(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000338
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】擁壁構造物及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20221222BHJP
E02B 3/12 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
E02D29/02 308
E02B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101093
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】592196112
【氏名又は名称】株式会社共生
(74)【代理人】
【識別番号】100110179
【弁理士】
【氏名又は名称】光田 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正己
【テーマコード(参考)】
2D048
2D118
【Fターム(参考)】
2D048AA72
2D118BA01
2D118BA04
2D118CA07
2D118DA01
2D118FA06
2D118FB30
(57)【要約】
【課題】構成が簡単で施工の手間も少ない、構造強度の大きい擁壁構造物を実現する。
【解決手段】擁壁構造物5は、複数段の盛土構造体16が積み重ねられて形成され、盛土構造体16は、エキスパンドメタルから形成された前面壁面材6及び背面壁面材11を備え、前面壁面材6と背面壁面材11の間に中詰土15が充填されて突き固められており、前面壁面材6の底面部8と背面壁面材11の底面部12は、コイル20とコイル20内に挿入される連結棒21によって接続されており、下位段の盛土構造体16の背面壁面材11の背面部13と上位段の盛土構造体16の背面壁面材11の背面部13は、コイル20とコイル20内に挿入される連結棒21によって接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の盛土構造体が積み重ねられて成る擁壁構造物であって、
各段の盛土構造体は、エキスパンドメタルから形成された前面壁面材及び背面壁面材を備え、前面壁面材と背面壁面材の間に中詰土が充填されて突き固められており、
前面壁面材は、底面部と、底面部の前端から上方かつ背面側に傾斜して折り曲げられた前面部を有し、側面視で略∠型に形成されており、前面部に腹起こし材が横幅方向に延びるように水平に取り付けられ、前面部と底面部との間に、横幅方向に間隔をおいて複数の斜めタイ材が、掛け渡されて取り付けられており、斜めタイ材の上端は腹起こし材に掛けられており、
背面壁面材は、底面部と、底面部の後端から上方に向けて折り曲げられた背面部を有し、背面部の上端部には、横幅方向に延びるコイルが取り付けられており、
前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部は、接続されており、
下位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部と上位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部は、下位段の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の盛土構造体の背面部が被せられた状態で、連結棒が挿通されて接続されており、
下位段の盛土構造体の中詰土は、当該盛土構造体の前面壁面材及び背面壁面材と、上位段の盛土構造体の前面壁面材及び背面壁面材と、によって拘束された構成であることを特徴とする擁壁構造物。
【請求項2】
前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部の接続は、直接互いにコイル及び該コイル内に挿通される連結棒によって接続されている構成であり、前面壁面材の底面部に対する背面部の傾斜角度と、背面壁面材の底面部に対する背面部の傾斜角度は、互いに略同じである構成を特徴とする請求項1に記載の擁壁構造物。
【請求項3】
背面壁面材と地山の切土面の間に裏込め土が充填されて突き固められている構成であることを特徴とする請求項2に記載の擁壁構造物。
【請求項4】
背面壁面材の底面部に対して背面部は、略90°の角度で上方に延びており、
背面壁面材の背面部に、腹起こし材が横幅方向に延びるように水平に取り付けられ、背面部と底面部との間に、横幅方向に間隔をおいて複数の斜めタイ材が、掛け渡されて取り付けられており、
前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部の接続は、エキスパンドメタルから形成された水平補強材を介して接続されている構成であって、前面壁面材の底面部及び背面壁面材の底面部は、それぞれ水平補強材とコイル及び該コイル内に挿通される連結棒によって接続されている構成であることを特徴とする請求項1に記載の擁壁構造物。
【請求項5】
下側グループの複数段の盛土構造体と、下側グループの複数段の盛土構造体の上に形成された上側グループの複数段の盛土構造体を備えた擁壁構造物であって、
下側グループの複数段の盛土構造体の各段の盛土構造体は、エキスパンドメタルから形成された前面壁面材及び背面壁面材を備え、前面壁面材と背面壁面材の間に中詰土が充填されて突き固められており、
前面壁面材は、底面部と、底面部の前端から上方かつ背面側に傾斜して折り曲げられた前面部を有し、側面視で略∠型に形成されており、前面部に腹起こし材が横幅方向に延びるように取り付けられ、前面部と底面部との間に、横幅方向に間隔をおいて複数の斜めタイ材が、掛け渡されて取り付けられており、斜めタイ材の上端は腹起こし材に掛けられており、
背面壁面材は、底面部と、底面部の後端から上方に向けて折り曲げられた背面部を有し、背面部の上端部には、横幅方向に延びるコイルが取り付けられており、
前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部は、コイル及び該コイル内に挿通される連結棒によって接続されており、
積み重ねられる下位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部と上位段の盛土構造体の背面部は、下位段の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の盛土構造体の背面部が被せられた状態で、コイル内に連結棒が挿通されて接続された構成であり、
下位段の盛土構造体の中詰土は、当該盛土構造体の前面壁面材及び背面壁面材と、上位段の盛土構造体の前面壁面材の底面部及び背面壁面材の底面部と、によって拘束された構成であり、
上側グループの複数段の盛土構造体の各段の盛土構造体は、前面部及び底面部を備えた前面壁面材とエキスパンドメタルから形成された水平補強材を備え、前面壁面材の底面部とエキスパンドメタル水平補強材は、互いにコイルと該コイル内挿通される連結棒で接続されており、
上側グループの複数段の盛土構造体と地山の間のスペースには、中詰土が充填されて突き固められている構成であることを特徴とする擁壁構造物。
【請求項6】
エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の前端から上方に延びる前面部から成る前面壁面材と、エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の後端から上方に延びる背面部から成る背面壁面材を備えた盛土構造体を、複数段積み重ねて擁壁構造物を構築する擁壁構造物の施工方法であって、
一段目の盛土構造体については、前面壁面材の底面部に、下からコイルをあてがい、その上に背面壁面材の底面部を被せて、コイル内に連結棒を通して前面壁面材と背面壁面材を接続し、背面壁面材の背面部の上部にコイルをねじ込み、前面壁面材の前面部に、吸い出し防止材と横幅方向に水平に延びる腹起こし材を取り付け、前面壁面材の前面部と底面部の間に斜めタイ材を掛け渡して取り付け、背面壁面材と地山の切土面との間に、裏込め土を充填して突き固め、前面壁面材と背面壁面材の間のスペースに中詰土を充填して突き固めて施工し、
二段目以上の盛土構造体については、それぞれ一段目の盛土構造体と同じ工程で施工し、順次上位段の盛土構造体を積み重ねて擁壁構造物を構築する方法において、
下位段の盛土構造体に上位段の盛土構造体を施工する際に、下位段の背面壁面材の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の背面壁面材の背面部を被せて連結棒をコイル内に挿通して、上位段の背面壁面材を下位段の背面壁面材に連結することを特徴とする擁壁構造物の施工方法。
【請求項7】
エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の前端から上方に延びる前面部から成る前面壁面材と、エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の後端から上方に延びる背面部から成る背面壁面材を備えた盛土構造体を、複数積み重ねて下側グループの複数段の盛土構造体を施工し、その上にエキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の前端から上方に延びる前面部から成る前面壁面材と、エキスパンドメタルから形成された水平補強材を備えた盛土構造体を複数段積み重ねて上側グループの複数段の盛土構造体を施工して構築する擁壁構造物の施工方法であって、
下側グループの複数段の盛土構造体における一段目の盛土構造体については、前面壁面材の底面部に、下からコイルをあてがい、その上に背面壁面材の底面部を被せて、コイル内に連結棒を通して接続し、背面壁面材の背面部の上部にコイルをねじ込み、前面壁面材の前面部に吸い出し防止材と横幅方向に水平に延びる腹起こし材を取り付け、前面壁面材の前面部と底面部の間に斜めタイ材を掛け渡して取り付け、背面壁面材と地山の切土面との間に、裏込め土を充填して突き固め、前面壁面材と背面壁面材の間のスペースに中詰土を充填して突き固めて施工し、
二段目以上の盛土構造体については、一段目の盛土構造体と同じ工程で施工し順次上位段の盛土構造体を積み重ね、その際に、下位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部を被せて連結棒をコイル内に挿通し、上位段の背面壁面材を下位段の背面壁面材に連結して施工し、
上側グループの複数段の盛土構造体の一段目の盛土構造体については、下側グループの複数段の盛土構造体の最上位段の盛土構造体の上面に、前面壁面材と水平補強材を配置し、コイルと該コイル内挿通される連結棒で接続し、前面壁面材の前面部に、吸い出し防止材と横幅方向に水平に延びる腹起こし材を取り付け、前面壁面材の前面部と底面部の間に斜めタイ材を掛け渡して取り付け、前面壁面材と地山の間のスペースに中詰土を充填し突き固めて施工し、
上側グループの複数段の盛土構造体の二段目以上の盛土構造体を、上側グループの複数段の盛土構造体の一段目の盛土構造体と同じ方法で施工して、順次上位段の盛土構造体を積み重ねることを特徴とする擁壁構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山間地等における山腹土留め、落石・崩壊土砂の防護壁、道路の新設や拡幅、又は河川護岸等、多くの場所に適用される擁壁構造物及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、擁壁構造物は、盛土構造体を複数段、順次下方から施工された構造物、施工方法が知られている。このような擁壁構造物は、L字型の壁面材を補強土擁壁の壁面側に向けて設置するとともに、壁面材に連結して敷網材を敷設し、壁面材の背面側であって敷網材の上に盛土を埋め込むことが行われている(特許文献1、2参照)。
【0003】
落石防護柵を構成する部材同士(例えば、前部壁面材と後部壁面材、前部壁面材と底面材)をコイルと連結棒で連結する構成は知られている(特許文献3参照)。
【0004】
また、側面部と底部とから成る断面略L字形の基部壁面材と平板状の上部壁面材を、一部をオーバーラップさせて、環状のリング部とフック部を備えた接続具を使用し、各壁面材の背面側には順次盛土し、上下の盛土間には盛土補強材を敷設してなる盛土構造が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-250913号公報
【特許文献2】特開2010-112133号公報
【特許文献3】特許第6471042号公報
【特許文献4】特許第4986967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されているように、敷網材に樹脂製のジオグリッドを使っており、現場でのカットや緊張が必要であり、背面部敷設の形状保持と連結が難しく施工が面倒、コストが高くなる、という問題があった。特許文献3は、あくまでも、落石防護柵を形成する構成にすぎず、複数段の盛土構造体が積み重ね形成する擁壁構造物の構成としては、必ずしも適していない。
【0007】
また、特許文献4に記載されているように、略L字形の基部壁面材と平板状の上部壁面材を、一部をオーバーラップさせて、環状のリング部とフック部を備えた接続具で接続する構造であると、環状のリング部とフック部を備えた特殊な構成の接続具が必要となる。
【0008】
しかも、平板状の上部壁面材では、その一部が盛土内に埋設されておらず、盛土の土圧に耐えるために、控ベルトで補強材と接続する構成が必要となる等、構造が複雑となり、そのための施工の手間が増えるということが考えられる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決することを目的とし、工場で、別途、生産し搬入するような特別な壁面材を用意することなく、しかも、構成が簡単で施工の手間も少ない、構造強度の大きく、山間地の防護壁、河川護岸等、適用範囲も広い擁壁構造物を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、複数段の盛土構造体が積み重ねられて成る擁壁構造物であって、各段の盛土構造体は、エキスパンドメタルから形成された前面壁面材及び背面壁面材を備え、前面壁面材と背面壁面材の間に中詰土が充填されて突き固められており、前面壁面材は、底面部と、底面部の前端から上方かつ背面側に傾斜して折り曲げられた前面部を有し、側面視で略∠型に形成されており、前面部に腹起こし材が横幅方向に延びるように水平に取り付けられ、前面部と底面部との間に、横幅方向に間隔をおいて複数の斜めタイ材が、掛け渡されて取り付けられており、斜めタイ材の上端は腹起こし材に掛けられており、背面壁面材は、底面部と、底面部の後端から上方に向けて折り曲げられた背面部を有し、背面部の上端部には、横幅方向に延びるコイルが取り付けられており、前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部は、接続されており、下位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部と上位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部は、下位段の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の盛土構造体の背面部が被せられた状態で、連結棒が挿通されて接続されており、下位段の盛土構造体の中詰土は、当該盛土構造体の前面壁面材及び背面壁面材と、上位段の盛土構造体の前面壁面材及び背面壁面材と、によって拘束された構成であることを特徴とする擁壁構造物を提供する。
【0011】
前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部の接続は、直接互いにコイル及び該コイル内に挿通される連結棒によって接続されている構成であり、前面壁面材の底面部に対する背面部の傾斜角度と、背面壁面材の底面部に対する背面部の傾斜角度は、互いに略同じである構成とすることが好ましい。
【0012】
背面壁面材と地山の切土面の間に裏込め土が充填されて突き固められている構成とすることが好ましい。
【0013】
背面壁面材の底面部に対して背面部は、略90°の角度で上方に延びており、背面壁面材の背面部に、腹起こし材が横幅方向に延びるように水平に取り付けられ、背面部と底面部との間に、横幅方向に間隔をおいて複数の斜めタイ材が、掛け渡されて取り付けられており、前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部の接続は、エキスパンドメタルから形成された水平補強材を介して接続されている構成であって、前面壁面材の底面部及び背面壁面材の底面部は、それぞれ水平補強材とコイル及び該コイル内に挿通される連結棒によって接続されている構成とすることが好ましい。
【0014】
本発明は上記課題を解決するために、下側グループの複数段の盛土構造体と、下側グループの複数段の盛土構造体の上に形成された上側グループの複数段の盛土構造体を備えた擁壁構造物であって、下側グループの複数段の盛土構造体の各段の盛土構造体は、エキスパンドメタルから形成された前面壁面材及び背面壁面材を備え、前面壁面材と背面壁面材の間に中詰土が充填されて突き固められており、前面壁面材は、底面部と、底面部の前端から上方かつ背面側に傾斜して折り曲げられた前面部を有し、側面視で略∠型に形成されており、前面部に腹起こし材が横幅方向に延びるように取り付けられ、前面部と底面部との間に、横幅方向に間隔をおいて複数の斜めタイ材が、掛け渡されて取り付けられており、斜めタイ材の上端は腹起こし材に掛けられており、背面壁面材は、底面部と、底面部の後端から上方に向けて折り曲げられた背面部を有し、背面部の上端部には、横幅方向に延びるコイルが取り付けられており、前面壁面材の底面部と背面壁面材の底面部は、コイル及び該コイル内に挿通される連結棒によって接続されており、積み重ねられる下位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部と上位段の盛土構造体の背面部は、下位段の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の盛土構造体の背面部が被せられた状態で、コイル内に連結棒が挿通されて接続された構成であり、下位段の盛土構造体の中詰土は、当該盛土構造体の前面壁面材及び背面壁面材と、上位段の盛土構造体の前面壁面材の底面部及び背面壁面材の底面部と、によって拘束された構成であり、上側グループの複数段の盛土構造体の各段の盛土構造体は、前面部及び底面部を備えた前面壁面材とエキスパンドメタルから形成された水平補強材を備え、前面壁面材の底面部とエキスパンドメタル水平補強材は、互いにコイルと該コイル内挿通される連結棒で接続されており、上側グループの複数段の盛土構造体と地山の間のスペースには、中詰土が充填されて突き固められている構成であることを特徴とする擁壁構造物を提供する。
【0015】
本発明は上記課題を解決するために、エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の前端から上方に延びる前面部から成る前面壁面材と、エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の後端から上方に延びる背面部から成る背面壁面材を備えた盛土構造体を、複数段積み重ねて擁壁構造物を構築する擁壁構造物の施工方法であって、一段目の盛土構造体については、前面壁面材の底面部に、下からコイルをあてがい、その上に背面壁面材の底面部を被せて、コイル内に連結棒を通して前面壁面材と背面壁面材を接続し、背面壁面材の背面部の上部にコイルをねじ込み、前面壁面材の前面部に、吸い出し防止材と横幅方向に水平に延びる腹起こし材を取り付け、前面壁面材の前面部と底面部の間に斜めタイ材を掛け渡して取り付け、背面壁面材と地山の切土面との間に、裏込め土を充填して突き固め、前面壁面材と背面壁面材の間のスペースに中詰土を充填して突き固めて施工し、二段目以上の盛土構造体については、それぞれ一段目の盛土構造体と同じ工程で施工し、順次上位段の盛土構造体を積み重ねて擁壁構造物を構築する方法において、下位段の盛土構造体に上位段の盛土構造体を施工する際に、下位段の背面壁面材の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の背面壁面材の背面部を被せて連結棒をコイル内に挿通して、上位段の背面壁面材を下位段の背面壁面材に連結することを特徴とする擁壁構造物の施工方法を提供する。
【0016】
本発明は上記課題を解決するために、エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の前端から上方に延びる前面部から成る前面壁面材と、エキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の後端から上方に延びる背面部から成る背面壁面材を備えた盛土構造体を、複数積み重ねて下側グループの複数段の盛土構造体を施工し、その上にエキスパンドメタルから形成され底面部及び該底面部の前端から上方に延びる前面部から成る前面壁面材と、エキスパンドメタルから形成された水平補強材を備えた盛土構造体を複数段積み重ねて上側グループの複数段の盛土構造体を施工して構築する擁壁構造物の施工方法であって、下側グループの複数段の盛土構造体における一段目の盛土構造体については、前面壁面材の底面部に、下からコイルをあてがい、その上に背面壁面材の底面部を被せて、コイル内に連結棒を通して接続し、背面壁面材の背面部の上部にコイルをねじ込み、前面壁面材の前面部に吸い出し防止材と横幅方向に水平に延びる腹起こし材を取り付け、前面壁面材の前面部と底面部の間に斜めタイ材を掛け渡して取り付け、背面壁面材と地山の切土面との間に、裏込め土を充填して突き固め、前面壁面材と背面壁面材の間のスペースに中詰土を充填して突き固めて施工し、二段目以上の盛土構造体については、一段目の盛土構造体と同じ工程で施工し順次上位段の盛土構造体を積み重ね、その際に、下位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部に取り付けられたコイルに、上位段の盛土構造体の背面壁面材の背面部を被せて連結棒をコイル内に挿通し、上位段の背面壁面材を下位段の背面壁面材に連結して施工し、上側グループの複数段の盛土構造体の一段目の盛土構造体については、下側グループの複数段の盛土構造体の最上位段の盛土構造体の上面に、前面壁面材と水平補強材を配置し、コイルと該コイル内挿通される連結棒で接続し、前面壁面材の前面部に、吸い出し防止材と横幅方向に水平に延びる腹起こし材を取り付け、前面壁面材の前面部と底面部の間に斜めタイ材を掛け渡して取り付け、前面壁面材と地山の間のスペースに中詰土を充填し突き固めて施工し、上側グループの複数段の盛土構造体の二段目以上の盛土構造体を、上側グループの複数段の盛土構造体の一段目の盛土構造体と同じ方法で施工して、順次上位段の盛土構造体を積み重ねることを特徴とする擁壁構造物の施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る擁壁構造物及びその施工方法によれば、前面壁面材と背面壁面材はコイルと連結棒で接続され、上位段と下位段の盛土構造体の背面壁面材は互いにコイルと連結棒で接続されて一体化されており、このように互いに接続されて一体化された、下位段の前面壁面材及び背面壁面材と、上位段の前面壁面材及び背面壁面材と、から囲まれたスペース内に中詰土が充填されている構成を採用したので、中詰土は、その前面、背面、下面及び上面において、外部から拘束強化されるので、大きな耐荷力を有し、地震にも強い堅固な擁壁構造物を施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る擁壁構造物の実施例1の全体構成を示す側面図である。
【
図2】実施例1の擁壁構造物を構成する盛土構造体を形成する状態を示す斜視図である。
【
図3】実施例1の擁壁構造物を構成する盛土構造体の一部分である前面壁面材及び背面壁面材を示す側面図であり、(a)はそれぞれを示し、(b)は互いに接続した状態を示し、(c)は接続構造を示す図である。
【
図4】実施例1の擁壁構造物の要部及び施工を説明する図であり、(a)は斜めタイ材の取り付けを示し、(b)は裏込め土の充填を示し、(c)は下位段の盛土構造体の上に上位段の盛土構造体の形成を示す図である。
【
図5】実施例1の擁壁構造物を山間地に適用した状態を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る実施例2の擁壁構造物の全体構成を示す側面図である。
【
図7】実施例2の擁壁構造物において、下位段の盛土構造体の上に上位段の盛土構造体を形成する状態を示す斜視図である。
【
図8】実施例2の擁壁構造物の施工を説明する側面図であり、(a)は前面壁面材、背面壁面材及び水平補強材を示し、(b)は前面壁面材と背面壁面材を水平補強材を介して接続する構成を示し、(c)は下位段の盛土構造体の上に上位段の盛土構造体を形成する状態を示す図である。
【
図9】実施例2の擁壁構造物を山間地に適用した状態を示す斜視図である。
【
図10】本発明に係る擁壁構造物の実施例3の全体構成を説明する図であり、(a)は適用する地山の山腹及びその切土面を示し、(b)は実施例3の全体構成を示す側面図である。
【
図11】本発明に係る実施例3の擁壁構造物の構成及び施工の特徴的な点を説明する側面図であり、(a)は下側グループの複数段の盛土構造体を示し、(b)は上側グループの複数段の盛土構造体の最下位段の盛土構造体を形成する状態を説明する図と、その要部である前面壁面材と水平材の接続状態を示す拡大図である。
【
図12】実施例3の擁壁構造物を山間地に適用した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る擁壁構造物及びその施工方法を実施するための実施するための形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【実施例0020】
(実施例1)
本発明に係る擁壁構造物及びその施工方法の実施例1を、
図1~
図5を参照して説明する。
【0021】
本明細書載及び特許請求の範囲に記載の発明では、擁壁構造物を山側方向に正面視して、左右の方向を横幅方向とし、手前方向を前方、手前側を前側又は前面側とし、手前と反対の奥行方向を後方、奥行側を後側又は背面側(背面側に地山がある場合は山側)とし、正面に対して側方から見た場合を側面視とする。
【0022】
なお、本発明に係る擁壁構造物は、複数段の盛土構造体を積み重ねて形成されているが、本明細書載及び特許請求の範囲に記載の発明では、下側の盛土構造体、上側の盛土構造体を、それぞれ下位段の盛土構造体、上位段の盛土構造体という。
【0023】
図1において、地山の山腹の面1(
図1の想像線で示す)が、掘削線2で示すように掘削され、傾斜した切土面3が形成されるが、実施例1では、擁壁構造物5を、このように山腹等に傾斜して形成された切土面3の前面側に沿って構築する擁壁構造物5及びその施工方法について説明する。
【0024】
実施例1の擁壁構造物5は、
図1、
図2、
図5に示すように、前面壁面材6と背面壁面材11の間に中詰土15が充填されて形成される盛土構造体16が、複数段積み重ねられて構築される。
【0025】
実施例1の擁壁構造物5は、後で詳記するが、前面壁面材6の前面部7と背面壁面材11の背面部13は、同じ勾配で背面側に傾斜し、背面側の切土面3との間に充填される裏込め土17(裏込め材としての土)を介して、切土面3にもたれるように形成されており、もたれ式の擁壁構造物5とも言われる。
【0026】
各段の盛土構造体16において、前面壁面材6は、
図1、
図3(a)、(b)に示すように、エキスパンドメタルが、 略∠型に折り曲げられ、前面部7と底面部8を備える構成に形成されている。前面部7は、底面部8の前端から底面部8に対して背面側に鋭角αで折り曲げられて形成されている。
【0027】
背面壁面材11は、
図1、
図3(a)、(b)に示すように、エキスパンドメタルから形成され、底面部12と、底面部12の後端から背面側に斜め上方に折り曲げられた背面部13を有し、略逆への字形に形成されている。ここで、「略逆への字形」とは、への字の長辺の自由端部を中心に長辺が水平になるまで例えば右方向に回転した時に生じる形状である。
【0028】
より正確には、背面壁面材11は、その背面部13は、底面部12の後側の部分が、背面側に底面部12に対して鈍角βで折り曲げられた構成である。ここで、180°-β=αである。前面壁面材6と背面壁面材11は、それぞれ底面部8、12が沿う水平面に対して、山側に同じ鋭角αで傾斜して形成されている。
【0029】
以上要するに、前面壁面材6と背面壁面材11は、山側に向けて同じ勾配となるように傾斜して形成されている。また、
図3(a)に示すように、後面壁面材11の背面部13は、前面壁面材6の前面部7より、上方に向けて若干長く形成されている。
【0030】
前面壁面材6と背面壁面材11は、切土面3の底面4(上位段について中詰土15の上面)上において、
図3(b)に示すように、それぞれの底面部8、12の一部が互いに重ねられて配置され、その重ねられた部分が、コイル20及び連結棒21によって接続されている。連結棒21は、棒鋼から成る。
【0031】
この接続の接続構造22は、
図3(b)、(c)に示すが、その施工は次のとおり行われる。コイル20は、その長手方向が横幅方向に向けて前面壁面材6の底面部8に下からあてがわれる。そこに背面壁面材11の底面部12が被せられて、連結棒21がコイル20内に横幅方向に向けて挿通されて、前面壁面材6と背面壁面材11の接続構造22が形成される。
【0032】
前面部7において、その上部の前面側に当接し、前面部7の横幅方向に延びるように、腹起こし材25が、斜めタイ材26の上端フック27に通すことで取り付けられている。腹起こし材25は、棒鋼等、金属の棒材から成る。
【0033】
前面壁面材6において、
図1~
図4に示すように、複数の斜めタイ材26が、横幅方向に間隔(
図2参照)をおいて、前面部7と底面部8との間に掛け渡されて取り付けられている。斜めタイ材26は、中詰土15の土圧に対して、前面壁面材6を補強するものであり、鋼材等の金属の棒材から成る。
【0034】
斜めタイ材26は、
図2、
図3(b)に示すように、前面部7から突き出した上端フック27に腹起こし材25を通して取り付けられ、その下端フック28が底面部8に装着されたコイル20に挿通された連結棒21に掛けられて取り付けられている。下端フック28は、底面部8の網目に掛けられた構成でもよい。
【0035】
背面壁面材11の背面部13の上部(前面壁面材6の前面部7の上端より上方の上端部近く)に、
図1、
図3(b)、
図4(a)、(b)に示すように、コイル20が、横幅方向にねじ込んで取り付けられる。さらに、
図4に示すように、前面壁面材6の背面側に、吸い出し防止材31(植生マット)が取り付けられる。
【0036】
背面壁面材11と切土面3との間の隙間に、
図4(b)に示すように、裏込め土17が、前面壁面材6の上端近くの高さ(背面部13に取り付けられたコイル20より若干下方の高さ)まで投入され、突き固められる。
【0037】
さらに、前面壁面材6と背面壁面材11の間のスペースに、中詰土15が投入され、小型転圧機によって締め固められる。中詰土15として、地山を切土して切土面を形成する際等に現地で発生する土と、透水性を持たせるために砕石を加えて使用する。これにより、現地発生土を有効活用でき、また透水性を確保できる。
【0038】
以上のようにして、
図4(b)に示すように、1つの段(例えば1段目)の盛土構造体16が形成されている。このようにして形成された盛土構造体16(ここでは下位段の盛土構造体16という。)の上に、さらに上位段(例えば2段目)の盛土構造体16は、次のように形成される。
【0039】
上位段の盛土構造体16の形成は、下位段の盛土構造体16とほぼ同じである。即ち、上位段の盛土構造体16を形成する場合は、
図4(c)に示すように、下位段の盛土構造体16の中詰土15の上面上に、前面壁面材6と背面壁面材11を配置する。そして、前記した下位段の盛土構造体16と同様に、前面壁面材6と背面壁面材11をコイル20及び連結棒21によって接続する。
【0040】
なお、前面壁面材6と背面壁面材11を配置する場合は、前面壁面材6については、その前面部7の下部を、下位段の盛土構造体16の前面壁面材6の前面部7の上端部に背面側から当接する。
【0041】
また、背面壁面材11については、上位段の背面壁面材11の背面部13の下部を、下位段の盛土構造体16の背面壁面材11の背面部13の上部に予め取り付けたコイル20に前面側から被せる。
【0042】
さらに、連結棒21をコイル20内に挿入して背面壁面材11の背面部13の下部を、下位段の盛土構造体16の背面壁面材11の背面部13の上部に、コイル20と連結棒21によって接続する。その接続構造は、
図3(c)に示す構成と同じである。
【0043】
その後、下位段の盛土構造体16の場合と同様に、
図4(c)に示すように、前面壁面材6に吸い出し防止材31、斜めタイ材26及び腹起こし材25を取り付ける。
【0044】
そして、下位段の盛土構造体16の場合と同様に、背面壁面材11と地山の切土面3との間の隙間に、裏込め土17が投入され、突き固められ、さらに、上位段の前面壁面材6と背面壁面材11の間のスペースに、中詰土15が投入され、小型転圧機によって締め固められ、上位段の盛土構造体16が形成される。
【0045】
このようにして、最下位段の盛土構造体16の上に、次々と上位段の盛土構造体16が積み重ねられて、
図1に示すように、予め設定された所定の高さの擁壁構造物5が形成される。
【0046】
実施例1の擁壁構造物5では、
図4に示すように、次の(1)~(3)の構成を採用した。
(1)上位段と下位段の盛土構造体16の背面壁面材11は、互いにコイル20と連結棒21で接続されて一体化されている構成。
(2)下位段の前面壁面材6、下位段の背面壁面材11、上位段の前面壁面材6及び上位段の背面壁面材11で囲まれたスペース内に、中詰土15が充填されている構成。
(3)前面壁面材6は、斜めタイ材26で強化されている構成。
【0047】
これら(1)~(2)の構成が相乗的に機能し、中詰土15は、その前面、背面、下面及び上面において、上位段の前面壁面材6及び背面壁面材11によって、外部から拘束強化されるので、大きな耐荷力を有し、地震にも強い堅固な擁壁構造物5が構築される。但し、最上位段の盛土構造体16は、上位段の盛土構造体はないので、中詰土15は、上位段の前面壁面材及び背面壁面材で拘束はされていない。
【0048】
また、エキスパンダメタルで形成された前面壁面材6と背面壁面材11が、それぞれ底面部8、12同士が、互いに間隔をおくことなく、また敷シート等を介することなく、互いに直接接続される構成であるので、上記のように中詰土15を拘束強化するとともに、構成が簡単となり、施工、費用が低減可能である。
【0049】
特に、各段の盛土構造体16における前面壁面材6と背面壁面材11の接続、下位段の背面壁面材11と上位段の背面壁面材11の接続は、コイル20と連結棒21を使用することで、従来使用されていたボルト接合等の必要ない。
【0050】
従って、このような接続のための施工は、熟練工によることなく、簡単で迅速かつ安全な施工ができるので、擁壁構造物5及びその施工方法は、経済性に優れているだけでなく、迅速性が要求される災害復旧工事等にも最適である。
【0051】
(実施例2)
本発明に係る擁壁構造物の実施例2について、
図6~9を参照して、以下説明する。実施例2の擁壁構造物40は、実施例1の擁壁構造物5と基本的には同じ構造であり、実施例1の擁壁構造物5と同様に、
図6、
図9にその全体構成を示すように、前面壁面材6と背面壁面材41の間に中詰土15が充填されて成る盛土構造体42が複数段積み重ねなれて形成されている。
【0052】
しかし、実施例1の擁壁構造物5は、
図1に示すように、地山の山腹の切土面3の前面側に設け、山腹の切土面3に裏込め土17を介してもたれるように形成されたもたれ式の擁壁構造物であるが、実施例2の擁壁構造物40は、必ずしも地山の前面側に設けることを前提としたものではなく、地山の前面側に適用する場合もあるが、地山の前面側には設けない構成もある。
【0053】
即ち、実施例2の擁壁構造物40は、実施例1のようなもたれ式の擁壁構造物ではなく、背面側に、必ずしも裏込め土を介してもたれるように形成されておらず、背面側に地山があるないに拘わらず、擁壁構造物40自体で自立した自立式の擁壁構造物であり、山腹における土留、落石・崩壊土砂の防護等の山間地だけでなく、河川護岸等のように背面側に山腹等のない立地環境にも適用可能である。
【0054】
実施例2の擁壁構造物40の各段の盛土構造体42において、
図6、
図7に示すように、前面壁面材6と背面壁面材41は、それぞれエキスパンドメタルで形成されている。前面壁面材6は、実施例1の前面壁面材6と同じ構成である。
【0055】
背面壁面材41は、
図8(a)に示すように、背面部45と底面部46を備え、背面部45は、底面部46の後端が背面側に底面部46に対して略直角に折り曲げられて形成され、側面視でL字形の構成である。前面壁面材6の前面部7と背面壁面材41の背面部45は、高さが略同じに形成されている。
【0056】
前面壁面材6と背面壁面材41は、
図8(b)に示すように、下位段の盛土構造体42の上面49(中詰土15の上面。最下位段の盛土構造体の場合は、地面又は切土面の水平な底面50)の上に、
図8(b)に示すように、それぞれの底面部8、底面部46が前後方向に間隔をおいて配置され、互いにエキスパンドメタルから成る水平補強材53を介して、コイル20と連結棒21によって接続される。
【0057】
この接続は、次のようにして施工する。前面壁面材6の底面部8の背面側(山側)の端部に、コイル20を下からあてがうとともに、背面壁面材41の底面部46の前面側の端部に、コイル20を下からあてがい、それぞれコイル20があてがわれた底面部8と底面部46の部分に、水平補強材53の前後の端部を被せ、それぞれコイル20内に連結棒21を挿通し接続する。
【0058】
そして、
図8(b)に示すように、背面壁面材41の背面部45の上端部に、コイル20が横幅方向にねじ込んで取り付けられる。前面壁面材6には、実施例1の前面壁面材6と同様に、吸い出し防止材31(植生マット)、斜めタイ材26及び腹起こし材25が取り付けられる。
【0059】
背面壁面材41にも、
図8(b)に示すように、前面壁面材6と同様に、吸い出し防止材31(植生マット)、斜めタイ材26及び腹起こし材25が取り付けられる。
【0060】
背面壁面材41の場合は、その背面部45において、その前面側に吸い出し防止材31(植生マット)が取り付けられ、その背面側に腹起こし材25が取り付けられる。そして、斜めタイ材26は、
図7、
図8(b)に示すように、その上端フック27に腹起こし材25を通すことで取り付け、その下端フック28が底面部46の網目に掛けられて取り付けられる。
【0061】
そして、実施例1と同様に、前面壁面材6と背面壁面材41の間のスペースに、中詰土15が投入され、小型転圧機によって締め固められる。中詰土15として、地山を切土する際に発生した土等の現地で発生する土と、透水性を持たせるために砕石を加えて使用する。
【0062】
以上のようにして、実施例2の擁壁構造物40における1つの段の盛土構造体42が形成されている。このようにして形成された盛土構造体42の上にさらに上位段の盛土構造体42が形成される。
【0063】
上位段の盛土構造体42の形成は、下位段の盛土構造体42とほぼ同じである。即ち、上位段の盛土構造体42を形成する場合は、
図8(b)に示すように、下位段の盛土構造体42の中詰土15の上面49上に、前面壁面材6と背面壁面材41を配置する。
【0064】
そして、前記した下位段の盛土構造体42と同様に、前面壁面材6と背面壁面材41を互いに水平補強材53を介してコイル20及び連結棒21によって接続する。
【0065】
なお、前面壁面材6と背面壁面材41を配置する場合は、実施例1の場合と同様に、前面壁面材6については、その前面部7の下部を、
図8(c)に示すように、下位段の盛土構造体42の前面壁面材6の前面部7の上端部に背面側から当接する。
【0066】
背面壁面材41については、上位段の背面壁面材41の背面部45の下部を、
図8(c)に示すように、下位段の背面壁面材41の背面部45の上部に予め取り付けたコイル20に前面側から被せ、連結棒21をコイル20内に挿入し、上位段の背面部45の下部を、下位段の背面部45の上部に接続する。
【0067】
そして、下位段の盛土構造体42の場合と同様に、
図8(c)に示すように、前面壁面材6及び背面壁面材41に、それぞれ吸い出し防止材31、斜めタイ材26及び腹起こし材25を取り付ける。
【0068】
さらに、下位段の盛土構造体42の場合と同様に、前面壁面材6と背面壁面材41の間のスペースに、中詰土15が投入され、小型転圧機によって締め固められ、上位段の盛土構造体42が形成される。
【0069】
このようにして、最下位段の盛土構造体42の上に、次々と上位段の盛土構造体42が積み重ねられて、
図6、
図9に示すように、予め設定された所定の高さの実施例2の擁壁構造物40が形成される。
【0070】
実施例2の擁壁構造物40は、実施例1と同様の効果を奏する。特に、実施例2の擁壁構造物40は、
図8(b)、(c)に示すように、前面壁面材6と背面壁面材41を水平補強材53を介して接続するとともに、前面壁面材6だけでなく背面壁面材41にも斜めタイ材26を取り付ける構成及び施工方法を採用した。
【0071】
このような構成、施工方法を採用することで、実施例2の擁壁構造物40は、背面壁面材41の背面側に裏込め土17を充填して山地の切土面にもたれることのない独立して起立する構成となり、山間地でなくても適用可能となる。
【0072】
しかも、上記のように独立して起立する構成であって、中詰土15は、その前面、背面、下面及び上面において、下位段及び上位段における前面壁面材6、水平補強材53及び背面壁面材41によって、外部から拘束強化されるので、大きな耐荷力を有する。そのため、背面側に地山等がない地理的条件においても、河川における護岸工等に適用可能である。
【0073】
(実施例3)
本発明に係る擁壁構造物及びその施工方法の実施例3を、
図10~
図12を参照して説明する。この実施例3の擁壁構造物60は、その全体構成を
図10(b)に示すが、実施例1の擁壁構造物5を利用し、さらに他の構造を加えた構成であり、いわば、実施例1の変形例に相当する。
【0074】
実施例3を施工する地山の山腹1を
図10(a)に示すが、このような地山の山腹の前側に構築するのに適しており、例えば、
図12に擁壁構造物60の適用例を示すように、山間地に建設される道路69を、下方から支持するために、地山の傾斜面上に構築される支持構造工等に適用される。
【0075】
施工に際しては、地山の山腹1の下側には、
図10(b)(
図10(a)で想像線)で示すように、急勾配の切土面3が形成され、上側には、比較的に緩勾配に切土面61が形成される。なお、切土面61については、山腹1が切土面61と同様に緩勾配であれば、特に形成することなく、元の山腹1を利用してもよい。
【0076】
実施例3の擁壁構造物60の概要は、積み重ねられた複数段の盛土構造体は、
図10(b)に示すように、下側の急勾配の切土面3の前面側に形成される下側グループ64と、上側の緩勾配の切土面61の前面側に形成される上側グループ65と、から成る。
【0077】
下側グループ64を構成する複数段の盛土構造体16は、
図10~
図12に示すように、それぞれ実施例1と同じ構成であり、その説明は省略する。上側グループ65を構成する複数段の盛土構造体66は、それぞれ実施例1と異なる構成である。
【0078】
このように、実施例3の擁壁構造物60は、異なる構成の下側グループ64を構成する複数段の盛土構造体16と、上側グループ65を構成する複数段の盛土構造体66と、から成る、いわば複合式かつもたれ式の擁壁構造物である。
【0079】
上側グループ65の複数段の盛土構造体66は、
図10(b)、
図12にその構成を示すが、下側グループ64の複数段の盛土構造体16の上に、
図11(a)、(b)に想像線で示すように形成される
【0080】
緩勾配の切土面61の前面側に形成される上側グループ65の複数段の盛土構造体66は、それぞれ前面壁面材6と、前面壁面材6の底面部8の後端部に接続された水平補強材53を備えているが、背面壁面材は備えていない。
【0081】
盛土構造体66における前面壁面材6は、実施例1の前面壁面材6と同じ構成であり、水平補強材53は、実施例2の水平補強材53と同じ構成であり、それぞれエキスパンドメタルで形成されている。
【0082】
上側グループ65の複数段の盛土構造体66のうち、最下位段の盛土構造体66の施工に際して、前面壁面材6は、
図11(a)に示すように、構築された下側グループ64の複数段の盛土構造体16のうち最上位段の盛土構造体16の上面(中詰土15の上面)において、前面側に配置される。
【0083】
そして、前面壁面材6の底面部8の背面側の端部に、横幅方向に向けてコイル20が下からあてがわれ、そこに水平補強材53の前面側の端部が被せられ、コイル20内に連結棒21を挿入することで、
図10(b)、
図11(b)に示すように、前面壁面材6と水平補強材53が接続される。
【0084】
前面壁面材6には、実施例1と同様に、斜めタイ材26と吸い出し材31が取り付けられる。このようにして配置された前面壁面材6と水平補強材53の上に、
図11(b)に示すように、前面壁面材6上端部まで中詰土15が砕石とともに投入され、突き固められる。このようにして、上側グループ65の複数段の盛土構造体66のうち最下位段の盛土構造体66が形成される。
【0085】
この上側グループ65の最下位段の盛土構造体66の上に、同様の工程で、
図11(b)に示すように2段目の盛土構造体66が形成され、さらに図示はしないが、3段目等の複数段の盛土構造体66が順次積み重ねられて形成され、
図10(b)、
図12に示すような実施例3の擁壁構造物60が形成される。
【0086】
実施例3の擁壁構造物60は、比較的土圧がかかる下側グループ64の複数段の盛土構造体16については、実施例1と同様に、中詰土15を、その前面、背面、下面及び上面において、上位段及び下位段の前面壁面材6及び背面壁面材11によって包み込んで拘束強化される構成とし、大きな耐荷力を有するようにした。
【0087】
そして、緩勾配で上側切土面61の前側であって、上側の切土面61まで背面側(奥行き方向)に向けて比較的広い面積を有するスペースに形成した上側グループ65の複数段の盛土構造体66については、背面壁面材は設けないが、中詰土15を、前面壁面材6と水平補強材53で、その前面、下面及び上面から補強する構成とした。
【0088】
実施例3の擁壁構造物60は、上側グループ65の最上位段の盛土構造体66に、切土面61まで背面側に向けて広い面積の上面が形成されるので、転圧機で十分な突き固め作業が容易となり、
図12に示すような道路69の建設作業等がし易く経済的である。切土掘削を最小化したい山岳道路等に適している。
【0089】
以上、本発明に係る擁壁構造物及びその施工方法を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
本発明に係る本発明に係る擁壁構造物及びその施工方法は、山間地等における山腹土留め、落石・崩壊土砂の防護壁、又は河川護岸等、多くの場所に構築される擁壁構造物及びその施工方法への利用が可能である。