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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034760
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ゲル状消毒剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/08 20060101AFI20230306BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20230306BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A01N25/04 103
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141148
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】304040072
【氏名又は名称】丸住製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋かなえ
(72)【発明者】
【氏名】二宮奨平
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC19
4H011DA17
4H011DE15
4H011DF03
4H011DG07
4H011DG15
4H011DH10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】消毒適用範囲が広く、使用感の良好な次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の製造方法を提供する。
【解決手段】次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の製造方法であって、スルホン化微細セルロース繊維を添加することにより、粘度が1,000mPa・s以上、ヘイズ値が20%以下となるように調整することを特徴とするゲル状消毒剤の製造方法。前記スルホン化微細セルロース繊維が、スルホン化処理したセルロース繊維を解繊処理したものであり、該スルホン化処理したセルロース繊維は、セルロース繊維に、スルファミン酸と尿素を水に溶解させた反応液を接触させ、接触後の湿潤状態のセルロース繊維を100℃~140℃に加熱して反応させたものであることがのぞましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の製造方法であって、スルホン化微細セルロース繊維を添加することにより、粘度が1,000mPa・s以上、ヘイズ値が20%以下となるように調整することを特徴とするゲル状消毒剤の製造方法
【請求項2】
前記スルホン化微細セルロース繊維が、スルホン化処理したセルロース繊維を解繊処理したものであり、該スルホン化処理したセルロース繊維は、セルロース繊維に、スルファミン酸と尿素を水に溶解させた反応液を接触させ、接触後の湿潤状態のセルロース繊維を100℃~140℃に加熱して反応させたものであることを特徴とする請求項1に記載のゲル状消毒剤の製造方法
【請求項3】
前記スルホン化微細セルロース繊維は、平均繊維幅が20nm以下、濃度0.5%における粘度が5,000mPa・s以上、ヘイス値が15%以下となるように解繊処理されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のゲル状消毒剤の製造方法
【請求項4】
手指消毒用であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のゲル状消毒剤の製造方法
【請求項5】
グリセリンを添加しないことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のゲル状消毒剤の製造方法
【請求項6】
スプレー用であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のゲル状スプレー消毒剤の製造方法
【請求項7】
スルホン化微細セルロース繊維を混合することによる次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の除菌効果の調整方法
【請求項8】
スルホン化微細セルロース繊維を混合することによる次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の臭い低減方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状消毒剤の製造方法に関する。より詳しくは、次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
速乾性アルコール性消毒剤は、手指に塗布又は噴霧するだけで消毒でき、タオルで拭き取る必要が無い等の利点を有し、ベースン法(浸漬法)の欠点を補う消毒剤として広く普及している。しかし、上記消毒剤は、アルコール性液剤であるために実際に使用する場合、しばしば、手のひらから溶液がこぼれたり、また手指に塗布、擦り込む際にもこぼれや流れ落ちが生じる。更に、そのようにあふれたり、こぼれたアルコール性薬液が、建物や器具に接触した場合、それらを変質させるおそれもある。
【0003】
そこで、特許文献1において、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子にて粘稠化又はゲル化し、上述の様な欠点を解消した速乾性擦式アルコール性消毒剤が提案されている。しかし、粘稠化剤としてカルボキシビニルポリマーを使用する消毒剤は、使用後、手の上に前記ポリマー析出物によるヨレができ使用感を悪く感じさせる欠点がある。
【0004】
このようなヨレによる使用感を改善するために、特許文献2には、アルコール性消毒剤に、カルボキシビニルポリマーとセルロース系水溶性高分子化合物とを配合した速乾性ゲルタイプ手指消毒剤が報告されている。
【0005】
アルコール性消毒剤以外のゲルタイプの消毒剤としては、特許文献3に、第4級アンモニウム塩殺菌剤を含み、増粘剤としてカルボキシビニルモノマーを含む透明ゲル状皮膚用殺菌剤が報告されている。
【0006】
ところで、アルコール系や第4級アンモニウム塩系の消毒剤は、実質的に細菌類に効能が限定されるといわれており、ウイルス、細菌類、アメーバから原虫まで、病原菌の大小を問わず効能を発揮する消毒薬は塩素剤であり、次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンを主成分とするものが知られている。特許文献4には長期間の保存に耐えうる消毒剤の製造方法として、次亜塩素酸を消毒成分とする塩素水に弱酸性及びpH緩衝性を持たせるために複数種の有機酸を混合することが提案されている。しかし、次亜塩素酸系の消毒剤で、ゲルタイプの消毒剤の特許文献は見つからなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-305504号公報
【特許文献2】特開平6-199700号公報
【特許文献3】国際公開2014/077062号公報
【特許文献4】特開2014-9227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、消毒適用範囲が広く、使用感の良好な次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記課題を解決するため、以下の構成をとる。
本願の第1発明は、
次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の製造方法であって、スルホン化微細セルロース繊維を添加することにより、粘度が1,000mPa・s以上、ヘイズ値が20%以下となるように調整することを特徴とするゲル状消毒剤の製造方法である。
本願の第2発明は、第1発明において、
前記スルホン化微細セルロース繊維が、スルホン化処理したセルロース繊維を解繊処理したものであり、該スルホン化処理したセルロース繊維は、セルロース繊維に、スルファミン酸と尿素を水に溶解させた反応液を接触させ、接触後の湿潤状態のセルロース繊維を100℃~140℃に加熱して反応させたものであることを特徴とする請求項1に記載のゲル状消毒剤の製造方法である。
本願の第3発明は、第1発明または第2発明において、
前記スルホン化微細セルロース繊維は、平均繊維幅が20nm以下、濃度0.5%における粘度が5,000mPa・s以上、ヘイス値が15%以下となるように解繊処理されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のゲル状消毒剤の製造方法である。
本願の第4発明は、第1発明~第3発明のいずれかにおいて、
手指消毒用であることを特徴とするゲル状消毒剤の製造方法である。
本願の第5発明は、第1発明~第4発明のいずれかにおいて、
グリセリンを添加しないことを特徴とするゲル状消毒剤の製造方法である。
本願の第6発明は、第1発明~第4発明のいずれかにおいて、
スプレー用であることを特徴とするゲル状消毒剤の製造方法である。
本願の第7発明は、
スルホン化微細セルロース繊維を混合することによる次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の除菌効果の調整方法である。
本願の第8発明は、
スルホン化微細セルロース繊維を混合することによる次亜塩素酸水を含むゲル状消毒剤の臭い低減方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消毒の適用範囲が広く、塩素臭、保湿性、液だれなどの使用感の良好な次亜塩素酸系のゲルタイプの透明消毒剤の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈本発明で使用できるスルホン化微細セルロース繊維〉
スルホン化微細セルロース繊維は、セルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維である。具体的には、スルホン化微細セルロース繊維は、微細セルロース繊維の水酸基の一部が、下記式(1)で示されるスルホ基でスルホン化されたものである。
【0012】
-SO3-)r・Zr+ (1)
(ここで、rは、独立した1~3の自然数であり、Zr+は、r=1のとき、水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン、カチオン性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、r=2または3のとき、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオン、ジアミンのようなカチオン性官能基を分子内に2以上含有する化合物よりなる群よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。)
【0013】
(スルホン化微細セルロース繊維におけるスルホ基の導入量)
スルホン化微細セルロース繊維のスルホ基の導入量は、スルホ基に起因する硫黄量で表すことができる。スルホ基の導入量は、とくに限定されない。例えば、スルホン化微細セルロース繊維1g)あたりのスルホ基に起因する硫黄導入量は、0.42mmol/gよりも高くなるように調整するのが好ましく、より好ましくは、0.42mmol/g~9.9mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/g~9.9mmol/gであり、さらにより好ましくは0.6mmol/g~9.9mmol/gである。
【0014】
なお、スルホ基中の硫黄の原子数は1であるので、硫黄導入量:スルホ基導入量=1:1である。例えば、スルホン化微細セルロース繊維1gあたりの硫黄導入が0.42mmol/gの場合には、スルホ基の導入量も当然に0.42mmol/gとなる。
【0015】
スルホン化微細セルロース繊維1gあたりのスルホ基に起因する硫黄導入量が0.42mmol/g以下の場合には、繊維間の水素結合が強固なため分散性が低下する傾向にある。その逆に、かかる硫黄導入量が0.42mmol/gよりも高くすることによって分散性が向上させやすくなり、0.5mmol/g以上とすれば電子的反発性をより強くさせることができるので、分散した状態を安定して維持させやすくなる。つまり、後述するスルホン化微細セルロース繊維を所定濃度に分散させた分散液の粘性を均質にするには、硫黄導入量が0.42mmol/gよりも高くするのが好ましく、より好ましくは0.5mmol/g以上とするのがよい。一方、かかる硫黄導入量が9.9mmol/gに近づくほど結晶性の低下が懸念され、しかも硫黄を導入する際のコストも増加する傾向にある。したがって、スルホン化微細セルロース繊維へのスルホ基の導入量、つまりスルホ基に起因する硫黄導入量は、0.42mmol/gよりも高く3.0mmol/g以下となるように調整するのが好ましく、より好ましくは0.5mmol/g~3.0mmol/gであり、さらに好ましくは0.5mmol/g~2.0mmol/gであり、さらにより好ましくは0.5mmol/g~1.7mmol/gであり、より好ましくは0.5mmol/g~1.5mmol/gである。
【0016】
なお、スルホン化微細セルロース繊維の透明性の観点においても、スルホ基に起因する硫黄導入量を上記範囲と同様の範囲となるように調整するのが好ましい。
【0017】
(スルホ基の導入量の測定方法)
スルホン化微細セルロース繊維に対するスルホ基の導入量は、スルホ基に起因する硫黄導入量で評価したり、直接的にスルホ基を測定することで評価することができる。
【0018】
(スルホン化微細セルロース繊維の粘度)
このスルホン化微細セルロース繊維は、分散液に分散させた状態において適切な粘性を発揮させることができるように調製されている。
具体的には、スルホン化微細セルロース繊維の固形分濃度が所定の値(例えば、0.5wt%)となるように調整した分散液の粘度が、5,000mPa・s以上となるように調製されていればよく、好ましくは10,000mPa・s以上であり、より好ましくは15,000mPa・s以上であり、さらに好ましくは20,000mPa・s以上となるように調製されていればよい。
【0019】
(粘度の測定方法)
粘度の測定方法は、例えば、後述する実施例に記載のB型粘度計を用いて測定することができる。
例えば、スルホン化微細セルロース繊維の固形分濃度が0.5wt%となるように調整した分散液を、B型粘度計を用いて、回転数6rpm、25℃、3分で測定すれば、スルホン化微細セルロース繊維の粘度を測定することができる。
【0020】
(スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅)
スルホン化微細セルロース繊維は、上述したようにセルロース繊維が微細化された微細セルロース繊維であり、その繊維は非常に細くなっている。具体的には、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡等のナノスケールでの観察が可能な装置で観察した際に、1nm~30nmとなるように調製されているのが好ましい。
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅が、30nmよりも大きくなるとアスペクト比が低下する傾向にあり、その結果繊維同士のからみあいが減少して粘性が低下する可能性がある。
したがって、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、粘性を向上させる上では、2nm~30nmが好ましく、より好ましくは2nm~20nmであり、さらに好ましくは2nm~10nmである。
【0021】
また、平均繊維幅が、30nmよりも大きくなると可視光の波長の1/10に近づき、可視光の散乱が生じてしまい、透明性が低下する傾向にある。このため、透明性の観点においては、スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅が20nm以下となるように調製されているのが好ましく、より好ましくは10nm以下となるように調製されている。
【0022】
(平均繊維幅の測定方法)
スルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅は、公知の技術を用いて測定することができる。
例えば、走査型プローブ顕微鏡を用いた方法で測定することができる。具体的には、スルホン化微細セルロース繊維を純水等の溶媒に分散させて、所定の濃度となるように混合溶液を調整する。そしてこの混合溶液を、PEI(ポリエチレンイミン)をコーティングしたシリカ基盤上にスピンコートを行い、このシリカ基盤上のスルホン化微細セルロース繊維を観察する。得られた観察画像中のスルホン化微細セルロース繊維をランダムに20本選び、各繊維幅を測定し平均化すればスルホン化微細セルロース繊維の平均繊維幅を求めることができる。
【0023】
(ヘイズ値の測定方法)
分散液にスルホン化微細セルロース繊維を所定の固形分濃度となるように分散させる。そして、この分散液をJIS K 7105に準拠して分光光度計を用いて測定すれば、スルホン化微細セルロース繊維の透明性であるヘイズ値を求めることができる。
【0024】
〈スルホン化セルロース繊維の製造方法〉
まず、スルホン化セルロース繊維を製造する方法について説明する。このスルホン化セルロース繊維の製造方法は、セルロースを含む繊維原料を以下に示す方法で化学的に処理する化学処理工程を含んでいる。
【0025】
(化学処理工程)
化学処理工程は、セルロースを含む繊維原料に対してスルホ基を有するスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を接触させる接触工程と、この接触工程後の繊維原料に含まれるセルロースの水酸基の少なくとも一部にスルホ基を導入する反応工程とを含んでいる。
【0026】
パルプなどから解繊機等を用いて微細化してナノファイバー等の微細繊維を製造する際には、経済的にも環境的にも微細化効率が非常に重要となる。通常、このような微細化処理工程で行われる効率化向上の方法としては、解繊機等に供給する繊維の繊維長を短くして解繊機等に供給した際の解繊等への負荷を低下させるという方法が採用されるが、得られる微細繊維の平均繊維長が短くなるといった問題が生じている。
【0027】
これに対して、上述したようにスルホン化セルロース繊維を調製することによって、上記のような従来の問題を解決することができるようになる。
【0028】
スルホン化セルロース繊維を構成する繊維同士をほぐれやすくすることができるので、微細化処理する際に要するエネルギーを小さくすることができる。このような製造方法を用いることによって、品質安定性に優れ、取り扱い性に優れたスルホン化セルロース繊維を高い回収率で製造することができる。しかも、高品質なスルホン化セルロース繊維を安定して製造することができるので、所望の利用目的や用途に応じたスルホン化セルロース繊維を生産することができる。
【0029】
以下、化学処理工程の各工程より具体的に説明する。
【0030】
(接触工程)
化学処理工程における接触工程は、セルロースを含む繊維原料に対してスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を接触させる工程である。例えば、スルホン化剤と尿素を共存させた反応液に繊維原料を浸漬等させて反応液を含浸させる方法を採用すれば、均質にスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体を繊維原料に対して接触させることができる。
【0031】
(反応液の混合比)
上記反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を採用する場合、反応液に含まれるスルホン化剤と尿素または/およびその誘導体の混合比は、とくに限定されない。例えば、スルホン化剤と尿素または/およびその誘導体は、濃度比(g/L)において、4:1(1:0.25)、2:1(1:0.5)、1:1、1:2.5となるように調整することができる。例えば、スルホン化剤と尿素を純水に溶解してそれぞれの濃度が、200g/Lと100g/Lになるように調整すれば、濃度比(g/L)において、スルホン化剤:尿素が2:1の反応液を調製することができる。繊維原料に接触させる反応液の量は、とくに限定されない。
【0032】
(反応工程)
化学処理工程における反応工程は、上述したように繊維原料に含まれるセルロースの水酸基に接触させたスルホン化剤のスルホ基を置換して、繊維原料に含まれるセルロースにスルホ基を導入する工程である。例えば、上記反応液を含浸させた繊維原料を所定の温度で加熱すれば、繊維原料に含まれるセルロースにスルホ基を導入することができる。
【0033】
(反応工程における反応温度)
反応工程における加熱温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、上記繊維原料を構成するセルロースにスルホ基を導入できる温度であれば、とくに限定されない。このようなものとしては、公知の乾燥機や、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置等を採用することができる。
【0034】
なお、接触工程後の繊維原料の形状はとくに限定されないが、例えば、シート状にしたものや、ある程度ほぐした状態で上記機器等を用いて加熱すれば、反応を均一に進行させやすくなる。
【0035】
反応工程における加熱温度は、上記要件を満たせば、とくに限定されない。例えば、雰囲気温度が250℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下である。加熱時における雰囲気温度が250℃よりも高くなると、熱分解が起こったり、繊維の変色の進行が早くなったりする。一方、加熱温度が100℃よりも低くなると、反応時間が長くなる傾向にある。したがって、作業性の観点から、加熱時における加熱温度(具体的には雰囲気温度)が100℃以上250℃以下、より好ましくは100℃以上200℃以下、さらに好ましくは100℃以上180℃以下となるように調整する。
【0036】
特には、加熱時における加熱温度は100℃~140℃とするのが望ましい。このようにすることで、本願発明の製造方法に適した、スルホン化微細セルロース繊維の特性、つまり、平均繊維幅が20nm以下、固形分濃度0.5wt%の粘度が5,000mPa・s以上、ヘイス値が15%以下となるスルホン化微細セルロース繊維に調製することができる。このようなスルホン化微細セルロース繊維は、平均繊維幅が小さくヘイズ値が低いので、均質に解繊されており、しかも、粘度が高いので繊維長が維持されているため、高いチキソトロピー性を有すると推察される。つまり、このようなスルホン化微細セルロース繊維を使用することで、ゲル状で液だれしない手指消毒用に適した消毒剤の製造方法を提供することができる。さらには、スプレー可能でありスプレー後は液だれしない消毒剤の製造方法を提供することができるのである。
【0037】
(反応工程における反応時間)
また、反応工程として上記加熱方法を採用した場合の加熱時間は、とくに限定されない。例えば、反応工程における加熱時間は、反応温度を上記範囲となるように調整した場合、1分以上となるように調整する。より具体的には、5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは20分以上とする。加熱時間が1分よりも短い場合は、反応がほとんど進行していなと推察される。一方、加熱時間をあまり長くしてもスルホ基の導入量の向上が期待できない。したがって、反応工程として上記加熱方法を採用した場合の加熱時間は、とくに限定されないが、反応時間や操作性の観点から、5分以上300分以内が好ましく、より好ましくは5分以上120分以内とするのがよい。
【0038】
(スルホン化剤)
反応工程におけるスルホン化剤は、スルホ基を有する化合物であればよい。例えば、スルファミン酸、スルファミン酸塩、硫黄と共有結合する2つの酸素を持つスルホニル基を有するスルフリル化合物などを挙げることができる。これらの化合物を単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
スルホン化剤は、上記のような化合物であればとくに限定されないが、硫酸等と比べて酸性度が低く、スルホ基の導入効率が高く、低コストで、安全性が高いスルファミン酸を採用するのが好ましい。
【0039】
(尿素とその誘導体)
反応工程における尿素とその誘導体のうち、尿素の誘導体は、尿素を含有する化合物であればとくに限定されない。例えば、カルボン酸アミド、イソシアネートとアミンの複合化合物、チアミドなどを挙げることができる。尿素の誘導体は、上記化合物を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記のような化合物であればとくに限定されないが、低コストで、環境負荷の影響が少なく、安全性が高いので取り扱い性の観点から、尿素を採用するのが好ましい。
【0040】
(繊維原料)
スルホン化セルロース繊維の製造方法に用いられる繊維原料は、セルロースを含むものであればとくに限定されない。入手のし易さの観点から、木材パルプを使用することが好ましい。
【0041】
木材パルプとしてはとくに限定されない。針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの製紙用パルプなどを挙げることができる。
【0042】
(乾燥工程)
化学処理工程は、接触工程と反応工程の間に乾燥工程を含んでいてもよい。この乾燥工程は、反応工程の前処理工程として、接触工程後の繊維原料の含水率が平衡状態となるように乾燥する工程である。接触工程後の繊維原料を湿潤状態のまま反応工程に供給して加熱してもよいが、スルファミン酸や尿素等の一部が加水分解を受ける可能性がある。このため、反応工程におけるスルホン化反応を適切に進行させる上では、反応工程前に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0043】
この乾燥工程は、反応液を接触させた状態の繊維原料を反応工程における加熱温度よりも低い温度で乾燥することによって、反応溶液の溶媒を除去する工程である。この乾燥工程に用いられる装置等は、とくに限定されず、上述した反応工程で用いられる乾燥機等を使用することができる。
【0044】
乾燥工程における乾燥温度は、とくに限定されない。例えば、加熱温度は、雰囲気温度が100℃以下が好ましく、より好ましくは20℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは、50℃以上100℃以下である。加熱時における雰囲気温度が100℃よりも高くなると、スルホン化剤等の分解が起こる可能性がある。一方、加熱時における雰囲気温度が20℃よりも低いと、乾燥に時間がかかる。
【0045】
(洗浄工程)
スルホ基を導入した後の繊維原料は、スルホン化剤の影響により表面が酸性になっている。また、未反応の反応液も存在した状態となっている。このため、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にすれば、取り扱い性を向上させることができる。
【0046】
洗浄工程は、スルホ基を導入した後の繊維原料がほぼ中性になるようにできれば、とくに限定されない。例えば、スルホ基を導入した後の繊維原料が中性になるまで純水等で洗浄するという方法や、アルカリ等を用いた中和洗浄を行ってもよい。
【0047】
(スルホン化微細セルロース繊維の製造方法)
スルホン化微細セルロース繊維は、上記ごとく調製したスルホン化セルロース繊維を本製造方法の微細化処理工程に供給し微細化することによって得られる。
【0048】
(微細化処理工程)
本製造方法の微細化処理工程は、スルホン化セルロース繊維を微細化して所定の大きさの微細繊維にする工程である。この微細化処理工程に用いられる処理装置は、例えば、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用のミキサーなどを使用することができる。これらのうち、材料に均等に力を加えることができ、均質化に優れており、処理時間を短くできるという点で、高圧ホモジナイザーを用いるのが望ましい。
【0049】
微細化処理工程において、高圧ホモジナイザーを用いる場合、上述した本製造方法で得られたスルホン化セルロース繊維を水などの水溶性溶媒に分散させた状態で供給する。このスルホン化セルロース繊維の固形分濃度は、とくに限定されない。例えば、スルホン化セルロース繊維の固形分濃度が、0.1wt%~20wt%となるように調整したものを高圧ホモジナイザー等の解繊機等に供給すればよい。
【0050】
(本発明で使用できる次亜塩素酸水)
次亜塩素酸水(HClO)は、微量で高い殺菌効果がある利点や、インフルエンザウイルス等のエンベロープウイルスのみならずノロウイルスのようなノンエンベロープウイルスにも効果がある利点、食品添加物としても認められていて安全性が高い利点、電解によって安価に提供できる等の利点がある。
【0051】
次亜塩素酸水は、高い殺菌性能を保持しつつ食品添加物にも指定されていて毒性は低いため、スプレー式の除菌剤として特に有益であるが、スプレーすると特有の臭いを発生することがある。この点、本願発明のように、特定のスルホン化微細セルロース繊維と併用することにより、次亜塩素酸水の特有の臭いを低減することができるため、使用時に不快感を与えることなく次亜塩素酸水の高い除菌・抗ウイルス効果を発揮できる。
【0052】
一般に、次亜塩素酸水を含む消毒剤は、即効性が特徴であり有機物に接触すると直ちに殺菌反応を生じ、分解することが知られているが、本願発明の製造方法によれば、次亜塩素酸水を含む消毒剤の効果を持続させることができる。
【0053】
(消毒剤の粘度)
消毒剤の粘度は、スルホン化微細セルロース繊維により、1,000mPa・s以上となるように調製されていればよく、好ましくは3,000mPa・s以上であり、より好ましくは5,000mPa・s以上となるように調製されていればよい。このようにすることで、液だれしないジェル状消毒剤として使用することができる。
【0054】
(消毒剤のヘイズ値)
消毒剤のヘイズ値は、30%以下となるように調製されていればよく、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下となるように調製されていればよい。
このようにすることで、透明性のあるジェル状消毒剤として使用することができる。
【0055】
実験1(抗菌性試験)
以下4種類の試料を調製し、抗菌性試験に供した。抗菌性試験は試料調製の3日後に行った。
試料ア)濃度1wt%のスルホン化微細セルロース繊維
試料イ)次亜塩素酸水を純水で希釈し、有効塩素濃度を100ppmとなるようにした。
試料ウ)次亜塩素酸水に濃度1wt%のスルホン化微細セルロース繊維と純水を加え、スルホン化微細セルロース繊維0.5wt%、有効塩素濃度100ppmとなるようにした。
試料エ)次亜塩素酸水に濃度1wt%のスルホン化微細セルロース繊維と純水を加え、スルホン化微細セルロース繊維0.8wt%、有効塩素濃度100ppmとなるようにした。
なお、実験に用いたスルホン化微細セルロース繊維は、NBKPのセルロース繊維に、スルファミン酸と尿素を水に溶解させてスルファミン酸200g/L、尿素100g/Lとなるように調製した反応液を接触させ、湿潤状態のセルロース繊維を120℃、30min加熱して反応させることにより得られたスルホン化セルロース繊維を解繊したものであり、置換基導入量1.0mmol/g、平均繊維幅20nm以下、B型粘度(濃度0.5wt%、回転数6rpm、25℃、3分)8,000mPa・s、濃度0.5wt%の分散液におけるヘイズ値が5.3%のものである。試験に用いた次亜塩素酸水は、電解法で製造された微酸性次亜塩素酸水溶液で有効塩素濃度500ppmのものである。また、調製した試料イ)~エ)の有効塩素濃度は、次亜塩素酸水を希釈することによる計算上の有効塩素濃度である。
【0056】
(抗菌性試験の条件)
試験に用いる生菌:Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌 NBRC)
方法:「JIS L 1902:2015 繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果 8.1 菌液吸収法」を準用
【0057】
(菌液の調製)
ニュートリエント培地で培養後、菌液中の菌数を求め、菌液を希釈して、生菌数約1×10CFU/mLに調製する。
【0058】
(接種直後の菌数測定手順)
滅菌瓶に0.4gの試料を入れ、菌液を0.2mL摂取させる。
接種直後に洗い出し用生理食塩水20mL加え、手振りにより菌を洗い出し、直ちにこの液の一部を分取する。分取した液中の菌数を測定する。培養は、混釈平板培養とし、培地は、混釈平板培養法用寒天培地を使用する。
【0059】
(18時間培養後の菌数測定手順)
滅菌瓶に0.4gの試料を入れ、菌液を0.2mL摂取させる。
培養器に入れ、温度37±2℃で18時間培養する。
培養後、洗い出し用生理食塩水20mL加え、手振りにより菌を洗い出し、直ちにこの液の一部を分取する。培養は、混釈平板培養とし、培地は、混釈平板培養法用寒天培地を使用する。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実験2(スプレー消毒剤としての評価)
以下3種類の試料を調製した。
試料a)次亜塩素酸水を純水で希釈し、有効塩素濃度50ppmとなるようにした。
試料b)次亜塩素酸水にグリセリンと純水を加え、グリセリン5wt%、有効塩素濃度50ppmとなるようにした。
試料c)次亜塩素酸水にスルホン化微細セルロース繊維と純水を加え、スルホン化微細セルロース繊維0.8wt%、有効塩素濃度50ppmとなるようにした。
なお、実験2に用いたスルホン化微細セルロース繊維と次亜塩素酸水は、実験1で用いたものと同じであり、また、調製した試料a)~c)の有効塩素濃度は、有効塩素濃度500ppmの次亜塩素酸水を希釈することによる計算上の有効塩素濃度である。
【0062】
各試料をスプレー容器に入れ、手のひらにスプレーして、臭い、液だれ、保湿性を次の3段階で評価した。評価は5名で行い、良い(2点)、普通(1点)、悪い(0点)で評価し、平均点を算出した。
【0063】
評価結果と粘度の測定結果を、表2に示す。すべての項目において本願発明に関る試料cが最も良好な結果であった。
【0064】
【表2】
【0065】
実験1、2より、以下のことがわかる。
スルホン化微細セルロース繊維により、次亜塩素酸水の消毒効果を調整できる。
スルホン化微細セルロース繊維により、次亜塩素酸水を含有する消毒剤の臭いを低減できる。
スルホン化微細セルロース繊維により、塩素臭が低減され、保湿性があり、液だれの無い、次亜塩素酸系のゲル状消毒剤を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、手指消毒や物に対する、広範囲の消毒効果を有する消毒剤の製造方法を提供することができる。