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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034863
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】複合部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/12 20060101AFI20230306BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20230306BHJP
   C08L 23/30 20060101ALI20230306BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230306BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20230306BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230306BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20230306BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B32B7/12
C08K5/54
C08L23/30
C09J7/38
C09J123/26
C09J11/06
B32B25/08
B32B27/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141311
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 英明
(72)【発明者】
【氏名】門野 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】張 雲偉
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB04A
4F100AH06B
4F100AK03B
4F100AK04B
4F100AK07B
4F100AK75C
4F100AL05B
4F100AL07B
4F100AN00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CB00B
4F100EJ05C
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100EJ67B
4F100EJ91A
4F100GB41
4F100JA04B
4F100JB16B
4F100JL12C
4J002BB211
4J002EX016
4J002EX036
4J002EX046
4J002EX066
4J002EX076
4J002GJ01
4J002HA03
4J004AA07
4J004AB01
4J004BA01
4J004FA08
4J040DA151
4J040HD32
4J040JA03
4J040JB01
4J040JB02
4J040MA12
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA19
4J040PA30
4J040PA33
4J040QA05
(57)【要約】
【課題】 基材と架橋ゴム部材とが比較的短時間の接着処理により高い接着力で一体化されている複合部材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 複合部材は、基材と、架橋ゴム部材と、該基材と該架橋ゴム部材とを接着する接着剤層と、を備える。該接着剤層は、次の(A)および(B)を質量比で(A):(B)=2:98~20:80の割合で有する液状組成物から形成される。
(A)酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の粉末。
(B)シランカップリング剤および溶剤を有するシランカップリング剤含有液。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、架橋ゴム部材と、該基材と該架橋ゴム部材とを接着する接着剤層と、を備える複合部材であって、
該接着剤層は、次の(A)および(B)を質量比で(A):(B)=2:98~20:80の割合で有する液状組成物から形成されることを特徴とする複合部材。
(A)酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の粉末。
(B)シランカップリング剤および溶剤を有するシランカップリング剤含有液。
【請求項2】
前記酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の融点は、70℃以上170℃以下である請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記オレフィン系熱可塑性樹脂は、ポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる一種以上である請求項1または請求項2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記酸は、マレイン酸、フタル酸、無水マレイン酸から選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合部材。
【請求項5】
前記シランカップリング剤は、二種類以上のシランカップリング剤が共重合された共重合オリゴマーを有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の複合部材。
【請求項6】
前記架橋ゴム部材は、エチレン-プロピレン-ジエンゴムおよびエチレン-ブテン-ジエンゴムの少なくとも一方を有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の複合部材。
【請求項7】
前記基材はセパレータであり、前記架橋ゴム部材はシール部材であり、燃料電池の構成部材として用いられる請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の複合部材。
【請求項8】
請求項1に記載の複合部材の製造方法であって、
前記基材に前記液状組成物を塗布し乾燥させる液状組成物塗布工程と、
該基材の該液状組成物の塗布面に前記架橋ゴム部材を配置して積層体とし、該積層体を加熱および加圧して該架橋ゴム部材を該基材に接着させる接着工程と、
を有することを特徴とする複合部材の製造方法。
【請求項9】
前記接着工程は、前記積層体を160℃以上200℃以下の温度で加熱し、前記架橋ゴム部材の圧縮率が10%以上30%以下の範囲になるように加圧する請求項8に記載の複合部材の製造方法。
【請求項10】
前記接着工程の後、前記積層体を加圧しない状態で70℃以上の温度下で24時間以上保持する追加硬化工程を有する請求項8または請求項9に記載の複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基材と架橋ゴム部材とが接着剤層を介して接着されている複合部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、多数のセルが積層されたスタック構造を呈している。セルの積層体は、積層方向両側に配置されたエンドプレートにより締結されている。例えば、固体高分子型燃料電池のセルは、膜電極接合体(MEA)を含む電極部材と、それを挟持するセパレータと、を備えている。電極部材の周囲や、隣り合うセパレータの間には、反応ガスや冷媒に対するシール性と絶縁性とを確保するために、ゴム製のシール部材が配置されている。所望のシール性を実現するためには、シール部材とセパレータなどの隣接部材との間の接着性が重要になる。両者を接着する方法としては、ゴム材料の架橋接着を利用する方法、接着剤を使用する方法などがある(例えば、特許文献1、2参照)。また、特許文献3には、酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂を主成分とした接着性を有するシール部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-94056号公報
【特許文献2】特開2017-183198号公報
【特許文献3】特開2008-282708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、ゴム材料の架橋反応を利用して基材との接着を行う場合には、未架橋のゴム材料を基材に接触させ、130℃程度の温度下で数分から十数分間保持する必要がある。このため、製造時間が長くなり生産性が低い。また、燃料電池用のカーボンセパレータや電極部材などは、長時間の加熱により変質したり劣化するおそれがある。このため、加熱時間はできるだけ短い方が望ましい。
【0005】
他方、予めゴム材料を架橋してシール部材を製造した後、シランカップリング剤などの接着剤を用いて基材と接着させる方法(いわゆる後接着法)もあるが、シランカップリング剤による接着性を発現させるためには非常に長い時間を要する。特許文献2に記載されている方法によると、50~120℃の温度下、シール部材の圧縮率が5~70%の状態で24時間以上保持する必要があり、生産性が低い。
【0006】
また、特許文献3には、ゴム製ではなく樹脂製のシール部材として、酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂とシランカップリング剤とを含むシール部材が記載されている。特許文献3に記載されているシール部材は、ゴム製のシール部材と基材とを接着させるものではなく、それ自体がシール部材として用いられる。特許文献3の段落[0025]-[0027]に記載されているように、当該シール部材は、酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の加熱溶融物中にシランカップリング剤を投入して混練し、それをフィルム状に成形して製造される。このため、形状の自由度が小さい。例えば、シール部材を枠状に配置したい場合、不要な部分を切除するなどしてフィルムを枠状に加工しなければならない。よって、その分だけ工程が増え、廃棄する材料が多くなる。結果、歩留まりが悪く、コスト高を招いてしまう。また、フィルムの厚さが大きい場合には、加熱に要する時間が長くなり、生産性が低下する。よって、フィルム状に成形されたシール部材は、接着剤として適さない。
【0007】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、基材と架橋ゴム部材とが比較的短時間の接着処理により高い接着力で一体化されている複合部材、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本開示の複合部材は、基材と、架橋ゴム部材と、該基材と該架橋ゴム部材とを接着する接着剤層と、を備える複合部材であって、該接着剤層は、次の(A)および(B)を質量比で(A):(B)=2:98~20:80の割合で有する液状組成物から形成されることを特徴とする。
(A)酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の粉末。
(B)シランカップリング剤および溶剤を有するシランカップリング剤含有液。
【0009】
(2)本開示の複合部材の製造方法は、上記(1)の構成の複合部材の製造方法の一例であり、前記基材に前記液状組成物を塗布し乾燥させる液状組成物塗布工程と、該基材の該液状組成物の塗布面に前記架橋ゴム部材を配置して積層体とし、該積層体を加熱および加圧して該架橋ゴム部材を該基材に接着させる接着工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)本開示の複合部材における接着剤層は、(A)酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂(以下、適宜「酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂」と称す)の粉末と、(B)シランカップリング剤含有液と、を2:98~20:80の質量比で有する液状組成物から形成される。(A)と(B)との質量比は、下限値および上限値を含む。すなわち、(A):(B)=2:98~20:80は、換言すると、(A)および(B)の合計質量を100質量部とした場合に、(A)は2質量部以上20質量部以下であり、これに対応する(B)は98質量部以下80質量部以上という意味である。
【0011】
酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂は、接着性に加えて耐水性、耐酸性が良好である。よって、本開示の複合部材によると、燃料電池の作動環境のような水分存在下、酸性雰囲気においても、基材と架橋ゴム部材との接着性が高い。
【0012】
酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂としては、粉末を用いる。このため、樹脂の加熱溶融などは必要なく、当該粉末をシランカップリング剤含有液に分散させるだけで、接着剤層を形成するための液状組成物を容易に調製することができる。これにより、作業が簡素化されコストを削減することができる。また、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂を用いることにより、それを用いない場合(例えばシランカップリング剤のみを使用する場合)と比較して、基材と架橋ゴム部材とを極めて短時間で接着させることができる。これにより、接着時間を短縮し、生産性を高めることができる。
【0013】
例えば、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末のみを使用しても、ある程度の接着力で基材と架橋ゴム部材とを接着することは可能である。しかし、粉末は微少な固体粒子の集合であり、基材の表面に撒かれた状態では粒子が容易に移動する。よって、粉末の上に接着対象の部材を重ねると、部材が滑りやすく位置ずれするおそれがある。この点、本開示の複合部材においては、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末を、シランカップリング剤含有液に分散させて使用する。すなわち、接着対象の部材は、粒子ではなく液状組成物の塗膜の上に配置される。これにより、液状組成物に積層される部材の位置ずれを抑制し、所望の製品を寸法精度よく得ることができる。
【0014】
また、液状組成物を使用することで、形状の自由度が大きくなり、所定の部位に所定の量だけ配置することができる。このため、前述したフィルムを使用する場合と比較して、加工工程を省くことができ、材料のロスが少なくなり、歩留まりが高くなる。結果、コストを削減でき生産性が向上する。さらに、粉末のみの場合と比較して、むらになりにくく均一な接着剤層を形成することができる。結果、接着性およびシール性が向上する。
【0015】
本開示の複合部材における接着剤層は、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂に加えて、シランカップリング剤も含有する。シランカップリング剤は、無機材料、有機材料のいずれにも反応性を有するため、接着剤層にシランカップリング剤が含有されることにより、基材および架橋ゴム部材との間に強固な化学結合が形成される。基材と架橋ゴム部材との接着は、初期段階では酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の作用が大きく、続いてシランカップリング剤の作用が大きくなる。酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂による接着が速やかに完了するため、接着時間を短縮し、生産性を高めることができる。
【0016】
(2)本開示の複合部材の製造方法によると、まず、液状組成物塗布工程において、基材に液状組成物を塗布し乾燥させる。前述したように、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末を用いるため、樹脂の加熱溶融などは必要なく、当該粉末をシランカップリング剤含有液に分散させるだけで、液状組成物を容易に調製することができる。これにより、作業が簡素化されコストを削減することができる。また、(A)酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末および(B)シランカップリング剤含有液の質量比を、(A):(B)=2:98~20:80とすることにより、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末の凝集が抑制され、シランカップリング剤含有液中に酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末が均一に分散した液状組成物を調製することができる。
【0017】
液状組成物を所定の部位に所定の量だけ塗布すればよいため、前述したフィルムを使用する場合と比較して、加工工程を省くことができ、材料のロスが少なくなり、歩留まりが高くなる。結果、コストを削減でき生産性が向上する。また、粉末のみの場合と比較して、むらになりにくく均一な接着剤層を形成することができる。結果、接着性およびシール性が向上する。なお、塗布後の乾燥により、シランカップリング剤含有液中の溶剤は蒸発するが、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粒子はシランカップリング剤などにより支持されるため移動しにくい。
【0018】
次に、接着工程において、基材の液状組成物の塗布面に架橋ゴム部材を積層し、加熱および加圧する。架橋ゴム部は、液状組成物の塗膜に積層されるため、位置ずれしにくい。これにより、所望の製品を寸法精度よく得ることができる。基材と架橋ゴム部材との接着は、初期段階では酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の作用が大きく、続いてシランカップリング剤の作用が大きくなる。酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂による接着が速やかに完了するため、接着工程における加熱および加圧時間(接着時間)を短縮し、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例においてシール性を評価した複合部材サンプルの上面図である。
図2図1のII-II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の複合部材およびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0021】
<複合部材>
本開示の複合部材は、基材と、架橋ゴム部材と、接着剤層と、を備える。複合部材における他の構成は限定されない。複合部材は、例えば燃料電池、水電解型などの水素製造装置の構成部材として用いられる。燃料電池としては、固体高分子型燃料電池(PEFC)(ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を含む)が挙げられる。複合部材を燃料電池の構成部材として用いる場合には、基材をセパレータにし、架橋ゴム部材をシール部材にすればよい。基材を電極部材の膜電極接合体(MEA)、ガス拡散層(GDL)などにしてもよい。水電解型水素製造装置の構成は、燃料電池の構成と類似している。よって、複合部材を水電解型水素製造装置の構成部材として用いる場合にも、基材をセパレータ、MEAにし、架橋ゴム部材をシール部材にすればよい。
【0022】
[基材]
基材の材質、形状、大きさなどは、複合部材の用途に応じて適宜決定すればよい。材質としては、ステンレス鋼、チタン、銅、マグネシウム、アルミニウム、カーボン、グラファイト、セラミックス、導電性樹脂(カーボン、グラファイト、ポリアクリロニトリル系炭素繊維などを有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂)などが挙げられる。また、これらの材料からなる本体部の表面に、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの処理によりダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)、グラファイト膜などの炭素薄膜が形成されたものでもよい。基材における架橋ゴム部材が接着される領域(液状組成物が塗布される領域)には、液状組成物の濡れ性を高めて接着性を向上させるため、予め凹凸を形成するなどの表面処理が施されてもよい。
【0023】
基材の厚さは、架橋ゴム部材との接着時間に影響する場合がある。例えば、基材の厚さが大きいと、接着工程で所定の温度に加熱する時間が長くなるおそれがある。よって、短時間で接着させるという観点においては、基材の厚さは小さい方が望ましい。複合部材が燃料電池の構成部材である場合、基材の厚さは0.05mm以上、0.1mm以上、5mm以下、3mm以下、1mm以下が好適である。特に基材がセパレータである場合には、発電性能を考慮して、厚さを0.1mm以上0.5mm以下にするとよい。
【0024】
[架橋ゴム部材]
架橋ゴム部材は、所定のゴム組成物を架橋して製造された部材である。ゴム組成物は、ゴム成分の他に、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、補強剤、老化防止剤、加工助剤などを適宜配合して調製すればよい。ゴム組成物は、液状ゴムでもソリッドゴムでもよい。架橋ゴム部材は、ゴム組成物を射出成形、プレス成形などして製造すればよい。架橋ゴム部材の材質、形状、大きさなどは、複合部材の用途に応じて適宜決定すればよい。架橋ゴム部材は、基材の表面において外周縁に沿って環状に配置してもよく、所定の部位を囲むように配置してもよい。複合部材が燃料電池の構成部材である場合、架橋ゴム部材の厚さは0.2mm以上、0.5mm以上、5mm以下、3mm以下が好適である。また、基材がセパレータで、架橋ゴム部材がシール部材である場合、架橋ゴム部材を、基材に接着される台座部と、該台座部から突出し、厚さ方向の断面が半円形状、台形状などである山部と、を有するリップ形状にするとよい。
【0025】
ゴム成分としては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテン-ジエンゴム(EBT)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。なかでも、高温下における耐水性、耐酸性が高いという理由から、EPDMおよびEBTの少なくとも一方を用いることが望ましい。
【0026】
架橋剤としては、硫黄などの揮発成分を含まないという理由から、有機過酸化物を用いることが望ましい。なかでも、比較的低温で架橋可能なジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートなどが好適である。架橋助剤としては、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、2官能(メタ)アクリレート、1,2-ポリブタジエンなどが挙げられる。可塑剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ワセリンなどの石油系可塑剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系可塑剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などが挙げられる。補強剤としては、カーボンブラック、非晶質シリカ(ホワイトカーボン)などが挙げられる。老化防止剤としては、フェノール系、アミン系、イミダゾール系、リン酸系、ワックスなどが挙げられる。
【0027】
[接着剤層]
接着剤層は、(A)酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の粉末および(B)シランカップリング剤含有液を有する液状組成物から形成され、基材と架橋ゴム部材とを接着する。
【0028】
(A)酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末
酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂とは、酸、酸無水物、酸エステル、メタロセンなどにより変性された、オレフィン系熱可塑性樹脂を意味する。酸による変性は、オレフィン系熱可塑性樹脂に酸成分をグラフト化してもよく、共重合してもよく、あるいはこれらを組み合わせて行ってもよい。変性が比較的容易であるなどの理由から、グラフト化による変性が好適である。酸による変性量(酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂に含まれる酸成分の質量割合)は、所望の接着性が得られるよう適宜決定すればよい。一般には、酸による変性量が少ないと、所望の接着性を得にくくなる。反対に、所定の変性量を超えると、接着性は飽和する。したがって、例えば、酸による変性量を、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の全体を100質量%とした場合の0.01質量%以上、0.3質量%以上、1.6質量%以下にすると好適である。酸による変性量は、例えば、赤外線吸収スペクトル法により測定することができる。
【0029】
酸としては、例えば、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる一種以上を用いることができる。具体的には、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸(エンド-シス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)などの不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、塩化マレニル、マレイミド、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等の酸無水物、ハライド、アミド、イミド、エステルなどが挙げられる。なかでも、マレイン酸、フタル酸、無水マレイン酸などにより変性された酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂を含む場合、金属、ゴムなどの表面に対する濡れ性が向上するため、接着性がより向上する。
【0030】
オレフィン系熱可塑性樹脂は、オレフィンのホモ重合体、オレフィンの共重合体、およびオレフィンとオレフィン以外の物との共重合体を含む。具体的には、オレフィンのホモ重合体には、炭素数が2~20の単一の不飽和オレフィンからなる重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなど)が含まれる。オレフィンの共重合体には、炭素数が2~20の不飽和もしくは多重不飽和炭化水素の一種以上からなる重合体が含まれる。例えば、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、エチレン/オクテン共重合体、エチレン/スチレン共重合体、エチレン/ブテン/オクテン共重合体、エチレン/プロピレン/ノルボルナジエン共重合体、プロピレン/ブテン共重合体などが挙げられる。オレフィン以外の物(オレフィン(原則としてエチレン)と共重合し得る物)には、酢酸ビニル、炭素数が1~20のアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル、不飽和無水物(例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、不飽和酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸など)が含まれる。オレフィンとオレフィン以外の物との共重合体としては、エチレン/酢酸ビニル、エチレン/アクリル酸メチル、エチレン/アクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0031】
基材と架橋ゴム部材との接着温度、複合部材の使用環境などを考慮すると、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の融点は、70℃以上170℃以下であることが望ましい。例えば、融点が70℃以上140℃以下の熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレンから選ばれる一種以上を採用することが望ましい。
【0032】
酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂は、粉末の状態で用いられる。接着性、後述するシランカップリング剤含有液における分散性などを考慮すると、粉末の平均粒子径は、10μm以上200μm以下であることが望ましい。
【0033】
(B)シランカップリング剤含有液
シランカップリング剤含有液は、シランカップリング剤および溶剤を有する。シランカップリング剤は、官能基としてアミノ基、ビニル基、エポキシ基から選ばれる一つ以上の官能基を有する化合物群の中から、接着性などを考慮して適宜選択すればよい。シランカップリング剤としては、一種類を単独で、または二種類以上を混合して用いることができる。あるいは、二種類以上のシランカップリング剤が共重合された共重合オリゴマーを用いてもよい。
【0034】
共重合オリゴマーとしては、次の(a)の親水性官能基と(b)の疎水性官能基とを有し、分子1モル中に含まれる疎水性官能基の物質量Mbモルに対する親水性官能基の物質量Maモルの比率(Ma/Mb)が0.33~3.00であるものが好適である。
(a)シラノール基、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、ウレイド基、カルボキシ基、およびヒドロキシ基からなる群から選ばれる一種以上であり、少なくともシラノール基またはアルコキシ基を含む。
(b)ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、メチル基、エチル基、スチリル基、フェニル基、およびメルカプト基からなる群から選ばれる一種以上。
【0035】
シランカップリング剤における親水性官能基および疎水性官能基を、(a)および(b)に示される特定の官能基とし、そのモル比を特定の割合にすることにより、接着剤層の接着性、耐水性、耐酸性を向上させることができる。このうち、疎水性官能基は、疎水性を付与することにより接着剤層への水の浸入を防ぎ、耐水性、耐酸性の向上に寄与する。親水性官能基は、基材や、架橋ゴム部材中の成分(カーボンブラックなど)と反応して、接着性に寄与する。例えば、(a)の官能基を有するシランカップリング剤と、(b)の官能基を有するシランカップリング剤と、をオリゴマー化反応させて、共重合オリゴマーを製造すればよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0036】
(a)の親水性官能基を有するシランカップリング剤のうち、シラノール基、アルコキシ基以外の親水性官能基をも有するシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3-カルボキシプロピルトリエトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好適である。
【0037】
(b)の疎水性官能基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)マレイミド、N-(トリエトキシシリルプロピル)マレイミド、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)マレイミド、N-(トリエトキシシリルプロピル)マレイミドが好適である。
【0038】
オリゴマー化反応には、(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤1.0モルに対し、疎水性官能基を有さないが(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤0.5~2.0モルを用いればよい。また、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤および(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤の合計1モルに対し、加水分解用の水0.2~5.0モルを用いればよい。なお、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤のうち、シラノール基、アルコキシ基以外の親水性官能基をも有するシランカップリング剤は、必ずしも用いなくてよい。
【0039】
オリゴマー化反応は、まず、各シランカップリング剤を蒸留装置および撹拌機を有する反応器内に仕込み、約60℃で約1時間撹拌する。次に、(a)に示す親水性官能基を有するシランカップリング剤および(b)に示す疎水性官能基を有するシランカップリング剤の合計1モルに対し、ギ酸などの酸約0.5~2.0モルを1時間以内に添加する。この際の温度は、約65℃に保たれる。さらに1~5時間撹拌し、反応を進行させると共に、加水分解によって生成したアルコールを減圧下で蒸留する。蒸留水が水しか存在しなくなった時点で蒸留を終了させ、その後シラン濃度が30~80質量%になるように希釈すればよい。このようにして得られる共重合オリゴマーは、メタノール、エタノールなどのアルコール系有機溶媒に可溶なオリゴマーである。共重合オリゴマーは、液状組成物を塗布する際の成膜性、耐水性、耐酸性を高める観点から、3量体以上のものが望ましい。
【0040】
シランカップリング剤含有液の溶剤は、シランカップリング剤を溶解可能なものであれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2-エトキシエタノール(エチレングリコールモノエチルエーテル)などのアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤などが挙げられる。シランカップリング剤含有液におけるシランカップリング剤の濃度は、接着性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、溶剤希釈後のシランカップリング剤の濃度は、0.5質量%以上25質量%以下であることが望ましい。
【0041】
共重合オリゴマーと溶剤とを有するシランカップリング剤含有液として、市販されている製品を使用してもよい。例えば、ロード・コーポレーション製の「CHEMLOK(登録商標)607」(共重合オリゴマー1モルに含まれる親水性官能基と疎水性官能基とのモル比(Ma/Mb)は3.17)、「CHEMLOK5151」(同モル比は1.13)、ダウ・ケミカル社製の「MEGUM(登録商標)3290(同モル比は2.70)、信越化学工業(株)製の「X-12-1048」(同モル比は3.00)、「KR-513」(同モル比は0.49)などが挙げられる。
【0042】
液状組成物における(A)と(B)との質量比は、(A):(B)=2:98~20:80とする。すなわち、液状組成物の全体を100質量部とした場合、(A)の含有量は、2質量部以上20質量部以下である。(A)の含有量が2質量部より少ないと、接着時間の短縮効果が小さくなる。反対に、20質量部より多いと、粉末の分散状態が悪くなり液状組成物を調製することが難しくなる。
【0043】
液状組成物は、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末およびシランカップリング剤含有液以外の成分を含んでいてもよい。例えば、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニル樹脂などの粉末を含む場合には、基材に対する密着性が高くなると共に、疎水性が付与されるため、接着剤層の耐水性、耐酸性が向上する。
【0044】
<複合部材の製造方法>
前述した本開示の複合部材は、基材および架橋ゴム部材の少なくとも一方に所定の液状組成物を塗布、乾燥した後、両者を積層し、加熱および加圧して製造することができる。好適な製造方法の一例として、本開示の複合部材の製造方法は、液状組成物塗布工程と、接着工程と、を有する。以下に各工程を順に説明する。
【0045】
[液状組成物塗布工程]
本工程においては、基材に液状組成物を塗布し乾燥させる。液状組成物は、シランカップリング剤含有液に酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末などを投入し、撹拌して調製すればよい。塗布には、刷毛塗りの他、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、ロールコーターなどの塗工機や、スプレー(ディスペンサー)などを使用すればよい。塗布後は、室温にて自然乾燥するか、必要に応じて加熱して乾燥し、溶剤を蒸発させればよい。
【0046】
[接着工程]
本工程においては、基材の液状組成物の塗布面に架橋ゴム部材を配置して積層体とし、該積層体を加熱および加圧して架橋ゴム部材を基材に接着させる。本工程は、プレス機、ボンディングマシーンなどを用いて行えばよい。加熱および加圧時間(接着時間)は、60秒未満でよく、30秒以下、さらには15秒以下でよい。生産性を考慮すると、5秒以上10秒以下が好適である。加熱温度は、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の融点などを考慮して適宜決定すればよく、例えば、160℃以上200℃以下にすればよい。加圧する際の圧力は、接着性および架橋ゴム部材の破壊抑制などを考慮して、架橋ゴム部材の圧縮率が10%以上30%以下の範囲になるよう調整するとよい。架橋ゴム部材の圧縮率は、非圧縮状態の架橋ゴム部材の厚さに対する圧縮された部分の厚さの割合を示すものであり、分次式(I)により算出される。
圧縮率(%)=(1-H/H)×100・・・(I)
[H:非圧縮状態の架橋ゴム部材の厚さ、H:圧縮状態の架橋ゴム部材の厚さ]
[その他の工程]
シランカップリング剤による結合を促進し、耐水性、特に高温下における耐水性を向上させるという観点から、接着工程を終えた積層体をさらに所定の温度で加熱保持する工程を加えてもよい。すなわち、本開示の複合部材の製造方法は、接着工程の後、積層体を加圧しない状態で70℃以上の温度下で24時間以上保持する追加硬化工程を有することが望ましい。
【実施例0047】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。基材と架橋ゴム部材とが種々の接着剤層により接着された複合部材のサンプルを製造し、接着性、シール性、および形状保持性を評価した。
【0048】
<複合部材サンプルの製造>
基材には、ステンレス鋼板(SUS316L)を使用した。架橋ゴム部材は、次のようにして製造した。まず、ゴム成分のEPDM(住友化学(株)製「エスプレン(登録商標)505」、)100質量部と、架橋剤のジアルキルパーオキサイド(日油(株)製「パーヘキサ(登録商標)25B-40」)6質量部と、可塑剤のパラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380」)20質量部と、補強剤のカーボンブラック(東海カーボン(株)製「シースト(登録商標)S」)50質量部と、をバンバリーミキサーおよびオープンロールを用いて混練することにより、ゴム組成物を調製した。次に、調製したゴム組成物を170℃下で10分間保持して架橋した。そして、得られた架橋ゴムを評価試験に応じた形状および大きさで切り出して、架橋ゴム部材とした。
【0049】
[実施例1]
次の四つの工程により、実施例1の複合部材サンプルを製造した。
【0050】
(1)液状組成物調製工程
酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末(A)をシランカップリング剤含有液(B)に投入、撹拌して、接着剤層を形成するための液状組成物を調製した。(A)と(B)との配合比は、質量比で2:98とした。(A)としては、東洋紡(株)製「ハードレン(登録商標)PMA-F2」を使用した。「ハードレンPMA-F2」は、酸変性ポリプロピレンを含み、融点は125℃、平均粒子径は20~100μmである。(B)としては、ロード・コーポレーション製「CHEMLOK(登録商標)607」を使用した。「CHEMLOK607」は、シランカップリング剤であるγ-アミノプロピルトリエトキシシランとビニルトリエトキシシランとの共重合オリゴマーを含み、親水性官能基としてシラノール基、アルコキシ基、およびアミノ基、疎水性官能基としてビニル基を有する。
【0051】
(2)液状組成物塗布工程
評価試験に応じた形状、大きさの基材の表面における所定領域に、調製した液状組成物を刷毛で塗布し、室温下で30分間静置して自然乾燥させた。
【0052】
(3)接着工程
基材の液状組成物の塗布面に、製造した架橋ゴム部材を配置して積層体とし、この積層体をプレス機の上板と下板との間に設置した。上板および下板は予め170℃に温調されており、両板で積層体を挟み、架橋ゴム部材の圧縮率が30%になるように加圧した状態で10秒間保持した。
【0053】
(4)追加硬化工程
積層体をプレス機から取り出した後、加圧しない状態で95℃のオーブンに入れ、24時間保持した。その後オーブンから取り出して、室温下で自然冷却した。このようにして、基材と架橋ゴム部材とが、接着剤層を介して一体化された複合部材サンプルを製造した。
【0054】
[実施例2]
液状組成物調製工程において、(A)と(B)との配合比を質量比で10:90に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の複合部材サンプルを製造した。
【0055】
[実施例3]
液状組成物調製工程において、(A)と(B)との配合比を質量比で20:80に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3の複合部材サンプルを製造した。
【0056】
[実施例4]
液状組成物調製工程において、(B)としてロード・コーポレーション製「CHEMLOK(登録商標)5151」を使用し、(A)と(B)との配合比を質量比で10:90に変更した点(実施例2と同じ)以外は、実施例1と同様にして、実施例4の複合部材サンプルを製造した。「CHEMLOK5151」は、シランカップリング剤の共重合オリゴマーを含み、親水性官能基としてシラノール基およびアルコキシ基、疎水性官能基としてビニル基を有する。
【0057】
[実施例5]
液状組成物調製工程において、(A)と(B)との配合比を質量比で10:90に変更した点(実施例2と同じ)、および追加硬化工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして、実施例5の複合部材サンプルを製造した。
【0058】
[比較例1]
接着剤層を形成するために、液状組成物ではなくシランカップリング剤含有液(B)のみを用いた点、接着工程における加熱、加圧時間を60秒間にした点、および追加硬化工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の複合部材サンプルを製造した。
【0059】
[比較例2]
接着剤層を形成するために、液状組成物ではなくシランカップリング剤含有液(B)のみを用いた点、接着工程における加熱温度を50℃にして加熱、加圧時間を24時間にした点、および追加硬化工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして、比較例2の複合部材サンプルを製造した。
【0060】
[比較例3]
接着剤層を形成するために、液状組成物ではなく酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末(A)のみを用い、基材の表面に当該粉末をふりかけて、その上に架橋ゴム部材を配置した点、および追加硬化工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして、比較例3の複合部材サンプルを製造した。
【0061】
[比較例4]
液状組成物調製工程において、(A)と(B)との配合比を質量比で30:70に変更したところ、シランカップリング剤含有液(B)中で酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末(A)が凝集し、均一に分散させることができなかった。このため、液状組成物を調製できず、複合部材サンプルを製造するには至らなかった。
【0062】
<複合部材サンプルの評価>
[評価方法]
(1)接着性
JIS K6256-2:2013に規定される90°剥離試験を行い、複合部材サンプルにおける基材と架橋ゴム部材との接着性を評価した。90°剥離試験用の複合部材サンプルの仕様は次のとおりである。
基材:幅25mm、長さ60mm、厚さ1.5mmの矩形板状。
架橋ゴム部材:幅25mm、長さ125mm、厚さ1mmの矩形板状。
接着剤層:幅25mm、長さ25mmの正方形領域。
【0063】
90°剥離試験は、「初期」および「温水浸漬後」の二種類の複合部材サンプルについて行った。「初期」のサンプルは、サンプル製造後、室温下で放置したものであり、「温水浸漬後」のサンプルは、製造したサンプルを120℃の温水に100時間浸漬した後、取り出して室温下で放置したものである。温水浸漬後のサンプルの試験結果は、高温下での耐水性の良否を判断する指標になる。各々の試験において剥離状態を目視で観察し、材料破壊(架橋ゴム部材の切断)の場合を接着性良好(後出の表1中、○印で示す)、材料破壊であったが一部で界面破壊が見られた場合を接着性やや不良(同表中、△印で示す)、界面破壊の場合を接着性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0064】
(2)シール性
図1に、シール性を評価するために製造した複合部材サンプルの上面図を示す。図2に、図1のII-II断面図を示す。説明の便宜上、図1においては架橋ゴム部材にハッチングを施して示し、図2においては各部材の厚さを誇張して示す。図1図2に示すように、複合部材サンプル10は、基材11と、架橋ゴム部材12と、接着剤層13と、からなる。基材11は、一辺40mm、厚さ1mmの正方形薄板状を呈している。架橋ゴム部材12は、四角形枠状を呈し、基材11の上面の外周縁に沿って配置されている。架橋ゴム部材12の幅は2mm、厚さは1mmである。接着剤層13は、基材11と架橋ゴム部材12との間に配置されている。
【0065】
複合部材サンプルのシール性は、上板と下板とを備えるシール検査装置を用いて、次の手順で評価した。まず、複合部材サンプルを上板と下板との間に設置し、両板で架橋ゴム部材の圧縮率が25%になるように圧縮した。次に、架橋ゴム部材の枠内側に区画された領域に窒素ガスを供給し、枠内側の圧力がゲージ圧で400kPaになった時点でガスの供給を止め、枠内側に窒素ガスを封入した。この状態を1分間保持し、その間の枠内側の圧力値を測定した。そして、1分経過後の圧力降下量が1Pa以下の場合をシール性良好(後出の表1中、○印で示す)、圧力降下量が1Paより大きく2Pa未満の場合をシール性やや不良(同表中、△印で示す)、圧力降下量が2Pa以上の場合をシール性不良(同表中、×印で示す)と評価した。シール検査は、先の90°剥離試験と同様に、「初期」および「温水浸漬後」の二種類の複合部材サンプルについて行った。
【0066】
(3)形状保持性
複合部材を製造する場合、接着工程において、基材に塗布された液状組成物に架橋ゴム部材を重ねてプレスする。この際、架橋ゴム部材が位置ずれすると、架橋ゴム部材が変形するなどして所望の製品を得られないおそれがある。本実施例においては、シール性を評価した複合部材サンプルにおいて、架橋ゴム部材が所定の位置からどの程度位置ずれしたかを目視で確認した。そして、位置ずれがほとんどないものを形状保持性良好(後出の表1中、○印で示す)、多少の位置ずれが認められるものを形状保持性やや不良(同表中、△印で示す)、位置ずれが大きいものを形状保持性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0067】
[評価結果]
表1に、複合部材サンプルの構成、接着条件、および評価結果をまとめて示す。
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1~5のサンプルによると、接着工程の保持時間、すなわち接着時間が10秒という短時間であっても、接着性およびシール性の両方を満足する結果になった。実施例5のサンプルにおいては、温水浸漬後の接着性およびシール性がやや低下した。これは、追加硬化工程を行わなかったことにより、他の実施例のサンプルと比較して、高温下での耐水性が低下したためと考えられる。また、実施例1~5のサンプルにおいては、架橋ゴム部材の位置ずれはほとんど見られなかった。
【0069】
他方、比較例1、2のサンプルの接着剤層は、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂を含有しない。比較例1のサンプルにおいては、接着時間を60秒と長くしたにも関わらず、界面破壊となり接着性に劣る結果になった。また、接着性が低いため、シール性および形状保持性も充分ではなかった。比較例2のサンプルにおいては、接着性およびシール性の両方を満足したが、これは、接着時の加熱温度を50℃にして保持時間を24時間にしたからである。すなわち、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂を用いない場合、接着時間を非常に長くしないと、所望の接着性は得られないことが確認された。これに対して、比較例3のサンプルの接着剤層は、シランカップリング剤を含有しない。このため、温水浸漬後の接着性、シール性に劣る結果になった。さらに、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末のみを用いたため、接着工程において架橋ゴム部材が滑ってしまい、位置ずれが大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の複合部材は、例えば燃料電池、水素製造装置などに用いられるシール性を必要とする構成部材に有用である。
【符号の説明】
【0071】
10:複合部材サンプル、11:基材、12:架橋ゴム部材、13:接着剤層。
図1
図2