(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034204
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】フラックス組成物、はんだ組成物および電子基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20230306BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20230306BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20230306BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
H05K3/34 512C
H05K3/34 503Z
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140326
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 拓生
(72)【発明者】
【氏名】竹内 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 和総
【テーマコード(参考)】
5E319
【Fターム(参考)】
5E319AC01
5E319BB05
5E319CC36
5E319CD27
5E319CD29
5E319GG20
(57)【要約】
【課題】加熱だれの発生を抑制できるフラックス組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有し、前記(C)成分が、(C1)1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールを含有し、前記(D)成分が、(D1)下記一般式(1)で表されるイミダゾリジノン類を含有する、フラックス組成物。
(一般式(1)において、R
1およびR
4は、独立して、水素原子、炭素数1から8のアルキル基、または炭素数2から8のアルケニル基であり、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数2から4のアルケニル基であり、R
2およびR
3は、結合して環を形成していてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有し、
前記(C)成分が、(C1)1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールを含有し、
前記(D)成分が、(D1)下記一般式(1)で表されるイミダゾリジノン類を含有する、
フラックス組成物。
【化1】
(一般式(1)において、R
1およびR
4は、独立して、水素原子、炭素数1から8のアルキル基、または炭素数2から8のアルケニル基であり、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数2から4のアルケニル基であり、R
2およびR
3は、結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(D1)成分が、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンである、
フラックス組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
前記(A)成分が、水素添加ロジンおよびホルミル化ロジンからなる群から選択される少なくとも1つである、
フラックス組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、はんだ組成物および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。近年、はんだとしては、環境問題に配慮して、鉛(Pb)を含有しない鉛フリーはんだが広く使用されている。一方で、プリント配線基板においては、狭い範囲に小型部品が密集して実装されるようになっている。そのため、隣接する小型部品に影響を与えないように、はんだ組成物の加熱だれが発生しないことが重要となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、加熱だれの発生を抑制できるフラックス組成物、はんだ組成物、並びに、これらを用いた電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有し、前記(C)成分が、(C1)1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールを含有し、前記(D)成分が、(D1)下記一般式(1)で表されるイミダゾリジノン類を含有する、はんだ組成物が提供される。
【0006】
【0007】
一般式(1)において、R1およびR4は、独立して、水素原子、炭素数1から8のアルキル基、または炭素数2から8のアルケニル基であり、R2およびR3は、独立して、水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数2から4のアルケニル基であり、R2およびR3は、結合して環を形成していてもよい。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有する、はんだ組成物が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、電子基板が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱だれの発生を抑制できるフラックス組成物、はんだ組成物、並びに、これらを用いた電子基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るはんだ組成物は、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(C)成分が、(C1)1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールを含有し、前記(D)成分が、(D1)前記一般式(1)で表されるイミダゾリジノン類を含有するものである。
【0012】
本実施形態によれば、加熱だれの発生を抑制できるはんだ組成物が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、本実施形態に係るはんだ組成物は、(C1)1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールなどのジベンジリデンソルビトール系チクソ剤を含有しているが、このチクソ剤により、リフロー時などの加熱だれの発生を抑制できる。しかしながら、ジベンジリデンソルビトール系チクソ剤をはんだ組成物に用いる場合は、加熱溶解や、ロールミルによる分散が必要となる。そして、はんだ組成物は、酸性成分を含むため、この加熱溶解などにより、ジベンジリデンソルビトール系チクソ剤からベンズアルデヒド類が遊離してしまい、加熱だれの抑制効果を得られなくなるという問題があった。
これに対し、本実施形態に係るはんだ組成物は、(D1)イミダゾリジノン類を含有しているが、これが(C1)成分を溶解できる。そして、(C1)成分が(D1)成分に溶解することで、加熱溶解などを行わずとも、加熱だれの抑制効果を発揮できる。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
なお、(D1)成分は、現時点で規制対象の物質ではなく、はんだ組成物の溶剤として使用できるものである。
【0013】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に用いるフラックス組成物について説明する。本実施形態に用いるフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するものである。
【0014】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジン、ホルミル化ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのロジン系樹脂の中でも、諸物性のバランスの観点から、水素添加ロジンおよびホルミル化ロジンからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0015】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上60質量%以下であることが好ましく、40質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0016】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤としては、有機酸、非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤(ハロゲン系活性剤)、およびアミン系活性剤などが挙げられる。これらの活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
有機酸としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、グリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、ピコリン酸などが挙げられる。
【0017】
非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤としては、ハロゲン原子が共有結合により結合した非塩系の有機化合物が挙げられる。このハロゲン化化合物としては、塩素化物、臭素化物、フッ化物のように塩素、臭素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物でもよいが、塩素、臭素およびフッ素の任意の2つまたは全部のそれぞれの共有結合を有する化合物でもよい。これらの化合物は、水性溶媒に対する溶解性を向上させるために、例えばハロゲン化アルコールやハロゲン化カルボキシルのように水酸基やカルボキシル基などの極性基を有することが好ましい。ハロゲン化アルコールとしては、例えば2,3-ジブロモプロパノール、2,3-ジブロモブタンジオール、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、トリブロモネオペンチルアルコールなどの臭素化アルコール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-ジクロロ-2-ブタノールなどの塩素化アルコール、3-フルオロカテコールなどのフッ素化アルコール、その他これらに類する化合物が挙げられる。ハロゲン化カルボキシルとしては、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、2-ヨードプロピオン酸、5-ヨードサリチル酸、5-ヨードアントラニル酸などのヨウ化カルボキシル、2-クロロ安息香酸、3-クロロプロピオン酸などの塩化カルボキシル、2,3-ジブロモプロピオン酸、2,3-ジブロモコハク酸、2-ブロモ安息香酸などの臭素化カルボキシル、その他これらに類する化合物が挙げられる。
【0018】
アミン系活性剤としては、アミン類(エチレンジアミンなどのポリアミンなど)、アミン塩類(トリメチロールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミンなどのアミンやアミノアルコールなどの有機酸塩や無機酸塩(塩酸、硫酸、臭化水素酸など))、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリンなど)、アミド系化合物などが挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩(塩酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩など)、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、これらのアミンの臭化水素酸塩などが挙げられる。
【0019】
(B)成分の配合量としては、他の成分および使用するはんだ粉末の合金組成により異なるが、フラックス組成物100質量%に対して、通常、20質量%以下である。なお、下限値は、例えば0.1質量%以上であればよい。
【0020】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)チクソ剤は、(C1)1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールを含有することが必要である。この(C1)成分と後述する(D1)成分との組合せにより、加熱だれの発生を抑制できる。
【0021】
(C1)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。(C1)成分の配合量が前記下限以上であれば、加熱だれの抑制効果を更に向上できる。(C1)成分の配合量が前記上限を超えても、加熱だれの更なる抑制効果は得られない。
【0022】
本実施形態に用いる(C)チクソ剤は、印刷性などの観点から、さらに(C1)成分以外のチクソ剤(以下、(C2)成分とも称する)を含有していてもよい。ここで用いる(C2)成分としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、(C2)成分は、印刷性などの観点から、融点が100℃以下のチクソ剤であることが好ましい。融点が100℃以下のチクソ剤としては、硬化ひまし油などが挙げられる。
(C2)成分を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上12質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、印刷だれが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0023】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、印刷だれが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0024】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)溶剤は、(D1)下記一般式(1)で表されるイミダゾリジノン類を含有することが必要である。この(D1)成分により、(C1)成分を溶解させることができ、(C1)成分による加熱だれの抑制効果を発揮させることができる。
【0025】
【0026】
一般式(1)において、R1およびR4は、独立して、水素原子、炭素数1から8のアルキル基、または炭素数2から8のアルケニル基である。これらの中でも、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数2から4のアルケニル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
R2およびR3は、独立して、水素原子、炭素数1から4のアルキル基、または炭素数2から4のアルケニル基である。これらの中でも、水素原子、メチル基、または炭素数2から4のアルケニル基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。また、R2およびR3は、結合して環を形成していてもよい。
【0027】
(D1)成分は、常温で(C1)成分を溶解させるという観点から、25℃において液状であることが好ましい。
(D1)成分の沸点は、印刷性などの観点から、170℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、沸点とは、1013hPaにおける沸点のことをいう。
(D1)成分としては、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(沸点221℃)、1,3-ビス(2-メチルプロピル)-2-イミダゾリジノン、1-ヘプチル-3-メチル-2-イミダゾリジノン(沸点289~297℃)、1,3,4-トリメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエテニル-1,3-ジヒドロ-2H-ベンズイミダゾール-2-オン、および1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(25℃において固体)が挙げられる。これらの中でも、上記の観点から、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ビス(2-メチルプロピル)-2-イミダゾリジノン、1-ヘプチル-3-メチル-2-イミダゾリジノン、または1,3,4-トリメチル-2-イミダゾリジノンが好ましく、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、または1-ヘプチル-3-メチル-2-イミダゾリジノンがより好ましい。
【0028】
(D1)成分の配合量は、(C1)成分を溶解させるという観点から、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
また、(C1)成分をより確実に溶解させるという観点から、(D1)成分の(C1)成分に対する質量比(D1/C1)は、4以上30以下であることが好ましく、4超20以下であることがより好ましく、5以上15以下であることがさらに好ましく、6以上10以下であることが特に好ましい。
【0029】
本実施形態に用いる(D)溶剤は、印刷性などの観点から、さらに(D1)成分以外の溶剤(以下、(D2)成分とも称する)を含有していてもよい。ここで用いる(D2)成分としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。また、グリコール系溶剤が好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
(D)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0031】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、および(D)成分の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、酸化防止剤、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0032】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0033】
[(E)成分]
本発明に用いる(E)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0034】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0035】
(E)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0036】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(E)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0037】
[電子基板]
次に、本実施形態の電子基板について説明する。本実施形態の電子基板は、以上説明したはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本実施形態の電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0038】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記プリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、100℃以上180℃以下であることが好ましい。プリヒート時間は、20秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、238℃以上260℃以下であることが好ましく、238℃以上245℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0040】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:完全水添ロジン、商品名「フォーラルAXE」、イーストマンケミカル社製
ロジン系樹脂B:ホルミル化ロジン、商品名「FG-90」、ハリマ化成社製
((B)成分)
活性剤A:トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、商品名「Taic-6B」、日本化成社製
活性剤B:グルタル酸
((C1)成分)
チクソ剤A:1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトール(融点210~230℃)、商品名「ゲルオールD」、新日本理化社製
((C2)成分)
チクソ剤B:ひまし硬化油(融点85~87℃)、商品名「ヒマコウ」、ケイエフ・トレーディング社製
チクソ剤C:ジベンジリデンソルビトール系チクソ剤(1,3:2,4-ビス-O-(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール、融点255~267℃)商品名「ゲルオールMD」、新日本理化社製
チクソ剤D:ポリアマイド、商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
((D1)成分)
溶剤A:1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(沸点221℃)、三井化学社製
((D2)成分)
溶剤B:2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、日本乳化剤社製
((E)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は1~12μm(IPC-J-STD-005Aのタイプ7に相当)、はんだ融点は217~220℃
【0041】
[実施例1~4および比較例1~3]
表1に示す組成および配合にて各成分を混錬し、実施例1~4および比較例1~3に係る各フラックス組成物および各はんだ組成物を作製した。なお、組成を表すものに係る数値の単位は、特に断り書きがない限り質量%である。
【0042】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(加熱だれ)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)加熱だれ
加熱だれ評価用に、評価基板(ソルダーレジスト開口幅:100μm、表面処理:水溶性プリフラックス)、メタルマスク(マスク開口:250μm、メタルマスク厚:50μm)およびスキージ(メタルスキージ)を準備した。
次に、得られたはんだ組成物を評価基板へ印刷し、190℃の熱風式オーブンにて90秒加熱し、加熱前後における印刷されたはんだの直径を計測した。加熱によるはんだ組成物のだれ広がる大きさ(加熱だれ幅)を算出した。そして、下記の基準に従って、加熱だれを評価した。
◎:加熱だれ幅が、10μm未満である。
〇:加熱だれ幅が、10μm以上15μm未満である。
△:加熱だれ幅が、15μm以上20μm未満である。
×:加熱だれ幅が、20μm以上である。
【0043】
【0044】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~4)は、加熱だれの結果が良好であることが確認された。これに対し、(C1)成分以外のジベンジリデンソルビトール系チクソ剤(チクソ剤C)を用いた場合(比較例1)には、チクソ剤Cが(D1)成分である溶剤Aに溶解せずに、高温加熱が必要となり、チクソ剤Cの分解により、加熱だれの抑制効果を発揮できなかったものと推察される。また、(C1)成分を含有していない場合(比較例2および3)には、加熱だれが抑制できないことが分かった。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、加熱だれの発生を抑制できることが確認された。