁面28を有していなくてもよく、空隙25は、例えば、略球形やその他の形状となっていてもよい。
【0024】
図3に示すように、一対の壁面28の集合体の縦断面形状は、例えば、複数の凹凸を含んだ入り組んだ形状となっている。より詳細には、一対の壁面28の各々の縦断面形状は、例えば、周方向に延在した直線状ではなく、典型的には複数方向に屈曲した形状となっている。
更に詳細には、一対の壁面28の集合体の縦断面形状は、当該集合体の延在方向における両端側に向けて幅寸法(軸方向における寸法)が徐々に狭まる形状となっている。一対の壁面28のうちの一方の壁面28の延在方向における一端部と、他方の壁面28の延在方向における一端部と、は互いに接続されている。同様に、一対の壁面28のうちの一方の壁面28の延在方向における他端部と、他方の壁面28の延在方向における他端部と、は互いに接続されている。
ただし、本発明において、一対の壁面28の集合体の縦断面形状は、特に限定されず、例えば、上記以外の形状となっていてもよい。
本実施形態の場合、一対の壁面28の各々の板面は、例えば、およそ軸方向を向いており、したがって一対の壁面28の対向方向は、およそ軸方向である。ただし、本発明において、一対の壁面28の対向方向は、およそ軸方向に限定されず、後述するようにおよそ径方向であってもよいし、その他の方向であってもよい。
また、本実施形態の場合、柔軟部30は、少なくとも空隙25の一部分において、このような一対の壁面28を有していることが好ましい。換言すると、柔軟部30は、必ずしも空隙25の全体において、このような一対の壁面28を有していなくてもよい。
【0025】
更に、柔軟部30は、例えば、一対の壁面28どうしを繋いでいる複数の紐状部29(図3参照)を有する。
これにより、一対の壁面28の対向方向における管状本体10の引っ張り強度を十分に確保することができる。
本実施形態の場合、上述のように、一対の壁面28は、およそ軸方向において互いに対向して配置されている。よって、各紐状部29は軸方向の成分を持つ方向に延在している。各紐状部29の延在方向における一端部は、一対の壁面28のうちの一方に接続されており、当該紐状部29の延在方向における他端は、一対の壁面28のうちの他方に接続されている。このような構成によれば、軸方向における管状本体10の引っ張り強度を十分に確保することができる。
なお、各紐状部29は、例えば、直線状となっていてもよいし、屈曲形状となっていてもよい。また、各紐状部29の一部分は、例えば、複数方向に分岐していてもよい。
【0026】
このような空隙25を形成する手法としては、特に限定されないが、例えば、管状本体10の成形体を軸方向に牽引することによって形成する手法を挙げることができる。ただし、本発明において、空隙25を形成する手法はこの例に限定されず、後述するように、管状本体10の外層14(又は外層14及び内層13の各々)を成形する際に発泡剤を樹脂中に混在させる手法によって、空隙25を形成してもよい。
なお、管状本体10を軸方向に牽引することによって空隙25を形成する場合、柔軟部30の内径は、先端部10a及び基端部10bの各々の内径よりも小さい寸法となる。
また、発泡剤を樹脂中に混在させる手法によって空隙25を形成する場合、柔軟部30の内径は、先端部10a及び基端部10bの各々の内径よりも小さい寸法となっていてもよいし、当該内径と同等の寸法となっていてもよい。同様に、この場合、柔軟部30の外径は、先端部10a及び基端部10bの各々の外径よりも小さい寸法となっていてもよいし、当該外径と同等の寸法となっていてもよい。
また、管状本体10の成形体を軸方向に牽引する手法によって柔軟部30を形成する場合、当該柔軟部30には、複数の空隙25が周方向及び軸方向において分散して配置されている。そして、複数の空隙25は、それぞれ周方向に延在している。また、各空隙25は、およそ軸方向において互いに対向している一対の壁面28と、当該一対の壁面どうしを繋いでいる複数の紐状部29を有する。
【0027】
なお、本発明において、複数の空隙25が、例えば、それぞれ軸方向に延在していてもよい。すなわち、医療器具100は、樹脂製の長尺な中空管である管状本体10を備える医療器具であり、管状本体10の長手方向における中間部35には、樹脂中に点在している複数の空隙25を有しており当該管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部30が配置されており、複数の空隙25は、周方向及び軸方向において分散して配置されており、複数の空隙25は、それぞれ軸方向に延在している。
このような構成によっても、径方向における管状本体10の柔軟性を、良好に確保することができる。よって、管状本体10は、より容易に軸方向に対して交差する方向へより屈曲することができる。
より詳細には、発泡剤を樹脂中に混在させる手法によって柔軟部30を形成する場合、管状本体10を成形(例えば、押し出し成形)する際に、軸方向と発泡剤の長手方向がほぼ一致するように発砲剤が配向されるので、形成される複数の空隙25も、それぞれ軸方向に延在した形状となる。そして、各空隙25は、およそ径方向において互いに対向している一対の壁面28と、当該一対の壁面どうしを繋いでいる複数の紐状部29を有する。
【0028】
ここで、本実施形態の場合、樹脂中の単位面積当たりの空隙25の占有率を調整することによって、柔軟部30の曲げ剛性を変更することができる。
より詳細には、樹脂中の単位面積当たりの空隙25の占有率を大きくすると、柔軟部30の曲げ剛性を低くすることができる。一方、樹脂中の単位面積当たりの空隙25の占有率を小さくすると、柔軟部30の曲げ剛性を高くすることができる。よって、医療器具100の用途や各寸法等に応じて、管状本体10の曲げ剛性を適宜設定することができる。
また、境界部37a、37bにおける樹脂中の単位面積当たりの空隙25の占有率を調整することによって、当該境界部37a、37b(連続的に曲げ剛性が変化している部分)における上記プロファイルの傾斜度を変更することができる。
より詳細には、境界部37a、37bにおける単位面積当たりの空隙25の占有率が、柔軟部30側から先端部10a側及び基端部10b側に向けて徐々に減少している構成とすることによって、上記プロファイルの傾斜度を小さくすることができる。一方、境界部37a、37bにおける単位面積当たりの空隙25の占有率が、柔軟部30側から先端部10a側及び基端部10b側に向けて急唆に減少している構成とすることによって、上記プロファイルの傾斜度を大きくすることができる。
これにより、例えば、管状本体10の曲げ剛性が、柔軟部30から先端部10a及び基端部10bに向けて緩やかに切り替わる構成、もしくは柔軟部30から先端部10a又は基端部10bに向けて急唆に切り替わる構成を実現することが可能である。
樹脂中の単位面積当たりの空隙25の占有率を調整する手法としては、管状本体10を軸方向に引っ張ることにより空隙25を形成する場合、例えば、引張荷重や引張速度、温度、チューブ内圧等を調整する手法を用いることができる。
もしくは、樹脂中の単位面積当たりの空隙25の占有率を調整する手法としては、管状本体10の外層14の樹脂中に発泡剤を混在させることにより空隙25を形成する場合、例えば、当該発泡剤の混入量や処理温度を軸方向において調整する手法を用いることができる。
【0029】
また、境界部37a、37bの軸方向における寸法を調整することによっても、例えば、管状本体10の曲げ剛性が、柔軟部30から先端部10a及び基端部10bに向けて急唆に切り替わる構成、もしくは柔軟部30から先端部10a及び基端部10bに向けて緩やかに切り替わる構成を実現することができる。
境界部37a、37bの軸方向における寸法を調整する手法としては、管状本体10を軸方向に引っ張ることにより空隙25を形成する場合、例えば、管状本体10を軸方向に引っ張る際に、管状本体10におけるクランプする部分どうしの距離や温度を調整する手法を用いることができる。
もしくは、境界部37a、37bの軸方向における寸法を調整する手法としては、管状本体10の外層14の樹脂中に発泡剤を混在させることにより空隙25を形成する場合、例えば、当該発泡剤の混入量や処理温度を軸方向において調整する手法を用いることができる。
【0030】
また、本実施形態の場合、管状本体10の外周面には親水性コーティングが施されている。
これにより、管状本体10が先端側に向けて摺動する際の摺動抵抗をより低減することができる。
親水性コーティングの材料は、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)などの無水マレイン酸系ポリマーやその共重合体、ポリビニルピロリドンなどの親水性の樹脂材料であることが挙げられる。
【0031】
また、管状本体10は、例えば、編組された金属ワイヤにより網目状に構成された補強層16(図2参照)を含む。
補強層16は、例えば、外層14に埋設されており、内層13の周囲に配置されている。補強層16は、例えば、内層13と同軸に配置されている。
補強層16は、例えば、管状本体10の先端から基端に亘って配設されている。管状本体10は、補強層16によってその全体が補強されている。
なお、補強層16は、例えば、コイル状に巻回された金属ワイヤによって構成されたものであってもよい。また、補強層16は、例えば、管状本体10の軸方向における一部分に配設されていてもよい。
【0032】
更に、本実施形態の場合、図2に示すように、医療器具100は、例えば、管状本体10の先端部10aに埋設されている第1マーカー部材41と、中間部35(柔軟部30)の先端部に埋設されている第2マーカー部材42と、中間部35の基端部に埋設されている第3マーカー部材43と、を備えている。
より詳細には、図2に示すように、第1マーカー部材41~第3マーカー部材43の各々は、例えば、外層14の先端部に埋設されている。
第1マーカー部材41~第3マーカー部材43の各々は、例えば、白金やタングステンなどのX線不透過性の材料によって構成されている筒状の部材である。第1マーカー部材41~第3マーカー部材43の各々は、管状本体10と同軸の配置で外層14に埋設されている。
第1マーカー部材41の位置を指標とすることにより、X線(放射線)観察下において体腔内における管状本体10の先端部10aの位置を適確に認識することができる。
また、第2マーカー部材42及び第3マーカー部材43の各々の位置を指標とすることにより、X線(放射線)観察下において体腔内における管状本体10の中間部35(柔軟部30)の位置を適確に認識することができる。
【0033】
また、図1に示すように、管状本体10の基端部10bには、使用者によって把持される把持部90が設けられている。把持部90は、その基端から図示しない注入器(シリンジ)やインジェクターなどの薬液注入デバイスを挿入するための連結部91を有している。連結部91の外周には、シリンジを着脱可能に固定できるようにねじ溝が形成されている。軸方向における把持部90の中央部には、ハブ92が設けられている。把持部90には当該把持部90を先端から基端に亘って軸心方向に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔における先端側の部分に管状本体10の基端部10bが挿入されて、把持部90に対して管状本体10の基端部10bが固定されている。ハブ92は、把持部90の軸心を介して対向する2枚の羽部93を有している。把持部90の軸心を中心として羽部93を回転させることにより、管状本体10の全体を軸回転させるトルク操作が可能であり、体腔に侵入した管状本体10の先端の向きを調整することができる。ハブ92の先端側には、プロテクタ94が設けられており、医療器具100の基端部の周囲を覆っている。
【0034】
〔第2実施形態〕
次に、図4及び図5を用いて第2実施形態を説明する。なお、図5は、管状本体の軸方向に沿った断面図であり、複数の空隙25の形状をそれぞれ模式的に示している。
本実施形態に係る医療器具100は、以下に説明する点で、上記の第1実施形態に係る医療器具100と相違しており、その他の点では、上記の第1実施形態に係る医療器具100と同様に構成されている。
【0035】
第1実施形態では、医療器具100がカテーテルである例を説明したが、本実施形態の場合、医療器具100は、一例として、体腔内から体液等を吸引するために用いられる吸引チューブである。この場合、管状本体10の先端部10aは体腔内に留置され、基端部10bは不図示の負圧吸引源と接続される。管状本体10の中間部35は、例えば、1又は複数箇所において屈曲した状態で引き回される。
そして、本実施形態の場合も、管状本体10の長手方向における中間部35には、樹脂中に点在している複数の空隙25を有しており当該管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部30が配置されている。
このため、管状本体10を体腔内に配置する際に、管状本体10が複数箇所において屈曲した状態を容易に実現することができる。よって、医療器具100の操作性を向上させることができる。また、体腔の内壁に対する管状本体10の侵襲性を低減することができる。
更には、管状本体10の屈曲箇所において応力が集中してしまうことを抑制できるので、管状本体10の経年劣化によるひび割れや破断を抑制できる。
【0036】
図4及び図5に示すように、本実施形態の場合、複数の柔軟部30が、管状本体10の軸方向において互いに離間して配置されている。
このように構成することにより、管状本体10の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易となっている構成を実現しつつ、管状本体10の中間部35の適度なコシを得ることもできる。
より詳細には、例えば、管状本体10の軸方向において、柔軟部30と、柔軟部30が形成されていない非形成領域31とが、交互に繰り返し配置されている。第1実施形態と同様に、柔軟部30と非形成領域31との境界部38a、38bのうち、先端側の境界部38aは、基端側から先端側に向けて外径及び内径が縮径しているテーパ状となっている。同様に、基端側の境界部38bは、先端側から基端側に向けて外径及び内径が縮径しているテーパ状となっている。
なお、医療器具100が有する柔軟部30の数は特に限定されず、管状本体10の軸方向における寸法や用途に応じて適宜設定することができる。また、本実施形態の場合も、第1実施形態と同様に、医療器具100が有する柔軟部30の数は1つであってもよい。
【0037】
管状本体10の全長は、特に限定されないが、100mm以上2000mm以下であることが好ましい。
柔軟部30の軸方向における寸法は、特に限定されないが、1.0mm以上500mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0mm以上200mm以下である。
柔軟部30の外径は、特に限定されないが、0.2mm以上20mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.4mm以上15mm以下である。柔軟部30の内径は、特に限定されないが、0.1mm以上18mm以下であることが好ましい。
境界部38a、38bの各々の軸方向における寸法は、特に限定されないが、0.1mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mm以上50mm以下である。
【0038】
以上、図面を参照して各実施形態を説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0039】
例えば、第1実施形態においては、医療器具100が非能動カテーテルである例を説明したが、医療器具100は、例えば、能動カテーテルであってもよい。この場合、医療器具100は、複数のルーメンと、当該複数のルーメンのうちのいずれかのルーメンに挿通されている操作線(不図示)と、操作線の基端部と接続されている操作部(不図示)と、を備えており、操作部の操作により管状本体10の先端部10aを屈曲させて医療器具100を選択的に指向させることが可能に構成されていてもよい。
【0040】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)樹脂製の長尺な中空管である管状本体を備える医療器具であって、
前記管状本体の長手方向における少なくとも一部分には、樹脂中に点在している複数の空隙を有しており当該管状本体の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な柔軟部が配置されており、
前記複数の空隙は、周方向及び軸方向において分散して配置されており、
前記複数の空隙は、それぞれ周方向に延在しているか、又は、それぞれ軸方向に延在しており、
前記管状本体の内腔は、当該管状本体の管壁によって、外部から液密に遮蔽されている医療器具。
(2)前記柔軟部は、前記空隙を間に挟んで互いに対向している一対の壁面を有し、
前記一対の壁面の対向方向に視たときの当該一対の壁面の形状が実質的に互いに等しい(1)に記載の医療器具。
(3)前記柔軟部は、前記一対の壁面どうしを繋いでいる複数の紐状部を有する(2)に記載の医療器具。
(4)前記管状本体において、前記柔軟部と、前記柔軟部よりも先端側又は基端側の部分と、の境界には、外形に段差が無い(1)から(3)のいずれか一項に記載の医療器具。
(5)前記柔軟部は、前記管状本体において前記柔軟部よりも先端側の部分と比べて細径であり、前記管状本体において前記柔軟部よりも基端側の部分と比べて細径である(4)に記載の医療器具。
(6)前記管状本体の軸方向における位置を第1軸とし、前記管状本体の軸方向における各部の曲げ剛性を第2軸とするプロファイルについて、
前記管状本体において、前記柔軟部と、前記柔軟部よりも先端側又は基端側の部分と、の境界では、連続的に曲げ剛性が変化しており、かつ前記柔軟部よりも先端側又は基端側の部分は前記柔軟部よりも曲げ剛性が高い(1)から(5)のいずれか一項に記載の医療器具。
【符号の説明】
【0041】
10 管状本体
10a 先端部
10b 基端部
13 内層
14 外層
16 補強層
25 空隙
28 一対の壁面
29 紐状部
30 柔軟部
31 非形成領域
35 中間部
37a、37b 境界部
38a、38b 境界部
41 第1マーカー部材
42 第2マーカー部材
43 第3マーカー部材
90 把持部
91 連結部
92 ハブ
93 羽部
94 プロテクタ
100 医療器具
図1
図2
図3
図4
図5