(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033851
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】電動機及びそれを備えた電気機器
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20230306BHJP
H02K 3/38 20060101ALI20230306BHJP
H02K 11/40 20160101ALI20230306BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H02K5/16 A
H02K3/38 Z
H02K11/40
H02K7/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139772
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】514036900
【氏名又は名称】WOLONGモーター制御技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】前谷 達男
(72)【発明者】
【氏名】磯村 宣典
(72)【発明者】
【氏名】フ フェン
【テーマコード(参考)】
5H604
5H605
5H607
5H611
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC05
5H604CC13
5H604DB01
5H604PB04
5H604PE06
5H605AA12
5H605BB05
5H605BB10
5H605CC04
5H605EB10
5H605EB30
5H607BB01
5H607BB09
5H607BB14
5H607DD03
5H607FF04
5H607GG08
5H607JJ01
5H607JJ07
5H611BB01
5H611BB07
5H611TT06
5H611UA04
5H611UB01
5H611UB02
(57)【要約】
【課題】本開示は、電動機における軸受の電食の発生を抑制することを図る。
【解決手段】本開示に係る電動機は、固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、前記回転体の中央を貫通するシャフトとを含む回転子と、前記回転体を支持する2つの軸受と、前記2つの軸受の一方の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記2つの軸受の他方の前記軸受を固定する第2の金属ブラケットと、前記第1の金属ブラケットと前記第2の金属ブラケットとを保持する樹脂からなる筐体とを備え、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、容量性部材と第1の導通部材とを配置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、前記回転体の中央を貫通するシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受と第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットと、
前記第1の金属ブラケットを保持する樹脂からなる筐体と、を備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケットと前記第2の金属ブラケットに電気的に接続された静電容量Csb1sb2の容量性部材を有し、当該容量性部材が、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に配置されており、
前記容量性部材により、前記固定子側の静電容量分布と前記回転子側の静電容量分布とが一致もしくは近似している電動機。
【請求項2】
前記筐体の一部に凸部又は凹部があり、前記第1の金属ブラケットには前記筐体の凸部又は凹部に対応する位置に凹部又は凸部があり、いずれかの凹部に囲まれた領域に前記容量性部材が配置されている請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記容量性部材と電気的に接続された第1の導通部材を有し、前記第1の導通部材と前記第2の金属ブラケットが電気的に接続されている請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項4】
前記容量性部材は、前記第1の導通部材の表面に形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の電動機。
【請求項5】
前記容量性部材は、前記第1の金属ブラケットの表面に形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の電動機。
【請求項6】
前記第1の導通部材の一部は、前記筐体と一体成型されている請求項1乃至4のいずれかに記載の電動機。
【請求項7】
前記容量性部材の静電容量Csb1sb2と、前記固定子巻線と前記第1の金属ブラケットとの間の静電容量Csb1と、前記固定子巻線と前記第2の金属ブラケットとの間の静電容量Csb2を含む固定子側の合成静電容量の値A1を大きくして、前記固定子側の合成静電容量A1と、前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位と前記第1の金属ブラケットとの間の静電容量Cnb1の比と、前記固定子巻線と前記固定子鉄心との間の静電容量Ciと、前記固定子鉄心と前記マグネットとの間の静電容量Cgと、前記固定子巻線と前記マグネットとの間の静電容量Csmと、前記マグネットの静電容量Cmを含む回転子側の合成静電容量B1と、前記駆動回路のゼロ基準電位と前記シャフト間との間の静電容量Cnsの比を近似又は一致させる請求項1乃至6のいずれかに記載の電動機。
【請求項8】
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットは、前記固定子の固定子鉄心と、絶縁樹脂により絶縁されている請求項1乃至7のいずれかに記載の電動機。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の電動機と前記電動機により駆動される送風ファンとを搭載した電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機及びその電動機を備えた電気機器に関し、軸受の電食の発生を抑制するように改良された電動機及びその電動機を備えた電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラシレス電動機は、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、適宜、PWM方式という)のインバータにより駆動する方式を採用するケースが多くなってきている。こうしたPWM方式のインバータ駆動の場合、固定子巻線の中性点電位がパワー素子のスイッチングによって変動する。この中性点電位の変動が、電動機の静電容量分布により、軸受の外輪側と軸受の内輪側に分圧される。
【0003】
固定子巻線を含む軸受の外輪側の固定子側の静電容量分布と固定子巻線を含む軸受の内輪側の静電容量の回転子側の静電容量分布とが異なるため、軸受の外輪と軸受の内輪との間に電位差(以下、軸電圧という)が発生する。軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、この軸電圧が軸受内部のグリースの油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部において、グリースの油膜の絶縁破壊による微小電流が流れ、軸受内部の金属表面に荒れを生じて、電食が発生することが知られている(例えば、特許文献1-4及び非特許文献1参照)。
又、電食が進行した場合、軸受の内輪、軸受の外輪又は軸受のボールに波状摩耗現象が発生して異常音に至ることがあり、電動機における不具合の主要因の1つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-158152号公報
【特許文献2】特許第4935934号公報
【特許文献3】特開2007-159302号公報
【特許文献4】WO2015/001782
【特許文献5】特開2012-130157号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「インバータ駆動ブラシレスDCモータの非接地コモンモード等価回路に基づく軸電圧抑制」電気学会論文誌D,2012年,Vol.132,No6,pp.666-672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、電動機及びその電動機を備えた電気機器における軸受の電食の発生を抑制することを図る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る電動機は、
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、前記回転体の中央を貫通するシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受と第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットと、
前記第1の金属ブラケットを保持する樹脂からなる筐体と、を備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケットと前記第2の金属ブラケットに電気的に接続された静電容量Csb1sb2の容量性部材を有し、当該容量性部材が、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に配置されており、
前記容量性部材により、前記固定子側の静電容量分布と前記回転子側の静電容量分布とが一致もしくは近似している。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、電動機及びその電動機を備えた電気機器における軸受の電食の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様である実施形態1における電動機の外観図である。
【
図2】本開示の一態様である実施形態1における電動機の断面の概略構成図である。
【
図3】実施形態1における筐体周辺の概略斜視図である。
【
図4】実施形態1の電動機の断面を模式的に表した概略構成図である。
【
図5】実施形態1の電動機の静電容量分布のモデル図である。
【
図6】実施形態1の電動機の金属ブラケット間の静電容量と、軸電圧と、分圧比との関係を示すグラフである。
【
図7】実施形態1の電動機を用いた電気機器の一態様の斜視図である。
【
図8】実施形態1の電動機を用いた別の電気機器の一態様の斜視図である。
【
図9】実施形態1の電動機を用いた別の電気機器の一態様の斜視図である。
【
図12】従来の別の電動機の断面の概略構成図である。
【
図14】従来の別の電動機の断面の概略構成図である。
【
図15】従来の別の電動機の静電容量分布のモデル図である。
【
図16】従来の別の電動機の断面の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
従来、以下に示す文献に、軸受の電食を抑制するために、軸電圧を低減することで、軸受内部のグリースの油膜を絶縁破壊電圧以下にして、軸受のグリースの油膜の絶縁破壊を起こさない対策が、考案されている。又、軸電圧を低減することで軸受内部のグリースの油膜の絶縁破壊による放電エネルギーを小さくして、軸受内部の金属表面の損傷を小さくする対策が、以下の文献に考案されている。
【0011】
、
以下、上記文献について、詳細に説明する。
図10は、特許文献1のインナーロータ型でブラシレスラジアル型の電動機50の断面の概略構成図である。特許文献1と非特許文献1とは、同じ構成である。
図10に示す様に、電動機50は、電動機50の両端に配置された第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2と、一対の軸受(第1の軸受5a及び第2の軸受5b)、シャフト4、回転子10と、固定子18とを有する。
回転体9は、回転子鉄心8と永久磁石であるマグネット11とを有する。回転子10は、回転体9とシャフト4とを有する。固定子18は、固定子鉄心6と固定子巻線3とを有する。
【0012】
図10に示す様に、第1の軸受5aの外輪は第1の金属ブラケット1に接続され、第2の軸受5bの外輪は第2の金属ブラケット2に接続されている。第1の軸受5aの内輪と第2の軸受5bの内輪とは、シャフト4によって接続され、電気的に導通している。導通部材13で、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とを電気的に短絡している。
【0013】
特許文献1は、導通部材13で、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とを電気的に短絡させ、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との静電容量を一致させている。さらに、特許文献1は、回転体9に誘電体層20を設け、回転体9の静電容量を変化させて軸電圧を低減する方法である。
【0014】
図11は、特許文献1の電動機50の静電容量分布のモデル図である。特許文献1の電動機50においては、固定子鉄心6を基準に静電容量分布を考察するに当たり、電動機50の電圧分布は、インピーダンスにおいて逆数となる容量性リアクタンスの影響が支配的であるため、非特許文献1の
図5に記載されているように、静電容量分布モデルにて説明を行う。
固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1は、第1の軸受5aの電荷が貯まり、第1の軸電圧V
sh1が上がることを模式的に表現している。第1の軸電圧V
sh1が上がり、軸受内部のグリース油膜の絶縁破壊電圧に達すると、絶縁破壊が発生する。固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2も静電容量C
sb1同様、第2の軸受5bの電荷が貯まり、第2の軸電圧V
sh2が上がることを模式的に表現している。第2の軸電圧V
sh2が上がると、絶縁破壊が発生する。
【0015】
第1の軸受5aの外輪側(
図11の1の箇所)と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ基準電位N(12)と固定子巻線3の中性点電位Sとの間に発生する電圧V
comに対して、固定子側の静電容量分布により分圧された値となる。
又、第2の軸受5bの外輪側(
図11の2の箇所)と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ基準電位N(12)と固定子巻線3の中性点電位Sとの間に発生する電圧V
comに対して、固定子側の静電容量分布により分圧された値となる。
第1の軸受5aの内輪側及び第2の軸受5bの内輪側(
図11の4の箇所)と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ電位基準N(12)と固定子巻線3の中性点電位Sとの間に発生する電圧V
comに対して、回転子側の静電容量分布により分圧された値となる。
【0016】
本発明者らは、
図11の静電容量分布を考察することで、以下の知見を見出した。第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2は、第1の軸受5aの外輪側及び第2の軸受5bの外輪側に発生する電圧と内輪側に発生する電圧の差となる。従って、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減するには、固定子側の静電容量分布と回転子側の静電容量分布を一致もしくは近似させる必要があることを見出した。
【0017】
第1の軸受5aの外輪側及び第2の軸受5bの外輪側と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ基準電位N(12)と第1の金属ブラケット1間の静電容量Cnb1と、固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量Csb1及び固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量Csb2の合成静電容量A2との分圧比A2(Cnb1/合成静電容量A2)となる。
又、第1の軸受5aの内輪側及び第2の軸受5bの内輪側と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ基準電位N(12)とシャフト4間の静電容量Cnsと、固定子巻線3と固定子鉄心6との間の静電容量Ci、固定子鉄心6とマグネット11との間の静電容量Cg、固定子巻線3とマグネット11との間の静電容量Csm及びマグネット11の静電容量Cmの合成静電容量B2との分圧比B2(Cns/合成静電容量B2)となる。
【0018】
本発明者らは、鋭意考察した結果、第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2を低減するには、この分圧比A2(Cnb1/合成静電容量A2)と分圧比B2(Cns/合成静電容量B2)とを一致もしくは近似させることを見出した。この分圧比A2と分圧比B2とを一致もしくは近似させることを、以下、単に整合と呼ぶ。
特許文献1では、静電容量Cnb1、Csb2、Cnsは、合成静電容量B2より小さいため、静電容量を整合させるために、合成静電容量B2の静電容量を小さくする方法を取っていることが分かった。
【0019】
図10に示す様に、特許文献1では、回転体9に誘電体層20を設け、静電容量C
dを形成している。この誘電体の静電容量C
dは、
図11の静電容量分布のモデル図において、マグネットの静電容量C
mに、直列に静電容量C
dが挿入されたことになり、合成静電容量B2を小さくすることで、固定子側の静電容量分布と整合をとり、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減する方法であることが分かった。
【0020】
誘電体層20の静電容量C
dは、誘電体層20の厚み方向の距離である幅(
図10における誘電体層20の短い方向の距離)に反比例し、長さ(
図10における誘電体層20の長手方向の距離)に比例する。従って、静電容量C
dを下げるには、誘電体層20の幅を広げる必要がある。
【0021】
しかしながら、特許文献1では、
図10に示す様に、誘電体層20には回転トルクとして応力がかかるため、その強度の確保のために誘電体層20の幅の制約を受ける場合が生じる。その場合、必要とされる静電容量が得られず、軸電圧が下がらないということが考察された。又、特許文献1では、径方向で中央からスポーク状に複数の永久磁石(マグネット)を保持する回転体9を用いた電動機50においては、誘電体層20の幅を広くすることによって永久磁石(マグネット)11の長さを短くする必要が生じ、電動機50の性能が悪化するという課題があった。
【0022】
次に、特許文献2について、説明する。
図12は、特許文献2の電動機50の断面の概略構成図である。
図13は、
図12に示す電動機50の静電容量分布のモデル図である。
図12に示す様に、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2が、導通部材13にて短絡している。固定子鉄心6と、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2のいずれか一方との間にインピーダンス調整部材14を挿入した構成である。
【0023】
図13に示す様に、インピーダンス調整部材14として、静電容量を持ったキャパシタを用いた場合、静電容量C
i、C
sb1及びC
sb2の合成静電容量に対して、インピーダンス調整用キャパシタンスであるインピーダンス調整部材14は、並列に接続される。そして、静電容量C
i、C
sb1及びC
sb2の合成静電容量を大きくすることで、回転子側の静電容量と整合性を取っている。そのことにより、特許文献2では、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減することができる。
【0024】
しかしながら、固定子鉄心6にインピーダンス調整部材14を接続する工法の確立が難しい。又、上記接続後にモールドされるため、生産工程過程で、上記の接続箇所が外れるという課題が考察された。
次に、特許文献3について、説明する。
図14は、特許文献3の電動機50の断面の概略構成図である。
特許文献3では、固定子鉄心6と第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2のいずれか一方とを短絡部材25で短絡させている。特許文献3の
図14では、固定子鉄心6と第1の金属ブラケット1とを短絡させて、第1の軸電圧V
sh1の低減を図っている。
【0025】
特許文献3の構成は、特許文献2の
図10に、同様の構成が記載されている。そして、特許文献3の構成は、特許文献2の比較例3で、軸電圧に波形崩れが発生している問題があることが開示されている。
このことは、固定子鉄心6と短絡された第1の金属ブラケット1との静電容量は大きくなるが、固定子鉄心6と短絡されていない第2の金属ブラケット2との間の静電容量は変わらないためと推察される。よって、第2の軸受V
sh2の軸電圧は下がらず、電食抑制効果は少ないことが考察された。
【0026】
特許文献4について、説明する。
図15は、特許文献4の電動機50の静電容量分布のモデルの図である。
図15に示す様に、第1金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2を電気的に絶縁し、固定子鉄心6と第1の金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1と、固定子鉄心6と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2とを近似あるいは一致するように設定し、軸電圧を低減する方法が開示されている。
【0027】
しかしながら、特許文献4の実施形態においては、静電容量Csb1と静電容量Csb2との比の調整に当たって、部材の寸法調整および部材間の距離等の調整を必要とするため電動機の外形寸法・形状が大きくなるというという懸念が考察された。
又、回転子側の静電容量分布に対して、静電容量の整合調整機能が不十分であり、第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2が下がりきることができないという課題があることが考察された。そのため、第1の軸受5a及び第2の軸受5bのグリースの絶縁破壊現象である第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2の波形崩れが発生し、長期の運転において電食寿命に課題があることが考察された。
【0028】
図16は、特許文献5の電動機50の断面の概略構成図である。
図16に示す様に、電動機50は、電動機50の両端に配置された第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2と、一対の軸受(第1の軸受5a及び第2の軸受5b)、シャフト4、回転子10と、固定子18とを有する。固定子18は、固定子鉄心6と固定子巻線3とを有する。
【0029】
図16に示す様に、第1の軸受5aの外輪は第1金属ブラケット1に接続され、第2の軸受5bの外輪は第2の金属ブラケット2に接続されている。第1の軸受5aの内輪と第2の軸受5bの内輪とは、シャフト4によって接続され、電気的に導通している。第1の軸受5a及び第2の軸受5bからシャフト4が飛び出している。シャフト4の両端には、負荷91、92が配置されている。
電動機50は、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に、樹脂部23を有し、樹脂部23で、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とが固定されている。樹脂部23により、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とは絶縁されている。
【0030】
取付部材61は、絶縁体611と、取付部612、取付部613と、取付脚614とを備えている。第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とは、取付部材61によって絶縁されつつ保持されている。
第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間の樹脂部23の距離が長いため、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間において、樹脂部23は電荷を貯めるために用いられる容量性部材として機能するものではない。よって、樹脂部23は、単に、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とを絶縁するためのものである。
よって、特許文献5では、樹脂部23で、固定子側の静電容量分布と回転子側の静電容量分布を一致もしくは近似させていないので、第1の軸電圧及び第2の軸電圧は下がらず、電食抑制効果はほとんどないという課題があることが考察された。
【0031】
本発明者らは、上記した課題を見出し、その課題解決について、鋭意研究を図り、以下の開示に至った。
図2は、本開示の電動機50の断面の概略構成図である。
図2に示す様に、電動機50の両端に配置された第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2と、第1の軸受5a及び第2の軸受5b、シャフト4、回転子10と、固定子18とを有する。回転体9は、回転子鉄心8と永久磁石であるマグネット11とを有する。回転子10は、回転体9とシャフト4とを有する。電動機50は、第1の金属ブラケットと第2の金属ブラケットとを保持する樹脂からなる筐体20を有する。固定子18は、固定子鉄心6と固定子巻線3とを有する。第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に、第1の金属ブラケット1と接するように静電容量C
sb1sb2の容量性部材15を配置している。
電動機50は、第1の金属ブラケット1と筐体20との間に、第1の金属ブラケット1と接する容量性部材15と、容量性部材15と電気的に接続される第1の導通部材31とが配置され、第1の導通部材31と第2の金属ブラケット2とは、電気的に接続されている。
電動機50は、容量性部材15により、固定子18側の静電容量分布と回転子10側の静電容量分布を一致もしくは近似させている。
【0032】
図5は、本開示の電動機50の静電容量分布のモデルを示した図である。
第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に、静電容量C
sb1sb2の容量性部材15を挿入することで、固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2と容量性部材15の静電容量C
sb1sb2との直列回路が形成される。さらに、この直列回路と、固定子巻線3と第1金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1との並列回路が形成される。この容量性部材15の静電容量C
sb1sb2を調整することで、合成静電容量A1を調整することができる。ここで、合成静電容量A1は、静電容量C
sb1と、静電容量C
sb2と、静電容量C
sb1sb2との合成静電容量のことである。合成静電容量B1は、固定子巻線3と固定子鉄心間6との間の静電容量C
iと、固定子鉄心6とマグネット11との間の静電容量C
gと、固定子巻線3とマグネット11との間の静電容量C
smと、マグネット11の静電容量C
mとの合成静電容量のことである。
具体的には、本発明者らは、静電容量C
sb1sb2を大きくすることで、合成静電容量A1を大きくし、分圧比A1(C
nb1/合成静電容量A1)と分圧比B1(C
ns/合成静電容量B1)とを一致もしくは近似させることを見出した。その結果、固定子側の静電容量分布と、回転子側の静電容量分布との整合をとり、軸電圧を低減する方法に想到した。
以上の考察に基づき、本発明者らは、以下に説明する本開示の態様に想到した。
【0033】
本開示の一態様に係る電動機は、
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、前記回転体の中央を貫通するシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受と第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットと、
前記第1の金属ブラケットを保持する樹脂からなる筐体と、を備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケットと前記第2の金属ブラケットに電気的に接続された静電容量Csb1sb2の容量性部材を有し、当該容量性部材が、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に配置されており、
前記容量性部材により、前記固定子側の静電容量分布と前記回転子側の静電容量分布とが一致もしくは近似している。
上記態様によれば、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、前記第1の金属ブラケットと接する容量性部材と、前記容量性部材と電気的に接続される第1の導通部材とが配置され、前記第1の導通部材と前記第2の金属ブラケットとが電気的に接続され、前記容量性部材により、分圧比A1(Cnb1/合成静電容量A1)と分圧比B1(Cns/合成静電容量B1)とを近づけることにより、電動機における軸受の電食の発生を抑制することができる。
上記態様によれば、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、前記第1の金属ブラケットと接する前記容量性部材を配置するので、前記筐体以外の前記電動機内部に前記容量性部材を配置する必要がないので、電動機の小型化を実現可能である。又、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、前記容量性部材を配置しているので、前記回転子10が振動しても、前記容量性部材は位置ずれを起こさない。前記第1の導通部材と接する前記容量性部材の面積又は厚みを変えることで、前記容量性部材は、任意の静電容量を容易に設定できる。
又、第1の金属ブラケット1のコの字形の部分(凹部)の表面に、容量性部材15を設けて、容量性部材15と第1の導電部材31とを電気的に接続しても、上記効果と同様の効果が得られる。
【0034】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0035】
(実施形態1)
以下、本開示の一態様を示す電動機について図面を用いて説明する。
【0036】
図1は、本開示の一態様を示すインナーロータ型でブラシレスラジアル型の電動機50の外観図である。
電動機50は、蓋部材21と、筐体20と、シャフト4とを有する。蓋部材21は、第1の金属ブラケット1を含み、筐体20は、第2の金属ブラケット2を含む。
図2は、本開示の一態様を示すインナーロータ型でブラシレスラジアル型の電動機50の断面の概略構成図である。
図2に示す様に、電動機50の両端には、導電性を有する第1の金属ブラケット1と導電性を有する第2の金属ブラケット2とが配置されている。第1の金属ブラケット1の外径は、第2の金属ブラケット2の外径と同じか、又は大きい。そのことにより、安定に軸受が支承されシャフト4を回転できる。
第1の金属ブラケット1の中央部には、第1の金属ブラケット1に固定された第1の軸受5aが配置され、第2の金属ブラケット2の中央部には、第2の金属ブラケット2に固定された第2の軸受5bが配置されている。シャフト4は、第1の軸受5aと第2の軸受5bとにより、支持され回転する。シャフト4は、第1の金属ブラケット1から突出している。
固定子18は、回転磁界を発生させ、回転磁界により回転子10を回転させるものである。固定子18の内側には、固定子18と空隙を介して回転子10が挿入されている。
固定子18は、固定子鉄心6と巻線である固定子巻線3とを有する。固定子鉄心6には、固定子鉄心6を絶縁するための樹脂7が介在して、固定子巻線3が巻装されている。又、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2は、固定子鉄心6と、空間により絶縁されていてもよい。
回転子10は、電動機50において回転するもので、シャフト4と回転体9とを有する。回転体9は、回転子鉄心8とフェライト磁石である永久磁石のマグネット11とを有する。回転子10は、回転子鉄心8の外周に複数のマグネット11を保持し、回転子鉄心8の中央を貫通するようにシャフト4を有する。又、回転子10は、固定子18に対向して中央からスポーク状に複数のマグネット11を保持していてもよい。
【0037】
シャフト4には、シャフト4を支持する第1の軸受5a及び第2の軸受5bが取り付けられている。第1の軸受5a及び第2の軸受5bは、複数の鉄ボールを有した円筒形状のベアリングであり、第1の軸受5aの内輪側及び第2の軸受5bの内輪側が、シャフト4に固定されている。その結果、第1の軸受5aの内輪と、第2の軸受5bの内輪と、シャフト4とは、電気的に導通している。
【0038】
そして、これらの第1の軸受5a及び第2の軸受5bにおいて、それぞれ導電性を有した第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2により、第1の軸受5aの外輪側及び第2の軸受5bの外輪側が固定されている。
図2では、第1の金属ブラケット1に第1の軸受5aが固定され、第2の金属ブラケット2に第2の軸受5bが固定され、シャフト4は2つの軸受に支持され、回転子10が回転自在に回転する。
【0039】
さらに、この電動機50の内部に、回転磁界を発生させる駆動回路を実装したプリント基板12が、回転子10と第1の金属ブラケット1との間に配置されている。例えば、駆動回路には、固定子巻線3に電圧を印加するためにインバータ回路等が実装されている。
【0040】
以上のように構成された電動機50に対して、駆動回路より電圧を固定子巻線3に印加することにより、固定子巻線3に電流が流れ、固定子鉄心6から磁界が発生する。そして、固定子鉄心6からの回転磁界とマグネット11からの磁界とにより、それらの磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によってシャフト4を中心に回転子10が回転する。
【0041】
図2において、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とは、樹脂からなる筐体20で保持されている。
図2において、第2の金属ブラケット2と、固定子巻線3と、固定子鉄心6とを樹脂によりモールド一体成型し、筐体20を形成している。筐体20は、第1の金属ブラケット1側の端部に、突起部22を有している。
【0042】
図2の左下の図は、
図2の容量性部材15の周辺の拡大図である。
第1の金属ブラケット1の外側の端部は、コの字形に窪んでいる(凹部)。第1の金属ブラケット1のコの字形の部分(凹部)と突起部22(凸部)との間に、第1の金属ブラケット1と接する容量性部材15と、容量性部材15に接する第1の導通部材31とが配置されている。第1の金属ブラケット1の凹部に囲まれた領域に容量性部材15を配置している。つまり、第1の金属ブラケット1のコの字形の部分(凹部)と突起部22(凸部)とは、容量性部材15及び第1の導通部材31を介して接合している。容量性部材15及び第1の導通部材31の上下の両側は、第1の金属ブラケット1と接触していない。この様な構成により、第1の金属ブラケット1がコンデンサの等価電極となり、容量性部材15がコンデンサの等価誘電体層となり、第1の導通部材31がコンデンサの等価電極となり、等価コンデンサが形成される。この等価コンデンサの静電容量は、コンデンサの静電容量の式より、
C=ε
0ε
rS/d (式1)
S:第1金属ブラケット1が第1の導通部材31と対向する面積[m
2]
d:容量性部材15の厚さ[m]
ε
0:真空中の誘電率、8.85×10-12[F/m]
ε
r:容量性部材15の比誘電率
となり、第1の導通部材31と第1金属ブラケット1とが対向する面積S(第1の金属ブラケット1と容量性部材15との接触面積、又は、容量性部材15と第1の導通部材31との接触面積)と容量性部材15の厚さd、容量性部材15の比誘電率ε
rを変えることによって、静電容量の値を任意に設計することが可能である。
容量性部材15を配置している筐体20以外の箇所と、第1の金属ブラケット1の少なくとも一部とは嵌合し、筐体20は、第1の金属ブラケット1を保持している。
尚、第1の金属ブラケット1のコの字形の部分(凹部)の表面に、先に容量性部材15を設けて、容量性部材15と第1の導電部材31とを電気的に接続してもよい。
尚、第1の金属ブラケット1に凸部を設け、筐体20に凹部を設けて、凹部に囲まれた領域に容量性部材15を配置してもよい。
【0043】
図3は、筐体20の突起部22の周辺の斜視図である。
突起部22の先端部の平坦部に、第1の導通部材31が配置されている。第1の導通部材31の上に、容量性部材15が配置されている。
電動機50は、第1の導通部材31と電気的に接続する第2の導通部材32を有している。第1の導通部材31と第2の導通部材32はL字形に接続され、第2の導通部材32は、突起部22の内側の端部に配置されている。第1の導通部材31をL字形に折り曲げて、第2の導通部材32を作製してもよい。第1の導通部材31は、突起部22の先端部と一体成型されていてもよい。第1の導通部材31と第2の導通部材32とは、例えば、リン青銅、真鍮等の金属の板である。
図2の拡大図に示す様に、第2の導通部材32は、筐体20から突出した第3の導通部材33の一端と電気的に接続されている。第3の導通部材33の他端は、第2の金属ブラケット2の下の端部と電気的に接続されている(
図2)。
図2の拡大図に示す様に、第3の導通部材33の一端はピンからなる端子で、そのピンと第2の導通部材32とが電気的に接続されている。第3の導通部材33の端子以外は、例えば、金属線である。
【0044】
このように、第1の導通部材31と、第2の導通部材32と、第3の導通部材33とは電気的に接続されて、容量性部材15と第2の金属ブラケット2とを電気的に接続している。電気的に接続された第1の導通部材31と、第2の導通部材32と、第3の導通部材33とを纏めて、第1の導通部材31と呼んでもよい。
【0045】
この構成により、電動機50の内部において、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に容量性部材15が配置され、容量性部材15を介して、第1の金属ブラケット1と、第2の金属ブラケット2とが電気的に接続されている。
図4は、
図2の電動機50の断面を模式的に表した概略構成図である。
図4に示す様に、電動機50の両端には、導電性を有する第1の金属ブラケット1と導電性を有する第2の金属ブラケット2とが配置されている。
第1の金属ブラケット1の中央部には、第1の金属ブラケット1に固定された第1の軸受5aが配置され、第2の金属ブラケット2の中央部には、第2の金属ブラケット2に固定された第2の軸受5bが配置されている。シャフト4は、第1の軸受5aと第2の軸受5bとにより、支持され回転する。シャフト4は、第1の金属ブラケット1から突出している。
【0046】
以上のように構成された電動機50に対して、駆動回路より電圧を固定子巻線3に印加することにより、固定子巻線3に電流が流れ、固定子鉄心6から磁界が発生する。そして、固定子鉄心6からの回転磁界とマグネット11からの磁界とにより、それらの磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によってシャフト4を中心に回転子10が回転する。
【0047】
図4に示す様に、第1の金属ブラケット1と静電容量C
sb1sb2の容量性部材15とが電気的に接続されている。導通部材31の一方の端部が、容量性部材15と電気的に接続され、導通部材31の他方の端部が、第2の金属ブラケット2と電気的に接続されている。
【0048】
この構成により、電動機50の内部において、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に容量性部材15が配置され、第1の金属ブラケット1と、容量性部材15と、第2の金属ブラケット2とを電気的に接続することができる。
【0049】
図5は、実施形態1の静電容量分布のモデル図である。第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に挿入された容量性部材15の静電容量をC
sb1sb2とする。静電容量C
sb1sb2は、固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2と直列回路を構成する。さらに、この直列回路は、固定子巻線3と第1金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1と並列回路を構成し、直並列合成静電容量A1(以下、合成静電容量A1と言う)となる。又、固定子巻線3と固定子鉄心間6との間の静電容量C
iと、固定子鉄心6とマグネット11との間の静電容量C
gと、固定子巻線3とマグネット11間の静電容量C
smと、マグネット11の静電容量C
mとは、直列及び/又は並列に回路構成され、直並列合成静電容量B1(以下、合成静電容量B1と言う)となる。
【0050】
固定子18側の静電容量分布と回転子10側の静電容量分布とを近似させるためには、第1の軸受5a及び第2の軸受5bの内輪及び外輪を基準とし、駆動回路のゼロ基準電位N(12)と第1の金属ブラケット1との間の静電容量Cnb1と合成静電容量A1の比(Cnb1/合成静電容量A1)と、駆動回路のゼロ基準電位N(12)とシャフト4との間の静電容量Cnsと合成静電容量B1の比(Cns/合成容量B1)とを近似させる。
【0051】
図6は、容量性部材15の静電容量C
sb1sb2の値を変えて、第1の軸受5aの軸電圧V
sh1(以下、第1の軸電圧V
sh1と言う)及び第2の軸受5bの第2の軸電圧V
sh2(以下、第2の軸電圧V
sh1と言う)を測定した実験結果である。
実験において、マグネット11の静電容量C
mが21pF、回転子10の直径が51mm、第1の軸受5a及び第2の軸受5bには、ミネベア製608を使用した。第1の軸受5a及び第2の軸受5bのグリースは、ちょう度が239のものを使用した。固定子巻線3の電源電圧を391Vとし、回転数1000r/minにて、回転子10を回転させた。
【0052】
図6において、横軸は、容量性部材15の静電容量C
sb1sb2の値、左側の縦軸は、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2である。
図6の右側の縦軸は、比(C
nb1/合成静電容量A1)の逆数である比(合成静電容量A1/C
nb1)と、比(C
ns/合成静電容量B1)の逆数である比(合成静電容量B1/C
ns)との比(分圧比)を計算し、その分圧比の値を示したものである。
第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2の測定は、第1の軸受5aの外輪及び第2の軸受5bの外輪を基準に内輪の電圧を測定し、外輪に対し内輪の電圧が高い場合をプラス、外輪に対し内輪の電圧が低い場合をマイナスとした。
【0053】
図6から明らかなように、静電容量C
sb1sb2の値が小さい場合は、第1の軸電圧V
sh1はブラスの大きな電圧となり、第2の軸電圧V
sh2はマイナスの大きな電圧となる。静電容量C
sb1sb2の値を大きくしていくと、第1の軸電圧V
sh1は徐々に小さな値となり、第1の軸電圧V
sh1は、徐々に第2の軸電圧V
sh2に近づいて行くことが分かる。又、静電容量C
sb1sb2の値を大きくしていくと、第2の軸電圧V
sh2も徐々にマイナスの小さな値となることが分かる。
第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2は、第1の軸受5a及び第2の軸受5bの外輪と内輪との電圧の電圧差であり、これらの電位差は徐々に低減されている。
図6に示す様に、静電容量C
sb1sb2を調整することで、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2は、一般的な軸受のグリースの絶縁破壊の目安とされる5V以下まで減少させることができることが分かった。又、第1の軸受5a及び第2の軸受5bのグリース油膜の絶縁破壊の現象である軸電圧波形の波形崩れが、生じないことも確認した。
【0054】
図6に示す様に、比(合成静電容量A1/C
nb1)と比(合成静電容量B1/C
ns)との比が0.7から1.1の範囲で、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2の絶対値が5V以下に低減することが可能であることが分かった。
つまり、比(合成静電容量A1/C
nb1)と比(合成静電容量B1/C
ns)とを近似、又は一致させることで、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減させることが可能である。又、比(合成静電容量A1/C
nb1)の逆数である比(C
nb1/合成静電容量A1)と、比(合成静電容量B1/C
ns)の逆数である比(C
ns/合成静電容量B1)とを近似、又は一致させることで、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減させることが可能である。
【0055】
容量性部材15は、電荷を保持できるものであれば限定されず、例えば、樹脂フィルム、メッキ処理などの誘電体が好ましい。
容量性部材15の一態様について、具体的に説明する。
容量性部材15は、例えば、溶融亜鉛メッキ処理とリン酸亜鉛処理とを第1の導通部材の表面に行って、リン酸亜鉛の結晶被膜である容量性部材15を第1の導通部材の表面に形成し、以下の2つのサンプルを作製した。この時の容量性部材15の厚みdは、5×10
-6m(5μm)で、容量性部材15の比誘電率ε
rは、3である。
(サンプル1)
容量性部材15の面積Sは、0.33×10
-4m
2であり、容量性部材15の静電容量Cは、式1より175pFとなる。
(サンプル2)
容量性部材15の面積Sは、0.57×10
-4m
2であり、容量性部材15の静電容量Cは、式1より、303pFとなる。
図6より、サンプル1の容量性部材15の静電容量が175pFの場合、及び、サンプル2の容量性部材15の静電容量が303pFの場合において、いずれの場合も、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2の絶対値が、5V以下に低減できることが分かる。
【0056】
上記のメカニズムについて、
図5を用いて詳細に説明する。
固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2と容量性部材15の静電容量C
sb1sb2とは直列回路であるため、第2の金属ブラケット2の第2の電圧V
sh2は、固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の第1の軸電圧V
sh1に対し、容量性部材15の静電容量C
sb1sb2の両端に分圧された電圧が加わる。
容量性部材15の静電容量C
sb1sb2が大きくなると、その両端に分圧される電圧が小さくなり、第2の軸受5bの外輪に生じる第2の軸電圧V
sh2は、第1の軸電圧V
sh1の値に近づくため、第2の軸電圧V
sh2も低減することができる。
つまり、固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1、固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2、容量性部材15の静電容量C
sb1sb2との合成静電容量A1を大きくし、固定子18側の合成性静電容量分布と回転子10側の合成性静電容量分布との整合性を取ることで、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減することができる。
【0057】
このように、実施形態1において、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との間に容量性部材15を挿入し、固定子18側の静電容量分布及び回転子10側の静電容量分布の整合性を取ることで、第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2を低減し、電食を抑制する効果が得られる。
【0058】
実施形態1に係る電動機50は、筐体20の突起部22に、容量性部材15を容易に取り付けることができるので、製造性に優れている。
実施形態1に係る電動機50は、第1の金属ブラケット1と突起部22との間に、第1の金属ブラケット1と接する容量性部材15を配置する。よって、電動機50の内部に容量性部材15を配置する必要がないので、電動機50の小型化を図ることができる。
又、第1の金属ブラケット1と突起部22との間に、容量性部材15を配置しているので、回転子10が振動しても、容量性部材15は位置ずれを起こさない。
又、第1の導通部材31の表面上の容量性部材15の面積、又は厚みを変えることで、容量性部材15は、任意の静電容量を容易に設定できる。
(実施形態2)
本開示にかかる電気機器の例として、エアコン室内機の構成を実施形態2として、詳細に説明する。本開示にかかる電気機器は、必ずしもこれらの一例に限定されるものではない。
【0059】
図7において、エアコン室内機110の筐体111内には、ブラシレスモータ101が備えられている。そのブラシレスモータ101の回転軸には、送風ファンであるクロスフローファン112が取り付けられている。ブラシレスモータ101は、モータ駆動装置113によって駆動される。モータ駆動装置113からの通電により、ブラシレスモータ101が回転し、それに伴いクロスフローファン112が回転する。そのクロスフローファン112の回転により、室内機用熱交換器(図示せず)によって、空気調和された空気を室内に送風する。ここで、ブラシレスモータ101は、例えば、上記した実施形態1の電動機50が適用できる。
【0060】
本開示の電気機器は、ブラシレスモータと、そのブラシレスモータが搭載された筐体とを備え、ブラシレスモータとして、上記した実施形態1の電動機50を採用したものである。
(実施形態3)
本開示にかかる電気機器の例として、エアコン室外機の構成を実施形態3として、詳細に説明する。
【0061】
図8において、エアコン室外機201は、筐体211の内部にブラシレスモータ208を備えている。そのブラシレスモータ208は、回転軸に送風ファン212を取り付けている。
【0062】
エアコン室外機201は、筐体211の底板202に立設した仕切り板204により、圧縮機室206と熱交換器室209とに区画されている。圧縮機室206には、圧縮機205が設けられている。熱交換器室209には、熱交換器207及びブラシレスモータ208が配設されている。仕切り板204の上部には電装品箱210が設けられている。
【0063】
そのブラシレスモータ208は、電装品箱210内に収容されたモータ駆動装置により、駆動される。ブラシレスモータ208の回転に伴い、送風ファン212が回転し、熱交換器207を通して熱交換器室209に送風する。ここで、ブラシレスモータ208は、例えば、上記した実施形態1の電動機50が適用できる。
【0064】
本開示の電気機器は、ブラシレスモータ208と、ブラシレスモータ208が搭載された筐体とを備え、ブラシレスモータ208として、上記した実施形態1の電動機50を採用したものである。
(実施形態4)
本開示にかかる電気機器の例として、給湯器の構成を実施形態4として、詳細に説明する。
【0065】
図9において、給湯器330の筐体331内には、ブラシレスモータ333を備えている。そのブラシレスモータ333の回転軸には、送風ファン332が取り付けられている。
【0066】
ブラシレスモータ333は、モータ駆動装置334によって駆動される。モータ駆動装置334からの通電により、ブラシレスモータ333が回転し、それに伴い送風ファン332が、回転する。その送風ファン332の回転により、燃料気化室(図示せず)に対して燃焼に必要な空気を送風する。ここで、ブラシレスモータ333は、例えば、上記した実施形態1の電動機50が適用できる。
【0067】
本開示の電気機器は、ブラシレスモータ333と、ブラシレスモータ333が搭載された筐体とを備え、ブラシレスモータ333として、上記した実施形態1の電動機50を採用したものである。
【0068】
尚、実施形態1の
図2において、駆動回路を備えたプリント基板12を電動機50の内部に設けたが、駆動回路を備えたプリント基板12を電動機50の外部に設けてもよい。その場合、電動機50をコンパクトにできる。
尚、実施形態2~4に、電動機が回転するものとして、送風ファンを使用したが、回転されるものは、特に限定されない。
尚、実施形態1~4に係る発明は、矛盾が生じない限り、置き換えたり、組合せたりすることができる。
【0069】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の電動機及びその電動機を備えた電気機器を含む。
〔項目1〕
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、前記回転体の中央を貫通するシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受と第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットと、
前記第1の金属ブラケットを保持する樹脂からなる筐体と、を備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケットと前記第2の金属ブラケットに電気的に接続された静電容量Csb1sb2の容量性部材を有し、当該容量性部材が、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に配置されており、
前記容量性部材により、前記固定子側の静電容量分布と前記回転子側の静電容量分布とが一致もしくは近似している電動機。
上記態様によれば、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、前記第1の金属ブラケットと接する容量性部材と、前記容量性部材と電気的に接続される第1の導通部材とが配置され、前記第1の導通部材と前記第2の金属ブラケットとが電気的に接続され、前記容量性部材により、分圧比A1(Cnb1/合成静電容量A1)と分圧比B1(Cns/合成静電容量B1)とを近づけることにより、電動機における軸受の電食の発生を抑制することができる。
上記態様によれば、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、前記第1の金属ブラケットと接する前記容量性部材を配置するので、前記筐体以外の前記電動機内部に前記容量性部材を配置する必要がないので、電動機の小型化を実現可能である。又、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に、前記容量性部材を配置しているので、前記回転子が振動しても、前記容量性部材は位置ずれを起こさない。前記第1の導通部材と接する前記容量性部材の面積又は厚みを変えることで、前記容量性部材は、任意の静電容量を容易に設定できる。
【0070】
〔項目2〕
前記筐体の一部に凸部又は凹部があり、前記第1の金属ブラケットには前記筐体の凸部又は凹部に対応する位置に凹部又は凸部があり、いずれかの凹部に囲まれた領域に前記容量性部材が配置されている項目1に記載の電動機。
上記態様によれば、前記第1の金属ブラケットと前記筐体とを、円筒形状の前記筐体のどこかで嵌合させ固定した状態で、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に前記容量性部材を配置することができる。
【0071】
〔項目3〕
前記容量性部材と電気的に接続された第1の導通部材を有し、前記第1の導通部材と前記第2の金属ブラケットが電気的に接続されている項目1又は2に記載の電動機。
上記態様によれば、前記容量性部材と電気的に接続された第1の導通部材を有し、前記第1の導通部材を用いて、前記第1の導通部材と前記第2の金属ブラケットが電気的に接続されていることで、前記第1の金属ブラケットと前記筐体との間に前記容量性部材を配置することができる。
【0072】
〔項目4〕
前記容量性部材は、前記第1の導通部材の表面に形成されている項目1乃至3のいずれかに記載の電動機。
上記態様によれば、前記容量性部材を前記第1の導通部材の表面に形成することで、前記容量性部材と前記第1の導通部材とが強固に接続される。又、メッキ法等で、前記容量性部材を薄膜に形成することが容易となる。
【0073】
〔項目5〕
前記容量性部材は、前記第1の金属ブラケットの表面に形成されている項目1乃至3のいずれかに記載の電動機。
上記態様によれば、前記容量性部材を前記第1の金属ブラケットの表面に形成することで、前記容量性部材と前記第1の金属ブラケットとが強固に接続される。又、省スペースで、前記容量性部材を形成することができる。
【0074】
〔項目6〕
前記第1の導通部材の一部は、前記筐体と一体成型されている項目1乃至4のいずれかに記載の電動機。
上記態様によれば、前記第1の導通部材の一部が、前記筐体と一体成型されることで、前記第1の導通部材は、前記筐体に強固に固定される。又、省スペースで、前記第1の導通部材を配置することができる。
【0075】
〔項目7〕
前記容量性部材の静電容量Csb1sb2と、前記固定子巻線と前記第1の金属ブラケットとの間の静電容量Csb1と、前記固定子巻線と前記第2の金属ブラケットとの間の静電容量Csb2を含む固定子側の合成静電容量の値A1を大きくして、前記固定子側の合成静電容量A1と、前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位と前記第1の金属ブラケットとの間の静電容量Cnb1の比と、前記固定子巻線と前記固定子鉄心との間の静電容量Ciと、前記固定子鉄心と前記マグネットとの間の静電容量Cgと、前記固定子巻線と前記マグネットとの間の静電容量Csmと、前記マグネットの静電容量Cmを含む回転子側の合成静電容量B1と、前記駆動回路のゼロ基準電位と前記シャフト間との間の静電容量Cnsの比を近似又は一致させる項目1乃至6のいずれかに記載の電動機。
上記態様によれば、合成静電容量の値A1を大きくして、前記合成静電容量A1と前記静電容量Cnb1の比(合成静電容量A1/Cnb1)と、前記合成静電容量B1と、前記静電容量Cnsの比(合成静電容量B1/Cns)を近似又は一致させ、電動機における軸受の電食の発生を抑制することができる。
【0076】
〔項目8〕
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットは、前記固定子の固定子鉄心と、絶縁樹脂により絶縁されている項目1乃至7のいずれかに記載の電動機。
上記態様によれば、絶縁されていることより、回転子磁界を生成し易い。
【0077】
〔項目9〕
項目1乃至8のいずれかに記載の電動機と前記電動機により駆動される送風ファンとを搭載した電気機器。
上記態様によれば、送風ファンを備えた電気機器の電動機の軸受の電食の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 第1の金属ブラケット
2 第2の金属ブラケット
3 固定子巻線
4 シャフト
5a 第1の軸受
5b 第2の軸受
6 固定子鉄心
7 樹脂
8 回転子鉄心
9 回転体
10 回転子
11 マグネット
12 プリント基板
13 導通部材
14 インピーダンス調整部材
15 容量性部材
18 固定子
20 筐体
21 蓋部材
22 突起部
31 第1の導通部材
32 第2の導通部材
33 第3の導通部材
50 電動機