(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003418
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】プロテオグリカン分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20221228BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20221228BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20221228BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
G01N33/52 A
G01N33/68
C08B37/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133326
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2017046294の分割
【原出願日】2017-03-10
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達治
(72)【発明者】
【氏名】小島 弘之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】軟骨または軟骨抽出物を含む組成物中、又は食品組成物中のプロテオグリカンの新規な定量方法を提供すること。
【解決手段】分析試料の水溶液抽出、分子量分画膜による前処理、新規のグリコサミノグリカン比色試薬の組み合わせを見出したことで、軟骨または軟骨抽出物を含む組成物中、又は食品組成物中のプロテオグリカンの定量を可能にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨または軟骨抽出物を含む組成物中のプロテオグリカンを定量する方法で、
(1)プロテオグリカンを含む軟骨または軟骨抽出物を含む組成物中から水または水溶液 で抽出し抽出物を回収する工程、
(2)分子量分画膜を有する中空状容器にて遠心分離を行い、遊離型のコンドロイチン硫 酸を除去して濃縮物を回収する工程、
(3)比色試薬を加え、比色定量する工程、
を含み、
当該比色試薬が、
(4)1,9-ジメチルメチレンブルー、エタノール、Tween20、ギ酸及びギ酸ナトリウムを含む当該試薬、であり、
定量対象のプロテオグリカンの分子量が10万から200万である、当該方法。
【請求項2】
当該比色試薬を加え、比色定量する工程において、当該比色定量を吸光度523nmか ら525nmにて行う、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨、軟骨抽出物中又は食品中に含まれるプロテオグリカンを精密に定量する方法、及び高純度のプロテオグリカンの回収に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、コラーゲンやヒアルロン酸と共に細胞外マトリックス中の基質を形成する主要な生体高分子であって、ヒトや牛などの哺乳動物、鮭や鮫など魚類の軟骨に含まれていることが知られており、プロテオグリカンを配合した健康食品、化粧品、プロテオグリカンの製造方法等が多く報告されている。また、プロテオグリカン自体の有用性も多く報告されており、分子量の低い50kDa~1000kDaのプロテオグリカンは軟骨分化促進作用やひざ関節改善作用、皮膚色素沈着抑制作用など報告されている(特許文献1)。
【0003】
一方、プロテオグリカンの分析については糖鎖部分のウロン酸をカルバゾール法、タンパク質部分を280 nmのUV吸収で検出した分析方法が報告されているものの(特許文献2)、遊離のコンドロイチン硫酸やヒアルロン酸、コラーゲンが存在する低分子領域では利用できない問題があった。
【0004】
また、コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸、コラーゲンを除くためHPLCにインジェクトする前処理として、透析後100万以上の分子量で定量する方法があるがこれでは100万以下の分子量のプロテオグリカンに対して定量する事はできない(特許文献3)。
【0005】
プロテオグリカンに対し特異的に働く抗体を作成した報告もあるが、費用も高く工業的には実現されていない(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-138060
【特許文献2】特開2016-128467
【特許文献3】特開2002-069097
【特許文献4】特開2016-160226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、比色法を利用し、プロテオグリカンを含む組成物中の分子量10万~200万のプロテオグリカンを定量する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、遊離のコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸を徹底的に除くため透析、分子量分画、HPLC、電気泳動、比色法等様々な条件を検討した結果、分子量分画膜を有する中空状の容器で前処理を行えば、ほぼ全てのコンドロイチン硫酸を除き、高分子量から低分子量のプロテオグリカンを残す事を見出した。さらにグリコサミノグリカンを比色定量する試薬の組み合わせも新たに見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分析方法によれば、分子量10万~200万のプロテオグリカンに対して定量が可能となり、プロテオグリカンを含む組成物中の定量も可能となる。さらに、安価な比色試薬を利用することできるようにすることで、定量分析の費用を抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】分子量分画前後のプロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末を分析対象とした、クロマトグラム
【
図2】実施例1によって調製した比色試薬による、プロテオグリカン標準品の検量線
【
図3】実施例2によって調製した比色試薬による、プロテオグリカン標準品の検量線
【
図4】実施例3によって調製した比色試薬による、プロテオグリカン標準品の検量線
【
図5】実施例1~3の方法により定量した、プロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末中のプロテオグリカンの質量%濃度
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の分析対象である軟骨とはプロテオグリカンを含有することが知られている魚類や軟体動物などの水棲生物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織を指し、特に鮭の頭部や、鮫のヒレ部の軟骨組織が分析対象として好ましい。また、軟骨抽出物とは前記軟骨をそのまま又は粉砕後の搾取物。又は、そののまま又は粉砕後の溶媒抽出物を指し、軟骨抽出物の形状としては、液状、固形状、粉末状、ペースト状いずれの形状も含み、いずれの形状でも分析対象とすることができる。
【0012】
本発明における軟骨、軟骨抽出物、またはプロテオグリカンを含む組成物に用いる抽出溶媒としては水や水溶液を用いれば良く、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ性の水溶液や、グアニジン塩酸や尿素、酢酸、クエン酸、硫酸、硝酸などの酸性の水溶液が好ましい。
【0013】
本発明における分子量分画膜を有する中空状容器とは、主にコンドロイチン硫酸を除き使用するための容器であって、5万~10万の間で分子篩いが可能な膜を有し、膜の篩いによって分析対象物のプロテオグリカン含量が減少しない条件に適合する容器であればよい。特に、遠心分離に対応している容器が好ましく、ミリポア社製のアミコンウルトラ(Amicon Ultra)遠心式フィルターユニット、ジーエルサイエンス社製のMonoSpin、バイラッド社製のスピンカラム、GEヘルスケアジャパン社製のVivaspin、日本ポール社製のマクロセップアドバンス、ザルトリウス社製のビバスピン/ビバスピンturboなどを用いるとよい。
【0014】
本発明で使用する比色試薬としてはグリコサミノグリカンを選択的に比色定量できる試薬が好ましく、市販の試薬であればBLYSCAN GLYCOSAMINOGLYCAN ASSAY KIT(ACCURATE CHEMICAL & SCIENTIFIC CORPORATION社製)、Rheumera kit(Astarte Biologics社製)、Blyscan Glycosaminoglycan Assay Kit(Biocolor社製)、もしくは自分で調整してもよい。
【0015】
本発明で新たに見出したグリコサミノグリカンの比色試薬は界面活性剤オクチルフェノールエトキシトレート、1,9-ジメチルメチレンブルー、エタノール、ギ酸、ギ酸ナトリウムから構成したもの、または、ホウ酸緩衝液、スルファミン酸アンモニウム、カルバゾールから構成したものであり、それぞれ市販の試薬として存在しており入手も容易である。
【0016】
比色定量に使用する検出器としては、各比色試薬に対応する500~700 nmの吸光度を測定できる分光光度計が好ましい。
【0017】
本発明の分析方法が適用可能なプロテオグリカンを含む食品としては、液状、固形状、粉末状、ペースト状、ゼリー状、ゲル状、タブレット状のいかなる形態でもよく、必要に応じて食品を粉砕、搾取、抽出を行い、比色法を適用し分析することが可能である。
【実施例0018】
以下の実施例は本発明におけるプロテオグリカン含有物の具体例であるが、本発明は以下実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1:プロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末中のプロテオグリカンの定量
【0020】
(サケ鼻軟骨からプロテオグリカンの回収)
-30℃で冷凍保管したシロサケの頭部から摘出した鼻軟骨を400 g用意し、出発原料とした。4重量%の酢酸水溶液2000 gに出発原料を投入し、撹拌しながら72時間抽出した。
この溶出液をステンレススチールメッシュ(150 μm)でろ過し、不溶物を除去した。ろ液を透析膜にて十分に透析し、得られた液にデキストリンを加えて噴霧乾燥し、プロテオグリカン20%調製したプロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末20 gを得た。
【0021】
(分子量分画膜による分離)
前記プロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末25 mgに精製水を加えて50 mL容量に調製し、この調製液10 mLをビバスピンturbo15 100,000 MWCO(ザルトリウス社製)に量り取り、遠心分離(3000rpm、10分)した。さらに上清に精製水10 mLを加えて遠心分離し、この水洗を3回行なった。水洗した上清のプロテオグリカン濃縮液を試料1とし、分子量分画を行わなかったプロテオグリカン溶液を試料2とした。
【0022】
(標準品によるプロテオグリカンの検量線作成)
プロテオグリカンの標準品(和光純薬工業製)2 mgを精密に量り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10 mL容量に調製した(A液)。A液5 mLを取り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10 mL容量に調製したもの、A液2 mLを取り、リン酸緩衝液(pH6.8)を加えて10 mL容量に調製したもの及びA液をそれぞれ検量線作成用標準液とする。検液及び標準液について0.45 μmのメンブレンフィルターを通した後、次の操作条件で液体クロマトグラフィーを行い、得られた検量線からプロテオグリカン量を求めた。なお、標準品:プロテオグリカン,サケ鼻軟骨由来(和光純薬工業製)は、室温減圧デシケーター(シリカゲル)で3時間乾燥してから採取した。
カラム :TSKgel G5000PWXL(東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50 μL
移動相 :リン酸緩衝液(pH6.8)
流量 :0.5 mL/min
検出器 :UV検出器(SPD-20A 島津製作所社製) 検出波長=215 nm
及び、示差屈折率検出器(RID-10A 島津製作所製)
【0023】
(プロテオグリカンの定量)
試料1の濃縮液を回収し、リン酸緩衝液(pH6.8)に溶かし、10 mL容量に調整した。試料2は、5 mgをリン酸緩衝液(pH6.8)に溶かし、10 mL容量に調製し、各々0.45 μmメンブレンフィルターを通した後、以下操作条件でHPLCを行い標準品の検量線からプロテオグリカン量を求めた。
カラム :TSKgel G5000PWXL(東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50 μL
移動相 :リン酸緩衝液(pH6.8)
流量 :0.5 mL/min
検出器 :UV検出器(SPD-20A 島津製作所社製) 検出波長=215 nm
及び、示差屈折率検出器(RID-10A 島津製作所製)
【0024】
(試験結果)
試料1と試料2を比較すると(
図1)、分子量分画を行った試料1はシャープなピークが標準品のピーク溶出時間と同じ位置で検出し、プロテオグリカン以外の不純物を除外することができた。また、標準品の検量線は
図2のようになり、この検量線を利用して試料1のプロテオグリカンを定量すると
図5の結果となった。
【0025】
実施例2:プロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末中のプロテオグリカンの定量
【0026】
(比色試薬の調製)
1,9-ジメチルメチレンブルー16 mgをエタノール5 mL、2 mLのTween20に溶かし、これをギ酸2 mL、ギ酸ナトリウム2 gを加えた後、さらに精製水を加え1000 mLにメスアップし比色溶液を調整した。
【0027】
(プロテオグリカンの定量)
実施例1で得た試料1の1mL溶液に対し、調製した比色溶液5 mLを加え、攪拌しこの溶液の523 nmの吸光度を測定した。プロテオグリカン標準液は、標準品:プロテオグリカン,サケ鼻軟骨由来(和光純薬工業製)5 mgを精密に量り、精製水を加えて50 mL容量に調製した。適宜希釈し、0 μg/mL、5 μg/mL、10 μg/mL、20 μg/mL、40 μg/mLに調製した。各標準液1mL溶液に対し、調製した比色溶液5mLを加え、攪拌しこの溶液の523 nmの吸光度を測定した。
【0028】
(試験結果)
標準品の検量線は
図3のようになり、この検量線を利用して試料1のプロテオグリカンを定量すると
図5の結果となり、実施例1による結果とほぼ一致し、前記の比色溶液によりプロテオグリカンが定量可能であることを確認した。
【0029】
実施例3:プロテオグリカン含有サケ鼻軟骨抽出末中のプロテオグリカンの定量
【0030】
(比色試薬の調製)
A:ホウ砂1.90685 gを適量の精製水に加温溶解し、硫酸を加えながらpH 8.4に調製後、20 mL容量に調製し1 Mホウ酸緩衝液を調製した。
B:スルファミン酸アンモニウム4.5648 gを10 mLの精製水に溶解し、4 Mスルファミン酸溶液を調製した。
C:カルバゾール20 mgをエタノール10 mLに溶解し、0.2%カルバゾール溶液を調製した。
【0031】
(プロテオグリカンの定量)
共栓試験管に実施例1で得た試料1の0.8 mLと1Mホウ酸緩衝液0.1 mLと4 Mスルファミン酸0.1 mLを加えて十分に混合した後、氷水中で5 mL濃硫酸を加えた。次に0.2%カルバゾール溶液0.2 mLを加えて十分に混合した後、100℃で10分間加熱した。加熱後、室温まで冷却し、525 nmの吸光度を測定した。同時に標準品のプロテオグリカン,サケ鼻軟骨由来(和光純薬工業製)2 mgを精密に量り、精製水を加えて10 mL容量に調製した(200 μg/mL)。適宜希釈し、50 μg/mL、100 μg/mLに調製した。各標準液0.8 mLと1 Mホウ酸緩衝液0.1 mLと4Mスルファミン酸0.1 mLを加えて十分に混合した後、氷水中で5 mL濃硫酸を加えた。次に0.2%カルバゾール溶液0.2 mLを加えて十分に混合した後、100℃で10分間加熱した。加熱後、室温まで冷却し、525 nmの吸光度を測定した。
【0032】
(試験結果)
標準品の検量線は
図4のようになり、この検量線を利用して試料1のプロテオグリカンを定量すると
図5の結果となり、実施例1、実施例2による結果とほぼ一致し、前記の比色溶液によりプロテオグリカンが定量可能であることを確認した。
【0033】
実施例4:食品組成物中のプロテオグリカン定量
【0034】
(錠剤中のプロテオグリカンの回収)
ソフトカプセル(プロテオグリカン20 μg/粒配合、甘草抽出物、及びトリグリセリド配合品)1粒を解体し、内容物をクロロホルム10 mLで抽出した。次に5%エタノール溶液20 mLを加えて、振とう抽出した後、上清を回収した。さらに5%エタノール溶液20 mLを加えて、同様の抽出操作を5回行った。得られた上清液をろ過し、濃縮乾固により有機溶媒を除去した。乾固物に精製水を加えてプロテオグリカン含有抽出液100 gを得た。
【0035】
プロテオグリカン含有抽出液をVivaspin15 Turbo MWCO 100000(ザルトリウス製)に入れ、遠心分離(3500 rpm、30分)した。さらに上清に精製水15 mLを加えて遠心分離した。水洗した上清のプロテオグリカン濃縮液を試料3とした。
【0036】
(プロテオグリカンの定量)
試料3の1 mL溶液に対し、実施例2で調製した溶液と同様の比色溶液5 mLを加え、攪拌しこの溶液の523 nmの吸光度を測定した。
【0037】
(試験結果)
試料3のプロテオグリカン量を算出し、19.3μg/粒の結果となり、食品組成物中のプロテオグリカン定量も可能となったことを確認した。
本発明は、簡単で正確なプロテオグリカンの定量方法、さらに安価な比色試薬キットを提供することで、プロテオグリカンを高含有する製造方法への利用、日常的な品質管理業務等産業上の利用可能性を有する。