(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033802
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】高ナトリウム低カルシウムプロテオグリカンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/34 20060101AFI20230306BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C07K1/34
C07K2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139711
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA50
4H045GA10
(57)【要約】
【課題】鮭由来プロテオグリカンについて、ナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの製造方法を提供する。
【解決手段】鮭由来プロテオグリカンの水溶液を、半透膜を介して50mM以上の塩化ナトリウム溶液に接触させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮭由来プロテオグリカンを、半透膜を介して50mM以上の塩化ナトリウム溶液に接触させることを特徴とする、ナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮭由来のプロテオグリカにおいて、ナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、動物の結合組織の細胞外マトリックス中の基質や体液に広く存在しており、同じく結合組織などに存在するヒアルロン酸やコラーゲンとともに保水性物質として知られている。近年、保水性以外にも、EGF様作用や抗アレルギー作用などが明らかになってきている。
【0003】
プロテオグリカンはグリコサミノグリカンとタンパク質の共有結合物の総称であり、一般の糖タンパク質に比べて、糖含量が極めて多いのが特徴である。プロテオグリカンの糖としてはアミノ糖とウロン酸が多く、中性糖は少ない。アミノ糖は硫酸化されているものが多い。起源となる原料や抽出・製造条件により、分子量や含まれるアミノ酸や糖の種類や量、硫酸化の比率も異なっており、さまざま分子種が存在する。
【0004】
プロテオグリカンにおいて、ナトリウムを多く含み、かつカルシウム含量が低いものは、カルシウムを多く含み、かつナトリウム含量が低いプロテオグリカンに比較し、保水能の向上やアレルギー抑制効果が高いことが報告されている。プロテオグリカンは硫酸基やカルボキシル基などの官能基を非常に多く含んでいるため、カウンターイオンとしてカルシウムを多く含んでいる。プロテオグリカンは軟骨から抽出されることが多いため、プロテオグリカンに含まれるカルシウムも軟骨由来である。プロテオグリカンにナトリウムを含有させる方法として、強酸性陽イオン交換樹脂を用いる方法(特許文献1)があるが、プロテオグリカン処理量がイオン交換樹脂の量に制限されるなどの欠点があり、満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を鑑み、本発明は、鮭由来プロテオグリカンにおいて、ナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの新規の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するためのナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの製造方法は、鮭由来プロテオグリカンを、半透膜を介して50mM以上の塩化ナトリウム溶液に接触させることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態をより具体的に説明する。本発明の技術的思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
本発明は、鮭由来のプロテオグリカンを対象としたものである。プロテオグリカンの抽出薬剤についても、酢酸などの有機酸や酸、アルカリ、グアニジン塩酸など様々あるが、本発明では抽出薬剤や温度や時間などの抽出・製造の条件も限定しないものである。プロテオグリカンは糖タンパク質の一種であり、重量構成比が70%以上であるグリコサミノグリカンとタンパク質の共有結合物からなる分子量数十万から数百万の天然高分子化合物である。ウロン酸とアミノ糖がほぼ当量で大部分を占めており、タンパク質量は一般の糖タンパク質に比較し少ない。また、特徴として、グリコサミノグリカンのヒドロキシ基に硫酸基がエステル結合している割合が高い。
【0011】
具体的に本発明のナトリウムを7重量%以上含み、かつカルシウムが0.7重量%以下であるプロテオグリカンの製造方法は、半透膜の内側に水に溶解した原料の鮭由来プロテオグリカンを用意し、半透膜の外側に50mM以上の塩化ナトリウム溶液を用意し、半透膜を介し両液を接触させる。半透膜は、溶液や分散系中の一部の成分は通すが、ほかの成分は通さないような膜のことをいう。半透膜の材料は、セルロースやコロジオン、ゼラチン、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンなどが用いられている。半透膜はチューブ状のものが多く、チューブの内側に水に溶解した原料の鮭由来プロテオグリカンを入れると使い易い。本発明では半透膜の一種で多孔性高分子膜である限外ろ過膜も使用可能であり、このときの分画分子量は、3kDa~300kDaの範囲で使用可能である。
【0012】
半透膜を介しプロテオグリカンと接触させる塩化ナトリウムの濃度は、50mM以上は必要である。塩化ナトリウムの量は、プロテオグリカンの量の35倍以上は必要である。例えば、プロテオグリカン1gが溶解している水溶液に用意するナトリウムの量は、35g以上必要であり、50mMに換算すると12L以上必要である。また、プロテオグリカン水溶液と塩化ナトリウム溶液の半透膜を介した接触時間は、5時間以上要する。接触の際の溶液の温度は腐敗防止のため、10℃以下の低温が好ましい。また、塩化ナトリウム溶液は撹拌するほうが製造の効率がよい。
【0013】
鮭由来プロテオグリカンにナトリウムが置換・付加され、カルシウムが減じた後は、プロテオグリカン溶液中の過剰の塩化ナトリウムを除去し、完成である。過剰の塩化ナトリウムの除去の方法は定法により、水に対し透析することや、限外ろ過や逆浸透を用いる。この場合、目的とするプロテオグリカンは水溶液状態で得られるが、凍結乾燥や噴霧乾燥その他の手段により、乾燥、固形化が可能である。また、エタノールやアセトンなどの有機溶媒で得られたプロテオグリカンを沈殿、乾燥、固形化させることも可能である。これらの方法を組み合わせて用いることも可能である。
【0014】
上記製造方法により、プロテオグリカンのカルボキシル基や硫酸基に結合しているカルシウムイオンの大部分がナトリウムイオンに置換される。また、フリーの硫酸基やカルボキシル基にナトリウムイオンが新たに結合することも考えられる。
【0015】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0016】
(高ナトリウム低カルシウムプロテオグリカンの製造方法の検討)
原料の鮭由来プロテオグリカンは、市販のプロテオグリカン((株)角弘プロテオグリカン研究所)を購入し、用いた。プロテオグリカン10mgを蒸留水2mLに溶解し、半透膜として透析用セルロースチューブ(外周5cm×長さ8cm、エーディア(株))に入れ、上下の口を封じた。200mLのビーカーに塩化ナトリウム水溶液200mLを入れて、プロテオグリカンが入っているセルロースチューブを塩化ナトリウム水溶液中に浮遊させ、ビーカーに撹拌子を入れてスターラーで撹拌した。4℃の低温室で行った。塩化ナトリウムの濃度は、0M、10mM、20mM、50mM、100mM、500mM、2M、4Mである。
【0017】
6時間後、プロテオグリカンが入っている各セルロースチューブを、200mLの脱イオン水を入れたビーカーに移し、4℃の低温室で2日間、水に対し透析した。ビーカーの脱イオン水は1日に3回交換した。セルロースチューブ内液を回収し、ウォーターバスで40℃に加温しながら、ロータリーエバポレーターで濃縮し、凍結乾燥機にて凍結乾燥し、白色綿状固体のプロテオグリカンを得た。
【0018】
(プロテオグリカンのナトリウムとカルシウムの測定)
得られたプロテオグリカンのナトリウムとカルシウム含量を、キャピラリー電気泳動装置(AgiLent7100 キャピラリー電気泳動システム、アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて定量した。各金属の定量法については、UV吸収を有する緩衝液で満たしたキャピラリーカラムに、試料を注入して電圧をかけることで、試料中の各金属イオンを分離しながら移動させ、UV検出部を通過する時のUV吸収の減少分により検出する間接吸光法を採用した。カラムにフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、有効長56cm、アジレント・テクノロジー(株)製)、緩衝液に陽イオン分析バッファ(PartNo.5064-8203、アジレント・テクノロジー(株)製)を用い、UV波長310nm、泳動温度25℃、電圧30kVで泳動した。試料注入条件は50mbar、4秒で行った。ナトリウムとカルシウムの濃度測定のため、あらかじめナトリウムとカルシウムの検量線を作成した。ナトリウムとカルシウムは、塩化ナトリウム(特級、和光純薬工業(株))と塩化カルシウム(特級、和光純薬工業(株))を用い、検量線は、内部標準として2ppmで加えたマグネシウムとのピークの面積比で作成した。マグネシウムは塩化マグネシウム(特級、和光純薬工業(株))を用いた。得られたプロテオグリカンに内部標準として2ppmのマグネシウムを添加し、300ppmに調製し、電気泳動に供した。作成した検量線によるナトリウムの測定下限は2.5ppmであったことから、300ppmのプロテオグリカンのナトリウムの測定下限濃度は0.8重量%であった。また、作成した検量線によるカルシウムの測定下限は2ppmであったことから、300ppmのプロテオグリカンのカルシウムの測定下限濃度は0.7重量%であった。
【0019】
ビーカーに入れた塩化ナトリウムの濃度が0M、10mM、20mM、50mM、100mM、500mM、2M、4Mのとき、得られたプロテオグリカンのナトリウムの含量は、それぞれ、0.8重量%、5.5重量%、5.7重量%、7.3重量%、7.3重量%、8.6重量%、9.2重量%、8.8重量%であった。また、カルシウムの含量は、外液の塩化ナトリウムの濃度が0Mのとき4.5重量%、10mMのとき1.1重量%、20mMのとき1.0重量%、50mM以上は全て測定下限濃度以下であった。鮭由来プロテオグリカンを、半透膜を介して50mM以上の塩化ナトリウム溶液に接触させたとき、プロテオグリカンのナトリウム含量は7重量%以上であり、カルシウムは測定下限濃度以下の0.7重量%以下であった。
16時間後、プロテオグリカンが入っている各半透膜を、1Lの脱イオン水を入れたビーカーに移し、4℃の低温室で2日間、水に対し透析した。外液のビーカーの脱イオン水は1日に3回交換した。セルロースチューブ内液を回収し、ウォーターバスで40℃に加温しながら、ロータリーエバポレーターで濃縮し、凍結乾燥機にて凍結乾燥し、白色綿状固体の高ナトリウム低カルシウムプロテオグリカン366mgを得た。