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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035287
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】クランプオン式超音波流量センサ
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/66 20220101AFI20230306BHJP
【FI】
G01F1/66 Z
G01F1/66 101
G01F1/66 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142014
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000129253
【氏名又は名称】株式会社キーエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】川口 泰範
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 健太郎
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035DA07
2F035DA08
2F035DA09
2F035DA12
2F035DA13
2F035DA14
2F035DA19
(57)【要約】
【課題】配管に対する超音波素子の取り付け状態を含む流量の測定状態の異常を容易に判定することが可能なクランプオン式超音波流量センサを提供する。
【解決手段】配管の外周面上に2つの超音波素子が取り付けられる。配管内の流体の流量を測定する測定モードにおいて、流量算出部310は、2つの超音波素子を制御することにより配管内の流体の流量を算出する。流体の流量の測定に関する状態を診断するための診断モードにおいて、測定判定部320は、一方の超音波素子を制御することにより超音波素子から配管内部の流体に向けて超音波を送信させる。また、測定判定部320は2つの超音波素子のうち一方の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子から出力される信号に基づいて流体の流量の測定状態を判定する。
【選択図】図23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内を流れる流体の流量を測定するクランプオン式超音波流量センサであって、
前記配管の外周面の一部分に取り付けられ、超音波を前記配管に向けて送信可能かつ超音波を受信可能であるとともに超音波の受信時に受信した超音波の強度を示す信号を出力する第1の超音波素子と、
前記配管の外周面の他の部分に取り付けられ、超音波を前記配管に向けて送信可能かつ超音波を受信可能であるとともに超音波の受信時に受信した超音波の強度を示す信号を出力する第2の超音波素子と、
前記流体の流量を測定する測定モードと前記流体の流量の測定に関する状態を診断するための診断モードとで動作可能に構成された制御部とを備え、
前記制御部は、
前記測定モードにおいて前記第1および第2の超音波素子を制御することにより前記流体の流量を算出する流量算出部と、
前記診断モードにおいて前記第1の超音波素子を制御することにより前記第1の超音波素子から超音波を送信させるとともに前記第1および第2の超音波素子のうち前記第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子から出力される信号に基づいて、前記測定モードとは異なるシーケンスにより前記流体の流量の測定状態を判定する測定判定部とを含む、クランプオン式超音波流量センサ。
【請求項2】
前記流体の流量の測定状態は、複数の診断項目にそれぞれ対応する複数の測定状態を含み、
前記制御部は、前記診断モードにある状態で、前記診断モードのシーケンスとして予め定められた前記複数の診断項目の順に従って前記複数の測定状態の判定を実行する、請求項1記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項3】
前記複数の診断項目は、前記第1の超音波素子が異常であるか否かを判定するための第1の診断項目、前記第1の超音波素子の取り付け状態が異常であるか否かを判定するための第2の診断項目、前記配管内が前記流体で満たされているか否かを判定するための第3の診断項目、および前記配管内の前記流体に予め定められた量以上の気泡が存在するか否かを判定するための第4の診断項目を含み、
前記制御部は、前記診断モードにある状態で、前記診断モードのシーケンスとして、前記第1および第2の診断項目に対応する測定状態の判定を行った後、前記第3および第4の診断項目に対応する測定状態の判定を行う、請求項2記載のクランプオン式超音波センサ。
【請求項4】
前記制御部が移行すべき動作モードの入力を受け付け、前記制御部の動作モードを受け付けた動作モードに切り替えるモード切替部をさらに備えた、請求項1~3のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項5】
前記流量算出部は、
前記第1の超音波素子と前記第2の超音波素子との間の超音波の伝播時間差に基づいて前記流体の流量を算出する第1の算出部を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項6】
前記流量算出部は、
前記第1の超音波素子が超音波を送信することにより前記第1の超音波素子に受信される超音波の周波数シフトに基づいて前記流体の流量を算出する第2の算出部とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項7】
前記第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、前記第1の超音波素子を含み、
前記第1の超音波素子と前記配管との間には、超音波を伝達する伝達部材が設けられ、
前記測定判定部は、前記第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち前記伝達部材内の第1の部分に対応する時間軸の第1の範囲で、超音波の強度が予め定められた第1の条件を満たすか否かに基づいて、前記測定状態として前記第1の超音波素子が異常であるか否かを判定する素子判定部を含む、請求項1記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項8】
前記第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、前記第1の超音波素子を含み、
前記測定判定部は、前記第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち前記配管の外周面を含む第2の部分に対応する時間軸の第2の範囲で、超音波の強度が予め定められた第2の条件を満たすか否かに基づいて、前記測定状態として前記第1の超音波素子の取り付け状態が異常であるか否かを判定する取り付け判定部を含む、請求項1または7記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項9】
前記第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、前記第1の超音波素子を含み、
前記測定判定部は、前記第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち前記配管の内周面を含む第3の部分に対応する時間軸の第3の範囲で、超音波の強度が予め定められた第3の条件を満たすか否かに基づいて、前記測定状態として前記配管内が前記流体で満たされているか否かを判定する充満判定部を含む、請求項1、7または8のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項10】
前記第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、前記第1の超音波素子を含み、
前記測定判定部は、前記第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち前記配管内の第4の部分に対応する時間軸の第4の範囲で、超音波の強度が予め定められた第4の条件を満たすか否かに基づいて、前記測定状態として前記配管内の前記流体に予め定められた量以上の気泡が存在するか否かを判定する気泡判定部を含む、請求項1または7~9のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項11】
前記第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、前記第2の超音波素子を含み、
前記測定判定部は、前記第2の超音波素子から出力される信号に基づいて、前記測定状態として前記第1の超音波素子と前記第2の超音波素子との間の超音波の伝達状態を判定する送受信判定部を含む、請求項1または7~10のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項12】
前記測定判定部により判定された前記流体の流量の測定状態を表示する表示部をさらに備える、請求項1または7~11のいずれか一項に記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項13】
前記測定判定部は、前記流体の流量の測定状態を複数種類判定し、
前記表示部は、前記測定判定部による判定結果を前記流体の流量の測定状態の種類ごとに表示する、請求項12記載のクランプオン式超音波流量センサ。
【請求項14】
配管内を流れる流体の流量を測定するクランプオン式超音波流量センサであって、
前記配管の外周面の一部分に取り付けられ、超音波を前記配管に向けて送信可能かつ超音波を受信可能であるとともに超音波の受信時に受信した超音波の強度を示す信号を出力する超音波素子と、
前記流体の流量を測定する測定モードと前記流体の流量の測定に関する状態を診断するための診断モードとで動作可能に構成された制御部とを備え、
前記制御部は、
前記測定モードにおいて前記超音波素子を制御することにより前記流体の流量を算出する流量算出部と、
前記診断モードにおいて前記超音波素子を制御することにより前記超音波素子から超音波を送信させるとともに前記超音波素子から出力される信号に基づいて前記流体の流量の測定状態を判定する測定判定部とを含む、クランプオン式超音波流量センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内を流れる流体の流量を測定するクランプオン式超音波流量センサに関する。
【背景技術】
【0002】
配管に取り付けられることにより、配管内を流れる流体の流量を測定する超音波流量センサが知られている。例えば、特許文献1に記載された超音波流量スイッチにおいては、上クランプ部材および下クランプ部材が配管を挟み込むように配置され、ねじを用いて結合される。また、2つの超音波素子を収容する筐体部が上クランプ部材に着脱可能に固定される。この状態で、一方の超音波素子から配管内の流体を通して他方の超音波素子に超音波が送信され、他方の超音波素子から配管内の流体を通して一方の超音波素子に超音波が送信される。
【0003】
一方の超音波素子により超音波が送信される時点から他方の超音波素子により当該超音波が受信される時点までの時間と、他方の超音波素子により超音波が送信される時点から一方の超音波素子により当該超音波が受信される時点までの時間との時間差が算出される。算出された時間差と予め定められた数式とに基づいて、配管内を流れる流体の流量が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6453156号公報
【特許文献2】特開2003-329502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の超音波流量スイッチにおいては、各超音波素子から配管内の流体に到達する超音波の減衰、および配管内の流体から各超音波素子に到達する超音波の減衰を低減するために、各超音波素子と配管との間に音響カプラントが設けられる。音響カプラントと配管の外周面との間に隙間等が生じていると、各超音波素子と配管内の流体との間で発生する超音波の減衰を低減させることはできない。そのため、流量の測定精度が低下する。この場合、使用者は、配管に対する音響カプラントの接触状態を調整する必要がある。
【0006】
流量の測定精度の低下は、配管に対する音響カプラントの接触状態以外の要因によっても発生する。例えば、長期にわたる各超音波素子の使用により、各超音波素子の特性が劣化する場合にも、流量の測定精度の低下が発生する。そのため、上記の超音波流量スイッチによる流量の測定精度が低下する場合に、使用者は、その発生原因を把握することが難しい。
【0007】
配管内を流れる流体の流量を測定する超音波流量センサとして、特許文献2には、流量を算出するために用いられる2つの超音波振動子の劣化を診断する超音波流量計が提案されている。しかしながら、特許文献2に記載された超音波流量計は、2つの超音波振動子が配管の流路内に配置されている、いわゆるインラインタイプの超音波流量センサである。そのため、配管の外周面に超音波素子を取り付けるタイプの超音波流量センサにおいて、その超音波素子の取り付け状態の良否を判定することは想定されていない。
【0008】
本発明の目的は、配管に対する超音波素子の取り付け状態を含む流量の測定状態の異常を使用者が容易に把握することを可能にするクランプオン式超音波流量センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)第1の発明に係るクランプオン式超音波流量センサは、配管内を流れる流体の流量を測定するクランプオン式超音波流量センサであって、配管の外周面の一部分に取り付けられ、超音波を配管に向けて送信可能かつ超音波を受信可能であるとともに超音波の受信時に受信した超音波の強度を示す信号を出力する第1の超音波素子と、配管の外周面の他の部分に取り付けられ、超音波を配管に向けて送信可能かつ超音波を受信可能であるとともに超音波の受信時に受信した超音波の強度を示す信号を出力する第2の超音波素子と、流体の流量を測定する測定モードと流体の流量の測定に関する状態を診断するための診断モードとで動作可能に構成された制御部とを備え、制御部は、測定モードにおいて第1および第2の超音波素子を制御することにより流体の流量を算出する流量算出部と、診断モードにおいて第1の超音波素子を制御することにより第1の超音波素子から超音波を送信させるとともに第1および第2の超音波素子のうち第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子から出力される信号に基づいて、測定モードとは異なるシーケンスにより流体の流量の測定状態を判定する測定判定部とを含む。
【0010】
そのクランプオン式超音波流量センサにおいては、制御部が測定モードにあるときに、第1および第2の超音波素子が制御されることにより、配管内を流れる流体の流量が測定される。一方、制御部が診断モードにあるときに、第1の超音波素子から配管に向けて超音波が送信される。
【0011】
配管に対する第1の超音波素子の取り付け状態に異常があると、第1の超音波素子から配管に向けて送信された超音波は、配管に伝達されないかまたは配管の表面で大きく減衰する。また、配管内部から第1の超音波素子に伝達されるべき超音波は、第1の超音波素子に伝達されないかまたは配管の表面で大きく減衰する。第2の超音波素子についても第1の超音波素子と同様に、配管に対する第2の超音波素子の取り付け状態に異常があると、第2の超音波素子から配管に向けて送信された超音波は、配管に伝達されないかまたは配管の表面で大きく減衰する。また、配管内部から第2の超音波素子に伝達されるべき超音波は、第2の超音波素子に伝達されないかまたは配管の表面で大きく減衰する。
【0012】
そのため、送信された超音波を受信すべき超音波素子の出力信号によれば、少なくとも配管に対する第1の超音波素子の取り付け状態を容易に判定することができる。したがって、使用者は、配管に対する超音波素子の取り付け状態を含む流量の測定状態の異常を容易に把握することが可能になる。
【0013】
(2)流体の流量の測定状態は、複数の診断項目にそれぞれ対応する複数の測定状態を含み、制御部は、診断モードにある状態で、診断モードのシーケンスとして予め定められた複数の診断項目の順に従って複数の測定状態の判定を実行してもよい。これにより、複数の診断項目の順が適切に定められることにより、複数の測定状態の判定を適切に行うことが可能になる。
【0014】
(3)複数の診断項目は、第1の超音波素子が異常であるか否かを判定するための第1の診断項目、第1の超音波素子の取り付け状態が異常であるか否かを判定するための第2の診断項目、配管内が流体で満たされているか否かを判定するための第3の診断項目、および配管内の流体に予め定められた量以上の気泡が存在するか否かを判定するための第4の診断項目を含み、制御部は、診断モードにある状態で、診断モードのシーケンスとして、第1および第2の診断項目に対応する測定状態の判定を行った後、第3および第4の診断項目に対応する測定状態の判定を行ってもよい。
【0015】
第1および第2の診断項目に対応する測定状態は、例えば第1の超音波素子から送信されて配管の表面に至る超音波の経路に対応する超音波波形に基づいて判定することが可能である。
【0016】
一方、第3および第4の診断項目に対応する測定状態は、例えば第1の超音波素子から送信されて配管の表面から配管の内部に至る超音波の経路に対応する超音波波形に基づいて判定することが可能である。
【0017】
そのため、第1の超音波素子から送信されて配管の表面に至る超音波の経路に対応する超音波波形が正常でない場合、第3および第4の診断項目に対応する測定状態については、正確な判定を行うことができない。上記の構成によれば、第1および第2の診断項目に対応する測定状態の判定後に第3および第4の診断項目に対応する測定状態が判定されるので、第3および第4の診断項目に対応する測定状態の判定の精度が向上する。
【0018】
(4)クランプオン式超音波流量センサは、制御部が移行すべき動作モードの入力を受け付け、制御部の動作モードを受け付けた動作モードに切り替えるモード切替部をさらに備えてもよい。この場合、使用者は、所望のタイミングでクランプオン式超音波流量センサにおける測定状態の異常を判定することができる。
【0019】
(5)流量算出部は、第1の超音波素子と第2の超音波素子との間の超音波の伝播時間差に基づいて流体の流量を算出する第1の算出部を含んでもよい。それにより、気泡または粒子等の含有率が低い流体について、高い精度で流量を算出することができる。
【0020】
(6)流量算出部は、第1の超音波素子が超音波を送信することにより第1の超音波素子に受信される超音波の周波数シフトに基づいて流体の流量を算出する第2の算出部とを含んでもよい。それにより、気泡または粒子等の含有率が比較的高い流体について、高い精度で流量を算出することができる。
【0021】
(7)第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、第1の超音波素子を含み、第1の超音波素子と配管との間には、超音波を伝達する伝達部材が設けられ、測定判定部は、第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち伝達部材内の第1の部分に対応する時間軸の第1の範囲で、超音波の強度が予め定められた第1の条件を満たすか否かに基づいて、測定状態として第1の超音波素子が異常であるか否かを判定する素子判定部を含んでもよい。
【0022】
この場合、使用者は、クランプオン式超音波流量センサにおける測定状態として、第1の超音波素子が異常であるか否かを容易に判定することができる。
【0023】
(8)第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、第1の超音波素子を含み、測定判定部は、第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち配管の外周面を含む第2の部分に対応する時間軸の第2の範囲で、超音波の強度が予め定められた第2の条件を満たすか否かに基づいて、測定状態として第1の超音波素子の取り付け状態が異常であるか否かを判定する取り付け判定部を含んでもよい。
【0024】
この場合、使用者は、クランプオン式超音波流量センサにおける測定状態として、第1の超音波素子の取り付け状態が異常であるか否かを容易に判定することができる。
【0025】
(9)第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、第1の超音波素子を含み、測定判定部は、第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち配管の内周面を含む第3の部分に対応する時間軸の第3の範囲で、超音波の強度が予め定められた第3の条件を満たすか否かに基づいて、測定状態として配管内が流体で満たされているか否かを判定する充満判定部を含んでもよい。
【0026】
この場合、使用者は、クランプオン式超音波流量センサにおける測定状態として、配管内が流体で満たされているか否かを容易に判定することができる。
【0027】
(10)第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、第1の超音波素子を含み、測定判定部は、第1の超音波素子から出力される信号により示される超音波の強度の変化を示す超音波波形において、超音波の経路のうち配管内の第4の部分に対応する時間軸の第4の範囲で、超音波の強度が予め定められた第4の条件を満たすか否かに基づいて、測定状態として配管内の流体に予め定められた量以上の気泡が存在するか否かを判定する気泡判定部を含んでもよい。
【0028】
この場合、使用者は、クランプオン式超音波流量センサにおける測定状態として、配管内の流体に予め定められた量以上の気泡が存在するか否かを容易に判定することができる。
【0029】
(11)第1の超音波素子から送信された超音波を受信すべき超音波素子は、第2の超音波素子を含み、測定判定部は、第2の超音波素子から出力される信号に基づいて、測定状態として第1の超音波素子と第2の超音波素子との間の超音波の伝達状態を判定する送受信判定部を含んでもよい。
【0030】
この場合、使用者は、クランプオン式超音波流量センサにおける測定状態として、第1の超音波素子と第2の超音波素子との間の超音波の伝達状態が正常であるか否かを容易に判定することができる。
【0031】
(12)クランプオン式超音波流量センサは、測定判定部により判定された流体の流量の測定状態を表示する表示部をさらに備えてもよい。それにより、使用者は配管を流れる流体の流量の測定状態を容易に把握することができる。
【0032】
(13)測定判定部は、流体の流量の測定状態を複数種類判定し、表示部は、測定判定部による判定結果を流体の流量の測定状態の種類ごとに表示してもよい。それにより、使用者は配管を流れる流体の流量の測定状態を、測定状態の種類ごとに容易に把握することができる。
【0033】
(14)第2の発明に係るクランプオン式超音波流量センサは、配管内を流れる流体の流量を測定するクランプオン式超音波流量センサであって、配管の外周面の一部分に取り付けられ、超音波を配管に向けて送信可能かつ超音波を受信可能であるとともに超音波の受信時に受信した超音波の強度を示す信号を出力する超音波素子と、流体の流量を測定する測定モードと流体の流量の測定に関する状態を診断するための診断モードとで動作可能に構成された制御部とを備え、制御部は、測定モードにおいて超音波素子を制御することにより流体の流量を算出する流量算出部と、診断モードにおいて超音波素子を制御することにより超音波素子から超音波を送信させるとともに超音波素子から出力される信号に基づいて流体の流量の測定状態を判定する測定判定部とを含んでもよい。
【0034】
そのクランプオン式超音波流量センサにおいては、制御部が測定モードにあるときに、超音波素子が制御されることにより、配管内を流れる流体の流量が測定される。一方、制御部が診断モードにあるときに、超音波素子から配管に向けて超音波が送信される。
【0035】
配管に対する超音波素子の取り付け状態に異常があると、超音波素子から配管に向けて送信された超音波は、配管に伝達されないかまたは配管の表面で大きく減衰する。また、配管内部から超音波素子に伝達されるべき超音波は、超音波素子に伝達されないかまたは配管の表面で大きく減衰する。
【0036】
そのため、送信された超音波を受信すべき超音波素子の出力信号によれば、少なくとも配管に対する超音波素子の取り付け状態を容易に判定することができる。したがって、使用者は、配管に対する超音波素子の取り付け状態を含む流量の測定状態の異常を容易に把握することが可能になる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、使用者は、配管に対する超音波素子の取り付け状態を含む流量の測定状態の異常を容易に把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施の形態に係る超音波流量センサの側面図である。
図2図1のセンサヘッドの構成を示す模式的横断面図である。
図3】伝播時間差方式でのセンサヘッドの動作を説明するための図である。
図4】パルスドップラ方式でのセンサヘッドの動作を説明するための図である。
図5】パルスドップラ方式でのより具体的なセンサヘッドの動作を説明するための図である。
図6】時間ごとに検出された超音波の信号強度とドップラ周波数との関係を示す図である。
図7】伝播時間差方式およびパルスドップラ方式で算出される流体の流量を示す図である。
図8】超音波流量センサによる流量の測定状態の異常について想定される原因を説明するための図である。
図9】超音波流量センサによる流量の測定状態の異常について想定される原因を説明するための図である。
図10】超音波流量センサによる流量の測定状態の異常について想定される原因を説明するための図である。
図11】超音波流量センサによる流量の測定状態の異常について想定される原因を説明するための図である。
図12】超音波流量センサによる流量の測定状態の異常について想定される原因を説明するための図である。
図13】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図14】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図15】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図16】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図17】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図18】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図19】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図20】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図21】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図22】異常診断機能の使用時に図1の表示部に表示される画面の遷移例を示す図である。
図23図3の制御基板における制御部の機能的な構成を説明するためのブロック図である。
図24】異常診断機能を実現するための異常診断処理の流れを示すフローチャートである。
図25】異常診断機能を実現するための異常診断処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の一実施の形態に係るクランプオン式超音波流量センサについて図面を参照しながら説明する。以下の説明では、クランプオン式超音波流量センサを超音波流量センサと略記する。
【0040】
[1]超音波流量センサの概略構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波流量センサの側面図である。図1に示すように、超音波流量センサ100は、センサヘッド10、クランプ部20および表示器30により構成される。センサヘッド10は、配管Pに取り付けられ、配管Pに流れる流体の流量を算出する。配管Pの最大の内径(直径)は、例えばJIS規格に規定される管呼び径「50A」に対応する内径である。例えば、管呼び径「50A」の鋼管の内径は、52.9mmである。以下の説明では、水平に延びる配管Pの上面にセンサヘッド10が取り付けられる例について説明する。
【0041】
センサヘッド10はコネクタ12を含む。コネクタ12はセンサヘッド10の上面に設けられる。
【0042】
クランプ部20は、上クランプ部材21および下クランプ部材22を含む。上クランプ部材21および下クランプ部材22は、配管Pを挟み込むように配置され、複数のクランプ固定ねじ23により互いに結合される。これにより、クランプ部20が配管Pの外周面に取り付けられる。図1に一点鎖線の矢印で示すように、2個のセンサ固定ねじ101がセンサヘッド10を通して上クランプ部材21の上面に螺合される。これにより、センサヘッド10は、下面が配管Pと接触する状態でクランプ部20により保持される。
【0043】
表示器30は、筐体部31、コネクタ32、制御部33、記憶素子34、操作部35、表示部36、表示灯37、接続ポート38,39および電源回路40を含む。筐体部31は、略直方体形状を有し、図1に点線の矢印で示すようにセンサヘッド10の上面に取り付け可能である。制御部33、記憶素子34および電源回路40は、筐体部31の内部に設けられる。
【0044】
コネクタ32は、筐体部31の下面に設けられる。コネクタ12とコネクタ32とが接続することで、表示器30とセンサヘッド10とが通信可能となる。本実施の形態において、コネクタ12とコネクタ32とは、直接接続する場合と、間接的に接続する場合との二通りで接続する。コネクタ12とコネクタ32とが直接接続する場合は、筐体部31がセンサヘッド10の上面に取り付けられることにより、コネクタ12とコネクタ32とが接続する。コネクタ12とコネクタ32とが図示しないケーブルを介して接続する場合は、筐体部31は、センサヘッド10に取り付けられていても、センサヘッド10から取り外されていてもよい。すなわちコネクタ12とコネクタ32とが二通りで接続するため、表示器30がセンサヘッド10に対して着脱自在な状態で、表示器30のコネクタ32とセンサヘッド10のコネクタ12とが接続する。
【0045】
制御部33は、例えばCPU(中央演算処理装置)および記憶部を含む。制御部33は、記憶素子34、表示部36および表示灯37の動作を制御する。また、制御部33は、センサヘッド10により算出された流量と、所定のしきい値とを比較し、比較結果に基づいて切替用信号を生成する。したがって、生成される切替用信号は、センサヘッド10により算出される流量値が、当該流量値が所定のしきい値以上の値である状態と、当該流量値が所定のしきい値より小さい値である状態との二つの状態のいずれの状態であるかを示す二値化された信号である。この切替用信号は、他の装置を制御可能な外部装置が、配管Pを流れる流体の流量に応じて、他の装置のオン状態とオフ状態とを切り替えるために用いられる。このように、他の装置が配管Pを流れる流体の流量に応じて制御されるとき、超音波流量センサ100は、配管P内にしきい値以上の流量の流体が流れているか否かに基づいて他の装置の動作状態を変化させる流量スイッチとして機能すると言える。
【0046】
なお、本実施の形態において、切替用信号は、センサヘッド10により算出される流量値と所定のしきい値との比較により生成されるが、配管Pを流れる流体の流量が一定量以上であることと一定量より少ないことが切替用信号に反映される制御であればよい。後述するように、本例においてセンサヘッド10により算出される流量値は、センサヘッド10により算出される流体の流速と、配管Pの断面積とに基づいて算出されるため、例えば、算出される流速と、流速に係るしきい値とが比較され、切替用信号が生成される構成であってもよい。
【0047】
記憶素子34は、例えばリングバッファを含む。記憶素子34は、所定の時間間隔で、時刻とセンサヘッド10により算出された流量とが対応付けられたログデータを順次記憶する。ログデータは、最大流量、最小流量、積算流量または切替用信号のレベル等を含んでもよい。記憶素子34の全記憶領域にログデータが記憶された場合、最先に記憶されたログデータが最新のログデータに上書きされる。そのため、記憶素子34に一度記憶されたログデータは、最新のログデータにより上書きされるまで一定期間保持される。
【0048】
操作部35は、使用者による入力操作を受け付け可能に筐体部31の上面に設けられる。図1では、表示器30の上面から延びる吹き出し内に操作部35の平面図が示される。本実施の形態においては、操作部35は、決定ボタン35aと4つの選択ボタン35b~35eとを含む。4つの選択ボタン35b~35eは、決定ボタン35aを取り囲むように配置されている。より具体的には、使用者が予め定められた位置関係で超音波流量センサ100を平面視した場合に、選択ボタン35b,35c,35d,35eは、決定ボタン35aに対して上下左右にこの順で位置するように配置されている。使用者は、操作部35を操作することにより種々のパラメータを入力することができる。
【0049】
操作部35から入力されるパラメータは、流量を算出するための初期設定に係るパラメータと、使用頻度が高いパラメータと、使用頻度が低いパラメータと、を含む。初期設定に係るパラメータは、例えば、配管Pの材質および規格上の配管Pの外径を含む。使用者の利便性のために、初期設定に係るパラメータとして入力される配管Pの外径は、規格により定義される呼び径が入力されることが好ましい。
【0050】
使用頻度が高いパラメータは、例えば、応答時間、表示分解能、ヒステリシス、ゼロカット流量、流体が流れる方向、後述するマイクロバブルの密度検知の周期等を含む。これらの使用頻度が高いパラメータは切替用信号との関連性がある。このため、使用者が当該超音波流量センサ100からの実際の出力結果に基づいて出力を調整する際に、任意の値に設定される。
【0051】
使用頻度が低いパラメータは、例えば、流量算出モード、配管Pの外径、配管Pの厚み、配管P中の音速および流体の動粘度を含む。これらのパラメータはセンサヘッド10により算出される流量値に影響があるパラメータである。このため、使用頻度が低いパラメータは、使用者が超音波流量センサ100の出力自体ではなく、出力が得られるまでの過程の値を調整する際に、任意の値に変更される。
【0052】
なお、使用頻度が低いパラメータに含まれる配管Pの寸法に係るパラメータは、呼び径に対応する値を使用者が微調整するときに値が変更されるパラメータである。上記のパラメータの一部または全部は、選択式で入力されてもよい。操作部35から入力されたパラメータは、センサヘッド10に与えられる。また、使用者は、操作部35を操作することにより流量についての所望のしきい値を入力することができる。
【0053】
上記の例の他、操作部35から入力可能なパラメータは、後述する異常診断処理に用いられる複数の監視範囲(図8の時間軸上の第1~第4の範囲TA1~TA4等)を含んでもよい。
【0054】
表示部36は、筐体部31の上面に設けられる。表示部36は、センサヘッド10により算出された流体の流量等を表示する。すなわち、流量を表示する表示部36を備えた表示器30がセンサヘッド10に対して着脱自在であるため、使用者は表示器30を好適な位置に配置することで好適な位置で、配管Pのセンサヘッド10が設けられた部分の流量を視認することができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る超音波流量センサ100においては、当該超音波流量センサ100による流量の測定状態に異常が発生しているか否かを判定する複数種類の異常判定が行われる。それにより、表示部36は、異常判定の結果を表示する。異常判定の詳細および表示部36における判定結果の表示の詳細については、後述する。
【0056】
表示灯37は、例えば異なる色で発光する複数の発光ダイオードを含み、筐体部31の上面に設けられる。表示灯37は、制御部33により生成された切替用信号のレベルを識別可能な態様で点灯または点滅する。すなわち、表示灯37は、配管Pを流れる流体の流量が一定量以上であることを示す表示と、配管Pを流れる流体の流量が一定量より少ないことを示す表示とを識別可能な態様で点灯または点滅する。表示部36と同様に、表示灯37は表示器30に設けられるため、使用者は、好適な位置で、配管Pのセンサヘッド10が設けられた部分の流量の状態を視認することができる。
【0057】
接続ポート38は、例えばUSB(ユニバーサルシリアルバス)ポートを含み、筐体部31の側面に設けられる。接続ポート38が図示しないケーブルにより外部の情報処理装置に接続されることにより、記憶素子34に記憶されたログデータが情報処理装置に出力される。接続ポート39は、例えばM12ポートを含み、筐体部31の端面に設けられる。接続ポート39が図示しないケーブルによりパーソナルコンピュータまたはプログラマブルロジックコントローラ等の外部装置に接続されることにより、制御部33により生成された切替用信号が外部装置に出力される。
【0058】
電源回路40は、外部の商用電源により供給される電圧を超音波流量センサ100に適した電圧に変換し、変換された電圧を制御部33、記憶素子34、表示部36および表示灯37に供給する。また、電源回路40は、変換された電圧を、コネクタ32を通してセンサヘッド10の各部に供給する。
【0059】
図2は、図1のセンサヘッド10の構成を示す模式的横断面図である。図2に示すように、センサヘッド10は、筐体部11、コネクタ12、制御基板13、2つのウェッジ材14、2つの超音波素子15、音響カプラント16、超音波遮蔽板17および表示灯18を含む。
【0060】
筐体部11は、下部が開口した略直方体形状である。筐体部11の上面には、コネクタ12が露出する。筐体部11の下部の開口では、ウェッジ材14が露出する。筐体部11は、制御基板13と超音波素子15とを収容する。
【0061】
コネクタ12は、筐体部11の上面に設けられる。上記のように、コネクタ12は、図1の表示器30の筐体部31が筐体部11に取り付けられたときに、コネクタ32に接続可能な位置にある。
【0062】
制御基板13は、送信回路131、受信回路132および制御部133を含み、筐体部11の内部に設けられる。送信回路131は、2つの超音波素子15の各々に対して、超音波を送信するための駆動信号を出力する。受信回路132は、増幅回路を含み、2つの超音波素子15の各々が超音波を受信することにより出力する信号を増幅する。また、受信回路132は、A/D(アナログデジタル)変換器を含み、2つの超音波素子15の各々から出力されるアナログ形式の信号をデジタル形式の信号に変換し、制御部133に与える。
【0063】
制御部133は、例えばCPUおよび記憶部331(図23)を含み、送信回路131、受信回路132および表示灯18の動作を制御する。記憶部331には、配管P内の流体の流量を算出するための流量測定プログラムが記憶されている。また、記憶部331には、流量の測定状態について異常が発生しているか否かを判定するための異常診断プログラムが記憶されている。
【0064】
制御部133は、流量測定プログラムおよび異常診断プログラムを実行する。この場合、制御部133は、送信回路131および受信回路132を制御することにより、2つの超音波素子15の各々を動作させる。流量測定プログラムが実行されることにより、制御部133は、2つの超音波素子15から得られる各種信号と予め定められたパラメータとに基づいて、配管Pに流れる流体の流量を算出する。流量の算出方法の詳細については後述する。
【0065】
また、異常診断プログラムが実行されることにより、制御部133は、2つの超音波素子15から得られる各種信号と予め定められたパラメータとに基づいて、流量の測定状態に異常が発生しているか否かの判定を行う。流量の測定状態に異常が発生しているか否かの判定方法の詳細については後述する。
【0066】
各ウェッジ材14は、センサヘッド10がクランプ部20に取り付けられた状態で、各超音波素子15と配管Pとの間に位置する。各ウェッジ材14は、非金属でかつ高い剛性および高い音響透過性を有する材料により形成される。また、各ウェッジ材14は、高い耐環境性を有する材料により形成されることが好ましい。本例では、各ウェッジ材14は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂と、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂とにより形成されるが、ULTEM(登録商標)樹脂により形成されてもよい。各ウェッジ材14は、斜め上方を向く素子結合面14aと、下方を向く配管結合面14bとを有する。
【0067】
以下の説明では、2つのウェッジ材14を区別する場合は、一方のウェッジ材14をウェッジ材14Aと呼び、他方のウェッジ材14をウェッジ材14Bと呼ぶ。ウェッジ材14A,14Bは、素子結合面14aが斜め上外方を向くように筐体部11の長手方向に配列された状態で、筐体部11の下部の開口に取り付けられる。これにより、筐体部11の内部に水および油等の液体が浸入不可能な空間が形成される。
【0068】
各超音波素子15は、送信モードと受信モードとで選択的に動作可能に構成される。送信モードにおいて、超音波素子15は、送信回路131から超音波を送信するための駆動信号を受けることにより超音波を送信する。受信モードにおいて、超音波素子15は、外部から超音波を受けることにより、受けた超音波の強度を示すアナログ形式の信号を出力する。各超音波素子15は、コンポジット素子により構成されてもよい。この場合、送信される超音波の残響時間が短いため、同一の超音波素子15を送信モードで動作してから受信モードで動作するときのノイズが低減される。後述するパルスドップラ方式では、反射体により反射される超音波信号を、当該超音波信号の強度が高い位置で受信するために、超音波を送信する超音波素子15が反射体により反射される超音波信号を受信することが好ましい。したがって、パルスドップラ方式で、超音波信号の受信強度を向上するために、超音波素子15がコンポジット素子であることが好ましい。なお、伝播時間差方式においても、送信モードで動作してから受信モードで動作するときのノイズが低減されるため、一定の効果がある。
【0069】
以下の説明では、2つの超音波素子15を区別する場合は、一方の超音波素子15を超音波素子15Aと呼び、他方の超音波素子15を超音波素子15Bと呼ぶ。超音波素子15A,15Bは、ウェッジ材14A,14Bの素子結合面14aにそれぞれ接合される。これにより、超音波素子15A,15Bは、配管Pに対して所定の角度を成す状態で、筐体部11の内部に設けられる。
【0070】
音響カプラント16は、固体形状を有し、高分子ゴムまたはゲル状物質等からなる軟質弾性体材料により形成される。音響カプラント16は、各ウェッジ材14の配管結合面14bに接触するように筐体部11の下部に設けられる。音響カプラント16の下面は、筐体部11の下面よりもわずかに突出する。音響カプラント16は、その下面が配管Pと接触されることにより、各ウェッジ材14と配管Pとの音響インピーダンスを整合させる。したがって、音響カプラント16は、各ウェッジ材14の音響インピーダンス値と配管Pの音響インピーダンス値との間の音響インピーダンス値を有することが好ましい。
【0071】
超音波遮蔽板17は、例えば発泡ゴムにより形成され、平板形状を有する。超音波遮蔽板17は、立てられた状態で音響カプラント16を貫通するようにウェッジ材14A,14B間に配置される。この場合、配管Pを通過しない超音波の成分がウェッジ材14A,14B間で直接伝達されることが防止される。
【0072】
表示灯18は、例えば複数の発光ダイオードを含み、表示器30の表示灯37と同様に切替用信号のレベルを識別可能な態様で点灯または点滅する。そのため、表示器30がセンサヘッド10に直接接続されている場合には、使用者は、表示器30の表示灯37を視認することにより、切替用信号のレベルを容易に識別することができる。一方で、表示器30とセンサヘッド10とをケーブルで接続することにより、表示器30をセンサヘッド10から分離することができる。この状態においては、使用者は、表示器30を任意の設置面に設置することができる。表示器30がセンサヘッド10から分離された状態でも、使用者は、センサヘッド10の表示灯18を視認することにより、切替用信号のレベルを容易に識別することができる。
【0073】
上記のように、センサヘッド10は、2個のセンサ固定ねじ101により図1のクランプ部20に固定される。これにより、音響カプラント16が配管Pに押圧された状態で、センサヘッド10が配管Pに取り付けられる。この状態で、センサヘッド10が動作する。以下、センサヘッド10の動作について説明する。
【0074】
[2]センサヘッドの動作
使用者は、図1の操作部35を操作することにより、センサヘッド10の流量算出モードとして、伝播時間差モード、パルスドップラモードおよびハイブリッドモードのいずれかを選択することができる。伝播時間差モードでは、センサヘッド10が伝播時間差方式で動作して流量を算出する。パルスドップラモードでは、センサヘッド10がパルスドップラ方式で動作して流量を算出する。ハイブリッドモードでは、センサヘッド10が伝播時間差方式とパルスドップラ方式との両方で動作して流量を算出する。
【0075】
図3は、伝播時間差方式でのセンサヘッド10の動作を説明するための図である。伝播時間差方式では、まず超音波素子15Aが超音波を送信し、かつ、超音波素子15Bが超音波を受信する。超音波素子15Aにより斜め下方に送信された超音波は、矢印A1で示すようにウェッジ材14Aに入射される。ウェッジ材14Aに入射された超音波は、音響カプラント16を透過し、矢印A2で示すように配管P内の流体に入射される。流体を通過した超音波は、配管Pの内壁で反射して矢印A3方向に流体内を伝播する。矢印A3方向に伝播する超音波は、音響カプラント16を透過し、矢印A4で示すようにウェッジ材14Bに入射される。ウェッジ材14Bに入射された超音波は、超音波素子15Bにより受信される。制御部133は、超音波素子15Aにより送信された超音波が超音波素子15Bにより受信されるまでの伝播時間ABを測定する。
【0076】
超音波素子15Bが超音波素子15Aから送信された超音波を受信した後、超音波素子15Bが超音波を送信し、かつ、超音波素子15Aが超音波素子15Bから送信された超音波を受信する。超音波素子15Bにより斜め下方に送信された超音波は、矢印B1で示すようにウェッジ材14Bに入射される。ウェッジ材14Bに入射された超音波は、音響カプラント16を透過し、矢印B2で示すように配管P内の流体に入射される。流体を通過した超音波は、配管Pの内壁で反射して矢印B3方向に流体内を伝播する。矢印B3方向に伝播する超音波は、音響カプラント16を透過し、矢印B4で示すようにウェッジ材14Aに入射される。ウェッジ材14Aに入射された超音波は、超音波素子15Aにより受信される。制御部133は、超音波素子15Bにより送信された超音波が超音波素子15Aにより受信されるまでの伝播時間BAを測定する。
【0077】
伝播時間ABと伝播時間BAとの測定の後、制御基板13の制御部133は、伝播時間差Δtを測定する。伝播時間差Δtは、伝播時間ABと、伝播時間BAとの差である。制御部133は、伝播時間差Δtに基づいて、配管P内を流れる流体の流量Vを下記式(1)により算出する。
【0078】
ここで、C’はウェッジ材14中の超音波の速度であり、θ’はウェッジ材14への超音波の入射角である。Cは流体中の超音波の速度であり、θは流体への超音波の入射角である。dは配管Pの内径であり、λは管摩擦係数(ブラジウス係数)である。速度C’、入射角θ’、入射角θおよびブラジウス係数は、既知であり、制御部133の記憶部331(図23)に予め定められたパラメータとして記憶されている。
【0079】
伝播時間差モードでの伝播時間差方式による流量の算出において、速度Cおよび配管Pの内径dは、使用者により入力される。なお、式(1)または後述する式(2)におけるdπ/4は配管Pの断面積であり、流量Vから断面積を除した値が配管Pに流れる流体の流速となる。
【0080】
【数1】
【0081】
このように、伝播時間差方式においては、流体の流れ方向に沿って伝播する超音波信号を送信する超音波素子と、流体の流れ方向に逆らって伝播する超音波信号を送信する超音波素子との2つの超音波素子が必要で、これらの超音波素子のそれぞれが他方の超音波素子から送信される超音波信号を受信可能な位置に配置される。本例においては、超音波素子15Aと超音波素子15Bとの両方が配管Pの上方に配置されるため、配管Pの一方側からの作業で、超音波素子15を配置することができる。特に、本例においては、超音波素子15Aと超音波素子15Bの両方が筐体部11に収容されるため、センサヘッド10の取付作業が容易である。
【0082】
なお、本実施の形態においては、速度Cが使用者により入力されるが、配管P中の音速が入力されてもよい。配管P中の音速は、配管Pの材質から特定される値が実際の値から乖離しにくいため、使用者は、配管Pの材質と音速とを対応付ける表を参照して、容易に精度の高い値を入力することができる。また、配管P中の音速は、超音波素子15の一方から他方への伝播時間から流体中の伝播時間を算出するために使用されるが、超音波素子15の一方から他方への伝播経路に占める配管Pの割合は微小であるため、配管P中の超音波の伝播速度の誤差が算出される流量Vに与える影響は小さい。このため、使用者が入力する値に求められる精度は低く、使用者は簡便な方法で値を入力することができる。なお、配管P中の音速が入力される例では、流体中の超音波信号の伝播時間を経て、伝播時間差方式にて送信される超音波信号の流体中の速度が算出される。当該速度は速度Cに近似する値であるため、速度Cが入力される場合の流量Vに近似した流量Vが算出される。このように、入力される値を適宜変更することにより、値を入力する使用者の負担を軽減することができる。なお、配管P中の音速は、使用者が配管Pの材質と、規格により定義される呼び径とを選択し、これらの情報に基づいて制御部133が算出してもよい。
【0083】
図4は、パルスドップラ方式でのセンサヘッド10の動作を説明するための図である。パルスドップラ方式では、超音波素子15Bの動作モードが送信モードと受信モードとで交互に切り替わる。送信モード時に、超音波素子15Bにより数パルスのパルス状の超音波信号が送信される。超音波素子15Bにより斜め下方に送信された超音波は、矢印C1で示すようにウェッジ材14Bに入射される。ウェッジ材14Bに入射された超音波は、音響カプラント16を透過し、矢印C2で示すように配管P内の流体に入射される。
【0084】
ここで、配管Pを流れる流体には、超音波を反射する反射体としてマイクロバブルが含まれる。マイクロバブルとは、例えば、直径10μm以上50μm以下の微小な気泡である。また、マイクロバブルは、工作機械の加工点を冷却する水溶性切削油等のクーラント液中に発生しやすい。クーラント液は、界面活性剤を含み、また、空気に触れたものが循環して再度用いられるため、当該循環系の一部を構成する配管Pを流れるクーラント液中に、マイクロバブルが多量に発生しやすい。
【0085】
マイクロバブルにより反射された超音波の一部は、矢印C3で示すように音響カプラント16を透過し、矢印C4で示すようにウェッジ材14Bに入射される。ウェッジ材14Bに入射された超音波は、受信モード時に、超音波素子15Bにより受信される。このように、パルスドップラ方式においては、超音波素子15Bから送信された超音波がマイクロバブルに反射されて超音波素子15Bに到達するまでの時間は短く、また、マイクロバブルの位置により決定されるため、超音波素子15Bは残響時間が短いコンポジット素子であることが好ましい。
【0086】
制御部133は、ドップラ周波数Δfを測定する。ドップラ周波数Δfは、超音波素子15Bにより送信された超音波の周波数と、超音波素子15Bにより受信された超音波の周波数との差であり、配管Pを流れるマイクロバブルの流速、すなわち流体の流速に比例する。制御部133は、測定されたドップラ周波数Δfに基づいて、配管P内を流れる流体の流量Vを下記式(2)により算出する。ここで、fは超音波素子15Bにより送信される超音波の周波数である。周波数fは、既知であり、制御部133の記憶部331に予め定められたパラメータとして記憶されている。周波数fの詳細については後述する。
【0087】
【数2】
【0088】
このように、パルスドップラ方式においては、パルス状の超音波信号が流体に送信され、かつ、当該超音波信号が流体に含まれる反射体により反射されるときの超音波信号の周波数が計測できればよい。本例では、単一の超音波素子15Bがパルス状の超音波信号を送信し、かつ、マイクロバブルにより反射された超音波信号の周波数を計測するため、パルスドップラ方式に必要な超音波素子の数が最小であり、センサヘッド10の小型化に一定の効果がある。特に本例では、超音波素子15Bがコンポジット素子により構成され、残響時間が短いため、マイクロバブルに反射された超音波信号の周波数を計測するときに、超音波信号の送信したときの残響による影響が生じにくい。
【0089】
なお、パルスドップラ方式で流量を算出するセンサヘッド10は、超音波信号を送信する超音波素子と別に、反射体により反射される超音波の周波数を計測する超音波素子を備えてもよい。この場合、周波数を計測する超音波素子が超音波信号を送信する超音波素子と別の超音波素子であるため、残響による検出精度低下が生じにくい。
【0090】
図5は、パルスドップラ方式でのより具体的なセンサヘッド10の動作を説明するための図である。図5に示すように、流体は、配管Pの流路内を均一な速度で流れるのではなく、所定の速度分布で流れる。配管Pの流路の中央近傍を流れる流体の流速は、配管Pの内壁近傍を流れる流体の流速と比較して大きい。
【0091】
ここで、パルスドップラ方式では、超音波素子15Bにより送信された超音波がマイクロバブルに到達するまでの時間、およびマイクロバブルにより反射された超音波が超音波素子15Bに到達するまでの時間は、マイクロバブルが流れる深さごとに異なる。本例において、マイクロバブルが流れる深さとは、配管Pの径方向におけるマイクロバブルの位置である。そこで、制御部133は、超音波が送信されてからマイクロバブルにより反射された超音波が受信されるまでの時間ごとのドップラ周波数を測定する。
【0092】
本実施の形態では、コネクタ12は、超音波素子15Bより超音波素子15Aに近い位置に設けられる。換言すれば、コネクタ12と超音波素子15Aとの距離は、コネクタ12と超音波素子15Bとの距離より小さい。制御基板13のうちコネクタ12が接続される部分の近傍に、電源回路40が設けられる。パルスドップラ方式において超音波素子15が受信する超音波信号の周波数は電源回路40の影響を受けやすい。このため、コネクタ12との距離が比較的大きい超音波素子15Bがパルスドップラ方式で超音波信号を受信することが好ましい。
【0093】
図6は、時間ごとに検出された超音波の信号強度とドップラ周波数との関係を示す図である。図6の横軸は、ドップラ周波数を示す。図6の縦軸は、超音波の信号強度を示す。図6の例では、複数の時間にそれぞれ対応する波形S1~S4が、実線、点線、一点鎖線および二点鎖線によりそれぞれ示される。波形S1~S4は、図5の深さd1~d4を流れるマイクロバブルによりそれぞれ反射された超音波について検出された波形であり、互いに異なる複数の時間t1~t4にそれぞれ検出される。
【0094】
制御部133は、波形S1~S4の重心位置を深さd1~d4にそれぞれ対応するドップラ周波数として測定する。また、制御部133は、測定されたドップラ周波数に基づいて、各深さd1~d4における流体(マイクロバブル)の流速をそれぞれ算出する。なお、上記のように、流体の流速は、式(2)の流量Vから断面積を除した値として算出される。
【0095】
このように、パルスドップラ方式においては、流体(マイクロバブル)の位置を空間分解し、流体の速度分布を特定することができる。図5および図6の例では、深さd1~d4ごとの流体の流速が算出されるが、深さの点数は配管Pの径または制御部133の処理速度等に応じて適宜決定されてもよい。制御部133は、特定された流体の速度分布を平均化し、平均化された速度分布に配管Pの流路の断面積を乗じることにより流体の流量を算出する。
【0096】
ハイブリッドモードにおいては、センサヘッド10は、伝播時間差方式とパルスドップラ方式とを交互に実行する。伝播時間差方式での動作期間およびパルスドップラ方式での動作期間は、例えばそれぞれ150msであるが、実施の形態はこれに限定されない。伝播時間差方式での動作期間またはパルスドップラ方式での動作期間は、150msよりも短くてもよいし、150msよりも長くてもよい。また、伝播時間差方式での動作期間とパルスドップラ方式での動作期間とは同じでなくてもよい。
【0097】
また、本例では、超音波素子15Bが、伝播時間差方式において超音波信号を送受信し、かつ、パルスドップラ方式においてパルス状の超音波信号を送信し、反射体に反射された超音波の周波数を計測する。この構成によれば、伝播時間差方式とパルスドップラ方式との両方で流量の算出が可能なセンサヘッド10において、超音波素子の数を最小にすることができるため、センサヘッド10の小型化に一定の効果がある。
【0098】
伝播時間差方式とパルスドップラ方式との両方で流量の算出が可能なセンサヘッド10は、伝播時間差方式での流量算出に用いられる超音波素子と、パルスドップラ方式での流量算出に用いられる超音波素子とが別々に設けられる構成であってもよい。例えば、本実施の形態における超音波素子15Aと超音波素子15Bとが伝播時間差方式での流量算出にのみ用いられ、パルスドップラ方式での流量算出に用いられる超音波素子が別途設けられる構成である。この構成において、伝播時間差方式での流量算出に用いられる超音波素子は、パルスドップラ方式での流量算出に用いられず、パルスドップラ方式での流量算出に用いられる超音波素子は、伝播時間差方式での流量算出に用いられない。したがって、この構成によるハイブリッドモードでは、伝播時間差方式での動作期間とパルスドップラ方式での動作期間が重複してもよく、動作期間が切り替わる間での流量の変化による影響を受けにくい。
【0099】
図7は、伝播時間差方式およびパルスドップラ方式で算出される流体の流量を示す図である。図7の横軸は、実際の流量に対する、流体に含まれるマイクロバブルの密度を示す。図7の縦軸は、算出される流体の流量の相対値を示す。また、伝播時間差方式で測定される流量を太い実線で示し、パルスドップラ方式で測定される流量を細い実線で示す。
【0100】
図7に示すように、伝播時間差方式においては、マイクロバブルの密度が比較的低い場合には、100%の流量が算出される。しかしながら、マイクロバブルの密度が比較的高い場合には、流量を算出することができない。一方、パルスドップラ方式においては、マイクロバブルの密度が比較的高い場合に、100%に近い流量が算出される。特に、マイクロバブルの密度が値V1と、値V1よりも高い値V2との間にある場合に、比較的高い精度で流量が算出される。
【0101】
そこで、ハイブリッドモードにおいては、制御部133は、伝播時間差方式により算出される流量と、パルスドップラ方式により算出される流量とを合成した流量を、算出した流量として扱う。したがって、ハイブリッドモードにおいては、上述した切替用信号は伝播時間差方式による流量値とパルスドップラ方式による流量値とが合成された流量値に基づいて生成され、また、表示灯37は伝播時間差方式による流量値とパルスドップラ方式による流量値とが合成された流量値に基づいて、点灯または点滅する。
【0102】
ハイブリッドモードにおいて、制御部133は、流量算出の安定度に基づいて、伝播時間差方式で算出された流量と、パルスドップラ方式で算出された流量との合成割合を決定する。流量算出の安定度は、例えば検出された超音波の信号強度を含む。ハイブリッドモードにおいて、制御部133は、算出された流量を配管Pの外径または流体の動粘度等のパラメータに基づいて補正してもよい。
【0103】
[3]超音波流量センサ100による流量の測定状態の異常
上記の構成を有する超音波流量センサ100においては、種々の原因により配管P内の流体の流量測定ができなくなったり、測定精度が著しく低下する場合がある。このように、流量測定ができない場合および測定精度が著しく低下した場合、すなわち流量の測定状態に異常が生じた場合、使用者はその異常を生じさせた原因を把握したうえで、その原因に応じた復旧作業を行う必要がある。流量の測定状態の異常について、想定される原因を説明する。
【0104】
図8図12は、超音波流量センサ100による流量の測定状態の異常について想定される原因を説明するための図である。図8の上段に、一の超音波素子15Aから配管Pに向けて出射された超音波がウェッジ材14A、音響カプラント16、配管Pを通して配管P内の流体FLに適切に入射する状態が模式的断面図で示される。また、図8の下段に、超音波素子15Aの動作モードが送信モードと受信モードとで交互に切り替えられることにより得られる超音波波形がグラフ上に示される。図8の下段のグラフにおいては、横軸が時間を表し、縦軸が超音波の信号強度(電圧)を表す。その横軸(時間軸)は、図8の上段に太い実線で示される超音波の経路に対応する。
【0105】
(1)超音波素子15の異常
超音波が配管P内に適切に送信される場合、図8に示すように、超音波の経路のうち超音波素子15Aおよびウェッジ材14Aの一部分(例えば、上段の楕円UP1内の部分)に対応する時間軸の第1の範囲TA1では、比較的大きい信号強度を有する波形が発生する。しかしながら、超音波素子15Aの劣化等により、当該超音波素子15Aから超音波が発信されないかまたは発信される超音波の強度が著しく低下していると、図9に示すように、配管P内の流体FLに超音波を到達させることができない。したがって、センサヘッド10から配管P内に超音波を伝達させるためには、超音波素子15を、正常に動作可能な超音波素子15に交換する必要がある。以下の説明では、超音波素子15に起因して発生する測定状態の異常を「素子異常」と呼ぶ。
【0106】
(2)取り付け状態の異常
超音波が配管P内に適切に送信される場合、図8に示すように、超音波の経路のうち配管Pの外周面を含む一部分(例えば、上段の楕円UP2内の部分)に対応する時間軸の第2の範囲TA2では、比較的小さい信号強度を有する波形が発生する。この波形は、ウェッジ材14と配管Pとの間の音響インピーダンスの差に起因して発生する。図10に示すように、例えば音響カプラント16と配管Pとの間に隙間が形成されると、ウェッジ材14と配管Pとの間の音響インピーダンスが整合しない。この場合、第2の範囲TA2で著しく大きい信号強度を有する波形が発生し、配管P内にほとんど超音波が伝達されない。したがって、センサヘッド10から配管P内に超音波を伝達させるためには、音響カプラント16を配管Pの外周面上に密着させる必要がある。以下の説明では、配管Pに対するセンサヘッド10の取り付け状態に起因して発生する測定状態の異常を「取り付け異常」と呼ぶ。
【0107】
(3)配管P内に流体が満たされていないときの異常
超音波が配管P内に適切に送信される場合、図8に示すように、超音波の経路のうち配管Pの内周面を含む一部分(例えば、上段の楕円UP3内の部分)に対応する時間軸の第3の範囲TA3では、比較的小さい信号強度を有する波形が発生する。この波形は、配管Pと流体FLとの間の音響インピーダンスの差に起因して発生する。そのため、図11に示すように、配管P内に流体FLが満たされていないことにより超音波の経路上に空気ARの層が存在すると、第3の範囲TA3で著しく大きい信号強度を有する波形が発生し、配管P内の流体FLにほとんど超音波が伝達されない。したがって、センサヘッド10から配管P内の流体FLに超音波を伝達させるためには、配管Pに対するセンサヘッド10の取り付け位置を変更するかまたはセンサヘッド10の姿勢を変更する必要がある。以下の説明では、配管P内の流体FLの充満不足に起因して発生する測定状態の異常を「非充満異常」と呼ぶ。
【0108】
(4)流体FL内に過剰な量の気泡が存在するときの異常
超音波が配管P内に適切に送信される場合、図8に示すように、超音波の経路のうち配管P内の一部分(例えば、上段の楕円UP4内の部分)に対応する時間軸の第4の範囲TA4では、極めて小さい信号強度を有する波形が発生する。この波形は、流体FL内を進行する超音波の波形である。そのため、流体FL内に超音波の進行を阻害するものが存在しない場合、その信号レベルはノイズレベルと同等になる。
【0109】
しかしながら、図12に示すように、例えば流体FL内に過剰な量のマイクロバブルが存在する、すなわち流体FLにおけるマイクロバブルの密度が著しく高い場合には、流体FL内を進行する超音波は著しく大きく減衰する。このような超音波の著しく大きい減衰は、図7を用いて説明したパルスドップラ方式による流体FLの流量算出も不可能にする。
【0110】
したがって、流体FL内のマイクロバブルに起因する測定不良の発生時には、配管P内部におけるマイクロバブルの密度が小さい部分に向けて超音波が伝達されるように、配管Pに対するセンサヘッド10の取り付け位置および取り付け姿勢を変更する必要がある。あるいは、流体FL内のマイクロバブルの密度が高くなっている原因が流体FLの流速に起因するものであれば、配管P内を流れる流体FLの速度を変更する必要がある。以下の説明では、流体FL内に過剰な量の気泡が存在することに起因して発生する測定状態の異常を「気泡異常」と呼ぶ。
【0111】
[4]測定状態の異常診断機能
上記のように、流量の測定状態の異常には、複数種類の原因がある。そのため、流量の測定状態に何らかの異常が生じた場合、使用者は、その異常の原因を把握するとともに、把握した原因に応じて当該異常を解消するための作業を行う必要がある。しかしながら、配管Pにセンサヘッド10が取り付けられた状態で、異常の発生原因を把握することは容易ではない。
【0112】
そこで、本実施の形態に係る超音波流量センサ100は、使用者の要求に応答して流量の測定状態に異常があるか否かを判定するとともにその異常の種類を特定するための異常診断機能を有する。
【0113】
異常診断機能の使用時には、一時的に超音波流量センサ100による流体FLの流量測定動作が停止される。この状態で、2つの超音波素子15の各々について、複数種類の異常にそれぞれ対応する複数の異常判定が以下の順に行われる。以下に説明する複数種類の異常にそれぞれ対応する複数の異常判定の順は、本発明の診断モードにおいて予め設定されたシーケンスの例に相当する。
【0114】
(1)素子異常判定
素子異常の有無が判定される。この判定時には、例えば一方の超音波素子15が、送信モードと受信モードとで交互に切り替えられて動作する。それにより、当該超音波素子15が受信モードにあるときに取得される超音波波形のうち時間軸における第1の範囲TA1(図8)内に位置する部分が抽出される。抽出された超音波波形の強度が予め定められた第1のしきい値以上であるか否かが判定される。
【0115】
抽出された超音波波形の強度が第1のしきい値以上である場合、素子異常は生じていない、すなわち一方の超音波素子15は正常であると判定される。抽出された超音波波形の強度が第1のしきい値よりも小さい場合、一方の超音波素子15について素子異常の発生が判定される。この判定動作は、一方の超音波素子15についての判定終了後に、他方の超音波素子15についても同様に行われる。
【0116】
なお、第1のしきい値および第1の範囲TA1は、超音波素子15の仕様等に応じて予め定められるパラメータであり、例えば超音波流量センサ100の工場出荷時に制御部133の記憶部331(図23)に記憶される。さらに、第1の範囲TA1は、使用者が、表示器30の操作部35を操作することにより制御部133の記憶部331に記憶されてもよい。また、制御部133の記憶部331に記憶された第1のしきい値および第1の範囲TA1は、使用者の操作部35の操作により変更されてもよい。
【0117】
(2)取り付け異常判定
取り付け異常の有無が判定される。この判定時においても、例えば一方の超音波素子15が、送信モードと受信モードとで交互に切り替えられて動作する。それにより取得される超音波波形のうち時間軸における第2の範囲TA2(図8)内に位置する部分が抽出される。抽出された超音波波形の強度が予め定められた第2のしきい値以下であるか否かが判定される。
【0118】
抽出された超音波波形の強度が第2のしきい値以下である場合、取り付け異常は生じていない、すなわち一方の超音波素子15は配管Pに正常に取り付けられていると判定される。抽出された超音波波形の強度が第2のしきい値よりも大きい場合、一方の超音波素子15について取り付け異常の発生が判定される。この判定動作は、一方の超音波素子15についての判定終了後に、他方の超音波素子15についても同様に行われる。
【0119】
なお、第2のしきい値および第2の範囲TA2は、超音波素子15の仕様等に応じて予め定められるパラメータであり、例えば超音波流量センサ100の工場出荷時に制御部133の記憶部331に記憶される。さらに、第2の範囲TA2は、使用者が、表示器30の操作部35を操作することにより制御部133の記憶部331に記憶されてもよい。また、制御部133の記憶部331に記憶された第2のしきい値および第2の範囲TA2は、使用者の操作部35の操作により変更されてもよい。
【0120】
(3)非充満異常判定
非充満異常の有無が判定される。この判定時においても、例えば一方の超音波素子15が、送信モードと受信モードとで交互に切り替えられて動作する。それにより取得される超音波波形のうち時間軸における第3の範囲TA3(図8)内に位置する部分が抽出される。抽出された超音波波形の強度が予め定められた第3のしきい値以下であるか否かが判定される。
【0121】
抽出された超音波波形の強度が第3のしきい値以下である場合、非充満異常は生じていない、すなわち配管P内には流体FLが満たされており、一方の超音波素子15から送信される超音波は配管P内部の流体FLに正常に伝達されていると判定される。抽出された超音波波形の強度が第3のしきい値よりも大きい場合、一方の超音波素子15について非充満異常の発生が判定される。すなわち、一方の超音波素子15から送信される超音波は配管P内部の流体FLに伝達されていないと判定される。この判定動作は、一方の超音波素子15についての判定終了後に、他方の超音波素子15についても同様に行われる。
【0122】
なお、第3のしきい値および第3の範囲TA3は、超音波素子15の仕様等に応じて予め定められるパラメータであり、例えば超音波流量センサ100の工場出荷時に制御部133の記憶部331に記憶される。さらに、第3の範囲TA3は、使用者が、表示器30の操作部35を操作することにより制御部133の記憶部331に記憶されてもよい。また、制御部133の記憶部331に記憶された第3のしきい値および第3の範囲TA3は、使用者の操作部35の操作により変更されてもよい。
【0123】
(4)気泡異常判定
気泡異常の有無が判定される。この判定時においても、例えば一方の超音波素子15が、送信モードと受信モードとで交互に切り替えられて動作する。それにより取得される超音波波形のうち時間軸における第4の範囲TA4(図8)内に位置する部分が抽出される。抽出された超音波波形の強度分布が予め定められた条件(以下、気泡条件と呼ぶ。)に従うか否かが判定される。ここで、気泡条件は、例えば抽出された超音波波形の包絡線の傾きが予め定められた第4のしきい値以下で維持されることである。
【0124】
抽出された超音波波形の強度分布が気泡条件に従う場合、気泡異常は生じていない、すなわち配管P内の流体FLには、過剰な量のマイクロバブルは存在しないと判定される。抽出された超音波波形の強度分布が気泡条件に従わない場合、配管P内の流体FLに過剰な量のマイクロバブルが存在することが判定される。この判定動作は、一方の超音波素子15についての判定終了後に、他方の超音波素子15についても同様に行われる。
【0125】
なお、第4のしきい値および第4の範囲TA4は、超音波素子15の仕様等に応じて予め定められるパラメータであり、例えば超音波流量センサ100の工場出荷時に制御部133の記憶部331に記憶される。さらに、第4の範囲TA4は、使用者が、表示器30の操作部35を操作することにより制御部133の記憶部331に記憶されてもよい。また、制御部133の記憶部331に記憶された第4のしきい値および第4の範囲TA4は、使用者の操作部35の操作により変更されてもよい。
【0126】
(5)送受信異常判定
超音波流量センサ100は、2つの超音波素子15を備える。例えば、伝搬時間差方式では、2つの超音波素子15間で超音波が送受信されることにより、流量が算出される。そのため、センサヘッド10が配管Pに取り付けられた状態で、超音波素子15Aから送信された超音波は超音波素子15Bで受信される必要がある。また、超音波素子15Bから送信された超音波は超音波素子15Aで受信される必要がある。
【0127】
上記の素子異常判定、取り付け異常判定、非充満異常判定、および気泡異常判定によれば、2つの超音波素子15の各々について、測定状態の異常を判定することができるが、2つの超音波素子15間の超音波の送受信に異常が生じているかを判定することができない。
【0128】
そこで、素子異常判定、取り付け異常判定、非充満異常判定、および気泡異常判定の前または後(本例では4つの異常判定後)に、2つの超音波素子15間の超音波の送受信に異常が生じているかが判定される。この判定時には、例えば一方の超音波素子15Aが送信モードで動作し、他方の超音波素子15Bが受信モードで動作する。それにより、超音波素子15Bの出力信号から取得される波形に基づいて、超音波素子15Aから送信された超音波を受信しているか否かが判定される。また超音波素子15Bが超音波素子15Aからの超音波を受信している場合には、受信した超音波の信号強度が予め定められた第5のしきい値以上であるか否かが判定される。
【0129】
超音波素子15Bが超音波素子15Aから超音波を受信しかつその超音波の信号強度が第5のしきい値以上である場合、超音波素子15Aから超音波素子15Bへの超音波の伝達状態は正常であると判定される。超音波素子15Bが超音波素子15Aから送信された超音波を受信していない場合、超音波素子15Aから超音波素子15Bへの超音波の伝達状態は異常であると判定される。また、超音波素子15Bが超音波素子15Aから受信した超音波の信号強度が第5のしきい値よりも小さい場合、超音波素子15Aから超音波素子15Bへの超音波の伝達状態は異常であると判定される。この判定動作は、送受信の関係を逆転させた状態でも行われる。すなわち、一方の超音波素子15Aを受信モードで動作させ、他方の超音波素子15Bが送信モードで動作させる。その上で、超音波素子15Bから超音波素子15Aに超音波が適切に伝達されたか否かが判定される。
【0130】
なお、第5のしきい値は、超音波素子15の仕様等に応じて予め定められるパラメータであり、例えば超音波流量センサ100の工場出荷時に制御部133の記憶部331に記憶される。また、制御部133の記憶部331に記憶された第5のしきい値は、使用者の操作部35の操作により変更されてもよい。
【0131】
(6)異常診断機能の停止
上記のように、素子異常判定、取り付け異常判定、非充満異常判定、気泡異常判定、および送受信異常判定は、判定に要する超音波の伝搬経路がこの順で大きくなっている。そのため、上記の複数の判定のうちいずれかで、測定状態の異常の発生が判定されると、当該判定に続く異常判定は、適切に行われない可能性が高い。そこで、本実施の形態に係る異常診断機能においては、複数の異常判定のうちいずれか一の異常判定において異常の発生が判定された場合に、完了した判定結果のみが使用者に提示され、異常診断が終了する。このように、異常の発生が判定されると、その異常判定以降に行われるべき異常判定は行われない。それにより、判定が実施された診断項目については、その判定結果が一定の信頼性を有することになる。
【0132】
[5]表示器30の表示部36における画面表示例
使用者は、例えば図1の表示部36に表示される画面を参照しつつ操作部35を操作することにより、異常診断機能の使用を超音波流量センサ100に指令することができる。図13図22は、異常診断機能の使用時に図1の表示部36に表示される画面の遷移例を示す図である。
【0133】
図13には、初期画面が示される。図13に示すように、表示部36の画面上には、メイン表示領域361およびサブ表示領域362が設定される。初期画面においては、メイン表示領域361に、超音波流量センサ100の各種機能を示す複数(本例では4つ)の機能アイコン361aが表示される。これらの機能アイコン361aには、チェックボックスと「状態」の文字列とが組み合わされた機能アイコン361aが含まれる。この機能アイコン361aは、超音波流量センサ100による流量の測定状態を確認するためのアイコンである。サブ表示領域362には、使用者が操作すべき図1の操作部35のボタン(決定ボタン35aおよび選択ボタン35b~35e)が模式的に表示される。
【0134】
使用者は、サブ表示領域362を参照しつつ操作部35を操作することにより、メイン表示領域361上でカーソルを移動させ、所望の機能アイコン361aを選択することができる。図13の例では、カーソルが二点鎖線の枠により示される。
【0135】
図13の初期画面において、超音波流量センサ100による流量の測定状態を確認するための機能アイコン361aが選択され、その選択が決定される。この場合、図14に示すように、メイン表示領域361に診断実行アイコン361bおよび詳細表示アイコン361cが表示される。
【0136】
診断実行アイコン361bは、測定状態の異常診断機能を使用するため、すなわち後述する異常診断処理の実行を指定するためのアイコンである。一方、詳細表示アイコン361cは、例えば測定状態に関連する各種パラメータの設定内容、および応答遅れ等の超音波流量センサ100の動作の不具合に関する各種情報を表示させるためのアイコンである。使用者は、メイン表示領域361上でカーソルを移動させ、診断実行アイコン361bおよび詳細表示アイコン361cのいずれか一方を選択することができる。図14の例では、図13の例と同様に、カーソルが二点鎖線の枠により示される。
【0137】
図14の画面において、診断実行アイコン361bが選択され、その選択が決定される。この場合、図15に示すように、表示部36上に確認ウィンドウ363が表示される。確認ウィンドウ363には、異常診断処理の実行中には、配管P内の流体FLの流量を測定すること等が一時的にできなくなる旨のメッセージ(後述する測定モードから診断モードへの移行を確認するためのメッセージ)が表示される。また、使用者が操作すべき図1の操作部35のボタン(決定ボタン35aおよび選択ボタン35b~35e)が模式的に表示される。
【0138】
使用者は、確認ウィンドウ363を視認しつつ操作部35の決定ボタン35a(図1)を操作することにより、異常診断処理の実行を指令することができる。一方、使用者は、操作部35の選択ボタン35dを操作することにより、表示部36の表示状態を図14の表示状態に戻すことができる。
【0139】
図15の画面において、操作部35の決定ボタン35a(図1)が操作されることにより、異常診断処理が開始される。この場合、図16に示すように、メイン表示領域361に、進捗メータ361dおよびセンサヘッド10の模式図とともに診断が開始されたことを示すメッセージが表示される。進捗メータ361dは、メイン表示領域361内で一方向に直線状に並ぶ複数の発光部を含む。進捗メータ361dにおいては、異常診断処理が進むにつれて複数の発光部が例えば左から右に向かって順に点灯する。それにより、異常診断処理の進行の度合いが表示される。
【0140】
異常診断処理が開始されると、まず、超音波素子15A,15Bの各々について素子異常判定が行われる。このとき、表示部36のメイン表示領域361には、図17に示すように、素子異常判定が行われている状態を示すセンサヘッド10の模式図とともに現在素子異常判定が行われていることを示すメッセージが表示される。また、現在の判定対象となっている超音波素子(図17の例では超音波素子15A)を示す文字列が表示されるとともに、進捗メータ361dの表示態様が更新される。
【0141】
次に、超音波素子15A,15Bの各々について素子異常判定が終了すると、取り付け異常判定が行われる。このとき、表示部36のメイン表示領域361には、図18に示すように、取り付け異常判定が行われている状態を示すセンサヘッド10の模式図とともに現在取り付け異常判定が行われていることを示すメッセージが表示される。また、現在の判定対象となっている超音波素子(図18の例では超音波素子15A)を示す文字列が表示されるとともに、進捗メータ361dの表示態様が更新される。
【0142】
次に、超音波素子15A,15Bの各々について取り付け異常判定が終了すると、非充満異常判定が行われる。このとき、表示部36のメイン表示領域361には、図19に示すように、非充満異常判定が行われている状態を示すセンサヘッド10の模式図とともに現在非充満異常判定が行われていることを示すメッセージが表示される。また、現在の判定対象となっている超音波素子(図19の例では超音波素子15A)を示す文字列が表示されるとともに、進捗メータ361dの表示態様が更新される。
【0143】
次に、超音波素子15A,15Bの各々について非充満異常判定が終了すると、気泡異常判定が行われる。このとき、表示部36のメイン表示領域361には、図20に示すように、気泡異常判定が行われている状態を示すセンサヘッド10の模式図とともに現在気泡異常判定が行われていることを示すメッセージが表示される。また、現在の判定対象となっている超音波素子(図20の例では超音波素子15A)を示す文字列が表示されるとともに、進捗メータ361dの表示態様が更新される。
【0144】
次に、超音波素子15A,15Bの各々について気泡異常判定が終了すると、送受信異常判定が行われる。このとき、表示部36のメイン表示領域361には、図21に示すように、送受信異常判定が行われている状態を示すセンサヘッド10の模式図とともに現在送受信異常判定が行われていることを示すメッセージが表示される。また、現在の送受信異常判定において2つの超音波素子間でどのようにして超音波が送信および受信されているのかを示す文字列が表示されるとともに、進捗メータ361dの表示態様が更新される。なお、図21の例では、超音波素子15Aから送信された超音波が超音波素子15Bにより受信されるように、超音波の送受信が行われることが示されている。
【0145】
最後に、超音波素子15A,15Bの各々について上記の一連の異常判定が終了すると、表示部36のメイン表示領域361には、図22に示すように、判定結果一覧361eとメッセージ枠361fとが表示される。
【0146】
図22に示される判定結果一覧361eにおいては、素子異常、取り付け異常、非充満異常、気泡異常、および送受信異常の文字列の各々の先頭に、判定結果を示す複数種類のマークが付されている。具体的には、判定結果が異常なしであったものについては、正常であることを示すマークとしてチェックマークが付されている(素子異常)。一方、判定結果が異常ありであったものについては、異常を示すマークとして警告マークが付されている(取り付け異常)。他方、異常判定が実施されなかったものについては、異常判定が行われなかったことを示すマークとしてハイフンが付されている。メッセージ枠361fには、複数の判定結果に応じたメッセージが提示される。図22の例では、取り付け異常の発生に対応する復旧作業の内容が示される。
【0147】
上記の図16図22で示される表示部36の表示態様において、サブ表示領域362には、操作部35の決定ボタン35aを示すマークと、停止の文字列が表示されている。これにより、使用者は、異常診断処理の実行中および実行後の所望のタイミングで決定ボタン35aを操作することができる。異常診断処理中に決定ボタン35aが操作されると、その処理が中断され、超音波流量センサ100は異常診断処理の開始前の状態に戻る。
【0148】
以下の説明においては、図16図22に示すように、異常診断処理中の現在の処理内容を示す画面を診断進捗画面と呼ぶ。
【0149】
[6]制御基板13における制御部133の機能的な構成
図23は、図3の制御基板13における制御部133の機能的な構成を説明するためのブロック図である。図23に示すように、制御部133は、記憶部331を含むとともに、機能部として流量算出部310、測定判定部320、モード切替部332および表示制御部333を含む。これらの機能部は、制御部133のCPUが記憶部331に記憶された流量測定プログラムおよび異常診断プログラムを実行することにより実現される。なお、上記の複数の機能部のうち一部または全てが電子回路等のハードウェアにより実現されてもよい。
【0150】
流量算出部310は、第1の算出部311および第2の算出部312を含む。第1の算出部311は、送信回路131および受信回路132を制御することにより、2つの超音波素子15A,15B間で超音波を伝搬させる。それにより、第1の算出部311は、2つの超音波素子15A,15B間の超音波の伝搬時間差に基づいて配管P内の流体FLの流量を算出する。
【0151】
第2の算出部312は、送信回路131を制御することにより、一の超音波素子(例えば超音波素子15A)から配管P内の流体FLに超音波を送信させる。また、第2の算出部312は、一の超音波素子が流体FLから超音波を受信することにより受信回路132に出力された信号を受けることにより、超音波の周波数シフトに基づいて配管P内の流体FLの流量を算出する。
【0152】
測定判定部320は、素子判定部321、取り付け判定部322、充満判定部323、気泡判定部324および送受信判定部325を含む。素子判定部321は、送信回路131および受信回路132を制御するとともに記憶部331に記憶された第1のしきい値および第1の範囲TA1等に基づいて上記の素子異常判定を行う。
【0153】
取り付け判定部322は、送信回路131および受信回路132を制御するとともに記憶部331に記憶された第2のしきい値および第2の範囲TA2等に基づいて上記の素子異常判定を行う。充満判定部323は、送信回路131および受信回路132を制御するとともに記憶部331に記憶された第3のしきい値および第3の範囲TA3等に基づいて上記の非充満異常判定を行う。
【0154】
気泡判定部324は、送信回路131および受信回路132を制御するとともに記憶部331に記憶された第4のしきい値および第4の範囲TA4等に基づいて上記の気泡異常判定を行う。送受信判定部325は、送信回路131および受信回路132を制御するとともに記憶部331に記憶された第5のしきい値等に基づいて上記の気泡異常判定を行う。
【0155】
モード切替部332は、使用者が操作部35を操作することにより異常診断処理の実行が指令された場合に、流量算出部310による流量測定の動作を停止させ、測定判定部320による異常診断の動作を開始させる。また、モード切替部332は、測定判定部320による異常診断の終了が指令された場合に、測定判定部320による異常診断の動作を停止させ、流量算出部310による流量測定の動作を開始させる。
【0156】
表示制御部333は、超音波流量センサ100による流量の測定状態について測定判定部320による複数種類の判定結果をそれぞれ表示器30の表示部36に表示させる。また、表示制御部333は、測定判定部320において行われる各種異常判定に関する情報(診断進捗画面等)を表示部36に表示させる。
【0157】
[7]異常診断処理
図24および図25は、異常診断機能を実現するための異常診断処理の流れを示すフローチャートである。図24および図25の異常診断処理は、制御部133のCPUが記憶部331に記憶された異常診断プログラムを実行することにより行われ、超音波流量センサ100の電源がオン状態にあるときに所定周期で繰り返される。初期状態においては、超音波流量センサ100は、通常の運転状態にある、すなわち配管P内の流体FLの流量を所定周期で測定している状態にあるものとする。
【0158】
以下の説明では、超音波流量センサ100が通常の運転状態にあるときの制御部133の動作モードを測定モードと呼ぶ。制御部133は、測定モードにおいて、2つの超音波素子15のうち少なくとも一方の超音波素子15から超音波を送信し、予め定められた超音波素子15が超音波を受信することにより出力される信号に基づいて配管P内の流体の流量を測定する一連の処理を、予め定められた順(シーケンス)に従って実行する。
【0159】
また、以下の説明では、超音波流量センサ100において異常診断機能が使用されるときの制御部133の動作モードを診断モードと呼ぶ。制御部133は、測定モードにおいて、2つの超音波素子15のうち少なくとも一方の超音波素子15から超音波を送信し、予め定められた超音波素子15が超音波を受信することにより出力される信号に基づいて、複数の異常判定を予め定められた順(シーケンス)に従って実行する。
【0160】
図24に示すように、最初に、モード切替部332は、使用者が操作部35を操作することにより、異常診断処理の実行が指令されたか否かを判定する(ステップS101)。この指令は、例えば図14の診断実行アイコン361bが選択され、その選択が決定されることによりモード切替部332に与えられる。異常診断処理の実行が指令されない場合、モード切替部332は、ステップS101の処理を繰り返す。一方、異常診断処理の実行が指令されると、図23の表示制御部333は、測定モードから診断モードへの切り替えを確認するための確認ウィンドウ363を表示器30の表示部36に表示させる(ステップS102)。
【0161】
その後、モード切替部332は、異常診断処理の実行が再指令されたか否かを判定する(ステップS103)。この再指令は、例えば図15の表示状態で操作部35の決定ボタン35a(図1)が操作されることによりモード切替部332に与えられる。異常診断処理の実行が再指令されない場合、モード切替部332は、ステップS101の処理を繰り返す。一方、異常診断処理の実行が再指令されると、モード切替部332は、制御部133の動作モードを測定モードから診断モードに切り替える(ステップS104)。これにより、配管P内の流体の流量を測定する超音波流量センサ100の挙動が、複数の異常判定を順次行うように切り替えられる。また、表示制御部333は、異常診断処理中の現在の処理内容を示す診断進捗画面の表示を開始する(ステップS105)。
【0162】
次に、測定判定部320の素子判定部321は、2つの超音波素子15の各々について素子異常判定を行い(ステップS106)、素子異常がないかを判定する(ステップS107)。ステップS107において素子異常がある場合、表示制御部333は、現時点で得られた全ての判定結果を示す結果一覧の画面を表示部36に表示させる(ステップS120)。その後、表示制御部333は後述するステップS117の処理に進む。
【0163】
ステップS107において素子異常がない場合、測定判定部320の取り付け判定部322は、2つの超音波素子15の各々について取り付け異常判定を行い(ステップS108)、取り付け異常がないかを判定する(ステップS109)。
【0164】
ステップS109において取り付け異常がある場合、表示制御部333は、上記のステップS120の処理に進む。ステップS109において取り付け異常がない場合、測定判定部320の充満判定部323は、2つの超音波素子15の各々について非充満異常判定を行い(ステップS110)、非充満異常がないかを判定する(ステップS111)。ステップS111において非充満異常がある場合、表示制御部333は、上記のステップS120の処理に進む。
【0165】
ステップS111において非充満異常がない場合、測定判定部320の気泡判定部324は、2つの超音波素子15の各々について気泡異常判定を行い(ステップS112)、気泡異常がないかを判定する(ステップS113)。ステップS113において気泡異常がある場合、表示制御部333は、上記のステップS120の処理に進む。
【0166】
ステップS113において気泡異常がない場合、測定判定部320の送受信判定部325は、2つの超音波素子15間で送受信異常判定を行い(ステップS114)、送受信異常がないかを判定する(ステップS115)。ステップS115において送受信異常がある場合、表示制御部333は、上記のステップS120の処理に進む。
【0167】
ステップS115において送受信異常がない場合、表示制御部333は、全ての判定結果について正常であったことを示す結果一覧の画面を表示部36に表示させる(ステップS116)。その後、表示制御部333は、例えば使用者による結果一覧の表示終了の指令を受けることにより、各種異常判定の判定結果の一覧表示を終了する(ステップS117)。最後に、モード切替部332は、制御部133の動作モードを診断モードから測定モードに切り替える(ステップS118)。これにより、異常診断処理が終了する。
【0168】
なお、上記の異常診断処理においては、ステップS114,S115の処理がステップS103~S106の処理の間に行われてもよい。
【0169】
[8]効果
上記の超音波流量センサ100は、制御部133が測定モードにありかつセンサヘッド10が配管Pに取り付けられた状態で、伝播時間差モード、パルスドップラモードおよびハイブリッドモードのいずれかのモードで動作する。それにより、配管P内の流体の流量が測定される。
【0170】
使用者は、表示器30の操作部35を操作することにより、超音波流量センサ100に異常診断機能の使用を指令することができる。この場合、超音波流量センサ100においては、測定モードのシーケンスが中断されることにより、配管P内の流体の流量の測定が停止される。また、診断モードのシーケンスが開始されることにより、まず超音波素子15Aが送信モードと受信モードとで交互に切り替えられて動作する。それにより、超音波素子15Aから配管Pに向けて超音波が送信されるとともに外部で反射された超音波が超音波素子15Aにより受信される。超音波素子15Aの出力信号に基づいて、当該超音波素子15Aについての素子異常判定、取り付け異常判定、非充満異常判定および気泡異常判定が予め定められらシーケンスに従って行われる。
【0171】
超音波素子15Bについても、超音波素子15Aと同様に、素子異常判定、取り付け異常判定、非充満異常判定および気泡異常判定が行われる。さらに、超音波素子15A,15B間で超音波の送受信が行われることにより、送受信異常判定が行われる。その後、各種判定結果が表示器30の表示部36に表示される。それにより、使用者は、超音波流量センサ100による流量の測定状態の異常を容易に把握することが可能になる。
【0172】
[9]他の実施の形態
(1)上記実施の形態において、センサヘッド10は伝播時間差モード、パルスドップラモードおよびハイブリッドモードのいずれかの流量算出モードで動作可能に構成されるが、実施の形態はこれに限定されない。センサヘッド10は、パルスドップラモードで動作可能に構成されればよい。したがって、センサヘッド10は、伝播時間差モードまたはハイブリッドモードで動作可能に構成されなくてもよい。この場合、超音波流量センサ100は超音波素子15A,15Bのうちいずれか一方を含まなくてもよい。なお、超音波流量センサ100が超音波素子15A,15Bのうちいずれか一方を含まない場合には、異常診断機能に送受信異常判定は含まれない。
【0173】
(2)上記実施の形態において、異常診断機能の各種異常判定は、使用者が操作部35を操作することによる指令に応答して行われるが、実施の形態はこれに限定されない。異常診断機能の各種異常判定は、予め定められたタイミングで制御部133により自動的に行われてもよい。
【0174】
(3)上記実施の形態において、超音波素子15A,15Bは超音波流量センサ100の一部として設けられるが、実施の形態はこれに限定されない。配管P内を流れる流体を通して2つの超音波素子15A,15B間で超音波を送受信可能である限り、2つの超音波素子15A,15Bは互い別体として設けられてもよい。
【0175】
(4)上記実施の形態において、超音波素子15Aと超音波素子15Bとが配管Pが延びる方向に沿って並ぶように配置されるが、実施の形態はこれに限定されない。超音波素子15Aと超音波素子15Bとは、配管Pを挟んで対向するように配置されてもよい。
【0176】
(5)上記実施の形態に係る異常診断処理においては、素子異常判定、取り付け異常判定、非充満異常判定、気泡異常判定および送受信異常判定がこの順で行われるが、これらの複数の異常判定のうちの一部が行われなくてもよい。例えば、異常診断処理においては、素子異常判定、取り付け異常判定、気泡異常判定および送受信異常判定がこの順で行われ、非充満異常判定が行われなくてもよい。
【0177】
[10]請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【0178】
上記実施の形態においては、配管Pが配管の例であり、流体FLが流体の例であり、超音波流量センサ100がクランプオン式超音波流量センサの例であり、超音波素子15,15Aが第1の超音波素子および超音波素子の例であり、超音波素子15,15Bが第2の超音波素子の例であり、制御部133が制御部の例であり、流量算出部310が流量算出部の例であり、測定判定部320が測定判定部の例であり、モード切替部332がモード切替部の例であり、第1の算出部311が第1の算出部の例であり、第2の算出部312が第2の算出部の例である。
【0179】
また、ウェッジ材14および音響カプラント16が伝達部材の例であり、第1の範囲TA1が第1の範囲の例であり、素子判定部321が素子判定部の例であり、第2の範囲TA2が第2の範囲の例であり、取り付け判定部322が取り付け判定部の例であり、第3の範囲TA3が第3の範囲の例であり、充満判定部323が充満判定部の例であり、第4の範囲TA4が第4の範囲の例であり、気泡判定部324が気泡判定部の例であり、送受信判定部325が送受信判定部の例であり、表示部36が表示部の例である。
【符号の説明】
【0180】
10…センサヘッド,11,31…筐体部,12,32…コネクタ,13…制御基板,14,14A,14B…ウェッジ材,14a…素子結合面,14b…配管結合面,15,15A,15B…超音波素子,16…音響カプラント,17…超音波遮蔽板,18…表示灯,20…クランプ部,21…上クランプ部材,22…下クランプ部材,23…クランプ固定ねじ,30…表示器,33,133…制御部,34…記憶素子,35…操作部,35a…決定ボタン,35b,35c,35d,35e…選択ボタン,36…表示部,37…表示灯,38,39…接続ポート,40…電源回路,100…超音波流量センサ,101…固定ねじ,131…送信回路,132…受信回路,310…流量算出部,311…第1の算出部,312…第2の算出部,320…測定判定部,321…素子判定部,322…取り付け判定部,323…充満判定部,324…気泡判定部,325…送受信判定部,331…記憶部,332…モード切替部,333…表示制御部,361…メイン表示領域,361a…機能アイコン,361b…診断実行アイコン,361c…詳細表示アイコン,361d…進捗メータ,361e…判定結果一覧,361f…メッセージ枠,362…サブ表示領域,363…確認ウィンドウ,AR…空気,FL…流体,P…配管,TA1…第1の範囲,TA2…第2の範囲,TA3…第3の範囲,TA4…第4の範囲
図1
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