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特開2023-34907MRI T1 rhoマッピング用のファントム、及びファントムの製造方法
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  • 特開-MRI  T1  rhoマッピング用のファントム、及びファントムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034907
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】MRI T1 rhoマッピング用のファントム、及びファントムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230306BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20230306BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20230306BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20230306BHJP
   A61K 47/32 20060101ALN20230306BHJP
   A61L 31/04 20060101ALN20230306BHJP
   A61L 31/14 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
A61B5/055 390
C08F220/56
G09B23/28
A61K9/06
A61K47/32
A61L31/04 110
A61L31/14 300
A61L31/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141390
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政司
(72)【発明者】
【氏名】小山 靖人
(72)【発明者】
【氏名】新津 守
【テーマコード(参考)】
2C032
4C076
4C081
4C096
4J100
【Fターム(参考)】
2C032CA04
2C032CA06
4C076AA09
4C076BB40
4C076EE13
4C076EE47
4C081AC16
4C081BC02
4C081CA101
4C081CC05
4C081DA12
4C096AA03
4C096AB45
4C096FA01
4J100AM15P
4J100AM24Q
4J100CA04
4J100CA23
4J100DA49
4J100EA03
4J100FA03
4J100HA53
4J100HE12
4J100HE41
4J100JA53
(57)【要約】
【課題】人体に近いT1 rho値を再現性良く示すことができるMRI T1 rhoマッピング用のファントムの提供。
【解決手段】容器と、前記容器に収容されたハイドロゲルと、を有し、前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%である磁気共鳴画像法(MRI) T1 rhoマッピング用のファントム。前記ハイドロゲルが、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤との重合体である高分子材料を含む態様、前記架橋剤の含有量が、前記ビニルモノマーに対して、0.1モル%~50モル%である態様が好ましい。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、
前記容器に収容されたハイドロゲルと、を有し、
前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%であることを特徴とする磁気共鳴画像法(MRI) T1 rhoマッピング用のファントム。
【請求項2】
前記ハイドロゲルが、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤との重合体である高分子材料を含む請求項1に記載のファントム。
【請求項3】
前記架橋剤の含有量が、前記ビニルモノマーに対して、0.1モル%~50モル%である請求項2に記載のファントム。
【請求項4】
前記水溶性ビニルモノマーの含有量が、前記ビニルモノマーに対して、50モル%~100モル%である請求項2から3のいずれかのいずれかに記載のファントム。
【請求項5】
前記高分子材料が、ポリアクリルアミドである請求項2から4のいずれかに記載のファントム。
【請求項6】
前記ハイドロゲルの圧縮弾性率が、0.1MPa~1.0MPaである請求項1から5のいずれかに記載のファントム。
【請求項7】
容器と、前記容器に収容されたハイドロゲルと、を有する磁気共鳴画像法(MRI) T1 rhoマッピング用のファントムの製造方法であって、
水性重合媒体中で、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤とを重合させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する工程を有し、
前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%であることを特徴とするファントムの製造方法。
【請求項8】
前記モノマーと、前記架橋剤とが、前記水性重合媒体中で予め脱酸素処理される請求項7に記載のファントムの製造方法。
【請求項9】
前記ハイドロゲル形成工程が、前記容器内の水性重合媒体中で、前記水溶性ビニルモノマーを含む前記ビニルモノマーと、前記架橋剤とを不活性ガスによりバブリングした後、前記容器内で重合させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する工程である請求項8に記載のファントムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI T1 rhoマッピング用のファントム、及びファントムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線一般撮影装置、X線透視装置、マンモグラフィー、X線コンピュータ断層撮影(CT)装置、磁気共鳴画像法(MRI)装置、超音波画像診断装置、核医学診断装置などのいずれの画像診断装置においても、装置の日常点検、校正、及び性能検査のためにファントムと呼ばれる模擬人体が使用される。ファントムは、適応装置や使用目的によりさまざまな種類が製造されており、研究や実験、教育目的でも使用されており、その市場価値は高い。
中でも、MRIにおいては様々な撮像方法が提唱されており、近年、従来法では困難であった早期の軟骨損傷の鑑別が可能であるとしてT1 rho マッピングが報告された(例えば、非特許文献1参照)。また、軟骨以外にも腫瘍病変の鑑別を目的とした、全身への適応の研究が試みられている。
【0003】
T1 rho マッピングによる撮像から、組織のT1 rho値を測定することで、組織の変性を知ることができる。このT1 rho値は、装置や撮像パラメータの違いにより変化する可能性があり、校正用のファントムでT1 rho値を管理する必要がある。しかし人体組織に近いT1 rho値が得られるファントム材料についての報告は少なく、商用販売されているファントムを見つけることもできない。現状では、人間の軟骨組成に近い豚膝を使った例はあるが、解体された豚膝の軟骨組織は経時的に変化していき、個体差も存在するため再現性に劣るという問題がある。研究では健常ボランティアを募ることはあるが、倫理的な問題をはらみ十分な撮像時間をかけることができないなど、研究の進捗に支障をきたしているという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Clin.Rheumatol.(2017)vol.36,p.2109-2119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、人体に近いT1 rho値を再現性良く示すことができるMRI T1 rhoマッピング用のファントムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 容器と、
前記容器に収容されたハイドロゲルと、を有し、
前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%であることを特徴とする磁気共鳴画像法(MRI) T1 rhoマッピング用のファントムである。
<2> 前記ハイドロゲルが、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤との重合体である高分子材料を含む前記<1>に記載のファントムである。
<3> 前記架橋剤の含有量が、前記ビニルモノマーに対して、0.1モル%~50モル%である前記<2>に記載のファントムである。
<4> 前記水溶性ビニルモノマーの含有量が、前記ビニルモノマーの総量に対して、50モル%~100モル%である前記<2>から<3>のいずれかのいずれかに記載のファントムである。
<5> 前記高分子材料が、ポリアクリルアミドである前記<2>から<4>のいずれかに記載のファントムである。
<6> 前記ハイドロゲルの圧縮弾性率が、0.1MPa~1.0MPaである前記<1>から<5>のいずれかに記載のファントムである。
<7> 容器と、前記容器に収容されたハイドロゲルと、を有する磁気共鳴画像法(MRI) T1 rhoマッピング用のファントムの製造方法であって、
水性重合媒体中で、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤とを重合させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する工程を有し、
前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%であることを特徴とするファントムの製造方法である。
<8> 前記モノマーと、前記架橋剤とが、前記水性重合媒体中で予め脱酸素処理される前記<7>に記載のファントムの製造方法である。
<9> 前記ハイドロゲル形成工程が、前記容器内の水性重合媒体中で、前記水溶性ビニルモノマーを含む前記ビニルモノマーと、前記架橋剤とを不活性ガスによりバブリングした後、前記容器内で重合させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する工程である前記<8>に記載のファントムの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、人体に近いT1 rho値を再現性良く示すことができるMRI T1 rhoマッピング用のファントムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1のGel(架橋度:3.5)における荷重と変位との関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例1のGel(架橋度:3.5)における圧縮応力(σ)と変位との関係を示すグラフである。
図3図3は、実施例2のGel(架橋度:10)における荷重と変位との関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例2のGel(架橋度:10)における圧縮応力(σ)と変位との関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例1のGel(架橋度:3.5)のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図6図6は、実施例2のGel(架橋度:10)のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
図7図7は、実施例1~4のファントムにおいてMRI T1 rhoマッピングによりT1 rho値を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ファントム)
本発明のファントムは、磁気共鳴画像法(MRI) T1 rhoマッピング用のファントムの用途に適したファントムであり、容器と、前記容器に収容されたハイドロゲルと、を少なくとも有し、更に必要に応じてその他の部材を有し、前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%である。
本発明のファントムは、従来のT1値やT2値により画像コントラストが得られる従来のMRI画像ファントムに用いられるポリビニルアルコール(PVA)や水では、人体に近いT1 rho値が得られずT1 rhoマッピングの撮像ができないという問題があること、及び豚膝などの試料では試料の種類や経時変化によりT1 rho値の定量性や安定した再現性が得られないという問題があることを本発明者らが見出したことに基づくものである。
【0010】
<ハイドロゲル>
前記ハイドロゲルは、水と、前記水を内部に含む高分子材料とを含み、更に必要に応じてその他の成分を含むゲルである。
前記ハイドロゲルの架橋度が、0.1モル%~50モル%であり、1モル%~20モル%が好ましく、3モル%~15モル%がより好ましい。
ここで、前記ハイドロゲルの材料となるビニルモノマーと、前記ビニルモノマーに対してXモル%の架橋剤とを重合させた場合に、前記ビニルモノマーと前記架橋剤とを重合させて得られた高分子材料、及び前記高分子材料を含むハイドロゲルの「架橋度」は、Xモル%である。
なお、前記ハイドロゲルの物性(T1 rho値など)は、温度によって変化する可能性があるため、MRI撮像を通常行う温度である室温(25℃)、又は撮像可能な温度範囲である16℃~37℃において、所望のT1 rho値が得られるように、前記ハイドロゲルの諸条件を適宜選択することができる。
【0011】
前記人体に近いT1 rho値としては、特に制限はなく、撮像対象となる組織や部位などの目的に応じて適宜選択することができ、例えば、膝などの関節部位の軟骨であれば、先行研究より報告のある25ms~90ms程度のT1 rho値を示す(正常軟骨ではこの値の範囲であり、軟骨損傷部ではT1 rho値が上昇する)。
本発明のファントムは、MRI T1 rhoマッピング用の用途に適し、正常部位と疾患部位でT1 rho値が異なるヒトの身体部位の評価に好適に用いることができ、前記部位としては、例えば、骨軟部領域における軟骨、腹部等の臓器とそこに生じる腫瘍をはじめとした病変;白質・灰白質等の脳内組織病変;四肢や体幹部の軟部組織に発生した腫瘤などが挙げられる。
【0012】
前記ハイドロゲルの圧縮弾性率としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、室温(25℃)において、0.1MPa~1.0MPaが好ましい。
前記圧縮弾性率の測定方法としては、例えば、EZ-SX引張試験機(株式会社島津製作所製)を用い、試験片として、半径8.0mm、厚み5.0mmの直角円形セクターを用いて、圧縮速度を1.0mm/minに固定して測定することができる。
前記圧縮弾性率が、0.1MPa~1.0MPaであると、人体に近いT1 rho値が得られ、したがって、人体に近いT1 rho値を再現性良く示すことができるMRI T1 rhoマッピング用のファントムとして好適である。
【0013】
<<水>>
前記水の含有量としては、特に制限はなく所望とするT1 rho値に応じて適宜選択することができるが、前記ハイドロゲルの総量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
【0014】
<<高分子材料>>
前記高分子材料としては、架橋を有するポリマーなどの高分子が、三次元の網目構造を有し、網目構造の内部に水を含んでハイドロゲルを形成できるものであれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合成高分子、多糖類、タンパク質、核酸(DNA、RNA)、ナノ粒子などが挙げられる。
前記合成高分子としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルアミド、ポリアミン、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)などが挙げられる。
前記多糖類としては、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸、セルロース誘導体、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、プルラン、ペクチン、グアーガム、アガロース、ソヤファイブ、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、カードラン、シゾフィラン、コンドロイチン、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
前記タンパク質としては、例えば、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、エラスチン、シルクプロテイン等の天然由来のタンパク質;ポリ(α-アミノ酸)等の合成タンパク質などが挙げられる。
前記ナノ粒子としては、例えば、シリカ、セラミックス、金属ナノ粒子、クレイ、ナノファイバーなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、合成高分子が好ましく、ビニルポリマーがハイドロゲルの形状を任意に制御しやすい点でより好ましい。
【0015】
前記高分子材料としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤との重合体などが好適に挙げられる。
前記重合体は、前記ビニルモノマーと、前記架橋剤とを重合開始剤の存在下にて重合することにより製造することができる。
前ビニルモノマーがアクリルアミドであり、前記高分子材料がポリアクリルアミドであることが好ましい。
【0016】
-ビニルモノマー-
前記ビニルモノマーとしては、例えば、モノエチレン系不飽和カルボン酸のアミド、モノエチレン系不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸、モノエチレン系不飽和カルボン酸のエステル、モノエチレン系不飽和ジカルボン酸の半エステル、モノエチレン系不飽和のスルホン酸及びホスホン酸、及びこれらの塩などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
前記ビニルモノマーは、得られる高分子材料の親水性が高く、ハイドロゲルが水を保持できる点で、水溶性ビニルモノマーであることが好ましい。
前記水溶性ビニルモノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ビニルモノマーに対して、50モル%~100モル%が好ましく、70モル%~100モル%がより好ましい。
ここで、「水溶性ビニルモノマー」とは、側鎖に親水性基を有し、水中でラジカル重合反応を実施できるような十分な水溶性を示すビニルモノマーを指す。
前記親水性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基などが挙げられる。
【0017】
前記モノエチレン系不飽和カルボン酸のアミドとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクルアミド、N-ビニルアミド(例えば、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチルビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン及びN-ビニルカプロラクタム等)などが挙げられる。
前記モノエチレン系不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸としては、炭素原子4~8個を有するモノエチレン系不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸が好適に挙げられ、具体的には、メタクリル酸、エタクリル酸、α-クロロアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、及びフマル酸などが挙げられる。
前記モノエチレン系不飽和カルボン酸のエステルとしては、ポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステルなどで、例えばポリエチレングリコール(PEG)のモノアクリル酸エステル、ポリプロピレングリコール(PPG)のモノアクリル酸エステル、PEGのモノメタクリル酸エステル、PPGのモノメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
前記モノエチレン系不飽和ジカルボン酸の半エステルとしては、炭素原子4~10個、好ましくは4~6個を有するモノエチレン系不飽和ジカルボン酸の半エステルが好適に挙げられ、具体的には、マレイン酸モノメチルエステル等のマレイン酸の半エステルなどが挙げられる。
前記モノエチレン系不飽和のスルホン酸及びホスホン酸としては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシプロピルスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、及びアリルホスホン酸などが挙げられる。
前記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩などが挙げられる。
これらの中でも、モノエチレン系不飽和カルボン酸のアミドが好ましい。
【0018】
-架橋剤-
前記架橋剤は、少なくとも2個、例えば2、3、4又は5個のエチレン系不飽和二重結合を分子中に有する化合物である。
前記架橋剤としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、その都度106~8,500の分子量(好ましくは400~2,000の分子量)のポリエチレングリコールから誘導されるポリエチレングリコールジアクリレート及びポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドからなるブロックコポリマーのジアクリレート及びジメタクリレート、アクリル酸又はメタクリル酸で2回、3回、4回又は5回エステル化された多価アルコール、モノエチレン系不飽和カルボン酸とエチレン系不飽和アルコールとのエステル、トリアリルアミン、ジアルキルジアリルアンモニウムハロゲン化物、テトラアリルエチレンジアミン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、106~4,000の分子量のポリエチレングリコールのポリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ペンタエリトリトールトリアリルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル又はポリエチレングリコールジグリシジルエーテル1molとペンタエリトリトールトリアリルエーテル又はアリルアルコール2molとの反応生成物、及びジビニルエチレン尿素などが挙げられる。
前記アクリル酸又はメタクリル酸で2回、3回、4回又は5回エステル化された多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、及びジペンタエリトリットなどが挙げられる。
前記モノエチレン系不飽和カルボン酸とエチレン系不飽和アルコールとのエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸と、アリルアルコール、シクロヘキセノール又はジシクロペンテニルアルコールとのエステル、例えば、アリルアクリレート、及びアリルメタクリレートなどが挙げられる。
前記ジアルキルジアリルアンモニウムハロゲン化物としては、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、及びジエチルジアリルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記架橋剤の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記重合体の材料となるビニルモノマーに対して、0.1モル%~50モル%が好ましく、1モル%~20モル%がより好ましく、3モル%~15モル%が更に好ましい。
前記架橋剤の含有量を調整することにより、得られる前記高分子材料乃至ハイドロゲルの架橋度を制御し、前記高分子材料乃至ハイドロゲルの物性を制御して所望の圧縮応力やゲル硬度とすることができ、したがって、所望のT1 rho値を再現性良く示すことができる。
【0020】
-重合開始剤-
前記重合開始剤としては、前記ビニルモノマーと、前記架橋剤との重合反応を開始する化合物であり、例えば、加熱によりラジカルを生成する熱重合開始剤、高エネルギー放射線(例えば、紫外線、電子線)によりラジカルを生成する光重合開始剤などが挙げられる。
前記重合開始剤としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペルオキソ化合物、アゾ化合物、及びレドックス開始剤などが挙げられる。
前記ペルオキソ化合物としては、例えば、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、過酸化水素、過硫酸塩、過ホウ酸塩などが挙げられる。
前記重合開始剤としては、水溶性開始剤であることが好ましい。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
前記有機過酸化物としては、例えば、アセチルアセトンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-アミルペルピバレート、t-ブチルペルピバレート、t-ブチルペルネオヘキサノエート、t-ブチルペルイソブチラート、t-ブチル-ペル-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルイソノナノエート、t-ブチルペルマレエート、t-ブチルペルベンゾエート、ジ-(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジミリスチルペルオキシジカーボネート、ジアセチルペルオキシジカーボネート、アリルペルエステル、クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペル-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド及びt-アミルペルネオデカノエートなどが挙げられる。
【0022】
前記水溶性アゾ開始剤としては、例えば、2,2’-アゾ-ビス-(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾ-ビス-(N,N’-ジメチレン)イソブチルアミジン-ジヒドロクロリド、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’-アゾビス[2-(2’-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド及び4,4’-アゾビス-(4-シアノバレリアン酸)などが挙げられる。
【0023】
前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記重合体の材料となるビニルモノマーに対して、0.01モル%~5モル%が好ましく、0.05モル%~2.0モル%がより好ましい。
【0024】
前記レドックス開始剤は水溶性開始剤であり、酸化成分としての前記ペルオキソ化合物と、還元成分とを含む。
前記還元成分としては、例えば、アスコルビン酸、グルコース、ソルボース、アンモニウム又はアルカリ金属の亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、次亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩又は硫化物、金属塩(例えば、鉄(II)イオン)、及びナトリウムヒドロキシメチルスルホキシラートなどが挙げられる。これらの中でも、アスコルビン酸、及び亜硫酸ナトリウムが好ましい。
前記レドックス開始剤の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記重合体の材料となるビニルモノマーに対して、還元成分が3×10-6モル%~1モル%であり、及びレドックス触媒の酸化成分0.001モル%~5.0モル%であることが好ましい。
【0025】
<容器>
前記容器としては、前記ハイドロゲルを収容できるものであれば、任意の形状を有し得る。
前記容器としては、非磁性であり、合成したファントムから水の揮発を防ぐことができるのであれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バイアル、シリンジ、人体を模した形状の容器、撮像対象となる人体の身体部分に模した形状の容器、成形されたアクリル容器などが挙げられる。
【0026】
(ファントムの製造方法)
本発明のファントムの製造方法は、ハイドロゲル形成工程を有し、更に必要に応じて、その他の工程を有してもよい。
本発明のファントムは、本発明のファントムの製造方法により好適に製造することができる。
【0027】
<ハイドロゲル形成工程>
前記ハイドロゲル形成工程は、水性重合媒体中で、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤とを重合させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する工程である。
前記ビニルモノマー、前記架橋剤、前記ハイドロゲル、及び前記高分子材料については、本発明のファントムにおいて説明した事項を適宜選択することができる。
【0028】
前記水性重合媒体としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、前記塩等を含む水溶液などが挙げられる。
前記重合させる方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜公知の重合方法を選択することができる。前記重合の温度としては、0℃~100℃が好ましく、16℃~37℃がより好ましい。前記重合の圧力としては、常圧、高圧、減圧のいずれにより実施することができる。前記重合は、不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。
【0029】
前記ハイドロゲル形成工程は、後述する超音波処理、及び脱酸素処理の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
-超音波処理-
前記ビニルモノマーと、前記架橋剤とが、前記水性重合媒体中で、予め超音波処理されることが好ましい。これにより、ビニルモノマー及び架橋剤が均一に分散できる点で好ましい。
前記超音波処理の条件としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。超音波処理の時間としては、10秒間~3分間が好ましい。
【0030】
-脱酸素処理-
前記ハイドロゲル形成工程は、酸素及び空気の大幅な又は完全な排除下で実施されることが好ましい。
前記酸素及び空気を排除する方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ビニルモノマー及び前記架橋剤を含む前記水性重合媒体を脱気する方法、不活性ガス雰囲気中で重合する方法などが挙げられる。前記水性重合媒体は、前記重合開始剤の添加前であってもよく、添加後であってもよい。
前記脱気する方法としては、例えば、凍結脱気法、デシケータ等を用いて真空脱気法などが挙げられる。
前記不活性ガスとしては、重合反応や生成したハイドロゲルに対し反応性の低い気体であれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、及びこれらの混合物などが挙げられる。
前記不活性ガス雰囲気中で重合する方法としては、前記ビニルモノマー及び前記架橋剤を含む前記水性重合媒体を不活性ガスによりバブリングした後、重合させる方法が好ましく、バブリング時間としては、1分間~10分間が好ましい。
これにより、酸素の存在下による重合反応の阻害、及びアクリル酸中に通常含まれている安定剤による酸素の存在下での重合反応の阻害を防ぐことができる点で有利である。
また、MRI T1 rhoマッピングによるT1 rho値の測定においても、気泡の混入による測定値のアーティファクトを避けることができる点で有利である。
【0031】
前記ハイドロゲル形成工程は、水性重合媒体中で、水溶性ビニルモノマーを含むビニルモノマーと、架橋剤とを不活性ガスによりバブリングした後、前記容器内で重合させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する工程であることがより好ましい。
これにより、MRI T1 rhoマッピングによるT1 rho値の測定における、気泡の混入による測定値のアーティファクトをより一層避けることができる点で有利である。
【0032】
前記酸素除去処理を含むハイドロゲル形成工程、及びファントムの製造方法の一実施形態を説明する。
ガラス製ナスフラスコなどの適当な反応容器に、前記ビニルモノマー及び前記架橋剤を含む前記水性重合媒体を入れ、不活性ガス(好ましくはArガス)を送り込み(例えば、3分間のバブリング)、反応容器内の不活性ガス分圧を上げることにより、酸素分圧を下げる。同時に前記水性重合媒体内に混入していた空気が取り除かれる。重合反応を開始するための前記重合開始剤の添加は、バブリング前であってもよく、後であってもよいが、酸素除去及び密閉性の観点から、バブリング前に行うことが好ましい。その後、素早くその水溶液を気泡が入らないように、ファントムを構成する容器である密閉容器に移し、密閉した後、その容器を室温(25℃)で1日静置し、前記容器内で重合反応を終了させて高分子材料を形成し、前記高分子材料と、水とを含む前記ハイドロゲルを形成する。
各材料の比率を調整すること、特に、架橋剤の含有量を変更して架橋度を調整することや含水量を変化させることにより、得られるハイドロゲルの圧縮弾性率や硬度をコントロールすることができ、得られるT1 rho値を所望の範囲とすることができる。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0034】
(実施例1)
<ファントムの作製>
以下の手順により、実施例1のファントムを作製した。
1. 8mLの水に、2.0g、28.1mmolのアクリルアミドモノマー(ナカライテスク株式会社製)と、架橋度が3.5となるようにアクリルアミドに対して3.5mol%(151.8mg、0.985mmol)の架橋剤としてのN,N’-メチレンビスアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)とを添加して混合し、架橋剤が完全に溶解するまで、1分間、超音波処理した。
2. 得られた溶液に、64.2g、0.281mmolの過硫酸アンモニウム(ナカライテスク株式会社製)を加え、混合物をArガスで3分間バブリングした後、得られた混合物を密閉容器であるシリンジ(商品名:HSWオールプラスチックディスポシリンジ ルアーロック型 HJ4100-LL、容量:10mL、Henke Sass Wolf社製)に入れ、気泡を抜いた後で密封した。
3. 室温(25℃)で1日静置した。
ポリアクリルアミドゲル(「Gel(架橋度:3.5)」と表記することがある)を有する実施例1のファントムを得た。
【0035】
(実施例2)
実施例1において、架橋度が10%となるようにアクリルアミドに対して10mol%(433.8mg、2.81mmol)のN,N’-メチレンビスアクリルアミドを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアクリルアミドゲル(「Gel(架橋度:10)」と表記することがある)を有する実施例2のファントムを作製し、これらの評価を実施した。
【0036】
(実施例3)
実施例1において、架橋度が5.5%となるようにN,N’-メチレンビスアクリルアミドを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアクリルアミドゲル(「Gel(架橋度:5.5)」と表記することがある)を有する実施例3のファントムを作製し、これらの評価を実施した。
【0037】
(実施例4)
実施例1において、架橋度が7.5%となるようにN,N’-メチレンビスアクリルアミドを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアクリルアミドゲル(「Gel(架橋度:7.5)」と表記することがある)を有する実施例4のファントムを作製し、これらの評価を実施した。
【0038】
<評価>
作製した実施例1~2のポリアクリルアミドゲル及びファントムについて、以下のように圧縮試験、及びFT-IRスペクトルの測定を行った。
また、実施例1~4のファントムについて、以下のようにファントムの撮像を行った。
【0039】
<<圧縮試験>>
ポリアクリルアミドゲルの圧縮試験は、EZ-SX引張試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、圧縮速度を1.0mm/minに固定して行った。試験片は、半径8.0mm、厚み5.0mmの直角円形セクターであった。
圧縮弾性率(E)[MPa]は、圧縮応力(σ)[MPa]をひずみ(ε)で割って求めた。E=σ/ε。
圧縮応力(σ)[MPa]=[N/mm]は、荷重[N]を試料片面積:(8.0×8.0×3.14)/4[mm]で割った値である。
ひずみ(ε)は、(変位[mm]/5.0[mm])×100[%]より算出される。
【0040】
実施例1のGel(架橋度:3.5)について荷重[N]と変位[mm]との関係を示すグラフを図1に示し、圧縮応力(σ)と変位[mm]との関係を示すグラフを図2に示した。
実施例2のGel(架橋度:10)について荷重[N]と変位[mm]とのとの関係を示すグラフを図3に示し、圧縮応力(σ)と変位[mm]との関係を示すグラフを図4に示した。
圧縮応力(σ)は、実施例1のGel(架橋度:3.5)で0.36±0.05MPa、実施例2のGel(架橋度:10)で0.40±0.07MPaであった。
【0041】
<<FT-IRスペクトルの測定>>
ATR(attenuated total reflection)法によるFT-IRスペクトルは、IR Spirit spectrometer(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0042】
実施例1及び2のアクリルアミドのFT-IRスペクトルは、それぞれ図5及び6、並びに以下に示す通りであった。
実施例1:IR(ATR)υ3337(NH,HO),1658(C=O)cm-1
実施例2:IR(ATR)υ3285(NH,HO),1657(C=O)cm-1
【0043】
<<ファントムの撮像>>
T1 rhoマッピングシーケンスの実装されているMRI装置(装置名:MR Ingenia Elition 3.0T、フィリップス ヘルスケア社製)を使用して、以下の手順により、実施例1~4のファントムの撮像を行った。
1. ファントムを任意のコイルに固定して位置決めし、ベッドの移動により磁場中心にセットした。
2. 位置確認画像を撮像し、その画像をもとに正確な位置決めをした後、T1 rhoマッピングシーケンスにてファントムを撮像した。
撮像条件は以下の通りである。
T1 rho-prepared segmented gradient echo;
TE/TR,2.8/5.6ms;
slice gap,0mm;
matrix,280×280;
field of view,140×140 mm
Flip angle,35degree;
Voxel size,0.5×0.5×3mm
スピンロックパルス,0,15,30,45,60ms;
スピンロックパルスの振幅,500Hz;
Compressed SENSEのリダクションファクター,2-4-6;
取得時間,5:48-2:53-1:43
温度,室温(25℃)
3. 撮像データをもとに、MRI装置によりT1 rhoマップを作成した。
4. ImageJ(NIH、アメリカ)を用いてT1 rhoマップ上のシリンジの長軸に対する断面方向のゲル部位に合わせて、ROI(region of interest)を置き、T1 rho値を測定した。
【0044】
実施例1~4のファントムにおいてT1 rho値を測定した結果を図7に示す。
図7の結果から、Gel(架橋度:3.5)、Gel(架橋度:5.5)、Gel(架橋度:7.5)、及びGel(架橋度:10.0)をそれぞれ有する実施例1、3、4及び2のファントムでは、T1 rho値が、それぞれ29.289[ms]、42.978[ms]、62.044[ms]、及び86.978[ms]であった。
【0045】
従来の研究より、膝などの軟骨の損傷が起こるとT1 rho値が上昇することが報告されており、図7の結果から、実施例1~4のファントムでは、ゲルの硬度に応じて30~87ms程度のT1 rho値を再現性よく測定することができることが分かった。そのため、様々な病変に対応したT1 rho値を提供することができるファントムが作成できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のMRI T1 rhoマッピング用のファントムは、人体に近いT1 rho値を再現性良く示すことができるので、MRI T1 rhoマッピングシーケンスにおけるMRI装置の校正、パラメータや撮像方法の検討、あるいは研究の用途に適したファントムとして好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7