(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033907
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】金属箔被覆管、金属箔被覆管の製造方法及び水素分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230306BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20230306BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20230306BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20230306BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20230306BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230306BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D63/06
B01D63/00 500
B01D53/22
B01D69/04
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139860
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(71)【出願人】
【識別番号】591088870
【氏名又は名称】株式会社巴商会
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直次
(72)【発明者】
【氏名】今 俊史
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA22
4D006JA25Z
4D006JA27Z
4D006MA02
4D006MA09
4D006MC02X
4D006NA45
4D006PA02
4D006PB66
(57)【要約】
【課題】優れた気密性及び生産性を有する金属箔被覆管、上記金属箔被覆管の製造方法及び上記金属箔被覆管を備える水素分離装置の提供。
【解決手段】本開示の金属箔被覆管は、複数の孔を有する筒状支持体と、上記筒状支持体の外表面を被覆し、両端部が重なり合う金属箔と、第1の接合部材及び第2の接合部材により上記金属箔の両端部が重なり合う部分が挟まれてなる接合部と、上記筒状支持体の長手方向の一方の端部に、上記金属箔及び上記接合部の一部を覆うように設けられるエンドキャップと、を備え、上記接合部が、上記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられ、上記第1の接合部材が、上記筒状支持体に接触させて設けられ、且つ上記第2の接合部材が、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔を有する筒状支持体と、
前記筒状支持体の外表面を被覆し、両端部が重なり合う金属箔と、
第1の接合部材及び第2の接合部材により前記金属箔の両端部が重なり合う部分が挟まれてなる接合部と、
前記筒状支持体の長手方向の一方の端部に設けられるエンドキャップと、
前記筒状支持体の長手方向の他方の端部に設けられる中空管と、
を備え、
前記接合部が、前記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられ、
前記第1の接合部材が、前記筒状支持体に接触させて設けられ、且つ
前記第2の接合部材が、前記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して、前記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように設けられる、
金属箔被覆管。
【請求項2】
前記筒状支持体が、長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられる凹状部を有し、且つ
前記凹状部に前記第1の接合部材が設けられる、
請求項1に記載の金属箔被覆管。
【請求項3】
前記金属箔が、前記筒状支持体の外表面の面積の70%以上を被覆する、
請求項1又は請求項2に記載の金属箔被覆管。
【請求項4】
前記第2の接合部材が、前記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して、前記第1の接合部材と幅方向に、1mm以上重なるように設けられる、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の金属箔被覆管。
【請求項5】
前記金属箔が、パラジウム及びパラジウム合金の少なくとも一方を含む、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の金属箔被覆管。
【請求項6】
長手方向の一方の端部にエンドキャップを備え、他方の端部に中空管を備える、複数の孔を有する筒状支持体を用意する工程と、
前記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に接触させて第1の接合部材を設ける工程と、
前記筒状支持体の外表面に、金属箔を両端部が重なり合うように巻き付ける工程と、
第2の接合部材を、前記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して前記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように配置し、前記第1の接合部材及び前記第2の接合部材を、前記金属箔の両端部が重なり合う部分を挟み込むように接合し、接合部を形成する工程と、
を備える、
金属箔被覆管の製造方法。
【請求項7】
前記接合部の形成が、前記第1の接合部材及び前記第2の接合部材に対して、レーザーを照射することにより行われる、
請求項6に記載の金属箔被覆管の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の金属箔被覆管と、
前記金属箔被覆管を収容する、ガス導入部及びガス排出部を備えるハウジング容器と、
を備え、且つ
前記金属箔被覆管の前記中空管が設けられる端部が、前記水素ガス排出部に接続又は装入される、
水素分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属箔被覆管、金属箔被覆管の製造方法及び水素分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の消費に伴う二酸化炭素の増加による地球温暖化等の問題が深刻化している。上記問題の解決策として、クリーンエネルギーである燃料電池が近年注目されている。
【0003】
燃料電池の燃料は水素であり、水素の分離方法が種々検討されており、例えば、水素ガスを選択的に透過する金属箔等の使用が行われている。
例えば、特許文献1には、Nb-Ni-Ti系合金板の端面同士を突き合わせ溶着により円筒状に成形してなる円筒状水素分離膜と、円筒状水素分離膜の内側に接着されるポーラス体とを備える円筒状水素分離器が開示される。
【0004】
特許文献1において開示される円筒状水素分離器の製造は、ポーラス体に円筒状水素分離膜を巻き付け、円筒状水素分離膜の突き合わせ部分又は重なり合う部分を溶着することにより行われているが、これには高い技術が求められ、溶着不良等に起因する気密性の低下、生産性の低下が生じるおそれがあった。
【0005】
上記問題に対し、特許文献2では、複数の孔を有する筒状の支持体と、上記支持体の外表面側に配されかつ混合ガスから水素ガスを選択的に透過させる水素分離膜層とを含む水素分離膜モジュールであって、上記水素分離膜層は、互いに反対側に位置する第1端部分及び第2端部分を有するシート状の水素分離膜要素が環状構造に成形されたものであり、上記環状構造が、上記支持体を囲む環状部と、上記第1端部分及び上記第2端部分が互いに重ねられかつ固着されている接合部とを含み、上記接合部は、上記第1端部分及び第2端部分の一方が上記環状部に対して折り返されるように上記環状部の上に重ねられている、水素分離膜モジュールが提案される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-208607号公報
【特許文献2】特開2019-25416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今般、本発明者は、特許文献2において開示される水素分離膜モジュールの生産性には、さらなる改善の余地があるとの知見を得た。
【0008】
本開示の解決しようとする課題は、優れた気密性及び生産性を有する金属箔被覆管、上記金属箔被覆管の製造方法及び上記金属箔被覆管を備える水素分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 複数の孔を有する筒状支持体と、
上記筒状支持体の外表面を被覆し、両端部が重なり合う金属箔と、
第1の接合部材及び第2の接合部材により上記金属箔の両端部が重なり合う部分が挟まれてなる接合部と、
上記筒状支持体の長手方向の一方の端部に設けられるエンドキャップと、
上記筒状支持体の長手方向の他方の端部に設けられる中空管と、
を備え、
上記接合部が、上記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられ、
上記第1の接合部材が、上記筒状支持体に接触させて設けられ、且つ
上記第2の接合部材が、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して、上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように設けられる、
金属箔被覆管。
<2> 上記筒状支持体が、長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられる凹状部を有し、且つ
上記凹状部に上記第1の接合部材が設けられる、
上記<1>に記載の金属箔被覆管。
<3> 上記金属箔が、上記筒状支持体の外表面の面積の70%以上を被覆する、
上記<1>又は<2>に記載の金属箔被覆管。
<4> 上記第2の接合部材が、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して、上記第1の接合部材と幅方向に、1mm以上重なるように設けられる、
上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の金属箔被覆管。
<5> 上記金属箔が、パラジウム及びパラジウム合金の少なくとも一方を含む、
上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の金属箔被覆管。
<6> 長手方向の一方の端部にエンドキャップを備え、他方の端部に中空管を備える、複数の孔を有する筒状支持体を用意する工程と、
上記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に接触させて第1の接合部材を設ける工程と、
上記筒状支持体の外表面に、金属箔を両端部が重なり合うように巻き付ける工程と、
第2の接合部材を、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように配置し、上記第1の接合部材及び上記第2の接合部材を、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を挟み込むように接合し、接合部を形成する工程と、
を備える、
金属箔被覆管の製造方法。
<7> 上記接合部の形成が、上記第1の接合部材及び上記第2の接合部材に対して、レーザーを照射することにより行われる、
上記<6>に記載の金属箔被覆管の製造方法。
<8> 上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の金属箔被覆管と、
上記金属箔被覆管を収容する、ガス導入部及びガス排出部を備えるハウジング容器と、
を備え、且つ
上記金属箔被覆管の上記中空管が設けられる端部が、上記水素ガス排出部に接続又は装入される、
水素分離装置。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、優れた気密性及び生産性を有する金属箔被覆管、上記金属箔被覆管の製造方法及び上記金属箔被覆管を備える水素分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一方の端にエンドキャップ、他方の端に中空管を備える、筒状支持体の一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、金属箔被覆管の一実施形態を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、金属箔被覆管の一実施形態を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、水素分離装置の一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0013】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0014】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、合成例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0016】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0017】
本開示にて示す各図面における各要素は必ずしも正確な縮尺ではなく、本開示の原理を明確に示すことに主眼が置かれており、強調がなされている箇所もある。
【0018】
(金属箔被覆管)
本開示の金属箔被覆管は、
複数の孔を有する筒状支持体と、
上記筒状支持体の外表面を被覆し、両端部が重なり合う金属箔と、
第1の接合部材及び第2の接合部材により上記金属箔の両端部が重なり合う部分が挟まれてなる接合部と、
上記筒状支持体の長手方向の一方の端部に設けられるエンドキャップと、
上記筒状支持体の長手方向の他方の端部に設けられる中空管と、を備え、
上記接合部が、上記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられ、上記第1の接合部材が、上記筒状支持体に接触させて設けられ、且つ上記第2の接合部材が、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して、上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように設けられる。
【0019】
本発明者が鋭意検討した結果、上記構成をとることにより、優れた気密性及び生産性を有する金属箔被覆管を提供することができる。
これによる優れた効果の作用機構は明確ではないが、以下のように推定している。
上記構成の金属箔被覆管が備える金属箔は、両端部が重なり合い、且つ上記重なり合う部分が接合部により挟み込まれているため、優れた気密性を有すると推測される。
また、上記構成の金属箔被覆管は、筒状支持体に対する金属箔の被覆を、両端部が重なり合うように金属箔を巻き付け、上記重なり合う部分を挟み込むように、接合部を形成す
ることにより製造することが可能であり、金属箔被覆管の製造に高い技術が要求されない。そのため、優れた生産性を有すると推測される。
【0020】
<筒状支持体>
本開示の金属箔被覆管は、複数の孔を有する筒状支持体を備える。
【0021】
筒状支持体を構成する材料は、特に限定されるものではなく、金属、金属酸化物、ガラス等が挙げられる。
金属としては、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。
金属酸化物としては、上記した金属の酸化物が挙げられる。
上記した中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、鉄及びクロムの合金が好ましく、鉄を50質量%以上含み、且つクロムを10.5質量%以上含む合金(いわゆる、ステンレス)であることがより好ましい。
【0022】
筒状支持体は、上記した材料を焼結することにより製造される焼結体を使用することができる。
【0023】
機械的強度及び水素ガス透過性の観点から、筒状支持体の気孔率は、20%~60%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。
筒状支持体の気孔率は、JIS R 1634:1998に準拠して測定する。
【0024】
筒状支持体は、筒状の形状を有していれば、特にその形状は限定されるものではない。筒状支持体の形状としては、円筒形状、楕円形状、多角形状等が挙げられる。機械的強度の観点から、円筒形状であることが好ましい。
【0025】
筒状支持体は、長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられる凹状部を有することが好ましい。筒状支持体が、凹状部を有することにより、後述する接合部を構成する第1の接合部材を凹状部に設けることができる。
第1の接合部材を凹状部に設けることにより、第1の接合部材及び第2の接合部材からなる接合部及び接合部により挟み込まれる金属箔が、筒状支持体の外表面において移動してしまうことを防止することができ、気密性をより向上することができる。
また、第1の接合部材に凹状部を設けることにより、第1の接合部材上に平面形状を形成することができるため、レーザー等による第1の接合部材と筒状支持体との溶着性を向上することができ、気密性をより向上することができる。
図1及び
図2に、凹状部2を有する筒状支持体1の一実施形態を示す。
なお、
図1は、筒状支持体1の一実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す筒状支持体1のA-A線断面図である。なお、
図1及び
図2においては、円筒形状の筒状支持体1を示したが、これに限定されるものではない。
なお、
図1において、符号3はエンドキャップを示し、符号4は中空管を示し、符号5は中空管の開口部を示す。
【0026】
筒状支持体の厚みは、金属箔を支持することができ、金属箔被覆管に対し十分な機械的強度を付与することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、0.1mm~10mmとしてよい。
図4において、筒状支持体11の厚みをd1で示す。
【0027】
筒状支持体の長さは、特に限定されるものではなく、例えば、100mm~1000mmとすることができる。
【0028】
<金属箔>
本開示の金属箔被覆管は、筒状支持体の外表面を被覆し、両端部が重なり合う金属箔を備える。
本開示の金属箔被覆管は、筒状支持体に金属箔を巻き付けることにより製造することが可能であるため、金属箔の機械的強度を補うことができると推測される。
金属箔は、筒状支持体の外表面全体を被覆するものであってもよく、その一部を被覆するものであってもよい。金属箔被覆管の気密性の観点から、金属箔は、筒状支持体の外表面の面積の70%以上を被覆することが好ましく、80%以上を被覆することが好ましい。
【0029】
水素ガスの選択的透過性、耐熱性等の観点から、金属箔は、パラジウム及びパラジウム合金の少なくとも一方を含むことが好ましい。
パラジウム合金としては、パラジウムと、銀、銅、金、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミニウム、インジウム、ガリウム、スズ及び亜鉛からなる群より選択される1種以上の金属との合金が挙げられる。
上記した中でも、水素の選択的透過性の観点から、パラジウムと銀との合金が好ましい。
【0030】
金属箔の全質量に対するパラジウム及びパラジウム合金の含有率の和は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0031】
水素ガスの選択的透過性、耐久性等の観点から、パラジウム合金におけるパラジウムの原子割合は、10at%~50at%であることが好ましい。
【0032】
水素ガスの選択的透過性、耐熱性、耐久性等の観点から、金属箔の厚みは、0.01mm~0.1mmであることが好ましく、0.02mm~0.08mmであることがより好ましい。
【0033】
金属箔は、その両端部が重なり合い、両端部が重なり合う部分が、後述する接合部により挟み込まれる。
金属箔被覆管の気密性の観点から、重なり合う部分の幅は、1mm~10mmであることが好ましく、3mm~6mmであることがより好ましい。
【0034】
<接合部>
本開示の金属箔被覆管は、第1の接合部材及び第2の接合部材を有する接合部を備える。上記接合部の第1の接合部材及び第2の接合部材により上記金属箔の両端部が重なり合う部分が挟みこまれ、金属箔被覆管の気密性が向上する。
【0035】
接合部は、上記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に設けられる。
接合部は、筒状支持体の長手方向の全体に設けられることが好ましく、筒状支持体の両端に設けられるエンドキャップ及び中空管の長手方向の一部又は全体に延びるように設けられることがより好ましい。
【0036】
<第1の接合部材>
第1の接合部材は、上記筒状支持体に接触させて設けられる。
筒状支持体が凹状部を有する場合、第1の接合部材は、上記凹状部に設けられることが好ましい。上記凹状部は、エンドキャップ及び中空管の長手方向の一部又は全体に延びていてもよい。
また、筒状支持体が凹状部を有しない場合、筒状支持体の外表面に第1の接合部材を設けてもよい。気密性の観点から、第1の接合部材と筒状支持体とは、接合されることが好ましい。
【0037】
第1の接合部材を構成する材料は、特に限定されるものではなく、筒状支持体を構成する材料と同様のものを使用することができる。
気密性及び接合部の強度の観点から、第1の接合部材を構成する材料は、筒状支持体を構成する材料と同一であることが好ましい。
上記した材料の中でも、第1の接合部材を構成する材料は、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、マンガン及びこれらの合金等の金属が好ましい。上記金属により第1の接合部材が構成されることにより、レーザー溶着により第1の接合部材を筒状支持体へ接合することが可能となり、金属箔被覆管の生産性を向上させることができる。
【0038】
気密性及び接合部の強度の観点から、第1の接合部材の厚みは、0.1mm~1mmであることが好ましく、0.3mm~0.7mmであることがより好ましい。
図4において、第1の接合部材16の厚みをd2で示す。
【0039】
生産性の観点から、第1の接合部材の幅は、2mm~10mmであることが好ましく、3mm~8mmであることがより好ましい。
図4において、第1の接合部材16の幅をwで示す。
【0040】
第1の接合部材の長さは、特に限定されるものではなく、例えば、100mm~1000mmとすることができる。
図3において、第1の接合部材16の長さをlで示す。
【0041】
<第2の接合部材>
第2の接合部材は、金属箔の両端部が重なり合う部分を介して上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように設けられる。
金属箔被覆管の気密性の観点から、第2の接合部材は、金属箔の両端部が重なり合う部分を介して上記第1の接合部材の全体と重なるように設けられることが好ましい。
【0042】
第2の接合部材は、金属箔の両端部が重なり合う部分を介して、第1の接合部材と幅方向に、1mm以上重なるように設けられることが好ましく、3mm以上重なるように設けられることがより好ましく、5mm以上重なるように設けられることがさらに好ましい。
第2の接合部材が第1の接合部材と幅方向に1mm以上重なり合うことにより、レーザー等を使用した第1の接合部材及び第2の接合部材の接合が容易となり、生産性をより向上することができる。また、第2の接合部材が第1の接合部材と幅方向に1mm以上重なり合うことにより、金属箔被覆管の気密性及び接合部の強度を向上することができる。
【0043】
第2の接合部材を構成する材料、並びに第2の接合部材の厚み、幅及び長さの好ましい態様等については、第1の接合部材と同様であるため、ここでは記載を省略する。
【0044】
<エンドキャップ>
本開示の金属箔被覆管は、長手方向の一方の端部に、エンドキャップを備える。金属箔被覆管が一方の端部にエンドキャップを備えることにより、金属箔被覆管の一方の端部を封止することができ、気密性及び強度を向上することができる。
【0045】
エンドキャップを構成する材料は、特に限定されるものではなく、筒状支持体を構成する材料と同様のものを使用することができる。
耐熱性、接合強度等の観点から、エンドキャップを構成する材料は、筒状支持体を構成する材料と同一であることが好ましい。
【0046】
<中空管>
本開示の金属箔被覆管は、長手方向の他方の端部に、中空管を備える。金属箔被覆管の中空管が有する開口部より水素ガスの取り出しが行われる。
【0047】
中空管を構成する材料は、特に限定されるものではなく、筒状支持体を構成する材料と同様のものを使用することができる。
耐熱性、接合強度等の観点から、中空管を構成する材料は、筒状支持体を構成する材料と同一であることが好ましい。
【0048】
<封止部>
本開示の金属箔被覆管は、筒状支持体と、エンドキャップ及び中空管との境界を封止するための封止部を備えていてもよく、これにより、気密性及び接合強度をより向上することができる。
【0049】
封止部を構成する材料は、特に限定されるものではなく、筒状支持体を構成する材料と同様のものを使用することができる。
耐熱性、接合強度等の観点から、封止部を構成する材料は、筒状支持体を構成する材料と同一であることが好ましい。
【0050】
次に、
図3~
図5を参照し、本開示の金属箔被覆管の一実施形態について説明する。
図3及び
図5は、本開示の金属箔被覆管の一実施形態を示す斜視図である。
図4は、
図3に示す金属箔被覆管のB-B線断面図である。
【0051】
図3及び
図4に示すように、金属箔被覆管10は、筒状支持体11、金属箔12、接合部13、エンドキャップ14及び中空管15を備える。
【0052】
図3及び
図4に示す金属箔被覆管10が備える、筒状支持体11、エンドキャップ14及び中空管15は凹状部を有する。
【0053】
図4に示すように、金属箔12は、両端部が重なり合う部分を有する。
【0054】
図3及び
図4に示すように、第1の接合部材16及び第2の接合部材17を有する接合部13を備える。
第1の接合部材16は、筒状支持体11と接すように、筒状支持体11、エンドキャップ14及び中空管15の凹状部に設けられる。
第2の接合部材17は、金属箔12の両端部が重なり合う部分を介して第1の接合部材16の全体と重なるように設けられる。
【0055】
図5に示すように、金属箔被覆管20は、筒状支持体、金属箔22、接合部23、エンドキャップ24、中空管25及び封止部28を備える。
図5において、第1の接合部材及び第2の接合部材は、それぞれ、符号26及び27で示す。
【0056】
(金属箔被覆管の製造方法)
本開示の金属箔被覆管の製造方法は、長手方向の一方の端部にエンドキャップを備え、他方の端部に中空管を備える、複数の孔を有する筒状支持体を用意する工程と、上記筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に接触させて第1の接合部材を設ける工程と、上記筒状支持体の外表面に、金属箔を両端部が重なり合うように巻き付ける工程と、第2の接合部材を、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように配置し、上記第1の接合部材及び上記第2の接合部材を、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を挟み込むように接合し、接合部を形成する工程と、を備える。
【0057】
<筒状支持体を用意する工程>
本開示の金属箔被覆管の製造方法は、長手方向の一方の端部にエンドキャップを備え、他方の端部に中空管を備える、複数の孔を有する筒状支持体を用意する工程を備える。
上記筒状支持体は、市販されるものを使用してもよく、製造したものを使用してもよい。
【0058】
筒状支持体を用意する工程は、筒状支持体の長手方向の一方の端部に、エンドキャップを設ける工程を備えていてもよい。
【0059】
一実施形態において、筒状支持体の一方の端部にエンドキャップを配置し、接合することにより、エンドキャップを設けることができる。
接合方法は、特に限定されるものではなく、後述する接合部の形成と同様の方法により行うことができる。
【0060】
筒状支持体は、従来公知の方法により、上記した材料を焼結し、作製したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0061】
筒状支持体を用意する工程は、筒状支持体の長手方向の他方の端部に、中空管を設ける工程を備えていてもよい。
【0062】
一実施形態において、筒状支持体の他方の端部に中空管を配置し、接合することにより、中空管を設けることができる。
接合方法は、特に限定されるものではなく、後述する接合部の形成と同様の方法により行うことができる。
【0063】
<第1の接合部材を設ける工程>
本開示の金属箔被覆管の製造方法は、筒状支持体の長手方向の少なくとも一部又は長手方向の全体に接触させて第1の接合部材を設ける工程を備える。
筒状支持体と第1の接合部材とは、接合されることが好ましく、接合方法は、後述する接合部の形成と同様の方法により行うことができる。
【0064】
筒状支持体に凹状部を形成し、この凹状部へ第1の接合部材を設けてもよい。
また、凹状部は、エンドキャップ及び中空管の一部又は全体に延びるように形成されていてもよい。
凹状部は切削加工により形成することができる。なお、凹状部の形成は、筒状支持体の端部にエンドキャップ及び中空管を設けた後に行ってもよい。
【0065】
<巻き付け工程>
本開示の金属箔被覆管の製造方法は、複数の孔を有する筒状支持体の外表面に、金属箔を両端部が重なり合うように巻き付ける工程を含む。
筒状支持体への金属箔の巻き付けは、金属箔の両端部が重なり合う部分が、第1の接合部材上に位置するように行うことが好ましい。
金属箔についても、従来公知の方法により作製したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0066】
<接合部の形成工程>
本開示の金属箔被覆管の製造方法は、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を介して上記第1の接合部材の一部又は全体と重なるように第2の接合部材を配置し、上記第1の接合部材及び第2の接合部材を、上記金属箔の両端部が重なり合う部分を挟み込むように、接合し、接合部を形成する工程を含む。
【0067】
第1の接合部材及び第2の接合部材の接合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、金属箔の両端部が重なり合う部分を挟み込むように配置される第1の接合部材及び第2の接合部材に対して、レーザーを照射し、溶着させることにより行うことができる。このレーザー溶着により、金属箔の重なり合う部分も溶着されることが好ましい。
上記方法に限定されるものではなく、従来公知の接着剤等を使用して、第1の接合部材及び第2の接合部材を接合してもよい。
【0068】
レーザーを使用して接合部の形成を行う場合、レーザー照射条件は特に制限されるものではない。例えば、最大平均出力を100W~500Wとすることができ、最大ピーク出力を1kW~10kWとすることができ、最大パルスエネルギーを10J~100Jとすることができ、パルス幅を0.2Hz~500Hzとすることができる。
レーザー照射装置としては、例えば、住友重機械工業株式会社製のJK-702又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0069】
<封止部の形成工程>
本開示の金属箔被覆管の製造方法は、筒状支持体と、エンドキャップ及び中空管との境界に、管状の封止部を配置し、これを筒状支持体、エンドキャップ及び中空管と接合し、封止部を形成する工程を含んでいてもよい。接合方法は、接合部の形成と同様の方法により行うことができる。
【0070】
(水素分離装置)
本開示の水素分離装置は、上記金属箔被覆管と、上記金属箔被覆管を収容する、ガス導入部及びガス排出部を備えるハウジング容器と、を備え、且つ上記金属箔被覆管のエンドキャップが設けられていない端部が、上記水素ガス排出部に接続又は装入される。
【0071】
<金属箔被覆管>
金属箔被覆管については上記した通りであるため、ここでは記載を省略する。
【0072】
<ハウジング容器>
図6に示すように、本開示の水素分離装置100は、ガス導入部101及びガス排出部102を備えるハウジング容器103を備える。
なお、
図6では、ハウジング容器103のガス排出部102に、金属箔被覆管104の中空管105が設けられる端部が装入される実施形態を示したが、これに限定されるものではなく、ガス排出部に金属箔被覆管の上記端部が接続されていてもよい。
なお、
図6において、符号106は金属箔を示し、符号108はエンドキャップを示す。
【0073】
ハウジング容器へは、水素ガスを含む混合ガス、アンモニアガス等がガス導入部から導入される。
導入される混合ガスに含まれる水素ガスは、金属箔被覆管が備える金属箔を透過し、金属箔被覆管の中空管が設けられる端部が接続又は装入されるハウジング容器のガス排出部から排出される。
アンモニアガスをハウジング容器へ導入した場合、ハウジング容器内に充填されるアンモニア分解触媒によりアンモニアガスが分解され、水素ガスが生じる。生じた水素ガスが、金属箔被覆管が備える金属箔を透過し、金属箔被覆管の中空管が設けられる端部が接続又は装入されるハウジング容器のガス排出部から排出される。
【0074】
水素ガスの金属箔の透過は、金属箔被覆管が備える筒状支持体の内側の圧力をハウジング容器内の圧力よりも低くなるように、減圧処理を実施する、又は、ハウジング容器内の圧力を筒状支持体の内側の圧力よりも高くなるように、加圧処理を実施することにより行うことができる。
【0075】
アンモニア分解触媒としては、従来公知のものを使用することができ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、これらの合金、これらの窒化物、これらの炭化物、これらの酸化物等を含む触媒が挙げられる。
【0076】
ハウジング容器を構成する材料は、特に限定されるものではなく、筒状支持体を構成する材料と同様のものを使用することができる。
【0077】
図6に示すように、ハウジング容器103のガス排出部102に装入される、金属箔被覆管104の中空管105が設けられる端部へ、ポンプに接続するチューブ107等が接続されていてもよい。なお、
図6において、ポンプは符号Pで示す。
【実施例0078】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
円筒形状を有する、ステンレス製筒状支持体を用意した。筒状支持体の長さは600mmであり、円の外径は30mmであり、内径は25mmであった。また、筒状支持体は、ステンレスの焼結体であり、その気孔率は37%~38%であった。
【0080】
上記筒状支持体の一方の端部に、ステンレス製のエンドキャップを配置し、住友重機械工業株式会社製のJK-702を使用してレーザーを照射し、筒状支持体及びエンドキャップを溶着した。
なお、エンドキャップの長さは30mmであり、径は30mmであった。
【0081】
上記筒状支持体の他方の端部に、ステンレス製の中空管を配置し、上記装置によりレーザーを照射し、筒状支持体及びエンドキャップを溶着した。
なお、中空管の長さは30mmであり、外径は30mmであり、内径は25mmであった。
【0082】
上記筒状支持体、エンドキャップ及び中空管に対し、切削加工を施し、凹状部を形成しった。具体的には、筒状支持体の長さ方向全体に設けられ、且つエンドキャップ及び中空管の長手方向の一部(それぞれ9mmずつ)に延びるように凹状部を形成した。この凹状部に、長さ618mm、幅5mm、厚さ0.5mmの第1の接合部材を埋め込み、第1の接合部材に対して、上記装置によりレーザーを照射し、筒状支持体、エンドキャップ及び中空管と第1の接合部材とを溶着した。なお、第1の接合部材は、筒状支持体と同様、ステンレス製のものを使用した。
【0083】
パラジウム合金(銀パラジウム合金)製の金属箔を用意した。金属箔の長さは618mm、幅は100mm、厚み25μmであった。
金属箔を、その両端部が重なり合い、且つ重なり合う部分が第1の接合部材上に位置するように、筒状支持体に対して巻き付けた。
【0084】
金属箔の両端部が重なり合う部分の上に、第2の接合部材を配置し、上記装置によりレーザーを照射し、第1の接合部材及び第2の接合部材を溶着し、接合部を形成した。また、上記レーザーを照射により、金属箔の重なり合う部分も溶着した。
なお、第2の接合部材は、第1の接合部材と同じサイズであり、ステンレス製のものを使用し、金属箔の両端部が重なり合う部分を介して第1の接合部材の全体と重なるように配置した。
【0085】
接合部の形成後、筒状支持体と、エンドキャップ及び中空管との境界に、ステンレス製の封止部を配置し、上記装置によりレーザーを照射し、封止部を形成し、本開示の金属箔被覆管を得た。
【0086】
<気密性の評価>
上記実施例において製造した金属箔被覆管のエンドキャップが設けられていない端部に、ヘリウムリークディテクターを接続し、金属箔被覆管の外部よりへリウムガスを吹きかけた。
次いで、金属箔被覆管の内部へ漏洩したヘリウムガスの量をアルバック社製のHELIOT 307により測定したところ、リーク量は1×10-8Pa・m3/s未満であった。
【0087】
上記実施例において製造した金属箔被覆管は、筒状支持体への金属箔の被覆を、金属箔の突き合わせ部分又は重なり合う部分を溶着により行う必要がなく、その製造に高い技術が求められるものではないため、優れた生産性を有するものであることがわかる。
また、気密性の評価において、漏洩したヘリウムガスのリーク量が極めて少なく、優れた気密性を有するものであることがわかる。
1:筒状支持体、2:凹状部、3:エンドキャップ、4:中空管、5;開口部、10:金属箔被覆管、11:筒状支持体、12:金属箔、13:接合部、14:エンドキャップ、15:中空管、16:第1の接合部材、17:第2の接合部材、20:金属箔被覆管、22:金属箔、23:接合部、24:エンドキャップ、25:中空管、26:第1の接合部材、27:第2の接合部材、28:封止部、100:水素分離装置、101:ガス導入部、102:ガス排出部、103:ハウジング容器、104:金属箔被覆管、105:中空管、106:金属箔、107:チューブ、108:エンドキャップ