(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034892
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/10 20060101AFI20230306BHJP
B23B 51/08 20060101ALI20230306BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B23B51/10 B
B23B51/08 C
B23B51/00 L
B23B51/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141355
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】西尾 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 聡
(72)【発明者】
【氏名】三澤 直也
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037DD01
3C037EE00
3C037EE04
(57)【要約】
【課題】持替え動作がなくても孔開け加工と表裏両面の面取り加工とを行って、加工時間を短縮し、加工効率を向上させることができる切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具10は、ボディ11の先端に設けられた切れ刃14を有している。ボディ11において、切れ刃14よりも基端側には第1面取り刃32が設けられている。切れ刃14の回転による切削によって開けられた孔の裏面側の開口縁は、第1面取り刃32によって面取りされる。ボディ11において、第1面取り刃32よりも基端側には第2面取り刃34が設けられている。切れ刃14の回転による切削によって開けられた孔の表面側の開口縁は、第2面取り刃34によって面取りされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディの先端に設けられた切れ刃と、
前記ボディにおいて前記切れ刃よりも基端側に設けられ、前記切れ刃の回転による切削によって開けられた孔の裏面側の開口縁を面取りする第1面取り刃と、
前記ボディにおいて前記第1面取り刃よりも基端側に設けられ、前記切れ刃の回転による切削によって開けられた孔の表面側の開口縁を面取りする第2面取り刃と、
を備えたことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記切れ刃は、前記ボディに対して着脱可能に設けられたヘッド部に設けられ、
前記第1面取り刃は、前記ボディに対して着脱可能に設けられた第1切削インサートに設けられ、
前記第2面取り刃は、前記ボディに対して着脱可能に設けられた第2切削インサートに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1切削インサート及び前記第2切削インサートは、
複数の刃を有して当該複数の刃のうち一つの刃が面取り刃として用いられ、
前記複数の刃のうちすでに面取り刃として用いられた刃とは異なる刃を新たな面取り刃として変更可能に、前記ボディに対して着脱されることを特徴とする請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第1切削インサート及び前記第2切削インサートは同一の部品が用いられており、
前記部品は偏平な六角形状をなし、鈍角をなす各辺に刃が設けられた一対のV字状刃を有しており、
前記一対のV字状刃のうち一方のV字状刃が第1刃と第2刃とで形成され、他方のV字状刃が前記第1刃と平行をなす第3刃と前記第2刃と平行をなす第4刃とで形成されており、
前記第1刃及び前記第3刃が第1面取り刃用の刃として用いられ、
前記第2刃及び前記第4刃が第2面取り刃用の刃として用いられることを特徴とする請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記切れ刃の回転による切削によって生じた切り屑を排出する切り屑排出溝が、前記ボディの先端から基端側に向かって延びており、
前記第1面取り刃及び前記第2面取り刃の回転による切削によって生じた切り屑は、前記切り屑排出溝から排出されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の板状部分に孔開け加工する場合、孔開け時に生じたバリを取ったり、孔にボルトを挿入しやすくしたりするため、表裏両面の開口縁に面取り加工されることがある。面取り加工は、従来、切れ刃と表面側の面取り刃とを備えた第1切削工具(例えば特許文献1参照)と、裏面側の面取り刃を備えた第2切削工具とが用いられていた。マシニングセンタ等の工作機械では、まず第1切削工具をセットして切れ刃による孔開けと表面側の面取り刃による表面側の開口縁を面取りし、続いて第1切削工具から第2切削工具に持ち替え、裏面側の開口縁を面取りしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2本の切削工具を用いて加工する場合、持ち替え動作を行う時間が必要となり、その分だけ加工時間が増え、加工効率が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、持替え動作がなくても孔開け加工と表裏両面の面取り加工とを行って、加工時間を短縮し、加工効率を向上させることができる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、第1の発明の切削工具は、
ボディの先端に設けられた切れ刃と、
前記ボディにおいて前記切れ刃よりも基端側に設けられ、前記切れ刃の回転による切削によって開けられた孔の裏面側の開口縁を面取りする第1面取り刃と、
前記ボディにおいて前記第1面取り刃よりも基端側に設けられ、前記切れ刃の回転による切削によって開けられた孔の表面側の開口縁を面取りする第2面取り刃と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
第2の発明の切削工具は、第1の発明の切削工具において、
前記切れ刃は、前記ボディに対して着脱可能に設けられたヘッド部に設けられ、
前記第1面取り刃は、前記ボディに対して着脱可能に設けられた第1切削インサートに設けられ、
前記第2面取り刃は、前記ボディに対して着脱可能に設けられた第2切削インサートに設けられていることを特徴とする。
【0008】
第3の発明の切削工具は、第2の発明の切削工具において、
前記第1切削インサート及び前記第2切削インサートは、
複数の刃を有して当該複数の刃のうち一つの刃が面取り刃として用いられ、
前記複数の刃のうちすでに面取り刃として用いられた刃とは異なる刃を新たな面取り刃として変更可能に、前記ボディに対して着脱されることを特徴とする。
【0009】
第4の発明の切削工具は、第3の発明の切削工具において、
前記第1切削インサート及び前記第2切削インサートは同一の部品が用いられており、
前記部品は偏平な六角形状をなし、鈍角をなす各辺に刃が設けられた一対のV字状刃を有しており、
前記一対のV字状刃のうち一方のV字状刃が第1刃と第2刃とで形成され、他方のV字状刃が前記第1刃と平行をなす第3刃と前記第2刃と平行をなす第4刃とで形成されており、
前記第1刃及び前記第3刃が第1面取り刃用の刃として用いられ、
前記第2刃及び前記第4刃が第2面取り刃用の刃として用いられることを特徴とする。
【0010】
第5の発明の切削工具は、第1乃至第4の発明のいずれか一つの切削工具において、
前記切れ刃の回転による切削によって生じた切り屑を排出する切り屑排出溝が、前記ボディの先端から基端側に向かって延びており、
前記第1面取り刃及び前記第2面取り刃の回転による切削によって生じた切り屑は、前記切り屑排出溝から排出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、切れ刃の回転によって孔が開けられた後、切削工具をそのまま前進させて表面側の開口縁に第2面取り刃を当てることで表面側の開口縁が面取りされる。続いて、切削工具を後退させるとともに工具の中心軸線をずらし、裏面側の開口縁に第1面取り刃を当て、さらに切削工具を開口縁に沿って円移動させることで裏面側の開口縁が面取りされる。このように、孔開け加工と表裏両面の開口縁の面取り加工とを1本の切削工具を用いて行うことが可能となり、2本の工具を用いていた場合のような工具の持替え動作が不要となる。これにより、加工時間を短縮し、加工効率を向上させることができる。
【0012】
第2の発明によれば、使用によって切れ刃、第1面取り刃及び第2面取り刃の切れ味が悪化した場合、ヘッド部、第1切削インサート及び第2切削インサートのそれぞれを新たなものに交換することができる。各刃の切れ味を再生する手法としては刃の研磨がある。ただ、刃を研磨する場合、研磨作業という手間がかかる。また、研磨によるすり減りによって切れ刃と各面取り刃との間の間隔が変化するため、切削工具を動作させる工作機械の動作プログラムを変更したり、刃同士の間隔変化に合わせた調整作業をしたりする必要があり、煩雑であるという問題がある。この第2の発明の場合、ヘッド部、第1切削インサート及び第2切削インサートをそれぞれ交換しさえすれば、研磨という手間がかからず、動作プログラムの変更や刃同士の間隔変化に合わせた調整作業も不要となり、刃の切れ味再生を容易に行うことができる。
【0013】
第3の発明によれば、第1切削インサート及び第2切削インサートは複数の刃を有し、そのうち一つの刃が面取り刃として使用される。そのため、面取り刃として使用していた刃の切れ味が悪くなった場合、当該切削インサートを取り外した後に別の刃が面取り刃となるように再度取り付ければ、当該刃を新たな面取り刃として使用できる。これにより、刃交換が必要となるたびに新品の切削インサートに交換する必要がなく、ランニングコストを低減できる。
【0014】
第4の発明によれば、六角偏平形状をなす部品が有する第1刃から第4刃のうち、2つが第1面取り刃として用いられ、もう2つが第2面取り刃として用いられ、すべての刃が面取り刃として用いられる。これにより、ランニングコストをより一層低減できる。
【0015】
第5の発明によれば、切れ刃、第1面取り刃及び第2面取り刃のそれぞれの切削によって生じる切り屑は、同じ切り屑排出溝から排出され、刃ごとに切り屑排出溝が設けられていないため、切り屑排出溝の構成を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】切削工具を用いた孔開け加工と表面側の開口縁の面取り加工の手順を説明する説明図。
【
図4】切削工具を用いた裏面側の開口縁の面取り加工の手順を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、切削工具の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
切削工具10は孔開け用に用いられるドリルであり、
図1に示すように、円柱軸状をなすボディ11と、軸状のシャンク12とを備えている。シャンク12は切削工具10をマシニングセンタ等の工作機械に取り付けるための部分であり、ボディ11の基端側に設けられている。ボディ11の中心軸線とシャンク12の中心軸線とは一致しており、切削工具10は全体として軸状をなすように形成されている。
【0019】
切削工具10はヘッド交換式であり、ボディ11の先端には、ヘッド部としてのドリルヘッド13がボディ11に対して着脱可能に設けられている。ドリルヘッド13には、孔開け用の切れ刃14が設けられている。先端側から切れ刃14を見ると、切れ刃14は先端突起から外方へ異なる方向に向けて延びている。そのため、
図1には現れていないものの、ドリルヘッド13には紙面の奥側へ向かう切れ刃14も形成されている。切削工具10をその中心軸線を中心として回転させることにより、切れ刃14が孔開け対象となる板部W(後述する
図3及び
図4参照)を切削し、それによって当該板部Wに孔Hが開けられる。繰り返しの切削により切れ刃14の切れ味が悪化すると、切れ刃14の寸法によって設定された孔Hの径がその設定よりも大きくなり、製品の品質を悪化させる要因となる。その場合、それまで用いられていたドリルヘッド13は新たなドリルヘッド13と交換される。これにより、切れ刃14が再生される。
【0020】
ドリルヘッド13は、ボディ11の先端側に設けられた先端ホルダ部21に設けられている。先端ホルダ部21は円柱形状をなし、切れ刃14による切削によって開けられる孔Hの径と同じ径を有している。ドリルヘッド13と先端ホルダ部21には、切れ刃14による切削によって生じた切り屑を排出する切り屑排出溝22が設けられている。切り屑排出溝22は、切削時の切削工具10の回転方向とは逆方向へ向かって、中心軸線に対して斜めに延びている。本実施の形態では、切削時の切削工具10の回転方向が、一般的な回転方向である右回転に設定されている。そのため、切り屑排出溝22は左回転方向に向かって延びている。
【0021】
ボディ11において、先端ホルダ部21よりも基端側には基端ホルダ部23が設けられている。基端ホルダ部23は円柱形状をなし、先端ホルダ部21よりも大径となっている。先端ホルダ部21と基端ホルダ部23との間にはくびれ部24が設けられている。くびれ部24は円柱形状をなし、先端ホルダ部21及び基端ホルダ部23の両者よりも小径となっている。くびれ部24と先端ホルダ部21の基端との間は第1テーパ25によってつながれ、くびれ部24と基端ホルダ部23の先端との間は第2テーパ26によってつながれている。
【0022】
先端ホルダ部21に設けられた切り屑排出溝22は、第1テーパ25、くびれ部24、第2テーパ26を経て、基端ホルダ23に至るまで形成されている。先端から斜めに延びた切り屑排出溝22は、先端ホルダ21の基端部でその延びる方向を変え、基端ホルダ23に至るまで直線状に延びている。切り屑排出溝22の幅は、周方向において略4分の1程度に設定されている。また、基端ホルダ23に設けられた個所では、切り屑排出溝22はより幅広に形成されている。
【0023】
先端ホルダ21の基端には、切り屑排出溝22の幅方向における切れ刃14側の端部に、第1切削インサート31が設けられている。第1切削インサート31は、先端ホルダ21に対して着脱可能に設けられている。第1切削インサート31は偏平な六角形状をなし、ネジ等の固定具S(
図2参照)によって先端ホルダ21に対して着脱される。第1切削インサート31は、その六角形の一辺に設けられた第1面取り刃32を有している。第1面取り刃32は第1テーパ25よりも基端側へ突出しており、第1テーパ25の傾斜と平行をなし、切削工具10の中心軸線に対して斜めに延びている。第1面取り刃32は、切れ刃14による切削によって開けられた孔Hの裏面側の開口縁を面取りする。なお、ここでいう表面とは孔開けの対象となる板部Wが有する一対の面のうち、切削工具10が配置された側の面をいい、反対側の面を裏面とする。
【0024】
基端ホルダ23の先端には、切り屑排出溝22の幅方向端部における切れ刃14側の端部、つまり第1切削インサート31が設けられた側に、第2切削インサート33が設けられている。第2切削インサート33は、基端ホルダ23に対して着脱可能に設けられている。第2切削インサート33も偏平な六角形状をなし、ネジ等の固定具Sによって基端ホルダ23に対して着脱される。第2切削インサート33は、その六角形の一辺に設けられた第2面取り刃34を有している。第2面取り刃34は第2テーパ26よりも先端側へ突出しており、第2テーパ26の傾斜と平行をなし、切削工具10の中心軸線に対して斜めに延びている。そのため、第1面取り刃32と第2面取り刃34とはくびれ部24が設けられた空間を介して対向し、第1面取り刃32が設けられた辺と第2面取り刃34が設けられた辺とはV字状をなしている。第2面取り刃34は、切れ刃14による切削によって開けられた孔Hの表面側の開口縁を面取りする。
【0025】
なお、前述したように、
図1には現れていないものの、ドリルヘッド13には紙面の奥側へ向かう切れ刃14も形成されている。そのため、その切れ刃14に対応するもう一つの切り屑排出溝22もボディ11に形成されている。当該切り屑排出溝22においても、第1切削インサート31及び第2切削インサート33が上記と同じ構成で設けられている。2つの第1切削インサート31が有する第1面取り刃32同士は、当該第1面取り刃32が形成された辺同士で形成される角度が90度となるように設定されている。同様に、2つの第2切削インサート33が有する第2面取り刃34同士は、当該第2面取り刃34が形成された辺同士で形成される角度が90度となるように設定されている。
【0026】
ここで、第1切削インサート31と第2切削インサート33とは、いずれも同じ部品である切削インサート40が用いられている。第1切削インサート31及び第2切削インサート33にそれぞれ付された第1と第2は、取り付けられる位置の違いを反映したものである。用いられる切削インサート40は、
図2(a)に示すように、一対のV字状刃41,42を有している。一対のV字状刃41,42のうち、一方のV字状刃41を形成する2つの刃を便宜上、第1刃41aと第2刃41bとする。第1刃41aが形成された辺と第2刃41bが形成された辺とは鈍角をなしている。他方のV字状刃42を形成する2つの刃のうち、第1刃41aと平行をなす刃を便宜上、第3刃42aとし、第2刃41bと平行をなす刃を便宜上、第4刃42bとする。第3刃42aが形成された辺と第4刃41bが形成された辺とは鈍角をなしている。
【0027】
切削インサート40は、各V字状刃41,42が設けられたV字形状辺の両端同士をつなぐ一対の辺43を有している。第1切削インサート31及び第2切削インサート33は、それぞれ、当該一対の辺43が中心軸線に対して平行をなすように、先端ホルダ部21又は基端ホルダ部23に取り付けられている。説明の便宜上、図示の状態では、第1刃41aが第1切削インサート31の第1面取り刃32として用いられ、第4刃42bが第2切削インサート33の第2面取り刃34として用いられているものとする。
【0028】
その上で、第1面取り刃32としての第1刃41aや第2面取り刃34としての第4刃42bの切れ味が悪化した場合、開口縁のバリ取りが不十分となってバリが残り、製品の品質を悪化させる要因となる。その場合、第1面取り刃32や第2面取り刃34が新たな刃に交換される。この刃交換時には、
図2(b)の左図に示すように、第1切削インサート31として取り付けられていた切削インサート40をいったん外し、それを180度回転させる。すると、もともと第1刃41aがあった位置に第3刃42aが配置される。この状態で当該切削インサート40を先端ホルダ部21に再度取り付けて第1切削インサート31とすれば、第3刃42aが新たな第1面取り刃32となる。
【0029】
同様に、
図2(b)の右図に示すように、第2切削インサート33として取り付けられていた切削インサート40をいったん外し、それを180度回転させる。すると、もともと第4刃42bがあった位置に第2刃41bが配置される。この状態で当該切削インサート40を基端ホルダ部23に再度取り付けて第2切削インサート33とすれば、第2刃41bが新たな第2面取り刃34となる。このように切削インサート40を180度回転させることで、それまで面取り刃32,34として使用されていた刃と平行をなす刃を新たな面取り刃32,34として使用し、面取り刃を再生することができる。
【0030】
また、第1切削インサート31と第2切削インサート33とは同じ部品が用いられているため、
図2(a)に示すように、当初、第1切削インサート31として用いられたものを、第2切削インサート33に用いることも可能となる。逆に、当初、第2切削インサート33として用いられたものを、第1切削インサート31に用いることも可能となる。そうすると、当初、切削インサート40を第1切削インサート31として用いた場合は、第1刃41a及び第3刃42aが第1面取り刃32として用いられ、次にこれを第2切削インサート33として用いれば、第2刃41b及び第4刃42bが第2面取り刃34として用いられる。これにより、第1刃41a~第4刃42bのすべてを面取り刃32,34として用いることが可能となる。
【0031】
次に、孔開け対象となる板部Wに対して切削工具10を用いて行われる、孔開け加工と、表裏両面の開口縁の面取り加工について説明する。切削工具10による切削加工の対象となる板部Wは、板材であったり、製品のうち板状をなす一部分であったりする。なお、
図3及び
図4における切削工具10は、詳細を省いた概略を示している。
【0032】
工作機械に切削工具10を取り付けた上で、切削工具10を回転駆動しながら、その先端を板部Wに向けて前進させる。すると、
図3(a)に示すように、切れ刃14によって板部Wが切削され、孔開け加工が行われる。図示を省略するが、この切削によって生じた切り屑は切り屑排出溝22を通じて排出される。孔Hが貫通した後も切削工具10をさらに前進させ、
図3(b)に示すように、第2面取り刃34が表面側の開口縁に当接すると、第2面取り刃34によって開口縁が切削され、面取りがなされる。
【0033】
表面側の開口縁の面取りが完了した後、
図4(a)に示すように、裏面側の開口縁の内側に第1面取り刃32が配置される位置まで切削工具10を後退させる。次いで、切削工具10を孔Hの内面に向かって横移動(板面方向に沿った方向へ移動)させ、
図4(b)に示すように、切削工具10の中心軸線C1を孔Hの中心軸線C2からずらす。すると、第1面取り刃32が裏面側の開口縁に当接する。第1面取り刃32を開口縁に当接させた状態のまま、切削工具10を開口縁の周に沿って円を描くように移動させる。これにより、第1面取り刃32によって裏面側の開口縁が切削され、
図4(c)に示すように面取りされる。その後、切削工具10を横移動させた位置から元に戻し、その中心軸線C1を孔Hの中心軸線C2と一致させた上で後退させ、孔Hから切削工具10を抜く。このようにして、孔開け加工と表裏両面の開口縁の面取り加工とが行われる。
【0034】
以上説明した本実施の形態の切削工具によれば、以下の作用効果が得られる。
【0035】
(1)切れ刃14の回転による切削によって板部Wに孔Hが開けられた後、切削工具10をそのまま前進させ、表面側の開口縁に第2面取り刃34を当てることで表面側の開口縁が面取りされる。続いて、切削工具10を後退させるとともに切削工具10の中心軸線をずらし、裏面側の開口縁に第1面取り刃32を当て、さらに切削工具10を開口縁に沿って円移動させることで裏面側の開口縁が面取される。このように、孔開け加工と表裏両面の開口縁の面取り加工とを1本の切削工具10を用いて行うことが可能であり、2本の工具を用いていた場合のような工具の持替え動作が不要となる。これにより、加工時間を短縮し、加工効率を向上させることができる。
【0036】
(2)切れ刃14、第1面取り刃32及び第2面取り刃34が、使用によって切れ味が悪化した場合は、ドリルヘッド13、第1切削インサート31及び第2切削インサート33のそれぞれを新たなものに交換することができる。
各刃の切れ味を再生する手法としては刃の研磨がある。ただ、刃を研磨する手法の場合、研磨作業という手間がかかる。また、研磨によるすり減りによって切れ刃14と各面取り刃32,34との間隔が変化するため、切削工具10を動作させる工作機械の動作プログラムを変更したり、間隔変化に合わせた調整作業をしたりする必要があり、煩雑であるという問題がある。本実施形態の切削工具10の場合、ドリルヘッド13、第1切削インサート31及び第2切削インサート33をそれぞれ交換しさえすれば、研磨作業という手間がかからず、動作プログラムの変更や刃同士の間隔変化に合わせた調整作業も不要となり、刃の切れ味再生を容易に行うことができる。
【0037】
(3)第1切削インサート31は、第1面取り刃31として用いられる刃として第1刃41a及び第3刃42aを有し、第2切削インサート33は、第2面取り刃34として用いられる刃として第2刃41b及び第4刃42bを有し、そのうち一つの刃が面取り刃32,34として使用される。そして、従前、面取り刃32,34として使用していた一方の刃の切れ味が悪くなった場合、着脱によってもう一方の刃を面取り刃32,34として用いることで、当該刃を新たな面取り刃32,34として使用できる。これにより、刃交換が必要となるたびに新品の切削インサートと交換する必要がなく、ランニングコストを低減できる。
【0038】
(4)第1切削インサート31及び第2切削インサート32は、それぞれを180度回転させたり、取付位置を相互に交換したりすることで、切削インサート40が有する第1刃41aから第4刃42bのすべてが面取り刃32,34として用いられる。これにより、ランニングコストをより一層低減できる。
【0039】
(5)切れ刃14、第1面取り刃32及び第2面取り刃34のそれぞれによる切削によって生じる切り屑は、同じ切り屑排出溝22から排出され、刃ごとに切り屑排出溝22が設けられていないため、切り屑排出溝22の構成を簡素化できる。
【0040】
<その他の実施の形態>
上記実施の形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0041】
(a)上記実施の形態では、第1切削インサート31と第2切削インサート33とを同じ部品である切削インサート40を用いているが、それぞれに専用の切削インサートを取り付けるようにしてもよい。
【0042】
(b)上記実施の形態では、第1切削インサート31及び第2切削インサート33は六角形状をなす切削インサート40が用いられているが、その形状は、三角形状、四角形状(長方形状、菱形形状など)等の多角形状であればよい。この場合も、各辺に面取り刃として用いられる刃が形成され、一つの切削インサートに対して複数の刃が設けられていることが好ましい。
(c)上記実施の形態では、切削時の切削工具10の回転方向が右回転に設定されているが、これを左回転時に切削が行われるように設定してもよい。この場合、切り屑排出溝22は右回転方向に向かって延び、第1切削インサート31及び第2切削インサート33は、切り屑排出溝22の幅方向端部における切れ刃14側の端部に設けられる。
【符号の説明】
【0043】
10…切削工具、11…ボディ、13…ドリルヘッド(ヘッド部)、14…切れ刃、22…切り屑排出溝、31…第1切削インサート、32…第1面取り刃、33…第2切削インサート、34…第2面取り刃、40…切削インサート(部品)、41,42…V字状刃、41a…第1刃、41b…第2刃、42a…第3刃、42b…第4刃、H…孔。