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特開2023-34514自己修復型配線、導電性粒子分散不揮発性ゲルおよび自己修復型配線の自己修復方法
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  • 特開-自己修復型配線、導電性粒子分散不揮発性ゲルおよび自己修復型配線の自己修復方法 図1
  • 特開-自己修復型配線、導電性粒子分散不揮発性ゲルおよび自己修復型配線の自己修復方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034514
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】自己修復型配線、導電性粒子分散不揮発性ゲルおよび自己修復型配線の自己修復方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/24 20060101AFI20230306BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
H05K3/24 D
H05K1/09 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140780
(22)【出願日】2021-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [ウェブサイト]令和2年10月20日掲載 https://shunkosha1.sakura.ne.jp/mnm2020/ [発 表]令和2年10月27日発表、第11回マイクロ・ナノ工学シンポジウム
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 英治
(72)【発明者】
【氏名】末次 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千里
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴範
【テーマコード(参考)】
4E351
5E343
【Fターム(参考)】
4E351AA02
4E351BB01
4E351BB31
4E351CC40
4E351DD04
4E351DD05
4E351DD06
4E351DD10
4E351DD52
4E351EE03
4E351EE12
4E351EE25
4E351GG20
5E343AA02
5E343AA32
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB28
5E343ER51
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】水溶液で電気配線を覆った構造を有する従来の自己修復型配線における課題、具体的には、長期使用を考慮した場合の水溶液の蒸発、水溶液の「封止」が必要、導電性粒子が均一分散せずに沈降しやすい、といった課題を解決する。
【解決手段】電気配線が配設された自己修復型配線であって、不揮発性溶媒と導電性粒子とを含む導電性粒子分散不揮発性ゲルが電気配線に接する構造を備える自己修復型配線。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気配線が配設された自己修復型配線であって、
不揮発性溶媒と導電性粒子とを含む導電性粒子分散不揮発性ゲルが前記電気配線に接する構造を備える、自己修復型配線。
【請求項2】
請求項1に記載の自己修復型配線であって、
前記不揮発性溶媒の20℃における蒸気圧が7Pa以下である、自己修復型配線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自己修復型配線であって、
前記不揮発性溶媒が、エチレングリコールを含む、自己修復型配線。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の自己修復型配線であって、
前記ゲルが、ヒドロキシプロピルセルロースを含む、自己修復型配線。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の自己修復型配線であって、
JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される前記導電性粒子分散不揮発性ゲルの網目構造のモード径が700nm以上800nm以下である、自己修復型配線。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の自己修復型配線であって、
JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される前記導電性粒子分散不揮発性ゲルの網目構造のメジアン径が750nm以上850nm以下である、自己修復型配線。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の自己修復型配線であって、
前記導電性粒子が金属粒子である、自己修復型配線。
【請求項8】
請求項7に記載の自己修復型配線であって、
前記金属粒子が、銅、金、銀およびアルミニウムからなる群より選択される1種または2種以上の金属粒子である、自己修復型配線。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の自己修復型配線であって、
前記導電性粒子分散不揮発性ゲルを構成するポリマーの濃度が0.1質量%以上5.0質量%以下である、自己修復型配線。
【請求項10】
不揮発性溶媒と導電性粒子を含む導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
自己修復型配線に用いられる導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項11】
請求項10に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
前記不揮発性溶媒が、エチレングリコールを含む、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項12】
請求項10または11に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
前記不揮発性ゲルが、ヒドロキシプロピルセルロースを含む、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される網目構造のモード径が700nm以上800nm以下である、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか1項に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される網目構造のメジアン径が750nm以上850nm以下である、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか1項に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
前記導電性粒子が金属粒子である、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項16】
請求項15に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
前記金属粒子が、銅、金、銀およびアルミニウムからなる群より選択される1種または2種以上の金属粒子である、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項17】
請求項10~16のいずれか1項に記載の導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
前記金属分散不揮発性ゲルを構成するポリマーの濃度が0.1質量%以上5.0質量%以下である、導電性粒子分散不揮発性ゲル。
【請求項18】
電気配線が配設された自己修復型配線の自己修復方法であって、
前記電気配線に生じたクラックは、不揮発性溶媒と導電性粒子とを含む導電性粒子分散不揮発性ゲルと接しており、
前記電気配線に電圧を印加することにより、前記クラックは、前記導電性粒子分散不揮発性ゲル中の前記導電性粒子により架橋修復される、自己修復型配線の自己修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復型配線、導電性粒子分散不揮発性ゲルおよび自己修復型配線の自己修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気配線にクラック(断線)が生じた場合に、自己修復を可能とする技術の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、導電性粒子を分散させた流動体で電気配線を覆う構造を備えた自己修復型配線が記載されている。この自己修復型配線においては、電気配線の一部にクラックが発生したとしても、電圧を印加することによる導電性粒子の誘電泳動により、クラックが修復される。
(誘電泳動とは、印加した電界とそれにより誘起される電気双極子との相互作用により粒子に力が働く現象で、不均一な交流電場を印加した際に発生する電気力線場と物質の分極との相互作用により物質が力(誘電泳動力)を受けて移動する現象である。)
特許文献1では、具体的には、導電性粒子を分散させた流動体として、金ナノ粒子を分散した水溶液が用いられている。金ナノ粒子の粒径は20~200nm程度であり、粒子径が大きいほど低い印加電圧で自己修復する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/125944号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された自己修復型配線は、「水溶液」で電気配線を覆った構造を有する。このため、長期使用を考慮した場合の水溶液の蒸発、水溶液の「封止」が必要、導電性粒子が均一分散せずに沈降しやすい、といった点で改善の余地がある。
【0006】
本発明者らは、上記事項の改善のため、様々な検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、
電気配線が配設された自己修復型配線であって、
不揮発性溶媒と導電性粒子を含む導電性粒子分散不揮発性ゲルが前記電気配線に接する構造を備える、自己修復型配線
が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
不揮発性溶媒と導電性粒子を含む導電性粒子分散不揮発性ゲルであって、
自己修復型配線に用いられる導電性粒子分散不揮発性ゲル
が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
電気配線が配設された自己修復型配線の自己修復方法であって、
前記電気配線に生じたクラックは、不揮発性溶媒と導電性粒子を含む導電性粒子分散不揮発性ゲルと接しており、
前記電気配線に電圧を印加することにより、前記クラックは、前記導電性粒子分散不揮発性ゲル中の前記導電性粒子により架橋修復される、自己修復型配線の自己修復方法
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、従来の、水溶液で電気配線を覆った構造を有する自己修復型配線で問題となりうる、長期使用を考慮した場合の水溶液の蒸発、水溶液の「封止」が必要、導電性粒子が均一分散せずに沈降しやすい、といった点が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自己修復型配線の一例を模式的に表した図である。
図2】実施例で用いた実験回路を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0015】
<自己修復型配線>
図1は、本実施形態の自己修復型配線(自己修復型配線1)を模式的に示した図である。
自己修復型配線1は、例えば、基板2上に電気配線3を配置し、その電気配線3と接する(好ましくは電気配線3を覆う)ように、不揮発性溶媒と導電性粒子4とを含む導電性粒子分散不揮発性ゲル5(以下、単に「ゲル5」とも表記する)を配置した構造であることができる。
電気配線3の例えば両端には、自己修復型配線1の外部に設けた電源15から電気配線3に電圧を印加するための端子部8が設けられている。
【0016】
基板2は、通常、絶縁材料で構成される。基板2は、ガラス基板、樹脂基板などであることができる。自己修復型配線1の用途等により、基板2は可撓性/伸縮性を有してもよい。
電気配線3は、典型的には金、銅、銅合金などの金属配線である。
端子部8は、好ましくは、電気配線3への電圧印加を可能にし、クラック7の部分にのみ電界を生じさせるものである。
【0017】
図1には示していないが、自己修復型配線1は、ゲル5を保護するための保護材を備えていてもよい。
【0018】
自己修復型配線1では、ゲル5の存在により、電気配線3に生じたクラック7の修復が可能となる。電気配線3にクラック7が生じても、端子部8を利用して電気配線3に適切な電圧を印加すれば、誘電泳動により凝集した導電性粒子4がクラック7を架橋して、電気配線3を修復することが可能となる。この際、外部からの加熱などは基本的に不要である。
電圧が印加された際に導電性粒子4に働く力の大きさは、特許文献1の段落0041~0052の記載に基づき理論的に見積もることが可能である。
【0019】
自己修復型配線1の特徴の1つは、不揮発性溶媒と導電性粒子4とを含むゲル5を備えることである。このことにより、自己修復型配線1は、「水溶液」で電気配線を覆った構造の自己修復型配線と比べて、(i)長期使用を考慮した場合の蒸発の問題が実質上ない、(ii)水溶液の「封止」が不要、(iii)導電性粒子が均一分散しやすく沈降しにくい、などのメリットを有する。
また、ゲル5は柔軟であるため、ゲル5を用いることで、フレキシブルな自己修復型配線1を構成することができるというメリットもある。
【0020】
以下、特にゲル5、すなわち、不揮発性溶媒と導電性粒子を含み、自己修復型配線に好適に用いられる導電性粒子分散不揮発性ゲルについて具体的に説明する。
【0021】
・ゲル5の網目を形成するポリマー
ゲル5は、不揮発性溶媒を吸収して膨潤し、かつ、導電性粒子4を分散可能なものである限り特に限定されない。ゲル5は、通常、溶媒に不溶の三次元網目構造を持つ。
準備の容易性、電圧が印加されたときの導電性粒子4の動きやすさなどから、ゲル5の網目構造を構成するポリマーは、ヒドロキシプロピルセルロースを含むことが好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースとは、水溶性のセルロース誘導体であり、通常、セルロースを水酸化ナトリウムなどの塩基で処理した後、プロピレンオキサイドなどのエーテル化剤と反応させて得られる。ヒドロキシプロピルセルロースは、例えば富士フイルム和光純薬社から購入することができる。
原料のヒドロキシプロピルセルロースは、室温でもゲル化するが、加熱することでゲル化するまでの時間を短縮することができる。加熱時間は例えば50~75℃とすることができる。
【0022】
ゲル5を構成するポリマーの濃度は、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上1.0質量%以下である。ポリマーの濃度がある程度大きいことにより、導電性粒子4の分散性がより高まると考えられる。また、ポリマーの濃度が大きすぎないことにより、電圧が印加されたときの導電性粒子4の移動性がより高まると考えられる。
【0023】
・不揮発性溶媒
「長期使用を考慮した場合の蒸発の問題」を一層抑える観点から、不揮発性溶媒の20℃における蒸気圧は、7Pa以下であることが好ましい。
不揮発性溶媒として好ましく用いられる溶媒は、エチレングリコールである。
【0024】
・導電性粒子4
導電性粒子4は、典型的には金属粒子、具体的には、銅、金、銀およびアルミニウムからなる群より選択される1種または2種以上の金属粒子である。導電性粒子4は、例えば古河ケミカルズ社から購入可能である。
ちなみに、特許文献1においては、導電性粒子として具体的には金ナノ粒子が用いられている。一方、本実施形態においては、例えば銅粒子など、金よりも「安価な」導電性粒子を用いても、良好な自己修復性能を得ることができる。
【0025】
レーザー回折・散乱法により求められる導電性粒子4のメジアン径は、ゲル内での分散性や、電圧を印加した時の移動性などの観点から、例えば0.5~1.0μmとすることができる。
【0026】
ちなみに、ゲル5を用いることで、比較的大きな径の導電性粒子4を用いても、導電性粒子4の沈降が抑えられる。本発明者の知見として、導電性粒子4の径が大きいほど、低電圧でのクラック修復が可能となる。つまり、従来のように水溶液を用いるのではなくゲル5を用いることで、低電圧でのクラック修復と、粒子の沈降抑制とを高いレベルで両立しやすい。
【0027】
ゲル5中の導電性粒子4の量(濃度)は、好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上0.5質量%以下である。ある程度多くの量の導電性粒子4がゲル5中に含まれることで、クラックの修復性が一層高まると考えられる。また、導電性粒子4の量が多すぎないことで、ショートの発生などの不具合が低減されると考えられる。
【0028】
・ゲル5の網目構造について
本実施形態においては、ゲル5の網目構造、具体的には、ゲル5の網目の「大きさ」「粗密の度合い」が適切に設計されることが好ましい。これにより、電圧印加時の導電性粒子4の移動性と、ゲル5内の導電性粒子4の均一分散性とが高いレベルで両立される。
【0029】
一例として、JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される、ゲル5の網目構造のモード径は、好ましくは700nm以上800nm以下である。
また、JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される、ゲル5の網目構造のメジアン径は、好ましくは750nm以上850nm以下である。
これらの値は、導電性粒子4が分散したゲル5を測定することで求められる値である。
【0030】
ゲル5の網目の「大きさ」「粗密の度合い」は、後述する「ゲル5の製造方法」において、用いるゲル化剤の量(濃度)、ゲル化剤と溶媒との混合物の粘度、などを調整することで制御することができる。
【0031】
・ゲル5の製造方法/自己修復型配線の製造方法
ゲル5は、例えば以下のような手順で製造することができる。
(1)まず、ゲル化剤と溶媒とを混合する。ゲル化剤としては前述のヒドロキシプロピルセルロースを好ましく挙げることができる。溶媒としては前述のエチレングリコールを好ましく挙げることができる。
(2)(1)で得られた混合液に、導電性粒子を入れ、攪拌する。
(3)(2)で得られた混合物を、攪拌しながら、50~75℃程度に加熱する。加熱時間は、(2)で得られた混合物が適度にゲル化する限り特に限定されず、例えば5~15分程度である。なお、加熱なし(室温)であっても、十分な時間をかければ混合物はゲル化する。
(4)加熱および攪拌を停止し、静置する。
(5)必要に応じ、導電性粒子の解砕および/または混錬を目的として、(4)で得られたゲルをロールミルに通す。
【0032】
例えば、電気配線が配設された基板の、少なくとも電気配線が存在する箇所に、上記のようにして得られたゲルを載置することで、自己修復型配線を得ることができる。
【0033】
<自己修復型配線の自己修復方法>
図1に示されるような、クラック7を有する電気配線3と接するゲル5を備える電気配線において、電気配線3に電圧を印加する。この電圧の印加により、クラック7は、ゲル5中の導電性粒子4により架橋修復される。すなわち、クラック7が「修復」される
【0034】
印加する電圧の大きさは、導電性粒子4が誘電泳動により移動する限り特に限定されない。典型的には交流電圧であり、電圧V=Vampsinωt(ω:各速度、t:時間)の三角関数で表される交流電圧において、電圧振幅Vampが5~150Vの間で適宜調整される。なお、誘電泳動の理論に基づけば、印加する電圧は、直流電圧であっても交流電圧であってもよい。
【0035】
ちなみに、印加する電圧が交流電圧である場合、印加周波数を適切に調整することで、導電性粒子4の移動性がより高まり、クラック7の修復により好ましい場合がある。具体的には、印加周波数が小さめのほうが、交流電気浸透などの影響が小さく、導電性粒子4の移動性がより良好となったり、クラック近傍に導電性粒子4が集まりやすくなったりする傾向がある。本発明者らの知見として、印加周波数fは、好ましくは5~50kHz、より好ましくは10~20kHzである。
【0036】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0037】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0038】
<ゲルの作成>
まず、以下の材料を準備した。
・ゲル化剤:ヒドロキシプロピルセルロース(富士フイルム和光純薬社製)
・溶媒:エチレングリコール(富士フイルム和光純薬社製)
・導電性粒子:古河ケミカルズ社製の金属銅粉(品番:FMC-SB、レーザー回折・散乱法により測定されたメジアン径D50:0.7μm)
【0039】
まず、ゲル化剤と溶媒とを十分に混合して混合液を得た。ゲル化剤と溶媒の量は、表1に記載の通りとした。
次に、その得られた混合液に、導電性粒子20mgを入れ、攪拌して混合物を得た。
得られた混合物を、攪拌しながら、50~75℃で、5~15分加熱した。これにより混合物はゲルとなった。
加熱停止後、得られたゲルを室温になるまで静置した。そして、室温になったゲルを、ロールミル(アイメックス社製BR-150V)に4回通した。
以上により、導電性粒子分散不揮発性ゲルを得た。
【0040】
【表1】
【0041】
得られた導電性粒子分散不揮発性ゲルを拡大観察した。導電性粒子(金属銅粉)が十分均一にゲル内に分散していることが確認された。
【0042】
<ゲルの評価>
(ゲルの網目の大きさ)
実施例2および5で得られたゲルについて、JIS Z 8826に準拠した光子相関法により測定される、網目構造のモード径およびメジアン径を求めた。測定装置としては、HORIBA社製のSZ-100V2を用いた。測定セルにサンプルを投入した際に気泡が混入した場合は脱泡処理を行った。
結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
(溶媒の蒸発等によるゲルの劣化の有無)
実施例1~7で得られたゲルを、室温で1カ月放置した。放置の前後でのゲルの粘度を、レオメータを用い、室温、回転数5rpmで測定した。結果を表3に示す。表3の数値の単位はPa・sである。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示されている結果から、実施例1~7で得られたゲルの、溶媒の蒸発等に起因するゲルの劣化は十分に抑えられていると言える。
また、実施例1~7で得られたゲルの粘度は水に比べて十分に大きな値であり、流動性が抑えられていた。このことは、実施例1~7で得られたゲルを用いて自己修復型配線を構成する際、ゲルの「封止処理」を必ずしも行わなくてよいことを意味する。
【0047】
<自己修復性の評価>
(評価方法)
まず、図2に模式的に示される実験回路を組んだ。
電気配線としては、配線幅20μm、配線厚み500nmの配線に、幅10μmの断線部が設けられた金配線を準備した。
外部抵抗の大きさは18kΩであった。
【0048】
金配線の少なくとも断線部を覆うように、電気配線上に上記で得たゲルを載置した。そして、印加電圧80V(ピーク・ピーク値)、印加周波数100kHzの条件で交流電圧を印加した。
【0049】
(結果)
実施例1~7のいずれのゲルを用いた場合でも、マイクロスコープを通じて、断線部に導電性粒子が移動することが確認された。つまり、不揮発性溶媒と導電性粒子とを含む導電性粒子分散不揮発性ゲルを用いることにより、電気配線に発生したクラックを修復可能であることが示された。
【0050】
(追加評価:導電性粒子の移動速度)
一部の実施例においては、図2に示したマイクロスコープを利用して導電性粒子の移動を動画撮影し、導電性粒子の移動速度(n個の導電性粒子について計測された最大速度の平均値)を求めた。結果を表4に示す。表4には移動速度の標準偏差も示した。
【0051】
【表4】
【0052】
表3に示されるとおり、導電性粒子の移動性という点では、ゲルを構成するポリマーの濃度が低いほうが好ましい結果が得られた。
【0053】
また、実施例1(ゲル化剤濃度0.5%)の例において、印加電圧を60V(ピーク・ピーク値)に変更し、印加周波数を10kHz、32kHz、100kHzまたは320kHzにして、導電性粒子の移動速度(n個の導電性粒子について計測された最大速度の平均値)を求めた。結果を表5に示す。表5には移動速度の標準偏差も示した。
【0054】
【表5】
【0055】
<導電性粒子の径の検討>
実施例2(ゲル化剤濃度1%、導電性粒子のメジアン径D50:0.7μm)を基準として、導電性粒子(金属銅粉)のメジアン径D50を、1μm、3μmまたは4μmに変更したゲルを作成した。これらゲルを用いて、上記<自己修復性の評価>に記載のようにして、電圧印加時の導電性粒子の移動性をマイクロスコープで観察した。ただし、印加周波数は100kHzではなく10kHzとした。
【0056】
観察の結果、メジアン径D50が小さいほど、より多くの導電性粒子が断線部近傍に集まる(電界にトラップされる)傾向がみられた。この結果は、メジアン径D50が小さいほど、ゲルの「網目」を移動しやすかったことを表していると解釈される。
【0057】
<導電性粒子の濃度の検討>
実施例2(ゲル化剤濃度1%、導電性粒子の使用量20mg)を基準として、導電性粒子(金属銅粉)の使用量を、200mgまたは5mgに変更したゲルを作成した。これらゲルを用いて、上記<自己修復性の評価>に記載のようにして、電圧印加時の導電性粒子の移動性をマイクロスコープで観察した。
【0058】
観察の結果、導電性粒子の使用量が多いほど、より多くの導電性粒子が断線部近傍に集まる(電界にトラップされる)傾向がみられた。
【0059】
また、上記で導電性粒子(金属銅粉)の使用量を200mgにした例で、印加周波数を100kHzから32kHzに変えて評価した。すると、印加周波数100kHzの場合よりも多くの導電性粒子が断線部に付着する傾向が観察された。この結果から、印加周波数がある程度小さいほうが、自己修復性が高まるといえる。
【符号の説明】
【0060】
1 自己修復型配線
2 基板
3 電気配線
4 導電性粒子
5 導電性粒子分散不揮発性ゲル(ゲル)
7 クラック
8 端子部
15 電源
図1
図2