(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035283
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】フローフォーミング加工装置
(51)【国際特許分類】
B21D 22/16 20060101AFI20230306BHJP
B21D 19/04 20060101ALI20230306BHJP
B21D 53/30 20060101ALI20230306BHJP
B60B 3/04 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B21D22/16 Z
B21D22/16 G
B21D19/04 Z
B21D53/30 D
B60B3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142009
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳昭
(72)【発明者】
【氏名】岸野 純治
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137AA08
4E137BA01
4E137BA05
4E137CA06
4E137CA24
4E137CA28
4E137DA10
4E137EA18
4E137GA12
4E137GA16
4E137GB04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、素材を成形面に押し付けて成型するフローフォーミング加工において、簡潔な手段によって、完成した製品の欠損を防ぐことができるフローフォーミング加工装置を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、成形面を有する金型と、成形面に沿って加工される素材と、素材を成形面に押圧する加工用治工具を備え、素材の成形加工面には、肉盛部を有することを特徴とする、フローフォーミング加工装置を提供する。これにより、完成した製品の欠損を防ぎ歩留まりを向上させ生産効率を上げると共に製品の品質を向上させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形面を有する金型と、前記成形面に沿って加工される素材と、前記素材を前記成形面に押圧する加工用治工具を備え、
前記素材の成形加工面は、肉盛部を有することを特徴とする、フローフォーミング加工装置。
【請求項2】
成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工方法において、
前記素材の成形加工面に、肉盛部を形成する肉盛部形成工程を備えることを特徴とする、フローフォーミング加工方法。
【請求項3】
前記肉盛部形成工程は、前記素材の一部を端部側に移動させる第1の加工工程と、前記素材の成形加工面に肉盛部を形成する第2の加工工程を備えることを特徴とする、請求項2に記載されたフローフォーミング加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載のフローフォーミング加工装置を用いることを特徴とする、成形品の製造方法。
【請求項5】
前記成形品は、車両用ホイールであることを特徴とする、請求項4に記載されたフローフォーミング加工装置を用いた成形品の製造方法。
【請求項6】
成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムであって、
前記素材の成形加工面に、肉盛部を形成する肉盛部形成ステップを備えることを特徴とする、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローフォーミング加工装置及びフローフォーミング加工方法に関するものである。更に詳しくは、金属等の素材を円柱状又は円盤状に加工するためのフローフォーミング加工装置及びフローフォーミング加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、車両用ホイール等の円柱状又は円盤状の製品の製造方法において、特許文献1に示すように、金属等の素材を金型に沿って圧延、伸長させて成形するフローフォーミング加工が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、複雑な形状を有する製品をフローフォーミング加工によって成形するには、対応する形状を有する金型の成形面に、素材を押し付けて成形する必要がある。しかし、素材を成形面に押し付けて成型するフローフォーミング加工では、素材が弾性変形によって成形面から浮き上がることがあるため、完成した製品に欠損などの不具合が生じるという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、素材を成形面に押し付けて成型するフローフォーミング加工において、簡潔な手段によって、完成した製品の欠損を防ぐことができるフローフォーミング加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、素材の成形加工面に、肉盛部を有することにより、完成した製品の欠損を防ぐことができることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のフローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムである。
【0007】
上記課題を解決するための本発明のフローフォーミング加工装置は、成形面を有する金型と、成形面に沿って加工される素材と、素材を成形面に押圧する加工用治工具を備え、素材の成形加工面は、肉盛部を有することを特徴とするものである。
このフローフォーミング加工装置によれば、素材の成形加工面に肉盛部を有するため、フローフォーミング加工時における素材の端部の浮き上がる空間に、肉盛部の素材が押し込まれる。そのため、完成した製品の欠損を防ぎ、歩留まりを向上させ生産効率を上げると共に製品の品質を向上させることができる。
また、成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工装置では、押圧加工を繰り返すことにより素材の端部における浮き上がりが小さくなるため、複数の押圧加工を行うことにより製品の欠損を抑制している。本発明のフローフォーミング加工装置によれば、肉盛部が浮き上がりの空間に押し込まれるため、素材の端部の浮き上がりが小さくなるまでの押圧加工の回数を減少することができるという効果がある。
【0008】
また、本発明のフローフォーミング加工方法としては、成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工方法において、素材の成形加工面に、肉盛部を形成する肉盛部形成工程を備えることを特徴とするものである。
上記フローフォーミング加工方法によれば、素材の成形加工面に肉盛部を有するため、フローフォーミング加工時における素材の端部の浮き上がる空間に、肉盛部の素材が押し込まれる。そのため、完成した製品の欠損を防ぎ、歩留まりを向上させ生産効率を上げると共に製品の品質を向上させることができる。
また、成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工方法では、押圧加工を繰り返すことにより素材の端部における浮き上がりが小さくなるため、複数の押圧加工を行うことにより製品の欠損を抑制している。本発明のフローフォーミング加工方法によれば、肉盛部が浮き上がりの空間に押し込まれるため、素材の端部の浮き上がりが小さくなるまでの押圧加工の回数を減少することができるという効果がある。
【0009】
また、本発明のフローフォーミング加工方法の一実施態様としては、肉盛部形成工程は、素材の一部を端部側に移動させる第1の加工工程と、素材の成形加工面に肉盛部を形成する第2の加工工程を備えることを特徴とする。
上記フローフォーミング加工方法の一実施態様によれば、肉盛部を形成する第2の加工工程の前段として、素材の一部を、素材の端部方向へ移動させることを目的とする第1の加工工程を行うことで、素材の端部付近の体積を増加させることができる。これにより、第2の加工工程による肉盛部の形成を容易に行うことが可能となる。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明のフローフォーミング加工による成形品の製造方法は、成形面を有する金型と、成形面に沿って加工される素材と、素材を成形面に押圧する加工用治工具を備え、素材の成形加工面には、肉盛部を有するフローフォーミング加工装置を用いることを特徴とするものである。
上記成型品の製造方法によれば、素材の成形加工面に肉盛部を有するため、フローフォーミング加工時における素材の端部の浮き上がる空間に、肉盛部の素材が押し込まれる。そのため、完成した製品の欠損を防ぎ、歩留まりを向上させ生産効率を上げると共に製品の品質を向上させることができる。
また、成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工では、押圧加工を繰り返すことにより素材の端部の浮き上がりが小さくなるため、複数の押圧加工を行うことにより製品の欠損を抑制している。本発明の成型品の製造方法によれば、肉盛部が浮き上がりの空間に押し込まれるため、素材の端部の浮き上がりが小さくなるまでの押圧加工の回数を減少することができるという効果がある。
【0011】
また、本発明の成形品の製造方法の一実施態様としては、成形品は、車両用ホイールであることを特徴とする。
この成形品の製造方法によれば、欠損の少なく、かつ、押圧加工の回数が少ない車両用ホイールの製造方法を提供することができる。
【0012】
また、本発明の成形品のフローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムとしては、成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムであって、素材の成形加工面に、肉盛部を形成する肉盛部形成ステップを備えることを特徴とする。
上記制御プログラムによれば、素材の成形加工面に肉盛部を形成する肉盛部形成ステップを有するため、フローフォーミング加工時における素材の端部の浮き上がる空間に、肉盛部の素材が押し込まれる。そのため、完成した製品の欠損を防ぎ、歩留まりを向上させ生産効率を上げると共に製品の品質を向上させることができる。
また、成形面を有する金型に沿って素材を押圧加工するフローフォーミング加工では、押圧加工を繰り返すことにより素材の端部の浮き上がりが小さくなるため、複数の押圧加工を行うことにより製品の欠損を抑制している。本発明の制御プログラムによれば、肉盛部が浮き上がりの空間に押し込まれるため、素材の端部の浮き上がりが小さくなるまでの押圧加工の回数を減少することができるという効果がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、素材を成形面に押し付けて成型するフローフォーミング加工において、簡潔な手段によって、完成した製品の欠損を防ぐことができるフローフォーミング加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】既存のフローフォーミング加工装置を側面から見た場合の断面図であり、既存のフローフォーミング加工装置の構造と動作を示す概略説明図である。(A)フローフォーミング加工前の素材の状態を示す概略説明図である。(B)フローフォーミング加工中の素材の状態を示す概略説明図である。(C)フローフォーミング加工後の素材の状態を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置を側面から見た場合の断面図であり、本発明の第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の概略説明図である。
【
図3】本発明の第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置を側面から見た場合の断面図であり、本発明の第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200の概略説明図である。(A)肉盛部形成工程前の素材の状態を示す概略説明図である。(B)肉盛部形成工程後の素材の状態を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置を側面から見た場合の断面図であり、本発明の第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300の概略説明図である。(A)肉盛部形成工程前の素材の状態を示す概略説明図である。(B)肉盛部形成工程における第1工程後の素材の状態を示す概略説明図である。(C)肉盛部形成工程における第2工程後の素材の状態を示す概略説明図である。
【
図5】本発明によるフローフォーミング加工装置を車両用ホイールの成形に使用した状態を示す概略説明図である。(A)ホイールのリムを本発明のフローフォーミング加工装置によって成形する工程を示す概略説明図である。(B)
図5(A)のA-A断面から見た車両用ホイールのリムを本発明のフローフォーミング加工装置によって成形する工程を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るフローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムの実施態様を詳細に説明する。また、本発明に係るフローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法については、本発明に係るフローフォーミング加工装置に係る説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載するフローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムについては、本発明に係るフローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明は、金属等の素材を金型の形状に沿って押圧加工をするフローフォーミング加工に関するものである。
図1(A)~(C)は、既存のフローフォーミング加工装置を側面から見た場合の断面図であり、
図1(A)、(B)は既存のフローフォーミング加工装置によるフローフォーミング加工の工程を示している。具体的には、
図1(A)に示すように、加工される金属等の素材Aをローラー等の加工用治工具Cにより、金型Bの成形面B1に沿って押圧することで、
図1(B)に示すような成形面B1に沿った形状に成形するものである。
ここで、
図1(C)に示すように、既存のフローフォーミング加工装置では、素材の一部がフローフォーミング加工による押圧加工後に、弾性変形することで成形面B1の端部である角部B2から浮き上り、製品の成形不良が発生することがある。
【0017】
そこで、本発明に係るフローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムは、予め素材の一部の内、浮き上がる部分に対応する部分に、肉盛部を設けることで、押圧加工後の素材の浮き上がりによる、製品の成形不良を防止するものである。
【0018】
図5(A)、(B)に示すように、本発明によるフローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムによって成形される製品は、車両用ホイールが好ましい。
従来の車両用ホイールの製造方法では、車両用ホイールの外径端部分である「リム」の浮き上がりによる欠損を防ぐため、素材に対して繰り返し押圧加工をしている。そのため、生産効率が悪いという問題がある。
本発明の効果により、車両用ホイールの外径端部分である「リム」を少数回の押圧加工で成形することが可能となる。これにより、生産効率を向上させつつ、製造コストも下げることができる。また、欠損の発生を抑制することができる。
【0019】
[第1の実施態様]
図2を参照し、本発明の第1の実施態様のフローフォーミング加工装置100について説明する。
図2は、本発明の第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置を側面から見た場合の断面図であり、本発明の第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の概略説明図である。
【0020】
フローフォーミング加工装置100は、
図2に示すように、素材1、金型2、加工用治工具3によって構成される。
ここで、素材1は、加工用治工具3によって押圧される部分である押圧加工面11(
図2、素材1の内実線で示される。)と、後述する金型2の成形面21に沿って成形される部分である成形加工面12(
図2、素材1の内破線で示される。)を備えている。そして、成形加工面12には、肉盛部13を備えている。
また、金型2は素材1を所望の形状へ成形するための成形面21を有し、成形面21は、成形面21の端部分である角部22を備えている。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0021】
<素材>
素材1は、後述する加工用治工具3によって、金型2に対して押圧されることで、金型2の成形面21に沿った形状に成形されるものである。
素材1の材質等は特に限定されないが、押圧による変形が容易な材質が好ましい。例えば、鉄やアルミニウム等の金属や、プラスチックのような高分子素材などが挙げられる。特に鋳造加工された鉄やアルミニウム等の金属が好ましい。これによると、鋳造加工の特徴により素材1内の金属組織が粗いため比較的に柔らかく、押圧による加工が容易である。また、押圧されることにより、素材1内の金属組織が密になるため、薄く加工しても強度を保つことができる。これにより成形品を軽量かつ高強度なものとすることができる。
また、素材1は300~400℃まで温められた金属であることが挙げられる。これによると、素材1が柔らかくなるため圧延しやすく、フローフォーミング加工後も成形品に欠損が起こりにくい。
【0022】
素材1は押圧加工面11と成形加工面12を有している。
押圧加工面11は、素材1の一部であり、後述する加工用治工具3によって加圧される部分である。また、押圧加工面11は、
図2に図示された素材1の内、実線で示される部分である。
成形加工面12は、後述する金型2の成形面21の形状に沿って成形される部分であり、
図2に図示された素材1の内、点線で示される部分である。
また、成形加工面12は、肉盛部13を有している。
【0023】
(肉盛部)
肉盛部13は、素材1の一部であり、成形加工面12に形成された凸状部である(灰色で着色されている部分)。肉盛部13は、フローフォーミング加工により、素材の端部側に押し込まれて、端部の浮き上がりによる素材1と成形面21の隙間の空間を満たすものである。
肉盛部13は、成形加工面12の内、フローフォーミング加工の後、弾性変形によって浮き上りが予想される部分に設けられることが好ましい。通常は、素材1の端部側(加工用治工具の進行方向の前方側)が浮き上がるため、素材1の端部側に設けることが好ましい。なお、肉盛部13は、
図2では一ヶ所であるが、複数設けられていてもよい。
【0024】
〔肉盛部の形状及び肉盛部の形状の決定〕
肉盛部13の形状は、
図2に示す基準線L1、第1平行線L2、第2平行線L3、交点P1~P4、相対距離R1に基づいて決定される。
【0025】
図2に示すように、基準線L1とは、フローフォーミング加工後に素材1の浮き上がりが予想される部分である成形面21に沿って引いた仮想線である。本実施態様においては、角部22を通過するように、角部22付近の成形面21に沿って
図2の左右方向に向かって、引いた仮想線である。
【0026】
第1平行線L2は、基準線L1に対して
図2上方向に平行に引かれた仮想線であり、成形加工面12との交点が2点(交点P1及び交点P2)となる仮想線の内、最も基準線L1に近い仮想線である。
つまりは、第1平行線L2の位置は、以下のように決定される。
まず基準線L1と重なるように第1平行線L2を引く。次に基準線L1の位置から出発し、第1平行線L2と素材1の成形加工面12との交点が1点から2点になるまで
図2の上方向へ基準線L1に対して平行に移動させる。この位置が第1平行線L2の位置である。
また、第1平行線L2の位置における、第1平行線L2と素材1の成形加工面12との二つの交点の内、
図2の左方向側の交点をP1、
図2の右方向側の交点をP2とする。
【0027】
図2に示すように、第2平行線L3は、第1平行線L2に対して
図2の上方向に平行に引かれた仮想線である。また、第2平行線L3は素材1の成形加工面12との交点として交点P3及び交点P4を有する。
第2平行線L3の位置は、以下のように決定される。
まず、第1平行線L2と重なるように第2平行線L3を引く。次に第1平行線L2の位置から出発し、第2平行線L3と素材1の成形加工面12との交点が2点から3点になり、再び2点になるまで
図2の上方向へ第1平行線L2に対して平行に移動させる。この位置が第2平行線L3の位置である。
また、第2平行線L3の位置における、第2平行線L3と成形加工面12との二つの交点の内、
図2の左方向側の交点をP3、
図2の右方向側の交点をP4とする。
【0028】
第1平行線L2と第2平行線L3との相対距離として相対距離R1がある。
この相対距離R1の長さによって肉盛部13の成形面21方向に対する突出する大きさが決定する。
また、相対距離R1は、予想されるフローフォーミング加工後の素材の浮き上がりの量に応じて予め決められる。
【0029】
図2の素材1の内、灰色部分に示すように、肉盛部13は、成形加工面12中、交点P1、P3及びP4に囲まれた部分である。
したがって、肉盛部13の形状及び肉盛部13の形状の決定は、予め決定した任意の相対距離R1が成立するように、素材1と金型2の形状から、基準線L1、第1平行線L2、第2平行線L3、交点P1~P4を求めることで、肉盛部13の形状を決定する。
【0030】
<金型>
金型2は、素材1が後述する加工用治工具3により押し付けることで所定の形状に成形するためのものである。金型2は成形面21を備えている。なお、金型2の形状や材質等は制限されない。
図2に示すように、成形面21は、素材1が後述する加工用治工具3により金型2に押し付けられる際、素材1の成形加工面12と接する部分である。また、素材1を所定の形状に成形する部分である。
なお、本実施態様における成形面21は角部22を備えているが、角部を有しない平坦な成形面でもよい。
【0031】
図2に示すように、角部22は、成形面21の端部分であり、素材1がフローフォーミング加工により押圧加工された後に、肉盛部13と接する部分である。また、角部22は、フローフォーミング加工後に素材1の浮き上がりが予想される部分である。
【0032】
<加工用治工具>
加工用治工具3は、素材1を押圧し成形面21に沿って成形するためのものである。
また、加工用治工具3の形状、構造等は、素材1を押圧し成形面21に沿って成形できればどのようなものであってもよい。
例えば、
図2に示すように、ローラー状の構造を有していてもよい。これにより素材1を成形面21に沿って効率良く圧延することできる。
【0033】
〔フローフォーミング加工装置100の動き〕
初めに、素材1と金型2の形状から求められる基準線L1、第1平行線L2、第2平行線L3、交点P1~P4に基づいて形成された肉盛部13を備える素材1を、金型2の所定の位置に設置する。
次に、押圧加工面11に沿って
図2右方向から
図2左方向へ加工用治工具3が移動することによって、素材1は成形面21へ押圧される。これにより、加工用治工具3の動作に伴って素材1は
図2右方向から
図2左方向へ圧延され、成形面21に沿った形状に成形される。なお、この素材1を成形面21へ押圧する工程は、複数回繰り返してもよい。
素材1を成形面21へ押圧する工程において、金型2の角部22と肉盛部13とは強く密着し合うことで、素材の一部が角部22へ押し込まれる。これにより、フローフォーミング加工後に弾性変形による素材1の浮き上がりによる製品の欠損を防ぐことができる。
【0034】
また、フローフォーミング加工における加工用治工具3の動作は、素材1を成形面21に押圧する工程の前に、素材1を延伸する工程を設けてもよい。素材1を延伸する工程とは、素材1の成型加工面12と金型2の成形面21とを離間した状態で、加工用治工具3を素材1の押圧加工面11に沿って移動する工程であり、素材1を延伸する工程である。これにより、金型2の成形面21と素材1の成形加工面12との間に摩擦が生じないため、素材1が延伸しやすくなり、加工用治工具3によるフローフォーミング加工の回数を減らすことができる。そのため、加工に必要なエネルギーを抑えることができるため、製造効率を向上させることが可能となる。
【0035】
[第2の実施態様]
図3(A)、(B)を参照し、本発明の第2の実施態様のフローフォーミング加工装置200について説明する。本発明の第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200を側面から見た場合の断面図であり、本発明の第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200の概略説明図である。
また、
図3(A)は、肉盛部形成工程前の素材の状態を示すものであり、
図3(B)は、肉盛部形成工程後の素材の状態を示すものである。
【0036】
フローフォーミング加工装置200は、主に第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の特徴に加えて、後述する肉盛部形成工程を備えていることを特徴とするものである。
具体的には、第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の場合、予め肉盛部が素材に設けられているが、第2の実施態様のフローフォーミング加工装置200では後述する肉盛部形成工程により、肉盛部を備えていない素材に対して、肉盛部を新たに形成することを特徴とする。
【0037】
肉盛部形成工程により、素材の成形加工面に肉盛部が形成されるため、フローフォーミング加工時における素材の端部の浮き上がる空間に、肉盛部の素材が押し込まれる。そのため、完成した製品の欠損を防ぎ、歩留まりを向上させ生産効率を上げると共に製品の品質を向上させることができる。
【0038】
フローフォーミング加工装置200は、
図3(A)、(B)に示すように、素材4、金型5、加工用治工具6によって構成される。
ここで、素材4は、後述する肉盛部形成工程前の状態である素材4Aと、肉盛部形成工程によって肉盛部が形成された後の状態である素材4Bとする。
【0039】
また、素材4A又は素材4Bは、加工用治工具6によって押圧される部分である押圧加工面41A又は41B、金型5の成形面51に沿って成形される部分である成形加工面42A又は42Bをそれぞれ備えている。そして、成形加工面42Bには、後述する肉盛部形成工程によって肉盛部43が形成される。
【0040】
なお、押圧加工面41A又は41B、成形加工面42A又は42B、肉盛部43、金型5、成形面51、角部52、加工用治工具6、基準線L4、第1平行線L5、第2平行線L6、交点P5~P8、相対距離R2、は、第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の押圧加工面11、成形加工面12、肉盛部13、金型2、成形面21、角部22、加工用治工具3、基準線L1、第1平行線L2、第2平行線L3、交点P1~P4、相対距離R1と同一であるため説明を省略する。
【0041】
〔肉盛部形成工程〕
肉盛部形成工程は、加工用治工具6を用いて肉盛部を形成する工程であれば、特に制限されないが、例えば、肉盛部形状決定ステップ、肉盛部形成ステップの順に進行する。
まず肉盛部形状決定ステップにおいて、予め、
図3(B)に示す肉盛部43の形状を第1の実施態様と同様に、素材4と金型5の形状から求めた、基準線L4、第1平行線L5、第2平行線L6、交点P5~P8、相対距離R2に基づいて決定する。
次に、肉盛部形成ステップでは、
図3(A)に示すように、素材4Aの端部が、加工用治工具6によって押圧加工面41Aに沿って矢印方向へ押圧される。これにより、成形加工面42Aの内、
図3左方向の端部分が成形面51方向へ傾く。このため、素材4は
図3(B)に示す素材4Bの形状に変形することで、肉盛部43が形成される。
【0042】
〔フローフォーミング加工装置200の動き〕
肉盛部形成工程後のフローフォーミング加工装置200の動きは、第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の動きと同一である。
【0043】
[第3の実施態様]
図4(A)~(C)を参照し、本発明の第3の実施態様のフローフォーミング加工装置300について説明する。
図4(A)~(C)は、本発明の第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300を側面から見た場合の断面図であり、本発明の第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300の概略説明図である。
また、
図4(A)は肉盛部形成工程前の素材の状態を示すものであり、
図4(B)は肉盛部形成工程の内、第1の加工工程を行った後の素材の状態を示すものである。また、
図4(C)は、肉盛部形成工程内、第2の加工工程を行った後の素材の状態を示すものである。
【0044】
フローフォーミング加工装置300は、主に第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200の肉盛部形成工程を、第1の加工工程及び第2の加工工程に分けて行うことを特徴とするものである。
具体的には、第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200の場合、肉盛部を備えていない素材に対して、加工により肉盛部を新たに形成するものであるが、第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300では、肉盛部を形成する加工を、素材の一部を端部側に移動させる第1の加工工程と、第1の加工工程の後に、実際に素材の成形加工面に肉盛部を形成する第2の加工工程を行うものである。
【0045】
本実施態様のフローフォーミング加工装置300によれば、第1の加工工程により素材の端部付近の体積を増加させることができるため、第2の加工工程による肉盛部の形成を容易に行うことが可能となる。
【0046】
フローフォーミング加工装置300は、
図4(A)~(C)に示すように、素材7、金型8、加工用治工具9によって構成される。
ここで、素材7は、後述する肉盛部形成工程前の状態である素材7Aと、第1の加工工程によって素材の一部を端部側に移動させた状態である素材7B、そして、素材の成形加工面に肉盛部を形成した状態である素材7Cに分けられる。
【0047】
また、素材7A~7Cは、各々加工用治工具9によって押圧される部分である押圧加工面71A~71C、金型8の成形面81に沿って成形される部分である成形加工面72A~72Cを備えている。そして、成形加工面72Cには、肉盛部形成工程の内、後述する第2の加工工程によって肉盛部73が形成される。
【0048】
なお、押圧加工面71A~71C、成形加工面72A~72C、肉盛部73、金型8、成形面81、角部82、加工用治工具9、基準線L7、第1平行線L8、第2平行線L9、交点P9~P12、相対距離R3、は、第1の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100の押圧加工面11、成形加工面12、肉盛部13、金型2、成形面21、角部22、加工用治工具3、基準線L1、第1平行線L2、第2平行線L3、交点P1~P4、相対距離R1及び、第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200の押圧加工面41A、41B、成形加工面42A、42B、肉盛部43、金型5、成形面51、角部52、加工用治工具6、基準線L4、第1平行線L5、第2平行線L6、交点P5~P8、相対距離R2と同一であるため説明を省略する。
【0049】
〔肉盛部形成工程〕
本実施態様における肉盛部形成工程は、加工用治工具9を用いて肉盛部を形成する工程であれば、特に制限されないが、例えば、肉盛部形状決定ステップにより形成される肉盛部の形状を決定し、次に第1の加工ステップ(工程)を行い、その後に第2の加工ステップ(工程)を行うというものである。
まず、肉盛部形状決定ステップにおいて、予め、
図4(C)に示す肉盛部73の形状を第1、2の実施態様と同様に、基準線L7、第1平行線L8、第2平行線L9、交点P9~P12、相対距離R3に基づいて決定する。
次に、第1の加工ステップ(工程)により、素材7Aを押圧加工面71Aに沿って
図4(A)左方向へ移動させながら押圧する。これにより、
図4(B)に示すように、第1の加工ステップ(工程)前の素材7Aの成形加工面72Aよりも、第1の加工ステップ(工程)後の素材7Bの成形加工面72Bの端部分が、
図4(B)左方向へ伸長される。
次に、第2の加工ステップ(工程)では、
図4(C)に示すように、加工用治工具9によって押圧加工面71Cが矢印方向(左右方向)へ押圧される。これにより、成形加工面72Cの内、
図4左方向の端部分が成形面81方向へ傾く。このため、素材7Bは
図4(C)に示す素材7Cの形状に変形することで、肉盛部73が形成される。
本実施態様では、第1の加工ステップを設けることにより、素材7Aの押圧加工面71Aを全域に渡って押圧することができるため、第2実施態様の肉盛部43よりも肉盛部を増やすことができる。また、肉盛部73の形成と共に、素材7Aを伸長することができるため、肉盛部形成工程後のフローフォーミング加工の回数を減らすことができる。
【0050】
〔フローフォーミング加工装置300の動き〕
肉盛部形成工程後のフローフォーミング加工装置300の動きは、第1、2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置100、200の動きと同一である。
【0051】
[第4の実施態様]
第4の実施態様におけるフローフォーミング加工装置400(非図示)は、第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200、又は、第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300の肉盛部形成工程をコンピューター制御により行うことを特徴とするものである。
また、第4の実施態様におけるフローフォーミング加工装置400(非図示)は、第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200、又は、第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300の肉盛部形成工程をコンピューター制御により行うためのプログラムを備えていることを特徴としている。また、その他の構成については、第2の実施態様におけるフローフォーミング加工装置200、又は、第3の実施態様におけるフローフォーミング加工装置300の構成と同様である。
【0052】
なお、上述した実施態様は、フローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムの一例を示すものである。本発明に係るフローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムは、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係るフローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムを変更してもよい。
【0053】
例えば、肉盛部を素材の浮き上がりが予想される箇所に合わせて、複数設けるものとしてもよい。これにより、更に複雑な形状の製品であっても、素材の量を増加し厚みを増すことなく素材の浮き上がりによる欠損を防止し、薄く軽量に成形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のフローフォーミング加工装置、フローフォーミング加工方法、フローフォーミング加工装置による成形品の製造方法及び、フローフォーミング加工方法に用いる制御プログラムは、車両用ホイール等の円盤状の成形品の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
A,1,4A,4B,7A,7B,7C…素材、B,2,5,8…金型、C,3,6,9…加工用治工具、A1,11,41A,41B,71A,71B,71C…押圧加工面、A2,12,42A,42B,72A,72B,72C…成形加工面、B1,21,51,81…成形面、B2,22,52,82…角部、L1,L4,L7…基準線、L2,L5,L8…第1平行線、L3,L6,L9…第2平行線、P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12…交点。