(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033979
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】金属板材接合方法、金属接合体ならびに金属板材接合装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
B23K20/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139997
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102500
【氏名又は名称】SMK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光宏
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正幸
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167BB04
4E167CA04
(57)【要約】
【課題】複数枚の金属板材同士を接合する際に、金属板材間の接合強度を確保するとともに、接合した金属板材間における有効な導電性を確保する。
【解決手段】本発明に係る金属板材接合方法は、複数枚の金属板材11、12同士を接合するための金属板材接合方法であって、複数枚の金属板材11、12のそれぞれの貼合面を研磨する研磨ステップと、複数枚の金属板材11、12の貼合面同士を貼り合わせる貼合ステップと、複数枚の金属板材11、12を所定の加熱温度に加熱する加熱ステップ11、12と、複数枚の金属板材11、12の外方から、複数枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけピン20を押し込んで複数枚の金属板材11、12を変形させるピン押込ステップと、複数枚の金属板材11、12からピン20を抜き取るピン抜取ステップと、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の金属板材同士を接合するための金属板材接合方法であって、
前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨する研磨ステップと、
前記複数枚の金属板材の貼合面同士を貼り合わせて固定する貼合ステップと、
前記複数枚の金属板材を所定の加熱温度に加熱する加熱ステップと、
前記複数枚の金属板材の外方から、前記複数枚の金属板材の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけピンを押し込んで前記複数枚の金属板材を変形させるピン押込ステップと、
前記複数枚の金属板材から前記ピンを抜き取るピン抜取ステップと、
を有することを特徴とする金属板材接合方法。
【請求項2】
前記研磨ステップにおいて、前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面に揮発性溶剤を塗布しながら研磨を行うことを特徴とする請求項1に記載の金属板材接合方法。
【請求項3】
前記貼合ステップにおいて、前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面が前記揮発性溶剤により被覆された状態で、前記複数枚の金属板材の貼合面同士を貼り合わせることを特徴とする請求項2に記載の金属板材接合方法。
【請求項4】
前記所定の加熱温度が、160℃以上かつ前記複数枚の金属板材の材料である金属の溶融温度未満の範囲内であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の金属板材接合方法。
【請求項5】
前記所定の加熱温度が220℃であることを特徴とする請求項4に記載の金属板材接合方法。
【請求項6】
前記ピン押込ステップにおいて、貼り合わせた前記複数枚の金属板材の一方の表面に前記ピンの先端を当接させるとともに、貼り合わせた前記複数枚の金属板材の他方の表面に平板状の裏抑え部材を面接触させた状態で、前記ピンを押し込むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属板材接合方法。
【請求項7】
前記ピンの押し込み側に位置する金属板材の硬度が、他の金属板材の硬度よりも高いことを特徴とする請求項6に記載の金属板材接合方法。
【請求項8】
前記ピンの押し込み側に位置する前記金属板材が銅からなり、前記他の金属板材がアルミニウムからなることを特徴とする請求項7に記載の金属板材接合方法。
【請求項9】
前記ピンの押し込み側に位置する金属板材の厚さLに対して、前記ピンの押込量がL以上かつL×5/3以下の範囲内であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の金属板材接合方法。
【請求項10】
前記ピン押込ステップにおいて、貼り合わせた前記複数枚の金属板材の一方の表面および他方の表面の対向する位置のそれぞれに第1ピンの先端及び第2ピンの先端を当接させた状態で、前記第1ピンおよび前記第2ピンの両方を押し込むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属板材接合方法。
【請求項11】
前記複数枚の金属板材の総厚さDに対して、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれの押込量がD×1/4以上かつD×5/12以下の範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の金属板材接合方法。
【請求項12】
前記ピンの径が2mm以上であることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の金属板材接合方法。
【請求項13】
前記ピンが鋼からなることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の金属板材接合方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の金属板材接合方法により前記複数枚の金属板材が接合された金属接合体。
【請求項15】
複数枚の金属板材同士を接合するための金属板材接合装置であって、
前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨した後に前記複数枚の金属板材の貼合面同士を貼り合わせた状態を固定するための金属板材固定装置と、
前記金属板材固定装置で固定された前記複数枚の金属板材を所定の加熱温度に加熱するための加熱装置と、
押し込み用のピンを有しており、前記加熱装置で加熱した後、前記金属板材固定装置で固定された前記複数枚の金属板材の外方から、前記複数枚の金属板材の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけ前記ピンを押し込んで前記複数枚の金属板材を変形させ、その後、前記複数枚の金属板材から前記ピンを抜き取るためのピン進退装置と、を備えたことを特徴とする金属板材接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同種または異種の金属板材同士を接合するための金属板材接合方法、当該金属板材接合方法により製造された金属接合体、ならびに同種または異種の金属板材同士を接合するための金属板材接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載のリチウムイオンバッテリーの接続端子には、正極側にアルミニウム(Al)からなる板材、負極側に銅(Cu)からなる板材が用いられており、例えばこれらの端子が電気接続用導体である可撓端子により電気的に接続された構成を有している。例えばアルミニウムからなる可撓端子を用いた場合には、正極側では同種金属(Al-Al)を接合し、負極側では異種金属(Al-Cu)を接合する必要がある。
【0003】
現状、上記接続端子と可撓端子とを接合した箇所においては、電気抵抗がmΩオーダーになってしまっているが、この電気抵抗はなるべく小さいことが好ましく、例えばμΩオーダー程度まで低減できることが好ましい。このため、接合した金属間において有効な導電性を確保可能とする金属板材接合方法の開発が求められている。
【0004】
同種または異種の金属板材を接合するための金属板材接合方法として、例えば下記の特許文献1~3の開示技術が知られている。
【0005】
特許文献1には、金属板の冷間圧接方法が開示されている。特許文献1の開示技術によれば、一対の金属板を重ねて重複箇所を形成し、一対のダイスで押圧して両金属板を接合する。一対のダイスの少なくとも一方は突部を有し、この突部の高さを金属板の合計厚さの50~95%とする。
【0006】
特許文献2には、冷間圧接方法及び金属接合体が開示されている。特許文献2の開示技術によれば、硬度の小さい第2金属板材の上面に硬度の大きい第1金属板材を重ねた状態で、ダイスの下端の押圧面により第1金属板材の上面を上から押圧する。ダイスの押圧面が第1金属板材の上面を凹ませ、さらにダイスが下降することで、第1金属板材の変形部が第2金属部材の上面を押圧して凹ませる。このように第1および第2金属板材がダイスによって変形させられると、第1金属板材の変形部の下面と第2金属板材の変形部の上面とが、互いに強固に接合(固着)する。
【0007】
特許文献3には、アルミニウム部材と銅部材と拡散接合する異種金属の接合法が開示されている。特許文献3の開示技術によれば、接合すべき金属の接触面を共晶温度以上かつアルミニウムの融点以下の温度に高周波誘導加熱(通電加熱)して接触面に共晶反応による融液相を形成した後、接触面から融液を排出するために接合すべき金属の接触面を加圧して急速に冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-152916号公報
【特許文献2】特開2006-35244号公報
【特許文献3】特公昭62-55477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および特許文献2には、金属板を冷間圧接する方法である旨が記載されているが、温度に関する条件は何ら規定されていない。また、その他の様々な条件についても、接合した金属間における導電性の確保を考慮したものではない。すなわち、特許文献1および特許文献2には、金属の接合強度を確保するとともに、接合した金属間において有効な導電性を確保する方法が開示されているとは言い難い。
【0010】
また、特許文献3の開示技術では、接合すべき金属の接触面を通電加熱するための高周波誘導加熱装置が必要となるとともに、金属の接触面から融液を排出した後に急速に冷却するための急速冷却装置が必要となり、当該接合方法を実現するための構成が煩雑化および高コスト化する懸念がある。また、接合すべき金属の接触面を通電加熱するため、金属の接触面に酸化物が発生して電気抵抗の増加を招く懸念がある。さらに、通電加熱には大きな電力が必要となり、加熱温度を所望の温度にコントロールすることが難しくなる懸念がある。またさらに、接触面を対象として高周波誘導加熱を行う工程や、金属の接触面から融液を排出した後に急速に冷却する工程等を行う必要があり、当該接合法が複雑になる懸念もある。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、複数枚の金属板材同士を接合する際に、金属板材間の接合強度を確保するとともに、接合した金属板材間における有効な導電性を確保することが可能な金属板材接合方法、および当該金属板材接合方法により製造された金属接合体、ならびに金属板材同士を接合するための金属板材接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属板材接合方法は、複数枚の金属板材同士を接合するための金属板材接合方法であって、
前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨する研磨ステップと、
前記複数枚の金属板材の貼合面同士を貼り合わせて固定する貼合ステップと、
前記複数枚の金属板材を所定の加熱温度に加熱する加熱ステップと、
前記複数枚の金属板材の外方から、前記複数枚の金属板材の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけピンを押し込んで前記複数枚の金属板材を変形させるピン押込ステップと、
前記複数枚の金属板材から前記ピンを抜き取るピン抜取ステップと、
を有することを特徴とする。
【0013】
上記の工程によれば、ピンの押込力により複数枚の金属板材を変形させながら当該複数枚の金属板材同士を接合させることができるようになり、金属板材間の接合強度を確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性を確保できるようになる。特に、所定の加熱温度下でピンによる押圧により金属板材同士を接合させることで、接合面に酸化物が発生することを防ぎ、接合部の電気抵抗を極めて低く抑えることができる。その結果、金属板材同士の接合により電気回路を形成する場合に、接合部の接触抵抗を考慮せずに回路設計を行うことができるようになる。
【0014】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記研磨ステップにおいて、前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面に揮発性溶剤を塗布しながら研磨を行ってもよい。
【0015】
上記の工程によれば、研磨によって貼合面上に存在する酸化膜を除去するとともに、揮発性溶剤の塗布によって貼合面を保護し、貼合面に新たな酸化膜が生じることを防げるようになる。
【0016】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記貼合ステップにおいて、前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面が前記揮発性溶剤により被覆された状態で、前記複数枚の金属板材の貼合面同士を貼り合わせてもよい。
【0017】
上記の工程によれば、複数枚の金属板材の貼合面を揮発性溶剤により保護して貼合面に酸化膜が生じないようにした状態で、貼合面同士を貼り合わせることができるようになる。また、揮発性溶剤を用いることにより、貼り合わせた貼合面間に介在する揮発性溶剤を容易に揮発させて、貼合面間における不純物の介在を防ぐことができるようになる。
【0018】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記所定の加熱温度が、160℃以上かつ前記複数枚の金属板材の材料である金属の溶融温度未満の範囲内であってもよい。
【0019】
上記の工程によれば、接合後の複数枚の金属板材間の接合強度を十分に確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性を十分に確保できるようになる。
【0020】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記所定の加熱温度が220℃であってもよい。
【0021】
上記の工程によれば、接合後の複数枚の金属板材間の接合強度をより好適に確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性をより好適に確保できるようになる。
【0022】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピン押込ステップにおいて、貼り合わせた前記複数枚の金属板材の一方の表面に前記ピンの先端を当接させるとともに、貼り合わせた前記複数枚の金属板材の他方の表面に平板状の裏抑え部材を面接触させた状態で、前記ピンを押し込んでもよい。
【0023】
上記の工程によれば、貼り合わせた複数枚の金属板材の裏側を平板状の裏抑え部材で抑えて膨出することを防ぎながら、表側からピンを押し込むことで複数枚の金属板材同士を接合させることができるようになる。
【0024】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピンの押し込み側に位置する金属板材の硬度が、他の金属板材の硬度よりも高くてもよい。
【0025】
上記の工程によれば、硬度の高い金属板材側から押し込まれたピンの押込力が硬度の低い金属板材に伝達されて硬度の低い金属板材を変形させることができるようになるため、複数枚の金属板材同士をより確実に接合させることができるようになる。
【0026】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピンの押し込み側に位置する前記金属板材が銅からなり、前記他の金属板材がアルミニウムからなってもよい。
【0027】
上記の工程によれば、銅からなる金属板材側から押し込まれたピンの押込力がアルミニウムからなる金属板材に伝達されてアルミニウムからなる金属板材を変形させることができるようになるため、複数枚の金属板材同士をより確実に接合させることができるようになる。
【0028】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピンの押し込み側に位置する金属板材の厚さLに対して、前記ピンの押込量がL以上かつL×5/3以下の範囲内であってもよい。
【0029】
上記の工程によれば、ピンの押し込み側に位置する金属板材の厚さLを基準としてピンの押込量が所定量となるようにして、複数枚の金属板材の変形の程度を調整することで、金属板材間の接合強度を確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性を確保できるようになる。
【0030】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピン押込ステップにおいて、貼り合わせた前記複数枚の金属板材の一方の表面および他方の表面の対向する位置のそれぞれに第1ピンの先端及び第2ピンの先端を当接させた状態で、前記第1ピンおよび前記第2ピンの両方を押し込んでもよい。
【0031】
上記の工程によれば、貼り合わせた複数枚の金属板材の表側および裏側のそれぞれから第1ピンおよび第2ピンを押し込むことで複数枚の金属板材同士を接合させることができるようになる。
【0032】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記複数枚の金属板材の総厚さDに対して、前記第1ピンおよび前記第2ピンのそれぞれの押込量がD×1/4以上かつD×5/12以下の範囲内であってもよい。
【0033】
上記の工程によれば、複数枚の金属板材の厚さDを基準として第1ピンおよび第2ピンの押込量が所定量となるようにして、複数枚の金属板材の変形の程度を調整することで、金属板材間の接合強度を確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性を確保できるようになる。
【0034】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピンの径が2mm以上であってもよい。
【0035】
上記の工程によれば、金属板材間の接合強度を十分に確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性を確保できるようになる。
【0036】
本発明に係る金属板材接合方法は、前記ピンが鋼からなってもよい。
【0037】
上記の工程によれば、硬度の高い鋼からなるピンを用いることで、複数枚の金属板材を確実に変形させて接合させることができるようになる。
【0038】
また、本発明によれば、上記の金属板材接合方法により前記複数枚の金属板材が接合された金属接合体が提供される。
【0039】
本発明に係る金属板材接合方法を用いることで、金属板材間の接合強度が十分に確保され、かつ接合した金属板材間において有効な導電性が確保された金属接合体を製造できるようになる。
【0040】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る金属板材接合装置は、複数枚の金属板材同士を接合するための金属板材接合装置であって、
前記複数枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨した後に前記複数枚の金属板材の貼合面同士を貼り合わせた状態を固定するための金属板材固定装置と、
前記金属板材固定装置で固定された前記複数枚の金属板材を所定の加熱温度に加熱するための加熱装置と、
押し込み用のピンを有しており、前記加熱装置で加熱した後、前記金属板材固定装置で固定された前記複数枚の金属板材の外方から、前記複数枚の金属板材の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけ前記ピンを押し込んで前記複数枚の金属板材を変形させ、その後、前記複数枚の金属板材から前記ピンを抜き取るためのピン進退装置と、を備えたことを特徴とする。
【0041】
上記の構成によれば、ピンの押込力により複数枚の金属板材を変形させながら当該複数枚の金属板材同士を接合させることができるようになり、金属板材間の接合強度を確保できるとともに、接合した金属板材間において有効な導電性を確保できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の実施形態におけるピン押込パターン1を説明するための斜視図であり、(a)は貼り合わせた2枚の金属板材の上方にピンが配置された状態を示す斜視図、(b)は貼り合わせた2枚の金属板材にピンを押し込んだ状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1(b)のA-A断面において、ピンの中心軸の片側を示す片側断面図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるピン押込パターン2を説明するための斜視図であり、貼り合わせた2枚の金属板材にピンを押し込んだ状態を示す斜視図である。
【
図4】
図3のB-B断面において、ピンの中心軸の片側を示す片側断面図である。
【
図5】本発明の実施形態におけるピン押込パターン3を説明するための斜視図であり、貼り合わせた2枚の金属板材にピンを押し込んだ状態を示す斜視図である。
【
図6】
図5のC-C断面において、ピンの中心軸の片側を示す片側断面図である。
【
図7】本発明の実施形態における金属板材の接合工程の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態における金属板材接合装置の構成の一例を示す図である。
【
図9】(a)は実施例4における試験品13の接合部近傍の断面拡大写真、(b)は実施例4における試験品14の接合部近傍の断面拡大写真である。
【
図10】(a)は実施例5における試験品14の接合部近傍のSEM写真、(b)はAl(アルミニウム)成分分析画像、(c)はCu(銅)成分分析画像、(d)はO(酸素)成分分析画像である。
【
図11】実施例6における加熱温度と引き剥がし強度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の実施形態に対する理解を容易にするため、便宜上、図示されている各構成要素の寸法や縮尺は実際の寸法や縮尺とは異なる場合がある。
【0044】
<本発明の概要>
本発明は、ピン(押し込み用のピン)の押圧によって同種または異種の複数枚の金属板材同士を接合するものである。以下では、2枚の金属板材を接合する場合について説明するが、本発明によれば、3枚以上の金属板材を接合することも可能である。
【0045】
本発明の実施形態におけるピン押し込み方法として、例えば下記のピン押込パターン1~3を用いることができる。
【0046】
(ピン押込パターン1)
図1(a)、(b)および
図2を参照しながら、本発明の実施形態におけるピン押込パターン1について説明する。
図1(a)は、貼り合わせた2枚の金属板材11、12の上方にピン20が配置された状態を示す斜視図であり、
図1(b)は、貼り合わせた2枚の金属板材11、12にピン20を押し込んだ状態を示す斜視図である。また、
図2は、
図1(b)のA-A断面において、ピン20の中心軸の片側を示す片側断面図である。
図2には、ピン20の中心軸に対して図面右側のみ図示されているが、左右対称であり図面左側も同様の構成となっている。
【0047】
なお、説明を明瞭にするため、ピン20の先端20aを当接させてピン20を直接押し込む側の金属板材を第1金属板材11と記載し、ピン20に対して第1金属板材11の下層に配置され、ピン20の先端20aを当接させない側の金属板材を第2金属板材12と記載することがある。また、第1金属板材11において、ピン20の押し込み時にピン20の先端20aを当接させる面を第1金属板材11の上面11aと記載し、当該上面11aと対向する裏側の面を第1金属板材11の下面11bと記載することがある。さらに、第1金属板材11の下面11aと接触する面を第2金属板材12の上面12aと記載し、第2金属板材12の上面12aと対向する裏側の面を第2金属板材12の下面12bと記載することがある。
【0048】
図1(a)に示すように、2枚の金属板材11、12を準備し、これらの金属板材11、12を貼り合わせた状態とする。ここでは一例として、2枚の金属板材11、12を接合する場合について説明するが、3枚以上の金属板材を同様に貼り合わせて接合することも可能である。本明細書における「貼り合わせ」とは、2枚の金属板材11、12を重ね合わせて面接触させることを意味する。
【0049】
2枚の金属板材11、12は、同種金属(例えば、両方ともアルミニウム製)からなるものであってもよく、異種金属(例えば、一方がアルミニウム製、他方が銅製)かなるものであってもよい。2枚の金属板材11、12が異種金属からなるものである場合には、相対的に硬度の高い金属板材を第1金属板材11とし、相対的に硬度の低い金属板材を第2金属板材12として、第1金属板材11の硬度が第2金属板材12の硬度よりも高くなるように配置することが好ましい。すなわち、ピン20を押し込む際に高硬度の第1金属板材11側からピン20を押し込むことが好ましく、これにより、第1金属板材11が第2金属板材12を適切に変形させることができるようになる。
【0050】
2枚の金属板材11、12は、貼り合わせる前に、貼合面(第1金属板材11の下面11aと第2金属板材12の上面12a)同士が隙間なく面接触するように加工され、貼合面上に形成されている酸化膜が除去される。第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材12の上面12aは、例えば研磨によって、滑らかで平坦な面に加工されるとともに酸化膜が除去されてもよく、さらに、無水アルコール等の揮発性溶剤により被覆された状態で貼り合わされてもよい。
【0051】
図1(b)に示すように、2枚の金属板材11、12を貼り合わせた状態とした後、2枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向(ピン押込方向P)からピン20を押し込み、2枚の金属板材11、12を変形させることで2枚の金属板材11、12を接合する。ピン20は、例えば鋼(ハイス鋼)等の硬度の高い金属からなる細径長尺部材である。ピン20の直胴部の直径は、2mm以上であることが好ましい。また、ピン20の先端20aは、第1金属板材11の内部にピン20が穿入しやすいようにテーパ状に加工されていてもよい。
【0052】
2枚の金属板材11、12に対してピン20を押し込む際に、2枚の金属板材11、12を所定の加熱温度となるように加熱しておくことが好ましい。所定の加熱温度は、160℃以上かつ2枚の金属板材11、12の材料である金属の溶融温度(融点)未満の範囲内であることが好ましく、220℃であることが特に好ましい。
【0053】
2枚の金属板材11、12に対してピン20を押し込んだ際には、まずピン20の先端20aが第1金属板材11に当接し、ピン20を押し込むことでピン20の押圧により第1金属板材11が変形する。
【0054】
さらにピン20を押し込むと、ピン20の押圧により、第1金属板材11はピン押込方向Pに膨らむように変形する。このピン20の押圧は第1金属板材11を通じて第2金属板材12に伝達され、第2金属板材12もピン押込方向Pに膨らむように変形する。ピン20の押込量は、2枚の金属板材11、12をピン20が貫通せずに、かつ、2枚の金属板材11、12を接合することが可能な適切な量に制御されることが好ましい。ピン20の押込量は、例えば、第1金属板材11の厚さLに対して、L以上かつL×5/3以下の範囲内であることが好ましい。
【0055】
図2の片側断面図には、貼り合わせた2枚の金属板材11、12に対してピン20を十分に押し込んだ状態が模式的に示されている。
図2に示すように、ピン20を押し込んだ場合には、第1金属板材11はピン20の押圧によってピン押込方向Pに膨らむように変形する。また、ピン20の押圧は第1金属板材11を介して第2金属板材12に伝達され、第2金属板材12も同様にピン押込方向Pに膨らむように変形する。
【0056】
第1金属板材11の下面11bにおいてピン20の押圧が掛かった領域では下面11bが広がり、第1金属板材11の内部から新たな面が下面11bに露出する。同様に、第2金属板材11の上面12aにおいてピン20の押圧が掛かった領域では上面12aが広がり、第2金属板材12の内部から新たな面が上面12aに露出する。第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材11の上面12aには、ピン20の押圧により加圧された領域がÅオーダーで近接して金属結合(原子間結合)し、接合面15が形成される。接合面15は、十分な接合強度を有しており、さらに、電気を通す部分のみを接合させることができるものである。また、この接合面15には酸化物が発生せず、接合面15における電気抵抗を極めて低く抑えることができる。
【0057】
ピン20を抜き取ると、2枚の金属板材11、12が接合面15で接合された金属接合体が得られる。金属接合体は、接合面15において物理的及び電気的に接続されており、これにより、2枚の金属板材11、12の物理的な接合強度と有効な導電性が確保されている。ピン押込パターン1で得られる金属接合体は、第1金属板材11の上面11aにピン20の押し込みによる凹陥状痕が形成され、第2金属板材12の下面12bが下方に膨出した状態となる。
【0058】
(ピン押込パターン2)
図3および
図4を参照しながら、本発明の実施形態におけるピン押込パターン2について説明する。
図3は、貼り合わせた2枚の金属板材11、12にピン20を押し込んだ状態を示す斜視図である。また、
図4は、
図3のB-B断面において、ピン20の中心軸の片側を示す片側断面図である。
図4には、ピン20の中心軸に対して図面右側のみ図示されているが、左右対称であり図面左側も同様の構成となっている。
【0059】
ピン押込パターン2は、上述したピン押込パターン1と比較して、第2金属板材12の下方に裏抑え板材30を設ける点で異なっている。裏抑え板材30は、例えば鋼(ハイス鋼)等の硬度の高い金属からなる平板部材であり、裏抑え板材30の上面30aは、第2金属板材12の下面12bと隙間なく面接触できるように加工されている。裏抑え板材30は、2枚の金属板材11、12を貼り合わせた状態としたときに、第2金属板材12の下面12bに裏抑え板材30の上面30aを面接触させるように配置される。なお、3枚以上の金属板材を貼り合わせた場合には、最下層に位置する金属板材の下面に裏抑え板材30の上面30aを面接触させるように配置すればよい。
【0060】
図3に示すように、2枚の金属板材11、12を貼り合わせ、さらに、第2金属板材12の下面に裏抑え板材30の上面30aを面接触させた状態とした後、2枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向(ピン押込方向P)からピン20を押し込み、2枚の金属板材11、12を変形させることで2枚の金属板材11、12を接合する。このとき、上述したピン押込パターン1と同様に、2枚の金属板材11、12を所定の加熱温度となるように加熱しておくことが好ましい。
【0061】
2枚の金属板材11、12に対してピン20を押し込んだ際には、まずピン20の先端20aが第1金属板材11に当接し、ピン20を押し込むことでピン20の押圧により第1金属板材11が変形する。
【0062】
さらにピン20を押し込むと、ピン20の押圧により、第1金属板材11はピン押込方向Pに膨らむように変形する。このピン20の押圧は第1金属板材11を通じて第2金属板材12に伝達され、第2金属板材12も変形する。ピン20の押込量は、上述したピン押込パターン1と同様に、2枚の金属板材11、12をピン20が貫通せずに、かつ、2枚の金属板材11、12を接合することが可能な適切な量に制御されることが好ましい。
【0063】
上述のピン押込パターン1では、第2金属板材12はピン押込方向Pに膨らむように変形し、第2金属板材12の下面12bは下方に膨出する。これに対して、ピン押込パターン2では、裏抑え板材30により第2金属板材12の下面12bが下方に膨出しないようになっている。
【0064】
図4の片側断面図には、貼り合わせた2枚の金属板材11、12に対してピン20を十分に押し込んだ状態が模式的に示されている。
図4に示すように、ピン20を押し込んだ場合には、第1金属板材11はピン20の押圧によってピン押込方向Pに膨らむように変形する。また、ピン20の押圧は第1金属板材11を介して第2金属板材12に伝達され、第2金属板材12も変形する。第2金属板材12には下面12bが下方に膨出する力が働くが、裏抑え板材30が存在することで、裏抑え板材30から第2金属板材12に押し戻す力(反作用力)が生じる。その結果、第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材11の上面12aは、上述したピン押込パターン1よりも強い力で加圧されるようになる。第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材11の上面12aには、ピン20の押圧により加圧された領域がÅオーダーで近接して金属結合(原子間結合)し、接合面15が形成される。
【0065】
ピン20を抜き取ると、2枚の金属板材11、12が接合面15で接合された金属接合体が得られる。金属接合体は、接合面15において物理的及び電気的に接続されており、これにより、2枚の金属板材11、12の物理的な接合強度と有効な導電性が確保されている。ピン押込パターン2で得られる金属接合体は、第1金属板材11の上面11aにピン20の押し込みによる凹陥状痕が形成された状態となるが、上述したピン押込パターン1とは異なり、第2金属板材12の下面12bは平坦な面のままである。
【0066】
(ピン押込パターン3)
図5および
図6を参照しながら、本発明の実施形態におけるピン押込パターン3について説明する。
図5は、貼り合わせた2枚の金属板材11、12にピン20、21を押し込んだ状態を示す斜視図である。また、
図6は、
図5のB-B断面において、ピン20、21の中心軸の片側を示す片側断面図である。
図6には、ピン20、21の中心軸に対して図面右側のみ図示されているが、左右対称であり図面左側も同様の構成となっている。
【0067】
ピン押込パターン3は、上述したピン押込パターン1と比較して、さらに第2金属板材12の下面12b側からピン21を押し込む点で異なっている。なお、説明を明瞭にするため、2本のピン20、21について、第1金属板材11の上面11a側から押し込むピンを第1ピン20と記載し、第2金属板材12の下面12b側から押し込むピンを第2ピン21と記載することがある。
【0068】
第2ピン21は、第1ピン20と同様の寸法、形状および材質のものを用いることができる。第2ピン21は、第1ピン20と軸線が一致し、第2ピン21の先端21aが第2金属板材12の下面12bに向かうように配置される。すなわち、第2ピン21は、2枚の金属板材11、12を挟んで第1ピン20と対称な位置に配置される。
【0069】
図5に示すように、2枚の金属板材11、12を貼り合わせた状態とした後、2枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向(ピン押込方向P、Q)からピン20、21を同時に押し込み、2枚の金属板材11、12を変形させることで2枚の金属板材11、12を接合する。このとき、上述したピン押込パターン1と同様に、2枚の金属板材11、12を所定の加熱温度となるように加熱しておくことが好ましい。
【0070】
第1ピン20に関しては、まずピン20の先端20aが第1金属板材11に当接し、第1ピン20を押し込むことで第1ピン20の押圧により第1金属板材11が変形する。第2ピン21に関しては、まず第2ピン21の先端21aが第2金属板材12に当接し、第2ピン21を押し込むことで第2ピン21の押圧により第2金属板材12が変形する。
【0071】
さらにピン20、21を押し込むと、第1金属板材11にはピン押込方向Pに膨らむように変形する力が働き、第2金属板材12にはピン押込方向Qに膨らむように変形する力が働くが、第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材11の上面12aからなる貼合面には、ピン押込方向P、Qから上下対称の力が掛かる。その結果、第1金属板材11および第2金属板材12は、貼合面の位置がほとんど変わらない状態で変形する。ピン20、21の押込量は、2枚の金属板材11、12内で、第1ピン20の先端20aと第2ピン21の先端21aが接触せずに、かつ、2枚の金属板材11、12を接合することが可能な適切な量に制御されることが好ましい。ピン20、21のそれぞれの押込量は、ピン押込パターン1におけるピン20の押込量の半分程度とし、例えば、2枚の金属板材の総厚さ(2枚の金属板材全体の厚さ)Dに対して、D/4以上かつD×5/12以下の範囲内であることが好ましい。
【0072】
図6の片側断面図には、貼り合わせた2枚の金属板材11、12に対してピン20、21を十分に押し込んだ状態が模式的に示されている。
図6に示すように、ピン20、21を押し込んだ場合には、2枚の金属板材11、12の貼合面に向かって、上方から第1ピン20が押し込まれ、下方から第2ピン21が押し込まれる。その結果、第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材11の上面12aは、上述したピン押込パターン1よりも強い力で加圧されるようになる。第1金属板材11の下面11bおよび第2金属板材11の上面12aには、ピン20、21の押圧により加圧された領域がÅオーダーで近接して金属結合(原子間結合)し、接合面15が形成される。
【0073】
ピン20、21を抜き取ると、2枚の金属板材11、12が接合面15で接合された金属接合体が得られる。金属接合体は、接合面15において物理的及び電気的に接続されており、これにより、2枚の金属板材11、12の物理的な接合強度と有効な導電性が確保されている。ピン押込パターン3で得られる金属接合体は、第1金属板材11の上面11aに第1ピン20の押し込みによる凹陥状痕が形成され、第2金属板材12の下面12bに第2ピン21の押し込みによる凹陥状痕が形成された状態となる。
【0074】
<金属板材接合方法の工程例>
次に、
図7を参照しながら、本実施形態における金属板材の接合工程の一例について説明する。
図7は、本実施形態における金属板材の接合工程の一例を示すフローチャートである。
【0075】
まず、接合対象となる2枚の金属板材11、12を準備する(ステップS101:2枚の金属板材の準備工程)。2枚の金属板材11、12は、一例として、リチウムイオンバッテリーの接続端子であり、同種金属(例えば、両方ともアルミニウム)からなるものであってもよく、異種金属(例えば、一方がアルミニウム、他方が銅)からなるものであってもよい。2枚の金属板材11、12のそれぞれの厚さ(板厚)は特に限定されるものではない。
【0076】
次いで、2枚の金属板材11、12のそれぞれの貼合面を研磨する(ステップS102:貼合面の研磨工程)。研磨方法は、貼合面同士が隙間なく面接触し、かつ、貼合面上に形成されている酸化膜を除去できる方法であれば特に限定されるものではない。一例として、紙やすり等を用いてそれぞれの貼合面を所定時間研磨してもよい。
【0077】
また、2枚の金属板材11、12のそれぞれの貼合面を研磨する際には、それぞれの貼合面に揮発性溶剤を塗布しながら研磨してもよい。揮発性溶剤を塗布しながら研磨することで、研磨により新たに現れる面を揮発性溶剤で保護して外気に曝さないようにすることができ、貼合面上における新たな酸化膜の生成を防ぐことができる。揮発性溶剤は、容易に気化することが可能な有機溶剤等であれば特に限定されるものではないが、例えば無水アルコール、アセトン、エーテル等を用いることができ、特に取り扱い性に優れる無水アルコールを用いることが好ましい。
【0078】
研磨が完了した後、2枚の金属板材11、12のそれぞれの貼合面を密着させるように貼り合わせて固定する(ステップS103:貼合面の貼合工程)。
【0079】
揮発性溶剤を塗布して貼合面を保護しながら研磨した場合には、それぞれの貼合面が揮発性溶剤により被覆された状態(すなわち、貼合面が揮発性溶剤により濡れた状態)を維持しながら2枚の金属板材を貼り合わせることが好ましい。これにより、貼合面が外気に曝されず、貼合面上における新たな酸化膜の生成を防ぎながら貼合面同士を面接触させることができる。
【0080】
次いで、2枚の金属板材11、12の貼合面同士を密着させた状態で、2枚の金属板材11、12を所定の加熱温度に加熱する(ステップS104:加熱工程)。2枚の金属板材11、12の加熱温度は、160℃以上かつ2枚の金属板材11、12の材料である金属の溶融温度未満の範囲内であることが好ましく、220℃であることが特に好ましい。2枚の金属板材11、12が異種金属からなる場合には、溶融温度の低いほうの金属の溶融温度が上限となる。
【0081】
2枚の金属板材11、12を所定の加熱温度に加熱した後、2枚の金属板材11、12に対してピン20を押し込んで、2枚の金属板材11、12を変形させる(ステップS105:ピンの押込工程)。具体的には、ステップS105のピンの押込工程においては、2枚の金属板材11、12の外方から、2枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけピンを押し込んで2枚の金属板材11、12を変形させる。
【0082】
ピン20を押し込む方法としては、上述したピン押込パターン1~3のいずれであってもよい。ピン押込パターン1の場合には、2枚の金属板材11、12を貼り合わせた状態で、第1金属板材11の上面11aにピン20の先端20aを当接させ、第1金属板材11側からピン20を所定の押込量だけ押し込む。ピン押込パターン2の場合には、2枚の金属板材11、12を貼り合わせた状態にするとともに第2金属板材12の下側に裏抑え板材30を面接触させた状態で、第1金属板材11の上面11aにピン20の先端20aを当接させ、第1金属板材11側からピン20を所定の押込量だけ押し込む。ピン押込パターン3の場合には、2枚の金属板材11、12を貼り合わせた状態で、第1金属板材11の上面11aに第1ピン20の先端20aを当接させるとともに、第2金属板材12の下面12bの第1ピン20と対向する位置に第2ピン21の先端21aを当接させて、第1金属板材11側から第1ピン20を所定の押込量だけ押し込むとともに、第2金属板材12側から第2ピン21を所定の押込量だけ押し込む。
【0083】
次いで、2枚の金属板材11、12からピン20(ピン押込パターン3の場合に2本のピン20、21)を抜き取る(ステップS106:ピンの抜取工程)。これにより、2枚の金属板材11、12が接合面15で接合された金属接合体が得られる。ピン20(または2本のピン20、21)を所定の押込量だけ押し込んでから抜き取るまでの時間は、特に限定されるものではない。
【0084】
上記の金属板材接合方法によれば、2枚の金属板材11、12の物理的な接合強度と有効な導電性が確保された金属接合体を得ることができる。特に、接合面15において酸化膜の発生を防ぐことができ、接合面15における抵抗値を極めて低く抑えて、2枚の金属板材11、12間の導電性が極めて高い金属接合体を得ることができる。その結果、金属板材同士の接合により電気回路を形成する場合に、接合部の接触抵抗を考慮せずに回路設計を行うことができるようになる。また、極めて高い導電性を実現できるため、電流が流れる際に発生する発熱を抑えることもできるようになる。
【0085】
<金属板材接合装置の構成例>
次に、
図8を参照しながら、本実施形態における金属板材接合装置100の構成例について説明する。
図8は、本実施形態における金属板材接合装置100の構成の一例を模式的に示す図である。
【0086】
図8に示す金属板材接合装置100は、金属板材固定装置110、ピン進退装置120、加熱装置130により構成されている。
【0087】
金属板材固定装置110は、2枚の金属板材11、12のそれぞれの貼合面を研磨した後に2枚の金属板材11、12の貼合面同士を貼り合わせた状態を固定する機能を有している。
【0088】
金属板材固定装置110は、一例として、2枚の金属板材11、12を挟み込んで固定することが可能なクランプであってもよい。
図8に示す金属板材固定装置110は、2枚の金属板材11、12を載置可能な下部クランプ部材111と、下部クランプ部材111に対して昇降可能な上部クランプ部材112とにより構成されており、下部クランプ部材111と上部クランプ部材112との間に2枚の金属板材11、12を挟みこんで固定できるようになっている。なお、ピン押込パターン2の場合には、金属板材固定装置110は、2枚の金属板材11、12に加えて、第2金属板材12の下側に配置された裏抑え板材30を一緒に挟み込んで固定できるように構成されていてもよい。
【0089】
ピン進退装置120は、押し込み用のピン20を有しており、当該ピン20を2枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向に進退させる機能を有している。具体的には、ピン進退装置120は、金属板材固定装置110で固定された2枚の金属板材11、12の外方から、2枚の金属板材11、12の貼合面に対して略垂直方向に所定の押込量だけピン20を押し込んで2枚の金属板材11、12を変形させることが可能なように構成されている。また、ピン進退装置120は、2枚の金属板材11、12にピン20を押し込んだ後、2枚の金属板材11、12からピン20を抜き取ることが可能なように構成されている。
【0090】
図8に示すピン進退装置120は、一例として、スクリュー部材121により構成されている。スクリュー部材121は、金属板材固定装置110の上部クランプ部材112に貫通螺合する部材であり、旋回することで上部クランプ部材112に対して相対的に進退可能なように構成されている。また、スクリュー部材121の先端には、下部クランプ部材111に載置された2枚の金属板材11、12に対して略垂直方向に配向された押し込み用のピン20が設けられている。この構成により、ピン進退装置120は、下部クランプ部材111と上部クランプ部材112により挟んで固定した2枚の金属板材11、12に対して、ピン20を押し込んだり抜き取ったりすることができるようになっている。なお、ピン押込パターン3の場合には、ピン進退装置120は、第2金属板材12の下面12b側から第2ピン21を押し込むことが可能な第2ピン21の進退機構を備えている。第2ピン21の進退機構は、第1ピン20の進退機構と同様の構成とすればよい。
【0091】
加熱装置130は、金属板材固定装置110で固定された2枚の金属板材11、12を所定の加熱温度に加熱する機能を有している。なお、図示を明瞭にするため、
図8では加熱装置130を点線で表している。
【0092】
加熱装置130は、一例として、2枚の金属板材11、12を固定した金属板材固定装置110およびピン進退装置120全体を収納して加熱することが可能な加熱炉であってもよく、これにより、他方式に比べて大きな電力を必要とせずに加熱を行うことが可能となる。2枚の金属板材11、12を含む金属板材固定装置110およびピン進退装置120全体を加熱炉に入れて加熱することで、2枚の金属板材11、12を同一温度に均一に加熱することができ、2枚の金属板材11、12の加熱温度を容易かつ正確にコントロールすることができる。なお、ピン押込パターン2の場合には、加熱装置130は、2枚の金属板材11、12に加えて、第2金属板材12の下側に配置された裏抑え板材30を一緒に加熱してもよい。
【実施例0093】
以下、本発明に関する実施例に基づいて具体的な説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
【0094】
(実施例1:Al-Al接合試験)
実施例1のAl-Al接合試験では、試験用部材として、下記の複数の金属板材を準備した。
各金属板材の材質:Al(A1100)
各金属板材のサイズ:横60mm×縦30mm×板厚3mm
【0095】
また、押し込み用のピンとして、下記の複数のピンを準備した。
各ピンの直径:φ3.0mm、φ4.0mm
各ピンの長さ:4mm
各ピンの材質:鋼
【0096】
実施例1のAl-Al接合試験では、同種金属からなる2枚の金属板材(両方ともAl製)について、上述した金属板材接合方法(
図7参照)に基づいて、研磨、加熱温度、ピン径、ピン押込量、ピン押込パターンの各条件を変えて2枚の金属板材を接合し、試験品(金属接合体)を得た。
【0097】
実施例1のAl-Al接合試験では、貼合面の研磨を行う場合には、貼合面(研磨面)に無水アルコールを塗布しながら研磨を行い、貼合面が外気に曝されないようにしながら貼合面を貼り付けた。また、加熱を行う場合には、所定の加熱温度に設定した加熱炉を用いて加熱を行い、貼り合わせた2枚の金属板材および裏抑え板材全体を加熱炉内に収容して、全体が均一に加熱温度となるように加熱した。また、ピン押込パターンについては、上述したピン押込パターン1~3を採用し、ピン押込パターン3の場合には、下層の金属板材の下面側に鋼製の裏抑え板材を配置した。
【0098】
各試験品について、2枚の金属板材が剥がれずに接合できているもの(十分な接合強度)を「○」、2枚の金属板材が剥がれてしまい接合できていないもの(不十分な接合強度)を「×」と評価した。また、接合した試験品について、接合面の断面横方向の距離である接合部距離を測定した。各試験品1~6に係る条件、接合部距離および評価結果を下記の表1に示す。
【0099】
【0100】
表1より、試験品1~4は、2枚の金属板材間で金属結合が確実に行われて接合状態が良好であるが、試験品5、6は、2枚の金属板材間の金属結合が十分に行われず接合状態が不良であることがわかる。
【0101】
研磨条件について、試験品3、6が研磨の有無を除いて同一条件で得られたものである。試験品3、6を比較した場合、研磨を行うと良好な接合状態の試験品3が得られ、一方、研磨を行わないと不良な接合状態の試験品6が得られることがわかる。このことから、2枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨しないと接合状態が良好とならず、2枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨することで接合状態が良好となることがわかる。
【0102】
加熱温度について、試験品2、5が加熱温度の差異を除いて同一条件で得られたものである。試験品2、5を比較した場合、加熱温度220℃で加熱を行うと良好な接合状態の試験品2が得られ、一方、加熱を行わない(常温にて処理)と不良な接合状態の試験品5が得られることがわかる。このことから、加熱を行わないと接合状態が不良となり、加熱温度220℃とすることで接合状態が良好となることがわかる。
【0103】
ピンの直径について、試験品1、2がピンの直径の差異を除いて同一条件で得られたものである。ピンの直径2.0mm、3.0mmのいずれの場合においても、接合状態が良好な試験品1および試験品2が得られることがわかる。このことから、少なくともピンの直径が2.0mm~3.0mmの範囲である場合に、接合状態が良好となることがわかる。
【0104】
ピンの押し込み方向について、試験品2~4がピン押込パターンの差異を除いて同一条件で得られたものである。ピン押込パターン1~3のいずれの場合においても、接合状態が良好な試験品2~4が得られることがわかる。このことから、ピン押込パターン1~3のいずれの方法も有効であり、接合状態が良好となることがわかる。
【0105】
また、接合状態が良好な試験品2~4の接合部距離を比較した場合、ピン押込パターン2により作成した試験品3の接合部距離が最も長く、最も大きな接合面を有していることがわかる。このことから、ピン押込パターン1~3の中からピン押込パターン2を採用した場合に、接合状態が最も良好となることがわかる。
【0106】
(実施例2:加熱伸張接合試験)
実施例2の加熱伸張接合試験では、試験用部材として、下記の複数の金属板材を準備した。
各金属板材の材質:Al(A1100)、Cu(C1020)
各金属板材のサイズ:横60mm×縦30mm×板厚3mm
【0107】
また、押し込み用のピンとして、下記の複数のピンを準備した。
各ピンの直径:φ2.0mm、φ3.0mm、φ4.0mm、φ5.0mm
各ピンの長さ:4mm
各ピンの材質:鋼
【0108】
実施例2の加熱伸張接合試験では、異種金属からなる2枚の金属板材(一方がAl製、他方がCu製)について、上述した金属板材接合方法(
図7参照)に基づいて、研磨、加熱温度、ピン径、ピン押込量、ピンの押し込み方向の各条件を変えて2枚の金属板材を接合し、試験品(金属接合体)を得た。
【0109】
実施例2の加熱伸張接合試験では、上述したピン押込パターン2を採用し、下層の金属板材の下面側に鋼製の裏抑え板材を配置した。また、貼合面の研磨を行う場合には、貼合面(研磨面)に無水アルコールを塗布しながら研磨を行い、貼合面が外気に曝されないようにしながら貼合面を貼り付けた。また、所定の加熱温度に設定した加熱炉を用いて加熱を行い、貼り合わせた2枚の金属板材および裏抑え板材全体を加熱炉内に収容して、全体が均一に加熱温度となるように加熱した。
【0110】
各試験品について、2枚の金属板材が剥がれずに接合できているもの(十分な接合強度)を「○」、2枚の金属板材が剥がれてしまい接合できていないもの(不十分な接合強度)を「×」と評価した。各試験品11~20に係る条件、ピン押し込み荷重(シミュレーション値)および評価結果を下記の表2に示す。
【0111】
【0112】
表2より、試験品13~16、18、19は、2枚の金属板材間で金属結合が確実に行われて接合状態が良好であるが、試験品11、12、17、20は、2枚の金属板材間の金属結合が十分に行われず接合状態が不良であることがわかる。
【0113】
研磨条件について、試験品16、17が研磨の有無を除いて同一条件で得られたものである。試験品16、17を比較した場合、研磨を行うと良好な接合状態の試験品16が得られ、一方、研磨を行わないと不良な接合状態の試験品17が得られることがわかる。このことから、2枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨しないと接合状態が良好とならず、2枚の金属板材のそれぞれの貼合面を研磨することで接合状態が良好となることがわかる。
【0114】
加熱温度について、試験品14、20が加熱温度の差異を除いて同一条件で得られたものである。試験品14、20を比較した場合、加熱温度220℃で加熱を行うと良好な接合状態の試験品14が得られ、一方、加熱温度110℃で加熱を行うと不良な接合状態の試験品20が得られることがわかる。このことから、加熱温度110℃の加熱では接合状態が不良となり、加熱温度220℃とすることで接合状態が良好となることがわかる。
【0115】
ピンの直径について、ピンの直径2.0mm、3.0mm、4.0mm、5.0mmのいずれの場合においても、接合状態が良好な試験品13~16、18、19が得られることがわかる。このことから、少なくともピンの直径が2.0mm~5.0mmの範囲である場合に、接合状態が良好となることがわかる。
【0116】
ピンの押込量について、ピンの押込量3.0mm、4.0mm、5.0mmのいずれの場合においても、接合状態が良好な試験品13~16、18、19が得られることがわかる。このことから、少なくともピンの押込量が3.0mm~5.0mmの範囲(金属板材の板厚L=3.0mmに対して、L~L×5/3の範囲)である場合に、接合状態が良好となることがわかる。
【0117】
ピンの押し込み方向について、試験品11、13はピンの押し込み方向の差異を除いて同一条件で得られたものであり、試験品12、14がピンの押し込み方向の差異を除いて同一条件で得られたものである。試験品11、13を比較した場合、および、試験品12、14を比較した場合、Cu製の金属板材側からピンの押し込みを行うと良好な接合状態の試験品13、14が得られ、一方、Al製の金属板材側からピンの押し込みを行うと不良な接合状態の試験品11、12が得られることがわかる。このことから、ピンを押し込む際には、高硬度のCu製の金属板材側からピンを押し込むことで、接合状態が良好となることがわかる。
【0118】
(実施例3:引き剥がし強度測定試験)
実施例3の引き剥がし強度測定試験では、上述した加熱伸張接合試験で作成された試験品13、14、18を試験対象品として準備した。接合された2枚の金属板材のそれぞれを挟持して接合面に対して略垂直方向に引っ張り、2枚の金属板材が剥がれた時点での引き剥がし強度を測定することが可能な引き剥がし強度測定装置を用いて、試験品13、14、18の引き剥がし強度を測定した。2枚の金属板材が剥がれた面を目視して、引き剥がし面の状態を観察した。
【0119】
さらに、単位面積当たりの純アルミニウムの引き剥がし強度を参考にして、各試験品13、14、18の引き剥がし強度および引き剥がし面の状態から、各試験品13、14、18の接合面の面積(接合面積)を計算により求めた。具体的には、各試験品13、14、18の接合面積は、引き剥がし強度を単位面積当たりの純アルミニウムの引き剥がし強度で除した値として計算した。各試験品13、14、18の引き剥がし強度、引き剥がし面の状態、接合面積を下記の表3に示す。
【0120】
【0121】
表3より、試験品14の引き剥がし強度が最も高く、次いで、試験品18の引き剥がし強度が高く、試験品13の引き剥がし強度が最も低いことがわかる。すなわち、2枚の金属板材の接合強度に関して、試験品14の接合強度が最も高く、次いで、試験品18の接合強度が高く、試験品13の接合強度が最も低いことがわかる。
【0122】
試験品13、14を比較した場合、ピンの押込量が大きい試験品14のほうが、ピンの押込量が小さい試験品13よりも接合強度が高いことがわかる。また、試験品14、18を比較した場合、ピンの直径が大きい試験品14のほうが、ピンの直径が小さい試験品18よりも接合強度が高いことがわかる。
【0123】
接合面積について試験品13、14、18を比較した場合、試験品14の接合面積が最も高く、次いで、試験品18の接合面積が高く、試験品13の接合面積が最も低いことがわかる。接合面積は、貼合面において金属板材の内部から露出した新たな面が多いほど大きくなり、接合面における接合強度だけではなく、接合面における導電性に寄与するものである。試験品13、14、18の中では、接合面積の最も大きい試験品14が、最も接合強度が高く、かつ、最も導電性が高いものであると考えられる。このことから、押し込み時に用いられるピンの直径がより大きく、かつ、ピンの押込量がより大きい場合のほうが、得られる金属接合体の接合強度および導電性を確保できることが推定できる。
【0124】
また、接合面においてしっかりと接合している領域が多い場合には、接合面間の接合強度が高くなることから、引き剥がした際に接合面が剥離せずに接合したままの状態となる。銅製の金属板材側の全面にアルミニウムが付着した試験品14やアルミニウム製の金属板材側の全面に銅が付着した試験品18は、接合面が剥離せずに接合したまま残っており、銅製の金属板材側にアルミニウムがまばらに付着した試験品13に比べて、接合面が強固に接合されていると推定できる。さらに、接合面においてしっかりと接合している領域が多い場合には、接合面における抵抗値が低くなり、金属板材間の導電性が高くなると推定できる。
【0125】
(実施例4:接合部の伸張率に係る検討)
実施例4の接合部の伸張率に係る検討では、上述した加熱伸張接合試験で作成された試験品13、14について、接合部の伸張率を観察して評価した。
【0126】
図9(a)、(b)はそれぞれ試験品13、14の接合部近傍の断面拡大写真である。接合面はピンの押圧により下方に膨出して円弧状に湾曲しており、
図9(a)、(b)に示すように、湾曲した接合面の湾曲部寸法ARと、接合面の端部間を結ぶ接合部距離CH(円弧状に湾曲した接合面の弦の寸法)を計測することができる。接合部の伸張率は、湾曲部寸法ARを接合部距離CHで除した値として定義する。なお、接合部の伸張率は、必ずしも接合面の端部間を接合部距離CHとする必要はなく、接合面の曲率を表すように定義されればよい。各試験品13、14の接合部距離CH、湾曲部寸法AR、AR/CH、伸張率を下記の表4に示す。
【0127】
【0128】
表4より、直径3.0mmのピンを押込量3.0mmだけ押し込んだ試験品13の接合部の伸張率は116%、直径3.0mmのピンを押込量4.0mmだけ押し込んだ試験品14の接合部の伸張率は144%であることがわかる。すなわち、最も接合強度が高く、かつ、最も導電性が高いと考えられる試験品14のほうが、試験品13と比較して接合部の伸張率が大きいことがわかる。この結果は、実施例3の引き剥がし強度測定試験において計算した試験品13、14の接合面積の大小関係と相関している。以上より、接合部の伸張率は、例えば目安として116%以上となることが好ましく、144%以上となれば極めて高い接合性が得られると言える。
【0129】
(実施例5:接合部成分分析)
実施例5の接合部成分分析では、上述の各実施例から最も高い接合性を有していると考えられる試験品14について、その接合面近傍を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察し、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)により成分分析を行った。
図10にSEMおよび成分分析画像を示す。
【0130】
図10に示すSEMおよび成分分析画像より、試験品14の接合面に酸素(O)の層は確認されず、アルミニウム(Al)または銅(Cu)の酸化物の発生は無いと考えられる。したがって、接合面において、酸化物による電気抵抗の増加は発生しないことが推定できる。
【0131】
(実施例6:温度依存性検査)
実施例6の温度依存性検査では、試験用部材として、下記の複数の金属板材を準備した。
各金属板材の材質:Al(A1100)、Cu(C1020)
各金属板材のサイズ:横60mm×縦30mm×板厚3mm
【0132】
また、押し込み用のピンとして、下記の複数のピンを準備した。
各ピンの直径:φ3.0mm
各ピンの長さ:4mm
各ピンの材質:鋼
【0133】
実施例6の温度依存性検査では、異種金属からなる2枚の金属板材(一方がAl製、他方がCu製)について、上述した金属板材接合方法(
図7参照)に基づいて、加熱温度を変えて2枚の金属板材を接合し、試験品(金属接合体)を得た。なお、いずれの試験品においても、貼合面(研磨面)に無水アルコールを塗布しながら研磨を行い、貼合面が外気に曝されないようにしながら貼合面を貼り付け、加熱炉にて加熱を行った。また、いずれの試験品においても、ピン押込パターン2(裏抑え板材有り)により、ピン押込量(4mm)および押し込み方向(Cu側より)について同一の条件として、2枚の金属板材の接合を行った。
【0134】
次いで、引き剥がし強度測定装置を用いて、得られた各試験品の引き剥がし強度を測定した。2枚の金属板材が剥がれた面を目視して、引き剥がし面の状態を観察した。さらに、単位面積当たりの純アルミニウムの引き剥がし強度を参考にして、各試験品の引き剥がし強度から、各試験品の接合面の面積(接合面積)を計算により求めた。具体的には、各試験品の接合面積は、引き剥がし強度を単位面積当たりの純アルミニウムの引き剥がし強度で除した値として計算した。各試験品31~35に係る条件、引き剥がし強度、接合面積、引き剥がし面の状態を下記の表5に示す。
【0135】
【0136】
表5より、試験品21~25は、特定値以上の引き剥がし強度を加えないと2枚の金属板材を引き剥がすことができないものであり、80℃、110℃、130℃、160℃、190℃のいずれの加熱温度であっても、2枚の金属板材を接合できることがわかる。
【0137】
加熱温度と引き剥がし強度との相関については、
図11のグラフに示すように、加熱温度が高くなればなるほど、引き剥がし強度(すなわち接合強度)が高くなる傾向にあることがわかる。
【0138】
引き剥がし面の状態については、試験品21~23では銅製の金属板材側にアルミニウムがまばらに付着した状態であるのに対し、試験品24、25ではアルミニウム製の金属板材側の全面に銅が付着した状態である。このことから、試験品24、25は、試験品21~23に比べて、接合面が強固に接合されていると推定できる。
【0139】
なお、上述した実施例2では、本実施例6の試験品22と同一の条件(加熱温度110℃)で試験品20を作成しているが、この試験品20の接合状態は不良であった。このことからも、加熱温度を110℃にした場合には十分な接合強度を得ることができない可能性があることがわかる。
【0140】
以上のように、加熱温度が高くなるにつれて接合強度が高くなる点、130℃以下の加熱温度の場合には、引き剥がし時に銅製の金属板材側にアルミニウムがまばらに付着した状態となる点、160℃以上の加熱温度の場合には、アルミニウム製の金属板材側の全面に銅が付着し接合面の剥離が見られなかった点から、160℃以上の加熱温度が好ましいことがわかる。
【0141】
なお、上述した実施形態および実施例は、本発明の一側面を具現化したものにすぎず、本発明は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、上述した実施形態および実施例における条件、各構成要素の形状、個数、位置、寸法等は適宜変更されてもよく、一部の構成要素は適宜省略または追加されてもよい。
【0142】
以上説明したように、本発明は、複数枚の金属板材同士を接合する際に、金属板材間の接合強度を確保するとともに、接合した金属板材間における有効な導電性を確保するという効果を有し、金属接合技術全般に有用である。