(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035021
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20230306BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230306BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230306BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20230306BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230306BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K3/22
C08K3/34
C08L67/03
C08K3/04
C08J5/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141597
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】深澤 正寛
(72)【発明者】
【氏名】太田 晃仁
(72)【発明者】
【氏名】林 元基
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA48
4F071AB03
4F071AB18
4F071AB26
4F071AE22
4F071AF15
4F071AF17
4F071AF53
4F071AF54
4F071AH12
4F071AH16
4F071AH17
4F071BB05
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC07
4J002CF161
4J002DA027
4J002DE136
4J002DJ056
4J002FD206
4J002FD207
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、成形品の超音波洗浄に際してパーティクルの発生が低減され、また成形品における反りの発生を抑制し得る液晶ポリマー組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、液晶ポリマー100質量部、酸化チタン1~50質量部およびマイカ1~50質量部を含有し、酸化チタンの含有量(質量部)のマイカの含有量(質量部)に対する比率は0.1~10である、液晶ポリマー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー100質量部、酸化チタン1~50質量部およびマイカ1~50質量部を含有し、酸化チタンの含有量(質量部)のマイカの含有量(質量部)に対する比率は0.1~10である、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
酸化チタンの平均粒子径は0.5μm以下である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1およびAr
2がそれぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位である、請求項4に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
式(III)で表される繰返し単位は、Ar1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar2が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位である、請求項4または5に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
さらにグラファイトを含む、請求項1~6のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
【請求項9】
成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、およびアンテナからなる群から選択される1種を構成する部品である、請求項8に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波洗浄した際のパーティクル発生が低減されるとともに、成形品の反りの発生が抑制された液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、機械特性、成形性、耐薬品性、ガス遮断性、耐湿性、電気特性などに優れるため、多種多様な分野の部品に用いられている。特に、耐熱性、薄肉成形性に優れることから、精密機器等の電子部品への使用が拡大している。
【0003】
一方、液晶ポリマーの成形品は、超音波洗浄や他部材との摺動によって、樹脂表面が剥離し、毛羽立つ現象(以下、「フィブリル化」と称する)が生じることが知られている。精密機器、特にレンズがあるような光学機器の場合、わずかなゴミや埃が機器性能に影響を与える。例えば、カメラモジュールのような光学機器に用いられる部品においては、小さなゴミ、油分、埃などがレンズに付着すると、カメラモジュールの光学特性を著しく低下させる原因となる。
【0004】
このような光学特性の低下を防ぐ目的で、通常、レンズバレル部、マウントホルダー部、CMOS(イメージセンサー)の枠、シャッター及びシャッターボビン部などのカメラモジュールを構成する部品(以下、「カメラモジュール用部品」とも称する)は、組み立て前に超音波洗浄され、表面に付着している小さなゴミや埃等が除去される。
【0005】
しかしながら、液晶ポリマー組成物からなる成形品は、成形品表面が剥離しやすく、超音波洗浄すると表面が剥離して起毛するフィブリル化が生じやすい。そして、このフィブリル化した部分からは樹脂組成物からなる小さな粉や塵(以下、パーティクルと称する)が発生しやすくなる。そして、発生したパーティクルは、ごく微小であっても、カメラモジュール組立時およびカメラ使用時に異物となり、カメラモジュールの光学特性を著しく低下させるという問題があった。
【0006】
パーティクル発生を抑えた液晶ポリマー組成物として、液晶ポリマーに特定の充填材(タルク、ガラス繊維、カーボンブラックなど)やオレフィン系共重合体などを含有させた樹脂組成物が提案されている(特許文献1~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5826411号
【特許文献2】特開2015-021110号公報
【特許文献3】特開2015-000949号公報
【特許文献4】特開2012-193270号公報
【特許文献5】特開2009-242453号公報
【特許文献6】特開2009-242456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらについては、無機充填材と液晶ポリマーとの濡れ性が悪く、超音波洗浄した際のパーティクル発生抑制効果が不十分であった。また、含有させる充填剤によっては、成形品に反りが生じるという問題があった。
【0009】
したがって、超音波洗浄に際してパーティクルの発生が低減されるとともに、成形品における反りの発生が少ない液晶ポリマー組成物が求められていた。本発明の目的は、成形品の超音波洗浄に際してパーティクルの発生が低減され、また成形品における反りの発生を抑制し得る液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、液晶ポリマーに対して酸化チタンおよびマイカを特定の割合で含有させることにより、液晶ポリマー組成物の成形品を超音波洗浄した際、パーティクル発生が低減されるとともに、反りが改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕液晶ポリマー100質量部、酸化チタン1~50質量部およびマイカ1~50質量部を含有し、酸化チタンの含有量(質量部)のマイカの含有量(質量部)に対する比率は0.1~10である、液晶ポリマー組成物。
〔2〕酸化チタンの平均粒子径は0.5μm以下である、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔3〕液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔4〕液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔5〕式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1およびAr
2がそれぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位である、〔4〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔6〕式(III)で表される繰返し単位は、Ar
1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar
2が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位である、〔4〕または〔5〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔7〕さらにグラファイトを含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
〔9〕成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、およびアンテナからなる群から選択される1種を構成する部品である、〔8〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶ポリマー組成物は、成形品を超音波洗浄した際のパーティクル発生を低減することができるとともに、成形品における反りの発生が抑制されるため、超音波洗浄を必要とする部品、特に電子部品の成形用樹脂として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、反り量の測定のために作成した平面状試験片の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用する液晶ポリマー(以下、LCPとも称する)は、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当該技術分野においてサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に限定されない。
【0015】
異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明における液晶ポリマーは光学的に異方性を示すもの、即ち、直交偏光子の間で検査したときに光を透過させるものである。試料が光学的に異方性であると、たとえ静止状態であっても偏光は透過する。
【0016】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体としては、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、脂肪族ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。このような重合性単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上の重合性単量体を組み合わせてもよい。好適には、少なくとも1種のヒドロキシ基およびカルボキシル基を有する重合性単量体が用いられる。
【0017】
液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体は、前記化合物の1種以上が結合してなるオリゴマー、つまり1種以上の前記化合物から構成されるオリゴマーであってもよい。
【0018】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、3―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度ならびに融点を調節し易いという観点から、4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。
【0019】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、3,4’-ジカルボキシビフェニルおよび4,4”-ジカルボキシターフェニル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性を効果的に高められる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
芳香族ジオールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルおよび2,2’-ジヒドロキシビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物がより好ましい。
【0021】
芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、4-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4-アミノフェノール、N-メチル-4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、3-メチル-4-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルエーテル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルメタン、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルスルフィドおよび2,2’-ジアミノビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度のバランスをとりやすい観点から、4-アミノフェノールが好ましい。
【0023】
芳香族ジアミンの具体例としては、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオールを含有するポリマーを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させてもよい。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸が好ましい。
【0026】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の共重合成分として、ジヒドロキシテレフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸またはこれらのアルキル、アルコキシもしくはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体を含んでいてよい。これらの重合性単量体の使用量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下となるような量であるのが好ましい。
【0027】
本発明において液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える重合性単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの重合性単量体の含有量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下となるような量であるのが好ましい。
【0028】
これらの繰返し単位を組み合わせたポリマーは、単量体の構成や組成比、ポリマー中での各繰返し単位のシークエンス分布によって異方性溶融相を形成するものと異方性溶融相を形成しないものとが存在するが、本発明に用いる液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0029】
本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【化4】
【0030】
さらに、本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)~(IV)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【化5】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
【0031】
ここで、式(III)および式(IV)はそれぞれ、複数種のAr1およびAr2を含み得る。すなわち、式(III)で表される繰返し単位は、ある種類のAr1である繰返し単位と別の種類のAr1である繰返し単位などのような複数の繰返し単位であってよく、同様に、式(IV)で表される繰返し単位は、ある種類のAr2である繰返し単位と別の種類のAr2である繰返し単位などのような複数の繰返し単位であってよい。また、「芳香族基」は、6員の単環または環数2の縮合環である芳香族基を示す。
【0032】
流動性および機械特性に優れる点で、式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1およびAr
2が、それぞれ互いに独立して、下記の式(1)~(4)で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位であることがより好ましい。式(III)で表される繰返し単位は、Ar
1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、かつ、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar
2が式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位であることが特に好ましい。
【化6】
【0033】
本発明に用いる液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体の組み合わせの具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン、
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
6)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
7)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
8)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
9)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
10)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
12)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
13)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
14)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
15)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
17)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
18)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
19)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル /4-アミノフェノール、
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
22)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
23)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
24)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル。
【0034】
これらの中でも、1)、9)、10)、および14)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーが好ましく、9)、10)、および14)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーがより好ましく、パーティクル発生および成形品における反りの発生がより低減されることから、9)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーが特に好ましい。
【0035】
上記の液晶ポリマーは単独で用いてもよく、2種以上の液晶ポリマーの混合物として用いてもよい。
【0036】
本発明で用いられる液晶ポリマーの好ましい態様の一つとしては、下記式(A)~(D)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。
【0037】
【化7】
[式中、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
0.1≦q/(p+q)≦0.9、
8≦q≦34、
10≦r≦25、および
10≦s≦25]
【0038】
以下、本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0039】
本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、重合性単量体を、エステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などに供することにより液晶ポリマーを得ることができる。
【0040】
溶融アシドリシス法は、本発明の液晶ポリマー組成物に用いる液晶ポリマーを製造するのに好ましい方法である。この方法は、最初に重合性単量体を加熱して反応物質の溶融溶液を形成し、次いで重縮合反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0041】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で重合性単量体を反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0042】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用される重合性単量体は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態(低級アシル基)、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。
【0043】
低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。本発明の好ましい実施態様において、前記重合性単量体のアセチル化物を反応に供する。
【0044】
重合性単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に重合性単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0045】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても、重縮合反応は、通常150~400℃、好ましくは250~370℃の温度で、常圧および/または減圧下で行うのがよく、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0046】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0047】
触媒を使用する場合、該触媒の量は重合性単量体全量に対し、好ましくは1~1000ppm、より好ましくは2~100ppmである。
【0048】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、通常、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、他の成分と溶融混練に供される。
【0049】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステルは、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または不活性ガスである窒素やヘリウムなどの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0050】
本発明の液晶ポリマー組成物は上記液晶ポリマーの他に、酸化チタンおよびマイカを含有する。
【0051】
本発明に使用する酸化チタンの結晶構造は、特に限定されないが、ルチル型、アナターゼ型およびブルサイト型からなる群から選択される一種以上のものを用いることができる。なかでも、超音波洗浄した際のパーティクル発生低減効果に優れる点でルチル型およびアナターゼ型のものが好ましい。また、樹脂への分散を良くするためにマグネシウム、カルシウムなど他の金属酸化物がドープされたものであってもよい。
【0052】
本発明に使用する酸化チタンは、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミ系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0053】
酸化チタンの平均粒子径は、0.5μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.03~0.48μm、さらに好ましくは0.05~0.26μm、特に好ましくは0.07~0.25μm、最も好ましくは0.08~0.20μmである。
酸化チタンの平均粒子径が0.5μmを上回ると、パーティクルの発生が低減し難くなる傾向がある。
【0054】
本明細書および特許請求の範囲において、「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱法によって求めることのできる粒子の体積基準累積50%径を意味する。すなわち、レーザー回折散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
【0055】
本発明の液晶ポリマー組成物における酸化チタンの含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して1~50質量部であり、2~40質量部が好ましく、3~30質量部がより好ましく、5~25質量部が特に好ましい。酸化チタンの含有量が1質量部未満であるとパーティクル発生の抑制効果が不十分であり、50質量部超であると流動性が不十分となるうえに、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる。
【0056】
本発明に使用するマイカは、含水ケイ酸アルミニウムカリウムを主成分とし、アルミニウム、カリウムの他に、マグネシウム、ナトリウム、鉄等を含み得るケイ酸塩鉱物の粉砕物であり、白雲母、金雲母、黒雲母、人造雲母等が挙げられる。これらのうち色相が良好であり、入手が容易であるという点で白雲母が好ましい。
【0057】
本発明に使用するマイカは、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよく、結合剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
【0058】
本発明に使用するマイカは、平均粒子径が5~100μmであるものが好ましく、10~80μmであるものがより好ましく、20~60μmであるものが特に好ましい。マイカの平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって求めることのできる粒子の体積基準累積50%径である。
【0059】
本発明の液晶ポリマー組成物におけるマイカの含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して1~50質量部であり、2~40質量部が好ましく、3~30質量部がより好ましく、5~25質量部が特に好ましい。マイカの含有量が1質量部未満であるとパーティクル発生の抑制効果が不十分であり、50質量部超であると流動性が不十分となる。
【0060】
また、本発明の液晶ポリマー組成物における酸化チタンおよびマイカの含有比率(酸化チタンの質量部/マイカの質量部)は、0.1~10であり、好ましくは0.2~5であり、より好ましくは0.3~3.5であり、さらに好ましくは0.4~2.5であり、特に好ましくは0.5~2である。
酸化チタンおよびマイカの含有比率が0.1を下回る場合、パーティクル発生抑制効果が得られず、また、酸化チタンおよびマイカの含有比率が10を上回る場合、反りの改善効果が得られなくなる。
【0061】
本発明の液晶ポリマー組成物には、成形品における反りの発生をより抑制する目的で、さらにグラファイトを含有させてもよい。本発明に使用するグラファイトは、天然グラファイトであってもよく、人造グラファイトであってもよく、それらの2種以上の併用であってもよい。グラファイトは、固定炭素分が高く、酸化ケイ素等の灰分が少なく、結晶性が高いものが好ましい。
【0062】
グラファイトの平均粒子径は、通常5~100μm、好ましくは5~80μm、より好ましくは5~60μmである。グラファイトの平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって求めることのできる粒子の体積基準累積50%径である。
【0063】
グラファイトを含有する場合、その含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、0.1~20質量部、好ましくは1~17質量部、より好ましくは3~15質量部、特に好ましくは5~10質量部である。グラファイトの含有量が0.1質量部を下回ると、さらなる反りの改善効果が得難く、グラファイトの含有量が20質量部を上回ると、流動性が不十分になる傾向がある。
【0064】
本発明の液晶ポリマー組成物には、さらに高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩を含有させてもよい。
高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩の含有量は、0.01~1.3質量部、好ましくは0.03~1.2質量部、より好ましくは0.05~1.0質量部である。高級脂肪酸エステルの含有量が上記下限値以上であると、膨れの発生がさらに抑制され、また高級脂肪酸エステルの含有量が上記上限値以下であると、ブリスタがさらに発生し難い。高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩の含有量が0.01質量部を下回ると、膨れが発生しやすくなり、1.3質量部を上回ると、ブリスタが発生しやすくなる。
【0065】
本発明において使用される高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩の原料となる高級脂肪酸は、好ましくは炭素原子数10以上のものである。そのような高級脂肪酸の例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸等が挙げられる。この中でステアリン酸およびモンタン酸が好ましい。
【0066】
エステルの原料となるアルコールとしては、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、グリセリン、ソルビタン、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、ポリオキシエチレンビスフェノールA等が挙げられる。
【0067】
また、金属塩を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、あるいは亜鉛などが挙げられ、特にアルカリ土類金属が好ましく用いられる。高級脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウムおよびパルミチン酸バリウム等が挙げられる。これらの中でもコストの点および成形品の物性維持の点で、ステアリン酸カルシウムおよびモンタン酸カルシウムが好ましく用いられる。
【0068】
本発明に用いられる高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩は、液晶ポリエステル樹脂組成物との混合を容易にするため、粉末または粒子形状であることが好ましい。
【0069】
本発明の液晶ポリマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0070】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定されず、液晶ポリマー組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、液晶ポリマー100質量部に対する他の樹脂の合計含有量が、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.2~80質量部となる範囲で添加される。
【0071】
本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の繊維状、板状、粒状の無機充填材または有機充填材を含有してよい。
【0072】
本発明の液晶ポリマー組成物が、他の繊維状、板状、粒状の無機充填材または有機充填材を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。これら他の充填材の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0073】
他の繊維状充填材としては、例えば、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0074】
他の板状充填材としては、例えば、カオリン、クレー、バーミキュライト、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0075】
他の粒状充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウムなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0076】
また、本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した以外の他の添加剤を含有することができる。
【0077】
他の添加剤としては、例えば、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0078】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。これら他の添加剤の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0079】
液晶ポリマー、酸化チタンおよびマイカと、所望によりグラファイト、高級脂肪酸エステルまたは高級脂肪酸金属塩、他の樹脂成分、他の繊維状、板状、粒状の無機充填材または有機充填材、他の添加剤などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0080】
このようにして得られた、本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって成形ないし加工され、所望の成形品を得ることができる。
【0081】
液晶ポリマー組成物からなる成形品は、通常、その成形品表面が剥離しやすく、超音波洗浄すると表面が剥離して起毛するフィブリル化が生じやすく、このフィブリル化した部分からは樹脂組成物からなる小さな粉や塵(以下、パーティクルと称する)が発生しやすい。
本発明の液晶ポリマー組成物によると、パーティクルの発生が抑制されるため、その成形品をカメラモジュール等の光学部材における組立時および使用時に異物となることなく、良好な光学特性を得ることができる。
【0082】
また、本発明の液晶ポリマー組成物は、極めて少ない反り量を示すものである。反り量は、以下に記載する反り量測定方法によって測定することができる。
【0083】
〈反り量の定義および測定方法〉
本明細書において、「反り量」とは、射出成形機(例えば日精樹脂株式会社製NEX15-1E)を用いて、後述する条件にて、中央部にスリット状段差を有する平面状試験片(厚さ0.5mm、縦横長さ17mm、中央部スリット状段差の幅3mmおよび厚み0.25mm)を成形し、3次元測定器(例えばキーエンス社製ワンショット3D VR-3000)を用いて、最大ソリ高さから試験片厚み(0.5mm)を差し引いた値を意味する。
【0084】
このように、本発明の液晶ポリマー組成物から構成される成形品は、超音波洗浄した際のパーティクル発生が低減されるとともに、成形品における反りの発生が抑制されるため、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、アンテナなどの電子部品に好適に用いられる。特にカメラモジュールに有用である。
【実施例0085】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の溶融粘度、引張強度、曲げ強度、パーティクル発生数、および反り量の測定は、以下に記載の方法で行った。
【0086】
〈溶融粘度〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1の条件下、試料の結晶融解温度(Tm)+20℃の温度での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0087】
〈引張強度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、ASTM4号ダンベル試験片を作製した。INSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、ASTM D638に準拠して測定した。
【0088】
〈曲げ強度〉
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いてASTM D790に準拠して測定した。
【0089】
〈パーティクル発生数〉
荷重たわみ温度測定に用いた試験片と同じ試験片を、純水50mLを備えた外径50mm、内径45mm、高さ100mmの円筒ガラス容器に、ゲート部が水に浸からないように載置した後、円筒ガラス容器を、水1000mLを備えた縦140mm、横240mm、深さ100mmの超音波洗浄槽((株)エスエヌディ製US-102)に設置した。38kHz、100Wの出力で10分間超音波洗浄を行った後、純水1mL中に含まれる粒子径が2μm以上である粒子〔試験片から剥落した脱落物(パーティクル)〕の数を、パーティクルカウンター(スペクトリス社製LiQuilaz-05)を使用して3回測定した平均値を測定結果とし、500個未満を「〇」、500個以上1000個未満を「△」、1000個以上を「×」と示した。
【0090】
〈反り量〉
射出成形機(日精樹脂株式会社製NEX15-1E)を用いて、表1に記載の条件にて、
図1に示す中央部にスリット状段差を有する平面状試験片(厚さ0.5mm、縦横長さ17mm、中央部スリット状段差の幅3mmおよび厚み0.25mm)を成形した。この試験片を23℃、相対湿度50%の条件で24時間静置した後、3次元測定器(キーエンス社製ワンショット3D VR-3000)を用いて、最大ソリ高さから試験片厚み(0.5mm)を差し引いた値を反り量とした。
【0091】
【0092】
[合成例1(液晶ポリマーの合成)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、パラヒドロキシ安息香酸431g(48モル%)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸196g(16モル%)、テレフタル酸194g(18モル%)およびハイドロキノン129g(18モル%)を総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0093】
窒素ガス雰囲気下に室温~150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマーのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0094】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
酸化チタン1:石原産業(株)製「A-100」(平均粒子径:0.15μm)
酸化チタン2:(株)高純度化学研究所製「TIO20PB」(平均粒子径:0.5μm)
マイカ:ヤマグチマイカ製「AB-25S」
タルク:富士タルク製「RL119」
グラファイト:伊藤黒鉛製「PC-30」
高級脂肪酸エステル:クラリアント ジャパン社製Licowax E flakes powder
【0095】
実施例1~7および比較例1~5
合成例1にて合成したLCP、酸化チタン、マイカ、タルク、グラファイトおよび高級脂肪酸エステルを表1に記載の含有量(質量部)となるように配合し、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、350℃にて溶融混練を行い、液晶ポリマー組成物のペレットを得た。上記の方法により、溶融粘度、引張強度、曲げ強度、パーティクル発生数および反り量を測定した。結果を表1に示す。
【0096】
表1に示すように、実施例1~7の液晶ポリマー組成物はいずれも、粒子径2μm以上のパーティクル数が1000個未満であり、また反り量の少ないものであった。
【0097】
これに対して、比較例1~5の液晶ポリマー組成物は、パーティクルの発生または反り量の少なくとも一方について好ましくない結果となった。
【0098】