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特開2023-3454部分放電信号検出システム、診断システム、部分放電信号検出方法および検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003454
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】部分放電信号検出システム、診断システム、部分放電信号検出方法および検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20230110BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20230110BHJP
   G01R 31/50 20200101ALI20230110BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/00
G01R31/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104542
(22)【出願日】2021-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】伴野 幸造
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栄也
【テーマコード(参考)】
2G014
2G015
2G036
【Fターム(参考)】
2G014AA15
2G014AA23
2G014AB04
2G014AB06
2G014AC15
2G014AC18
2G014AC19
2G015AA07
2G015AA12
2G015BA02
2G015BA04
2G015BA06
2G015CA01
2G036AA13
2G036AA20
2G036AA24
2G036BA02
2G036BA03
2G036CA06
2G036CA08
2G036CA10
(57)【要約】
【課題】交流電力の周期に対応する部分放電信号を検出することができる部分放電信号検出システム、診断システム、部分放電信号検出方法および検出装置を提供する。
【解決手段】実施形態の計測装置は、部分放電センサとサンプリング部と送信部とを備える。部分放電センサは、電力機器から放出される部分放電信号を計測する。サンプリング部は、計測値を第1の周期でサンプリングして放電信号値の時系列を生成する。送信部は、放電信号値の時系列を送信する。実施形態によれば抽出装置は、電力入力部と周期算出部と受信部と抽出部とを備える。電力入力部は、電力機器に供給される交流電源から交流電力を受け入れる。周期算出部は、交流電力の周期を算出する。受信部は、計測装置から放電信号値の時系列を受信する。抽出部は、算出した周期と第1の周期とに基づいて、放電信号値の時系列から交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力機器に取り付けられ、部分放電信号を計測する計測装置と、
前記計測装置が計測した部分放電信号の計測値の時系列から、前記電力機器に供給される交流電力の周期に対応する部分時系列を抽出する抽出装置と
を備え、
前記計測装置は、
電力機器から放出される部分放電信号を計測する部分放電センサと、
前記部分放電センサによる計測値を第1の周期でサンプリングすることで放電信号値の時系列を生成するサンプリング部と、
前記放電信号値の時系列を送信する送信部と
を備え、
前記抽出装置は、
前記電力機器に供給される交流電力の電力源から前記交流電力を受け入れる電力入力部と、
前記交流電力の周期を算出する周期算出部と、
前記計測装置から前記放電信号値の時系列を受信する受信部と、
前記算出した周期と前記第1の周期とに基づいて、前記放電信号値の時系列から、前記交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出する抽出部と
を備える
部分放電信号検出システム。
【請求項2】
前記抽出装置は、
前記交流電力に係る電圧の計測値を第2の周期でサンプリングすることで電圧値の時系列を生成するサンプリング部を備え、
前記周期算出部は、前記サンプリングされた電圧値の時系列に基づいて前記電圧の一周期における電圧値のサンプル数を計測し、
前記抽出部は、前記電圧値のサンプル数に、前記第2のサンプリング周期を乗算し、前記第1のサンプリング周期で除算することで放電信号値のサンプル数を求め、前記放電信号値の時系列から前記放電信号値のサンプル数の前記部分時系列を抽出する
請求項1に記載の部分放電信号検出システム。
【請求項3】
前記送信部は、前記交流電力の交渉周期に前記交流電力の周期の誤差に鑑みた余裕数を加算した時間に係る前記放電信号値の時系列を送信する
請求項1または請求項2に記載の部分放電信号検出システム。
【請求項4】
前記送信部は、前記交流電力の交渉周期に前記第1の周期および前記第2の周期の誤差に鑑みた余裕数を加算した時間に係る前記放電信号値の時系列を送信する
請求項2に記載の部分放電信号検出システム。
【請求項5】
前記抽出装置は、
前記交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を1周期に係る複数の単位時系列に分割し、前記複数の単位時系列を加算した強調波形を生成するデータ生成部
を備える請求項1から請求項4の何れか1項に記載の部分放電信号検出システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の部分放電信号検出システムと、
前記部分放電信号検出システムが検出した部分時系列に基づいて前記電力機器の状態を診断する診断装置
を備える診断システム。
【請求項7】
電力機器に取り付けられた計測装置が、前記電力機器から放出される部分放電信号を計測するステップと、
前記計測装置が、前記部分放電信号の計測値を第1の周期でサンプリングすることで放電信号値の時系列を生成するステップと、
計測装置が、前記放電信号値の時系列を送信するステップと、
前記計測装置と別個に設けられた抽出装置が、前記電力機器に供給される交流電力の電力源から前記交流電力を受け入れるステップと、
前記抽出装置が、前記交流電力の周期を算出するステップと、
前記抽出装置が、前記計測装置から前記放電信号値の時系列を受信するステップと、
前記抽出装置が、前記算出した周期と前記第1の周期とに基づいて、前記放電信号値の時系列から、前記交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出するステップと
を有する部分放電信号検出方法。
【請求項8】
電力機器に取り付けられ、部分放電信号を計測する計測装置から放電信号値の時系列を受信する受信部と、
前記電力機器に供給される交流電力の電力源から前記交流電力を受け入れる電力入力部と、
前記交流電力の周期を算出する周期算出部と、
前記算出した周期と前記第1の周期とに基づいて、前記放電信号値の時系列から、前記交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出する抽出部と
を備える検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は部分放電信号検出システム、診断システム、部分放電信号検出方法および検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力機器の経年劣化によって、電力機器の表面や内部の絶縁体の絶縁性能が低下する。絶縁性能の低下が生じた箇所からは、部分放電が発生する。絶縁性能の低下が進行すると、電力機器に絶縁破壊が起こる可能性がある。そのため、電力機器の状態を監視するために電力機器から発生する部分放電信号を計測し、部分放電信号に基づく状態診断が行われる。
【0003】
部分放電は、電力機器に供給される交流電力の電圧位相と相関を有することが知られている。そのため、部分放電信号に基づいて電力機器の状態診断を行うために、交流電力の周期に対応する部分放電信号を検出することが望まれる。
【0004】
電力機器に取り付けられ部分放電信号を計測する計測装置と、計測された部分放電信号に基づいて状態診断を行う診断装置とは別個に設けられることがある。この場合に、診断装置は、計測装置から受信した部分放電信号と交流電力の電圧位相との関係を特定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/190260号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、交流電力の周期に対応する部分放電信号を検出することができる部分放電信号検出システム、診断システム、部分放電信号検出方法および検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の部分放電信号検出システムは、計測装置と、抽出装置とを持つ。計測装置は、電力機器に取り付けられ、部分放電信号を計測する。抽出装置は、計測装置が計測した部分放電信号の計測値の時系列から、電力機器に供給される交流電力の周期に対応する部分時系列を抽出する。計測装置は、部分放電センサと、サンプリング部と、送信部とを備える。部分放電センサは、電力機器から放出される部分放電信号を計測する。サンプリング部は、部分放電センサによる計測値を第1の周期でサンプリングすることで放電信号値の時系列を生成する。送信部は、放電信号値の時系列を送信する。抽出装置は、電力入力部と、周期算出部と、受信部と、抽出部とを備える。電力入力部は、電力機器に供給される交流電力の電力源から交流電力を受け入れる。周期算出部は、交流電力の周期を算出する。受信部は、計測装置から放電信号値の時系列を受信する。抽出部は、算出した周期と第1の周期とに基づいて、放電信号値の時系列から、交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る診断システムの構成を示す概略図。
図2】実施形態に係る計測装置の構成を示す概略図。
図3】実施形態に係る診断装置の構成を示す概略図。
図4】実施形態に係る電圧信号と参照電圧との関係を示す図。
図5】実施形態に係る計測装置のコンピュータの動作を示すフローチャート。
図6】実施形態に係る診断装置のコンピュータの動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の部分放電信号検出システム、診断システム、部分放電信号検出方法および検出装置を、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る診断システム100の構成を示す概略図である。診断システム100は、対象電力機器200の部分放電信号を検出し、対象電力機器200の状態を診断する。対象電力機器200は、例えば変圧器や回転機などの電力機器である。診断システム100は、部分放電信号検出システムの一例である。
対象電力機器200は、箱体210と機器本体220とを備える。機器本体220は、接地された箱体210に収容されている。
【0010】
診断システム100は、計測装置110と診断装置150とを備える。計測装置110は、対象電力機器200の箱体210に取り付けられる。計測装置110は、箱体210に収容されている機器本体220との間の浮遊容量を介して箱体210の表面に形成される電位を計測する。診断装置150は、計測装置110の計測値に基づいて、対象電力機器200の状態の診断を行う。なお、1台の診断装置150は、複数の計測装置110から計測値を取得し、複数の対象電力機器200の状態を診断してもよい。
【0011】
図2は、実施形態に係る計測装置110の構成を示す概略図である。
計測装置110は、部分放電センサ111、データ生成回路112、コンピュータ113、無線通信機114を備える。計測装置110は、構成の簡易化のため電池によって稼働する。
【0012】
部分放電センサ111は、箱体210の表面に形成される電位を計測する。部分放電センサ111は、計測した電位に応じたアナログ信号を生成する。部分放電センサ111は、例えば過渡接地電圧検出センサである。
【0013】
データ生成回路112は、部分放電センサ111が出力するアナログ信号に基づいて、部分放電信号を量子化する。部分放電センサ111とデータ生成回路112とは同軸ケーブルなどを介して接続される。データ生成回路112は、アンプ回路121、フィルタ回路122、AD変換回路123、クロック回路124を備える。アンプ回路121は、部分放電センサ111が出力したアナログ信号を増幅する。アンプ回路121は、低雑音アンプによって実現される。フィルタ回路122は、クロック回路124のクロック信号の周波数の1/2以下の信号を通過させることで、不要な高周波信号を除去する。つまりフィルタ回路122は、ローパスフィルタである。AD変換回路123は、クロック回路124が出力するクロック信号に従ったタイミングでフィルタ回路122が出力する信号を量子化する。クロック回路124は、第1周波数でクロック信号を出力する。クロック回路124が出力するクロック信号の周期を第1周期とすると、AD変換回路123は、第1周期ごとに量子化した部分放電信号の計測値を出力する。以下、部分放電信号の計測値(標本)を放電信号値ともいう。
【0014】
コンピュータ113は、プロセッサ131、メインメモリ132、ストレージ133、DMAコントローラ134、インタフェース135を備える。
プロセッサ131は、計測プログラムをストレージ133から読み出してメインメモリ132に展開し、当該計測プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ131は、計測プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ132に確保する。プロセッサ131の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0015】
DMAコントローラ134は、プロセッサ131の指示に従って、データ生成回路112が生成した放電信号値を逐次メインメモリ132に記録する。プロセッサ131は、DMAコントローラ134によるデータの転送アドレスや、無線通信機114によるデータ送信の転送サイズの設定を行う。
インタフェース135は、周辺機器とのデータの伝送のために、伝送用のデータ変換を行う。データ生成回路112および無線通信機114は、インタフェース135を介してコンピュータ113に接続される。
【0016】
無線通信機114は、コンピュータ113による送信指示に基づいて放電信号値の時系列を無線通信により診断装置150に送信する。無線通信機114は、無線通信に係るプロトコルに基づいて放電信号値の時系列のデータ分割およびヘッダの付加を伴うフレーミング処理を行う。無線通信機114は、フレーミングされた放電信号値の時系列を所定の通信方式で送信する。無線通信機114は、送信部の一例である。
【0017】
図3は、実施形態に係る診断装置150の構成を示す概略図である。
診断装置150は、変圧器151、電源回路152、サンプル数演算回路153、無線通信機154、コンピュータ155を備える。
【0018】
変圧器151は、対象電力機器200と同一の外部交流電源から電力供給を受け、降圧した電力を出力する。変圧器151は電力入力部の一例である。
電源回路152は、変圧器151が出力した電力を直流に変換し、診断装置150の各処理部に供給する。
【0019】
サンプル数演算回路153は、変圧器151が出力する電力波形を解析し、計測装置110による放電信号値の時系列における交流電力の1周期に対応するサンプル数を演算する。サンプル数演算回路153は、AD変換回路161、クロック回路162、クロス検出回路163、カウンタ回路164、乗算回路165、除算回路166を備える。AD変換回路161は、クロック回路162が出力するクロック信号に従ったタイミングで、変圧器151が出力する電圧信号を量子化する。クロック回路162は、第2周波数でクロック信号を出力する。クロック回路162が出力するクロック信号の周期を第2周期とすると、AD変換回路161は、第2周期ごとに電圧信号を量子化する。以下、量子化された電圧信号を電圧値という。AD変換回路161は、サンプリング部の一例である。
【0020】
クロス検出回路163は、AD変換回路161が生成した電圧値を監視し、電圧値が所定の参照電圧Vref未満から参照電圧Vref以上になった第1タイミングと、電圧値が参照電圧Vref以上から参照電圧Vref未満になった第2タイミングとを検出する。図4は、実施形態に係る電圧信号と参照電圧Vrefとの関係を示す図である。カウンタ回路164は、クロック回路162が出力するクロック信号に基づいて、第1タイミングtから第2タイミングtまでのクロック数と、第2タイミングtから次の第1タイミングtまでのクロック数とをカウントする。カウンタ回路164は、第1タイミングから第2タイミングまでのクロック数と、第2タイミングから次の第1タイミングまでのクロック数の和を電源電力の1周期に係るカウント数として出力する。参照電圧Vrefは、電圧信号の1周期における最低限の範囲内の値に設定される。カウンタ回路164は、周期算出部の一例である。
乗算回路165は、カウンタ回路164が算出したカウント数に、クロック回路162のクロック信号の周期(第2周期)を乗算する。この計算は、カウント数を第2周波数で除算することと等価である。
除算回路166は、乗算回路165が出力したカウント数を、クロック回路124のクロック信号の周期(第1周期)で除算する。この計算は、カウント数に第1周波数を乗算することと等価である。除算回路166は計算結果の整数部を出力する。除算回路166の出力結果は、計測装置110による放電信号値の時系列における交流電力の1周期に対応するサンプル数となる。
【0021】
無線通信機154は、計測装置110から無線通信により放電信号値の時系列を格納したフレームを受信し、ヘッダの除去およびデータの結合を伴うデフレーミング処理を行い、得られた放電信号値の時系列をコンピュータ155に出力する。無線通信機154は、受信部の一例である。
【0022】
コンピュータ155は、プロセッサ171、メインメモリ172、ストレージ173、DMAコントローラ174、インタフェース175を備える。
プロセッサ171は、診断プログラムをストレージ173から読み出してメインメモリ172に展開し、当該診断プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ171は、診断プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ172に確保する。
【0023】
DMAコントローラ174は、プロセッサ171の指示に従って、無線通信機154が受信した放電信号値の時系列をメインメモリ172に記録する。
インタフェース175は、周辺機器とのデータの伝送のために、伝送用のデータ変換を行う。サンプル数演算回路153および無線通信機154は、インタフェース175を介してコンピュータ155に接続される。
【0024】
またプロセッサ171は、メインメモリ172に記録された放電信号値の時系列から、交流電力の周期のN倍に係る部分時系列を抽出し、部分時系列に基づいて対象電力機器200の状態を診断する。なおNは、1以上の整数である。
【0025】
図5は、実施形態に係る計測装置110のコンピュータ113の動作を示すフローチャートである。
プロセッサ131は、DMAコントローラ134によってメインメモリ132に記録される放電信号値のサンプル数を計算する(ステップS1)。プロセッサ131は、メインメモリ132に記録された放電信号値のサンプル数が、予め計算された送信閾値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。送信閾値は、以下の式(1)によって求められる。
【0026】
【数1】
【0027】
式(1)においてDthは送信閾値である。T0,nは、対象電力機器200に供給される交流電力の周期の定格値である。T1,nは、クロック回路124の周期の定格値(第1周期)である。Derrは、交流電力の公称誤差、クロック回路124の周波数の公称誤差f1,err、クロック回路162の周波数の公称誤差f2,errに基づく余裕数である。例えば、余裕数Derrは、以下の条件を満たすように設定される。
【0028】
【数2】
【0029】
放電信号値のサンプル数が送信閾値Dth以上でない場合(ステップS2:NO)、放電信号値のサンプル数の監視を継続する。他方、放電信号値のサンプル数が送信閾値Dth以上である場合(ステップS2:YES)、プロセッサ131は、DMAコントローラ134にメインメモリ132に記録された放電信号値の時系列を無線通信機114に伝送する指示を出力する(ステップS3)。DMAコントローラ134は、無線通信機114に伝送した放電信号値の時系列をメインメモリ132から削除する。また、プロセッサ131は、無線通信機114に放電信号値の時系列を診断装置150に送信する指示を出力する(ステップS4)。これにより、無線通信機114は、無線通信により放電信号値の時系列を診断装置150に送信する。なお、送信閾値Dthは交流電力の公称誤差に基づいて決定されるため、交流電力の周期が変動したとしても、送信される放電信号値の時系列は、少なくともN周期より長い期間に係る時系列となる。
【0030】
図6は、実施形態に係る診断装置150のコンピュータ155の動作を示すフローチャートである。
プロセッサ171は、DMAコントローラ174に無線通信機154が受信した放電信号値の時系列をメインメモリ172に記録させる指示を出力する(ステップS21)。次に、プロセッサ171は、サンプル数演算回路153から交流電源1周期分のサンプル数を取得する(ステップS22)。ここで取得されるサンプル数は、放電信号値の時系列の受信直前の周期についてサンプル数演算回路153が計算したサンプル数である。なお、サンプル数演算回路153によって演算されるサンプル数Dは、以下の式(3)で示される。
【0031】
【数3】
【0032】
式(3)においてCは、カウンタ回路164が出力するカウント値である。カウント値Cは、以下の式(4)で示される。
【0033】
【数4】
【0034】
は、交流電力の実際の周期であり、Tは、クロック回路162の周期(第2周期)である。上記式(3)、式(4)から、サンプル数Dが、周期Tの交流電力を第1周期でサンプリングしたときのサンプル数とほぼ一致することが分かる。なお、交流電力の周期の誤差は、クロック回路の周期の誤差と比較して有意に大きい。
【0035】
プロセッサ171は、メインメモリ172に記録されたDth個の放電信号値からなる時系列から、N×D個の放電信号値からなる部分時系列を抽出する(ステップS23)。プロセッサ171は、部分時系列を抽出する抽出部の一例である。プロセッサ171は、抽出した部分時系列をN個に分割することでN個の単位時系列を生成し(ステップS24)、単位時系列の総和を求めることで交流電源1周期の長さの強調波形を得る(ステップS25)。部分放電は交流電力の位相に対応して発生するため、N個の単位時系列それぞれにおいて部分放電のピーク位相は略一致する。したがって、単位時系列の総和である強調波形は、部分放電が強調された波形となる。プロセッサ171は、強調波形を生成するデータ生成部の一例である。
【0036】
プロセッサ171は、強調波形を高速フーリエ変換することで、周波数スペクトルに変換する(ステップS26)。プロセッサ171は、周波数ごとのスペクトル強度とステップS22で得た交流電源1周期分のサンプル数との組み合わせに基づいて、対象電力機器200の状態を診断する(ステップS27)。つまり、プロセッサ171は、診断装置の一例である。プロセッサ171は、例えば機械学習によって得られた学習済みモデルを用いて状態を求める。
【0037】
具体的には、プロセッサ171は、以下の手順で学習された学習済みモデルを用いることができる。機械学習モデルとしては、例えばニューラルネットワークモデルを用いることができる。
予め、実験によってノイズのない環境で所望の欠陥を生じた機器から部分放電信号を得ておく。また予め実験によって対象電力機器200の設置個所における環境ノイズ信号を得ておく。部分放電信号と環境ノイズ信号を加算した信号から生成された強調波形の周波数ごとのスペクトル強度と交流電源1周期分のサンプル数の組み合わせを入力サンプルとし、欠陥種を示すワンホットベクトルを出力サンプルとする学習用データセットを用意する。ワンホットベクトルは、N個の欠陥状態と1つの「欠陥無し」状態を示すN+1次元のベクトルであって、1つの要素のみが1であり、他の要素が0であるベクトルである。上記学習用データセットを用いて、機械学習モデルのパラメータを、入力サンプルが入力されたときに出力サンプルの値が出力されるよう更新することで、学習済みモデルを得ることができる。プロセッサ171は、強調波形から得られた周波数ごとのスペクトル強度と交流電源1周期分のサンプル数の組み合わせを学習済みモデルに入力し、得られたベクトルのうち最も値の大きい要素に対応する状態を出力する。
【0038】
プロセッサ171による計算結果は、表示装置に出力され、表示される。
【0039】
このように、上述の実施形態によれば、計測装置110は、部分放電センサ111が計測した計測値を第1の周期でサンプリングすることで放電信号値の時系列を生成し、放電信号値の時系列を診断装置150に送信する。また診断装置150は、対象電力機器200に供給される交流電力の周期を求め、算出した周期と第1の周期とに基づいて、放電信号値の時系列から交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出する。これにより、上述の実施形態に係る診断システム100は、交流電力の周期に対応する部分放電信号を検出することができる。
【0040】
特に、上述の実施形態によれば、診断システム100は計測装置110と診断装置150との同期をとることなく、部分放電信号を検出することができる。これにより、計測装置110と診断装置150との時計合わせが不要となり、計測装置110と診断装置150とを独立した装置として制御することができる。また、計測装置110において交流電力の周期を求める必要がないため、計測装置110を電池駆動とし、小型化することができる。なお、他の実施形態に係る計測装置110は、対象電力機器200と同じ交流電力によって駆動するものであってもよい。また、他の実施形態に係る計測装置110と診断装置150とは、有線通信によって接続されてもよい。
【0041】
また、上述の実施形態によれば、計測装置110は、交流電力の定格周期に、交流電力の周期の誤差およびクロック回路の周期の誤差に鑑みた余裕数を加算した時間に係る放電信号値の時系列を送信する。これにより、交流電力の周期やクロック回路の周期の変動によらず、十分なデータサイズの放電信号値の時系列を診断装置150に供給することができる。なお、他の実施形態に係る計測装置110は、交流電力の周期の誤差またはクロック回路の周期の誤差によらずに放電信号値の時系列を送信してもよい。例えば計測装置110は、計測された放電信号値を逐次診断装置150に送信してもよい。
【0042】
また、上述の実施形態に係る診断装置150は、交流電力の周期のN倍の時間に係る部分時系列を1周期に係るN個の単位時系列に分割し、N個の単位時系列を加算した強調波形を生成する。これにより、診断装置150は、部分放電が強調された波形を得ることができる。なお、他の実施形態に係る診断装置150は、N個の単位時系列の平均を求めることで強調波形を生成してもよい。また、他の実施形態に係る診断装置150は、N個の単位時系列の平均を求めることで強調波形を生成してもよい。交流電力の1周期に係る部分時系列を抽出し、強調波形を生成しなくてもよい。
【0043】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、部分放電センサ111が計測した計測値を第1の周期でサンプリングすることで放電信号値の時系列を生成し、放電信号値の時系列を診断装置150に送信する計測装置110と、対象電力機器200に供給される交流電力の周期を求め、算出した周期と第1の周期とに基づいて、放電信号値の時系列から交流電力の周期の整数倍の時間に係る部分時系列を抽出する診断装置150とを持つことにより、交流電力の周期に対応する部分放電信号を検出することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0045】
他の実施形態においては、コンピュータ113およびコンピュータ155は、図2、3に示す構成に加えて、または代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ131またはプロセッサ171によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
100…診断システム 110…計測装置 111…部分放電センサ 112…データ生成回路 113…コンピュータ 114…無線通信機 121…アンプ回路 122…フィルタ回路 123…AD変換回路 124…クロック回路 131…プロセッサ 132…メインメモリ 133…ストレージ 134…DMAコントローラ 135…インタフェース 150…診断装置 151…変圧器 152…電源回路 153…サンプル数演算回路 154…無線通信機 155…コンピュータ 161…AD変換回路 162…クロック回路 163…クロス検出回路 164…カウンタ回路 165…乗算回路 166…除算回路 171…プロセッサ 172…メインメモリ 173…ストレージ 174…DMAコントローラ 175…インタフェース 200…対象電力機器 210…箱体 220…機器本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6