(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034808
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】磁場構造のイメージング装置および磁場構造のイメージング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20230306BHJP
【FI】
G01N23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141234
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】511294534
【氏名又は名称】ウニベルシテ カソリーク デ ルーベン
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】金 政浩
(72)【発明者】
【氏名】アンドリア ジアマッコ
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルド コルチナ ギル
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA08
2G001BA11
2G001CA08
2G001DA02
2G001DA06
2G001DA09
2G001FA04
2G001HA13
2G001KA20
2G001SA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象領域の磁場構造イメージを容易に求められる磁場構造のイメージング装置の提供。
【解決手段】対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出手段と、対象領域および第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出手段と、第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する解析手段と、磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示手段とを備え、ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング装置;磁場構造のイメージング方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出手段と、
前記対象領域および前記第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出手段と、
前記第1検出手段および前記第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて前記対象領域の磁場構造イメージを計算する解析手段と、
前記磁場構造イメージ、ならびに、前記磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示手段とを備え、
前記ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング装置。
【請求項2】
前記対象領域に直接挿入するプローブを有さない、請求項1に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項3】
前記第1検出手段および前記第2検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第3検出手段と、
前記第2検出手段と前記第3検出手段の間への磁場印加手段と、
前記対象領域を通過したミュオンの正負を判別する判別手段とをさらに備え、
前記表示手段が、正ミュオンおよび負ミュオンのうち少なくとも一方を用いて前記対象領域の磁場構造イメージを作成して表示する、請求項1または2に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項4】
前記表示手段が、正ミュオンを用いて作成される正ミュオンによる磁場構造イメージと、負ミュオンを用いて作成される負ミュオンによる磁場構造イメージと、前記正ミュオンによる磁場構造イメージおよび前記負ミュオンによる磁場構造イメージの一方を鏡面変換して他方と合成した正負合成の磁場構造イメージとのうち少なくとも1つを表示する、請求項3に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項5】
前記磁場印加手段が永久磁石または磁束密度を一定とした電磁石である、請求項3または4に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項6】
前記第3検出手段の移動手段をさらに備え、
前記移動手段が、前記第1検出手段および前記第2検出手段を通過したミュオンが前記第3検出手段に通過するように、前記第3検出手段を移動できる、請求項3~5のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項7】
前記第2検出手段と前記第3検出手段の間に印加された磁場を通過した前記ミュオンの偏向の度合いを解析する偏向解析手段をさらに備え、
前記偏向解析手段が前記ミュオンの偏向の度合いに基づいて前記ミュオンの運動量を解析する、請求項3~6のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項8】
前記対象領域が固体試料を含み、
前記固体試料の内部の磁場構造イメージを作成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項9】
前記固体試料が核融合炉、プラズマ発生装置、原子炉、超電導コイル、加速器、強磁場を備える医療機器、梱包された強磁場物質、コンクリート建造物である、請求項8に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項10】
前記解析手段が、さらに前記対象領域の密度構造イメージを作成し、前記磁場構造イメージと前記密度構造イメージの差分に基づいて前記対象領域の磁束密度の大きさを算出する、請求項1~9のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項11】
前記対象領域の2次元の磁束密度の大きさおよび向きを算出して表示する、請求項10に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項12】
前記対象領域の前記第1検出手段側とは反対側に、ミュオンの通過した位置を検出する第4検出手段および第5検出手段を備え、
前記第5検出手段、前記第4検出手段、前記対象領域、前記第1検出手段および前記第2検出手段をこの順で通過したミュオンの所定区間の飛行時間を測定する飛行時間測定手段を備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
【請求項13】
対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出工程と、
前記対象領域および前記第1検出工程を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出工程と、
前記第1検出工程および前記第2検出工程で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて前記対象領域の磁場構造イメージを計算する解析工程と、
前記磁場構造イメージ、ならびに、前記磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示工程とを備え、
前記ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング方法。
【請求項14】
前記磁場構造イメージの時間変動を記録して、
前記対象領域の磁場構造の劣化の度合いを監視する、請求項13に記載の磁場構造のイメージング方法。
【請求項15】
対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出工程と、
前記対象領域および前記第1検出工程を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出工程と、
前記第1検出工程および前記第2検出工程で検出されたミュオンのミュオグラフィ画像を解析して得られた磁場イメージングとして表示する表示工程とを備え、
前記磁場イメージングの時間変動を記録して、前記対象領域の磁場イメージングの変動を監視し、
前記ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング方法。
【請求項16】
1週間から3か月間までの間に検出したミュオンを用いて前記磁場構造イメージまたは前記磁場イメージングを作成して表示する、請求項13~15のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング方法。
【請求項17】
前記対象領域を90°異なる光軸上から測定して、90°異なる対象領域の磁場構造イメージを取得する工程と、
90°異なる対象領域の磁場構造イメージから3次元の磁場構造イメージを再構成する工程を含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場構造のイメージング装置および磁場構造のイメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鉄炉、複合コンクリート建造物、火山などの内部に固体試料を含む対象領域の状態を、物理的または化学的な悪影響を与えることなく検査または検出する非破壊検査方法として、ミュオンを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1には、磁場を印加するための手段と、この磁場中に試料を配設するための手段と、この試料にミュオンを照射するための手段と、試料に照射されたミュオンのスピンの向きの変化を検出するための手段と、このスピンの向きの変化に基づいて試料内の構造を画像化して表示するための手段とを有する、μSRイメージング装置が記載されている。なお、μSRイメージングとは、ミュオンが持っている磁気モーメントを微視的な磁針として利用して物質中の磁場を測定する方法をいう(後述の特許文献2の[0030]など参照)。
【0004】
特許文献2には、進行方向に所定量だけスピン偏極し概ね水平方向に進行する宇宙線ミュオンを利用して、複合構造物の表層内部を検査する非破壊検査装置であって、複合構造物の内部に静止した宇宙線ミュオンの消滅に伴って宇宙線ミュオンの照射方向とは逆方向に特性の時定数を持って反射放出される陽電子・電子量を検出する陽電子・電子量検出手段と、陽電子・電子量検出手段おいて検出された陽電子・電子量から、複合構造物の表層内部に存在する表層の第1の物質とは異なる第2の物質の状態をラジオグラフィとしてデータ処理し出力するラジオグラフィデータ処理手段と、の各手段を備えた、複合構造物の非破壊検査装置が記載されている。
【0005】
特許文献3には、宇宙線ミュオンを計測する計測装置により高炉を透過して飛来する高炉透過の宇宙線ミュオン強度と、高炉透過の宇宙線ミュオンの飛来方向の判別情報と、高炉を非透過の非透過宇宙線ミュオン強度とを一定時間蓄積し、実測による蓄積データに基づいて、高炉の状態を密度として炉底透過の宇宙線ミュオン強度と非透過宇宙線ミュオン強度との強度比で表し、高炉の耐火物と推定される強度比と境界をなす炉内充填物の強度比から炉内充填物の密度を求め、充填物を推定する、高炉の炉内状況推定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-25359号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/107575号公報
【特許文献3】特開2008-145141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、第8頁右上欄によれば、Si基板表面近くに発生する転位や欠陥、偏折した重イオン等の場所を特定でき、非破壊で微小領域のイメージングをするものである。そのため、特許文献1では、宇宙線ミュオンを用いておらず、複数の検出器を用いてミュオンの飛来軌道を検出することも検討されていない。
特許文献2および3には、宇宙線ミュオンを用いた検査方法やイメージング方法が記載されているが、対象領域の密度構造イメージまたは密度構造イメージから固体試料の種類や厚さを推定する方法に過ぎず、対象領域の磁場構造をイメージングするものではなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、対象領域の磁場構造イメージを容易に求められる磁場構造のイメージング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、宇宙線ミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算することによって、対象領域の磁場構造イメージを容易に求められることを見出し、上記課題を解決した。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明の構成と、本発明の好ましい構成を以下に記載する。
【0010】
[1] 対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出手段と、
対象領域および第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出手段と、
第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する解析手段と、
磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示手段とを備え、
ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング装置。
[2] 対象領域に直接挿入するプローブを有さない、[1]に記載の磁場構造のイメージング装置。
[3] 第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第3検出手段と、
第2検出手段と第3検出手段の間への磁場印加手段と、
対象領域を通過したミュオンの正負を判別する判別手段とをさらに備え、
表示手段が、正ミュオンおよび負ミュオンのうち少なくとも一方を用いて対象領域の磁場構造イメージを作成して表示する、[1]または[2]に記載の磁場構造のイメージング装置。
[4] 表示手段が、正ミュオンを用いて作成される正ミュオンによる磁場構造イメージと、負ミュオンを用いて作成される負ミュオンによる磁場構造イメージと、正ミュオンによる磁場構造イメージおよび負ミュオンによる磁場構造イメージの一方を鏡面変換して他方と合成した正負合成の磁場構造イメージとのうち少なくとも1つを表示する、[3]に記載の磁場構造のイメージング装置。
[5] 磁場印加手段が永久磁石または磁束密度を一定とした電磁石である、[3]または[4]に記載の磁場構造のイメージング装置。
[6] 第3検出手段の移動手段をさらに備え、
移動手段が、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンが第3検出手段に通過するように、第3検出手段を移動できる、[3]~[5]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
[7] 第2検出手段と第3検出手段の間に印加された磁場を通過したミュオンの偏向の度合いを解析する(テンプレートマッチング法などの)偏向解析手段をさらに備え、
偏向解析手段が前記ミュオンの偏向の度合いに基づいてミュオンの運動量を解析する、[3]~[6]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
[8] 対象領域が固体試料を含み、
固体試料の内部の磁場構造イメージを作成する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
[9] 固体試料が核融合炉、プラズマ発生装置、原子炉、超電導コイル、加速器、強磁場を備える医療機器、梱包された強磁場物質、コンクリート建造物である、[8]に記載の磁場構造のイメージング装置。
[10] 解析手段が、さらに対象領域の密度構造イメージを作成し、磁場構造イメージと密度構造イメージの差分に基づいて対象領域の磁束密度の大きさを算出する、[1]~[9]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
[11] 対象領域の2次元の磁束密度の大きさおよび向きを算出して表示する、[10]に記載の磁場構造のイメージング装置。
[12] 対象領域の第1検出手段側とは反対側に、ミュオンの通過した位置を検出する第4検出手段および第5検出手段を備え、
第5検出手段、第4検出手段、対象領域、第1検出手段および第2検出手段をこの順で通過したミュオンの所定区間の飛行時間を測定する飛行時間測定手段を備える、[1]~[11]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング装置。
[13] 対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出工程と、
対象領域および第1検出工程を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出工程と、
第1検出工程および第2検出工程で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する解析工程と、
磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示工程とを備え、
ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング方法。
[14] 磁場構造イメージの時間変動を記録して、
対象領域の磁場構造の劣化の度合いを監視する、[13]に記載の磁場構造のイメージング方法。
[15] 対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する第1検出工程と、
対象領域および第1検出工程を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出工程と、
第1検出工程および第2検出工程で検出されたミュオンのミュオグラフィ画像を(テンプレートマッチング法などで)解析して得られた磁場イメージングとして表示する表示工程とを備え、
磁場イメージングの時間変動を記録して、対象領域の磁場イメージングの変動を監視し、
ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる、磁場構造のイメージング方法。
[16] 1週間から3か月間までの間に検出したミュオンを用いて磁場構造イメージまたは前記磁場イメージングを作成して表示する、[13]~[15]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング方法。
[17] 対象領域を90°異なる光軸上から測定して、90°異なる対象領域の磁場構造イメージを取得する工程と、
90°異なる対象領域の磁場構造イメージから3次元の磁場構造イメージを再構成する工程を含む、[13]~[16]のいずれか一項に記載の磁場構造のイメージング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、対象領域の磁場構造イメージを容易に求められる磁場構造のイメージング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の磁場構造のイメージング装置の一例の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の磁場構造のイメージング装置の他の一例の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の磁場構造のイメージング装置の他の一例の模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の磁場構造のイメージング装置のハードウェア構成図の一例である。
【
図5】
図5(A)は、実施例1で得られた、対象領域のxy平面におけるミュオンの飛来軌道である。
図5(B)は、実施例1で得られた、対象領域を含むシミュレーション空間のxz平面におけるミュオンの飛来軌道である。
【
図6】
図6は、実施例11で得られた、負ミュオンのみを用いて作成された対象領域のxy平面における負のミュオンの飛来軌道である。
【
図7】
図7(A)は、実施例12で得られた、正ミュオンのみを用いて作成された対象領域のxy平面における正のミュオンの飛来軌道である。
図7(B)は、実施例12で得られた、対象領域を含むシミュレーション空間のxz平面における正のミュオンの飛来軌道である。
【
図8】
図8(A)は、
図7(A)における磁束の大きさを測定する評価領域を示した模式図である。
図8(B)は、
図8(A)における評価領域における宇宙線ミュオンのカウント数をx軸への射影として表したグラフである。
図8(C)は、
図8(B)から算出される対象領域の磁束密度の一例の模式図である。
【
図9】
図9(A)は、参考例21で得られた、正ミュオンおよび負ミュオンを用いて作成されたz軸-400cmの位置のxy平面におけるミュオンの飛来軌道である。
図9(B)は、参考例21で得られた、対象領域を含むシミュレーション空間のxz平面におけるミュオンの飛来軌道である。
【
図10】
図10(A)は、実施例31で得られた対象領域のミュオンの飛来軌道である。
図10(B)は、実施例32で得られた対象領域のミュオンの飛来軌道である。
図10(C)は、実施例33で得られた対象領域のミュオンの飛来軌道である。
【
図11】
図11は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様の一例を示したフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様の他の一例を示したフローチャートである。
【
図13】
図13は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第2の態様の一例を示したフローチャートである。
【
図14】
図14は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様の他の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[磁場構造のイメージング装置]
本発明の磁場構造のイメージング装置は、対象領域を通過したミュオンの通過した位置(透過した位置)を検出する第1検出手段と、対象領域および第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出手段と、第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する解析手段と、磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示手段とを備え、ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる。
この構成により、対象領域の磁場構造イメージを容易に求められる磁場構造のイメージング装置を提供できる。
なお、本明細書中、透過法と、磁場での偏向を検出する偏向法(検出器で挟み込む体系)とを区別しない場合において、「ミュオンの透過」は「ミュオンの通過」と同義である。
以下、本発明の好ましい態様を説明する。
【0015】
<磁場構造のイメージング装置の全体構成>
本発明の磁場構造のイメージング装置について、本発明の磁場構造のイメージング方法とあわせて、図面を参照して好ましい態様を説明する。ただし、本発明は図面によって限定されるものではなく、例えば各図に記載された各手段は複数存在してもよく、また各手段を統合した集積回路(IC)であってもよい。
【0016】
図1は、本発明の磁場構造のイメージング装置の一例の模式図である。
図1に示した磁場構造のイメージング装置100は、対象領域1を通過したミュオン(正ミュオン11または負ミュオン12)の通過した位置を検出する第1検出手段21と、対象領域1および第1検出手段21を通過したミュオンの通過した位置を検出する第2検出手段22と、第1検出手段21および第2検出手段22で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する解析手段31と、磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示手段32とを備える。
図1に示した磁場構造のイメージング装置100は、さらに制御手段33を備える。制御手段33は、第1検出手段21および第2検出手段22で検出された情報や、解析手段31、表示手段32を制御する。制御手段33は、CPUなどを含み、所定の機能を実行するアプリケーション(アプリ;プログラム)によって各種の制御を実行できる。
なお、磁場構造のイメージング装置100を構成する各手段は、相互に電気的に接続されていてもよく、クライアントサーバシステムまたはクラウドシステムとしてネットワークを経由して相互に接続されていてもよい。
【0017】
対象領域の磁場(B)は未知であり、
図1に示した磁場構造のイメージング装置より、対象領域の磁場構造イメージとしてイメージングされる。
図1に示した磁場構造のイメージング装置は、対象領域に直接挿入するプローブを有さない。対象領域にプローブを直接挿入しないことで、対象領域の磁場(B)に物理的または化学的な悪影響を与えることなく、対象領域の磁場構造をイメージングできる。
【0018】
なお、
図1に示した磁場構造のイメージング装置は、対象領域を透過したミュオンを測定する透過型の磁場構造のイメージング装置として説明した。ただし、本発明の磁場構造のイメージング装置は、対象領域で反射されたミュオンを測定する反射型の磁場構造のイメージング装置であってもよい。
【0019】
図2は、本発明の磁場構造のイメージング装置の他の一例の模式図である。
図2に示した磁場構造のイメージング装置は、
図1に示した磁場構造のイメージング装置の構成に加えて、第1検出手段21および第2検出手段22を通過したミュオンの通過した位置を検出する第3検出手段23と、第2検出手段22と第3検出手段23の間への磁場印加手段41と、対象領域1を通過したミュオンの正負を判別する判別手段34とをさらに備える。
図2に示した磁場構造のイメージング装置は、第3検出手段23の移動手段51をさらに備える。
磁場印加手段41は、既知の磁場Bmを印加することができる。
【0020】
図3は、本発明の磁場構造のイメージング装置の他の一例の模式図である。
図3に示した磁場構造のイメージング装置は、
図2に示した磁場構造のイメージング装置の構成に加えて、対象領域1の第1検出手段21側とは反対側に、ミュオンの通過した位置を検出する第4検出手段24および第5検出手段25を備える。また、
図3に示した磁場構造のイメージング装置は、第5検出手段25、第4検出手段24、対象領域1、第1検出手段21および第2検出手段22をこの順で通過したミュオンの所定区間の飛行時間を測定する飛行時間測定手段61を備える。
【0021】
図4は、本発明の磁場構造のイメージング装置のハードウェア構成図の一例である。本発明の磁場構造のイメージング装置は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)1台と、ディスプレイである表示手段32と、キーボート等である入力手段37と、プリンタ等である出力手段38と、ミュオンの通過した位置を検出するための第1検出手段21、第2検出手段22および第3検出手段23と、永久磁石や電磁石などの磁場印加手段41とから構成できる。パーソナルコンピュータ(PC)には、解析手段31、CPUを備える制御手段33、プログラムやアプリケーション(アプリ)である判別手段34、テンプレートマッチング法やデコンボリューション法などの偏向解析手段36、第2の判別手段39、自動アラート手段40、メモリやローカルディスク等である記憶手段35を格納することができる。
以下、本発明の磁場構造のイメージング装置を構成する各構成について好ましい態様を説明する。
【0022】
<対象領域>
対象領域は、特に制限はない。対象領域が真空状態または気体のみが充填された単なる空間であってもよい。対象領域は、液体試料や固体試料を含んでいてもよい。
対象領域は、対象領域の内部または外部に磁石などが配置されて人為的な磁場が形成されていたり、自然的な生じた磁場が形成されていたりしてもよい。
対象領域の大きさは特に制限はない。国際公開WO2009/107575号公報に記載の密度構造イメージングのように、火山や溶融炉などの屋外型の大型産業機器を含む空間を対象領域としてもよく、医療機器や核磁気共鳴装置などの室内型の機器を含む空間を対象領域としてもよく、基板上のインダクタ(コイル)のつくる磁場のような長軸が1m以下または1cm以下の精密機器を含む空間を対象領域としてもよい。
【0023】
(固体試料)
本発明では、対象領域に特に固体試料を含むことが好ましい。本発明は、固体試料が複合体を形成しており、目的とする内部(目的物)とそれを覆う外殻部分とを有する場合に適用することが好ましい。本発明では、対象領域が固体試料を含み、固体試料の内部の磁場構造イメージを作成することがより好ましい。特に本発明によれば、磁場を測定することが困難である固体試料などを含む対象領域の磁場構造を、対象領域にプローブを直接挿入しないために対象領域の磁場構造に物理的または化学的な悪影響を与えることなく、対象領域の外部からその磁場構造をイメージングしたり、その磁束密度の大きさおよび/または向きを求めたりできる。
なお、従来の対象領域にプローブを直接挿入する磁場探査装置は、挿入されるプローブにより内部の磁場を乱される物理的又は化学的な悪影響がある核融合炉やプラズマ発生装置、放射能が高いためにプローブを直接挿入できる位置まで近寄れない運転中の加速器などの磁場を測定できない問題があった。
より具体的には、本発明では、固体試料が核融合炉、プラズマ発生装置、原子炉、超電導コイル、加速器、強磁場を備える医療機器、梱包された強磁場物質、コンクリート建造物であることが好ましい。
本発明の磁場構造のイメージング装置は、核融合炉、プラズマ発生装置、原子炉、超電導コイル、加速器の内部における、磁場の劣化を検査・診断する用途で用いることができる。これらは金属で覆われた内部の状態の情報を得ることが困難であり、従来の密度構造イメージング(ミューログラフィやトモグラフィ)では内部の状態の形状変化は観測できるものの、(形状変化を伴わない)磁場の劣化を検束できなかった。
強磁場を備える医療機器としては、MRI(磁気共鳴画像)診断装置などを挙げることができる。
コンクリート建造物としては、橋、橋脚、トンネル、ダム、港湾施設などの金属を内部に含むコンクリート建造物を挙げることができる。すなわち、本発明の磁場構造のイメージング装置は、これらの非破壊検査・診断の用途で用いることができる。
梱包された強磁場物質としては、航空機に載せる貨物や荷物に秘匿された強磁場物質などを挙げることができる。すなわち、本発明の磁場構造のイメージング装置は、飛行場の保安検査場などで梱包を開けずに内容物を検査する用途で用いることができる。
【0024】
さらに、対象領域の磁場構造イメージを把握することは、対象領域の密度構造イメージを把握するだけでは得られない情報を得られる点で重要である。対象領域の磁場構造イメージを把握することことにより、対象領域に含まれる固体試料の大きさや密度が変化しなくても、磁場の異常や劣化が生じる場合、その磁場の異常や劣化について関する内部情報を得られる。特に、核融合炉(研究施設や商用炉)などで、このような磁場の異常や劣化について関する内部情報を得たいとのニーズが存在する。核融合炉などの磁場が強い固体試料に適用する場合、磁場が強すぎてテンプレートマッチング法は使えず、完全に乱れた磁場構造イメージやミュオンの飛来軌道(磁場イメージング)が得られるが、核融合炉のコイルの劣化などにより磁場が弱くなるとピントが徐々に合っていくように磁場構造イメージなどの乱れが解消されていくため、劣化判定が可能である。ただし、対象領域の磁場構造イメージを、対象領域の密度構造イメージの代用として把握する目的で使用してもよい。 本発明の磁場構造のイメージング方法では、磁場構造イメージの時間変動を記録して、対象領域の磁場構造を監視することが好ましく、対象領域の磁場構造の劣化の度合いを監視することがより好ましい。
【0025】
<第1検出手段、第2検出手段>
第1検出手段は、対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出する。
第2検出手段は、対象領域および第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する。
第1検出手段および第2検出手段としては特に制限はなく、公知の検出手段を用いることができる。例えば、垂直方向に延びる水平方向検知用の第1の検知部を水平方向にm行配置すると共に、水平方向に延びる垂直方向検知用の第2の検出部を垂直方向にn列配置し、これらm行の第1の検知部とn列の第2の検知部を前後に配置した構成としたものが挙げられる。第1の検知部と第2の検知部とは、例えばアルミニウムケース内に例えばミュオンの入射により発光するプラスチックシンチレータを長さ方向に沿って配設すると共に、プラスチックシンチレータの後方に複数個の光電子増倍管を該アルミニウムケースの長さ方向に沿って等ピッチに配設した構成としたものが挙げられる。
したがって、プラスチックシンチレータが発光すると、その発光点の後方位置における光電子増倍管からパルス信号が出力されることになる。この場合、第1の検知部と第2の検知部とからそれぞれパルス信号が出力される。
また、第1検出手段および第2検出手段における第1の検出部同士、第2の検出部同士の位置関係は予め設定され、第1の検知部の水平方向に並ぶ各列は例えば対象領域の中心点から径方向における距離が予め判明し、第2の検知部の垂直方向(鉛直方向)に並ぶ各列は対象領域の所定点に対して垂直方向における距離が予め判明している。
ここで、ある瞬間に対象領域を透過したミュオンμを検知したとする。ミュオンμは第1検出手段の第1の検出部と第2の検出部を透過し、さらに透過したミュオンμは第2検出手段を透過する。水平方向にm行に並んだ第1の検出部に着目すると、ミュオンμが透過した第1検出手段では左端から例えば6番目であり、第2検出手段にあっては左端から7番目であったとすると、水平方向におけるミュオンμの入射角が求まり、測定領域に対するこのミュオンμの水平方向における飛来軌跡が求まる。ミュオンμの鉛直方向における飛来軌跡も同様に求められる。検知部が並べられる方向は水平方向と鉛直方向に限定されず、飛来軌道を求められるその他の構成であってもよい。
第1検出手段および第2検出手段は、それぞれResistive Plate Chamber(RPC)2枚を1組としたものであることが好ましい。
【0026】
(ミュオン)
本発明では、ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる。宇宙線ミュオンとは、環境放射線である宇宙線から得られるミュオンのことをという。
本発明において使用するミュオン(以下、適宜「μ」という)の概要について説明する。
ミュオンは、質量が陽子質量の約1/9倍、電子質量の約207倍の素粒子であり、正、負の電荷をもつμ+、μ-の2つの種類がある。μ+と真空中のμ-は、2.2μsの寿命で死滅するが、その死滅の際に、50メガ電子ボルト(MeV)のエネルギーの陽電子e+、電子e-とニュートリノを発生する。宇宙線ミュオンは宇宙線として地表に飛来する。宇宙線ミュオンの60%は正ミュオンであり、進行方向に30%程スピン偏極している。 大強度のミュオンを得る方法として、素粒子加速器を用いて高エネルギーの陽子や電子を得て、原子核との反応でパイ中間子(湯川中間子、π+、π-)を発生させ、それらの崩壊によって大量のμ+、μ-を発生させる方法が知られている。
一方、本発明においては、そのような粒子加速器により人為的に発生させたミュオンではなく、宇宙線ミュオンを利用する。物質中でミュオンは主として電場から力を受ける相互作用が働くが、本発明者らはミュオンが「磁場」から力を受ける相互作用が従来知られていなかったほど大きく、イメージングに応用できるレベルで検出できることを見出した。
宇宙線ミュオンは、天頂角を決めると、どの場所でも何時でもほぼ一定のエネルギースペクトルを持つ。天頂角は特に制限はなく、0°~90°とすることができ、10°~80°であることが好ましく、水平に近い宇宙線ミュオンは透過性がよい観点から20~70°であることがより好ましい。
検出するエネルギーレンジは、特に制限はないが、例えば1MeVから100GeVとすることができ、10MeVから10GeVであることが好ましい。
【0027】
<第3検出手段>
第3検出手段は、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する。第3検出手段は、対象領域、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出することが好ましい。
【0028】
(移動手段)
本発明の磁場構造のイメージング装置は、第3検出手段の移動手段をさらに備えることが好ましい。移動手段が、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンが第3検出手段に通過するように、第3検出手段を移動できることが好ましい。
移動手段としては特に制限はなく、公知の手段を用いることができる。移動手段は、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンが第3検出手段に通過するように、自律移動してもよく、無線などにより外部から操作して移動させてもよい。
その他の第3検出手段の好ましい態様は、第1検出手段の好ましい態様と同様である。
【0029】
<磁場印加手段>
本発明の磁場構造のイメージング装置は、第2検出手段と第3検出手段の間への磁場印加手段を有することが、正ミュオンおよび負ミュオンを判別できるようにする観点から好ましい。
磁場印加手段としては特に制限はなく、永久磁石や電磁石などの公知の手段を用いることができる。電磁石は磁束密度を一定としても、変動させてもよい。本発明では、磁場印加手段が永久磁石または磁束密度を一定とした電磁石であることが、長期間にわたって第2検出手段と第3検出手段の間へ既知の磁場をかけやすくして、対象領域を通過したミュオンの正負を判別しやすくする観点から好ましい。
第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンが第3検出手段に通過するように、永久磁石や電磁石の磁束密度を調整することが好ましい。ただし、第3検出手段が移動手段を備える場合は、永久磁石や電磁石の磁束密度を調整する代わりに、第3検出手段を移動させて、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンが第3検出手段に通過するように調整してもよい。または、永久磁石や電磁石の磁束密度の調整と、第3検出手段の移動を併用してもよい。
【0030】
<判別手段>
本発明の磁場構造のイメージング装置は、対象領域を通過したミュオンの正負を判別する判別手段を有することが、対象領域の磁場構造イメージをより容易に求めやすくし、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きを求める観点から好ましい。
ミュオンの正負を判別する方法としては、第2検出手段と第3検出手段の間に印加された磁場を通過したミュオンの偏向の度合いを解析する方法を挙げることができる。
【0031】
<解析手段>
解析手段は、第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する。 ここで、従来の密度構造イメージングなどでは、未知の厚さ(密度×長さ)を持つ物体を宇宙線ミュオンが透過する際の強度減衰を測ることで、厚さを求めていた。この強度減衰測定を、2基以上の位置敏感型検出器(陽電子・電子量検出装置)を用いて、検査対象構造物を通るミュオンの経路について次々と求めることにより、物体内部の厚さの空間分布のマッピングを得ていた。この際、ミュオンの質量が電子より200倍重く電場による相互作用のみが働く特徴が効いていて、高いエネルギーであることから、例えば、岩石では数kmまで、鉄では100mまでは通過することから、従来はラジオグラフィ(ミュオグラフィ)の対象としていた。
一方、本発明では、ミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する。検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する方法としては、特に制限はない。例えば、日本原子力研究開発機構などが開発した、大気中の宇宙線スペクトルの計算に用いる解析モデルであるPHITS-based Analytical Radiation Model in the Atmosphere(PARMA)などを用いることができる。
【0032】
本発明では、解析手段が、さらに対象領域の密度構造イメージを作成し、磁場構造イメージと密度構造イメージの差分に基づいて対象領域の磁束密度の大きさを算出することが好ましい。
具体的には、対象領域の磁場構造イメージの評価領域における宇宙線ミュオンのカウント数をある方向(例えばx軸)への射影として表したグラフと、別途作成した対象領域の密度構造イメージの差分に基づいて対象領域の磁束の大きさ(磁束密度)を算出することができる。
ここで、対象領域の密度構造イメージを作成する方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、国際公開WO2009/107575号公報の[0005]~[0062]に記載の反射型ラジオグラフィティおよび/または透過型ラジオグラフィティを用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0033】
磁場構造イメージから計算される2次元の磁束(または磁束密度)の向きは、判別手段のデータを参照して解析手段によって計算されることが好ましい。
具体的には、正ミュオンによる磁場構造イメージにおける正ミュオンの濃度が高くなる位置と、負ミュオンによる磁場構造イメージにおける負ミュオンの濃度が高くなる位置との関係から、2次元の磁束(または磁束密度)の向きを計算することができる。
【0034】
<第4検出手段、第5検出手段、飛行時間測定手段、偏向解析手段>
本発明の磁場構造のイメージング装置は、対象領域の第1検出手段側とは反対側に、対象領域、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンを検出する第4検出手段および第5検出手段を備えることが好ましい。磁場領域でミュオンがどのぐらい曲げられたかの偏向度合いがわかるため、ミュオンの透過成分が全部使えることとなる。
また、本発明の磁場構造のイメージング装置は、第5検出手段、第4検出手段、対象領域、第1検出手段および第2検出手段をこの順で通過したミュオンの所定区間の飛行時間を測定する飛行時間測定手段を備えることが好ましい。これらの構成を備える好ましい態様により、ミュオンの所定区間の飛行時間(Time of Flight;ToF)を求めることができる。具体的には、各検出手段を特定のミュオンが通過する絶対時間や、各検出手段を同期した後で各検出手段を特定のミュオンが通過する相対時間を用いて、飛行時間を計算することができる。
第4検出手段、第5検出手段の好ましい態様は、第1検出手段および第2検出手段の好ましい態様と同様である。
本発明の磁場構造のイメージング装置は、第2検出手段と第3検出手段の間に印加された磁場を通過したミュオンの偏向の度合いを解析する偏向解析手段をさらに備え、偏向解析手段が前記ミュオンの偏向の度合いに基づいてミュオンの運動量を解析することが好ましい。偏向解析手段は、テンプレートマッチング法やデコンボリューション(逆畳み込み)法などによる解析を実行できることが好ましい。
【0035】
<表示手段>
表示手段は、磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する。すなわち、磁場構造イメージを表示せずに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きのみを表示する態様も本発明に含まれる。
表示手段は、磁場構造イメージを少なくとも表示することが好ましく、磁場構造イメージと、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きとをともに表示することが好ましい。
本発明で表示される磁場構造イメージは、特に制限はない。例えば、対象領域のある平面における2次元のミュオン束(Flux;単位は1/cm2/source)の大きさや、磁束の大きさを色や濃度で可視化して、そのスケールとともにマッピングした態様を挙げることができる。別の態様として、対象領域のある平面におけるN極とS極の位置をマッピングした態様を挙げることができる。
本発明の磁場構造のイメージング装置は、対象領域の2次元の磁束密度および向きを(解析手段が)算出して(表示手段が)表示することがより好ましい。
【0036】
本発明では、表示手段が、正ミュオンおよび負ミュオンのうち少なくとも一方を用いて対象領域の磁場構造イメージを作成して表示することが好ましい。
表示手段が、正ミュオンを用いて作成される正ミュオンによる磁場構造イメージと、負ミュオンを用いて作成される負ミュオンによる磁場構造イメージと、正ミュオンおよび負ミュオンを用いて作成される正負併用の磁場構造イメージと、正ミュオンによる磁場構造イメージおよび負ミュオンによる磁場構造イメージの一方を鏡面変換して他方と合成した正負合成の磁場構造イメージとのうち少なくとも1つを表示することがより好ましい。表示手段が、正ミュオンを用いて作成される正ミュオンによる磁場構造イメージと、負ミュオンを用いて作成される負ミュオンによる磁場構造イメージと、正ミュオンによる磁場構造イメージおよび負ミュオンによる磁場構造イメージの一方を鏡面変換して他方と合成した正負合成の磁場構造イメージとのうち少なくとも1つを表示することが特に好ましい。
本発明の磁場構造のイメージング装置は、正ミュオンおよび負ミュオンを用いて作成される正負併用の磁場構造イメージを、正ミュオンによる磁場構造イメージまたは負ミュオンによる磁場構造イメージと照合して精度を高めたり、再構成して精度を高めたりするための画像変換部(またはプログラム)を備えていてもよい。
正ミュオンによる磁場構造イメージおよび負のミュオンによる磁場構造イメージの一方を鏡面変換して他方と合成した正負合成の磁場構造イメージを得る方法は特に制限はなく、公知の方法で鏡面変換やイメージ合成をするための画像変換部(またはプログラム)で行うことができる。磁場成分のみを抽出する段階と、その後で鏡面変換をする段階を行うことが、歪んだミュオグラフィ画像から磁場成分を抽出することで、鏡面変換して合算することができる。
【0037】
<その他の手段>
本発明の磁場構造のイメージング装置は、その他の手段を備えてもよい。例えば、
図1に記載した制御手段や、
図4に記載した入力手段、出力手段、記憶手段、第2の判別手段、自動アラート手段などを有することが好ましい。
【0038】
記憶手段は、例えば、ミュオンが飛来して来た方向とミュオンの飛来して来た時刻(タイムスタンプ)を記録することが好ましい。このタイムスタンプを記録することで、過去1ヶ月分の図と比較したり、1年前の2週間計測の結果と比較したりする等が可能となる。さらに記憶手段は、磁場構造イメージの時間変動を記録することが好ましい。磁場構造イメージの時間変動を記録して、対象領域の磁場構造の劣化の度合いを監視することがより好ましい。
また、磁場構造のイメージング装置は、対象領域の磁場構造を監視した結果、対象領域の磁場構造の劣化の度合いが高まったことを判断する第2の判別手段を備えることが好ましい。第2の判別手段は特に制限はなく、所定の閾値を設定したものであってもよく、磁場構造の劣化の度合いをAIに学習させた学習済みモデルを用いるものであってもよい。
磁場構造のイメージング装置は、象領域の磁場構造の劣化の度合いが高まったことの判断を外部に自動で通知する自動アラート手段を備えることが好ましい。核融合炉などでは磁場構造の劣化の度合いが高まったか否かに関する人間による判断が様々な理由で遅れることがあり得るため、このような自動アラート手段を備えることが判断に人為的な介入を抑制できる観点で好ましい。例えば核融合炉では、磁場を作る超伝導コイルの劣化が起こることが知られており、超伝導コイルに流れる電流をモニタリングすることで劣化を判定する方法が知られている。しかし、この方法では超伝導コイルのどの場所で劣化が起きたかわからない。これに対し、本発明の磁場構造のイメージング装置は、大局的な磁場の強弱を把握できるので、コイルの劣化が起きた位置がわかる観点で好ましい。
【0039】
[磁場構造のイメージング方法]
本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様は、対象領域を通過したミュオンを検出する第1検出工程と、対象領域および第1検出工程を通過したミュオンを検出する第2検出工程と、第1検出工程および第2検出工程で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算する解析工程と、磁場構造イメージ、ならびに、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きの少なくとも1つを表示する表示工程とを備え、ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる。
図11は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様の一例を示したフローチャートである。磁場構造のイメージング方法の第1の態様では、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出する第3検出工程と、第2検出手段と第3検出手段の間への磁場印加工程と、対象領域を通過したミュオンの正負を判別する判別工程とをさらに備え、表示手段が、正ミュオンおよび負ミュオンのうち少なくとも一方を用いて対象領域の磁場構造イメージを作成して表示することが好ましい。この好ましい態様を
図12に記載した。
図12は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様の他の一例を示したフローチャートである。
本発明の磁場構造のイメージング方法の第2の態様は、対象領域を通過したミュオンを検出する第1検出工程と、対象領域および第1検出工程を通過したミュオンを検出する第2検出工程と、第1検出工程および第2検出工程で検出されたミュオンのミュオグラフィ画像を(テンプレートマッチング法などで)解析して得られた磁場イメージングとして表示する表示工程とを備え、磁場イメージングの時間変動を記録して、対象領域の磁場イメージングの変動を監視し、ミュオンとして宇宙線ミュオンを用いる。
図13は、本発明の磁場構造のイメージング方法の他の一例を示したフローチャートである。具体的には、対象領域への磁場印加前との直接比較(磁場印加前の磁場イメージングに近づいてはいけない)をすることが好ましい。また、1ヶ月移動平均、3ヶ月移動平均、6ヶ月移動平均などの変動を記録して、比較法による変動の監視に用いることが好ましい。 本発明の磁場構造のイメージング方法の好ましい態様は、本発明の磁場構造のイメージングの好ましい態様と同様である。
【0040】
磁場構造のイメージング方法では、検出期間は特に制限はないが、検出期間が長いほど検出されるミュオンのイベント数が増えてイメージング精度が高められる観点から好ましい。検出期間が短いほど、実際の測定期間を短くして測定コストを減らすことにより、産業上の利用可能性を高められる観点から好ましい。
磁場構造のイメージング方法では、さらに対象領域の第1検出公知を行う側とは反対側において、ミュオンの通過した位置を検出する第4検出工程および第5検出工程を行うことが、ミュオグラフィ画像が見えるようになることを待たずに解析可能となる観点から好ましい。すなわち、対象領域を検出手段で(第1検出手段および第2検出手段の組と、第4検出手段および第5検出手段の組とで)挟む構成とすることが好ましい。対象領域を検出手段で挟む構成とする場合、ミュオンの入射角度と、対象領域の磁場透過後のミュオンの角度の両方がわかることから、透過してきたミュオンすべてを使うことができ、ミュオグラフィの散乱法と同じコンセプトで10分程度磁場構造イメージを作成して表示することができる(手のひらを毎秒1つ貫通する頻度の宇宙線ミュオンのほぼ全てを使うことができる)。
図14は、本発明の磁場構造のイメージング方法の第1の態様の他の一例を示したフローチャートである。測定時間を短くする観点からは、対象領域へのミュオンの入射角度を求めることに代えて/または加えて、所定区間の飛行時間を求めてミュオンの運動量を算出して、解析工程に用いてもよい。
対象領域を検出手段で挟まない構成とする場合、透過力の高いミュオンが少しだけ吸収されているコントラストの悪い画像を取得することとなるため、ミュオグラフィ画像が見えるようになることを待つことが好ましい。この場合、本発明では、1週間から3か月間までの間に検出したミュオンを用いて磁場構造イメージを作成して表示することが好ましく、2週間から2か月間までの間に検出したミュオンを用いて磁場構造イメージを作成して表示することがより好ましい。
【0041】
磁場構造のイメージング方法では、対象領域を90°異なる光軸上から測定して、90°異なる対象領域の磁場構造イメージを取得する工程と、90°異なる対象領域の磁場構造イメージから3次元の磁場構造イメージを再構成する工程を含むことが好ましい。
鉛直下側から1回計測できれば、地表のどこから測定してもこの条件を満たせる。監視(モニタリング)を行う場合は、本発明の磁場構造のイメージング装置を少なくとも2台併用した磁場構造の磁場構造のイメージング装置のセットとして、本発明の磁場構造のイメージング装置のうち1台を地下に据え置きすることが好ましい。
3次元の磁場構造イメージを再構成する方法としては、以下の方法を挙げることができる。
対象領域をある1軸方向から測定および解析した2次元のxy面の情報と、その光軸とは90°異なるもう1軸方向から測定および解析した2次元のyz面の情報を得る。これらの2次元の情報はY軸方向の情報が共通なので、簡単に3次元の磁場構造イメージを得られる。
【0042】
2次元の磁場構造イメージ、磁場構造イメージから計算される2次元の磁束密度の大きさおよび/または向きを解析する方法としては以下の方法を挙げることができる。
磁場のない条件のミュオグラフィ画像をシミュレーションあるいは実測して得る。それを分割してテンプレートとして用いる。磁場によって歪められたミュオグラフィ画像をテンプレートマッチング法で解析し、各テンプレートがオリジナルな位置からどれだけ移動したかを求める。この移動量が大きいほど磁場が強い。
他にも、Maximum-Likelihood Expectation-Maximization(MLEM)法などを用いて、二次元の磁束密度分布を先述の移動量を導出すること無く、直接精度良く推定することも可能である。この方法は、推定磁場を与えて磁場によるミュオグラフィ画像の歪みを計算するプロセスと、その歪められたミュオグラフィ画像と実測で得られたミュオグラフィ画像とを比較し、より実測に近いミュオグラフィ画像が得られるように推定磁場を調整するプロセスから構成されている。これを十分な回数繰り返すことで、実測で得られたミュオグラフィ画像を得るために必要な磁場分布が得られる(Shepp and Vardi, 1982)。
【実施例0043】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0044】
[実施例1]
図1に記載の構成の磁場構造のイメージング装置を用いて、対象領域の磁場構造イメージを得るシミュレーションを行った。
対象領域には、何も配置せず、縦300cm(y軸方向)、幅200cm(x軸方向)、高さ100cm(z軸方向)の範囲に磁場をかけた。
図1および
図5(B)中の紙面右側に描かれている長方形(直方体)部分が、磁場がかけられている部分である。
解析手段、エネルギースペクトル:日本原子力研究開発機構などが開発した、大気中の宇宙線スペクトルの計算に用いる解析モデルであるPHITS-based Analytical Radiation Model in the Atmosphere(PARMA)を用いた。天頂角は70°とした。
測定したエネルギーレンジ:10MeVから10GeVとした。
測定した素粒子:正の宇宙線ミュオン(μ
+)および負の宇宙線ミュオン(μ
-)とした。
シミュレーション空間は真空で満たした。
対象領域のz軸方向の中心から、z軸方向に400cm離れた位置に、第1検出手段としてResistive Plate Chamber(RPC)2枚を1組としたものを配置した。さらにその位置からz軸方向に25cm離れた位置に第2検出手段としてRPC2枚を1組としたものを配置した。第1検出手段と第2検出手段との距離はz軸方向に15~34cm離れた位置とすることができる。
第1検出手段では、対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出した。また、第2検出手段では、対象領域および第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出した。
解析手段により、ミュオンの飛来軌道を予測し、そのミュオンの飛来軌道の変位量から対象領域の磁束密度を決めることにより、第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算した。
なお、宇宙線ミュオンが第1検出手段に平行入射する場合、宇宙線ミュオンが第1検出手段を通過する位置と第2検出手段を通過する位置はほとんど変わらないので、第1検出手段のミュオン通過位置のみを代表して用いてミュオンの飛来軌道を求めてもよい。
制御手段および表示手段として、CPUを備える汎用PCおよび付属のモニターを用い、モニターにミュオンの飛来軌道および対象領域の磁場構造イメージを表示した。
【0045】
得られた結果を
図5(A)および
図5(B)に示した。
図5(A)は、実施例1で得られた、対象領域のxy平面におけるミュオンの飛来軌道である。
図5(B)は、実施例1で得られた、対象領域を含むシミュレーション空間のxz平面におけるミュオンの飛来軌道である。なお、各図では、2次元のミュオン束(フラックス)(単位は/cm
2/source)を濃度で示してあり、ミュオン束の濃度スケールを各図の紙面右端に示した。
図5(A)および
図5(B)より、x軸方向に-100cmから100cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲に濃度が高い部分が存在しており、対象領域の磁場構造イメージを正確に得られることがわかった。なお、
図1の構成の磁場構造のイメージング装置では、対象領域の磁束の向きを求められなかった。
【0046】
[実施例11、12]
図2に記載の構成の磁場構造のイメージング装置を用いて、対象領域の磁場構造イメージを得るシミュレーションを行った。
対象領域には、何も配置せず、縦300cm(y軸方向)、幅200cm(x軸方向)、高さ20cm(z軸方向)の範囲に磁場をかけた。
図2および
図6中の長方形(直方体)部分が、磁場がかけられている部分である。
解析手段、エネルギースペクトル:実施例1と同様にPARMAを用いた。天頂角は70°とした。
測定したエネルギーレンジ:10MeVから10GeVとした。
測定した素粒子:実施例11では負の宇宙線ミュオン(μ
-)のみとした。実施例12では正の宇宙線ミュオン(μ
+)のみとした。
シミュレーション空間は真空で満たした。
対象領域のz軸方向の中心から、z軸方向に400cm離れた位置に、第1検出手段としてResistive Plate Chamber(RPC)2枚を1組としたものを配置した。さらにその位置からz軸方向に25cm離れた位置に第2検出手段としてRPC2枚を1組としたものを配置した。さらにその位置からz軸方向に所定距離離れた位置に第3検出手段としてRPC2枚を1組としたものを配置した。なお、第3検出手段に取り付けた移動手段を調整することにより、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンが第3検出手段に通過するように、第3検出手段を移動した。
第1検出手段では、対象領域を通過したミュオンの通過した位置を検出した。また、第2検出手段では、対象領域および第1検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出した。第3検出手段では、第1検出手段および第2検出手段を通過したミュオンの通過した位置を検出した。
磁場印加手段により第2検出手段と第3検出手段の間へ既知の磁場Bmを印加した。
判別手段により、各ミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域を通過したミュオンの正負を判別した。
解析手段により、ミュオンの飛来軌道を予測し、そのミュオンの飛来軌道の変位量から対象領域の磁束密度を決めることにより、第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算した。
制御手段および表示手段として、CPUを備える汎用PCおよび付属のモニターを用い、モニターにミュオンの飛来軌道および対象領域の磁場構造イメージを表示した。
【0047】
実施例11で得られた結果を
図6に、実施例12で得られた結果を
図7(A)および
図7(B)に示した。
図6は、実施例11で得られた、負ミュオンのみを用いて作成された対象領域のxy平面における負のミュオンの飛来軌道である。
図7(A)は、実施例12で得られた、正ミュオンのみを用いて作成された対象領域のxy平面における正のミュオンの飛来軌道である。
図7(B)は、実施例12で得られた、対象領域を含むシミュレーション空間のxz平面における正のミュオンの飛来軌道である。なお、各図では、2次元のミュオン束(単位は/cm
2/source)を濃度で示してあり、ミュオン束の濃度スケールを各図の紙面右端に示した。なお、
図6には、矢印で示した負ミュオンのうち、対象領域を通過したものの飛来軌道が曲げられることを模式的に示した。
図6より、x軸方向に-200cmから-150cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲に濃度が高い部分が存在しており、x軸方向に120cmから140cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲にミュオンが検出されなかった部分が存在していること、x軸の負方向(
図6の矢印方向)に負ミュオンが曲がったことがわかった。
一方、
図7(A)より、x軸方向に150cmから200cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲に濃度が高い部分が存在しており、x軸方向に-150cmから-130cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲にミュオンが検出されなかった部分が存在していること、
図7(A)ではx軸の正方向(図(6)の矢印方向とは反対方向)に正ミュオンが曲がったことがわかった。また、
図7(B)より、x軸方向に150cmから200cm、z軸方向に-500cmから300cmの範囲に濃度が高い部分が三角形状に存在しており、x軸方向に-150cmから-130cm、z軸方向に-500cmから300cmの範囲にミュオンが検出されなかった部分が存在していること、
図7(B)ではx軸の正方向に正ミュオンが曲がったことがわかった。
以上より、
図2の構成の磁場構造のイメージング装置によれば、対象領域の磁場構造イメージを正確に求めることができ、さらに磁場構造イメージから対象領域の2次元の磁束の向きを決定できることがわかった。
【0048】
<磁束の大きさ>
実施例12において、磁場構造イメージから対象領域の磁束の大きさ(磁束密度)を求めた。実施例12で得られた対象領域の磁場構造イメージにおいて、磁束の大きさを測定する評価領域をx軸方向-200cmから200cm、y軸方向0cmから50cmとした。そして、評価領域における宇宙線ミュオンのカウント数をx軸への射影として求めた。
図8(A)は、
図7(A)における磁束の大きさを測定する評価領域を示した模式図である。
図8(B)は、
図8(A)における評価領域における宇宙線ミュオンのカウント数をx軸への射影として表したグラフである。
一方、同様の解析手段を用いて、公知の方法で、さらに対象領域の密度構造イメージを作成した。
対象領域の磁場構造イメージの評価領域における宇宙線ミュオンのカウント数をx軸への射影として表したグラフと、対象領域の密度構造イメージの差分に基づいて対象領域の磁束の大きさ(磁束密度)を算出した。本実施例の場合は、ミュオンの計数されない部分が、変位の少ない高エネルギーミュオンが少ないために現れるという事実から磁束密度を予測した。また、中央部が磁場の外側とミュオン束が近く変化量が少ないことから、一様磁場であると予測した。
なお、前述のテンプレートマッチング法やデコンボリューション法などは、天頂角方向の成分があれば、真空でも長期間計測時間をかければ解析に用いることができる(水平方向からしかミュオンが飛来しないことは現実にはありえないため)。計測時間を早めるために、吸収体を設置することもできるし、対象領域の磁場の背後には(砂漠などではない限り)何かの物体が存在するのでそれを吸収体として用いることもできる。
図8(C)は、
図8(B)から算出される対象領域の磁束密度の一例の模式図である。
以上より、本発明の磁場構造のイメージング装置を用いて、対象領域の2次元の磁束密度および向きを算出できることがわかった。
【0049】
[参考例21]
図2に記載の構成の磁場構造のイメージング装置を用いて、宇宙線ミュオンの磁場による影響を評価するシミュレーションを行った。
対象領域には何も配置しなかった。
解析手段、エネルギースペクトル、第1検出手段~第3検出手段、判別手段、制御手段および表示手段は実施例11と同様とした。
測定したエネルギーレンジ:316MeVから1GeVとした。
測定した素粒子:正の宇宙線ミュオン(μ
+)および負の宇宙線ミュオン(μ
-)。
シミュレーション空間は真空で満たした。
磁場印加手段により第2検出手段と第3検出手段の間、具体的にはz軸方向の-500cmから-150cmの間へ既知の磁場Bmを印加した。
【0050】
参考例21で得られた結果を
図9(A)および
図9(B)に示した。
図9(A)は、参考例21で得られた、正ミュオンおよび負ミュオンを用いて作成されたz軸-400cmの位置のxy平面におけるミュオンの飛来軌道イメージである。
図9(B)は、参考例21で得られた、対象領域を含むシミュレーション空間のxz平面におけるミュオンの飛来軌道である。なお、各図では、2次元のミュオン束の大きさ(単位は/cm
2/source)を濃度で示してあり、ミュオン束の濃度スケールを各図の紙面右端に示した。
図9(A)より、x軸方向に-200cmから-100cmおよび100cmから200cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲に濃度がある程度低い部分が存在しており、x軸方向に-100cmから100cm、y軸方向に-150cmから150cmの範囲にミュオンがほとんど検出されなかった部分が存在していることがわかった。ミュオンがほとんど検出されなかった部分は、ここまで直進できるほど高エネルギーのミュオンが自然界にはまれにしか存在しないため、できる領域である。エネルギー分布はPARMAモデルで予測でき、平均値が2GeVで、それよりエネルギーの高い領域では急激に強度が減少する。ミュオンの飛来しない領域は、この急激に強度が減少している部分に対応しているので、シミュレーションで得られた図とPARMAモデルから、ミュオンの検出されなかった部分が広いほど磁束密度が高いと解析できる。また、
図9(B)より、x軸方向に-100cmから100cm、z軸方向に-500cmから-150cmの範囲に濃度が低い部分およびミュオンが検出されなかった部分が混在していることがわかった。
以上より、
図2の構成の磁場構造のイメージング装置では、第2検出手段と第3検出手段の間に印加された磁場によって宇宙線ミュオンが曲がったことがわかった。
【0051】
[実施例31~33]
図2に記載の構成の磁場構造のイメージング装置を用いて、対象領域の磁場構造イメージを得るシミュレーションを行った。
対象領域には、四重極磁石を配置した。具体的には、x軸方向の0cm、y軸方向の-150cmの位置に第1の磁石のS極;x軸方向の0cm、y軸方向の150cmの位置に第2の磁石のS極;x軸方向の-150cm、y軸方向の0cmの位置に第3の磁石のN極;x軸方向の150cm、y軸方向の0cmの位置に第4の磁石のN極を、それぞれ配置した。
解析手段、エネルギースペクトル、測定したエネルギーレンジ、第1検出手段~第3検出手段、判別手段、制御手段および表示手段は実施例11と同様とした。
測定した素粒子:実施例31では正の宇宙線ミュオン(μ
+)および負の宇宙線ミュオン(μ
-)とした。実施例32では正の宇宙線ミュオン(μ
+)のみとした。実施例33では負の宇宙線ミュオン(μ
-)のみとした。
シミュレーション空間は真空で満たした。
磁場印加手段により第2検出手段と第3検出手段の間へ既知の磁場Bmを印加した。
判別手段により、各ミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域を通過したミュオンの正負を判別した。
解析手段により、第1検出手段および第2検出手段で検出されたミュオンの飛来軌道に基づいて対象領域の磁場構造イメージを計算した。
制御手段および表示手段として、CPUを備える汎用PCおよび付属のモニターを用い、モニターに対象領域の磁場構造イメージを表示した。
【0052】
得られた結果を
図10(A)~
図10(C)に示した。
図10(A)は、実施例31で得られた対象領域のミュオンの飛来軌道である。
図10(B)は、実施例32で得られた対象領域のミュオンの飛来軌道である。
図10(C)は、実施例33で得られた対象領域のミュオンの飛来軌道である。なお、各図では、2次元のミュオン束(単位は/cm
2/source)を濃度で示してあり、ミュオン束の濃度スケールを各図の紙面右端に示した。
さらに、
図10(A)より、四重極磁石の磁場が反映された、対象領域の磁場構造イメージが正確に求められたことがわかった。
図10(B)より、四重極磁石のうちS極が配置された方向に正ミュオンが曲がったことがわかった。一方、
図10(C)より、四重極磁石のうちN極が配置された方向に負ミュオンが曲がったことがわかった。さらに、
図10(B)および
図10(C)を合成した正負合成の磁場構造イメージを得ると
図10(A)によく一致することがわかった。
以上より、
図2の構成の磁場構造のイメージング装置によれば、対象領域の磁場構造イメージを正確に求めることができ、さらに磁場構造イメージから対象領域の2次元の磁束の向きを決定できることがわかった。