(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035107
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B81B 1/00 20060101AFI20230306BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20230306BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20230306BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230306BHJP
B81C 99/00 20100101ALI20230306BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20230306BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B81B1/00
B29C33/42
B29C33/38
B29C45/26
B81C99/00
B81C3/00
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141726
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】薬丸 康介
【テーマコード(参考)】
3C081
4F202
【Fターム(参考)】
3C081AA15
3C081BA09
3C081BA23
3C081CA21
3C081CA32
3C081CA36
3C081DA10
3C081DA46
3C081EA27
3C081EA29
4F202AR12
4F202CA11
4F202CA27
4F202CB01
4F202CD22
(57)【要約】
【課題】流路溝を有する樹脂基板を用いて低コストにマイクロ流路チップを製造しつつ、樹脂基板の製造時における成形不良を生じにくくする。
【解決手段】マイクロ流路チップ(1)は、一方の面に流路溝(21)を有する樹脂基板(2)と、流路溝(21)を覆うように樹脂基板(2)に接合される被覆材(3)とを備える。樹脂基板(2)における被覆材(3)との接合面(2a)の、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以下で、かつ、山頂点の算術平均曲率Spcが150mm
-1以上500mm
-1以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に流路溝を有する樹脂基板と、
前記流路溝を覆うように前記樹脂基板に接合される被覆材と、を備え、
前記樹脂基板における前記被覆材との接合面の、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以下で、かつ、山頂点の算術平均曲率Spcが150mm-1以上500mm-1以下である、マイクロ流路チップ。
【請求項2】
第一型と第二型とを有する金型内のキャビティ空間に溶融樹脂を注入して一方の面に流路溝を有する樹脂基板を形成する工程と、
前記流路溝を覆うように前記樹脂基板に被覆材を接合する工程と、を含み、
前記樹脂基板を形成する工程に先立ち、前記第一型及び前記第二型における前記キャビティ空間を形成する内面のうち、前記流路溝に対応する凸条部が形成されている部位の周辺の内面を、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以下で、かつ、山頂点の算術平均曲率Spcが250mm-1以上800mm-1以下となるように粗面化する工程をさらに含む、マイクロ流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学工業(特に、医薬品や試薬等の製造に関する医薬品工業)の分野では、マイクロミキサー又はマイクロリアクターと呼ばれる微小容器を用いたマイクロ流路チップの開発が進められている。マイクロ流路チップには、複数のマイクロチャネル(マイクロ流路と繋がるマイクロキャビティ)が設けられている。マイクロチャネルを通じて複数種の流体をマイクロキャビティ内で合流させることで、複数種の流体を混合し、或いは、混合と共に化学反応を生じさせる。
【0003】
このようなマイクロ流路チップとして、例えば特開2015-199340号公報(特許文献1)には、一方の面に流路溝を有する樹脂基板と、流路溝を覆うように樹脂基板に接合される被覆材とを備えるものが開示されている。流路溝を有する樹脂基板は、例えば金型を用いて射出成形によって形成することができ、そのようにすることで、マイクロ流路チップを低コストに製造することができる。
【0004】
ところで、射出成形用の金型の表面は、通常、鏡面仕上げとされており、当該金型を用いて形成される樹脂基板も同様に平滑な表面を有するものとなる。しかし、金型表面が平滑であり過ぎると、かえって成形後の離型性が悪くなって、流路溝の縁部がめくれる等の成形不良が生じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流路溝を有する樹脂基板を用いて低コストにマイクロ流路チップを製造しつつ、樹脂基板の製造時における成形不良を生じにくくすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、樹脂基板における被覆材との接合面における山頂点の算術平均曲率Spcが、樹脂基板の製造時における成形不良の生じやすさに関連していることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明に係るマイクロ流路チップは、
一方の面に流路溝を有する樹脂基板と、
前記流路溝を覆うように前記樹脂基板に接合される被覆材と、を備え、
前記樹脂基板における前記被覆材との接合面の、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以下で、かつ、山頂点の算術平均曲率Spcが150mm-1以上500mm-1以下である。
【0009】
この構成によれば、流路溝を有する樹脂基板を用いて低コストにマイクロ流路チップを製造することができる。この場合において、樹脂基板における被覆材との接合面における山頂点の算術平均曲率Spcを150mm-1以上500mm-1以下とすることで、算術平均高さSa自体は変化させることなく(通常、0.1μm以下)、成形後の離型性を向上させることができる。これにより、低コストにマイクロ流路チップを製造しつつ、樹脂基板の製造時における成形不良を生じにくくすることができる。
【0010】
また、本発明に係るマイクロ流路チップの製造方法は、
第一型と第二型とを有する金型内のキャビティ空間に溶融樹脂を注入して一方の面に流路溝を有する樹脂基板を形成する工程と、
前記流路溝を覆うように前記樹脂基板に被覆材を接合する工程と、を含み、
前記樹脂基板を形成する工程に先立ち、前記第一型及び前記第二型における前記キャビティ空間を形成する内面のうち、前記流路溝に対応する凸条部が形成されている部位の周辺の内面を、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSaが0.1μm以下で、かつ、山頂点の算術平均曲率Spcが250mm-1以上800mm-1以下となるように粗面化する工程をさらに含む。
【0011】
この構成によれば、第一型と第二型とを有する金型を用いて一方の面に流路溝を有する樹脂基板を形成し、その樹脂基板を用いて低コストにマイクロ流路チップを製造することができる。この場合において、第一型又は第二型における流路溝に対応する凸条部が形成されている部位の周辺の内面における山頂点の算術平均曲率Spcを250mm-1以上800mm-1以下とすることで、算術平均高さSa自体は変化させることなく(通常、0.1μm以下)、成形後の離型性を向上させることができる。これにより、低コストにマイクロ流路チップを製造しつつ、樹脂基板の製造時における成形不良を生じにくくすることができる。
【0012】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】マイクロ流路チップの製造用の金型の模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
マイクロ流路チップ及びその製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態のマイクロ流路チップ1は、
図1に示すように、樹脂基板2と、この樹脂基板2に接合される被覆材3とを備えている。
【0015】
樹脂基板2を構成する樹脂は、耐熱性及び透明性に優れたものを適宜選択することができる。樹脂基板2は、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される樹脂で構成することができる。
【0016】
樹脂基板2は、一方の面(本実施形態では、被覆材3との接合面2a)に流路溝21を有する。流路溝21の本数は、1本であっても良いし複数本であっても良い。複数本の流路溝21が設けられる場合には、それらの流路溝21が直列に設けられても良いし並列に設けられても良い。また、流路溝21が分岐を有しても良い。流路溝21は、例えば、幅が1mm以下で、かつ、深さが0.01mm以上0.5mm以下であって良い。このようにすれば、微小なスケールでの実験等を行うことができる。
【0017】
樹脂基板2の外形形状及びサイズは、ハンドリング性や分析適合性(分析手法及び分析装置への適合性)等を考慮して適宜設定することができる。例えば四角形(正方形又は長方形)であれば、例えば一辺10mm以上200mm以下であることが好ましく、10mm以上150mm以下であることがより好ましい。樹脂基板2の外形形状は、その他の多角形、円形、又は楕円形等であっても良い。
【0018】
樹脂基板2は、例えば射出成形によって作製することができる。
【0019】
被覆材3は、例えば樹脂フィルムや樹脂プレート等で構成することができる。被覆材3を構成する樹脂は、耐熱性及び透明性に優れたものを適宜選択することができる。被覆材3は、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される樹脂で構成することができる。なお、被覆材3を構成する樹脂は、樹脂基板2を構成する樹脂と同じ樹脂であっても良いし、異なる樹脂であっても良い。
【0020】
被覆材3の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01mm以上1mm以下とすることができる。0.01mm以上であることにより、接合時にシワ等が発生しにくく、十分に流路溝21を密閉することができる。また、1mm以下であることにより、樹脂基板2の凹凸への良好な追随性を得ることができる。
【0021】
樹脂基板2と被覆材3とは、樹脂基板2の接合面2a(流路溝21が形成されている方の面)と、被覆材3の一方の面である接合面3aとが接するように積層されている。被覆材3は、流路溝21を覆うように樹脂基板2に接合されている。こうして、樹脂基板2と被覆材3との間に、流路溝21からなるマイクロ流路が形成される。このようなマイクロ流路チップ1は、例えば核酸チップ、プロテインチップ、抗体チップ、アプタマーチップ、及び糖タンパクチップ等のバイオチップ、或いは、各種の化学分析用のマイクロ分析チップとして、好適に用いることができる。
【0022】
樹脂基板2と被覆材3との接合は、熱プレス機を用いて、樹脂基板2と被覆材3との積層体を熱圧着することによって行うことができる。或いは、樹脂基板2と被覆材3との接合は、接着剤、粘着剤、又は粘着フィルム等を用いることによって行うこともできる。
【0023】
本実施形態のマイクロ流路チップ1は、樹脂基板2における被覆材3との接合面2aの山頂点の算術平均曲率Spcが150mm-1以上500mm-1以下であることを特徴とする。ここで、山頂点の算術平均曲率Spcは、面粗さを表すパラメータの一種であり、具体的には、表面の山頂点の主曲率の平均を表す。なお、山頂点の算術平均曲率Spcは、ISO25178に準拠して測定することができる。
【0024】
樹脂基板2の接合面2aの山頂点の算術平均曲率Spcが150mm-1未満であると、流路溝21を有する樹脂基板2を射出成形によって作製する際に、表面の平滑性が良過ぎることでかえって離型性が悪くなる。一方、樹脂基板2の接合面2aの山頂点の算術平均曲率Spcを500mm-1超とするには、一般的な射出成形の条件では困難である場合が多い。そこで、樹脂基板2における被覆材3との接合面2aの山頂点の算術平均曲率Spcを150mm-1以上500mm-1以下とすることで、過度に特殊な成形条件を要することなく、射出成形によって作製する際の離型性を向上させることができる。
【0025】
樹脂基板2における被覆材3との接合面2aの山頂点の算術平均曲率Spcは、160mm-1以上であることが好ましく、170mm-1以上であることがより好ましく、180mm-1以上であることがさらに好ましい。また、樹脂基板2における被覆材3との接合面2aの山頂点の算術平均曲率Spcは、480mm-1以下であることが好ましく、460mm-1以下であることがより好ましく、440mm-1以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、本実施形態のマイクロ流路チップ1において、樹脂基板2における被覆材3との接合面2aの算術平均高さSaは0.1μm以下である。ここで、算術平均高さSaは、山頂点の算術平均曲率Spcとは別の、面粗さを表すパラメータの他の一種であり、表面の平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均を表す。なお、算術平均高さSaも、ISO25178に準拠して測定することができる。
【0027】
通常、離型性を向上させることを目的として算術平均高さSaを調整しようとすれば、鏡面仕上げで例えば当初が0.1μm以下であったとすれば、それを例えば0.2μm~0.5μm程度まで大きくすることが一般的である。これに対して、本実施形態のマイクロ流路チップ1では、樹脂基板2における被覆材3との接合面2aにおける山頂点の算術平均曲率Spcを150mm-1以上500mm-1以下とすることで、算術平均高さSa自体は0.1μm以下のまま、成形後の離型性を向上させることができる。
【0028】
本実施形態のマイクロ流路チップ1は、射出成形用の金型5と熱プレス機とを用いて製造することができる。例えば、金型5を用いて樹脂基板2を作製し、その樹脂基板2と別途作製される被覆材3とを熱プレス機を用いて熱圧着して、製造することができる。
【0029】
金型5は、
図2に示すように、凹部51を有する第一型5Aと、凸条部52を有する第二型5Bとを備える。凹部51は、樹脂基板2の外形形状に対応している。凸条部52は、流路溝21の内面形状に対応している。第一型5Aと第二型5Bとが型締めされたとき、凹部51の内面(第一内面5c)と第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)とで囲まれた空間として、キャビティ空間Cが形成される(
図3を参照)。第二型5Bには、キャビティ空間Cに連通するゲート53も形成されている。
【0030】
熱プレス機は、第一ブロックと、当該第一ブロックとの間に樹脂基板2と被覆材3との積層体を挟み込んで圧着する第二ブロックとを備える。第一ブロック及び第二ブロックは、それぞれ内蔵ヒーターを有している。
【0031】
本実施形態のマイクロ流路チップ1の製造方法は、金型調整工程と、成形工程と、組立工程とを含む。これらは、金型調整工程→成形工程→組立工程の順に実行される。
【0032】
金型調整工程は、通常の鏡面仕上げが施された金型5に対して、その表面状態を調整する工程である。本実施形態では、金型調整工程において、第一型5A及び第二型5Bにおけるキャビティ空間Cを形成する内面のうち、流路溝21に対応する凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二型5Bの第二内面5d)を粗面化する処理を行う。粗面化処理は、例えばブラスト処理によって実行することができる。
【0033】
粗面化処理(ブラスト処理)で用いられる砥粒の材質は、特に限定されないが、例えばアルミナ、炭化珪素、ジルコニア、ガラス、ナイロン、ステンレス等を好ましく用いることができる。砥粒の平均粒径は、特に限定されないが、例えば20μm以下とすることができる。また、粗面化処理(ブラスト処理)時の砥粒の吐出圧力は、特に限定されないが、例えば0.01MPa以上0.6MPa以下とすることができる。
【0034】
このような粗面化処理を行うことで、第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)の山頂点の算術平均曲率Spcが250mm-1以上800mm-1以下となるように調整することができる。このとき、当該部位の算術平均高さSaを0.1μm以下としたまま、山頂点の算術平均曲率Spcが250mm-1以上800mm-1以下とすることができる。なお、山頂点の算術平均曲率Spc及び算術平均高さSaは、ISO25178に準拠して測定することができる。
【0035】
第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)の山頂点の算術平均曲率Spcは、260mm-1以上であることが好ましく、270mm-1以上であることがより好ましく、280mm-1以上であることがさらに好ましい。また、第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)の山頂点の算術平均曲率Spcは、780mm-1以下であることが好ましく、760mm-1以下であることがより好ましく、740mm-1以下であることがさらに好ましい。
【0036】
第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)の山頂点の算術平均曲率Spcが250mm-1未満であると、後続の成形工程において型開きする際に、表面の平滑性が良過ぎることでかえって離型性が悪くなる。一方、第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)の山頂点の算術平均曲率Spcを800mm-1超とするには、一般的な粗面化処理(ブラスト処理)の条件では困難である場合が多い。そこで、第二型5Bにおける凸条部52が形成されている部位の周辺の内面(第二内面5d)の山頂点の算術平均曲率Spcを250mm-1以上800mm-1以下とすることで、過度に特殊な粗面化処理(ブラスト処理)条件を要することなく、成形後の離型性を向上させることができる。
【0037】
成形工程は、金型5を用いて、一方の面に流路溝21を有する樹脂基板2を形成する工程である。成形工程では、
図3に示すように、第一型5Aと第二型5Bとを型締めし、それらの間に形成されるキャビティ空間Cに、ゲート53から溶融樹脂を注入する。冷却後、型開きすると、
図4に示すように、第一型5Aの凹部51に対応する外形を有するとともに、第二型5Bの凸条部52に対応する内面を有する流路溝21が一方の面に形成された樹脂基板2が得られる。このとき、上述したように、先行する金型調整工程において第二型5Bに所定の粗面化処理(ブラスト処理)が施されているので、金型5からの樹脂基板2の離型性が良好であり、成形不良が生じにくい。
【0038】
組立工程は、成形工程で作製された樹脂基板2と別途作製された被覆材3とを組み立てる工程である。組立工程では、まず
図5に示すように、流路溝21を覆うように樹脂基板2に被覆材3を積層する。その後、その積層体を熱プレス機にかけて、樹脂基板2と被覆材3とを熱圧着することにより、それらを接合する。こうして、
図1に示すマイクロ流路チップ1を良好に製造することができる。
【0039】
以下、本実施形態のマイクロ流路チップ1について、実施例及び比較例を示してより詳細に説明する。但し、以下の実施例及び比較例によって本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0040】
[比較例1]
クロムモリブデン系ステンレス鋼を材質とする射出成形用の金型を準備した。この金型のキャビティ空間を形成する内面について、算術平均高さSa、最大高さSz、表面性状のアスペクト比Str、山頂点の算術平均曲率Spc、及び界面の展開面積比Sdrを測定した。これらは、キーエンス社製レーザー顕微鏡VK-X1100を用いて、ISO25178に準拠して測定した。なお、金型上の15点についてそれぞれ測定し、それらの平均値を測定値とした。
【0041】
また、その金型を用いて射出成形を行い、流路溝を有する樹脂基板を作製した。型開きして樹脂基板を取り出したところ、樹脂基板における流路溝の縁部にめくれが生じてしまっていること(離型不良)が確認された。得られた樹脂基板における流路溝が形成されている側の表面について、算術平均高さSa、最大高さSz、表面性状のアスペクト比Str、山頂点の算術平均曲率Spc、及び界面の展開面積比Sdrを測定した。これらの測定条件に関しては、上述した金型についてのものと同じである。
【0042】
[実施例1]
比較例1の金型に対して、表面処理として、不二製作所製のGMT処理装置によりブラスト処理を行い、表面を粗面化した。この表面処理後の金型のキャビティ空間を形成する内面について、比較例1と同様に、各種測定を行った。また、その金型を用いて射出成形を行い、樹脂基板を作製した。型開きして樹脂基板を取り出したところ、樹脂基板の離型性は良好であった。得られた樹脂基板における流路溝が形成されている側の表面についても、同様に、各種測定を行った。
【0043】
[実施例2]
クロムバナジウムモリブデン系ステンレス鋼を材質とする射出成形用の金型を準備し、この金型に対して実施例1と同様の条件で表面処理を行った。この表面処理後の金型のキャビティ空間を形成する内面について、比較例1と同様に、各種測定を行った。また、その金型を用いて射出成形を行い、樹脂基板を作製した。型開きして樹脂基板を取り出したところ、樹脂基板の離型性は極めて良好であった。得られた樹脂基板における流路溝が形成されている側の表面についても、同様に、各種測定を行った。
【0044】
これらの結果を下記の表に示す。
【0045】
【0046】
これらのことから、金型表面の山頂点の算術平均曲率Spcが250mm-1以上800mm-1以下となるように調整することで、その金型を用いた射出成形によって得られる樹脂基板の離型性を向上させ得ることが確認された。また、樹脂基板を中心に見れば、得られる樹脂基板表面の山頂点の算術平均曲率Spcが150mm-1以上500mm-1以下であることで、射出成形後の金型からの離型性が向上され得ることが確認された。これらの場合において、金型表面及び樹脂基板表面のいずれにおいても、算術平均高さSaは、通常と何ら変わらず0.1μm以下を維持していることが確認された。
【0047】
以上、マイクロ流路チップ及びその製造方法について、具体的な実施形態並びに実施例及び比較例を示して詳細に説明したが、本発明はそれに限定されるものではない。本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 マイクロ流路チップ
2 樹脂基板
2a 接合面
3 被覆材
3a 接合面
5 金型
5A 第一型
5B 第二型
5c 第一内面
5d 第二内面
21 流路溝
51 凹部
52 凸条部
53 ゲート
C キャビティ空間