(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033957
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】L-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20230306BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20230306BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20230306BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230306BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20230306BHJP
A61K 31/69 20060101ALN20230306BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C07F5/02 C
B01J31/02 102Z
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
A61P35/00
A61K31/69
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139957
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】300032112
【氏名又は名称】森田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀川 展幸
(72)【発明者】
【氏名】杉原 多公通
(72)【発明者】
【氏名】本澤 忍
(72)【発明者】
【氏名】白川 真
【テーマコード(参考)】
4C086
4G169
4H039
4H048
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA43
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA27B
4G169BC72B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD04A
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4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD07B
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE27B
4G169BE46B
4G169CB25
4G169CB61
4G169CB79
4G169DA02
4H039CA91
4H039CD40
4H039CD90
4H048AA02
4H048AB20
4H048AB84
4H048AC61
4H048AC80
4H048BA25
4H048BA37
4H048BA48
4H048BB18
4H048BB25
4H048VA20
4H048VA30
(57)【要約】
【課題】本発明は、BNCT療法に好適なL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】L-チロシンから二度のホウ素化工程を経て製造するL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の4工程を含むL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
第一工程:L-チロシンを、第一の溶媒中,一般式(1)で表されるホウ素誘導体と反応させて、一般式(2)で表されるホウ素エステルを製造する工程、
第二工程:第一工程で得られたホウ素エステルを、第二の溶媒に溶解させ、トリアルキルアミンの存在下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させて、一般式(3)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを製造する工程、
第三工程:第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルを、第三の溶媒に溶解させ、触媒の存在下、一般式(4)で表されるホウ素化合物または一般式(5)で表されるホウ素化合物と反応させて、一般式(6)で表されるアリールボロン酸エステルを製造する工程、および
第四工程:第三工程で得られたアリールボロン酸エステルを第四の溶媒中、酸性条件下で加熱することによりL-p-ボロノフェニルアラニンを製造する工程
【化1】
(式中R
1、R
2およびR
3は、同一または異なって炭素数1~6のアルキル、アリールもしくはアルコキシ、アリールオキシを表すか、またはR
3が水素、ヨウ素、メトキシもしくはトリフルオロメタンスルホナートを表し、R
1およびR
2は合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表し、R
4、R
5、R
6およびR
7は同一または異なって炭素数1~6のアルキルまたはアルコキシ、アリールオキシを表す。)。
【請求項2】
前記一般式(4)で表されるホウ素化合物がビスピナコラートジボロンであることを特徴とする請求項1記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(5)で表されるホウ素化合物がピナコールボランであることを特徴とする請求項1記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるホウ素誘導体がアルキルボランであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項5】
アルキルボランが、トリエチルボランまたはトリブチルボランであることを特徴とする請求項4記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項6】
第二工程で使用するトリアルキルアミンがトリメチルアミンまたはトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項7】
第三工程で使用する触媒がパラジウム触媒であり、助触媒が酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、ジイソプロピルアミンまたはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンのいずれか1種、または複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項8】
パラジウム触媒として、PdCl2(dppf)、PdCl2(dppe)、PdCl2(dppp)、PdCl2(dppf)、CH2Cl2、PdCl2(PPh3)2、PdCl2(o-tolyl)2およびPd(PPh3)4のいずれか1種以上を用いることを特徴とする請求項7記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法により製造されたL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とすることを特徴とする腫瘍の放射線治療に用いる増強剤の製造方法。
【請求項10】
放射線治療が、中性子捕捉療法であることを特徴とする請求項9記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-チロシンを原料とするL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法および同製法で得られたL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とする医薬品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんのホウ素中性子捕捉療法(以下「BNCT」ともいう。)は、あらかじめ腫瘍組織に取り込ませた10B核と生体にほぼ影響を及ばさない熱中性子線の捕捉反応によって生じるα粒子および7Li粒子によって腫瘍細胞を障害する放射線療法である。BNCTに用いる薬剤としてL-p-ボロノフェニルアラニンが知られており、既に臨床でも用いられている。
【0003】
L-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法としては、L-p-ボロノフェニルアラニンのDL体を製造し、光学分割によりL体を採取する方法(非特許文献1)、アミノ基をカルバミン酸エステルとして、またカルボキシ基をアルキルエステルとして保護したチロシン誘導体の原料からトリフラート誘導体を合成し、トリフラート誘導体をテトラアルコキシジボロンと反応させることによって得られた化合物を脱保護することによりL-p-ボロノフェニルアラニンを製造する方法(特許文献1)、芳香族アミノ酸誘導体へ、ボラン、またはジボロン化合物を用いてホウ素を導入し、p-ボロノフェニルアラニンを製造する方法(非特許文献2)およびその誘導体の製造方法(特許文献2)が知られている。しかしながら、製造方法によりL-p-ボロノフェニルアラニンのホウ素中性子捕捉療法の増感効果が異なることは知られていない。一方、現在中性子捕捉療法に用いるL-p-ボロノフェニルアラニンは高濃度の10Bホウ素を必要とするため、通常濃縮ホウ素を用いた高価な化合物が必要とされていた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.R.SynDer(エイチ、アール、シンダー)、JournaL of American ChemicaL Society(ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティー)、1958年、80巻、835頁
【非特許文献2】山本嘉則ら、JournaL of Organic Chemistry(ジャーナル オブ オルガニック ケミストリー)、1998年、63巻、7529-7530頁
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2979139号
【特許文献2】特開2000-212185号
【特許文献3】特許第5150084号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、BNCT療法に好適なL-p-ボロノフェニルアラニンの簡便な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕 次の4工程を含むL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
第一工程:L-チロシンを、第一の溶媒中,一般式(1)で表されるホウ素誘導体と反応させて、一般式(2)で表されるホウ素エステルを製造する工程、
第二工程:第一工程で得られたホウ素エステルを、第二の溶媒に溶解させ、トリアルキルアミンの存在下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させて、一般式(3)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを製造する工程、
第三工程:第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルを、第三の溶媒に溶解させ、触媒の存在下、一般式(4)で表されるホウ素化合物または一般式(5)で表されるホウ素化合物と反応させて、一般式(6)で表されるアリールボロン酸エステルを製造する工程、および
第四工程:第三工程で得られたアリールボロン酸エステルを第四の溶媒中、酸性条件下で加熱することによりL-p-ボロノフェニルアラニンを製造する工程
【化1】
(式中R
1、R
2およびR
3は、同一または異なって炭素数1~6のアルキル、アリールもしくはアルコキシ、アリールオキシを表すか、またはR
3が水素、ヨウ素、メトキシもしくはトリフルオロメタンスルホナートを表し、R
1およびR
2は合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表し、R
4、R
5、R
6およびR
7は同一または異なって炭素数1~6のアルキルまたはアルコキシ、アリールオキシを表す。)、
〔2〕 前記一般式(4)で表されるホウ素化合物がビスピナコラートジボロンであることを特徴とする〔1〕記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔3〕 前記一般式(5)で表されるホウ素化合物がピナコールボランであることを特徴とする〔1〕記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔4〕 前記一般式(1)で表されるホウ素誘導体がアルキルボランであることを特徴とする〔1〕から〔3〕のいずれかひとつに記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔5〕アルキルボランが、トリエチルボランまたはトリブチルボランであることを特徴とする〔4〕記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔6〕第二工程で使用するトリアルキルアミンがトリメチルアミンまたはトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンであることを特徴とする〔1〕から〔5〕のいずれかひとつに記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔7〕第三工程で使用する触媒がパラジウム触媒であり、助触媒が酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、ジイソプロピルアミンまたはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンのいずれか1種、または複数の組み合わせであることを特徴とする〔1〕から〔6〕のいずれかひとつに記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔8〕パラジウム触媒として、PdCl
2(dppf)、PdCl
2(dppe)、PdCl
2(dppp)、PdCl
2(dppf)、CH
2Cl
2、PdCl
2(PPh
3)
2、PdCl
2(o-tolyl)
2およびPd(PPh
3)
4のいずれか1種以上を用いることを特徴とする〔7〕記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
〔9〕〔1〕から〔8〕のいずれかひとつに記載の方法により製造されたL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とすることを特徴とする腫瘍の放射線治療に用いる増強剤の製造方法、および
〔10〕放射線治療が、中性子捕捉療法であることを特徴とする〔9〕記載の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明により得られたL-p-ボロノフェニルアラニンを担がんマウスに前投与した後、中性子線を照射した群(L-nBPA投与群)の照射後28日間の腫瘍体積の変化を経時的に測定したものである。比較対象として何も処理を行っていない未処理群、中性子線のみを照射したコントロール群の結果も記載した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における第一の工程:L-チロシンを、第一の溶媒中、前記一般式(1)で表されるホウ素誘導体と反応させて、前記一般式(2)で表されるホウ素エステルを製造する工程とは、以下に示すL-チロシンのホウ素エステル化工程を表す。
【0010】
【化2】
(式中R
1、R
2およびR
3は、同一または異なって炭素数1~6のアルキル、アリールもしくはアルコキシ、アリールオキシを表すか、またはR
3が水素、ヨウ素、メトキシもしくはトリフルオロメタンスルホナートを表し、R
1およびR
2は合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表す。)
【0011】
具体的には、チロシンを第一の溶媒中に溶解させた後、必要によりアルゴン雰囲気下とし、第一の溶媒に溶解させた一般式(1)で表されるトリアルキルボランを加え加熱還流を行う。
【0012】
一般式(1)で表されるホウ素誘導体の定義のうち、炭素数1~6のアルキルとは、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等を表し、アリールとはフェニル、ナフチルを表し、アルコキシとはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等を表し、アリールオキシとはフェニルオキシ等を表す。
【0013】
例えば、炭素数1~6のアルキルをR1、R2およびR3に持つトリアルキルボランとしては、炭素数1~6のアルキル基を持つボランであればどのようなものでも良く、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリブチルボラン、トリプロピルボラン、トリペンチルボラン、トリヘキシルボラン等が挙げられるが、トリエチルボランまたはトリブチルボラン等を用いることが好ましく、とりわけトリエチルボランを用いることが好ましい。
【0014】
また、R3が水素、ヨウ素、メトキシもしくはトリフルオロメタンスルホナートを表し、R1およびR2は合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表すとは、例えば、R3が水素でR1およびR2は合同でビシクロノナンを示す9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン、R3が水素でR1およびR2は合同で環状のカテコールを示すカテコールボラン、R3が水素でR1およびR2は合同で環状のピコナールを示すピコナールボラン、R3がヨウ素でR1およびR2は合同で環状のビシクロボランを示す9-ヨード-9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン、R3がフルオロメタンスルホナートを表し、R1およびR2は合同で環状のビシクロノナンを表す9-ボラビシクロ[3.3.1]ノニルトリフルオロメタンスルホナートを表し、R3がメトキシを表し、R1およびR2は合同で環状のビシクロボランを示す9-メトキシ-9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン等が挙げられる。
【0015】
本工程に用いる第一の溶媒としては、エーテル系溶媒を示し、テトラヒドロフランや1,4-ジオキサンを用いることが好ましい。
【0016】
加熱温度は、溶媒により異なるが、沸点以上の温度で還流させることが望ましい。反応時間は、12~96時間、好ましくは24~72時間、とりわけ好ましくは36~48時間である。
【0017】
本発明における第二の工程:第一工程で得られたホウ素エステルを、第二の溶媒に溶解させ、トリアルキルアミンの存在下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させて、一般式(3)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを製造する工程とは、以下に示すホウ素エステルのトリフルオロメタンスルホン酸エステル化工程を表す。
【0018】
【化3】
(式中R
1およびR
2は、同一または異なって炭素数1~6のアルキル、アリールもしくはアルコキシ、アリールオキシを表すか、またはR
1およびR
2が合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表す。)
【0019】
具体的には、前記一般式(2)で表されるホウ素エステルを必要によりアルゴン雰囲気下、第二の溶媒に溶解させ、トリアルキルアミンを加え冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させて、生成物であるトリフルオロメタンスルホン酸エステルが確認された段階で、副生したトリフルオロメタンスルホン酸塩によるホウ素エステルの分解を抑制するために、炭酸水素ナトリウム等塩基性水溶液を加える。
【0020】
本工程における第二の溶媒としては、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテルが挙げられ、とりわけアセトニトリルを使用することが好ましい。本工程に用いるトリアルキルアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンを用いることが好ましい。
【0021】
トリアルキルアミン添加後の冷却温度としては、-20℃~-60℃、好ましくは-35℃~-45℃である。また、トリフルオロメタンスルホン酸無水物との反応時間は、15~60分、好ましくは20~40分である。
【0022】
本発明における第三工程:第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルを、第三の溶媒に溶解させ、触媒の存在下、一般式(4)で表されるホウ素化合物または一般式(5)で表されるホウ素化合物と反応させて、一般式(6)で表されるアリールボロン酸エステルを製造する工程を示す。
【0023】
【化4】
(式中R
1およびR
2は、同一または異なって炭素数1~6のアルキル、アリールもしくはアルコキシ、アリールオキシを表すか、またはR
1およびR
2が合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表し、R
4、R
5、R
6およびR
7は同一または異なって炭素数1~6のアルキルまたはアルコキシ、アリールオキシを表す。)
【0024】
具体的には、前記一般式(3)で示されるトリフルオロメタンスルホン酸エステル、一般式(4)で表されるホウ素化合物または一般式(5)で表されるホウ素化合物、パラジウム触媒に第三の溶媒を加え加熱還流を行う。生成物である一般式(6)で示されるアリールボロン酸エステルの生成が確認された後、室温まで放冷し、酢酸エチル等の溶媒や蒸留水を加え、生成物を抽出する。
【0025】
本工程において、前記一般式(4)で示されるホウ素化合物としてはビスピナコラートジボロン、テトラアルコキシジボロン等が挙げられ、前記一般式(5)で示される化合物としてはピコナールボラン等が挙げられる。
【0026】
本工程における、触媒としてはパラジウム触媒を用いるが、パラジウム触媒としてはPdCl2(dppe)、PdCl2(dppp)、PdCl2(dppf)、CH2Cl2、PdCl2(PPh3)2、PdCl2(o-tolyl)2、Pd(PPh3)4が挙げられる。これらのパラジウム触媒は単独または組み合わせて使用することができる。助触媒としては酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンおよびトリブチルアミンが挙げられる。これらの助触媒は選択されたいずれか1種、または複数の助触媒を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本工程に用いる第三の溶媒としては、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシドを用いることができ、加熱還流の温度は60℃~120℃、好ましくは80℃~100℃、反応時間は6時間~24時間、好ましくは10~14時間である。
【0028】
本発明における第四工程:第三工程で得られたアリールボロン酸エステルを第四の溶媒中、酸性条件下で加熱することによりL-p-ボロノフェニルアラニンを合成する工程とは、以下に示すようにアリールボロン酸エステルから保護基であるジエチルホウ素基、ピナコール基を外し、L-p-ボロノフェニルアラニンを生成させる工程を示す。
【0029】
【化5】
(式中R
1およびR
2は、同一または異なって炭素数1~6のアルキル、アリールもしくはアルコキシ、アリールオキシを表すか、またはR
1およびR
2が合同で環状のカテコール、ピナコール、ビシクロノナンを形成することを表し、R
4、R
5、R
6およびR
7は同一または異なって炭素数1~6のアルキルまたはアルコキシ、アリールオキシを表す。)
【0030】
具体的には、一般式(6)で示されるアリールボロン酸エステルを、必要によりアルゴン雰囲気下、第四の溶媒に塩酸等を加えて酸性条件下にして加熱する。加熱温度は30℃~70℃、好ましくは40℃~60℃で、5時間~20時間、好ましくは10時間~14時間加温する。
【0031】
反応によって得られた混合物を常法によりイオン交換樹脂や、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を用いて、L-p-ボロノフェニルアラニンを単離精製する。
【0032】
本発明における前記製造工程により製造されるL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とすることを特徴とする腫瘍の放射線治療に用いる増強剤とは、中性子捕捉療法に増強剤として用いられるL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とする医薬組成物を示す。
【0033】
L-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とする医薬組成物は、要事溶解タイプの固形状組成物であっても要事希釈タイプの液状組成物であっても良いが、液状組成物の方が好ましい。
【0034】
液状組成物としては有効成分であるL-p-ボロノフェニルアラニンの他、注射剤に用いる製剤基剤を用いれば良い。溶解に有用なイオン液体や溶解補助剤としてのフルクトース、ソルビトール、メグルミンを用いることも好ましい。
【0035】
錯体として用いた液状医薬組成物中のL-p-ボロノフェニルアラニンの濃度は、液状組成物中のw/v濃度として、1~30%、好ましくは2~20%、更に好ましくは2~15%、とりわけ好ましくは2~10%である。当該ホウ素濃度をppmとして換算すると400ppm~15000ppm、好ましくは900ppm~10000ppm、更に好ましくは900ppm~7500ppm、とりわけ好ましくは900ppm~5000ppmである。
【0036】
また溶解度の高いイオン液体を用いた場合の液状医薬組成物中のL-p-ボロノフェニルアラニンの濃度は、液状組成物中のw/v濃度として、15~50%、好ましくは20~50%、更に好ましくは30~50%、とりわけ好ましくは30~45%である。当該ホウ素濃度をppmとして換算すると7200ppm~24000ppm、好ましくは9600ppm~24000ppm、更に好ましくは14000ppm~21000ppm、とりわけ好ましくは16000ppm~21000ppmである。
【0037】
本発明で溶解補助剤としてメグルミンを用いる場合のL-p-ボロノフェニルアラニンに対する割合は、モル比で1以下、好ましくは1~0.7、とりわけ好ましくは0.8未満であって0.7以上である。
【0038】
本発明の液状組成物のpHは、生体への投与を考慮して、中性付近のpHであることが好ましい。より具体的には、6.5から7.5の範囲であり、特に好ましくは7.4付近である。pHの調節には必要に応じて、当該技術分野で用いられる適当なpH調整剤(塩酸、炭酸水素ナトリウムなど)、緩衝剤などを使用してもよい。
【0039】
本発明の液状組成物の浸透圧比は特に限定されないが、生理食塩水対比で、1から2までの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1.1から1.4の範囲である。この範囲にある場合には、注射剤の場合、痛みの軽減や投与時間の短縮が可能になる。
【0040】
液状組成物中には、その生体内外での安定性を高めるため、必要により生体に含まれるナトリウム、マグネシウム等各種金属イオンが含まれていてもよい。ナトリウムイオンの場合その濃度は、細胞内液と細胞外液の電解質バランスが大きく崩れないように体液のナトリウムイオン濃度範囲に近い数値範囲であることが好ましい。
【0041】
液状組成物には、必要に応じて、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝剤を加えてもよい。これらの緩衝剤は、製剤の安定化や刺激性の低下に有用な場合がある。
【0042】
液状組成物の添加物として医薬品医療機器等法で許容される添加物を、必要に応じて含有させることができる。そのような添加物として、通常、液体、特に水性の組成物に用いられる添加剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸カリウム、塩酸クロロヘキシジン等の保存剤、エデト酸Na等の安定化剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ショ糖、ブドウ糖等の等張化剤、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン等の等張化剤、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤が挙げられる。
【0043】
液状組成物が中性子捕捉療法に用いられる医薬品である場合、L-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物の投与方法は、腫瘍の近傍にL-p-ボロノフェニルアラニンを送達させる方法であればどのような物でも良いが、好ましくは静脈投与、腹腔内投与、経皮投与を用いる。
【0044】
静脈投与、腹腔内投与等体内に直接注入する投与方法の場合は、L-p-ボロノフェニルアラニンからなるイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物に対して、必要により例えば、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウム等の分散剤、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノール等の保存剤、例えば、塩化ナトリウム,グリセリン,D-マンニトール、グルコース等の等張化剤を加え、例えば、注射用蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等の水溶剤で希釈化し、p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする静脈投与、腹腔内投与に用いる液状医薬組成物を製造する。
【0045】
また、経皮投与により腫瘍の近傍にL-p-ボロノフェニルアラニンを送達する場合は、必要により例えば、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウム等の分散剤、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノール等の保存剤、例えば、塩化ナトリウム,グリセリン,D-マンニトール、グルコース等の等張化剤を加え、例えば、オリーブ油,ゴマ油,綿実油,トウモロコシ油等の植物油、プロピレングリコール等の油性溶剤に溶解、懸濁あるいは乳化することにより、経皮投与に用いるL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物を製造する。
【0046】
なお、上記医薬組成物の製造工程においては、所望により例えば、サリチル酸ナトリウム,酢酸ナトリウム等の溶解補助剤、例えば、ヒト血清アルブミン等の安定剤、例えば、ベンジルアルコール等の無痛化剤等の添加物、更に医薬品医療機器等法において認められているものであれば必要に応じて抗酸化剤、着色剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、防腐剤、ゲル化剤を用いても良い。
【0047】
また、L-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物は、必要により治療の際に例えば、注射用蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等の水溶剤または医薬品用のローション、クリームで希釈しても良い。
【0048】
本発明の製造法により得られたL-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物は、以下の製造方法で製造することができる。
【0049】
1.L-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、メグルミンおよびイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物の製造法
室温において、L-p-ボロノフェニルアラニンに対して、モル比で2以下、好ましくは1以下、とりわけ好ましくは0.2以上0.8未満であるメグルミンを純水に溶解させ濃度を0.002moL/L~0.02moL/Lとする。これに対してp-ボロノフェニルアラニンを前記のようにメグルミンに対して規定した量で加え、更に純水を溶解する。p-ボロノフェニルアラニンの終濃度は、15~50v/w%,好ましくは20~50v/w%、更に好ましくは30~50v/w%、とりわけ好ましくは35~45v/w%に調整する。必要により、前記医薬品製剤添加物を加え、L-p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物を製造する。
添加する純水としては、例えば市販のMiLLi-Q Water(商品名:メルクミリポア社製)等市販の純水を用いても良い。
【0050】
2.L-p-ボロノフェニルアラニンを構成成分とする液状医薬組成物の処方例
処方例1
L-p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体65.45mLにTween80(界面活性剤、富士フィルム和光純薬株式会社製)16.36mL、エタノール65.45mLを加え、pH調整剤としての塩酸を適量加えながら、リン酸生理食塩水緩衝液(pH7.4)を加え全量を654mLに調整した
【0051】
処方例2
L-p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体100μLにpH調整剤としての塩酸10μLを加えながら、リン酸生理食塩水緩衝液(pH7.4)890μLを加え全量を1mLに調整し、L-p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体を含む液状医薬組成物を製造した。
【実施例0052】
実施例1
L-p-ボロノフェニルアラニンの製造
第一工程
【化6】
で示されるL-チロシン(451.6mg、2.50mmoL:富士フィルム和光純薬工業株式会社製)をフラスコにはかりとる。フラスコに磁気撹拌子とテトラヒドロフラン(17.5mL:関東化学株式会社製)を加えた後に、フラスコ内をアルゴンで置換し、アルゴンを流しながら、トリエチルボラン溶液(ca.1moL/L in テトラヒドロフラン,7.5mL,7.50mmoL(3.01eq):関東化成工業株式会社製)を加えた。およそ100℃の油浴にフラスコを付け、41時間加熱還流し、反応溶液を室温まで放冷した。反応溶液を減圧濃縮すると、無色の液体を得た。シロップ状の粗生成物にヘキサン(約50mL)を加えて、得られた固体を吸引ろ過し、ヘキサンで洗浄することによって
【化7】
で示されるホウ素エステルを得た(576.1mg、2.31mmoL、92%)。
【0053】
得られたホウ素エステルは、TLCで単一物質を同定し、その構造は1H NMRおよび13C NMRで確認した。
【0054】
TLCの測定値
Rf : 0.20〔ヘキサン:酢酸エチル (1 : 1)〕
NMRの分析値
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ: 0.10-0.23 (m, 4H), 0.62 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 0.66 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 2.81 (dd, J = 9.0, 14.5 Hz, 1H), 3.40 (dd, J = 4.0, 14.5 Hz, 1H), 3.69 (dddd, J = 4.0, 9.0, 9.0, 9.0 Hz, 1H), 5.23 (dd, J = 9.0, 11.2 Hz, 1H), 6.49 (dd, J = 6.4, 11.2 Hz, 1H), 6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.12 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 9.24 (s, 1H).
13C NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ: 8.87, 9.06, 11.92, 12.55, 35.18, 56.12, 115.35, 127.20, 130.37, 156.25, 173.73
【0055】
第二工程
第一工程で得られたホウ素エステル(3.4g、13.53mmol)と磁気撹拌子をフラスコに入れ、フラスコ内部をアルゴンで置換した後に無水アセトニトリル(135mL:シグマーアルドリッチ社製)をフラスコに加えた。トリエチルアミン(4.3mL、30.85mmoL(2.28eq):富士フィルム和光純薬株式会社製)をフラスコに加え、フラスコを-40℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(2.4mL、14.27mmoL(1.06eq):シグマ-アルドリッチ社製)を滴下し、同温度で30分間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(約20mL)を加えて、反応混合物が室温に温まるまで放置した後、酢酸エチル(約50mL)を加えたのち、内容物を分液ロートに移して、酢酸エチル溶液を分取した。得られた酢酸エチル溶液を10%リン酸水溶液、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を自然ろ過にて除き、エバポレーターを用いて溶媒を減圧留去することにより、淡黄色油状物質を得た。この粗生成物をテトラヒドロフラン(約20mL)に溶解し、ヘキサン(約200mL)加えると白色の沈殿が発生した。この沈殿を吸引ろ過で集め、ヘキサンで洗浄し、減圧乾燥することによって、
【化8】
で示されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを白色綿状結晶または無色針状結晶として得た(3.7g、9.68mmoL、72%)。
【0056】
得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルは、TLCで単一物質を同定し、その構造は1H NMRおよび13C NMRで確認した。
【0057】
TLCの測定値
Rf : 0.34〔ヘキサン:酢酸エチル (1 : 1)〕)
NMRの分析値
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ: 0.11-0.30 (m, 4H), 0.670 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 0.674 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 2.93 (dd, J = 10.0, 15.0 Hz, 1H), 3.24 (dd, J = 4.0, 15.0 Hz, 1H), 3.86 (m, 1H), 5.61 (dd, J = 9.5, 11.0 Hz, 1H), 6.56 (dd, J = 7.5, 11.0 Hz, 1H), 7.45 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.56 (d, J = 8.8 Hz, 2H).
13C NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ: 8.84, 8.97, 11.64, 12.45, 35.32, 55.37, 118.26 (q, JC-F = 68.8 Hz), 121.21, 131.55, 138.68, 148.09, 173.23.
【0058】
第三工程
第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステル(380.0mg、1.00mmoL)、PdCl
2(dppf).CH
2Cl
2(41.0mg,0.05mmoL(5moL%):シグマ-アルドリッチ社製),ビスピナコラートジボロン(383.2mg、1.51mmoL(1.51eq):シグマ-アルドリッチ社製)、酢酸カリウム(395.7mg、4.00mmoL(4.04eq):関東化学株式会社製)をフラスコにはかりとり、フラスコ内をアルゴンで置換した後、無水アセトニトリル(3.3mL:シグマ-アルドリッチ社製)を加えた。あらかじめ100℃に加熱した油浴にフラスコを付け、12時間加熱還流し、反応混合物を室温まで放冷する。およそ10mLの酢酸エチルで反応混合物を希釈した後、分液ロートに内容物を移して蒸留水を加え、酢酸エチル溶液を分取した。酢酸エチル溶液を50mL三角フラスコに移し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を自然ろ過にて除いた。エバポレーターを用いて溶媒を減圧留去することにより、黒色油状物質を得た。この粗生成物を少量(約10mL)の酢酸エチルに溶解し、ほぼ同量のヘキサンを加えた後、シリカゲルのパッド(シリカゲル15g)を通過させて、
【化9】
で示される構造を持つアリールボロン酸エステル(351.1mg、0.98mmoL、98%)を得た〔シリカゲルはヘキサン、酢酸エチル(2:1)の混合溶液で溶出させ、TLCにて生成物の含まれた留分を確認し、集めて濃縮した〕。
【0059】
得られたアリールボロン酸エステルは、TLCで単一物質を同定し、その構造は1H NMRおよび13C NMRで確認した。
【0060】
TLCの測定値
Rf : 0.60 〔ヘキサン:酢酸エチル (1 : 1)〕
NMRの分析値
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ: 0.11-0.26 (m, 4H), 0.647 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 0.653 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 2.91 (dd, J = 9.3, 14.6 Hz, 1H), 3.19 (dd, J = 4.0, 14.6 Hz, 1H), 3.77 (dddd, J = 4.0, 8.5, 8.5, 8.5 Hz, 1H), 5.52 (dd, J = 9.5, 11.2 Hz, 1H), 6.50 (dd, J = 7.8, 11.2 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.62 (d, J = 8.0 Hz, 2H).
13C NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ: 9.00, 9.10, 11.72, 12.57, 24.67, 36.28, 55.78, 83.77, 126.71 (br), 128.94, 134.73, 141.15, 173.62
【0061】
第四工程
第三工程で得られたアリールボロン酸エステル(413.8mg、1.15mmoL)をフラスコにはかりとり、1,4-ジオキサン(2.3mL:関東化学株式会社製)、2moL/L塩酸(3.0mL、6.00mmol(5,21eq):富士フィルム和光純薬株式会社製)をフラスコに加えた。フラスコ内をアルゴンで置換した後に、50℃に温めておいた油浴にフラスコを浸け、14時間加熱した。室温まで放冷した後に、反応混合物を陽イオン交換樹脂(Dowex50,H+型、樹脂体積50mL)に通した。蒸留水で樹脂を洗浄した後に2%アンモニア水溶液でL-p-ボロノフェニルアラニンを溶出した。L-p-ボロノフェニルアラニンを含む留分を集めてエバポレーターで減圧濃縮し、減圧乾燥することによって、
【化10】
で示されるL-p-ボロノフェニルアラニン(205.8mg、0.98mmoL、98%)を得た。
【0062】
得られたL-p-ボロノフェニルアラニンの構造は、1H NMRおよび13C NMRで確認した。
【0063】
NMRの分析値
1H NMR (500 MHz, D2O + DCl) δ: 3.02 (dd, J = 7.5, 14.4 Hz, 1H), 3.13 (dd, J = 5.8, 14.4 Hz, 1H), 4.16 (dd, J = 5.8, 7.5 Hz, 1H), 7.11 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.50 (d, J = 8.0 Hz, 2H).
13C NMR (125 MHz, D2O + DCl) δ: 35.75, 54.08, 129.23, 131.86 (br), 134.60, 136.86, 171.26
【0064】
L-p-ボロノフェニルアラニンのL-チロシンからの収量は63.6%と高収率であった。
【0065】
実施例2
本件発明により得られたL-p-ボロノフェニルアラニンの中性子捕捉療法増強効果
実施例1で得られたL-p-ボロノフェニルアラニン84.4mgにフルクトース187.7mg、1moL/L水酸化ナトリウム水溶液600μLを加え溶解させた後に、1moL/L塩酸でpH7.2に調製した。得られた溶液のホウ素濃度は蒸留水を加えて1000ppmになるように調整し、試験用化合物(以下、L-nBPAと言う)とした。
【0066】
担がんマウスとして、BALB/cAマウス(メス、4週齢、体重16~20g)にマウス大腸がん細胞(CT26.5X106cells)を右大腿部に移植した後、12日間飼育し、腫瘍直径6~8mm(平均腫瘍体積230mm3)となるように作製した。作製した担がんマウスを試験中何も処理を行わない未処理群、試験中に中性子線照射のみを行う放射線照射群(コントロール群)、L-nBPAをあらかじめ投与した後、中性子線照射を行うL-nBPA投与群、の3群(1群n=4~6)に分けた。以下のように試験化合物を、担がんマウスに投与し、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)実施時の治療増強効果および抗腫瘍効果を検討した。
【0067】
前記試験化合物をホウ素換算量として10mgB/Kgの濃度で尾部の静脈を通して投与した。また、中性子線のみ照射した群(コントロール)や未処理群は前投与を行わなかった。
【0068】
前期試験化合物を投与した2時間後に中性子線照射を京都大学研究用原子炉(KURNS)で行なった。中性子線量は1.3~3.6X10
12neutron/cm
2とし、照射時間は50分とした。腫瘍抑制効果は照射後の腫瘍径を経時的に28日目までに測定し、コントロール群と比較した。結果を表1および
図1に示した。
【0069】
【0070】
なお、上記試験において腫瘍サイズの測定は下記計算式により行なった。
〔長径(mm)〕X〔短径(mm)〕2/2=腫瘍サイズ(mm3)
その結果、L-nBPA投与群は特に中性子捕捉療法用に10Bを高濃度に濃縮していないにもかかわらずコントロール群と対比して有為に腫瘍を抑制した。