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特開2023-35210セメント系材料の鉛直変位計測用治具及び鉛直変位計測方法
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  • 特開-セメント系材料の鉛直変位計測用治具及び鉛直変位計測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035210
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】セメント系材料の鉛直変位計測用治具及び鉛直変位計測方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/06 20060101AFI20230306BHJP
   E02D 13/02 20060101ALI20230306BHJP
   E02D 5/16 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D13/02
E02D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141869
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595067442
【氏名又は名称】システム計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】實松 俊明
(72)【発明者】
【氏名】浅野 利三郎
(72)【発明者】
【氏名】熊切 久雄
(72)【発明者】
【氏名】堀井 隆
(72)【発明者】
【氏名】松本 修治
(72)【発明者】
【氏名】小座間 琢也
(72)【発明者】
【氏名】皆川 清武
【テーマコード(参考)】
2D049
2D050
【Fターム(参考)】
2D049GE01
2D050EE19
(57)【要約】
【課題】セメント系材料の鉛直変位を計測する。
【解決手段】セメント系材料1の鉛直変位計測用治具100は、芯材2の挿入方向に沿って芯材2に取り付けられる外管10と、外管10に移動自在に挿入され、外管10から突出する先端部21が未固化のセメント系材料1に貫入される棒状部材20と、外管10の先端部11と棒状部材20の先端部21とに亘って設けられ、棒状部材20をセメント系材料1から縁切る縁切り部材30と、を備え、セメント系材料1の固化に伴って棒状部材20の先端部21がセメント系材料1に付着し、棒状部材20の鉛直変位がセメント系材料1の鉛直変位として計測される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中におけるセメント系材料と、前記セメント系材料に挿入された芯材と、を備える地中構造物における前記セメント系材料の鉛直変位計測に用いられる治具であって、
前記芯材の挿入方向に沿って前記芯材に取り付けられる外管と、
前記外管に移動自在に挿入され、前記外管から突出する先端部が未固化の前記セメント系材料に貫入される棒状部材と、
前記外管の先端部と前記棒状部材の前記先端部とに亘って設けられ、前記棒状部材を前記セメント系材料から縁切る縁切り部材と、を備え、
前記セメント系材料の固化に伴って前記棒状部材の前記先端部が前記セメント系材料に付着し、前記棒状部材の鉛直変位が前記セメント系材料の鉛直変位として計測される
セメント系材料の鉛直変位計測用治具。
【請求項2】
前記棒状部材の前記先端部は、先が尖って形成される、
請求項1に記載のセメント系材料の鉛直変位計測用治具。
【請求項3】
前記外管の内周面と前記棒状部材の外周面との間には充填材が充填されている、
請求項1又は2に記載のセメント系材料の鉛直変位計測用治具。
【請求項4】
前記外管は、直列に連結された複数の管体を備え、
前記複数の管体の各々の両端部には、他の前記管体との連結のための管体連結機構が設けられている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のセメント系材料の鉛直変位計測用治具。
【請求項5】
前記棒状部材は、直列に連結された複数の棒体を備えている、
前記複数の棒体の各々の両端部には、他の前記棒体との連結のための棒体連結機構が設けられている、
請求項1から4のいずれか1項に記載のセメント系材料の鉛直変位計測用治具。
【請求項6】
地中におけるセメント系材料と、前記セメント系材料に挿入された芯材と、を備える地中構造物における前記セメント系材料の鉛直変位を、請求項1から5のいずれか1項に記載の鉛直変位計測用治具を用いて計測する方法であって、
前記外管を、前記芯材の挿入方向に沿って前記芯材に取り付ける取付工程と、
前記芯材を、前記地中における未固化の前記セメント系材料に挿入する芯材挿入工程と、
前記棒状部材を前記外管に対して相対移動させ、前記棒状部材の前記先端部を未固化の前記セメント系材料に貫入する棒状部材貫入工程と、
前記セメント系材料の固化後、前記棒状部材の鉛直変位を前記セメント系材料の鉛直変位として計測する計測工程と、を備える、
セメント系材料の鉛直変位計測方法。
【請求項7】
前記取付工程において、前記鉛直変位計測用治具を複数用意し、前記複数の鉛直変位計測用治具における各々の前記外管を前記芯材に取り付け、
前記棒状部材貫入工程において、前記複数の鉛直変位計測用治具における各々の前記棒状部材の前記先端部を、深度が異なるように未固化の前記セメント系材料に貫入し、
前記計測工程において、前記複数の鉛直変位計測用治具における各々の前記棒状部材の鉛直変位を、異なる深度での前記セメント系材料の鉛直変位として計測する、
請求項6に記載のセメント系材料の鉛直変位計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系材料の鉛直変位計測用治具及び鉛直変位計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山留め壁等の地中構造物は、掘削、切梁・地盤アンカー等の支保工の設置、及び地上に構築される構造物の重量により鉛直・水平方向に変位することがあり、その場合に地中構造物の変位を計測することが求められている。例えば特許文献1には、ソイルセメント壁と芯材とからなる山留め壁の面外水平変位を計測する方法が開示されている。特許文献1に開示された方法では、複数の検知部が予め取り付けられた芯材を、地中に形成された未固化のソイルセメント壁に打ち込み、山留め壁を構築すると共に、検知部を用いて、山留め壁の面外水平変位を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-197082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法では、検知部が芯材に取り付けられており、検知部により計測される変位は、芯材の変位である。
【0005】
しかしながら、一体となるように施工したソイルセメント壁は、構造物の重量等により、セメント系材料と芯材との間の付着が切れることがある。特許文献1に開示された方法は山留め壁の水平変位の計測であるため、水平方向の計測においては、セメント系材料と芯材の付着切れは、水平方向計測結果に大きな影響を及ぼさないと考えられるが、構造物の重量により生じる鉛直変位計測では、セメント系材料と芯材との付着切れは、セメント系材料と芯材が独立に変位していることになり、影響がある。このため、計測対象が鉛直変位の場合、地中構造物におけるセメント系材料の鉛直変位を、芯材の変位とは独立して計測することが求められている。付着切れを起こすと、芯材に検知部を取り付けた方法では、ソイルセメントの鉛直変位が計測できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セメント系材料の鉛直変位を計測することを目的とする。
【0007】
本発明は、地中におけるセメント系材料と、セメント系材料に挿入された芯材と、を備える地中構造物におけるセメント系材料の鉛直変位計測に用いられる治具であって、芯材の挿入方向に沿って芯材に取り付けられる外管と、外管に移動自在に挿入され、外管から突出する先端部が未固化のセメント系材料に貫入される棒状部材と、外管の先端部と棒状部材の先端部とに亘って設けられ、棒状部材をセメント系材料から縁切る縁切り部材と、を備え、セメント系材料の固化に伴って棒状部材の先端部がセメント系材料に付着し、棒状部材の鉛直変位がセメント系材料の鉛直変位として計測される。
【0008】
また、本発明は、地中におけるセメント系材料と、セメント系材料に挿入された芯材と、を備える地中構造物におけるセメント系材料の鉛直変位を、前述の鉛直変位計測用治具を用いて計測する方法であって、外管を、芯材の挿入方向に沿って芯材に取り付ける取付工程と、芯材を、地中における未固化のセメント系材料に挿入する芯材挿入工程と、棒状部材を外管に対して相対移動させ、棒状部材の先端部を未固化のセメント系材料に貫入する棒状部材貫入工程と、セメント系材料の固化後、棒状部材の鉛直変位をセメント系材料の鉛直変位として計測する計測工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セメント系材料の鉛直変位を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】山留め壁の構築手順を説明するための図である。
図2】本発明の実施形態に係るセメント系材料の鉛直変位計測用治具の概略図であり、図1(c)及び(d)に示すII-II線に沿う断面を示す。
図3】本発明の実施形態に係るセメント系材料の鉛直変位計測方法を説明するための図であり、(a)は、取付工程における鉛直変位計測用治具の断面図であり、(b)は、芯材挿入工程における鉛直変位計測用治具の断面図である。
図4】本発明の実施形態における変形例を説明するための図であり、図2に対応して示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るセメント系材料の鉛直変位計測方法及び鉛直変位計測用治具について、図面を参照して説明する。ここでは、セメント系材料が、山留め壁(地中構造物)Wにおけるソイルセメント1である場合について説明する。山留め壁Wは、例えば地下階を含む構造部の構築工事において地盤の崩落を防ぐために構築される。
【0012】
まず、山留め壁Wの構築手順について、図1を参照して説明する。図1は、山留め壁Wの構築手順を説明するための図である。図1(a)、(c)は、山留め壁Wの構築工程における山留め壁Wの平面図であり、図1(b)、(d)は、それぞれ、図1(a)、(c)に示すIB-IB線、ID-ID線に沿う断面図である。
【0013】
山留め壁Wの構築では、まず、図1(a)、(b)に示すように、地盤を掘削しながらセメントスラリーを地盤中に注入し、原位置土とセメントスラリーとを混合して地盤中でソイルセメント1を生成する。地盤の掘削、セメントスラリーの注入、及び原位置土とセメントスラリーとの混合には、不図示の混錬オーガー機が用いられる。
【0014】
次に、図1(c)、(d)に示すように、未固化のソイルセメント1に芯材2を挿入(建て込み)する。芯材2の挿入には、不図示のクレーンが用いられる。芯材2は、例えばH形鋼である。以上により、山留め壁Wの構築が完了する。山留め壁Wのソイルセメント1は、時間の経過に伴って固化が進行して強度を発現する。
【0015】
地上構造物の重量によりソイルセメント1に作用する鉛直力は、ソイルセメント1の周囲の地盤に流れる。周囲の地盤に鉛直力が流れると、その分、ソイルセメント1自体が負担する鉛直力は、深度が深くなるにつれ小さくなる。そのため、ソイルセメント1の鉛直変位は、深度が深いほど小さい。ソイルセメント1に地上構造物の荷重が作用し、計画通りの鉛直支持性能が得られているかを確認するためには、局所的なソイルセメント1の鉛直変位を把握する必要がある。また、局所的なソイルセメント1の鉛直変位を把握することにより、山留め壁Wの設計モデル構築に寄与し、より合理的な山留め壁Wの設計が可能になる。また、芯材2とソイルセメント1の一体性が保たれているか否かも確認できる。
【0016】
本実施形態は、局所的なソイルセメント1の鉛直変位を計測するために用いられる。
【0017】
図2を参照して、ソイルセメント1の鉛直変位計測用治具100について説明する。図2は、鉛直変位計測用治具100の概略図100であり、図1(c)及び(d)に示すII-II線に沿う断面を示す。なお、図1において、鉛直変位計測用治具100の図示は省略されている。鉛直変位計測用治具100は、芯材2と共にソイルセメント1に挿入される。
【0018】
図2に示すように、鉛直変位計測用治具100は、芯材2の挿入方向に沿って芯材2に取り付けられる外管10と、芯材2の挿入方向に移動自在に外管10に挿入され先端部21が外管10から突出する棒状部材20と、外管10の先端部11と棒状部材20の先端部21とに渡って設けられる縁切り部材30と、を備える。
【0019】
外管10は、直列に連結された複数の管体12を備える。管体12の一方の端部には雌ねじ(管体連結機構)が形成されており、他方の端部には雄ねじ(管体連結機構)が形成されている。隣り合う管体12は、一方の管体12の雌ねじと他方の管体12の雄ねじとの螺合により互いに連結される。そのため、管体12を容易に継ぎ足すことができ、外管10を容易に長くすることができる。したがって、1本の管体12では届かない深度まで外管10の先端部11を到達させることができる。
【0020】
なお、管体12どうしの連結は、雌ねじと雄ねじとの螺合に限られない。例えば、管体12の一端に雌型ソケットを設け他端に雄型ソケットを設け、雌型ソケットと雄型ソケットとを嵌合することにより管体12どうしを連結してもよい。嵌合によらずに管体12どうしを連結してもよい。
【0021】
棒状部材20は、直列に連結された複数の棒体22を備える。棒体22の一方の端部には雌ねじ(棒体連結機構)が形成されており、他方の端部には雄ねじ(棒体連結機構)が形成されている。隣り合う棒体22は、一方の棒体22の雌ねじと他方の棒体22の雄ねじとの螺合により互いに連結されている。したがって、棒体22を容易に継ぎ足すことができ、棒状部材20を容易に長くすることができる。したがって、1本の棒体22では届かない深度まで棒状部材20の先端部21を到達させることができる。
【0022】
なお、棒体22どうしの連結は、雌ねじと雄ねじとの螺合に限られない。例えば、棒体22の一端に雌型ソケットを設け他端に雄型ソケットを設け、雌型ソケットと雄型ソケットとを嵌合することにより棒体22どうしを連結してもよい。嵌合によらずに棒体22どうしを連結してもよい。
【0023】
棒体22は、中実体であってもよいし中空体であってもよい。
【0024】
棒状部材20は、外管10の周囲のソイルセメント1とは外管10によって縁切りされている。そのため、棒状部材20の鉛直変位は、外管10の周囲の固化後のソイルセメント1に拘束されない。
【0025】
棒状部材20の先端部21は、ソイルセメント1に付着する。そのため、先端部21は、ソイルセメント1の固化後、先端部21の周辺のソイルセメント1と共に鉛直に変位する。
【0026】
先端部21は、ソイルセメント1との付着を強化する付着強化部を有している。付着強化部は、例えば、棒状部材20の移動方向に対して直交する方向に棒体22よりも広がって形成されている部分であり、その拡がり方は多様な形が考えられる。これにより、先端部21は、ソイルセメント1から縁切りされにくく、先端部21の周辺のソイルセメント1と共により確実に鉛直に変位することが可能である。なお、先端部21とソイルセメント1との付着を強化する付着強化部は、先端部21の外側面に形成され芯材2の挿入方向に沿う軸周りに延びる溝や突起であってもよく、芯材2の挿入方向に設けられる溝や突起であってもよく、L字型の形状であってもよい。更に、付着強化部は、形態による付着強化だけではなく、接着性を有するものを貼ったり塗布したりすることで付着力を強化しても良い。
【0027】
縁切り部材30は、棒状部材20を囲っており、棒状部材20を縁切り部材30の周囲のソイルセメント1から縁切る。そのため、棒状部材20の鉛直変位は、縁切り部材30の周囲の固化後のソイルセメント1に拘束されない。
【0028】
また、縁切り部材30は、伸縮性を有しており、外管10に対する棒状部材20の先端部21の鉛直変位に伴って、伸び縮みする。そのため、棒状部材20の鉛直変位は、縁切り部材30に拘束されない。縁切り部材30は、例えば、ゴム部材、蛇腹状の部材である。
【0029】
なお、縁切り部材30は、伸縮性を有する部材に限られない。例えば、伸縮性を有しないビニールのような部材であってもよいし、ソイルセメント1との縁切りが可能な塗布材であってもよい。
【0030】
このように、鉛直変位計測用治具100では、外管10と縁切り部材30とによって、棒状部材20がソイルセメント1から縁切りされる。そのため、棒状部材20は、外管10と縁切り部材30の周囲におけるソイルセメント1に拘束されず、棒状部材20の先端部21の周辺におけるソイルセメント1と共に鉛直に変位する。したがって、例えば鉛直変位計測用治具100の上方に設置された変位計3を用いて棒状部材20の鉛直変位を計測することにより、棒状部材20の先端部21が位置する深度でのソイルセメント1の鉛直変位を計測することができる。変位計3としては、例えば、レーザ変位計を用いることができるが、接触式のもの(ストローク型やワイヤー巻き取り型)を用いたり、オートレベルを用いたりすることも可能である。
【0031】
図2に示される例では、棒状部材20は、外管10よりも長く、棒状部材20の後端が外管10から突出しているが、棒状部材20の鉛直変位を計測することができれば棒状部材20の後端が外管10から突出していなくてもよい。
【0032】
例えば、棒状部材20の先端部21は、先が尖って形成される。そのため、鉛直変位計測用治具100の棒状部材20の先端部21をソイルセメント1に貫入する際に、ソイルセメント1から棒状部材20が受ける抵抗を軽減することができる。したがって、棒状部材20の折損を防ぐことができ、かつ、棒状部材20の貫入工程時のソイルセメント1の抵抗を軽減することができる。図2では、先端部21には、表裏面を三角形形状とした板部材が用いられているが、先端部21は、例えば、三角錐形状、円錐形状又は四角錐形状の部材であってもよい。
【0033】
外管10の内周面と棒状部材20の外周面との間には、グリース(充填材)40が充填されている。そのため、外管10の内周面と棒状部材20の外周面との間に未固化のソイルセメント1が流入することを防止することができると共に、外管10の内周面と棒状部材20の外周面との間の抵抗を軽減することができる。したがって、棒状部材20をより確実にソイルセメント1の鉛直変位に追随させることができる。
【0034】
グリース40は、縁切り部材30の内周面と棒状部材20の外周面との間にも充填されている。そのため、未固化のソイルセメント1が縁切り部材30の内周面と棒状部材20の外周面との間に流入することを防止することができると共に、縁切り部材30の内周面と棒状部材20の外周面との間の抵抗を軽減することができる。したがって、棒状部材20をより確実にソイルセメント1の鉛直変位に追随させることができる。
【0035】
グリース40は、外管10の全長に渡って充填されているのではなく、外管10の途中まで充填されていることが好ましい。この場合には、外管10の全長に渡ってグリース40を充填した場合と比較して、グリース40の抵抗を小さくすることができ、棒状部材20をより確実にソイルセメント1の鉛直変位に追随させることができる。グリース40が充填される区間は、例えば、棒状部材20の先端部21から上方に5.5mまでの区間である。
【0036】
グリース40に代えて、水で膨らむ潤滑材又は摩擦力低減材を用いてもよい。
【0037】
次に、鉛直変位計測用治具100を用いたソイルセメント1の鉛直変位計測方法について、図2及び図3を参照して説明する。図3は、ソイルセメント1の鉛直変位計測方法を説明するための図である。図3(a)は、取付工程における鉛直変位計測用治具100の断面図であり、図3(b)は、芯材挿入工程における鉛直変位計測用治具100の断面図である。
【0038】
まず、図3(a)に示すように、鉛直変位計測用治具100の外管10を、芯材2の挿入方向に沿って芯材2に取り付ける(取付工程)。棒状部材20を外管10に挿入した状態で外管10を芯材2に取り付けてもよいし、外管10を芯材2に取り付けた後に棒状部材20を外管10に挿入してもよい。
【0039】
次に、図3(b)に示すように、芯材2を、未固化のソイルセメント1に挿入する(芯材挿入工程)。具体的には、不図示のクレーンを用いて芯材2を吊り上げてソイルセメント1の上方に移動させ、芯材2を下ろしてソイルセメント1に挿入する。芯材2の挿入により、鉛直変位計測用治具100がソイルセメント1に挿入される。外管10は、外管10よりも剛性の高い芯材2に取り付けられた状態でソイルセメント1に挿入されるため、外管10の折損を防ぐことができ、外管10に挿入された棒状部材20の折損を防ぐことができる。
【0040】
芯材2をソイルセメント1に挿入する際には、棒状部材20の先端部21を外管10の先端部11にできるだけ近づけておく。これにより、棒状部材20を外管10により保護することができ、棒状部材20の折損を防止することができる。
【0041】
また、芯材2をソイルセメント1に挿入する際には、棒状部材20の先端部21を芯材2から挿入方向に突出させないでおく。これにより、芯材2の先端に続いて先端部21がソイルセメント1に挿入されるため、先端部21がソイルセメント1から受ける抵抗を軽減することができる。したがって、棒状部材20の折損を防止することができる。
【0042】
芯材2をソイルセメント1に所定深さまで挿入させた後、棒状部材20を外管10に対して相対移動させ、棒状部材20の先端部21を未固化のソイルセメント1に貫入する(棒状部材貫入工程)。これにより、鉛直変位計測用治具100は、ソイルセメント1の変位を計測可能な状態となる(図2参照)。先端部21の貫入は、例えば人力で棒状部材20の後端を押し込むことにより行われる。先端部21の貫入が人力では困難な場合は、例えばジャッキ等の加力装置を用いて押し込む方法も採り得る。
【0043】
先端部21は、例えば先が尖って形成されているため、先端部21をソイルセメント1に貫入する際に、ソイルセメント1から先端部21が受ける抵抗を軽減することができる。したがって、先端部21の折損を防ぐことができる。
【0044】
ソイルセメント1の固化後、棒状部材20の鉛直変位を計測する(計測工程)。外管10と縁切り部材30とによって、棒状部材20の棒体22がソイルセメント1から縁切りされ、棒状部材20の先端部21がソイルセメント1に付着するため、棒状部材20は、先端部21の周辺におけるソイルセメント1と共に鉛直に変位する。したがって、棒状部材20の鉛直変位を、先端部21が位置する深度でのソイルセメント1の鉛直変位として計測することができる。
【0045】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0046】
鉛直変位計測用治具100では、外管10と縁切り部材30とによって、棒状部材20がソイルセメント1から縁切りされる。そのため、棒状部材20は、外管10と縁切り部材30の周囲におけるソイルセメント1に拘束されず、棒状部材20の先端部21の周辺におけるソイルセメント1と共に鉛直に変位する。したがって、棒状部材20の鉛直変位を計測することにより、棒状部材20の先端部21が位置する深度でのソイルセメント1の鉛直変位を計測することができる。
【0047】
また、棒状部材20の先端部21は、先が尖って形成される。そのため、先端部21をソイルセメント1に貫入する際に、ソイルセメント1から先端部21が受ける抵抗を軽減することができる。したがって、先端部21の折損を防ぐことができる。
【0048】
また、外管10の内周面と棒状部材20の外周面との間には充填材が充填されている。そのため、外管10の内周面と棒状部材20の外周面との間に未固化のソイルセメント1が流入することを防止することができると共に、外管10の内周面と棒状部材20の外周面との間の抵抗を軽減することができる。したがって、棒状部材20をより確実にソイルセメント1の鉛直変位に追随させることができる。
【0049】
外管10は、直列に連結された複数の管体12を備えており、複数の管体12の各々の両端部には、他の管体12との連結のための連結機構が設けられている。そのため、管体12の継ぎ足しが容易であり、外管10を容易に長くすることができる。したがって、1本の管体12では届かない深度まで外管10の先端部11を容易に到達させることができる。
【0050】
棒状部材20は、直列に連結された複数の棒体22を備えており、複数の棒体22の各々の両端部には、他の棒体22との連結のための連結機構が設けられている。そのため、棒体22の継ぎ足しが容易であり、棒状部材20を容易に長くすることができる。したがって、1本の棒体22では届かない深度まで棒状部材20の先端部21を容易に到達させることができる。
【0051】
鉛直変位計測方法では、外管10を芯材2の挿入方向に沿って芯材2に取り付け、芯材2を地中における未固化のソイルセメント1に挿入し、棒状部材20を外管10に対して相対移動させ、棒状部材20の先端部21を未固化のソイルセメント1に貫入し、ソイルセメント1の固化後、棒状部材20の鉛直変位をソイルセメント1の鉛直変位として計測する。外管10は、外管10よりも剛性の高い芯材2に取り付けられた状態でソイルセメント1に挿入されるため、外管10の折損を防ぐことができ、外管10に挿入された棒状部材20の折損を防ぐことができる。また、芯材挿入工程では、棒状部材20は、外管10に対して相対移動させられる前の状態であるため、棒状部材20を外管10により保護することができ、棒状部材20の折損を防止することができる。したがって、ソイルセメント1の変位を正確に計測することができる。
【0052】
(変形例)
図4を参照して、本発明の実施形態に係る変形例について説明する。図4は、変形例について説明するための図であり、図2に対応して示す。
【0053】
図4に示すように、変形例では、複数の鉛直変位計測用治具100,101が用いられる。複数の鉛直変位計測用治具100,101における各々の外管10は、芯材2に取り付けられる。各々の棒状部材20の先端部21は、深度が異なるようにソイルセメント1に貫入される。そのため、各々の棒状部材20は、異なる深度でのソイルセメント1の変位に追随して変位する。したがって、各々の棒状部材20の変位を計測することにより、異なる深度でのソイルセメント1の変位を計測することができる。
【0054】
また、変形例では、複数の鉛直変位計測用治具200,201を用いて芯材2の鉛直変位を計測可能である。鉛直変位計測用治具200による芯材2の鉛直変位計測について簡単に説明する。
【0055】
鉛直変位計測用治具100では、棒状部材20の先端部21がソイルセメント1に付着するのに対し、鉛直変位計測用治具200では、棒状部材220の先端部221がソイルセメント1に付着せず、芯材2に接合される。そのため、棒状部材220は、芯材2における先端部221と接合された箇所と共に鉛直に変位する。したがって、棒状部材220の鉛直変位を計測することにより、棒状部材220の先端部221が接合された箇所の深度での芯材2の鉛直変位を計測することができる。
【0056】
鉛直変位計測用治具200の外管210、縁切り部材230及びグリース240は、鉛直変位計測用治具100の外管10、縁切り部材30及びグリース240と同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0057】
鉛直変位計測用治具201の先端部221は、鉛直変位計測用治具200の先端部221の深度とは異なる深度で芯材2に接合されている。そのため、鉛直変位計測用治具201では、鉛直変位計測用治具200とは異なる深度での芯材2の鉛直変位を計測することができる。つまり、鉛直変位計測用治具200,201により、異なる深度での芯材2の変位を計測することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0059】
上記実施形態では、芯材2がH形鋼である場合について説明したが、芯材2は、鋼管杭、既製コンクリート杭体、そしてクロスH形鋼等であってもよい。
【0060】
上記実施形態では、セメント系材料がソイルセメント1である場合について説明しているが、本発明は、セメント系材料がセメントミルクやコンクリートであってもよい。
【0061】
本発明は、未固化状態のセメント系材料と、剛性の高い人工材料(H型鋼、鋼管杭、既製コンクリート杭体等)による芯材と、の組合せ部分においても適用可能である。セメント系材料は、既製コンクリート杭の根固め部や、親杭横矢板工法における親杭(H型鋼)の根固め部に用いられてもよい。また、セメント系材料を、軟弱地盤で使用されるセメント系固化材による地盤改良体とし、芯材を地下躯体とした組合わせにも適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
100,101・・・鉛直変位計測用治具
1・・・ソイルセメント(セメント系材料)
2・・・芯材
10・・・外管
11・・・外管の先端部
12・・・管体
20・・・棒状部材
21・・・棒状部材の先端部
22・・・棒体
30・・・縁切り部材
40・・・グリース(充填材)
W・・・山留め壁(地中構造物)
図1
図2
図3
図4