(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035265
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】水素加熱装置および水素加熱方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/00 20060101AFI20230306BHJP
C22C 19/00 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C22C19/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141968
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 美登
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AA42
4G140AA44
4G140AA45
4G140AA46
(57)【要約】
【課題】安価、クリーン、安全な熱エネルギー源を利用して、加熱した水素系ガスを供給することができる新規な水素加熱装置および水素加熱方法を提供する。
【解決手段】水素加熱装置11は、水素系ガスが導入される密閉容器15と、密閉容器15の内部に設けられ、かつ、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体14と、発熱体14の温度を調節する温度調節部と、を備え、発熱体14は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成された支持体61と、支持体61に支持された多層膜62とでなる複数の積層体14aを有し、多層膜62は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有しており、発熱体14による加熱によって水素系ガスが所定の温度になるように積層体14aの積層数が設定されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む水素系ガスを加熱する水素加熱装置であって、
前記水素系ガスが導入される密閉容器と、
前記密閉容器の内部に設けられ、かつ、前記水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体と、
前記発熱体の温度を調節する温度調節部と、
を備え、
前記発熱体は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成された支持体と、前記支持体に支持された多層膜と、でなる複数の積層体を有し、
前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有しており、
前記発熱体による加熱によって前記水素系ガスが所定の温度になるように前記積層体の積層数が設定されている、
水素加熱装置。
【請求項2】
前記密閉容器は、前記発熱体により第1室および第2室に仕切られ、
前記第1室と前記第2室とは、前記水素の圧力が異なっており、前記第1室と前記第2室との前記水素の圧力の差を利用して、前記水素を前記発熱体に透過させる、
請求項1に記載の水素加熱装置。
【請求項3】
前記発熱体は、有底筒状に形成されており、
前記第1室は、前記発熱体の内面により形成されており、
前記第2室は、前記発熱体の外面と前記密閉容器の内面とにより形成されている、
請求項2に記載の水素加熱装置。
【請求項4】
前記第1室は、前記水素系ガスが導入される導入口を有し、
前記第2室は、前記水素系ガスが導出される導出口を有し、
前記第1室の前記水素の圧力は、前記第2室の前記水素の圧力よりも高くされている、
請求項2または3に記載の水素加熱装置。
【請求項5】
前記第1室と水素タンクとを接続し、前記導入口から前記第1室に導入された前記水素系ガスのうち前記発熱体を透過しなかった非透過ガスを回収して前記水素タンクへ戻す非透過ガス回収ラインを備える、
請求項4に記載の水素加熱装置。
【請求項6】
前記非透過ガス回収ラインは、前記温度調節部に設けた温度センサが検出した前記発熱体の温度に基づいて前記非透過ガスの流量の制御を行う非透過ガス流量制御部を有する、
請求項5に記載の水素加熱装置。
【請求項7】
前記導入口と前記発熱体との間に設けられ、前記導入口から前記密閉容器の内部に導入される前記水素系ガスを前記発熱体に噴射するノズル部を備える、
請求項4~6のいずれか1項に記載の水素加熱装置。
【請求項8】
前記発熱体は、有底筒状に形成されており、
前記ノズル部は、前記発熱体の軸方向に配列された複数の噴射口を有し、前記複数の噴射口から前記発熱体の内面全域に前記水素系ガスを噴射する、
請求項7に記載の水素加熱装置。
【請求項9】
前記発熱体は、板状に形成されており、
前記ノズル部は、前記発熱体の一方の面全域に前記水素系ガスを噴射する、
請求項7に記載の水素加熱装置。
【請求項10】
前記発熱体は、両端が開口した筒状に形成されており、一端が前記導入口と接続し、他端が前記非透過ガス回収ラインと接続する、
請求項5または6に記載の水素加熱装置。
【請求項11】
水素タンクに貯留された前記水素系ガスを前記密閉容器へ導入する導入ラインを有し、
前記温度調節部は、前記導入ラインに設けられたヒータによって、前記導入ラインを流通する前記水素系ガスを加熱することにより、前記発熱体を加熱する、
請求項1~10のいずれか1項に記載の水素加熱装置。
【請求項12】
前記第1室に設けられており、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され前記水素の吸蔵および放出を行う第1の水素吸蔵放出部と、
前記第2室に設けられており、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され前記水素の吸蔵および放出を行う第2の水素吸蔵放出部と、
前記第1室の前記水素の圧力を前記第2室の前記水素の圧力よりも高くする第1のモードと、前記第2室の前記水素の圧力を前記第1室の前記水素の圧力よりも高くする第2のモードとを切り替える制御を行う水素圧力制御部とを備える、
請求項2に記載の水素加熱装置。
【請求項13】
前記水素圧力制御部は、
前記第1のモードでは、前記第1の水素吸蔵放出部を加熱し、かつ、前記第2の水素吸蔵放出部を冷却し、
前記第2のモードでは、前記第2の水素吸蔵放出部を加熱し、かつ、前記第1の水素吸蔵放出部を冷却する、
請求項12に記載の水素加熱装置。
【請求項14】
前記密閉容器は、前記発熱体を複数収容し、
複数の前記発熱体は、板状に形成されており、面同士が対面するように互いに隙間を設けて配列され、
前記第1室および前記第2室は、前記密閉容器の内部に複数設けられ、複数の前記発熱体の配列方向に交互に配置されている、
請求項2に記載の水素加熱装置。
【請求項15】
前記第1層は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうちいずれかにより形成され、
前記第2層は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうちいずれかにより形成される、
請求項1~14のいずれか1項に記載の水素加熱装置。
【請求項16】
前記多層膜は、前記第1層および前記第2層に加え、前記第1層および前記第2層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第3層を有する
請求項1~15のいずれか1項に記載の水素加熱装置。
【請求項17】
前記第3層は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される、
請求項16に記載の水素加熱装置。
【請求項18】
前記多層膜は、前記第1層、前記第2層および前記第3層に加え、前記第1層、前記第2層および前記第3層とは異なる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第4層を有する、
請求項16または17に記載の水素加熱装置。
【請求項19】
前記第4層は、Ni、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される、
請求項18に記載の水素加熱装置。
【請求項20】
水素を含む水素系ガスを加熱する水素加熱方法であって、
前記水素系ガスが密閉容器に導入される導入工程と、
前記密閉容器の内部に設けられた発熱体の温度を温度調節部により調節する温度調節工程と、
前記発熱体における前記水素の吸蔵と放出とにより前記発熱体から熱が発生する熱発生工程と、
を含み、
前記発熱体は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成された支持体と、前記支持体に支持された多層膜と、でなる複数の積層体を有し、
前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有しており、
前記発熱体による加熱によって前記水素系ガスが所定の温度になるように前記積層体の積層数が設定されている、
水素加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素加熱装置および水素加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高炉を用いた鉄鋼の製造において還元剤としてコークスの代わりに加熱した水素を利用したり(例えば、特許文献1参照)、或いは、加熱した水素を熱伝導媒体として暖房装置などに利用したりするなど、高温に加熱した水素を有効活用することが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水素を加熱する際の熱エネルギー源の主流は依然として火力発電や原子力発電である。したがって、環境問題やエネルギー問題の観点から、安価、クリーン、安全な熱エネルギー源を利用して水素系ガスを加熱する、従来にない新規な水素加熱装置および水素加熱方法の開発が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、安価、クリーン、安全な熱エネルギー源を利用して、加熱した水素系ガスを供給することができる新規な水素加熱装置および水素加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る水素加熱装置は、水素を含む水素系ガスを加熱する水素加熱装置であって、前記水素系ガスが導入される密閉容器と、前記密閉容器の内部に設けられ、かつ、前記水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体と、前記発熱体の温度を調節する温度調節部と、を備え、前記発熱体は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成された支持体と、前記支持体に支持された多層膜と、でなる複数の積層体を有し、前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有しており、前記発熱体による加熱によって前記水素系ガスが所定の温度になるように前記積層体の積層数が設定されている。
【0007】
本発明に係る水素加熱方法は、水素を含む水素系ガスを加熱する水素加熱方法であって、前記水素系ガスが密閉容器に導入される導入工程と、前記密閉容器の内部に設けられた発熱体の温度を温度調節部により調節する温度調節工程と、前記発熱体における前記水素の吸蔵と放出とにより前記発熱体から熱が発生する熱発生工程と、を含み、前記発熱体は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成された支持体と、前記支持体に支持された多層膜と、でなる複数の積層体を有し、前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有しており、前記発熱体による加熱によって前記水素系ガスが所定の温度になるように前記積層体の積層数が設定されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体を用いて水素系ガスを加熱するので、安価、クリーン、安全な熱エネルギー源を利用して、加熱した水素系ガスを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の水素加熱装置の概略図である。
【
図3】第1層と第2層とを有する積層体の構造を示す断面図である。
【
図4】過剰熱の発生を説明するための説明図である。
【
図5】(A)は、水素加熱装置の作用を説明するための説明図であり、(B)は、両面に多層膜を有する第1変形例の発熱体を説明するための説明図である。
【
図6】第1層と第2層と第3層とを有する第2変形例の発熱体を説明するための説明図である。
【
図7】第1層と第2層と第3層と第4層とを有する第3変形例の発熱体を説明するための説明図である。
【
図8】多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係を示すグラフである。
【
図9】多層膜の積層数と過剰熱の関係を示すグラフである。
【
図10】多層膜の材料と過剰熱の関係を示すグラフである。
【
図11】有底筒状に形成された発熱体の断面図である。
【
図12】第4変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図13】柱状に形成された支持体を有する発熱体の断面図である。
【
図14】第5変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図15】第6変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図16】第7変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図17】複数の噴射口を有するノズル部を説明するための説明図である。
【
図18】両端が開口した筒状の発熱体の断面図である。
【
図19】第8変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図20】第9変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図21】水素圧力制御部の第1のモードを説明するための説明図である。
【
図22】水素圧力制御部の第2のモードを説明するための説明図である。
【
図23】第10変形例の水素加熱装置の概略図である。
【
図24】第10変形例における水素加熱装置の作用を説明するための説明図である。
【
図25】第11変形例の水素加熱装置の断面図である。
【
図26】参照実験における水素透過量と水素供給圧力とサンプル温度との関係を示すグラフである。
【
図27】参照実験におけるサンプル温度と入力電力の関係を示したグラフである。
【
図28】実験例26における発熱体温度と過剰熱の関係を示すグラフである。
【
図29】実験例27における発熱体温度と過剰熱の関係を示すグラフである。
【
図30】第2実施形態の水素加熱装置の概略図である。
【
図31】第3実施形態の水素加熱装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1に示すように、水素利用システム10は、水素加熱装置11と水素利用装置12とを備える。水素利用システム10は、水素加熱装置11の発熱体14で発生する熱により、水素を含む水素系ガスを加熱し、加熱された水素系ガスを、種々の水素利用装置12で利用するものである。
【0011】
例えば、水素利用装置12としては、特に限定されるものではなく、熱交換機や、動力ユニット、熱電素子など、加熱した水素系ガスを利用する装置であれば種々の水素利用装置を適用することができる。すなわち、水素利用装置12は、例えば、空調、ボイラーや燃焼炉の空気予熱、乾燥や加熱用熱風の生成、ボイラーの熱源、油加熱、化学反応槽、二重管式ロータリー加熱機、二重管内にて粒子状物質の加熱などに、加熱した水素系ガスを用いる装置であってもよいし、加熱した水素系ガスを用いたスターリングエンジンや、ORCS(Organic Rankine Cycle System)などであってもよい。
【0012】
水素加熱装置11は、発熱体14と、密閉容器15と、温度調節部16と、導入ライン29および導出ライン30を有する水素流通ライン17と、制御部18とを備える。発熱体14は、密閉容器15に収容されており、後述する温度調節部16のヒータ16bにより加熱される。発熱体14は、水素の吸蔵と放出とにより、ヒータ16bの加熱温度以上の熱(以下、過剰熱と称する)を発生する。発熱体14は、過剰熱を発生することによって、透過する水素系ガスを例えば50℃以上1000℃以下の範囲内の温度に加熱する。発熱体14は、この例では表面および裏面を有する板状に形成されている。発熱体14の詳細な構成については別の図面を用いて後述するが、水素系ガスが所定の温度になるように発熱体14の積層体(後述する)の積層数が予め調整されている。
【0013】
密閉容器15は、中空の容器であり、内部に発熱体14を収容する。密閉容器15は、例えばステンレスなどで形成される。密閉容器15は、この例では、発熱体14の表面または裏面と直交する方向と平行な長手方向を有する形状とされている。密閉容器15の内部には、発熱体14を設置するための設置部20が設けられている。
【0014】
密閉容器15は、発熱体14により仕切られた第1室21および第2室22を内部に有する。第1室21は、発熱体14の一方の面である表面と密閉容器15の内面とにより形成されている。第1室21は、水素流通ライン17の導入ライン29と接続する導入口23を有する。第1室21には、導入口23を介して、水素流通ライン17を流通する水素系ガスが導入される。第2室22は、発熱体14の他方の面である裏面と密閉容器15の内面とにより形成されている。第2室22は、水素流通ライン17の導出ライン30と接続する導出口24を有する。第2室22の水素系ガスは、導出口24に接続された導出ライン30を介して第2室22から水素利用装置12に排出される。
【0015】
第1室21は、水素系ガスの導入により昇圧される。第2室22は、水素系ガスの導出により減圧される。これにより、第1室21の水素の圧力は、第2室22の水素の圧力よりも高くされる。第1室21の水素の圧力は、例えば100[kPa]とされる。第2室22の水素の圧力は、例えば1×10-4[Pa]以下とされる。第2室22は真空状態としてもよい。このように、第1室21と第2室22とは、水素の圧力が異なっている。このため、密閉容器15の内部は、発熱体14の両側に圧力差が生じた状態とされている。
【0016】
発熱体14の両側に圧力差が生じると、発熱体14のうち高圧側に配された一方の面(表面)では、水素系ガスに含まれる水素分子が吸着し、その水素分子が2つの水素原子に解離する。解離した水素原子は、発熱体14の内部へ浸入する。すなわち、発熱体14に水素が吸蔵される。水素原子は、発熱体14の内部を拡散して通過する。発熱体14のうち低圧側に配された他方の面(裏面)では、発熱体14を通過した水素原子が再結合し、水素分子となって放出される。すなわち、発熱体14から水素が放出される。
【0017】
このように、発熱体14は、高圧側から低圧側へ水素を透過させる。「透過」とは、発熱体の一方の面に水素が吸蔵され、発熱体の他方の面から水素が放出されることをいう。発熱体14は、詳しくは後述するが、水素を吸蔵することによって発熱し、また、水素を放出することによっても発熱する。したがって、発熱体14は、水素が透過することにより熱を発生する。なお、以降の説明において、発熱体について「水素が透過する」ことを「水素系ガスが透過する」と記載する場合がある。
【0018】
第1室21の内部には、当該第1室21の内部の圧力を検出する圧力センサ(図示なし)が設けられている。第2室22の内部には、当該第2室22の内部の圧力を検出する圧力センサ(図示なし)が設けられている。第1室21と第2室22に設けられた各圧力センサは、制御部18と電気的に接続しており、検出した圧力に対応する信号を制御部18に出力する。
【0019】
温度調節部16は、発熱体14の温度を調節し、発熱体14の温度を発熱に適正な温度に維持する。発熱体14において発熱に適正な温度は、例えば50℃以上1000℃以下の範囲内である。温度調節部16は、温度センサ16aとヒータ16bとを有する。温度センサ16aは、発熱体14の温度を検出する。温度センサ16aは、例えば熱電対であり、密閉容器15の設置部20に設けられている。温度センサ16aは、制御部18と電気的に接続しており、検出した温度に対応する信号を制御部18に出力する。
【0020】
ヒータ16bは、発熱体14を加熱する。ヒータ16bは、例えば電気抵抗発熱式の電熱線であり、密閉容器15の外周に巻き付けられている。ヒータ16bは、電源26と電気的に接続しており、電源26から電力が入力されることにより発熱する。ヒータ16bは密閉容器15の外周を覆うように配置される電気炉でもよい。
【0021】
水素流通ライン17は、密閉容器15の外部に設けられ、密閉容器15の外部から内部に水素を含む水素系ガスを導入させるとともに、密閉容器15の内部から外部に、加熱された水素系ガスを導出させる。水素流通ライン17は、導入ライン29と導出ライン30との他に、水素タンク28と、フィルタ31とを有する。
図1には図示していないが、水素加熱装置11は、水素タンク28に水素系ガスを供給するための供給ラインと、水素流通ライン17から水素系ガスを排気するための排気ラインとを備えており、例えば、水素加熱装置11の作動開始時に供給ラインから水素タンク28へ水素系ガスが供給され、水素加熱装置11の作動停止時に水素流通ライン17の水素系ガスが排気ラインへ排気される。
【0022】
水素タンク28は、水素系ガスを貯留する。水素系ガスは、水素の同位体を含むガスである。水素系ガスとしては、重水素ガスと軽水素ガスとの少なくともいずれかが用いられる。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素の混合物、すなわち、軽水素の存在比が99.985%であり、重水素の存在比が0.015%である混合物を含む。
【0023】
導入ライン29は、水素タンク28と第1室21の導入口23とを接続し、水素タンク28内の水素系ガスを第1室21へ導入する。導入ライン29は、圧力調整弁32を有する。圧力調整弁32は、水素タンク28から送られる水素系ガスを所定の圧力に減圧する。圧力調整弁32は、制御部18と電気的に接続している。
【0024】
導出ライン30は、第2室22の導出口24と水素利用装置12とを接続し、発熱体14を介して第1室21から第2室22へ透過した水素系ガスを水素利用装置12へ排出する。導出ライン30は、ポンプ33を有する。ポンプ33は、第2室22の水素系ガスを導出ライン30へ導出し、所定の圧力に昇圧して水素利用装置12へ送る。ポンプ33としては、例えばメタルベローズポンプが用いられる。ポンプ33は、制御部18と電気的に接続している。
【0025】
導入ライン29に設けられたフィルタ31は、水素系ガスに含まれる不純物を除去するためのものである。ここで、水素が発熱体14を透過する透過量(以下、水素透過量という)は、発熱体14の温度、発熱体14の両面側の圧力差、および発熱体14の表面状態によって定められる。水素系ガスに不純物が含まれている場合、不純物が発熱体14の表面に付着し、発熱体14の表面状態が悪化することがある。発熱体14の表面に不純物が付着した場合は、発熱体14の表面での水素分子の吸着および解離が阻害され、水素透過量が減少する。
【0026】
発熱体14の表面での水素分子の吸着および解離を阻害するものとしては、例えば、水(水蒸気を含む)、炭化水素(メタン、エタン、メタノール、エタノール等)、C、S、および、Siが考えられる。水は、密閉容器15の内壁などから放出、あるいは密閉容器15の内部に設けられた部材に含まれる酸化皮膜が水素により還元されたものと考えられる。炭化水素、C、S、および、Siは、密閉容器15の内部に設けられた各種部材から放出されると考えられる。よって、フィルタ31は、不純物として、水(水蒸気を含む)、炭化水素、C、S、および、Siを少なくとも除去する。フィルタ31は、水素系ガスに含まれる不純物を除去することにより、発熱体14における水素透過量の減少を抑制する。
【0027】
制御部18は、水素加熱装置11の各部の動作を制御する。制御部18は、例えば、演算装置(Central Processing Unit)、読み出し専用メモリ(Read Only Memory)やランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)などの記憶部などを主に備えている。演算装置では、例えば、記憶部に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する。
【0028】
制御部18は、温度センサ16a、電源26、圧力調整弁32、およびポンプ33と電気的に接続している。制御部18は、ヒータ16bの入力電力、密閉容器15の圧力などを調整することにより、発熱体14が発生する過剰熱の出力の制御を行う。
【0029】
制御部18は、温度センサ16aが検出した温度に基づいて、ヒータ16bの出力の制御を行う出力制御部としての機能を有する。制御部18は、電源26を制御してヒータ16bへの入力電力を調節することにより、発熱体14を発熱に適正な温度に維持する。
【0030】
制御部18は、第1室21と第2室22に設けられた各圧力センサ(図示なし)により検出された圧力に基づいて、圧力調整弁32およびポンプ33を制御することにより、第1室21と第2室22との間で発生する水素の圧力差を調整する。
【0031】
制御部18は、発熱体14に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、発熱体14から水素を放出させる水素放出工程とを行う。本実施形態では、制御部18は、第1室21と第2室22との間で水素の圧力差を発生させることによって、水素吸蔵工程と水素放出工程とを同時に行う。制御部18は、導入ライン29から第1室21へ水素系ガスを導入させ、かつ、第2室22の水素系ガスを導出ライン30へ導出させることによって第1室21を第2室22よりも高圧とし、発熱体14の表面での水素の吸蔵と、発熱体14の裏面での水素の放出とが同時に行われる状態を維持する。
【0032】
本開示において同時とは、完全に同時、または、実質的に同時とみなせる程度に僅かな時間以内を意味する。水素吸蔵工程と水素放出工程とが同時に行われることにより、水素が発熱体14を連続的に透過するので、発熱体14において過剰熱を効率的に発生させることができる。なお、制御部18は、水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行ってもよい。すなわち、制御部18は、まず、水素吸蔵工程を行うことによって発熱体14に水素を吸蔵させ、その後、水素放出工程を行うことによって発熱体14に吸蔵されている水素を放出させてもよい。このように水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行うことによっても、発熱体14から過剰熱を発生させることができる。
【0033】
水素加熱装置11は、発熱体14を挟んで配置された第1室21と第2室22との間で水素の圧力差を発生させることにより、水素が発熱体14を透過し、過剰熱を発生する。水素系ガスは、発熱体14を透過する際に、発熱体14で発生した過剰熱により加熱される。水素系ガスは、発熱体14の厚みが厚く、発熱体14を透過するまでの距離が長いほど、発熱体14で発生する過剰熱により加熱される時間が長くなり、その分、発熱体14を透過して第2室22に排出されたときの温度が高くなる。そのため、発熱体14は、発熱体14を透過した後の水素系ガスが所定の温度になるように、後述する積層体を所定数積層させて発熱体14の厚みが所定の厚さに設定されている。
【0034】
次に、
図2および
図3を用いて発熱体14の詳細な構造について説明する。
図2に示すように、発熱体14は、支持体61と多層膜62とを有する複数の積層体14aが積層された構成を有し、積層体14aの積層する積層数を変えることにより、水素系ガスが透過する発熱体14の厚さが調整されている。具体的には、積層体14aの積層数が多くなるほど発熱体14の厚みが厚くなり、水素系ガスが発熱体14を透過するまでの距離が長くなるため、積層体14aの積層数が多いほど発熱体14を透過した後の水素系ガスの温度が高くなる。一方、積層体14aの積層数が少なくなるほど発熱体14の厚みが薄くなり、水素系ガスが発熱体14を透過するまでの距離が短くなるため、積層体14aの積層数が少ないほど発熱体14を透過した後の水素系ガスの温度が低くなる。
【0035】
ここでは、例えば、25℃程度の水素系ガスが発熱体14を透過することにより、当該水素系ガスが発熱体14により加熱され、発熱体14を透過した後には50℃以上1000℃以下、好ましくは600℃以上1000℃以下の水素系ガスとなる。なお、積層体14aの積層数を設定する際は、発熱体14を透過した後の水素系ガスの温度と、積層体14aの積層数との対応関係を過去の操業経験などから予め特定しておき、これを基に、水素系ガスが所望する温度になるように、積層体14aの積層数を特定することが望ましい。
【0036】
発熱体14は、第1の積層体14aの多層膜62に、第2の積層体14aの支持体61が配置され、当該第2の積層体14aの多層膜62に、第3の積層体14aの支持体61が配置され、複数の積層体14aが順次積層されている。これにより、
図2に示した発熱体14は、右から左へ、支持体61、多層膜62、支持体61および多層膜62というように、支持体61と多層膜62とが交互に配置された構成となっている。なお、本実施形態では、紙面左側末端の支持体61から紙面右側末端の多層膜62に向けて水素系ガスが透過する場合について図示しているが、本発明はこれに限らず、紙面右側末端の多層膜62から紙面左側末端の支持体61に向けて水素系ガスが透過するようにしてもよい。
【0037】
支持体61は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成される。支持体61は、この例では表面および裏面を有する板状に形成されている。多孔質体は、水素系ガスの通過を可能とするサイズの孔を有する。多孔質体は、例えば、金属、非金属、セラミックスなどにより形成される。多孔質体は、水素系ガスと多層膜62との反応(以下、発熱反応という)を阻害しない材料により形成されることが好ましい。水素透過膜は、例えば、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される。水素吸蔵金属としては、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、LaNi5、CaCu5、MgZn2、ZrNi2、ZrCr2、TiFe、TiCo、Mg2Ni、Mg2Cuなどが用いられる。水素透過膜は、メッシュ状のシートを有するものを含む。プロトン導電体としては、BaCeO3系(例えばBa(Ce0.95Y0.05)O3-6)、SrCeO3系(例えばSr(Ce0.95Y0.05)O3-6)、CaZrO3系(例えばCaZr0.95Y0.05O3-α)、SrZrO3系(例えばSrZr0.9Y0.1O3-α)、β Al2O3、β Ga2O3などが用いられる。
【0038】
図3に示すように、多層膜62は、支持体61に設けられる。多層膜62は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される第1層71と、第1層71とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスにより形成される第2層72とにより形成される。支持体61と第1層71と第2層72との間には、後述する異種物質界面73が形成される。
図3では、多層膜62は、支持体61の一方の面(例えば表面)に、第1層71と第2層72がこの順で交互に積層されている。第1層71と第2層72とは、それぞれ5層とされている。なお、第1層71と第2層72の各層の層数は適宜変更してもよい。多層膜62は、支持体61の表面に、第2層72と第1層71がこの順で交互に積層されたものでもよい。多層膜62は、第1層71と第2層72をそれぞれ1層以上有し、異種物質界面73が1以上形成されていればよい。
【0039】
第1層71は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかにより形成される。第1層71を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第1層71を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0040】
第2層72は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかにより形成される。第2層72を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第2層72を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0041】
第1層71と第2層72との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第2層72(第2層72-第1層71)」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが好ましい。第2層72をセラミックスとした場合は、「第1層71-第2層72」が、Ni-SiCであることが好ましい。
【0042】
図4に示すように、異種物質界面73は水素原子を透過させる。
図4は、面心立法構造の水素吸蔵金属により形成される第1層71および第2層72において、第1層71の金属格子中の水素原子が、異種物質界面73を透過して第2層72の金属格子中へ移動する様子を示した概略図である。水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。このため、発熱体14に吸蔵された水素は、多層膜62の内部をホッピングしながら量子拡散する。発熱体14では、第1層71、異種物質界面73、第2層72を水素が量子拡散により透過する。
【0043】
第1層71の厚みと第2層72の厚みは、それぞれ1000nm未満であることが好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが1000nm以上となると、水素が多層膜62を透過し難くなる。また、第1層71と第2層72の各厚みが1000nm未満であることにより、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。第1層71と第2層72の各厚みは、500nm未満であることがより好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが500nm未満であることにより、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。
【0044】
次に発熱体14の製造方法の一例を説明する。この場合、板状の支持体61を準備し、蒸着装置を用いて、第1層71や第2層72となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態にして、凝集や吸着によって支持体61の表面に、第1層71および第2層72を交互に成膜する。これにより、支持体61の表面に多層膜62を有した積層体14aが形成される。なお、第1層71および第2層72は真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第2層72の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面73のみが形成される。蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置が用いられる。物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置が好ましい。また、電気めっき法により、支持体61の表面に水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を析出させ、第1層71および第2層72を交互に成膜してもよい。
【0045】
そして、複数の積層体14aを準備し、一の積層体14aの多層膜62の表面に、他の積層体14aの支持体61の裏面を重ね合わせて、所定数の積層体14aを積層させることにより発熱体14を製造することができる。なお、一の積層体14aを形成した後に当該積層体14aの多層膜62の表面に新たな支持体61を積層させ、蒸着装置を用いて、新たな支持体61の表面に、第1層71および第2層72を交互に成膜して、一の積層体14aの表面に新たな積層体14aを順次形成してゆくようにしてもよい。
【0046】
図5(A)に示すように、発熱体14は、例えば、一方の末端にある積層体14aの支持体61が第1室21側(高圧側)に配され、他方の末端にある積層体14aの多層膜62が第2室22側(低圧側)に配される。第1室21と第2室22との間に生じる水素の圧力差によって、第1室21に導入された水素は、発熱体14の内部を、支持体61、多層膜62、支持体61、多層膜62…の順に透過し、第2室22へ移動する。発熱体14は、水素が各多層膜62を透過する際、すなわち、各多層膜62への水素の吸蔵と多層膜62からの水素の放出とにより、過剰熱を発生する。なお、発熱体14は、支持体61を第2室22側(低圧側)に配し、多層膜62を第1室21側(高圧側)に配してもよい。
【0047】
発熱体14は、発生した過剰熱によって、透過する水素系ガスを加熱する。発熱体14は、水素を使用して発熱するので、二酸化炭素などの温室効果ガスが発生せずクリーンな熱エネルギー源といえる。また、使用する水素は、水から生成できるため安価である。さらに、発熱体14の発熱は、核分裂反応とは異なり、連鎖反応が無いので安全とされている。したがって、水素加熱装置11は、このような発熱体14を熱エネルギー源として水素系ガスを加熱することで、安価、クリーン、安全な熱エネルギー源を利用して、加熱した水素系ガスを供給することができる。
【0048】
本発明は、上記第1実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。以下、第1実施形態の変形例について説明する。変形例の図面および説明では、上記第1実施形態と同一または同等の構成要素および部材に対し同一の符号を付する。上記第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、上記第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0049】
[第1変形例]
図5(B)に示すように、水素加熱装置11は、一方の末端に配置された積層体14aの支持体61の裏面にも多層膜62を設け、支持体61の両面に多層膜62を設けた発熱体74を用いるようにしてもよい。発熱体74は、多層膜62、支持体61、多層膜62、支持体61、多層膜62…の順に透過し、各多層膜62における水素の吸蔵と放出とにより過剰熱を発生する。発熱体74を用いることにより過剰熱の高出力化が図れる。
【0050】
[第2変形例]
水素加熱装置11は、発熱体14の代わりに、
図6に示す発熱体75を備えるものであってもよい。
図6に示す発熱体75は、積層体の多層膜62が、第1層71と第2層72に加えて、第3層77をさらに有するものである。第3層77は、第1層71および第2層72とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第3層77の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。
図6では、第1層71と第2層72と第3層77は、支持体61の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77は、支持体61の表面に、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層されてもよい。すなわち、多層膜62は、第2層72と第3層77の間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜62は、第3層77を1層以上有していればよい。第1層71と第3層77との間に形成される異種物質界面78は、異種物質界面73と同様に、水素原子を透過させる。
【0051】
第3層77は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される。第3層77を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第3層77を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0052】
特に、第3層77は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77を有する発熱体75は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73および異種物質界面78を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜62は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層77は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71および第3層77は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第3層77の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面78のみが形成される。
【0053】
第1層71と第2層72と第3層77との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第3層77-第2層72」として表すと、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCであることが好ましい。
【0054】
[第3変形例]
水素加熱装置11は、発熱体14の代わりに、
図7に示す発熱体80を備えるものである。
図7に示す発熱体80は、積層体の多層膜62が、第1層71と第2層72と第3層77に加えて、第4層82をさらに有するものである。第4層82は、第1層71、第2層72および第3層77とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第4層82の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。
図7では、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、支持体61の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77、第1層71、第4層82の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、支持体61の表面に、第1層71、第4層82、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層してもよい。すなわち、多層膜62は、第2層72、第3層77、第4層82を任意の順に積層し、かつ、第2層72、第3層77、第4層82のそれぞれの間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜62は、第4層82を1層以上有していればよい。第1層71と第4層82との間に形成される異種物質界面83は、異種物質界面73および異種物質界面78と同様に、水素原子を透過させる。
【0055】
第4層82は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される。第4層82を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第4層82を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0056】
特に、第4層82は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82を有する発熱体80は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73、異種物質界面78、および異種物質界面83を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜62は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層82は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71および第4層82は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第4層82の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面83のみが形成される。
【0057】
第1層71と第2層72と第3層77と第4層82との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71-第4層82-第3層77-第2層72」として表すと、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feであることが好ましい。
【0058】
なお、発熱体としては、
図3に示す発熱体14の積層体14a、
図6に示す発熱体75の積層体、および、
図7に示す発熱体80の積層体のうちいずれか2種以上を混合して、複数種類の積層体を交互、あるいは、任意の順番に積層させた構成としてもよい。また、多層膜62の構成、例えば、各層の厚みの比率、各層の層数、材料は、使用される温度に応じて適宜変更してもよい。以下、「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」、「多層膜の積層数と過剰熱の関係」、および「多層膜の材料と過剰熱の関係」について説明した後に、温度に応じた多層膜62の構成の一例を説明する。
【0059】
「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」、「多層膜の積層数と過剰熱の関係」、および「多層膜の材料と過剰熱の関係」は、実験用の水素加熱装置(図示なし)を準備し、この実験用水素加熱装置を用いて、1つの積層体からなる発熱体が過剰熱を発生するか否かの実験を行うことによって調べた。実験用水素加熱装置は、密閉容器と、密閉容器の内部に配置された2つの発熱体と、各発熱体を加熱するヒータとを備える。発熱体は板状に形成されている。ヒータは、板状に形成されたセラミックヒータであり、熱電対を内蔵する。ヒータは、2つの発熱体の間に設けられている。密閉容器は、水素系ガス供給路と排気経路とに接続している。水素系ガス供給路は、水素系ガスを貯留したガスボンベと密閉容器とを接続する。水素系ガス供給路には、ガスボンベに貯留された水素系ガスを密閉容器へ供給する供給量を調整するための調整弁などが設けられている。排気経路は、密閉容器の内部を真空排気するためのドライポンプと密閉容器とを接続する。排気経路には、ガスの排気量を調整するための調整弁などが設けられている。
【0060】
実験用水素加熱装置は、水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行うことによって、発熱体から過剰熱を発生させる。すなわち、実験用水素加熱装置は、水素吸蔵工程を行うことによって発熱体14に水素を吸蔵させ、その後、水素放出工程を行うことによって発熱体14に吸蔵されている水素を放出させる。水素吸蔵工程では、密閉容器の内部への水素系ガスの供給が行われる。水素放出工程では、密閉容器の内部の真空排気と発熱体の加熱とが行われる。
【0061】
「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」について説明する。まずは、1つの積層体14aに着目し、Niからなる支持体61と、Cuからなる第1層71とNiからなる第2層72とにより形成された多層膜62とを有する発熱体14を用いて、第1層71と第2層72の厚みの比率と過剰熱の関係を調べた。以下、多層膜62の各層の厚みの比率をNi:Cuと記載する。
【0062】
Ni:Cu以外は同じ条件で多層膜62を形成した8種の発熱体14を作製し、実験例1~8とした。なお、多層膜62は支持体61の表面にのみ設けた。実験例1~8の各発熱体14のNi:Cuは、7:1、14:1、4.33:1、3:1、5:1、8:1、6:1、6.5:1である。実験例1~8の各発熱体14において、多層膜62は、第1層71と第2層72との積層構成が繰り返し設けられている。実験例1~8の各発熱体14は、多層膜62の積層構成の数(以下、多層膜の積層数と称する)を5とした。実験例1~8の各発熱体14は、多層膜62全体の厚みをほぼ同じとした。
【0063】
実験例1~8の発熱体14を実験用水素加熱装置の密閉容器の内部に設置し、水素吸蔵工程と水素放出工程とを交互に繰り返し行った。水素系ガスとして、軽水素ガス(沼田酸素社製 grade2 純度99.999vol%以上)を用いた。水素吸蔵工程では、水素系ガスを50Pa程度で密閉容器の内部に供給した。発熱体14に水素を吸蔵させる時間は64時間程度とした。なお、水素吸蔵工程の前に、予め、ヒータにより密閉容器の内部を36時間程度200℃以上でベーキングし、発熱体14の表面に付着した水などを除去した。
【0064】
水素放出工程では、ヒータの入力電力を、水素吸蔵工程を挟んで9W、18W、27Wとした。そして、ヒータに内蔵した熱電対により、各水素放出工程時の発熱体14の温度を測定した。その結果を
図8に示す。
図8は、測定したデータを所定の手法でフィッティングしたグラフである。
図8では、ヒータ温度を横軸に示し、過剰熱の電力を縦軸に示した。ヒータ温度は、所定の入力電力における発熱体14の温度である。
図8では、実験例1を「Ni:Cu = 7:1」、実験例2を「Ni:Cu = 14:1」、実験例3を「Ni:Cu = 4.33:1」、実験例4を「Ni:Cu = 3:1」、実験例5を「Ni:Cu = 5:1」、実験例6を「Ni:Cu = 8:1」、実験例7を「Ni:Cu = 6:1」、実験例8を「Ni:Cu = 6.5:1」と表記した。
【0065】
図8より、実験例1~8の発熱体14の全てにおいて過剰熱が発生することが確認できた。よって、1つの積層体14aからなる発熱体14を水素系ガスが透過した際に水素系ガスを加熱できることが確認できた。また、このような積層体14aを複数積層させた発熱体14とすれば、過剰熱が発生する積層体14aを透過する距離が延びるので、その分、水素系ガスを加熱させる時間が長くなり、水素系ガスの温度を高くできる。よって、発熱体14で積層体14aを積層する積層数を変えることにより、最終的に発熱体14を透過した後の水素系ガスの温度を調整できることが分かった。
【0066】
ヒータ温度が700℃以上で実験例1~8の発熱体14を比較すると、実験例1が最も大きな過剰熱を発生することがわかる。実験例3の発熱体は、実験例1,2,4~8の発熱体14に比べて、ヒータ温度が300℃以上1000℃以下の広範囲にわたり過剰熱を発生することがわかる。多層膜62のNi:Cuが3:1~8:1である実験例1,3~8の発熱体14は、ヒータ温度が高くなるほど過剰熱が増大することがわかる。多層膜62のNi:Cuが14:1である実験例2の発熱体14は、ヒータ温度が800℃以上で過剰熱が減少することがわかる。このように、NiとCuの比率に対して過剰熱が単純に増加していないのは、多層膜62中の水素の量子効果に起因しているものと考えられる。
【0067】
次に「多層膜の積層数と過剰熱の関係」について説明する。Niからなる支持体61と、Cuからなる第1層71とNiからなる第2層72とにより形成された多層膜62とでなる1つの積層体14aからなる発熱体14を用いて、多層膜62の積層数と過剰熱の関係を調べた。
【0068】
実験例1の発熱体14と、多層膜62の積層数以外は同じ条件で製造した多層膜62を有する8種の発熱体14(積層体14aが1つの発熱体14)を作製し、実験例9~16とした。実験例1,9~16の各発熱体14の多層膜62の積層数は、5、3、7、6、8、9、12、4、2である。
【0069】
実験例1,9~16の各発熱体14を実験用水素加熱装置の密閉容器の内部に設置した。実験用水素加熱装置は、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」を調べるために用いた装置と同じである。実験用水素加熱装置において、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」と同様の方法により、水素放出工程時の発熱体14の温度を測定した。その結果を
図9に示す。
図9は、測定したデータを所定の手法でフィッティングしたグラフである。
図9では、ヒータ温度を横軸に示し、過剰熱の電力を縦軸に示した。
図9では、各層の厚みを基に、実験例1を「Ni
0.875Cu
0.125 5層」、実験例9を「Ni
0.875Cu
0.125 3層」、実験例10を「Ni
0.875Cu
0.125 7層」、実験例11を「Ni
0.875Cu
0.125 6層」、実験例12を「Ni
0.875Cu
0.125 8層」、実験例13を「Ni
0.875Cu
0.125 9層」、実験例14を「Ni
0.875Cu
0.125 12層」、実験例15を「Ni
0.875Cu
0.125 4層」、実験例16を「Ni
0.875Cu
0.125 2層」と表記した。
【0070】
図9より、実験例1,9~16の発熱体14の全てにおいて過剰熱を発生することが確認できた。ヒータ温度が840℃以上で実験例1,9~16の発熱体14を比較すると、過剰熱は、多層膜62の積層数が6である実験例11が最も大きく、多層膜62の積層数が8である実験例12が最も小さいことがわかる。このように、多層膜62の積層数に対して過剰熱が単純に増加していないのは、多層膜62中の水素の波動としての挙動の波長が、ナノメートルオーダーであり、多層膜62と干渉しているためと考えられる。
【0071】
次に「多層膜の材料と過剰熱の関係」について説明する。Niからなる第1層71と、Cuからなる第2層72と、第1層71および第2層72とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスからなる第3層77とにより形成された多層膜62を有する1つの積層体からなる発熱体75を用いて、第3層77を形成する材料の種類と過剰熱の関係を調べた。
【0072】
第3層77を形成する材料の種類以外は同じ条件で多層膜62を形成した9種の発熱体75を作製し、実験例17~25とした。実験例17~25の各発熱体75において、第3層77を形成する材料の種類は、CaO、SiC、Y2O3、TiC、Co、LaB6、ZrC、TiB2、CaOZrOである。
【0073】
実験例17~25の各発熱体75を実験用水素加熱装置の密閉容器の内部に設置した。実験用水素加熱装置は、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」を調べるために用いた装置と同じである。実験用水素加熱装置において、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」と同様の方法により、水素放出工程時の発熱体75の温度を測定した。その結果を
図10に示す。
図10は、測定したデータを所定の手法でフィッティングしたグラフである。
図10では、ヒータ温度を横軸に示し、過剰熱の電力を縦軸に示した。
図10では、各層の厚みを基に、実験例17を「Ni
0.793CaO
0.113Cu
0.094」、実験例18を「Ni
0.793SiC
0.113Cu
0.094」、実験例19を「Ni
0.793Y
2O
30.113Cu
0.094」、実験例20を「Ni
0.793TiC
0.113Cu
0.094」、実験例21を「Ni
0.793Co
0.113Cu
0.094」、実験例22を「Ni
0.793LaB
60.113Cu
0.094」、実験例23を「Ni
0.793ZrC
0.113Cu
0.094」、実験例24を「Ni
0.793TiB
20.113Cu
0.094」、実験例25を「Ni
0.793CaOZrO
0.113Cu
0.094」と表記した。
【0074】
図10より、実験例17~25の発熱体75の全てにおいて過剰熱を発生することが確認できた。よって、1つの積層体からなる発熱体75を水素系ガスが透過した際に水素系ガスを加熱できることが確認できた。また、このような積層体を複数積層させた発熱体75とすれば、過剰熱が発生する積層体を透過する距離が延びるので、その分、水素系ガスを加熱させる時間が長くなり、水素系ガスの温度を高くできることが分かる。よって、発熱体75で積層体を積層する積層数を変えることにより、最終的に発熱体75を透過した後の水素系ガスの温度を調整できることが分かった。
【0075】
なお、特に、第3層77を形成する材料がCaOである実験例17、TiCである実験例20、LaB6である実験例22は、他の実験例18,19,21,23~25と比べて、ヒータ温度が400℃以上1000℃以下の広範囲にわたり過剰熱がほぼ線形的に増大することがわかる。実験例17,20,22の第3層77を形成する材料は、他の実験例18,19,21,23~25の材料よりも仕事関数が小さい。このことから、第3層77を形成する材料の種類は、仕事関数が小さいものが好ましいことがわかる。これらの結果から、多層膜62内の電子密度が発熱反応に寄与している可能性がある。
【0076】
発熱体14の温度に応じた多層膜62の構成の一例を説明する。発熱体14について上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」を考慮すると、発熱体14の温度が低温(例えば50℃以上500℃以下の範囲内)である場合は、多層膜62の各層の厚みの比率が2:1以上5:1以下の範囲内であることが好ましい。発熱体14の温度が中温(例えば500℃以上800℃以下の範囲内)である場合は、多層膜62の各層の厚みの比率が5:1以上6:1以下の範囲内であることが好ましい。発熱体14の温度が高温(例えば800℃以上1000℃以下の範囲内)である場合は、多層膜62の各層の厚みの比率が6:1以上12:1以下の範囲内であることが好ましい。
【0077】
上記の「多層膜の積層数と過剰熱の関係」を考慮すると、発熱体14の温度が低温、中温、高温のいずれかである場合は、多層膜62の第1層71が2層以上18層以下の範囲内であり、第2層72が2層以上18層以下の範囲内であることが好ましい。
【0078】
発熱体75について上記の「多層膜の材料と過剰熱の関係」を考慮すると、発熱体75の温度が低温である場合は、第1層71がNiであり、第2層72がCuであり、第3層77がY2O3であることが好ましい。発熱体75の温度が中温である場合は、第1層71がNiであり、第2層72がCuであり、第3層77がTiCであることが好ましい。発熱体75の温度が高温である場合は、第1層71がNiであり、第2層72がCuであり、第3層77がCaOあるいはLaB6であることが好ましい。
【0079】
[第4変形例]
図11は、一端が開口し、他端が閉塞した有底筒状に形成された発熱体90の断面図である。発熱体90には、支持体91と多層膜92とを有する複数の積層体90aが設けられている。この場合、積層体90aは、一端が開口し、かつ他端が閉塞した有底筒状に形成された支持体91の外周面および外底面に沿って多層膜92が形成されており、多層膜92も一端が開口し、かつ他端が閉塞した有底筒状に形成されている。
【0080】
発熱体90は、内側にある積層体90aの多層膜92の外周面および外底面に沿って、外側にある積層体90aの支持体91が設けられており、内面側から外面側に向けて、支持体91、多層膜92、支持体91および多層膜92というように、支持体91および多層膜92が交互に積層された構成を有する。このようにして、発熱体90には、有底筒状の複数の積層体90aが積層されており、発熱体90を透過した水素系ガスが所定の温度まで加熱されるように、当該積層体90aの積層数が設定されている。
【0081】
各支持体91は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成されている。また、各多層膜92は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層(図示なし)と、第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層(図示なし)とを有する。なお、発熱体90は、
図11では有底円筒状に形成されているが、有底角筒状に形成してもよい。
【0082】
次に発熱体90の製造方法の一例を説明する。発熱体90は、有底筒状に形成された支持体91を準備し、湿式成膜法を用いて支持体91に多層膜92を形成する。この例では、支持体91の外面に多層膜92を形成する。これにより、最内層の有底筒状の積層体90aが形成される。次いで、シート状に形成された他の支持体91を準備して当該シート状の支持体91の外面に、湿式成膜法を用いて多層膜92を形成して新たな有底筒状でなるシート状の積層体90aを形成する。そして、最内層の積層体90aの外面に、得られたシート状でなる他の積層体90aを繰り返し重ねてゆくことで複数の積層体90aが積層された発熱体90を製造することができる。なお、最内層の有底筒状の支持体91の外面に多層膜92を形成した後に、当該多層膜92の外周面及び底面にシート状の支持体91を形成し、当該支持体91の外周面及び底面に再び多層膜92を形成する等、支持体91と多層膜92を順番に形成してもよい。
【0083】
なお、湿式成膜法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ディッピング法などが用いられる。また、多層膜92は、ALD法(Atomic Layer Deposition)を用いて形成してもよいし、支持体91を回転させる回転機構を備えたスパッタリング装置を用いて、支持体91を回転させながら、支持体91に多層膜92を形成してもよい。なお、多層膜92は支持体91の最内面にも設けて、最内周にある支持体91には両面に多層膜92が設けられるようにしてもよい。
【0084】
図12に示すように、水素利用システム95は、水素加熱装置96と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置96は、発熱体14の代わりに発熱体90を備えることが上記実施形態の水素加熱装置11とは異なる。発熱体90は、取付管97を用いて密閉容器15に取り付けられる。
図12では省略しているが、水素加熱装置96は、発熱体90の温度を検出する温度センサ、ヒータ16bに電力を入力する電源、温度センサが検出した温度に基づいてヒータ16bの出力の制御を行う出力制御部としての制御部などを備える。温度センサは例えば発熱体90の外面に設けられる。
【0085】
取付管97は、例えばステンレスなどで形成されている。取付管97は、密閉容器15を貫通し、一端が密閉容器15の外面に配され、他端が密閉容器15の内部に配される。取付管97の一端は、水素流通ライン17の導入ライン29と接続する。取付管97の他端には発熱体90が設けられている。
【0086】
第4変形例では、第1室21は、発熱体90の内面により形成される。第2室22は、密閉容器15の内面と発熱体90の外面とにより形成される。このため、発熱体90は、支持体91が第1室21側(高圧側)に配され、多層膜92が第2室22側(低圧側)に配される(
図11参照)。第1室21と第2室22との間に生じる圧力差によって、第1室21に導入された水素は、発熱体90の内部を、支持体91、多層膜92、支持体91、多層膜92、…の順に透過してゆき、第2室22へと移動する。すなわち、発熱体90の内面から外面へ向けて、所定数積層された複数の積層体90aを水素が透過する。これにより、発熱体90の各積層体90aは、多層膜92からの水素の放出時に過剰熱を発生する。したがって、水素加熱装置96は、上記実施形態の水素加熱装置11と同様の作用効果を有する。
【0087】
なお、水素加熱装置96は、発熱体90の代わりに、
図13に示す発熱体98を備えるものでもよい。発熱体98は、最も内側に有する積層体90bが柱状の支持体91aを有していることが、上述した発熱体90とは異なっている。支持体91aは、支持体61と同様に、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成される。支持体91aは、水素系ガスの通過を可能としつつ、発熱体98の機械的強度を向上させる。なお、支持体91aは、
図13では円柱状に形成されているが、角柱状に形成してもよい。
【0088】
[第5変形例]
図14に示すように、水素利用システム115は、水素加熱装置121と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置121は、密閉容器15の代わりに密閉容器123を有することが上記実施形態の水素加熱装置11とは異なる。密閉容器123は、中空の容器であり、内部に発熱体14を収容する。密閉容器123は、断熱材51により覆われている。密閉容器123には、発熱体14を取り付けるための取付管125が設けられている。
【0089】
取付管125は、例えばステンレスなどで形成されている。取付管125は、密閉容器123を貫通し、一端が密閉容器123の外部に配され、他端が密閉容器123の内部に配される。取付管125の一端は、この例では断熱材51内に配されている。取付管125の一端は、水素流通ライン17の導入ライン29と接続する。取付管125の他端には発熱体14が設けられている。取付管125の外周には温度調節部(図示なし)のヒータ16bが巻き付けられている。
【0090】
密閉容器123は、取付管125と発熱体14により仕切られた第1室126および第2室127を有する。第1室126は、発熱体14の表面と取付管125の内面とにより形成される。第1室126は、導入ライン29と接続する導入口23を有する。第2室127は、密閉容器123の内面と発熱体14の裏面と取付管125の外面とにより形成される。第2室127は、導出ライン30と接続する導出口24を有する。導出口24は、
図14では密閉容器123の長手方向のほぼ中央に位置に設けられている。第1室126は、水素系ガスが導入されることにより昇圧される。第2室127は、水素系ガスが排気されることにより減圧される。これにより、第1室126の水素の圧力は、第2室127の水素の圧力よりも高くされる。第1室126と第2室127とは、水素の圧力が互いに異なっている。このため、密閉容器123の内部は、発熱体14の両側に圧力差が生じた状態とされている。
【0091】
導出ライン30を流通する、加熱された水素系ガスは、上述した実施形態と同様に、導出ライン30を介して水素利用装置12に送られ、水素利用装置12において種々の用途に利用される。
【0092】
以上のように、水素加熱装置121は、密閉容器123の内部において、取付管125内部の第1室126から、取付管125の先端に設けた発熱体14を透過して第2室127に向けて水素系ガスが流れることにより、発熱体14の各積層体14aで発生する熱により水素系ガスを加熱させることができる。この際、水素加熱装置121でも、発熱体14の積層体14aの積層数を所定数に設定しておくことで、水素系ガスの温度を所定の温度まで昇温させることができるので、上記実施形態の水素加熱装置11と同様の作用効果を有する。
【0093】
[第6変形例]
図15に示すように、水素利用システム145は、水素加熱装置146と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置146は、導入ライン29にヒータ137が設けられ、密閉容器15の内部にノズル部148が配置されている。水素加熱装置146は、温度調節部(図示なし)のヒータ137の配置位置や、後述するノズル部148および非透過ガス回収ライン149が設けられている点が、上記実施形態の水素加熱装置11とは異なっている。温度調節部(図示なし)は、温度センサ16aと、ヒータ137と、出力制御部としての制御部18とにより形成される。
【0094】
ヒータ137は、導入ライン29に設けられており、導入ライン29を流通する水素系ガスを加熱することにより、発熱体14を加熱する。ヒータ137は、電源26と電気的に接続しており、電源26から電力が入力されることにより発熱する。電源26は、制御部18により入力電力が制御される。制御部18は、温度センサ16aが検出した温度に基づいて、ヒータ137への入力電力を調節することにより、発熱体14を発熱に適正な温度に維持する。
【0095】
水素加熱装置146は、導入ライン29にヒータ137を有することにより、加熱された水素系ガスを密閉容器15の内部に送ることができ、この加熱した水素系ガスによって発熱体14を加熱し、発熱体14を発熱に適正な温度に維持することができる。このような構成であっても、上記実施形態の水素加熱装置11と同様の作用効果を有する。
【0096】
ノズル部148は、導入口23と発熱体14との間に設けられている。ノズル部148は、導入口23を介して導入ライン29と接続する。ノズル部148は、導入ライン29を流通してフィルタ31により不純物が除去された水素系ガスを、ノズル先端に設けられた噴射口から噴射する。ノズル先端と発熱体14の表面との間の距離は、例えば1~2cmとされる。ノズル先端の向きは、発熱体14の表面に対し垂直な向きとされる。これにより、ノズル部148は、発熱体14の一方の面である表面全域に水素系ガスを噴射する。なお、ノズル先端と発熱体14の表面との間の距離またはノズル先端の向きは、ノズル先端から出された水素系ガスが発熱体14の表面全域に吹き付けられる距離または向きとすることが好ましい。
【0097】
非透過ガス回収ライン149は、第1室21に設けられた非透過ガス回収口151と接続しており、第1室21に導入された水素系ガスのうち発熱体14を透過しなかった非透過ガスを回収する。非透過ガス回収ライン149は、水素タンク28と接続しており、回収した非透過ガスを水素タンク28へ戻す。非透過ガス回収口151は、導入口23と並んで設けられている。
【0098】
以上の構成において、第1室21に導入された水素系ガスは、発熱体14の各積層体14aを順次透過してゆくことで各積層体14aの熱によって加熱されてゆく。発熱体14を透過して加熱された水素系ガスは、導出ライン30に導出される。導出ライン30に導出された水素系ガスは、ポンプ33および圧力調整弁32を介して水素利用装置12に供給される。
【0099】
一方、第1室21に導入され、発熱体14を透過しなかった残りの水素系ガスは、非透過ガスとして非透過ガス回収ライン149に回収される。非透過ガスは、非透過ガス回収ライン149を流通して水素タンク28へ戻され、再び導入ライン29を流通し、水素系ガスとして第1室21へ導入される。すなわち、非透過ガス回収ライン149は、第1室21と導入ライン29とを接続し、導入ライン29から第1室21へ導入された水素系ガスのうち発熱体14を透過しなかった非透過ガスを回収して再び導入ライン29へ戻す。
【0100】
非透過ガス回収ライン149は、非透過ガス流量制御部152と循環ポンプ153とを有する。非透過ガス流量制御部152は、調整弁として例えばバリアブルリークバルブを有する。非透過ガス流量制御部152は、温度センサ16aが検出した温度に基づいて非透過ガスの流量の制御を行う。例えば、非透過ガス流量制御部152は、温度センサ16aにより検出された発熱体14の温度が発熱体14の発熱に適正な温度範囲の上限温度を超える場合、非透過ガスの循環流量を増やす。非透過ガス流量制御部152は、温度センサ16aにより検出された発熱体14の温度が発熱体14の発熱に適正な温度範囲の下限温度に満たない場合、非透過ガスの流量を減らす。このように、非透過ガス流量制御部152は、非透過ガスの循環流量を増減させることにより、発熱体14を発熱に適正な温度に維持する。
【0101】
循環ポンプ153は、第1室21の非透過ガスを非透過ガス回収口151から回収して水素タンク28へ送る。循環ポンプ153としては、例えばメタルベローズポンプが用いられる。循環ポンプ153は、制御部18と電気的に接続している。
【0102】
水素加熱装置146では、ノズル部148を有することにより、不純物除去後の水素系ガスが発熱体14の表面に直接吹き付けられる。これにより、水素加熱装置146では、発熱体14の表面および周辺の不純物が吹き飛ばされ、かつ、フィルタ31により不純物が除去されたフレッシュな水素系ガスにより形成された雰囲気下に発熱体14の表面が配されるので、過剰熱の高出力化が図れる。
【0103】
[第7変形例]
図16に示すように、水素利用システム155は、水素加熱装置156と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置156は、発熱体14の代わりに発熱体90を備え、密閉容器15の内部にノズル部158を配置したものである。この例では、取付管97に対し、導入口23と非透過ガス回収口151とが並んで設けられる。
【0104】
ノズル部158は、導入口23と発熱体90との間に設けられており、一端が導入口23と接続し、他端が発熱体90の他端まで延びている。ノズル部158は、導入口23を介して導入ライン29と接続する。
【0105】
図17に示すように、筒状のノズル部158には、発熱体90の軸方向に沿って周側面に複数の噴射口159が形成されている。また、本実施形態に係るノズル部158には、底面にも噴射口159が形成されている。ノズル部158は、複数の噴射口159から発熱体90の内面全域(内周面および内底面)に水素系ガスを噴射する。複数の噴射口159は、等間隔に配列されることが好ましい。複数の噴射口159を等間隔に配列することにより、発熱体90の内面全域に均一に水素系ガスが噴射される。噴射口159の数や直径は適宜変更してよい。
【0106】
また、発熱体90は、第1室21に設けられた非透過ガス回収口151に非透過ガス回収ライン149が接続された構成を有しており、第1室21に導入された水素系ガスのうち発熱体90を透過しなかった非透過ガスを、非透過ガス回収ライン149から回収することができる。
【0107】
また、水素加熱装置156は、ノズル部158から水素系ガスを噴射させることにより、発熱体90の内面および周辺の不純物が水素系ガスによって吹き飛ばされ、かつ、発熱体90の内部が、フィルタ31により不純物が除去されたフレッシュな水素系ガスにより形成された雰囲気とされるので、過剰熱の高出力化が図れる。
【0108】
[第8変形例]
図18は、両端が開口した筒状の発熱体160の断面図である。発熱体160は、支持体161と多層膜162とを有した複数の積層体160aを有している。この場合、各積層体160aは、それぞれ筒状の支持体161の外周面に筒状の多層膜162が形成された構成を有する。発熱体160は、一の積層体160aの多層膜162の外周面に他の積層体160aの支持体161が設けられ、内側から外側に向けて、支持体161、多層膜162、支持体161、多層膜162というように、支持体161と多層膜162とが順次交互に配置されることにより複数の積層体160aが所定数積層されている。このようにして、発熱体160には、筒状の複数の積層体160aが積層されているとともに、発熱体160を透過した水素系ガスが所定の温度まで加熱されるように、当該積層体160aの積層数が設定されている。
【0109】
なお、支持体161は、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体のうち少なくともいずれかにより形成されている。多層膜162は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層(図示なし)と、第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層(図示なし)とを有する。発熱体160の製造方法は、両端が開口した筒状の支持体161を準備すること以外は発熱体90の製造方法と同じなので説明を省略する。なお、発熱体160は、
図18では両端が開口した円筒状に形成されているが、両端が開口した角筒状に形成してもよい。
【0110】
図19に示すように、水素利用システム165は、水素加熱装置166と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置166は、発熱体90の代わりに発熱体160を備えることが上記第7変形例の水素加熱装置156とは異なる。
【0111】
発熱体160は、両端に取付管97が設けられている。発熱体160の一端に設けられた取付管97は、導入ライン29と接続している。発熱体160の他端に設けられた取付管97は、非透過ガス回収ライン149と接続している。すなわち、発熱体160は、一端が導入ライン29と接続し、他端が非透過ガス回収ライン149と接続する。したがって、水素加熱装置166は、上記第7変形例の水素加熱装置156と同様に、第1室21に導入された水素系ガスのうち発熱体160を透過しなかった非透過ガスを、非透過ガス回収ライン149から回収することができる。
【0112】
[第9変形例]
上記実施形態および上記各変形例では、水素流通ラインによって、導入ラインから第1室へ水素系ガスを導入し、第2室から導出ラインに水素系ガスを導出することで、第1室と第2室との間で水素の圧力差を発生させているが、第9変形例では、水素流通ラインを用いる代わりに、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を用いて、水素の吸蔵および放出を利用して第1室と第2室との間で水素の圧力差を発生させる。以下、上述した実施形態および上記各変形例と異なる点に着目して第9変形例の水素加熱装置について説明する。
【0113】
図20に示すように、水素加熱装置171は、発熱体14と、密閉容器173と、第1の水素吸蔵放出部174と、第2の水素吸蔵放出部175と、第1の温度センサ176と、第2の温度センサ177と、第1のヒータ178と、第2のヒータ179と、第1の圧力計180と、第2の圧力計181と、水素圧力制御部182とを備える。複数の積層体14aが所定の積層数、積層された発熱体14(
図2参照)については説明を省略する。なお、水素加熱装置171は、図示しない出力制御部としての制御部をさらに備える。この出力制御部としての制御部と、第1の温度センサ176と、第2の温度センサ177と、第1のヒータ178と、第2のヒータ179とにより、温度調節部(図示なし)が形成される。温度調節部は、発熱体14の温度を調節し、発熱に適正な温度に維持する。
【0114】
密閉容器173は、発熱体14により仕切られた第1室184および第2室185を有する。第1室184と第2室185とは、後述する水素圧力制御部182により切替制御が行われることにより水素の圧力が異なる。第1室184は、発熱体14の表面と密閉容器173の内面とにより形成されている。第2室185は、発熱体14の裏面と密閉容器173の内面とにより形成されている。
図20には図示していないが、密閉容器173には、例えば、第1室184または第2室185に導入口が設けられ、水素系ガスを導入するための導入ラインが導入口に接続されている。また、同じく、
図20には図示していないが、密閉容器173には、第1室184または第2室185に導出口が設けられ、発熱体14により加熱された水素系ガスを水素利用装置に導出させる導出ラインが導出口に接続されている。
【0115】
第1の水素吸蔵放出部174は、第1室184に設けられている。第1の水素吸蔵放出部174は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成されている。第1の水素吸蔵放出部174は、水素の吸蔵および放出を行う。第1の水素吸蔵放出部174の水素の吸蔵および放出は、後述する水素圧力制御部182によって順次切り替えられる。
【0116】
第2の水素吸蔵放出部175は、第2室185に設けられている。第2の水素吸蔵放出部175は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成されている。第2の水素吸蔵放出部175は、水素の吸蔵および放出を行う。第2の水素吸蔵放出部175の水素の吸蔵および放出は、後述する水素圧力制御部182によって順次切り替えられる。
【0117】
第1の温度センサ176は、第1の水素吸蔵放出部174に設けられており、第1の水素吸蔵放出部174の温度を検出する。第2の温度センサ177は、第2の水素吸蔵放出部175に設けられており、第2の水素吸蔵放出部175の温度を検出する。
【0118】
第1のヒータ178は、第1の水素吸蔵放出部174に設けられており、第1の水素吸蔵放出部174を加熱する。第1のヒータ178は、電源187と電気的に接続しており、電源187から電力が入力されることにより発熱する。第2のヒータ179は、第2の水素吸蔵放出部175に設けられており、第2の水素吸蔵放出部175を加熱する。第2のヒータ179は、電源188と電気的に接続しており、電源188から電力が入力されることにより発熱する。
【0119】
第1の圧力計180は、第1室184の内部に設けられており、第1室184の水素の圧力を検出する。第2の圧力計181は、第2室185の内部に設けられており、第2室185の水素の圧力を検出する。
【0120】
水素圧力制御部182は、第1の温度センサ176、第2の温度センサ177、第1の圧力計180、第2の圧力計181、電源187および電源188と電気的に接続している。
【0121】
水素圧力制御部182は、第1の温度センサ176が検出した温度に基づいて、第1の水素吸蔵放出部174の温度の制御を行う。水素圧力制御部182は、電源187をONとし、第1のヒータ178への入力電力を調節することにより、第1の水素吸蔵放出部174を所定の温度まで加熱する。また、水素圧力制御部182は、電源187をOFFとすることにより、第1の水素吸蔵放出部174を冷却する。なお、図示しない冷却装置を用いて第1の水素吸蔵放出部174を冷却してもよい。
【0122】
水素圧力制御部182は、第2の温度センサ177が検出した温度に基づいて、第2の水素吸蔵放出部175の温度の制御を行う。水素圧力制御部182は、電源188をONとし、第2のヒータ179への入力電力を調節することにより、第2の水素吸蔵放出部175を所定の温度まで加熱する。また、水素圧力制御部182は、電源188をOFFとすることにより、第2の水素吸蔵放出部175を冷却する。なお、図示しない冷却装置を用いて第2の水素吸蔵放出部175を冷却してもよい。
【0123】
水素圧力制御部182は、第1室184の水素の圧力を第2室185の水素の圧力よりも高くする第1のモードと、第2室185の水素の圧力を第1室184の水素の圧力よりも高くする第2のモードとを有する。
【0124】
水素圧力制御部182は、第1のモードでは、
図21に示すように、第1の水素吸蔵放出部174を第1のヒータ178により加熱し、かつ、第2の水素吸蔵放出部175を冷却する。第1の水素吸蔵放出部174は、加熱されることによって水素を放出する。第1室184は、第1の水素吸蔵放出部174から水素が放出されることにより昇圧される。一方、第2の水素吸蔵放出部175は、冷却されることによって水素を吸蔵する。第2室185は、第2の水素吸蔵放出部175に水素が吸蔵されることにより減圧される。この結果、第1室184の水素の圧力は、第2室185の水素の圧力よりも高くされる。第1室184と第2室185との間に生じる水素の圧力差によって、第1室184の水素は、発熱体14を透過し、第2室185へ移動する。発熱体14は、水素が透過することにより過剰熱を発生する。
【0125】
水素圧力制御部182は、第2のモードでは、
図22に示すように、第1の水素吸蔵放出部174を冷却し、かつ、第2の水素吸蔵放出部175を第2のヒータ179により加熱する。第1の水素吸蔵放出部174は、冷却されることによって水素を吸蔵する。第1室184は、第1の水素吸蔵放出部174に水素が吸蔵されることにより減圧される。一方、第2の水素吸蔵放出部175は、加熱されることによって水素を放出する。第2室185は、第2の水素吸蔵放出部175から水素が放出されることにより昇圧される。この結果、第2室185の水素の圧力は、第1室184の水素の圧力よりも高くされる。第1室184と第2室185との間に生じる水素の圧力差によって、第2室185の水素は、発熱体14を透過し、第1室184へ移動する。発熱体14は、水素が透過することにより過剰熱を発生する。
【0126】
水素圧力制御部182は、第1のモードと第2のモードとを切り替える切替制御を行う。切替制御の一例を説明する。水素圧力制御部182は、第1のモード中に、第1の圧力計180により検出された圧力が所定の閾値以下となった場合に、第1のモードから第2のモードへ切り替える。水素圧力制御部182は、第2のモード中に、第2の圧力計181により検出された圧力が所定の圧力以下となった場合に、第2のモードから第1のモードへ切り替える。水素圧力制御部182は、第1のモードと第2のモードとの切替制御を行うことにより、積層体14aが所定の積層数だけ積層された発熱体14を水素が透過する方向を切り替えて、発熱体14の過剰熱の発生を断続的に持続させる。
【0127】
したがって、この場合でも、水素加熱装置171は、発熱体14の積層体の積層数を設定することで、発熱体14による加熱によって水素系ガスを所定の温度まで加熱させることができるので、上記実施形態の水素加熱装置11と同様の作用効果を有する。また、水素加熱装置171は、水素流通ラインを用いることなく第1室と第2室との間で水素の圧力差を発生させることができるので小型化が図れる。
【0128】
[第10変形例]
上記実施形態および上記各変形例の水素加熱装置では発熱体を用いているが、発熱体は複数用いてもよい。
【0129】
図23に示すように、水素利用システム190は、水素加熱装置191と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置191は、複数の発熱体14、複数の発熱体14を収容する密閉容器193、および、非透過ガス回収ライン149などを備える。複数の発熱体14は、それぞれ板状に形成されている。複数の発熱体14は、面同士が対面するように互いに隙間を設けて配列されている。この例では、6つの発熱体14が密閉容器193の内部に配列されている(
図23および
図24参照)。密閉容器193の外周には温度調節部(図示なし)のヒータ16bが設けられている。ヒータ16bは、図示しない電源から電力が入力されることにより、複数の発熱体14を加熱する。
【0130】
密閉容器193には、複数の導入口23と、複数の導出口24と、複数の非透過ガス回収口151とが設けられている。導入口23は、非透過ガス回収口151と対向する位置に配置されている。導出口24と非透過ガス回収口151とは、複数の発熱体14の配列方向に交互に配置されている。複数の導入口23は、例えばガス導入用分岐管(図示なし)を用いて導入ライン29と接続される。複数の導出口24は、例えばガス導入用分岐管(図示なし)を用いて導出ライン30と接続される。
【0131】
密閉容器193は、複数の発熱体14により仕切られた複数の第1室194および複数の第2室195を有する。第1室194と第2室195とは、面同士が対面した発熱体14間の隙間であり、複数の発熱体14の配列方向に交互に配置されている。第1室194は導入口23と非透過ガス回収口151とを有する。第2室195は導出口24を有する。第1室194は、水素系ガスが導入ライン29から導入されることにより昇圧される。第2室195は、水素系ガスが導出ライン30へ導出されることにより減圧される。これにより、第1室194の水素の圧力は、第2室195の水素の圧力よりも高くされる。
【0132】
図24に示すように、第1室194と第2室195との間に生じる水素の圧力差によって、第1室194に導入された水素系ガスの一部は、所定数の積層体14aが積層された発熱体14を透過し、第2室195へ移動し、導出ライン30に導出される。一方、第1室194に導入された水素系ガスのうち、発熱体14を透過しなかった非透過ガスは、非透過ガス回収ライン149に回収される。各発熱体14は、水素系ガスが透過することにより、それぞれ過剰熱を発生する。したがって、水素加熱装置191でも、上記実施形態と同様に、複数の積層体14aの積層数を予め所定数に設定することにより、所定温度の水素系ガスを得ることができる。さらに、この水素加熱装置191では、複数の発熱体14を備えることにより過剰熱の出力の増大を図ることができる。
【0133】
なお、上記第10変形例では、発熱体14を透過しなかった非透過ガスを非透過ガス回収ライン149で回収して導入ライン29へ戻すことにより非透過ガスの循環を行うようにしたが、本発明はこれに限らず、非透過ガス回収ライン149を設けずに、非透過ガスの循環を行わない水素加熱装置としてもよい。この場合、第1室194は、導入口23と対向する位置に非透過ガス回収口151が設けられず、導入口23のみが設けられた構成となる。
【0134】
そして、第1室194に導入された水素系ガスは、発熱体14を透過し、第2室195へ移動し、導出ライン30に導出される。水素系ガスは、発熱体14の各積層体14aを透過することにより、各積層体14aで過剰熱を発生させるとともに、これら積層体14aで発生する過剰熱で加熱されて第2室195へと移動する。したがって、この水素加熱装置でも、上記第10変形例と同様に、複数の積層体14aの積層数を予め所定数に設定することにより、所定温度の水素系ガスを得ることができる。
【0135】
なお、上記第10変形例においては、板状の発熱体14を複数設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、
図11および
図17に示した有底筒状の発熱体90や、
図13に示した発熱体98、
図18に示した筒状の発熱体160などを複数設けた水素加熱装置としてもよく、または、有底筒状の発熱体90や筒状の発熱体160などの構成が異なる複数の発熱体を混在させて設けた水素加熱装置としてもよい。
【0136】
また、1つの密閉容器の内部に、発熱体14、発熱体90、発熱体98、およびまたは、発熱体160などの発熱体を複数設けた場合には、密閉容器内で発熱体ごとに独立して温度の調節を行うようにしてもよい。例えば、1つの密閉容器内に複数の発熱体90を設けた場合、1つの発熱体90に1つの温度センサとヒータとが設けられる。すなわち、1つの温度センサにより1つの発熱体90の温度を検出する。複数の温度センサは、制御部18と電気的に接続しており、検出した各発熱体90の温度に対応する信号を制御部18に出力する。制御部18は、各温度センサが検出した温度に基づいて、各ヒータの出力の制御を独立に行う。したがって、このような水素加熱装置では、発熱体90ごとに独立して温度の調節が行われ、複数の発熱体90が発熱に適正な温度に維持されるので、過剰熱の出力の安定化が図れる。
【0137】
また、発熱体14、発熱体90、発熱体98、およびまたは、発熱体160などの発熱体を複数設ける場合には、発熱体をそれぞれ異なる密閉容器内に設けるようにしてもよい。さらに、発熱体ごと、または密閉容器ごとに流量調整弁を設け、流量調整弁によって各発熱体に導入される水素系ガスの流量を制御するようにしてもよい。
【0138】
また、発熱体を透過した水素系ガスをサンプリングし、サンプリングした水素系ガスを分析し、その分析結果に基づいて発熱制御を行うようにしてもよい。例えば、
図12に示したように、1つの発熱体90が1つの密閉容器15内に設けられている構成を一例に説明すると、この場合、発熱体90を内部に有する密閉容器15が複数設けられた構成となる。そして、発熱体90が設けられた密閉容器15ごとに分析部を設け、密閉容器15ごとに、発熱体90を透過した水素系ガスをサンプリングし、サンプリングした水素系ガスの分析を分析部によって行う。
【0139】
分析部は、発熱体90を透過した後の水素系ガスを分析することによって、例えば、発熱体90の発熱反応により生じる特有の発生ガスが、水素系ガスに含まれているか否かを特定する。このような水素加熱装置であれば、分析部の分析結果に基づいて、密閉容器15ごとに水素系ガスの流量を制御部18(図示せず)によって調整することにより、発熱体90の温度を発熱に適正な温度に維持する発熱制御を行うことができる。
【0140】
また、その他、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の電気抵抗を測定し、測定した電気抵抗の値に基づいて発熱制御を行うようにしてもよい。例えば、複数の発熱体90を設けた例で説明すると、この場合、発熱体90ごとに電気抵抗測定部を設け、当該電気抵抗測定部によって発熱体90の水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の電気抵抗を測定する。ここで、発熱体90は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の水素吸蔵量が多いほど、発熱反応が起こり易い状態とされる。また、発熱体90は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の水素吸蔵量が多いほど、電気抵抗が小さくなる。このため、発熱体90の水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の電気抵抗を測定することにより、水素吸蔵量を推定することができる。複数の電気抵抗測定部は、制御部18と電気的に接続しており、電気抵抗の測定結果を制御部18に出力する。
【0141】
制御部18は、電気抵抗測定部が測定した電気抵抗の値に基づいて、発熱体90ごとに水素系ガスの循環流量を調整することにより、発熱体90の温度を発熱に適正な温度に維持する発熱制御を行うことができる。
【0142】
[第11変形例]
図25に示すように、水素加熱装置256は、発熱体14と、発熱体14の温度を検出する複数の温度センサ257a~257cと、発熱体14の表面に水素系ガスを噴射する複数のノズル部258a~258cとを備える。なお、ここでは、導出ライン30に接続される水素利用装置などのその他の構成については説明が重複するため省略し、上記実施形態や変形例と異なる構成に着目して以下説明する。
【0143】
この例では、1つの発熱体14に対し、複数のノズル部258a~258cから水素系ガスを噴射する。なお、
図25では、一例として、3つの温度センサ257a~257cと、3つのノズル部258a~258cとを示しているが、実際には、温度センサ257a~257cおよびノズル部258a~258cは、3行3列などのようにアレイ状に配置されることが望ましい。
【0144】
この場合、発熱体14の裏面に温度センサ257a~257cが等間隔に2次元状に配置される。発熱体14には、温度センサ257a~257cごとに設定された、温度センサが温度を検出可能な温度測定対象エリアが定められており、温度センサ257a~257cごとに対応する温度測定対象エリアの各温度が検出される。例えば、温度センサ257aは、発熱体14の裏面において所定の1つの温度測定対象エリアの温度を検出する。以降の説明において、温度センサ257a~257cを区別しない場合には、温度センサ257と記載する。
【0145】
複数のノズル部258a~258cは、温度測定対象エリアごとに配置される。以降の説明において、ノズル部258a~258cを区別しない場合には、ノズル部258と記載する。
【0146】
温度センサ257は、制御部18と電気的に接続しており、温度測定対象エリアの温度に対応する信号を制御部18に出力する。ノズル部258は、密閉容器15の導入口23に設けられた取付プレート259に取り付けられる。ノズル部258は、導入口23を介して導入ライン29と接続しており、発熱体14の表面に水素系ガスを噴射する。
【0147】
水素加熱装置256は、制御部18と、ガス導入用分岐管208と、複数の流量調整弁237とをさらに備える。ガス導入用分岐管208は、一端が導入ライン29と接続し、他端が分岐して複数のノズル部258と接続する。ガス導入用分岐管208と複数のノズル部258とは着脱自在である。複数の流量調整弁237は、ガス導入用分岐管208に設けられている。水素加熱装置256は、1つのノズル部258に対し1つの流量調整弁237を備えることにより、ノズル部258ごとに水素系ガスの流量を制御できるようにしたものである。
【0148】
制御部18は、複数の温度センサ257が検出した温度に基づいて、水素系ガスを噴射させるノズル部258を変更する変更制御を行う。以下、変更制御について説明する。
【0149】
水素加熱装置256の作動が開始されると、制御部18は、ヒータ(図示なし)への入力電力と全ての流量調整弁237の開度とを予め定められた初期設定値とする。これにより、発熱体14の温度は、発熱に適正な温度まで上昇する。初期設定値では、全てのノズル部258から水素系ガスが噴射される。なお、ヒータ(図示なし)は、例えば、上記実施形態の水素加熱装置11のように密閉容器15の外周に設けられている。
【0150】
制御部18は、各温度センサ257が検出した温度を取得し、取得した各温度と基準温度とをそれぞれ比較する。基準温度は、例えば温度測定対象エリアにおいて過剰熱を発生していないと推定できる温度である。基準温度は、温度測定対象エリアごとに、制御部18に予め記憶されている。
【0151】
制御部18は、温度センサ257から取得した温度が基準温度以下である場合、温度が取得された温度測定対象エリアにおいて過剰熱が発生していないと判定する。制御部18は、ヒータ(図示なし)への入力電力と、過剰熱が発生していないと判定された温度測定対象エリアに対応する流量調整弁237の開度とを初期設定値のまま維持する。これにより、発熱体14のうち過剰熱が発生していない温度測定対象エリアにおける過剰熱の発生を促すことができる。
【0152】
一方、制御部18は、温度センサ257から取得した温度が基準温度を超える場合、温度が取得された温度測定対象エリアにおいて過剰熱が発生していると判定する。制御部18は、過剰熱が発生していると判定された温度測定対象エリアに対応する流量調整弁237の開度を大きくすることにより、ノズル部258から温度測定対象エリアへ噴射させる水素系ガスの流量を増大させる。過剰熱の発生により上昇した温度測定対象エリアの温度は、水素系ガスの流量が増大することによって、発熱に適正な温度に戻される。これにより、過剰熱が発生している温度測定対象エリアに対し、過剰熱の出力を増大させることができる。
【0153】
水素加熱装置256は、複数の温度測定対象エリアごとに変更制御を行うことによって、時間の経過とともに変化する発熱体14の発熱状況に応じて、水素系ガスを噴射するノズル部258を変更するので、発熱体14の過剰熱の出力の安定化が図れる。
【0154】
なお、水素加熱装置256は、過剰熱を発していない温度測定対象エリアと、過剰熱を発している温度測定対象エリアとのうち、過剰熱を発していない温度測定対象エリアに対して発熱制御を行ってもよい。これにより、過剰熱を発している温度測定対象エリアの数を増やすことができるので、発熱体14全体および装置全体の過剰熱の出力を増大させることができる。
【0155】
水素加熱装置256は、複数の発熱体14を備えるものでもよい。発熱体14ごとに変更制御を行うことによって、装置全体の過剰熱の出力をより増大させることができる。
【0156】
[実験]
上記第5変形例の水素加熱装置121(
図14参照)の構成を一部変更して実験用水素加熱装置を準備した。実験用水素加熱装置を用いて、1つの積層体からなる発熱体の過剰熱を評価する実験を行った。まず実験用水素加熱装置について説明し、その後に実験方法および実験結果について説明する。
【0157】
上記第5変形例の水素加熱装置121では、取付管125の外周にヒータ16bとしての電熱線が巻き付けられているが、実験用水素加熱装置では、密閉容器の外周を覆うように電気炉を配置した。また、実験用水素加熱装置では、支持体の両面に多層膜を設けた1つの積層体からなる発熱体を用いた。
【0158】
実験用水素加熱装置について具体的に説明する。実験用水素加熱装置は、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する1つの積層体からなる発熱体と、発熱体により仕切られた第1室および第2室を有する密閉容器と、発熱体の温度を調節する温度調節部とを備えている。
【0159】
発熱体について説明する。発熱体は、板状の支持体の両面に多層膜を設けた積層体を1つだけ設けたものである。積層体の多層膜の構成が異なる2種の発熱体を作製し、実験例26および実験例27とした。支持体としては、Niからなり、直径20mm、厚さ0.1mmの基板を用いた。支持体は、真空中で900℃、72時間の真空アニールを行った後、両面を濃硝酸でエッチングしたものを準備した。
【0160】
イオンビームスパッタ装置を用いて、支持体の両面に多層膜を形成した。実験例26の多層膜は、Cuからなる第1層とNiからなる第2層とを有する。実験例26の第1層と第2層との積層構成の数(多層膜での積層数)は6とした。実験例27の多層膜は、Cuからなる第1層とNiからなる第2層とCaOからなる第3層とを有する。実験例27の第1層と第2層と第3層との積層構成の数(多層膜での積層数)は6とした。
【0161】
密閉容器について説明する。密閉容器は、石英ガラス管、石英ガラス管の内部を真空排気するための真空配管、石英ガラス管の内部に発熱体を設置するための取付管などで構成されている。石英ガラス管は、先端が封止され、基端が開口している。
【0162】
真空配管は、石英ガラス管の基端と接続している。真空配管には、石英ガラス管の内部のガスを回収するための回収ラインが接続されている。ここでは、発熱体から過剰熱が発生するか否かを確認するために、密閉容器から導出した水素系ガスを、回収ラインにより回収して再び密閉容器内に戻す構成とした。回収ラインには、ターボ分子ポンプおよびドライポンプを有する真空排気部と、石英ガラス管の内部の圧力を検出する圧力センサと、水素が発熱体を透過する透過量(水素透過量)を測定するための真空ゲージとが設けられている。なお、真空排気部は取付管と非接続である。このため取付管の内部は真空排気されない。
【0163】
取付管は、真空配管を通じて石英ガラス管の内部に挿入され、一端が真空配管の外部(石英ガラス管の外部)に配され、他端が石英ガラス管の内部に配されている。取付管はSUSで形成されている。
【0164】
取付管の一端には、当該取付管の内部に水素系ガスを導入するための導入ラインが接続されている。導入ラインには、水素系ガスを貯留する水素ボンベと、取付管の内部の圧力を検出する圧力センサと、取付管への水素系ガスの供給および停止を行うための水素供給バルブと、圧力を調整するためのレギュレータバルブとが設けられている。
【0165】
取付管の他端には、発熱体を着脱可能とするVCR継手が設けられている。VCR継手は、発熱体が配置される位置に、当該VCR継手の内周面と外周面とを貫通する2つのリーク穴を有する。発熱体は、2枚のSUS製ガスケットに挟まれた状態で、VCR継手の内部に配置される。
【0166】
密閉容器では、発熱体により取付管の内部空間と石英ガラス管の内部空間とが仕切られている。取付管の内部空間は、水素系ガスの導入により昇圧される。石英ガラス管の内部空間は、ガスの真空排気により減圧される。これにより、取付管の内部空間の水素の圧力は、石英ガラス管の内部空間の水素の圧力よりも高くされる。取付管の内部空間は第1室として機能し、石英ガラス管の内部空間は第2室として機能する。
【0167】
発熱体の両側に圧力差が生じることにより、高圧側である取付管の内部空間から低圧側である石英ガラス管の内部空間へ水素が透過する。上記したように、発熱体は、水素を透過させる過程において、高圧側に配された一方の面(表面)から水素を吸蔵することによって発熱し、低圧側に配された他方の面(裏面)から水素を放出することによって過剰熱を発生する。
【0168】
温度調節部について説明する。温度調節部は、発熱体の温度を検出する温度センサと、発熱体を加熱するヒータと、温度センサが検出した温度に基づいてヒータの出力の制御を行う出力制御部とを有する。温度センサとして熱電対(K型シース熱電対)を用いた。実験では2つの熱電対(第1の熱電対および第2の熱電対)を準備し、VCR継手の2つのリーク穴のそれぞれに挿入した。2つの熱電対を発熱体に接触させ、発熱体の温度の測定を行った。ヒータとして電気炉を用いた。電気炉は石英ガラス管の外周を覆うように配置される。電気炉には制御用熱電対が設けられている。出力制御部は、制御用熱電対と電気炉とに電気的に接続しており、制御用熱電対で検出した温度に基づき電気炉を所定の電圧で駆動する。電気炉は100Vの交流電源で駆動される。電力計を用いて電気炉への入力電力の測定を行う。
【0169】
次に、実験方法および実験結果について説明する。発熱体を2枚のSUS製ガスケット間に挟み、VCR継手を用いて取付管の他端に固定し、石英ガラス管の内部に配置した。実験を開始する前に、3日間、300℃で発熱体のベーキングを行った。
【0170】
実験は上記のベーキング後に開始した。水素供給バルブを開いて取付管への水素系ガスの供給を行い、レギュレータバルブを用いて第1室(取付管の内部空間)の圧力(水素供給圧力ともいう)を100kPaに調整した。石英ガラス管の真空排気を行い、第2室(石英ガラス管の内部空間)の圧力を1×10-4[Pa]に調整した。電気炉を駆動し、所定の設定温度で発熱体の加熱を行った。設定温度は、約半日ごとに変更し、300℃から900℃の範囲内で段階的に上昇させた。
【0171】
実験例26および実験例27の実験に先立って参照実験を行った。参照実験では、支持体(直径20mm、厚さ0.1mmのNi基板)のみの参照実験用サンプルを作製し、これを用いた。参照実験は、参照実験用サンプルを変えて2回実施した。
【0172】
図26は、参照実験における水素透過量と水素供給圧力とサンプル温度との関係を示すグラフである。
図26において、横軸は時間(h)、左側の第1縦軸は水素透過量(SCCM)、右側の第2縦軸は水素供給圧力(kPa)、第1のサンプル温度(℃)、第2のサンプル温度(℃)を示す。水素透過量は、流量校正済の真空ゲージの値から計算した。第1のサンプル温度は第1の熱電対の検出温度であり、第2のサンプル温度は第2の熱電対の検出温度である。
図26より、第1のサンプル温度と第2のサンプル温度とが略一致し、参照実験用サンプルの温度を正確に測定できていることが確認できた。また、参照実験用サンプルの温度上昇に応じて水素透過量が増加することも確認できた。なお、
図26は1回目の参照実験の結果である。2回目の参照実験の結果は、1回目の参照実験の結果と略同じであったため、説明を省略する。
【0173】
図27は、参照実験におけるサンプル温度と入力電力の関係を示したグラフである。
図27において、横軸はサンプル温度(℃)、縦軸は入力電力(W)を示す。入力電力は、電気炉への入力電力のことである。交流電源のON/OFF制御により電力計の測定値が大きく変動するため、測定値を設定温度ごとに積算し、その傾きに基づき入力電力を算出した。入力電力の算出は、設定温度の変更後、十分に時間が経過して電力計の測定値が安定した領域について行った。前述の領域ごとに第1の熱電対の検出温度の平均値と第2の熱電対の検出温度の平均値を求め、これら2つの平均値の平均をサンプル温度とした。
図27は、2回の参照実験の結果をプロットしたものであり、最小二乗法を用いて作成したキャリブレーションカーブである。
図27中、Yはキャリブレーションカーブを表す関数を示し、M0は定数項を示し、M1は1次の係数を示し、M2は2次の係数を示し、Rは相関係数を示す。この参照実験の結果を基準として、実験例26および実験例27の過剰熱の評価を行った。
【0174】
図28は、実験例26における発熱体温度と過剰熱の関係を示すグラフである。
図28において、横軸は発熱体温度(℃)、縦軸は過剰熱(W)を示す。参照実験のサンプル温度の算出方法と同じ方法で第1の熱電対の検出温度の平均値と第2の熱電対の検出温度の平均値とを求め、これら2つの平均値の平均を発熱体温度とした。過剰熱の求め方について説明する。まず、特定の入力電力での発熱体温度を測定する(測定温度という)。次に、
図27に示すキャリブレーションカーブを用いて、測定温度に対応する参照実験の入力電力(換算電力という)を求める。そして、換算電力と特定の入力電力との差分を求め、これを過剰熱の電力とした。なお、特定の入力電力の算出方法は、参照実験における入力電力の算出方法と同じである。
図28では過剰熱の電力を「過剰熱(W)」と表記している。
図28より、発熱体温度が300℃から900℃の範囲内で過剰熱が発生することが確認できた。過剰熱は、600℃以下では最大2W程度であり、700℃以上で増大し、800℃付近で約10W程度となることが確認できた。
【0175】
図29は、実験例27における発熱体温度と過剰熱の関係を示すグラフである。
図29において、横軸は発熱体温度(℃)、縦軸は過剰熱(W)を示す。
図29より、発熱体温度が200℃から900℃の範囲内で過剰熱が発生することが確認できた。過剰熱は、200℃から600℃の範囲内で最大4W程度であり、700℃以上で増大し、800℃付近で20Wを超えることが確認できた。
【0176】
実験例26と実験例27とを比較すると、600℃以下では実験例27の方が過剰熱の発生量が多い傾向にあることがわかる。実験例26と実験例27とは、いずれも700℃以上で過剰熱が増大する傾向にあることがわかる。700℃以上では、実験例27の過剰熱が実験例26の過剰熱の約2倍に増大することがわかる。
【0177】
実験例11(
図9参照)と実験例26(
図28参照)と実験例27(
図29参照)の、800℃付近の単位面積当たりの過剰熱を求めると、実験例11では約0.5W/cm
2であり、実験例26では約5W/cm
2であり、実験例27では約10W/cm
2であった。この結果より、実験例11に対し、実験例26は約10倍の過剰熱を発生し、実験例27は約20倍の過剰熱を発生することがわかった。
【0178】
以上より、1つの積層体だけからなる発熱体でも過剰熱が生じることから、この過剰熱によって水素系ガスを加熱できることがわかる。また、積層体の積層数が多くなるほど発熱体の厚みが厚くなり、水素系ガスが発熱体を透過するまでの距離が長くなるため、その分、加熱される時間も長くなり、積層体の積層数が多いほど発熱体を透過した後の水素系ガスの温度が高くなることがわかる。そのため、発熱体では、積層体の積層数を調整することで、発熱体によって加熱される水素系ガスの温度を調整できることがわかる。
【0179】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1室に導入されたガス中の水素の分圧と、第2室に導入されたガス中の水素の分圧とが異なるように構成されており、第1室と第2室との水素の圧力差を利用して、水素が発熱体を透過するようにしたものである。第2実施形態において、「水素の圧力」は「水素分圧」のことをいうものとする。
【0180】
図30に示すように、水素利用システム265は、水素加熱装置266と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置266は、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体268と、発熱体268により仕切られた第1室269および第2室270を有する密閉容器271と、発熱体268の温度を調節する温度調節部272とを備える。なお、第1室269と第2室270とを仕切る構造としては、発熱体268のみからなる場合に限られず、一部が発熱体268であり、その他の一部が金属や酸化物などの水素を遮蔽する壁構造でも良い。
【0181】
発熱体268は、有底円筒状に形成されている。発熱体268は、例えば、
図11に示した発熱体90と同様の構成とすることができ、所定数の積層体90aが積層されている。すなわち、発熱体268は、有底筒状に形成された支持体の外面に多層膜が設けられた積層体が所定数だけ積層され、内側から外側に向けて支持体および多層膜が交互に配置されたものである。なお、支持体の内面側に多層膜を設け、内側から外側に向けて多層膜および支持体を交互に配置してもよいし、最も内側の支持体の内面と外面の両方に多層膜を設けてもよい。
【0182】
支持体は、有底円筒状に限られず、有底角筒状や平板状などとしてもよい。支持体は、水素を透過し、耐熱性および耐圧性を有する材料が好ましく、例えば支持体61と同じ材料で形成することができる。多層膜は、例えば多層膜62と同じ構成とすることができる。発熱体268の数は、この例では1つであるが、2つ以上としてもよい。
【0183】
密閉容器271は、中空の容器であり、内部に発熱体268を収容する。密閉容器271は、耐熱性および耐圧性を有する材料により形成されることが好ましい。密閉容器271の材料としては、例えば、金属やセラミックなどが用いられる。金属としては、Ni、Cu、Ti、炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、耐熱性非鉄合金鋼、セラミックなどが挙げられる。セラミックとしては、Al2O3、SiO2、SiC、ZnO2などが挙げられる。密閉容器271の外周を断熱材で覆うことが望ましい。発熱体268を収容した密閉容器271の数は、この例では1つであるが、2つ以上としてもよい。
【0184】
第1室269は、発熱体268の内面により形成されている。第1室269は、水素導入ライン273と接続する導入口274を有する。水素導入ライン273には、水素系ガスを貯留する水素タンク275が設けられている。第1室269には、導入口274を介して、水素導入ライン273を流通する水素系ガスが導入される。
【0185】
第2室270は、発熱体268の外面と密閉容器271の内面とにより形成されている。第2室270は、水素タンク280と接続する導入口277と、導出ライン276と接続する導出口278とを有する。導入口277からは、循環ブロワー279により水素タンク280の水素系ガスを第2室270(密閉容器271)に導入する。導出ライン276は、水素利用装置12に接続されている。
【0186】
第1室269に導入された水素系ガスの水素分圧と、第2室270に導入された水素系ガスの水素分圧とは、図示しない水素センサにより測定される。第1室269の水素分圧は、第2室270の水素分圧の例えば10~10000倍とすることが望ましい。一例として、第1室269の水素分圧を10kPa~1MPaとし、第2室270の水素分圧を1Pa~10kPaとする。これにより、第1室269の水素が発熱体268を透過して第2室270へ移動する。発熱体268は、水素が透過することにより過剰熱を発生する。第2室270に熱媒体が流通することにより、発熱体268の過剰熱を熱媒体に伝達させることができ、かつ、第1室269の水素分圧に対し、第2室270の水素分圧を低くすることができる。
【0187】
水素加熱装置266は、図示しない制御部を有し、この制御部により第1室269の水素分圧と第2室270の水素分圧とを制御するように構成されている。例えば、第1室269の水素分圧を上昇させ、第1室269と第2室270との水素分圧の差を大きくすることにより、水素透過量を増加させ、発熱体268の過剰熱の発生を促進することができる。また、第1室269の水素分圧を低下させ、第1室269と第2室270との水素分圧の差を小さくすることにより、水素透過量を減少させ、発熱体268の過剰熱の発生を抑制することができる。第1室269の水素分圧を変化させる代わりに、第2室270の水素分圧を低下または上昇させることにより、発熱体268の過剰熱の発生を促進または抑制することも可能である。第1室269の水素分圧と第2室270の水素分圧との両方を変化させてもよい。なお、導入口277における水素系ガスの流量や温度を変化させることにより、発熱体268の過剰熱の発生を調整することもできる。
【0188】
温度調節部272は、発熱体268の温度を検出する温度センサ281と、発熱体268を加熱するヒータ282と、温度センサ281が検出した温度に基づいてヒータ282の出力の制御を行う出力制御部283とを有する。温度センサ281は、
図30では発熱体268の外面に設けられているが、発熱体268の温度を推定できる部分の温度を検出するようにしてもよい。ヒータ282は、水素加熱装置266の作動開始時や発熱体268の温度が低下した際に作動される。ヒータ282は、水素タンク280からの水素系ガスを加熱し、加熱された水素系ガスを第2室270へ導入させ、発熱体268を加熱させる。
【0189】
水素加熱装置266は、発熱体268から過剰熱を発生させ、当該発熱体268により加熱された水素系ガスを、導出ライン276を介して水素利用装置12に送り、水素利用装置12において有効に利用させることができる。
【0190】
以上のように、水素加熱装置266は、発熱体268の積層体の積層数を所定数に設定しておくことで、水素系ガスの温度を所定の温度まで昇温させる構成とする他、第1室内269と第2室内270との水素分圧の差を利用して水素が発熱体268を透過するように構成した。このため、水素加熱装置266では、上記実施形態と同様の効果を奏する他、例えば第2室内270を真空状態とするなどして、第1室内269と第2室内270との間で、圧力センサで得られる見かけの圧力の差を発生させる必要がない。したがって、水素加熱装置266は変形や破損の危険性が低減されている。
【0191】
[第3実施形態]
上記の第1実施形態および第2実施形態では、密閉容器の内部に第1室と第2室とを設け、第1室から発熱体を介して第2室に向けて水素系ガスが流通させて、水素系ガスが発熱体を透過する構成とし、発熱体で発生した過剰熱で水素系ガスを加熱する水素加熱装置について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、
図31に示すように、密閉容器302の内部に第1室および第2室を設けずに、密閉容器302の内部に設けた発熱体14において過剰熱を発生させる構成とし、当該発熱体に設けた積層体の積層数を調整することで水素系ガスの温度を調整する水素加熱装置301であってもよい。
【0192】
図31は、第3実施形態に係る水素加熱装置301の概略図を示す。この場合、水素利用システム300は、水素加熱装置301と水素利用装置12とを備える。水素加熱装置301は、水素系ガスが導入される密閉容器302と、密閉容器302の内部に設けられた発熱構造体303と、発熱構造体303の発熱体14の温度を調節する温度調節部320とを備える。水素加熱装置301は、上記第1実施形態と同様に、水素系ガスが密閉容器302に導入された後に、発熱構造体303において発熱体14が、温度調節部320により加熱されることで、当該発熱体14で過剰熱を発するものである。なお、発熱体14の構成は、上記第1実施形態と同じであることから、説明の重複を避けるため、ここではその説明は省略する。
【0193】
密閉容器302は、例えばステンレス(SUS306やSUS316)等で形成されている。302aは、コバールガラス等の透明部材で形成された窓部であり、密閉容器302内の密封状態を維持しつつ、密閉容器302内の様子を作業者が直接目視確認し得るようになされている。密閉容器302には、導入ライン316が設けられており、当該導入ライン316から調整弁317a,317bを介して密閉容器302の内部に水素系ガスが導入される。その後、密閉容器302は、調整弁317a,317bにより導入ライン316からの水素系ガスの導入が停止され、密閉容器302の内部に一定量の水素系ガスが貯留される。なお、319はドライポンプであり、必要に応じて導出ライン318および調整弁317cを介して密閉容器302内のガスを密閉容器302外へ導出し、真空排気や圧力調整等を行え得る。
【0194】
温度調節部320は、発熱体14の温度を調節し、発熱に適正な温度に維持する。発熱体14において発熱に適正な温度は、例えば50℃以上1000℃以下の範囲内である。温度調節部320は、温度センサ311a,311b,312a,312b,312cと、発熱体14を加熱するヒータ(図示せず)とを有する。
【0195】
本の実施形態の場合、温度センサ311a,311bは、密閉容器302の内壁に沿って設けられており、当該内壁の温度を測定する。他の温度センサ312a~312cは、発熱構造体303において発熱体14を保持するホルダー304に設けられており、当該ホルダー304における温度を測定する。なお、温度センサ312a~312cは、それぞれ長さが異なっており、例えば、ホルダー304において、発熱体14に近い下段、発熱体14から離れた上段、下段および上段の中間にある中段の各部位の温度を測定する。
【0196】
温度センサ311a,311b,312a,312b,312cは、図示しない制御部18と電気的に接続しており、検出した温度に対応する信号を制御部に出力する。
【0197】
発熱体14を加熱するヒータは、例えば電気抵抗発熱式の電熱線であり、密閉容器302の外周に巻き付けられたり、或いは、ホルダー304に設置されたりされている。ヒータは、電源313と電気的に接続しており、電源313から電力が入力されることにより発熱する。なお、ヒータは密閉容器302の外周を覆うように配置される電気炉でもよい。また、その他としては、導入ライン316にヒータを設けて、導入ライン316を流通する水素系ガスを当該ヒータで加熱することにより発熱体14を加熱するようにしてもよい。
【0198】
本実施形態では、例えば、ホルダー304にヒータが設けられており、当該ヒータと電源313とが配線310a,310bで接続されている。314は、配線310a,310bに設けられた電流電圧計であり、ヒータを加熱する際に当該ヒータに対して印加する入力電流・入力電力を測定し得る。
【0199】
次に発熱構造体303について説明する。
図32に示すように、発熱構造体303は、一対のホルダー半体304a,304bで構成されたホルダー304を有しており、支持体61および多層膜62でなる複数の積層体14aが積層された発熱体14がホルダー半体304a,304bにより挟み込まれた構成を有する。なお、ヒータは、図示していないが、例えば、板状のセラミックヒータなどであり、ホルダー304の所定位置に設けられている。なお、ヒータを発熱体14とともにホルダー半体304a,304bにより挟み込んだ構成としてもよい。
【0200】
ホルダー304を構成する一方のホルダー半体304aは、セラミックスにより長方形状に形成されており、所定位置に開口部309aが形成されている。一方のホルダー半体304aでは、開口部309aに発熱体14が配置され、当該開口部309aの領域から当該発熱体14を露出させる。他方のホルダー半体304bは、一方のホルダー半体304aと同様、セラミックスにより長方形状に形成されている。他方のホルダー半体304bには、一方のホルダー半体304aと重ねて一体化した際に、一方のホルダー半体304aの開口部309aと重なる位置に開口部309bが設けられている。
【0201】
他方のホルダー半体304bには、一方のホルダー半体304aと当接する当接面309dの開口部309b周縁に段差部309cが設けられている。段差部309cには、発熱体14が嵌め込まれて位置決めされる。これにより、他方のホルダー半体304bでは、段差部309cに発熱体14が嵌め込まれることで、開口部309bに発熱体14が配置され、当該開口部309bの領域から当該発熱体14が露出する。段差部309cに嵌め込まれた発熱体14は、ホルダー半体304a,304b同士を重ね合わせた際に、一方のホルダー半体304aにおける開口部309a周縁の当接面により抑えられ、当該段差部309c内に収容され、ホルダー304に内蔵される。
【0202】
以上、第3実施形態に係る水素加熱装置301でも、上記の第1実施形態と同様に、発熱体14において水素が吸蔵されるとともに水素が放出され、発熱体14で水素を吸蔵することによって発熱し、また、水素を放出することによっても発熱して過剰熱が発生する。水素系ガスは、発熱体14において、発熱体14で発生した過剰熱により加熱される。水素系ガスは、発熱体14の厚みが厚いほど、発熱体14で発生する過剰熱により加熱され易く、水素系ガスの温度が高くなる。
【0203】
したがって、この水素加熱装置で301でも、上記第1実施形態と同様に、複数の積層体14aの積層数を予め所定数に設定することにより、所定温度の水素系ガスを得ることができる。よって、水素加熱装置301では、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体を用いて水素系ガスを加熱するので、安価、クリーン、安全な熱エネルギー源を利用して、加熱した水素系ガスを供給することができる。
【0204】
なお、発熱体は、板状、筒状に形成されたものに限られない。例えば、発熱体の各積層体は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成された粉体を、水素を透過する材料(例えば、多孔質体、水素透過膜、およびプロトン導電体)により形成された容器に収容したものでもよい。
【0205】
水素加熱装置は、上記各実施形態および上記各変形例で説明したものに限定されず、上記各実施形態および上記各変形例の水素加熱装置を適宜組み合わせることによって構成してもよい。また、例えば、導出ライン30にポンプ33を設けて密閉容器15内を所定の圧力にし、水素系ガスを水素利用装置12へ送るようにしたが、本発明はこれに限らず、導入ライン29にポンプ33を設けて密閉容器15内を所定の圧力にし、水素系ガスを水素利用装置12へ送るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0206】
11,96,121,146,156,166,191,256,266,301 水素加熱装置
12 水素利用装置
14,74,75,80,90,98,160,268 発熱体
15,123,173,193,271,302 密閉容器
16 温度調節部
21,126,184,194,269 第1室
22,127,185,195,270 第2室
61,91,91a 支持体
62,92 多層膜
71 第1層
72 第2層
77 第3層
82 第4層