(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033939
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】太陽電池セルおよび太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20230306BHJP
H01L 31/068 20120101ALI20230306BHJP
H01L 29/41 20060101ALI20230306BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H01L31/04 260
H01L31/06 300
H01L29/44 L
H01L21/28 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139928
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆弥
(72)【発明者】
【氏名】松本 智
【テーマコード(参考)】
4M104
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
4M104AA01
4M104BB02
4M104BB08
4M104FF02
4M104GG02
4M104GG05
5F151AA02
5F151DA03
5F151FA18
5F151FA21
5F151GA04
5F151GA14
5F151HA03
5F251AA02
5F251DA03
5F251FA18
5F251FA21
5F251GA04
5F251GA14
5F251HA03
(57)【要約】
【課題】結晶シリコン太陽電池で得られる電力密度を向上させる。
【解決手段】太陽電池セル100Aは、可視光を含む第1光を入射可能な表面30aと、可視光を含む第2光を入射可能で第1領域および第2領域を含む裏面30bとを有する第1導電型の単結晶シリコン層30と、表面30aと接する第2導電型のエミッタ層31と、エミッタ層31と接する金属電極33と、裏面30bの第1領域R1と接するトンネル絶縁層34aと、トンネル絶縁層34aと接する第1導電型の高濃度多結晶シリコン層35aと、高濃度多結晶シリコン層35aと接する金属電極37と、裏面30bの第2領域R2と接するパッシベーション層36と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を含む第1光を入射可能な第1面と、可視光を含む第2光を入射可能で第1領域および第2領域を含む第2面とを有する第1導電型の単結晶シリコン層と、
前記第1面と接する第2導電型のエミッタ層と、
前記エミッタ層と接する第1電極と、
前記第2面の前記第1領域と接するトンネル絶縁層と、
前記トンネル絶縁層と接する前記第1導電型のシリコン層と、
前記シリコン層と接する第2電極と、
前記第2面の前記第2領域と接するパッシベーション層と、
を備える、太陽電池セル。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池セルにおいて、
前記シリコン層に導入されている導電型不純物の不純物濃度は、前記単結晶シリコン層に導入されている導電型不純物の不純物濃度よりも高い、太陽電池セル。
【請求項3】
請求項1に記載の太陽電池セルにおいて、
前記トンネル絶縁層は、多数キャリアを通過させる一方、少数キャリアを非通過とするキャリア選択性を有する膜である、太陽電池セル。
【請求項4】
請求項1に記載の太陽電池セルにおいて、
前記シリコン層は、多結晶シリコン層である、太陽電池セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の太陽電池セルを複数備える太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルおよび太陽電池に関し、例えば、単結晶シリコンを使用した太陽電池セルおよび太陽電池に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、「i-TOPCon(industrial Tunnel Oxide Passivated Contact)」と呼ばれる構造の太陽電池セルに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Chengfa Liu etal,“Industrial TOPCon solar cells on n-type quasi-mono Si wafers with efficiencies above 23%“,Solar Energy Materials & Solar Cells 215 (2020) 110690
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
再生可能なエネルギーは、エネルギー資源が枯渇することなく使用できるとともに、発電時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないことから、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料に替わるクリーンなエネルギーとして注目されている。
【0005】
再生可能なエネルギーの1つに太陽光があり、太陽電池を使用して太陽光を直接的に電力に変換する発電方式は、太陽光発電と呼ばれている。太陽電池とは、光エネルギーを吸収して電気エネルギーに変換する光電変換素子である。
【0006】
太陽電池には、有機太陽電池や多接合太陽電池など様々な種類があるが、結晶シリコン太陽電池が最も普及している。結晶シリコン太陽電池の最大の課題は、さらなる発電効率の向上(電力密度の向上)を図ることである。すなわち、最も普及している結晶シリコン太陽電池における発電効率の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態における太陽電池セルは、可視光を含む第1光を入射可能な第1面と、可視光を含む第2光を入射可能で第1領域および第2領域を含む第2面とを有する第1導電型の単結晶シリコン層と、第1面と接する第2導電型のエミッタ層と、エミッタ層と接する第1電極と、第2面の第1領域と接するトンネル絶縁層と、トンネル絶縁層と接する第1導電型のシリコン層と、シリコン層と接する第2電極と、第2面の第2領域と接するパッシベーション層と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、結晶シリコン太陽電池で得られる電力密度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】代表的な太陽光発電システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】「i-TOPCon」型太陽電池セルの構成を示す断面図である。
【
図3】実施の形態における太陽電池セルの構成を示す断面図である。
【
図4】裏面電極ピッチと短絡電流密度との関係を示すグラフである。
【
図5】裏面電極ピッチと開放電圧との関係を示すグラフである。
【
図6】裏面電極ピッチとフィルファクタとの関係を示すグラフである。
【
図7】裏面電極ピッチと変換効率との関係を示すグラフである。
【
図8】電極ピッチと電力密度との関係を示すグラフである。
【
図10】太陽電池セルの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0011】
<太陽光発電システム>
例えば、太陽光発電システムにおいては、複数の太陽電池モジュールを直列接続することにより、システム電圧を高めることが行われている。
【0012】
図1は、代表的な太陽光発電システムの構成を模式的に示す図である。
【0013】
図1に示すように、例えば、太陽電池モジュール10a~10gが直列接続されて、パワーコンディショナー20と接続されている。そして、太陽電池モジュール10a~10gのそれぞれのモジュールフレームは、電気的に接続されて接地電位(基準電位)とされている。すなわち、太陽電池モジュール10a~10gのそれぞれのモジュールフレームの電位(フレーム電位)は0Vとなっている。一方、太陽電池モジュール10a~10gは、直列接続されているため、それぞれの出力電圧が加算されてパワーコンディショナー20に出力される。したがって、
図1に示すように、太陽電池モジュール10gでは、太陽電池セルの電位(セル電位)がモジュールフレームの電位であるグランド電位に対して高い正電位(数百V)となる。一方、太陽電池モジュール10aでは、太陽電池セルの電位がモジュールフレームの電位であるグランド電位に対して低い負電位(-数百V)となる。このように、太陽光発電システムでは、複数の太陽電池モジュールを直列接続する構成が採用される結果、出力側に近い太陽電池モジュール(
図1の太陽電池モジュール10gにおいては、モジュールフレームのフレーム電位に対して、太陽電池セルのセル電位が高い正電位となる。一方、出力側から遠い太陽電池モジュール(
図1の太陽電池モジュール10a)においては、モジュールフレームのフレーム電位に対して、太陽電池セルのセル電位が低い負電位となる。ここで、太陽電池モジュール10a~10gのそれぞれには、複数の太陽電池セルが含まれている。本明細書では、太陽電池モジュール10a~10gのそれぞれを太陽電池と呼ぶこともある。すなわち、太陽電池は、複数の太陽電池セルから構成されていることになる。
【0014】
<「i-TOPCon」型太陽電池セルの構成>
次に、太陽電池セルの構成例について説明する。
【0015】
太陽電池セルの構成例として、「i-TOPCon」型太陽電池セルと呼ばれる太陽電池セルがあるので、この太陽電池セルについて説明する。
【0016】
図2は、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の構成を示す断面図である。
【0017】
図2において、「i-TOPCon」型太陽電池セル100は、例えば、リン(P)や砒素(As)などのn型不純物(ドナー)が導入された単結晶シリコン層30を有している。この単結晶シリコン層30は、太陽光が入射される表面(第1面)30aと、表面とは反対側の裏面(第2面)30bを有している。単結晶シリコン層30の表面30aには、テクスチャ構造と呼ばれる凹凸構造が形成されている結果、単結晶シリコン層30の表面30aは、凹凸面から構成されていることになる。これにより、単結晶シリコン層30の表面30a側から入射する太陽光の反射率を低減することができる。すなわち、単結晶シリコン層30の表面30aに形成されているテクスチャ構造は、表面30a側から入射する太陽光の表面30aでの反射を抑制する機能を有していることになる。
【0018】
そして、「i-TOPCon」型太陽電池セル100は、単結晶シリコン層30の表面30aに接するエミッタ層31を有している。このエミッタ層31は、例えば、ボロン(B)などのp型不純物(アクセプタ)が導入されたp型シリコン層から構成されている。したがって、表面30aは、n型半導体層である単結晶シリコン層30とp型半導体層であるエミッタ層31とが接するpn接合面となる。このエミッタ層31に接するようにパッシベーション層32と金属電極33が形成されている。このパッシベーション層32は、例えば、窒化シリコン膜から構成されている。また、金属電極33は、例えば、アルミニウム膜と銀膜の積層膜から構成されている。
【0019】
一方、単結晶シリコン層30の裏面30bには、裏面30bと接するように、トンネル絶縁層34が形成されている。このトンネル絶縁層34は、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜あるいは酸化ハフニウム膜から構成されている。続いて、トンネル絶縁層34に接するように高濃度多結晶シリコン層35が形成されており、この高濃度多結晶シリコン層35と接するように、パッシベーション層36および金属電極37が形成されている。ここで、パッシベーション層36は、例えば、酸化シリコン膜から構成されている一方、金属電極37は、例えば、銀膜から構成されている。
【0020】
以上のようにして、「i-TOPCon」型太陽電池セル100が構成されている。
【0021】
<「i-TOPCon」型太陽電池セルの動作>
「i-TOPCon」型太陽電池セル100は、上記のように構成されており、以下では、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の動作について説明する。
【0022】
まず、
図2において、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の上方から可視光や赤外光を含む太陽光40が照射されるとともに、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の下方から可視光や赤外光を含む太陽光40の反射光50が照射される。すると、パッシベーション層32およびエミッタ層31を介して、単結晶シリコン層30の内部に太陽光40が照射される。一方、パッシベーション層36、高濃度多結晶シリコン層35およびトンネル絶縁層34を介して、単結晶シリコン層30の内部に反射光50が照射される。すなわち、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、表面30a側から太陽光40が単結晶シリコン層30の内部に照射されるとともに、裏面30b側から反射光50が単結晶シリコン層30の内部に照射される。このように、「i-TOPCon」型太陽電池セル100は、両面受光が可能な太陽電池セルを構成していることがわかる。
【0023】
このとき、太陽光40および反射光50のうち、シリコンのバンドギャップよりも大きな光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、「i-TOPCon」型太陽電池セル100に太陽光40および反射光50が照射されることにより、太陽光40および反射光50に含まれるシリコンのバンドギャップよりも大きな光エネルギーを有する光が吸収されて伝導帯に電子が励起されるとともに、価電子帯に正孔が生成される。そして、生成された正孔は、p型半導体層であるエミッタ層31に蓄積される。一方、励起された電子は、n型の単結晶シリコン層30からトンネル絶縁層34をトンネルして高濃度多結晶シリコン層35に蓄積される。この結果、エミッタ層31と電気的に接続されている金属電極33と高濃度多結晶シリコン層35と電気的に接続されている金属電極37との間に起電力が生じる。そして、例えば、金属電極33と金属電極37との間に負荷を接続すると、金属電極37から負荷を通って金属電極33に電子が流れる。言い換えれば、金属電極33から負荷を通って金属電極37に電流が流れる。
【0024】
このようにして、「i-TOPCon」型太陽電池セル100を動作させることにより、負荷を駆動することができる。
【0025】
<「i-TOPCon」型太陽電池セルの利点>
次に、上述した「i-TOPCon」型太陽電池セル100の利点について説明する。
【0026】
まず、第1利点は、両面受光が可能な点である。すなわち、「i-TOPCon」型太陽電池セル100は、「i-TOPCon」型太陽電池セル100に直接入射する太陽光40を利用するだけでなく、太陽光40が地表で反射した反射光50も利用していることから、発電効率の向上を図ることができる利点が得られる。
【0027】
特に、地表からの太陽光の反射率は、「アルベド」と呼ばれ、地球上の広範囲の地域において、この「アルベド」が20%以上である。このことから、「i-TOPCon」型太陽電池セル100においては、太陽光からの反射光も有効利用していることから、地球上の広範囲の地域で発電効率の優れた太陽電池を提供することができる。
【0028】
さらに、反射光を有効利用するため、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、「PERC(Passivated Emitter and Rear Cell)構造」が採用されている。この「PERC構造」とは、太陽電池セルの裏面側にパッシベーション層(不活性化層)を形成することにより、キャリア(電子と正孔)の再結合で生じる発電ロスを低減する構造である。
【0029】
続いて、第2利点は、トンネル絶縁層34を設けている点である。特に、このトンネル絶縁層34は、材料および厚さを適宜調整することにより、多数キャリアを通過させる一方、少数キャリアを非通過とするキャリア選択性を有する層として機能している。具体的に、
図2に示す「i-TOPCon」型太陽電池セル100において、トンネル絶縁層34は、多数キャリアである電子を通過させる一方、少数キャリアである正孔を非通過とするキャリア選択性を有している。
【0030】
例えば、太陽光40および反射光50を照射することにより、単結晶シリコン層30において電子が励起されるとともに正孔が生成されるが、多数キャリアである電子は、トンネル絶縁層34をトンネルして高濃度多結晶シリコン層35に移動することができる。一方、少数キャリアである正孔は、トンネル絶縁層34をトンネルすることができないため、高濃度多結晶シリコン層35に移動することができない。この結果、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、高濃度多結晶シリコン層35に少数キャリアである正孔が拡散することを抑制できる。このことは、高濃度多結晶シリコン層35での電子と正孔の再結合が抑制されることを意味し、これによって、「i-TOPCon」型太陽電池セル100によれば、電子と正孔の再結合で生じる発電ロスを低減することができる。このように、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、トンネル絶縁層34を設けることにより、電子と正孔の再結合で生じる発電ロスを低減できる利点を得ることができる。
【0031】
<改善の検討>
本発明者は、発電効率を向上する観点から、上述した利点を有する「i-TOPCon」型太陽電池セル100について検討した結果、「i-TOPCon」型太陽電池セル100には、改善の余地が存在することを新規に見出したので、この点について説明する。
【0032】
例えば、
図2に示すように、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、単結晶シリコン層30の裏面30bの全面にトンネル絶縁層34が形成されているともに、このトンネル絶縁層34の裏面全面に高濃度多結晶シリコン層35が形成されている。
【0033】
以下では、この構造を「裏面全面形成構造」と呼ぶことにする。「裏面全面形成構造」では、トンネル絶縁層34の裏面全面に高濃度多結晶シリコン層35が形成されていることから、高濃度多結晶シリコン層35を通って金属電極37に達する経路の抵抗を低減できる。このことは、太陽電池セルの開放電圧およびフィルファクタを向上できることを意味することから、「i-TOPCon」型太陽電池セル100は、開放電圧およびフィルファクタの向上を通じて太陽電池セルの性能向上を図る観点から優れているといえる。
【0034】
ただし、本発明者は、太陽電池セルの性能向上を図る上で最も効果的な要素が短絡電流密度であるという認識のもと、短絡電流密度の向上に着目した結果、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、短絡電流密度を向上する観点から改善の余地が存在することを新規に見出した。以下に、この点について説明する。
【0035】
図2に示す「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、「裏面全面形成構造」が採用されていることから、反射光50は、パッシベーション層36を透過した後、高濃度多結晶シリコン層35およびトンネル絶縁層34を透過して単結晶シリコン層30の内部に到達する。このとき、高濃度多結晶シリコン層35では、反射光50の自由キャリア吸収(FCA:Free Carrier Absorption)によって、光吸収損失が大きくなる。
【0036】
自由キャリア吸収とは、伝導帯の下端近傍のエネルギー準位に存在する電子が、光を吸収することによってエネルギーを獲得した結果、伝導帯内のエネルギーの高いエネルギー準位に遷移することをいい、この過程で光が吸収される。したがって、反射光50に対して自由キャリア吸収が生じると、単結晶シリコン層30の内部に到達する反射光50が低減する結果、単結晶シリコン層30の内部での電子の価電子帯から伝導帯への励起に寄与する光エネルギーが減少することになる。このことは、発電効率が低下することを意味する。すなわち、自由キャリア吸収が多くなると、光吸収損失が増加することになる。
【0037】
この点に関し、高濃度多結晶シリコン層35は、導電型不純物の不純物濃度が高い。このことは、伝導帯に多数の電子が存在することを意味する。したがって、高濃度多結晶シリコン層35では、伝導帯での自由キャリア吸収が大きくなるのである。したがって、「裏面全面形成構造」が採用されている「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、自由キャリア吸収が多くなる結果、単結晶シリコン層30の内部に到達する反射光50が低減する。言い換えれば、「裏面全面形成構造」が採用されている「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、反射光50による短絡電流密度が低下するのである。
【0038】
以上のことから、「i-TOPCon」型太陽電池セル100では、短絡電流密度を向上する観点から改善の余地が存在することがわかる。そこで、本実施の形態では、「i-TOPCon」型太陽電池セル100に存在する改善の余地を克服するための工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想を説明する。
【0039】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、太陽電池セルの発電効率を向上させるために最も重要な要因は、短絡電流密度であるという本発明者の洞察に基づいて、その他の要因である開放電圧の向上およびフィルファクタの向上を多少犠牲にしても、短絡電流密度の向上を図ることを優先した構造を採用する思想である。この基本思想は、太陽電池セルの発電効率を向上させるための複数の要因(短絡電流密度、開放電圧およびフィルファクタ)からの寄与は均等ではなく、最も寄与の大きな要因を見出して、その他の要因を多少犠牲にしても、この要因を向上させることにより最終的に太陽電池セルの発電効率を向上させるという斬新な思想であり、発電効率を向上するアプローチとして大きな技術的意義を有している。具体的には、太陽電池セルの発電効率を向上させることを目的とした構造に対して、敢えて開放電圧の向上およびフィルファクタの向上を多少犠牲にしながら、短絡電流密度の向上を図ることを優先した構造を採用することにより、総合的に見れば太陽電池セルの発電効率を向上できることを見出した点に非常に大きな技術的意義がある。
【0040】
特に、太陽電池セルの発電効率を向上させる観点から、上述した「裏面全面形成構造」に対して短絡電流密度を向上させる改良を施すことよって、この改良による「発電効率の向上」が、開放電圧およびフィルファクタの犠牲による「発電効率の低下」を大幅に上回る結果、最終的に発電効率を向上できることを見出した本発明者の洞察は優れている。
【0041】
以下では、この基本思想を具現化した太陽電池セルの構成について説明する。
【0042】
なお、本明細書で使用している「電力密度」とは、「発電効率(変換効率)」と同義の意味で使用している。ただし、「発電効率(変換効率)」とは、通常、片面から標準太陽光を太陽電池セルに照射することを前提条件として使用されるため、片面からの太陽光の受光とともに対向面からの反射光も受光する両面受光タイプの太陽電池セルでは、「電力密度」という物理量で発電効率を評価することにしている。したがって、「電力密度」が大きいということは、発電効率が高いことを意味している。
【0043】
<実施の形態における太陽電池セルの構成>
以下では、本実施の形態における基本思想を具現化した太陽電池セルの構成を説明する。
【0044】
図3は、太陽電池セル100Aの構成を示す断面図である。
【0045】
図3において、太陽電池セル100Aは、n型不純物(ドナー)が導入された単結晶シリコン層30を有している。この単結晶シリコン層30は、太陽光が入射される表面30a(第1面)と、表面30aとは反対側の裏面30b(第2面)を有している。
【0046】
本実施の形態では、基本的に、単結晶シリコン層30の「表面30a(第1面)」に太陽光40が入射する一方、単結晶シリコン層30の「裏面30b(第2面)」に太陽光40の反射光50が入射する太陽電池セル100Aの配置(第1配置)を前提としている。
【0047】
ただし、これに限らず、単結晶シリコン層30の「表面30a(第1面)」に太陽光40の反射光50が入射する一方、単結晶シリコン層30の「裏面30b(第2面)」に太陽光40が入射する太陽電池セル100Aの配置(第2配置)を排除するものではない。例えば、太陽電池セル100Aの設置方法として、地面に対して傾斜を持たせて配置する設置方法だけでなく、垂直に設置する設置方法も可能である。この場合、例えば、朝に第1配置が実現されている場合、必然的に夕方には、太陽の方向が変わる結果、第2配置が実現されることになる。
【0048】
このことを考慮して、請求項では、「第1光を入射可能な第1面と第2光を入射可能第2面とを有する第1導電型の単結晶シリコン層」と規定している。これは、「第1光」が太陽光40であり、かつ、「第2光」が反射光50である場合や、「第1光」が反射光50であり、「第2光」が太陽光40である場合を包含する広い概念の記載を意図している。
【0049】
単結晶シリコン層30の表面30aには、テクスチャ構造と呼ばれる凹凸構造が形成されている結果、単結晶シリコン層30の表面30aは、凹凸面から構成されていることになる。これにより、単結晶シリコン層30の表面30a側から入射する太陽光40の反射率を低減することができる。すなわち、単結晶シリコン層30の表面30aに形成されているテクスチャ構造は、表面30a側から入射する太陽光40の表面30aでの反射を抑制する機能を有していることになる。
【0050】
そして、太陽電池セル100Aは、単結晶シリコン層30の表面30aに接するエミッタ層31を有している。このエミッタ層31は、例えば、ボロン(B)などのp型不純物(アクセプタ)が導入されたp型シリコン層から構成されている。したがって、表面30aは、n型半導体層である単結晶シリコン層30とp型半導体層であるエミッタ層31とが接するpn接合面となる。このエミッタ層31に接するようにパッシベーション層32と金属電極33が形成されている。このパッシベーション層32は、例えば、窒化シリコン膜から構成されている。また、金属電極33は、例えば、アルミニウム膜と銀膜の積層膜から構成されている。
【0051】
一方、単結晶シリコン層30の裏面30bは、第1領域R1と第2領域R2を有している。ここで、裏面30bの第1領域R1と接するように、トンネル絶縁層34aが形成されている。言い換えれば、裏面30bの第1領域R1と接する一方、裏面30bの第2領域R2とは接しないように、トンネル絶縁層34aが形成されている。このトンネル絶縁層34aは、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜あるいは酸化ハフニウム膜から構成されている。
【0052】
このトンネル絶縁層34aは、多数キャリアを通過させる一方、少数キャリアを非通過とするキャリア選択性を有する膜である。今の場合、多数キャリアは電子であり、少数キャリアは正孔であることから、トンネル絶縁層34aは、電子を通過させる一方、正孔を非通過とするキャリア選択性を有する膜といえる。
【0053】
トンネル絶縁層34aのキャリア選択性は、トンネル絶縁層34aの厚さを調整することにより実現できる。例えば、トンネル絶縁層34aの厚さが厚すぎると、少数キャリアだけでなく多数キャリアも非通過としてしまうことなる。一方、トンネル絶縁層34aの厚さが薄すぎると、多数キャリアだけでなく少数キャリアも通過させてしまう。すなわち、トンネル絶縁層34aの厚さが厚すぎても薄すぎても、トンネル絶縁層34aに対して、キャリア選択性を発現させることはできない。このため、多数キャリアを通過させる一方、少数キャリアを非通過とするように、トンネル絶縁層34aの厚さを適宜調整することにより、トンネル絶縁層34aに対して、キャリア選択性を発現させる必要がある。
【0054】
続いて、トンネル絶縁層34aに接するように高濃度多結晶シリコン層35aが形成されている。この高濃度多結晶シリコン層35aに導入されている導電型不純物(ドナー)の不純物濃度は、単結晶シリコン層30に導入されている導電型不純物(ドナー)の不純物濃度よりも高くなっている。そして、この高濃度多結晶シリコン層35aと接するように、例えば、銀膜からなる金属電極37が形成されている。
【0055】
これに対し、単結晶シリコン層30の裏面30bの第2領域R2と接するように、パッシベーション層36が形成されている。このパッシベーション層36は、例えば、窒化シリコン膜から構成されている。
【0056】
なお、金属電極37(裏面電極)は、例えば、単位幅100μmで形成することができる。この場合、第1領域R1と第2領域R2との比である「R1:R2」は、「100μm:電極ピッチ(μm)-100μm」となる。
【0057】
以上のようにして、太陽電池セル100Aが構成されている。
【0058】
<実施の形態における特徴>
本実施の形態における特徴点は、例えば、
図3に示すように、トンネル絶縁層34aおよび高濃度多結晶シリコン層35aを金属電極37と平面的に重なる領域にだけ形成する思想である。言い換えれば、本実施の形態における特徴点は、単結晶シリコン層30の裏面30bの第2領域R2ではなく第1領域R1にだけ接するように、トンネル絶縁層34aを形成し、このトンネル絶縁層34aに接するように高濃度多結晶シリコン層35aを形成する点にある。このように、本実施の形態における特徴点は、トンネル絶縁層34aおよび高濃度多結晶シリコン層35aを形成する領域を制限する点にある。
【0059】
例えば、トンネル絶縁層34aおよび高濃度多結晶シリコン層35aを金属電極37と平面的に重なる領域にだけ形成する構造を「裏面部分形成構造」と呼ぶことにすると、本実施の形態における特徴点は、「裏面全面形成構造」ではなく、「裏面部分形成構造」を採用する点にあるということができる。この特徴点によれば、パッシベーション層36を透過した反射光50は、トンネル絶縁層34aおよび高濃度多結晶シリコン層35aを介さずに単結晶シリコン層30の内部に到達することができる。
【0060】
この結果、本実施の形態によれば、高濃度多結晶シリコン層35aに起因する反射光50の自由キャリア吸収を抑制することができる。つまり、特徴点によれば、反射光50の通過経路に自由キャリア吸収の大きな高濃度多結晶シリコン層35aが存在しないことから、自由キャリア吸収に起因する反射光50の光吸収損失を低減できるのである。このことは、反射光50に対して、単結晶シリコン層30の内部での電子の価電子帯から伝導帯への励起に寄与する割合を大きくすることができることを意味する。言い換えれば、特徴点を採用することにより、太陽電池セル100Aの短絡電流密度を向上できることを意味し、これによって、太陽電池セル100Aの電力密度を向上できる。
【0061】
上述したメカニズムによれば、「裏面部分形成構造」では、太陽電池セル100Aの短絡電流密度を向上できると考えられる。ただし、「裏面部分形成構造」では、トンネル絶縁層34aおよび高濃度多結晶シリコン層35aが裏面全面に形成されていない。このことから、「裏面部分形成構造」は、「裏面全面形成構造」に比べて、高濃度多結晶シリコン層35を通って金属電極37に達する経路の抵抗が高くなると考えられる。このことは、「裏面部分形成構造」では、「裏面全面形成構造」に比べて太陽電池セルの開放電圧およびフィルファクタが低下すると推察されることを意味する。
【0062】
したがって、短絡電流密度の向上を図ることができる「裏面部分形成構造」は、開放電圧およびフィルファクタに優位性を有する「裏面全面形成構造」に比べて、電力密度を向上できるかということは自明ではない。言い換えれば、本実施の形態における太陽電池セル100A(
図3参照)によれば、「i-TOPCon」型太陽電池セル100(
図2参照)よりも電力密度を向上できるかは自明ではない。
【0063】
この点に関し、本発明者の洞察は、太陽電池セルの発電効率を向上させる観点から、短絡電流密度を向上させる改良による「発電効率の向上」が、開放電圧およびフィルファクタの犠牲による「発電効率の低下」を大幅に上回る結果、本実施の形態における太陽電池セル100Aによれば、「i-TOPCon」型太陽電池セル100に比べて、最終的に発電効率を向上できるというものである。
【0064】
以下に、この洞察が正しいことを裏付ける検証結果について説明する。
【0065】
<検証結果>
図4は、電極ピッチ(裏面)と短絡電流密度(Jsc)との関係を示すグラフである。
【0066】
図4において、グラフ(1)およびグラフ(2)は、表面側から入射した太陽光に基づく短絡電流密度を示すグラフであり、グラフ(1)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(2)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図4に示すグラフ(1)およびグラフ(2)から、表面側から入射した太陽光に基づく短絡電流密度は、太陽電池セル100Aと「i-TOPCon」型太陽電池セル100においてほぼ同様であることがわかる。
【0067】
これに対し、グラフ(3)およびグラフ(4)は、裏面側から入射した反射光に基づく短絡電流密度を示すグラフであり、グラフ(3)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(4)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図4に示すグラフ(3)およびグラフ(4)から、裏面側から入射した反射光に基づく短絡電流密度は、太陽電池セル100Aの方が「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも大きいことがわかる。特に、本実施の形態における太陽電池セル100Aは、「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも、最大で3mA/cm
2以上の短絡電流密度が得られることがわかる。このように、上述した本実施の形態における特徴点によれば、裏面側から入射した反射光に基づく短絡電流密度を向上できることがわかる。すなわち、短絡電流密度を向上する観点からは、「裏面部分形成構造」の方が「裏面全面形成構造」よりも優れていることが裏付けられているといえる。
【0068】
図5は、電極ピッチ(裏面)と開放電圧(Voc)との関係を示すグラフである。
【0069】
図5において、グラフ(1)およびグラフ(2)は、表面側から入射した太陽光に基づく開放電圧を示すグラフであり、グラフ(1)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(2)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図5に示すグラフ(1)およびグラフ(2)から、表面側から入射した太陽光に基づく開放電圧は、太陽電池セル100Aの方が「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも大きくなることがわかる。
【0070】
これに対し、グラフ(3)およびグラフ(4)は、裏面側から入射した反射光に基づく開放電圧を示すグラフであり、グラフ(3)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(4)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図5に示すグラフ(3)およびグラフ(4)から、裏面側から入射した反射光に基づく開放電圧は、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の方が太陽電池セル100Aよりも大きいことがわかる。つまり、開放電圧を向上する観点からは、「裏面全面形成構造」の方が「裏面部分形成構造」よりも優れていることが裏付けられているといえる。
【0071】
図6は、電極ピッチ(裏面)とフィルファクタ(FF)との関係を示すグラフである。
【0072】
図6において、グラフ(1)およびグラフ(2)は、表面側から入射した太陽光に基づくフィルファクタを示すグラフであり、グラフ(1)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(2)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図6に示すグラフ(1)およびグラフ(2)から、表面側から入射した太陽光に基づくフィルファクタは、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の方が太陽電池セル100Aよりも大きくなることがわかる。
【0073】
これに対し、グラフ(3)およびグラフ(4)は、裏面側から入射した反射光に基づくフィルファクタを示すグラフであり、グラフ(3)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(4)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図6に示すグラフ(3)およびグラフ(4)から、裏面側から入射した反射光に基づくフィルファクタも、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の方が太陽電池セル100Aよりも大きいことがわかる。すなわち、フィルファクタを向上する観点からは、「裏面全面形成構造」の方が「裏面部分形成構造」よりも優れていることが裏付けられているといえる。
【0074】
図7は、電極ピッチ(裏面)と変換効率(Eff)との関係を示すグラフである。
【0075】
図7において、グラフ(1)およびグラフ(2)は、表面側から入射した太陽光に基づく変換効率を示すグラフであり、グラフ(1)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(2)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図7に示すグラフ(1)およびグラフ(2)から、表面側から入射した太陽光に基づく変換効率は、太陽電池セル100Aと「i-TOPCon」型太陽電池セル100においてほぼ同様であることがわかる。
【0076】
これに対し、グラフ(3)およびグラフ(4)は、裏面側から入射した反射光に基づく変換効率を示すグラフであり、グラフ(3)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(4)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図7に示すグラフ(3)およびグラフ(4)から、裏面側から入射した反射光に基づく変換効率は、太陽電池セル100Aの方が「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも大きいことがわかる。特に、本実施の形態における太陽電池セル100Aは、「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも、1%以上の変換効率を向上できることがわかる。このように、上述した本実施の形態における特徴点によれば、裏面側から入射した反射光に基づく変換効率を向上できることがわかる。すなわち、変換効率を向上する観点からは、「裏面部分形成構造」の方が「裏面全面形成構造」よりも優れていることが裏付けられているといえる。
【0077】
図8は、電極ピッチ(裏面)と電力密度との関係を示すグラフである。
【0078】
図8において、グラフ(1)は本実施の形態における太陽電池セル100Aを示している一方、グラフ(2)は「i-TOPCon」型太陽電池セル100を示している。
図8に示すグラフ(1)およびグラフ(2)から、電力密度は、太陽電池セル100Aの方が「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも大きくなることがわかる。特に、本実施の形態における太陽電池セル100Aは、「i-TOPCon」型太陽電池セル100よりも、最大で0.8mW/cm
2の高性能化を実現できることがわかる。
【0079】
このように、上述した本実施の形態における特徴点によれば、最終目標である電力密度の向上を図ることができることがわかる。すなわち、最終的な電力密度を向上する観点からは、「裏面部分形成構造」の方が「裏面全面形成構造」よりも優れていることが裏付けられているといえる。
【0080】
以上の検証結果に基づくと、太陽電池セルの電力密度を向上させる観点から、短絡電流密度を向上させる改良による「電力密度の向上」が、開放電圧およびフィルファクタの犠牲による「電力密度の低下」を大幅に上回る結果、本実施の形態における太陽電池セル100Aによれば、「i-TOPCon」型太陽電池セル100に比べて、最終的に電力密度を向上できるという本発明者の洞察が正しいことが裏付けられている。
【0081】
図9は、上述した検証結果をまとめた表である。
図9に示すように、本実施の形態における太陽電池セル100Aと「i-TOPCon」型太陽電池セル100のそれぞれには、メリットとデメリットが存在する。この点に関し、太陽電池セル100Aにおける短絡電流密度の向上が群を抜いて優れており、これによって、太陽電池セル100Aによれば、最終的な0.8mW/cm
2の電力密度の向上を図ることができる技術的意義は大きい。特に、この検証結果は、「TOPCon」型太陽電池セル系ロードマップの将来予測を上回る結果である。したがって、本実施の形態における技術的思想は、当業者にとっても予測困難な顕著な効果を得ることができる点で非常に優れた技術的思想であるといえる。
【0082】
<太陽電池セルの製造方法>
本実施の形態における太陽電池セル100Aは、上記のように構成されており、以下に、その製造方法について説明する。ここで説明する太陽電池セル100Aの製造方法は、一例であって、これに限定されるものではない。
【0083】
図10は、太陽電池セル100Aの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【0084】
まず、
図10において、n型の単結晶シリコン層30を有する半導体基板(半導体ウェハ)を準備する(S101)。この段階で、例えば、洗浄処理やダメージ層の除去処理や表面平坦化処理などが行われる。次に、単結晶シリコン層30の表面30aに対して、凹凸形状からなるテクスチャ構造を形成する(S102)。このテクスチャ構造は、例えば、ウェットエッチング処理で実施される。その後、単結晶シリコン層30の表面30aにボロン(B)を導入することにより、エミッタ層31を形成する(S103)。
【0085】
次に、例えば、熱酸化法を使用することにより、単結晶シリコン層30の裏面30bに酸化シリコンからなるトンネル絶縁層34aを形成する(S104)。そして、例えば、CVD法(Chemical Vapor Deposition)を使用することにより、トンネル絶縁層34aと接する真性多結晶シリコン層を形成した後(S105)、この真性多結晶シリコン層にn型不純物であるリン(P)を拡散させる(S106)。これにより、トンネル絶縁層34aと接するn型半導体層からなる高濃度多結晶シリコン層35aを形成できる。
【0086】
続いて、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、高濃度多結晶シリコン層35aおよびトンネル絶縁層34aをパターニングする(S107)。これにより、単結晶シリコン層30の裏面30bのうちの第1領域R1にだけトンネル絶縁層34aおよび高濃度多結晶シリコン層35aを形成することができる。
【0087】
その後、例えば、CVD法を使用することにより、エミッタ層31と接するパッシベーション層32を形成する。同様に、例えば、CVD法を使用することにより、単結晶シリコン層30の裏面30bのうちの第2領域R2と接するパッシベーション層36を形成する(S108)。次に、エミッタ層31と接続する金属電極33を形成する。同様に、高濃度多結晶シリコン層35aと接続する金属電極37を形成する(S109)。以上のようにして、太陽電池セル100A(
図3参照)を製造することができる。
【0088】
本実施の形態における太陽電池セル100Aの製造方法は、基本的に、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の製造方法に対して、「トンネル絶縁層34a」および「高濃度多結晶シリコン層35a」をパターニングするパターニング工程を追加することで実現できる。すなわち、太陽電池セル100Aの製造方法は、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の製造方法に対して追加する工程が少なく、「i-TOPCon」型太陽電池セル100の製造方法のノウハウを生かすことができる点で有用である。
【0089】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0090】
なお、前記実施の形態では、「第1導電型」を「n型」とし、「第2導電型」を「p型」とする太陽電池セル100Aを例に挙げて説明したが、前記実施の形態における技術的思想は、これに限らず、例えば、「第1導電型」を「p型」とし、「第2導電型」を「n型」とする太陽電池セルにも適用することができる。
【0091】
すなわち、前記実施の形態では、
図3に示す単結晶シリコン層30をn型単結晶シリコン層から構成しているが、この単結晶シリコン層30をp型単結晶シリコン層から構成してもよい。この場合、高濃度多結晶シリコン層35aもp型高濃度多結晶シリコン層から構成されることになる。この場合も、「裏面全面形成構造」を採用すると、高濃度多結晶シリコン層35aにおける反射光50の自由キャリア吸収によって光吸収損失が大きくなる。ただし、この場合の自由キャリア吸収は、価電子帯の上端に位置する正孔に対し、価電子帯の深い位置(電子的に見てエネルギー低い)にいる電子が、光エネルギーを吸収して、価電子帯の上端に位置する正孔(空席)に移動することによって生じる。
【0092】
この点に関し、「裏面全面形成構造」ではなく「裏面部分形成構造」を採用することにより、高濃度多結晶シリコン層35aに起因する反射光50の自由キャリア吸収を抑制することができる。つまり、この場合も、反射光50の通過経路に自由キャリア吸収の大きな高濃度多結晶シリコン層35aが存在しないことから、自由キャリア吸収に起因する反射光50の光吸収損失を低減できる。
【符号の説明】
【0093】
10a 太陽電池モジュール
10b 太陽電池モジュール
10c 太陽電池モジュール
10d 太陽電池モジュール
10e 太陽電池モジュール
10f 太陽電池モジュール
10g 太陽電池モジュール
20 パワーコンディショナー
30 単結晶シリコン層
30a 表面
30b 裏面
31 エミッタ層
32 パッシベーション層
33 金属電極
34 トンネル絶縁層
34a トンネル絶縁層
35 高濃度多結晶シリコン層
35a 高濃度多結晶シリコン層
36 パッシベーション層
37 金属電極
40 太陽光
50 反射光
100 「i-TOPCon」型太陽電池セル
100A 太陽電池セル