(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034864
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】アルコール飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141312
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】木添 博仁
(72)【発明者】
【氏名】内橋 康充
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA04
(57)【要約】
【課題】旨味を有しつつも、生臭さを低減することのできるアルコール飲料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】2,3,5-トリメチルピラジンを含む食品をアルコール含有液に添加し、食品に含まれる成分をアルコール含有液により抽出する工程と、抽出する工程の後に、前記アルコール含有液を蒸留し、留出液の少なくとも一部を回収する工程と、回収した留出液を用いて、アルコール飲料を調製する工程と、を有する、アルコール飲料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含む食品をアルコール含有液に添加し、前記食品に含まれる成分をアルコール含有液により抽出する工程と、
前記抽出する工程の後に、前記アルコール含有液を蒸留し、留出液の少なくとも一部を回収する工程と、
前記回収した留出液を用いて、アルコール飲料を調製する工程と、
を有する、アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記食品が、2,3,5-トリメチルピラジンを含む食品である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記食品が、天然物に由来する成分を含む食品である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記食品が、魚類に由来する成分を含む食品である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記食品が、カツオ節またはカツオ節エキスである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記回収する工程が、前記アルコール含有液を減圧蒸留する工程を含む、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記減圧蒸留する工程が、100mmHg~750mmHgの圧力下で実施される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール含有液が、原料用アルコールまたは焼酎である、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルコール飲料のアルコール度数が10%以上であり、
前記アルコール飲料の2,3,5-トリメチルピラジン濃度が、純アルコール換算で0.3ppb以上であり、
前記アルコール飲料のトリメチルアミン濃度が、純アルコール換算で500ppb以下である、
請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
アルコール度数が10%以上であり、
2,3,5-トリメチルピラジン濃度が、純アルコール換算で0.3ppb以上であり、
トリメチルアミン濃度が、純アルコール換算で500ppb以下である、
アルコール飲料。
【請求項11】
2,3,5-トリメチルピラジンと、トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質とを含むアルコール飲料における香味改善方法であって、
アルコール飲料の2,3,5-トリメチルピラジン濃度を、純アルコール換算で0.3ppb以上となるように調整する工程と、
前記アルコール飲料のトリメチルアミン濃度を、純アルコール換算で500ppb以下となるように調整する工程と、
前記アルコール飲料のアルコール度数を10%以上となるように調整する工程と、
を有する、アルコール飲料の香味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
居酒屋等では、カツオ節等の天然物の出汁を日本酒で割ったアルコール飲料が提供される場合がある。このようなアルコール飲料は、出汁による旨味を有する飲料となり、そのような旨味を好む消費者層に需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、出汁を使用したアルコール飲料には、生臭さが強く感じられる、という問題点があった。特に、カツオ節等の魚類には、生臭さの原因となるトリメチルアミンを生じさせる物質(以下、トリメチルアミン生成物質という)が含まれている。このため、カツオ節等の出汁を利用したアルコール飲料では、トリメチルアミンが発生し、その結果、香味が損なわれてしまう。
【0004】
従って、本発明の課題は、トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含む食品を使用しつつも、生臭さを低減することのできるアルコール飲料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の製造方法を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
[1]トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含む食品をアルコール含有液に添加し、前記食品に含まれる成分をアルコール含有液により抽出する工程と、前記抽出する工程の後に、前記アルコール含有液を蒸留し、留出液の少なくとも一部を回収する工程と、前記回収した留出液を用いて、アルコール飲料を調製する工程と、を有する、アルコール飲料の製造方法。
[2]前記食品が、2,3,5-トリメチルピラジンを含む食品である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記食品が、天然物に由来する成分を含む食品である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記食品が、魚類に由来する成分を含む食品である、[3]に記載の製造方法。
[5]前記食品が、カツオ節またはカツオ節エキスである、[4]に記載の製造方法。
[6]前記回収する工程が、前記アルコール含有液を減圧蒸留する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記減圧蒸留する工程が、100mmHg~750mmHgの圧力下で実施される、[6]に記載の製造方法。
[8]前記アルコール含有液が、原料用アルコールまたは焼酎である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記アルコール飲料のアルコール度数が10%以上であり、前記アルコール飲料の2,3,5-トリメチルピラジン濃度が、純アルコール換算で0.3ppb以上であり、前記アルコール飲料のトリメチルアミン濃度が、純アルコール換算で500ppb以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[11]アルコール度数が10%以上であり、2,3,5-トリメチルピラジン濃度が、純アルコール換算で0.3ppb以上であり、トリメチルアミン濃度が、純アルコール換算で500ppb以下である、アルコール飲料。
[12]2,3,5-トリメチルピラジンと、トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質とを含むアルコール飲料における香味改善方法であって、アルコール飲料の2,3,5-トリメチルピラジン濃度を、純アルコール換算で0.3ppb以上となるように調整する工程と、前記アルコール飲料のトリメチルアミン濃度を、純アルコール換算で500ppb以下となるように調整する工程と、前記アルコール飲料のアルコール度数を10%以上となるように調整する工程と、を有する、アルコール飲料の香味改善方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含む食品を使用しつつも、生臭さを低減することのできるアルコール飲料及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1:アルコール飲料の製造方法
まず、本発明の実施形態に係るアルコール飲料の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、概略的に、抽出工程(ステップS1)、蒸留工程(ステップS2)、及びアルコール飲料の調製工程(ステップS3)を備える。以下に、各ステップについて詳述する。
【0008】
(ステップS1)抽出
まず、食品として、トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含む食品を準備する。そして、準備した食品をアルコール含有液に添加し、食品に含まれる成分をアルコール含有液に抽出(移行)させる。
【0009】
食品としては、トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含むものであればよく、特に限定されない。尚、トリメチルアミン生成物質とは、アルコール含有液中でトリメチルアミンを発生させる物質を意味する。
トリメチルアミン又はトリメチルアミン生成物質を含む食品をアルコール飲料に使用すると、上述の通り、生臭さが問題となる。しかし、本実施形態によれば、蒸溜工程を経ることによって、トリメチルアミンの含有量を抑えることができ、生臭さを抑えることができる。
【0010】
好ましくは、食品は、2,3,5-トリメチルピラジンを含む。2,3,5-トリメチルピラジンは、香ばしさ(燻製香)に寄与する物質であり、カツオ節等の魚類由来物質に含まれている。2,3,5-トリメチルピラジンを含む食品を使用することにより、香ばしいアルコール飲料を得ることができる。
【0011】
好ましくは、食品は、天然物又は天然物のエキスである。天然物としては、魚類が好ましく挙げられる。魚類としては、カツオが挙げられる。好ましい一態様において、食品は、カツオ節又はカツオ節エキスである。カツオ節エキスとしては、例えば、アルコールによりカツオ節の成分を抽出したものが挙げられる。
【0012】
アルコール含有液としては、アルコール(エタノール)を含有する液であればよく、特に限定されない。好ましくは、アルコール含有液は、蒸留酒である。より好ましくは、アルコール含有液は、原料用アルコール又は焼酎である。焼酎としては、例えば、芋焼酎及び麦焼酎が挙げられる。
【0013】
アルコール含有液のアルコール度数は、例えば10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、例えば80%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは50%以下である。
【0014】
例えば、食品としてカツオ節等の固形物を用いるときには、食品をアルコール含有液に常温(例えば5~35℃、好ましくは20~30℃)で浸漬させる。浸漬時間は、例えば5~72時間、好ましくは10~48時間である。食品は、例えば、アルコール含有液1000mlに対して、5~100g、好ましくは10~60gの量で、浸漬させられる。
【0015】
(ステップS2)蒸留
続いて、アルコール含有液を蒸留し、留出液の少なくとも一部を回収する。回収した留出液は、食品由来の旨味を大きく損なうことなく、生臭さが感じられ難い液となる。また、留出液には、香ばしさが付与される。
【0016】
例えば、ステップS1において食品としてカツオ節等の魚類を使用した場合には、アルコール含有液には、香ばしさに寄与する2,3,5-トリメチルピラジンが含まれる一方で、生臭さの原因となるトリメチルアミン生成物質も含まれることになる。これに対して、ステップS2において蒸留を行うことにより、2,3,5-トリメチルピラジンの濃度をある程度維持したまま、トリメチルアミン濃度を下げることができる。その結果、香ばしい香りを維持しつつも、生臭さを減らすことができる。
【0017】
蒸留は、好ましくは、減圧蒸留で行われる。減圧蒸留を行った場合、常圧蒸留の場合と比べて、生臭さをより抑えることが可能になる。
減圧蒸留を行う場合の圧力は、例えば100mmHg~750mmHg、好ましくは100~300mmHgである。
減圧蒸留は、直接加熱方式で行ってもよいし、間接加熱方式で行ってもよいが、好ましくは間接加熱方式で行われる。
【0018】
蒸留による留出液は、全てを回収してもよいし、一部を回収してもよい。
好ましくは、留出液の一部が回収される。留出液中のアルコール度数は、通常、蒸留開始後に、時間経過とともに低下していく。そこで、留出開始から、留出している液中のアルコール度数(留出開始後から積算した全留出液についてのアルコール度数ではなく、現に流出している液中のアルコール度数を意味する)が所定の値になるまでの間の留出液を回収することが好ましい。ここでの「所定の値」は、例えば20~40%、好ましくは25~35%である。
【0019】
(ステップS3)アルコール飲料の調製
続いて、ステップS2において回収した留出液を用いて、アルコール飲料を調製する。
【0020】
具体的には、ステップS2において回収した留出液をそのままアルコール飲料として使用してもよいし、回収出した留出液に加水などを行って成分濃度を調整してもよい。
【0021】
一態様では、所望のアルコール度数となるように、回収した留出液に水が加えられ、目的のアルコール飲料が得られる。得られるアルコール飲料のアルコール度数は、例えば10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、例えば60%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下である。
【0022】
なお、必要に応じて、回収した留出液にその他の成分が添加されてもよい。
調製されたアルコール飲料は、容器に充填され、密封され、容器詰め飲料として提供されることが好ましい。
【0023】
2:アルコール飲料
以上説明した方法により、アルコール飲料が調製される。既述のように、本実施形態に係る製造方法によれば、生臭さの原因となるトリメチルアミン又はその生成物質を含む食品(例えば、魚類由来成分を含む食品)を使用した場合であっても、生臭さを抑えた飲料を得ることができる。
【0024】
加えて、食品が2,3,5-トリメチルピラジン等の香ばしさに寄与する成分を含む場合、そのような成分は維持される。従って、生臭さを抑えつつも、食品由来の好ましい風味が維持された飲料を得ることができる。
【0025】
例えば、食品としてカツオ節又はカツオ節エキス等を用いた場合、本実施形態に係る製造方法を用いることにより、純アルコール換算でのトリメチルアミン濃度が500ppb以下であり、純アルコール換算での2,3,5-トリメチルピラジン濃度が0.3ppb以上であるアルコール飲料を得ることができる。
【0026】
尚、「純アルコール換算」とは、液のアルコール度数を100%に換算した場合の成分濃度を示す。例えば、アルコール飲料のアルコール度数が50%であり、2,3,5-トリメチルピラジンの実濃度が0.1ppbであった場合、このアルコール飲料の「純アルコール換算での2,3,5-トリメチルピラジン濃度」は、0.2ppbとなる。
【0027】
純アルコール換算でのトリメチルアミン濃度が500ppb以下であることにより、生臭さを感じにくくさせることができる。純アルコール換算でのトリメチルアミン濃度は、好ましくは400ppb以下である。
【0028】
また、純アルコール換算での2,3,5-トリメチルピラジン濃度が0.3ppb以上であれば、十分な香ばしさを得ることができる。純アルコール換算での2,3,5-トリメチルピラジン濃度は、好ましくは0.4ppb以上、より好ましくは0.9ppb以上である。また、純アルコール換算での2,3,5-トリメチルピラジン濃度は、例えば10.0ppb以下、好ましくは5.0ppb以下、より好ましくは3.5ppb以下である。
【0029】
なお、本実施形態は、アルコール飲料の2,3,5-トリメチルピラジン濃度を、純アルコール換算で0.3ppb以上となるように調整する工程と、アルコール飲料のトリメチルアミン濃度を、純アルコール換算で500ppb以下となるように調整する工程と、アルコール飲料のアルコール度数を10%以上となるように調整する工程と、を有する、アルコール飲料の香味向上方法であるともいえる。
【実施例0030】
以下に、本発明をより詳細に説明するため、発明者らにより行われた実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0031】
表1及び表2に記載の条件に従って、比較例1及び実施例1~6に係るアルコール飲料を調製した。具体的には、以下の方法により、各アルコール飲料を調製した。
(比較例1)
アルコール液(アルコール度数38%の原料用アルコール)100mlに対し、3gのカツオ節エキスを加え、撹拌した。得られたアルコール飲料液を、比較例1とした。
【0032】
(実施例1)
アルコール液(アルール度数38%の原料用アルコール)1500mlに対して45gのカツオ節を加え、常温で24時間浸漬した。その後、常圧条件下では蒸気吹込式により蒸留を行った。留出開始から、現に留出している液のアルコール度数が30%にまで低下した段階までの留出液を回収した。回収した留出液に加水し、アルコール度数を45%になるように調整した。得られた液を、実施例1に係るアルコール飲料とした。
【0033】
(実施例2)
アルコール液(アルール度数38%の原料用アルコール)100mlに対して3gのカツオ節エキスを加えた。次いで、アルコール液を、減圧条件下(160mmHg)で間接加熱によって蒸留した。留出開始から、現に留出している液のアルコール度数が30%にまで低下した段階までの留出液を回収した。回収した留出液に加水し、アルコール度数を45%になるように調整した。得られた液を、実施例2に係るアルコール飲料とした。
【0034】
(実施例3)
アルコール液(アルール度数38%の原料用アルコール)1500mlに対して45gのカツオ節を加え、常温で24時間浸漬した。次いで、アルコール液を、減圧条件下(160mmHg)で間接加熱によって蒸留した。留出開始から、現に留出している液のアルコール度数が30%にまで低下した段階までの留出液を回収した。回収した留出液に加水し、アルコール度数を45%になるように調整した。得られた液を、実施例3に係るアルコール飲料とした。
【0035】
(実施例4)
アルコール液として、アルコール度数38%の芋焼酎を使用した。その他の点は実施例2と同様にして、実施例4に係るアルコール飲料を得た。
【0036】
(実施例5)
アルコール液として、アルコール度数38%の芋焼酎を使用した。その他の点は実施例3と同様にして、実施例5に係るアルコール飲料を得た。
【0037】
(実施例6)
アルコール液として、アルコール度数30%の麦焼酎を使用した。その他の点は実施例2と同様にして、実施例6に係るアルコール飲料を得た。
【0038】
比較例1及び実施例1~6に係る飲料について、官能検査を行った。また、2,3,5-トリメチルピラジン濃度及びトリメチルアミン濃度を測定した。具体的には、以下の方法により、官能検査及び成分濃度測定を行った。
【0039】
<官能検査>
得られた各アルコール飲料について、蒸留酒パネリスト6名により、官能評価を行った。官能評価は、香ばしさ(燻製香)の強さ、生臭さの強さ、旨味感、及び香味のバランスについて行った。
【0040】
なお、「香ばしさ(燻製香)の強さ」については、1(弱い)~5(強い)の5段階で実施した。尚、基準としては、「アルコール度数38%の芋焼酎」、及び比較例1を用いた。すなわち、「アルコール度数38%の芋焼酎」の評点を「1」とし、比較例1の評点を「5」と定めて、評価した。
【0041】
また、「生臭さ」についても、1(弱い)~5(強い)の5段階で実施した。アルコール度数38%の芋焼酎の評点を「1」とし、比較例1の評点を「5」と定めて、評価した。
【0042】
「旨味感」については、1(弱い)~5(強い)の5段階で評価した。
【0043】
「香味のバランス」については、1(悪い)~5(良い)の5段階で評価した。
【0044】
<2,3,5-トリメチルピラジン濃度の測定>
また、各アルコール飲料について、以下の方法により、2,3,5-トリメチルピラジン濃度を測定した。
サンプル20mLを秤取し、内部標準混合液(2-methyl-3-propylpyrazine 1.0mg/L, 13C 2-acetyl-1-pyrroline;1.2mg/L)を、200μlの量で添加した。メタノール、ミリQ水で順次コンディショニングした陰イオン交換カラム(InertSep SAX 2 g/12 mL GL サイエンス社製)に試料をロードし、素通り液を回収した。素通り液20gに1Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)を用いてpH 4.5~5.0 に合わせた。そこにジクロロメタン5mLとNaCl5gを添加し、10分間振とう抽出200rpm)した。その後、10分間遠心分離(3000rpm)し、下層のジクロロメタン層を回収した。この操作を2回繰り返した。回収したジクロロメタン画分に無水硫酸ナトリウム5gを加えて脱水した。その後、窒素気流下にて100~300μlまで濃縮し、GC/MS分析へ供した。GC/MSの条件は以下の通りとした。定量は、標準品を添加して作成した検量線を使用して行った。
・ガスクロマトグラフィー:
GC 6890 Agilent Technologies
・検出器:
MS 5973 Agilent Technologies
・カラム:
DB 17 (長さ30m、内径:0.25mm、膜厚0.5μm Agilent Technologies)
・オーブン昇温条件:
40℃(5分)→5℃/分→220℃(0分)→10℃/分→280℃(5分)
・注入口温度:230℃
・注入条件:注入量:
1μl、パルスドスプリットレスモード
・流量:
1.0ml/分(キャリアガス:He)
・イオン化条件:70eV
・測定モード:シングルイオン-モニタリングモード(single ion monitoring(SIM)mode)
【0045】
<トリメチルアミン濃度の測定>
また、各アルコール飲料について、以下の手順に従って、トリメチルアミン濃度を測定した。
試料を固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフ質量分析法(SPME-GC/MS)で測定した。定量は、標準品を添加して作成した検量線を使用して行った。
・カラム:アミン分析用カラム
・カラム恒温槽温度:40℃(3min)-10℃/min-150℃-20℃/min-240℃(2min)
【0046】
(結果について)
結果を表1及び表2に示す。
【0047】
比較例1では、旨味感があるものの生臭さも強く、香味のバランスは悪かった。
一方、実施例1~6は、比較例1に比べると、生臭さが低下し、香ばしさが増加する傾向にあった。また、旨味感についても低下する傾向にあったが、対照である「アルコール度数38%の芋焼酎(評点1)よりは旨味感が大きかった。そして、香味のバランスは、実施例1~6の方が比較例1よりも大きかった。すなわち、蒸溜を行うことによって、旨味感を大きく損なうことなく、生臭さを取り除くことができ、香ばしさを高めることができ、香味のバランスを改善できることが判る。
【0048】
実施例1と実施例2~6(特に実施例3)と比べると、実施例2~6の方が生臭さが大きく低下していた。その結果、香味バランスがより改善されていた。このことから、常圧蒸溜ではなく減圧蒸留を用いることにより、生臭さをより減らすことができることが判る。
【0049】
また、実施例4~6は、実施例2~3と同様に、旨味感を大きく損なうことなく、生臭さが抑えられ、香ばしさが高められていた。従って、原料用アルコールではなく、焼酎を使用した場合も、蒸溜を行うことによる効果が得られることが判った。
【0050】
比較例1に比べて、実施例1~6では、生臭さの原因であるトリメチルアミン濃度が大幅に減っていた。2,3,5-トリメチルピラジン濃度についても減っていたが、トリメチルアミン濃度に比べると、その減少度合いは少なかった。
具体的には、実施例1~6では、2,3,5-トリメチルピラジン濃度が、純アルコール換算で0.3ppb以上であり、トリメチルアミン濃度が、純アルコール換算で200ppb以下であった。
【0051】