(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035084
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】水処理装置の立ち上げ方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230306BHJP
B01D 61/20 20060101ALI20230306BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20230306BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20230306BHJP
【FI】
C02F1/44 J
B01D61/20
B01D65/02 500
C02F1/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141692
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】中居 巧
(72)【発明者】
【氏名】津田 晃彦
【テーマコード(参考)】
4D006
4D025
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006JA67Z
4D006KA01
4D006KB04
4D006KB11
4D006KC21
4D006KD22
4D006KE12P
4D006KE24Q
4D006LA08
4D006PA01
4D006PC02
4D006PC04
4D025AA04
4D025AB18
4D025AB19
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4D025AB21
4D025AB22
4D025AB23
4D025AB28
4D025BA08
4D025BA28
4D025BB04
4D025BB07
4D025CA05
4D025DA04
4D025DA05
4D025DA08
(57)【要約】
【課題】設備コストの上昇を招くことなく、水処理装置の立ち上げ時間を短縮する。
【解決手段】水処理装置1の立ち上げ方法は、膜ろ過装置10が有する複数の膜モジュール11~13のうち一部の膜モジュール11のみへの通水を可能な状態にして、膜ろ過装置10を含む水処理装置1に被処理水を通水する第1の処理を行う工程と、第1の処理の実行中に、膜ろ過装置10に供給される被処理水の一部を試料水として取り出し、試料水に含まれる金属成分を経時的に定量し、その結果に基づいて、第1の処理を終了するか否かを判定する工程と、第1の処理の終了後に、一部の膜モジュール11を交換し、かつ複数の膜モジュール11~13への通水を可能な状態にして、水処理装置1に一次純水を通水する第2の処理を行う工程と、を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並列に接続された複数の膜モジュールを有する膜ろ過装置を含み、被処理水を処理して処理水を生成する水処理装置の立ち上げ方法であって、
前記複数の膜モジュールのうち一部の膜モジュールのみへの通水を可能な状態にして、前記水処理装置に被処理水を通水する第1の処理を行う工程と、
前記第1の処理の実行中に、前記膜ろ過装置に供給される被処理水の一部を試料水として取り出し、該試料水に含まれる金属成分を経時的に定量し、該経時的に定量した結果に基づいて、前記第1の処理を終了するか否かを判定する工程と、
前記第1の処理の終了後に、前記一部の膜モジュールを交換し、かつ前記複数の膜モジュールへの通水を可能な状態にして、前記水処理装置に被処理水を通水する第2の処理を行う工程と、を含む、水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項2】
前記第1の処理を終了するか否かを判定する工程が、前記経時的に定量した結果から、前記試料水中の前記金属成分の濃度の経時変化を算出し、該算出した経時変化に基づいて、前記第1の処理を終了するか否かを判定することを含む、請求項1に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項3】
前記第1の処理を終了するか否かを判定することが、前記試料水中の前記金属成分の濃度が定常状態に達したか否かを判定し、定常状態に達した場合に、前記第1の処理を終了すると判定することを含む、請求項2に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項4】
前記試料水中の前記金属成分の濃度が定常状態に達したか否かを判定することが、前記金属成分の濃度の時系列データのうち時間的に連続する2つのデータが、前記金属成分を定量する際の誤差の範囲内で一致した場合に、前記金属成分の濃度が定常状態に達したと判定することを含む、請求項3に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項5】
前記第2の処理の実行中に、前記膜ろ過装置からの処理水の一部を試料水として取り出し、該試料水に含まれる金属成分を定量し、該定量した結果に基づいて、前記第2の処理から通常運転に移行するか否かを判定する工程をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項6】
前記第1の処理を実行する前に、前記一部の膜モジュールのみへの通水を可能な状態にして、過酸化水素が添加された被処理水を前記水処理装置に通水して該水処理装置を殺菌する工程をさらに含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項7】
前記金属成分を定量することが、前記試料水を多孔質イオン交換体に通水することで前記試料水中の前記金属成分を前記多孔質イオン交換体で捕捉し、該捕捉した金属成分を溶離液に溶離させ、前記溶離液中の前記金属成分を定量することを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【請求項8】
前記水処理装置が、前記被処理水として一次純水を処理して超純水を製造するサブシステムを備えた超純水製造装置であり、前記サブシステムが、前記膜ろ過装置として、互いに並列に接続された複数の限外ろ過膜モジュールを有する限外ろ過膜装置を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の水処理装置の立ち上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置の立ち上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶デバイスの製造プロセスでは、洗浄工程など様々な用途に、不純物が高度に除去された超純水が用いられている。超純水は、一般に、原水(河川水、地下水、工業用水など)を、前処理システム、一次純水システム、および二次純水システム(サブシステム)を有する超純水製造装置で順次処理することで製造されている。このような超純水製造装置では、配管やポンプなどの金属製の部材から金属成分が溶出することが知られており、こうした金属成分は、それが微量であってもデバイスの特性に大きな影響を及ぼすことから、その濃度を厳しく管理することが求められている。近年では、半導体デバイスの急激な高集積化・微細化に伴い、超純水中の金属濃度に対する要求はますます厳しくなっており、金属濃度がpg/Lレベルの超純水が求められている。
【0003】
ところで、超純水製造装置を新設または増設する際には、装置製造時に混入または発生した微粒子などの残留不純物を除去し、要求水質を満たす超純水が得られるまで立ち上げ運転が行われる。コスト削減や稼働率向上のために、この立ち上げに要する時間の短縮が強く求められているが、上述した金属濃度に対する近年の厳しい要求に応えようとするほど、立ち上げ時間が長くなる傾向がある。特に、微粒子などの残留不純物は、サブシステムの最も下流側の限外ろ過(UF)膜装置で捕捉されて除去されるが、捕捉された微粒子から金属成分が溶出することがあり、それにより、要求水質を満たす超純水が得られるまでにさらに長時間を要することがある。これに対し、特許文献1には、通常運転時に使用されるUF膜装置と並列に設置した微粒子捕捉用のUF膜装置に通水し、残留不純物(特に、微粒子)を捕捉して除去した後、通常運転時に使用されるUF膜装置に通水する立ち上げ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、微粒子捕捉用のUF膜装置を設置するためのバイパスラインを増設する必要があるが、このバイパスラインは通常運転時には使用しないため、設備コストの増加につながる。また、超純水製造装置の立ち上げ運転時には、通常運転時に比べて、使用可能な水量が限られることが多く、そうした場合にも対応可能な立ち上げ方法が求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、設備コストの上昇を招くことなく立ち上げ時間を短縮することができる水処理装置の立ち上げ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の水処理装置の立ち上げ方法は、互いに並列に接続された複数の膜モジュールを有する膜ろ過装置を含み、被処理を処理して処理水を生成する水処理装置の立ち上げ方法であって、複数の膜モジュールのうち一部の膜モジュールのみへの通水を可能な状態にして、水処理装置に被処理水を通水する第1の処理を行う工程と、第1の処理の実行中に、膜ろ過装置に供給される被処理水の一部を試料水として取り出し、試料水に含まれる金属成分を経時的に定量し、経時的に定量した結果に基づいて、第1の処理を終了するか否かを判定する工程と、第1の処理の終了後に、一部の膜モジュールを交換し、かつ複数の膜モジュールへの通水を可能な状態にして、水処理装置に被処理水を通水する第2の処理を行う工程と、を含んでいる。
【0008】
このような水処理装置の立ち上げ方法によれば、装置製造時に混入または発生して系内に残留していた微粒子などの残留不純物を、通常運転時に使用される複数の膜モジュールのうち一部の膜モジュールで捕捉した後、その膜モジュールと共に系外に取り除くことができる。そのため、捕捉した微粒子などの残留不純物が系内に留まることで処理水質に悪影響を及ぼすことがなくなり、要求水質を満たす処理水が得られるまでに要する時間を短縮することができる。また、通常運転時に比べて、第1の処理に必要な流量が少なくて済むため、使用可能な水量に制限がある場合にも、水処理装置の立ち上げを無理なく実行することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によれば、設備コストの上昇を招くことなく、水処理装置の立ち上げ時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超純水製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本明細書では、本発明の水処理装置の立ち上げ方法として、超純水製造装置のサブシステムに含まれる限外ろ過膜装置に適用される場合を例示するが、本発明はこれに限定されず、例えば、逆浸透膜装置や精密ろ過膜装置にも適用可能である。
【0012】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る超純水製造装置の構成を示す概略図である。
図1(b)は、本実施形態の超純水製造装置を構成する限外ろ過膜装置の概略構成図である。なお、図示した超純水製造装置の構成は、単なる一例であり、本発明を制限するものではない。
【0013】
超純水製造装置1は、一次純水タンク2と、ポンプ3と、熱交換器4と、紫外線酸化装置5と、イオン交換装置6と、限外ろ過(UF)膜装置10とを有している。これらは、循環ラインL1に直列に接続されて二次純水システム(サブシステム)20を構成し、一次純水システム(図示せず)で製造された一次純水を順次処理して超純水を製造し、その超純水をユースポイント7に供給するものである。
【0014】
一次純水タンク2に貯留された被処理水(一次純水)は、ポンプ3により送出され、熱交換器4に供給される。熱交換器4を通過して温度調節された被処理水は、紫外線酸化装置5に供給されて紫外線を照射され、被処理水中の全有機炭素(TOC)が分解される。その後、被処理水は、イオン交換装置6においてイオン交換処理により金属などが除去され、UF膜装置10において微粒子が除去される。こうして得られた超純水は、循環ラインL1を通じて一次純水タンク2に還流されるが、その一部は、ユースポイント7からの採水要求に応じて、循環ラインL1から分岐した送水ラインL2を通じてユースポイント7に供給される。一次純水タンク2には、一次純水供給ラインL3が接続され、必要に応じて、一次純水システムから一次純水が供給される。循環ラインL1の下流側の端部には、三方弁V1を介してブローラインL4が接続され、三方弁V1は、循環ラインL1の下流側を一次純水タンク2に接続する第1の位置と、ブローラインL4に接続する第2の位置とに切り替え可能である。なお、循環ラインL1の接続先を切り替える手段として、三方弁V1の代わりに、複数の開閉弁(二方弁)が設けられていてもよい。また、循環ラインL1に、イオン交換装置6をバイパスするバイパスラインが設けられていてもよい。
【0015】
一次純水タンク2、ポンプ3、熱交換器4、紫外線酸化装置5、およびイオン交換装置6としては、超純水製造装置のサブシステムにおいて一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、イオン交換装置6としては、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが混床で充填された非再生型混床式イオン交換装置(カートリッジポリッシャー)を使用することができる。なお、この場合、イオン交換装置6は、混床式のイオン交換樹脂(カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合物)がそれぞれに充填された複数の樹脂塔が並列に接続されたものであってもよい。一方、UF膜装置10は、任意の構成を有していてもよいが、本実施形態では、以下のような構成を有している。
【0016】
UF膜装置10は、互いに並列に接続された複数(図示した例では3つ)のUF膜モジュール11~13を有している。各UF膜モジュール11~13は、円筒状のケーシング内に多数の中空糸状のUF膜(以下、「中空糸膜」ともいう)が束ねられて充填され、中空糸膜の外側から被処理水を供給して内側から透過水を取り出す外圧型の中空糸膜モジュールである。また、各UF膜モジュール11~13は、ろ過方法として、被処理水を中空糸膜の膜面に平行に供給し、膜を透過しない被処理水の一部を濃縮水として排出するクロスフロー方式を採用したものである。ただし、各UF膜モジュール11~13は、外圧型の中空糸膜モジュールに限定されず、中空糸膜の内側から被処理水を供給して外側から透過水を取り出す内圧型のものでもよく、ろ過方法として、被処理水の全量をろ過するデッドエンド方式を採用してもよい。また、UF膜は、平膜状のものでもよく、したがって、各UF膜モジュール11~13は、プリーツ型やスパイラル型のものでもよい。
【0017】
各UF膜モジュール11~13は、一次側で、開閉弁V11~V13を介してUF膜装置10の上流側の循環ラインL1に接続され、二次側で、開閉弁V14~V16を介してUF膜装置10の下流側の循環ラインL1に接続されている。また、UF膜モジュール11~13には、UF膜モジュール11~13で分離された濃縮水を流通させて系外に排出する濃縮水ラインL10が接続されている。なお、各UF膜モジュール11~13の二次側には、各UF膜モジュール11~13からの処理水を水質分析のために取り出すためのサンプリングラインL11~L13が接続されている。
【0018】
また、超純水製造装置1には、イオン交換装置6からの処理水中の金属濃度とUF膜装置10からの処理水(超純水)中の金属濃度とを分析するために、イオン交換装置6からの処理水に含まれる金属成分を採取する第1のサンプリング装置8と、UF膜装置10からの処理水(超純水)に含まれる金属成分を採取する第2のサンプリング装置9とが設けられている。
【0019】
各サンプリング装置8,9は、サンプリングラインL5,L6と、サンプリングラインL5,L6に設けられた濃縮カラム8a,9aとから構成されている。サンプリングラインL5は、イオン交換装置6とUF膜装置10との間の循環ラインL1に開閉弁V2を介して接続され、サンプリングラインL6は、UF膜装置10の下流側の循環ラインL1に開閉弁V3を介して接続されている。濃縮カラム8a,9aは、サンプリングラインL5,L6を通じて供給される試料水(イオン交換装置6またはUF膜装置10からの処理水)中の金属成分を捕捉して濃縮するものであり、内部に捕捉部材としての多孔質イオン交換体を備えている。この多孔質イオン交換体としては、例えば、イオン吸着膜(特に、カチオン交換能を有する多孔質膜)を用いることもできるが、より高い空間速度での通水が可能になり、濃縮のための所要時間の短縮が可能になる点で、モノリス状有機多孔質イオン交換体を用いることが好ましい。なお、各サンプリング装置8,9の少なくとも接液部は、非金属製であることが好ましく、例えば、合成樹脂製、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂製やポリプロピレン(PP)製であることが好ましい。
【0020】
ここで、上述したサンプリング装置8,9を用いた処理水中の金属濃度の分析方法について説明する。なお、以下では、第1のサンプリング装置8を用いた処理水中の金属濃度の分析方法について説明するが、第2のサンプリング装置9を用いた場合も同様であることに留意されたい。
【0021】
まず、開閉弁V2を開放し、イオン交換装置6からの処理水の一部を試料水としてサンプリングラインL5に供給して濃縮カラム8aに通水し、試料水中の金属成分を多孔質イオン交換体で捕捉して濃縮する。このときの通水時間(濃縮時間)は、濃縮カラム8aへの通水量にもよるが、分析対象となる金属成分が十分な精度で定量できる程度に濃縮される限り特に限定されず、例えば、数日間である。所定の通水時間が経過したら、開閉弁V2を閉鎖し、濃縮カラム8aへの通水を停止する。そして、サンプリングラインL5から濃縮カラム8aを取り外し、内部に充填された多孔質イオン交換体を回収し、回収した多孔質イオン交換体に捕捉された金属成分を溶離液(例えば、所定の濃度に希釈した硝酸など)に溶離させる。その後、溶離液中の金属成分を定量し、得られた金属量から試料水中の金属濃度を算出する。金属成分の定量方法としては、例えば、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いることができ、試料水中の金属濃度は、得られた金属量を溶離液の濃縮倍率で除した値として算出することができる。
【0022】
ここで分析対象とする金属成分の種類に特に制限はなく、例えば、Na、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Al、Zn、Ni、Cr、およびPbの少なくともいずれかを分析対象とすることができる。例えば、イオン交換樹脂からは、NaおよびCaが溶出し、配管やポンプなどの金属製の部材からは、Al、Cr、Fe、Ni、およびCuが溶出し、UF膜からは、Znが溶出する可能性があることが知られており、必要に応じて、溶出する可能性のある金属成分を分析対象とすることができる。なお、ここでいう金属成分とは、金属イオンと金属粒子(微粒子)の両方の形態を含むことを意味する。
【0023】
こうした金属成分の定量分析は、超純水製造装置1の通常運転時に、安定した水質の超純水をユースポイント7に供給するための運転管理として行われることが好ましい。超純水製造装置1では、製造される超純水が半導体デバイスや液晶デバイスなどの洗浄に使用される場合、上述したように、超純水中の金属濃度を厳しく管理することが求められるが、このときの金属濃度は、イオン交換装置6に充填されたイオン交換樹脂の性能に大きく左右される。すなわち、イオン交換樹脂の性能が低下すると、被処理水に含まれる金属成分がイオン交換装置6で除去されずに超純水中にリークしてしまい、超純水の水質が要求されるレベルを満たさなくなる。そのため、イオン交換樹脂の性能を評価し、それに基づいて、イオン交換樹脂の交換が必要か否かを判断するために、イオン交換装置6からの処理水中の金属濃度の分析結果を用いることができる。また、イオン交換装置6からの処理水中の金属濃度の分析結果と、UF膜装置10からの処理水(超純水)中の金属濃度の分析結果とを比較することで、例えば、ユースポイント7に供給される超純水の水質が要求されるレベルを満たさなくなった場合に、その原因がどこにあるのかを特定することもできる。
【0024】
これに加え、上述した金属成分の定量分析は、超純水製造装置1を新設または増設する際の立ち上げ運転時にも行われる。超純水製造装置1の立ち上げ運転は、サブシステム20の各装置が稼働状態になった後、殺菌洗浄工程、フラッシング工程、通水洗浄工程、および仕上げ工程の順に行われるが、このうち通水洗浄工程を終了するタイミングを判定するために、上述した金属成分の定量分析が行われる。以下、超純水製造装置1の立ち上げ運転の各工程について説明する。
【0025】
(殺菌洗浄工程)
殺菌洗浄工程は、一次純水タンク2に貯留された一次純水に過酸化水素を添加して殺菌水(過酸化水素水)を生成し、生成された殺菌水を循環ラインL1に沿って循環させ、場合によっては、その後、系内を殺菌水に浸漬させる工程である。殺菌洗浄工程が実行されることで、過酸化水素を含む殺菌水がサブシステム20に通水され、サブシステム20が殺菌洗浄される。
【0026】
殺菌洗浄工程では、まず、一次純水タンク2内の一次純水がポンプ3により送出され、ポンプ3の下流側に接続されたリターンライン(図示せず)を通じて、一次純水タンク2に還流される。この状態で、一次純水タンク2とポンプ3との間の循環ラインL1に所定量の過酸化水素を添加し、循環する一次純水と混合させることで、一次純水タンク2内に均一な濃度の殺菌水が調製される。そして、リターンラインの接続を解除した後、一次純水タンク2内の殺菌水を循環ラインL1に沿って循環させることで、殺菌水がサブシステム20に通水され、サブシステム20が殺菌洗浄される。その後、必要に応じて、殺菌水の循環を停止し、系内を殺菌水に浸漬させる。
【0027】
なお、殺菌水に含まれる過酸化水素は、イオン交換装置6に充填されるイオン交換樹脂を劣化させ、その性能を低下させるおそれがある。そのため、殺菌洗浄工程は、イオン交換装置6にイオン交換樹脂を充填する前、すなわち、イオン交換樹脂が充填されていない状態で行われる。あるいは、上述したバイパスラインを通じて殺菌水がイオン交換装置6をバイパスするようになっていれば、殺菌洗浄工程は、イオン交換装置6にイオン交換樹脂を充填した後に行われてもよい。また、殺菌洗浄工程は、UF膜装置10を構成する3つのUF膜モジュール11~13のうち第1のUF膜モジュール11のみにイオン交換装置6からの通水が可能な状態、すなわち、開閉弁V11,V14が開放され、開閉弁V12~V13,V15~V16が閉鎖された状態で行われる。これは、後述する通水洗浄工程において、第1のUF膜モジュール11が、装置製造時に混入または発生して系内に残留する不純物、特に微粒子を捕捉して除去するために用いられるためである。
【0028】
殺菌水中の過酸化水素濃度は、特に限定されるものではないが、0.1~5質量%であることが好ましい。また、殺菌洗浄工程を実施する時間は、殺菌水中の過酸化水素濃度にもよるが、第1のUF膜モジュール11のUF膜を劣化させない程度であれば特に限定されず、例えば、殺菌水の循環時間は、0.5~8時間であり、殺菌水による浸漬時間は、2時間以上である。
【0029】
(フラッシング工程)
フラッシング工程は、殺菌洗浄工程の終了後、サブシステム20内に残存する殺菌水を一次純水で置換する工程である。
【0030】
殺菌洗浄工程が一定時間行われた後、一次純水タンク2内の殺菌水が系外に排出され、一次純水システム(図示せず)から一次純水タンク2に一次純水が供給されて貯留されると、フラッシング工程が開始される。フラッシング工程では、三方弁V1が殺菌洗浄工程での第1の位置から第2の位置に切り替えられ、サブシステム20内の殺菌水は、ポンプ3の作動により通水される一次純水により、循環ラインL1からブローラインL4を通じて系外に押し出される。こうして、サブシステム20内に残存する殺菌水が一次純水で置換される。
【0031】
フラッシング工程は、殺菌水が十分に系外に排出されて一次純水で置換されたことが確認されるまで、すなわち、過酸化水素が系内にほとんど残存していないことが確認されるまで行われる。過酸化水素が系内に残存していないことは、例えば、フラッシング工程の実行中にブローラインL4からの排水中の過酸化水素濃度を検出し、その検出値が所定値(例えば、0.5mg/L)以下になったことで確認することができる。
【0032】
(通水洗浄工程)
通水洗浄工程は、サブシステム20に一次純水を通水して処理し、処理水を循環ラインL1に沿って循環させることで、サブシステム20を通水洗浄する工程である。通水洗浄工程(第1の処理)は、殺菌洗浄工程とフラッシング工程に引き続き、第1のUF膜モジュール11のみにイオン交換装置6からの通水が可能な状態で行われる。
【0033】
過酸化水素が系内にほとんど残存していないことが確認されると、サブシステム20への通水が停止され、フラッシング工程が終了する。そして、イオン交換装置6にイオン交換樹脂を充填した後、あるいは、上述したバイパスラインの接続を解除した後、サブシステム20への通水を再開することで、通水洗浄工程が開始される。通水洗浄工程では、三方弁V1が第1の位置に切り替えられ、サブシステム20で処理された処理水は、循環ラインL1を通じて一次純水タンク2に還流される。こうして、処理水の循環によりサブシステム20が通水洗浄され、その結果、装置製造時に混入または発生して系内に残留していた不純物、特に微粒子が、第1のUF膜モジュール11に捕捉されて除去される。
【0034】
ところで、上述したように、超純水の製造過程では、循環ラインL1を構成する配管やポンプ3などの金属製の部材から金属成分が溶出するが、そのような金属成分はイオン交換装置6で除去されるため、超純水の水質に影響を与えることはほとんどない。一方、イオン交換装置6を構成する樹脂塔は、機械的強度の観点から、一部の部材(例えば、イオン交換樹脂の流出防止用のコレクタスクリーンなど)がステンレス鋼(SUS)などの金属材料から形成されている。そのため、イオン交換装置6自体からも金属成分が溶出する可能性があることが知られている。超純水中の金属濃度に対する近年の厳しい要求を満たすためには、こうしたイオン交換装置6からの金属成分の溶出を抑制することが必要になるが、そのためには、通水洗浄工程を実行することにより、予めイオン交換装置6から金属成分を十分に溶出させておくことが好ましい。すなわち、通水洗浄工程は、イオン交換装置6からの金属成分の溶出がほとんどなくなるまで行われることが好ましい。
【0035】
そこで、本実施形態では、通水洗浄工程の実行中に、第1のサンプリング装置8を用いて上述した金属成分の定量分析が経時的に行われる。そして、その定量分析の結果から、イオン交換装置6からの処理水(すなわち、UF膜装置10に供給される被処理水)中の金属濃度の経時変化が算出され、算出された経時変化に基づいて、通水洗浄工程を終了するか否かが判定される。具体的には、上記金属濃度が定常状態に達したか否かが判定され、定常状態に達した場合に、イオン交換装置6からの金属成分の溶出がほとんどなくなったと判定され、通水洗浄工程を終了すると判定される。
【0036】
このときの所定値は、特に限定されず、分析対象とする金属成分の種類や、製造される超純水の要求水質などに応じて適宜設定される。また、イオン交換装置6からの処理水中の金属濃度が定常状態に達したか否かは、例えば、金属濃度の時系列データのうち時間的に連続する2つのデータを比較し、それらが上述した定量分析における誤差の範囲内で一致したか否かによって判定することができる。すなわち、2つのデータが定量誤差の範囲内で一致した場合に、イオン交換装置6からの処理水中の金属濃度が定常状態に達したと判定することができる。なお、ここで分析対象とする金属成分としては、Fe(鉄)を選択することが好ましい。これは、イオン交換装置6の樹脂塔の金属材料として好ましいSUSからは、他の金属成分と比べて鉄が多く溶出するためである。
【0037】
通水洗浄工程の過程では、第1のUF膜モジュール11に捕捉された微粒子からも金属成分が溶出することがあるが、このような微粒子からの金属成分の溶出は定常的に生じる可能性が高い。その結果、UF膜装置10からの処理水中の金属濃度がより高い値で定常状態に達してしまい、超純水製造装置1の立ち上げの遅れの一因となるおそれがある。しかしながら、本実施形態では、こうした金属成分の溶出の有無にかかわらず、通水洗浄工程の終了後に第1のUF膜モジュール11が交換されることになっている。そのため、第1のUF膜モジュール11に捕捉された微粒子による影響が、その後の超純水製造装置1の立ち上げに悪影響を及ぼすことはない。なお、UF膜装置10からの処理水中の金属濃度の挙動を監視するために、通水洗浄工程の実行中に、第2のサンプリング装置9を用いて上述した金属成分の定量分析を経時的に行ってもよい。
【0038】
(仕上げ工程)
仕上げ工程は、サブシステム20に一次純水を通水して処理し、超純水を製造する工程であり、要求水質を満たす超純水が得られるまで行われる。仕上げ工程(第2の処理)は、以下に示すように、UF膜装置10を構成する3つのUF膜モジュール11~13にイオン交換装置6からの通水が可能な状態で行われる。
【0039】
通水洗浄工程の終了が判定されると、開閉弁V12~V13,V15~V16が開放され、イオン交換装置6から第2および第3のUF膜モジュール12,13への通水が開始されると同時に、開閉弁V11,V14が閉鎖され、第1のUF膜モジュール11への通水が停止される。そして、第1のUF膜モジュール11を交換した後、開閉弁V11,V14が開放されて第1のUF膜モジュール11への通水が再開されることで、仕上げ工程が開始される。仕上げ工程では、通常運転と同様の循環運転が行われ、UF膜装置10からの処理水が循環ラインL1を通じて一次純水タンク2に還流されることで、超純水の精製が促進される。なお、第1のUF膜モジュール11への通水の再開時、第1のUF膜モジュール11からの処理水は、第2および第3のUF膜モジュール12,13からの処理水と同等の水質(金属濃度)になったことが確認されるまで、当該処理水には合流されずに系外に排出される。それぞれの処理水中の金属濃度が同程度になったことは、サンプリングラインL11~L13から採取した処理水中の金属濃度を上述した金属成分の定量分析と同様の手順で分析することで確認することができる。
【0040】
仕上げ工程は、上述したように、要求水質を満たす超純水が得られるまで行われるが、そのために、仕上げ工程の実行中に、第2のサンプリング装置9を用いて上述した金属成分の定量分析が行われ、UF膜装置10からの処理水(超純水)中の金属濃度が算出される。そして、算出された金属濃度に基づいて、仕上げ工程を終了するか否か、すなわち、超純水製造装置1の立ち上げ運転を終了して通常運転に移行可能であるか否かが判定される。具体的には、UF膜装置10からの処理水中の金属濃度が所定値以下になった場合に、仕上げ工程を終了すると判定され、すなわち、超純水製造装置1の立ち上げ運転を終了して通常運転に移行可能であると判定される。このときの所定値は、特に限定されず、分析対象とする金属成分の種類や、製造される超純水の要求水質などに応じて適宜設定される。また、ここで分析対象とする金属成分も特に限定されず、上述した種類の金属成分、すなわち、例えば、Na、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Al、Zn、Ni、Cr、およびPbの少なくともいずれかを分析対象として選択することができる。
【0041】
なお、第1のUF膜モジュール11は、上述したように、通水洗浄工程において捕捉した微粒子から金属成分が溶出するか否かにかかわらず、仕上げ工程に先立って交換されることになる。そのため、第1のUF膜モジュール11としては、その性能が低下していないことが予め確認されたものであれば、超純水製造装置1の組み立て時に必ずしも新品のものが設置されなくてもよい。
【0042】
以上、本実施形態の立ち上げ運転によれば、装置製造時に混入または発生して系内に残留していた不純物、特に微粒子は、第1のUF膜モジュール11で捕捉されて除去されるが、この第1のUF膜モジュール11は、立ち上げ運転の過程で交換されることになっている。すなわち、本実施形態では、通常運転時に使用されるUF膜装置10のうち一部のUF膜モジュール11で微粒子を捕捉した後、そのUF膜モジュール11と共に、捕捉した微粒子を超純水製造装置1の系外に取り除くことができる。そのため、立ち上げ運転時に、UF膜装置10に捕捉された微粒子がそのまま系内に留まることがなくなり、そのような微粒子から金属成分が溶出して処理水質に悪影響を及ぼすことがなくなる。その結果、要求水質を満たす超純水が得られるまでに要する時間を短縮することができる。
【0043】
また、本実施形態の通水洗浄工程は、第1のUF膜モジュール11のみにイオン交換装置6からの通水が可能な状態で行われるため、この工程で必要な流量は、通常運転時の流量(定格流量)に比べて少なくて済む。したがって、例えば、一次純水システムでも同時に立ち上げ運転が行われ、それにより、一次純水システムからの一次純水の供給量が少なく、使用可能な水量に制限がある場合にも、通水洗浄工程を無理なく実行することができる。また、本実施形態の仕上げ工程では、通水洗浄工程において捕捉した微粒子がUF膜装置10から取り除かれているため、定格流量に満たない流量でUF膜装置10に通水しても、十分な処理性能を発揮させることができる。なお、使用可能な水量に余裕がある場合には、より少ない流量で通水洗浄工程を実行した後、定格流量で仕上げ工程を実行してもよい。
【0044】
なお、本実施形態では、UF膜装置10が3つUF膜モジュール11~13から構成されているが、UF膜装置10を構成するUF膜モジュールの数はこれに限定されず、2つであってもよく、あるいは、4つ以上であってもよい。また、UF膜モジュールの数が4つ以上の場合、通水洗浄工程で通水されるUF膜モジュールの数は、4つ以上のUF膜モジュールの全部でない限り、1つに限定されず、立ち上げ運転時に使用可能な水量に応じて2つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 超純水製造装置
2 一次純水タンク
3 ポンプ
4 熱交換器
5 紫外線酸化装置
6 イオン交換装置
7 ユースポイント
8,9 サンプリング装置
8a,9a 濃縮カラム
10 限外ろ過膜装置
11~13 限外ろ過膜モジュール
L1 循環ライン
L2 送水ライン
L3 一次純水供給ライン
L4 ブローライン
L5,L6,L11~L13 サンプリングライン
L10 濃縮水ライン
V1 三方弁
V2,V3,V11~V16 開閉弁