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  • 特開-外科用切削バー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003434
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】外科用切削バー
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20230110BHJP
   A61B 17/16 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
A61B17/56
A61B17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104515
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000150327
【氏名又は名称】株式会社ナカニシ
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 隆光
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL04
4C160LL21
(57)【要約】
【課題】冷却効果が向上した外科用切削バーを提供すること。
【解決手段】課題を解決するには、回転軸線を中心に回転する軸部と、軸部の先端に設けられる切削部を備えた外科用切削バーであって、切削部は、球形状であり、表面にダイヤモンド砥粒を備え、先端側から軸方向に延びる縦溝を備えるように構成すれば良い。このように構成することで、冷却水を用いて外科用切削バーを用いた際に生じる切削部の発熱を効率よく冷却することができる。これにより、神経の周囲の組織の除去を行う緻密な外科手術を行う現場において、冷却効率がより高い外科用切削バーを提供することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心に回転する軸部と、前記軸部の先端に設けられる切削部を備えた外科用切削バーであって、
前記切削部は、球形状であり、表面にダイヤモンド砥粒を備え、先端側から軸方向に延びる縦溝を備えたことを特徴とする外科用バー。
【請求項2】
前記切削部には、前記縦溝と繋がる横溝が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の外科用バー。
【請求項3】
前記横溝は、前記縦溝から回転方向とは逆方向に延びることを特徴とする請求項2に記載の外科用バー。
【請求項4】
前記横溝は複数設けられ、それぞれの前記横溝は軸方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の外科用バー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術用の医療器具である外科用切削バーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、外科手術において、切削部を備えた外科用切削バーを回転させることで、骨や腫瘍等の組織を切除する医療器具がある。
このような医療器具に用いられる外科用切削バーは、回転軸線を中心に回転する軸部と、この軸部の先端に設けられる切削部を備えている。そして、切削部は球形状であり、表面にダイヤモンド砥粒を付着することで切削面が形成されている(特許文献1)。
術者は、医療器具を構成するハンドピースに、上記の外科用切削バーを取り付けて回転させ、回転する切削面を切除対象に押し当てることで使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-138820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の外科用切削バーは、高速回転(20000~100000rpm)させて用いる為、切削面を切除対象に接触させた際に摩擦により発熱する。これにより、切削対象部分の周囲に、発熱した外科用切削バーが近接することで、切削対象部分の直接的な熱損傷、及び、切削対象物から熱が伝導し神経などの重要構造物を間接的に熱損傷させてしまう恐れがあり、慎重な操作を要求されるという課題がある。
外科用切削バーの発熱は、切削対象部分の熱による骨壊死、骨からの熱伝導で骨内に位置している又は近接する神経等が熱損傷する、という臨床上のリスクが指摘されています。
このような背景から、神経の周囲の組織の除去を行う緻密な外科手術を行う現場において、冷却効率がより高い外科用切削バーの要求が高まっている。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、冷却効果が向上した外科用切削バーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するためには、回転軸線を中心に回転する軸部と、軸部の先端に設けられる切削部を備えた外科用切削バーであって、切削部は、球形状であり、表面にダイヤモンド砥粒を備え、先端側から軸方向に延びる縦溝を備えるように構成すれば良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外科用切削バーの冷却効果を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る外科手術システムの概略構成図
図2】実施の形態に係る外科用切削バーの構成図
図3】実施の形態に係る外科用切削バーの切削部を回転軸線Lの軸方向から見た図
図4】実施の形態に係る外科用切削バーの切削部のダイヤモンド砥粒を省略して表現した図であり、(a)切削部を軸方向から見た図、(b)切削部を径方向から見た図、(c)図4(b)の視点から先端位置Mを中心に90度回転した位置から見た図、(d)図4(c)の視点から先端位置Mを中心に90度回転した位置から見た図、(e)図4(d)の視点から先端位置Mを中心に90度回転した位置から見た図
図5】実施の形態に係る外科用切削バーにおいて使用時の切削部における冷却水を示した図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態)
以下、図面を用いて実施の形態を説明する。
ここでは、本発明に係る外科用切削バーを用いる医療機器として、骨手術器械である外科手術システムを例示するが、これに限らず歯科用等の他の用途の医療機器であってもよい。
【0010】
<外科手術システム>
図1は、外科手術システム100の概略構成図である。
外科手術システム100は、コントロールユニット101と、ハンドピース103と、ハンドピース103をコントロールユニット101に接続する接続ケーブル105と、フットスイッチ107を含んで構成される。
【0011】
ハンドピース103は、アタッチメント103aと把持部103bとを備える。ハンドピース103の先端のアタッチメント103aには、外科用切削バー200が着脱自在に取り付けられている。
ハンドピース103には、外科用切削バー200を回転駆動するエアモータ又は電気モータ(電動機)等の動力源が設けられる。動力源は、コントロールユニット101に接続されたフットスイッチ107によって回転又は回転停止される。コントロールユニット101は、ハンドピース103の回転駆動を制御する。
尚、ハンドピース103の駆動源の回転又は停止を、手で操作するハンドスイッチをハンドピース103に設け、このハンドスイッチを操作することで行っても良い。また、ハンドピース103は、外科用切削バー200に適切な回転駆動力を付与するものであれば、本実施の形態で説明に用いる以外のものでもよい。
【0012】
<外科用切削バー>
図2は、外科用切削バー200の構成図である。尚、外科用切削バー200の回転中心を示す仮想の線を回転軸線Lとする。
外科用切削バー200は、回転軸線Lに沿った棒状の軸部210と、軸部210の一方の先端に設けられたボール形状の切削部220とを有する。
ここでいうボール形状とは、外科用切削バー200を、回転軸線Lを中心に回転させた場合に、切削部220を形成する曲面の形状が、回転軸線Lを中心とする球又は回転楕円体の表面形状を含むことを意味する。
【0013】
この外科用切削バー200は、ステンレス鋼、超硬合金(タングステンカーバイド)等の硬質材料によって形成される。軸部210の切削部220と反対側の基端には、ハンドピース103の回転軸に接続して固定される接続部211が設けられる。回転軸に固定された外科用切削バー200は、ハンドピース103の回転駆動によって、切削部220と軸部210とが回転軸線Lを中心に回転する。
【0014】
この外科手術システム100では、術者がハンドピース103を持ちながらフットスイッチ107を操作することで、外科用切削バー200を回転させる。そして、術者が外科用切削バー200の切削部220を回転させた状態で、骨や腫瘍などの切除対象に押し当て、適宜ハンドピース103を動かすことで、切除対象を切削する。尚、外科用切削バー200の回転方向Rは、本実施の形態の場合、ハンドピース103を握る使用者から見て右回転である。
【0015】
<切削部の構成>
次に、図2図4を参照して、外科用切削バー200の構成について説明を行う。
以下の説明では、外科用切削バー200において、回転軸線Lが延びる方向(軸方向)を基準に、切削部220が位置する側を先端側、接続部211が位置する側を後端側とする。
つまり、切削部220において、回転軸線Lを基準に、軸部210が位置する側が後端側、軸部210とは反対側が先端側となる。また、切削部220の先端の表面には、回転軸線Lが通る位置がある。この切削部220の表面の回転軸線Lが通る位置を先端位置Mとする。
尚、同一の部材又は同一の部位に対しては、同一の符号を付与することで、その説明を省略、又は簡単にする。
【0016】
図3は、外科用切削バー200の切削部220を回転軸線Lの軸方向から見た図である。つまり図3は、外科用切削バー220を先端位置M側から見た図である。
切削部220には、球形状の表面全体を覆うように、ダイヤモンド砥粒221が電着により設けられている。ダイヤモンド砥粒221は、ダイヤモンドを細かく砕いた粒状ものである。ダイヤモンド砥粒221が電着された切削部220は、表面にダイヤモンド砥粒221により凹凸が形成される。
このように、外科用切削バー200は、表面にダイヤモンド砥粒221が設けられた切削部220が、回転しながら切除対象である骨や腫瘍等の組織に接触することで、これらを削り取るものである。
【0017】
次に、図3図4を参照して切削部220を説明する。
図4(a)~図4(e)は、切削部220の形状をわかり易く表現する為、ダイヤモンド砥粒221を省略して表現した図である。図4(a)は切削部220を軸方向から見た図である。図4(b)は切削部220を径方向から見た図である。図4(c)は図4(b)の視点から先端位置Mを中心に90度回転した位置から見た図である。図4(d)は図4(c)の視点から先端位置Mを中心に90度回転した位置から見た図である。図4(e)は図4(d)の視点から先端位置Mを中心に90度回転した位置から見た図である。
【0018】
切削部220には、第1の縦溝222が形成されている。第1の縦溝222は、切削部220において、先端側から後端側に向けて延びる切削部220の表面から窪んだ部分である。言い換えると、第1の縦溝222は、切削部220において、先端位置M側から軸部210が位置する側に延びる溝である。
また、切削部220には、第2の縦溝223が形成されている。第2の縦溝223は、切削部220において、先端側から後端側に向けて延びる切削部220の表面から窪んだ部分である。言い換えると、第2の縦溝223は、切削部220において、先端位置M側から軸部210が位置する側に延びる溝である。
【0019】
ここで、第1の縦溝222と第2の縦溝223は、概ね同じ形状であり、切削部220において、回転方向に均等な間隔となるように配置されている。言い換えると、第1の縦溝222と第2の縦溝223は、切削部220において、先端位置Mを基準に互いに点対称となる形状の溝である。
さらに、切削部220において軸方向に延びる第1の縦溝222と第2の縦溝223は、先端位置M側が軸部210側より回転方向側の位置となるように、外科用切削バー200の回転方向に傾くように切削部220に形成されている。
【0020】
次に、切削部220には、第1の縦溝222から延びる第1の横溝224が形成されている。第1の横溝224は、第1の縦溝222を基点に、外科用切削バー200の回転方向とは逆の方向に向けて延びている。また、第1の横溝224の内部空間と第1の縦溝222の内部空間は繋がっている。尚、本実施の形態においては、第1の縦溝222から延びる第1の横溝224は、縦方向に間隔を空けて2つ形成されている。
【0021】
また、切削部220には、第2の縦溝223から延びる第2の横溝225が形成されている。第2の横溝225は、第2の縦溝223を基点に、外科用切削バー200の回転方向とは逆の方向に向けて延びている。また、第2の横溝225の内部空間と第2の縦溝223の内部空間は繋がっている。尚、本実施の形態においては、第2の縦溝223から延びる第2の横溝225は、縦方向に間隔を空けて2つ形成されている。
【0022】
ここで、第1の横溝224と第2の横溝225は、回転方向に重ならないように配置されている。つまり、第1の横溝224と第2の横溝225は、それぞれ縦方向にずらして配置することで、回転方向に重ならないように配置されている。
また、第1の横溝224は、第1の縦溝222より深さが浅く形成されている。言い換えると、第1の横溝224の内部空間は、第1の縦溝222の内部空間より小さく形成されている。同様に、第2の横溝225は、第2の縦溝223より深さが浅く形成されている。言い換えると、第2の横溝225の内部空間は、第2の縦溝224の内部空間より小さく形成されている。
尚、切削部220の表面には、ダイヤモンド砥粒が電着により設けられているが、上記の各溝222,223,224,225にも、溝内部の空間が完全に埋まらない程度に、ダイヤモンド砥粒が設けられている。
【0023】
以上のように構成された外科用切削バー200は、外科手術において、次のように使用されることで、切除対象である骨や腫瘍等の組織を切除する。
まず術者は、フットスイッチ107を操作することにより、エアモータ又は電気モータを駆動させて、外科用切削バー200を回転駆動する。そして、回転する外科用切削バー200の切削部220に冷却水を供給しながら、切除対象に切削部220を接触させて、切除対象を切除する作業を行う。
【0024】
つまり、切削部220が回転することで、切削部220の表面を構成するダイヤモンド砥粒が、切除対象に接触して、切削対象が削り取られる。このとき、ダイヤモンド砥粒が高速で切除対象に接することで、摩擦熱が生じ切削部220の温度が上昇する。
回転する切削部220に、冷却水を供給しながら作業を行う理由は、切削対象との摩擦熱により切削部220が高温にならないように冷却する為である。
【0025】
そして、切除作業中の切削部220には、供給された冷却水が次のように作用する。
使用時の切削部220における冷却水の流れWを示した図5を参照する。切削部220は、供給された冷却水の中で回転する。これにより、第1の縦溝222と第2の縦溝223の内部に冷却水が入り込み、切削部220の軸方向に渡り冷却が促進される。
特に、第1の縦溝222と第2の縦溝223は、切削部220から凹んだ領域となっているので、溝の内部に冷却水を保持しやすく、冷却水と切削部220とが接触する面積を広くすることができるので、冷却水による冷却効果を高めることができる。
【0026】
また、第1の縦溝222と第2の縦溝223は、先端位置M側が軸部210側より回転方向側の位置となるように、外科用切削バー200の回転方向に傾くように切削部220に形成されている。つまり、第1の縦溝222と第2の縦溝223が螺旋を形成して、先端位置M側が軸部210側に伸びるように、切削部220に設けられている。
【0027】
これにより、切削部220が回転することにより、第1の縦溝222と第2の縦溝223の内部に入り込んだ冷却水の流れWには、回転に伴う力が作用する。これにより、溝222,223の内部に沿って、先端位置M側から軸部210側に向かう冷却水の流れWが生まれる。
つまり、切削部220において、先端位置M側から軸部210側に向けて、切削部220を冷却する軸方向の冷却水の流れWが形成されて、切削部220の冷却効果を向上させることができる。
【0028】
更に、切削部220には、第1の縦溝222から延びる第1の横溝224が形成されている。第1の横溝224は、第1の縦溝222を基点に、外科用切削バー200の回転方向とは逆の方向に向けて延びている。また、第1の横溝224の内部空間と第1の縦溝222の内部空間は繋がっている。
このように第1の横溝224と第1の縦溝222がつながり、第1の横溝224は回転方向とは逆方向に延びているので、第1の縦溝222の内部に位置する冷却水の一部分は、切削部220の回転に伴い第1の横溝224に至る冷却水の流れWとなる。
【0029】
これにより、切削部220には、第1の縦溝222から第1の横溝224へと向かう、回転方向への冷却水の流れWが形成され、冷却効果が向上する。
尚、第2の縦溝223から延びる第2の横溝225についても、第1の横溝224と第1の縦溝222と同様の効果を得ることができる。
【0030】
ここで、第1の横溝224と第2の横溝225は、それぞれ対応する縦溝から回転方向に延びるように形成されているが、第1の横溝224と第2の横溝225はそれぞれ切削部220の回転方向に重ならないように、軸方向にずれた位置関係となるように形成されている。
このように、回転方向にそれぞれの横溝224,225が重ならないように、軸方向にずれて配置されているので、切削部220を回転方向に広範囲に冷却することができる。
【0031】
また、本実施の形態において、第1の縦溝222と第2の縦溝223、第1の横溝224と第2の横溝225の位置関係が、それぞれ先端位置Mを基準に点対称となるように形成されている。
このように切削部220が形成されているので、切削部220の重量を、回転軸線Lを基準にバランスよくすることができる。これにより、回転時の切削部220の回転軸線Lからの振れを抑えることができ、切除作業を行いやすい。
【符号の説明】
【0032】
L 回転軸線
M 先端位置
W 冷却水の流れ
R 外科用切削バーの回転方向
100 外科手術システム
101 コントロールユニット
103 ハンドピース
103a アタッチメント
103b 把持部
105 接続ケーブル
107 フットスイッチ
200 外科用切削バー
210 軸部
211 接続部
220 切削部
221 ダイヤモンド砥粒
222 第1の縦溝
223 第2の縦溝
224 第1の横溝
225 第2の横溝
図1
図2
図3
図4
図5