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特開2023-34764可食性植物粉体組成物、及びその製造方法
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  • 特開-可食性植物粉体組成物、及びその製造方法 図1
  • 特開-可食性植物粉体組成物、及びその製造方法 図2
  • 特開-可食性植物粉体組成物、及びその製造方法 図3-1
  • 特開-可食性植物粉体組成物、及びその製造方法 図3-2
  • 特開-可食性植物粉体組成物、及びその製造方法 図4
  • 特開-可食性植物粉体組成物、及びその製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034764
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】可食性植物粉体組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20230306BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20230306BHJP
   A23L 19/10 20160101ALI20230306BHJP
   A21D 2/18 20060101ALN20230306BHJP
   A21D 2/36 20060101ALN20230306BHJP
   A21D 13/043 20170101ALN20230306BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20230306BHJP
   A23G 3/00 20060101ALN20230306BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20230306BHJP
   A23L 13/60 20160101ALN20230306BHJP
   A23L 19/12 20160101ALN20230306BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20230306BHJP
   A21D 13/44 20170101ALN20230306BHJP
   A23L 7/109 20160101ALN20230306BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20230306BHJP
   A23G 9/34 20060101ALN20230306BHJP
   A23L 19/00 20160101ALN20230306BHJP
【FI】
A23L29/212
A23L11/00 Z
A23L19/10
A21D2/18
A21D2/36
A21D13/043
A21D13/80
A23G3/00
A23G3/34
A23L13/60 Z
A23L19/12 A
A23L35/00
A21D13/44
A23L7/109 C
A23L23/00
A23G9/34
A23L19/00 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141152
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】594117526
【氏名又は名称】こだま食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】馬上 元彦
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 綾子
(72)【発明者】
【氏名】淺野 優
【テーマコード(参考)】
4B014
4B016
4B020
4B025
4B032
4B036
4B042
4B046
【Fターム(参考)】
4B014GB04
4B014GB11
4B014GB18
4B014GG02
4B014GG03
4B014GG05
4B014GG06
4B014GG07
4B014GG10
4B014GG14
4B014GG17
4B014GK03
4B014GK09
4B014GP01
4B014GP15
4B014GQ05
4B016LC02
4B016LG05
4B016LG06
4B016LK13
4B016LK15
4B016LK20
4B020LB24
4B020LC09
4B020LG09
4B020LP03
4B020LP08
4B020LP20
4B020LP22
4B025LB18
4B025LB25
4B025LD02
4B025LG27
4B025LG28
4B025LG42
4B025LG43
4B025LP01
4B025LP04
4B025LP06
4B025LP07
4B032DB02
4B032DB10
4B032DB33
4B032DG02
4B032DG20
4B032DK02
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4B032DK47
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4B032DK70
4B032DP13
4B032DP33
4B032DP40
4B032DP80
4B036LC01
4B036LF01
4B036LF04
4B036LF13
4B036LF19
4B036LH04
4B036LH13
4B036LH25
4B036LH27
4B036LH29
4B036LH30
4B036LH38
4B036LH39
4B036LH41
4B036LH50
4B042AC03
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD20
4B042AD36
4B042AE03
4B042AK13
4B042AK20
4B042AP18
4B046LA01
4B046LC01
4B046LG30
4B046LG34
4B046LG36
(57)【要約】
【課題】流動性が改善され、取り扱い性に優れる可食性植物粉体組成物の提供。
【解決手段】デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上、デンプンに占めるα化デンプンの割合が80質量%以上の可食性植物粉体組成物であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径が、5~500μmであり、及び
安息角、スパチュラ角、圧縮度、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で示される流動性指数が45~89である、可食性植物粉体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上、デンプンに占めるα化デンプンの割合が80質量%以上の可食性植物粉体組成物であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径が、5~500μmであり、及び
安息角、スパチュラ角、圧縮度、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で示される流動性指数が45~89である、可食性植物粉体組成物。
【請求項2】
10質量%の濃度になるように水に分散させた溶液(20±0.1℃)を、B型粘度計(ローターNo.20又は21、回転数100、50、20、10又は5rpm、測定時間1分)で測定した粘度が70~2,500mPa・sである、
請求項1に記載する可食性植物粉体組成物。
【請求項3】
前記可食性植物粉体組成物の原料が、イモ又はマメである、請求項1又は2に記載する可食性植物粉体組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載する可食性植物粉体組成物の製造方法であって、
デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上の可食性植物の可食部を、
水分含量10~60質量%に調整した後、50~300℃の温度で加熱混練処理する工程、乾燥処理する工程、及び粉砕処理する工程を有する、
前記製造方法。
【請求項5】
可食性植物粉体組成物の流動性を向上する方法であって、
デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上の可食性植物の可食部を、
水分含量10~60質量%に調整した後、50~300℃の温度で加熱混練処理する工程、乾燥処理する工程、及び粉砕処理する工程に供して、
デンプンに占めるα化デンプンの割合が80質量%以上で、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径が、5~500μm、及び
安息角、スパチュラ角、圧縮度、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で示される流動性指数が45~89である、
可食性植物粉体組成物を調製する工程を有する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性が改善され、取り扱い性に優れる可食性植物粉体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品素材の粉体特性の物理的特性は複雑である。粒子径と流動性の関係は食品の成分にもよるものの、一般的に粉体は微粒化するに従い、流動性が悪くなるとされており、食品素材においてもこの傾向が見られることが報告されている。このため、微粒化された食品素材を、食品加工機械や加工ラインに適用すると、ホッパー、フィーダ、輸送パイプあるいは撹拌機などにおいて、粉体の架橋や凝集(だま)などが生じ、付着や詰まり等で作業のハンドリング性が低下したり、また収率が低下するといった問題が生じる。
【0003】
微粒化された食品素材の流動性を改善する方法として、二酸化ケイ素を原料に配合する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R. L. Carr, Jr.; Evaluating flow properties of solids. Chem. Eng.-New York, 18, 163-168 (1965)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、流動性が改善され、取り扱い性に優れる可食性植物粉体組成物を提供することを課題とする。また本発明は、当該可食性植物粉体組成物を製造する方法を提供することを課題とする。さらに可食性植物粉体組成物について流動性を向上するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねていたところ、デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上である可食性植物の可食部を、水分含量10~60質量%に調整した後、50~300℃の温度で加熱混練処理し、粉砕乾燥処理することで、前記可食部を乾燥後、加水及び加熱混練処理することなく、粉砕乾燥処理して調製した粉体組成物や、前記可食部を乾燥後、加水して水分含量を調整した後、加熱混練処理することなく、粉砕乾燥処理して調製した粉体組成物と比較して、有意に流動性が向上し、ハンドリング性が改善することを見出した。
【0007】
また、得られた可食性植物粉体組成物は、常温水で撹拌した際に良好な増粘性を発揮するため、とろみ剤、結着剤、食感改良剤、または保湿剤等の食品の改質剤として有用であることを確認した。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)可食性植物粉体組成物
(I-1)デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上、デンプンに占めるα化デンプンの割合が80質量%以上の可食性植物粉体組成物であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径が、5~500μmであり、及び
圧縮度、安息角、スパチュラ角、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で示される流動性指数が45~89である、可食性植物粉体組成物。
(I-2)10質量%の濃度になるように水に分散させた溶液(20±0.1℃)を、B型粘度計(ローターNo.20又は21、回転数100、50、20、10、又は5rpm、測定時間1分)で測定した粘度が70~2,500mPa・sである、(I-1)に記載する可食性植物粉体組成物。
(I-3)前記可食性植物粉体組成物の原料が、イモ又はマメである、(I-1)又は(I-2)に記載する可食性植物粉体組成物。
【0009】
(II)可食性植物粉体組成物の製造方法
(II-1)(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する可食性植物粉体組成物の製造方法であって、
デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上の可食性植物の可食部を、
水分含量10~60質量%に調整した後、50~300℃の温度で加熱混練処理する工程、乾燥処理する工程、及び粉砕処理する工程を有する、
前記製造方法。
【0010】
(III)可食性植物粉体組成物の流動性向上方法
(III-1)可食性植物粉体組成物の流動性を向上する方法であって、
デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上の可食性植物の可食部を、
水分含量10~60質量%に調整した後、50~300℃の温度で加熱混練処理する工程、乾燥処理する工程、及び粉砕処理する工程に供し、
デンプンに占めるα化デンプンの割合が80質量%以上で、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径が、5~500μm、及び
安息角、スパチュラ角、圧縮度、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で示される流動性指数が45~89である、
可食性植物粉体組成物を調製する工程を有する、前記方法
【発明の効果】
【0011】
本発明の可食性植物粉体組成物は、可食性植物の可食部を、所定の加水条件下加熱混練することなく、単に乾燥粉砕して調製される粉体組成物(乾燥粉砕粉体組成物)と比較して、粉体特性、特に流動性が良好であり、取り扱い性に優れることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の可食性植物粉体組成物は、水に分散して増粘する作用に優れているため、例えばとろみ剤、結着剤、食感改良剤、または保湿剤等の食品改良剤として有効に利用することができる。
【0013】
さらに、可食性植物の可食部として、イモの中でも、特に甘藷を用いて調製される本発明の可食性植物粉体組成物は、パン生地に配合することで、酵母等の微生物による発酵を促進する作用、またパンの食感を改良する作用(テクスチャー改善作用)を発揮する。またケーキ生地に配合することで、水分保持作用を発揮し、水分の蒸発を防止してしっとりした食感を有するケーキを得ることができる。さらにトマトジュースに配合することで、分散性及び分散安定性が向上し、トマトの沈降を抑制する作用(沈降抑制作用)を発揮する。
【0014】
このように、本発明の可食性植物粉体組成物は、食品改良剤として有用であり、しかも、前述するように、単に乾燥粉砕して調製される乾燥粉砕粉体組成物と比較して、流動性が改善されているため、食品製造に際してハンドリングしやすい粉体組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実験例で採用したデンプン含量(g/100g)の測定フローチャートを示す。
図2】実験例で採用した糊化度(α化度)(%)の測定フローチャートを示す。
図3-1】実験例2(3)パンのテクスチャー解析の結果を示す。(A)かたさ、(B)凝集性を、パン生地に本発明の粉体組成物(粉体A)を配合して焼成したパン(実施例2-1)、パン生地に粉体A比較例1を配合して焼成したパン(比較例2-1)、及びパン生地に粉体組成物を配合せず焼成したパン(コントロール2-1)について測定した結果を示す。各図中、*及び**はt検定のp値を示す。* P <0.05 ** P <0.01。
図3-2】実験例2(3)パンのテクスチャー解析の結果を示す。(C)付着性、(D)ガム性を、パン生地に本発明の粉体組成物(粉体A)を配合して焼成したパン(実施例2-1)、パン生地に粉体A比較例1を配合して焼成したパン(比較例2-1)、及びパン生地に粉体組成物を配合せず焼成したパン(コントロール2-1)について測定した結果を示す。各図中、*及び**はt検定のp値を示す。* P <0.05 ** P <0.01。
図4】A:実験例3において製造したケーキ(ブラウニー)の外観(上からみた外観)を示した画像。B:中央部でカットした断面を示した画像。図4A及びBともに、左端はコントロール3-1、中央は比較例3-1、右端は実施例3-1のケーキの画像である。
図5】実験例4においてトマトパウダー(実施例4-1(test)、コントロール4ー1(control))の沈降性を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(I)可食性植物粉体組成物
本開示の可食性植物粉体組成物(以下、「本対象粉体」とも称する)は、可食性植物の可食部を原料として調製される粉体組成物である。
【0017】
可食性植物の可食部は、デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上のものである。可食性植物の種類にもよるが、可食性植物がマメである場合、好ましいデンプン含有量は乾燥質量換算で39質量%以上である。可食性植物がイモである場合、好ましいデンプン含有量は乾燥質量換算で50質量%以上、より好ましくは56質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0018】
本発明が対象とする可食性植物には、イモ及びマメが含まれる。好ましくは、イモである。イモには、サツマイモ(甘藷)、キャッサバ、じゃがいも、キクイモ、タロイモ、里芋、山芋、及び長芋等が含まれる。好ましくはサツマイモ(甘藷)である。また本発明が対象とするマメには、制限されないものの、インゲン豆、えんどう豆、あずき、レンズ豆、緑豆、ひよこ豆、ささげ、つるまめ、らい豆、及びそら豆等が含まれる。好ましくは、インゲン豆、及びえんどう豆である。なお、上記イモやマメには、品種改良により様々な種類のものが存在するが、デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上のものであれば、その品種の別に関わらず、本発明の対象に含まれる。
【0019】
可食性植物の可食部のデンプン含有量は、後述する実施例に記載する測定方法により求めることができる。得られる測定値をもとに、同可食部の水分含量を考慮し、水分を含まない乾燥固形分(水分含量0%)100質量%あたりのデンプン含有量に換算した値が、デンプン含有量の乾燥質量換算値である。ここで水分含量は、赤外線水分計を用い、粉体組成物を5~7g供し、赤外線照射によって加熱乾燥させ(150℃、10分)、含まれている水分の蒸発による質量変化から水分含量(%)を算出することで求めることができる。
なお、後述する実施例に記載する測定方法に代えて、日本食品標準成分表(文部科学省技術・学術審議会資源調査分科会公表)に記載のデンプン含有量及び水分含有量をもとに換算されるデンプン含有量であることもできる。
【0020】
本対象粉体に含まれるデンプンは、その80質量%以上がα化デンプンである。好ましくは83質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、例えば92質量%以上、94質量%以上、または96質量%以上がα化デンプンであるデンプンを対象とすることができる。本対象粉体に含まれるデンプンのα化度(糊化度)は、後述する実施例に記載するように、関税中央分析所報第51号「HPLC法によるでん粉アルファー化度測定法の検討」に記載の「グルコアミラーゼ第二法」に基づいて測定することできる。
【0021】
本対象粉体は、50%粒子径(累積分布径D50)が5~500μmであることを特徴とする。好ましくは5~340μm、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは10~150μm、特に好ましくは10~100μmである。
なお、本発明及び本明細書において、粉体組成物の粒子径は、レーザー回析散乱式粒度分布測定法により測定された粒度分布の値を意味する。具体的には、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社の粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3100IIや株式会社セイシン企業社製 レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置LMS-300等の市販のレーザー回析式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。その測定条件は後述する実施例において説明する。
【0022】
本対象粉体は、下記の流動性指数で示される粉体特性を有する。
<流動性指数>
流動性指数は、R.L.Carr氏が提唱した指数であり、「Carrの指数」とも称される(非特許文献1)。流動性指数は、粉体の圧縮度(%)、安息角(°)、スパチュラ角(°)、及び均一度を測定し、それぞれの項目の測定結果に対して0点から25点の点数を付与し、全ての点数を合計したものである。それぞれの測定結果の点数化はCarrの表(非特許文献1)(表1参照)に基づいて行われる。
【0023】
【表1】
【0024】
当該流動性指数が大きくなるほど流動性がよくなるとされている。
本対象粉体は、圧縮度(%)、安息角(°)、スパチュラ角(°)、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で表される流動性指数が、対象とする可食性植物がイモである場合は、50~89であることを特徴とする。好ましくは53~89であり、より好ましくは55~89である。対象とする可食性植物がマメである場合は、45~79であることを特徴とする。好ましくは47~79であり、より好ましくは50~79である。後述する実験例に示すように、本対象粉体は、その流動性指数が、同可食部(原料)を単に乾燥粉砕して得られる粉体(以下、「乾燥粉砕粉体」と称する)の流動性指数よりも大きいことから、流動性が改善されている。
本発明において、粉体の圧縮度(%)、安息角(°)、スパチュラ角(°)、及び均一度は、後述する実験例で示すように、パウダテスタ(登録商標)PT-X(ホソカワミクロン製)を用いることで測定することができる。またその指数及びその総数は、当該装置により自動的に算出される。
【0025】
<圧縮度(%)>
原料(可食性植物の可食部)がイモ、好ましくは甘藷である場合、本対象粉体は、圧縮度が25~40%未満であることが好ましい。より好ましくは25~35%である。原料(可食性植物の可食部)がマメ、好ましくはいんげん豆である場合、本対象粉体は、圧縮度が45%より大きいことが好ましい。より好ましくは47%以上である。圧縮度は、上記パウダテスタ(登録商標)PT-Xを用いて測定されたゆるめ嵩密度(ρa)と固め嵩密度(ρp)とから下式により求められるものである。
[式]
圧縮度(%)=(ρp-ρa)/ρp × 100
【0026】
後述する実験例に示すように、本対象粉体の圧縮度は、同可食部を原料とした乾燥粉砕粉体の圧縮度(40%以上)よりも有意に小さいことから、本対象粉体は乾燥粉砕粉体よりも流動性が改善されていることがわかる(表2及び4参照)。
【0027】
<安息角(°)>
原料がイモ、好ましくは甘藷である場合、本対象粉体は、安息角が40~48°であることが好ましい。より好ましくは41~47°、さらに好ましくは42~46°である。原料(可食性植物の可食部)がマメ、好ましくはいんげん豆である場合、本対象粉体は、安息角が47~55°であることが好ましい。より好ましくは47~54°である。
後述する実験例に示すように、本対象粉体は、安息角が、同可食部(原料)の乾燥粉砕粉体の安息角よりも小さいことから、乾燥粉砕粉体よりも流動性が改善されていることがわかる(表2及び4参照)。また、安息角が低下することから、本発明粉体は、例えば、製造設備の原料供給口などへの付着も抑制され、これに伴う詰まりを予防することもできる。
【0028】
<スパチュラ角(°)>
原料がイモ、好ましくは甘藷である場合、本対象粉体は、スパチュラ角が73°未満、特に65~72°であることが好ましい。より好ましくは66~72°である。原料(可食性植物の可食部)がマメ、好ましくはいんげん豆である場合、本対象粉体は、スパチュラ角が74°以下、特に62~74°であることが好ましい。より好ましくは66~74°である。後述する実験例に示すように、本対象粉体は、スパチュラ角が、同可食部(原料)の乾燥粉砕粉体のスパチュラ角よりも小さいことから、流動性が改善されていることがわかる(表2及び3参照)。
【0029】
<均一度>
原料(可食性植物の可食部)がイモ、特に甘藷である場合、本対象粉体は、均一度が1.0~4.0であることが好ましい。より好ましくは2.0~4.0である。原料(可食性植物の可食部)がマメ、好ましくはいんげん豆である場合も同じである。均一度は、前述する粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3100Iを用いて粒子径分布を求め、累積分布曲線を作成し、その累積分布曲線に基づいて求めた60%粒子径と10%粒子径とから、下式から求められる値である。
[式]
均一度=60%粒子径/10%粒子径
【0030】
<ゆるめ嵩密度>
原料(可食性植物の可食部)がイモ、特に甘藷である場合、本対象粉体は、ゆるめ嵩密度が0.55~0.70g/cmであることが好ましい。より好ましくは0.60~0.65g/cmである。原料(可食性植物の可食部)がマメ、好ましくはいんげん豆である場合、本対象粉体は、ゆるめ嵩密度が0.40~0.55g/cmであることが好ましい。より好ましくは0.41~0.50g/cmである。後述する実験例に示すように、本対象粉体は、ゆるめ嵩密度が、同可食部(原料)の乾燥粉砕粉体のゆるめ嵩密度よりも大きいことから、流動性が高いことがわかる(表2及び4参照)。
ゆるめ嵩密度は、一般的に被験試料の粉体を、一定容積の容器中に空洞を作ることなく、また容器に振動等の外力を加えずに均一に投入してその時の重量を測定し、重量を容器の容積で除した値を求めることによって測定した値を意味する。
【0031】
本対象粉体には、更に下記の噴流性指数で示される粉体特性を有するものが含まれる。
<噴流性指数>
噴流性指数もR.L.Carr氏が提唱した指数である(非特許文献1)。噴流性指数は、前記の流動性指数に、崩潰角、差角及び分散度を加えた4項目を測定し,それぞれの測定結果に対して0点から25点の点数を付与し全ての点数を合計したものである。点数が大きくなるにしたがいフラッシング(飛散)しやすくなるとされている。これの点数化もCarrの表(非特許文献1)に基づいて行われる。
原料(可食性植物の可食部)がイモ、特に甘藷である場合、本対象粉体には、噴流性指数が75~85であるものが含まれる。好ましくは77~83であり、より好ましくは80~83である。この指数に基づけば、本対象粉体の噴流性の評価は極めて高いといえる。原料(可食性植物の可食部)がマメ、特にいんげん豆である場合、本対象粉体には、噴流性指数が40~50であるものが含まれる。好ましくは40~45である。この指数に基づけば、本対象粉体の噴流性の評価は高いといえる(表2及び4参照)。
【0032】
<崩潰角(°)>
原料(可食性植物の可食部)がイモ、特に甘藷である場合、本対象粉体は、崩潰角が15~22°であることが好ましい。より好ましくは16~21°である。原料(可食性植物の可食部)がマメ、好ましくはいんげん豆である場合、本対象粉体は、崩潰角が40~47°であることが好ましい。より好ましくは43~46.8°である。後述する実験例に示すように、本対象粉体は、崩潰角が、同可食部(原料)の乾燥粉砕粉体の崩潰角よりも小さいことから、噴流性が大きいことがわかる(表2及び4参照)。
【0033】
<差角(°)>
試料の安息角と崩潰角の差が差角(°)である。差角が大きいほど、粉体の噴流性は大きいとされる。原料(可食性植物の可食部)がイモ、特に甘藷である場合、本対象粉体は、差角が22~26°であることが好ましい。また原料(可食性植物の可食部)がマメ、特にいんげん豆である場合、本対象粉体は、差角が6~8°であることが好ましい。
【0034】
<分散度>
原料(可食性植物の可食部)がイモ、特に甘藷である場合、本対象粉体は、分散度が15~20%未満であることが好ましい。より好ましくは16~19%である。また原料(可食性植物の可食部)がマメ、特にいんげん豆である場合、本対象粉体は、分散度が3~9%未満であることが好ましい。より好ましくは3~7%である。分散度が大きいほど噴流性が大きくなり、発塵性が強くなるとされる。後述する実験例に示すように、本対象粉体は、分散度が、同可食部(原料)の乾燥粉砕粉体の分散度よりも小さいことから、本対象粉体は発塵性が低いことがわかる(表2及び4参照)。
【0035】
本対象粉体は、下記に記載するように、水にいれて撹拌すると、下記の粘度特性を有する。
[測定試料の調製と粘度の測定方法]
1.本対象粉体を30g秤量し,蒸留水270gを加え混合撹拌する(10質量%濃度に調整)。
2.混合撹拌した試料を20℃(±0.1℃)の恒温槽にて温度調整する。
3.B型粘度計(ローターNo.20又は21)に検体をセットし、回転数100、50、20、10又は5rpmにて粘度測定を開始する。
4.「粘度測定値」が安定した時点(1分)での粘度を読み取る。
[粘度特性]
上記方法で調製した測定試料の粘度が70~2500mPa・sの範囲である。好ましくは100~2500mPa・s、より好ましくは150~2500mPa・sである。
【0036】
(II)可食性植物粉体組成物の製造方法
前述する本対象粉体は、デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上の可食性植物の可食部を原料として、以下の工程を有する方法により製造することができる。なお、前記工程に供する可食性植物の可食部は、圃場にて収穫後、洗浄し、必要に応じて、裁断し、乾燥処理されたものであってもよい。また可食部は、下記工程に供する前に、粗粉砕処理されてもよい。
(1)水分含量を10~60質量%に調整する工程(水分調整工程)、
(2)50~300℃の温度で加熱混練処理する工程(加熱混練工程)、
(3)乾燥処理する工程(加熱工程)、
(4)粉砕処理する工程(粉砕工程)。
【0037】
以下、各工程について説明する。
(1)水分調整工程
当該水分調整工程は、次の加熱混練工程を、10~60質量%の割合で水を含む状態で行うための前処理工程である。従って、加熱混練工程に供する可食部の水分含量が上記量よりも少ない場合は、上記範囲になるように加水し、多い場合は上記範囲になるように水を除去(脱水、乾燥)することが含まれる。また、加熱混練工程に供する可食部の水分含量が最初から上記範囲内であれば、当該可食部の水分含量を確認するだけで足りる。ちなみに、可食部の水分含量の確認は、前述する粉体組成物の水分含量の求め方と同様に、赤外線水分計を用いて行うことができる。詳細は後述する実施例の欄(実験例1、実験方法(4))の記載に基づいて実施することができる。可食部の水分含量として、好ましくは12~50質量%、より好ましくは15~45質量%、特に好ましくは15~40質量%を挙げることができる。
【0038】
(2)加熱混練工程
本発明において加熱混練工程は、前記水分含量の可食性植物の可食部を、50~300℃の温度条件で混練する処理をいい、当業界の定法に従って行うことができる。例えば、温度制御が可能な、ニーダーやミキサーなどの混練機;又は、一軸押出機、噛み合い型スクリュー押出機、若しくは多軸押出機(例えば、二軸押出機等)等の押出機(エクストルーダー)を用いることにより好適に実施することができる。温度制御機を備えた押出機によると、加熱処理とともに、混ぜる、潰す、練る、及びつく等の複数の作業(混練作業)を同時乃至並行して行うことができ、こうすることで、可食部中のデンプンがα化されるとともに、これが可食部中の繊維分等と均一に混ざった状態を作り出すことができる。また押出機によると、前記処理の後、α化されたデンプンを含む混練物を、押出しにより排出することができる。
【0039】
押出機としては、温度制御が可能なものであれば、制限されず、商業的に入手可能な機器や装置を用いることができる。好ましくは二軸押出機である。押出機のタイプには、例えば、押出方向に沿って、スクリュー軸の径が一定のタイプ、スクリュー軸の径が増加していくタイプ、スクリューのピッチが減少していくタイプ等があるが、制限なく、いずれも使用することができる。また、二軸押出機には、スクリューの噛合が非完全なタイプ、部分的なタイプ、及び完全なタイプ等があるが、制限なく、いずれも使用することができる。
【0040】
加熱混練の条件としては、少なくとも、可食部中に乾燥質量換算で35質量%以上の割合で含まれるデンプン含量の80質量%以上がα化するような条件であり、このための条件として、50~300℃の温度条件を挙げることができる。前記目的が達成できる温度条件であればよいが、上記温度条件には、例えば50~250℃の範囲が含まれる。また加熱混練時間としては、上記温度条件で前記目的が達成できる時間であれば足り、この限りで特に制限されるものではないが、5秒間~10分間、5秒間~5分間、5秒間~3分間、5秒間~1分間の範囲を各々例示することができる。加熱温度及び時間は、通常、混練機や押出機等の機器の動作条件を設定することで調整することが可能である。
【0041】
(3)乾燥工程、(4)粉砕工程
前記加熱混練工程でα化デンプンを含む混練物を調製した後、当該混練物は、必要に応じて適当な大きさに裁断した後、乾燥工程、及び粉砕工程に供すことができる。当該乾燥工程と粉砕工程は順不同であり、乾燥後粉砕しても、また粉砕後乾燥してもよく、また両処理を同時に行うこともできる。好ましくは、粉砕乾燥機を用いることで、乾燥処理と粉砕処理を同時に行う方法である。
【0042】
乾燥処理は、α化デンプンを含む混練物中の水分を速やかに除去する方法であればよく、この限りで特に制限されない。例えば減圧下で脱水する方法、加熱しながら水分を蒸発除去する方法、粉砕時の機械的衝撃作用により水分を除去する方法等を挙げることができる。好ましくは加熱しながら水分を蒸発除去して乾燥する方法である。加熱温度としては、制限されないものの、70~110℃、好ましくは80~100℃の温度を挙げることができる。またこの場合、加熱乾燥後、室温等の所定温度までに冷却する工程を含むこともできる。
このように、前記加熱混練工程で調製されたα化デンプンを含む混練物は、前記方法等により、速やかに乾燥され、また粉砕されることで、所定量のα化デンプンを安定に保有する粉体組成物として調製することができる。
【0043】
(5)整粒工程
上記方法で調製される粉体組成物は、篩い分け等の整粒工程に供することもできる。粉体組成物の粒度は制限されないものの、レーザー回析散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径(メディアン径)が5~500μmの範囲になるように整粒することができる。メディアン径として、好ましくは10~340μm、より好ましくは15~200μm、さらに好ましくは20~180μmである。メディアン径が上記範囲になるように整粒する方法としては、制限されないものの篩いにかける方法、遠心分離による方法を挙げることができる。
【0044】
斯くして調製される本発明の粉体組成物は、原料として用いる可食性植物の種類によっても異なるが、安息角、スパチュラ角、圧縮度、及び均一度といった各物性値より求められる指数の総数(流動性指数)が45~89の範囲であることを特徴とする。前述するように、対象とする可食性植物がイモである場合は、好ましくは50~89、より好ましくは53~89、さらに好ましくは55~89である。対象とする可食性植物がマメである場合は、好ましくは45~79、より好ましくは47~79であり、さらに好ましくは50~79である。
【0045】
本発明の粉体組成物は、前述する(1)~(4)の工程のうち、特に(1)及び(2)の工程を有することで、(1)、(3)及び(4)の工程または(3)及び(4)の工程によって調製される乾燥粉砕粉体と比較して、流動性指数が高く、良好な流動性を備えることを特徴とする。このため、造粒工程を行う必要なく、前記の工程で調製される粉体組成物として提供することが可能である。但し、造粒処理を行うことを妨げるものではない。
【0046】
(III)可食性植物粉体組成物の流動性を向上する方法
本発明は可食性植物粉体組成物の流動性を向上する方法を提供するものである。
当該方法は、デンプン含有量が乾燥質量換算で35質量%以上の可食性植物の可食部を原料(以下、これを「可食部原料」と称する)として、これを下記の工程に供することで実施することができる:
(1)可食部原料の水分含量を10~60質量%に調整する工程(水分調整工程)、
(2)50~300℃の温度で加熱混練処理する工程(加熱混練工程)、
(3)乾燥処理する工程(加熱工程)、
(4)粉砕処理する工程(粉砕工程)。
【0047】
これらの各処理工程は、前記(II)欄に記載した通りであり、(II)欄の記載はここに援用することができる。また、粉砕処理後に、(5)整粒処理を行うこともできる。
これらの一連の処理工程を行い、デンプンに占めるα化デンプンの割合が80質量%以上で、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される粒度分布50%粒子径(メジアン径)が5~500μmであり、安息角、スパチュラ角、圧縮度、及び均一度の各物性値より求められる指数の総和で示される流動性指数が45~89である可食性植物粉体組成物を調製する。対象とする可食性植物がイモである場合、流動性指数は、好ましくは50~89、より好ましくは53~89、さらに好ましくは55~89である。対象とする可食性植物がマメである場合、流動性指数は、好ましくは45~79、より好ましくは47~79であり、さらに好ましくは50~79である。
【0048】
前述する(1)~(4)の工程のうち、特に(1)及び(2)の工程を有する本発明の方法は、(1)、(3)及び(4)の工程または(3)及び(4)の工程を有する方法と比較して、粉体組成物の流動性指数が高く、粉体組成物の流動性を向上させる方法として有用である。
【0049】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0050】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0051】
製造例1
原料植物の可食部として、紅はるか(農林64号)及びアヤムラサキ(農林47号)の塊根部(原料甘藷)をそれぞれ用いて、下記の方法により、粉体組成物を調製した。便宜上、紅はるかから調製した粉体組成物を「粉体A」、アヤムラサキから調製した粉体組成物を「粉体B」と称する。
原料甘藷は、下記の工程に供する前に、圃場にて原料収穫後、洗浄、裁断、乾燥を施した。また、必要な場合は乾燥後、粗粉砕を施した。
【0052】
1.前記前処理した原料甘藷に水を加え水分含量が28%になるように調整するのと同時に、ミキサーを用いて粗粉砕した。
2.前記で調製した粗粉砕物を2軸押出機のシリンダー内に投入し、押出処理を行った。シリンジ内の温度は50℃~300℃の範囲、加熱混錬概算時間は15~60秒、スクリュー回転数200~500rpmで処理した。当該押出処理において、前記粗粉砕物はシリンダー内で、加熱、圧縮(加圧)、混合、混錬及び、せん断処理される。
3.前記押出機にて前記処理がされ、棒状態として押出し排出された組成物を20mmの長さに裁断した後、速やかに粉砕乾燥機(セントリードライミル:ミクロパウテック社製)に供し、5分以内という短い時間内で70℃~110℃の範囲で加熱しながら粉砕乾燥した。
4.粉砕乾燥した処理物を、55メッシュの篩にかけて粒度が292μm以下になるように調整し、粉体組成物を調製した。
【0053】
比較製造例1
前記と同様に、下処理した紅はるか及びアヤムラサキの塊根部(原料甘藷)を用いて、前記製造例1において、工程1における加水(水分調整)及び工程2の湿熱押出処理をしない以外は、同様の方法(工程3の粉砕乾燥処理、工程4の整粒処理)で、粉体組成物を調製した。具体的には、下処理した原料甘藷(粗粉砕物)を、加水処理及び押出処理を行わず、製造例1と同じ粉砕乾燥機へ投入し、5分以内の時間で70℃~110℃の範囲で加熱しながら粉砕乾燥を行い、55メッシュの篩にかけて粒度が292μm以下になるように調整して、粉体組成物を得た。紅はるかから調製した粉体組成物を「粉体A比較例1」、アヤムラサキから調製した粉体組成物を「粉体B比較例1」と称する。
【0054】
比較製造例2
前記と同様に、下処理した紅はるか及びアヤムラサキの塊根部(原料甘藷)を用いて、前記製造例1において、工程2の湿熱押出処理をしない以外は、同様の方法(工程1の加水処理(水分調整)、工程3の粉砕乾燥処理、工程4の整粒処理)で、粉体組成物を調製した。具体的には、下処理した原料甘藷(粗粉砕物)に加水して水分含量が28%になるように調整した後、加熱押出処理を行なうことなく、製造例1と同じ粉砕乾燥機へ投入し、5分以内の時間で70℃~110℃の範囲で加熱しながら粉砕乾燥を行い、55メッシュの篩にかけて粒度が292μm以下になるように調整して、粉体組成物を得た。紅はるかから調製した粉体組成物を「粉体A比較例2」、アヤムラサキから調製した粉体組成物を「粉体B比較例2」と称する。
【0055】
製造例2
原料植物の可食部として、白いんげん豆、及び青えんどう豆の可食部(原料マメ)をそれぞれ用いて、前記製造例1に記載する方法により、各粉体組成物を調製した。便宜上、白いんげん豆から調製した粉体組成物を「粉体C」、青えんどう豆から調製した粉体組成物を「粉体D」と称する。
【0056】
比較製造例3
原料植物の可食部として、白いんげん豆、及び青えんどう豆の可食部(原料マメ)をそれぞれ用いて、前記比較製造例1に記載する方法により、各粉体組成物を調製した。便宜上、白いんげん豆から調製した粉体組成物を「粉体C比較例1」、青えんどう豆から調製した粉体組成物を「粉体D比較例1」と称する。
【0057】
実験例1
前記各製造例に従って、紅はるかから調製した粉体組成物「粉体A」、「粉体A比較例1」、及び「粉体A比較例2」;アヤムラサキから調製した粉体組成物「粉体B」、「粉体B比較例1」、及び「粉体B比較例2」;白いんげん豆から調製した粉体組成物「粉体C」、及び「粉体C比較例1」;並びに青えんどう豆から調製した粉体組成物「粉体D」、及び「粉体D比較例1」(以上、「被験試料」と総称する場合がある)について、下記の理化学検査と微生物検査を行った。
【0058】
[実験方法]
(A)理化学検査
(1)食物繊維含量(g/100g):酵素重量法(日本食品分析センター)
【0059】
(2)デンプン含量(g/100g):澱粉完全糖質実験法と果糖分離精製法とを合わせてアレンジした測定方法(図1参照)(日本食品分析センター)
図1に記載する方法で吸光度を求め、標準溶液の吸光度との対比(検量線)で算出したブドウ糖量(g/100g)に0.9を乗じて、デンプン含量(g/100g)を算出した。
【0060】
(3)糊化度(α化度)(%):関税中央分析所報第51号「HPLC法によるでん粉アルファー化度測定法の検討」(グルコアミラーゼ第二法)に従って実施(日本食品分析センター)
図2に記載する方法で調製した試験溶液S及びR、並びに各ブランク溶液S及びR(酵素液の代わりに失活酵素を添加して調製した試験溶液)を1mLずつ採取し、グルコースオキシダーゼ法(グルコースCII-テストワコー:富士フイルム和光純薬株式会社製)の発色試液を3mLずつそれぞれに添加した。次いで、37℃で5分間加温後、それらの吸光度を分光光度計(V-630:日本分光(株)製)で測定し、下式により糊化度を算出した。
【0061】
[式]
糊化度(%)=
〔(試験溶液Sの吸光度-ブランク溶液Sの吸光度)/(試験溶液Rの吸光度-ブランク溶液Rの吸光度)〕×100
【0062】
(4)水分含量(%):
赤外線水分計を用い、粉体組成物を5~7g供し、赤外線照射によって加熱乾燥させ(150℃、10分)、含まれている水分の蒸発による質量変化から水分含量(%)を求めた。
【0063】
(5)粒子径分布:乾式レーザー回析法(粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3100II:マイクロトラック・ベル株式会社製)にて、下記条件で測定。
具体的には、被験試料を吸出し口の気流中に入れ、分散した試料にレーザー光線を照射し、その回折(散乱)を測定し、粒度を求めた(株式会社住化分析センター)。
【0064】
[測定条件]
粒子透過性:透過
粒子形状:非球形
粒子屈折率:1.81
溶媒:空気
溶媒屈折率:1.00
測定時間:10秒間。
【0065】
(6)粉体物性(流動性、噴流性):
パウダテスタ(登録商標)PT-X(ホソカワミクロン製)を用いて、下記の項目を評価した(株式会社住化分析センター)。
(a)嵩密度(g/cm3
ゆるめ嵩密度:試料を所定の高さから規定の容器に落下させて、オーバーフローさせるまで充填し、擦り切ったあとの体積当たりの質量。
固め嵩密度:ゆるめ嵩密度測定後、被験試料を入れた容器を180回タッピングしたときの擦り切ったあとの体積当たりの質量。タッピングにより体積が減るため、試料を追加しながら実施する。
(b)圧縮度(%):
ゆるめ嵩密度と固め嵩密度の比([ゆるめ嵩密度/固め嵩密度]×100)
(c)安息角(°):
被験試料を一定の高さの漏斗から水平な基板の上に落下させ、生成した堆積物の角度を測定。
(d)スパチュラ角(°):
スパチュラと呼ばれる金属の板の上に被験試料を充填した後、バットを降下させて生成した堆積物の角度を測定。
(e)均一度:
粒子径分布測定で得られた結果に基づいて、粒子径分布の累積60%に当たる大きさ(60%粒子径)を同10%に当たる大きさ(10%粒子径)で除することで求める(60%粒子径/10%粒子径)。
(f)崩潰角(°):
安息角測定後に、堆積した山に衝撃を3回与えて潰れた後の山の稜線の角度を測定。
(g)差角(°):
安息角から崩潰角を差し引いた値
(h)分散度(%):
一定量の被験試料を一定の高さから落下させ、落下地点に設置してある時計皿に残った質量を計り、飛散した割合を算出。
(i)流動性指数
粉体の圧縮度、安息角、スパチュラ角、及び均一度を測定し、それぞれの項目の測定結果に対して0点から25点の点数を付与し全ての点数を合計した値。パウダテスタ(登録商標)PT-Xにより自動計算した。
(j)噴流性指数
前記の流動性指数に、崩潰角、差角及び分散度を加えた4項目を測定し,それぞれの測定結果に対して0点から25点の点数を付与し全ての点数を合計した値。パウダテスタ(登録商標)PT-Xにより自動計算した。
【0066】
(7)粘度(mPa・s):
各被験試料について、下記の方法で調製した被験試料液(温度:20±0.1℃)を、下記の条件でB型粘度計を用いて粘度を測定。
[被験液の調製方法]
1 試料を30g秤量し,蒸留水270gを加え混合撹拌
2 混合撹拌した試料は20℃設定(±0.1)の恒温槽にて温度調整
3 検体をセットし測定開始
[粘度の測定条件]
1 測定機器:東機産業、B型粘度計TV-10M
2 ローター番号:20又は21
3 回転数:5rpm、10rpm、20rpm、50rpm又は100rpm
4 測定時間:1分。
【0067】
(8)色彩色差:
色彩色差計CR-400(コニカミノルタ製)を用いて、下記の方法により、各被験試料の明度(L*)、a(+赤~-緑)、b(+黄~-緑)、彩度(C)、色相(h)、及び色差(ΔEab)を求めた。
1 被験試料を粉体用セルの中央部窪みに2~3g入れて、蓋を閉める。
2 粉体用セルを下に置き測定ヘッドを上から被せ測定ボタンを押して測定開始。
3 新たな同試料で、上記1と2を2回繰り返す。
4 3回測定後、平均値を出して分析値とする。
【0068】
(B)微生物検査
下記の方法により、大腸菌群、一般生菌数(個/g)、及びカビ・酵母数(個/g)を測定した。
粉体組成物は滅菌希釈水で10倍になるように希釈し、これを試料原液とした。
大腸菌群:BGLB培地法、酵素基質培地法
一般生菌:標準平板菌数測定法
カビ・酵母:MC-Media Pad “YM”(JNC社製)。
【0069】
[実験結果]
紅はるかから調製した粉体組成物「粉体A」及び「粉体A比較例1」、並びにアヤムラサキから調製した粉体組成物「粉体B」及び「粉体B比較例1」について、(A)理化学検査(1)~(7)の結果を表2、及び(B)微生物検査の結果を表3に示す。また、白いんげん豆から調製した粉体組成物「粉体C」及び「粉体C比較例1」、並びに青えんどう豆から調製した粉体組成物「粉体D」及び「粉体D比較例1」について、(A)理化学検査(1)~(7)の結果を表4、及び(B)微生物検査の結果を表5に示す。さらに、紅はるかから調製した粉体組成物「粉体A」、「粉体A比較例1」及び「粉体A比較例2」、並びにアヤムラサキから調製した粉体組成物「粉体B」、「粉体B比較例1」及び「粉体B比較例2」について、(A)理化学検査(8)の結果を表6に示す。なお、粉体A~Dの結果は、前記製造例1及び2における工程1の水分含量を15~40%に設定して実施した結果である。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
表2及び4に示すように、前記工程1~4により調製された粉体A~Dは、工程1及び2をすることなく調製された粉体A比較例1~粉体D比較例1と比較して、デンプンが高度にα化されていることが確認された。また、理化学検査(6)の結果から、工程1~4を実施することで、工程1及び2を実施しない場合と比較して、流動性指数が高くなり、粉体の流動性が改善することが確認された。さらに、工程1~4を実施することで、工程1及び2を実施しない場合と比較して、微生物数が格段に減少しており衛生面でも安全性の高い粉体が調製できることが確認された(表3及び5参照)。
また、表6に示すように、前記工程1~4により調製された粉体A~Bは、工程1及び2をすることなく調製された粉体A比較例1~粉体B比較例1や、工程2をすることなく調製された粉体A比較例2~粉体B比較例2と比較して、色味が強くなっていることが確認された。特に粉体Bは赤みが濃くなっていることが確認された。
こうした結果は、製造例1及び2における工程1の水分含量を15~40%の範囲に設定した場合でも、同様の傾向が得られた。
【0076】
実験例2:パンの製造
パンの製造に際して、紅はるかから調製した粉体組成物「粉体A」、及び「粉体A比較例1」を、それぞれ表7に記載するように、強力粉90質量部に対して10質量部の割合で配合し、一次発酵に対する影響、並びに食感(しっとり感、ぱさぱさ感、弾力、ふっくら感、もちもち感、やわらかさ、アルコール臭)、及びテクスチャー(かたさ、凝集性、付着性、ガム性)に対する影響を評価した。
【0077】
[食パンの製造方法]
【表7】
【0078】
1 前記材料をニーダ―に投入し20分間ニーディングを行う(ショートニングはニーディングを開始して2分後に投入)。
2 前記ニーディング終了後、生地を2Lビーカーへ移し、ラップをして一次発酵を開始(40℃/40分間)。
3 前記一次発酵終了後、ビーカーから生地を取り出しスケッパーで3等分に切り分ける。
4 前記切り分けた生地は麺棒を用いてしっかりとガスを抜く。
5 前記ガスを抜いた生地を伸ばし長い方を巻き、また90度向きを変えて巻いて丸く成形し、きれいな面を上にして布巾を被せ20分間放置(ベンチタイム)。
6 前記ベンチタイムを終了した生地を裏にして麺棒を中央に置き、左右上下に1/3ずつかける。
7 前記生地を中央から左右上下に2/3ずつかけ、4つ角にガスを残す。
8 前記生地の角のガスを上下に移動させ、15cm×15cmに伸ばす。
9 前記伸ばした生地を手前から巻き込み、巻き終わりは1直線にして閉じる。
10 前記1直線にした生地を転がして18cmの長さにする。
11 前記18cmの長さにした生地を3本作り(6~10までの工程を3回)、閉じ目を下にUの字に成形し、交互に食パン焼成用の型に入れる。
12 前記型に入れた生地を190~200℃のオーブンにて30分間焼成。
13 焼成したパンを型から取り出し室温で冷まして完成。
【0079】
(1)一次発酵に対する影響
[実験方法とその結果]
前記製造工程において、一次発酵終了後、生地の高さ(厚み)を測定し、事前に測定しておいた発酵前の生地の高さ(厚み)との差を求めた(発酵前後差:cm)。その結果を表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
この結果から、パンの製造に際して、小麦粉等の穀類粉に加えて、本発明の方法で調製した粉体組成物(粉体A)を配合することで、一次発酵を促進することができることが確認された。このことから、本発明の粉体組成物(本対象粉体)は、パン等の発酵食品に対して発酵促進作用を発揮し、発酵時間を短縮するのに有効に使用できると考えられる。また本対象粉体を配合することにより、生地の粘りが発現し、発酵にて生成された炭酸ガスの保持力が高まり生地の高さに影響したと考えられる。その理由は定かでなく、拘束されるものではないが、本発明の粉体組成物を発酵食品の原料に配合することで好適な発酵環境が形成されていると考えられる。
【0082】
さらに、粉体A配合の一次発酵後の生地を、粉体組成物非配合又は粉体A比較例1配合の一次発酵後の生地と比べると、生地のベタつきがなく、やわらかい生地に仕上がっていた。これにより、本発明の粉体組成物(本対象粉体)の配合により、一次発酵時間を短縮することに加えて、発酵工程以降のハンドリング性を高めることもできることが確認された。
【0083】
(2)パンの食感に対する影響
[実験方法]
焼成した食パン(実施例2-1、比較例2-1、コントロール2-1)を密閉包装の状態で、10℃以下の条件下で1日(24時間)及び2日(48時間)放置した後、社内のパネル6~9名に食べてもらい、下記項目を評価してもらった。なお、これらのパネルは、社内で官能評価訓練を受け、業務で日常的に官能評価をしている官能評価の専門家である。また、下記の官能評価項目の定義とその具体的な感覚は、事前にパネル間で種々のパンを試食して協議したうえで決定することで、パネル各人の内的基準に相違が生じないように設定した。
【0084】
(官能評価項目)
(a)しっとり感:口に含んだ時、唾液を吸い取られることがなく、噛むとなめらかな歯ごたえ。
(b)ぱさぱさ感:口に含んだ時、唾液を吸い取られるような感じがあり、噛むと歯にくっついてくるような感覚。
(c)弾力:口に含んで軽く噛んだ時、少し歯が押し戻されるような感覚。
(d)ふっくら感(ふんわり感):噛んだ時、べとつかず、パサつかず、歯でゆっくり押しつぶされて噛み切れる感覚。
(e)もちもち感:口に含んで軽く噛んだ時、すぐには噛み切れず、歯ごたえは少ないが心地よい噛み応え。
(f)やわらかさ:噛んだ時、歯ごたえが小さく、口の中でゆっくり溶けていくような感覚。
(g)アルコール(発酵)臭:口に含んで軽く噛んだ時、ほのかに感じる甘いお酒の香り。
【0085】
[実験結果]
(1)焼成後1日目のパンの食感
パネル9名(男5名、女4名)に、焼成後1日目の実施例2-1のパンの食感を評価してもらった結果を表6に記載する。評価は、焼成後1日目の比較例2-1のパンの食感との比較で実施してもらい、表9に記載するどの項目に該当するかを各人に投票してもらった。
【0086】
【表9】
【0087】
この結果から、パン生地に本発明の粉体組成物を(粉体A)を配合することで、焼成から1日経過後も、しっとり感、弾力性、もちもち感、及びやわらかさを有するパンが得られることが確認された。
【0088】
(2)焼成後2日目のパンの食感
パネル6名(男3名、女3名)に、焼成後2日目の実施例2-1のパンの食感を評価してもらった結果を表10に記載する。評価は、焼成後2日目のコントロール2-1のパンの食感との比較で実施してもらい、表10に記載するどの項目に該当するかを各人に投票してもらった。
【0089】
【表10】
【0090】
この結果から、パン生地に本発明の粉体組成物を(粉体A)を配合することで、焼成から2日経過後も、ぱさぱさ感を抑えて、しっとり感、弾力性、ふっくら感、もちもち感、及びやわらかさを有するパンが得られることが確認された。
【0091】
(3)パンのテクスチャーに対する影響
[実験方法]
焼成した食パン(実施例2-1、比較例2-1、コントロール2-1)を密閉包装の状態で、10度以下の条件下で1日(24時間)放置した後、厚み2cmにスライスして、4面の耳を取り除いたうえで4cm角にして(4試料/枚)、テクスチャー解析(クリープメーターRE2-33005B:山電社製)に供し、「かたさ」、「凝集性」、「付着性」、及び「ガム性」を評価した。
試験は4cm角の試料を。試料皿にのせ、試料台の上下運動により、プランジャーで試料の変形による応力を測定することで実施した。
【0092】
「かたさ」の結果を図3(A)、「凝集性」の結果を図3(B)、「付着性」の結果を図3(C)、及び「ガム性」の結果を図3(D)にそれぞれ示す。
「かたさ」に関して、粉体A配合のパン(実施例2-1)は、粉体組成物非配合のパン(コントロール2-1)と有意差は認められなかったが、対照粉体A配合のパン(比較例2-1)と比較すると有意に低いことが分かった(粉体A比較例1配合のパンの方がかたい)。
「凝集性」は、一度噛んだ後に弾力が残っている割合を示すものである。このため、凝集性が高いということは、口の中でまとまりやすく食塊を形成しやすいことを意味する。図3(B)に示すように、粉体A配合のパン(実施例2-1)は、粉体組成物非配合のパン(コントロール2-1)と比べて凝集性(弾力)が有意に高いことが確認された。
「付着性」は、食べた際の口の中での粘りを示すものである。図3(C)に示すように、粉体A配合のパン(実施例2-1)は、粉体組成物非配合のパン(コントロール2-1)と比べて付着性が有意に低く、口腔内や喉での「食品のはりつき」を抑えられることが示された。
「ガム性」とは二度噛んだ時の歯ごたえを表す。図3(D)に示すように、粉体A配合のパン(実施例2-1)は、粉体組成物非配合のパン(コントロール2-1)と比べて有意な差は認められなかったが、粉体A比較例1配合のパン(比較例2-1)と比較すると有意に低いことが分かった(粉体A比較例1配合のパンの方が歯ごたえがある)。
【0093】
なお、消費者庁が規定する嚥下困難者用食品の基準として、テクスチャー解析の「かたさ」、「凝集性」及び「付着性」が設けられているが、今回得られたデータで、「かたさ」は粉体組成物非配合のパンと同程度、凝集性は有意に高く、付着性は有意に低くなることが示されたことから、本発明の粉体組成物、特にイモを用いて調製した本発明の粉体組成物は、嚥下困難者用の嚥下食への利用に有用であると考えられる。
【0094】
実験例3:ケーキの製造
紅はるかから調製した粉体組成物「粉体A」、及び「粉体A比較例1」を、表11及び12に記載する処方に従って、それぞれ薄力粉50質量部に対して10質量部の割合で配合して、ケーキ(ブラウニー)を製造し、外観を評価するとともに、内部の水分値(%)を測定した。
【0095】
[ケーキの製造方法]
(ブラウニーの処方)
【表11】
【0096】
1 小鍋にグラニュー糖と水を入れ火にかける
2 キャラメル色になったら火からおろし生クリームを少しずつ加え、よく混ぜて冷ま す。
【0097】
【表12】
【0098】
ブラウニー生地作り及び焼成
1 ボウルにふるったAとグラニュー糖を入れ、卵をすこしずつ加え、ホイッパーで混ぜる。
2 チョコレートとバターを湯せんで溶かしたものとキャラメルを加え、良く混ぜる。
3 型に入れオーブンで焼く(160~170℃、20~25分)。
【0099】
[実験方法]
測定方法:厚み1cmに切ったブラウニーの中心部(縦2cm×横2cm×厚み1cm)を試験試料として供した。
測定装置:水分計MB27(オーハウス社製)。
測定条件:150℃、10分。
測定タイミング:製造後24時間での水分測定。
【0100】
[実験結果]
図4に、製造したケーキ(ブラウニー)の外観(上から見た画像)(図4A)と、中央部をカットした断面の画像(図4B)を示す。また、中心部(縦2cm×横2cm×厚み1cm)の水分値を表13に示す。
【0101】
【表13】
【0102】
この結果から、小麦粉等の穀類粉に加えて、本発明の方法で処理した粉体組成物(粉体A)を配合して製造したケーキは、内部の水分量が有意に高く保持されていることが確認された。また図4に示すように、本発明の粉体組成物(粉体A)を配合して製造したケーキは、表面の亀裂が少ないことが確認された。このことから、本発明の粉体組成物(本対象粉体)は、ケーキの製造において、糊剤(結着剤)として作用することで、表面の亀裂を防止し、内部からの水分蒸散を抑制することができる。また、これらのケーキを食べたところ、実施例3-1のケーキは、コントロール3-1及び比較例3-1のケーキと比較して、ぱさつきが抑制されており、しっとり感が高く、口溶けが良好であった。このため、本発明の粉体組成物(粉体A)は、見た目も良好で、且つしっとり感を保持したケーキを製造するうえで有効である。なお、この理由は定かでなく、また理論に拘束されるものではないが、生地製造の際に配合した粉体A中のα化デンプンに、水分が効率よく吸着しまた保持されることが原因と考えられる。
また、本発明の粉体組成物(粉体A)は、粉体A比較例1と比べて、粉体特性(流動性)が良好であり、容器からの取り出しや薄力粉等の粉体原料への分散性に優れ、またホイッパーへの付着が抑制されているなど、ブラウニー生地の調製においてハンドリング性が良好であった。
【0103】
実験例4:粉体の水中での分散・沈降に対する影響
紅はるかから調製した粉体組成物「粉体A」を、トマトパウダーとともに、水に分散させて、トマトパウダーが水中で沈降するスピードを測定した。
具体的には、ビーカーに、表14に記載する割合で、トマトパウダー(原材料:トマト、商品名:Toul TOMATO POWDER、粒度:1.0mm以下、)と水(コントロール4-1)、またはトマトパウダーと粉体Aと水(実施例4-1)を入れて、各ビーカーを複数回スプーンで撹拌した後に、メスシリンダーへ投入・静置し、トマトパウダーの液面の目盛を経時的に計測した。
【0104】
【表14】
【0105】
結果を図5に示す。
図5に示すように、粉体Aを配合したトマトパウダーが水中で沈降するスピードは、粉体Aを配合しないトマトパウダーの沈降スピードより有意に遅く、粉体A配合によりトマトパウダーの水中での分散性(分散安定性)が向上し、沈降性が抑制されることが確認された。このことから、本発明の粉体組成物(本対象粉体)、特にイモから調製される本発明の粉体組成物(本対象粉体)には、パウダー製品の水中への分散性及び分散安定性を向上させて、沈降を抑制する作用があるといえる。
【0106】
実施例 各種製品への適用
可食性植物粉体組成物として、製造例1で製造した粉体A~粉体Dを用いて、各種飲食物を定法に従って調製した。下記に各種飲食物の処方(配合量g)を記載する。
【0107】
【表15】
【0108】
本発明の粉体組成物を配合した求肥は、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、べたつき感が減り、歯や口内に付着するような食感が改良され、保水性が向上し、しっとり・もちもち感が付与された。さらに、可食性植物粉体組成物として粉体Bを使用することで求肥に赤味(色)を付与することができ紫芋の色味を再現することが可能になる。
【0109】
【表16】
【0110】
本発明の粉体組成物を配合して調製したフェイクミートハンバーグは、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、保水性が向上し、冷凍後解凍した後もドリップが抑制されていた。さらに、弾力が付与され、パサつき感が減り、食感が改良された。またさらに、可食性植物粉体組成物として、粉体Bを使用することでフェイクミートハンバーグに赤味(肉色)を付与することができた。
【0111】
【表17】
【0112】
本発明の粉体組成物を配合して調製したポテトサラダは、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、保水性が向上し、冷凍後解凍した後もドリップが抑制され形状保持されていた。さらに、水っぽさが軽減された。
【0113】
【表18】
【0114】
本発明の粉体組成物を配合して調製した米粉麺は、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、保水性が向上し、弾力が増し、もっちり感が付与された。さらに、可食性植物粉体組成物として粉体Bを使用することで、米粉麺に赤味(色)を付与することができた。
【0115】
【表19】
【0116】
本発明の粉体組成物を配合して調製したお好み焼き生地は、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、保水性が向上し、もっちり感が付与された。
【0117】
【表20】
【0118】
本発明の粉体組成物を配合して調製したスープは、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、冷水に容易に溶け、とろみが増した。
【0119】
【表21】
【0120】
本発明の粉体組成物を配合して調製したさつまいも餅は、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、べたつき感やぱさぱさ感が減り、食感が改良され、保水性が向上し、弾力が増し、もっちり感が付与された。さらに、可食性植物粉体組成物として粉体Bを使用することで赤味(色)を出すことができ紫芋の色味を再現することが可能になる。
【0121】
【表22】
【0122】
本発明の粉体組成物を配合して調製した豆乳プリンは、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、べたつき感や離水が減り、食感が改良され、保水性が向上し、心地良いなめらかな食感が付与された。
【0123】
【表23】
本発明の粉体組成物を配合して調製したドレッシングは、とろみが増した。
【0124】
【表24】
本発明の粉体組成物を配合して調製したスムージーは、とろみが付与され素材本来の味わいが増した。また飲用することで満腹感を得ることができた。
【0125】
【表25】
本発明の粉体組成物を配合して調製したホワイトソースは、とろみが増していた。グルテンフリーなソースを作るうえで有用である。
【0126】
【表26】
本発明の粉体組成物を配合して調製したこし飴は、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、ぱさつき感が減り、食感が改良され、保水性が増し、しっとり感が付与されていた。さらに、こし餡にテリ感やツヤ感を付与することができた。
【0127】
【表27】
本発明の粉体組成物を配合して調製したパンケーキは、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、ぱさつき感が減り、食感が改良され、しっとり・もちもち感が付与され保水性及び凝集性が増し、付着性が抑制された。
【0128】
【表28】
本発明の粉体組成物(粉体AまたはB)を配合して調製したアイスクリームは、材料を調製する際、均一に混ざり、調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、離水が原因となる水っぽさが減り、食感が改良され、保水性が向上し、溶けるまでの時間が長くなる。さらに、なめらかさが付与されていた。さらに、可食性植物粉体組成物として粉体Bを使用することでアイスクリームに赤味(色)を付与することができ紫芋の色味を再現することが可能になる。
【0129】
【表29】
本発明の粉体組成物を配合して調製した各種食物は、材料を調製する際、材料が均一に混ざり、だまや調理器具への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。また、非加熱でとろみが付与されおり、満足感を得ることができる。さらに、可食性植物粉体組成物として粉体Bを使用することで各食に赤味(色)を付与することができた。
【0130】
【表30】
本発明の粉体組成物を配合した野菜のタブレットは、材料を調製する際、材料が均一に混ざり流動性が高く、撹拌機及びホッパーなど製造設備への付着が軽減しハンドリング性及び収率が高まった。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5