IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧 ▶ 株式会社サイフューズの特許一覧

<>
  • 特開-管状皮膚培養物 図1
  • 特開-管状皮膚培養物 図2
  • 特開-管状皮膚培養物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035224
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】管状皮膚培養物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230306BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141891
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(71)【出願人】
【識別番号】511155187
【氏名又は名称】株式会社サイフューズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】井上 大悟
(72)【発明者】
【氏名】堀場 聡
(72)【発明者】
【氏名】八谷 有宇子
(72)【発明者】
【氏名】鍛治山 咲良
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 蓉子
(72)【発明者】
【氏名】國富 芳博
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC50
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、より物理的強度が強く、かつ重力方向に対する頂端-基底軸方向を、実際の皮膚と同方向となるようにして培養された培養皮膚モデルを提供することを目的とする。
【解決手段】真皮層と表皮層とが重層されて管状に形成された皮膚培養物を提供することに依る。かかる皮膚培養物は、製造にあたり、管腔方向を重力方向に一致させることで、重力方向に対する頂端-基底軸方向を、実際の皮膚と同方向とすることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮線維芽細胞を含む真皮層と、表皮ケラチノサイトを含む表皮層を含み、真皮層と表皮層とが重層されている、管状皮膚培養物。
【請求項2】
真皮層が内側に配置され、表皮層が外側に配置される、請求項1に記載の管状皮膚培養物。
【請求項3】
真皮線維芽細胞の密度が、1.4×103~2×106細胞/cm3である、請求項1又は2に記載の管状皮膚培養物。
【請求項4】
前記管状皮膚培養物の内側に、培養液を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の管状皮膚培養物。
【請求項5】
前記管状皮膚培養物が、管内腔に前記培養液が浸透された培養液吸収・保水体を含む、請求項4に記載の管状皮膚培養物。
【請求項6】
前記培養液吸収・保水体が、網状体あるいは有孔被覆材内に配置される、請求項5に記載の管状皮膚培養物。
【請求項7】
前記管状皮膚培養物の内側が、中空である、請求項1~3のいずれか一項に記載の管状皮膚培養物。
【請求項8】
以下の工程:
管状真皮培養物の外側にケラチノサイトを播種し、そしてケラチノサイトが播種された側を気相となるように空気と接触させ、内側を培地と接触させて培養することを含む、管状皮膚培養物の製造方法。
【請求項9】
管状真皮培養物の外側にケラチノサイトを播種し、管状真皮培養物の管腔に培地を循環させて培養する工程を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記培養が、管状真皮培養物の管路方向を重力方向に略平行にして培養する、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記管状真皮培養物が、以下の工程:
真皮線維芽細胞をスフェロイド形成用のマイクロプレート中で培養して、スフェロイドを取得し、そして複数のスフェロイドを管状に成形して培養して、管状真皮培養物を取得することにより得られる、請求項8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、管状皮膚培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮層と表皮層とが重層されて管状に形成された皮膚培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の解析にはこれまで動物試験が多く用いられてきたが、動物を利用しない手法として、培養皮膚モデルを用いて解析が行われてきている。培養皮膚モデルは、化粧品や皮膚へ塗布する薬剤の安全性試験や基礎研究などで用いられている。培養皮膚モデルは、表皮ケラチノサイトから表皮層のみを形成させた表皮モデルと、真皮線維芽細胞から真皮層を、表皮ケラチノサイトから表皮層を形成させた皮膚モデルとに大別される。培養皮膚モデルにはさらに表皮層又は真皮層に含まれる様々な細胞、例えばメラノサイトなどや、脂肪細胞が配置されるように調製することができる(特許文献1:特開2010-193822号公報、特許文献2:特開2012-235921号公報)。さらに、培養皮膚モデルの厚さを提供するために、基底部に凹凸を形成することなどが行われている(特許文献3:国際公開第2017/222065号)。表皮層を形成するためには、表皮ケラチノサイトを培養後、分化誘導させて、基底層、有棘層、顆粒層、及び角層を形成させる。ケラチノサイトが分化し、基底層、有棘層、顆粒層、及び角層を有する成熟した表皮層を形成するためには、表皮層の角層側が気相へ曝露されることが必要とされる。したがって、培養皮膚モデルは、これまで平板培養により、真皮層上又は細胞外マトリクス上に表皮層を形成させ、表皮層を空気に暴露して分化を誘導させることで調製されている。
【0003】
このようにして平板培養により製造される培養皮膚モデルでは、シャーレの側面に接触する個所において炎症や細胞死が誘導され長期間培養できないという問題があった(非特許文献1:Exp. Cell Res. DOI: 10.1006/excr.2001.5387)。また、培養皮膚モデルは、生体の皮膚に比較して力学刺激に対して脆弱であった。そのため、培養皮膚モデルに対して、伸展や押圧などの力学刺激による皮膚の反応性について調べられているものの(非特許文献2:PLOS ONE DOI:10.1371/journal.pone.0141989)、生体皮膚に対して加えることができる力学刺激に比較して、かなり弱い刺激しか付与できていなかった。また、平板培養では、表皮層の角層側が気相へ曝露することから、培養皮膚モデルは、基本的に下層に真皮層を形成させ、その上に表皮層を形成することで作成されている。これまで、培養皮膚モデルの作成に当たり、重力による影響について考慮されることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-193822号公報
【特許文献2】特開2012-235921号公報
【特許文献3】国際公開第2017/222065号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Exp. Cell Res. DOI: 10.1006/excr.2001.5387
【非特許文献2】PLOS ONE DOI:10.1371/journal.pone.0141989
【非特許文献3】Adv. Healthc. Mater. DOI: 10.1002/adhm.201500107
【非特許文献4】Trends Biotechnol. DOI: 10.1016/j.tibtech.2016.08.004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚、特に顔の皮膚は、常に重力を受けていることから、培養皮膚モデルにおいて変形特性等を解析するには、重力の影響を考慮する必要がある。しかし、実際の皮膚、特に顔面の皮膚と比較すると、平板培養により製造された培養皮膚モデルは重力方向に対する頂端-基底(apical-basal)軸の方向が異なるという課題を見出した。また、平板培養で製造された培養皮膚モデルでは、平板培養の際にシャーレの側面接触個所に起因する培養物の脆弱性や長期培養についての課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、より正しく皮膚の解析を行うために、培養皮膚モデルの製造にあたり、重力方向に対する頂端-基底軸の方向を、実際の皮膚と同方向で培養することを試みるとともに、平板培養では達成できない構造的強固性と長期培養を可能にする培養方法について鋭意研究を行ったところ、管状に形成された3次元培養物の内側に培養液を循環させて培養する循環培養を考案した。これにより、真皮線維芽細胞を含む真皮層と、表皮ケラチノサイトを含む表皮層を含み、真皮層と表皮層とが重層されている、管状皮膚培養物を提供した。そこで、本発明は以下のものに関する:
[1] 真皮線維芽細胞を含む真皮層と、表皮ケラチノサイトを含む表皮層を含み、真皮層と表皮層とが重層されている、管状皮膚培養物。
[2] 真皮層が内側に配置され、表皮層が外側に配置される、項目1に記載の管状皮膚培養物。
[3] 真皮線維芽細胞の密度が、1.4×103~2×106細胞/cm3である、項目1又は2に記載の管状皮膚培養物。
[4] 前記管状皮膚培養物の内側に、培養液を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の管状皮膚培養物。
[5] 前記管状皮膚培養物が、管内腔に前記培養液が浸透された培養液吸収・保水体(脱脂綿、コラーゲン、ろ紙、布等)を含む、項目4に記載の管状皮膚培養物。
[6] 前記培養液吸収・保水体が、網状体(ステント、編組チューブ等)あるいは有孔被覆材(粗目布、プラスチック製ネット、ポリエチレンテレフタレート(PET)あるいはポリカーボネート(PC)製の有孔メンブレン等)内に配置される、項目5に記載の管状皮膚培養物。
[7] 前記管状皮膚培養物の内側が中空である、項目1~3のいずれか一項に記載の管状皮膚培養物。
[8] 以下の工程:
管状真皮培養物の外側にケラチノサイトを播種し、そしてケラチノサイトが播種された側を気相となるように空気と接触させ、内側を培地と接触させて培養することを含む、管状皮膚培養物の製造方法。
[9] 管状真皮培養物の外側にケラチノサイトを播種し、管状真皮培養物の管腔に培地を循環させて培養する工程を含む、項目8に記載の製造方法。
[10] 前記培養が、管状真皮培養物の管路方向を重力方向に略平行にして培養する項目8又は9に記載の製造方法。
[11] 前記管状真皮培養物が、以下の工程:
真皮線維芽細胞をスフェロイド形成用のマイクロプレート中で培養して、スフェロイドを取得し、そして複数のスフェロイドを管状に成形して培養して、管状真皮培養物を取得することにより得られる、項目8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
[12] 項目8~11のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、管状皮膚培養物。
【発明の効果】
【0008】
管状皮膚培養物では、重力方向に対する頂端-基底軸方向を任意に選択することが可能であり、重力方向に対する頂端-基底軸方向を、実際の皮膚と同方向となるようにして培養することができる。また、管状皮膚培養物では、平板培養と比較し、管状の閉じた構造のためシャーレ壁面との接触領域が存在せず、シャーレ壁面と培養物の接触領域において誘導される皮膚培養物の細胞劣化や構造的劣化を回避することができる。さらに、管状皮膚培養物における真皮繊維芽細胞の細胞数をコントロールすることおよび管状内腔に培養液を循環させることで炎症を避けることができ、結果としてより長期の培養が可能になる。長期の培養により、より強靭な皮膚モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、管状真皮培養物と懸濁されたケラチノサイトとをインキュベートすることにより、管状真皮培養物上にケラチノサイトが配置されることを示す。
図2図2は、ケラチノサイトを管状真皮培養物上に定着させたのちに、気相に暴露して29日目まで培養した結果を示す。
図3図3は、29日目の管状皮膚培養物の切片におけるp63(ケラチノサイト前駆細胞マーカー)、フィラグリン(表皮顆粒層マーカー)、ロリクリン(表皮顆粒層マーカー)について蛍光標識して示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、真皮線維芽細胞を含む真皮層と、表皮ケラチノサイトを含む表皮層とを含み、真皮層と表皮層とが重層されている、管状皮膚培養物に関する。本発明の管状皮膚培養物は、3次元皮膚モデル又は培養皮膚モデルともいうことができる。
【0011】
真皮層は、真皮線維芽細胞を主な細胞として構成された層である。真皮層は、真皮線維芽細胞と、細胞外マトリクスとを含む。細胞外マトリクスとしては、コラーゲン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、エラスチン等が挙げられる。本発明の一実施態様では、真皮層は、真皮線維芽細胞のスフェロイドを組み合わせて形成させているが、スフェロイドによらず、支持体上に真皮線維芽細胞を培養することで形成されてもよい。そのような支持体として、コラーゲンゲル、コラーゲンとキトサンから形成されるゲルが挙げられる。
【0012】
スフェロイドは、低接着性の細胞容器、ハンギングドロップ培養用の細胞容器、あるいは三次元的に細胞集塊を形成することのできる特殊な培養方法により、細胞を培養することで細胞同士が自己集合することにより形成される(非特許文献3:Adv. Healthc. Mater. DOI: 10.1002/adhm.201500107、非特許文献4:Trends Biotechnol. DOI: 10.1016/j.tibtech.2016.08.004)。低接着性の細胞容器の一例としては、ハイドロゲルがコーティングされた細胞容器、例えばマイクロプレートなどが用いられる。ハンギングドロップ培養用の細胞容器の一例としては、細胞懸濁液を表面張力で液滴としてスポットし、中空につるすことのできるインサートを含むマイクロプレートなどが用いられる。なかでも低接着性細胞容器中で、真皮線維芽細胞を播種後、1~4日培養することで、Φ300μm~1000μmのスフェロイドを形成することができる。
【0013】
表皮層は、ケラチノサイトから主に構成された層であり、基底層、有棘層、顆粒層、及び角層から構成される。基底層に存在するケラチノサイトが分化することで、有棘層、顆粒層、及び角層を形成する。ケラチノサイトは、真皮層又は支持体上に播種すると増殖するが、表皮層を形成するためには空気へと曝露されていることが必要とされる。ケラチノサイトを培養して定着させたのちに、空気曝露することで、ケラチノサイトは空気曝露されている側に分化をしながら移動し、有棘層、顆粒層、そして最終的に角層を形成する。表皮層の細胞外は、角層脂質や天然保湿因子により充填されている。
【0014】
重層とは、真皮層と表皮層とが接触している状態を指す。真皮層と表皮層とが接触している箇所に基底膜を含んでいてもよい。基底膜とは、真皮層と表皮層との間に存在する膜状の細胞外マトリクスをいう。基底膜の構成成分としては、IV型、VII型、XII型コラーゲン、ラミニン-5、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンなどが挙げられる。基底膜は、予め真皮層又は表皮層に、基底膜成分を添加することで形成させてもよいが、真皮層と表皮層とを接触させて培養する過程で、真皮層及び/又は表皮層に含まれる細胞により形成されてもよい。
【0015】
本発明において、重層された真皮層と表皮層、さらにはその間の基底膜について、特異的に発現するタンパク質を指標として観察することができる。一例として、基底膜については、ラミニン5やIV型コラーゲンを基底膜マーカーとして使用することができる。表皮層については、インボルクリン、ロリクリン、又はフィラグリンを分化マーカーとして使用することができる。これらのタンパク質は、特に顆粒層において発現がみられる。基底層のケラチノサイトについては、細胞増殖マーカーであるKi67、YAP、及びケラチノサイト前駆細胞マーカーであるP63を指標として観察することができる。真皮層マーカーとしては、弾性線維のフィブリリンやエラスチンを使用することができる。
【0016】
本発明において、管状とは、中空の細長い形状であり、少なくとも1の端部、通常2の端部で口が開いている形状をいう。管状の皮膚培養物は、途中で分岐し、2以上の端部を有していてもよい。管状の皮膚培養物の短軸方向の切断面の形状は、任意であってもよいが、製造の容易の観点から三角形~多角形、円形又は略円形が好ましい。管状の皮膚培養物の管の厚さや、管の内径、管の外径、及び管の長さについては、任意であってよいが、培養を容易にするように適宜選択することができる。一例として、内径5mm、外径6mm、長さ10~12mmで製造することができる。管状の皮膚培養物の内腔は、培地などの液体が充填されていてもよいし、空気などの気体が充填されていてもよい。また、管状の皮膚培養物の内腔には、網状体あるいは有孔被覆材、培養液吸収・保水体などの固形物が充填されていてもよい。内腔に配置された固形物は、任意に取り外すことができる。
【0017】
表皮層を外側に配置し、真皮層を内側に配置した皮膚培養物では、ケラチノサイトを分化誘導させるために管状皮膚培養物の外側を空気に暴露し、管腔の内側を培地と接触させる。管腔の内側には、培地のみを通過させてもよいが、管腔からの漏出を妨げ、かつ管状皮膚培養物の構造を重力方向に支持する観点で、培養液吸収・保水体などの固形物を配置し、培養液吸収・保水体が培地を保持してもよい。培養液吸収・保水体の周囲を網状体あるいは有孔被覆材で取り囲むことで、培地との接触を達成しつつ、形状を安定化させることができる。網状体や有孔被覆材は、細胞培養に影響を与えない材質であれば任意の材質を利用することができる。網状体としては、ステント、編組チューブ等が挙げられる。有孔被覆材としては、粗目布、プラスチック製ネット、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリカーボネート(PC)製の有孔メンブレン等が挙げられる。培養液吸収・保水体を取り囲んだ網状体あるいは有孔被覆材上に皮膚培養物を配置して培養することで、表皮層の分化を誘導することができる。
【0018】
本発明の管状の皮膚培養物は、任意の方法によって製造されてもよい。一例として、以下の工程:管状真皮培養物の外側にケラチノサイトを播種し、そしてケラチノサイトが播種された側を気相となるように空気と接触させ、気相と異なる面を培地と接触させて培養することを含む。
【0019】
ケラチノサイトの播種は、管状真皮培養物と、培地に懸濁されたケラチノサイトとをインキュベートすることにより行われる。管状真皮培養物の外側に播種する場合、管状真皮培養物の開口部を閉じ、管状真皮培養物を培地に懸濁されたケラチノサイトとインキュベートする。インキュベート時間は、ケラチノサイトが管状真皮培養物に付着するのに十分な時間とすればよく、例えば12~24時間行われる。
【0020】
管状真皮培養物の端部は管に接続され、管から培地又は気体が供給される。ケラチノサイトが管状真皮培養物の外側に播種された場合には、管状真皮培養物の外側は気体とする一方で、管から培地が供給されることで、ケラチノサイトが空気に暴露された状態で培養することができる。気体としては、任意の気体を用いることができるが、通常、空気を用いる。管状真皮培養物において管路方向を任意に設定することができ、重力方向に対する管状真皮培養物の頂端-基底軸方向を、生体の特定部位の皮膚と同じ頂端-基底軸方向となるように設定することができる。一例として、管状真皮培養物を地面に垂直又は略垂直方向になるよう(換言すると管路方向と重力方向とを平行又は略平行方向)に配置して培養することで、重力方向に対する頂端-基底軸方向が、立位における生体の顔や体幹部の皮膚と同じ頂端-基底軸方向を達成することができる。頂端-基底軸方向とは、上皮細胞における頂端部から基底部への方向のことをいう。上皮細胞は、外気や管腔に面する頂端部と、結合組織に接する基底部とからなる細胞極性を有する。皮膚の細胞における頂端-基底軸方向は、体の部位や体位に応じて異なり、例えば立位における顔や胴部腹部の皮膚の細胞の頂端-基底軸方向は、重力方向とは一致せず、略垂直の関係にある。
【0021】
本発明の管状の皮膚培養物の製造方法に用いる管状真皮培養物は、以下の工程:
管状真皮培養物は真皮線維芽細胞を培養し、スフェロイドを取得し、そして
複数のスフェロイドを管状に成形して培養して、管状真皮培養物を取得する
により、取得することができる。
【0022】
真皮線維芽細胞を培養し、スフェロイドを取得する工程は、本技術分野に周知の方法で行われる。スフェロイド生成用の低接着性のスフェロイドマイクロプレートに、真皮線維芽細胞を播種することで形成することができる。スフェロイドの大きさは、取り扱いを容易にする観点から、Φ300μm~1000μmであり、好ましくはΦ450~550μmである。かかるサイズのスフェロイドは、1.0~5.0×104細胞により形成される。
【0023】
複数のスフェロイドを管状に成形して培養して、管状真皮培養物を取得する工程は、一例として剣山アレイを用いたバイオ3Dプリンタを用いて形成することができる。具体的に、剣山アレイにスフェロイドを管状に配置し、培地内で数日間培養することで、管状真皮構造体を取得することができる。剣山アレイを抜去後、さらに管状真皮構造体の内腔にチューブを挿入し、さらに培養することで、剣山アレイ跡の穴をふさぐことができ、管状真皮培養物を取得することができる。
【0024】
本発明の管状皮膚培養物を製造するにあたり使用する培地は、3次元皮膚モデル、ケラチノサイト、及び真皮線維芽細胞を培養するために使用される任意の培地を使用することができる。そのような培地の例として、KG培地、Epilife KG2(クラボウ)、Humedia-KG2(クラボウ)、アッセイ培地(Toyobo)、DMEM培地(GIBCO)、FBM2培地(LONZA)、或いはそれらの混合培地などを用いることができる。これらの培地には、適宜、血清、アスコルビン酸、増殖因子などが添加されてもよい。
【0025】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0026】
実施例1:管状皮膚培養物の調製
(1)管状真皮培養物の調製
スフェロイドマイクロプレート(住友ベークライト社:製品名:PrimeSurface)に、真皮線維芽細胞hF28(KAC)を1ウェルあたり1.7×104細胞を播種し、先述した培地中で2日間培養し、Φ500±100μmのスフェロイドを取得した。バイオ3Dプリンタ regenova(登録商標)(Cyfuse)を用いて、剣山アレイにスフェロイドを円筒状に配置し、37℃5%CO2雰囲気下で5日間循環培養を行った。管状培養物から、剣山アレイを抜去し、次いで直径5mmのシリコンチューブを管状培養物内腔に挿入した。さらに3日間循環培養を行った。これにより剣山アレイによる穴を塞ぎ、管状真皮培養物を得た。
【0027】
(2)ケラチノサイトの播種
ケラチノサイトHPEKp(Cellntec)を、0.03mM・Ca添加Humedia-KG2培地中で、37℃CO2雰囲気下で継代培養を行った。真皮細胞密度が1.4×103~2×106細胞/cm3の管状真皮培養物と、管状真皮培養物の外壁面の面積に対し2×105~2×106細胞/cm2のケラチノサイトを用意し、5mlチューブに適量の細胞懸濁液として入れ、200μmAMP添加混合培地(10%FBS添加DMEMとEGF添加Humedia-KG2の1:1混合培地)を添加した。チューブをマイクロチューブローテーター(AS ONE Corp、MTR-103)にセットし、37℃5%CO2雰囲気下で19時間、低速度(4rpm)で回転培養を行った。管状培養物を、200μmAMP添加混合培地を入れた5mlチューブに移し、マイクロチューブローテーター(AS ONE Corp、MTR-103)にセットして37℃5%CO2雰囲気下でさらに2日間、低速度回転培養(4rpm)を行った。管状真皮培養物上にケラチノサイトが定着したことを確認した(図1)。
【0028】
(3)気相培養
100mlの気相培養培地(10%FBS-DMEMとHumedia-KG2 (EGF未添加)を1:1で混合し、Ca1.8mMに調整し、200μM・APM、10μM・CGS、10μM・BIBIPUとなるように添加)を、循環気液培養システムの下段に入れ、上段に気液システム用インサートを挿入した構造体をセットした。ペリスタポンプにて流速を調整しながら培地を循環させ、37℃、5%CO2インキュベータにて1週間から1カ月培養を行った。培養後9日、16日、22日、29日目の皮膚培養物の写真を図2に示す。
【0029】
実施例2:管状皮膚培養物の確認
29日間培養された管状皮膚培養物において、ケラチノサイトが定着し、角層分化していることを確認するため、p63、フィラグリン、ロリクリンの発現を確認した。具体的に、管状皮膚細胞培養物から切片を切り出し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。固定後、核をDAPIと染色する一方、抗p63抗体(販売元:abcam)、抗フィラグリン抗体(販売元:Santa Cruz)、抗ロリクリン抗体(販売元:BioLegend)とインキュベートし、次いでヤギ蛍光標識抗ウサギあるいは抗マウスIgG抗体(販売元:Thermo Fisher Scientific)をインキュベートして、蛍光標識サンプルを得た。蛍光標識サンプルを、蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡で観察した(最大励起/最大蛍光波長:490nm/525nm、650nm/665nm)。結果を図3に示す。
図1
図2
図3