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特開2023-34729コンクリート壁体、その製造方法、および、その施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034729
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】コンクリート壁体、その製造方法、および、その施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/10 20060101AFI20230306BHJP
   E02D 5/12 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
E02D5/10
E02D5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141090
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】山岸 健治
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049FB05
2D049FB09
2D049FB14
2D049FC02
2D049FC03
(57)【要約】
【課題】複数を隣接させて連続壁体を構成した状態での止水性能を確保できるコンクリート壁体、その製造方法、および、その施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート壁体1は、コンクリートにより長尺状に形成された壁体本体部2を備える。コンクリート壁体1は、壁体本体部2の側部と連通する開口部7aおよびこの開口部7aと連通しこの開口部7aに対して拡大された拡大部7bを有し、壁体本体部2の少なくともいずれか一方の側部に形成された溝部7を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートにより長尺状に形成された壁体本体部と、
壁体本体部の側部と連通する開口部およびこの開口部と連通しこの開口部に対して拡大された拡大部を有し、壁体本体部の少なくともいずれか一方の側部に形成された溝部と、
を備えることを特徴とするコンクリート壁体。
【請求項2】
溝部は、壁体本体部の両側部に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のコンクリート壁体。
【請求項3】
壁体本体部の溝部とは反対側の側部から突出して隣接する他のコンクリート壁体の溝部の開口部に挿入される第一挿入部およびこの第一挿入部に対し拡大されて他のコンクリート壁体の溝部の拡大部に挿入される第二挿入部を有する突出部を備える
ことを特徴とする請求項1記載のコンクリート壁体。
【請求項4】
壁体本体部は、断面形状が両側方向に長い長方形状に形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のコンクリート壁体。
【請求項5】
型枠内に溝部を有する形鋼を配置し、
形鋼が一体的に配置されるように型枠内にて壁体本体部をコンクリートにより遠心成形する
ことを特徴とするコンクリート壁体の製造方法。
【請求項6】
型枠内の互いに対向する位置に溝部を有する第一形鋼と突出部を有する第二形鋼とを配置し、
一側部に第一形鋼、他側部に第二形鋼が一体的に配置されるように型枠内にて壁体本体部をコンクリートにより遠心成形する
ことを特徴とするコンクリート壁体の製造方法。
【請求項7】
壁体本体部を遠心成形する前に、形鋼に接して接合部材を型枠内に配置する
ことを特徴とする請求項5または6記載のコンクリート壁体の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし4いずれか一記載のコンクリート壁体により連続壁体を形成するコンクリート壁体の施工方法であって、
複数の掘削孔を隣接して形成してグラウト材を充填し、
隣接する掘削孔にコンクリート壁体をそれぞれ沈設して溝部を対向させ、
隣接する溝部間に亘りH形鋼を挿入する
ことを特徴とするコンクリート壁体の施工方法。
【請求項9】
請求項3記載のコンクリート壁体により連続壁体を形成するコンクリート壁体の施工方法であって、
複数の掘削孔を隣接して形成してグラウト材を充填し、
一の掘削孔に一のコンクリート壁体を沈設し、
一の掘削孔と隣接する他の掘削孔に他のコンクリート壁体を、一のコンクリート壁体の溝部に突出部が挿入されるように沈設する
ことを特徴とするコンクリート壁体の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートにより長尺状に形成されたコンクリート壁体、その製造方法、および、その施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、擁壁や護岸などを構成する長尺状のコンクリート壁体が知られている。このコンクリート壁体は、中央部に中空部を有する正方形の断面形状を有している。コンクリート壁体の部材長は、5~15mが標準であり、15mを超える場合には施工現場で接手溶接し一体化させる。
【0003】
コンクリート壁体の主な施工方法としては、予めコンクリート壁体の中空部にオーガスクリュを挿入し、オーガヘッドからの圧縮空気の吐出によって地盤を掘削、排土しながらコンクリート壁体を地中に圧入する中掘工法と、予め掘削孔を形成した後、その掘削孔にコンクリート壁体を沈設するプレボーリング工法と、がある。これらの工法は、地盤条件や環境条件等に応じて選定される。
【0004】
隣接するコンクリート壁体同士は、連結用プレート等を用いて互いに固定される。また、隣接するコンクリート壁体間の目地部は、コンクリート壁体の側部にそれぞれ二箇所ずつ形成された凹溝が隣接することで形成された楕円形状のグラウト孔に対し、中掘工法の場合にはモルタルを注入し、またプレボーリング工法の場合にはセメントミルクを充填することにより、止水性を有する構造となっている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-36334号公報
【特許文献2】特開2008-174927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のグラウト孔による目地構造は、モルタルやセメントミルクの硬化後に壁面が変形したり振動等が発生したりすると、モルタルやセメントミルクとコンクリート壁体の側部との間に水みちが発生し止水性能が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、複数を隣接させて連続壁体を構成した状態での止水性能を確保できるコンクリート壁体、その製造方法、および、その施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のコンクリート壁体は、コンクリートにより長尺状に形成された壁体本体部と、壁体本体部の側部と連通する開口部およびこの開口部と連通しこの開口部に対して拡大された拡大部を有し、壁体本体部の少なくともいずれか一方の側部に形成された溝部と、を備えるものである。
【0009】
請求項2記載のコンクリート壁体は、請求項1記載のコンクリート壁体において、溝部は、壁体本体部の両側部に形成されているものである。
【0010】
請求項3記載のコンクリート壁体は、請求項1記載のコンクリート壁体において、壁体本体部の溝部とは反対側の側部から突出して隣接する他のコンクリート壁体の溝部の開口部に挿入される第一挿入部およびこの第一挿入部に対し拡大されて他のコンクリート壁体の溝部の拡大部に挿入される第二挿入部を有する突出部を備えるものである。
【0011】
請求項4記載のコンクリート壁体は、請求項1ないし3いずれか一記載のコンクリート壁体において、壁体本体部は、断面形状が両側方向に長い長方形状に形成されているものである。
【0012】
請求項5記載のコンクリート壁体の製造方法は、型枠内に溝部を有する形鋼を配置し、形鋼が一体的に配置されるように型枠内にて壁体本体部をコンクリートにより遠心成形するものである。
【0013】
請求項6記載のコンクリート壁体の製造方法は、型枠内の互いに対向する位置に溝部を有する第一形鋼と突出部を有する第二形鋼とを配置し、一側部に第一形鋼、他側部に第二形鋼が一体的に配置されるように型枠内にて壁体本体部をコンクリートにより遠心成形するものである。
【0014】
請求項7記載のコンクリート壁体の製造方法は、請求項5または6記載のコンクリート壁体の製造方法において、壁体本体部を遠心成形する前に、形鋼に接して接合部材を型枠内に配置するものである。
【0015】
請求項8記載のコンクリート壁体の施工方法は、請求項1ないし4いずれか一記載のコンクリート壁体により連続壁体を形成するコンクリート壁体の施工方法であって、複数の掘削孔を隣接して形成してグラウト材を充填し、隣接する掘削孔にコンクリート壁体をそれぞれ沈設して溝部を対向させ、隣接する溝部間に亘りH形鋼を挿入するものである。
【0016】
請求項9記載のコンクリート壁体の施工方法は、請求項3記載のコンクリート壁体により連続壁体を形成するコンクリート壁体の施工方法であって、複数の掘削孔を隣接して形成してグラウト材を充填し、一の掘削孔に一のコンクリート壁体を沈設し、一の掘削孔と隣接する他の掘削孔に他のコンクリート壁体を、一のコンクリート壁体の溝部に突出部が挿入されるように沈設するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、連続壁体を構成した状態での止水性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態のコンクリート壁体を示す平面図である。
図2】同上コンクリート壁体の製造方法を(a)ないし(c)の順に示す説明図である。
図3】同上コンクリート壁体の施工方法を(a)ないし(c)の順に示す説明図である。
図4】同上コンクリート壁体の目地部に形成される水みちを示す説明図である。
図5】本発明の第2の実施の形態のコンクリート壁体を示す平面図である。
図6】同上コンクリート壁体の製造方法を(a)ないし(c)の順に示す説明図である。
図7】同上コンクリート壁体の施工方法を(a)ないし(c)の順に示す説明図である。
図8】同上コンクリート壁体の目地部に形成される水みちを示す説明図である。
図9】(a)は本発明の実施例を示す平面図、(b)は比較例を示す平面図である。
図10】止水試験に用いる試験装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1において、1はコンクリート壁体である。コンクリート壁体1は、遠心力プレストレストコンクリート壁体(PC-壁体)である。コンクリート壁体1は、コンクリートにより長尺状または柱状に形成された壁体本体部2を備える。
【0021】
壁体本体部2は、断面形状が四角形状となっている。壁体本体部2の断面形状は、正方形状でも長方形状でもよいが、本実施の形態においては、両側方向に長い長方形状となっている。つまり、壁体本体部2には、断面形状の長手方向(図1中の左右方向)に沿う一対の長側面部2aと、断面形状の短手方向(図1中の上下方向)に沿う一対の短側面部2bと、が設定されている。少なくとも長側面部2a,2a、本実施の形態では長側面部2a,2aおよび短側面部2b,2bは、それぞれ壁面状となっており、液体(水)を壁体本体部2の内部へと通過させないように構成されている。すなわち、少なくとも長側面部2a,2a、本実施の形態では長側面部2a,2aおよび短側面部2b,2bは、一方から他方へと液体(水分)を容易に通過させることがないように、それぞれ連なった面状となっている。また、壁体本体部2の断面中央部には、断面円形状の中空部2cが形成されている。中空部2cは、壁体本体部2の長手方向に亘り連なって形成されている。さらに、壁体本体部2の四隅は、C面状の面取り部となっている。
【0022】
壁体本体部2には、この壁体本体部2にプレストレスを付与する補強体であるPC鋼材4が埋設されている。PC鋼材4は、中空部2cの外側の位置において壁体本体部2の長手方向に連なって配置されている。また、壁体本体部2には、PC鋼材4を拘束する帯筋であるスパイラル筋5が埋設されている。スパイラル筋5は、中空部2cを囲んで環状に配置されている。本実施の形態において、スパイラル筋5は、壁体本体部2の断面形状に応じた四角形枠状に配置されている。つまり、スパイラル筋5は、長方形枠状に配置されている。スパイラル筋5は、壁体本体部2の長手方向に亘り螺旋状となっている。
【0023】
壁体本体部2の少なくともいずれか一方の側部には、溝部7が形成されている。本実施の形態において、溝部7は、壁体本体部2の短側面部2bに長手方向に亘り連なって形成されている。図示される例では、溝部7は、短側面部2bに一箇所ずつ設定されている。
【0024】
溝部7は、壁体本体部2の側部と連通する開口部7a、および、この開口部7aと連通しこの開口部7aに対して拡大された拡大部7bを有する。つまり、開口部7aが壁体本体部2の短側面部2bに位置して壁体本体部2の側方に開口され、その内側に拡大部7bが連なっている。拡大部7bは、開口部7aから壁体本体部2の断面形状の短手方向の両方向(図1中の上下方向)に拡大されている。
【0025】
好ましくは、溝部7は、形鋼である長尺のC形鋼(リップ溝形鋼)8により形成されている。すなわち、C形鋼8の長辺部8a、長辺部8aから屈曲される一対の短辺部8b、および、各短辺部8bから屈曲されるリップ部8cの内方に拡大部7bが囲まれ、互いに対向するリップ部8c,8c間が開口部7aとなっている。長辺部8aは、スパイラル筋5に近接して位置する。リップ部8cは、壁体本体部2の短側面部2bと面一または略面一に配置される。C形鋼8は、壁体本体部2の長手方向に亘り連なって埋設されている。
【0026】
また、C形鋼8には、接合部材である異形鉄筋9が溶接されて接している。異形鉄筋9は、壁体本体部2に埋設されて、C形鋼8と壁体本体部2とを一体化させる。異形鉄筋9は、C形鋼8の長辺部8aとスパイラル筋5との間、および、C形鋼8の短辺部8bに接してそれぞれ配置されている。異形鉄筋9の溶接によって、C形鋼8と壁体本体部2を構成するコンクリートとの一体化を強固にすることが可能になる。
【0027】
次に、コンクリート壁体1の製造方法について説明する。
【0028】
コンクリート壁体1を製造する際には、例えば図2(a)ないし図2(c)に示される型枠10を用いる。
【0029】
型枠10は、遠心成形用のものであり、管状に形成されている。型枠10は、断面円形状に形成され、図示されない回転装置によって回転されることで、内部のコンクリートに遠心力を作用させてコンクリートを締固めするように構成されている。本実施の形態において、型枠10は、第一型枠体10aと第二型枠体10bとに分割されている。第一型枠体10aと第二型枠体10bとは、壁体本体部2の断面形状の対角に対応する位置で分割されている。
【0030】
そして、図2(a)に示されるように、型枠10内の互いに対向する位置に、異形鉄筋9を溶接したC形鋼8を固定するとともに、予め緊張させたPC鋼材4、および、スパイラル筋5を型枠10内に固定する。
【0031】
次いで、図2(b)に示されるように、型枠10内に所定量のコンクリートCを投入し、回転装置によって型枠10を回転させて型枠10内のコンクリートCに遠心力を作用させ、C形鋼8が両側部に一体化された壁体本体部2が成形される。
【0032】
この後、図2(c)に示されるように、型枠10を開いてコンクリート壁体1を脱型する。このとき、第一型枠体10aと第二型枠体10bとが壁体本体部2の断面形状の対角に対応する位置で分割されているため、第一型枠体10aと第二型枠体10bとがコンクリート壁体1に干渉しない。
【0033】
そして、PC鋼材4に加わっている緊張力を開放することで、壁体本体部2にプレストレスが付与される。
【0034】
完成したコンクリート壁体1により連続壁体を形成する施工方法としては、通常のプレボーリング工法と同様に、図3(a)に示されるように、予め掘削孔11を複数形成し、これら掘削孔11にグラウト材12(セメントミルク)を充填する。
【0035】
次いで、図3(b)に示されるように、隣接する掘削孔11にコンクリート壁体1をそれぞれ沈設して、複数のコンクリート壁体1を断面形状の長手方向に隣接させる。これにより、コンクリート壁体1の溝部7にもグラウト材12が充填される。なお、掘削孔11より上部、すなわち地上部の溝部7には、グラウト材12が入っていないので、その部分には、グラウト材12を追加で充填する。
【0036】
この後、図3(c)に示されるように、隣接するコンクリート壁体1の互いに対向する溝部7,7間に亘り止水部材である長尺のH形鋼13を挿入する。つまり、H形鋼13は、ウェブ部が隣接する溝部7,7の開口部7a,7a間に挿入される第一挿入部13aとして作用し、各フランジ部が各溝部7の拡大部7bに挿入される第二挿入部13bとして作用する。このようにして、隣接する複数のコンクリート壁体1により、土留め構造物として護岸などの連続壁体を構成する。
【0037】
このように、本実施の形態では、コンクリートにより長尺状に形成された壁体本体部2の少なくともいずれか一方の側部に、開口部7aおよびこの開口部7aに対して拡大された拡大部7bを有する溝部7を形成したコンクリート壁体1を、予めグラウト材12を充填した隣接する掘削孔11に沈設し、必要に応じて溝部7にグラウト材12を追加充填するとともに、隣接するコンクリート壁体1の溝部7,7間に亘りH形鋼13を挿入して、連続壁体を構成する。そのため、H形鋼13と溝部7とが組み合った、ラビリンス構造状の目地部構造となるので、連続壁体の一側と他側との間に亘る水みちが発生しにくくなるとともに、仮に発生したとしても図4の矢印Wに示すように壁体本体部2の短側面部2b,2b間から、H形鋼13の第一挿入部13aと溝部7の開口部7aとの間、H形鋼13の一方の第二挿入部13bと溝部7の拡大部7bとの間を経由して、さらに反対側のH形鋼13の第一挿入部13aと溝部7の開口部7aとの間に亘る複雑で長い水みちの経路となる。したがって、複数のコンクリート壁体1を隣接させて連続壁体を構成した状態での止水性能を確保できる。
【0038】
溝部7を壁体本体部2の両側部に形成することで、コンクリート壁体1を順次隣接させて沈設することによって、H形鋼13を挿入する溝部7,7を容易に対向させて配置することが可能になる。
【0039】
溝部7をC形鋼8により形成する場合には、例えば型枠10内にC形鋼8を配置し、両側部にC形鋼8が一体的に配置されるように型枠10内にて壁体本体部2をコンクリートにより遠心成形することによって、溝部7を有するコンクリート壁体1を容易に形成できる。
【0040】
また、C形鋼8と接する箇所にて壁体本体部2に異形鉄筋9を配置することで、異形鉄筋9によってC形鋼8と壁体本体部2とを容易に一体化させることが可能になる。
【0041】
さらに、壁体本体部2の断面形状を両側方向に長い長方形状とすることで、正方形状の断面形状を有するコンクリート壁体と比較して、コンクリート壁体1の一本当たりの施工延長が長くなるため、連続壁体におけるコンクリート壁体1の本数および目地部の数量を低減でき、止水性能をより向上できるとともに、壁体本体部2の側部にC形鋼8を配置するスペースを確保できる。
【0042】
次に、第2の実施の形態について、図5ないし図8を参照して説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0043】
本実施の形態のコンクリート壁体1は、図5に示されるように、壁体本体部2の側部の一方に溝部7が形成され、他方に突出部15が配置される。
【0044】
図示される例では、突出部15は、壁体本体部2の短側面部2bに配置されている。突出部15は、壁体本体部2の短側面部2bから突出する第一挿入部15aと、第一挿入部15aの先端部に連なる第二挿入部15bと、を一体的に有するT字状となっている。第一挿入部15aは、隣接するコンクリート壁体1の溝部7の開口部7aに挿入される部分である。また、第二挿入部15bは、第一挿入部15aに対して交差する方向に延び、隣接するコンクリート壁体1の溝部7の拡大部7bに挿入される部分である。
【0045】
好ましくは、突出部15は、形鋼であるH形鋼16によって形成される。H形鋼16の一方のフランジ部及びウェブ部の一部が壁体本体部2に埋め込まれて固定され、ウェブ部の残りの他部が壁体本体部2から突出して第一挿入部15aとして作用し、他方のフランジ部が第二挿入部15bとして作用する。さらに好ましくは、H形鋼16の一方のフランジ部に異形鉄筋9が溶接され、異形鉄筋9とともにH形鋼16の一方のフランジ部が壁体本体部2に埋め込まれる。この異形鉄筋9により、H形鋼16と壁体本体部2を構成するコンクリートとが強固に一体化されている。本実施の形態において、異形鉄筋9は、必須の構成ではない。
【0046】
このコンクリート壁体1を製造する際には、例えば図6(a)ないし図6(c)に示される型枠10を用いる。
【0047】
本実施の形態において、型枠10は、第一型枠体10aと第二型枠体10bと第三型枠体10cとに分割されている。第一型枠体10aと第二型枠体10bとは、壁体本体部2の断面形状の対角に対応する位置で分割されている。また、第三型枠体10cは、H形鋼16の一部を挟んで保持するように構成されている。
【0048】
そして、図6(a)に示されるように、型枠10内の互いに対向する位置に、異形鉄筋9を溶接した第一形鋼であるC形鋼8と、異形鉄筋9を溶接するとともに第三型枠体10cにより一部を挟み込んだ第二形鋼であるH形鋼16と、を固定するとともに、予め緊張させたPC鋼材4、および、スパイラル筋5を型枠10内に固定する。
【0049】
次いで、図6(b)に示されるように、型枠10内に所定量のコンクリートCを投入し、回転装置によって型枠10を回転させて型枠10内のコンクリートCに遠心力を作用させ、C形鋼8とH形鋼16とが両側部に一体化された壁体本体部2が成形される。
【0050】
この後、図6(c)に示されるように、型枠10を開いてコンクリート壁体1を脱型する。
【0051】
そして、PC鋼材4に加わっている緊張力を開放することで、壁体本体部2にプレストレスが付与される。
【0052】
完成したコンクリート壁体1により連続壁体を形成する施工方法としては、通常のプレボーリング工法と同様に、図7(a)に示されるように予め掘削孔11を複数形成し、これら掘削孔11にグラウト材12(セメントミルク)を充填する。
【0053】
次いで、図7(b)に示されるように、一の掘削孔11に一のコンクリート壁体1を沈設するとともに、図7(c)に示されるように、一の掘削孔11に隣接する他の掘削孔11に他のコンクリート壁体1を、その突出部15を沈設済みの一のコンクリート壁体1の溝部7と位置合わせしつつ沈設する。つまり、突出部15は、第一挿入部15aが溝部7の開口部7aに挿入され、第二挿入部15bが溝部7の拡大部7bに挿入される。
【0054】
この後、掘削孔11より上部、すなわち地上部の溝部7には、グラウト材12が入っていないので、その部分には、グラウト材12を追加で充填する。このようにして、隣接するコンクリート壁体1により、土留め構造物として護岸などの連続壁体を構成する。
【0055】
このように、本実施の形態では、コンクリートにより長尺状に形成された壁体本体部2の一方の側部に、開口部7aおよびこの開口部7aに対して拡大された拡大部7bを有する溝部7を形成し、他方の側部に突出部15を形成した一のコンクリート壁体1を、予めグラウト材12を充填した一の掘削孔11に沈設し、さらに他のコンクリート壁体1を、一の掘削孔11に隣接する他の掘削孔11に、沈設済みの一のコンクリート壁体1の溝部7に突出部15が挿入されるように沈設し、必要に応じて溝部7にグラウト材12を追加充填して、連続壁体を構成する。そのため、突出部15と溝部7とが組み合った、ラビリンス構造状の目地部構造となるので、連続壁体の一側と他側との間に亘る水みちが発生しにくくなるとともに、仮に発生したとしても図8の矢印Wに示すように壁体本体部2の短側面部2b,2b間から、突出部15の第一挿入部15aと溝部7の開口部7aとの間、突出部15の第二挿入部15bと溝部7の拡大部7bとの間を経由して、さらに反対側の突出部15の第一挿入部15aと溝部7の開口部7aとの間に亘る複雑で長い水みちの経路となる。したがって、複数のコンクリート壁体1を隣接させて連続壁体を構成した状態での止水性能を確保できるなど、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
また、一のコンクリート壁体1と他のコンクリート壁体1とを隣接させつつ順次沈設することで、別途の工程を要することなくこれらコンクリート壁体1,1を溝部7と突出部15とによって接続することが可能になる。
【0057】
突出部15をH形鋼16により形成する場合には、型枠10内の互いに対向する位置に溝部7を形成するC形鋼8とH形鋼16とを配置し、一側部にC形鋼8、他側部にH形鋼16が一体的に配置されるように型枠10内にて壁体本体部2をコンクリートにより遠心成形することによって、溝部7と突出部15とを有するコンクリート壁体1を容易に形成できる。
【0058】
また、H形鋼16と接する箇所にて壁体本体部2に異形鉄筋9を配置することで、異形鉄筋9によってH形鋼16と壁体本体部2とを容易に一体化させることが可能になる。
【0059】
なお、上記各実施の形態において、第1の実施の形態のコンクリート壁体1と第2の実施の形態のコンクリート壁体1とを組み合わせて連続壁体を構成してもよい。
【実施例0060】
以下、本実施例および比較例について説明する。
【0061】
本実施例および比較例では、隣接するコンクリート壁体1の目地部における止水性能を試験する。
【0062】
図9(a)に実施例を示す。この実施例は、第1の実施の形態に対応し、隣接するコンクリート壁体1,1の側部の部分のみを構成したものであり、隣接する溝部7,7を含む目地部に対しグラウト材12が充填されているとともに、溝部7,7間に亘りH形鋼13が挿入されている。
【0063】
また、図9(b)に比較例を示す。この比較例は、実施例の溝部7に代えて、断面円弧状の2つのグラウト注入溝18を有し、隣接するグラウト注入溝18を含む目地部に対しグラウト材12が充填されている。
【0064】
実施例および比較例ともに、それぞれ長手方向には例えば850mmの長さを有する。
【0065】
これら実施例および比較例には、セメントミルクをグラウト材12として用いる。
【0066】
そして、止水試験には、図10に示される試験装置20を用いる。試験装置20は、実施例および比較例のそれぞれに対して背面(図9(a)および図9(b)における上面)および両側面(長手方向の端面)に鋼製の水密板21および水密板22を圧着し、コンクリート壁体と水密板21,22との間に水を満たして背面側の目地部から圧力を加える。背面側の水密板21には、加圧用の圧搾空気を供給する圧力管24が接続される接続管25と、圧力計26が取り付けられた開閉バルブ27とを設けるとともに、水密板22には、コンクリート壁体に圧着される側に目地材28を設ける。
【0067】
加圧方法としては、水圧0.02MPa毎に3分間ずつ保持し、0.20MPaまで加えた後1時間保持し、実施例および比較例のそれぞれの目地部からの漏水の有無を計測した。
【0068】
比較例では水圧0.02MPaの時点で漏水が発生したのに対して、実施例では、0.20MPaで15分間保持しても漏水が発生しなかった。すなわち、本実施例は、高い止水性能を有することが示された。
【符号の説明】
【0069】
1 コンクリート壁体
2 壁体本体部
7 溝部
7a 開口部
7b 拡大部
8 形鋼および第一形鋼であるC形鋼
9 接合部材である異形鉄筋
10 型枠
11 掘削孔
12 グラウト材
13 H形鋼
15 突出部
15a 第一挿入部
15b 第二挿入部
16 第二形鋼であるH形鋼
C コンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10