(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034871
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】口腔細胞内歯周病菌殺菌用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/35 20060101AFI20230306BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230306BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20230306BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230306BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
A61K8/35
A61Q11/00
A61K31/122
A61P1/02
A61P31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141320
(22)【出願日】2021-08-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】有田 卓矢
【テーマコード(参考)】
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AD551
4C083AD552
4C083BB55
4C083CC41
4C083DD27
4C083EE33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB21
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA77
4C206NA14
4C206ZA67
4C206ZB35
(57)【要約】
【課題】口腔細胞へ侵入した歯周病菌を殺菌する手法の提供。
【解決手段】ヒノキチオールを有効成分として含有する、口腔細胞内に存在する歯周病菌を殺菌するための組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオールを有効成分として含有する、口腔細胞内、又は口腔細胞により構成される組織内に存在する歯周病菌を殺菌するための組成物。
【請求項2】
ヒノキチオール含有濃度が50ppm以上2000ppm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
口腔用組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
口腔細胞内にPorphyromonas gingivalisが存在する対象のための、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
口腔細胞が歯肉上皮細胞である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、口腔細胞内に存在する歯周病菌を殺菌するための組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
歯周病は細菌(歯周病菌)の感染によって引き起こされる炎症性疾患であり、このため歯周病の予防又は治療のために重要な要因の一つとして、歯周病菌の活動を抑制することが挙げられる。このため、歯周病菌の殺菌又は抑制を目的に、数多くの口腔用組成物が研究開発されてきている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-111732号公報
【特許文献2】特開2020-019724号公報
【特許文献3】特開2020-019725号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Periodontal Res. 2021 Jul 13. doi: 10.1111/jre.12915.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯周病菌であるP. gingivalisは、細胞(特に歯肉上皮細胞)に侵入することが知られている。侵入したP. gingivalisは、強力な細胞傷害性を発揮する。侵入したP. gingivalisの幾分かはリソソームで分解されるが、この分解経路から回避するため細胞内でオートファジーを誘導する。これにより、P. gingivalisはオートファゴソームに取り込まれるが、このオートファゴソーム内で細胞内の分解反応から逃れ、増殖し、細胞傷害性を発揮するのである(非特許文献1)。さらには細胞内に侵入した菌の半数近くは初期エンドソームからrecycling pathwayを経由して細胞外に出て、周囲の細胞に再侵入する。このため、P. gingivalisは細胞間を往来し・生き長らえ・増殖し・感染を続けるのである(例えば次のウェブページを参照:http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~prevent/research01.html)。
【0006】
この歯肉上皮細胞内への歯周病菌の侵入は、上記の為害作用に加え、殺菌剤からの逃避につながる。すなわち、殺菌又は抑制効果を奏する有効成分を含有する口腔用組成物を口腔内に適用しても、この有効成分が細胞内に侵入している歯周病菌まで到達し難く、このために、歯周病菌を殺菌又は抑制することが難しくなる。このため、歯周病菌が細胞に侵入するのを抑制する手段が検討されている(特許文献2、3)。
【0007】
今回、本発明者らは、歯肉上皮細胞内へ侵入した歯周病菌を殺菌する手法について、検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヒノキチオールが、歯肉上皮細胞内へ侵入した歯周病菌(すなわち歯肉上皮細胞内に存在する歯周病菌)に対して優れた殺菌効果を奏することを見いだし、さらに改良を重ねた。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ヒノキチオールを有効成分として含有する、口腔細胞内、又は口腔細胞により構成される組織内に存在する歯周病菌を殺菌するための組成物。
項2.
ヒノキチオール含有濃度が50ppm以上2000ppm未満である、項1に記載の組成物。
項3.
口腔用組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
口腔細胞内にPorphyromonas gingivalisが存在する対象のための、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
口腔細胞が歯肉上皮細胞である、項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
口腔細胞へ侵入した歯周病菌を効率よく殺菌することで細胞内を浄化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】歯肉上皮細胞に侵入したP.g菌を、各種素材が殺菌できるかを検討した結果を示す。
【
図2】歯肉上皮細胞に侵入したP.g菌を、各濃度のヒノキチオールが殺菌できるかを検討した結果を示す。
【
図3】P.g菌を、各濃度のヒノキチオールが殺菌できるかを検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、口腔細胞内に存在する歯周病菌を殺菌するための組成物(口腔細胞内歯周病菌殺菌用組成物)等を好ましく包含するが、これに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0013】
本開示に包含される口腔細胞内歯周病菌殺菌用組成物は、ヒノキチオールを有効成分として含有する。本開示に包含される当該組成物を「本開示の組成物」ということがある。
【0014】
ヒノキチオールは、以下の式:
【0015】
【0016】
で表される化合物である。本開示の組成物に用いられるヒノキチオールは、合成品であってもよく、また天然物(例えばヒバ)から抽出されたものであってもよい。
【0017】
本開示の組成物におけるヒノキチオール含有量は、効果が奏される範囲であれば、特に限定はされない。例えば、本開示の組成物には、ヒノキチオールが50~2000ppm程度含有されることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は例えば60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、又は1950ppmであってもよい。例えば当該範囲は60~1500ppmであってもよい。特に限定はされないが、口腔細胞内に存在する歯周病菌を殺菌する効果がより一層強く奏されるという観点から、ヒノキチオール含有量は、300ppmであることが特に好ましい。また、特に限定はされないが、ヒノキチオールにより口腔細胞が大きく傷害されるのを避けるという観点から、ヒノキチオール含有量は、1000ppm未満が特に好ましく、中でも800、750、又は700ppm以下であることが好ましい。
【0018】
ヒノキチオールは、殺菌剤として知られている成分ではあるが、直接歯周病菌に作用させた場合に殺菌作用を示す量(濃度)よりも、相当に低い量(濃度)で、口腔細胞内や、口腔細胞により構成される組織(特に歯周組織)内に存在する歯周病菌を殺菌する効果を奏することができる。
【0019】
本開示の組成物は、口腔用組成物として好ましく用いられる。また、特に歯周病の予防又は治療用として好ましく用いられる。すなわち、本発明に包含される組成物の特に好ましい一形態は抗歯周病口腔用組成物である。
【0020】
口腔細胞としては、特に限定はされないが、歯肉上皮細胞が特に好ましい。歯周病菌が侵入しダメージを受けやすいのが歯肉上皮細胞であるからである。
【0021】
なお、本開示の組成物が特に有効な歯周病菌としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えばPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)が好ましく挙げられる。
【0022】
また、本開示組成物の適用対象としては、口腔細胞内に歯周病菌が侵入している(すなわち、口腔細胞内に歯周病菌が存在する)対象が好ましい。また、ヒトを含む哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ヒツジ、ウマ、ウシ、サル等)に好ましく用いることができ、特にヒトが好ましい
【0023】
本開示の組成物は、例えば、固形組成物、液体組成物等で有り得る。また、本開示の組成物は、本開示の組成物(特に口腔用組成物)は、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0024】
本開示の組成物には、効果を損なわない範囲で、例えば口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0025】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;グリセリン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8~10、アルキル基の炭素数が13~15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10~18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N-ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1~5質量%である。
【0026】
また、香味剤として、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して例えば0.001~1.5質量%配合することができる。
【0027】
また、甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。これらは、組成物全量に対して例えば0.01~1質量%配合することができる。
【0028】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0029】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウムなどのセルロース誘導体、キサンタンガムなどの微生物産生高分子、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、カラギーナン、デキストリン、寒天、ペクチン、プルラン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウムなどの天然高分子または天然ゴム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウムなどの合成高分子、増粘性シリカ、ビーガムなどの無機粘結剤、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースなどのカチオン性粘結剤が挙げられる。これら粘結剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0031】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0032】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は例えば0.01~2重量%であってよい。
【0033】
なお、本開示の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン系殺菌剤、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン系殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0034】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。
【0035】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0036】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0037】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、CO2濃度を示す%以外の%は質量%を示す。
【0038】
<P. gingivalisの培養>
106個/mLのPorphyromonas gingivalis OMZ314株(以下、P.g)を、10mL変法GAM培地を含む試験管に接種した。その後、37℃嫌気条件下で1日培養した(前培養)。
【0039】
前培養で得られた菌液1mLを新しい10mL変法GAM培地を含む試験管に移し、37℃嫌気条件下で1日培養した(本培養)。
【0040】
本培養で得られたP.g菌を10%FBS含有MEM培地にてO.D600=0.1に調整し、P.g菌液として試験に用いた。
【0041】
<歯肉上皮細胞の培養>
歯肉上皮細胞(Ca9-22株)を10%FBS含有MEM培地に懸濁し、2.0×105個/mLに調整した後、1mLずつ12ウェルプレートの各ウェルに分注し、37℃、5%CO2の条件下で1日培養し、試験に用いた。
【0042】
<供試素材溶液の調製>
供試素材としてヒノキチオール、銅クロロフィリンナトリウム(銅クロ)、トコフェロール酢酸エステル(VEA)、トコフェロールニコチン酸エステル(VEN)、ピリドキシン塩酸塩(VB6)を用いた。各素材について、1%エタノールを10%FBS含有MEM培地で溶解した溶液を溶媒とし、所定の濃度となる溶液を調製した。以下、各素材の溶液は、当該溶媒で溶解したものを示す。
【0043】
細胞内P. gingivalis殺菌検討(実験1)
歯肉上皮細胞の培養後、培地をP.g菌液に置換し、37℃、5%CO2条件下で2時間共培養し、P.g菌の歯肉上皮細胞への侵入を誘導した。培養2時間後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞内に侵入していないP.g菌を洗浄した上で、濃度100ppmに調整した各素材溶液1mLを歯肉上皮細胞に添加し、37℃、5%CO2の条件の下2時間培養した。培養2時間後、PBSで洗浄して、新鮮な10%FBS含有MEM培地に置換し、37℃、5%CO2の条件の下20時間培養した。培養20時間後、PBSで洗浄して、0.25%Trypsin-EDTA溶液200μLを37℃で5分間処理して、細胞を剥がし、その後、10%FBS含有MEM培地1.8mLで反応を停止させ、溶液を回収した。回収した溶液を血液寒天培地に播種し、37℃、嫌気条件で5日間培養し、寒天培地上に形成されたコロニーをカウントすることで、各素材の細胞内P.g菌の殺菌効果を評価した。
【0044】
結果を、コントロール(素材を用いずに溶媒だけを用いて同様に行った検討)でのコロニー数を細胞内P.g菌数100%としたときの相対値で、
図1に示す。ヒノキチオールが、歯肉上皮細胞に侵入したP.g菌を効率的に殺菌していることが分かった。
【0045】
細胞内P. gingivalis殺菌検討(実験2)
ヒノキチオールを異なる濃度で含む溶液を調製し、上記(実験1)と同様にして、ヒノキチオールの量(溶液濃度)によって、歯肉上皮細胞に侵入したP.g菌への殺菌効果が変化するかを検討した。結果を
図2に示す。(
図1と同様に、コントロール(ヒノキチオールを用いずに溶媒だけを用いて同様に行った検討)でのコロニー数を細胞内P.g菌数100%としたときの相対値で示す。)ヒノキチオールの濃度が、約40ppmを超えると、歯肉上皮細胞に侵入したP.g菌に対する殺菌効果が向上することがわかった。また、ヒノキチオールの濃度が、約300ppmを超えると、歯肉上皮細胞に侵入したP.g菌に対する殺菌効果が一段と向上することがわかった。
【0046】
P. gingivalis殺菌検討(実験3)
ヒノキチオールを異なる濃度で含む溶液を調製し、これに対し、1/10量のP.g菌液を添加し、37℃、嫌気条件下で2時間を培養した。その後、10倍量の殺菌剤不活化培地(変法GAM培地に0.07%レシチンと0.5%Tween 80を添加したもの)を加え、これを血液寒天培地に播種し、37℃、嫌気条件で5日間を培養した。その後、寒天培地上のコロニーを計算することでヒノキチオールを直接P.g菌に適用したときの殺菌効果を評価した。結果を、コントロール(ヒノキチオールを用いずに溶媒だけを用いて同様に行った検討)でのコロニー数をP.g菌数100%としたときの相対値で、
図3に示す。ヒノキチオールを直接P.g菌へ適用した場合、低い濃度では、ほとんど殺菌効果は得られず、2000ppm若しくはそれ以上の濃度でなければ殺菌効果は得られないことが分かった。
【0047】
以上の結果から、ヒノキチオールは、低い濃度であっても、細胞内に侵入した(すなわち、細胞内に存在する)P.g菌に対して特異的に高い殺菌効果を奏することが強く示唆された。