(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034913
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】腸の炎症改善用成分、及びそれを含む腸の炎症改善用製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4439 20060101AFI20230306BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20230306BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230306BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230306BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61K31/706
A61P1/04
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141399
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 洋明
(72)【発明者】
【氏名】クワンケー ニチャカン
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 紀之
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD09
4B018MD18
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC16
4C086EA11
4C086GA07
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】腸の炎症改善用成分、及びこれを含む腸の炎症改善用製剤を提供する。
【解決手段】腸の炎症改善用成分の有効成分は、下記化学式(I)及び/又は(II)で表される色素、その塩・配糖体・アグリコン・水和物を含有する。前記色素がベタレイン類であることを特徴とする、前記炎症改善用成分である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、R
1及びR
2は、水酸基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミド基、アルキル基、アルキルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、アラルキル基、アルキルスルフィニル基、及び糖から選ばれる少なくとも何れかの置換基で単数若しくは複数置換されていてもよく互いに隣り合うN原子と共に複素環を形成している環状基を示し; 又は、一方が、水酸基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミド基、アルキル基、アルキルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アラルキル基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、及びアルキルスルフィニル基から選ばれる置換基で単数若しくは複数置換されていてもよい脂肪族炭化水素基で、他方が、孤立電子対を示す)、
及び/又は、下記化学式(II)
【化2】
(式(II)中、R
3及びR
4は、前記R
1及び前記R
2に同じく前記環状基を示し; 又は、一方が、前記R
1若しくは前記R
2に同じく前記脂肪族炭化水素基で、他方が、水素原子を示す)
で表される色素、その薬学的に許容される塩、その配糖体若しくはアグリコン、並びにそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする腸の炎症改善用成分。
【請求項2】
前記複素環が、インドール環、インドリン環、ピロール環、ピロリン環、又はピロリジン環であることを特徴とする請求項1に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項3】
前記色素が、ベタレイン類であることを特徴とする請求項1に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項4】
前記ベタレイン類が、ベタシアニン色素及び/又はベタキサンチン色素、並びに、その薬学的に許容される塩、その配糖体若しくはアグリコン、及びそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項3に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項5】
前記ベタシアニン色素が、ベタニン、イソベタニン、プレベタニン、及び/又はネオベタニンであり、前記ベタキサンチン色素が、インディカキサンチン、ブルガキサンチン、ミラキサンチン、及び/又はポルツラカキサンチンであることを特徴とする請求項4に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項6】
前記ベタレイン類が、エナンチオマー、ジアステレオマー、及び/又は少なくともそれら何れかの混合物であることを特徴とする請求項3に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項7】
前記腸の炎症が、炎症性大腸炎、過敏性大腸炎、虚血性大腸炎、及び/又は感染性大腸炎であることを特徴とする請求項1に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項8】
前記有効成分によって、腸粘膜の維持及び/又は修復をするものであることを特徴とする請求項1に記載の腸の炎症改善用成分。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載の腸の炎症改善用成分と、製剤成分とを含んでいることを特徴とする腸の炎症改善用製剤。
【請求項10】
前記腸の炎症の抑制剤、治療剤、機能改善剤、防止剤、及び予防剤から選ばれる腸の炎症用医薬製剤、若しくはサプリメント、健康食品、健康補助食品、及び保険機能食品から選ばれる腸の炎症用非医薬製剤であることを特徴とする腸の炎症改善用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十二指腸から直腸までの腸、とりわけ大腸の炎症性疾患の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防に用いられる、腸の炎症改善用成分、及びそれを含む腸の炎症改善用製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
十二指腸から直腸までである腸の粘膜が様々な原因によって腸の粘膜に炎症が惹き起こされた腸炎には、十二指腸炎、小腸炎、大腸炎、直腸炎などがある。腸炎、中でも大腸炎は、原因と発症部位とによって、炎症性大腸炎、過敏性大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎などが知られており、ヒトでは下痢・腹痛・血便・発熱など多くの症状が認められることが多い。腸炎によるこれら症状は、日常生活の不便や不快感、労働意欲の減退を招き、生活の質(QOL:Quality of Life)を損なう。
【0003】
このような大腸炎は、大腸粘膜で炎症が惹き起こされたものであり、中でも炎症性大腸炎(IBD)は、厚生労働省により特定疾患(難病)に指定された疾病であって、主に潰瘍性大腸炎とクローン病との二種類が認められる。我が国では、潰瘍性大腸炎として20万人以上、クローン病として7万人以上の患者がいる。炎症性大腸炎は、遺伝や環境、腸内細菌の異常などの要因が様々に関わって体内で免疫異常が起こる結果、発症すると考えられている。炎症性大腸炎は、下痢、腹痛、血便の症状が認められる活動期と症状が治まる寛解を繰り返す厄介な疾病である。
【0004】
炎症性大腸炎には、活動期を抑え、寛解を長期に維持し、寛解後の再燃を予防するため、長期間に渡って5-アミノサリチル酸(5-ASA:メサラジン)製剤が第一選択薬として投与される。例えばサラゾスルファピリジン(一例として商品名サラゾピリン)は、体内で代謝されてスルファピリジンと5-ASAとに変換される5-ASA製剤である。5-ASAが、炎症細胞の活性酸素の産生抑制による炎症の進展と細胞障害の抑制、アラキドン酸代謝物(ロイコトリエン類)の産生抑制による炎症性細胞の組織への浸潤抑制、ホスホリパーゼD活性化・ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)活性化・核内因子κB(NF-κB)活性化の抑制による炎症性サイトカインの産生抑制という作用機序によって、薬効を示すと考えられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、活性成分としてのメサラジンまたはその薬学的に許容可能な塩を制御放出する、メサラジンと、異なる粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の混合物からなる親水性マトリックスを含んでなる核と、pH依存的放出性ポリマーを含んでなる胃耐性外側被覆と、薬学的に許容可能な賦形剤とを有する経口用医薬錠剤が記載されている。
【0006】
しかし、5-ASA製剤を長期間投与しても、罹病期間が長い患者では、炎症に関連した癌を誘発することがある。しかも、炎症性大腸炎をはじめとする腸の炎症の発症原因を取り除く根治療法は、現在のところ無い。
【0007】
ところで、ヒユ科フダンソウ属植物のビートである火焔菜(学名:Beta vulgaris vulgaris L.)は、ビートルート、赤ビートとも呼ばれるもので、東南アジアや古代ローマで発熱や便秘の治療薬として用いられ、ヨーロッパで酸化ストレスの保護のための民間薬として用いられていた。ベタニンは、ビートから得られる赤色のインドール誘導体色素であってベタレイン類の一種であり、強力な抗酸化作用を有することが注目されているものである。
【0008】
本発明者らは、特許文献2にて、神経障害性疼痛の有効成分としてベタニン類を含有する神経障害性疼痛の医薬組成物を、開示している。また、非特許文献1にて、マウス慢性痛モデルに対して、ベタニンが、疼痛緩和作用及び中枢神経系の脊髄において抗炎症作用を有することを、報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2014-501267号公報
【特許文献2】特開2020-19722号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nichakarn Kwankaew, Hiroaki Okuda, et al, European Journal of Pain, Volume 25, Issue 8, p.1788-1803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、ベタレイン類やその誘導体が、腸の炎症性疾患の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防のための有効成分となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、5-ASA製剤に代わるもので、従来の5-ASAやその前駆体のような既存有効成分に無い骨格を有する化合物を有効成分として含有することによって、新たな作用メカニズムにより、腸炎、特に炎症性大腸炎のような腸の炎症性疾患の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をして、発症や再燃を抑えたり、腸の障害を減弱しつつ、腸粘膜の炎症を抑制し、腸粘膜の機能を改善して、腸粘膜を維持、及び/又は修復したりして、腸の炎症性疾患のQOLを向上させることができる腸の炎症改善用成分、及びそれを含んでいる腸の炎症改善用製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた腸の炎症改善用成分は、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、R
1及びR
2は、水酸基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミド基、アルキル基、アルキルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、アラルキル基、アルキルスルフィニル基、及び糖から選ばれる少なくとも何れかの置換基で単数若しくは複数置換されていてもよく互いに隣り合うN原子と共に複素環を形成している環状基を示し; 又は、一方が、水酸基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミド基、アルキル基、アルキルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アラルキル基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、及びアルキルスルフィニル基から選ばれる置換基で単数若しくは複数置換されていてもよい脂肪族炭化水素基で、他方が、孤立電子対を示す)、
及び/又は、下記化学式(II)
【化2】
(式(II)中、R
3及びR
4は、前記R
1及び前記R
2に同じく前記環状基を示し; 又は、一方が、前記R
1若しくは前記R
2に同じく前記脂肪族炭化水素基で、他方が、水素原子を示す)
で表される色素、その薬学的に許容される塩、その配糖体若しくはアグリコン、並びにそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかを含有することを特徴とする。
【0014】
この腸の炎症改善用成分は、前記複素環が、インドール環、インドリン環、ピロール環、ピロリン環、又はピロリジン環であるというものであってもよい。
【0015】
この腸の炎症改善用成分は、前記色素が、ベタレイン類であることが好ましい。
【0016】
この腸の炎症改善用成分は、前記ベタレイン類が、ベタシアニン色素及び/又はベタキサンチン色素、並びに、その薬学的に許容される塩、その配糖体若しくはアグリコン、及びそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかであると一層好ましい。
【0017】
この腸の炎症改善用成分は、前記ベタシアニン色素が、ベタニン、イソベタニン、プレベタニン、及び/又はネオベタニンであり、前記ベタキサンチン色素が、インディカキサンチン、ブルガキサンチン、ミラキサンチン、及び/又はポルツラカキサンチンであるとなお一層好ましい。
【0018】
この腸の炎症改善用成分は、前記ベタレイン類が、例えばエナンチオマー、ジアステレオマー、及び/又は少なくともそれら何れかの混合物であるというものである。
【0019】
この腸の炎症改善用成分は、前記腸の炎症が、例えば炎症性大腸炎、過敏性大腸炎、虚血性大腸炎、及び/又は感染性大腸炎であるというものである。
【0020】
この腸の炎症改善用成分は、前記有効成分によって、腸粘膜の維持及び/又は修復をするというものである。
【0021】
前記の目的を達成するためになされた腸の炎症改善用製剤は、前記の腸の炎症改善用成分と、製剤成分とを含んでいることを特徴とする。
【0022】
この腸の炎症改善用製剤は、例えば前記腸の炎症の抑制剤、治療剤、機能改善剤、防止剤、及び予防剤から選ばれる腸の炎症用医薬製剤、若しくはサプリメント、健康食品、健康補助食品、保険機能食品から選ばれる腸の炎症用非医薬製剤であるというものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の腸の炎症改善用成分、及びそれを含む腸の炎症改善用製剤は、十二指腸炎、小腸炎、大腸炎、直腸炎など腸炎のような炎症性疾患、中でも炎症性大腸炎、過敏性大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎のような大腸炎、とりわけ炎症性大腸炎の発症及び再燃を抑えるのに用いられる。
【0024】
この腸の炎症改善用成分、腸の炎症改善用製剤によれば、前記化学式(I)又は(II)で表される色素、その薬学的に許容される塩、その配糖体若しくはアグリコン、並びにそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかを有効成分として用いることによる新たなメカニズムによって、腸炎、特に炎症性大腸炎のような腸の炎症性疾患の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をすることができる。
【0025】
それによって、この腸の炎症改善用成分、腸の炎症改善用製剤は、腸の障害を減弱しつつ、腸粘膜におけるタイトジャンクションの形成を促進し及び/又は脱落を防止しつつ、腸粘膜の炎症を抑制し、腸粘膜の機能を改善し、並びに腸粘膜を維持、及び/又は修復することができるというものである。
【0026】
その結果、腸の炎症性疾患に起因する下痢・腹痛・血便・発熱など多くの症状を改善、軽減、又は消滅させ、QOLを向上させることができる。
【0027】
この腸の炎症改善用成分、腸の炎症改善用製剤は、それに含まれている前記化学式(I)又は(II)で表される化合物が、薬効を発現する薬効活性発現本体と考えられており、この化合物は、(2,6‐ジカルボキシ-テトラヒドロピリジン-4-イリデン)エチリデン骨格、(2,6‐ジカルボキシ-ジヒドロピリジン-4-イリデン)エチリデン骨格、又は(2,6‐ジカルボキシ-ピリジン-4-イリデン)エチリデン骨格を有するもので、従来の5-ASAやその前駆体のような既存有効成分に無い骨格を有している。
【0028】
この腸の炎症改善用成分や腸の炎症改善用製剤中の有効成分、例えばベタレイン類、とりわけベタニンは、天然由来の食用色素である食品添加物として広く用いられているものであり、安全性に優れている。しかも、食品添加物としての長年の実績があり、副作用が少なく、安心して長期間繰り返し使用できるものである。
【0029】
この腸の炎症改善用成分、腸の炎症改善用製剤は、有効成分が、ビート等の植物に含有されている天然由来の食用色素であってしかも簡便かつ純度良く大量に入手可能なものであるから、生産効率が良く、安価に製造可能であり、医療費の軽減に資する。
【0030】
この腸の炎症改善用成分、腸の炎症改善用製剤は、有効成分自体が安定であるので、保存安定性に長け、均一で高度な品質のまま、長期間維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】DSS含有生理食塩水をマウスに飲水投与したときの投与日数とマウスの体重との相関関係を示すグラフである。
【
図2】本発明を適用する腸の炎症改善用成分を含有する腸の炎症改善用製剤をマウス投与することにより大腸からの出血が減弱することを示すもので、投与日数と出血・便スコアとの相関関係を示すグラフである。
【
図3】本発明を適用する腸の炎症改善用成分を含有する腸の炎症改善用製剤をマウス投与することにより大腸の短縮が抑制されることを示すもので、マウスの大腸の長さを示す写真、及び大腸の平均長を示すグラフである。
【
図4】本発明を適用する腸の炎症改善用成分を含有する腸の炎症改善用製剤をマウス投与することにより大腸粘膜の障害が抑制されることを示すもので、大腸粘膜の顕微鏡写真、及び大腸粘膜障害スコアを示すグラフである。
【
図5】本発明を適用する腸の炎症改善用成分を含有する腸の炎症改善用製剤をマウス投与することにより大腸粘膜の炎症が抑制されることを示すもので、大腸粘膜をIban1で染色した顕微鏡写真である。
【
図6】本発明を適用する腸の炎症改善用成分を含有する腸の炎症改善用製剤をマウス投与することにより大腸粘膜の機能障害が抑制されることを示すもので、大腸粘膜をOccludin1で染色した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0033】
本発明の腸の炎症改善用成分の一例は、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、下記化学式(I)
【化3】
で表される色素を、含有しているものである。
【0034】
式(I)中、R1及びR2は、例えば、置換基で単数又は複数置換されていてもよく互いに隣り合うN原子と共に複素環を形成している環状基を示す。その複素環は、インドール環、及びインドリン環(2,3-ジヒドロインドール環)のような複素縮合環;ピロール環、ピロリン環、及びピロリジン環のような複素単環が挙げられる。複素環に置換されていてもよい置換基としては、水酸基;フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子のようなハロゲン原子;カルボキシル基(-COOH);アミド基(-CONH2);炭素数1~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和のアルキル基;炭素数1~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和のアルキルオキシ基;炭素数2~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の不飽和のアルケニル基;炭素数2~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の不飽和のアルケニルオキシ基;フェニルメチル基、フェネチル基のようなアラルキル基;フェニル基;4-ヒドロキシフェニル基のようなヒドロキシフェニル基;3,4-ジヒドロキシフェニル基のようなジヒドロキシフェニル基;メチルスルフィニル基のような炭素数1~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和又は不飽和のアルキルスルフィニル基;及び、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースなどのヘキソース、キシロース、アラビノースなどのペントース、フコース、ジキトキソースなどの単糖類、プリメペロース、ゲンチオビオース、ルチノース、ストロファントビオースなどの二糖類、その他の三糖類、又はそれらのスルホ置換糖類の何れかがアグリコンの水酸基にエーテル結合を介して結合している糖鎖、具体的にはグルコースがグルコピラノシドやスルホグルコピラノシドとしてグリコシド結合した糖鎖が、挙げられる。
【0035】
腸の炎症改善用成分の別な一例は、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、下記化学式(II)
【化4】
で表される色素を、含有しているものであってもよい。
【0036】
式(II)中、R3及びR4は、例えば、前記R1及び前記R2に同じく前記環状基を示す。
【0037】
なお、式(I)及び式(II)中、
【化5】
は、cis構造、又はtrans構造、若しくはそれらの混合体を示し、
【化6】
は、飽和炭素-炭素単結合、又は不飽和炭素-炭素二重結合、若しくはそれらの混合体を示す。
【0038】
前記化学式(I)及び化学式(II)で表される腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分である色素は、例えば、ベタレイン類である。ベタレイン類には、インドール系の環状基であるインドリン環基を有し赤色から紫色の色素であるベタシアニン色素や、黄色から橙色の色素であるベタキサンチン色素が、挙げられる。
【0039】
【0040】
ベタニンは、前記化学式(I)に対応して化学式(III)で表されている構造と、前記化学式(II)に対応して化学式(III’)で表される構造との間で、互変異性として表記できるものである。
【0041】
腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、ベタニンは、ビート中に300~600mg/kg程度含まれているものであり、食品添加物(色素E-162)として使用されている。ベタニンは、ビートの粗抽出物又は精製物として含有されているものであってもよく、市販品(例えば、Betanin (Red Beet extract diluted with Dextrin) 製品コードB0397 東京化成工業株式会社製)であってもよい。ビートの粗抽出物又は精製物の他、ビート例えばそれの塊根の粉砕物、ジュース、若しくはそれらの固体状又は粉末状の乾燥物であってもよい。
【0042】
ベタニンは、赤色配糖体色素であるが、加水分解してグルコース糖鎖を除去したアグリコンであるベタニジンにして用いてもよい。
【0043】
腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、インドール系の環状基であるインドリン環基を有する化合物の別な一例は、下記化学式のように、前記化学式(I)に対応して表記したイソベタニン(化学式(IV))、プレベタニン(化学式(V))、化学式(II)に対応して表記したネオベタニン(化学式(VI))が挙げられる。
【0044】
【0045】
また、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、環状基であるピロリン環基を有する化合物であるベタキサンチン色素の別な一例は、下記化学式のように、前記化学式(I)に対応して表記したもので、L-プロリンのイミン体であるインディカキサンチン(化学式(VII))、trans-4-ヒドロキシ-L-プロリンのイミン体であるポルツラカキサンチンI(化学式(VIII))が挙げられる。
【0046】
【0047】
腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分の別な化合物の好ましい一例として、前記化学式(I)中、R1及びR2は、一方が、置換基で単数若しくは複数置換されていてもよく、炭素数1~18の脂肪族炭化水素基で、他方が、孤立電子対とするものであってもよい。脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基は、水酸基;フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子のようなハロゲン原子;カルボキシル基(-COOH、又は-COO-);アミド基(-CONH2);炭素数1~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和のアルキル基;炭素数1~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和のアルキルオキシ基;炭素数2~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の不飽和のアルケニル基;炭素数2~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の不飽和のアルケニルオキシ基;フェニルメチル基、フェネチル基のようなアラルキル基;フェニル基;4-ヒドロキシフェニル基のようなヒドロキシフェニル基;3,4-ジヒドロキシフェニル基のようなジヒドロキシフェニル基;メチルスルフィニル基のような炭素数1~18で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和又は不飽和のアルキルスルフィニル基が、挙げられる。
【0048】
また、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分として、別な化合物の好ましい一例は、前記化学式(II)中、R3及びR4につき、一方が、前記R1又は前記R2と同じく前記脂肪族炭化水素基で、他方が、水素原子を示すものが、挙げられる。
【0049】
前記化学式(I)及び前記化学式(II)で表され前記脂肪族炭化水素基を有する化合物であるベタキサンチン色素の別な一例は、下記化学式のように、前記化学式(I)に対応して表記したもので、L-チロシンのイミン体であるポルツラカキサンチンII(化学式(IX))、グリシンのイミン体であるポルツラカキサンチンIII(化学式(X))のようなポルツラカキサンチンや、ブルガキサンチンI(化学式(XI))、ブルガキサンチンII(化学式(XII))のようなブルガキサンチンや、ミラキサンチンI(化学式(XIII))、ミラキサンチンII(化学式(XIV))、ミラキサンチンIII(化学式(XV))、ミラキサンチンV(化学式(XVI))のようなミラキサンチンが挙げられる。
【0050】
【0051】
腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするためのこれら有効成分は、前記化学式(I)又は前記化学式(II)で表される色素であれば、立体異性体であってもよく互変異性体であってもよい。化学式(III)~(XVI)で例示される前記ベタレイン類が、エナンチオマー、そのラセミ混合物又はエナンチオマーの非等量混合物、ジアステレオマー、そのジアステレオマー混合物、若しくはそれらの混合物であってもよい。
【0052】
化学式(III)~(XVI)で例示される前記ベタレイン類は、ビートジュースから抽出され、必要に応じて精製され、有効成分の単一組成又は複合組成にして用いられるものであってもよい。
【0053】
この有効成分は、前記化学式(I)又は前記化学式(II)で表される色素の薬学的に許容されるアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩であってもよく、塩酸塩・硫酸塩・硝酸塩・酢酸塩・クエン酸塩・酒石酸塩・メタンスルホン酸塩・トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩、アミノ酸との塩であってもよい。
【0054】
この有効成分は、前記化学式(I)及び/又は前記化学式(II)で表される色素やその塩に対する水和物であってもよい。
【0055】
腸の炎症改善用成分は、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするためのこれら有効成分と共に、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をする他の有効成分を含んでいてもよく、消炎鎮痛剤や解熱鎮痛剤を含んでいてもよい。
【0056】
腸の炎症改善用成分は、例えば十二指腸炎、小腸炎、大腸炎、直腸炎のような腸炎、中でも炎症性大腸炎、過敏性大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎、とりわけ潰瘍性大腸炎とクローン病のような腸の炎症の抑制剤、治療剤、機能改善剤、防止剤、予防剤のような治療、乃至予防薬として、有用である。
【0057】
腸の炎症改善用成分を、単体で投与してもよいが、製剤化して投与してもよい。
【0058】
本発明の腸の炎症改善用製剤は、前記の腸の炎症改善用成分と、非毒性で不活性の薬学的に許容しうる賦形剤、例えば固体状、半固体状もしくは液状の希釈剤、分散剤、充填剤及び担体のような製剤成分とを含んでいるものである。この腸の炎症改善用製剤は、前記の賦形剤等と混合することにより、製剤化されている。さらに安定剤、保存剤、pH調整剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料、防腐剤、媒質、生理食塩水、別な薬効を有する薬剤が添加剤として含まれていてもよい。
【0059】
この腸の炎症改善用製剤中、この有効成分として、前記化学式(I)及び/又は前記化学式(II)で表される色素、その薬学的に許容される塩、並びにそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかを、0.001~99.999質量%含んでいる。
【0060】
この腸の炎症改善用製剤の剤形は、例えばエリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、懸濁剤、液剤、腸溶剤、乳剤、硬膏剤、坐剤、散剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、トローチ剤、軟膏剤、ハップ剤、リニメント剤、リモナーデ剤、ローション剤が挙げられる。腸の炎症改善用成分を、水やポリオキシエチレン又はその変性物(例えばTween、より具体的にはTween80(東京化成工業株式会社製))のような液状媒体に溶解させてもよく懸濁させてもよく、固体状媒体に分散させたものであってもよい。
【0061】
この腸の炎症改善用製剤は、経口で投与してもよく、静脈注射・点滴で投与してもよく、皮膚に塗布乃至貼付して経皮吸収させてもよい。中でも薬効を強く発現し得る経口投与であることが好ましい。
【0062】
この腸の炎症改善用製剤中、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防のための有効成分として、前記化学式(I)及び/又は前記化学式(II)で表される色素、その薬学的に許容される塩、並びにそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかを、0.001~99.999質量%含んでいる。この腸の炎症改善用製剤中、この有効成分を、患者の体重に対し、0.001~1000mg/kg、好ましくは0.001~100mg/kg、一層好ましくは0.001~10mg/kgとなるように含んでいることが好ましい。
【0063】
この腸の炎症改善用製剤の投与量、用量は、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防のための有効成分の有効性、投与の形態・経路、腸の炎症性疾患の強弱・重篤度、患者の体型・体重・年齢、併用する他の疾患の治療薬の種類や量に応じ、適宜選択される。その投与は、1日1~5回毎日投与してもよく、1日~14日おきに又は2~6週間おきに間欠的に投与してもよい。この腸の炎症改善用製剤は、単回投与よりも1乃至2週間以上連続して投与すると、腸の炎症性疾患の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防の効果が顕著となる。
【0064】
この腸の炎症改善用製剤中、腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防のための有効成分は、腸の炎症性疾患の治療効果が高く、経口投与、静脈投与、経皮投与でも患者の身体に対して安全性に優れ、副作用が少なく、長期間繰り返し使用できるものである。とりわけ、ベタニンは、食品添加物(E番号:E162)として冷菓、飲料等に用いられており、食物アレルギーを起こさず、長年の使用実績によって、安全性が担保されている。
【0065】
この腸の炎症改善用製剤中、炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防のための有効成分の作用機序は、必ずしも明らかでないが、前記化学式(I)又は(II)で表される化合物、例えばベタニンが、抗炎症作用により腸粘膜における炎症を抑制し、抗酸化作用により腸粘膜におけるタイトジャンクションの形成を促進及び/又は脱落を防止し、さらには、腸粘膜の機能を改善し、腸粘膜を維持、及び/又は修復することによって、悪化と寛解とを繰り返す腸の炎症性疾患、例えば炎症性大腸炎の症状緩和及び再燃の予防に用いることができるものと推察される。
【実施例0066】
以下、本発明の腸の炎症改善用成分、及びそれを含む腸の炎症改善用製剤を調製し、薬効について評価した結果を、以下に示す。
【0067】
(調製例1:ベタニンを含有する腸の炎症改善用成分及び腸の炎症改善用製剤の調製)
腸の炎症の抑制、治療、機能改善、防止及び/又は予防をするための有効成分であるベタニン:Betanin (Red Beet extract diluted with Dextrin)製品コードB0397(東京化成工業株式会社製)を、腸の炎症改善用成分に用いた。薬効評価試験の際には、このベタニンをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解して、液状の腸の炎症改善用製剤となる被検物として、各種用量に調製して、用いた。
【0068】
(実施例1.薬効評価試験の動物及びモデル作製方法)
(1-1.薬効評価試験に用いたマウス)
市販のICRマウス(三共ラボサービス株式会社製)の雄の8週齢を、用いた。
【0069】
(1-2.デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎モデル作製方法)
一群当たり4匹ずつの前記マウスに、通常の給餌をしながら、各群毎に飲水として生理食塩水、若しくは2%・3%又は4%DSS含有生理食塩水を飲水投与することによって、腸粘膜上皮細胞の障害を誘発させた。このモデルは、マウスの下痢、下血、体重減少など、ヒトの潰瘍性大腸炎と類似の症状を引き起こすことから、DSSで大腸炎を誘発するモデルである。
各群毎のマウスの体重と、DSS連日飲水投与した経過日数との相関関係を
図1に示す。
図1中、生理食塩水飲水投与群の体重結果に対して、2%~4%DSS含有生理食塩水飲水群について、ターキー検定を行い、「生理食塩水飲水群」に対して、有意差としてp>5%を*、p>1%を**、p>0.1%を***で示した。
【0070】
図1から明らかな通り、「3%又は4%DSS含有生理食塩水投与群」では5日目から体重減少傾向が始まり、10日目で有意に体重減少が認められ、以後14日目まで急激に体重が減少していたが、「生理食塩水又は2%DSS含有生理食塩水投与群」では顕著な体重の減少は認められなかった。
【0071】
なお、後述の通り、
図4(c)に示すように、「3%DSS含有生理食塩水投与群」では粘液を分泌する杯細胞、ホルモンを分泌する内分泌細胞、IL-25を分泌するタフト細胞等からなる襞状に連なった大腸上皮細胞が破壊されている。
【0072】
(実施例2.薬効評価試験I:大腸からの出血・便の観察)
(2-1.薬効評価試験方法I)
実施例1によれば、「3%DSS含有生理食塩水投与群」と「4%DSS含有生理食塩水投与群」とでは、後者が14日目に体重が凡そ半減しており被験動物のダメージが大き過ぎ、前者が後者よりもダメージが小さく被験動物の体力が十分に残存しつつ体重が有意に減少していた。このことから、前者の3%DSS含有生理食塩水を飲水投与してダメージを負荷することにした。
【0073】
一群当たり4匹ずつの前記マウスに各群毎に生理食塩水を飲水投与したうえで、ベタニン未投与群を対照群として「生理食塩水投与群」とし、一方、1日1回午前中の定時に、ベタニン1000mg/kgを腹腔内投与した群を「ベタニン1000mg/kg投与群」とした。
【0074】
同様に、一群当たり4匹ずつの前記マウスに各群毎に3%DSS含有生理食塩水を飲水投与したうえで、生理食塩水を1日1回午前中の定時に腹腔内投与した群を「3%DSS+生理食塩水投与群」とし、1日1回ベタニン1000mg/kgを腹腔内投与した群を「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」とし、1日1回ベタニン1000mg/kgを経口投与した群を「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」とした。
【0075】
(2-2.薬効評価試験結果I)
試験開始日から12日目まで、便と肛門の出血の有無とにより大腸炎の進行を観察した。大腸炎の進行程度として、マウス毎に表1の基準に従い出血・便スコアを求めて数値化した。
【表1】
【0076】
経過日数と、各群毎の出血・便スコアの平均値及び標準偏差との相関関係を
図2に示す。「生理食塩水投与群」を対照として、ターキー検定を行い有意差として、「生理食塩水投与群」に対して、p>5%を*、p>1%を**、p>0.1%を***で示し、「3%DSS含有生理食塩水飲水群」に対して、p>5%を#、p>1%を##、p>0.1%を###で示した。
【0077】
12日目の各マウスの観察結果を表2に示す。
【表2】
【0078】
図2及び表2から明らかな通り、「生理食塩水投与群」と「ベタニン1000mg/kg投与群」とは、試験期間中12日目まで通常便であって出血を確認できなかったが、「3%DSS+生理食塩水投与群」では5日目から軟便乃至液状便であって出血を確認できるようになって急激に大腸炎が悪化した。それに対し「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」及び「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」では、5日目以降で大腸炎が改善され、特に6日目以降に有意に出血・便スコアが改善していた。この試験系では、腹腔内投与よりも経口投与の方が出血・便スコアの改善効果が高いため、経口投与の方が好ましいことを示唆している。「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」の出血・便スコアは7日目以降でも「3%DSS+生理食塩水投与群」の出血・便スコアの約半分となっているということは、ヒトの大腸炎では、軽症~中等症という状態に改善されたことに相当すると考えられる。
【0079】
なお、図示しないが、3%DSS含有生理食塩水を飲水投与したうえで、1日1回ベタニン100mg/kgを経口投与すると、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」に比べ、効果は多少減少するものの、出血・便スコアの減少という比較的良い結果であった。
【0080】
(実施例3.薬効評価試験II:大腸の収縮の観察)
(3-1.薬効評価試験方法II)
実施例2の薬効評価試験Iの12日後の群毎の各マウス(但し、「ベタニン1000mg/kg投与群」は腹腔内投与群及び経口投与群とする)から、大腸・小腸の境目にある盲腸から肛門までの大腸を摘出し、その長さを計測した。大腸の収縮は、収縮長さに応じ、腸の障害を減弱しつつ、腸粘膜の障害の程度を表している。
【0081】
(3-2.薬効評価試験結果II)
群毎に、1匹の大腸を並べた写真を
図3(a)に示す。また、群毎に、4匹のマウスの大腸の長さの平均と標準偏差とを
図3(b)に示す。「3%DSS+生理食塩水投与群」を対照として、ターキー検定による有意差表記は前記と同様である。
【0082】
図3(a)及び(b)から明らかな通り、「3%DSS+生理食塩水投与群」と、「生理食塩水投与群」及び「ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群及び経口投与群」とは有意差があり、「3%DSS+生理食塩水投与群」で大腸がほぼ半分の長さになっていることから大腸炎のよる大腸損傷が大きいのに対し、「生理食塩水投与群」と「ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群及び経口投与群」とはほぼ同等であるからベタニン投与でも悪影響はない。
【0083】
一方、「3%DSS+生理食塩水投与群」と、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」及び「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」とは有意差があり、「生理食塩水投与群」と、「3%DSS+生理食塩水投与群」並びに「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」及び「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」とは有意差があり、「生理食塩水投与群」と、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」及び「3%DSS+ベタニン1000mg/kg経口投与群」とはほぼ同等であるから、腸の障害を減弱しつつ、腸粘膜の機能を改善して、腸粘膜を維持、及び/又は修復していることを示している。
【0084】
(実施例4.薬効評価試験III:大腸粘膜の障害の観察)
(4-1.薬効評価試験方法III)
実施例2の薬効評価試験Iの12日後の群毎の各マウスの夫々4匹(但し、「ベタニン1000mg/kg投与群」は腹腔内投与群のみとする)から、大腸粘膜切片を調製し、それをヘマトキシリン・エオジン色素で染色した。その結果を示す顕微鏡写真を
図4(a)~(d)に示す。
【0085】
(4-2.薬効評価試験結果III)
各群毎の大腸粘膜切片を顕微鏡観察した。大腸粘膜の障害程度として、杯細胞の有り又は欠損と、陰窩構造の有り又は欠損と、粘膜層構造の障害の程度とを、マウス毎に表3の基準に従い、評価してスコア化し、夫々の値を合計し障害スコアとした。合計が0であると障害なしであり、最大スコアは各個体毎に5である。各群毎に、4匹のマウスの大腸の長さの平均と標準偏差とを
図4(e)に示す。
【表3】
【0086】
図4(a)・(b)及び(e)に示すように、「生理食塩水投与群」と「ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」とは、DSSで障害を受けていないことから、「3%DSS+生理食塩水投与群」に対して、有意に少なく、しかも、障害スコアが極めて低かった。一方、同図(c)・(d)及び(e)に示すように、「3%DSS+生理食塩水投与群」は大腸上皮細胞が損傷を受け障害スコアが極めて高かったが、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」では、「3%DSS+生理食塩水投与群」に対して、有意に少なく、しかも、障害スコアが極めて低かった。このことから、ベタイン投与により、大腸粘膜の障害が抑制されていることが示された。
【0087】
(実施例5.薬効評価試験IV:大腸粘膜の炎症抑制の観察)
(5-1.薬効評価試験方法IV)
実施例2の薬効評価試験Iの12日後の群毎の各マウスの夫々4匹(但し、「ベタニン1000mg/kg投与群」は腹腔内投与群のみとする)から、大腸粘膜切片を調製し、それを抗Iba1抗体で処理し蛍光標識二次抗体で処理して抗Iba1抗体を蛍光発色させた。抗Iba1抗体によりマクロファージの増減が分かるから炎症を抑制しているかを判断することができる。
【0088】
(5-2.薬効評価試験結果IV)
図5(a)~(d)は、その結果を示す顕微鏡写真である。
図5から明らかな通り、「生理食塩水投与群」「ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」ではマクロファージが少ないためそれへの抗Iba1抗体の結合による蛍光発色が殆ど認められなかったのに対し、「3%DSS+生理食塩水投与群」ではDSSで誘導された大腸炎の炎症に起因するマクロファージが多いため、それへの抗Iba1抗体の結合による蛍光発色が顕著に認められた。しかし、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」では、抗Iba1抗体の結合による蛍光発色が少なくなくなってベタニンによりマクロファージが減少していた。従って、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」では、大腸炎発症由来のマクロファージが減少していることから、大腸粘膜の炎症が抑制されたことが明らかとなった。
【0089】
(実施例6.薬効評価試験V:大腸粘膜の機能障害抑制の観察)
(6-1.薬効評価試験方法V)
実施例2の薬効評価試験Iの12日後の群毎の各マウスの夫々4匹(但し、「ベタニン1000mg/kg投与群」は腹腔内投与群のみとする)から、大腸粘膜切片を調製し、それを抗Occludin1抗体で処理し蛍光標識二次抗体で処理して抗Occludin1抗体を蛍光発色させた。抗Occludin1抗体により、隣り合う上皮細胞を繋ぎ様々な分子が細胞間を通過するのを防ぐ細胞間結合であるタイトジャンクションがバリアとして存在できているか破壊されてしまったかを判断することができる。
【0090】
(6-2.薬効評価試験結果IV)
図6(a)~(d)は、その結果を示す顕微鏡写真である。
図6から明らかな通り、「生理食塩水投与群」「ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」ではタイトジャンクションが明瞭に観察されたのに対し、「3%DSS+生理食塩水投与群」ではタイトジャンクションが破壊されバリアが無くなっていた。しかし、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」ではタイトジャンクションが明瞭に観察された。従って、「3%DSS+ベタニン1000mg/kg腹腔内投与群」では、DSSの所為で大腸炎発症が誘発されていても、タイトジャンクションが復活していることが観察された。
このことから、ベタニンは、バリアの破壊を防止又は予防し、及び/又はバリアを修復していると推察される。
【0091】
以上のことから、明らかな通り、化学式(I)又は(II)で表される色素、その薬学的に許容される塩、その配糖体若しくはアグリコン、並びにそれらの水和物から選ばれる少なくとも何れかの化合物、例えばベタニンを含有する腸の炎症改善用成分、及びそれを含んでなる腸の炎症改善用製剤は、腸の障害例えば粘膜の脱落や出血を減弱でき、また腸粘膜における炎症を抑制し、さらに腸粘膜におけるタイトジャンクションの形成を促進及び/又は脱落防止をすることができ、それによって、十二指腸炎、小腸炎、大腸炎、直腸炎などの腸の炎症性疾患、中でも炎症性大腸炎、過敏性大腸炎、虚血性大腸炎、感染性大腸炎の治療、機能改善、防止及び/又は予防をして、発症や再燃を抑えたり、腸の障害を減弱しつつ、腸粘膜の炎症を抑制し、腸粘膜の機能を改善して、腸粘膜を維持、及び/又は修復したりすることができることが、明らかとなった。
本発明の腸の炎症改善用成分、及びそれを含んでなる腸の炎症改善用製剤は、腸の炎症性疾患を改善する医薬品、サプリメント、健康食品、健康補助食品、保険機能食品として、又はその原料成分として有用である。