(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034613
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】圧縮機、および空気調和機
(51)【国際特許分類】
F04C 29/06 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
F04C29/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140935
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 亮
(72)【発明者】
【氏名】工藤 慎也
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA04
3H129AA05
3H129AA13
3H129AA32
3H129AB03
3H129AB11
3H129BB22
3H129BB23
3H129BB25
3H129CC04
3H129CC15
3H129CC16
3H129CC17
3H129CC25
3H129CC28
3H129CC30
(57)【要約】
【課題】回転軸が曲げ振動することで生じる騒音を低減可能な圧縮機および該圧縮機を備えた空気調和機を提供する。
【解決手段】圧縮機は、シリンダと、回転軸と、軸受と、吐出弁機構とを備える。シリンダは、冷媒を圧縮する。回転軸は、シリンダに配置される偏心部を有する。軸受は、シリンダにおける回転軸の軸心方向の一面を規定するフランジ部と、フランジ部と連続して回転軸と同心の筒状に延びて回転軸を回転自在に支持するボス部とを有する。吐出弁機構は、シリンダで圧縮された冷媒が所定の吐出圧力に達した際に変形して開き、所定方向に長手の吐出弁と、吐出弁が開いた際にそれ以上の変形を抑制する弁押さえとを有し、フランジ部に配置される。弁押さえは、吐出弁の長手方向に沿って長手の本体部と、本体部に対して吐出弁の長手方向と交差する方向に張り出して軸受に固定される固定部とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮するシリンダと、
前記シリンダに配置される偏心部を有する回転軸と、
前記シリンダにおける前記回転軸の軸心方向の一面を規定するフランジ部と、前記フランジ部と連続して前記回転軸と同心の筒状に延びて前記回転軸を回転自在に支持するボス部とを有する軸受と、
前記シリンダで圧縮された前記冷媒が所定の吐出圧力に達した際に変形して開き、所定方向に長手の吐出弁と、前記吐出弁が開いた際にそれ以上の変形を抑制する弁押さえとを有し、前記フランジ部に配置された吐出弁機構と、を備え、
前記弁押さえは、前記吐出弁の長手方向に沿って長手の本体部と、前記本体部に対して前記吐出弁の長手方向と交差する方向に張り出して前記軸受に固定される固定部と、を有する
圧縮機。
【請求項2】
前記固定部は、前記フランジ部に固定される第1の片部を有する
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記固定部は、前記第1の片部と連続して構成されて前記ボス部に固定される第2の片部を有する
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記軸受に取り付けられ、前記シリンダで圧縮された前記冷媒が吐出されるマフラ室を前記フランジ部と前記ボス部との間に形成するマフラをさらに備え、
前記第1の片部は、前記フランジ部にボルトで前記マフラと共締めされる
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記フランジ部には、前記吐出弁機構が組み付けられる凹部が形成され、
前記凹部は、互いの長手方向を交差させて配置された第1の部分と第2の部分とを有し、
前記第1の部分の長手方向は、前記本体部の長手方向と平行をなし、前記第2の部分の長手方向は、前記固定部の長手方向と平行をなす
請求項1から4のいずれか一項に記載の圧縮機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載された圧縮機と、
前記圧縮機に接続された凝縮器と、
前記凝縮器に接続された膨張装置と、
前記膨張装置に接続された蒸発器と、を備える
空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧縮機、および該圧縮機を備えた空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機などの冷凍サイクル装置には、冷媒を圧縮する圧縮機が搭載されている。圧縮機は、主たる要素として、例えば回転軸を回転させる電動機部と、回転軸を介して電動機部と連結された圧縮機構部と、電動機部および圧縮機構部を収容する密閉容器とを備えている。電動機部は、例えばいわゆるインナーロータ型のモータを含み、回転軸に固着された回転子、および密閉容器の内周部に固定された固定子を備えている。回転軸は、クランク部(偏心部)を有している。圧縮機構部は、例えばシリンダ室を形成するシリンダと、回転軸の偏心部に嵌着されてシリンダ室内で偏心回転するローラとを備えている。シリンダ室内は、冷媒の吸込室と圧縮室とにベーンで区画されている。回転軸は、軸受で回転自在に支持されている。軸受は、シリンダ室における回転軸の軸心方向の一面を規定するフランジ部と、フランジ部から筒状に延出するボス部を有している。また、軸受には、圧縮機構部のシリンダで圧縮されて密閉容器内に吐出される冷媒に起因する脈動や騒音を抑制するマフラが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平11-141474号公報
【特許文献2】特開2004-300975号公報
【特許文献3】実開昭63-21791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フランジ部には、シリンダで圧縮された冷媒を密閉容器内へ吐出する吐出口と、該吐出口の開閉を制御する吐出弁機構が設けられている。このため、フランジ部は、吐出弁機構が組み付けられる凹部(掘り込み部)を吐出口の近傍に有している。掘り込み部は、軸受における回転軸の軸心方向の一面、例えばフランジ部の上面を所定の深さで掘り下げて形成されている。このため、掘り込み部は、フランジ部の他の部位と比べて薄肉となり、軸受において相対的に剛性が低下しやすい。したがって、回転軸が回転した際、例えばフランジ部に対してボス部を傾かせるように、掘り込み部が弾性変形するおそれがある。かかる掘り込み部の変形の程度によっては、軸受による回転軸の支持剛性が低下し、回転軸が曲げ振動して騒音を増大させるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施形態に係る圧縮機は、シリンダと、回転軸と、軸受と、吐出弁機構とを備える。前記シリンダは、冷媒を圧縮する。前記回転軸は、前記シリンダに配置される偏心部を有する。前記軸受は、前記シリンダにおける前記回転軸の軸心方向の一面を規定するフランジ部と、前記フランジ部と連続して前記回転軸と同心の筒状に延びて前記回転軸を回転自在に支持するボス部とを有する。前記吐出弁機構は、前記シリンダで圧縮された前記冷媒が所定の吐出圧力に達した際に変形して開き、所定方向に長手の吐出弁と、前記吐出弁が開いた際にそれ以上の変形を抑制する弁押さえとを有し、前記フランジ部に配置される。前記弁押さえは、前記吐出弁の長手方向に沿って長手の本体部と、前記本体部に対して前記吐出弁の長手方向と交差する方向に張り出して前記軸受に固定される固定部とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態に係る空気調和機の構成を概略的に示す回路図である。
【
図2】第1の実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)を備えた軸受(第1の軸受)を概略的に示す斜視図である。
【
図4】
図3において、吐出弁機構(第1の吐出弁機構)のうち、吐出弁のみが配置された状態を概略的に示す斜視図である。
【
図5】第1の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)を備えた軸受(第1の軸受)の断面を概略的に示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)における弁押さえの本体部(弁押さえ片)を概略的に示す斜視図である。
【
図7】第1の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)における弁押さえの固定部(固定片)を概略的に示す斜視図である。
【
図8】第2の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)を備えた軸受(第1の軸受)を概略的に示す斜視図である。
【
図9】
図8において、吐出弁機構(第1の吐出弁機構)のうち、吐出弁のみが配置された状態を概略的に示す斜視図である。
【
図10】第2の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)を備えた軸受(第1の軸受)の断面を概略的に示す図である。
【
図11】第2の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)における弁押さえの固定部(固定片)を概略的に示す斜視図である。
【
図12】第3の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)を備えた軸受(第1の軸受)を概略的に示す斜視図である。
【
図13】
図12において、吐出弁機構(第1の吐出弁機構)のうち、吐出弁のみが配置された状態を概略的に示す斜視図である。
【
図14】第3の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)を備えた軸受(第1の軸受)の断面を概略的に示す図である。
【
図15】第3の実施形態に係る吐出弁機構(第1の吐出弁機構)における弁押さえ(本体部および固定部)を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、
図1から
図15を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る空気調和機1の冷凍サイクル回路図である。空気調和機1は、かかる冷凍サイクルにより空気調和を行う装置であり、冷凍サイクル装置の一例である。空気調和機1は、主たる要素として、圧縮機2、四方弁3、室外熱交換器4、室外送風機40、膨張装置5、室内熱交換器6、および室内送風機60を備えている。
【0009】
図1に示すように、圧縮機2の吐出側は、四方弁3の第1ポート3aに接続されている。四方弁3の第2ポート3bは、室外熱交換器4に接続されている。室外熱交換器4は、膨張装置5を介して室内熱交換器6に接続されている。室内熱交換器6は、四方弁3の第3ポート3cに接続されている。四方弁3の第4ポート3dは、アキュムレータ8を介して圧縮機2の吸入側に接続されている。
【0010】
冷媒は、圧縮機2の吐出側から室外熱交換器4、膨張装置5、室内熱交換器6、およびアキュムレータ8を経由し、吸込側に至る循環回路7を循環する。冷媒としては、塩素を含まない冷媒が好ましく、例えばR448A、R449A、R449B、R407G、R407H、R449C、R456A、R516A、R406B、R463A、R744、HC系冷媒などが適用可能である。
【0011】
例えば、空気調和機1が冷房モードで運転を行う場合、四方弁3は、第1ポート3aが第2ポート3bに連通し、第3ポート3cが第4ポート3dに連通するように切り替わる。冷房モードで空気調和機1の運転が開始されると、圧縮機2で圧縮された高温・高圧の気相冷媒が循環回路7に吐出される。吐出された気相冷媒は、四方弁3を経由して凝縮器(放熱器)として機能する室外熱交換器4に導かれる。
【0012】
室外熱交換器4に導かれた気相冷媒は、室外送風機40で吸い込まれた空気(外気)との熱交換により凝縮し、高圧の液相冷媒に変化する。高圧の液相冷媒は、膨張装置5を通過する過程で減圧されて低圧の気液二相冷媒に変化する。気液二相冷媒は、蒸発器(吸熱器)として機能する室内熱交換器6に導かれるとともに、室内送風機60で吸い込まれた空気(内気)と室内熱交換器6を通過する過程で熱交換する。
【0013】
この結果、気液二相冷媒は、空気から熱を奪って蒸発し、低温・低圧の気相冷媒に変化する。室内熱交換器6を通過する空気は、液相冷媒の蒸発潜熱により冷やされ、室内送風機60によって空調(冷房)すべき場所に冷風として送られる。
【0014】
室内熱交換器6を通過した低温・低圧の気相冷媒は、四方弁3を経由してアキュムレータ8に導かれる。冷媒中に蒸発し切れなかった液相冷媒が混入している場合は、ここで液相冷媒と気相冷媒とに分離される。液相冷媒から分離された低温・低圧の気相冷媒は、アキュムレータ8から圧縮機2に吸い込まれるとともに、圧縮機2で再び高温・高圧の気相冷媒に圧縮されて循環回路7に吐出される。
【0015】
一方、空気調和機1が暖房モードで運転を行う場合、四方弁3は、第1ポート3aが第3ポート3cに連通し、第2ポート3bが第4ポート3dに連通するように切り替わる。暖房モードで空気調和機1の運転が開始されると、圧縮機2から吐出された高温・高圧の気相冷媒は、四方弁3を経由して室内熱交換器6に導かれ、室内熱交換器6を通過する空気と熱交換される。この場合、室内熱交換器6は凝縮器として機能する。
【0016】
この結果、室内熱交換器6を通過する気相冷媒は、室内送風機60で吸い込まれた空気(内気)と熱交換することにより凝縮し、高圧の液相冷媒に変化する。室内熱交換器6を通過する空気は、気相冷媒との熱交換により加熱され、室内送風機60によって空調(暖房)すべき場所に温風として送られる。
【0017】
室内熱交換器6を通過した高温の液相冷媒は、膨張装置5に導かれるとともに、膨張装置5を通過する過程で減圧されて低圧の気液二相冷媒に変化する。気液二相冷媒は、蒸発器として機能する室外熱交換器4に導かれるとともに、室外送風機40で吸い込まれた空気(外気)と熱交換することにより蒸発し、低温・低圧の気相冷媒に変化する。室外熱交換器4を通過した低温・低圧の気相冷媒は、四方弁3およびアキュムレータ8を経由して圧縮機2に吸い込まれるとともに、圧縮機2で再び高温・高圧の気相冷媒に圧縮されて循環回路7に吐出される。
【0018】
なお、本実施形態では、空気調和機1を冷房モードおよび暖房モードのいずれでも運転可能としているが、空気調和機1は、例えば冷房モードもしくは暖房モードのいずれかのみで運転可能な冷房専用機もしくは暖房専用機であってもよい。
【0019】
次に、空気調和機1に用いられる圧縮機2の具体的な構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、圧縮機2の縦断面図である。
図2に示すように、圧縮機2は、いわゆる縦型の回転式圧縮機(ロータリーコンプレッサ)であって、主たる要素として、密閉容器10、圧縮機構部11、および電動機部12を備えている。なお、以下の説明においては、後述する密閉容器10の中心軸線O1に沿って並んだ圧縮機構部11と電動機部12の相対的な位置関係を基準として、圧縮機構部11が位置する側を下、電動機部12が位置する側を上とする。
【0020】
密閉容器10は、円筒状の周壁10aを有するとともに、設置面に対して垂直に起立している。設置面は、例えば室外機の底板などである。密閉容器10の上端には、吐出管10bが設けられている。吐出管10bは、循環回路7を介して四方弁3の第1ポート3aに接続されている。密閉容器10の下部には、潤滑油を蓄える油溜まり部10cが設けられている。
【0021】
圧縮機構部11は、潤滑油に浸かるように密閉容器10の下部に収容されている。
図2に示す例において、圧縮機構部11は、ツイン型のシリンダ構造を有し、第1のシリンダ13、第2のシリンダ14、回転軸15を主たる要素として備えている。第1のシリンダ13および第2のシリンダ14は、それぞれローラ(ローリングピストン)およびベーンを内部に有している。なお、圧縮機構部のシリンダ数は、二つに限定されず、一つもしくは三つ以上であってもよい。
【0022】
第1のシリンダ13は、密閉容器10の周壁10aの内周面に固定されている。第2のシリンダ14は、第1のシリンダ13の下面に仕切板18を介して固定されている。
【0023】
第1のシリンダ13の上方には、第1の軸受20が固定されている。第1の軸受20は、第1のシリンダ13の内径部を上方から覆うとともに、第1のシリンダ13の上方に向けて突出している。第1のシリンダ13の内径部、仕切板18および第1の軸受20で囲まれた空間は、第1のシリンダ室を構成する。仕切板18は、第1のシリンダ室の下面、第1の軸受20は、第1のシリンダ室の上面をそれぞれ規定する閉鎖部材に相当する。
【0024】
第2のシリンダ14の下方には、第2の軸受22が固定されている。第2の軸受22は、第2のシリンダ14の内径部を下方から覆うとともに、第2のシリンダ14の下方に向けて突出している。第2のシリンダ14の内径部、仕切板18および第2の軸受22で囲まれた空間は、第2のシリンダ室を構成する。仕切板18は、第2のシリンダ室の上面、第2の軸受22は、第2のシリンダ室の下面をそれぞれ規定する閉鎖部材に相当する。第1のシリンダ室および第2のシリンダ室は、密閉容器10の中心軸線O1と同心状に配置されている。
【0025】
第1のシリンダ室および第2のシリンダ室は、循環回路7の一部である吸込管(図示省略)を介してアキュムレータ8に接続されている。アキュムレータ8で液相冷媒から分離された気相冷媒は、かかる吸込管を通って第1のシリンダ室および第2のシリンダ室に導かれる。
【0026】
回転軸15は、軸心が密閉容器10の中心軸線O1と同軸状に位置し、第1のシリンダ室、第2のシリンダ室および仕切板18を貫通している。回転軸15は、第1のジャーナル部27a、第2のジャーナル部27bおよび一対のクランクピン部(偏心部)28a,28bを有している。すなわち、回転軸15は、クランクシャフトとして構成されている。第1のジャーナル部27aは、第1の軸受20によって回転自在に支持されている。第2のジャーナル部27bは、第2の軸受22によって回転自在に支持されている。
【0027】
さらに、回転軸15は、第1のジャーナル部27aから同軸状に延長された延長部27cを有している。延長部27cは、第1の軸受20を貫通して圧縮機構部11の上方に突出している。延長部27cには、後述する電動機部12の回転子33が固着されている。
【0028】
偏心部28a,28bは、第1のジャーナル部27aと第2のジャーナル部27bの間に位置している。偏心部28a,28bは、例えば180度の位相差を有するとともに、密閉容器10の中心軸線O1に対する偏心量が互いに同一とされている。一方の偏心部(以下、第1の偏心部という)28aは、第1のシリンダ室に収容されている。他方の偏心部(以下、第2の偏心部という)28bは、第2のシリンダ室に収容されている。
【0029】
ローラ16,17は、第1の偏心部28aおよび第2の偏心部28bの外周面にそれぞれ嵌着されている。ローラ16,17の内周面と偏心部28a,28bの外周面との間には、偏心部28a,28bに対するローラ16,17の回転を許容する僅かな隙間が設けられている。これにより、ローラ16,17は、回転軸15が回転した時に、シリンダ室内で偏心回転するとともに、ローラ16,17の外周面の一部がシリンダ室の内周面に油膜を介して接触する。
【0030】
第1のシリンダ13および第2のシリンダ14には、ベーン(図示省略)がそれぞれ配置されている。ベーンは、径方向の内側へ付勢手段で付勢された状態でシリンダ13,14に支持されている。各ベーンの先端部は、ローラ16,17の外周面に摺動可能に押し付けられている。これらのベーンは、ローラ16,17と協働してシリンダ13,14のシリンダ室をそれぞれ吸入室と圧縮室とに区画するとともに、各ローラ16,17の偏心回転に伴ってシリンダ室に突出したり、シリンダ室から退去したりする方向に移動(進退)するようになっている。このようにシリンダ室に対してベーンが進退することで、シリンダ室の吸入室および圧縮室の容積が変化し、上述した吸込管からシリンダ室に吸い込まれた気相冷媒が圧縮される。
【0031】
第1のシリンダ13および第2のシリンダ14の各シリンダ室で圧縮された高温・高圧の気相冷媒は、後述する吐出弁機構21,23を介して密閉容器10の内部に吐出される。吐出された気相冷媒は、密閉容器10の内部を上昇する。さらに、圧縮機構部11の動作中は、密閉容器10の油溜まり部10cに貯溜された潤滑油が攪拌される。攪拌された潤滑油は、ミスト状となるとともに、気相冷媒の流れに乗じて密閉容器10の内部を吐出管10bに向けて上昇する。密閉容器10には、内部を上昇する気相冷媒に含まれる潤滑油を分離する油分離器などが組み込まれている。
【0032】
電動機部12は、圧縮機構部11と吐出管10bとの間に位置するように密閉容器10の中心軸線O1に沿った中間部に収容されている。電動機部12は、いわゆるインナーロータ型のモータを含み、回転軸15に固着された回転子33、および密閉容器10の周壁10aの内周面に固定された固定子34を備えている。電源から電動機部12に対して電圧が印加されることで、回転子33が固定子34に対して中心軸線O1を中心に回転し、回転軸15が回転子33とともに回転する。回転軸15は、二つの軸受20,22で回転可能に支持されている。
【0033】
二つの軸受20,22のうち、一方は主軸受(以下、第1の軸受という)20であり、他方は副軸受(以下、第2の軸受という)22である。第1の軸受20および第2の軸受22は、それぞれ回転軸15を回転可能に支持する。また、第1の軸受20は第1のシリンダ13における第1のシリンダ室の上面を規定し、第2の軸受22は第2のシリンダ14における第2のシリンダ室の下面を規定する。上面は回転軸15の軸心方向(密閉容器10の中心軸線O1に沿った方向)におけるシリンダ13,14の一端側の端面であり、下面は該方向におけるシリンダ13,14の他端側の端面である。換言すれば、第1の軸受20は第1のシリンダ室を上方から閉塞する部材に相当し、第2の軸受22は第2のシリンダ室を下方から閉塞する部材に相当する。
【0034】
第1の軸受20は、第1のシリンダ13における第1のシリンダ室の上面を規定する第1のフランジ部20aと、第1のフランジ部20aと連続して筒状に上方へ延びる第1のボス部20bを有している。
【0035】
第1のフランジ部20aは、第1のボス部20bの下端に位置し、第1のボス部20bの径方向の外側に向けて延びるとともに、回転軸15の軸心と同心の円形状に全周に亘って連続している。第1のフランジ部20aには、第1のシリンダ13の圧縮室から冷媒を吐出させる吐出孔(以下、第1の吐出孔という)20c(
図4参照)が形成されている。第1の吐出孔20cは、第1のフランジ部20aの一部を上下に貫通し、第1のシリンダ13の圧縮室内に連通している。第1の吐出孔20cは、所定の弁機構(以下、第1の吐出弁機構という)21によって開閉される。第1の吐出弁機構21は、第1のフランジ部20aに配置され、第1のシリンダ13の圧縮室内の圧力上昇に伴って第1の吐出孔20cを開放し、該圧縮室から高温・高圧の気相冷媒を吐出させる。
【0036】
第1のボス部20bは、第1の軸受20において回転軸15、具体的には第1のジャーナル部27aを挿通して回転可能に支持する部分である。第1のボス部20bは、回転軸15と同心状に配置されている。すなわち、第1のボス部20bは、第1のフランジ部20aに対して垂直に配置されている。第1のジャーナル部27aは、第1のボス部20bに挿通された状態で、外周面が第1のボス部20bの内周面に対して摺動する。
【0037】
第2の軸受22は、第2のシリンダ14における第2のシリンダ室の下面を規定する第2のフランジ部22aと、第2のフランジ部22aと連続して筒状に下方へ延びる第2のボス部22bを有している。
【0038】
第2のフランジ部22aは、第2のボス部22bの上端に位置し、第2のボス部22bの径方向の外側に向けて延びるとともに、回転軸15の軸心と同心の円形状に全周に亘って連続している。第2のフランジ部22aには、第2のシリンダ14の圧縮室から冷媒を吐出させる吐出孔(図示省略。以下、第2の吐出孔という)が形成されている。第2の吐出孔は、第2のフランジ部22aの一部を上下に貫通し、第2のシリンダ14の圧縮室内に連通している。第2の吐出孔は、所定の弁機構(以下、第2の吐出弁機構という)23によって開閉される。第2の吐出弁機構23は、第2のシリンダ14の圧縮室内の圧力上昇に伴って第2の吐出孔を開放し、該圧縮室から高温・高圧の気相冷媒を吐出させる。
【0039】
第2のボス部22bは、第2の軸受22において回転軸15、具体的には第2のジャーナル部27bを挿通して回転可能に支持する部分である。第2のボス部22bは、回転軸15と同心状に配置されている。すなわち、第2のボス部22bは、第2のフランジ部22aに対して垂直に配置されている。第2のジャーナル部27bは、第2のボス部22bに挿通された状態で、外周面が第2のボス部22bの内周面に対して摺動する。
【0040】
第1の軸受20の上方には、第1の軸受20を覆うマフラ(以下、第1のマフラという)41が備えられている。第1のマフラ41は、例えば第1のシリンダ13の圧縮室から密閉容器10内に吐出される冷媒に起因する脈動や騒音を抑制する。第1のマフラ41は、第1のフランジ部20aと第1のボス部20bとの間を取り囲むように第1の軸受20を覆い、第1のフランジ部20aと第1のボス部20bとの間に第1のマフラ室43を形成する。第1のマフラ室43は、第1のシリンダ13の圧縮室で圧縮された高温・高圧の冷媒が第1の吐出孔20cから最初に吐出される空間である。第1のマフラ41は、第1のマフラ41の内外(上下)を連通する連通孔41aを有している。第1の吐出孔20cを通して第1のマフラ室43に吐出された高温・高圧の気相冷媒は、連通孔41aを通して密閉容器10内に吐出される。
【0041】
第2の軸受22の下方には、第2の軸受22を覆うマフラ(以下、第2のマフラという)42が備えられている。第2のマフラ42は、例えば第2のシリンダ14の圧縮室から密閉容器10内に吐出される冷媒に起因する脈動や騒音を抑制する。第2のマフラ42は、第2のフランジ部22aと第2のボス部22bとの間を取り囲むように第2の軸受22を覆い、第2のフランジ部22aと第2のボス部22bとの間に第2のマフラ室44を形成する。第2のマフラ室44は、第2のシリンダ14の圧縮室で圧縮された高温・高圧の冷媒が第2の吐出孔から最初に吐出される空間である。第2のマフラ室44は、圧縮機構部11内に設けられた導通孔を通して第1のマフラ室43と連通している。導通孔は、第2のフランジ部22a、第2のシリンダ14、仕切板18、第1のシリンダ13、第1のフランジ部20aをそれぞれ貫通し、第2のマフラ室44と第1のマフラ室43に開口している。第2の吐出孔を通して第2のマフラ室44に吐出された高温・高圧の気相冷媒は、前記導通孔を通して第1のマフラ室43に達した後、連通孔41aを通して密閉容器10内に吐出される。
【0042】
図3から
図5には、第1の吐出弁機構21の構成を示す。
図3は、第1の吐出弁機構21を備えた第1の軸受20を概略的に示す斜視図である。
図4は、
図3において、第1の吐出弁機構21のうち、後述する吐出弁21aのみが配置された状態を概略的に示す斜視図である。
図5は、第1の軸受20を概略的に示す断面図である。
【0043】
図3から
図5に示すように、第1の吐出弁機構21は、第1の軸受20の第1のフランジ部20aに設けられ、第1の吐出孔20cを適宜開放し、第1のシリンダ13の圧縮室で圧縮された冷媒を該圧縮室から吐出させる。第1の吐出弁機構21は、吐出弁21aと、弁押さえ21bとを備えている。
【0044】
第1の吐出孔20cは、第1のフランジ部20aに形成された凹部(以下、掘り込み部という)20dの底に開口している。掘り込み部20dは、第1のフランジ部20aの上面(回転軸15の軸心方向の一端側の端面)20eを所定の深さで掘り下げて形成されている。換言すれば、掘り込み部20dは、第1の吐出弁機構21を組み付けるための凹部として、第1のフランジ部20aに形成されている。
【0045】
掘り込み部20dは、所定方向にそれぞれ長手の第1の部分24と第2の部分25を有している。
【0046】
第1の部分24は、掘り込み部20dのうち、第1の吐出弁機構21の吐出弁21aおよび弁押さえ21bの後述する本体部211が組み付けられる凹部である。したがって、第1の部分24は、第1の吐出弁機構21の吐出弁21aおよび本体部211を組み付け可能な深さおよび輪郭で形成されている。輪郭は、第1のフランジ部20aの上方からみた第1の部分24の外郭の形状である。本実施形態において、第1の部分24に組み付けられた状態では、吐出弁21aおよび弁押さえ21bが第1の部分24に没入した状態となる。また、第1の部分24に相当する凹部は、第1の吐出孔20cが開口する掘り込み部20dの底を有する。
【0047】
一方、第2の部分25は、掘り込み部20dのうち、第1の吐出弁機構21の弁押さえ21bの後述する固定部212が組み付けられる凹部である。したがって、第2の部分25は、第1の吐出弁機構21の固定部212を組み付け可能な深さおよび輪郭で形成されている。輪郭は、第1のフランジ部20aの上方からみた第2の部分25の外郭の形状である。また、第2の部分25は、第1の部分24の上方に隣接して配置されている。
【0048】
第1の部分24と第2の部分25とは、互いの長手方向を交差させて配置されている。
図3から
図5に示す例では、第1の部分24と第2の部分25とは、互いの長手方向を直交させている。第2の部分25の長手方向は、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向である。第1の部分24の長手方向は、第1のフランジ部20aの径方向と直交する方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面と直交する方向である。
【0049】
吐出弁21aは、第1の吐出孔20cを閉塞もしくは開放させるための部材であり、所定方向に長手の板状をなす。吐出弁21aは、例えばばね鋼などの弾性変形可能な素材で短冊状に形成されている。吐出弁21aの長手方向の一端は、固定具21cで第1のフランジ部20aに固定されている。固定具21cとしては、例えばボルト、ビス、リベットなどの任意の固定具が適用される。これにより、吐出弁21aは、固定具21cで固定された長手方向の一端を固定端とし、長手方向の他端を自由端として撓み変形可能な片持ちの板ばね構造とされている。具体的には、吐出弁21aは、第1のシリンダ13の圧縮室で圧縮された高温・高圧の気相冷媒が所定の吐出圧力に達した際に変形して、第1の吐出孔20cを開放する。以下、吐出弁21aのこの状態を変形状態という。第1の吐出孔20cを開放する前の状態(以下、通常状態という)において、吐出弁21aは、かかる所定の吐出圧力よりも小さな弾性力(押圧力)で第1の吐出孔20cを閉塞するように、第1の吐出孔20cの周縁に圧接している。したがって、冷媒が第1のマフラ41内の雰囲気圧力を超え、所定の吐出圧力に達すると、吐出弁21aは、前記弾性力(押圧力)に抗して変形して第1の吐出孔20cを開放し、冷媒を吐出させる。第1の吐出孔20cを開いて冷媒を吐出させ、冷媒の吐出圧力が所定圧よりも低下すると、吐出弁21aは、変形状態から弾性復帰して通常状態に戻り、第1の吐出孔20cを再び閉塞する。
【0050】
図6および
図7には、弁押さえ21bを概略的に示す。弁押さえ21bは、吐出弁21aの変形を規制するための部材であり、本体部211と固定部212を有する。本実施形態では、
図6および
図7に示すように、弁押さえ21bの本体部211と固定部212は、それぞれ別部材として構成されている。すなわち、弁押さえ21bは、それぞれ別部材である本体部211と固定部212とが組み付けられて構成される。
図6は、弁押さえ21bの本体部(以下、弁押さえ片という)211を概略的に示す斜視図である。
図7は、弁押さえ21bの固定部(以下、固定片という)212を概略的に示す斜視図である。
【0051】
図3から
図6に示すように、弁押さえ片211は、所定方向に長手で、吐出弁21aよりも厚肉の板状をなす。弁押さえ片211は、弁押さえ21bにおいて吐出弁21aの変形を規制する機能を主として果たす要素である。弁押さえ片211は、例えば鋼材などで形成されている。弁押さえ片211は、長手方向を吐出弁21aの長手方向に沿わせて配置されている。すなわち、弁押さえ片211は、吐出弁21aの長手方向に沿って長手をなす。これらの長手方向は、第1のフランジ部20aの径方向と交差する方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面と交差する方向である。また、これらの長手方向は、掘り込み部20dの第1の部分24の長手方向と平行をなす。
図3から
図5に示す例では、かかる長手方向は、第1のフランジ部20aの径方向と直交する方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面と直交する方向である。すなわち、弁押さえ片211の長手方向は、回転軸15の軸心を含む平面と直交する方向と平行をなす。弁押さえ片211の長手方向の一端は、吐出弁21aとともに固定具21cで第1のフランジ部20aに固定されている。弁押さえ片211は、固定具21cが挿通される貫通孔211aを有している。
【0052】
弁押さえ片211は、第1の吐出孔20cを開く際に吐出弁21aが第1の吐出孔20cから離れた位置に変位する過程で、該吐出弁21aと対向するように配置されている。
図3および
図5に示す例において、弁押さえ片211は、吐出弁21aに被さるように吐出弁21aの上方に配置されている。弁押さえ片211は、第1の吐出孔20cを開放するように撓んだ(浮き上がった)状態、つまり変形状態の吐出弁21aに沿うように、反り返った形態をなしている(
図6参照)。これにより、吐出弁21aが第1の吐出孔20cを開放するように撓んで変形状態となった際、弁押さえ片211は、変形した吐出弁21aと接触し、吐出弁21aのそれ以上の変形(浮き上がり)を抑制する。
【0053】
固定片212は、第1の軸受20に固定され、弁押さえ片211を支持するとともに、掘り込み部20dにおいて第1のフランジ部20aの強度を補強する。
図7に示す例では、固定片212は、弁押さえ片211とは別部材とされている。
図3、
図5、
図7に示すように、固定片212は、所定方向に長手で、弁押さえ21bと同様に吐出弁21aよりも厚肉の部材として構成されている。固定片212は、例えば弁押さえ片211と同一の鋼材などで形成されている。
【0054】
固定片212は、第1の片部30aと第2の片部30bとを有している。第1の片部30aと第2の片部30bとは、直角をなして連続している。これらの連続部分には、第1の片部30aと第2の片部30bとの間を斜めに埋める補強部30cが設けられている。
【0055】
第1の片部30aは、固定片212のうち、第1のフランジ部20aに固定される部分である。第1の片部30aは、第1のフランジ部20aの上面20eに沿って長手の板状をなしている。また、第1の片部30aは、弁押さえ片211に対して、吐出弁21aの長手方向、換言すれば弁押さえ片211の長手方向と交差する方向に張り出している。第1の片部30aは、長手方向を第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿わせて配置されている。すなわち、第1の片部30aの長手方向は、回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向、つまり掘り込み部20dの第2の部分25の長手方向と平行をなす。
【0056】
第1の片部30aは、弁押さえ片211を支持する座面部30dを有している。座面部30dは、弁押さえ片211と対向可能な部位に他の部位に対して段差を持たせて形成された平坦状の面部である。座面部30dは、弁押さえ片211に上方から接触し、弁押さえ片211を押さえ付けて支持する。また、第1の片部30aは、ボルト31aが挿通される貫通孔30eを有している。ボルト31aは、第1のフランジ部20aに対して第1の片部30aを固定するための固定具の一例である。
図4に示すように、第1のフランジ部20aは、ボルト31aが挿通される貫通孔20fを有している。貫通孔20fは、貫通孔30eと連通する。本実施形態では
図2に示すように、第1の片部30aは、第1のフランジ部20aを介して第1のシリンダ13にボルト31aで第1のマフラ41と共締めされている。第1のマフラ41は、ボルト31aが挿通される貫通孔41bを有している。これにより、第1のマフラ41の締結用とは別に第1の片部30aを締結するためのボルトを必要とせず、該ボルトを締結するスペースも不要となる。
【0057】
図3、
図5、
図7に示すように、第2の片部30bは、固定片212のうち、第1のボス部20bに固定される部分である。第2の片部30bは、第1のボス部20bの外周に沿って延びている。第2の片部30bは、第1のボス部20bの外周に沿って、換言すれば回転軸15の軸心に沿って、上方へ延びるように配置されている。
図3、
図5、
図7に示す例では、第2の片部30bは、第1の片部30aよりも厚肉とされている。第2の片部30bは、ボルト31bが挿通される貫通孔30fを有している。ボルト31bは、第1のボス部20bに対して第2の片部30bを固定するための固定具の一例である。なお、第1のボス部20bは、第2の片部30bを支持する座面部20gを有している。座面部20gは第2の片部30bと対向可能な第1のボス部20bの外周部位に他の部位に対して段差を持たせて形成された平坦状の面部である。
図4に示すように、座面部20gは、ボルト31bを締結するためのボルト穴20hを有している。ボルト穴20hは、貫通孔30fと連通する。
【0058】
したがって、
図5に示すように、固定片212は、第1の軸受20に対して第1のフランジ部20aおよび第1のボス部20bのそれぞれに一箇所ずつ、計二箇所で固定されている。換言すれば、固定片212は、回転軸15の軸心に沿った方向で第1のフランジ部20aに対してボルト31aによって固定されるとともに、回転軸15の径方向に沿った方向で第1のボス部20bに対してボルト31bによって固定される。このように固定された状態において、固定片212は、弁押さえ片211と直交するように配置され、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿って弁押さえ片211を支持する。
【0059】
このように本実施形態によれば、回転軸15が回転した際、例えば第1のフランジ部20aに対して第1のボス部20bを傾かせるように掘り込み部20dが弾性変形しようとする力を、固定片212で負荷できる。すなわち、固定片212は、掘り込み部20dにおいて第1のフランジ部20aの強度を高める補強部材として機能する。このため、掘り込み部20dの弾性変形を抑制でき、第1のフランジ部20aに対して第1のボス部20bが傾くような変形を抑制できる。結果として、例えば回転軸15が曲げ振動することで生じる騒音を低減させることが可能となる。
【0060】
ここで、第2の吐出弁機構23の構成は、第1の吐出弁機構21と互いに上下(天地)が逆に位置することに伴う相違点を除き、第1の吐出弁機構21とほぼ同等とすることが可能である。ただし、第2の吐出弁機構23においては、固定片212に相当する部材が省略された構成であっても構わない。これは次のような理由によるものである。
図2に示すように、第2の軸受22の第2のボス部22bは、第1の軸受20の第1のボス部20bよりも回転軸15の軸心方向の長さが短い。すなわち、第2のボス部22bは、第2のフランジ部22aに対して傾くような変形が起こり難く、変形した場合であっても第1のボス部20bほど大きくは変形しない。したがって、第2の吐出弁機構23においては、固定片212に相当する部材を省略可能となる。これらを考慮すれば、第2の吐出弁機構23は、固定片212に相当する部材を備えていない点、および上下(天地)が逆に位置することに伴う相違点を除き、第1の吐出弁機構21と同様に構成可能である。
【0061】
なお、第1の吐出弁機構21における固定片212の形態は、弁押さえの固定部の一例に過ぎず、上述した第1の実施形態(
図3、
図5、
図7に示す例)には限定されない。したがって、固定部がその他の形態であっても、掘り込み部20dにおいて第1のフランジ部20aの強度を高める補強部材として機能させることは可能である。以下、このような固定部の別形態について、第2の実施形態および第3の実施形態として説明する。なお、第2の実施形態および第3の実施形態に係る圧縮機の基本的な構成要素は、第1の実施形態に係る圧縮機2(
図2)と同様である。このため、以下では、かかる圧縮機の基本的な構成要素についての説明は省略もしくは簡略化し、第2の実施形態および第3の実施形態の特徴である第1の実施形態との相違点について詳述する。その際、第1の実施形態と同一もしくは類似の構成要素については、同一の参照符号を用いる。
【0062】
(第2の実施形態)
図8から
図11には、本実施形態に係る吐出弁機構の構成を示す。かかる吐出弁機構は、第1の実施形態に係る第1の吐出弁機構21に相当する弁機構(以下、第1の吐出弁機構51という)である。
図8は、第1の吐出弁機構51を備えた第1の軸受50を概略的に示す斜視図である。第1の軸受50は、第1の実施形態に係る第1の軸受に相当する主軸受である。
図9は、
図8において、第1の吐出弁機構51のうち、吐出弁21aのみが配置された状態を概略的に示す斜視図である。
図10は、第1の軸受50を概略的に示す断面図である。
図11は、第1の吐出弁機構51における弁押さえ21bの固定部である固定片70を概略的に示す斜視図である。
【0063】
図8から
図10に示すように、第1の吐出弁機構51は、第1の軸受50の第1のフランジ部20aに設けられ、第1の吐出孔20cを適宜開放し、第1のシリンダ13の圧縮室で圧縮された冷媒を該圧縮室から吐出させる。第1の吐出弁機構51は、吐出弁21aと、弁押さえ21bとを備えている。第1の吐出弁機構51は、第1のフランジ部20aに形成された掘り込み部20dに組み付けられている。第1の実施形態と同様に、掘り込み部20dは、第1のフランジ部20aの上面20eを所定の深さで掘り下げて形成されており、所定方向にそれぞれ長手の第1の部分24と第2の部分25を有している。また同様に、第1の吐出孔20cは、掘り込み部20dの底に開口している。
【0064】
第1の吐出弁機構51において、吐出弁21aと弁押さえ21bの弁押さえ片211の形態は、第1の実施形態と同様とされている。
固定片70は、第1の吐出弁機構51における弁押さえ21bの固定部である。固定片70は、第1の軸受50に固定され、弁押さえ片211を支持するとともに、掘り込み部20dにおいて第1のフランジ部20aの強度を補強する。
図8、
図10、
図11に示すように、固定片70は、所定方向に長手で、弁押さえ片211と同様に吐出弁21aよりも厚肉の部材として、弁押さえ片211とは別体に構成されている。すなわち、弁押さえ21bは、それぞれ別部材である弁押さえ片211と固定片70とが組み付けられて構成される。この点については、第1の実施形態に係る弁押さえ21bと同様である。ただし、固定片70は、固定片212と異なり、第1の片部30aに相当する部分のみを有し、第2の片部30bに相当する部分および補強部30cに相当する部分を有していない。
【0065】
固定片70は、第1のフランジ部20aの上面20eに沿って長手の板状をなす。固定片70は、長手方向を第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿わせて配置されている。すなわち、固定片70の長手方向は、回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向、つまり掘り込み部20dの第2の部分25の長手方向と平行をなす。固定片70は、弁押さえ片211を支持する座面部70aを有している。座面部70aは、弁押さえ片211と対向可能な部位に他の部位に対して段差を持たせて形成された平坦状の面部である。座面部70aは、弁押さえ片211に上方から接触し、弁押さえ片211を押さえ付けて支持する。また、固定片70は、ボルト71a,71bが挿通される貫通孔70b,70cを有している。ボルト71a,71bは、第1のフランジ部20aに対して固定片70を固定するための固定具の一例である。
図9に示すように、掘り込み部20dの第2部分25は、ボルト71aが挿通される貫通孔20fと、ボルト71bを締結するためのボルト穴20iを有している。
【0066】
図8、
図10、
図11に示すように、貫通孔70bは固定片70の長手方向の一端寄り、貫通孔70cは固定片70の長手方向の他端寄りに配置されている。本実施形態において、貫通孔70bは、第1のフランジ部20aの径方向の外寄りに位置して貫通孔20fと連通する。貫通孔70cは、第1のフランジ部20aの径方向の内寄りに位置してボルト穴20iと連通する。また、本実施形態において、固定片70は、第1のフランジ部20aを介して第1のシリンダ13にボルト71aで第1のマフラ41と共締めされている。この点については、第1の実施形態に係る固定片212と同様である。一方、第1の実施形態と異なり、固定片70は、ボルト71bによっても、第1のフランジ部20aに固定されている。
【0067】
したがって、
図10に示すように、固定片70は、第1の軸受20に対して第1のフランジ部20aの二箇所でそれぞれ固定されている。換言すれば、固定片70は、回転軸15の軸心に沿った方向で第1のフランジ部20aに対してボルト71a,71bによってそれぞれ固定される。このように固定された状態において、固定片70は、固定片212と同様に、弁押さえ片211と直交するように配置され、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿って弁押さえ片211を支持する。
【0068】
このように本実施形態によれば、回転軸15が回転した際、例えば第1のフランジ部20aに対して第1のボス部20bを傾かせるように掘り込み部20dが弾性変形しようとする力を、固定片70で負荷できる。すなわち、掘り込み部20dにおいて第1のフランジ部20aの強度を高める補強部材として固定片70を機能させることができる。このため、掘り込み部20dの弾性変形や第1のボス部20bの傾き変形を抑制し、例えば回転軸15が曲げ振動することで生じる騒音を低減可能となる。
【0069】
なお、上述した第1の実施形態と同様の理由により、第2の吐出弁機構23に相当する本実施形態の弁機構においては、固定片70に相当する部材を省略可能となる。この場合、かかる弁機構は、固定片70に相当する部材を備えていない点、および上下(天地)が逆に位置することに伴う相違点を除き、第1の吐出弁機構51と同様に構成可能である。
【0070】
(第3の実施形態)
図12から
図15には、本実施形態に係る吐出弁機構の構成を示す。かかる吐出弁機構は、第1の実施形態に係る第1の吐出弁機構21に相当する弁機構(以下、第1の吐出弁機構81という)である。
図12は、第1の吐出弁機構81を備えた第1の軸受80を概略的に示す斜視図である。第1の軸受80は、第1の実施形態に係る第1の軸受に相当する主軸受である。
図13は、
図12において、第1の吐出弁機構81のうち、吐出弁21aのみが配置された状態を概略的に示す斜視図である。
図14は、第1の軸受80を概略的に示す断面図である。
図15は、第1の吐出弁機構81における弁押さえ90を概略的に示す斜視図である。
【0071】
図12から
図15に示すように、第1の吐出弁機構81は、第1の軸受80の第1のフランジ部20aに設けられ、第1の吐出孔20cを適宜開放し、第1のシリンダ13の圧縮室で圧縮された冷媒を該圧縮室から吐出させる。第1の吐出弁機構81は、吐出弁21aと、弁押さえ90とを備えている。第1の吐出弁機構81は、第1のフランジ部20aに形成された掘り込み部20dに組み付けられている。第1の実施形態と同様に、掘り込み部20dは、第1のフランジ部20aの上面20eを所定の深さで掘り下げて形成されており、所定方向にそれぞれ長手の第1の部分24と第2の部分26を有している。第1の部分24と第2の部分26とは、互いの長手方向を交差させて配置されている。
図12から
図14に示す例では、第1の部分24と第2の部分26とは、互いの長手方向を直交させている。第2の部分26の長手方向は、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向である。第1の部分24の長手方向は、第1のフランジ部20aの径方向と直交する方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面と直交する方向である。第1の吐出孔20cは、掘り込み部20dの底に開口している。
【0072】
第1の吐出弁機構81において、吐出弁21aの形態は、第1の実施形態と同様とされている。
図15に示すように、弁押さえ90は、本体部91と固定部92を有し、これらが一体をなす一つの部材として構成されている。すなわち、本体部91および固定部92は、いずれも一つの部材として構成された弁押さえ90の一部に相当する。
【0073】
本体部91は、第1のフランジ部20aの上面20eに沿って長手の板状をなす。本体部91の長手方向は、吐出弁21aの長手方向に沿った方向である。本体部91は、長手方向を第1のフランジ部20aの径方向と直交する方向、換言すれば、回転軸15の軸心を含む平面と直交する方向に沿わせて配置されている。すなわち、本体部91の長手方向は、回転軸15の軸心を含む平面と直交する方向、つまり掘り込み部20dの第1の部分24の長手方向と平行をなす。本体部91の長手方向の一端は、吐出弁21aとともに固定具21cで第1のフランジ部20aに固定されている。また、本体部91は、固定具21cが挿通される貫通孔91aを有している。
【0074】
固定部92は、本体部91に連続して延び、第1の軸受80に固定される部分である。
図15に示す例では、固定部92は一対をなし、本体部91の長手方向の中間部位近傍から各々が互いに逆向きに張り出している。すなわち、固定部92は、本体部91に対して、吐出弁21aの長手方向、換言すれば本体部91の長手方向と交差する方向に張り出している。各々の固定部92a,92bは、本体部91に対して直角をなして連続している。固定部92a,92bは、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿って配置されている。すなわち、固定部92a,92bの張り出し方向、端的には固定部92の長手方向は、回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向、つまり掘り込み部20dの第2の部分26の長手方向と平行をなす。
【0075】
また、固定部92a,92bは、ボルト93a,93bが挿通される貫通孔90a,90bを有している。ボルト93a,93bは、第1のフランジ部20aに対して固定部92a,92bを固定するための固定具の一例である。
図13に示すように、掘り込み部20dの第2部分26は、ボルト93a,93bを締結するためのボルト穴20j,20kを有している。貫通孔90aは固定部92aに、貫通孔90bは固定部92bにそれぞれ配置されている。本実施形態において、貫通孔90aは、第1のフランジ部20aの径方向の外寄りに位置してボルト穴20jと連通する。貫通孔90bは、第1のフランジ部20aの径方向の内寄りに位置してボルト穴20kと連通する。
【0076】
したがって、
図14に示すように、固定部92は、第1の軸受80に対して第1のフランジ部20aの二箇所でそれぞれ固定されている。換言すれば、固定部92は、回転軸15の軸心に沿った方向で第1のフランジ部20aに対してボルト93a,93bによってそれぞれ固定される。このように固定された状態において、固定部92は、本体部91と直交するように配置され、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿って本体部91を支持する。すなわち、弁押さえ90は、第1のフランジ部20aの径方向、換言すれば回転軸15の軸心を含む平面上で該軸心と直交する方向に沿って支持される。
【0077】
このように本実施形態によれば、回転軸15が回転した際、例えば第1のフランジ部20aに対して第1のボス部20bを傾かせるように掘り込み部20dが弾性変形しようとする力を、固定部92で負荷できる。すなわち、掘り込み部20dにおいて第1のフランジ部20aの強度を高める補強部材として弁押さえ90を機能させることができる。このため、掘り込み部20dの弾性変形や第1のボス部20bの傾き変形を抑制し、例えば回転軸15が曲げ振動することで生じる騒音を低減可能となる。
【0078】
なお、上述した第1の実施形態と同様の理由により、第2の吐出弁機構23に相当する本実施形態の弁機構においては、弁押さえ90の固定部92に相当する部分を省略可能となる。この場合、かかる弁機構は、固定部92に相当する固定部を備えていない点、および上下(天地)が逆に位置することに伴う相違点を除き、第1の吐出弁機構81と同様に構成可能である。
【0079】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1…空気調和機、2… 圧縮機、3…四方弁、4…室外熱交換器、5…膨張装置、6…室内熱交換器、7…循環回路、8…アキュムレータ、10…密閉容器、11…圧縮機構部、12…電動機部、13…第1のシリンダ、14…第2のシリンダ、15…回転軸、18…仕切板、20,50,80…第1の軸受、20a…第1のフランジ部、20b…第1のボス部、20c…第1の吐出孔、20d…凹部(掘り込み部)、20e…上面、20f…貫通孔、20g…座面部、20h,20i,20j,20k…ボルト穴、21,51,81…第1の吐出弁機構、21a…吐出弁、21b…弁押さえ、21c…固定具、22…第2の軸受、22a…第2のフランジ部、22b…第2のボス部、23…第2の吐出弁機構、24…掘り込み部の第1の部分、25,26…掘り込み部の第2の部分、30a…第1の片部、30b…第2の片部、30c…補強部、30d…座面部、30e,30f…貫通孔、31a,31b…ボルト、40…室外送風機、41b…貫通孔、60…室内送風機、70,92,92a,92b,212…固定部(固定片)、211…本体部(弁押さえ片)、O1…密閉容器の中心軸線。