(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034679
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ゲルマニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 41/00 20060101AFI20230306BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20230306BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20230306BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C22B41/00
C22B3/10
C22B3/20
C22B7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141020
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】深川 駿
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA12
4K001BA04
4K001BA22
4K001DB04
4K001DB16
(57)【要約】
【課題】ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを選択的に分離して回収する。
【解決手段】ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを回収する方法であって、物質と塩酸とを混合することにより、溶液中にリン酸と四塩化ゲルマニウムとが存在するようにする混合工程と、溶液を蒸留することにより、蒸発した四塩化ゲルマニウムを冷却して凝縮物を得る蒸留工程と、凝縮物からゲルマニウムを回収する回収工程と、を有する、ゲルマニウムの回収方法及びその関連技術を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを回収する方法であって、
前記物質と塩酸とを混合することにより、溶液中にリン酸と四塩化ゲルマニウムとが存在するようにする混合工程と、
前記溶液を蒸留することにより、蒸発した四塩化ゲルマニウムを冷却して凝縮物を得る蒸留工程と、
前記凝縮物からゲルマニウムを回収する回収工程と、
を有する、ゲルマニウムの回収方法。
【請求項2】
前記物質におけるリンの品位は1質量%以上であり、前記凝縮物におけるリンの品位は10ppm未満である、請求項1に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項3】
前記物質におけるアルミニウムの品位は10ppm以上であり、前記凝縮物におけるアルミニウムの品位は10ppm未満である、請求項1又は2に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項4】
前記物質におけるリチウムの品位は10ppm以上であり、前記凝縮物におけるリチウムの品位は10ppm未満である、請求項1~3のいずれか一つに記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項5】
前記回収工程は、
前記蒸留工程により得られた凝縮物を加水分解する加水分解工程と、
前記加水分解工程により析出した二酸化ゲルマニウムを分離して回収する固液分離工程と、
を有する、請求項1~4のいずれか一つに記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項6】
前記物質は、ゲルマニウムを含有するリン酸化合物である、請求項1~5のいずれか一つに記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項7】
前記リン酸化合物は廃電池材料である、請求項6に記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項8】
前記塩酸の濃度は6N以上である、請求項1~7のいずれか一つに記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項9】
前記蒸留の温度は80~100℃である、請求項1~8のいずれか一つに記載のゲルマニウムの回収方法。
【請求項10】
前記物質からのゲルマニウムの回収率は90%以上である、請求項1~9のいずれか一つに記載のゲルマニウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゲルマニウム酸化物中の塩素品位を低減しつつ、ゲルマニウム酸化物の回収率を高める技術が開示されている。ゲルマニウム塩化物液を加水分解する加水分解工程において、前記ゲルマニウム塩化物液を加水分解する際に用いる水の体積を、前記ゲルマニウム塩化物液の体積に対して、6~20倍とすることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よくかつ安価に、ゲルマニウムを含有する溶液から回収する技術が開示されている。ゲルマニウムを含有する溶液に、水硫化ナトリウムと硫酸とを加えて、ゲルマニウムを硫化物として回収することが開示されている。
【0004】
特許文献3には、高品位のゲルマニウムを、高い回収率で、効率よく且つ安価に、ゲルマニウムを含有する中間物から回収する技術が開示されている。金属回収工程における、ゲルマニウムを含有する中間物から、塩酸と過酸化水素とを併用して、ゲルマニウムを塩化物として回収することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-162648号公報
【特許文献2】特開2015-48525号公報
【特許文献2】特開2012-91968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを選択的に分離して回収することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを回収する方法であって、
前記物質と塩酸とを混合することにより、溶液中にリン酸と四塩化ゲルマニウムとが存在するようにする混合工程と、
前記溶液を蒸留することにより、蒸発した四塩化ゲルマニウムを冷却して凝縮物を得る蒸留工程と、
前記凝縮物からゲルマニウムを回収する回収工程と、
を有する、ゲルマニウムの回収方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記物質におけるリンの品位は1質量%以上であり、前記凝縮物におけるリンの品位は10ppm未満である。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記物質におけるアルミニウムの品位は10ppm以上であり、前記凝縮物におけるアルミニウムの品位は10ppm未満である。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様において、
前記物質におけるリチウムの品位は10ppm以上であり、前記凝縮物におけるリチウムの品位は10ppm未満である。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様において、
前記回収工程は、
前記蒸留工程により得られた凝縮物を加水分解する加水分解工程と、
前記加水分解工程により析出した二酸化ゲルマニウムを分離して回収する固液分離工程と、
を有する。
【0012】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様において、
前記物質は、ゲルマニウムを含有するリン酸化合物である。
【0013】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、
前記リン酸化合物は廃電池材料である。
【0014】
本発明の第8の態様は、第1~第7のいずれかの態様において、
前記塩酸の濃度は6N以上である。
【0015】
本発明の第9の態様は、第1~第8のいずれかの態様において、
前記蒸留の温度は80~100℃である。
【0016】
本発明の第10の態様は、第1~第9のいずれかの態様において、
前記物質からのゲルマニウムの回収率は90%以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを選択的に分離して回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るゲルマニウムの回収方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本実施形態に係るゲルマニウムの回収方法のフローチャートである。
【0020】
本実施形態は、ゲルマニウムとリンとを含有する物質からの、ゲルマニウムの回収方法に関し、一例としては二酸化ゲルマニウム(GeO2)の回収方法に関する。本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。本実施形態における「ゲルマニウム(Ge)」「リン(P)」等の元素表記は、金属単体又はイオンを指す。
【0021】
本実施形態が適用される対象物は、ゲルマニウムとリンとを含有する物質であれば限定は無く、固体であってもよいし液体であってもよい。後述の塩酸との混合工程により、混合後溶液中にリン酸(H3PO4)と四塩化ゲルマニウム(GeCl4)とが存在させられれば、該物質に限定は無い。
【0022】
該物質が固体である場合の一例としては、リン酸化合物が挙げられる。上記混合工程を実現できるのならばリン酸化合物の種類に限定は無い。リン酸化合物の一例としては、廃電池材料(スクラップ)が挙げられる。
【0023】
廃電池材料中のリン酸化合物の一具体例を挙げると、固体電解質として使用されるLAGP(Li1+xAlxGe2-x(PO4)3)が挙げられる。LAGPは、リンを比較的多く含有しているが、本実施形態を適用することにより、リンとゲルマニウムとを互いに分離できる。もちろんLAGP以外の廃電池材料であるリン酸化合物を採用しても構わない。但し、本発明は、該物質が廃電池材料である場合に限定されず、廃電池材料ではないLAGP又はそれ以外のリン酸化合物を使用可能である。
【0024】
本実施形態では、ゲルマニウムとリンとを含有する物質と塩酸とを混合することにより、溶液中にリン酸と四塩化ゲルマニウムとが存在するようにする混合工程を行う。本工程は塩酸液中に溶解する、いわゆる浸出工程と呼んでも差し支えない。本工程により、該物質中のリンが、混合用液中ではリン酸に変化すると共に、該物質中のゲルマニウムは、四塩化ゲルマニウムに変化する。なお、当該ゲルマニウムとリンとを含有する物質を全溶解しなくても、固液分離、繰り返し塩酸などで本工程に付加しても良い。
【0025】
本工程で使用する塩酸の濃度は、該物質中のゲルマニウム及びリンの濃度に応じて適宜決定すればよい。具体的には、該物質中のリンが、混合用液中ではリン酸に変化すると共に、該物質中のゲルマニウムは、四塩化ゲルマニウムに変化する濃度(それ以外には温度、反応時間等)を設定すればよい。例えば、本工程中の液温は、四塩化ゲルマニウムの沸点である83℃以下であるのが好ましい。反応時間としては例えば30分前後であってもよい。塩酸の濃度の一例としては、例えば、6N以上が挙げられる。上限には限定は無いが、例えば36Nであってもよい。本実施形態では、該物質を塩酸により全溶解した場合を例示する。
【0026】
本実施形態では、混合工程後の溶液(浸出液)を蒸留することにより、蒸発した四塩化ゲルマニウムを冷却して凝縮物を得る蒸留工程を行う。本工程は、溶液から四塩化ゲルマニウムを蒸発させる蒸発工程と、蒸発させた四塩化ゲルマニウムを集めて冷却して凝縮物を得る凝縮工程とに分けられる。
【0027】
四塩化ゲルマニウムの沸点は83℃であることを考慮し、本工程での蒸留の温度は80~100℃(或いは、上限は100℃未満又は90℃以下)としてもよい。本工程により、後掲の実施例の項目に示すように、ゲルマニウムとリンとを、極めて精度良く分離できる。
【0028】
その理由は以下の通りである。蒸留工程の前、混合用液中において、該物質中のリンはリン酸(沸点158℃)となっている。塩酸存在下で蒸留の温度を80~100℃と設定する場合、自由エネルギーの関係上、リン酸は、五塩化リン(PCl5)や三塩化リン(PCl3)には変化しない。該物質中のリンは混合溶液に残存する。その結果、本工程により、四塩化ゲルマニウムの純度が極めて高い凝縮物が得られる。
【0029】
本実施形態では、該凝縮物からゲルマニウムを回収する回収工程を行う。最終的に回収されるゲルマニウムは、二酸化ゲルマニウムであってもよいし、ゲルマニウムイオンであってもよいし、ゲルマニウム単体であってもよいし、それ以外の形態であってもよい。
【0030】
回収工程を構成する各工程の一例は以下の通りである。
・蒸留工程により得られた凝縮物(液体)を加水分解する加水分解工程
・加水分解工程により析出した二酸化ゲルマニウムを分離して回収する固液分離工程
【0031】
蒸留工程により得られた凝縮物には塩酸と四塩化ゲルマニウムとが含まれている。ここで、塩酸よりも四塩化ゲルマニウムの方が、比重が大きいため、塩酸と四塩化ゲルマニウムとを相分離させ、四塩化ゲルマニウムである下相を得る。この下相に対し、加水分解を行う(加水分解工程)。
【0032】
加水分解工程により析出した二酸化ゲルマニウムを分離して回収する固液分離工程を行う。固液分離の具体的手法には限定は無く、遠心分離でも沈降分離でもよい。
【0033】
回収工程に係る各工程の詳細は特許文献3に記載の手法を採用しても構わないため、ここでは詳細を省略する。
【0034】
本実施形態を適用することにより、該物質からのゲルマニウムの回収率は、例えば90%以上(又は95%以上、97%以上)となる。
【0035】
また、該物質におけるリンの品位と、該凝縮物におけるリンの品位との間には大きな差がある。具体的には、後掲の実施例の項目で示すように、該物質におけるリンの品位は1質量%以上、或いはゲルマニウムとの分離がさらに困難となる10質量%以上であっても、該凝縮物におけるリンの品位は10ppm未満となる。該物質におけるリンの品位の上限に限定は無いが、上限としては例えば30質量%が挙げられる。
【0036】
本実施形態を適用することにより、ゲルマニウムとリンとを含有する物質からゲルマニウムを選択的に分離して回収できる。その際、該物質におけるゲルマニウムの品位が低くても、例えば該物質においてゲルマニウムの品位が35質量%以下(或いは30質量%以下、25質量%以下)であっても、後掲の実施例の項目が示すように、効率的にゲルマニウムを回収できる。ゲルマニウムの品位は1質量%以上であれば良い。産業上、ゲルマニウムの回収のコストの低廉化を鑑みれば濃度が高い方が望まれるからである。
【0037】
本実施形態を適用することにより、リンに加え、他の金属元素についても、同様の効果を奏する。つまり、ゲルマニウムと、リン及び以下の他の金属元素との分離を実現できる。
【0038】
一具体例を挙げると、該物質におけるアルミニウムの品位は10ppm以上(或いは1質量%以上)であっても、該凝縮物におけるアルミニウムの品位は10ppm未満となる。該物質におけるアルミニウムの品位の上限に限定は無いが、上限としては例えば25質量%が挙げられる。
【0039】
別の具体例を挙げると、該物質におけるリチウムの品位は10ppm以上(或いは0.5質量%以上)であっても、該凝縮物におけるリチウムの品位は10ppm未満となる。該物質におけるリチウムの品位の上限に限定は無いが、上限としては例えば6.5質量%が挙げられる。
【0040】
別の具体例を挙げると、該物質には、リン酸化合物があり、リン酸化合物には、アルカリ金属、アルミニウム、ゲルマニウム、リン等からなる複合酸化物がある。複合酸化物の形状は問わないが、溶解のため粉体が良く、粉砕されたものが良い。リン酸化合物を粉砕の他、別途、ゲルマニウムの濃度を高める予備処理をしても良い。
【0041】
該リン酸化合物に含まれるアルカリ金属としてリチウム、ナトリウムが10ppmを超えて含まれ、及び/又はアルミニウムなどが10ppmを超えて含まれていれば、本発明の処理対象としては好適である。
【0042】
いずれにせよ、前記物質におけるリン(或いはリンに加えてアルミニウム及び/又はリチウム各々)の品位に比べ、前記凝縮物におけるリン(或いはリンに加えてアルミニウム及び/又はリチウム各々)の品位は低くなる。
【0043】
なお、リン、アルミニウムの品位が10ppmを超えたリン酸化合物は、本発明を適用可能である。リン、アルミニウムの品位を10ppm以下にできるからである。なお、ここでは一つの閾値として10ppmを例示しているが、当該物質が1ppm程度であっても、技術原理的には、蒸留条件、塩酸濃度、酸化電位を適宜調整すれば、ゲルマニウムに対して分離可能である。即ち、少なくともリン、アルミニウムの品位は、分析可能な1ppmを超え、又は確実な分析値を得る2ppm以上であれば、本発明を適用可能である。
【0044】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0045】
混合工程において、塩酸と共に過酸化水素を用いても構わない。過酸化水素を用いる場合、混合工程で酸化電位を維持し、反応は促進される一方、発生するガスに対して取り扱いに気を付ける必要がある。本実施形態の効果は、主に、混合、蒸留というシンプルな工程により実現可能である。そのため、本実施形態においては過酸化水素を使用しなくても
【実施例0046】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載のない内容は、本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0047】
(実施例1)
ゲルマニウムとリンとを含有する物質としては、BET一点法で計測される比表面積が15m2/g以上100m2/g以下である、非晶質リチウムイオン伝導酸化物粉末を使用した。該粉末を、本実施例では原料として使用した。
【0048】
原料中の各元素の品位は以下の通りである。
・リチウム:1質量%以上4質量%以下
・アルミニウム:0質量%を超え6質量%以下
・ゲルマニウム:15質量%を超え35質量%以下
・リン:10質量%以上30質量%以下
これらの品位は、乾燥時の質量%であり、ゲルマニウムについてはICP発光分光分析を用い、それ以外はXRFを用いて品位を測定した。
【0049】
原料300g(乾燥重量)、35質量%塩酸5000mLの混合溶液(塩酸規定度10N)を調製し、スターラーを250rpmで撹拌しつつ、該混合溶液の温度を100℃まで上昇させ、30分間保持した。蒸留工程に要した時間(蒸留時間)の合計は2時間とした。原料は全溶解した。
【0050】
蒸留に用いた装置としては、容積が10,000mLであり、蒸留経路に冷却管を備えた市販の蒸留器(ガラス製ジムロート冷却器)を用いた。該蒸留器により蒸発した四塩化ゲルマニウムを冷却し、捕集容器にて回収した。
【0051】
100℃への上昇直後即ち原料の溶解(浸出)直後だと混合溶液は白色であった。時間経過と共に、該混合溶液は白色から透明黄緑色へと変化した。100℃への上昇から60分後、該混合溶液(四塩化ゲルマニウムが蒸発した後の残存溶液)は黒色となり、半固形状へと変化した。蒸発物(四塩化ゲルマニウム)は、蒸留開始時には透明黄緑色だったが、時間経過と共に褐色へと変化した。捕集容器には四塩化ゲルマニウムと共に塩酸も存在したが、塩酸よりも四塩化ゲルマニウムの方が、比重が大きいため、塩酸と四塩化ゲルマニウムとは冷却に伴い相分離した。蒸留工程終了時には、上相の塩酸は透明褐色となり、下相の四塩化ゲルマニウムは褐色となった。
【0052】
本塩酸浸出においては、新たに化合された不溶解残物が発生することはなく、また、原料を塩酸に溶解させた際に容器内壁へゲルマニウムが飛散して付着することもなかった。したがって、本塩酸浸出においては、ゲルマニウムが浸出液に確実に溶解し、原料中に溶残りとしてある以外のロスが全くないと考えられる。
【0053】
四塩化ゲルマニウムである下相にはゲルマニウムが52.28g含有されており、原料に対するゲルマニウムの分配率は98.6%であった。以降、分配率は、原料中に存在する所定元素(先の文章ではゲルマニウム)の質量%に対する、(先の文章では下相中のゲルマニウムの質量%の)割合を指す。なお、該下相では、リン、アルミニウム、リチウムは検出されなかった(1ppm未満)。
【0054】
塩酸である上相においては、アルミニウムの品位は2ppmであったが、リン、リチウムは検出されなかった(1ppm未満)。
【0055】
なお、蒸留後の残存溶液4Lにおいては、ゲルマニウムが0.7g含有されており、ゲルマニウムの品位は0.2g/Lであり、ゲルマニウムの分配率は1.4%であった。
リンは46.8g含有されており、リンの品位は11.7g/Lであり、リンの分配率は100%であった。
アルミニウムは8.8g含有されており、アルミニウムの品位は2.2g/Lであり、アルミニウムの分配率は100%であった。
リチウムは5.8g含有されており、リチウムの品位は1.4g/Lであり、リチウムの分配率は100%であった。
【0056】
凝縮物である四塩化ゲルマニウム110mLを水137mLに加え、撹拌して加水分解し、二酸化ゲルマニウムを精製した。加水分解工程により析出した二酸化ゲルマニウムを、ろ過により分離して回収した。
【0057】
ろ液においては、ゲルマニウムが0.7g含有されており、ゲルマニウムの品位は6.3g/Lであり、ゲルマニウムの分配率は1.3%であった。リン、アルミニウム、リチウムは、量も品位もゼロであり、分配率もゼロであった。
【0058】
乾燥後の析出物においては、リン、アルミニウム、リチウムは検出されなかった(1ppm未満)。二酸化ゲルマニウム以外の物質(元素)の品位は2ppm未満であった。
【0059】
最終的に、原料中のゲルマニウムに対し、乾燥後の析出物中のゲルマニウムの割合即ち回収率(質量%)は、97.3%であった。