(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034376
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ロボットハンドおよびロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
B25J15/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140592
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 翔太郎
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS09
3C707CY01
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET03
3C707EU02
3C707EV02
3C707EW01
3C707HS21
3C707HS27
3C707LV10
3C707MT04
(57)【要約】
【課題】複数のアクチュエータを搭載して力と制御性を兼ね備えながらも、小型化・軽量化することが可能な、ロボットハンドおよびロボットシステムを提供する。
【解決手段】ロボットハンド1は、指部11Aと、指部11Aを駆動する駆動部とを備える。駆動部は、複数の駆動アクチュエータ11A1、11A2と、複数の駆動アクチュエータの駆動力を指部へ伝達する駆動力伝達部11A22とを備える。駆動力伝達部11A22は、複数の駆動アクチュエータ11A1、11A2のうちの空気圧人工筋肉11A1と指部11Aとの間を連結する連結状態11A19と、空気圧人工筋肉11A1と指部11Aとの間の連結を解除する解除状態11A18と、を選択的に切り替えることによって、空気圧人工筋肉11A1の駆動力の指部11Aへの伝達および遮断を切り替える切り離し機構11A21を備える、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指部と、該指部を駆動する駆動部とを備えたロボットハンドにおいて、
前記駆動部は、複数の駆動アクチュエータと、
前記複数の駆動アクチュエータの駆動力を前記指部へ伝達する駆動力伝達部とを備え、
前記駆動力伝達部は、
前記複数の駆動アクチュエータのうちの一部の駆動アクチュエータと前記指部との間を連結する連結状態と、前記一部の駆動アクチュエータと前記指部との間の連結を解除する解除状態と、を選択的に切り替えることによって、前記一部の駆動アクチュエータの駆動力の前記指部への伝達および遮断を切り替える切り離し機構を備える、
ことを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記切り離し機構は、前記一部の駆動アクチュエータの駆動と駆動停止とが切り替えられることによって前記連結状態と前記解除状態とが切り替えられる、
ことを特徴とする、請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記切り離し機構は、前記一部の駆動アクチュエータによって回動駆動される間欠歯車と、
前記指部の移動によって回動される従動歯車と、を有し、
前記連結状態では前記間欠歯車の歯部と前記従動歯車とが噛み合い、前記間欠歯車と前記従動歯車とが一体に回転可能となり、
前記解除状態では前記間欠歯車の間欠部に前記従動歯車の歯部が配置され、前記間欠歯車に対して前記従動歯車が自在に回転可能となる、
ことを特徴とする、請求項2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記複数の駆動アクチュエータは、前記間欠歯車を回動駆動させる第1駆動アクチュエータと、前記従動歯車を回動駆動させる第2駆動アクチュエータと、を含み、
前記第1駆動アクチュエータは前記第2駆動アクチュエータよりも大きい駆動力を有する、
ことを特徴とする請求項3に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記第1駆動アクチュエータと前記第2駆動アクチュエータとを駆動する制御部をさらに有し、
該制御部は、
前記第1駆動アクチュエータにより前記間欠歯車を回動駆動させて前記切り離し機構を前記解除状態とし、
前記第2駆動アクチュエータにより前記従動歯車を回動駆動させて前記指部を対象物体に対向する位置まで接近させ、
前記第1駆動アクチュエータにより前記間欠歯車を回動駆動させて前記切り離し機構を前記連結状態とし、前記指部を前記対象物体に接触させて前記対象物体を把持する制御を行う、
ことを特徴とする、請求項4に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記第1駆動アクチュエータは、収縮により前記間欠歯車を第1の方向に回動させて前記間欠歯車の歯部を前記従動歯車に噛合させ、前記従動歯車を回動させる直動アクチュエータであり、
前記第2駆動アクチュエータは、駆動により前記従動歯車を回動させるモータである、
ことを特徴とする、請求項5に記載のロボットハンド。
【請求項7】
前記切り離し機構は、
前記直動アクチュエータが収縮状態から伸長した場合に、前記間欠歯車を、前記第1の方向とは逆の第2の方向に回動駆動させて前記間欠歯車の歯部と前記従動歯車との間の噛合を解除する戻りばねを有する、
ことを特徴とする請求項6に記載のロボットハンド。
【請求項8】
前記駆動部は、収縮により、前記間欠歯車を前記第1の方向とは逆の第2の方向に回動駆動させる第2直動アクチュエータをさらに有する、
ことを特徴とする請求項6に記載のロボットハンド。
【請求項9】
ロボットアームと、
前記ロボットアームの先端に接続されたロボットハンドとを備え、
前記ロボットハンドは、請求項1に記載のロボットハンドである
ことを特徴とするロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな把持力が要求される重作業と制御性が要求される軽作業とを両立するロボットハンドおよびロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
製造、物流、プラントや原子力発電所などで近年進められているロボット自動化において、使用されるロボットハンドには、操作対象物に対する位置決め、大きな把持力など、多くの要求が課せられる。一方で、コスト、スループット、作業スペース等の観点から、複数のロボットハンドを用意して交換しながら作業を行うよりも、少数のロボットハンドで作業を行うことが望まれている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には「大きな力・トルクが得られる空気圧アクチュエータなどのアクチュエータと位置と速度の制御に優れた電気モータなどのアクチュエータの両者の優位性を兼ね備え、前者のアクチュエータに高度な制御を必要としない、新たな高機能の駆動装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された駆動装置のように、複数のアクチュエータを搭載して、単純に接続する構成では、装置全体が巨大化・重量化する問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、複数のアクチュエータを搭載して、重作業に要求される把持力と軽作業に要求される制御性を兼ね備えながらも、小型化・軽量化することが可能な、ロボットハンドおよびロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、指部と、指部を駆動する駆動部とを備えたロボットハンドにおいて、駆動部は、複数の駆動アクチュエータと、複数の駆動アクチュエータの駆動力を指部へ伝達する動力伝達部とを備え、駆動力伝達部は、複数の駆動アクチュエータのうちの一部の駆動アクチュエータと指部との間を連結する連結状態と、一部の駆動アクチュエータと指部との間の連結を解除する解除状態と、を選択的に切り替えることによって、一部の駆動アクチュエータの駆動力の指部への伝達および遮断を切り替える切り離し機構を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一部のアクチュエータについては対象物を把持したときのみ指部へ駆動力を伝達することにより、動作に必要なストロークを大幅に削減できる。そのため、小型軽量でありながら把持力と制御性に優れたロボットハンドを実現することができる。これにより、人工筋肉のような非常に軽量だが収縮率が小さなアクチュエータも十分使用可能となるため、さらなる軽量化も期待できる。
また、単一のロボットハンドによる軽作業と重作業との両立が可能となり、ロボットシステムのコスト削減、スループット向上、作業スペース削減が期待できる。
【0009】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1に係るロボットハンドの概略構成を示す図。
【
図2】本発明の実施例1に係るロボットハンドの具体例を示す斜視図。
【
図3A】
図2のロボットハンドの指部の内部構成を示す表側から見た斜視図。
【
図3B】
図2のロボットハンドの指部の内部構成を示す裏側から見た斜視図。
【
図4】
図2のロボットハンドに用いられている電動モータ、空気圧人工筋肉の制御系構成を示す図。
【
図5A】
図2のロボットハンドの空気圧動力の伝達・遮断を行う様子を説明する図。
【
図5B】
図2のロボットハンドの空気圧動力の伝達・遮断を行う様子を説明する図。
【
図6】
図2のロボットハンドの空気圧動力の伝達の際、歯車が噛み合わず接続に失敗した様子を示した図。
【
図7】
図2のロボットハンドをロボットアームに接続し、長尺物体を把持する際の全体構成を示す図。
【
図8】本発明の実施例1に係るロボットハンドの制御方法を示すフローチャート。
【
図9】本発明の実施例1に係るロボットハンドが長尺物体を把持する前に、歯車が噛み合うよう指を開いた状態を示す図。
【
図10】本発明の実施例2に係るロボットハンドの概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0012】
[実施例1]
図1から
図9を参照して、本発明の実施例1に係るロボットハンドについて説明する。
図1は、本発明の実施例1に係るロボットハンド1の概略構成を示す図である。本実施例のロボットハンド1は、
図1に示すように、互いの間に被把持物を把持することができる複数の指部11A、11Bを有する。なお、指部11A、11Bは同一の構成を有しているため、以下では指部11Aについてのみ説明する。
図2以降についても同様である。また、図面上の煩雑化を避けるため、指部11A以外については、一部の符号の図示を省略する場合がある。
【0013】
指部11Aは、指先部11A4を有し、高出力アクチュエータ11A1及び低出力アクチュエータ11A2に、駆動力伝達部11A22(ここでは間欠歯車11A3及び化学繊維ワイヤ11A14、並びに歯車付き指リンク11A7及び電動モータ用歯車11A9)を介して接続されている。なお、第1のアクチュエータである高出力アクチュエータ11A1は直動アクチュエータ、第2のアクチュエータである低出力アクチュエータ11A2はモータであることが望ましく、本実施例においては、高出力アクチュエータ11A1として空気圧人工筋肉、低出力アクチュエータ11A2として電動モータを採用した場合の例を説明する。
【0014】
駆動力伝達部11A22は、上述の通り間欠歯車11A3及び化学繊維ワイヤ11A14、並びに歯車付き指リンク11A7及び電動モータ用歯車11A9から構成される。低出力アクチュエータ11A2の駆動力は、電動モータ用歯車11A9及び歯車付き指リンク11A7を介して指先部11A4へと伝達される。高出力アクチュエータ11A1の駆動力は、化学繊維ワイヤ11A14及び間欠歯車11A3、並びに歯車付き指リンク11A7を介して指先部11A4へ伝達される。
【0015】
駆動力伝達部11A22の一部である間欠歯車11A3は歯の欠けた部分である間欠部11A23を有しており、同じく駆動力伝達部の一部である歯車付き指リンク11A7は、間欠歯車11A3と噛合される歯車部11A24と、歯車部11A24と指先部11A4との間を連結するリンク11A25と、から構成される。
【0016】
間欠歯車11A3が間欠部11A23を有していることにより、間欠歯車11A3の回転度合に応じて歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との間で、歯車同士が噛合している連結状態及び噛合しない解除状態が切り替えられる。連結状態では高出力アクチュエータ11A1の駆動力は指先部11A4へと伝達されるが、解除状態では伝達されない。
【0017】
換言すると、間欠歯車11A3及び歯車付き指リンク11A7は、間欠歯車11A3に間欠部11A23が設けられていることによって、高出力アクチュエータ11A1と指先部11A4との間の駆動力伝達を遮断することもできる切り離し機構を有している。なお、
図1では、駆動力伝達が遮断されている状態である。従って、低出力アクチュエータ11A2が指先部11A4を大まかに動作させ、大きな力が必要なときにのみ高出力アクチュエータ11A1の駆動力を指先部11A4に伝達すれば、常に駆動力が伝達されている場合に必要とされていた分の高出力アクチュエータ11A1のストロークが不要となる。
【0018】
また、高出力アクチュエータ11A1の駆動力伝達を遮断した状態では、低出力アクチュエータ11A2が高出力アクチュエータ11A1の影響を受けずに指先部11A4を動作させることができる。すなわち、低出力アクチュエータ11A2は、高出力アクチュエータ11A1と接続されていることに起因する抵抗力を受けずに動作することが可能になる。このため、高い制御性と微妙な力加減を要する作業を精度良く行うことができる。さらに、高出力アクチュエータ11A1の駆動力が伝達される状態では、高出力アクチュエータ11A1を動作させつつ、低出力アクチュエータ11A2によって位置・力を調整することで、大きな力を要する作業と高い制御性を要する作業とを両立するような手先作業を行うことも可能である。
【0019】
次に、本実施例に係るロボットハンド1の構成を具体的に説明する。
図2は、本実施例のロボットハンド1のより詳細な構成を示す図である。ロボットハンド1は、複数の指部11A、11B、11Cをまとめて固定し、ロボットハンド1がロボットアームに取り付けられる際の接続部にもなる基部10と、3つの指基部11A5、11B5、11C5と、互いに接近または離反することにより被把持物を把持・解放することができる三本の指部11A、11B、11Cと、を有する。指基部11A5、11B5、11C5は、それぞれ基部10の下面に固定されている。指部11A、11B、11Cは、その指先とは反対側の端部がそれぞれ指基部11A5、11B5、11C5に接続されている。
【0020】
ロボットハンド1はまた、指基部11C5の側面に固定され、その固定部と反対側の端部が駆動力伝達部11A22の化学繊維ワイヤ11A14に接続された空気圧人工筋肉11A1を備える。同様に、ロボットハンド1は、指基部11A5の側面に固定され、その固定部と反対側の端部が駆動力伝達部11B22の化学繊維ワイヤ11B14に接続された空気圧人工筋肉11B1を備える。ロボットハンド1はさらに、指基部11B5の側面に固定され、その固定部と反対側の端部が駆動力伝達部11C22の化学繊維ワイヤ11C14に接続された空気圧人工筋肉11C1を備える。
【0021】
空気圧人工筋肉11A1は、ゴム等の弾性材のチューブからなり、圧縮空気などの流体を供給して加圧することで、軸方向に収縮し、人間の筋肉のような牽引力を発生させるものである。なお、空気圧人工筋肉の代わりに、油圧人工筋肉や、空気圧シリンダなど、別の直動アクチュエータを高出力アクチュエータ11A1として用いることもできる。
【0022】
続いて、
図3A、3Bを用いて、指部の内部構成を説明する。指部11Aは、指リンク11A6と、指先部11A4とを備える。指リンク11A6は、例えばアルミ製であり、その基端は指基部11A5に回転自在に支持されている。指先部11A4の大部分は例えばアルミ製の複数部品で構成され、指リンク11A6及び歯車付き指リンク11A7のリンク11A25と互いに回転自在になるように接続されている。歯車付き指リンク11A7のリンク11A25は、基端が指基部11A5に回転自在に支持され、先端が指先部11A4に回転自在に支持されている。リンク11A25の基端には、歯車部11A24がリンク11A25と一体に回転可能に固定されている。歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24は、その中心軸がリンク11A25の基端を支持する支持軸と同軸上に位置するようにリンク11A25に固定されており、間欠歯車11A3の回動によって回動駆動されるように構成される。また、歯車部11A24は、指先部11A4の移動に従動して回動する従動歯車でもある。
【0023】
上記のように指基部11A5、指リンク11A6、歯車付き指リンク11A7、及び指先部11A4が互いに回転自在になるように接続されていることにより、これらは、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24が回動する面と同一平面上で揺動する、1自由度の平行リンクを構成している。具体的には、歯車付き指リンク11A7のリンク11A25は、歯車部11A24の回動によって駆動される駆動リンクであり、指先部11A4は中間リンクであり、指リンク11A6は従動リンクである。
【0024】
また、指部11Aは、指先部11A4に接続された指先柔軟部11A8を備える。指先柔軟部11A8は、例えばウレタンゴム等の軟質樹脂製であり、指部11A、11B、11Cが互いに接近する方向に移動して把持対象物と接触した後、大きな摩擦力によって重量物の把持を可能とする。
【0025】
なお、指部の数は3本に限定せず、2本や5本などでもよい。また、空気圧人工筋肉11A1は各指部に接続されているのではなく、1本が全ての指部に接続されていてもよい。また、指先部11A4の内部にロードセルを搭載したり、指先柔軟部11A8に触覚センサを搭載したりするなど、力を計測できるセンサを搭載してもよい。
【0026】
さらに指部11Aは、歯車付き指リンク11A7及び電動モータ用歯車11A9を介して、指基部11A5に固定された電動モータ11A2に接続されている。電動モータ11A2は、例えばブラシレスDCモータであり、電動モータ用歯車11A9を介して、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を回動駆動し、指先部11A4へ駆動力を伝達させる。電動モータ11A2には遊星歯車減速機が搭載されているが、減速比は1:10程度と小さく、高速かつトルクロスが小さいため、細かい力制御や位置制御を好適に実現できる。また、電動モータ11A2には回転数センサが搭載されており、回転数を計測することができる。これにより、歯車付き指リンク11A7の回転角度や、指先部11A4の位置を計測することができる。
【0027】
さらに指部11Aは、歯車付き指リンク11A7を介して、間欠歯車11A3に接続されている。間欠歯車11A3の間欠部11A23は、空気圧人工筋肉11A1が駆動されていないときは、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24と対向して互いに噛合せず、空気圧人工筋肉11A1を駆動したときにのみ、歯車部11A24と噛合するような位置関係になるように設計されている。間欠部11A23の、間欠歯車11A3における配置位置及び全円周に占める割合は特に限定されないが、空気圧人工筋肉11A1が駆動して収縮を開始すると歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24と噛合され、かつ間欠歯車11A3の歯部分の円周が空気圧人工筋肉11A1の収縮限界長未満にならないように設計されることが好ましい。なお、間欠歯車11A3の代わりに、歯の一部欠けた間欠ラックギヤを用いてもよい。
【0028】
上述の通り、空気圧人工筋肉11A1は、指部11Aへと接続されているが、より具体的には、空気圧人工筋肉11A1には化学繊維ワイヤ11A14の一端が接続されている。そして、化学繊維ワイヤ11A14の他端は、例えばABS樹脂製の仲介プーリ11A12および11A13を介して間欠歯車11A3に接続されている。このようにして、空気圧人工筋肉11A1の駆動力(収縮力)が化学繊維ワイヤ11A14を介して間欠歯車11A3を含む駆動力伝達部11A22へと伝達され、指先部11A4が駆動される。
【0029】
また、
図3Bに示すように、間欠歯車11A3の裏面にはねじりばね11A11が設けられている。ねじりばね11A11は、間欠歯車11A3裏面の中心近傍に固定された案内棒にコイル部分を挿入して固定されている。そしてその腕部を、間欠歯車11A3の裏面に設けられた突起11A26と、指基部11A5に固定された例えばジュラコン製のストッパ11A10とに掛けて使用する。これにより、間欠歯車11A3へ、常に間欠歯車11A3の間欠部11A23の位置に歯車部11A24の歯部が配置されるような方向のトルク(
図3Aにおいて反時計回り)を発生させている。
【0030】
図4は、電動モータ11A2、11B2、11C2、および空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1の制御部を説明する概略図である。電動モータ11A2には、モータドライバ21A、21B、21Cが接続され、さらに各モータドライバに、制御コンピュータ22が接続されている。モータドライバ21A、21B、21Cは、制御コンピュータ22の指令に基づいて、電動モータ11A2、11B2、11C2の電流、速度、位置などを制御することができる。
【0031】
また、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1は、それぞれ圧力制御弁23A、23B、23Cを介し、空気圧縮機24へ接続されている。この構成に限らず、途中に急速排気弁や減圧弁、タンク等他の空気圧機器を挟んでもよい。また圧力制御弁ではなく、流量制御弁やオンオフ弁など、その他の電磁弁を用いてもよい。圧力制御弁23A、23B、23Cは、制御コンピュータ22に接続されており、制御コンピュータ22の指令に基づき、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1に加える圧力を制御することができる。
【0032】
モータドライバ21A、21B、21Cと、制御コンピュータ22と、圧力制御弁23A、23B、23Cと、空気圧縮機24とは、ロボットハンド1に搭載されていてもよいし、ロボットハンド1の外部にあってもよい。
【0033】
以上の構成による、ロボットハンド1の具体的な動作について説明する。
図5A、
図5Bは、空気圧人工筋肉11A1の駆動力が伝達・遮断される仕組みを説明する図である。まず、
図5Aに示すように、化学繊維ワイヤ11A14の先端に接続された空気圧人工筋肉11A1を駆動していないとき、すなわち空気圧人工筋肉11A1に圧力が印加されておらず収縮していない状態においては、ねじりばね11A11によって間欠歯車11A3は反時計回りのトルクを受けているが、間欠歯車11A3の裏面に設けられた突起11A26が、指基部11A5に固定されたストッパ11A10と接触することによって、間欠歯車11A3はこれ以上反時計回り方向には回転しない。
【0034】
この状態では、間欠歯車11A3の間欠部11A23が歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24と対向している。即ち、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24が間欠歯車11A3の間欠部11A23に配置されている状態である。従って、間欠歯車11A3と歯車部11A24とは噛み合っておらず、空気圧人工筋肉11A1からの空気圧駆動力が遮断されている状態である(符号11A18参照)。換言すると、間欠歯車11A3と、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との間の連結が解除状態であることにより、空気圧人工筋肉11A1の駆動力は指先部11A4に対して遮断されている。
【0035】
この状態では、電動モータ11A2のみによって、指先部11A4を駆動することができる。電動モータ11A2は低減速比で設計しているため、高速な指動作や、精密な位置・力制御が可能である。
【0036】
次に、空気圧人工筋肉11A1に圧力入力を指令して駆動すると、空気圧人工筋肉11A1が収縮し、化学繊維ワイヤ11A14を介して間欠歯車11A3へ時計回りのトルクが与えられる。すると、
図5Bに示すように、間欠歯車11A3の歯部と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24とが噛み合い、駆動力が指先部11A4まで伝達される(符号11A19参照)。この状態では、指先部11A4へは空気圧人工筋肉11A1による非常に大きな駆動力が伝達され、重量物を把持・移動することが可能になる。また、このときに、電動モータ11A2を同時に用いることで、応答の早いフィードバック制御を行い、応答性の悪い空気圧人工筋肉11A1のみでは難しい精密な位置・力制御も行うこともできる。
【0037】
その後、大きな力が不要となれば、空気圧人工筋肉11A1の圧力入力を切る。すると、空気圧人工筋肉11A1の収縮力がなくなり、ねじりばね11A11の反時計回りのトルクによって
図5Aに示す元の状態に戻ろうとする力が働く。しかし、この状態ではまだ間欠歯車11A3の歯部と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24とは噛合状態であり、間欠歯車11A3は動かない。そこで、電動モータ11A2によって、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を時計回りに回転させ、指先部11A4を開く。すると、同時に間欠歯車11A3も反時計回りに回転し、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との間の連結状態が解除される。これにより間欠歯車11A3は回転自在となり、ねじりばね11A11によって与えられる反時計回りのトルクによって、
図5Aの状態へ戻る。このように、本実施例においては、ねじりばね11A11を使用しているため、駆動力接続・切断の専用のアクチュエータは不要であるが、駆動力伝達・遮断のための別のアクチュエータを搭載してもよい。その場合にはねじりばねを配置する必要はなくなる。
【0038】
上記のように、本実施例においては、空気圧人工筋肉11A1の駆動と駆動停止とが切り替えられえることによって、間欠歯車11A3と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との間の連結状態11A19と解除状態11A18とが切り替えられる構成になっている。そして、連結状態11A19では、間欠歯車11A3と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24とは一体に回転可能であることにより空気圧人工筋肉11A1の駆動力が指先部11A4へと伝達される。一方、解除状態11A18では、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24は間欠歯車11A3に対して自在に回転可能であるため、電動モータ11A2のみで指先部11A4を駆動することが可能になっている。
【0039】
上記では、空気圧人工筋肉11A1を駆動したときに、間欠歯車11A3の歯車部分と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24とが不具合なく噛み合う場合を示した。しかしながら場合によっては、
図6に示すように、空気圧人工筋肉11A1を駆動したときに、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24と間欠歯車11A3の歯先同士が接触し、適切に噛み合わない状況もあり得る(符号11A20)。この状況で空気圧人工筋肉11A1に大きな圧力を入力しても、歯車付き指リンク11A7へトルクは伝達されない。さらに、間欠歯車11A3と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との間で大きな摩擦力が発生するため、電動モータ11A2を用いたとしても、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を回転させることができない。
【0040】
これを回避する手段の一つとしては、予め間欠歯車11A3の歯車部分と噛み合わせ可能な歯車部11A24の角度範囲を幾つか設定することが挙げられる。そして、電動モータ11A2に搭載された回転数センサを用いて、歯車付き指リンク11A7を噛み合う角度へ制御してから、空気圧人工筋肉11A1を駆動すればよい。このとき、必ずしも全ての角度範囲を予め設定する必要はなく、ある範囲を入力しておき、その歯車付き指リンク11A7の歯のピッチ倍数分だけずらした範囲を設定することもできる。
【0041】
他の回避手段として、最初に空気圧人工筋肉11A1に小さな圧力(例えば0.1MPa)を入力して間欠歯車11A3を回転させることが挙げられる。すると、
図6のように歯車付き指リンク11A7と間欠歯車11A3とが噛み合わない状態であったとしても、その間に発生する摩擦は小さい。従って、電動モータ11A2によって歯車付き指リンク11A7を反時計回りに回転させることができて、両歯車を噛み合わせることができる。その後、空気圧人工筋肉11A1に大きな圧力(例えば0.6MPa)を入力すれば、指先部11A4へ大きな駆動力を伝達することができる。
【0042】
以上の空気圧動力の接続・切断は、指部11B、11Cでも同様のことが行える。本実施例の場合、指部11A、11B、11Cのそれぞれを独立させて以上の動作を行うことができる。
【0043】
次に、
図7から
図9を用いて、ロボットハンド1によって重量物体を運搬する方法の一例を説明する。
図7は、本実施例における装置全体の様子を示している。上記の実施例に係るロボットハンド1が、ロボットアーム3の先端へ搭載されており、長尺物体4を運搬する。ロボットアーム3によってロボットハンド1は位置・姿勢を自由に制御することが可能である。ロボットアーム3は、3軸スライダのような、位置や姿勢を制御するほかの機械でもよい。長尺物体4は、例えば鉄製のレールであり、長さ1m、重量10kgである。
【0044】
図8は、長尺物体4を運搬するシーケンスを示したフローチャートである。開始時には空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1には圧力入力を指令しておらず、歯車付き指リンク11A7、11B7、11C7の歯車部11A24、11B24、11C24と間欠歯車11A3、11B3、11C3は噛み合っていない。
【0045】
まず、ロボットアーム3を用いてロボットハンド1を把持位置まで移動させる(S11)。次のフローは、長尺物体4の位置を正確に把握しているかどうかで分岐する(S12)。正確に把握していない場合は、電動モータ11A2、11B2、11C2を駆動し、ロボットハンド1の指部11A、11B、11Cを少しずつ閉じていく(S13)。
【0046】
逐次指部11A、11B、11Cと長尺物体4との接触を確認し、全ての指部11A、11B、11Cと長尺物体4との接触を検出した時点で閉じるのを停止する(S14)。接触は、電動モータ11A2、11B2、11C2のエンコーダ値の変化が停止したことや、電動モータ11A2、11B2、11C2に流れる電流値が増大したことによって検出可能である。
【0047】
指部11A、11B、11Cと長尺物体4との間の接触を確認してから閉じるのを停止する代わりに、電動モータ11A2、11B2、11C2の出力を制御し、単に一定時間指を閉じる指令を送り続け、ある程度の時間が経過した時に停止させる方法でもよい。また、指部を閉じる動作を停止せず、全ての指部と長尺物体4との間の接触を確認後、電動モータ11A2、11B2、11C2の出力を大きくして、そのまま長尺物体をひきずってしまってもよい。
【0048】
その後、長尺物体4を把持・運搬するために空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1を駆動する。そのために、間欠歯車11A3、11B3、11C3の歯部と歯車付き指リンク11A7、11B7、11C7とを適切に噛合させる必要がある。そこで、全ての指部11A、11B、11Cについて長尺物体4との接触を確認した後、電動モータ11A2、11B2、11C2を用いて、間欠歯車11A3、11B3、11C3と、歯車付き指リンク11A7、11B7、11C7の歯車部11A24、11B24、11C24との噛み合いが可能なところまで全ての指部11A、11B、11Cを少し開き(S15)、
図9に示すように、指部11A、11B、11Cを、長尺物体4と少し離した状態とする。
【0049】
その後、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1を駆動して、指先部11A4に大きな把持力を伝達させて長尺物体4を把持する(S17)。その後、把持物をロボットアームによって運搬し(S18)、空気圧人工筋肉の駆動力を遮断した後(S19)、電動モータで指を開いて長尺物体4から離す(S110)ことで、長尺物体4の運搬作業が完了する。
【0050】
上記とは異なり、ステップS12で、長尺物体4の位置及びその把持位置を正確に把握している場合には、指部11A、11B、11Cの中心位置または重心位置と長尺物体4の把持位置とが一致するようにロボットアーム3を移動させることが可能になる。この場合には、ロボットアーム3を移動させた後、指部11A、11B、11Cを、物体にぎりぎり接触せず、間欠歯車11A3の歯部と歯車付き指リンク11A7とが噛み合う位置まで電動モータによって駆動する(S16)。その後の動作は上記と同様である。
【0051】
この把持シーケンスを想定した場合の、本発明の特徴である、駆動力の伝達・遮断を切り替える切り離し機構を採用する利点を二つ挙げる。一つ目は、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1のストロークが大幅に削減できることである。仮に空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1を、切り離し機構なしに常に接続していた場合、指部11A、11B、11Cが開閉するためのストロークを空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1に確保する必要がある。
【0052】
一般に空気圧アクチュエータは、力を出すためには受圧面積を広げ、ストロークを増やすためには、全長を長くする必要がある。そのため、巨大になり、重量が増してしまうため、ロボットハンドへの搭載が難しい。特に空気圧人工筋肉を用いる場合は、収縮量が最大で30%しかないため、ストロークを確保するために長い人工筋肉が必要である。
【0053】
しかし、本発明の切り離し機構を採用すると、電動モータの駆動のみで操作可能な場合には空気圧アクチュエータの駆動力を遮断することによってその分のストロークを確保する必要がなくなる。そして、空気圧アクチュエータの駆動が必要な場合にのみ空気圧アクチュエータを駆動(収縮)すればよいため、ストロークを小さく抑えることができ、コンパクト・軽量になることから、ロボットハンドへの搭載が十分可能となる。
【0054】
二つ目の利点として、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1の力を最大限に発揮することができる。一般的に、空気圧人工筋肉は、縮めば縮むほど収縮力が弱まる特性を有している。そのため、仮に空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1を、切り離し機構を用いず常に指部と接続していた場合、電動モータの駆動に伴って空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1も縮んでしまう。ゆえに、把持対象物に近づくまで指を閉じたときには空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1がある程度縮んでおり、すでに収縮力が低下している。
【0055】
そのため、十分に把持力を発揮することができず、重量物を把持することができない。しかし、本発明の切り離し機構を採用し、上述したシーケンスで物体を把持すると、いかなる大きさの物体に対しても空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1が僅かに収縮した状態で把持することができるため、大きな把持力を発揮することができる。
【0056】
なお、本実施例においては、空気圧アクチュエータとして空気圧人工筋肉を採用している。この利点として、空気圧人工筋肉は一般的に用いられる空気圧シリンダ等よりも軽量・低コストであることが挙げられる。ロボットハンドは重量が重くなると、ペイロードがその分低下してしまうため、軽量であることが求められる。しかし、空気圧人工筋肉を用いれば、軽量に空電ハイブリッド駆動を実現することができる。なお、油圧、水圧でも人工筋肉が存在し、それらを用いた構成でも同様の利点を得ることができる。油圧、水圧は、周辺機器が大型化してしまうが、空気圧より更に大きな力が発揮できるという利点がある。
【0057】
また、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1の駆動力が完全に遮断した状態では、電動モータ11A2、11B2、11C2それぞれのみで指先部11A4、11B4、11C4を駆動することが可能になる。従って、電動モータ11A2、11B2、11C2の高い制御性能により、指先部11A4、11B4、11C4を高精度で駆動したり、繊細な被把持物を傷つけることなく把持したりすることもできる。
【0058】
また、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1の駆動力を伝達した状態では、空気圧人工筋肉11A1、11B1、11C1によって大きな力を発揮しつつ、電動モータ11A2、11B2、11C2によって位置・力のフィードバック制御を行うことで、大きな力と制御性能を両立することもできる。
【0059】
[実施例2]
図10を参照して、本発明の実施例2によるロボットハンド1を説明する。実施例2によるロボットハンド1について、実施例1によるロボットハンド1と異なる点を主に説明する。実施例1に挙げたロボットハンド1は、指部11A、11B、11Cを閉じる方向に大きな力を発揮することができるが、開く方向には大きな力を発揮することはできない。
【0060】
従って、例えば重量部品の穴に指部11A、11B、11Cを挿入し、開く方向の力で保持するといったことはできない。しかしながら、本実施例による構成を採用することで、これを解決することが可能になる。
図10は、本実施例によるロボットハンド1の、指部11Aの内部構造を示す概略図である。実施例1のロボットハンド1と同様に、化学繊維ワイヤ11A14は、一端は空気圧人工筋肉11A1に接続され、仲介プーリ11A13を介して、間欠歯車11A3に巻き付けられ、終端は間欠歯車11A3へ接続されている。
【0061】
本実施例による指部11Aは、空気圧人工筋肉11A1に加えて、別の空気圧人工筋肉11A16に、化学繊維ワイヤ11A17を介して接続されている。化学繊維ワイヤ11A17は、一端は空気圧人工筋肉11A16に接続され、仲介プーリ11A13を介して、間欠歯車11A3に巻き付けられ、終端は間欠歯車11A3に接続されている。すなわち、空気圧人工筋肉11A1と、11A16とが拮抗しながら、間欠歯車11A3を互いに反対方向に回動駆動する構成となっている。
【0062】
この状態で空気圧人工筋肉11A1に圧力を入力すると、実施例1と同様に、間欠歯車11A3が時計回りに回転し、歯車付き指リンク11A7とが噛み合って駆動力が伝達され、指先部11A4が閉じる方向に大きな力を発揮できる。
【0063】
空気圧人工筋肉11A1による大きな駆動力が不要となった場合に実施例1においては、空気圧人工筋肉11A1の駆動力を遮断するために、ねじりばね11A11を用いていた。すなわち、ねじりばね11A11によって間欠歯車11A3に反時計回り方向のトルクを与え、間欠歯車11A3を、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との連結状態(
図5Bの11A19参照)から、解除状態(
図5Aの11A18参照)に戻していた。しかし、本実施例では空気圧人工筋肉11A16を駆動することで空気圧人工筋肉11A16が収縮し、間欠歯車11A3に反時計回り方向にトルクを与えることができる。これによって間欠歯車11A3を元の位置(解除状態)に戻すことができるため、ねじりばねは不要である。
【0064】
また、空気圧人工筋肉11A1と11A16とは間欠歯車11A3に対して拮抗駆動を構成するため、両者の圧力を調整することにより、間欠歯車11A3の角度を容易に制御できる。これはセンサを搭載してフィードバック制御をする必要はなく、圧力を記録しておき、毎回同じ圧力入力を行えばよい。
【0065】
また、駆動力遮断状態から、今度は空気圧人工筋肉11A16に圧力を入力すると、間欠歯車11A3が反時計回りに回転し、歯車付き指リンク11A7と動力接続される。このとき、指部11Aが開く方向に大きな力を発揮することができる。そのため、例えば重量物に設けられた穴部にロボットハンドを挿入し、指部が開く方向の力によって重量物を保持・移動することが可能になる。
【0066】
指部11B、11Cは、本実施例に係る指部11Aと同様の構成となっていてもよいし、実施例1で説明した構成をしていてもよい。実施例1とは逆に、指部が開く方向のみに大きな力を発揮する構成となっていてもよい。
【0067】
以上で説明した本発明の実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)ロボットハンド1は、指部11Aと、指部11Aを駆動する駆動部とを備え、駆動部は、複数の駆動アクチュエータ11A1、11A2と、複数の駆動アクチュエータの駆動力を指部へ伝達する駆動力伝達部11A22とを備える。駆動力伝達部11A22は、複数の駆動アクチュエータ11A1、11A2のうちの駆動アクチュエータ11A1と指部11Aとの間を連結する連結状態11A19と、駆動アクチュエータ11A1と指部11Aとの間の連結を解除する解除状態11A18と、を選択的に切り替えることによって、駆動アクチュエータ11A1の駆動力の指部11Aへの伝達および遮断を切り替える切り離し機構11A21を備える。
【0068】
これにより、駆動アクチュエータ11A1については対象物を把持する時のみ駆動力伝達部に接続することにより、動作に必要なストロークを大幅に削減できる。そのため、小型軽量でありながら把持力と制御性に優れたロボットハンドを実現することができる。
【0069】
(2)切り離し機構11A21は、駆動アクチュエータ11A1の駆動と駆動停止とが切り替えられることによって連結状態11A19と解除状態11A18とが切り替えられる。このため、切り離し機構を動作させるための部材を別個に用意する必要がなくなり、コスト・スペースの増加を抑制することが可能になる。
【0070】
(3)切り離し機構11A21は、駆動アクチュエータ11A1によって回動駆動される間欠歯車11A3と、指部11Aの移動によって回動される歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24と、を有し、連結状態11A19では間欠歯車11A3の歯部と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24とが噛み合い、間欠歯車11A3と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24とが一体に回転可能となり、解除状態11A18では間欠歯車11A3の間欠部11A23に歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24が配置され、間欠歯車11A3に対して歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24が自在に回転可能となる。このため、切り離し機構を、複雑な工程や高コストをかけることなく、駆動力伝達部を構成する二つの歯車の形状を調整することで容易に得られる。
【0071】
(4)複数の駆動アクチュエータは、間欠歯車11A3を回動駆動させる第1駆動アクチュエータ11A1と、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を回動駆動させる第2駆動アクチュエータ11A2と、を含み、第1駆動アクチュエータ11A1は、第2駆動アクチュエータ11A2よりも大きい駆動力を有する。これにより、駆動力の大きい駆動アクチュエータ11A1は駆動させるときのみ動力伝達部に接続するため、余計なストロークを確保する必要がなくなり、装置の巨大化・重量化を抑制できる。
【0072】
(5)ロボットハンド1はさらに、第1駆動アクチュエータ11A1と第2駆動アクチュエータ11A2とを駆動する制御コンピュータ22をさらに有し、制御コンピュータ22は、第1駆動アクチュエータ11A1により間欠歯車11A3を回動駆動させて切り離し機構を解除状態11A18とし、第2駆動アクチュエータ11A2により歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を回動駆動させて指部11Aを対象物体に対向する位置まで接近させ、第1駆動アクチュエータ11A1により間欠歯車11A3を回動駆動させて切り離し機構を連結状態11A19とし、指部11Aを対象物体に接触させて対象物体を把持する制御を行う。これにより、対象物体を把持する直前までは、駆動力の比較的小さい第2駆動アクチュエータ11A2によってのみ指部11Aを駆動するため、高い精度での操作が可能になる。
【0073】
(6)第1駆動アクチュエータは、収縮により間欠歯車11A3を時計回り方向に回動させて間欠歯車11A3の歯部を歯車付き指リンク11A7に噛合させ、歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を回動させる空気圧人工筋肉11A1であり、第2駆動アクチュエータは、駆動により歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24を回動させる電動モータ11A2である。本発明に係るロボットハンドは、上記実施例で説明したような駆動力切り離し機構を有するため、このように、これまではロボットハンドに搭載することが難しかった空気圧人工筋肉を採用することが可能になっている。
【0074】
(7)切り離し機構11A21は、空気圧人工筋肉11A1が収縮状態から伸長した場合に、間欠歯車11A3を、反時計回り方向に回動駆動させて間欠歯車11A3の歯部と歯車付き指リンク11A7の歯車部11A24との間の噛合を解除する戻りばね11A11を有する。これにより、切り離し機構の連結状態と解除状態との切り替えを、アクチュエータ等を追加することなく、最低限のコストで実現できる。
【0075】
(8)駆動部は、収縮により、間欠歯車11A3を反時計回り方向に回動駆動させる空気圧人工筋肉11A16をさらに有する。これにより、指部11Aが閉じる方向だけでなく開く方向にも大きな駆動力を発揮するため、例えば重量物に設けられた穴部に指部を挿入し、指部を開いてその駆動力で重量物を保持することが可能になる。
【0076】
(9)ロボットシステムは、ロボットアーム3と、当該ロボットアーム3の先端に接続された、上記実施例で説明したロボットハンド1を備える。これにより、上記実施例で説明したロボットハンドを、工場等の現場レベルで使用することが可能になる。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、上記の実施例は本発明に対する理解を助けるために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…ロボットハンド、 11A1、11B1、11C1、11A16…空気圧人工筋肉、 11A2、11B2、11C2…電動モータ、 11A3、11B3、11C3…間欠歯車、 11A7、11B7、11C7…歯車付き指リンク、 11A11、11B11、11C11…ねじりばね、 11A18…解除状態、 11A19…連結状態、 11A21…切り離し機構、 11A22…駆動力伝達部、 11A23…間欠部、 11A24…歯車部 22…制御コンピュータ