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特開2023-34055エラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びにシート
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  • 特開-エラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びにシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034055
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】エラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びにシート
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/62 20060101AFI20230306BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08G18/62 016
C08J5/18 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140119
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 悠
(72)【発明者】
【氏名】楠 真
【テーマコード(参考)】
4F071
4J034
【Fターム(参考)】
4F071AA33X
4F071AA81
4F071AC12A
4F071AE02A
4F071AF10
4F071AF13
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF21
4F071AF26
4F071AF30
4F071AG05
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB01
4F071BC01
4F071BC12
4J034BA03
4J034GA15
4J034GA33
4J034GA44
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC71
4J034HC73
4J034HD00
4J034JA02
4J034JA14
4J034KA01
4J034KB04
4J034KC17
(57)【要約】
【課題】伸びと低ヒステリシスとをバランスよく達成したエラストマーを作製可能なエラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びにシートを提供する。
【解決手段】アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)に由来する単位Aと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)に由来する単位Bと、を含む重合体αと、ポリイソシアネートβと、を含み、前記重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、前記重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である、エラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)に由来する単位Aと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)に由来する単位Bと、を含む重合体αと、
ポリイソシアネートβと、を含み、
前記重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、
前記重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である、
エラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)が、下記式(1)で示される、請求項1に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す。)
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)が、下記式(2)で示される、請求項1又は請求項2に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。Zは、O、NH、又はSを示す。X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す。Yは、水酸基又はカルボキシル基を示す。aは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記ポリイソシアネートβが、ジイソシアネートである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリイソシアネートβが、下記式(3-1)及び(3-2)から選ばれる少なくとも一種で示される化合物である、請求項4に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化3】
(式中、X2は水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基、又は、イソホロン基を示す;Y1は熱解離性基を示す。)
【請求項6】
前記熱解離性基が下記式(4)で示される構造式から選ばれる置換基である、請求項5に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化4】
【請求項7】
前記重合体αの重量平均分子量(Mw)が1,000,000~1,700,000である請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物において、前記重合体αと、ポリイソシアネートβと、を反応させてなるエラストマー。
【請求項9】
請求項8に記載のエラストマーを含む、シート。
【請求項10】
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、を重合させて重合体αを合成する第1の工程と、
前記重合体αとポリイソシアネートβと、を反応させる第2の工程と、
を含み、
前記重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、
前記重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である、
エラストマーの製造方法。
【請求項11】
前記第1の工程は、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)と前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、を塊状重合によって重合させる、請求項10に記載のエラストマーの製造方法。
【請求項12】
前記第2の工程において、前記重合体αとポリイソシアネートβとを、加熱して反応させる、請求項10又は請求項11に記載のエラストマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びに、シートフレキシブルシートやストレッチャブルシートなどのシートに関する。詳細には、フレキシブルプリント回路基板などのFlexible Printed Circuitsや、回路基板及び配線板の保護フィルム等として好適に用いることのできるシート、並びに、当該シート等の作製に用いられるエラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材に用いられるシートの需要が高まっている。例えば、電子製品の軽量化、小型化、高密度化に伴って、フレキシブルプリント回路基板又はフレキシブルプリント配線板などと呼ばれる、所謂Flexible Printed Circuits(以下、「FPC」と称することがある。)の注目も高まっている。FPCは、絶縁性フィルムをベースフィルム(基板ともいう)とし、接着層などを介して金属箔を貼り合わせたり、導電性インクやフィルムで形成されたパターンを形成するなどして形成される。このようなFPCに使用可能な技術としては、低ヤング率と低ヒステリシスとをバランスよく達成した(メタ)アクリレート系エラストマーを作製可能な硬化性樹脂組成物、並びに、これを用いた重合体、(メタ)アクリル系エラストマー及びシートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2020/027103公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、伸びが高いまま、塑性変形量が少ない(ヒステリシスロスが少ない)、即ち、伸長後の戻りがよいこともエラストマーに求められる重要な課題の一つとなっている。しかし、通常、塑性変形量を少なくするためにエラストマーの分子量や架橋量を増やしたり、特定のモノマーを有する共重合体とした場合、伸びが大きく制限されてしまう場合がある。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決すべく、伸びと低ヒステリシスとをバランスよく達成したエラストマーを作製可能なエラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びにシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)に由来する単位Aと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)に由来する単位Bと、を含む重合体αと、
ポリイソシアネートβと、を含み、
前記重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、
前記重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である、
エラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
<2>
前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)が、下記式(1)で示される、前記<1>に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す。)
<3>
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)が、下記式(2)で示される、前記<1>又は<2>に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。Zは、O、NH、又はSを示す。X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す。Yは、水酸基又はカルボキシル基を示す。aは1以上の整数を表す。)
<4>
前記ポリイソシアネートβが、ジイソシアネートである、前記<1>~前記<3>のいずれか一つに記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
<5>
前記ポリイソシアネートβが、下記式(3-1)及び(3-2)から選ばれる少なくとも一種で示される化合物である、前記<4>に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化3】
(式中、X2は水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基、又は、イソホロン基を示す;Y1は熱解離性基を示す。)
<6>
前記熱解離性基が下記式(4)で示される構造式から選ばれる置換基である、前記<5>に記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
【化4】
<7>
前記重合体αの重量平均分子量(Mw)が1,000,000~1,700,000である前記<1>~前記<6>のいずれか一つに記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物。
<8>
前記<1>~前記<7>のいずれか一つに記載のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物において、前記重合体αと、ポリイソシアネートβと、を反応させてなるエラストマー。
<9>
前記<8>に記載のエラストマーを含む、シート。
<10>
アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、を重合させて重合体αを合成する第1の工程と、
前記重合体αとポリイソシアネートβと、を反応させる第2の工程と、
を含み、
前記重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、
前記重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である、
エラストマーの製造方法。
<11>
前記第1の工程は、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)と前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)と、を塊状重合によって重合させる、前記<10>に記載のエラストマーの製造方法。
<12>
前記第2の工程において、前記重合体αとポリイソシアネートβと、を加熱して反応させる、前記<10>又は<11>に記載のエラストマーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、伸びと低ヒステリシスとをバランスよく達成したエラストマーを作製可能なエラストマー用熱硬化性樹脂組成物、エラストマー及びその製造方法、並びにシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ヒステリシスロスを説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《エラストマー用熱硬化性樹脂組成物》
本実施形態のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物(以下、単に「本実施形態の組成物」と称することがある。)は、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)〔以下、単に「モノマー(A)」と称することがある〕に由来する単位A〔以下、単に「単位A」と称することがある〕と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)〔以下、単に「モノマー(B)」と称することがある〕に由来する単位B〔以下、単に「単位B」と称することがある〕と、を含む重合体α(以下、単に「重合体α」と称することがある)と、ポリイソシアネートβと、を含み、
重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である。
【0010】
なお、本明細書を通じて、「アルキル(メタ)アクリレート」は、「アルキルアクリレート」又は「アルキルメタクリレート」を意味し、「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート」は「ヒドロキシアルキルアクリレート」又は「ヒドロキシアルキルメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」又は「メタクリロイル」を意味する。また、特に限定がない限り、"アルキル基"と称した場合には、直鎖、分岐及び脂環構造のアルキル基が含まれる。
【0011】
本実施形態の組成物は、水分量が1質量%未満、且つ、単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である重合体αと、ポリイソシアネートβと、を含み、重合体αとポリイソシアネートβとを反応させることでエラストマーを得ることができる。本実施形態の組成物を用いて得られたエラストマーは、伸びが大きいにも関わらず塑性変形量が少なく、伸びと低ヒステリシスとをバランスよく達成することができる。本実施形態のエラストマーが伸びと低ヒステリシスとをバランスよく達成できる理由は定かではないが、単位Aと単位Bとの比率が特定の範囲にある重合体αとポリイソシアネートβとを組み合わせることで、架橋構造を所定の長さとしつつ架橋点の数を適切な範囲とすることができ、これにより、架橋構造を有しながらもエラストマーの伸びを維持することができるものと推測される。さらに、本実施形態のエラストマーは、重合体αの水分量が1質量%未満のエラストマー用熱硬化性樹脂組成物から得られるものであるため、製造時において分子量を高く設定することができ、且つ、重合体α中の水とポリイソシアネートβとが反応することを抑制することができ、エラストマーの分子量を高くすることができる。これにより、本実施形態のエラストマーによれば、黄変、茶変、及び白濁などの変色を抑制し、例えば無色透明にすることができる。
【0012】
〈重合体α〉
重合体αは、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)に由来する単位Aと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)に由来する単位Bと、を含む。
【0013】
(アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A))
本実施形態において、「アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)」は、(メタ)アクリロイル基を一つ有するモノマーであり、重合体α中の単位Aとなるモノマーである。モノマー(A)は、後述の本実施形態におけるモノマー(B)と区別される。
本実施形態におけるモノマー(A)は、例えば、下記式(1)で表わされる化合物を用いることができる。
【0014】
【化5】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す;R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基を示す。)
【0015】
式(1)で表わされるアルキル(メタ)アクリレートモノマーにおいて、R1は、水素原子又はメチル基である。R1のなかでは、重合のさせやすさやヤング率の低い(メタ)アクリル系エラストマーを得る観点から水素原子が好ましい。
【0016】
式(1)で表わされる化合物において、R2は、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基又は水酸基を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基である。
【0017】
直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基などが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0018】
アルキル基に含まれるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルキル基に含まれるハロゲン原子の数は、当該アルキル基の炭素数などによって異なるので一概には決定することができないことから、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0019】
ハロゲン原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロn-プロピル基、トリフルオロイソプロピル基、トリフルオロn-ブチル基、トリフルオロイソブチル基、トリフルオロtert-ブチル基などが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0020】
エーテル結合を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メトキシエチルアクリレートなどの直鎖状のアルキル基や、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンなどの環状エーテルを有するアルキル基などが挙げられる。環状エーテルを有するアルキル基としては以下のものが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0021】
【化6】
【0022】
直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシブチル基などの炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数1~6のアルキル基を有するアルコキシアルキル基などが挙げられるが、本実施形態はこれら例示のみに限定されるものではない。
【0023】
2のなかでは、エラストマーとした際に低ヤング率となることや重合体αの溶媒への高溶解性の観点から、メチル基、エチル基、シクロヘキシル、テトラヒドロフラン又はジオキソランが好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
【0024】
式(1)で表わされるアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、メチルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノナノール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数1~10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートモノマー;2,2,2-トリフルオロエチルアクリレートなどの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2がハロゲン原子を有する炭素数1~10のアルキル基であるアルキル(メタ)クリレートモノマー;(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクレートなどの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2がエーテル結合を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートモノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、などの式(1)において、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数2~12のアルコキシアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
これらの中でも、本実施形態におけるアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクレートが好ましく、メチルアクリレート及びエチルアクリレートがさらに好ましい。
これらアルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B))
本実施形態において、「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)」は、(メタ)アクリロイル基を一つと、水酸基又はカルボキシル基を少なくとも一つ有するモノマーである。
本実施形態におけるモノマー(B)は、例えば、下記式(2)で表わされる化合物を用いることができる。
【0026】
【化7】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。Zは、O、NH、又はSを示す。X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキル基を示す。Yは、水酸基又はカルボキシル基を示す。aは1以上の整数を表す。)
【0027】
式(2)で表わされるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーにおいて、R1は、水素原子又はメチル基である。
【0028】
式(2)で表わされる化合物において、Zは、-O-、-NH-、又は-S-を示す。Zのなかでは、重合体αの溶媒への高溶解性の観点から-O-が好ましい。
【0029】
式(2)で表わされる化合物において、X1は、ハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基、アリール基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキル基である。
式(2)で表わされる化合物において、Yは、水酸基又はカルボキシル基を示す。
式(2)で表されるaは1以上の整数であり、特に限定はないが、低ヤング率や溶媒への高溶解性の観点から、1~3が好ましく、1又は2が好ましい。
【0030】
1における、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基;、ハロゲン原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキル基;及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルコキシアルキル基については、式(1)におけるR2で例示されたものと同様の基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラ基等が挙げられる。また、Yとして水酸基を一つ有するX1としては、例えば、下記のような直鎖状アルキル基、環状アルキル基又はアリール基が挙げられる。X1としては、エラストマーとした際に低ヒステリシスとなる点で、炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0031】
【化8】
【0032】
式(2)で表わされるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されるものはではないが、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシルブチルアクリレート、又は、以下の化合物を挙げることができる。モノマー(B)としては、その他水酸基を2つ以上有するグリセリンモノメタクリレートなども用いることができる。モノマー(B)としては、入手の容易性の観点から、ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシルブチルアクリレート、が好ましい。
これら、モノマー(B)(単位B)は、それぞれ単独であってもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
【化9】
【0034】
〈モル比〔B×100/A〕〉
重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である。本実施形態における重合体α中の単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満であることで、エラストマーとした際に良好な伸びを維持したまま伸長後の戻りを良くすることができる。
【0035】
重合体αにおける単位Aの含有率は、特に限定はないが、エラストマーとした際の伸びが良好になる観点から、全固形分に対して、30~99質量%が好ましく、60~99質量%がさらに好ましく、90~99質量%が特に好ましい。
【0036】
重合体αにおける単位Bの含有比は、上述のようにモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満、換言すると、1molの単位Aに対して0.003以上0.03mol未満であり、エラストマーとした際の伸びが良好になる観点からは、モル比〔B×100/A〕が0.5~1.5(1molの単位Aに対して単位Bが0.005以上0.015mol以下)であることがさらに好ましく、モル比〔B×100/A〕が0.7~1.2(1molの単位Aに対して単位Bが0.007以上0.012mol以下)であることが特に好ましい。
【0037】
重合体αは、上述の単位A及び単位B(以下、これらを総じて「本実施形態におけるモノマー成分」と称することがある)を含んでいればよいが、本実施形態におけるモノマー成分以外の他のモノマーに由来する単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、式(1)で表わされるアルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)以外のカルボン酸アルキルエステル系モノマー、アミド基含有モノマー、アリール基含有モノマー、スチレン系モノマー、窒素原子含有モノマー、脂肪酸ビニルエステル系モノマー、ベタインモノマーなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。重合体αが本実施形態におけるモノマー成分以外の他のモノマーに由来する単位を含む場合、重合体α中における単位A及びBの総含有率は、エラストマーとした際に低ヒステリシスになる観点から、全固形分に対して、70質量%が好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。ただし、得られるエラストマーの伸びを良好にする観点からは、重合体αは単位Aと単位Bのみを含むことが好ましい。ただし、この場合においても、重合体αが不可避的に他のモノマーに由来する単位を含むことは許容される。
【0038】
〈水分量〉
重合体αにおける水分量は1質量%未満である。本実施形態における重合体α中の水分量が1質量%未満であると、エラストマーとした際に白濁、黄変するなど、エラストマーが着色するのを抑制することができる。重合体αにおける水分量は、エラストマーとした際の着色を抑制する観点から、全固形分に対して、0.9質量%以下、0.8質量%以下がさらに好ましく、0.7質量%以下が特に好ましい。
本実施形態における重合体α中の水分量を1質量%未満とする方法は特に限定されるものではないが、例えば、重合体αをモノマー(A)及び(B)を塊状重合によって合成することで重合体α中の水分量を1質量%未満とすることができる。また、エラストマー用熱硬化性樹脂組成物中の水分量が1%未満であれば、重合体αの水分量も1%未満であるといえる。重合体αの製造方法については後述する。
【0039】
重合体αの重量平均分子量(Mw)は、エラストマーとする際の成膜性、並びに、エラストマーとした際の低ヒステリシスの点で、1,000,000~1,700,000が好ましく、1,000,000~1,500,000であることがさらに好ましい。
重合体αの数平均分子量(Mn)は、上記と同様の観点からの点で、100,000~600,000が好ましく、200,000~500,000であることがさらに好ましい。
重合体αの分散度(Mw/Mn)は、上記と同様の観点からの点で、1~6が好ましく、1~5であることがさらに好ましい。
重合体αの重量平均分子量、数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHH-R、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.5mL/min〕を用いて標準ポリスチレン換算で測定することができる。
【0040】
重合体αのガラス転移温度(Tg)は、特に限定はないが、低ヤング率の観点で、50℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。
【0041】
(重合開始剤)
重合体αは、上述した各モノマーを例えば後述する製造方法に示す重合方法で重合することで製造することができる。重合体αを製造する際は、上述したモノマー成分を重合させるために重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤のなかでは、重合体αに熱履歴を残さないようにする観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0042】
-光重合開始剤-
光重合開始剤は、各種の活性光線、例えば紫外線等により活性化され、重合を開始する化合物である。光重合開始剤としては、例えば、ラジカル光重合開始剤、カチオン光重合開始剤、アニオン光重合開始剤が挙げられる。これら光重合開始剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ラジカル光重合開始剤を2種以上併用することができる。
【0043】
ラジカル光重合開始剤としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(製品名:イルガキュアTPO、BASF製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(製品名:イルガキュア819、BASF製;製品名:イルガキュア819DW、BASF製)
【0044】
α-ヒドロキシケトン系化合物:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(製品名:イルガキュア184、BASF製)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(製品名:イルガキュア1173、BASF製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア2959、BASF製)、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(製品名:イルガキュア127、BASF製)
【0045】
分子内水素引抜系化合物:フェニル グリオキシリック アシッド メチル エステル(製品名:イルガキュアMBF、BASF製)
チタノセン化合物系化合物:1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニルチタニウム〕(製品名:イルガキュア784、BASF製)
ベンジルケタール系化合物:2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(製品名:イルガキュア651、BASF製)
【0046】
α-アミノケトン系化合物:2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン(製品名:イルガキュア907、BASF製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(製品名:イルガキュア369、BASF製)、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(製品名:イルガキュア379EG、BASF製)
【0047】
オキシムエステル系化合物:1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](製品名:イルガキュアOXE-01、BASF製)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(例えば、製品名:イルガキュアOXE-02、BASF製;製品名:イルガキュアOXE-03、BASF製;製品名:イルガキュアOXE-04、BASF製;製品名:N-1919、ADEKA製;製品名:N-1414、ADEKA製)などを用いることができる。
【0048】
他のラジカル光重合開始剤としては、例えば、キノン類化合物(例えば、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン);芳香族ケトン類(例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイン);ベンゾインエーテル類化合物(例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル);アクリジン化合物化合物(例えば、9-フェニルアクリジン(製品名:N-1717、ADEKA製));トリアジン類化合物(例えば、2,4-トリクロロメチル-(4"-メトキシフェニル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシナフチル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(ピペロニル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシスチリル)-6-トリアジン2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)などが挙げられる。
【0049】
カチオン光重合開始剤としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
ヨードニウム塩系化合物:ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’-ジtert-ブチルジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(製品名:イルガキュア250:BASF製)
【0050】
ジアゾニウム塩系化合物:4-ジエチルアミノフェニルベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、
スルホニウム塩系化合物:ジフェニル-4-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルフォニウム テトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート(製品名:イルガキュア290:BASF製)、トリアリールスルフォニウム ヘキサフルオロフォスフェート(例えば、製品名:イルガキュア270、BASF製;製品名:CPI300、三洋化成工業製;製品名:CPI400、三洋化成工業製)、
フェロセニウム塩系化合物
【0051】
アニオン光重合開始剤としては、例えば、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンなどが挙げられる。
【0052】
また、光重合開始剤と併せて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、例えば、アミン類としてエチル-4-ジメチルアミノベンゾエート(ダロキュアEDB:BASF製)、2-エチルへキシル-4-ジメチルアミノベンゾエート(ダロキュアEHA:BASF製)、ケト化合物としてベンゾフェノン類、チオキサントン類、ケト-クマリン類、アントラキノン類(アントラキュアー UVS-581:川崎化成工業製)を用いてもよい。
【0053】
-熱重合開始剤-
熱重合開始剤としては、例えば、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
重合開始剤の量は、当該重合開始剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~20質量部程度であることが好ましい。
【0055】
(連鎖移動剤)
重合体αは本実施形態におけるモノマー成分を重合させる際に、得られる(メタ)アクリル系エラストマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのチオール基を有する化合物;次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩、トルエンやシクロペンタノンなどの有機溶媒などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の量は、当該連鎖移動剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、モノマー成分100質量部あたり、0.01~100質量部程度であることが好ましい。
【0056】
〈ポリイソシアネートβ〉
本実施形態の組成物は、ポリイソシアネートβを含む。ポリイソシアネートβは重合体αと反応し、重合体αとポリイソシアネートβとを含む架橋構造を形成することができる。ポリイソシアネートβは、2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートβの有するイソシアネート基の数は、特に限定されるものではないが、エラストマーとした際の良好な伸びの観点から例えば、2~3が好ましく、特にジイソシアネートであることが好ましい。ポリイソシアネートβは、イソシアネート基を保護する保護基を有していてもよい。保護基を有するポリイソシアネートβ(即ち、ブロック型ポリイソシアネート)は、保護基が解離すると、解離された部位にイソシアネート基が形成される。保護基としては、熱を加えることによって解離する熱解離性基が挙げられる。
【0057】
ポリイソシアネートβは、例えば、下記式(3-1)及び(3-2)から選ばれる少なくとも一種で示される化合物を用いることができる。
【0058】
【化10】
(式中、X2は水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、水酸基を有していてもよい炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基、又は、イソホロン基を示す;Y1は熱解離性基を示す。)
【0059】
式(3-1)又は式(3-2)で表わされるポリイソシアネートβにおいて、X2は、水酸基若しくはハロゲン原子を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基、又は、水酸基を有していてもよい直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキレン基、又は、イソホロン基を示す。
【0060】
炭素数1~10の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、sec-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソアミレン基、n-ヘキシレン基、イソヘキシレン基、シクロヘキシレン基、n-オクチレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0061】
水酸基を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシn-プロピレン基、ヒドロキシイソプロピレン基、ヒドロキシn-ブチレン基、ヒドロキシイソブチレン基、ヒドロキシtert-ブチレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0062】
アルキレン基に含まれるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルキル基に含まれるハロゲン原子の数は、当該アルキル基の炭素数などによって異なるので一概には決定することができないことから、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0063】
ハロゲン原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、トリフルオロメチレン基、トリフルオロエチレン基、トリフルオロn-プロピレン基、トリフルオロイソプロピレン基、トリフルオロn-ブチレン基、トリフルオロイソブチレン基、トリフルオロtert-ブチレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0064】
炭素数2~12の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルコキシアルキレン基としては、例えば、メトキシエチレン基、エトキシエチレン基、メトキシブチレン基などの炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数1~6のアルキレン基を有するアルコキシアルキレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0065】
水酸基を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数2~12のアルコキシアルキレン基としては、例えば、ヒドロキシメトキシエチレン基、ヒドロキシエトキシエチレン基、ヒドロキシメトキシブチレン基などの炭素数1~6のヒドロキシアルコキレン基及び炭素数1~6のアルキレン基を有するアルコキシアルキレン基などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0066】
式(3-2)で表わされる化合物において、Y1は熱解離性基を示す。式(3-2)で表わされる化合物は、一定の温度(解離温度)となることで式(3-2)の末端部(-NH-CO-Y1)からY1が解離すると、当該部位にイソシアネート基(-N=C=O)が形成される。熱解離性基の解離温度は、特に限定はないが、これらモノマーの重合時の熱ではイソシアネート基から解離せず、また、重合体α形成後の当該重合体αに対する熱負荷を低減する観点から、80~250℃が好ましく、100~230℃がさらに好ましく、150~200℃が特に好ましい。加熱時間は10分~2時間が好ましい。このような熱解離性基としては、例えば、下記式(4)で示される構造式から選ばれる置換基が挙げられる。
【0067】
【化11】
【0068】
式(3-1)で表わされるポリイソシアネートβとしては、特に限定されるものはではないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートが挙げられ、取扱性の点からヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましい。式(3-1)で表わされるポリイソシアネートβは非ブロック型イソシアネートであり、ブロック剤脱離することがないため、ブロック剤のエラストマーに与える影響を考慮することなく用いることができる。
式(3-2)で表わされるポリイソシアネートβとしては、特に限定されるものはではないが、例えば、ブロック型ヘキサメチレンジイソシアネート(例えば、旭化成(株)製の「デュラネートMF-K60B」等)、大栄産業(株)製の「ブロネート1901」等が挙げられ、エラストマーとした際の良好な伸びの点からデュラネートMF-K60Bが好ましい。式(3-2)で表わされるポリイソシアネートβはブロック型イソシアネートであり、温度や湿度等の周辺環境の変化に対する影響を受けにくく、硬化性樹脂組成物の保存安定性、ひいては、これらから製造されるエラストマーの再現性を高めることができる。
【0069】
組成物中のポリイソシアネートβの含有量は、特に限定はないが、エラストマーとした際の低ヒステリシスの観点から、重合体α中のモノマー(B)の総量(mol):ポリイソシアネートβの総量(mol)=1:0.5~4とでき、1:0.75~3mol%がさらに好ましく、1:1~2.5mol%が特に好ましい。また、ポリイソシアネートβは、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、ブロック型ポリイソシアネートβと非ブロック型ポリイソシアネートβとを併用してもよい。
【0070】
《エラストマー及びその製造方法》
本実施形態のエラストマーは、前記組成物中の、前記重合体αと、ポリイソシアネートβと反応させてなるエラストマーである。また、本実施形態のエラストマーの製造方法は、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)とを重合させて重合体αを合成する第1の工程と、前記重合体αとポリイソシアネートβと、を反応させる第2の工程と、を含み、前記重合体αの水分量が1質量%未満であり、且つ、前記重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3以上3未満である。第1の重合工程と第2の重合工程とはそれぞれ、各工程の中で多段階であってもよい。
【0071】
〈第1の工程〉
第1の工程は、モノマー(A)と、モノマー(B)とを重合させて重合体αを合成する工程である。第1の工程においては、各モノマーに加えて、上述の重合開始剤や連鎖移動剤などを用いてもよい。重合体αを重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、高分子量化の観点から、塊状重合法及び乳化重合法が好ましく、重合体α中の水分量の観点から、前記第1の工程は、前記アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)と、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)とを塊状重合によって重合させることが好ましい。塊状重合法によって重合体αを重合させた場合には合成の際に分散剤や溶媒などを用いる必要がないため、重合体αを合成した系から分散剤や溶媒などを除去する必要がなく、生産性にも優れる。重合体αの塊状重合の条件は、特に限定はないが、重合性の観点、及び、得られるエラストマーの低ヒステリシス化の観点から、紫外線照射量10mW/cm2以下が好ましく、10mW/cm2以下がより好ましく、5mW/cm2以下がさらに好ましく、1mW/cm2以下が特に好ましい。また、得られるエラストマーの低ヒステリシス化の観点から0.1W/cm2以上が好ましく、0.4W/cm2以上がより好ましく、0.6mW/cm2以下好ましい。
【0072】
重合体αを重合させる際の雰囲気は、特に限定がなく、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0073】
重合体αを重合させる際の温度は、特に限定がなく、通常、5~100℃程度の温度であることが好ましい。モノマー成分を重合させるのに要する時間は、重合条件によって異なるので一概には決定することができないことから任意であるが、通常、10分間~20時間程度である。
【0074】
重合体αの重合反応は、残存しているモノマー成分の量が20質量%以下になった時点で、任意に終了することができる。なお、残存しているモノマー成分の量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0075】
〈第2の工程〉
第2の工程は、重合体αとポリイソシアネートβとを反応させてエラストマーを合成する工程である。例えば、第2の工程において、重合体αとポリイソシアネートβとを、加熱して反応させることができる。以下、熱重合法(TC)によって、重合体αとポリイソシアネートβとを反応させる方法につき説明するが、ポリイソシアネートβの種類等を適宜変更することで重合方法を光重合反応などに変更することができる。第2の工程は例えば、下記TC工程(1)及び(2)を含むことができる。
【0076】
TC工程(1):重合体αを溶媒に溶解し、樹脂溶液を得る工程
TC工程(2):得られた樹脂溶液にポリイソシアネートβを加え、これを加熱して反応させる工程
【0077】
TC工程(1)においては重合体αを溶媒に溶解し樹脂溶液とする。重合体αを樹脂溶液とする目的は、主として、得られる(メタ)アクリル系エラストマーのフィルム化や基材表面への(メタ)アクリル系エラストマーの形成である。重合体αを溶解する溶媒としては特に限定はないが、例えば、ベンゼン系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等を用いることができ、具体的には、トルエン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、カルビトールアセテート等を挙げることができる。
【0078】
TC工程(2)は、樹脂溶液にポリイソシアネートβを加え、これを加熱し、重合体αとポリイソシアネートβとを熱によって反応させることで(メタ)アクリル系エラストマーとする工程である。TC工程(2)においては樹脂溶液を加熱する際、必要に応じて樹脂溶液に触媒を添加することができる。TC工程(2)において添加される触媒は、主として、単位Bのヒドロキシ基やヒドロキシル基と、イソシアネート基と、の(脱水)縮合させることを目的として添加される。前記触媒としては、例えば、ジブチル錫系触媒や、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のSnフリーの触媒が挙げられる。
【0079】
TC工程(2)により、重合体αの単位Bのヒドロキシ基やヒドロキシル基とイソシアネート基とを結合させることができ、これにより本実施形態のエラストマーを得ることができる。TC工程(2)においては、意図的に、又は必然的に、熱による反応と同時に溶媒が除去されるように構成することができる。
【0080】
TC工程(2)における加熱は、特に限定はないが、加熱処理を二段階に分けておこなってもよい。具体的には、一段目の加熱によって重合体αを含む溶液から溶媒を除去し、引き続き重合体αを加熱することで(脱水)縮合反応を進行させることができる。このように2段で加熱処理を施すことで、共沸により水を除去できるため、架橋点が増加し高分子量のエラストマーを形成するおことができる。また、2段で加熱処理を施すことで、形成されるフィルム内の物性及びフィルム形状の均一性を向上させることができる。なお、熱解離性基等のブロック基を有するポリイソシアネートβのブロック基が乖離する温度は通常溶媒の沸点よりも高いことが多く、2段で加熱処理を施すことによる高分子量化の効果が得られやすい。
【0081】
TC工程(2)における加熱を1段階で行う場合、加熱条件としては、反応する温度であれば特に限定はないが、溶媒の除去及び酸化反応抑制の観点から、一例として、50~200℃が挙げられ、60~150℃とすることができる。同様の観点から、加熱時間は、一例として0.5~2時間が挙げられ、0.75~1.25時間とすることができる。
【0082】
TC工程(2)における加熱を2段階で行う場合一段目の加熱条件としては、加熱温度の下限は溶液から溶媒を除去できる温度が好ましい。一段目の加熱条件の加熱温度の上限は、特に限定はないが、熱解離性基を含むポリイソシアネートβを用いている場合は、熱解離性基の乖離が始まる温度未満で可能な限り高い温度が好ましく、一例としては、150℃以下、120℃以下であり、同様に、加熱時間は、一例として10分間~1時間が挙げられる。また、二段目の加熱条件としては、保護基の脱保護温度にもよるが、加熱温度は80~250℃が好ましく、100~230℃がさらに好ましく、150~200℃が特に好ましい。加熱時間は10分~2時間が好ましい。
【0083】
本実施形態の本実施形態の組成物を重合させてなる(メタ)アクリル系エラストマーの幅や厚み、長さなどの形状は特に限定されるものではない。
また、本実施形態のエラストマーは、特に限定されるものではないが、以下の組み合わせから選ばれる一種であることが好ましい。なお、本実施形態の組成物は、下記1)又は2)に記載の重合体αが溶媒に溶解された重合体α溶液とポリイソシアネートβとを含む2液系の組成物とすることができる。
1)エチルアクリレート由来の単位A/4-ヒドロキシルブチルアクリレート由来の単位Bを含む重合体αを、ポリイソシアネートβ(ヘキサメチレンジイソシアネート)で硬化したエラストマー
2)エチルアクリレート由来の単位A/2-ヒドロキシエチルアクリレート由来の単位Bを含む重合体αを、ポリイソシアネートβ(ヘキサメチレンジイソシアネート)で硬化したエラストマー
本実施形態の重合体αのガラス転移温度(Tg)は、特に限定はないが、低ヤング率の観点で、50℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。
【0084】
《伸縮性材料》
本実施形態の伸縮性材料は、本実施形態の組成物を重合させてなるエラストマーを含む材料である。本実施形態の弾性材料及び伸縮性材料は、本実施形態の組成物を重合させてなるエラストマーを含むことで、高い伸びと低ヒステリシスとを両立させた材料とすることができる。
【0085】
《シート》
本実施形態のシートは、本実施形態のエラストマーを含んでなり、本実施形態の組成物を重合させて得ることができる。また、本実施形態のシートは、本実施形態の伸縮性材料であって、一定以下の厚みを有する幅広のものが本実施形態のシートであるといえる。本実施形態のシートは、柔軟性や伸長・伸縮性に優れるため、フレキシブルシート、又はストレッチャブルシートとして好適に用いることができる。
【0086】
本実施形態のシートの厚さは、特に限定されないが、高い伸びと低ヒステリシスとを両立させたシートを得る観点から、10μm~5mm程度であることが好ましく、500μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0087】
本実施形態のシートは、用途によっては、そのままの状態で用いることができるが、強靭性を付与する観点から、一軸延伸又は二軸延伸されていることが好ましく、二軸延伸されていることがより好ましい。前記フィルムの延伸倍率は、強靭性を付与する観点から、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、シートの厚さにもよるが、延伸時の破断を防止する観点から、好ましくは8倍以下、より好ましくは6倍以下、さらに好ましくは5倍以下である。なお、シートを延伸させる際には、必要により、加熱してもよい。
【0088】
本実施形態のシートは、その粘度を調製するために、他のポリマーを適量含有していてもよい。
【0089】
他のポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他のポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
本実施形態のシートは、必要により、中和剤が含まれていてもよい。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基性化合物;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、オクチルアミン、トリブチルアミン、アニリンなどの有機塩基性化合物などが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中和剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0091】
本実施形態のシートには、本実施形態の目的が阻害されない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、熱伝導性フィラー、導電性フィラーなどが挙げられるが、本実施形態は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0092】
本実施形態のシートのヤング率、最大点応力、伸び、ヒステリシスロスは、例えば、引張測定器を用い後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
本実施形態のシートのヤング率は、柔軟性の観点から、5.00MPa以下程度であることが好ましく、1.0MPa以下がさらに好ましく、0.7MPa以下が特に好ましい。
本実施形態のシートの最大点応力は、靱性や取扱い性の観点から、0.5MPa以上であることが好ましく、0.6MPa以上がさらに好ましく、0.7MPa以上が特に好ましい。
本実施形態のシートの伸び、伸縮・伸長性の観点から200%以上が好ましく、300%以上がさらに好ましく、350%以上が特に好ましい。
本実施形態のシートのヒステリシスロスは、戻りの観点から、10以下が好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下が特に好ましい。
【0093】
本実施形態のシートは低ヤング率と、低ヒステリシスとをバランスよく発揮できることから、FPCのベースフィルムや、電子部材用基板の保護フィルム、医療材料、ヘルスケア材料、ライフサイエンス材料、又はロボット材料等に好適に用いることができる。
【実施例0094】
次に、本実施形態を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本実施形態は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
エチルアクリレート(EA:モノマー(A))36.00質量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA:モノマー(B))0.42質量部、及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.04質量部を混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.60mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることにより、重合体αを得た。重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕は1である。
【0096】
得られた重合体α10質量部を、シクロペンタノン90質量部に溶解させることによって、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液にヘキサメチレンジイソシアネート[東京化成工業(株)製]0.08質量部、錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.02質量部を添加し、よく撹拌してエラストマー用熱硬化性樹脂組成物を作製した。エラストマー用熱硬化性樹脂組成物をギャップが0.6mmの市販のアプリケーターを用いて市販の離型フィルム状に塗布し、これを80℃で1時間加熱し、離型フィルムから剥離することでシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0097】
[実施例2]
実施例1において、ポリイソシアネートβとして、HDIの代わりに、イソホロンジイソシアネート(IPDI)0.11質量部を用いた以外は同様にしてエラストマー(フィルム)を得た。
【0098】
[実施例3]
実施例1において、モノマー(B)として、HEAの代わりに、4-ヒドロキシルブチルアクリレート(4-HBA)0.52質量部を用いた以外は同様にしてシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0099】
[実施例4]
実施例1において、モノマー(B)として、HEAの代わりに4-ヒドロキシルブチルアクリレート(4-HBA)0.26質量部を用い、ポリイソシアネートβ(HDI)を0.04質量部を用いた以外は同様にしてシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0100】
[実施例5]
実施例4において、ポリイソシアネートβとして、HDIの代わりに、ブロック型イソシアネート(旭化成(株)製:デュラネートMF-K60B)0.64質量部を用いた以外は同様にしてシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0101】
[実施例6]
実施例5において、触媒として、錫触媒の代わりに、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル(株)製;オルガチックスZC-150)0.003質量部を用いた以外は同様にしてシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0102】
[比較例1]
エチルアクリレート(モノマー(A))100質量部及び重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製、商品名:IrgacureTPO〕0.062質量部を混合することにより、重合開始剤を含有するモノマー成分を得た。
得られたモノマー成分を透明ガラス製の成形型(縦:100mm、横:100mm、深さ:2mm)内に注入した後、当該モノマー成分に照射線量が0.36mW/cm2となるように紫外線を照射し、モノマー成分を2時間塊状重合させることによって、(メタ)アクリル系エラストマーを得た。
得られた(メタ)アクリル系エラストマー100質量部をトルエン900質量部に溶解させることによって、樹脂溶液を得た。これを50℃の温度で1時間加熱しシート状のエラストマーを得た。
[比較例2]
実施例4において、モノマー(B)(4-HBA)を0.13質量部用い、ポリイソシアネートβ(HDI)を0.02質量部用いた以外は同様にしてシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0103】
[比較例3]
実施例4において、モノマー(B)(4-HBA)を1.56質量部用い、ポリイソシアネートβ(HDI)を0.24質量部用いた以外は同様にしてシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0104】
[比較例4]
実施例4において得られた樹脂溶液から12.0012質量部を取り出した。ここに純水0.0082質量部を加えてよく攪拌した。さらにヘキサメチレンジイソシアネート[東京化成工業(株)製]0.0868質量部、錫触媒〔日東化成(株)製、製品名:ネオスタンU-100〕0.0024質量部を添加し、よく撹拌した。これを80℃の温度で1時間加熱しシート状のエラストマー(フィルム)を得た。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
表中の略語を以下に示す。
(アルキル(メタ)アクリレートモノマー(A)に由来する単位A)
EA:エチルアクリレート
【0108】
(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマー(B)に由来する単位B)
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
4-HBA:4-ヒドロキシルブチルアクリレート
【0109】
(硬化剤)
硬化剤A:ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)
硬化剤B:イソホロンジイソシアネート(IPDI)
硬化剤C:ブロック型イソシアネート(旭化成(株)製:デュラネートMF-K60B)
【0110】
(触媒)
触媒A:ジブチル錫系触媒(旭化成(株)製:ネオスタンU-100)
触媒B:ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル(株)製;オルガチックスZC-150)
【0111】
(溶剤)
溶剤A:シクロペンタノン
溶剤B:トルエン
【0112】
《評価》
以下に示す方法に従って、実施例及び比較例のフィルム(シート)の各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
[膜厚]
得られたエラストマーにつき、厚さ計(製品名:PG-20,株式会社 テクロック製)を用いて、フィルム厚を測定した。なお、測定は任意の部位について5回おこない、平均値をそのフィルムの厚みとした。
【0114】
[分子量及び分散度]
各実施例及び比較例中で得られた重合体α(比較例1は、エラストマー)の重量平均分子量及び数平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHH-R、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.5mL/min〕を用いてポリスチレン換算で調べ、分子量分布を求めた。
【0115】
[重合体α中の水分量]
得られた重合体αを溶剤に溶解した樹脂溶液中の水分量と、使用した溶剤の水分量を測定し、差分から重合体αの水分量を算出した。水分量の測定はカールフィッシャー法の容量滴定法に従って算出した。測定機器は、三菱化学アナリティック社製「KF-200 Moisturemeter」を用い、溶剤として三菱ケミカル社製「アクアミクロン脱水溶剤KTX」を用い、滴定試薬として三菱ケミカル社製「アクアミクロンSS-Z」を用いた。
【0116】
[最大点応力、ヤング率、伸び(ヒステリシスの測定]
JIS K6251の6.1に規定するダンベル状7号形に打ち抜くことにより、試験片を得た。得られた試験片を引張り試験機〔(株)エー・アンド・デイ製、品番:Tensilon RTG-1310〕のチャック間距離が19mmとなるように取り付け、50mm/minの引張り速度で試験片が破断するまで引張り荷重を加える操作を行ない、ヤング率及び伸びを測定した。なお、上述で得られたフィルムの伸びは、式:〔フィルムの伸び(%)〕=〔破断時の試験片の長さ(mm)-試験片の元の長さ(mm)〕÷〔試験片の元の長さ(mm)〕×100に基づいて求めた。
また、試料片破断時の応力(最大点応力)、及び、伸びを表1に示す。
【0117】
[ヒステリシスの測定]
ヒステリシスについて、その評価指標となるヒステリシスロスを導きだした。詳細には、上述の試験片及び引張試験機を用い、下記測定を行い、得られたグラフを用いて、ヒステリシスロスを算出した。
測定は、試験片に対し、100%伸びまで引張り荷重を加える操作(チャック間距離を38mmにする操作)と100%に達した試験片を0%まで戻す操作(38mmのチャック間距離を19mmまで戻す操作)(いずれも50mm/min)を1サイクルとして2サイクル行い、2サイクル目の測定結果のグラフからヒステリシスロスを算出した。なお、データの保存間隔は100m秒で記録した。
【0118】
図1を用いてヒステリシスロスの算出方法を詳細に説明する。図1はヒステリシスロスを説明するためのグラフである。横軸はフィルム伸びを表し、縦軸は標準化応力を表している。標準化応力は各時間における応力の観測値をフィルム伸びが100%の時の応力の観測値で除した値である。ヒステリシスロスは図1において点線(往路)と実線(復路)とに囲まれる領域についてその面積を算出した。ヒステリシスロスが小さいほど追従性が良いことを示す。
面積は次のように算出した。まず、ひずみ1(フィルムの伸び 100%)時における応力をσAとして、時間tにおける標準化応力Ztを次の式に基づいて求めた。[時間tにおける標準化応力Zt]=[時間tにおける応力σt(MPa)]÷[ひずみ1における応力σA(MPa)]。また、ある時間tにおけるフィルムの伸びをεtとする。ある時間t-1から次の時間(0.1秒後)tに変化するときに、SS曲線、直線Z=0、直線ε=εt-1,直線ε=εtに囲まれた面積を、台形の面積に近似して以下の式で求めた。[時間t-1からtに変化したときの台形の面積St]=(Zt-1+Zt)×(εt-εt-1)÷2。最後に、2サイクル目の開始から終了までに得られるStの総和を求め、これをヒステリシスロスとした。
【0119】
[透明性]
得られたフィルムを目視で観察し、透明性を下記基準にしたがって評価した。
〔基準〕
A:無色透明であった。
B:黄色又は茶色味を帯びていた。
C:白濁していた。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
表1からわかるように、実施例のフィルム(シート)は比較例に比して、伸び及び最大点応力と低ヒステリシスとのバランスに優れており、伸びが大きく伸長後の戻りがよい(塑性変形量が少ない)ことがわかる。さらに、実施例のフィルムは、透明性に優れるものであった。
これに対し、モノマー(B)及び硬化剤を用いなかった比較例1のフィルムは、最大点応力が小さく(靭性が弱い)、ヒステリシスロスが大きく伸長後の戻りが悪いものであった。
重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が0.3未満の比較例2のフィルムはヒステリシスロスが大きく伸長後の戻りが悪かった。
重合体αにおける単位A〔A〕に対する単位B〔B〕のモル比〔B×100/A〕が3以上であった、比較例3のフィルムは伸びが小さかった。
重合体α中の水分量が1%以上であった比較例4のフィルムはフィルム中に白濁が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のエラストマーは、FPCのベースフィルムや、電子部材用基板の保護フィルム、医療材料、ヘルスケア材料、ライフサイエンス材料、又はロボット材料等に好適に用いることができる。
図1