(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033826
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】天井作業工具システム
(51)【国際特許分類】
B28D 1/14 20060101AFI20230306BHJP
B28D 7/00 20060101ALI20230306BHJP
B23B 41/00 20060101ALI20230306BHJP
B23B 45/14 20060101ALI20230306BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B28D1/14
B28D7/00
B23B41/00 Z
B23B45/14
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139739
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】510118101
【氏名又は名称】株式会社丸高工業
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】高木 一昌
(72)【発明者】
【氏名】高木 栄造
(72)【発明者】
【氏名】古谷 則之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紀貴
【テーマコード(参考)】
2E174
3C036
3C069
【Fターム(参考)】
2E174AA03
2E174BA01
2E174DA17
3C036AA00
3C036EE13
3C036EE18
3C036LL08
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB03
3C069BC05
3C069CA10
3C069DA01
3C069EA01
(57)【要約】
【課題】静音状態で小回りの効く作業が可能な天井作業工具システムを提供する。
【解決手段】台車100の天井面CEを臨む部位に立設された第1昇降フレーム120と、通常は第1昇降フレーム120に収容され、作業時に第1昇降フレーム120の昇降機構により天井面CEを指向して昇降する第2昇降フレーム130と、通常は第2昇降フレーム130に収容され、作業時に第2昇降フレーム130の昇降機構により天井面の作業部位を指向して昇降する天井反力受け板30および湿式のドリルユニット10とを備える。天井反力受け板30は、ドリルユニット10の作業領域を確保しつつ作業時に天井面CEから受ける振動要素を吸収するガススプリングGS1を含んで構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車に搭載される天井作業工具システムであって、
前記台車の天井面を臨む部位に立設される第1フレームと、
前記第1フレームの内部に収容され、当該第1フレームの昇降機構により前記天井面を指向して昇降する第2フレームと、
前記第2フレームの内部に収容され、当該第2フレームの昇降機構により前記天井面の作業部位を指向して昇降する天井面ストッパおよび作業工具とを備えており、
前記天井面ストッパは、前記作業工具の作業領域を確保しつつ当該作業工具の動作時に前記天井面から受ける振動要素を吸収する吸振部材を含んで構成されることを特徴とする、
天井作業工具システム。
【請求項2】
前記吸振部材が、その一端が前記天井面ストッパに固定され、その他端が前記作業工具の所定部位に固定されたガススプリングであることを特徴とする、
請求項1に記載の天井作業工具システム。
【請求項3】
前記吸振部材が、その一端が前記天井面ストッパに固定され、その他端が前記作業工具の所定部位に固定されたリニアブッシュを貫通するリニアシャフトであることを特徴とする、請求項1に記載の天井作業工具システム。
【請求項4】
前記第1フレームは、その下底部が前記台車から床面の方向に変位可能に立設されており、前記下底部には、前記作業工具の動作時に外部から受ける振動要素を吸収する吸振部材を介した床面ストッパが設けられていることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の天井作業工具システム。
【請求項5】
前記床面ストッパと前記天井面ストッパとが連動することを特徴とする、
請求項4に記載の天井作業工具システム。
【請求項6】
前記第1フレームの昇降機構および/又は前記第2フレームの昇降機構の動作を制御する制御手段と、
前記作業工具の相対位置が所定の閾値に達したかどうかを検出する位置センサとを更に備えており、
前記制御手段は、前記作業工具の相対位置が初期位置から前記閾値に達するまでは前記第2フレームまたは前記作業工具を第1速度で昇降させ、前記作業工具の相対位置が前記閾値を超えたときは前記第2フレームまたは前記作業工具を前記第1速度よりも遅い第2速度で昇降させることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載の天井作業工具システム。
【請求項7】
前記天井面に作業部位の作業始点を表示させる表示手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の天井作業工具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば天井スラブへのアンカー孔、空調設備の送排気孔、照明器具の取付孔等の穿孔その他の天井部分の加工作業に用いられる天井作業工具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
天井スラブの一部を穿孔する装置として、特許文献1に開示された自動天井開孔機、特許文献2に開示された穿孔装置などが知られている。特許文献1に開示された自動天井開孔機は、台車上に伸縮マストを有する昇降部を立設し、伸縮マストにターンテーブルを回転駆動するように設けるとともに、ターンテーブルに切削工具を取付けて、切削工具の切削作動とターンテーブルの回転作動によって自動的に天井部に所望の孔を開孔する。
【0003】
特許文献2に開示された穿孔装置は、台車に穿孔機を取り付けて構成される。穿孔機は、台車上で、穿孔位置まで進退動および横行が可能であり、さらに、台車ないし穿孔機の位置を固定させるジャッキアームと切削時の進退動ストロークを規制するストロークセンサとを備えたものとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-307076号公報
【特許文献2】特許第3076530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の自動天井開孔機は、回転駆動されるターンテーブルに取り付けられた切削工具によって開孔するので、切削精度がターンテーブルの回転駆動の精度に依存し、精度向上に限界がある。また、切削時に受ける天井や床面からの不規則な応力やターンテーブルおよび切削工具の芯ブレに伴う振動に対して無対策であるため、騒音の発生を抑制することができない。騒音の発生に対して無対策である点は、特許文献2の穿孔装置についても同様である。
【0006】
また、天井スラブの工事に際しては、工具を横壁や入隅や出隅などの近傍に対し孔を空ける需要があるが、特許文献1の自動天井開孔機も特許文献2の穿孔装置も床面と平行となる機材の部分が大きいため、隅に寄せることが困難となる。この点は、特許文献1,2以外のこの種の工具システムについても同様であり、改善が望まれていた。
【0007】
本発明の主たる課題は、上記背景に鑑み、騒音を出さずに天井面の加工作業が可能な天井作業工具システムを提供することにある。本発明の他の課題は、本明細書の開示から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、台車に搭載される天井作業工具システムであって、前記台車の天井面を臨む部位に立設される第1フレームと、前記第1フレームの内部に収容され、当該第1フレームの昇降機構により前記天井面を指向して昇降する第2フレームと、前記第2フレームの内部に収容され、当該第2フレームの昇降機構により前記天井面の作業部位を指向して昇降する天井面ストッパおよび作業工具とを備えており、前記天井面ストッパは、前記作業工具の作業領域を確保しつつ当該作業工具の動作時に前記天井面から受ける振動要素を吸収する吸振部材を含んで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業時に受ける振動要素が吸振部材により吸収されるので、静音性に優れた作業が可能となる。また、作業工具が第2フレームに収容され、その第2フレームが第1フレームに収容されるので、搬送、移動や天井面の横壁に近い部分での作業が容易になり、小回りの効く作業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態における天井作業工具システムの外観斜視図。
【
図2】天井作業工具システムが備える昇降機構の外観斜視図。
【
図4】天井作業工具システムの移動時の下部構造を正面視した部分拡大図。
【
図5】天井作業工具システムの作業時の下部構造を正面視した部分拡大図。
【
図6】天井作業工具システムの移動時の上部構造を正面視した部分拡大図。
【
図7】天井作業工具システムの作業時の上部構造を正面視した部分拡大図。
【
図9】天井作業工具システムの移動時の状態を示す模式図。
【
図10】第2昇降フレームが上昇し始める状態を示す模式図。
【
図11】天井反力受け部が天井面に当接した状態を示す模式図。
【
図12】床反力受け部が床面に当接した状態を示す模式図。
【
図13】ドリルユニットの先端ビットが作業部位に向けて上昇する状態を示す模式図。
【
図14】ドリルユニットの先端ビットが作業部位へ侵入した状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の一態様となる天井作業工具システムについて説明する。天井作業に用いる作業工具の種類は様々であるが、本例では、電動モータの一種であるサーボモータと湿式のドリルユニットとを用いて天井スラブを穿孔する作業工具システムに適用した場合の例を説明する。
【0012】
説明の便宜上、図面上にXYZの三次元軸を設定し、+X方向を前方向、-X方向を後方向、X方向を前後方向、+Z方向を鉛直上方又は上方向、-Z方向を下方向+Y方向を右方向、-Y方向左方向、Y方向を左右方向、左方向から右方向(あるいはその逆)を視ることを側面視、上から下を視ることを上面視、前方から視ることを正面視、後方から視ることを背面視と呼ぶ場合がある。
【0013】
[構成および作用]
図1は、本実施形態における天井作業工具システム1の外観斜視図である。
図2は天井作業工具システム1が備える昇降機構の外観斜視図であり、
図1に示した昇降機構の背面側を部分的に示してある。
図3は昇降機構が延びている状態を示す正面図である。
図4は天井作業工具システム1の移動時の下部構造を正面視した部分拡大図であり、
図5は天井作業工具システム1の作業時の下部構造を正面視した部分拡大図である。また、
図6は、天井作業工具システム1の移動時の上部構造を正面視した部分拡大図であり、
図7は天井作業工具システム1の作業時の上部構造を正面視した部分拡大図である。
【0014】
これらの図に示される通り、天井作業工具システム1は、天井作業に用いる作業工具を含む主要装置ないし部品を台車100に搭載して構成される。台車100は、枠状の底部フレーム101、面状のジョイントプレート102、枠状の備品収容フレーム104、キャスター105を含む。キャスター105は、車輪106を回転自在に挟持した状態で、底部フレーム101の四隅にそれぞれ一つずつ固定される。備品収容フレーム104には、作業工具を含む電気設備に電力を供給するバッテリー200、作業工具への冷却水の供給と排水とを行うための水循環装置300および回転駆動源の動作、昇降機構等の制御や動作を監視するためのインタフェースを備えた操作盤400が搭載されている。
【0015】
ジョイントプレート102は、底部フレーム101の前方に、床面と平行に当該底部枠101に固定される金属板である。ジョイントプレート102の上面視のサイズは、昇降機構の外形サイズよりも僅かに大きく、台車100の短辺とほぼ同じサイズである。ジョイントプレート102の略中央部は、略矩形状に開口されている。
【0016】
本実施形態の天井作業工具システム1は、
図2および
図3に示される通り、台車100から鉛直上方に立設される第1昇降フレーム120と、搬送ないし移動時には第1昇降フレーム120に収容され、作業時には第1昇降フレーム120の昇降機構によって鉛直上方に突出するように昇降制御される第2昇降フレーム130と、搬送ないし移動時には第2昇降フレーム130に収容され、作業時には第2昇降フレーム130の昇降機構によって天井面の作業部位の方向に突出するドリルユニット10、吸水ユニット20、天井面と平行の天井反力受け板30等を備える。
【0017】
第1昇降フレーム120と第2昇降フレーム130は、それぞれ対向する一対の側壁を有する。対向する側壁同士は所定間隔でネジ止めされた補強板で補強されている。第1昇降フレーム120の側壁のうち第2昇降フレーム130と対向する部分には、Z方向に直線状に突起するガイドレール121が形成されており、第2昇降フレーム130の側壁には、第1昇降フレーム120のガイドレール121を嵌合させるためのガイドが形成されている。第2昇降フレーム130は、ガイドレール121およびガイドに支持された状態で、第1昇降フレーム120の昇降機構、例えば雄ネジが螺刻された第1昇降ボールねじ122を雌ネジが螺刻された第2昇降フレーム130と一体の端部に挿入し、第1昇降モータ124で第1昇降ボールねじ122を回転させる。これにより、第2昇降フレーム130が、第1昇降フレーム120から鉛直上方に突出したり、鉛直下方に収容されたりする。第1昇降モータ124の回転駆動のタイミングおよび回転速度は、操作盤400の制御装置により制御される。
【0018】
第1昇降フレーム120の一対の側壁の下端部は、ジョイントプレート102の開口部を昇降自在に貫通して床反力受け板40に接合される。ただし、ジョイントプレート102の直下付近の各側壁の内側にガイドロックが設けられており、第1昇降フレーム120の昇降量が一定以下となるように規制されている。
【0019】
床反力受け板40は、床面と平行に配置される金属板であり、
図4に示されるように、搬送時又は移動時には、床面FLと離れた状態であるが、作業時には、
図5に示されるように、床面FLに直接又は間接に(緩衝材を介在させる場合等)当接して、床面ストッパとして機能する。その際、床反力受け板40は、床面FLからの応力(反力)を受け取る。また、第1昇降フレーム120の一対の側壁のうち外側の所定部位とジョイントプレート102との間に、ガススプリングGS2、GS3と、ガススプリングGS2、GS3の動きをZ方向にガイドするリニアガイドLG1,LG2とが設けられている。
【0020】
リニアガイドLG1,LG2は、第1昇降フレーム120の昇降時および作業時の姿勢がZ軸と平行の線上からぶれないように直線的にガイドする部材である。ガススプリングGS2,GS3は、圧縮されたガスの反力をバネとして使用した部品であり、金属製のコイルに比べて外径が細くかつ軽量で、大きな初期荷重で弾性定数も小さいため、広範囲のストロークで一定の弾性力が得られる利点がある。本実施形態では、ガススプリングGS2,GS3を、床反力受け板40に作用する反力(応力)に起因する振動を吸収する吸振部材の一つとして用いる。反力は、第1昇降フレーム120および第2昇降フレーム130の重量を支えることができる力を含む。
なお、
図1では隠れているが、
図4,
図5に示されるように、第1昇降フレーム120のもう一方の側壁にもガススプリング(GS2)とリニアガイド(LG1)が設けられている。
【0021】
第2昇降フレーム130の側壁間の空間にも雄ネジが螺刻された第2ボールねじ132とその支持部材が設けられている。第2ボールねじ132は、ドリルユニット10、吸水ユニット20等を天井面の方向に昇降させるための昇降機構の一つして作用するもので、第2昇降フレーム130の下端部に設けられた第2昇降モータ134により回転駆動される。第2昇降モータ134の回転駆動のタイミングおよび回転速度もまた、操作盤400の制御装置により制御される。なお、第1ボールねじ122と第2ボールねじ132は、上面視で重ならない位置に配置されている。
【0022】
第2昇降フレーム130の下底部には、高さ調整台111とその支持部材112とが離脱自在に装着されている。高さ調整台111は、第2昇降フレーム130の昇降量を事後的に調整するために用いられる。支持部材112は、雌ネジが螺刻されており、第1ボールねじ122の支持部材を兼ねる。
【0023】
搬送時または移動時に第2昇降フレーム130に収容され、作業時に第2昇降フレーム130から突出するドリルユニット10には、吸水ユニット20のほか、天井面と平行の天井反力受け板30が設けられている。また、第2昇降フレーム130の上端部側壁の内側には、
図3のように延びきったときのドリルユニット10等の滑落を防止するための複数のガイドブロック133が形成されている。
【0024】
ドリルユニット10は、回転駆動源となるサーボモータ11、回転力伝達部12および先端ビット装着シャンク13を含んで構成される。先端ビット装着シャンク13には、その先端が金属板とコンクリート板とを同時に穿孔できる角度に成型された先端ビット14が離脱自在に装着される。
【0025】
天井反力受け板30の略中央部には上面視でU字状に切りかかれた作業孔31が形成されている。この作業孔31により、ドリルユニット10の作業領域が確保される。また、作業項31以外の天井反力受け板30の部分は、ドリルユニット10の先端ビット14を保護する保護部材として機能する。
吸水ユニット20は、水循環装置300と連結しており、ドリルユニット10の吸水シャンクへ冷却水を供給するとともに、作業時に生じる金属屑やコンクリートノロなどを取り込む部材を含んでいる。
【0026】
天井反力受け板30は、天井面と平行に配置される金属板であり、縦横10cm以上18cm以下の略矩形状平板であるが、天井面との間に凹凸を設ける形状であっても良い。天井反力受け板30は、天井作業工具システム1が搬送又は移動されるときは、
図6に示すように天井面CEから離れた状態であり、作業時には、
図7に示すように、天井面CEに当接する天井面ストッパとして機能する。その際、天井反力受け板30は、天井面CEからの応力(反力)を受ける。そこで、天井反力受け板30においても、床面ストッパ40と同様の吸振部材を設けている。
【0027】
図6および
図7を参照すると、吸振部材の例が示されている。すなわち、天井反力受け板30の背面(天井面と反対方向の面)にガススプリングGS1の一端と、一対のリニアシャフトLSの一端とが固定されている。ガススプリングGS1は、上述のガススプリングGS2,GS3と同等品であり、その他端はドリルユニット10の回転力伝達部12の外壁に固定されている。なお、ガススプリングGS1の他端は、他の部位に固定される構成であっても良い。リニアシャフトLSは、その他端が先端ビット装着シャンク13に固定されたリニアブッシュLBを摺動自在に貫通して自由端となっている。
【0028】
リニアブッシュLBは、鋼球の転がりを利用した直動機構の一種であり、貫通するリニアシャフトLSの長さが途切れない限り、無限直線運動が可能となる。つまり、リニアシャフトLSが貫通して変位する際の抵抗がきわめて小さく、さらに振動が吸収され、音の発生も抑制されるので、ドリルユニット10の芯ブレの抑制、吸振、防音の役割を果たす。
【0029】
なお、
図6,
図7では、リニアシャフトLSとリニアブッシュLBとの組は一つしか示されていないが、その奥にもう1組存在する。そのため、天井反力受け板30は、一対のリニアシャフトLSと一つのガススプリングGS1との三点で弾性支持された天井面ストッパとして機能する。これにより、天井面からの応力(反力)に起因する振動を確実に吸収することができる。なお、ガススプリングGS1と、リニアシャフトLSおよびリニアブッシュLBは、いずれか一方だけを防振部材として用いることもできる。
【0030】
先端ビット装着シャンク13の所定部位には第1センサD1が固定され、他方、一対のリニアシャフトLSのうち、第1センサD1に近接するリニアシャフトLSの自由端には第2センサD2が固定されている。第1センサD1,第2センサD2は、ドリルユニット10の相対位置を検出するために設けられる。センサ出力(第1センサD1の出力)は、操作盤400に内蔵された制御装置へ導かれ、第1昇降フレーム120および/又は第2昇降フレーム130の昇降機構における昇降速度の制御に用いられる。
【0031】
例えば、操作盤400の制御装置において、ドリルユニット10が初期位置から所定の閾値(例えば天井面CEからドリルユニット10の先端ビットまでの距離が約5cmに達するまでは第1昇降フレーム120の昇降機構および第2昇降フレーム130の昇降機構を第1速度で昇降させ、ドリルユニット10の相対位置が上記閾値を超えたときは、第1昇降フレーム120の昇降機構および第2昇降フレーム130の昇降機構を第1速度よりも遅い第2速度で昇降させる。
これにより、閾値に達するまでは、ドリルビット10等を比較的高速に昇降(上昇)させることができるので、作業開始までの時間を短縮することができる。
【0032】
天井反力受け板30は、墨出し機能をも併有する。すなわち、
図8の部分拡大図に示すように、天井反力受け板30の天井面CEに向けた表面部のうち、中央部から放射状に等距離で周方向に約90度離れた位置に、それぞれ同じ角度方向にラインレーザーを照射する2つの照射体LD1,LD2が設けられている。各照射体LD1,LD2の照射タイミングは、操作盤300の制御装置が制御する。
【0033】
各照射体LD1,LD2から照射されるラインレーザーの照射ラインは、他方の照射ラインと交差するポイントがドリルユニット10の回転軸となるように設計されている。そのため、この交差するポイントがドリルユニット10による作業の始点となる作業部位WPを表すことになる。作業者は、作業部位WPが目的の位置になるように台車100を動かすだけで位置決めが可能となることから、台車100を目的の作業部位WPまで移動して操作することが楽であり、迅速な作業が可能となる。
【0034】
なお、照射体LD1,LD2は、3つ以上であっても良い。また、ラインレーザー以外の照射体、例えば二次元ビーム光あるいは撮像機を用いて墨出しと同等の機能を実現するようにしても良い。
【0035】
[動作例]
次に、天井作業工具システム1の状態を模式的に示した
図9~
図14を参照して、天井作業工具システム1の動作例を説明する。これらの図において、Caはドリルユニット10の回転軸の延長線状の直線(軸線)であり、天井作業工具システム1の配置と作業部位WPとを関係を示すものとなっている。つまり、本実施形態の天井作業工具システム1は、天井面CEの作業部位と、ドリルユニット10の回転軸線と、第1昇降フレーム120および第2昇降フレーム130の昇降軸線とが一致するように配置されている。正面視では、天井反力受け板30が床反力受け板40に包含され、床面ストッパが天井面ストッパのほぼ真下に配置されることになる。そのため、天井作業工具システム1が安定に固定された状態で作業部位WPの加工が可能となる。
【0036】
図9は、天井作業工具システム1の移動時の状態を示している。第2昇降フレーム130等(ドリルユニット10、高さ調整台111、支持部材112等を含む)が第1昇降フレーム120に収容されている。
【0037】
上記の墨出し機能によって作業部位WPに位置決めされると、
図10に示すように、第1昇降フレーム120の昇降機構により第2昇降フレーム130等が天井面CEの方向に直線的に上昇する。このとき、第2昇降フレーム130等は、第1センサD1,第2センサD2で検出されるドリルユニット10の相対位置が閾値になるまでは第1速度で上昇し、閾値になった時点で第2速度まで回転速度を落とす。
【0038】
図11に示すように、天井反力受け板30が天井面CEに当接すると、天井反力受け板30が天井面ストッパとして機能する。このとき、天井反力受け板30が反力によって下方に押され、ガススプリングGS1,GS2,GS3が縮む。これにより、
図12に示すように、第1昇降フレーム120が台車100を貫通して下降する。そして、床反力受け板40が床面FLに当接し、床面ストッパとして機能する。つまり、作業者の操作無しに天井面ストッパと床面ストッパとが自動的に連動する。
【0039】
図13に示すように、天井反力受け板30が天井面CEに当接し、かつ、床反力受け板40が床面FLと当接すると、ガススプリングGS1が天井反力受け板30を天井面CEの方向に付勢し、ガススプリングGS2,GS3が床反力受け板40を床面FLの方向に付勢する。これにより、天井作業工具システム1の作業環境が安定する。このように安定した時点で、
図14に示すように、ドリルビット10の先端ビット14が天井反力受け板30の作業孔31を貫通して天井面CEの作業部位の加工を始める。
【0040】
以上の通り、本実施形態では、台車100の天井面CEを臨む部位に立設される第1昇降フレーム120と、搬送時ないし移動時には第1昇降フレーム120の内部に収容される第2昇降フレーム130と、搬送時ないし移動時には第2昇降フレーム130に収容されるドリルビット10や天井反力受け板30等が、作業時にリレー式に天井面CEの方向に上昇するので、作業時以外は、天井作業工具システム1の全体の高さを低くしておくことができ、搬送や移動がきわめて容易になる。例えば床面から天井面までの高さが4mを超える大型オフィスビルの天井面加工作業を行う場合であっても、2m前後のエレベータ等にも楽に入るようになる。
【0041】
作業時においても、最もサイズの大きいのが台車100であり、その次にサイズの大きいのが第1昇降フレーム120となるが、第1昇降フレーム120が台車100の短辺部分のジョイントプレート102に設けられるので、例えば天井面CEの横壁に近い部分での作業がきわめて容易になる。また、天井反力受け板30が天井面CEから受ける反力に起因する振動がガススプリングGS1で吸収(吸振)され、さらに、リニアシャフトLSとリニアブッシュLBで作業時の横揺れに起因する振動が吸収されるので、作業時における騒音の発生がこれらの吸振部材を用いない場合に比べて格段に抑制される。すなわち静音状態での天井面加工作業が実現される。
【0042】
また、第1昇降フレーム120が、その下底部が台車100から床面FLの方向に変位可能に立設されており、下底部には、ドリルユニット10の動作時に外部から受ける振動要素を吸収する一対のガススプリングGS2,GS3で吸振されるので、さらに静音となった状態での天井面加工作業が実現される。
【0043】
また、天井反力受け板30が天井面CEに当接し、天井面ストッパとして機能するときは、それに連動して床反力受け板40が床面ストッパと機能するので、作業者が格別の操作を行わなくとも、振動の無い安定した状態で、静かに作業を開始することができる。
【0044】
また、ドリルユニット10の相対位置が作業部位までの距離の閾値に達したかどうかを検出するセンサD1,D2を備え、操作盤300の制御装置の制御により、ドリルユニット10の相対位置が初期位置から閾値に達するまではドリルユニット10等を比較的早く上昇させ、ドリルユニット10の相対位置が閾値を超えたときは遅い速度で上昇させるようにすることで、作業開始までの時間を短縮することができる。
【0045】
さらに、天井面CEに作業部位の作業始点を表示させる表示手段をさらに備えた天井作業工具システムとすることにより、天井面における作業部位を容易に把握することができ、迅速な天井面工事が可能となる。
【0046】
なお、本実施形態では、第1昇降フレーム120と第2昇降フレーム130とを鉛直方向にリレー式に昇降させる場合の例を説明したが、昇降するフレームの数は、3つ以上であっても良い。
また、本実施形態では、湿式のドリルユニット10の例を説明したが、乾式のドリルユニットあるいは他の種類の回転工具を作業工具として搭載する構成であっても良い。