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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034069
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/28 20060101AFI20230306BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B23C5/28
B23C5/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140139
(22)【出願日】2021-08-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 孝洋
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK03
3C022KK11
(57)【要約】
【課題】切れ刃に向かう流路を容易に形成することのできる切削工具、を提供する。
【解決手段】切削工具10は、被把持部100と切削部200とを備える。被把持部100及び切削部200の内部には、外部から供給される流体を流出口221へと案内するための流路が形成されている。上記流路は、被把持部100のうち切削部200とは反対側の端部から、回転中心軸AXと平行に且つ直線状に伸びている第1流路310と、第1流路310から、切削インサート30の切れ刃に向けて直線状に伸びている第2流路320と、を含む。第1流路310は、その中心軸が回転中心軸AXと一致しないよう偏心した位置に形成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械によって把持される円柱形状の部分であって、その中心軸が回転中心軸に一致している被把持部と、
凹状の切りくずポケットが形成されている切削部と、
前記切りくずポケットの内面において、周方向に沿って複数並ぶように設けられた切れ刃と、を備え、
前記被把持部及び前記切削部の内部には、外部から供給される流体を、前記切れ刃の周辺に形成された流出口へと案内するための流路が形成されており、
前記流路は、
前記被把持部のうち前記切削部とは反対側の端部から、前記回転中心軸と平行に且つ直線状に伸びている第1流路と、
前記第1流路から、前記切れ刃に向けて直線状に伸びている第2流路と、を含み、
前記第1流路は、その中心軸が前記回転中心軸と一致しないよう偏心した位置に形成されている、切削工具。
【請求項2】
前記第1流路は複数形成されている、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
周方向に沿って並んでいる前記切れ刃の数よりも、前記第1流路の数の方が少ない、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
1つの前記第1流路を通った前記流体が複数の前記切れ刃のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの前記第1流路に対し複数の前記第2流路が接続されている、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記被把持部のうち前記切削部とは反対側の端部には、前記切削部側に向けて後退するように単一の凹部が形成されており、
前記第1流路への前記流体の入口である流入口は、その少なくとも一部が前記凹部と重なる位置に形成されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記凹部は、前記回転中心軸を含む範囲に形成されている、請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記切削部では、
前記回転中心軸に沿った方向に並ぶ複数の段位置のそれぞれにおいて、前記切れ刃が周方向に沿って複数並ぶよう設けられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項8】
1つの前記第1流路を通った前記流体が、複数の前記段位置にある前記切れ刃のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの前記第1流路に対し複数の前記第2流路が接続されている、請求項7に記載の切削工具。
【請求項9】
前記切れ刃は、前記切りくずポケットの内面に取り付けられた切削インサートの一部である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項10】
前記第2流路を通った流体の出口である前記流出口が、前記切りくずポケットの内面に形成されており、
前記回転中心軸に沿った方向における前記流出口の位置は、同方向において前記切削インサートが設けられている範囲と重なる位置である、請求項9に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の加工に用いられる切削工具は、フライス盤等の工作機械により把持される部分である被把持部と、切れ刃が設けられている部分である切削部と、を備えている。工作機械は、被把持部を把持した状態で切削工具の全体を回転させながら、切削部の切れ刃を金属等の被削材に当てることにより、被削材を加工する。
【0003】
このとき、切れ刃と被削材とが当たる点(切削点)もしくはその近傍には、流体が供給されるのが一般的である。このような流体は、例えば、切りくずの排出や、切削工具の冷却、被削材の冷却、潤滑、及び防錆等を目的として供給されるものである。尚、流体としては液体が用いられることが多いが、気体が用いられることもある。流体は、切削工具の周囲に配置された外部ノズルから供給されることもあるが、下記特許文献1に記載されているように、切削工具の内部に形成された流路を通して供給されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-68172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作機械から切削工具に対する流体の供給は、被把持部のうち後端側の面から行われる。このため、切削工具の内部に形成される流路としては、回転中心軸に沿って後端面から直線状に伸びる第1流路と、当該第1流路から外周側の切れ刃へと直線状に伸びる複数の第2流路と、のそれぞれを形成することが考えられる。
【0006】
しかしながら、このような構成においては、直線状に伸びる第2流路を通った流体を、切りくずポケットの内側にある切れ刃に対し直接当てることが難しくなってしまう。そこで、上記特許文献1に記載の切削工具では、中心の第1流路から外周側の切れ刃へと流体を案内するための流路を、途中で屈曲するような流路(第2流路及び第3流路)として形成することで、切れ刃に対し流体を直接当てることとしている。
【0007】
しかしながら、そのような構成においては、屈曲する流路を形成するための複雑な工程が必要となってしまうので、製造コストの上昇が懸念される。
【0008】
本発明は、切れ刃に向かう流路を容易に形成することのできる切削工具、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る切削工具は、工作機械によって把持される円柱形状の部分であって、その中心軸が回転中心軸に一致している被把持部と、凹状の切りくずポケットが形成されている切削部と、切りくずポケットの内面において、周方向に沿って複数並ぶように設けられた切れ刃と、を備える。被把持部及び切削部の内部には、外部から供給される流体を、前記切れ刃の周辺に形成された流出口へと案内するための流路が形成されている。流路は、被把持部のうち切削部とは反対側の端部から、回転中心軸と平行に且つ直線状に伸びている第1流路と、第1流路から、切れ刃に向けて直線状に伸びている第2流路と、を含み、第1流路は、その中心軸が回転中心軸と一致しないよう偏心した位置に形成されている。
【0010】
上記構成の切削工具では、回転中心軸と一致しないよう偏心した位置に第1流路が形成されているので、第1流路の下流側にある第2流路の全体を直線状の流路としながらも、第2流路を通った流体を切れ刃へと向かわせることができる。第2流路を途中で屈曲させる必要が無いので、切れ刃に向かう流路の形成を容易に行うことができる。
【0011】
更に好ましい態様として、第1流路が複数形成されていてもよい。
【0012】
更に好ましい態様として、周方向に沿って並んでいる切れ刃の数よりも、第1流路の数の方が少なくてもよい。
【0013】
更に好ましい態様として、1つの第1流路を通った流体が複数の切れ刃のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの第1流路に対し複数の第2流路が接続されていてもよい。
【0014】
更に好ましい態様として、被把持部のうち切削部とは反対側の端部には、切削部側に向けて後退するように単一の凹部が形成されており、第1流路への流体の入口である流入口は、その少なくとも一部が凹部と重なる位置に形成されていてもよい。
【0015】
更に好ましい態様として、凹部が、回転中心軸を含む範囲に形成されていてもよい。
【0016】
更に好ましい態様として、切削部では、回転中心軸に沿った方向に並ぶ複数の段位置のそれぞれにおいて、切れ刃が周方向に沿って複数並ぶよう設けられていてもよい。
【0017】
更に好ましい態様として、1つの第1流路を通った流体が、複数の段位置にある切れ刃のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの第1流路に対し複数の第2流路が接続されていてもよい。
【0018】
更に好ましい態様として、切れ刃は、切りくずポケットの内面に取り付けられた切削インサートの一部であってもよい。
【0019】
更に好ましい態様として、第2流路を通った流体の出口である流出口が、切りくずポケットの内面に形成されており、回転中心軸に沿った方向における流出口の位置が、同方向において切削インサートが設けられている範囲と重なる位置であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、切れ刃に向かう流路を容易に形成することのできる切削工具、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る切削工具を先端側から見て描いた図である。
図3図3は、第1実施形態に係る切削工具を側方側から見て描いた図である。
図4図4は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す斜視図である。
図5図5は、第1実施形態に係る切削工具に形成された流路を示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係る切削工具に形成された流路を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す図である。
図8図8は、比較例に係る切削工具の構成を示す図である。
図9図9は、比較例に係る切削工具の構成を示す図である。
図10図10は、比較例に係る切削工具の構成を示す図である。
図11図11は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す図である。
図12図12は、第1実施形態に係る切削工具の、流出口と切削インサートとの位置関係について説明するための図である。
図13図13は、第2実施形態に係る切削工具の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0023】
第1実施形態に係る切削工具10の構成について説明する。本実施形態に係る切削工具10は、フライス盤等の工作機械(不図示)に取り付けて使用されるものであり、ラフィングタイプのエンドミルとして構成されている。図1に示されるように、切削工具10は、被把持部100と、切削部200と、を有している。
【0024】
被把持部100は、「シャンク」とも称される部分であって、不図示の工作機械によって把持される円柱形状の部分である。被把持部100の中心軸は、切削工具10が回転する際の回転中心軸AXに一致している。被把持部100は、切削工具10のうち回転中心軸AXに沿った一方側の部分(図1では右側の部分)となっている。また、次に述べる切削部200は、切削工具10のうち回転中心軸AXに沿った他方側の部分(図1では左側の部分)となっている。回転中心軸AXに沿って被把持部100に向かう方向のことを、以下では「後端側」のように表記する。また、回転中心軸AXに沿って切削部200に向かう方向のことを、以下では「先端側」のように表記する。
【0025】
切削部200は、複数の切削インサート30が取り付けられる部分であって、当該切削インサート30により被削材の加工を行う部分である。切削インサート30は、切削部200に対し締結固定された交換可能な刃である。切削インサート30の先端に形成されたエッジ部分が、被削材を切削するための「切れ刃」として機能する。尚、切削インサート30のうち切れ刃となるエッジ部分は、本実施形態のように切削インサート30の先端であってもよいが、切削インサート30の辺全体(つまり、多角形の全周に亘る範囲)であってもよい。切削インサート30においてどの部分が切れ刃として用いられるかは、特に限定されない。
【0026】
切削部200には、凹状の切りくずポケット210が形成されている。切りくずポケット210は、切削加工において発生した切りくずを受け入れて、これを外部へと排出するための空間として形成されている。切りくずポケット210の内面には、凹状のインサート座(不図示)が、周方向に沿って複数並ぶように形成されており、それぞれのインサート座に対して切削インサート30が締結固定されている。その結果として、切削インサート30の切れ刃が周方向に沿って複数並んでいる。
【0027】
本実施形態では、切りくずポケット210が、それぞれの切削インサート30の数だけ形成されている。つまり、切りくずポケット210も切削インサート30と同様に、周方向に沿って複数並んでいる。ただし、一つの切削インサート30が設けられた切りくずポケット210と、他の一つの切削インサート30が設けられた切りくずポケット210と、が互いに繋がっている態様であってもよい。
【0028】
図2には、回転中心軸AXに沿って切削部200を先端側から見た場合の外観が示されている。同図に示されるように、切削部200の先端側には5つの切りくずポケット210が周方向に沿って等間隔で並ぶように形成されており、それぞれの切りくずポケット210の内面に切削インサート30が固定されている。同図に示される矢印は、使用時における切削工具10の回転方向を示している。切削インサート30は、切りくずポケット210の内面のうち、回転方向において最も後方側の端部となる面に固定されている。
【0029】
切りくずポケット210及び切削インサート30は、切削部200の先端側だけでなく、切削部200の側面部分にも複数設けられている。その具体的な配置について、図3を参照しながら説明する。図3には、回転中心軸AXに対し垂直な方向から切削工具10を見た場合の外観が示されている。同図に示されるように、切削部200では、回転中心軸AXに沿った方向に並ぶ複数の段位置のそれぞれにおいて、切りくずポケット210が周方向に沿って複数並ぶよう形成されており、それぞれの切りくずポケット210に切削インサート30が固定されている。各段位置において形成された切りくずポケット210の個数は、当該段位置における切削インサート30の個数とは異なっていてもよい。
【0030】
一つの段位置において、周方向に沿って複数並ぶ切削インサート30の数(本実施形態では5)のことを、以下では「刃数」とも表記する。切削部200に設けられた切削インサート30の総数は、段位置×刃数ということになる。尚、刃数が、各段位置において互いに異なっていてもよい。
【0031】
図3において符号「31」が付されている切削インサート30は、最も先端側の段位置において、周方向に沿って並ぶ5つの切削インサート30である。符号「32」が付されている切削インサート30は、先端側から2番目の段位置において、周方向に沿って並ぶ5つの切削インサート30である。符号「33」が付されている切削インサート30は、先端側から3番目の段位置において、周方向に沿って並ぶ5つの切削インサート30である。符号「34」が付されている切削インサート30は、先端側から4番目の段位置、すなわち、最も後端側の段位置において、周方向に沿って並ぶ5つの切削インサート30である。それぞれの段位置にある切削インサート30のことを、以下では「切削インサート31」や「切削インサート32」のようにも表記する。
【0032】
また、最も先端側の段位置のことを以下では「1段目」とも表記し、先端側から2番目の段位置のことを以下では「2段目」とも表記する。同様に、先端側から3番目の段位置のことを以下では「3段目」とも表記し、先端側から4番目の段位置のことを以下では「4段目」とも表記する。
【0033】
図1図3等に示されるように、それぞれの切りくずポケット210の内面のうち切削インサート30の周辺となる位置には、流出口221が形成されている。流出口221は、切削インサート30に向けて流体を供給するために設けられた開口である。後に説明するように、切削工具10の内部には、外部から供給される流体を流出口221へと案内するための流路が形成されており、流出口221は当該流路のうち最も下流側の端部となっている。
【0034】
尚、上記における「流体」とは、切りくずの排出や、切削工具の冷却、被削材の冷却、潤滑、及び防錆等を目的として外部から供給されるものであり、例えば「クーラント」や「潤滑剤」等と称されるものである。流体が供給される目的は特に限定されない。また、流体は、液体であってもよいが、気体であってもよい。
【0035】
図4に示されるように、被把持部100のうち切削部200とは反対側の端部、すなわち最も後端側の端部には、3つの流入口121が形成されている。流入口121は、外部から供給される上記の流体の入口として設けられた開口である。つまり、それぞれの流入口121は上記流路のうち最も上流側の端部となっている。流体は、流入口121から切削工具10の内部の流路に流入し、当該流路を通った後、先に述べた流出口221から排出され、それぞれの切削インサート30の切れ刃へと供給される。
【0036】
切削工具10の内部に形成された上記流路の具体的な形状について説明する。図5は、切削工具10の内部に形成された流路の形状を、図3と同じ視点から見て描いた図である。図6は、切削工具10の内部に形成された流路の形状を、図2と同じ視点から見て描いた図である。図5及び図6に示されるように、上記の流路には、第1流路310と第2流路320とが含まれている。
【0037】
第1流路310は、被把持部100のうち切削部200とは反対側の後端部から、回転中心軸AXと平行に且つ直線状に伸びるように形成されている。第1流路310のうち最も上流側の端部に形成された開口が、図4に示される流入口121である。第1流路310は、流入口121から回転中心軸AXに沿って被把持部100の全体を貫いており、更に切削部200の途中となる位置まで伸びている。
【0038】
図6に示されるように、第1流路310は3つ形成されている。それぞれの第1流路310は、その中心軸が回転中心軸AXと一致しないよう偏心した位置に形成されており、回転中心軸AXの周りを同じ角度間隔で囲むように形成されている。つまり、本実施形態では3つの第1流路310が、周方向に沿って120度ずつ異なる位置に設けられている。
【0039】
第2流路320は、第1流路310の途中となる位置から、それぞれの切削インサート30に向けて直線状に伸びるように形成されている。それぞれの第2流路320の下流側の端部は、先に述べた流出口221であり、それぞれの切りくずポケット210の内面に形成された開口となっている。それぞれの切りくずポケット210の内面には、1つ又は2つの流出口221が形成されており、それぞれの流出口221から、いずれかの第1流路310に向かって伸びるように第2流路320が形成されている。
【0040】
本実施形態では、第1流路310及び第2流路320のいずれもが、円形の断面を有する直線状の流路として形成されている。このため、それぞれの流路をドリル加工により容易に形成することができる。第2流路320の内径は、第1流路310の内径よりも小さい。
【0041】
図5において符号「321」が付されている第2流路320は、1段目の切削インサート31に向かって伸びるように形成された第2流路320である。図5において符号「322」が付されている第2流路320は、2段目の切削インサート32に向かって伸びるように形成された第2流路320である。図5において符号「323」が付されている第2流路320は、3段目の切削インサート33に向かって伸びるように形成された第2流路320である。図5において符号「324」が付されている第2流路320は、4段目の切削インサート34に向かって伸びるように形成された第2流路320である。これらはいずれも、共通の第1流路310(図5において符号「311」が付されている第1流路310)に繋がっている。その他の第1流路310についても上記と同様に、各段位置にある切削インサート30へと向かう第2流路320のそれぞれが繋がっている。
【0042】
このように、本実施形態に係る切削工具10では、1つの第1流路310を通った流体が、複数の段位置にある切削インサート30のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの第1流路310に対し複数の第2流路320が接続されている。このような構成においては、段位置の数に応じて第1流路310の数を増加させる必要が無いため、第1流路310の内径を十分に確保することができ、第1流路310における流路抵抗を低減することができる。
【0043】
尚、本実施形態に係る切削工具10は、1段目の切削インサート31のそれぞれに対しては、2つの第2流路320が向かうように構成されている一方で、2段目以降の切削インサート32等のそれぞれに対しては、1つの第2流路320が向かうように構成されている。1段目の切削インサート31に向かう第2流路320の数を多くしてあるのは、1段目の切削インサート31が受ける加工負荷が、他の切削インサート32等が受ける加工負荷に比べて大きくなること等を考慮したためである。各段位置の切削インサート30に向かう第2流路320の数は、適宜変更してもよい。
【0044】
図7は、図2と同様に、回転中心軸AXに沿って切削部200を先端側から見て描いた図である。図7では、第1流路310と、1段目の切削インサート31に向かう第2流路320と、が描かれている。その他の第2流路320については図示が省略されている。また、図7においては、切りくずポケット210の内面の一部を簡略化し模式的に描いてある。図7に示されるように、最も先端側の段位置にある5つの切削インサート31に着目すると、1つの第1流路310から、1つまたは2つの切削インサート31に向けて流体が供給されるよう、それぞれの第2流路320が形成されている。つまり、1つの第1流路310を通った流体が複数の切削インサート31のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの第1流路310に対し複数の第2流路320が接続されている。
【0045】
このため、同じ段位置において周方向に沿って並んでいる切削インサート31の数、すなわち刃数(5つ)よりも、第1流路310の数(3つ)が少ない構成でありながら、全ての切削インサート31に向けて流体を供給可能となっている。その他の段位置にある切削インサート32等についても同様である。
【0046】
このような構成においては、切削インサート31の数と同じ数だけ第1流路310を設ける場合に比べて、第1流路310の内径を大きくすることができるので、第1流路310における流路抵抗を低減することができる。
【0047】
先に述べたように、それぞれの第1流路310は、その中心軸が回転中心軸AXと一致しないよう偏心した位置に形成されており、回転中心軸AXの周りを同じ角度間隔で囲むように形成されている。このような構成としたことの利点を説明するために、比較例に係る切削工具10Aの構成について説明する。図8には、切削工具10Aの外観が図3と同様の視点で描かれている。図9には、切削工具10Aの外観が図2と同様の視点で描かれている。
【0048】
切削工具10Aは、先端側の1段目にのみ切削インサート30が設けられた精密加工タイプのエンドミルとして構成されている。この比較例においても、切削工具10Aの内部には、第1流路310と第2流路320とが形成されている。
【0049】
ただし、この比較例における第1流路310は、本実施形態のように偏心した位置には形成されておらず、その中心軸が回転中心軸AXと一致する位置、すなわち、被把持部100の中心を通る位置に形成されている。図9に示されるように、それぞれの第2流路320は、中心にある第1流路310から外側の切りくずポケット210に向かって直線状に伸びるように形成されている。
【0050】
このような構成において、流出口221を切削インサート30の近傍(例えば、周方向に沿って切削インサート30と隣り合う位置)に設けようとすると、第2流路320から流体が排出される方向は、切削インサート30から外れた方向となってしまう。第2流路320から排出される流体が、切削インサート30のうち特に切れ刃の付近に対し直接当たらないため、流体の機能が十分には発揮されず、切削インサート30の寿命が低下するなどの問題が生じることとなる。
【0051】
このような問題を解決するためには、例えば図10に示される例のように、第2流路320を途中で屈曲させ、下流側の部分が切削インサート30へと向かうように形成することも考えられる。しかしながら、このような構成においては、第2流路320の形状が複雑なものとなり、複数回のドリル加工が必要となる結果、製造コストの上昇が懸念される。また、この場合、流体の入口や出口とは異なる部分に開口が形成されてしまうので、当該開口を埋める必要が生じ、更に製造コストが上昇してしまう。更に、第2流路320を大きく屈曲させた構成においては、流路抵抗が増大するという問題も生じる。
【0052】
これに対し、図7に示される本実施形態の切削工具10では、それぞれの第2流路320を切削インサート30に向けて伸びるように形成し、その第2流路320の上流側端部に第1流路310を形成したことの結果として、それぞれの第1流路310が回転中心軸AXから偏心した位置に配置された構成となっている。
【0053】
図11には、回転中心軸AXに対し垂直に切削部200を切断した場合の断面、の一部が模式的に描かれている。図11に示される点線DLは、第2流路320が直線状に伸びる方向を外側へと延長して描いたものであり、第2流路320を通った流体が流出口221から噴射される方向を示すものである。同図に示されるように、第2流路320は、点線DLで示される範囲の内側に切削インサート30の一部が入るような向きに形成されることが好ましい。換言すれば、第2流路320は、噴射される流体のうち少なくとも一部が、切削インサート30の一部に直接当たるような向きに形成されることが好ましい。上記における「切削インサート30の一部」とは、切削インサート30のうち切れ刃の部分であることが更に好ましい。
【0054】
図12は、図3のうち切削部200の部分を拡大して示す図である。ここでは、図12において符号「30」が付された切削インサート30と、同図において符号「221」が付された流出口221とに着目して説明を行う。これらの切削インサート30及び流出口221は、同一の切りくずポケット210に設けられたものである。
【0055】
図12に示される範囲A1は、回転中心軸AXに沿った方向において切削インサート30が設けられている範囲を表している。図12に示される範囲A2は、回転中心軸AXに沿った方向において流出口221が形成されている範囲を表している。本実施形態では、範囲A2の全体が範囲A1に包含されている。つまり、回転中心軸AXに沿った方向における流出口221の位置が、同方向において切削インサート30が設けられている範囲A1と重なる位置となっている。
【0056】
仮に、流出口221が、切削インサート30が設けられている範囲A1よりも後端側となる位置に設けられている場合には、流体は、先端側に向かう速度成分が大きい状態で流出口221から噴射され、先端側の切削インサート30に向けて供給されることとなる。この場合、流体が流れる方向と、切りくずが排出される方向とが互いに逆方向となるので、切りくずの排出が流体の流れにより阻害されてしまい、切りくずによる噛み込み等の問題が生じる可能性がある。
【0057】
これに対し、本実施形態では、上記のように流出口221が範囲A1と重なる位置に設けられているので、流体は、先端側に向かう速度成分が小さい状態で流出口221から噴射され、先端側の切削インサート30に向けて供給される。このため、切りくずの排出が、流体の流れにより阻害されてしまう現象が生じにくくなっている。尚、流出口221は、本実施形態のようにその全体が範囲A1の内側に包含される位置に形成されてもよいが、その一部のみが範囲A1の内側となるような位置に形成されてもよい。
【0058】
上記のような流出口221と切削インサート30との位置関係は、他の全ての流出口221についても同様である。
【0059】
その他の構成について説明する。図4に示されるように、被把持部100のうち最も後端側の端部には、切削部200側に向けて後退するように単一の凹部110が形成されており、先に述べた3つの流入口121はこの凹部110の内側に形成されている。
【0060】
切削工具の内部流路に流体を供給することのできる工作機械は、切削工具の中心から流体を供給するように構成されていることが多い。このため、本実施形態のように、第1流路310が回転中心軸AXから偏心した位置に形成されている場合には、工作機械から流体が供給される位置と、第1流路310の位置とが互いに一致しないので、流入口121に向けて流体がスムーズに流入しないことが懸念される。
【0061】
そこで、本実施形態に係る切削工具10では、上記のように凹部110を設けることとしている。このような構成においては、工作機械から回転中心軸AXに沿って供給される流体は、先ず凹部110の内側に流入し、続いてそれぞれの流入口121を通って第1流路310へとスムーズに分配されることとなる。従って、第1流路310を偏心した位置に形成したことに伴う、上記のような問題が生じることは無い。
【0062】
凹部110が形成されている範囲は、少なくともその内側に回転中心軸AXを含む範囲であればよい。また、流入口121は、本実施形態のようにその全体が凹部110と重なる範囲に形成されていてもよいが、その一部のみが凹部110と重なる位置に形成されていてもよい。更に、全体が凹部110と重なる範囲に形成されていている流入口121と、一部のみが凹部110と重なる位置に形成されている流入口121と、が混在している態様であってもよい。
【0063】
第2実施形態について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点について主に説明し、第1実施形態と共通する点については適宜説明を省略する。
【0064】
図13には、本実施形態に係る切削工具10の外観が図3と同様の視点で描かれている。図13に示されるように、本実施形態に係る切削工具10は、図8の比較例と同様に、先端側の1段目にのみ切削インサート30が設けられた精密加工タイプのエンドミルとして構成されている。
【0065】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に3つの第1流路310が直線状に形成されている。それぞれの第1流路310は、その中心軸が回転中心軸AXと一致しないよう偏心した位置に形成されている。また、本実施形態でも、第1流路310から切削インサート30に向けて伸びるように第2流路320が直線状に形成されている。第1流路310及び第2流路320の具体的な形状及び配置は、図7に示される形状及び配置と同じである。このように、第1実施形態について説明した第1流路310等の構成は、ラフィングタイプ以外の様々な切削工具についても適用することができ、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0066】
以上においては、切削工具10の切れ刃が切削インサート30に設けられており、切れ刃を交換することが可能となっている構成の例について説明した。しかしながら、例えば、切削工具10に対して切れ刃がろう付けされており、切れ刃を交換することができない構成の切削工具についても、以上に説明した流路等の構成を適用することができる。
【0067】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0068】
10:切削工具、30:切削インサート、100:被把持部、200:切削部、210:切りくずポケット、310:第1流路、320:第2流路、AX:回転中心軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2021-11-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械によって把持される円柱形状の部分であって、その中心軸が回転中心軸に一致している被把持部と、
凹状の切りくずポケットが形成されている切削部と、
前記切りくずポケットの内面において、周方向に沿って複数並ぶように設けられた切れ刃と、を備え、
前記被把持部及び前記切削部の内部には、外部から供給される流体を、前記切れ刃の周辺に形成された流出口へと案内するための流路が形成されており、
前記流路は、
前記被把持部のうち前記切削部とは反対側の端部から、前記回転中心軸と平行に且つ直線状に伸びている第1流路と、
前記第1流路から、前記切れ刃に向けて直線状に伸びている第2流路と、を含み、
前記第1流路は、その中心軸が前記回転中心軸と一致しないよう偏心した位置に形成されており、
前記第1流路は複数形成されており、
周方向に沿って並んでいる前記切れ刃の数よりも、前記第1流路の数の方が少ない、切削工具。
【請求項2】
1つの前記第1流路を通った前記流体が複数の前記切れ刃のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの前記第1流路に対し複数の前記第2流路が接続されている、請求項に記載の切削工具。
【請求項3】
前記被把持部のうち前記切削部とは反対側の端部には、前記切削部側に向けて後退するように単一の凹部が形成されており、
前記第1流路への前記流体の入口である流入口は、その少なくとも一部が前記凹部と重なる位置に形成されている、請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記凹部は、前記回転中心軸を含む範囲に形成されている、請求項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記切削部では、
前記回転中心軸に沿った方向に並ぶ複数の段位置のそれぞれにおいて、前記切れ刃が周方向に沿って複数並ぶよう設けられている、請求項1乃至のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項6】
1つの前記第1流路を通った前記流体が、複数の前記段位置にある前記切れ刃のそれぞれに向けて供給されるよう、1つの前記第1流路に対し複数の前記第2流路が接続されている、請求項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記切れ刃は、前記切りくずポケットの内面に取り付けられた切削インサートの一部である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記第2流路を通った流体の出口である前記流出口が、前記切りくずポケットの内面に形成されており、
前記回転中心軸に沿った方向における前記流出口の位置は、同方向において前記切削インサートが設けられている範囲と重なる位置である、請求項に記載の切削工具。