(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033792
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】固定具
(51)【国際特許分類】
F16L 55/00 20060101AFI20230306BHJP
F16L 41/12 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
F16L55/00 C
F16L41/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139697
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000105556
【氏名又は名称】コスモ工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】笠原 太郎
【テーマコード(参考)】
3H019
【Fターム(参考)】
3H019CB01
3H019DA01
3H019DA03
(57)【要約】
【課題】安定して固定部材が筐体の溝部に十分に挿入された状態で保持することが可能な固定具を提供する。
【解決手段】流体管2を外嵌する筐体4の径方向に延びる長孔7c,7cを有する固定部材7と、筐体4内に設置される制流弁5から延設され長孔7cに挿通されるボルト9,9、を備え、上方から筐体4内に挿入された制流弁5を、筐体4の内周部に設けられた溝部41cに固定部材7を挿入することで固定する固定具1であって、ボルト9に案内されて上下に移動可能な丸座金10をさらに備え、固定部材7の上面には、長孔7cの内径側に丸座金10が落下する凹部7dが形成されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管を外嵌する筐体の径方向に延びる長孔を有する固定部材と、前記筐体内に設置される設置体から延設され前記長孔に挿通される杆体と、を備え、上方から前記筐体内に挿入された前記設置体を、前記筐体の内周部に設けられた溝部に前記固定部材を挿入することで固定する固定具であって、
前記杆体に案内されて上下に移動可能な係止体をさらに備え、
前記固定部材の上面には、前記長孔の内径側に前記係止体が落下する凹部が形成されていることを特徴とする固定具。
【請求項2】
前記凹部は、前記固定部材の固定位置で前記係止体が落下するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
前記杆体は前記設置体に対してねじ込み可能なボルトであることを特徴とする請求項1または2に記載の固定具。
【請求項4】
前記係止体の高さ寸法と前記凹部の深さ寸法とは、略同一に形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の固定具。
【請求項5】
前記係止体は、丸座金であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の固定具。
【請求項6】
前記凹部は、前記長孔の内径側に面し、前記丸座金の外周面に沿う内周面を有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管に密封状に外嵌されて取付けられた筐体内に不断流状態において設置体を取付けるための固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、例えば遮断弁や切換弁装置といった設置体は、上水道やガス配管等の既設流体管を筐体で密封状に囲み該筐体の中で流体管を切断した後、または既設の設置体を撤去した後に、流体管に挿入された新設の設置体が筐体に取り付けられる一連の作業を、不断流状態で行うことが可能な施工方法が知られている。このように不断流状態で設置体を筐体に取付けるにあたって、筐体と設置体との隙間が狭い場合であっても、設置体を筐体に取付けることを可能とした固定具が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の固定具は、筐体の径方向に延びる長孔を有する固定部材と、設置体から延設されたボルト(杆体)と、から主に構成されており、固定部材の長孔には、杆体が挿通されている。これにより、上方から筐体内に設置体を挿入し、固定部材を外径方向に移動させ、内径方向に開放されている筐体の溝部内に挿入することで、設置体を筐体に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6556502号(第6~8頁、第11図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような特許文献1の固定具にあっては、設置体を筐体内に挿入することで、設置体と筐体との間の隙間が狭く、筐体の開口から固定部材までの距離が長い場合であっても、治具を用いて固定部材を操作することで固定部材を移動させることができる。また、固定部材を移動させたのち、ボルトを締めこむことで、固定部材を固定することができる。しかしながら、作業者が離れた位置から固定部材やボルトを操作することや、固定具の視認性が悪いことから、固定部材の溝部への挿入不足、ボルトの締め付け不足による固定部材の抜け出しが生じやすく、係止力が十分に得られずに設置体が傾動することや、筐体から抜け出す虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、固定部材が筐体の溝部に十分に挿入された状態で保持することで、設置体を安定して固定することが可能な固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の固定具は、
流体管を外嵌する筐体の径方向に延びる長孔を有する固定部材と、前記筐体内に設置される設置体から延設され前記長孔に挿通される杆体と、を備え、上方から前記筐体内に挿入された前記設置体を、前記筐体の内周部に設けられた溝部に前記固定部材を挿入することで固定する固定具であって、
前記杆体に案内されて上下に移動可能な係止体をさらに備え、
前記固定部材の上面には、前記長孔の内径側に前記係止体が落下する凹部が形成されている。
この特徴によれば、固定部材を筐体の溝部に挿入することで、固定部材の凹部に係止体が落下するため、固定部材が抜け出し方向に移動しようとしても、係止体及び杆体によって規制されることから、後退方向への移動を規制することができる。加えて、位置決めができる。これらにより、視認性の悪い環境下での作業や、筐体と設置体との隙間が狭い場合の作業であっても、固定部材が筐体の溝部に十分に挿入された状態を保持することができる。
【0008】
前記凹部は、前記固定部材の固定位置で前記係止体が落下するように形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、凹部内に係止体を落下させるために必要な、固定部材を筐体の溝部に向かって移動させる移動代を短くすることができる。
【0009】
前記杆体は前記設置体に対してねじ込み可能なボルトであることを特徴としている。
この特徴によれば、ボルトを締めこむことで係止体が軸方向に移動することを規制することができるため、係止片が凹部から抜け出し方向に移動することを防ぐことができる。
【0010】
前記係止体の高さ寸法と前記凹部の深さ寸法とは、略同一に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ボルトの頭部が係止体に接触するまで締め付けることができるため、確実に係止片の移動を規制することができる。また、杆体及び係止体それぞれの軸方向寸法が短くなるため、負荷が杆体または係止体に作用した際の応力を小さくすることができる。
【0011】
前記係止体は、丸座金であることを特徴としている。
この特徴によれば、固定部材を筐体の溝部に挿入するにあたって係止体が周方向に回動しても、凹部に落下させることができる。
【0012】
前記凹部は、前記長孔の内径側に面し、前記丸座金の外周面に沿う内周面を有していることを特徴としている。
この特徴によれば、丸座金に凹部の内周面が接触したときに作用する力を分散しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例に係る既設流体管に取付けられた筐体に流体管切断装置を設置した状態を示す一部正面断面図である。
【
図3】挿入装置によって弁を筐体内に設置した状態を示す一部正面断面図である。
【
図6】筐体上部に形成された溝部を示す斜視図である。
【
図7】押し込みフランジを既設管に向けて押し込んだ状態を示す正面断面図である。
【
図8】(a)は固定部材を溝部に向けて移動させる前の状態を示す平面図であり、(b)は固定部材を溝部に向けて移動させた後の状態を示す平面図である。
【
図9】(a)~(d)は固定部材の挿入について説明するための一部側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る固定具を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0015】
実施例に係る固定具につき、
図1から
図9を参照して説明する。以下、
図3の紙面上側を筐体に固定具を用いて固定される設置体の上側とし、同紙面下側を同設置体の下側として説明する。
【0016】
図1~
図4に示されるように、本実施例に係る固定具1は、流体管としての既設流体管2に挿入された設置体としての制流弁5(
図3,
図4参照)を、既設流体管2の外周面に密封状に取付けられた筐体4に固定するためのものである。
【0017】
ここで、既設流体管2は、例えば、地中に埋設される上水道用のダクタイル鋳鉄製であり、断面視略円形状に形成され、内周面がエポキシ樹脂層で被覆されている。尚、本発明に係る流体管は、その他鋳鉄、鋼等の金属製等、あるいはコンクリート製、塩化ビニール、ポリエチレン若しくはポリオレフィン製等であってもよい。また、筐体4、制流弁5の材質も上記に適合するものとしてもよい。更に、流体管の内周面はエポキシ樹脂層に限らず、例えばモルタル等により被覆されてもよく、若しくは適宜の材料を粉体塗装により流体管の内周面に被覆してもよい。
【0018】
また、本実施例では流体管内の流体は上水であるが、本実施例の上水に限らず、例えば工業用水や農業用水、下水等の他、ガスやガスと液体との気液混合体であっても構わない。
【0019】
図1に示されるように、筐体4は、いわゆる割T字管であって、既設流体管2の径方向(本実施例では上下方向)に筐体上部41と筐体下部42に分割された構造となっている。
【0020】
筐体上部41には首部41a、該首部41aに連なるフランジ部41b、該フランジ部41bに連なり筐体内部に連通する筐体開口部41dが形成されている。
【0021】
一方、筐体下部42は鉢状の筐体底部42dを有し、筐体底部42dの中央には排出孔42bが形成されている。該排出孔42bは、バルブ49が接続可能となっており、後述するように、既設流体管2の切断時に発生する切粉を、バルブ49を操作して排出孔42bより流体とともに排出可能となっている。
【0022】
尚、本実施例では筐体上部41、筐体下部42と称して説明するが、筐体の分割方向は上下に限らず、例えば水平方向や所定角度の傾斜方向であってもよい。また、分割数は3以上であってもよい。同じく既設流体管2の配管方向も水平に限らず、例えば垂直方向であってもよい。さらに、後述するカッタ72の切断方向も上下に限らず、例えば水平方向であってもよい。
【0023】
図1,
図2に示されるように、既設流体管2に筐体4を密封して取付けた状態で、筐体上部41におけるフランジ部41bの上部には、固定フランジ本体50が密封状に取付けられている。固定フランジ本体50の径方向には、筐体4に挿入した制流弁5を一時的に固定するための押えネジ51が、周方向に所定の間隔を隔てて密封状に複数取付けられている。
【0024】
図1に示されるように、固定フランジ本体50の上部には、作業弁60の作業弁筐体61が密封状に取付けられている。作業弁筐体61には、水平方向にスライド移動することで筐体4と流体管切断装置70との間を開閉自在とする作業弁体62が密封状に取付けられている。
【0025】
また、作業弁60の上部には、流体管切断装置70の穿孔装置筐体71が密封状に取付けられている。穿孔装置筐体71には、先端にカッタ72を有するカッタ軸73が上下に移動可能かつ回転可能に、密封状に取付けられている。カッタ72及びカッタ軸73は流体管切断装置70の外部から図示しない駆動装置により回転駆動できるようになっている。
【0026】
図1に示されるように、既設流体管2は、作業弁60を開放した状態でカッタ72により不断流状態で切断される。既設流体管2が切断される際に発生する切粉は、バルブ49が開放されることにより、流体とともに排出される。
【0027】
既設流体管2が切断された後、カッタ72が上昇され、作業弁60が閉塞され、筐体4と流体管切断装置70との間が密封される。その後、流体管切断装置70内の流体が排出され、作業弁60から流体管切断装置70が取り外される。
【0028】
次に、
図3に示されるように、作業弁60の上部に、挿入装置80における挿入装置筐体81が密封状に取付けられる。挿入装置筐体81内には、挿入軸82が上下に移動可能に、密封状に取付けられている。挿入軸82の下端には、制流弁5を保持するための保持部83がボルト84によって取付けられている。また、挿入軸82の雌ネジ部には、スピンドル85の雄ネジが螺入されている。
【0029】
挿入軸82は、スピンドル85の上端部に固定されているハンドル86が回動操作されることで、スピンドル85に対して相対的に下方向、すなわち既設流体管2側へと降下される。これにより、保持部83に保持されている制流弁5は筐体4内に挿入される。
【0030】
ここで、制流弁5について説明する。
図3、
図7に示されるように、制流弁5は、弁蓋5a、弁座体5b、該弁座体5b内で可動する弁体5v及び該弁体5vの上部に接続される弁操作軸5j、弁操作軸5jを密封するパッキンを収納する弁箱5hを備えている。弁座体5bと筐体4との間は密封部材5eによって密封されている。そして、弁操作軸5jが回動操作されることにより弁体5vが移動され、弁座体5bに設けられた孔部5fが開閉される。このように、制流弁5は既設流体管2の流れを制御することができる。
【0031】
また、
図4に示されるように、制流弁5の弁蓋5aの上面には、周方向に略等配に4つの弁蓋溝部5kが形成されている。弁蓋溝部5kは弁蓋溝側壁部5m,5m、弁蓋溝内壁部5nを有し、弁蓋5aの径方向外側が開放されている。
【0032】
各弁蓋溝部5kには、制流弁5を筐体4に本固定するために用いられる固定具1が設けられている。固定具1は、後述する筐体4の溝部41cと制流弁5の弁蓋5aに架設される固定部材7と、固定部材7を弁蓋溝部5k内に沿って移動可能に取り付ける杆体としての2つのボルト9,9と、ボルト9の胴部9bに挿通されてボルト9の頭部9aと固定部材7との間に配置される係止体としての2つの丸座金10,10と、から構成されている(
図8参照)。
【0033】
固定部材7は、弁蓋5aにおける弁箱5hの周囲に略等配に、既設流体管2の管軸方向上流側に、既設流体管2を挟むように2つの固定部材7,7が配置されており、既設流体管2の管軸方向下流側に、既設流体管2を挟むように2つの固定部材7,7が配置されている。
【0034】
尚、4つ未満の固定部材が使用されていてもよいし、5つ以上の固定部材が使用されていてもよく、その数は適宜変更されてもよい。また、例えば2つの固定部材が使用されている場合には、既設流体管2の管軸方向に沿って配置されていてもよく、その配置箇所についても適宜変更されてもよい。
【0035】
図5に示されるように、固定部材7は、弁蓋5aに作用する大きな流体圧力を長期間にわたり保持するために、上下方向に厚みを有し平面視で幅広、かつ略矩形に形成されており、管内流体により受ける圧力を分散することができる。
【0036】
また、
図5に示されるように、固定部材7には、筐体4の径方向に長尺に延びるとともに上下方向に貫通した2つの長孔7cと、長孔7cにおける内径側端部に連続して固定部材7の上面7hに凹設された凹部7dと、2つの凹部7d,7dの間に配置されている2つの孔部7eと、が設けられている。また、固定部材7の外周面は略弧状をなす弧状壁面7bとなっている。なお、径方向に延びる長孔7cとは、筐体4の径方向の成分を含んでいればよく、すなわち固定部材7が筐体4に対して径方向の成分を含む移動方向に沿って延びていればよい。
【0037】
図8,
図9に示されるように、固定部材7は、長孔7cに挿通されているボルト9の雄ネジ部9cが、制流弁5の弁蓋溝部5kに形成されている雌ネジ部5qに螺合されることで、径方向に移動可能に、弁蓋5aに取り付けられている。また、固定部材7は、孔部7e,7eに挿入された図示しない挿入治具を操作することで径方向に移動させることができるようになっている。更に固定部材7は、ボルト9の雄ネジ部9cを弁蓋溝部5kの雌ネジ部5qに緊締することで、弁蓋溝部5k内の任意の位置で固定できるようになっている。
【0038】
また、
図5に示されるように、凹部7dは、固定部材7の上面7hに略直交して下方に延びる壁面7gと、壁面7gの下端縁に略直交して内径方向に延びる底面7fを有し、上方側及び内径側に開放されている。壁面7gは、固定部材7の内径端縁から長孔7cの長手方向中心に向かって湾曲する略円弧状をなしており、ボルト9に挿通される円環状の丸座金10の外周面10aと面当接可能な曲面に形成されている。また、凹部7dの上下方向の深さ寸法L1は、丸座金10の上下方向の厚さ寸法L2と略同一に形成されている。
【0039】
図6に示されるように、筐体上部41における筐体開口部41dの端部には、固定部材7が挿入固定される溝部41cが、制流弁5の弁蓋溝部5kに位置合わせされて形成されている。溝部41cは、径方向内側が開放され、開放された面が弁蓋溝部5kと対向している。溝部41cの幅寸法、高さ寸法は、固定部材7を収納可能なように固定部材7の幅寸法、高さ寸法と略同一あるいは若干大きく形成されている。
【0040】
また、
図8(a)に示されるように、固定部材7は、弁蓋溝部5kの弁蓋溝内壁部5nに接近した状態で、ボルト9を制流弁5に対し締結しており、固定部材7の外周面をなす弧状壁面7bは、弁蓋5aから外径側に飛び出さないので、固定部材7が筐体4と干渉することなく制流弁5を筐体4内に容易に挿入できるようになっている。なお、
図8(a)に示される状態では、ボルト9に挿通された丸座金10は、固定部材7の上面7hに載置されている。また、固定部材7はボルト9を制流弁5に対し緩めた状態では、弁蓋溝側壁部5mに沿って径方向に自由に移動できるようになっている。尚、固定部材7と弁蓋溝部5kとは面当りするように寸法調整されている。また、固定部材7と溝部41cも面当りするように寸法調整されている。
【0041】
次に、制流弁5を筐体4内に設置する工程について順に説明する。先ず
図3に示されるように、制流弁5が筐体4内に挿入された後、固定フランジ本体50に設けられた押えネジ51が螺入され、制流弁5の弁蓋5aの外周部に形成された弁蓋傾斜面5c(
図7参照)が押えネジ51によって係止されることで、制流弁5は筐体4に仮固定される。
【0042】
そして、挿入装置80内の流体が排出され、挿入装置筐体81が作業弁60から取外された後、保持部83が制流弁5から撤去される。
【0043】
図7に示されるように、挿入装置80が作業弁60から撤去された後、制流弁5の上端部を囲む環状の押し込みフランジ20が複数の固定ボルト20bにより作業弁筐体61に取付けられる。その際、押し込みフランジ20の内径側端部にて既設流体管2側に突出している環状突部20aが、制流弁5上部の側方に張り出す張出部5pを既設流体管2に向かって押し込む。これにより、制流弁5は流体圧に抗して仮固定位置よりも既設流体管2側へとさらに押し込まれる。そのため、仮固定直後では、溝部41cの天井面と固定部材7の上面7hが略同一直線状に配置されているが、押し込みフランジ20を取付けることで、溝部41cの天井面と固定部材7の上面7hとの間に隙間Sが形成される(
図9(a)参照)。
【0044】
次に、
図8(a)に示されるように、固定部材7の孔部7e,7eに挿入した図示しない挿入治具を操作して外径方向に移動させ、筐体上部41に形成された溝部41cに固定部材7を挿入する(
図8(b),
図9参照)。この際に、ボルト9を僅かに緩めることで固定部材7の移動を容易にすることができる。尚、挿入治具は、孔部7eに挿入されることに限らず、例えば固定部材7の内周面に当接されて固定部材7を外径方向に押し込むように操作されてもよく、その使用方法は適宜変更されてもよい。
【0045】
ところで、作業弁筐体61の内部は、弁箱5h等が配置されていることに加え、押し込みフランジ20が配置されているため、押し込みフランジ20に設けられている図示しない作業用孔を通じて挿入治具の操作及び視認を行う必要があるが、作業に必要なスペースが狭くなっているばかりでなく、暗所であることから視認性が悪い場合が多い。
【0046】
しかしながら、本実施例の固定具1であれば、
図8(b)、
図9(b)に示されるように、固定部材7の外径側が溝部41c内の固定位置まで挿入されると、固定部材7の上面7hに載置されていた丸座金10が、ボルト9の胴部9bに案内されながら凹部7d内に落下する。これにより、固定部材7を再び内径側に移動させようとしても、固定部材7の凹部7dの外径側の壁面7gが丸座金10の外周面10aに当接することで、固定部材7の溝部41cからの抜け方向への移動を防ぐことができる。すなわち、固定部材7の位置決めがなされる。このとき、丸座金10が固定部材7の上面7hから凹部7dに落下することで生じる音や、ボルト9の頭部9aから丸座金10が離間していることを視認することや、固定部材7が溝部41cに移動した際に固定部材7と弁蓋溝内壁部5nとの間に生じる隙間を視認することで、固定部材7が溝部41c内の固定位置まで挿入されたことを確認できる。
【0047】
また、丸座金10が凹部7d内に落下する位置が固定部材7の固定位置であるため、固定部材7を溝部41cに向かって過度に移動させることなく、移動代を必要最小限にすることができる。
【0048】
また、溝部41cの天井面と固定部材7の上面7hとの間に形成された隙間Sによって、固定部材7が溝部41cの天井面と摺接することがなく、損傷を回避することができる。さらに、固定部材7は、弁蓋溝側壁部5mに沿って誘導される。これらにより、固定部材7を溝部41c内に容易に挿入することができる。尚、固定部材7の長孔7cの内周面がボルト9の胴部9bに案内されるため、弁蓋溝部5kを省略してもよい。
【0049】
尚、固定部材7が溝部41cに十分に挿入されたことを確認するために、凹部7dと固定部材7との間に確認ゲージを挿入して、固定部材7が十分に挿入されていることを確認してもよい。
【0050】
続いて、
図9(c)に示されるように、丸座金10がボルト9の頭部下面から凹部7d内に落下したことにより、ボルト9の頭部9a下面と丸座金10上面との間に隙間Pが形成されているので、ボルト9を弁蓋5aに対して締め込み、緊結する。その間、固定部材7が固定位置で固定されているので、作業時の安全性が向上するようになっている。
【0051】
また、丸座金10の上下方向の厚さ寸法L2と、凹部7dの上下方向の深さ寸法L1とは、略同寸となっていることから、ボルト9の頭部9aが丸座金10に接触するまで締め付けることができる。そのため、固定部材7に外力が作用した際に、丸座金10がボルト9の胴部9bの軸方向に移動して上面7に乗り上げること防止して、丸座金10の凹部7dからの抜け出しを確実に規制することができる。また、ボルト9及び丸座金10それぞれの軸方向寸法が短くなるため、負荷がボルト9または丸座金10に作用した際の応力を小さくすることができる。
【0052】
次に、押えネジ51を緩めることで仮固定状態が解除される(
図7参照)。ここで、押えネジ51を外す際に、予め押し込みフランジ20により流体圧に抗して押圧しているため、押えネジ51にかかる流体圧が低減した状態、若しくは流体圧がかかっていない状態となっている。特に環状突部20aと張出部5pが面当接して押圧しているため、弁が偏ることなく均等に押圧される。このため押えネジ51を操作する際に、流体圧によりネジの進退動作に大きな負荷が生じるという不具合を防ぐことができ、容易に撤去作業をすることができる。
【0053】
その後、押し込みフランジ20、固定フランジ本体50及び作業弁60を取外す。このように、固定フランジ本体50を取外すことができるので、固定フランジ本体50及び固定フランジ本体50に設けられた複数の押えネジ51が筐体4に残置され経年劣化することなく設置体の構造をシンプルにできるばかりか、取外した固定フランジ本体50及び複数の押えネジ51を他の筐体に取付け再利用することができる。これにより押し込みフランジ20による押圧状態が解除されるため、制流弁5にかかる下方からの流体圧を固定部材7と溝部41cが受けることとなり、
図9(d)に示されるように固定部材7の上面7hと溝部41cの上端面とが当接し、制流弁5が筐体4に本固定される。
【0054】
このとき、流体圧により衝撃が生じるものの、固定部材7は移動が規制されているため、抜け出さないようになっている。
【0055】
このように、固定部材7を弁蓋5aと溝部41cとに跨がるように取付けることで、固定部材7は弁蓋5aに加わる流体圧を保持できるようになる。また、弁蓋溝部5k内を移動した固定部材7の側壁が溝部41cの内側壁41e(
図6参照)に係合するため、制流弁5の周方向の移動も規制することができる。
【0056】
また、既設流体管2の管軸方向上流側および下流側それぞれに、既設流体管2を挟むように2つずつ固定部材7が配置されているため、管軸方向に沿って上流側および下流側それぞれに一つずつ固定部材が配置される構成と比較して、流体圧、地震の衝撃等の外力を分散させやすいため、固定状態を保ちやすくなっている。
【0057】
最後に、図示しない上蓋をフランジ部41bにボルト・ナットにより取付け、制流弁5の取付け工程を完了する。
【0058】
このように、既設流体管2を外嵌する筐体4の径方向に延びる長孔7c,7cを有する固定部材7と、筐体4内に設置される制流弁5から延設され長孔7cに挿通されるボルト9,9、を備え、上方から筐体4内に挿入された制流弁5を、筐体4の内周部に設けられた溝部41cに固定部材7を挿入することで固定する固定具1であって、ボルト9に案内されて上下に移動可能な丸座金10をさらに備え、固定部材7の上面7hには、長孔7cの内径側に丸座金10が落下する凹部7dが形成されていることから、固定部材7を筐体4の溝部41cに挿入することで、固定部材7の凹部7dに丸座金10が落下するため、固定部材7が抜け出し方向に移動しようとしても、丸座金10及びボルト9によって規制されることから、後退方向への移動を規制することができる。加えて、位置決めができる。これらにより、視認性の悪い隙間内の作業であっても、固定部材7が筐体4の溝部41cに十分に挿入された状態を保持することができる。
【0059】
また、凹部7dは、固定部材7の固定位置で丸座金10が落下するように形成されていることから、凹部7d内に丸座金10を落下させるために必要な、固定部材7を筐体4の溝部41cに向かって移動させる移動代を短くすることができる。
【0060】
また、ボルト9は制流弁5に対してねじ込み可能なボルトであることから、ボルト9を締めこむことで丸座金10が軸方向に移動することを規制することができるため、丸座金10が凹部7dから抜け出し方向に移動することを防ぐことができる。
【0061】
また、丸座金10の厚さ寸法L2と凹部7dの深さ寸法L1とは略同一であることから、ボルト9の頭部が丸座金10に接触するまで締め付けることができるため、確実に丸座金10の移動を規制することができる。また、ボルト9及び丸座金10それぞれの軸方向寸法が短くなるため、負荷がボルト9または丸座金10に作用した際の応力を小さくすることができる。
【0062】
また、丸座金10は、平面視で略円形の丸座金であることから、固定部材7を筐体4の溝部41cに挿入するにあたって丸座金10がボルト9の胴部9bに沿って周方向に回動しても、凹部7dに確実に落下させることができる。
【0063】
また、丸座金10は、丸座金であり、凹部7dは、長孔7cの内径側に面し、丸座金の外周面に沿う内周面を有していることから、丸座金に凹部7dの内周面が接触したときに作用する力を分散しやすい。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0065】
例えば、上記実施例において、既設の流体管を切断する切断工程も含めて説明を行ったが、本発明の固定具はこれに限られず、既設の流体管に予め設けられた筐体に対して、弁装置等の設置体を取付けるものであってもよい。
【0066】
また、上記実施例において、杆体はボルト9である形態を説明したが、これに限られず、例えば、弁蓋に固定されているピンであってもよい。
【0067】
また、上記実施例において、係止片は丸座金10である形態を説明したが、これに限られず、丸座金以外の各種座金であってもよく、矩形状であってもよく、適宜変更されてもよい。
【0068】
また、上記実施例において、固定具1は、固定部材7と、ボルト9と、丸座金10とにより構成されている形態を説明したが、これに限られず、固定部材7と、長孔に係止可能な頭部を有するピンによって構成されていてもよい。このような構成であっても、ピンを弁蓋に対して軸方向に移動可能に配置することにより、固定部材が固定位置に移動することでピンの胴部に案内されながら、ピンの頭部が凹部に落下するため、固定部材の位置決め及び抜け止めをなすことができる。
【0069】
また、上記実施例において、固定部材7を挿入する溝部41cは内側壁41eを有することで、筐体4と制流弁5との周方向の動きを規制できる形状としたが、これに限らず、円周溝として構成してもよい。内側壁41eを有さない円周溝とすることで、固定部材7の挿入がさらに容易となり、延いては作業時間の短縮を図ることができる。尚、本発明の筐体凹部は、断面コ字状の円周溝である必要はなく、固定部材7を筐体4から脱しないように保持できれば、断面逆L字状の溝であってもよい。
【0070】
また、上記実施例及び図面において、固定部材7は溝部41cに向けて略水平方向へ移動させている形態を説明したが、これに限られず、例えば、溝部41cの下面を下方に向かうテーパ面とし、固定部材7を外径方向下方に向けて移動させ、溝部41c内へ移動させ固定することとしてもよい。
【0071】
また、上記実施例においては、仮固定手段を構成する雌ネジ部56と押えネジ51を、介設部材である固定フランジ本体50に設け、押し込みフランジ20を固定フランジ本体50に取付けたが、仮固定手段を筐体に設け、押圧手段を筐体上部に取付けるようにしてもよい。この場合、押圧解除工程を省略でき施工を容易にできる。
【0072】
また、制流弁5は、防錆リングを設置する制流弁あるいはスルース弁、プラグ、バタフライ弁等の弁類または管接続部材であってもよい。さらに、切断は円筒状のカッタを使用したが、ワイヤーソーやバイト等を使用してもよい。
【0073】
また、作業用孔としては、挿入治具を挿入するための挿通部を有していればよく、一部開放された切欠きのような形状であってもよい。
【0074】
また、押し込みフランジは環状のものに限られず、作業弁60に取付けられ、設置体を押圧できるものであれば周方向に分割されたものであってもよい。