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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034086
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】容器詰アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20230306BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20230306BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12G3/06
C12G3/04
A23L2/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140163
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】村上 由佳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 繭
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LH01
4B115LH11
4B115LP01
4B115MA03
4B117LC03
4B117LE10
4B117LK04
4B117LK08
4B117LK12
(57)【要約】
【課題】低糖質の容器詰アルコール飲料において、酒感を増強する方法、及び当該方法により得られた容器詰アルコール飲料の提供。
【解決手段】糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、アルコール濃度が6.0v/v%以下であり、ボルネオールとオクタナールを含有する、容器詰アルコール飲料、ボルネオール及びオクタナールを含有させる工程を含み、糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、かつアルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料を製造する、容器詰アルコール飲料の製造方法、及び糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、かつアルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料において、ボルネオール及びオクタナールを含有させることを特徴とする、容器詰アルコール飲料の香味改善方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、
アルコール濃度が6.0v/v%以下であり、
ボルネオールとオクタナールを含有する、容器詰アルコール飲料。
【請求項2】
ボルネオール含有量が1~1000ppbである、請求項1に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項3】
オクタナール含有量が1~1000ppbである、請求項1又は2に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項4】
ボルネオール濃度(ppb)に対するオクタナール濃度(ppb)の比率が0.03~50である、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項5】
アルコール濃度が0.1~3.5v/v%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項6】
疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物からなる疎水性液滴を0.1g/L以上含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項7】
果汁含有量が3w/v%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項8】
クエン酸に換算した酸度が0.35g/100mL以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項9】
炭酸ガスを含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項10】
炭酸ガス圧が1.5~3.5ガスボリュームである、請求項9に記載の容器詰アルコール飲料。
【請求項11】
ボルネオール及びオクタナールを含有させる工程を含み、
糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、かつアルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料を製造する、容器詰アルコール飲料の製造方法。
【請求項12】
糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、かつアルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料において、
ボルネオール及びオクタナールを含有させることを特徴とする、容器詰アルコール飲料の香味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低糖質であるにもかかわらず、酒感が増強されたアルコール飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料用アルコールや、焼酎、ジン、ウォッカ等の蒸留酒をベース酒とし、このベース酒に、果汁、フレーバー、甘味料、及び酸味料等を添加し、風味を付したアルコール飲料が広く好まれている。近年は、その手軽さから、容器に充填されたRTD(Ready To Drink)飲料として、缶入り酎ハイ等に代表される容器詰アルコール飲料の市場が拡大している。
【0003】
一方で、主として健康上の理由から、アルコール飲料においても、低カロリー化や低糖質化、低アルコール化などのニーズが増えてきている。しかしながら、低糖質のアルコール飲料では、アルコール自体が有する特有のコク感や、味の厚みや複雑味等が不足することにより、本格的なお酒の味わいが乏しくなるという問題がある。低糖質で、さらにアルコール濃度が低めのアルコール飲料では、よりこの問題が顕著になる。
【0004】
低糖質や低アルコールでありながらも、アルコール感やお酒らしい風味が得られるアルコール飲料の開発が進んでいる。例えば、特許文献1には、低糖質の炭酸アルコール飲料に4-イソプロペニルトルエンを含有させることにより、酒感を向上させられることが開示されている。また、特許文献2には、pHが2~5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である飲料に対して、1,2,3-トリアセトキシプロパンを7~1300ppmとなるように含有させることにより、酒感を向上させられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-143194号公報
【特許文献2】特開2017-212932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低糖質の容器詰アルコール飲料において、酒感を増強する方法、及び当該方法により得られた容器詰アルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、低糖質のアルコール飲料に、ボルネオール(Borneol)とオクタナール(Octanal:C16O)を含有させることにより、酒感が増強されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係る容器詰アルコール飲料、容器詰アルコール飲料の製造方法、及び容器詰アルコール飲料の香味改善方法は、下記[1]~[12]である。
[1] 糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、
アルコール濃度が6.0v/v%以下であり、
ボルネオールとオクタナールを含有する、容器詰アルコール飲料。
[2] ボルネオール含有量が1~1000ppbである、前記[1]の容器詰アルコール飲料。
[3] オクタナール含有量が1~1000ppbである、前記[1]又は[2]の容器詰アルコール飲料。
[4] ボルネオール濃度(ppb)に対するオクタナール濃度(ppb)の比率が0.03~50である、前記[1]~[3]のいずれかの容器詰アルコール飲料。
[5] アルコール濃度が0.1~3.5v/v%である、前記[1]~[4]のいずれかの容器詰アルコール飲料。
[6] 疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物からなる疎水性液滴を0.1g/L以上含有する、前記[1]~[5]のいずれかの容器詰アルコール飲料。
[7] 果汁含有量が3w/v%未満である、前記[1]~[6]のいずれかの容器詰アルコール飲料。
[8] クエン酸に換算した酸度が0.35g/100mL以下である、前記[1]~[7]のいずれかの容器詰アルコール飲料。
[9] 炭酸ガスを含有する、前記[1]~[8]のいずれかの容器詰アルコール飲料。
[10] 炭酸ガス圧が1.5~3.5ガスボリュームである前記[9]の容器詰アルコール飲料。
[11] ボルネオール及びオクタナールを含有させる工程を含み、
糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、かつアルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料を製造する、容器詰アルコール飲料の製造方法。
[12] 糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、かつアルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料において、
ボルネオール及びオクタナールを含有させることを特徴とする、容器詰アルコール飲料の香味改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、低糖質であるにもかかわらず、アルコール自体が有する特有のコク感や、味の厚みや複雑味があり、酒感が増強されている。
また、本発明に係る容器詰アルコール飲料の製造方法や容器詰アルコール飲料の香味改善方法により、糖質含有量が6.0g/100mL以下であるが、酒感が増強されたアルコール飲料が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、容器詰アルコール飲料とは、容器に充填されたアルコール飲料を意味する。
本発明及び本願明細書において、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料であればよく、発泡性飲料であってもよく、非発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。すなわち、本発明におけるアルコール飲料には、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ、及びジン等の蒸留酒やリキュール等の非発泡性のアルコール飲料;ビールテイストアルコール飲料(ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有するアルコール飲料)、発泡ワイン、シードル等の発泡性のアルコール飲料;蒸留酒やリキュール等の非発泡性のアルコール飲料を、ジュース、清涼飲料、サイダー、ラムネ、炭酸水等のノンアルコール飲料と混合したチューハイ、カクテル等が挙げられる。
【0011】
本発明及び本願明細書において、「酒感」とは、アルコール自体が有する特有のコク感や、味の厚みや複雑味等により総合的に感じられる「酒らしい味わい」を意味する。
【0012】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、アルコール濃度が6.0v/v%以下であり、ボルネオールとオクタナールを含有する。低糖質のアルコール飲料は、一般的に、アルコール自体が有する特有のコク感や、味の厚みや複雑味等が不足するが、本発明に係る容器詰アルコール飲料は、低糖質であり、かつアルコール濃度も高くないにもかかわらず、ボルネオールとオクタナールを含有することによって、アルコール特有のコク感、味の厚み、複雑味等が付与されて、酒感が増強されている。すなわち、糖質含有量が6.0g/100mL以下であり、アルコール濃度が6.0v/v%以下である容器詰アルコール飲料に、ボルネオールとオクタナールを含有させることにより、酒感を増強して香味を改善することができ、本格的なお酒の味わいを有する低糖質のアルコール飲料を製造することができる。
【0013】
ボルネオールは、竜脳、ボルネオショウノウとも呼ばれる二環式モノテルペンであり、樟脳の香りに類似した、お香や墨のような香りを呈する香気成分である。オクタナールは、アルデヒドの一種であり、柑橘類の果実香を有する香気成分である。ボルネオールとオクタナールを含有させることにより酒感増強効果が得られる理由は明らかではないが、両者の香りが互いに影響することにより、酒らしい風味が得られるためと推察される。
【0014】
本発明に係る容器詰アルコール飲料のボルネオール含有量は、オクタナールとの併用による酒感増強効果が得られる量であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る容器詰アルコール飲料のボルネオール含有量としては、十分な酒感増強効果が得られやすい点から、1ppb以上であることが好ましく、10ppb以上であることがより好ましく、50ppb以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係る容器詰アルコール飲料のボルネオール含有量としては、ボルネオール自体の香気成分による影響が抑えられる点から、5000ppb以下であることが好ましく、2000ppb以下であることがより好ましく、1000ppb以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明に係る容器詰アルコール飲料のオクタナール含有量は、ボルネオールとの併用による酒感増強効果が得られる量であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る容器詰アルコール飲料のオクタナール含有量としては、十分な酒感増強効果が得られやすい点から、1ppb以上であることが好ましく、5ppb以上であることがより好ましく、10ppb以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係る容器詰アルコール飲料のボルネオール含有量としては、オクタナール自体の香気成分による影響が抑えられる点から、5000ppb以下であることが好ましく、2000ppb以下であることがより好ましく、1000ppb以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明に係る容器詰アルコール飲料における、ボルネオール濃度(ppb)に対するオクタナール濃度(ppb)の比率([オクタナール濃度(ppb)]/[ボルネオール濃度(ppb)])(以下、「Oct/Bol比」ということがある。)は、ボルネオールとオクタナールの併用による酒感増強効果が得られる比率であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る容器詰アルコール飲料のOct/Bol比としては、0.01~100であることが好ましく、0.02~100であることがより好ましく、0.02~80であることがさらに好ましく、0.03~50であることがよりさらに好ましい。
【0017】
なお、本発明に係る容器詰アルコール飲料のボルネオールとオクタナールの濃度は、例えば、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)により定量することができる。
【0018】
本発明に係る容器詰アルコール飲料のアルコール濃度は、6.0v/v%以下であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る容器詰アルコール飲料のアルコール濃度としては、ボルネオールとオクタナールの併用による酒感増強効果がより充分に発揮されることから、0.1~6.0v/v%であることが好ましく、0.1~3.5v/v%であることがより好ましい。本発明に係る容器詰アルコール飲料のアルコール濃度は、例えば、0.05v/v%以上0.5v/v%未満であってもよい。
【0019】
本発明に係る容器詰アルコール飲料の糖質含有量は、6.0g/100mL以下であればよく、特に限定されるものではない。本発明に係る容器詰アルコール飲料の糖質含有量としては、ボルネオールとオクタナールの併用による酒感増強効果がより充分に発揮されることから、2.0g/100mL以下であることが好ましく、0.5g/100mL以下であることがより好ましい。
【0020】
なお、糖質とは、食物繊維ではない炭水化物をいう。糖質は、栄養表示基準(一部改正平成21年消費者庁告示第9号)の別表第2に記載の方法(当該食品の重量から、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除して算定する)に従って算出できる。
【0021】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、糖質含有量が6.0g/100mL以下となる範囲内において、甘味料を含有していることが好ましい。甘味料としては、ショ糖、液糖、オリゴ糖、デキストリン、でんぷん、甘味系アミノ酸、高感度甘味料等が挙げられる。当該高感度甘味料としては、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビア、酵素処理ステビア、スクラロース等が挙げられる。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
本発明に係る容器詰アルコール飲料のエキス分は、特に限定されるものではない。例えば、一般的なビールと同様に、3.0~4.5%程度であってもよい。低糖質が達成しやすいという点から、本発明に係る容器詰アルコール飲料のエキス分としては、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.5%未満であってもよい。
【0023】
なお、エキス分とは、飲料中に含まれる不揮発性固形分の含有量を示す数値である。エキス分は、15℃のときにおいて原容量100cm中に含有する不揮発性成分のグラム数をいう。エキス分の測定は、第四回改正国税庁所定分析法注解(平成5年2月20日、第四回改正版、財団法人日本醸造協会発行)を用いて行うことができる。
【0024】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、酸味料を含有していてもよい。酸味料としては、リン酸、有機酸、又はこれらの塩を用いることができる。有機酸としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、及びフマル酸等の有機酸が挙げられる。また、リン酸や有機酸の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。これらの酸味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
本発明に係る容器詰アルコール飲料のクエン酸換算した酸度は、特に限定されるものではなく、飲料の種類や求める製品品質等を考慮して適宜調整することができる。本発明に係る容器詰アルコール飲料のクエン酸換算した酸度としては、1.0g/100mL以下であることが好ましく、0.5g/100mL以下であることがより好ましく、0.35g/100mL以下であることがさらに好ましい。本発明に係る容器詰アルコール飲料のクエン酸換算した酸度としては、0.01g/100mL以上であることが好ましく、0.03g/100mL以上であることがより好ましく、0.05g/100mL以上であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、飲料のクエン酸換算した酸度は、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号)の8頁、総酸(遊離酸)にて定められた酸度の測定方法に基づいて算出される。詳細には、酸度は、以下の方法により測定できる。
まず、試料1~50mLを正確に量りとり、水で適宜希釈する。これを、0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pHメーターで8.2を終点とし、下記の式により算出する。式中、「A」は0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液による滴定量(mL)であり、「f」は0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液の力価であり、Wは試料重量(g)である。また、「0.0064」は、0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液1mLに相当する無水クエン酸の重量(g)である。
【0027】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、炭酸ガスを含有していない非発泡性飲料であってもよく、炭酸ガスを含有する発泡性飲料であってもよい。本発明に係る容器詰アルコール飲料が発泡性飲料の場合、炭酸ガス圧は、1.0~5.0ガスボリューム(GV)であることが好ましく、1.0~4.0GVであることがより好ましく、1.5~3.5GVであることがさらに好ましい。
【0028】
本発明に係る容器詰アルコール飲料に、ボルネオールを含有させる手段は特に限定されない。例えば、ボルネオールを原料として用いることにより、ボルネオールを含有する容器詰アルコール飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物から抽出・精製されたボルネオールであってもよく、ボルネオールを含有する香料であってもよい。
【0029】
本発明に係る容器詰アルコール飲料に、オクタナールを含有させる手段は特に限定されない。例えば、オクタナールを原料として用いることにより、オクタナールを含有する容器詰アルコール飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物から抽出・精製されたオクタナールであってもよく、オクタナールを含有する香料であってもよい。
【0030】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、各種アルコールをベース酒として製造することもできる。ベース酒とするアルコールは、原料用アルコールであってもよく、常法により製造された酒類であってもよい。当該酒類としては、蒸留酒であってもよく、醸造酒であってもよい。蒸留酒としては、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ、焼酎、ラム酒、ジン等が挙げられ、リキュールであってもよい。醸造酒としては、ビール、ワイン、シードル等が挙げられる。
【0031】
原料用アルコールとしては、好ましくは、廃糖蜜を発酵させて高度(例えばアルコール濃度が9v/v%以上)に精製したものが用いられる。原料用アルコールは、安価であることから、製造コストを低減できる。また、原料用アルコールは、他のベース酒として香気成分の含有量が少ないため、すっきりとした味わいの飲料を得やすくなる。
【0032】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、ボルネオールとオクタナールの併用による酒感増強効果を損なわず、かつ糖質とアルコールの含有量を所定の範囲内とする限りにおいて、アルコール、ボルネオール、及びオクタナールに加えて、その他の成分を含有していてもよい。当該その他の成分としては、甘味料、酸味料、炭酸ガス、炭酸水の他に、果実、果皮、果汁、野菜類、ハーブ、香料、清涼飲料水、水溶性食物繊維、着色料、起泡剤、タンパク質若しくはその分解物、酵母エキス、原料水、酸化防止剤、乳化剤等が挙げられる。
【0033】
果実、果皮、及び果汁としては、柑橘類、モモ、リンゴ、なし、洋ナシ、ぶどう、白ぶどう、キウイ、バナナ、メロン、すいか、カシス、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ライチ、パイナップル等の果実等を用いることができる。柑橘類としては、みかん、オレンジ、夏みかん、レモン、ゆず、すだち、カボス、グレープフルーツ、シークワァーサー、はっさく、ライム等が挙げられる。果実、果皮、及び果汁は常法により調製されたものを用いることができる。これらの果実等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
野菜類やハーブとしては、特に限定されるものではない。野菜類としては、例えば、トマト、ピーマン、セロリ、ショウガ、パセリ等が挙げられ、ハーブとしては、レモングラス、セージ、シナモン、ラベンダー、ローズマリー、ペッパー、ペパーミント等が挙げられる。これらの野菜類等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
果実や果汁には、果糖をはじめとする糖質が比較的多く含まれている。このため、本発明に係る容器詰アルコール飲料が果実や果汁を含有する場合には、飲料の糖質含有量が6.0g/100mL以下の範囲内になるように調整される。例えば、本発明に係る容器詰アルコール飲料が果汁を含有する場合には、本発明に係る容器詰アルコール飲料の果汁含有量は、5w/v%以下であることが好ましく、3w/v%未満であることがより好ましい。
【0036】
香料としては、例えば、果物の果皮等から香気成分をアルコール等の溶媒で抽出したものやこれを減圧蒸留や常圧蒸留等により濃縮したものを用いることができる。その他、飲料に添加される各種の食品香料を適宜用いることもできる。これらの香料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
起泡剤としては、例えば、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、キラヤサポニン等が挙げられる。これらの起泡剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
タンパク質分解物としては、例えば、大豆タンパク分解物等が挙げられる。これらのタンパク質分解物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
着色料としては、例えば、カラメル色素等の飲食品に一般的に使用される色素等が挙げられる。これらの着色料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸やビタミンC等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
乳化剤としては、例えば、レシチン、サポニン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、香料として、飲料溶液に溶解させることができる水溶性香料や、飲料溶液に均一に分散することが可能な乳化香料のみならず、飲料溶液の液面に飲料溶液とは分離した状態で存在させる疎水性香料を含有させることもできる。疎水性香料としては、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を用いることができる。例えば、本発明に係る容器詰アルコール飲料に、飲料の液面に飲料溶液と分離した状態で、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物からなる疎水性液滴を0.1g/L以上含有させることにより、開封時や喫飲時に疎水性香気成分由来の香りが強く感じられる飲料とすることができる。
【0041】
疎水性香気成分としては、レモン、ライム、ユズ、シークヮーサー、スダチ、カボス、グレープフルーツ、オレンジ、伊予柑、温州みかん、夏みかん、八朔、日向夏等の柑橘類;イチゴ、モモ、メロン、ブドウ、リンゴ、洋ナシ、ナシ、サクランボ等のソフトフルーツ;バナナ、パイナップル、マンゴー、パッションフルーツ等のトロピカルフルーツ;ペパーミント、セージ、タイム、レモングラス、シナモン、ローズマリー、カモミール、ラベンダー、ローズヒップ、ペッパー、バニラ等のハーブ;などの特徴香成分が好ましい。
【0042】
柑橘類のうち、レモンの特徴香成分は、シトラール、ネロール、ゲラニオール、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル等が挙げられ、シトラールはレモン由来の精油に含まれる含酸素化合物の半分以上を占める。グレープフルーツの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、ヌートカトン等が挙げられ、ユズの特徴香成分としては、リナロール、チモール、ユズノン(登録商標)、N-メチルアントラニル酸メチル等が挙げられる。オレンジの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、リナロール、酢酸ゲラニル、シネンサール等が挙げられる。
【0043】
柑橘類以外の果実やハーブとしては、例えば、モモの特徴香成分としては、γ-ウンデカラクトン等が挙げられる。ブドウの特徴香成分としては、メチルアンスラニレート等が挙げられる。ミントの特徴香成分としては、メントール等が挙げられる。バニラの特徴香成分としては、バニリン等が挙げられる。
【0044】
例えば、果物等の植物に含有されている疎水性香気成分は、植物から抽出された精油に多く含まれている。このため、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物には、精油やその加工物を含有させてもよい。精油の加工物としては、精油の濃縮物や、精油から一部成分を除去したものが挙げられる。精油は、植物の花、蕾、果実(果皮、果肉)、枝葉、根茎、木皮、樹幹、樹脂等から、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)等の常法によって植物から留出することができる。精油の加工処理は、蒸留法、晶析法、化学処理法等の常法により行うことができる。
【0045】
本発明に係る容器詰アルコール飲料は、例えば、ボルネオールやオクタナールを含む各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料及びアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液、及びアルコール、必要に応じて原料水を混合してもよい。さらに、原料水に原料を加熱したものを入れてもよく、調製した調合液を加熱してもよい。
【0046】
調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0047】
本発明に係る容器詰アルコール飲料が発泡性アルコール飲料の場合、例えば、原料として炭酸水や、サイダーやラムネ等の発泡性清涼飲料を用いることにより製造できる。また、炭酸ガス以外の原料を全て混合した調合液を調製した後、この調合液に炭酸ガスを導入することによっても、発泡性アルコール飲料を製造できる。炭酸ガスの導入は、常法により行うことができる。
【0048】
製造されたアルコール飲料を容器に充填して密封することにより、容器詰アルコール飲料が製造できる。容器への充填及び密封は、常法により行うことができる。また、容器詰アルコール飲料の空寸部には、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを充填させてもよい。これらの不活性ガスにより、容器内に存在する酸素を減少させることができる。
【0049】
本発明に係る容器詰アルコール飲料の容器としては、特に限定されるものではなく、ツーピース飲料缶、スリーピース飲料缶、ボトル缶、可撓性容器、ガラス瓶などを用いることができる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂をボトル形状等に成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0050】
本発明に係る容器詰アルコール飲料が発泡性飲料の場合、耐圧性の高い容器を使用する。現在、流通しているアルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶やアルミニウム(合金)製ボトル缶のメーカー保証耐圧は、高いもので686kPa程度であり、実際の耐圧を考慮すると加熱殺菌を要する場合はおおよそ3.2GV以下、加熱殺菌が不要な場合はおおよそ3.8GV以下となる。
【0051】
本発明に係る容器詰アルコール飲料が疎水性液滴を有する場合には、例えば、疎水性液状組成物以外の原料からアルコール飲料を調製し、これを容器に充填した後に、疎水性液状組成物を液面に向かって噴霧した後に密封することにより、液面に疎水性液状組成物からなる疎水性液滴を有する容器詰アルコール飲料を製造することができる。
【0052】
また、本発明に係る容器詰アルコール飲料は、その製造工程において、必要に応じて加熱殺菌処理を行う。加熱殺菌処理は、容器に充填前に行ってもよく、容器充填後に行ってもよい。殺菌方法としては、UHT(超高温)殺菌処理、パストライザー殺菌処理、レトルト殺菌処理等の常法により行うことができる。
【実施例0053】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
ボルネオールとオクタナールを各種濃度で含有させた容器詰アルコール飲料を製造し、ボルネオールとオクタナールの酒感等に対する影響を調べた。
【0055】
原料用アルコール(アルコール濃度95容量%)、果糖ぶどう糖液糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、ボルネオール、オクタナール、及び炭酸水を用いて、アルコール濃度、ボルネオール濃度、オクタナール濃度、糖質含有量、及びクエン酸換算酸度が表1及び2に記載の値であるアルコール飲料を製造し、容器に充填して、容器詰アルコール飲料を製造した。各容器詰アルコール飲料のガス圧は2.5GVに調整した。
【0056】
製造した各容器詰アルコール飲料について、訓練された識別能力のあるパネル3名により、酒感増強効果、不快臭の強さ、及び、美味しさの総合評価について、官能評価を行った。官能評価は、ボルネオールとオクタナールの両方を添加していないサンプルを対照(評点0)とする7段階の相対評価を行った。全パネルの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。表1に記載のサンプル1-1~1-6の官能評価は、サンプル1-0を対照として行った。表2に記載のサンプル2-1~2-6の官能評価は、サンプル1-0を対照として行った。
【0057】
具体的には、酒感増強効果と不快臭の強さについては、対照よりかなり強い場合に+3点、対照より強い場合に+2点、対照よりやや強い場合に+1点、対照と同程度の場合に0点、対照よりやや弱い場合に-1点、対照より弱い場合に-2点、対照よりかなり弱い場合に-3点、と評価した。美味しさの総合評価については、対照よりかなり良い場合に+3点、対照より良い場合に+2点、対照よりやや良い場合に+1点、対照と同程度の場合に0点、対照よりやや悪い場合に-1点、対照より悪い場合に-2点、対照よりかなり悪い場合に-3点、と評価した。評価結果を表1及び2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1に示すように、糖質含有量が3.0g/100mL、アルコール濃度が2.0v/v%である容器詰アルコール飲料では、ボルネオールを1~1000ppbと、オクタナールを50ppbとを含有させた場合に、嗜好性が低下せずに酒感が増強した。また、表2に示すように、同じく糖質含有量が3.0g/100mL、アルコール濃度が2.0v/v%である容器詰アルコール飲料では、ボルネオールを50ppbと、オクタナールを1~1000ppbとを含有させた場合に、嗜好性が低下せずに酒感が増強した。これらの結果から、低糖質、低アルコールの容器詰アルコール飲料においては、Oct/Bol比が0.03~50の範囲内となるようにボルネオールとオクタナールを含有させることによって、嗜好性を低下させることなく、酒感を増強できることがわかった。
【0061】
[実施例2]
ボルネオールとオクタナールを含有させた容器詰アルコール飲料を製造し、ボルネオールとオクタナールの酒感等に対する影響を調べた。
【0062】
実施例1と同様にして、アルコール濃度、ボルネオール濃度、オクタナール濃度、糖質含有量、及びクエン酸換算酸度が表3に記載の値であるアルコール飲料を製造し、容器に充填して、容器詰アルコール飲料を製造した。また、実施例1と同様にして、製造した容器詰アルコール飲料の官能評価を行った。
【0063】
【表3】
【0064】
サンプル3-1~3-2の官能評価は、サンプル3-0を対照として行い、サンプル4-1~4-2の官能評価は、サンプル4-0を対照として行った。評価結果を表3に示す。表3に示すように、アルコール濃度0.5~6.0v/v%の範囲の低糖質の容器詰アルコール飲料では、ボルネオールとオクタナールを含有させることで、嗜好性を低下させずに酒感を増強させられることがわかった。
【0065】
[実施例3]
ボルネオールとオクタナールを含有させた容器詰アルコール飲料を製造し、ボルネオールとオクタナールの酒感等に対する影響を調べた。
【0066】
実施例1と同様にして、アルコール濃度、ボルネオール濃度、オクタナール濃度、糖質含有量、及びクエン酸換算酸度が表4に記載の値であるアルコール飲料を製造し、容器に充填して、容器詰アルコール飲料を製造した。また、実施例1と同様にして、製造した容器詰アルコール飲料の官能評価を行った。
【0067】
【表4】
【0068】
サンプル5-1~5-4の官能評価は、サンプル5-0を対照として行った。評価結果を表4に示す。表4に示すように、糖質含有量が1.0~6.0g/100mLの範囲の低糖質の容器詰アルコール飲料では、ボルネオールとオクタナールを含有させることで、嗜好性を低下させずに酒感を増強させられることがわかった。糖質含有量が10.0g/100mLと高濃度であるサンプル5-4の容器詰アルコール飲料では、ボルネオールとオクタナールの添加により酒感増強効果は小さく、嗜好性も低下していた。