(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034158
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】エポキシ系構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/18 20060101AFI20230306BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20230306BHJP
C08G 59/22 20060101ALI20230306BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20230306BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20230306BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230306BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08G59/18
C08G59/50
C08G59/22
C08G59/32
C08J3/12 CFC
B05D7/00 K
B05D7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140259
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀司
(72)【発明者】
【氏名】青木 祥一朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 吉伸
(72)【発明者】
【氏名】平井 智康
(72)【発明者】
【氏名】椙尾 孝司
【テーマコード(参考)】
4D075
4F070
4J036
【Fターム(参考)】
4D075CA36
4D075DA11
4D075DB47
4D075DC50
4D075EB01
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4D075EB35
4D075EB42
4D075EC24
4F070AA46
4F070AC16
4F070AC23
4F070AC46
4F070AC79
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4F070AE08
4F070AE27
4F070DA12
4F070DB06
4F070DC02
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB03
4J036AB07
4J036AB09
4J036AB11
4J036DC03
4J036DC04
4J036DC06
4J036DC48
4J036HA13
4J036JA15
4J036KA07
(57)【要約】
【課題】液体溶媒を使用せず、形状制御が容易なエポキシ系構造体を製造する手段を提供する。
【解決手段】エポキシモノマーの液滴表面に安定化剤を配置してリキッドマーブルを形成し;アミン化合物ガスの存在下で、前記リキッドマーブル中で前記エポキシモノマーを重合することを有する、エポキシ系構造体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシモノマーの液滴表面に安定化剤を配置してリキッドマーブルを形成し;
アミン化合物ガスの存在下で、前記リキッドマーブル中で前記エポキシモノマーを重合することを有する、エポキシ系構造体の製造方法。
【請求項2】
前記エポキシモノマーは、エチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、イソソルバイドジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテルおよびポリグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミン化合物は、式(1):NH(R1)(R2)(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基である)で表される化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミン化合物を、エポキシモノマー(液滴体積)に対して、1~300体積倍の割合で存在させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記安定化剤は、表面が疎液的または疎水的である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化剤は、疎液化処理ポリエチレンテレフタレート、シリコーン樹脂、疎液化処理炭酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、および疎液化処理シリカからなる群より選択される少なくとも1種から形成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
5~10個の多角形状の安定化剤を前記液滴表面に配置する、または粒状の安定化剤を液滴の表面積の90%以上の割合で前記液滴表面を覆うように配置する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式(2):-CH2-CH(OH)-CH2-N(R3)-(式(2)中、R3は、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基または-CH2-CH(OH)-CH2-である)で表される構造を有するポリマーを含有するコアと、前記コアを被覆するシェルとで構成されるコアシェル構造体。
【請求項9】
前記シェルは、疎液化処理ポリエチレンテレフタレート粒子、シリコーン樹脂粒子、疎液化処理炭酸カルシウム粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子、および疎液化処理シリカ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載のコアシェル構造体。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法によって製造される、請求項8または9に記載のコアシェル構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ系構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、分子内に2個以上のエポキシ基を有し、硬化剤の種類や量により物性を調整でき、接着剤、塗料、インク、化粧品、ブラスチック類への充填剤、補強剤など様々な分野で使用されている。エポキシ樹脂は、液体溶媒中での重合法や、機械的粉砕法によって合成される(特許文献1~3)。
【0003】
一方、リキッドマーブルを反応容器としてラジカル重合を行うことで、高分子粒子の合成を行うことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-31427号公報
【特許文献2】国際公報第97/03114号
【特許文献3】特開2009-235120号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem. Commun., 2015, 51, 17241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液体溶媒中での重合法では、媒体として液体溶媒を使用するため、乾燥にエネルギーが必要であり、また、廃液処理問題がある。また、機械的粉砕法では、サイズが多分散でありかつ形状が不定な粒子が生成し、粒子の形状制御が困難である。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、液体溶媒を使用せず、形状制御が容易なエポキシ系構造体を製造する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、リキッドマーブルをエポキシモノマー重合用の反応容器として使用し、アミン化合物ガスの存在下でエポキシモノマーを重合することによって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、上記目的は、エポキシモノマーの液滴表面に安定化剤を配置してリキッドマーブルを形成し;アミン化合物ガスの存在下で、前記リキッドマーブル中で前記エポキシモノマーを重合することを有する、エポキシ系構造体の製造方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体溶媒を使用せず、形状制御が容易なエポキシ系構造体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、疎液化処理前後のPETプレート(PET plate)を示す写真である。
【
図2】
図2は、様々なエポキシモノマーを内部液に含むLMのデジカメ写真(内部液:10μL)である。
【
図3】
図3は、構造体の作製に用いる重合装置の概略図である。
【
図4】
図4は、エポキシモノマー(EX-216L)(内部液:10μL)を内包するLMを用いた構造体の創出を示す写真である。
【
図5】
図5は、種々のエポキシモノマー(内部液:10μL)を内包するLMを利用した構造体の創出を示す写真である。
【
図6】
図6は、エポキシモノマー(EX-216L)(内部液:10μL)による様々な形状を有する構造体の創出を示す写真である。
【
図7】
図7は、NH
3蒸気反応後のPETプレート及びPETフィルムを示す写真である。
【
図8】
図8は、反応時間における種々のエポキシモノマーの接触角の変化を示す図である。
【
図9】
図9は、様々な安定化剤を用いて作製されるLMおよび構造体の創出を示す写真である。
【
図10】
図10は、種々のエポキシモノマーを内包するLMを利用した構造体の創出を示す写真である。
【
図11】
図11は、種々のエポキシモノマーを内包するLMを利用した構造体の創出を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一の態様によると、エポキシモノマーの液滴表面に安定化剤を配置してリキッドマーブルを形成し;アミン化合物ガスの存在下で、前記リキッドマーブル中で前記エポキシモノマーを重合することを有する、エポキシ系構造体の製造方法が提供される。上記態様に係る方法では、リキッドマーブルを反応容器とし、当該リキッドマーブル中でエポキシモノマーをアミン化合物ガスの存在下で重合する。このため、従来エポキシモノマーの重合に必要とされていた液体溶媒をほとんど必要としないまたは必要としない。廃液処理の課題がほとんど生じないまたは生じない。重合後の乾燥工程をほとんど必要としないまたは必要としない。さらに、攪拌等の操作をほとんど必要としないまたは必要としない。加えて、安定化剤の配置形態(例えば、安定化剤の大きさ、形状、表面性状、配置のさせ方)により、エポキシモノマー液滴の大きさ、形状、表面性状などを規定できる。このため、重合後のエポキシ樹脂(エポキシ系構造体)は様々な大きさ、形状、表面性状をとることができる(例えば、球状に加えて、従来法では合成が非常に困難であった扁球、立方体等の異形エポキシ系構造体を製造することが可能になった)。ゆえに、本発明の方法によると、実質無溶媒下で異形エポキシ系構造体の合成が可能である。加えて、従来法では、コアを形成した後、コアをシェル物質で被覆していたため、複数の工程を必要としていた。これに対して、本発明の方法によれば、エポキシモノマーの液滴をコア形成物質として、および安定化剤をシェル形成物質として、使用することにより、コアおよびシェルを同時に形成することができる。また、安定化剤(シェル形成物質)の種類によって、内部の重合物(エポキシ重合物コア)の表面化学を制御できる。
【0013】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。
【0014】
また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0015】
本明細書において、リキッドマーブル(liquid marble)を「LM」とも称する。本明細書において、エポキシ系構造体を単に「構造体」または「本発明に係る構造体」とも称する。
【0016】
(リキッドマーブルを形成する工程)
本工程では、エポキシモノマーの液滴表面に安定化剤を配置してリキッドマーブルを形成する。
【0017】
本工程で使用されるエポキシモノマーは、1分子当たり1個以上のグリシジル基を有するものであればよく、重合のしやすさを考慮すると、1分子当たり2個以上のグリシジル基を有することが好ましく、1分子当たり2~4個のグリシジル基を有することがより好ましく、1分子当たり2個または3個のグリシジル基を有することが特に好ましい。
【0018】
上記したようなエポキシモノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソソルバイドジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのジエポキシド;ヒマシ油トリグリシジルエーテル、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパントリグリシジルエーテル、トリスフェノールトリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、グリセロールプロポキシレートトリグリシジルエーテル、グリセロールエトキシレートトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリ(グリシジルアクリレート)、ポリグリシジルメタクリレート等の少なくとも3個のエポキシド官能基を含むポリエポキシドなどが挙げられる。上記エポキシモノマーは、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。
【0019】
本工程で使用されるエポキシモノマーは、19.28(MPa)1/2を超えるSP値を有することが好ましい。このようなエポキシモノマーを使用することにより、重合(硬化)がより良好に進行できる。リキッドマーブルをより安定的に作製させる(エポキシモノマー重合をより進行させる)との観点から、エポキシモノマーのSP値は、好ましくは19.30[(MPa)1/2]以上、より好ましくは20.00[(MPa)1/2]を超える、さらに好ましくは21.00[(MPa)1/2]を超える、特に好ましくは21.50[(MPa)1/2]以上である。本発明の好ましい実施形態では、エポキシモノマーは、19.30[(MPa)1/2]以上のSP値を有する。本発明のより好ましい実施形態では、エポキシモノマーは、20.00[(MPa)1/2]を超えるSP値を有する。本発明のさらに好ましい実施形態では、エポキシモノマーは、21.00[(MPa)1/2]を超えるSP値を有する。本発明の特に好ましい実施形態では、エポキシモノマーは、21.50[(MPa)1/2]以上のSP値を有する。また、エポキシモノマーのSP値の上限は、リキッドマーブルの作製しやすさからは高いほど好ましいが、例えば、48[(MPa)1/2]以下、好ましくは30[(MPa)1/2]未満である。本明細書において、エポキシモノマーのSP値(Solubility parameter)は、下記実施例の(エポキシモノマーのSP値の測定)に記載される方法に従って測定される。
【0020】
上記したようなエポキシモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル(SP値=19.62[(MPa)1/2])、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(SP値=19.33[(MPa)1/2])、イソソルバイドジグリシジルエーテル(SP値=21.66[(MPa)1/2])、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(SP値=22.88[(MPa)1/2])、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(SP値=23.70[(MPa)1/2])などが好ましく使用される。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、エポキシモノマーは、エチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、イソソルバイドジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテルおよびポリグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0021】
エポキシモノマーは、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。
【0022】
エポキシモノマーは、合成してもよいし市販品を用いてもよい。市販品の例としては、ナガセケムテックス(株)製のデナコール(登録商標)シリーズ;DIC株式会社製のEPICLON(登録商標)シリーズ;三菱ケミカル株式会社製のjER(登録商標)(旧エピコート(登録商標))シリーズ、YEDシリーズなどがある。
【0023】
安定化剤は、エポキシモノマーの液滴表面に配置される。安定化剤としては、例えば、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス、ジルコニア、燐酸カルシウム、金属(金、銀、銅、鉄)、カーボン材料(カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、グラファイト)等の無機材料;スチレン系、アクリル系、メタクリル系、オレフィン系、ビニルケトン、アクリロニトリル等のモノマーの単独重合体あるいは2種類以上のモノマーを重合させた共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリジメチルシロキサン系高分子、ポリエステル、ポリアミド等の有機材料;シリコーン樹脂;硫黄、ワックス、飽和脂肪酸(例えば、ステアリン酸)、有機-有機複合粒子、無機-無機複合粒子、有機-無機複合粒子などが挙げられる。
【0024】
エポキシモノマーは、基板または安定化剤に滴下して、液滴を形成する。ここで、エポキシモノマーの添加量(液滴の体積)は、構造体の所望の大きさに応じて適切に選択できる。エポキシモノマーの添加量(液滴の体積)は、例えば、1~1000μLであり、好ましくは5~500μLであり、より好ましくは10~100μLである。または、エポキシモノマーの添加量(液滴の体積)は、例えば、液滴の直径が1~3mmであり、好ましくは2~2.5mmとなるような量である。基板としては、例えば、無アルカリガラス基板、石英ガラス基板などのガラス基板、金属基板、プラスチック基板が使用できる。安定化剤としては、上記に詳述される材料および下記に詳述される形状のものが同様にして例示できる。
【0025】
液滴は、エポキシモノマーに加えて、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、重合開始剤、硬化剤、架橋剤(加硫剤を含む)、重合触媒、反応助剤などが挙げられる。具体的には、ポリエチレンイミン、二級アミン、三級アミン、一級アミン、ジシアンジアミド、イミダゾール類、三級アミン塩、ルイス酸塩、ケチミン系潜在性硬化剤、ハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、レドックス系開始剤、酸無水物、有機金属塩、ポリイソシアネート化合物、加水分解性シラン、ハイドロジェンポリシロキサン、メチルジメトキシシリル基を末端に持つポリプロピレンオキシド(変成シリコーン)、塩化アンモニウム、水酸化カルシウム、加硫剤(硫黄)、機能性物質などが挙げられる。他の成分を使用する際の、他の成分の量は、次工程でエポキシモノマーの重合を阻害しない量であればよい。他の成分の量は、液滴の全質量(エポキシモノマーおよび他の成分の合計量)に対して、例えば、20質量%未満であり、好ましくは10質量%未満(下限:0質量%超)である。液滴は、エポキシモノマーから実質的に構成される(エポキシモノマーの含有量が液滴の全質量に対して90質量%超、好ましくは95質量超である)ことが好ましく、エポキシモノマーのみから構成される(エポキシモノマーの含有量が液滴の全質量に対して100質量%である)ことがより好ましい。なお、液滴は、従来重合に使用される溶媒(例えば、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、アセトニトリル)を含まない。
【0026】
上記したように基板または安定化剤上に形成されたエポキシモノマーの液滴表面に安定化剤を配置する。ここで、安定化剤は、エポキシモノマーの液滴形状を制御するとの観点から、固体である。また、安定化剤は、エポキシモノマーの液滴形状が制御しやすい、ぬれ性の観点から、表面が疎液的または疎水的であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、安定化剤は、表面が疎液的または疎水的である。本明細書において、「安定化剤は、表面が疎液的である」とは、安定化剤上のエポキシモノマーの接触角が90°以上(好ましくは90.3°以上、より好ましくは93.0°以上)であることを意図する。ここで、「安定化剤上のエポキシモノマーの接触角」は、下記実施例で測定された値である。なお、下記実施例では、基板(PET filmまたはPET plate)と記載されているが、基板としてPET filmまたはPET plate以外を使用する場合には、基板を変更する以外は同様の方法を使用する。また、安定化剤の表面が疎液的である際の、安定化剤上のエポキシモノマー重合物の接触角は、30°以上であり、好ましくは75°を超え、より好ましくは80°以上でありえる。安定化剤上のエポキシモノマーの接触角は、180°以下である。このような安定化剤であれば、リキッドマーブル内のエポキシモノマー液の漏出をより効果的に抑制・防止できる。また、明細書において、「安定化剤は、表面が疎水的である」とは、安定化剤の水に対する接触角が90°以上(好ましくは90.1°以上)であることを意図する。安定化剤の水に対する接触角は、95°以下である。ここで、水に対する接触角は、θ/2法(half-angle method)により測定された値を採用する。上記好ましい実施形態では、安定化剤を疎液化処理剤(疎水化処理剤)で疎液化処理(疎水化処理)することによって得られる。ここで使用できる疎液化処理剤(疎水化処理剤)としては、(ヘプタデカフルオロデシル)トリクロロシラン、モノメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ステアリン酸、lycopodium(lycopodium powder)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)などが使用できる。上記疎液化処理剤(疎水化処理剤)は、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。
【0027】
また、疎液化処理(疎水化処理)方法としては、特に制限されないが、例えば、疎液化処理剤(疎水化処理剤)を溶媒に溶解させた溶液中に安定化剤を入れ、所定時間(例えば、20~120分)(例えば、ハンドシェイク等により)混合する方法などが使用できる。上記疎液化処理(疎水化処理)方法で使用できる溶媒は、使用する疎液化処理剤(疎水化処理剤)の種類に応じて適切に選択できる。例えば、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。疎液化処理(疎水化処理)で用いる疎液化処理剤(疎水化処理剤)の使用量は、安定化剤の表面を充分疎液化(疎水化)し得る量に設定するのが好ましい。例えば、疎液化処理剤(疎水化処理剤)が、安定化剤100gに対して、100μL~1mL程度であるが、疎液化処理(疎水化処理)時の溶媒量、温度、時間等に応じて異なる。また、溶媒の使用量も限定されない。疎液化処理(疎水化処理)後の安定化剤は、洗浄してもよい。疎液化処理(疎水化処理)後の安定化剤を洗浄する際に使用できる溶媒は、例えば、疎液化処理(疎水化処理)に使用したのと同様の溶媒が使用できる。上記洗浄工程は、1回行われてもまたは繰り返し行われてもよい。また、上記疎液化処理(疎水化処理)または洗浄後、エポキシモノマーを無溶媒下で行えるように、安定化剤を乾燥(例えば、減圧乾燥、加熱乾燥)することが好ましい。上記乾燥工程は、1回行われてもまたは繰り返し行われてもよい。
【0028】
なお、安定化剤は、下記重合前または疎液化処理(疎水化処理)前に、洗浄してよい。洗浄方法としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン、ヘキサンなどの有機溶媒による脱脂洗浄、アルカリや酸による洗浄、上記有機溶媒中での超音波洗浄などが挙げられる。洗浄後の安定化剤は、乾燥(例えば、減圧乾燥、加熱乾燥)してもよい。上記洗浄・乾燥工程は、1回行われてもまたは繰り返し行われてもよい。
【0029】
本発明の一実施形態では、安定化剤は、疎液化処理ポリエチレンテレフタレート、シリコーン樹脂、疎液化処理炭酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、および疎液化処理シリカからなる群より選択される少なくとも1種から形成される。本発明の一実施形態では、安定化剤は、疎液化処理ポリエチレンテレフタレート、シリコーン樹脂、疎液化処理炭酸カルシウムおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種から形成される。本発明の一実施形態では、安定化剤は、有機-有機複合粒子、無機-無機複合粒子、および有機-無機複合粒子からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0030】
安定化剤の形状は、重合により得られる構造体の形状に応じて適宜選択される。例えば、粒状(粉末状、球形、球形様)、三角形、四角形、六角形等の多角形状、繊維状、不定形などが挙げられる。安定化剤は、好ましくは、球形、球形様、粒状(粉末状)、多角形状であり、より好ましくは、粒状、六角形状、四角形状である。
【0031】
本発明の一実施形態では、安定化剤は、六角形状の疎液化処理ポリエチレンテレフタレート、シリコーン樹脂粒子、疎液化処理炭酸カルシウム粒子およびポリテトラフルオロエチレン粒子からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0032】
安定化剤の大きさは、安定化剤のエポキシモノマーの液滴表面の配置形態や液滴量によって適宜選択できる。安定化剤の最大長が液滴の直径と実質的に同等であることが好ましい。これにより、熱力学的に不安定ではあるが速度論的に安定な四面体、五面体、立方体等の多面体構造を有するリキッドマーブルを形成できる。なお、「安定化剤の最大長」とは、安定化剤の重心を通りかつ安定化剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、「安定化剤の最大長が液滴の直径と実質的に同等である」とは、安定化剤の最大長が液滴の直径に対して±10%以内(好ましくは、±5%以内)であることを意味する。
【0033】
本発明の一実施形態では、多角形状の安定化剤を液滴表面に配置する(実施形態1)。当該実施形態1では、安定化剤の長さ(最大長)は、通常0.1~3mmであり、好ましくは0.2~2.5mmである。また、安定化剤を液滴面に少なくとも部分的に接触するように配置する。これにより、リキッドマーブルは液滴を適切に収容し(エポキシモノマーの漏れを低減または防止し)、リキッドマーブルがエポキシモノマー重合用の反応容器として適切に使用できる。
【0034】
液滴に配置する安定化剤の配置数は、安定化剤のエポキシモノマーの液滴表面の配置形態によって適宜選択できる。
【0035】
例えば、実施形態1において、多角形状の安定化剤を、適当な治具(例えば、チップ)を用いて液滴表面に吸着させる。このように多角形状の安定化剤を液滴面に配置する場合には、液滴に配置する安定化剤の数は、通常1~50、より好ましくは5~10、特に好ましくは5または6である。これにより、次工程でアミン化合物ガスに直接に曝される気液界面の表面積が十分小さく、液滴がLM外に漏れ出す確率を低く抑えられる。すなわち、本発明の一実施形態では、1~50個の多角形状の安定化剤をエポキシモノマーの液滴表面に配置する。本発明の好ましい実施形態では、5~10個の多角形状の安定化剤をエポキシモノマーの液滴表面に配置する。本発明の特に好ましい実施形態では、5または6個の多角形状の安定化剤をエポキシモノマーの液滴表面に配置する。
【0036】
本発明の一実施形態では、粒状の安定化剤を液滴表面に配置する(実施形態2)。当該実施形態2では、安定化剤の数平均粒子径(直径)は、通常10nm以上200μm未満であり、好ましくは20nm以上50μm以下であり、より好ましくは50nm以上30μm以下であり、さらに好ましくは100nmを超え20μm未満である。微粒子の数平均粒子径が上記範囲内であると、安定化剤が液滴に安定して配置できる。また、安定化剤が液滴面全体を(隙間なくまたは小さい隙間のみで)被覆するように配置できる。これにより、リキッドマーブルは液滴を適切に収容し(エポキシモノマーの漏れを低減または防止し)、リキッドマーブルがエポキシモノマー重合用の反応容器として適切に使用できる。ここで、安定化剤の数平均粒子径(直径)は、電子顕微鏡写真下で300個の粒子の粒子径を測定し、個数基準の平均粒子径(算術平均径)として求められる。
【0037】
液滴に配置する安定化剤の配置数は、安定化剤のエポキシモノマーの液滴表面の配置形態によって適宜選択できる。
【0038】
例えば、実施形態2において、粒状の安定化剤を液滴表面に配置する場合には、粒状の安定化剤が実質的に液滴表面全体を覆うように、安定化剤を液滴表面に配置することが好ましい。これにより、次工程でアミン化合物ガスに直接に曝される気液界面の表面積が十分小さく、液滴がLM外に漏れ出す確率を低く抑えられる。ここで、「粒状の安定化剤が実質的に液滴表面全体を覆う」とは、粒状の安定化剤が液滴の表面積の80%以上(上限:100%)の割合(被覆率)で液滴表面を覆うことを意図し、好ましくは粒状の安定化剤が液滴の表面積の90%以上(上限:100%)の割合(被覆率)で液滴表面を覆い、より好ましくは粒状の安定化剤が液滴の表面積の95%以上(上限:100%)の割合(被覆率)で液滴表面を覆う。すなわち、本発明の一実施形態では、粒状の安定化剤を液滴の表面積の80%以上(上限:100%)の割合(被覆率)でエポキシモノマーの液滴表面を覆うように配置する。本発明の好ましい実施形態では、粒状の安定化剤を液滴の表面積の90%以上(上限:100%)の割合(被覆率)でエポキシモノマーの液滴表面を覆うように配置する。本発明のより好ましい実施形態では、粒状の安定化剤を液滴の表面積の95%以上(上限:100%)の割合(被覆率)でエポキシモノマーの液滴表面を覆うように配置する。このような配置は、例えば、基板または安定化剤にエポキシモノマーを滴下して液滴を形成し、この液滴表面に安定化剤を添加した後、基板または安定化剤を地面と平行な面内で振動させることで液滴を転がすことによって、または適当な治具(例えば、薬さじ)を用いて液滴を転がして、液滴全表面に安定化剤を吸着させるとによって、達成することができる。または、粒状の安定化剤を、例えば、10nm以上500μm以下、好ましくは100nm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上200μm以下程度の平均厚みになるように、液滴表面に配置されてもよい。
【0039】
本明細書において、上記安定化剤が液滴表面を覆う割合(被覆率)は、下記方法によって算出される。まず、液滴の直径(2r(mm))を顕微鏡により測定し、これから液滴の投影面積(ST(mm2)=πr2)を算出する。次に、液滴表面に安定化剤を配置する。このように安定化剤が配置された液滴の上面および側面を二値化処理し、安定化剤が観察される平均面積(SD(mm2))を測定する。上記操作を30個の液滴について行い、ST(mm2)およびSD(mm2)の平均値を求める[それぞれ、STave(mm2)およびSDave(mm2)]。SDave(mm2)をSTave(mm2)で除した割合(%)(=SDave(mm2)×100/STave(mm2))を上記被覆率(%)とする。
【0040】
特に粒状の安定化剤を液滴表面に配置する場合には、粒状の安定化剤は、好ましくは500μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆うよう配置され、より好ましくは100μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆うよう配置され、さらに好ましくは5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆うよう配置される。
【0041】
上記安定化剤は、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。安定化剤は、合成してもよいし市販品を用いてもよい。また、安定化剤は、疎液化(疎水化)処理された市販品を使用してもよい。市販品の例としては、島金属箔粉工業(株)製のPET Plate;Momentive Performance Materials製のシリコーン粒子 トスパールシリーズ(例えば、トスパール2000B、トスパール1110A、トスパール145A、トスパール150KA);白石工業(株)製の表面疎水化炭酸カルシウム粒子;Sigma-Aldrich製のポリ(テトラフルオロエチレン)粒子;シリカ粒子(日本アエロジル(株)製のRX-300、RY-300)などがある。
【0042】
このようにして、エポキシモノマーの液滴表面に安定化剤が配置されて、リキッドマーブル(LM)が形成される。この際、安定化剤の配置によって、リキッドマーブル内のエポキシモノマー液滴の形状を制御できる。
【0043】
疎液的表面を有する固体粒子が液滴表面に吸着し、大気中で安定化された液滴はリキッドマーブル(liquid marble)(LM)と呼ばれる(P.Aussilious, D.Quere, Nature. 411, 924 (2001))。LMは安定化剤(例えば、固体粒子)により覆われているため、液体を固体のように取り扱うことができる。また、外部応力の印加により崩壊させ、内部液を放出させることも可能である。最近では、LMは微小反応容器(J. Tian, T. Arbatan, X. Li, W. Shen, Chem. Comm. 46, 4734 (2010))、ガスセンサー(T. Arbatan, L. Li, J. Tian, W. Shen. Adv. Healthcare Mater. 1, 80 (2012))、物質運搬キャリアー(D. Dupin, S. P. Armes, S. Fujii. J. Am. Chem. Soc. 131, 5386 (2009))として利用可能であることから関心が高まっている。これまでにシリカ粒子(X. Li and J. Shen, Chem. Commum. 47, 10761 (2011))、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子(A. Tosun, H. Y. Erbil, Applied Surface Sci. 256, 1278 (2009))、ポリスチレン粒子(D. Dupin, S. P. Armes, S. Fujii. J. Am. Chem. Soc. 131, 5386 (2009))などがLM安定化剤として利用されている。安定化剤の形状は、球形、不定形である場合がほとんどであり、また、それらの凝集体が不定形な安定化剤として液滴表面に吸着していることが多い。また、作製されるLMは、球状または扁球状であることが多い。安定化剤の形状、サイズとLMの形成性、形状の相関関係、さらにはエポキシモノマーの性状(SP値)と重合効率との相関関係の解明は、LMの物性理解および機能化を目指す上で重要であるが、これまでほとんど検討されてこなかった。このような背景のもと、本願発明では、下記実施例に記載されるように、例えば、ミリメートルサイズの六角形形状を有するポリエチレンテレフタレート(PET)プレートを安定化剤として用いることで、安定化剤の形状、サイズと、LMの形成性、形状の相関関係を検討した。その結果、特定値より大きなSP値を有するエポキシモノマー使用することが重合進行の観点で重要であることを見出した。また、PETプレートの対角の長さ(最大長)と内部液(液滴)の直径比がほぼ同程度である場合は、熱力学的に不安定ではあるが速度論的に安定な四面体、五面体、立方体等の多面体構造を有するLMが形成することを明らかにした(F. Geyer, Y. Asaumi, D. Vollmer, H.-J. Butt, Y. Nakamura, S. Fujii, Adv. Funct. Mater. 29, 1808826 (2019);J. Fujiwara, F. Geyer, H. -J. Butt, T. Hirai, Y. Nakamura, S. Fujii, Adv. Mater. Interfaces. 7, 2001573 (2020))。ところで、熱力学的に不安定な球状以外の異形の構造体は光散乱やレオロジー特性などの点において、球状粒子とは異なる形状由来の物性を発現することから近年注目され盛んに研究が行われている。しかし、その合成法は煩雑である場合がほとんどであり、簡便かつ環境に優しい合成法の開発が望まれている。このような背景をかんがみ、本発明では、LMを用いた異形の構造体の合成を試みた。具体的には、まず、ミリメートルサイズの六角形形状を有するPET plateを安定化剤として用い、エポキシモノマーを内部液とする立方体LMの作製を試みた。次いで、作製したLMをNH3蒸気下で静置し、LM内で重合反応させることで異形の構造体の創出に成功した。
【0044】
(アミン化合物ガスの存在下で、リキッドマーブル中でエポキシモノマーを重合する工程)
本工程では、アミン化合物ガスの存在下で、上記で作製されたリキッドマーブル中でエポキシモノマーを重合する。ここでは、リキッドマーブルがエポキシモノマー重合用の反応容器と作用して、リキッドマーブル内部が重合(硬化)反応実施の場として利用できる。また、本工程によれば、硬化剤として機能するアミン化合物ガスをリキッドマーブルに吸収させることにより、重合反応が開始・進行する。上記(リキッドマーブルを形成する工程)にて記載したように、安定化剤の配置によって、リキッドマーブル内のエポキシモノマー液滴の形状を制御できる。このため、本工程での重合(硬化)反応によって得られる構造体の形状は、自由に設計することが可能である。また、安定化剤の素材を変えることによって、構造体の表面化学を制御することも可能である。加えて、本工程によると、従来必要とされる溶媒を必要としない(無溶媒下での重合が可能である)。このため、重合の後の乾燥が不要であり、廃液処理問題も生じない。また、攪拌など、別途の設備を必要としない。
【0045】
アミン化合物は、例えば、式(1):NH(R1)(R2)で表される化合物である。この場合には、アミン化合物の窒素原子に直接結合する水素原子がエポキシモノマーのエポキシ基と反応して、式(2):-CH2-CH(OH)-CH2-N(R3)-(式(2)中、R3は、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基または-CH2-CH(OH)-CH2-である)で表される構造を有するポリマーが形成される。上記式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基である。ここで、R1およびR2は、同じであってもまたは相互に異なるものであってもよい。炭素原子数1~8のアルキル基は、炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。これらのうち、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~3のアルキル基であることが好ましく、水素原子である(即ち、アミン化合物がNH3である)ことがより好ましい。
【0046】
アミン化合物の量は、エポキシモノマー(液滴体積)に対して、例えば、0.1~500体積倍、好ましくは1~300体積倍、より好ましくは50~150体積倍である。このような量のアミン化合物の存在下であれば、エポキシモノマーを十分重合できる。すなわち、本発明の一実施形態では、アミン化合物を、エポキシモノマー(液滴体積)に対して、0.1~500体積倍の割合で存在させる。本発明の好ましい実施形態では、アミン化合物を、エポキシモノマー(液滴体積)に対して、1~300体積倍の割合で存在させる。本発明のより好ましい実施形態では、アミン化合物を、エポキシモノマー(液滴体積)に対して、50~150体積倍の割合で存在させる。
【0047】
ガス化させる前のアミン化合物は、気体として、溶液の形態で、または固体の形態で、使用されてもよい。取り扱いやすさなどの観点から、溶液形態で使用されることが好ましい。アミン化合物を溶液形態で使用する場合に使用できる溶媒は、アミン化合物を溶解できる溶媒から適切に選択できる。例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール、イオン性液体などが使用できる。また、アミン化合物を溶液形態で使用する場合の、アミン化合物溶液中のアミン化合物の濃度は、例えば、10~100(v/v%)、好ましくは25.0~35.0(v/v%)である。
【0048】
アミン化合物ガスの存在下でのエポキシモノマーの重合方法は、特に限定されない。本発明の一実施形態では、リキッドマーブルの設置部材が中央付近に設けられた反応容器を準備し、リキッドマーブルを上記設置部材に載置し、アミン化合物(好ましくは、溶液形態のアミン化合物)を上記設置部材とは別の場所(例えば、設置部材の下部)に置き、反応容器を密閉した後、重合する方法が使用できる。本発明の一実施形態では、リキッドマーブルを容器内に設置し、アミン化合物ガスを容器内に通気させて、重合する方法が使用できる。本発明の一実施形態では、リキッドマーブルをアミン溶液に導入して、重合する方法が使用できる。
【0049】
アミン化合物ガスの存在下でのエポキシモノマーの重合条件は、特に制限されない。重合温度は、例えば、0~100℃であり、好ましくは5~90℃であり、より好ましくは50℃を超え70℃未満である。また、重合時間は、例えば、0.1~100時間であり、好ましくは24~70時間であり、より好ましくは40時間を超え60時間未満である。このような条件であれば、アミン化合物を蒸発させてガス形態にし、エポキシモノマーを十分重合できる。または、重合時間を短く設定することによって、液滴表面で重合を選択的に進行させててもよい(エポキシモノマー部分重合物)。これにより、液滴表面のみが固体となり内部は液状のエポキシモノマーを含むカプセル形態の構造体が作製できる。
【0050】
このようにして、リキッドマーブルを反応容器として、その中のエポキシモノマーが重合され、エポキシ系構造体が作製できる。重合後に、安定化剤を構造体から取り除いて、重合物を使用してもよい。または、得られた構造体(リキッドマーブルおよびエポキシモノマー重合物との組み合わせ)を使用してもよい。後者の場合には、特に安定化剤が粒状(粉末状)である場合には、得られる構造体は、エポキシモノマー重合物(またはエポキシモノマー部分重合物)をコアとして、粒状(粉末状)の安定化剤をシェルとして含有する、コアシェル構造を有することができる。すなわち、本発明の方法によると、コアシェル構造物を、簡便な方法で、溶媒を使用することなく、作製できる。
【0051】
本発明の方法によると、アミン化合物ガスの存在下でエポキシモノマーを重合するが、この際、エポキシ基が開環してアミン化合物と反応する。このため、得られる重合物は、-CH2-CH(OH)-CH2-N(R3)-の構造を有する。また、上述したように、本発明の方法で得られる構造体は、コアシェル構造をとり得る。したがって、本発明の第二の態様によると、式(2):-CH2-CH(OH)-CH2-N(R3)-(式(2)中、R3は、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基または-CH2-CH(OH)-CH2-である)で表される構造を有するポリマーを含有するコアと、前記コアを被覆するシェルとで構成されるコアシェル構造体が提供される。上記式(2)において、R3は、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基である。ここで、R3としての炭素原子数1~8のアルキル基は、上記式(1)中のR1およびR2と同様であるため、ここでは説明を省略する。R3は、水素原子または炭素原子数1~3のアルキル基または-CH2-CH(OH)-CH2-であることが好ましく、水素原子または-CH2-CH(OH)-CH2-であることがより好ましい。
【0052】
コアを形成するポリマーが上記式(2)の構造をとることは、FT-IR法等の公知の分析手段によって確認できる。
【0053】
コアシェル構造体は、本発明の方法によって製造され得る。すなわち、本発明の一実施形態では、コアシェル構造体は、本発明に係る方法によって製造される。
【0054】
本態様において、コアシェル構造体は、いずれの形状をとり得る。本発明の一実施形態では、コアは、リキッドマーブル内のエポキシモノマーの液滴と同様の形状を有する。例えば、コアが球状(粉末状)であり、粒状(粉末状)のシェルがコアを被覆する(実施形態A)。当該実施形態Aにおいて、コアシェル構造体の最大粒子径は、取扱性の観点から、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは500μm以上であり、特に好ましくは1mm以上である。また、コアシェル構造体の最大粒子径は、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは30mm以下であり、さらに好ましくは20mm以下であり、特に好ましくは5mm以下である。本発明の一実施形態では、コアシェル構造体の最大粒子径は、20μm以上50mm以下である。本発明の一実施形態では、コアシェル構造体の最大粒子径は、50μm以上30mm以下である。本発明の一実施形態では、コアシェル構造体の最大粒子径は、500μm以上20mm以下である。本発明の一実施形態では、コアシェル構造体の最大粒子径は、1mm以上5mm以下である。ここで、「最大粒子径」とは、コアシェル構造体の最大の粒子径を意味するものであり、顕微鏡観察、ものさしまたはノギスによって測定される値である。顕微鏡で測定する場合は、円相当径を粒子径とし、顕微鏡観察によって得られた画像を、デジタルマイクロスコープのソフトウェアなどにより解析することによって測定できる。
【0055】
実施形態Aにおいて、コアシェル構造体の数平均粒子径は、大気圧中におけるコアシェル構造体の安定性の観点から、好ましくは20μm以上50mm以下であり、より好ましくは50μm以上50mm以下であり、さらに好ましくは500μm以上40mm以下であり、特に好ましくは800μm以上30mm以下である。数平均粒子径は、例えば、顕微鏡法による円相当径によって求められるものであり、顕微鏡観察によって得られた画像を、デジタルマイクロスコープのソフトウェアなどにより解析することによって測定できる。デジタルマイクロスコープのソフトウェアの例としては、例えば、Motic Images Plus 2.2s((株)島津理化製)がある。顕微鏡としては、電子顕微鏡又は光学顕微鏡などが挙げられるが、使用する固形粒子によって適宜選択すればよい。観察する際の倍率は、使用する固形粒子の粒子径により、適宜選択すればよい。
【0056】
顕微鏡観察によって数平均粒子径を測定する場合、複数個のコアシェル構造体が含まれる顕微鏡観察画像を複数撮像し、得られた複数の画像からランダムに50個のコアシェル構造体を選択してこれらの粒子径を測定したときの、当該50個の粒子径の平均値を数平均粒子径とする。すべてのコアシェル構造体の粒子径が100μm以上と比較的大きい場合、コアシェル構造体の粒子径は、ものさしを用いて測定することもできる。この場合、ランダムに50個のコアシェル構造体を選択し、ものさしでこれらの粒子径を測定したときの、当該50個の粒子径の平均値を数平均粒子径とする。
【0057】
実施形態Aにおいて、コアシェル構造体(1つのコアシェル構造体)の体積は、取扱性の観点から、好ましくは4fL以上6mL以下であり、より好ましくは16μL以上6mL以下である。コアシェル構造体の体積は、さらに好ましくは40μL以上であり、特に好ましくは60μL以上である。また、コアシェル構造体の体積は、さらに好ましくは4mL以下であり、特に好ましくは3mL以下である。
【0058】
実施形態Aにおいて、シェルは、上記第一の態様における安定化剤であり得る。この際のシェルを構成する安定化剤は、球形、球形様、粒状(粉末状)であることが好ましい。また、シェルを構成する材料は、例えば、安定化剤の項で規定したものと同様の材料が使用される。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、シェルは、疎液化処理ポリエチレンテレフタレート粒子、シリコーン樹脂粒子、疎液化処理炭酸カルシウム粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子、および疎液化処理シリカ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0059】
実施形態Aにおいて、シェルの平均厚さは、好ましくは10nm以上500μm以下であり、より好ましくは100nm以上500μm以下である。ここで、シェルの平均厚さは、電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡)による観察によって測定することができる。より具体的には、シェルの平均厚さは、コアシェル粒子の断面を電子顕微鏡で観察し、ランダムに選択した10か所についてシェルの厚みを測定する。シェルの平均厚みとは、当該10個の測定値の平均値である。
【実施例0060】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0061】
[各物性の測定・評価]
物性は、下記方法に従って、測定する。
【0062】
(エポキシモノマーのSP値の測定)
エポキシモノマーのSP値[(MPa)1/2]は、Fedorsの方法を用いて算出する。具体的には、エポキシモノマーの化学構造を適当な原子、あるいは原子団に分割し、それらの蒸発エネルギー(モル蒸発熱) Δetと25℃におけるモル体積 Δvtから以下の式よりδ値[(cal/cm3)1/2]を推算する(R. F. Fedors, Polym. Eng. Sci. 14, 147 (1974)参照)。
【0063】
【0064】
また、上記にて推算されたδ値(cal/cm3)1/2から2.045倍することで、SP値[(MPa)1/2]へと単位変換する。
【0065】
(接触角の測定)
接触角計(SImage 02V, 14326, (株)エキシマ)を用いて、基板(PET filmまたはPET plate)上におけるエポキシモノマーの接触角を測定する。具体的には、5μLのエポキシモノマー液滴を基板(PET filmまたはPET plate)の中心に滴下し、30秒静置した後、水平方向からその様子を撮影する。θ/2法により接触角を求める。
【0066】
(LMおよび構造体の観察)
乾燥後のPET plateを実体顕微鏡(STZ-161-TLED-1080M, (株)島津理化)により観察する。LMおよび構造体は、デジタルカメラ(STYLUSTG-4, (株)OLYMPUS)および実体顕微鏡(STZ-161-TLED-1080M, (株)島津理化)により観察する。
【0067】
[各成分の詳細]
本例では、下記成分を準備した:
・エポキシモノマー
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(Polyglycerol polyglycidyl ether)(EX-512) (assay: 99 v/v%, NCX)(ナガセケムテックス(株)、デナコール(登録商標) EX-512)
ジグリセロールポリグリシジルエーテル(diglycerol polyglycidyl ether)(EX-421) (assay: 99 v/v%, NCX)(ナガセケムテックス(株)、デナコール(登録商標) EX-421)
イソソルビドジグリシジルエーテル(isosorbide diglycidyl ether)(GSR-101) (assay: 99 v/v%, NCX)
エチレングリコールジグリシジルエーテル(ethylene glycol diglycidyl ether)(EX-810) (assay: 99 v/v%, NCX)(ナガセケムテックス(株)、デナコール(登録商標) EX-810)
1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(1,4-cyclohexanedimethanol diglycidyl ether)(EX-216L) (assay: 99 v/v%, NCX)(ナガセケムテックス(株)、デナコール(登録商標) EX-216L)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(polyethylene glycol diglycidyl ether)(EX-841) (assay: 99 v/v%, NCX))(ナガセケムテックス(株)、デナコール(登録商標) EX-841)
なお、上記エポキシモノマーは、それぞれ、下記表1に示される構造およびSP値を有する。
【0068】
【0069】
・安定化剤
六角形のPETプレート(PET plate)(島金属箔粉工業(株)、対角線の長さ=2.0mm)(疎液化処理前)
シリコーン樹脂粒子(トスパール粒子)(トスパール 1110A、平均粒子径=11μm、Momentive Performance Materials)(水に対する接触角=90°以上)
表面疎水化炭酸カルシウム粒子(10-CaCO3粒子)(平均粒子径=10μm、ステアリン酸で疎水化、白石工業(株))(水に対する接触角=90°以上)
ポリ(テトラフルオロエチレン)粒子(PTFE粒子)(平均粒子径=1μm、430935-5G, Sigma-Aldrich)(水に対する接触角=90°以上)
表面疎水化炭酸カルシウム粒子(300-CaCO3粒子)(平均粒子径=300nm、ステアリン酸で疎水化、白石工業(株))(水に対する接触角=90°以上)
・基板
PET film(ルミラー38S10、パナック(株))(接触角測定用)
・溶媒(PET plate及びPET filmの洗浄・表面疎液化処理用)
エタノール(assay: 94.8-95.8 v/v%, SIGMA-ALDRICH
(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)トリクロロシラン(trichloro(1H, 1H, 2H, 2H, heptadecafluorodecyl) silane)(富士フイルム和光純薬(株))
n-ヘキサン(assay: 96.0 v/v%、富士フイルム和光純薬(株))
・アミン化合物
NH3水(assay (NH3): 28.0-30.0 v/v%、富士フイルム和光純薬(株))。
【0070】
実施例1
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
六角形状のPETプレートを、電子天秤(Analytical Balance, AL204, METTLER TOLEDO)で50g量り、450mLのマヨネーズ瓶に入れた。これに、エタノールを340mL導入し、5分間ハンドシェイクを行った。その後、卓上型超音波洗浄機(BRANSONIC series M2800-J ブランソン事業部、日本エマソン(株))を用いて、15分間超音波処理を行い、上澄み液を捨てた。上記エタノール導入および超音波処理・上澄み除去操作を、上澄み液が透明になるまで計3回行い、PETプレートを洗浄した。洗浄後のPETプレートをドラフト内に1週間静置し、乾燥を行った。その後、完全に媒体(エタノール)を除去するため、凍結乾燥機(FDU-1200、東京理科器械(株))を用いて1日減圧乾燥を行った。
【0071】
別途、PETフィルム(ルミラー38S10、パナック(株))についても、上記と同様の操作により、洗浄を行った。
【0072】
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
以下に従い、PETプレートの疎液化処理を行った。50mLのサンプル管をn-ヘキサンで3回洗浄・乾燥した。この50mLのサンプル管に、上記1.で洗浄されたPETプレート 10gおよびn-ヘキサン 40mLを導入した。窒素雰囲気下で、40μLの(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)トリクロロシラン(疎液化処理剤)を上記サンプル管に導入し、ハンドシェイクを行った。5分おきにハンドシェイクを行い、30分間反応させた。上澄み液を取り除き、40mLのn-ヘキサンでPETプレートを計3回洗浄した後、ドラフト内に1週間静置し、乾燥を行った。次いで、凍結乾燥機(FDU-1200、東京理科器械(株))を用いて乾燥を1日行った。これにより、安定化剤1を作製した。
【0073】
別途、上記1.で作製したPETフィルムについても、上記と同様の操作により、疎液化処理を行った。
【0074】
PETプレート(疎液化処理前のPETプレート)および安定化剤1(疎液化処理後のPETプレート)を実体顕微鏡により観察し、結果を
図1および下記表2に示す。
図1および表2に示されるように、PETプレート(疎液化処理前のPETプレート)はS=1.2±0.1mm、T(thickness)=37.8±8.8μmであり、安定化剤1(疎液化処理後のPETプレート)はS=1.2±0.1mm、T(thickness)=40.0±9.3μmであり、疎液化処理前後でPETプレートに大きな変化は見られなかった。
【0075】
【0076】
3.リキッドマーブルの作製
以下のようにして、リキッドマーブルを合成した。
【0077】
【0078】
10μLのエポキシモノマー(EX-216L)を、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、5枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、立方体形状のリキッドマーブル1(LM1)を作製した。LM1は、10μLのエポキシモノマーの液滴表面に計6枚の安定化剤1が吸着した構造を有していた。また、LM1を、室温、大気圧下で一週間静置し、1、2、4、8、24、48、168時間静置した際のLM1を撮影し、
図4の「立方体LM」の欄に示す。
図4から、LM1は、内部液の漏出がない状態で、室温、大気圧下で一週間(168時間)安定に存在していたことが示される。
【0079】
4.エポキシ系構造体の製造
図3に示されるように、50mLのマヨネーズ瓶1の外側側面に2本の50mLサンプル管をセロハンテープ(図示せず)で張り付けることで、反応中にマヨネーズ瓶1が転がらないよう工夫した。高撥水性印刷スライドグラス2(THO215、MATSUNAMI)上にLM1(図中の「LM」)を乗せ、マヨネーズ瓶1に導入した。マヨネーズ瓶1の底に3mLのNH
3水(図中の「NH
3 aq.」)を導入し、内蓋と外蓋を取り付け、PTFEシール(FH014、AS ONE)およびパラフィン紙(図中の「3」)を巻き付けることで重合装置の密閉を行った。この重合装置を60℃の自然対流乾燥機(ONW-450、AS ONE)内に、1、2、4、8、24、48、168時間静置して、NH
3蒸気下で重合を行い、構造体1を作製した。得られた構造体1は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-(上記式(2)中の、R
3=水素原子;以下、同様)または下記構造(上記式(2)中の、R
3=-CH
2-CH(OH)-CH
2-;以下、同様)を有すると考察される。
【0080】
【0081】
1、2、4、8、24、48、168時間重合後の構造体1を撮影し、
図4の「構造体」の欄に示す。
図4から、EX-216Lを内部液とするLM1を60℃、NH
3蒸気下に8、24、48、168時間静置することにより、重合反応が進行し、構造体が生成したことが示される。
【0082】
実施例2~6
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0083】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー(EX-512(実施例2)、EX-421(実施例3)、GSR-101(実施例4)、EX-810(実施例5)およびEX-216L(実施例6))を、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、5枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、立方体形状のリキッドマーブル2~6(LM2~6)を作製した(
図2および
図5中の「立方体LM」の欄)。LM2~6は、
図2および
図5に示されるように、10μLのエポキシモノマーの液滴表面に計6枚の安定化剤1が吸着した構造を有していた。また、LM2~6を、室温、大気圧下で一週間静置して各LMを観察したところ、LM2~6は、内部液の漏出がない状態で、室温、大気圧下で一週間安定に存在していたこと確認した。
【0084】
4.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記3.で作製したLM2~6をそれぞれ使用し、60℃、NH
3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体2~6を作製した(
図5中の「構造体」の欄)。得られた構造体2~6は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0085】
【0086】
各エポキシモノマーを内部液とするLM2~6および構造体2~6を
図5に示す。
図5中、左側の図が各LMの側面(Side)および上面(Top)を示し、右側の図が各構造体の側面(Side)、上面(Top)および下面(Bottom)を示す。また、左側に各エポキシモノマーを示す。例えば、
図5の一番上の「EX-512」は、エポキシモノマーEX-512を内部液とするLM2および構造体2の写真である。
図5に示されるように、LM2~6は、安定化剤が液滴を良好に保持していた。また、EX-512(実施例2)、EX-421(実施例3)、GSR-101(実施例4)(SP値:23.70~21.66(MPa)
1/2)の系は、内部液が全く漏出せずに良好に重合反応が進行し、立方体形状の構造体が作製できた。また、EX-810(実施例5)、EX-216L(実施例6)(SP値:19.62~19.33(MPa)
1/2)の系は、少量の内部液がLM底面の縁から漏出した場合があるものの、立方体構造は維持して、立方体形状の構造体を作製できた。
【0087】
実施例7
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0088】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー(EX-841)を、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、5枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、立方体形状のリキッドマーブル7(LM7)を作製した(
図2)。LM7は、
図2に示されるように、10μLのエポキシモノマーの液滴表面に計6枚の安定化剤1が吸着した構造を有していた。また、LM7を、室温、大気圧下で一週間静置して各LMを観察したところ、LM7は、内部液の漏出がない状態で、室温、大気圧下で一週間安定に存在していたこと確認した。
【0089】
4.エポキシ系構造体の製造
図3に示されるように、50mLのマヨネーズ瓶1の外側側面に2本の50mLサンプル管をセロハンテープ(図示せず)で張り付けることで、反応中にマヨネーズ瓶1が転がらないよう工夫した。高撥水性印刷スライドグラス2(THO215、MATSUNAMI)上にLM7(図中の「LM」)を乗せ、マヨネーズ瓶1に導入した。マヨネーズ瓶1の底に0.1mLmLのNH
3水(図中の「NH
3 aq.」)を導入し、内蓋と外蓋を取り付け、PTFEシール(FH014、AS ONE)およびパラフィン紙(図中の「3」)を巻き付けることで重合装置の密閉を行った。この重合装置を60℃の自然対流乾燥機(ONW-450、AS ONE)内に48時間静置して、NH
3蒸気下で重合を行い、構造体7を作製した。本例では、重合反応は進行したが、重合率(硬化の度合)は、実施例1~6に比べると、低かった。
【0090】
得られた構造体7は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0091】
【0092】
実施例8
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0093】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー EX-216Lを、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下して、リキッドマーブル8(LM8)を作製した(
図6の「立方体LM」の欄)。
【0094】
4.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記3.で作製したLM8を使用し、60℃、NH
3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体8を作製した(
図6の「構造体」の欄)。得られた構造体8は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0095】
【0096】
実施例9
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0097】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー EX-216Lを、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、1枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、サンドイッチ型のリキッドマーブル9(LM9)を作製した(
図6の「立方体LM」の欄)。
【0098】
4.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記3.で作製したLM9を使用し、60℃、NH
3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体9を作製した(
図6の「構造体」の欄)。得られた構造体9は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0099】
【0100】
実施例10
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0101】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー EX-216Lを、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、3面体となるように2枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、3面体のリキッドマーブル10(LM10)を作製した(
図6の「立方体LM」の欄)。
【0102】
4.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記3.で作製したLM10を使用し、60℃、NH
3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体10を作製した(
図6の「構造体」の欄)。得られた構造体10は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0103】
【0104】
実施例11
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0105】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー EX-216Lを、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、4面体となるように3枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、4面体のリキッドマーブル11(LM11)を作製した(
図6の「立方体LM」の欄)。
【0106】
4.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記3.で作製したLM11を使用し、60℃、NH
3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体11を作製した(
図6の「構造体」の欄)。得られた構造体11は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0107】
【0108】
実施例12
1.PETプレートおよびPETフィルムの洗浄
2.PETプレートおよびPETフィルムの表面疎液化処理
実施例1と同様にして、安定化剤1を作製した。
【0109】
3.リキッドマーブルの作製
10μLのエポキシモノマー EX-216Lを、マイクロピペットを用いて、1枚の上記2.で作製した安定化剤1上に滴下した。滴下後の液滴表面に、5面体となるように4枚の安定化剤1をチップで吸着させた。これにより、5面体のリキッドマーブル12(LM12)を作製した(
図6の「立方体LM」の欄)。
【0110】
4.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記3.で作製したLM12を使用し、60℃、NH
3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体12を作製した(
図6の「構造体」の欄)。得られた構造体12は、化学反応を考慮すると、-CH
2-CH(OH)-CH
2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0111】
【0112】
LM8~12および構造体8~12を
図6に示す。
図6中、左側の図が各実施例におけるLMの側面(Side)および上面(Top)を示し、右側の図が各実施例における構造体の側面(Side)、上面(Top)および下面(Bottom)を示す。また、例えば、
図6の一番上は、実施例8の安定化剤を1枚使用したLM8および構造体8の写真である。
図6に示されるように、本発明の方法によると、安定化剤の配置により、様々な形状を有する異形の構造体を作製できる。なお、実施例9~11では、各LMが反応途中で崩壊し、LMの下部にある基板(安定化剤1)に内部液が濡れ広がった状態で固化したことが確認された。これに対して、実施例12では、LM12の底面から内部液が一部漏出したものの、5面体の構造体の作製に成功した。この理由は明らかではないが、実施例12では、直接NH
3蒸気に曝される気液界面の表面積が、実施例9~11と比べ小さく、内部液がLM外に漏れ出す確率が低いことが原因の一つだと推測される。
【0113】
参考例1
実施例1と同様にして、PETフィルムの疎液化処理を行い、疎液化処理PETフィルムを作製した。
【0114】
5μLの下記表3に示されるエポキシモノマー(EX-512、EX-421、GSR-101、EX-810、EX-216L、EX-841)を、マイクロピペットを用いて、疎液化処理前のPETフィルム(未処理のPETフィルム)および上記疎液化処理PETフィルムにそれぞれ滴下した。疎液化処理前後のPETフィルム上における各エポキシモノマーの接触角(n=3)を測定し、結果を表3に示す。表3中、疎液化処理前のPETフィルムでの結果を「処理前(PET film)」と記載する。疎液化処理後のPETフィルムでの結果を「処理後(PET-FSCA)」と記載する。表3から、接触角は、疎液化処理により20.4±1.3°(EX-512)、23.0±0.5°(EX-421)、21.7±1.9°(GSR-101)、7.0±2.4°(EX-810)、7.3±0.5°(EX-216L)、および10.5±0.7°(EX-841)から、それぞれ、94.3±3.9°(EX-512)、101.7±2.4°(EX-421)、106.1±6.0(GSR-101)°、90.3±1.3°(EX-810)、93.1±3.5°(EX-216L)、および97.4±1.4°(EX-841)と増加しており、全ての系で疎液化処理に成功したといえる。
【0115】
次いで、各エポキシモノマーをのせた疎液化処理後のPETフィルムを、60℃、NH3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、重合した。得られたモノマー重合物の接触角を測定し(n=3)、結果(「重合後(PET-FSCA after exposure to NH3 vapor)」)を表3に示す。表3から、重合後、各モノマー重合物の接触角は、85.3±2.7°(EX-512)、89.5±2.5°(EX-421)、90.1±3.6°(GSR-101)、72.8±0.6°(EX-810)、31.6±6.3°(EX-216L)、および41.8±3.3°(EX-841)と測定され(n=3)、全ての系で重合後に接触角が減少したことが確認された。この結果より、内部液が漏出した原因は、PETプレート上におけるエポキシモノマーの接触角の減少にあると考えられる。ここで、重合(反応)後の接触角が85°以上、特に90°に近い系では、構造体の作製に成功し、反応後の接触角が70°程度であると内部液が漏出した構造体が作製されると考えられる。
【0116】
【0117】
参考例2
構造体の作製を試みた際、PETプレートが変色することが確認された。そこで、フリー(未処理)のPETプレートおよびPETフィルムを60℃、NH
3蒸気下に、
図7に示される期間静置したところ、反応時間の経過とともに白く変色し、ピペッターのチップで押さえつけると小片に分解することが確認された(
図7)。この結果から、PETプレートがNH
3蒸気と反応したことが考えられる。アミノ基とPETとが反応することは知られており(Y. Avny, L. Rebenfeld, J. Appl. Polym. Sci. 32, 4009 (1986))、PETにアミノ基が導入されることで親液的表面へ変化したと考えられる。
【0118】
参考例3
参考例2と同様にして、PETフィルムを60℃、NH
3蒸気下に0、1、2、4、8、24及び48時間静置した。このPETフィルムに、エポキシモノマー(EX-512、EX-421、GSR-101、EX-810、EX-216L、EX-841)をそれぞれ5μL滴下し、接触角を測定した(n=3)。結果を
図8に示す。なお、
図7よりNH
3蒸気下に48時間静置した後のPETフィルムは場所によって損傷の度合いが異なることが確認された、
図8は損傷が比較的低い部分に対して取得したデータである。その結果、4~8時間後にほとんどの系で接触角が減少していることが示される。この接触角の減少はPETが親液的表面へと変化したためであると考えられる。
【0119】
さらに、損傷の度合いを区別して測定した各エポキシモノマー(EX-512、EX-421、GSR-101、EX-810、EX-216L、EX-841)の接触角を測定し(n=3)、結果を下記表4に示す。表4から、損傷が小さい部分での接触角は97.9±1.9°(EX-512)、101.1±3.7°(EX-421)、96.3±3.1°(GSR-101)、61.4±1.4°(EX-810)、79.7±2.0°(EX-216L)、87.9±1.9°(EX-841)であり、損傷が大きい部分での接触角は70.7±18.6°(EX-512)、53.0±12.1°(EX-421)、85.4±17.8°(GSR-101)、58.2±17.1°(EX-810)、63.9±11.9°(EX-216L)、68.7±15.6°(EX-841)であり、損傷が大きい部分の方が高親水性であることが確認された。
【0120】
【0121】
実施例13
1.リキッドマーブルの作製
シャーレに、トスパール粒子(安定化剤)を厚さが2mmとなるように広げた。15μLのエポキシモノマー(EX-512)を、マイクロピペット((株)ニチリョー、Michipet)を用いて、シャーレ内のトスパール粒子上に滴下した。滴下した後、シャーレを地面と平行な面内で振動させることで30秒間液滴を転がし、トスパール粒子(安定化剤)をエポキシモノマーの液滴表面に吸着させ、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル13(LM13)を作製した。なお、シャーレの振動だけでは転がらなかった部分に関しては、プラスチック製の薬さじを用いて液滴を転がして、液滴全表面にトスパール粒子(安定化剤)を吸着させて、LM13を作製した。LM13は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM13は、安定化剤が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0122】
2.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記で作製したLM13を使用し、60℃、NH3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体13を作製した。得られた構造体13は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0123】
【0124】
実施例14
1.リキッドマーブルの作製
ガラス製のシャーレに、10-CaCO3粒子(安定化剤)を厚さが2μmとなるように広げた。15μLのエポキシモノマー(EX-512)を、マイクロピペット((株)ニチリョー、Michipet)を用いて、シャーレ内の10-CaCO3粒子上に滴下した。滴下した後、シャーレを地面と平行な面内で振動させることで30秒間液滴を転がし、10-CaCO3粒子(安定化剤)をエポキシモノマーの液滴表面に吸着させ、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル14(LM14)を作製した。なお、シャーレの振動だけでは転がらなかった部分に関しては、プラスチック製の薬さじを用いて液滴を転がして、液滴全表面に10-CaCO3粒子(安定化剤)を吸着させて、LM14を作製した。LM14は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM14は、安定化剤が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0125】
2.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記で作製したLM14を使用し、60℃、NH3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体14を作製した。得られた構造体14は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0126】
【0127】
実施例15
実施例14において、10-CaCO3粒子の代わりにPTFE粒子(安定化剤)を使用する以外は、実施例14と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル15(LM15)および構造体15を作製した。得られた構造体15は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0128】
【0129】
LM15は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM15は、安定化剤が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0130】
実施例16
実施例14において、10-CaCO3粒子の代わりに300-CaCO3粒子(安定化剤)を使用する以外は、実施例14と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル16(LM16)および構造体16を作製した。得られた構造体16は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0131】
【0132】
LM16は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM16は、安定化剤が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0133】
各エポキシモノマーを内部液とするLM13~16および構造体13~16を
図9に示す。
図9中、左側の図が各LMの側面(Side)および上面(Top)を示し、右側の図が各構造体の側面(Side)、重合直後の上面(Top Just after polymn.)および重合してから48時間後の上面(Top Left after polymn.)を示す。また、左側に各エポキシモノマーを示す。例えば、
図9の一番上の「トスパール」は、エポキシモノマーEX512およびトスパール(安定化剤)を用いたLM13および構造体13の写真である。
図9に示されるように、LM13~16は、安定化剤が液滴を良好に保持し、内部液が漏出せずに良好に重合反応が進行し、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=5~200μm)を有する構造体が作製できた。
【0134】
実施例17
実施例14において、エポキシモノマーとしてエポキシモノマー(EX-421)を代わりに使用する以外は、実施例14と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル17(LM17)および構造体17を作製した。得られた構造体17は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0135】
【0136】
LM17は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM17は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0137】
実施例18
実施例14において、エポキシモノマーとしてエポキシモノマー(GSR-101)を代わりに使用する以外は、実施例14と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル18(LM18)および構造体18を作製した。得られた構造体18は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0138】
【0139】
LM18は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM18は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0140】
実施例19
実施例14において、エポキシモノマーとしてエポキシモノマー(EX-810)を代わりに使用する以外は、実施例14と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル19(LM19)および構造体19を作製した。得られた構造体19は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0141】
【0142】
LM19は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM19は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0143】
実施例20
実施例14において、エポキシモノマーとしてエポキシモノマー(EX-216L)を代わりに使用する以外は、実施例14と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル20(LM20)および構造体20を作製した。得られた構造体20は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0144】
【0145】
LM20は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM20は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0146】
各エポキシモノマーを内部液とするLM14、17~20および構造体14、17~20を
図10に示す。
図10中、左側の図が各LMの側面(Side)および上面(Top)を示し、右側の図が各構造体の側面(Side)、上面(Top)および下面(Bottom)を示す。また、左側に各エポキシモノマーを示す。例えば、
図10の二番目の「実施例17」は、エポキシモノマーEX-421を内部液とするLM17および構造体17の写真である。
図10に示されるように、LM14、17~20は、安定化剤が液滴を良好に保持していた。また、EX-512(実施例14)、EX-421(実施例17)、GSR-101(実施例18)(SP値:23.70~21.66(MPa)
1/2)の系は、内部液が全く漏出せずに良好に重合反応が進行し、コアシェル構造を有する構造体が作製できた。また、EX-810(実施例19)、EX-216L(実施例20)(SP値:19.62~19.33(MPa)
1/2)の系は、少量の内部液がLM底面の縁から漏出した場合があるものの、立方体構造は維持して、コアシェル構造を有する構造体を作製できた。
【0147】
実施例21
1.リキッドマーブルの作製
ガラス製のシャーレに、15μLのエポキシモノマー(EX-512)を、マイクロピペット((株)ニチリョー、Michipet)を用いて、滴下した。滴下後の液滴表面に、10-CaCO3粒子を添加し、シャーレを地面と平行な面内で振動させることで30秒間液滴を転がし、10-CaCO3粒子(安定化剤)をエポキシモノマーの液滴表面に吸着させ、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル21(LM21)を作製した。なお、シャーレの振動だけでは転がらなかった部分に関しては、プラスチック製の薬さじを用いて液滴表面に安定化剤をふりかけた後液滴を転がすことで、液滴全表面に10-CaCO3粒子(安定化剤)を吸着させた。LM21は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM21は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0148】
2.エポキシ系構造体の製造
実施例1において、LM1の代わりに、上記で作製したLM21を使用し、60℃、NH3蒸気下に48時間静置することで重合を行った以外は、実施例1と同様にして、構造体21を作製した。得られた構造体21は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0149】
【0150】
実施例22
実施例21において、エポキシモノマーとしてエポキシモノマー(EX-421)を代わりに使用する以外は、実施例21と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル22(LM22)および構造体22を作製した。得られた構造体22は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0151】
【0152】
LM22は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM22は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0153】
実施例23
実施例21において、エポキシモノマーとしてエポキシモノマー(GSR-101)を代わりに使用する以外は、実施例21と同様にして、コアシェル構造(粒子径=2~3mm、シェルの厚さ=10~200μm)を有するリキッドマーブル23(LM23)および構造体23を作製した。得られた構造体23は、化学反応を考慮すると、-CH2-CH(OH)-CH2-N(H)-または下記構造を有すると考察される。
【0154】
【0155】
LM23は、安定化剤が液滴の表面積の95%以上の割合で液滴と接していた。また、LM23は、安定化剤(10-CaCO3)が5μm以上の隙間を有することなく液滴表面を覆っていることを確認した。
【0156】
各エポキシモノマーを内部液とするLM21~23ならびに構造体21~23を
図11に示す。
図11中、左側の図が各LMの側面(Side)および上面(Top)を示し、右側の図が各構造体の側面(Side)、上面(Top)および下面(Bottom)を示す。また、左側に各エポキシモノマーを示す。例えば、
図11の一番上の「EX-512」は、エポキシモノマーEX-512を内部液とするLM21および構造体21の写真である。
図11に示されるように、LM21~23は、安定化剤が液滴を良好に保持していた。また、すべての系(EX-512、EX-421、GSR-101)で、内部液が全く漏出せずに良好に重合反応が進行し、コアシェル構造を有する構造体が作製できた。