(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034218
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
A47J27/00 109K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140346
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】村上 誠
(72)【発明者】
【氏名】駒木 杏奈
(72)【発明者】
【氏名】阿萬 誉
(72)【発明者】
【氏名】儘田 由香里
(72)【発明者】
【氏名】河合 祐
(72)【発明者】
【氏名】八幡 健志
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA02
4B055BA51
4B055GA13
4B055GB05
4B055GB18
4B055GC06
4B055GC26
4B055GD05
(57)【要約】
【課題】保温による調理物の劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させることができる炊飯器を提供する。
【解決手段】本発明に係る炊飯器は、調理物を収容する鍋と、鍋内の調理物を加熱する加熱部と、加熱部を制御して調理物を保温する保温工程を行う制御部と、を備え、制御部は、保温工程において、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように加熱部を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理物を収容する鍋と、
前記鍋内の調理物を加熱する加熱部と、
前記加熱部を制御して前記調理物を保温する保温工程を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御する、
炊飯器。
【請求項2】
前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御した後、当該調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められ且つ前記温度維持時間よりも長い第2の温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御する、請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させた後、当該調理物の温度を上昇させるとき、75℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御する、請求項1又は2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記鍋の温度を検知する鍋温度検知部を更に備え、
前記制御部は、前記鍋温度検知部の検知温度に基づいて前記調理物の温度を推定するとともに、炊飯器の周囲の環境温度と、前記調理物の温度を60℃未満に低下させるときにおける前記鍋温度検知部の検知温度の変化速度とに基づいて前記調理物の量を推定し、当該推定結果に基づいて前記加熱部を制御する、請求項1~3のいずれか1つに記載の炊飯器。
【請求項5】
前記鍋の上方開口部を開閉自在に覆う蓋体と、
前記蓋体の開閉を検知する蓋開閉検知部と、
を備え、
前記制御部は、前記加熱部を制御して前記鍋内の調理物を加熱する前における前記鍋温度検知部の検知温度を前記環境温度として記憶し、前記保温工程において、前記調理物の量を推定した後、前記蓋開閉検知部が前記蓋体の開閉を検知せずに予め決められた時間が経過したとき、当該予め決められた時間の経過後における前記鍋温度検知部の検知温度と、前記推定した調理物の量とに基づいて、前記環境温度を補正する、請求項4に記載の炊飯器。
【請求項6】
前記加熱部は、前記鍋内に100℃を超える過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部を備え、
前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させた後、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記過熱蒸気供給部を制御する、請求項1~5のいずれか1つに記載の炊飯器。
【請求項7】
前記加熱部は、前記鍋を加熱する鍋加熱部を更に備え、
前記過熱蒸気供給部は、水を収容する水容器と、前記水容器を加熱して蒸気を発生させる水容器加熱部と、前記水容器内と前記鍋内とを流体連通する蒸気経路と、前記蒸気経路を加熱して前記過熱蒸気を生成する蒸気加熱部と、を備え、
前記制御部は、前記水容器内の水の量が予め決められた量以下であるとき、前記調理物を75℃以上に上昇させるように前記鍋加熱部を制御する、請求項6に記載の炊飯器。
【請求項8】
前記制御部は、前記調理物の温度を75℃以上に上昇させるように前記鍋加熱部を制御した以降において、前記調理物の温度を65℃以上で維持するように前記鍋加熱部を制御する、請求項7に記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温機能を有する炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の炊飯器として、例えば、特許文献1に記載の炊飯器が知られている。特許文献1には、炊飯後の温度下降時において、第1の設定温度より第2の設定温度まで下降するのに要する時間と室温とに基づいて、鍋内の調理物の量(合数)を判定することが記載されている。また、特許文献1には、低温保温温度(60℃)と高温保温温度(92℃)とに交互に切り替えて鍋内の調理物を保温することで、保温による調理物の劣化を抑えつつ、殺菌を行えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の炊飯器においては、保温による調理物の劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させるという観点で未だ改善の余地がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、保温劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させることができる炊飯器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、調理物を収容する鍋と、
前記鍋内の調理物を加熱する加熱部と、
前記加熱部を制御して前記調理物を保温する保温工程を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御する、炊飯器を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保温による調理物の劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させることができる炊飯器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る炊飯器の模式断面図である。
【
図2】
図1の炊飯器において、保温工程における調理物の温度及び鍋温度センサの検知温度の変化の一例を示すグラフである。
【
図3】鍋温度センサの検知温度が第1温度から第2温度まで下降する温度下降時間と、調理物の量と、環境温度との関係を示すグラフである。
【
図4】環境温度に対する温調温度の設定例を示すグラフである。
【
図5】推定した調理物の量に対する温度維持時間及び第2の温度維持時間の設定例を示す表である。
【
図6】
図1の炊飯器において、保温工程における調理物の温度及び鍋温度センサの検知温度の変化の変形例を示すグラフである。
【
図7】バチルス属菌の状態変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明の基礎となった知見)
本発明者らは、保温による調理物の劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させるために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
【0010】
米由来のバチルス属菌(以下、単にバチルス属菌ともいう)には、複数のバチルス菌が存在するが、65℃以上の温度環境下では、その増殖が抑制される。しかしながら、バチルス属菌は、芽胞状態では耐熱性が高く、100℃に加熱しても十分に死滅しない。一方、芽胞状態のバチルス属菌のうち、高温に発育温度帯を有するバチルス菌は、60℃未満の温度環境下で発芽する。発芽したバチルス属菌は、発芽後成長を経て栄養細胞となり、分裂を繰り返して増殖する。このため、60℃未満で長時間保温した場合、バチルス属菌が増殖して、腐敗変敗が起こり調理物の食味が低下することになる。
【0011】
これに対して、本発明者らは、鋭意検討した結果、バチルス属菌が発芽すると、耐熱性が低くなり、65℃以上の温度環境下で死滅しやすくなることを新規に知見した。すなわち、本発明者らは、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた時間、発芽を促進させた後、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させることで、より殺菌効果を向上できることを見出した。この新規な知見に基づき、本発明者らは、以下の発明に至った。
【0012】
本発明の一態様に係る炊飯器によれば、調理物を収容する鍋と、
前記鍋内の調理物を加熱する加熱部と、
前記加熱部を制御して前記調理物を保温する保温工程を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御する、
ように構成されている。
【0013】
この構成によれば、保温工程において、調理物の温度を60℃未満に低下させるので、調理物に加わる熱量を減らして保温による調理物の劣化を抑えることができる。また、バチルス属菌の発芽を促進することができる。また、前記構成によれば、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるので、発芽して耐熱性の低下したバチルス属菌を加熱して死滅させることができる。これにより、より殺菌効果を向上させることができる。
【0014】
なお、前記調理物の温度を65℃以上に上昇させたとき、
図7に示すように、死滅せずに一部損傷したバチルス属菌が発生する可能性がある。一部損傷したバチルス属菌は、修復して、再び芽胞に戻り得る。このバチルス属菌を死滅させるには、芽胞状態から発芽するまでの時間に加えて、一部損傷を修復して芽胞に戻るまでの時間を考慮する必要がある。
【0015】
このため、前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御した後、当該調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められ且つ前記温度維持時間よりも長い第2の温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御してもよい。この構成によれば、一部損傷を修復して芽胞に戻るまでの時間を考慮して、温度維持時間よりも第2の温度維持時間を長くしているので、より確実にバチルス属菌を死滅させることができる。これにより、より殺菌効果を向上させることができる。また、温度維持時間よりも第2の温度維持時間を短くする場合に比べて、調理物に加わる熱量を低減して保温による調理物の劣化を一層抑えることができる。
【0016】
また、前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させた後、当該調理物の温度を上昇させるとき、75℃以上に上昇させるように前記加熱部を制御してもよい。この構成によれば、発芽したバチルス属菌をより高い温度環境下におくことができるので、発芽したバチルス属菌の死滅を促進して、より殺菌効果を向上させることができる。
【0017】
また、前記鍋の温度を検知する鍋温度検知部を更に備え、前記制御部は、前記鍋温度検知部の検知温度に基づいて前記調理物の温度を推定するとともに、炊飯器の周囲の環境温度と、前記調理物の温度を60℃未満に低下させるときにおける前記鍋温度検知部の検知温度の変化速度とに基づいて前記調理物の量を推定し、当該推定結果に基づいて前記加熱部を制御してもよい。この構成によれば、鍋温度検知部の検知温度に基づいて調理物の温度を推定するので、調理物の温度を直接検知する装置を設ける必要性を無くすことができる。また、炊飯器の周囲の環境温度と鍋温度検知部の検知温度とに基づいて調理物の量を推定するので、調理物の量を直接検知する装置を設ける必要性を無くすことができる。
【0018】
また、前記鍋の上方開口部を開閉自在に覆う蓋体と、前記蓋体の開閉を検知する蓋開閉検知部と、を備え、前記制御部は、前記加熱部を制御して前記鍋内の調理物を加熱する前における前記鍋温度検知部の検知温度を前記環境温度として記憶し、前記保温工程において、前記調理物の量を推定した後、前記蓋開閉検知部が前記蓋体の開閉を検知せずに予め決められた時間が経過したとき、当該予め決められた時間の経過後における前記鍋温度検知部の検知温度と、前記推定した調理物の量とに基づいて、前記環境温度を補正してもよい。この構成によれば、保温工程中に環境温度が変化した場合であっても、蓋体の開閉がない場合は鍋内の調理物の量に変化がないため、推定した調理物の量と鍋温度検知部の検知温度とに基づいて環境温度を算出(逆算)することができる。これにより、環境温度の変化に応じて、鍋温度センサの温調温度をより適切に設定できる。またその後、蓋体を開閉して鍋内の調理物の量が減ったとしても、より正確な環境温度に基づいて、当該調理物の量を推定することができる。従って、調理物の量を直接検知する装置を設ける必要性を無くすことができる。
【0019】
また、前記加熱部は、前記鍋内に100℃を超える過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部を備え、前記制御部は、前記保温工程において、前記調理物の温度を60℃未満に低下させた後、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように前記過熱蒸気供給部を制御してもよい。この構成によれば、過熱蒸気により調理物の温度を上昇させるようにしているので、調理物の内部に過熱蒸気が浸透して、調理物全体をより均等に且つ急速に温度上昇させることができる。これにより、発芽したバチルス属菌が芽胞に戻る前に、当該バチルス属菌をより確実に死滅させることができ、より殺菌効果を向上させることができる。
【0020】
また、前記加熱部は、前記鍋を加熱する鍋加熱部を更に備え、前記過熱蒸気供給部は、水を収容する水容器と、前記水容器を加熱して蒸気を発生させる水容器加熱部と、前記水容器内と前記鍋内とを流体連通する蒸気経路と、前記蒸気経路を加熱して前記過熱蒸気を生成する蒸気加熱部と、を備え、前記制御部は、前記水容器内の水の量が予め決められた量以下であるとき、前記調理物を75℃以上に上昇させるように前記鍋加熱部を制御してもよい。この構成によれば、水容器内の水の量が少なく、十分な量の過熱蒸気を生成できない場合でも、鍋加熱部で鍋を加熱することによって調理物の温度を75℃以上に上昇させ、バチルス属菌を死滅させることができる。
【0021】
また、前記制御部は、前記調理物の温度を75℃以上に上昇させるように前記鍋加熱部を制御した以降において、前記調理物の温度を65℃以上で維持するように前記鍋加熱部を制御してもよい。この構成によれば、十分な量の過熱蒸気を生成できず、鍋加熱部のみでは十分にバチルス属菌を死滅させることができない場合には、調理物の温度を65℃以上に維持して、バチルス属菌の増殖を抑えることができる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0023】
また、以下では、説明の便宜上、通常使用時の状態を想定して「上」、「下」等の方向を示す用語を用いるが、本発明に係る炊飯器の使用状態等を限定することを意味するものではない。
【0024】
《実施形態》
図1を用いて、本発明の実施形態に係る炊飯器の全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る炊飯器の模式断面図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る炊飯器は、筐体1と、米と水とを含む調理物を収容する鍋2と、鍋2の上方開口部を開閉自在に覆う蓋体3と、鍋2内の調理物を加熱する加熱部4とを備えている。
【0026】
筐体1は、上壁11から内側に凹むように設けられた有底筒状の鍋収容部12を有している。鍋2は、フランジ部が鍋収容部12の上端部に懸架されることで、鍋収容部12内に着脱自在に収容される。鍋収容部12の内側面は、鍋2の外側面との間に所定の隙間が空くように形成されている。
【0027】
鍋収容部12の底部の中央部分には、開口部12aが設けられている。開口部12aには、鍋2の温度を検知するための鍋温度検知部の一例である鍋温度センサ5が設けられている。鍋温度センサ5は、鍋収容部12に収容された鍋2の底部に当接可能に配置されている。本実施形態においては、鍋温度センサ5の検知温度に基づいて、鍋2内の調理物の温度を推定する。
【0028】
蓋体3は、中空構造を有する外蓋31と、略円盤状の内蓋32とを備えている。外蓋31は、筐体1の上壁11に設けられたヒンジ軸13を中心として回動可在に保持されている。本実施形態において、蓋体3は、外蓋31がヒンジ軸13を中心として回動することにより、鍋2の上方開口部を開閉自在に覆うように構成されている。蓋体3の開閉は、例えば、筐体1に設けられた蓋開閉検知部14により検知される。
【0029】
蓋体3の閉鎖状態において、外蓋31は、筐体1の上壁11を覆うように形成されている。内蓋32は、外蓋31において鍋収容部12に収容された鍋2の上方開口部との対向面に着脱自在に取り付けられる。蓋体3の閉鎖状態において、内蓋32は、鍋2の上方開口部を覆うように形成されている。内蓋32の外周部の鍋2側の面には、環状のパッキン33が取り付けられている。パッキン33は、蓋体3の閉鎖状態において、鍋2のフランジ部に密着するように設けられている。
【0030】
外蓋31には、厚み方向に貫通するように貫通穴31aが設けられている。貫通穴31aには、鍋2内で発生した蒸気を外部に排出するための蒸気筒6が着脱自在に取り付けられている。内蓋32には、鍋2の内部と貫通穴31aとを流体連通する貫通穴32aが設けられている。外蓋31の内蓋32側の貫通穴31aの周囲には、環状のパッキン34が取り付けられている。パッキン34は、内蓋32が外蓋31に取り付けられたときに、内蓋32の貫通穴32aの周囲に密着するように設けられている。鍋2内で発生した蒸気は、貫通穴32a,31a及び蒸気筒6を通じて外部に排出される。
【0031】
また、外蓋31には、炊飯コース、炊飯時間などの各種情報を表示する液晶ディスプレイなどの表示部(図示せず)と、白米コース、玄米コースなどの複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能な操作部(図示せず)とが設けられている。操作部は、炊飯コースの選択の他、炊飯の開始、取り消し、予約などの実行を指示できるように、炊飯開始ボタンなどの複数のボタンで構成されている。使用者は、表示部の表示内容を参照しつつ、操作部にて特定の炊飯コースを選択し、炊飯開始を指示することができる。
【0032】
加熱部4は、鍋2を加熱する鍋加熱部41と、鍋2内に100℃を超える過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部42とを備えている。
【0033】
本実施形態において、鍋加熱部41は、鍋2を誘導加熱する誘導加熱コイルユニットで構成されている。当該誘導加熱コイルユニットは、底内加熱コイル41aと、底外加熱コイル41bと、側面加熱コイル41cとを備えている。底内加熱コイル41aは、鍋収容部12を介して鍋2の底部の中央部周囲に対向するように配置されている。底外加熱コイル41bは、鍋収容部12を介して鍋2の底部のコーナー部に対向するように配置されている。側面加熱コイル41cは、鍋収容部12を介して鍋2の側面に対向するように配置されている。
【0034】
本実施形態において、過熱蒸気供給部42は、水容器42aと、水容器加熱部42bと、蒸気経路42cと、蒸気加熱部42dとを備えている。
【0035】
水容器42aは、蒸気を生成するための水を収容する有底筒状の容器である。筐体1には、鍋収容部12と異なる位置に、上壁11から内側に凹むように設けられた有底筒状の水容器収容部15を有している。水容器42aは、フランジ部が水容器収容部15の上端部に懸架されることで、水容器収容部15内に収容される。水容器収容部15の内側面は、水容器42aの外側面との間に所定の隙間が空くように形成されている。また、水容器収容部15には、水容器42a内の水の温度を検知するための水容器温度検知部の一例である水容器温度センサ7が設けられている。水容器温度センサ7は、水容器収容部15に収容された水容器42aの側面に当接可能に配置されている。本実施形態においては、水容器温度センサ7の検知温度に基づいて、水容器42a内の水の温度を推定する。
【0036】
水容器加熱部42bは、水容器42aを加熱して蒸気を発生させるものである。より具体的には、水容器加熱部42bは、水容器42aを加熱することにより、水容器42a内の水を沸騰させて約100℃の蒸気を発生させるものである。本実施形態において、水容器加熱部42bは、水容器42aを誘導加熱する加熱コイルで構成されている。水容器加熱部42bは、水容器収容部15を介して水容器42aの側面に対向するように配置されている。
【0037】
蒸気経路42cは、水容器42a内と鍋2内とを流体連通する筒状の経路である。蒸気経路42cは、外蓋31に設けられている。蒸気経路42cの水容器42a側の端部には、環状のパッキン35が取り付けられている。パッキン35は、蓋体3の閉鎖状態において、水容器42aのフランジ部に密着するように設けられている。蒸気経路42cの鍋2側の端部には、環状のパッキン36が取り付けられている。パッキン36は、蓋体3の閉鎖状態において、内蓋32に密着するように設けられている。内蓋32には、鍋2と蒸気経路42cとを流体連通するように貫通穴32bが設けられている。
【0038】
蒸気加熱部42dは、蒸気経路42cを加熱して過熱蒸気(例えば200℃以上)を生成するものである。本実施形態において、蒸気加熱部42dは、蒸気経路42cを誘導加熱する加熱コイルで構成されている。蒸気加熱部42dは、蒸気経路42cの外周面に配置されている。水容器加熱部42bによる加熱によって発生した蒸気は、蒸気加熱部42dによる加熱によって過熱蒸気となり、蒸気経路42c及び貫通穴42bを通じて鍋2内に供給される。
【0039】
また、筐体1の内部には、制御部16が搭載されている。制御部16は、操作部にて選択された炊飯コース及び鍋温度センサ5の検知温度などに基づいて、加熱部4を制御して鍋2内の調理物(米及び水)を炊飯する炊飯工程を行う。炊飯工程の終了後、制御部16は、鍋温度センサ5の検知温度、水容器温度センサ7の検知温度、蓋開閉検知部14の検知情報などに基づいて、加熱部4を制御して鍋2内の調理物(ご飯)を保温する保温工程を行う。
【0040】
次に、保温工程における制御部16の制御動作について、より詳しく説明する。
【0041】
本実施形態において、制御部16は、米由来のバチルス属菌の死滅を促進するように調理物の温度を変化させて保温工程を行う。
【0042】
図2は、本実施形態に係る炊飯器において、保温工程における調理物の温度及び鍋温度センサの検知温度の変化の一例を示すグラフである。
図2において、太い実線は、鍋2内の調理物の実際の温度変化を示している。
図2において、細い実線は、鍋温度センサ5の検知温度の変化を示している。
【0043】
制御部16は、保温工程において、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間T1が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように加熱部4を制御する。
【0044】
より具体的には、制御部16は、加熱部4による加熱を低減又は停止することにより、調理物の温度を60℃未満に低下させる。また、このとき、制御部16は、炊飯器の周囲の環境温度と鍋温度センサ5の検知温度の変化速度とに基づいて調理物の量を推定する。その後、制御部16は、当該推定結果に基づいて、温度維持時間T1の間、鍋温度センサの検知温度が60℃未満の予め決められた温調温度(例えば50℃)で維持されるように加熱部4を制御する。その後、制御部16は、調理物の温度を65℃以上に上昇させるように加熱部4を制御する。制御部16は、保温工程の間中、前述した制御を繰り返し行う。
【0045】
ここで「炊飯器の周囲の環境温度」は、例えば、加熱部4を制御して鍋2内の調理物を加熱する前(例えば炊飯工程の開始前)における鍋温度センサ5の検知温度に基づいて推定することができる。この場合、制御部16は、鍋2内の調理物を加熱する前における鍋温度センサ5の検知温度を環境温度として記憶する。なお、「炊飯器の周囲の環境温度」は、例えば、炊飯器に室温センサを設け、当該室温センサの検知温度に基づいて検知してもよい。また、「調理物の量」は、例えば、鍋を支持するように重量センサを設け、当該重量センサの検知重量に基づいて検知してもよい。
【0046】
図3は、鍋温度センサ5の検知温度が第1温度から第2温度まで下降する温度下降時間tdと、調理物の量Gaと、環境温度との関係を示すグラフである。本実施形態において、第1温度は65℃であり、第2温度は60℃である。
図3に示すように、温度下降時間tdと調理物の量Gaとは比例関係にあるが、特定の調理物の量Gaに対する温度下降時間tdは、環境温度によって異なる。すなわち、温度下降時間tdと調理物の量Gaと環境温度とは、相関関係がある。このため、環境温度と鍋温度センサ5の検知温度の変化速度とに基づいて、調理物の量を推定することができる。
【0047】
また、鍋温度センサ5の検知温度の変化速度と調理物の量とに基づいて、環境温度を推定することもできる。保温工程は、長時間(例えば12時間)にわたって行われることが想定される。このため、保温工程中に環境温度が大きく変化することが起こり得る。このような場合であっても、蓋体3の開閉がない場合は、鍋2内の調理物の量に変化がないと想定される。このため、制御部16は、調理物の量を推定した後、蓋開閉検知部14が蓋体3の開閉を検知せずに予め決められた時間が経過したとき、当該時間の経過後における鍋温度センサ5の検知温度と、推定した調理物の量とに基づいて、制御部16が記憶した環境温度を補正してもよい。これにより、環境温度の補正後に、蓋体3を開閉して鍋2内の調理物の量が減ったとしても、より正確な環境温度に基づいて、当該調理物の量を推定することができる。この場合、室温センサや重量センサを設ける必要性を無くすことができる。
【0048】
また、保温工程の間、より正確に環境温度を推定することができるので、制御部16は、当該推定した環境温度に基づいて、温度維持時間T1の間、鍋温度センサ5の検知温度を維持する温調温度を補正してもよい。
図4は、環境温度に対する温調温度の設定例を示すグラフである。
図4に示すように、例えば、環境温度が23℃のとき、温調温度は約50℃に設定してもよい。また、例えば、環境温度が30℃のとき、温調温度は約51℃に設定してもよい。これにより、環境温度を考慮して、適切な保温を行うことができる。
【0049】
また、前述したように、制御部16は、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間T1が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように加熱部4を制御する。これにより、多くのバチルス属菌を発芽させ、発芽したバチルス属菌を死滅させることができる。このとき、
図7に示すように、死滅せずに一部損傷したバチルス属菌が発生し得る。一部損傷したバチルス属菌は、修復して、再び芽胞に戻り得る。このバチルス属菌を死滅させるには、芽胞状態から発芽するまでの時間に加えて、一部損傷を修復して芽胞に戻るまでの時間を考慮する必要がある。このため、制御部16は、再び、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められ且つ(第1の)温度維持時間T1よりも長い第2の温度維持時間T2が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように加熱部4を制御する。これにより、一部損傷を修復して芽胞に戻るまでの時間を考慮して、温度維持時間T1よりも第2の温度維持時間を長くしているので、より確実にバチルス属菌を死滅させることができる。また、温度維持時間T1よりも第2の温度維持時間T2を短くする場合に比べて、調理物に加わる熱量を低減して保温による調理物の劣化を一層抑えることができる。
【0050】
図5は、推定した調理物の量Gaに対する温度維持時間T1及び第2の温度維持時間T2の設定例を示す表である。
図5に示すように、例えば、調理物の量Gaが2合であるとき、温度維持時間T1は110分に設定し、第2の温度維持時間T2は155分に設定してもよい。これにより、保温による調理物の劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させることができる。
【0051】
以上、本発明に係る炊飯器によれば、保温工程において、調理物の温度を60℃未満に低下させるので、調理物に加わる熱量を減らして保温による調理物の劣化を抑えることができる。また、バチルス属菌の発芽を促進することができる。
【0052】
また、本発明に係る炊飯器によれば、調理物の温度を60℃未満に低下させ、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間T1が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるので、発芽したバチルス属菌を死滅させることができる。これにより、より殺菌効果を向上させることができる。
【0053】
なお、保温工程において、調理物を鍋加熱部41(のみ)で加熱する場合、調理物の表面側と中心側とで、大きな温度ムラが生じやすくなる。これを避けるため、調理物の加熱時間を長くすると、加熱中に、発芽したバチルス属菌が芽胞に戻り、当該バチルス属菌が十分に死滅しないことが起こり得る。このため、保温工程において、調理物は、過熱蒸気供給部42により加熱されることが好ましい。すなわち、制御部16は、調理物の温度を60℃未満に低下させた後、当該調理物の量に応じて予め決められた温度維持時間T1(又はT2)が経過したとき、当該調理物の温度を65℃以上に上昇させるように過熱蒸気供給部42を制御することが好ましい。これにより、調理物の内部に過熱蒸気が浸透して、調理物全体をより均等に且つ急速に(例えば鍋加熱部41による加熱の2倍の速度で)温度上昇させることができる。その結果、発芽したバチルス属菌が芽胞に戻る前に、当該バチルス属菌をより確実に死滅させることができ、より殺菌効果を向上させることができる。なお、制御部16は、調理物の温度を65℃以上に上昇させるように鍋加熱部41及び過熱蒸気供給部42の両方を制御してもよい。この場合、調理物をより一層急速に温度上昇させることができる。
【0054】
なお、前述したように、保温工程において、調理物を鍋加熱部41により加熱する場合、調理物の表面側と中心側とで、大きな温度ムラが生じやすくなる。例えば、調理物の表面側の温度が75℃であるとき、調理物の中心側の温度が65℃であることが起こり得る。一旦発芽したバチルス属菌は、65℃未満の温度環境下では増殖が促進される可能性がある。また、本実施形態においては、鍋温度センサ5の検知温度に基づいて調理物の温度を推定しているので、調理物の中心側の温度よりも、調理物の表面側の温度の方がより正確に推定することができる。このため、調理物を鍋加熱部41で加熱する場合、調理物の温度を75℃以上に上昇させることが好ましい。すなわち、制御部16は、保温工程において、調理物の温度を60℃未満に低下させた後、当該調理物の温度を上昇させるとき、75℃以上に上昇させるように鍋加熱部41を制御することが好ましい。これにより、発芽したバチルス属菌をより高い温度環境下におくことができるので、発芽したバチルス属菌の死滅を促進して、より殺菌効果を向上させることができる。
【0055】
また、保温工程において、調理物を過熱蒸気供給部42により加熱する場合、例えば保温工程の途中で水容器42a内の水が無くなり、過熱蒸気を生成できないことが起こり得る。このため、制御部16は、水容器42a内の水の量が予め決められた量以下であるとき、
図6に示すように、調理物を75℃以上に上昇させるように鍋加熱部41を制御してもよい。これにより、水容器42a内の水の量が少なく、十分な量の過熱蒸気を生成できない場合でも、鍋加熱部41で鍋2を加熱することによって調理物の温度を75℃以上に上昇させ、バチルス属菌を死滅させることができる。
【0056】
ここで「水容器42a内の水の量」は、例えば、調理物の温度が60℃未満から75℃以上に上昇する時間th1,th2(
図6参照)に基づいて推定することができる。すなわち、水容器42a内の水の量が十分あり、十分な過熱蒸気を生成できている場合、調理物の温度が60℃未満から75℃以上に上昇する時間をth1とする。これに対して、時間th2が時間th1よりも長いとき、水容器42a内の水の量が少なく、十分な量の過熱蒸気を生成できていないことが想定される。これにより、「水容器42a内の水の量」を推定することができる。また、「水容器42a内の水の量」は、水容器温度センサ7の検知温度に基づいて推定することもできる。例えば、水容器温度センサ7の検知温度が第3温度から第4温度まで上昇する時間が予め決められた時間よりも短いとき、水容器42a内の水が無いと推定することができる。なお、「水容器42a内の水の量」は、例えば、水容器42aを支持するように重量センサを設け、当該重量センサの検知重量に基づいて検知してもよい。
【0057】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る炊飯器は、保温による調理物の劣化を抑えつつ、より殺菌効果を向上させることができるので、例えば、家庭用及び業務用の炊飯器として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 筐体
2 鍋
3 蓋体
4 加熱部
5 鍋温度センサ(鍋温度検知部)
6 蒸気筒
7 水容器温度センサ(水容器温度検知部)
11 上壁
12 鍋収容部
12a 開口部
13 ヒンジ軸
14 蓋開閉検知部
15 水容器収容部
16 制御部
31 外蓋
31a 貫通穴
32 内蓋
32a,32b 貫通穴
33,34,35,36 パッキン
41 鍋加熱部
41a 底内加熱コイル
41b 底外加熱コイル
41c 側面加熱コイル
42 過熱蒸気供給部
42a 水容器
42b 水容器加熱部
42c 蒸気経路
42d 蒸気加熱部