(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034955
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 63/87 20060101AFI20230306BHJP
C08G 63/83 20060101ALI20230306BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20230306BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20230306BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08G63/87
C08G63/83
D01F6/62 306F
D01F6/62 302
C09J167/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141467
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 麻子
(72)【発明者】
【氏名】福林 夢人
【テーマコード(参考)】
4J029
4J040
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB04
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4L035AA05
4L035BB31
4L035JJ04
4L035JJ23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温高湿下での加水分解が抑制され、耐湿熱性に優れるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】1~500ppmの硫黄成分を含有するとともに、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有するポリエステル樹脂である。本発明のポリエステル樹脂は、温度40℃、相対湿度100%、240時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(A)と、温度130℃、相対湿度100%、48時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(B)との比(A/B)が、1.1~4.0である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~500ppmの硫黄成分を含有するとともに、
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有し、
温度40℃、相対湿度100%、240時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(A)と、温度130℃、相対湿度100%、48時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(B)との比(A/B)が、1.1~4.0であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物からなる、繊維。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物からなる、フィルム。
【請求項4】
請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物からなる、成形体。
【請求項5】
請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物からなる、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステル樹脂は、機械的特性、化学的特性に優れており、広範な分野、例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用等のフィルムまたはシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等において使用されている。
【0003】
近年、環境負荷を低減する観点から、ポリエステル樹脂の重合において金属系触媒に代わる有機系触媒を使用することも検討されている。例えば、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系化合物が提案されている(例えば、特許文献1)。有機スルホン酸系化合物は優れた重合活性を有するうえに、これらを用いて製造されたポリエステルは、色調も良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機スルホン酸系化合物を用いて製造されたポリエステル樹脂は、特に高温高湿の環境において加水分解が進行し易く、近年では、耐湿熱性をより向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討の結果、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有するポリエステル樹脂は、有機スルホン酸系化合物を用いて製造されたものであっても、高温高湿下での加水分解の進行が抑制され、耐湿熱性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明のジカルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステル樹脂は、下記(1)~(5)の通りである。
(1)1~500ppmの硫黄成分を含有するとともに、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有し、温度40℃、相対湿度100%、240時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(A)と、温度130℃、相対湿度100%、48時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(B)との比(A/B)が、1.1~4.0であることを特徴とするポリエステル樹脂。
(2)(1)のポリエステル樹脂組成物からなる、繊維。
(3)(1)のポリエステル樹脂組成物からなる、フィルム。
(4)(1)のポリエステル樹脂組成物からなる、成形体。
(5)(1)のポリエステル樹脂組成物からなる、接着剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂は、高温高湿下での加水分解が抑制されるものであり、使用環境の温度が低温から高温へ変動した場合であっても、加水分解の進行が抑制されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のポリエステル樹脂を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、1~500ppmの硫黄成分を含有するとともに、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有する。
【0010】
ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、(無水)フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、(無水)コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、炭素数20~60のダイマー酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、(無水)シトラコン酸、メサコン酸などの脂肪族ジカルボン酸、(無水)ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、乳酸、β-ヒドロキシ酪酸、ε-カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸や、(無水)トリメリット酸、トリメシン酸、(無水)ピロメリット酸などの多官能カルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体を挙げることができる。本発明においては、テレフタル酸を主成分とすることが好ましい。
【0011】
ポリエステルを構成するグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド、あるいはプロピレンオキシド付加物などの芳香族ジオールなどを挙げることができる。さらには、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコール等が挙げられる。本発明においては、エチレングリコールを主成分とすることが好ましい。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂は、硫黄成分を1~500ppmするものであり、5~300ppmであることがより好ましく、10~200ppmであることがさらに好ましく、15~150ppmであることが特に好ましい。硫黄成分は、後述の製造方法において、重合触媒として用いられる、有機スルホン酸系化合物に由来して含有されることが好ましい。
含有量が500ppmを超えると、重合度が低い樹脂となり、分子量が十分に上昇せず、成形性や強度に劣ることがある。さらに、加水分解が進み過ぎて、成形体や繊維等としたときに強度低下が起こることがあり、実用に耐えることができない場合がある。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂は、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有する。
後述の製造方法において、重合触媒として用いられる有機スルホン酸系化合物は、ポリエステルの加水分解を促進する傾向がある。本発明においては、有機スルホン酸系化合物の中和または反応成分として、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を含有することで、加水分解を抑制することができる。特に、使用環境の温度が低温から高温へ変動した場合の加水分解を抑制することができる。
【0014】
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物の合計含有量は、1~1000ppmであることが好ましく、1~700ppmであることがより好ましい。1ppm未満であると、加水分解が進行しやすくなる場合がある。1000ppmを超えると、重合性が悪化する場合がある。
【0015】
アルカリ金属化合物としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カリウム等が挙げられる。
【0016】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
アルカリ金属化合物とアルカリ土類金属化合物のなかでも、反応系への投入を考えた際、エチレングリコールへの溶解性に優れ、加水分解の抑制を一層向上させることから、酢酸塩または水酸化物が好ましい。
【0017】
有機塩基含有化合物としては、例えば、1-メチルイミダゾール、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アンモニア、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンが挙げられる。
なかでも、コスト面や耐加水分解性の観点から、1-メチルイミダゾール、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂は、酸化防止剤を含有してもよい。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂は、着色防止剤を含有してもよい。
着色防止剤としては、例えば、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸、トリメチルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物が挙げられる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂は、結晶核剤を含有してもよい。
結晶核剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、合成ケイ酸及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素等、カルボキシル基の金属塩を有する低分子有機化合物、例えば、オクチル酸、トルイル酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、テレフタル酸、テレフタル酸モノメチルエステル、イソフタル酸、イソフタル酸モノメチルエステル等の金属塩等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂は、温度40℃、相対湿度100%、240時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(A)が70%以上であることが好ましい。極限粘度保持率(A)が上記範囲であることで、例えば、屋外等のような高温高湿にさらされる場合、レトルト包装材としたときに調理済み食品を封入した場合、ホット用PETボトルに用いた場合等においても、加水分解の進行が抑制される指標となる。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂は、より高温での耐加水分解性に優れるものであり、温度130℃、相対湿度100%、48時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(B)が25%以上であることが好ましい。極限粘度保持率(B)が上記範囲であることで、例えば、繊維としたときの精練工程や染色工程、成形体やフィルム、接着剤としたときの加工工程、レトルト包装材に用いた場合のレトルト処理時のような、高温かつ高湿の環境においても加水分解の進行が抑制される指標となる。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂は、使用環境下での温度が変動した場合であっても、耐湿熱性が大きく変化することなく、加水分解の進行が抑制されるものである。
その指標として、温度40℃、相対湿度100%、240時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(A)と、温度130℃、相対湿度100%、48時間の条件で湿熱処理したときの極限粘度保持率(B)との比(A/B)が1.1~4.0であり、1.1~3.5であることが好ましく、1.1~2.5であることがより好ましい。
極限粘度保持率(A)と(B)との比が上記範囲であることで、温度変動がある使用環境においても、加水分解の進行を抑制することができる。
このような使用環境としては、例えば、本発明のポリエステル樹脂を繊維に用いたときに、湯洗い後に精練工程や染色工程に付する場合や高温乾燥を行う場合、またはレトルト包装材のフィルム等に用いたときに調理済み食材を封入した後にレトルト処置をおこなう場合などが挙げられる。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂は、極限粘度が0.45dl/g以上であることが好ましく、0.5dl/g以上であることがより好ましく、0.6~0.8dl/gであることがさらに好ましい。極限粘度が0.45dl/g未満であると、成形体に加工した際に、十分な機械的特性が得られない場合がある。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が0~80℃であることが好ましい。また、結晶融点が150~250℃であることが好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法について、一例を以下に述べる。
例えば、前記のような酸成分とジオール成分を原料とし、常法によって、200~260℃の温度でエステル化またはエステル交換反応を行った後、重合触媒と、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物のいずれか1種類以上の化合物を添加する。そして、減圧下、エステル化物から、過剰のグリコールを留去させながら、重縮合反応を行う。重縮合反応の条件としては、例えば、5hPa以下の減圧下、温度230~280℃が挙げられる。
【0027】
ポリエステル樹脂原料のグリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)とのモル比(G/A)は1.00~2.00が好ましく、1.05~1.50がより好ましい。1.00未満であると、エステル化またはエステル交換反応が十分に進まず、重縮合反応が進みにくくなる場合がある。一方、2.00を超えると、重縮合反応に長時間必要となる場合がある。
【0028】
さらに目的や用途によっては、重縮合反応により得られたポリマーに、酸成分またはジオール成分を添加して、240~280℃の温度で解重合反応を行ってもよい。
【0029】
重合触媒として、有機スルホン酸系化合物を使用する。これにより、得られるポリエステル樹脂に、特定範囲の量で硫黄成分を含有させることができる。
有機スルホン酸系化合物の添加量は、硫黄成分の含有量を上記範囲としやすくするため、ポリエステル樹脂を構成する酸成分1モルに対して、0.1×10-4モル以上とすることが好ましく、1×10-4~20×10-4モルであることがより好ましい。
有機スルホン酸系化合物の添加量が1×10-4モル未満であると、得られるポリエステル樹脂中の硫黄成分が過少となる場合がある。また、20×10-4モルを超えると、得られるポリエステル樹脂中の硫黄成分が多くなり、また、重合中の加水分解や熱分解が促進されて重合性が低下し、分子量が十分に上昇しなかったり、樹脂自体が得られなかったりする場合がある。
【0030】
有機スルホン酸系化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、m-またはp-ベンゼンジスルホン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、o-、m-またはp-スルホ安息香酸、ベンズアルデヒド-o-スルホン酸、アセトフェノン-p-スルホン酸、アセトフェノン-3,5-ジスルホン酸、o-、m-またはp-アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、2-アミノトルエン-3-スルホン酸、フェニルヒドロキシルアミン-3-スルホン酸、フェニルヒドラジン-3-スルホン酸、1-ニトロナフタレン-3-スルホン酸、チオフェノール-4-スルホン酸、アニソール-o-スルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、o-、m-またはp-クロルベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ブロモベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ニトロベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼン-2,4-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-3,5-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-2,5-ジスルホン酸、2-ニトロトルエン-5-スルホン酸、2-ニトロトルエン-4-スルホン酸、2-ニトロトルエン-6-スルホン酸、3-ニトロトルエン-5-スルホン酸、4-ニトロトルエン-2-スルホン酸、3-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、2-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、3-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、5-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、6-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、3,5-ジニトロベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-フルオロベンゼンスルホン酸、4-クロロ-3-メチルベンゼンスルホン酸、2-クロロ-4-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、4-スルホフタル酸、2-スルホ安息香酸無水物、3,4-ジメチル-2-スルホ安息香酸無水物、4-メチル-2-スルホ安息香酸無水物、5-メトキシ-2-スルホ安息香酸無水物、1-スルホナフトエ酸無水物、8-スルホナフトエ酸無水物、3,6-ジスルホフタル酸無水物、4,6-ジスルホイソフタル酸無水物、2,5-ジスルホテレフタル酸無水物、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メチオン酸、シクロペンタンスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸無水物、3-プロパンジスルホン酸、β-スルホプロピオン酸、イセチオン酸、ニチオン酸、ニチオン酸無水物、3-オキシ-1-プロパンスルホン酸、2-クロルエタンスルホン酸、フェニルメタンスルホン酸、β-フェニルエタンスルホン酸、α-フェニルエタンスルホン酸、クロルスルホン酸アンモニウム、ベンゼンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸エチル、5-スルホサリチル酸ジメチル、4-スルホフタル酸トリメチル等、およびこれらの塩等が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩等が好ましい。
【0031】
重合触媒として、金属系触媒を用いない場合には、得られる本発明のポリエステル樹脂中の、金属系触媒由来の金属成分の含有量を少なくすることができる。金属成分の含有量が多いと、透明性に劣ったり、溶融加工時に異物が発生したりする場合がある。金属成分の含有量は、1ppm以下であることが好ましく、0.5ppm以下であることがより好ましく、0ppmであることがさらに好ましい。金属系触媒としては、例えばアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガン、ニッケル、コバルト等の化合物が挙げられる。
【0032】
アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物の添加量は、ポリエステル樹脂を構成する酸成分1モルに対して、0.1×10-4モル以上とすることが好ましく、1×10-4~40×10-4モルであることがより好ましい。これらの化合物の添加量を上記範囲とすることで、得られるポリエステル樹脂中の含有量を好ましい範囲としやすくなる。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、成形体、繊維、シート、フィルム、接着剤、樹脂溶液等が挙げられる。
【実施例0034】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、測定、評価は以下の方法により行った。
【0035】
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒として測定した。
【0036】
(2)ポリエステル樹脂の組成
重水素化クロロホルム/重水素化トリフルオロ酢酸=9/1(質量比)の混合溶媒1mLに10mgの試料を溶解し、日本電子社製のLA-400型NMRにて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピーク積分強度から各ジカルボン酸成分と、各グリコール成分とのモル比を算出した。
【0037】
(3)ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計Diamond DSCを用い、窒素気流中、温度範囲0~280℃、昇温速度20℃/分で測定した。
【0038】
(4)硫黄成分の含有量
ポリエステル樹脂を300℃で溶融成形して直径3cm×厚み1cmの円盤状の成形板とし、リガク社製蛍光X線分析装置 ZSX Primusを用いて、検量線法により定量分析を行った。
【0039】
(5)アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物の含有量
樹脂組成物5gを金属るつぼに入れ、濃硫酸2mlを加え電気炉で灰化する。るつぼ中の灰分を希塩酸水溶液に溶解させ、Thermo FisherScientific社製ICP-AES分析装置(ICAP6500Duo)にて定量を行った。
【0040】
(6)有機塩基化合物の含有量
樹脂組成物1gをクロロホルム10mlとヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)10mlに溶解させ、得られたサンプル溶液をメタノール10mlに滴下した。続いて、沈殿した固形分を濾過して取り除き、減圧乾固させたのち、トリメチルシリル化剤(HMDS/TMCS/ピリジン溶液)10mlを添加し、室温で1時間放置してトリメチルシリル化を行った。内部標準としてジベンジル50μlを添加し、島津製作所製ガスクロマトグラフ(GC-8A)で測定を行った。
【0041】
(7)湿熱処理(40℃)前後の極限粘度保持率
得られたポリエステル樹脂5gと蒸留水200mLを、容量300mLの耐圧容器に入れて、40℃の温度に設定した乾燥機にて240時間加熱をした。上記(1)の方法と同様にして、湿熱処理前の極限粘度と湿熱処理後の極限粘度から、下記式に従って保持率を求めた。
保持率(%)=(湿熱処理後の極限粘度×100)/(湿熱処理前の極限粘度)
【0042】
(8)湿熱処理(130℃)前後の極限粘度保持率
湿熱処理温度を130℃に変更し、上記(7)と同様にして、極限粘度保持率を求めた。
【0043】
[エステル化物の作製]
エステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコール(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化物(テレフタル酸:エチレングリコール=100:111(モル比))を得た。
【0044】
実施例1
〔ポリエステル樹脂〕
加熱溶融したエステル化物を280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を2.0×10-4mol/unitと酢酸リチウムを1.0×10―4mol/unitを添加した。次に反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は、18ppmの触媒由来の硫黄成分を含んでおり、Tgは75.1℃であった。
【0045】
実施例2
加熱溶融したエステル化物を280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を2.0×10-4mol/unitを添加した。次に反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を行い、所定の粘度まで到達したため、反応缶内を常圧に戻し、酢酸リチウムを2.0×10―4mol/unitを添加した。攪拌しながら再度、系の圧力を徐々に減じて10分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は、21ppmの触媒由来の硫黄成分を含んでおり、Tgは76.1℃であった。
【0046】
実施例3
加熱溶融したエステル化物を280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を2.0×10-4mol/unitを添加した。次に反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を行い、所定の粘度まで到達したため、反応缶内を常圧に戻し、酢酸リチウム粉末を4.0×10―4mol/unitを添加し、30分間攪拌を行い、ポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は、20ppmの触媒由来の硫黄成分を含んでおり、Tgは76.5℃であった。
【0047】
実施例4~35、比較例1~3
5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物や有機塩基含有化合物の種類又は添加量を、表1、表2に記載したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。
【0048】
【0049】
【0050】
実施例36
〔ポリエステル樹脂〕
加熱溶融したエステル化物60質量部を250℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、1,4-ブタンジオール(BD)8質量部を投入後、1時間の解重合反応を行った後、重縮合触媒として、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を2.0×10-4mol/unitと酢酸リチウムを2.0×10―4mol/unitを添加した。次に、反応缶の温度を280℃にし、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は21ppmの触媒由来の硫黄成分を含んでおり、Tgは58.4℃であった。
【0051】
実施例37~53、比較例4~7
5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物や有機塩基含有化合物の種類又は添加量を、表1または表2に記載したように変更した以外は、実施例36と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。
【0052】
実施例54
〔ポリエステル樹脂〕
加熱溶融したエステル化物43質量部を280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、ε-カプロラクトン(εCL)4質量部、1,4-ブタンジオール(BD)15質量部を投入後、1時間の解重合反応を行った後、重縮合触媒として、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を2.0×10-4mol/unitと酢酸リチウムを2.0×10―4mol/unitを添加した。次に、反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は19ppmの触媒由来の硫黄成分を含んでおり、Tgは34.6℃であった。
【0053】
実施例1~54、比較例1~7で得られたポリエステル樹脂の組成を表3または表4に、評価結果を表5または表6に示す。
【表3】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
実施例1~54で得られた本発明のポリエステル樹脂は、温度40℃と温度130℃で湿熱処理したときの極限粘度保持率との比が本発明の範囲となり、湿熱処理温度が変動した場合であっても、高温高湿下での加水分解が抑制されており、耐湿熱性に優れるものであった。
【0058】
一方、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、有機塩基含有化合物を含有していない、比較例1~7で得られたポリエステル樹脂は、温度40℃と温度130℃で湿熱処理したときの極限粘度保持率との比が高くなり、湿熱処理温度の変動に耐えうるものではなく、耐湿熱性に劣るものであった。